(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】導電性ポリマー用高分子化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 212/00 20060101AFI20230217BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230217BHJP
C08F 8/36 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C08F212/00
C08F220/10
C08F8/36
(21)【出願番号】P 2019235472
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2019015515
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】長澤 賢幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸士
(72)【発明者】
【氏名】提箸 正義
(72)【発明者】
【氏名】福島 将大
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043752(JP,A)
【文献】特開2017-043753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 212/00
C08F 220/10
C08F 8/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物。
【化1】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2であり、aは、0<a<1.0である。)
【請求項2】
フルオロスルホン酸を有するモノマーによる繰り返し単位が下記一般式(3)中のb1~b5、フルオロスルホンイミド基を有する繰り返し単位がb6、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有する繰り返し単位がb7で示されるものであることを特徴とする
請求項1に記載の導電性ポリマー用高分子化合物。
【化2】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。R
7は、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Yはエーテル基、アミノ基のいずれかを示し、アミノ基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。Rf
1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf
2とRf
3は少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフッ素原子若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基であり、nは1~4の整数である。b1、b2、b3、b4、b5、b6、及びb7は、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0、0≦b4<1.0、0≦b5<1.0、0≦b6<1.0、0≦b7<1.0であり、0<b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7<1.0である。)
【請求項3】
前記フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、又は窒素化合物塩であり、下記一般式(4)で示される繰り返し単位b1‘~b7‘であるものであることを特徴とする
請求項1に記載の導電性ポリマー用高分子化合物。
【化3】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。R
7は、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Yはエーテル基、アミノ基のいずれかを示し、アミノ基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。Rf
1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf
2とRf
3は少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフッ素原子若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基であり、nは1~4の整数である。Xはリチウム、ナトリウム、カリウム、又は下記一般式(5)で示される窒素化合物である。b1‘、b2‘、b3‘、b4‘、b5‘、b6‘、及びb7‘は、0≦b1‘<1.0、0≦b2‘<1.0、0≦b3‘<1.0、0≦b4‘<1.0、0≦b5‘<1.0、0≦b6‘<1.0、0≦b7‘<1.0であり、0<b1‘+b2‘+b3‘+b4‘+b5‘+b6‘+b7‘<1.0である。)
【化4】
(式中、R
101d、R
101e、R
101f、R
101gは、それぞれ水素原子、もしくは炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数7~12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは炭素数3~10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)
【請求項4】
下記一般式(1)で示される重合性モノマーと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、窒素化合物塩からなる塩の構造を有するモノマーから選択される1種又は2種以上のモノマーを用いて重合反応を行う工程と、
【化5】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2である。)
イオン交換によって、前記重合反応により得られたポリマーの前記モノマーによる繰り返し単位の塩の構造を前記フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基に変換する工程と
を含むことを特徴とする、下記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物の製造方法。
【化6】
(式中、R、mは前記と同様であり、aは、0<a<1.0である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性モノマー、導電性ポリマー用高分子化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池や導電性高分子のドーパントポリマーとしてスルホ基含有ポリマーが用いられている。燃料電池用としては登録商標ナフィオンに代表されるビニルパーフルオロアルキルエーテルスルホン酸、導電性高分子用のドーパントポリマーとしては、ビニルスルホン酸やスチレンスルホン酸の重合体が広く用いられている(特許文献1)。ドーパントポリマーとして、プロトンが陽イオンで置換されたフッ素化酸ポリマーが提案されており、この中でビスフルオロアルキルスルホニルイミドのリチウム塩を有するスチレン誘導体のドーパントが示されている(特許文献2)。
【0003】
ビニルパーフルオロアルキルエーテルスルホン酸は化学的には安定性が高く耐久性に優れるが、ガラス転移点が低く、これを用いた燃料電池が高温にさらされるとポリマーが熱フローを起こしてイオン伝導性が低下してしまう問題がある。ビスフルオロアルキルスルホニルイミドを有するスチレンも同様の問題を有する。誘導体イオン伝導性を高めるには、α位がフッ素化されたスルホ基に代表される超強酸ポリマーが有効であるが、これに伴ってガラス転移点が高く化学的にも安定な材料は見いだされていない。
【0004】
また、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等の共役二重結合を有する導電性高分子は、これ自体は導電性を示さないがスルホン酸などの強酸をドーピングすることによって導電性が発現する。ドーパントとしてはポリスチレンスルホン酸(PSS)が最もよく用いられている。これは、PSSのドーピングによって導電率が最も高くなるためである。
【0005】
PSSは水溶性樹脂であり、有機溶剤には殆ど溶解しない。従って、PSSをドーパントとしたポリチオフェンも水溶性である。
PSSをドーパントとしたポリチオフェンは高導電性かつ高透明であるためにITO(インジウム-スズ酸化物)に換わる有機EL照明用の導電膜として期待されている。しかしながら有機ELの発光体は、水分によって化学変化し発光しなくなる。つまり、水溶性樹脂の導電膜を有機ELに用いると、樹脂が水を含むために有機ELの発光寿命が短くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-146913号公報
【文献】特許第5264723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、燃料電池用や導電性材料用のドーパントとして好適に用いられる、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有する繰り返し単位と、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチル(ヘキサフルオロアルコール:HFA)イソブチルエーテル基を有するスチレンの繰り返し単位を含む共重合ポリマーからなる導電性ポリマー用高分子化合物を提供することを目的とする。また、このような導電性ポリマー用高分子化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明では、
下記一般式(1)で示される重合性モノマーを提供する。
【化1】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2である。)
