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特許7228519ラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20230216BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20230216BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20230216BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230216BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20230216BHJP
   H01L 21/301 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/14
C08L83/04
B32B27/00 M
B32B27/00 101
C09J183/05
C09J11/06
C09J5/06
C09J7/30
H01L21/78 M
H01L21/78 P
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019541004
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2018033098
(87)【国際公開番号】W WO2019049950
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2017173713
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘
(72)【発明者】
【氏名】外山 香子
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 昌保
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/103654(WO,A1)
【文献】特表2017-508852(JP,A)
【文献】特開2015-199851(JP,A)
【文献】特開2015-129213(JP,A)
【文献】特開2006-335926(JP,A)
【文献】特開2006-274154(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155950(WO,A1)
【文献】特許第6799067(JP,B2)
【文献】特許第6728374(JP,B2)
【文献】特開2007-191629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08 F299/00-299/08
B32B 7/12
B32B 27/00
B32B 27/26
C09J 183/05
C09J 11/06
C09J 5/06
C09J 7/30
H01L 21/301
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
(A)一分子中に、少なくとも2個のアルケニル基を有する鎖状オルガノポリシロキサン
B)一分子中に、少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン (A)成分中のアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が、0.5モル以上
(C1)ヒドロシリル化反応触媒を含有する硬化反応触媒 本硬化物100質量部に対して、触媒中の金属原子が質量単位で0.01~500ppmとなる量
(C2)有機過酸化物を含有するラジカル開始剤 本硬化物100質量部に対して0.05~10質量部、および
(D)(CH ) SiO 1/2 単位及びSiO 4/2 単位からなり、SiO 4/2 単位に対する(CH ) SiO 1/2 単位のモル比が0.6~1.1であるオルガノポリシロキサンレジン (A)成分100質量部に対して10~1000質量部
を含有する組成物を硬化させてなり、かつ、当該硬化物中または硬化物表面に未反応の(C2)ラジカル開始剤により、ラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物。
【請求項2】
シリコーンエラストマー硬化物表面が、接着剤または粘着剤に対するラジカル反応性を有し、23℃~100℃において、当該硬化物の損失係数tanδが、0.01~1.00の範囲にあり、貯蔵弾性率G’が、4.0×10~5.0×10Paの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
【請求項3】
(A)~(D)成分の各成分が、(C2)成分が反応しない温度において硬化されてなる、請求項1または請求項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
【請求項4】
請求項において、(C2)成分が、アルキル過酸化物であり、硬化のための温度が100℃以下である、シリコーンエラストマー硬化物。
【請求項5】
他の接着剤または粘着剤に対してラジカル反応性を有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
【請求項6】
平均厚みが5 ~500μmの範囲にあるフィルム状またはシート状の形態である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物を含有する積層体。
【請求項8】
基材、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物からなる層、接着層または粘着層を含有してなり、前記のシリコーンエラストマー硬化物からなる層と接着層または粘着層が対向した構造を有する、積層体。
【請求項9】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物および前記のシリコーンエラストマー硬化物からなる層の少なくとも一方の面に対向した、剥離剤層を含有する積層体。
【請求項10】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物からなる、電子部品用保護材。
【請求項11】
請求項~請求項のいずれか1項に記載の積層体であって、電子部品の製造に用いるもの。
【請求項12】
(L1)基材、
(L2)前記基材上に積層された請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物、および
(L3)前記シリコーンエラストマー硬化物上に、接着層または粘着層を介して積層されたシート状部材を含有する積層体について、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層とのラジカル反応後に、シート状部材、接着層または粘着層とともにシリコーンエラストマー硬化物を(L1)基材から分離することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項13】
請求項12の電子部品の製造方法であって、(L1)基材が電子部品またはその前駆体であり、(I)積層体に対する化学的ないし物理的処理を行う工程、
(II)工程(I)の後、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層とのラジカル反応を行う工程、および
(III)工程(II)の後、シート状部材、接着層または粘着層とともにシリコーンエラストマー硬化物を(L1)基材から分離する工程
を備えることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の電子部品の製造方法であって、ラジカル反応の前または後に、基材とシリコーンエラストマー硬化物を一体として切断する工程を備えることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項15】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物を有する、電子部品製造用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材への追従性と密着性に優れ、各種の化学的ないし物理的処理に対する保護材として用いることができ、かつ、その表面が接着剤または粘着剤に対するラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物、当該硬化物を有する積層体、当該硬化物または積層体の電子部品の製造における使用、および、当該硬化物を用いることを特徴とする電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲルは反応性官能基を有するオルガノポリシロキサンを低い架橋密度となるように硬化反応させることにより得ることができ、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、かつ、通常のエラストマー製品と異なり、ゲル状であるために低弾性率、低応力かつ応力緩衝性に優れることにより、光学用途のダンピング材、車載電子部品、民生用電子部品の保護等に広く用いられている(例えば、特許文献1~7)。特に、シリコーンゲルは、ソフトで変形しやすく、基材表面の凹凸にあわせて配置できるため、平坦でない基材に対しても良好な追従性を示し、間隙や乖離を生じにくいという利点を有する。
【0003】
しかしながら、このようなシリコーンゲルは、「ゲル状」であるために、振動などによる外部応力や温度変化に伴う膨張・収縮による内部応力による変形に対して弱く、ゲルが破壊されたり、保護、接着または応力緩衝が必要な電子部材等から分離または切断(ダイシング操作等)する必要が生じた場合には、対象に対して粘着質の付着物が残留してしまったり、ゲルが基材上で凝集破壊して基材や電子部品等から容易に除去できなくなる場合がある。このようなゲルの付着物は電子部品等の欠陥となりうる他、半導体等の実装時の障害、不良品の原因となるために好ましくない。
【0004】
一方、接着性フィルムや半導体封止剤の分野では、異なる硬化反応条件を想定し、多段階で硬化反応が進行する硬化性組成物が提案されている。例えば、特許文献8では、2段階の硬化反応により、第1段階の硬化によりダイシング工程で要求される粘着性を、第2段階の硬化により強固な接着性を示し、ダイシング・ダイボンド接着シートに好適に使用される熱硬化性組成物が開示されている。また、本出願人らは、特許文献9において、初期硬化性に優れ、かつ、250℃以上の高温に暴露した場合にも高い物理的強度を維持する、硬化性シリコーン組成物を提案している。
【0005】
しかしながら、このような多段階硬化性を備えたシリコーン硬化物は、2段階の硬化反応により、基材上に強固に接着してしまうため、対象に対して粘着質の付着物が残留したり、シリコーン硬化物が基材上で凝集破壊して基材や電子部品等から容易に除去できなくなる場合がある。さらに、シリコーン硬化物の柔軟性および追従性が不十分であるため、シリコーン硬化物を備えた電子部品等を切断(ダイシング操作等)する必要が生じた場合、切断面での剥離や基材上への糊残り(不均一な残留接着物を含む)を生じ、基材表面に対する保護材としての機能を十分に発揮できない場合がある。
【0006】
このため、柔軟であるために応力緩衝性および基材への追従性と密着性に優れるシリコーンエラストマー硬化物からなる保護材であって、シリコーンゲル材料よりも物理的な強度に優れ、かつ、所望により容易に基材上から除去できる材料およびその使用方法が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭59-204259号公報
【文献】特開昭61-048945号公報
【文献】特開昭62-104145号公報
【文献】特開2003-213132号公報(特許登録3865638号)
【文献】特開2012-017458号公報(特許登録5594232号)
【文献】国際公開WO2015/155950号パンフレット(特許登録5794229号)
【文献】特開2011-153249号公報
【文献】特開2007-191629号公報(特許登録4628270号)
【文献】特開2016-124967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、耐熱性および物理的強度等に優れ、低弾性率、低応力かつ応力緩衝性と柔軟性、基材への追従性と密着性を備えるために基材ごと硬化物を切断しても、基材上からの剥離を生じず、かつ、所望により基材上から容易に除去可能なシリコーンエラストマー硬化物、それからなる電子部品の保護材およびその使用方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該シリコーンエラストマー硬化物の用途、当該シリコーンエラストマー硬化物を用いた電子部品の製造方法、電子部品製造用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討の結果、本発明者らは、以下の成分:
