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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】TIG溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20230216BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
B23K9/29 B
B23K9/167 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020183860
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073707
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2021-08-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 勝則
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】大山 健
【審判官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特許第6578078(JP,B1)
【文献】特開昭55-120487(JP,A)
【文献】特開平6-315771(JP,A)
【文献】特開平7-227673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/29
B23K 9/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極と、
前記非消耗電極を内側に挿入した状態で支持するコレットと、
前記非消耗電極を先端側から突出させた状態で前記コレットを内側に保持すると共に、アークによって生じた被溶接物の溶融池に向かって第1のシールドガスを放出するセンターノズルと、冷却液が循環される流路とが設けられたコレットボディと、
前記コレットボディが取り付けられるトーチボディと、
前記非消耗電極の周囲を囲んだ状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、アークによって生じた被溶接物の溶融池に向かって第2のシールドガスを放出するトーチノズルと、
前記コレットボディと熱的に接続された状態で取り付けられると共に、前記コレットの先端側と接触した状態で、その先端から前記非消耗電極を突出させる中心孔が設けられた冷却チップとを備えたTIG溶接用トーチを用いて、非キーホール溶接を行う際に、
前記第1のシールドガスとして、ヘリウムを用い、
前記第1のシールドガスの流量を1~L/minとすることを特徴とするTIG溶接方法。
【請求項2】
前記第1のシールドガスの流量を2.5~3.5L/min、溶接電圧を19~35V、溶接電流を250A以上とすることを特徴とする請求項1に記載のTIG溶接方法。
【請求項3】
前記第1のシールドガス中におけるヘリウムの割合が100%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のTIG溶接方法。
【請求項4】
前記被溶接物の裏側からバックシールドガスの放出を行わずに溶接を行うことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のTIG溶接方法。
【請求項5】
前記被溶接物に対して両面溶接を行うことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のTIG溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TIG溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や非鉄金属などを母材として用いた構造物(被溶接物)の溶接には、従来よりTIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)又はプラズマアーク溶接等のGTAW(Gas Tungsten Arc welding)と呼ばれる非消耗電極式のガスシールドアーク溶接が用いられている。
【0003】
TIG溶接では、非消耗電極と、トーチノズルと、トーチボディとを備えるTIG溶接用トーチを使用し、非消耗電極(-)と被溶接物(+)との間でアークを発生させて、このアークの熱により被溶接物を溶かして溶融池(プール)を形成しながら溶接が行われる。また、溶接中は電極の周囲を囲むトーチノズルからシールドガスを放出し、このシールドガスで大気(空気)を遮断しながら溶接が行われる。
【0004】
また、TIG溶接用トーチには、冷却液(水)の循環によりトーチボディ等を冷却する冷却機構(チラー)が設けられている。一方、TIG溶接用トーチでは、非消耗電極のアーク熱による消耗を抑制するために、この非消耗電極を冷却する必要がある。また、非消耗電極の冷却効果を上げるためには、この非消耗電極の先端と、冷却液(水)が循環される流路との距離をできるだけ短くする必要がある。
【0005】
これに対して、非消耗電極の冷却性能を向上させたTIG溶接用トーチが提案されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6578078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したTIG溶接用トーチでは、非消耗電極に対する冷却効果によって、この非消耗電極の先端から発生するアークのエリアを小さくし、アークの力が増大するため、深い溶け込みが得られる。したがって、このTIG溶接用トーチを用いて、キーホールと呼ばれる貫通孔を形成しながら、被溶接物の表側だけでなく裏側にも溶接ビードを形成するキーホール溶接を行うことも可能である。
【0008】
上記TIG溶接用トーチを用いた溶接方法は、キーホール溶接でより大きな効果が発揮される。一方、非キーホール溶接に用いる場合は、まだ改善の余地がある。すなわち、キーホール溶接だけでなく、非キーホール溶接においても、溶接後に気孔(ブローホール)や融合不良などの内部欠陥をより抑制することができるTIG溶接方法が求められている。
【0009】
本発明は、内部欠陥の発生を抑制することを可能としたTIG溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 被溶接物との間でアークを発生させる非消耗電極と、
前記非消耗電極を内側に挿入した状態で支持するコレットと、
前記非消耗電極を先端側から突出させた状態で前記コレットを内側に保持すると共に、アークによって生じた被溶接物の溶融池に向かって第1のシールドガスを放出するセンターノズルと、冷却液が循環される流路とが設けられたコレットボディと、
前記コレットボディが取り付けられるトーチボディと、
前記非消耗電極の周囲を囲んだ状態で前記トーチボディに取り付けられると共に、アークによって生じた被溶接物の溶融池に向かって第2のシールドガスを放出するトーチノズルと、
前記コレットボディと熱的に接続された状態で取り付けられると共に、前記コレットの先端側と接触した状態で、その先端から前記非消耗電極を突出させる中心孔が設けられた冷却チップとを備えたTIG溶接用トーチを用いて、非キーホール溶接を行う際に、
前記第1のシールドガスとして、ヘリウムを用い、
前記第1のシールドガスの流量を1~L/minとすることを特徴とするTIG溶接方法。
〔2〕 前記第1のシールドガスの流量を2.5~3.5L/min、溶接電圧を19~35V、溶接電流を250A以上とすることを特徴とする前記〔1〕に記載のTIG溶接方法。
〔3〕 前記第1のシールドガス中におけるヘリウムの割合が100%であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載のTIG溶接方法。
〔4〕 前記被溶接物の裏側からバックシールドガスの放出を行わずに溶接を行うことを特徴とする前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載のTIG溶接方法。
〔5〕 前記被溶接物に対して両面溶接を行うことを特徴とする前記〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載のTIG溶接方法。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、内部欠陥の発生を抑制することを可能としたTIG溶接方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態において用いられるTIG溶接用トーチの構成を示す断面斜視図である。
図2図1に示すTIG溶接用トーチの要部を拡大した断面斜視図である。
図3】被溶接物に対する溶接部の状態を示し、(A)はその斜視図、(B)はその断面斜視図である。
図4】実施例1において両面溶接を行った後の溶接部の断面を示す写真である。
図5】実施例2において両面溶接を行った後の溶接部の断面を示す写真である。
図6】実施例3において両面溶接を行った後の溶接部の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らないものとする。
【0014】
(TIG溶接用トーチ)
先ず、本発明の一実施形態に係るTIG溶接方法において好適に用いられるTIG溶接用トーチ50について、図1及び図2を参照しながら説明する。
なお、図1は、TIG溶接用トーチ50の構成を示す断面斜視図である。図2は、図1に示すTIG溶接用トーチ50の要部を拡大した断面斜視図である。
【0015】