(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する鎖状オルガノポリシロキサン、
任意で、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C1)前記の(A)成分および(B)成分の硬化剤、および
(D)オルガノポリシロキサンレジン (A)成分100質量部に対して10~1000質量部
を含有する組成物を硬化させてなり、かつ、当該硬化物中または硬化物表面に未反応の(C2)ラジカル開始剤を有することにより、ラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物により、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。このようなシリコーンエラストマー硬化物表面は、接着剤または粘着剤に対するラジカル反応性を有するため、所望の段階、たとえば、電子部品等の製造工程において、接着テープ/粘着テープのような接着/粘着剤層を備えたシート状部材と接触させて加熱や紫外線照射等によりラジカル反応させることにより、シリコーンエラストマー硬化物と接着/粘着剤層が一体化した接合体を形成し、これらを容易に剥離することができるためである。なお、上記のラジカル開始剤は、硬化前の硬化性シリコーン組成物中に配合し、低温等の硬化条件を設計することにより、未反応の状態でシリコーンエラストマー硬化物中に含有する態様が好ましいが、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物表面にスプレー等で一部又は全部に塗布してもよい。ただし、硬化前の硬化性シリコーン組成物中に配合する態様に比べ、塗布工程が必要になる点で工程上不利になる場合がある。
【0010】
さらに、本発明者らは、当該シリコーンエラストマー硬化物を含有する積層体、当該シリコーンエラストマー硬化物からなる電子部品用保護材、それらの電子部品の製造における使用、および当該シリコーンエラストマー硬化物を用いた電子部品の製造方法により上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、以下のシリコーンエラストマー硬化物により達成される。
[1] 以下の成分:
(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する鎖状オルガノポリシロキサン、
任意で、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C1)前記の(A)成分および(B)成分の硬化剤、および
(D)オルガノポリシロキサンレジン (A)成分100質量部に対して10~1000質量部
を含有する組成物を硬化させてなり、かつ、当該硬化物中または硬化物表面に未反応の(C2)ラジカル開始剤を有することにより、ラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物。
[2] シリコーンエラストマー硬化物表面が、接着剤または粘着剤に対するラジカル反応性を有し、23℃~100℃において、当該硬化物の損失係数tanδが、0.01~1.00の範囲にあり、貯蔵弾性率G’が、4.0×10~5.0×10Paの範囲であることを特徴とする、[1]に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
[3] (C1)成分が、ヒドロシリル化反応触媒、縮合触媒および光重合開始剤から選ばれる1種類以上の硬化剤であり、
(C2)成分が、有機過酸化物を含有するラジカル開始剤である、[1]または[2]に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
[4] (A)成分が、(A1)一分子中に、少なくとも2個のアルケニル基を有する直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであり、
(B)成分が、(B1)一分子中に、少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、
(C1)成分が、ヒドロシリル化反応触媒を含有する硬化反応触媒であり、
(C2)成分が、アルキル過酸化物であり、
(D)成分が、(D1)トリオルガノシロキシ単位(M単位)、ジオルガノシロキシ単位(D単位)、モノオルガノシロキシ単位(T単位)及びシロキシ単位(Q単位)の任意の組み合わせからなる樹脂状または網目状のオルガノポリシロキサンレジンであり、
組成物中の(A)成分中のアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が、0.5モル以上の範囲であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
[5] (D1)成分が、M単位及びQ単位の組み合わせからなり、Q単位に対するM単位のモル比が0.5~1.2の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンであることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
[6] (A)~(D)成分の各成分が、(C2)成分が反応しない温度において硬化されてなる、[1]~[5]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
[7] [6]において、(C2)成分が、アルキル過酸化物であり、硬化のための温度が100℃以下である、シリコーンエラストマー硬化物。
[8] 他の接着剤または粘着剤に対してラジカル反応性を有する、[1]~[7]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
[9] 平均厚みが5 ~500μmの範囲にあるフィルム状またはシート状の形態である、[1]~[8]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物。
【0012】
また、本発明の目的は、以下の形態におけるシリコーンエラストマー硬化物の使用によって達成される。
[10] [1]~[9]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物を含有する積層体。
[11] 基材、[1]~[9]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物からなる層、接着層または粘着層を含有してなり、前記のシリコーンエラストマー硬化物からなる層と接着層または粘着層が対向した構造を有する、積層体。
[12] [1]~[9]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物および前記のシリコーンエラストマー硬化物からなる層の少なくとも一方の面に対向した、剥離剤層を含有する積層体。
[13] [1]~[9]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物からなる、電子部品用保護材。
[14] [10]~[12]のいずれか1項に記載の積層体であって、電子部品の製造に用いるもの。
【0013】
同様に、本発明の目的は、以下の電子部品の製造方法及び電子部品製造用部材によって達成される。
[15] (L1)基材、
(L2)前記基材上に積層された[1]~[9]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物、および
(L3)前記シリコーンエラストマー硬化物上に、接着層または粘着層を介して積層されたシート状部材を含有する積層体について、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層とのラジカル反応後に、シート状部材、接着層または粘着層とともにシリコーンエラストマー硬化物を(L1)基材から分離することを特徴とする電子部品の製造方法。
[16] [15]の電子部品の製造方法であって、(L1)基材が電子部品またはその前駆体であり、(I)積層体に対する化学的ないし物理的処理を行う工程、
(II)工程(I)の後、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層とのラジカル反応を行う工程、および
(III)工程(II)の後、シート状部材、接着層または粘着層とともにシリコーンエラストマー硬化物を(L1)基材から分離する工程
を備えることを特徴とする電子部品の製造方法。
[17] [15]または[16]に記載の電子部品の製造方法であって、ラジカル反応の前または後に、基材とシリコーンエラストマーを一体として切断する工程を備えることを特徴とする電子部品の製造方法。
[18][1]~[9]のいずれか1項に記載のシリコーンエラストマー硬化物を有する、電子部品製造用部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリコーンエラストマー硬化物により、耐熱性および物理的強度等に優れ、低弾性率、低応力かつ応力緩衝性と柔軟性、基材への追従性と密着性を備えるため、基材ごと硬化物を切断しても、基材上からの剥離を生じず、かつ、所望により基材上から容易に除去可能なシリコーンエラストマー硬化物、それからなる電子部品の保護材およびその使用方法が提供される。さらに、本発明のシリコーンエラストマー硬化物を用いることにより、当該シリコーンエラストマー硬化物の用途、当該シリコーンエラストマー硬化物を用いた電子部品の製造方法、電子部品製造用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例4にかかるシリコーンエラストマー硬化物を基板とともにダイシングした際の基板上面の光学顕微鏡写真(シリコーン層の剥離は生じていない:評価○)
図2】実施例10にかかるシリコーンエラストマー硬化物を基板とともにダイシングした際の基板上面の光学顕微鏡写真(シリコーン層の剥離は生じていない:評価○)
図3】比較例1にかかるシリコーンゲルを基板とともにダイシングした際の基板上面の光学顕微鏡写真(シリコーン層の剥離が生じている:評価×)
図4】比較例2にかかるシリコーンエラストマー硬化物を基板とともにダイシングした際の基板上面の光学顕微鏡写真(シリコーン層の剥離が生じている:評価×)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物]
本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、一定量のオルガノポリシロキサンレジンを含有していることで、柔軟かつ基材に対する高い密着性と追従性を示す。このため、当該シリコーンエラストマー硬化物を基材上に配置して両者を一体として切断した場合でも、当該硬化物が基材上から剥離せず、所望とする基材の面の全面を保護可能である。さらに、当該シリコーンエラストマー硬化物は、その表面がラジカル反応性であるので、加熱、高エネルギー線の照射等に応答して、接触している接着剤または粘着剤とラジカル反応を起こし、両者が一体化した接合体を形成するため、接着テープのように接着剤または粘着剤を含むシート状部材を用いることで、両者を一体として基材上から分離(除去)可能である。
【0017】
シリコーンエラストマー硬化物の形状は特に限定されるものではないが、層状が好ましく、後述する電子部品の製造用途に用いる場合、実質的に平坦なシリコーンエラストマー硬化物層であることが好ましい。シリコーンエラストマー硬化物層の厚みについても特に限定されるものではないが、平均厚みが5~500μmの範囲、25~300μmの範囲または30~200μmの範囲であってよい。平均厚み5μm未満では基材上の凹凸に由来する間隙(ギャップ)が埋まりにくく、また、各種の化学的ないし物理的処理を行う工程において、基材である電子部品又はその前駆体に対する保護材としての機能を十分に果たせない場合がある。また、500μmを超えると、特に電子部品製造用途において、電子部品の保護材としてシリコーンエラストマー硬化物層を使用する場合には、不経済となることがある。
【0018】
本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物の少なくとも一部の表面は、未反応のラジカル開始剤に由来するラジカル反応性を有する。このようなラジカル開始剤をシリコーンエラストマー硬化物の表面近傍に配置する手段は特に限定されるものではなく、硬化前の組成物中に含まれていてもよく、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物表面にスプレー等の手段で塗布されてもよく、所望の反応性を実現するために、これらの手段を組み合わせてもよい。さらに、1種類または2種類以上のラジカル開始剤を組み合わせて使用してもよく、接触させる接着剤または粘着剤の反応性またはラジカル反応の条件に合わせて、組成物に配合するラジカル開始剤の種類および量、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物表面に塗布するラジカル開始剤の種類および量、シリコーンエラストマー硬化物を得るための硬化温度等を最適化することで、所望のラジカル反応性を実現することができる。