本実施形態のTIG溶接用トーチ50は、図1及び図2に示すように、被溶接物(図示せず。)との間でアークを発生させる非消耗電極51と、非消耗電極51を内側に挿入した状態で支持するコレット52と、非消耗電極51を先端側から突出させた状態でコレット52を内側に保持すると共に、冷却液(水)Lが循環されるウォータージャケット(流路)53が設けられたコレットボディ54と、コレットボディ54が取り付けられるトーチボディ55と、非消耗電極51の周囲を囲んだ状態でトーチボディ55に取り付けられると共に、アークによって生じた被溶接物の溶融池に向かって第1のシールドガスG1及び第2のシールドガスG2を放出するトーチノズル56と、コレットボディ54と熱的に接続された状態で取り付けられると共に、その先端から非消耗電極51を突出させる中心孔57aが設けられた冷却チップ57とを概略備えている。
【0016】
非消耗電極51は、例えばタングステンなどの融点の高い金属材料を用いて形成された長尺状の電極棒からなる。また、非消耗電極51には、タングステンの他に、例えば酸化トリウムや酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物を添加したものを用いることができる。
【0017】
コレット52は、例えば銅又は銅合金などの電気伝導性及び熱伝導性に優れた金属材料を用いて形成された概略円筒状の部材からなる。コレット52は、軸線方向に貫通する貫通孔52aを有し、この貫通孔52aの内側に挿入された非消耗電極51を軸線方向にスライド可能に支持する。コレット52の先端側には、複数のスリット52bが周方向に並んで設けられている。複数のスリット52bは、コレット52の先端から軸線方向の中途部に亘って直線状に切り欠かれている。これにより、各スリット52bの間の先端部分52cが縮径方向に弾性変形可能となっている。また、コレット52の先端部には、漸次縮径されたテーパー部52dが設けられている。
【0018】
コレットボディ54は、例えば銅又は銅合金などの電気伝導性及び熱伝導性に優れた材料を用いて形成された概略円筒状の部材からなる。コレットボディ54は、軸線方向に貫通する貫通孔54aを有し、この貫通孔54aの基端側から挿入されたコレット52を内側に保持する。
【0019】
コレットボディ54の先端側には、貫通孔54aを介して供給された第1のシールドガスG1を放出するセンターノズル54bが設けられている。また、コレットボディ54の側面には、貫通孔54aに向けて第1のシールドガスG1を供給するガス供給口(図示せず。)が設けられている。一方、コレットボディ54の後端側には、貫通孔54aの後端側を閉塞するトーチキャップ58が螺合により着脱自在に取り付けられている。トーチキャップ58には、第1のシールドガスG1を貫通孔54aに向けて供給するガス供給口58aが設けられている。
【0020】
トーチボディ55は、例えば軟鋼やステンレス鋼などの鋼材又は真鍮等を用いて概略円筒状に形成された外筒部材59と、絶縁樹脂を用いて概略円筒状に形成された絶縁部材60とを有している。
【0021】
外筒部材59は、非消耗電極51に電力を供給する給電部を形成している。また、外筒部材59の内側に形成された貫通孔59aは、その中心に非消耗電極51を配置すると共に、非消耗電極51の周囲からコレットボディ54の貫通孔54aに向けて第1のシールドガスG1を供給する流路を形成している。
【0022】
一方、コレットボディ54は、貫通孔59aの内側に挿入された状態で、外筒部材59に対して螺合により着脱自在に取り付けられている。また、外筒部材59は、コレットボディ54の外周面との間で第2のシールドガスG2が流れる流路を形成している。
【0023】
絶縁部材60は、コレットボディ54の外周部を覆うと共に、貫通孔59aの内側に挿入された状態で、外筒部材59に対して螺合により着脱自在に取り付けられている。
【0024】
コレットボディ54と外筒部材59との間には、冷却液Lが循環されるウォータージャケット(流路)61が設けられている。ウォータージャケット61は、外筒部材59の内周面を周方向に切り欠くリング状の溝部59bと、コレットボディ54の外周面とによって構成されている。また、ウォータージャケット61を構成するコレットボディ54と外筒部材59との間は、Oリング62によって液密に封止(シール)されている。Oリング62は、ウォータージャケット61を挟んだ軸線方向の両側にそれぞれ配置されている。
【0025】
ウォータージャケット53,61は、冷却液Lの循環によりコレットボディ54を冷却する冷却機構(チラー)(図示せず。)と接続されている。これにより、コレットボディ54は、ウォータージャケット53,61を流れる冷却液Lにより冷却されることになる。
【0026】
トーチノズル56は、例えば耐熱性に優れたセラミックなどを用いて概略円筒状に形成されたノズル形状を有している。トーチノズル56は、コレットボディ54の外周面との間で第2のシールドガスG2が流れる流路を形成すると共に、外筒部材59の外周面に螺合により着脱自在に取り付けられている。また、トーチノズル56は、その先端側が漸次縮径されたノズル形状を有している。