【0019】
[ラジカル開始剤]
ラジカル開始剤は、本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物にラジカル反応性を付与する成分であり、特に制限されないが、有機過酸化物、光重合開始剤またはこれらの組み合わせが好ましく、特に、過酸化アルキル類の使用が好ましい。
【0020】
有機過酸化物としては、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類、および過酸化カーボネート類が例示される。当該有機過酸化物の10時間半減期温度が70℃以上であることが好ましく、90℃以上であってよい。このような高温選択的に反応する有機過酸化物を選択することにより、これらの反応温度より低温でシリコーンエラストマー硬化物の硬化反応を行うことで、未反応のラジカル開始剤を硬化物中に選択的に残存させることが可能である。
【0021】
過酸化アルキル類としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、tert-ブチルクミル、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンが例示される。
【0022】
過酸化ジアシル類としては、p-メチルベンゾニルパーオキサイド等のベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイドが例示される。
【0023】
過酸化エステル類としては、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシル-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、tert-アミルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5―トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-ブチルパーオキシトリメチルアディペートが例示される。
【0024】
過酸化カーボネート類としては、ジ-3-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネートが例示される。
【0025】
この有機過酸化物は、その半減期が10時間である温度が70℃以上であるものが好ましく、90℃以上あるいは95℃以上であってもよい。このような有機過酸化物としては、p-メチルベンゾニルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ-(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9-トリエチル-3,6,9-トリメチル-1,4,7-トリパーオキソナンが例示される。
【0026】
有機過酸化物の含有量は限定されないが、硬化前の組成物に配合する場合、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部としたとき、0.05~10質量部の範囲内、あるいは0.10~5.0質量部の範囲内であることが好ましい。ただし、当該含有量は目的とするシリコーンエラストマー硬化物のラジカル反応性に応じて、適宜選択可能である。
【0027】
光重合開始剤は紫外線や電子線などの高エネルギー線照射によりラジカルを発生する成分であり、例えば、アセトフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノンおよびその誘導体;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル等のベンゾインおよびその誘導体;ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノンおよびその誘導体;p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、アゾイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ジフェニルスルファイド、アントラセン、1-クロロアントラキノン、ジフェニルジスルファイド、ジアセチル、ヘキサクロロブタジエン、ペンタクロロブタジエン、オクタクロロブタジエン、1-クロロメチルナフタリンが挙げられ、好ましくは、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾフェノン、およびこれらの誘導体である。
【0028】
この光重合開始剤の配合量は特に限定されないが、硬化前の組成物に配合する場合、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部としたとき、0.05~10質量部の範囲内、あるいは0.10~5.0質量部の範囲内であることが好ましい。ただし、当該含有量は目的とするシリコーンエラストマー硬化物のラジカル反応性に応じて、適宜選択可能である。
【0029】
なお、本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物のラジカル開始剤として光重合開始剤を使用する場合、当該シリコーンエラストマー硬化物中には、その他任意の成分として、例えば、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、トリ-n-ブチルホスフィン、アリルチオ尿素、s-ベンジルイソチウロニウム-p-トルエンスルフィネート、トリエチルアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の光増感剤を含んでいてもよい。
【0030】
[シリコーンエラストマー硬化物の物性]
本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物は、オルガノポリシロキサンレジンを主剤である鎖状オルガノポリシロキサン100質量部に対して10~1000質量部の範囲で含有しているため、その表面が粘着力を有し、基材に対する密着性と追従性を示す。このため、当該シリコーンエラストマー硬化物は、基材から剥離ないし剥落しにくく、電子部品等の基材上に配置して当該シリコーンエラストマー硬化物と基材を一体として切断(ダイシング)した場合でも、基材への密着状態を維持し、その端部等が剥離しにくいため、保護を目的とした基材全面を確実に被覆できるため、電子部品等の基材に対する保護材として有用である。
【0031】
本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物は、電子部品等の基材に対する保護材に求められる柔軟性、低弾性率、低応力および応力緩衝性の見地から、その損失係数tanδ(粘弾性測定装置より、周波数 0.1Hzにて測定されるもの)が、23℃~100℃において、0.01~1.00の範囲にあることが好ましく、23℃において0.03~0.95、0.10~0.90の範囲であることがより好ましい。なお、基材と一体としてシリコーンエラストマー硬化物を切断等する用途に用いる場合、損失係数tanδが、23℃~100℃において、0.01~0.50の範囲であることが特に好ましく、23℃において0.02~0.50の範囲であることが特に好ましい。
【0032】
当該シリコーンエラストマー硬化物の貯蔵弾性率G’は、23℃~100℃において、4.0×10~5.0×10Paの範囲であることが好ましく、4.0×10~2.0×10であってよく、4.0×10~1.0×10Paの範囲の範囲であることがより好ましい。上記の接着/粘着性付与成分であるオルガノポリシロキサンレジンに由来する高い密着性に加え、これらの弾性体としての性質を併せ持つことにより、本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物は、電子部品等の基材に対する保護材として使用した場合、基材と一体として切断しても物理的に破損しにくく、かつ、切断後においても、基材との密着状態を維持したまま、所望の保護材として利用できる利点がある。
【0033】
[シリコーンエラストマー硬化物を形成する組成物]
本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、
(A)一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する鎖状オルガノポリシロキサン、
任意で、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C1)前記の(A)成分および(B)成分の硬化剤、および
(D)オルガノポリシロキサンレジン (A)成分100質量部に対して10~1000質量部
を含有する硬化性シリコーン組成物を硬化させてなるシリコーンエラストマー硬化物であり、さらに、
(C2)ラジカル開始剤を組成物中に含有するか、シリコーンエラストマー硬化物の表面に塗布することにより、未反応のラジカル開始剤に由来するラジカル反応性を有するものである。ここで、(B)成分は、(A)成分の硬化反応性基がアルケニル基等の炭素―炭素二重結合含有有機基であり、(C)成分がヒドロシリル化反応触媒である場合、必須となる成分であるが、他の硬化機構を採用する場合には必ずしも必要ではない。
【0034】
本発明のシリコーンエラストマー硬化物を形成するための硬化性シリコーン組成物の硬化機構は、特に制限されるものではないが、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子によるヒドロシリル化反応硬化型;シラノール基および/またはケイ素原子結合アルコキシ基による脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型;有機過酸化物の使用による過酸化物硬化反応型;およびメルカプト基等に対する高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型;光活性型白金錯体硬化触媒等を用いた高エネルギー線照射によるヒドロシリル化反応硬化型等の硬化反応が例示される。ただし、有機過酸化物等のラジカル反応を硬化に用いる場合、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物がラジカル反応性を維持するために未反応のラジカル開始剤を大量に配合するか、得られたシリコーンエラストマー硬化物にラジカル開始剤を塗布する必要が生じるため、シリコーンエラストマー硬化物を形成するための硬化反応は、ヒドロシリル化反応硬化型であることが好ましい。
【0035】
[(A)成分および硬化反応性基]
(A)成分は一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する鎖状オルガノポリシロキサンであり、直鎖状オルガノポリシロキサンまたは分子内に2個以下のRSiO3/2単位(T単位)(式中、Rは互いに独立して、一価有機基または水酸基)またはSiO4/2単位(Q単位)を有する分岐鎖状オルガノポリシロキサン、または環状オルガノポリシロキサンが例示され、好適には、一分子中に、少なくとも2個の硬化反応性基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンである。(A)成分の室温における性状はオイル状または生ゴム状であってもよく、(A)成分の粘度は25℃において50mPa・s以上、特に100mPa・s以上であることが好ましい。特に、硬化性シリコーン組成物が溶剤型である場合には、(A)成分は、25℃において100,000mPa・s以上の粘度を有するか、可塑度を有する生ゴム状であることが好ましい。但し、より低粘度の(A)成分であっても、利用可能である。
【0036】
硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、上記の(A)成分の硬化反応性基は少なくともアルケニル基を含み、特に炭素数2~10のアルケニル基を含むことが好ましい。炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、及びヘキセニル基が挙げられる。好ましくは、炭素数2~10のアルケニル基は、ビニル基である。
【0037】
同様に、硬化反応がヒドロシリル化硬化反応である場合、本発明にかかる硬化性シリコーン組成物は、架橋剤として(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、特にSi-H結合を分子中に2以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むことが好ましい。この場合において、オルガノポリシロキサンのアルケニル基がオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子とヒドロシリル化反応して、シリコーンエラストマー硬化物を形成することができる。なお、その際には、(C1)成分としてヒドロシリル化反応触媒を用いることが必要である。