【0027】
冷却チップ57は、概略円筒状に形成されて、コレットボディ54の先端側からコレットボディ54の内側に挿入された状態で、コレットボディ54に対して螺合により着脱自在に取り付けられている。また、冷却チップ57は、その先端側が絞り込まれたテーパー形状を有している。
【0028】
冷却チップ57の中心孔57aは、非消耗電極51と接触した状態で、その先端から非消耗電極51を突出させている。また、冷却チップ57の先端には、拡径方向に突出したフランジ部57bが設けられている。冷却チップ57は、このフランジ部57bがコレットボディ54の先端に当接した状態で取り付けられている。
【0029】
冷却チップ57は、コレット52と接触している。具体的に、中心孔57aの内側には、コレット52のテーパー部52dが当接される縮径部57cが設けられている。縮径部57cは、非消耗電極51を貫通させる程度に縮径されている。これにより、冷却チップ57の先端部からは、中心孔57aを貫通した非消耗電極51のみを突出させることが可能となっている。
【0030】
また、冷却チップ57は、コレットボディ54と共に、ウォータージャケット53の一部を構成している。このため、ウォータージャケット53を構成するコレットボディ54と冷却チップ57との間は、Oリング63によって液密に封止(シール)されている。これにより、冷却チップ57は、コレットボディ54と共に、ウォータージャケット53を流れる冷却液Lにより冷却されることになる。
【0031】
以上のような構成を有するTIG溶接用トーチ50は、電源装置(図示せず。)と接続されている。電源装置は、TIG溶接用トーチ50と溶接ケーブル(図示せず。)を介して接続されて、TIG溶接用トーチ50への電力並びに第1及び第2のシールドガスG1,G2の供給を行う。
【0032】
電源装置では、図示を省略するものの、マイナス(-)端子側にトーチ側ケーブルを介して非消耗電極51が電気的に接続され、且つ、プラス(+)端子側に母材側ケーブルを介して被溶接物Sが電気的に接続されている。
【0033】
これにより、非消耗電極51と被溶接物との間でアークを発生させて、このアークの熱により被溶接物を溶かして溶融池(プール)を形成しながら溶接が行われる。また、溶接中は非消耗電極51の周囲を囲むトーチノズル56から第1及び第2のシールドガスG1,G2を放出し、これらのシールドガスG1,G2により大気(空気)を遮断しながら溶接が行われる。
【0034】
本実施形態のTIG溶接用トーチ50では、上述した冷却チップ57がコレットボディ54及びコレット52と熱的に接続された状態で取り付けられると共に、冷却液Lの循環によりコレットボディ54及び冷却チップ57を冷却している。また、冷却チップ57の中心孔57aから非消耗電極51の先端を突出させた状態で、この非消耗電極51が冷却チップ57と接触している。
【0035】
すなわち、本実施形態のTIG溶接用トーチ50では、冷却液Lの循環により冷却される冷却チップ57と非消耗電極51が熱的に接続された状態となっている。これにより、非消耗電極51の冷却効果を上げることができ、この非消耗電極51のアークの熱による消耗を抑制することが可能である。また、冷却チップ57の交換も容易である。
【0036】
(TIG溶接方法)
次に、本発明の一実施形態に係るTIG溶接方法について、図3(A),(B)を参照しながら説明する。
なお、図3は、被溶接物Sに対する溶接部の状態を示し、(A)はその斜視図、(B)はその断面斜視図である。
【0037】
本実施形態では、上記TIG溶接用トーチ51を用いて、図3(A),(B)に示すように、互いの端面同士を突き合わせた一対の鋼板(以下、「被溶接物S」とする。)の突合せ部Tに対して両面溶接を行う。なお、突合せ部Tには、例えばI開先やY開先、V開先などの開先を設けてもよい。
【0038】
具体的には、被溶接物Sの一面に対して、被溶接物Sと非消耗電極51との間でアークAを発生させると共に、このアークAによって生じた被溶接物Sの溶融池(プール)Pに向かって第1のシールドガスG1及び第2のシールドガスG2を放出しながら、突合せ部Tに沿って溶接を行う。これにより、溶接後の被溶接物Sの一面には、突合せ部Tに沿って溶接ビードBが形成される。また、被溶接物Sの一面を溶接した後は、被溶接物Sの他面に対しても同様に溶接を行う。
【0039】
本実施形態のTIG溶接方法は、上記TIG溶接用トーチ50を用いて、上記被溶接物Sに対して溶接を行う際に、第1のシールドガスG1として、ヘリウム(He)を用い、この第1のシールドガスG1の流量を1~10L/minとすることを特徴とする。
【0040】
本実施形態のTIG溶接方法では、上記TIG溶接用トーチ50を用いることで、非消耗電極51に対する冷却効果により、この非消耗電極51の先端から発生するアークのエリアを小さくし、アークの力(アーク圧力)が増大するため、深い溶け込みが得られる。