【0038】
硬化反応が縮合反応(脱水縮合反応または脱アルコール縮合反応)である場合、上記の(A)成分の硬化反応性基はシラノール基(Si-OH)またはケイ素原子結合アルコキシ基であり、アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素原子数1~10のアルコキシ基が好適に例示される。当該アルコキシ基は、オルガノポリシロキサンの側鎖または末端に結合してもよく、他の官能基を介してケイ素原子に結合したアルキルアルコキシシリル基またはアルコキシシリル基含有基の形態であってもよく、かつ好ましい。さらに、当該硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、脱水縮合反応硬化型または脱アルコール縮合反応硬化型の官能基のほか、他の硬化機構による硬化反応性基を同一分子内に有していてもよい。たとえば、ケイ素原子結合アルコキシ基またはシラノール基に加えて、ヒドロシリル化反応性の官能基または光重合性の官能基を同一分子内に有してもよい。
【0039】
特に、(A)成分の硬化反応性基としてケイ素原子結合アルコキシ基を選択する場合、当該硬化反応性基は、ケイ素原子結合の一般式:
【化1】
で表されるアルコキシシリル基含有基が好適に例示される。
上式中、Rは同じかまたは異なる、脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、メチル基またはフェニル基が好ましい。Rはアルキル基であり、脱アルコール縮合反応性のアルコキシ基を構成するため、メチル基、エチル基またはプロピル基であることが好ましい。Rはケイ素原子に結合するアルキレン基であり、炭素原子数2~8のアルキレン基が好ましい。aは0~2の整数であり、pは1~50の整数である。脱アルコール縮合反応性の見地から、最も好適には、aは0であり、トリアルコキシシリル基含有基であることが好ましい。なお、上記のアルコキシシリル基含有基に加えて、ヒドロシリル化反応性の官能基または光重合反応性の官能基を同一分子内に有してもよい。
【0040】
硬化反応が過酸化物硬化反応である場合には、上記の(A)成分の硬化反応性基は過酸化物によるラジカル反応性の官能基であればよく、アルキル基、アルケニル基、アクリル基、ヒドロキシル基等の過酸化物硬化反応性官能基を制限なく用いることができる。ただし、本発明の目的はラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物を得ることであるため、(A)成分の架橋反応について過剰量の過酸化物を配合するか、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物に別途ラジカル開始剤を塗布しない場合、同硬化機構により得られたシリコーンエラストマー硬化物は、ラジカル反応性を有しない場合がある。
【0041】
硬化反応が高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型である場合、上記の(A)成分の硬化反応性官能基は、光重合性官能基であり、3-メルカプトプロピル基等のメルカプトアルキル基および上記同様のアルケニル基、またはN-メチルアクリルアミドプロピル等のアクリルアミド基である。ここで、高エネルギー線照射を照射する条件は特に限定されず、例えば、空気中、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス中または真空中でこの組成物を室温下または冷却もしくは50~150℃に加熱しながら照射する方法が挙げられ、特に空気中かつ室温下で照射することが好ましい。また、一部の光重合性官能基は空気に接触することで硬化不良を起こすことがあるので、高エネルギー線照射の際には、任意で高エネルギー線を透過する合成樹脂フィルム等を用いて硬化性シリコーン組成物の表面を被覆してもよい。ここで、波長280~450nm、好適には波長350~400nmの紫外線を用いて、室温で硬化性シリコーン組成物を硬化させてシリコーンエラストマー硬化物を得てもよい。
【0042】
本発明において、好適な(A)成分は、一分子中に、少なくとも2個のアルケニル基を有する直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであり、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端メチルビニルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンが例示される。
【0043】
[(B)成分]
上記のとおり、(B)成分は、硬化性シリコーン組成物の硬化反応がヒドロシリル化硬化反応であり、(A)成分中の硬化反応性基がアルケニル基である場合に必須となる架橋剤であり、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、特に、一分子中に、少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。なお、本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物が他の硬化反応により得られる場合、(B)成分は任意成分である。
【0044】
好適な(B)成分は、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、およびこれらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物が例示される。本発明において、(B)成分は、25℃における粘度が1~500mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体が例示される。なお、(B)成分として樹脂状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンレジンを含んでもよい。
【0045】
(B)成分の配合量は、(A)成分が単独で硬化できる場合は0質量部であってもよいが、硬化性シリコーン組成物の硬化反応がヒドロシリル化硬化反応であり、(A)成分中の硬化反応性基がアルケニル基である場合には、(A)成分をエラストマー状に硬化させるのに必要な量であり、具体的には、組成物中の(A)成分中のアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が、0.5モル以上、好適には、0.5~5.0モル、より好適には、0.5~2.0モルとなる範囲である。なお、(B)成分を過剰に配合すると、未反応のケイ素原子結合水素原子に由来する水素ガスの発生の原因となる場合があり、好ましくない。
【0046】
[(C1)成分]
(C1)成分は、前記の(A)成分および(B)成分の硬化剤であり、(A)成分中の硬化反応性基および硬化性シリコーン組成物の硬化反応機構に応じて選択される。なお、(C1)成分として、過酸化物等のラジカル開始剤を用いることも可能であるが、本発明の目的はラジカル反応性を有するシリコーンエラストマー硬化物を得ることであるため、(A)成分および(B)成分の架橋反応について過剰量のラジカル開始剤を配合するか、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物に別途ラジカル開始剤を塗布しない場合、(C1)成分としてラジカル開始剤を利用しないことが好ましい
【0047】
好適な(C1)成分は、ヒドロシリル化反応触媒および縮合反応触媒から選ばれる1種類以上を含有する硬化反応触媒であり、特に、ヒドロシリル化反応触媒の使用が好ましい。なお、(C1)成分としてラジカル開始剤を用いる場合、その具体例は先に例示した化合物と同様である。
【0048】
ヒドロシリル化反応触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示され、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。この白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、およびこれらの白金系触媒を、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した触媒が例示され、特に、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましい。このアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示される。特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0049】
加えて、本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。このようなカプセル化した硬化剤を用いることにより、従来の取扱作業性および組成物のポットライフの改善という利点に加え、硬化性シリコーン組成物の保存安定性の改善およびその硬化反応の温度によるコントロールという利点が得られる。
【0050】
本発明においては、加熱以外、紫外線等の高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する光活性型白金錯体硬化触媒等のヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。このようなヒドロシリル化反応触媒は、β-ジケトン白金錯体又は環状ジエン化合物を配位子に持つ白金錯体が好適に例示され、トリメチル(アセチルアセトナト)白金錯体、トリメチル(2,4-ペンタンジオネ-ト)白金錯体、トリメチル(3,5-ヘプタンジオネート)白金錯体、トリメチル(メチルアセトアセテート)白金錯体、ビス(2,4-ペンタンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へキサンジオナト)白金錯体、ビス(2,4-へプタンジオナト)白金錯体、ビス(3,5-ヘプタンジオナト)白金錯体、ビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオナト)白金錯体、ビス(1,3-ジフェニル-1,3-プロパンジオナト)白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジメチル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジフェニル白金錯体、(1,5-シクロオクタジエニル)ジプロピル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジメチル白金錯体、(2,5-ノルボラジエン)ジフェニル白金錯体、(シクロペンタジエニル)ジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)ジエチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)ジフェニル白金錯体、(メチルシクロオクタ-1,5-ジエニル)ジエチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)エチルジメチル白金錯体、(シクロペンタジエニル)アセチルジメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)トリヘキシル白金錯体、(ジメチルフェニルシリルシクロペンタジエニル)トリフェニル白金錯体、及び(シクロペンタジエニル)ジメチルトリメチルシリルメチル白金錯体からなる群から選ばれる白金錯体が具体的に例示される。
【0051】
上記の高エネルギー線照射によりヒドロシリル化反応を促進する硬化剤を用いた場合、加熱操作を行うことなく、硬化性シリコーン組成物を原料として、シリコーンエラストマー硬化物を形成させることができる。
【0052】
ヒドロシリル化反応用触媒の含有量は、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部としたとき、金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量、0.01~100ppmの範囲内となる量、あるいは、0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0053】
硬化性シリコーン組成物が縮合反応硬化型である場合、縮合反応触媒は特に制限されるものではないが、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オクテン酸錫、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、ジブトキシビス(エチルアセトアセテート)等の有機チタン化合物;その他、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の酸性化合物;アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等のアミン系化合物が例示される。その配合量は、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部としたとき、0.1~10.0質量部の範囲である。
【0054】
[(C2)成分]
(C2)成分は、ラジカル開始剤であり、先に述べた成分と同様である。特に、(C1)成分が、ヒドロシリル化反応触媒を含有する硬化反応触媒であり、(C2)成分が、アルキル過酸化物である組み合わせが好ましい。
【0055】
(C2)成分は、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部としたとき、0.5~5.0質量部となる範囲、好ましくは、0.75~3.5質量部となる範囲で配合することができる。硬化性シリコーン組成物中の(C2)成分の量が上記下限未満では、(C2)成分が反応しない形態で硬化させた場合であっても、シリコーンエラストマー硬化物の表面のラジカル反応性が不十分となる場合がある。一方、硬化性シリコーン組成物中の(C2)成分の量が上記上限を超えると、未反応の(C2)成分が過剰となって、保護材として基材に密着させた場合に、基材表面に過剰量のラジカル開始剤が残留したり、基材表面と反応したりする場合があり、好ましくない。なお、硬化性シリコーン組成物中の(C2)成分の量が上記下限未満である場合、得られたシリコーンエラストマー硬化物の表面に別途ラジカル開始剤を塗布することが好ましい。
【0056】
(C2)成分を含む硬化性シリコーン組成物は、100℃以下、好適には80℃以下で硬化させることにより、未反応の(C2)成分を含むシリコーンエラストマー硬化物を与えることができる。特に、(C1)成分が、ヒドロシリル化反応触媒を含有する硬化反応触媒であり、(C2)成分が、アルキル過酸化物である場合に、上記の温度で硬化させることにより、未反応のアルキル過酸化物を含むシリコーンエラストマー硬化物を与えることができる。このようなシリコーンエラストマー硬化物は、硬化物表面にラジカル開始剤を塗布しなくても、その表面がラジカル反応性を有するので、電子部品等の保護材として用いる場合、プロセス上有利である。
【0057】
(C2)成分を含まない硬化性シリコーン組成物を硬化させてシリコーンエラストマー硬化物を得た場合、スプレー等の公知の塗布手段を用いて硬化物表面の一部又は全部にラジカル開始剤を塗布することが必要である。なお、硬化物表面にラジカル開始剤を塗布する場合、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部としたとき、0.01~5.0質量部の範囲でラジカル開始剤を塗布してもよい。
【0058】
[(D)成分]
(D)成分は、オルガノポリシロキサンレジンであり、本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物に接着性/粘着性を付与することで、基材への追従性と密着性を向上させ、基材およびシリコーンエラストマー硬化物を一体として切断する場合であっても、基材表面からの剥離や剥落が生じず、保護材として目的とする基材表面全面を被覆し、化学的ないし物理的処理から保護できる利点を有する。
【0059】
具体的には、(D)成分は、トリオルガノシロキシ単位(M単位)、ジオルガノシロキシ単位(D単位)、モノオルガノシロキシ単位(T単位)及びシロキシ単位(Q単位)の任意の組み合わせからなる樹脂状または網目状の分子構造を有するオルガノポリシロキサンレジンであり、RSiO2/2単位(D単位)及びRSiO3/2単位(T単位)(式中、Rは互いに独立して、一価有機基または水酸基)からなるオルガノポリシロキサンレジン、T単位単独からなるオルガノポリシロキサンレジン、並びにRSiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、分子中に少なくとも2個の硬化反応性基、水酸基または加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンレジンなどを挙げることができる。特に、RSiO1/2単位(M単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなるオルガノポリシロキサンレジン(MQレジンとも呼ばれる)を使用することが好ましい。なお、(D)成分中に水酸基が存在する場合、分子内のT単位またはQ単位などのケイ素に直接結合しており、原料となるシラン由来またはシランが加水分解した結果、生じた基である。また、上記の各シロキシ単位中のRは一価有機基または水酸基であり、工業的にはアルキル基またはアリール基、特にメチル基またはフェニル基であることが好ましいが、その一部が上記の(A)成分において例示した硬化反応性官能基であってもよく、例えば、ビニル基等のアルケニル基を含むものであってもよく、ケイ素原子結合水素原子を含むものであってもよい。特に、これらの硬化反応性の官能基(アルケニル基およびケイ素原子結合水素原子)を含むオルガノポリシロキサンレジンを使用することで、ラジカル反応後の硬化物の貯蔵弾性率G’が大きく上昇する組成が設計可能である。
【0060】
特に好適には、(D)成分は、前記のM単位及びQ単位の組み合わせからなり、Q単位に対するM単位のモル比が0.5~1.2の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジンであり、接着/粘着性付与の見地から、(CHSiO1/2単位(トリメチルシロキシ単位)及びSiO4/2単位(Q単位)からなり、Q単位に対するトリメチルシロキシ単位のモル比が0.6~1.1の範囲であるオルガノポリシロキサンレジンが最も好ましい。
【0061】
シリコーンエラストマー硬化物に対する接着/粘着性付与の見地から、(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10~1000質量部であり、25~500質量部の範囲であってもよく、25~300質量部の範囲であってもよい。(D)成分の配合量が上記下限未満ではシリコーンエラストマー硬化物の基材に対する追従性と密着性が不十分となり、基材上にシリコーンエラストマー硬化物を配置して一体として切断した場合、特に端部において剥離が生じる場合があり、保護材としての機能が不十分となる。一方、(D)成分の配合量が上記上限を超えると、シリコーンエラストマー硬化物が弾性体としての性質を失って硬くなり、シリコーン硬化物の柔軟性および追従性が不十分となって、切断時のひび割れや破損の原因となる場合がある。
【0062】
[補強性フィラー]
本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、好適には、さらに、補強性フィラーを含む。補強性フィラーは、シリコーンエラストマー硬化物の機械的強度を改善し、高い保型性と適度な硬度を保つことができる。さらに、補強性フィラーの配合により、ラジカル反応後のシリコーンエラストマー硬化物の表面離型性がさらに改善される場合がある。このような補強性フィラーとしては、例えば、ヒュームドシリカ微粉末、沈降性シリカ微粉末、焼成シリカ微粉末、ヒュームド二酸化チタン微粉末、石英微粉末、炭酸カルシウム微粉末、ケイ藻土微粉末、酸化アルミニウム微粉末、水酸化アルミニウム微粉末、酸化亜鉛微粉末、炭酸亜鉛微粉末等の無機質充填剤を挙げることができ、これらの無機質充填剤をメチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン、トリメチルクロロシラン等のオルガノハロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン、α,ω-シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルフェニルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー等のシロキサンオリゴマー等の処理剤により表面処理した無機質充填剤を含有してもよい。その配合量は、シリコーンエラストマー硬化物全体を100質量部とした場合、0.0~20.0質量部の範囲であり、1.0~10.0質量部範囲が好ましい。なお、内部が中空になっているフィラー類を使用してもよく、これらの中空フィラーは上記のラジカル反応等に伴う加熱により膨張してシリコーンエラストマー硬化物の基材からの剥離が容易になる場合がある。
【0063】
[その他の成分:硬化遅延剤等]
本発明の技術的効果を損なわない範囲において、上記の硬化性シリコーン組成物およびシリコーンエラストマー硬化物は、上記成分以外の成分を含むことができる。例えば、硬化遅延剤;接着付与剤;ポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のオルガノポリシロキサン;フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、またはチオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系またはベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、またはアンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;染料;顔料;熱伝導性フィラー;誘電性フィラー;電気伝導性フィラー;離型性成分などを含むことができる。
【0064】
また、上記の硬化性シリコーン組成物は、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン等の有機溶剤;α,ω-トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、α,ω-トリメチルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン等の非架橋性のジオルガノポリシロキサン;カーボンブラック等の難燃剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の酸化防止剤;酸化鉄等の耐熱剤;分子鎖両末端ヒドロキシジアルキルシロキシ基封鎖ジアルキルシロキサンオリゴマー等の可塑剤;その他、顔料、チクソ性付与剤、防カビ剤を、本発明の目的を損なわない範囲で任意に含有してもよい。特に、(D)成分を配合する目的で、キシレン等の有機溶剤を配合してもよい。
【0065】
上記の硬化性シリコーン組成物の硬化反応として、ヒドロシリル化反応を選択する場合、硬化遅延剤としてヒドロシリル化反応抑制剤を配合することが好ましい。具体的には、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のアルケニル基含有低分子量シロキサン;メチル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン、ビニル-トリス(1,1-ジメチルプロピニルオキシ)シラン等のアルキニルオキシシランが例示される。この硬化遅延剤の含有量は限定されないが、硬化性シリコーン組成物に対して、質量単位で、10~10000ppmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
接着付与剤としては、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を一分子中に少なくとも1個有する有機ケイ素化合物が好ましい。このアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基が例示され、特に、メトキシ基が好ましい。また、有機ケイ素化合物中のアルコキシ基以外のケイ素原子に結合する基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等のハロゲン置換もしくは非置換の一価炭化水素基;3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基;3,4-エポキシブチル基、7,8-エポキシオクチル基等のエポキシアルキル基;3-メタクリロキシプロピル基等のアクリル基含有一価有機基;水素原子が例示される。この有機ケイ素化合物は本組成物中のアルケニル基またはケイ素原子結合水素原子と反応し得る基を有することが好ましく、具体的には、ケイ素原子結合水素原子またはアルケニル基を有することが好ましい。また、各種の基材に対して良好な接着性を付与できることから、この有機ケイ素化合物は一分子中に少なくとも1個のエポキシ基含有一価有機基を有するものであることが好ましい。こうした有機ケイ素化合物としては、オルガノシラン化合物、オルガノシロキサンオリゴマー、アルキルシリケートが例示される。このオルガノシロキサンオリゴマーあるいはアルキルシリケートの分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、網状が例示され、特に、直鎖状、分枝鎖状、網状であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン化合物;一分子中にケイ素原子結合アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子、およびケイ素原子結合アルコキシ基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物、ケイ素原子結合アルコキシ基を少なくとも1個有するシラン化合物またはシロキサン化合物と一分子中にケイ素原子結合ヒドロキシ基とケイ素原子結合アルケニル基をそれぞれ少なくとも1個ずつ有するシロキサン化合物との混合物、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート、エポキシ基含有エチルポリシリケートが例示される。この接着付与剤は低粘度液状であることが好ましく、その粘度は限定されないが、25℃において1~500mPa・sの範囲内であることが好ましい。また、この接着付与剤の含有量は限定されないが、硬化性シリコーン組成物の合計100質量部に対して0.01~10質量部の範囲内であることが好ましい。