【0041】
一方、本実施形態のTIG溶接方法では、上記TIG溶接用トーチ50を用いて非キーホール溶接を行う場合でも、Heガス(第1のシールドガスG1)によりアークの力が低減するため、ほどよいアーク圧力によって溶融池Pの堀り下がった形状を安定して維持することができる。また、第1のシールドガスG1にHeガスを用いた場合、アークA(TIG溶接用トーチ50)が移動しても、この溶融池Pの堀り下がった形状を維持することが可能である。
【0042】
以上のように、本実施形態のTIG溶接方法では、上述した第1のシールドガスG1にHeガスを用いることによって、アークAの電圧が上昇する(電位経度が大きくなる)ため、入熱量が増大し、溶融池Pでの溶け込みが良くなる。また、第1のシールドガスG1中におけるヘリウム(He)の割合を100%とすることが好ましい。
【0043】
これにより、未溶融部(溶け残り)の発生を抑制し、掘り下げた溶融池Pの形状が安定することから、溶接後の溶接ビードBに気孔(ブローホール)や融合不良などの内部欠陥が発生することを防ぐことが可能である。
【0044】
また、本実施形態のTIG溶接方法では、上述した第1のシールドガスG1の流量が1L/min未満であると、Heガスによる内部欠陥を抑制する効果が不十分となる。一方、第1のシールドガスG1の流量が10L/minを超えると、アーク圧力の上昇により溶融池Pの堀り下がった形状を維持することが困難となる。また、Heガスは比較的高価であるため不経済となる。
【0045】
したがって、第1のシールドガスG1の流量は、1~10L/minであることが好ましく、より好ましくは1~5L/minであり、更に好ましくは2~5L/minであり、最も好ましくは2.5~3.5L/minである。
【0046】
第2のシールドガスG2については、アルゴン(Ar)又はArと水素(H)との混合ガスを用いることができる。また、第2のシールドガスG2の流量については、特に限定する必要はなく、この第2のシールドガスG2で大気(空気)を遮断するように適宜調整を行えばよい。
【0047】
また、本実施形態のTIG溶接方法では、被溶接物Sの裏側からバックシールドガスの放出を行わずに溶接を行うことが可能である。
【0048】
溶接電圧は、19~35Vであることが好ましく、より好ましくは20~30Vであり、更に好ましくは21~25Vである。これにより、アークAの電圧が上昇する(電位経度が大きくなる)ため、入熱量が増大し、溶融池Pでの溶け込みが良くなる。
【0049】
また、本実施形態のTIG溶接方法では、特に限定を行わないものの、溶接電流については、250A以上であることが好ましく、より好ましくは300A以上である。また、溶接速度については、15cm/min以上であることが好ましく、より好ましくは19cm/min以上である。また、被溶接物Sの厚みは、鋼板の場合、5mm以上であることが好ましい。
【0050】
なお、被溶接物Sの材質については、本発明のTIG溶接方法が適用可能なものであればよく、例えば、ステンレス鋼や二相ステンレス鋼、ニッケル合金、炭素鋼などが挙げられる。
【0051】
また、本発明のTIG溶接方法は、上述した両面溶接に好適に用いられるものの、片面溶接に適用することも可能である。また、本発明のTIG溶接方法では、溶加材である溶接ワイヤー(フィラーとも言う。)を溶融池Pに供給しながら、不足する溶接金属を補うことも可能である。その場合、溶接ワイヤーの送給を自動で行いながら、半自動のTIG溶接を行うことが可能である。
【実施例
【0052】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0053】
〔第1の実施例〕
第1の実施例では、実際に本発明のTIG溶接方法を用いて、実施例1~3の溶接条件により被溶接物に対して溶接を行った際の溶接部の状態について検査を行った。
【0054】
(実施例1)
実施例1では、実際に本実施形態のTIG溶接方法を用いて、以下の溶接条件により被溶接物に対して両面溶接を行った。また、溶接を行った後の溶接部の断面の写真を図4に示す。
【0055】
<溶接条件>
・被溶接物:材質:SUS304、厚み10mm
・突合せ部:I開先
(両面同じ溶接条件)
・センターガス(第1のシールドガス):Heガス(組成:He100%、流量:3L/min)
・アウターガス(第2のシールドガス):Arガス(組成:Ar100%、流量20L/min)
・非消耗電極径:φ6.4mm、酸化ランタン
・溶接電流:470A
・溶接速度:25cm/min
【0056】
実施例1では、図4に示すように、本実施形態のTIG溶接方法を用いることによって、溶接後の溶接ビードに気孔(ブローホール)や融合不良などの内部欠陥を発生させることなく、良好な両面溶接を行うことが可能である。
【0057】
(実施例2)