【0067】
本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物を与える硬化性シリコーン組成物を基材上に形成する際の塗工方法としては、グラビアコート、オフセットコート、オフセットグラビア、オフセット転写ロールコーター等を用いたロールコート、リバースロールコート、エアナイフコート、カーテンフローコーター等を用いたカーテンコート、コンマコート、マイヤーバー、その他公知の硬化層を形成する目的で使用される方法が制限なく使用できる。
【0068】
本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物を得る場合、ラジカル開始剤を硬化後に塗布しない場合には、ラジカル開始剤が反応しない温度で硬化性シリコーン組成物を硬化させることが好ましい。具体的には、ラジカル開始剤としてアルキル過酸化物を選択した場合、硬化のための温度条件は100℃以下であり、室温~90℃で反応させることが好ましく、硬化反応がヒドロシリル化反応の場合、70~90℃の温度範囲で10分~3時間程度かけて硬化させることが好ましい。かかる温度条件下では、アルキル過酸化物等が実質的に未反応の状態でシリコーンエラストマー硬化物中に残存するため、得られたシリコーンエラストマー硬化物は、その表面がラジカル反応性を有する。
【0069】
[ラジカル反応]
本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、硬化物中またはその硬化物表面に未反応のラジカル開始剤を有するため、各種の接着剤または粘着剤に対するラジカル反応性を有し、当該ラジカル反応により、接着剤または粘着剤と一体化した硬化物を形成する。この硬化物において、ラジカル反応後のシリコーンエラストマー硬化物と接着剤または粘着剤とは、強固に接着した接合体を形成しており、両者を一体として剥離することができる。
【0070】
接着剤または粘着剤の種類は特に制限されるものではないが、ラジカル反応性であることから、アクリル樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤;アクリル樹脂系接着剤、合成ゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤が例示される。これらの接着剤または粘着剤は、接着テープ/粘着テープのように、他のシート状(フィルム状を含む)の基材上に積層された接着剤層または粘着剤層であり、これらのシート状の基材と共に、本発明のシリコーンエラストマー硬化物上に配置することが好ましい。
【0071】
本発明のシリコーンエラストマー硬化物と、上記の接着剤または粘着剤とのラジカル反応は、100℃を超える温度、好ましくは120℃を超える温度、より好ましくは130℃以上の温度での加熱による反応により、全体をラジカル反応させる工程であってよい。なお、実用上、120℃~200℃または130~180℃の温度範囲でのラジカル反応が好適に選択される。
【0072】
一方、ラジカル反応は高エネルギー線(活性エネルギー線とも言われる)の照射によっても進行させることができ、高エネルギー線としては、紫外線、電子線、放射線等が挙げられるが、実用性の点で紫外線が好ましい。紫外線発生源としては高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、Xe-Hgランプ、ディープUVランプ等が好適であり、特に、波長280~400nm、好適には波長350~400nmの紫外線照射が好ましい。その際の照射量は、100~10000mJ/cm2が好ましい。なお、高エネルギー線によりシリコーンエラストマー硬化物と接着剤または粘着剤とのラジカル反応させる場合には、上記の温度条件によらず、選択的なラジカル反応が可能であり、これらのラジカル反応を組み合わせて用いることができる。
【0073】
ラジカル反応後のラジカル反応性シリコーンエラストマー硬化物は、その損失係数tanδ(粘弾性測定装置より、周波数 0.1Hzにて測定されるもの)において反応前後で大きく変化しない傾向がある。
【0074】
一方、当該ラジカル反応性シリコーンエラストマー硬化物の貯蔵弾性率G’は、ラジカル反応前後で大きく変化しない組成が設計できる一方、ラジカル反応前後で貯蔵弾性率G’が大きく変化する組成も設計可能である。具体的には、前記の(A)成分等に加えて、(D)成分の一部または全部が硬化反応性の官能基(アルケニル基、ケイ素原子結合水素原子等)を含むオルガノポリシロキサンレジンである場合、ラジカル反応後のシリコーンエラストマー硬化物の貯蔵弾性率G’が1倍~10倍程度の範囲で増加する傾向があり、1.1~7.0倍の範囲で貯蔵弾性率G’が増加するラジカル反応性シリコーンエラストマー硬化物が好適に設計可能である。なお、ラジカル反応後にラジカル反応性シリコーンエラストマー硬化物の貯蔵弾性率G’が増加することで、電子部品等の基材に対する保護材としてラジカル反応後の硬化物の耐久性が向上するほか、テープ等の表面との結合がより強固になり、後述するように、当該テープと一体化した接合体として、容易に基材である電子部品上から分離(除去)可能しやすくなるという利点がある。
【0075】
[電子部品用保護材としての使用]
本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、基材との密着性に優れ、柔軟で低弾性率、低応力かつ応力緩衝性に優れ、かつ電子部品等の基材上に配置した状態で両者を一体として切断した場合でもその端部等で剥離しないことから、各種電子部品用保護材として利用可能である。また、上記保護の役割を果たした後は、接着テープ等と共にラジカル反応させることにより、当該テープと一体化した接合体として、容易に基材である電子部品上から分離(除去)可能である。
【0076】
[その他の使用]
また、本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、接着剤、シーリング材、ポッティング材としても用いることができ、封止剤としての利用にも適する。このような用途は、建築用部材や、電気・電子部品や車両用部品などを含むものであるが特に、本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、電子部品の製造に用いる接着剤または封止剤として用いることができる。
【0077】
[電子部品の製造用途]
本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、特に、電子部品の製造に有用であり、各種基材上にシリコーンエラストマー硬化物層を形成して、安定かつ平坦で、応力緩和性に優れた保護層として用いることもできる。これらの保護層として機能は、シリコーンエラストマー硬化物の強度および弾力に由来する物理的な衝撃に対する保護、シリコーンの耐熱性と耐寒性に由来する加熱や温度変化に対する保護、および電子部品に対する各種の化学的または物理的な処理に対する保護(部分的な被覆により、当該保護面に対する処理を回避した設計含む)を含むものである。また、前記のとおり、当該保護層は、容易に電子部品上に形成でき、かつ、容易に除去可能である。
【0078】
[電子部品の製造に用いる積層体]
具体的には、本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、電子部品を製造するための積層体を構成するシリコーンエラストマー硬化物層として有用であり、以下、当該積層体に付いて説明する。
【0079】
[基材]
シリコーンエラストマー硬化物層を積層する基材は凹凸があってよく、シリコーンエラストマー硬化物層により当該凹凸が隙間なく充填乃至追従され、平坦なシリコーンエラストマー硬化物層を形成していることが特に好ましい。本発明のシリコーンエラストマー硬化物層は柔軟で変形性、追従性、密着性に優れるため、凹凸のある基材に対しても間隙を生じにくく、乖離やシリコーンエラストマー硬化物表面の変形などの問題を生じにくいという利点がある。シリコーンエラストマー硬化物層を積層する目的は特に制限されるものではないが、基材が電子部品である場合、当該シリコーンエラストマー層の積層箇所を各種処理から選択的に保護できるほか、柔軟なシリコーンエラストマー硬化物層により物理的な衝撃・振動からの保護等を図ってもよい。
【0080】
本発明に用いる基材は、特に限定されるものではなく、所望の基材を適宜選択してよいが、特に電子部品またはその前駆体であることが好ましい。その材質は、例えば、ガラス、陶磁器、モルタル、コンクリート、木、アルミニウム、銅、黄銅、亜鉛、銀、ステンレススチール、鉄、トタン、ブリキ、ニッケルメッキ表面、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などからなる被着体または基体が例示される。また、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性樹脂からなる被着体または基体が例示される。これらは剛直な板状であっても、柔軟なシート状であってもよい。また、ダイシングテープ等の基材に用いられるような伸張性のあるフィルム状乃至シート状基材であってもよい。
【0081】
本発明に用いる基材には、シリコーンエラストマー硬化物層との密着性及び接着性を改善する目的で、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等の表面処理がなされていてもよい。
【0082】
一方、本発明の積層体を電子部品の製造に用いる場合、基材は電子部品またはその前駆体であることが好ましい。具体的には、半導体素子、当該製造過程で電子部品を少なくとも一時的に配置する台座、積層用途の半導体ウェハ、セラミックス素子(セラミックコンデンサ含む)、電子回路用途の基板として利用可能な基材等が例示され、これらは後にダイシングにより個片化されるものであってもよい。特に半導体素子、電子部品加工用の台座、回路基板、半導体基板または半導体ウェハとして利用可能な基材であることが好ましい。
【0083】
これらの基材の材質については特に制限されるものではないが、回路基板等として好適に用いられる部材として、ガラスエポキシ樹脂,ベークライト樹脂,フェノール樹脂等の有機樹脂;アルミナ等のセラミックス;銅,アルミニウム等の金属、半導体用途のシリコンウェハ等の材質が例示される。さらに、当該基材を電子部品、特に半導体素子や回路基板として用いる場合、その表面には銅,銀一パラジウム等の材質からなる導線が印刷されていてもよい。本発明のシリコーンエラストマー硬化物はこれらの半導体素子や回路基板の表面の凹凸についても間隙なく充填乃至追従し、平坦なシリコーンエラストマー硬化物表面を形成できる利点がある。また、当該シシリコーンエラストマー硬化物を形成した面は、物理的衝撃や各種処理から選択的に保護されうる。
【0084】
[電子部品]
本発明の積層体は、上記の通り、基材として1個以上の電子部品を有することが好ましい。電子部品は、特にその種類は制限されるものではないが、半導体チップの素体となる半導体ウェハ、セラミックス素子(セラミックコンデンサ含む)、半導体チップおよび発光半導体チップが例示され、同一または異なる2個以上の電子部品の上にシリコーンエラストマー層が配置されたものであってもよい。本発明の積層体におけるシリコーンエラストマー層は、適度に柔軟かつ追従性・変形性に優れるため、安定かつ平坦な面を形成することができ、さらに、当該シリコーンエラストマー硬化物が積層面を各種処理から選択的に保護するほか、電子部品の製造工程における振動や衝撃を緩和するため、当該シリコーンエラストマー硬化物を積層した電子部品を定位置に安定的に保持し、電子部品に対して各種パターン形成等の処理およびダイシング等の加工処理を行った場合であっても、基材の表面凹凸や電子部品の位置ずれ、振動変位(ダンピング)に伴う電子部品の加工不良が発生しにくいという利点を有する。なお、シリコーンエラストマー硬化物による電子部品等の保持は、そのエラストマー由来の弾性およびオルガノポリシロキサンレジンに由来する密着性によるものであり、エラストマー自体の粘着力によるものとその変形による電子部品の担持の両方を含む。
【0085】
[電子部品への処理]
これらの電子部品は、積層体を形成する前に化学的または物理的な処理が行われていてもよく、電子部品にシリコーンエラストマー硬化物を積層した後に、上記処理を行うものであっても良い。ここで、電子部品のうち、本発明のシリコーンエラストマー硬化物を積層した箇所は、これらの処理から選択的に保護されうるため、所望とする化学的または物理的処理を、電子部品の特定箇所のみに施すことが可能である。特に、本発明では、シリコーンエラストマーが局所的、ピンポイントであっても、効率よくその硬化物を分離できるため、電子部品の選択的な保護に特に有用である。これらの電子部品への処理は、少なくとも部分的に電子回路または電極パターン、導電膜、絶縁膜等を形成する事が含まれるが、これらに限定されるものではない。上記処理にあたっては、従来公知の手段を特に制限なく用いることができ、真空蒸着法、スパッタ法、電気めっき法、化学めっき法(無電解めっき法含む)、エッチング法、印刷工法またはリフトオフ法に形成されていてもよい。本発明の積層体を電子部品の製造に用いる場合、シリコーンエラストマー硬化物を積層した上で、電子部品の電子回路、電極パターン、導電膜、絶縁膜等を形成することが特に好ましく、任意で当該積層体を個片化(ダイシング)してもよい。上記のとおり、シリコーンエラストマー硬化物層を用いることで、これらの電子部品の加工不良が抑制される。なお、処理に当たっては、基材である電子部品とシリコーンエラストマー硬化物層の上下左右関係は所望により選択することができる。
【0086】
上記のシリコーンエラストマー硬化物は保型性、硬質性および表面離型性に優れた硬化層を形成するので、上記の電子部品を基材とする積層体において、当該硬化層を電子部品から容易に分離することができ、かつ、シリコーンエラストマー硬化物に由来する残留物(糊残り)等の異物が電子部品に付着しにくく、不良品が発生しにくいという利点がある。また、上記のシリコーンエラストマー硬化物は、次に述べるシート状基材と接着層/粘着層とのラジカル反応により一体化した接合体を形成することができ、当該硬化物の迅速、簡便かつ確実な分離を可能にするものである。
【0087】
[シート状部材]
シート状部材は、少なくとも部分的に接着層または粘着層を備えており、前記の硬化反応性シリコーンエラストマー硬化物上に、接着層または粘着層を介して積層されることを特徴とする。当該接着層または粘着層を介してシリコーンエラストマー硬化物と密着していることで、シリコーンエラストマー硬化物に対するラジカル反応を進行させる際に、シート状部材と当該硬化物は接合体を形成し、実質的に一体として基材上から分離することができる。シリコーンエラストマー硬化物のラジカル反応物は、分離に用いる機械装置の種類により、破損の問題や剥離工程の複雑化といった問題の原因になりうるものであるが、シート状部材と一体化したシリコーンエラストマー硬化物のラジカル反応物は、局所的乃至ピンポイントであっても容易に分離でき、かつ、簡便、迅速かつ確実に基材上から分離することができ、特に工業的生産工程において、作業時間の短縮および工数の削減という著しい優位性を実現する。
【0088】
接着層または粘着層を備えたシート状部材は、いわゆる「接着/粘着フィルム」や「接着/粘着シート」といわれる部材が特に制限なく用いることができ、実質的に平坦であり、テープ、フィルム等の用途に応じて適度な幅と厚みを持った基材を特に制限なく使用することができる。具体的には、紙,合成樹脂フィルム,布,合成繊維,金属箔(アルミニウム箔、銅箔など),ガラス繊維およびこれらのうちの複数のシート状基材を積層してなる複合型のシート状基材が挙げられる。特に、合成樹脂フィルムであることが好ましく、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどの合成樹脂フィルムを例示することができる。その厚さは特に制限されないが、通常5~300μm程度である。
【0089】
当該合成樹脂フィルム等には、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理等の表面処理がなされていてもよい。これにより、次に述べる接着層とシート状部材の密着性および一体性が改善される。
【0090】
シート状部材の接着層または粘着層は、その種類において特に制限されるものではないが、ラジカル反応により前記シリコーンエラストマー硬化物と接合体を形成し、一体として分離することが目的であることから、付着対象から分離しようとした際に、接合体の破壊モードが凝集破壊となるように、強固な接合体を形成する事が好ましい。
【0091】
なお、これらの接着層または粘着層に用いる接着剤/粘着剤は前記のとおりであり、ラジカル反応を進行させる方法についても同様である。
【0092】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、基材上に前記シリコーンエラストマー硬化物、および接着層を介してシート状部材を積層してなるものであり、所望により、シリコーンエラストマー硬化物の原料組成物である硬化性シリコーン組成物を目的となる基材上に塗布し、ラジカル反応性を維持した状態でエラストマー状に硬化させることで製造可能である。
【0093】
同様に、本発明の積層体は、シリコーンエラストマー硬化物を、所望の剥離層を備えたシート状基材上に形成させ、剥離層からシリコーンエラストマー硬化物層を分離し、他の基材上に転写し、さらに、接着層を介してシート状部材を積層することによっても製造可能である。
【0094】
シリコーンエラストマー硬化物の積層は、基材の全面でも局所的であっても行うことができ、ピンポイントでの基材保護も可能である。また、必要に応じて、シリコーンエラストマー硬化物層表面に、未反応のラジカル開始剤をスプレー等の手段で塗布してもよい。また、後述するように、シリコーンエラストマー硬化物が積層された基材を一体として切断した積層体であってもよい。
【0095】
[剥離性積層体]
剥離層を備えたシート状基材(基材R)にラジカル反応性のシリコーンエラストマー硬化物を形成させ、後に剥離層から分離してシート状の部材として取り扱う場合、以下の方法により、均一な表面を有するシリコーンエラストマー硬化物層を形成させてもよい。剥離層を備えたシート状基材(基材R)は、実質的に平坦であり、テープ、フィルム等の用途に応じて適度な幅と厚みを持った基材を特に制限なく使用することができ、特に、厚さ5~300μm程度の合成樹脂フィルム(PETフィルム等)である。また、剥離層を形成させるために用いる剥離剤としては、例えばオレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂などのゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などが用いられる。特に、シリコーン系樹脂からなる剥離剤の使用が好ましく、フルオロアルキル基を含有するフッ素変性シリコーン樹脂を含有する剥離剤の使用が特に好ましい。
【0096】
[剥離層を有するセパレータ間での硬化を用いた製法]
本発明にかかるシリコーンエラストマー硬化物層は実質的に平坦であることが好ましいが、その原料となる硬化性シリコーン組成物を、通常の方法で剥離層を有する基材上に塗布すると、特に硬化後のシリコーンエラストマー硬化物層の厚みが50μm以上となる場合には、その塗布面が凹んだ不均一な表面を形成して、得られるシリコーンエラストマー硬化物層表面が不均一となる場合がある。しかしながら、当該硬化性シリコーン組成物およびシリコーンエラストマー硬化物層に対して剥離層を有する基材を適用し、未硬化の塗布面を各々の剥離層を備えたシート状基材(上記の基材R;セパレータ)で挟み込み、物理的に均一化された平坦化層を形成することで、平坦化されたシリコーンエラストマー硬化物層を得ることができる。なお、上記の平坦化層の形成にあたっては、剥離層を有するセパレータ間に未硬化の硬化性シリコーン組成物が塗布されてなる積層体を、ロール圧延等の公知の圧延方法を用いて圧延加工することが好ましい。この場合、剥離層を備えたシート状基材により、硬化後のシリコーンエラストマー硬化物層が挟持された構造が好ましく、2枚のシリコーン系樹脂からなる剥離剤からなる剥離層を備えたシート状基材により挟持された構造が好ましい。
【0097】
[電子部品の製造方法]
上記のとおり、本発明の積層体は電子部品の製造に有用であり、基材である電子部品上にシリコーンエラストマー硬化物を形成して、安定かつ平坦で、応力緩和性に優れた電子部品の配置面を形成することにより、その後に当該電子部品に対して化学的乃至物理的処理を行った場合であっても、当該シリコーンエラストマー硬化物を積層した部分は、各種処理から選択的に保護され、かつ、電子部品の製造時における基材の表面凹凸や電子部品の位置ずれ、振動変位(ダンピング)に伴う電子部品の加工不良が発生しにくいという利益を実現しうる。また、前記のシート状部材が接着層または粘着層を介して積層されたシリコーンエラストマー硬化物についてラジカル反応を進行させることにより、当該シート状部材、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層のラジカル反応物が接合して一体化し、シリコーンエラストマー硬化物のみを硬化させた場合には硬化物の効率的な剥離が難しいような局所的な配置であっても、両者をほぼ同時に、簡便、迅速、かつ、確実に電子部品上から分離することができ、しかもシリコーンエラストマー硬化物等の残留物(糊残り)に由来する不良品が発生しにくいという利点を有する。
【0098】
具体的には、本発明の電子部品の製造方法は、
工程(I):電子部品、シリコーンエラストマー硬化物および接着層または粘着層を有するシート状部材を有する積層体を作成する工程、
工程(II):工程(I)の後、電子部品に対して、1種類以上の化学的乃至物理的処理(電子回路の形成、電極パターンの形成、導電膜の形成 および絶縁膜の形成から選ばれる1種類以上の処理を含むが、これらに限定されない)を行う工程、
工程(III):工程(II)の後、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層とのラジカル反応を行う工程、
工程(IV):工程(III)の後、シート状部材、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層との接合体を、実質的に同時に電子部品から分離する工程
を有するものである。なお、工程(I)における積層体の形成工程は任意であり、硬化性シリコーン組成物を基材である電子部品上に塗布してエラストマー状に硬化させてもよく、別途形成したシリコーンエラストマー硬化物を基材である電子部品上に転写しても良い。
【0099】
ここで、シート状部材は、電子部品に対して化学的乃至物理的な処理を行った後にシリコーンエラストマーに積層してもよいので、本発明の製造方法は、以下の工程を備えても良く、かつ好ましい。
工程(I’):電子部品上にシリコーンエラストマー硬化物を積層する工程、
工程(II’):工程(I’)の後、電子部品に対して、1種類以上の化学的乃至物理的処理(電子回路の形成、電極パターンの形成、導電膜の形成 および絶縁膜の形成から選ばれる1種類以上の処理を含むが、これらに限定されない)を行う工程、
工程(III’):工程(II)の後、シリコーンエラストマー硬化物上に接着層を有するシート状部材を積層する工程 、
工程(IV’):工程(III’)の後、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層とのラジカル反応を行う工程、
工程(V’):工程(IV’)の後、シート状部材、シリコーンエラストマー硬化物と接着層または粘着層との接合体を、実質的に同時に電子部品から分離する工程。
【0100】
[切断工程:ダイシング]
電子部品については[電子部品を含む積層体]の項にて説明した通りであり、本発明の電子部品の製造方法においては、シリコーンエラストマー硬化物を積層した後に当該電子部品上に電子回路、電極パターン、導電膜、絶縁膜等を形成する工程を有してよく、かつ好ましい。また、任意で、当該積層体または電子部品を切断により個片化(ダイシング)してもよい。特に、本発明のシリコーンエラストマー硬化物は、基材に対する追従性と密着性に優れ、切断による剥離を起こしにくいため、ラジカル反応の前または後に、基材とシリコーンエラストマーを一体として切断する工程を備える電子部品の製造方法において、特に好適である。
【0101】
好適には、電子部品(前駆体を含む)上にシリコーンエラストマー硬化物を積層した後に、シリコーンエラストマー硬化物と電子部品を一体の状態で切断によりダイシングする工程を有する事が好ましい。この場合、その後、電子部品に対して上記の化学的乃至物理的処理を行った場合、切断された電子部品がシリコーンエラストマー硬化物の付着面以外の全面を効率的に処理でき、その後にラジカル反応を行ってシリコーンエラストマー硬化物と接着層/粘着層の接合体等を分離することで、処理済かつ切断された状態で電子部品を個片化できる利点がある。
【実施例