実施例2では、実際に本実施形態のTIG溶接方法を用いて、以下の溶接条件により被溶接物に対して両面溶接を行った。また、溶接を行った後の溶接部の断面の写真を図5に示す。
【0058】
<溶接条件>
・被溶接物:材質:SUS304、厚み9mm
・突合せ部:V開先(深さ5mm、開き角90°、ルート面4mm)
(表面の溶接条件)
・シールドーガス:ArとHの混合ガス(組成:H7%、残部Ar、流量20L/min)
・非消耗電極径:φ3.2mm、酸化ランタン
・溶接電流:350A
・溶接速度:25cm/min
・溶接ワイヤー:Y308φ1.2(送給速度6.5cm/min)
(裏面の溶接条件)
・センターガス(第1のシールドガス):Heガス(組成:He100%、流量:3L/min)
・アウターガス(第2のシールドガス):Arガス(組成:Ar100%、流量20L/min)
・非消耗電極径:φ6.4mm、酸化ランタン
・溶接電流:430A
・溶接速度:20cm/min
・溶接ワイヤー:Y308φ1.2(送給速度0.5cm/min)
【0059】
実施例2では、図5に示すように、本実施形態のTIG溶接方法を用いることによって、溶接後の溶接ビードに気孔(ブローホール)や融合不良などの内部欠陥を発生させることなく、良好な両面溶接を行うことが可能である。
【0060】
(実施例3)
実施例3では、実際に本実施形態のTIG溶接方法を用いて、以下の溶接条件により被溶接物に対して両面溶接を行った。また、溶接後の被溶接物の断面写真を図6に示す。
【0061】
<溶接条件>
・被溶接物:材質:SUS304、厚み6mm
・突合せ部:V開先(深さ4mm、開き角90°、ルート面2mm)
(表面の溶接条件)
・シールドーガス:ArとHの混合ガス(組成:H7%、残部Ar、流量20L/min)
・非消耗電極径:φ3.2mm、酸化ランタン
・溶接電流:350A
・溶接速度:25cm/min
・溶接ワイヤー:Y308φ1.2(送給速度6.5cm/min)
(裏面の溶接条件)
・センターガス(第1のシールドガス):Heガス(組成:He100%、流量:3L/min)
・アウターガス(第2のシールドガス):Arガス(組成:Ar100%、流量20L/min)
・非消耗電極径:φ4.8mm、酸化ランタン
・溶接電流:320A
・溶接速度:30cm/min
・溶接ワイヤー:Y308φ1.2(送給速度0.5cm/min)
【0062】
実施例3では、図6に示すように、本実施形態のTIG溶接方法を用いることによって、溶接後の溶接ビードに気孔(ブローホール)や融合不良などの内部欠陥を発生させることなく、良好な両面溶接を行うことが可能である。
【0063】
〔第2の実施例〕
第2の実施例では、実施例4及び比較例1,2について、溶接電流を300~500Aの範囲で50A毎に変更しながら被溶接物に対して溶接を行った際の溶接電圧の変化について測定を行った。
【0064】
(実施例4)
実施例4では、上記実施例1と同じ溶接条件により、溶接電流を変更しながら被溶接物の表面に対して溶接を行った際の溶接電圧をそれぞれ測定した。その測定結果を下記表1に示す。
【0065】
(比較例1)
比較例1では、センターガス(第1のシールドガス)にArガス(組成:Ar100%、流量:1L/min)、アウターガス(第2のシールドガス):Arガス(組成:Ar100%、流量20L/min)を用いた以外は、実施例4と同じ溶接条件により、溶接電流を変更しながら被溶接物の表面に対して溶接を行った際の溶接電圧をそれぞれ測定した。その測定結果を下記表1に示す。
【0066】
(比較例2)
比較例2では、センターガス(第1のシールドガス)にArとHとの混合ガス(組成:H7%、残部Ar、流量:1L/min)、アウターガス(第2のシールドガス):Arガス(組成:Ar100%、流量20L/min)を用いた以外は、実施例4と同じ溶接条件により、溶接電流を変更しながら被溶接物の表面に対して溶接を行った際の溶接電圧をそれぞれ測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例4は、比較例1,2よりも溶接電圧が高くなっている。これにより、入熱量が増大し、溶融池での溶け込みが良くなるため、溶融池の堀り下がった形状を維持することができる。その結果、溶接後の溶接ビードに気孔(ブローホール)や融合不良などの内部欠陥が発生することを防ぐことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
50…TIG溶接用トーチ 51…非消耗電極 52…コレット 53…ウォータージャケット(流路) 54…コレットボディ 54b…センターノズル 55…トーチボディ 56…トーチノズル 57…冷却チップ 58…トーチキャップ 59…外筒部材 60…絶縁部材 61…ウォータージャケット 62,63…Oリング G1…第1のシールドガス G2…第1のシールドガス L…冷却液(水) S…被溶接物 A…アーク P…溶融池 T…突合せ部 B…溶接ビード
図1
図2
図3
図4
図5
図6