【0102】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。以下に示す実施例では下記の化合物ないし組成物を原料に用いた。また、表中の各成分の配合量は重量部である。
【0103】
<硬化反応性基を有する鎖状オルガノポリシロキサン>
・成分(A1-1):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー(ビニル基の含有量:0.13重量%)
・成分(A1-2):両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-ビニルメチルシロキサンコポリマー (ビニル基の含有量: 約0.29重量%)
・成分(A1-3):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー (ビニル基の含有量: 約1.53重量%)
・成分(A1-4):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー (ビニル基の含有量: 約0.23重量%)
・成分(A1-5):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー (ビニル基の含有量: 約0.45重量%)

<オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
・成分(B1):両末端ハイドロジェンジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー(ケイ素結合水素基の含有量: 0.12重量%)
・成分(B2):両末端ハイドロジェンジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー(ケイ素結合水素基の含有量:: 0.07重量%)。
・成分(B3):両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン-ハイドロジェンメチルシロキサンポリマー(ケイ素結合水素基の含有量:: 0.78重量%)。

<硬化剤>
・成分(C1):白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のビニルシロキサン溶液(白金金属濃度で約0.6重量%)

<ラジカル開始剤>
・成分(C2):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-両末端トリメチルシロキシ基封鎖シロキサンポリマー混合物(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン濃度で約50重量%)

<オルガノポリシロキサンレジン>
・成分(D1):トリメチルシロキシ単位(M単位)およびSiO4/2単位(Q単位)からなり、前記のM単位/Q単位のモル比が0.8であるオルガノポリシロキサンレジン。
・成分(D2):トリメチルシロキシ単位(M単位)、ビニルジメチルシロキシ(MVi単位)およびSiO4/2単位(Q単位)からなるオルガノポリシロキサンレジン (ビニル基の含有量: 約4.1重量%)
・成分(D3):ハイドロジェンジメチルシロキシ単位(M単位)およびSiO4/2単位(Q単位)からなるオルガノポリシロキサンレジン (ケイ素結合水素基の含有量: 約0.97重量%)

<ヒドロシリル化反応抑制剤>
・インヒビター:1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサン(ビニル基の含有量:30.2重量%)

<補強性フィラー>
・シリカ:ヘキサメチルジシラザン処理シリカ微粒子(日本アエロジル製、商品名「アエロジル200V」を表面処理したもの)
【0104】
<硬化性シリコーン組成物:実施例1~14にかかる組成物>
表1に記載の組成および同表に記載の重量部で、上記の各成分を配合し、実施例1~14のシリコーンエラストマー硬化物を得るための硬化性シリコーン組成物を調製した。その際、組成物中のビニル基1モル当たり、成分(B1)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が0.9,1.2または1.3モルとなるように設計した。
【0105】
<硬化性シリコーン組成物:比較例1にかかる組成物>
表2に記載の組成および同表に記載の重量部で、上記の各成分を配合し、比較例1にかかる硬化性シリコーン組成物を調製した。その際、組成物中のビニル基1モル当たり、成分(B2)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が0.56モルとなる量となるように設計した。なお、比較例1にかかる組成物は、シリコーンエラストマー硬化物ではなく、シリコーンゲルの形成を目的とした組成物である。
【0106】
<硬化性シリコーン組成物:比較例2にかかる組成物>
表2に記載の組成および同表に記載の重量部で、上記の各成分を配合し、比較例2にかかる硬化性シリコーン組成物(ラジカル開始剤およびオルガノポリシロキサンレジンを含まない組成)を調製した。その際、組成物中のビニル基1モル当たり、成分(B1)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が1.20モルとなる量となるように設計した。
【0107】
[シリコーンエラストマー硬化物の作製:実施例1~14]
上記の方法で調製した硬化性シリコーン組成物を80℃で1~2時間かけて加熱することにより、ヒドロシリル化反応を進行させて弾性体であるエラストマー状の硬化物を得た。なお、前記の反応温度は、成分(C2)であるラジカル開始剤の分解温度未満であり、大部分のラジカル開始剤は未反応でシリコーンエラストマー硬化物中に残存する条件を選択している。さらに、窒素雰囲気下150℃で1時間加熱することで、ラジカル開始剤を分解させ、エラストマー状の硬化物を得た。
【0108】
[シリコーンゲルまたはシリコーンエラストマー硬化物の作製:比較例1~2]
上記の方法で調製した硬化性シリコーン組成物を80℃で1~2時間かけて加熱することにより、ヒドロシリル化反応を進行させた。結果、比較例1では弾性体のエラストマー硬化物ではなく、シリコーンゲルを形成した。一方、比較例2では、ヒドロシリル化反応の進行により、弾性体であるエラストマー状の硬化物を得た。なお、前記の反応温度は、成分(C2)であるラジカル開始剤の半減期温度未満であり、比較例1において、大部分のラジカル開始剤は未反応でシリコーンゲル中に残存する条件を選択している。
【0109】
[得られた材料の物性の測定方法]
1.圧縮変形量測定
表1または2に示す組成の硬化性シリコーン組成物をガラス製シャーレー(直径70mm)に、18g投入し、実施例または比較例について、先に述べた条件でヒドロシリル化反応を進行させて得たシリコーンエラストマー硬化物またはシリコーンゲルを使用した。テクスチャーアナライザー TA.XT Plus(英弘精機株式会社製)を用いて室温で測定を行った。平坦プローブ(6mm直径)を毎秒0.17mmの速度で降下させて、最大圧縮力0.5Nに達成後の硬化物の圧縮変形量を測定した。値を表1または表2に示す。
【0110】
2.粘着性の測定
上記の圧縮変形量の測定に用いた試料について、同装置の平坦プローブを硬化物の初期の厚み以上の高さまで毎秒0.34mmの速度で上昇させて、平坦プローブを引き剥がす際にかかる荷重(絶対値)を粘着力(N)として測定した。なお、この値が高いほど、試料の粘着力があることを意味する。その測定値を表1または表2に示す。
【0111】
3.粘弾性の測定
[実施例1~14、比較例2]
表1または2に示す組成の硬化性シリコーン組成物を厚さ約1.5mmとなるように金型に投入し、先に述べた条件でヒドロシリル化反応を進行させてシリコーンエラストマー硬化物を得た。同硬化物から直径8mmとなるように試験体を切り出し、測定試料として使用した。MCR302粘弾性測定装置(Anton Paar社製)を用い、直径8mmのパラレルプレートに、切り出した測定試料を貼り付け、周波数1Hzおよびひずみ0.2%での貯蔵弾性率と損失正接(損失弾性率/貯蔵弾性率)の測定を行った。23℃における値を表1または表2に示す。

[比較例1]
比較例1はシリコーンゲルを形成するため、ひずみ0.5%とした他は上記比較例2同様にして23℃で測定を行った。値を表2に示す。
【0112】
4.ゴム物性の評価
実施例4および10に関して、上述の条件で硬化物を作製した。JIS-K6249に基づき、得られた硬化物の引裂強さを測定し、また引張強さおよび破断伸びを測定し、モジュラスを求めた。なお、機械的強度の測定のため、シートの厚さは2mmとした。また、実施例8については厚さ6mmシートのデュロメータA硬度を測定した。表3および4に実施例4および8のそれぞれの結果を示す。
【0113】
5.ダイシング性の評価
表1または2に示す組成の硬化性シリコーン組成物をGDE-100スピンコーター(島津製作所製)で、5000rpmで15分間かけて基板上に約10~20μm厚もしくは約50μm厚となるようにコートした。その後、先に述べた条件でヒドロシリル化反応を進行させてシリコーンエラストマー硬化物またはシリコーンゲルであるシリコーン層を作製した。DAD322ダイサー(DISCO社製)を用いて、回転数20,000rpm、速度30mm/sの条件で基板のダイシングを行った。その後、光学顕微鏡(KEYENCE社製 VHX-6000)を使用して基板上面を観察し、シリコーン層の基板からの剥がれを評価した。シリコーン層の基板の剥がれが認められないもしくはほぼ認められない場合を○とし、剥がれが認められ基材露出しているものを×とした。表中に○×を示す。また、実施例4、実施例10、比較例1および比較例2について光学顕微鏡写真を図1、2、3および4に図面で示した。
【0114】
6.粘着シートとの接着試験
アルミ基板上にプライマーXおよびY(共に東レ・ダウコーニング社製)を薄膜塗布した。その上に実施例4、10-14に記載の硬化前液状シリコーン組成物を約230μmとなるように塗布し、先に述べた条件でヒドロシリル化反応を進行させてシリコーンエラストマー硬化物を得た。さらに、得られたエラストマー硬化物上に、シリコーン系粘着層を有する粘着テープ(耐熱性めっきマスキング用ポリエステル基材シリコーン粘着テープ No.336、日東電工社製)を張り合わせ、窒素雰囲気下150℃で1時間かけて加熱することにより当該粘着層とのラジカル反応を行った。30分保存後、RTC1210(オリエンテック社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件で、300mm/minの速度で180度ピール試験を行った。表3に結果を示す。
実施例4および10-14では、ピール強度が高く、硬化反応性エラストマーと粘着テープ界面で強固な結合(接合体)が形成されていると考えられる。
【0115】
【表1】



【0116】
【表2】


【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】


【0120】
実施例1~14に示すとおり、シリコーンエラストマー硬化物は、オルガノポリシロキサンレジンに由来する粘着性とエラストマーとしての粘弾性を有するために基材への密着性が良好であり、基材と一体として切断した場合であっても、ダイシング時の剥離を生じず、積層した箇所について基材全面を保護することが可能である。さらに、実施例4および8-12について確認されたとおり、シリコーンエラストマー硬化物は粘着層に対するラジカル反応性を有しており、150℃での加熱によりラジカル反応が進行して、強固に両者が一体化した接合体を形成でき、両者を一体として基材上から分離可能である。また、(D)成分として硬化反応性の官能基を有するオルガノポリシロキサンレジンを併用した実施例10~14においては、ラジカル反応後の貯蔵弾性率G’が大きく向上するため、保護材としての機能および接合体としての分離可能性がさらに改善されることが期待できる。
【0121】
一方、比較例1のシリコーンゲルやオルガノポリシロキサンレジンを含まない比較例2のシリコーンエラストマー硬化物は、基材への密着性に劣り、いずれも、基材と一体として切断した場合、その端部が基材から剥離してしまう(図3および図4)ため、剥離部分の保護材として機能せず、特に切断を伴う用途に用いる保護材として不適である。
【0122】
本願発明にかかわるシリコーン硬化物は以下の方法で評価できる。たとえば、ソルダーレジストを塗布し、等間隔にはんだを配置した基板上に、本発明のシリコーン硬化物層を形成する。上述の方法でダイシング後、各個片基板上に実施例で使用した粘着層を有するテープを貼り付け、加熱することでシリコーン硬化物層とテープを一体化する。テープとともにシリコーン硬化物層を基板から分離することで、はんだ面にのり残りのない保護材として使用できることを確認した。
【0123】
保護層としては以下の方法で評価できる。たとえば、上述の方法で作製した各個片基板に、エイコー・エンジニアリング社製イオンコーター(IB-3)を用いて金属をスパッタする。加熱後、テープとともにシリコーン硬化物層を基板から分離し、シリコーン硬化物層で覆われていた基板面に金属が付着していないことを確認した。
図1
図2
図3
図4