【0009】
本発明の重合性モノマーは、有機溶剤に可溶であり、燃料電池用や導電性材料用のドーパントとして好適に用いられる特定の導電性ポリマー用高分子化合物の原料モノマーとなるものである。
【0010】
また、本発明は、
下記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物を提供する。
【化2】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2であり、aは、0<a<1.0である。)
【0011】
本発明の導電性ポリマー用高分子化合物は、有機溶剤に可溶であり、燃料電池用や導電性材料用のドーパントとして好適に用いられるものである。
【0012】
好ましくは、フルオロスルホン酸を有する繰り返し単位は下記一般式(3)中のb1~b5、フルオロスルホンイミド基を有する繰り返し単位はb6、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有する繰り返し単位はb7で示されるものである。
【化3】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。R
7は、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Yはエーテル基、アミノ基のいずれかを示し、アミノ基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。Rf
1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf
2とRf
3は少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフッ素原子若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基であり、nは1~4の整数である。b1、b2、b3、b4、b5、b6、及びb7は、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0、0≦b4<1.0、0≦b5<1.0、0≦b6<1.0、0≦b7<1.0であり、0<b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7<1.0である。)
【0013】
また、上記繰り返し単位bがリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、又は窒素化合物塩であり、下記一般式(4)で示される繰り返し単位b1‘~b7‘であることも好ましい。
【化4】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。R
7は、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Yはエーテル基、アミノ基のいずれかを示し、アミノ基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。Rf
1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf
2とRf
3は少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフッ素原子若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基であり、nは1~4の整数である。Xはリチウム、ナトリウム、カリウム、又は下記一般式(5)で示される窒素化合物である。b1‘、b2‘、b3‘、b4‘、b5‘、b6‘、及びb7‘は、0≦b1‘<1.0、0≦b2‘<1.0、0≦b3‘<1.0、0≦b4‘<1.0、0≦b5‘<1.0、0≦b6‘<1.0、0≦b7‘<1.0であり、0<b1‘+b2‘+b3‘+b4‘+b5‘+b6‘+b7‘<1.0である。)
【化5】
(式中、R
101d、R
101e、R
101f、R
101gは、それぞれ水素原子、もしくは炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数7~12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは炭素数3~10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)
【0014】
繰り返し単位bが上記特定のものであれば、本発明の効果が更に十分に発揮される。
【0015】
さらに、本発明は、
下記一般式(1)で示される重合性モノマーと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、窒素化合物塩からなる塩の構造を有するモノマーから選択される1種又は2種以上のモノマーを用いて重合反応を行う工程と、
【化6】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2である。)
イオン交換によって、前記重合反応により得られたポリマーの前記モノマーによる繰り返し単位の塩の構造を前記フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基に変換する工程と
を含むことを特徴とする、下記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物の製造方法を提供する。
【化7】
(式中、R、mは前記と同様であり、aは、0<a<1.0である。)
【0016】
このような製造方法であれば、上記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の導電性ポリマー用高分子化合物であれば、有機溶剤に可溶であり、燃料電池用や導電性材料用のドーパントとして好適に用いられる、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチルイソブチルエーテル基を有するスチレンモノマーの繰り返し単位と、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位とを含む導電性ポリマー用高分子化合物となる。
この導電性ポリマー用高分子化合物を燃料電池に用いることによって、高誘電率な燃料電池用材料を形成することができる。また、共役二重結合ポリマー用のドーパントとして用いることによって、高透明、高導電性で耐久性の高い導電膜を形成することが可能になる。本発明の導電性ポリマー用高分子化合物は、3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチル(HFA)イソブチルエーテル基を有する。HFA基は撥水性が高く、これを含有するポリマーとポリチオフェンとの複合体の水溶液は、スピンコートした後の水の蒸発速度が速く、製膜後の残存水分が無いために、有機EL照明用の導電膜に用いることで、有機EL素子の水分による劣化を防止することができる。
また、本発明の製造方法であれば、このような本発明の導電性ポリマー用高分子化合物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述のように、燃料電池用や導電性材料用のドーパントとして好適に用いられる特定の超強酸を有する導電性ポリマー用高分子化合物の開発が求められていた。
【0019】
有機EL素子の劣化を招く水を含有する水溶性の導電性ポリマーを用いた場合に、水分含有率を極めて少なくして素子劣化を防止する膜を形成する必要がある。このため、本発明者らは、水和性が高いドーパントであるポリスチレンスルホン酸から、水の蒸発性が高いドーパント用のポリマーの開発を試みた。その結果、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、フルオロスルホンアミド基等フッ素を含有する超強酸のドーパントポリマーは、有機EL素子の高寿命化に効果的であった。更に、本発明者らは、超強酸部分以外にも特定の構造のHFA基を導入することによって、水分蒸発速度を上げて有機EL素子が高寿命化することを見いだし、本発明を完成させた。
【0020】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示される重合性モノマーである。
【化8】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2である。)
【0021】
また、本発明は、下記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物である。
【化9】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2であり、aは、0<a<1.0である。)
【0022】
さらに、本発明は、下記一般式(1)で示される重合性モノマーと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、窒素化合物塩からなる塩の構造を有するモノマーから選択される1種又は2種以上のモノマーを用いて重合反応を行う工程と、
【化10】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基であり、mは1又は2である。)
イオン交換によって、前記重合反応により得られたポリマーの前記モノマーによる繰り返し単位の塩の構造を前記フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基に変換する工程と
を含むことを特徴とする、下記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物の製造方法である。
【化11】
(式中、R、mは前記と同様であり、aは、0<a<1.0である。)
【0023】
上記特定の構造のHFA基を導入するための重合性モノマーは、下記一般式(1)で示される。
【化12】
(式中、Rは単結合、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基であり、mは1又は2である。)
【0024】
上記一般式(1)で示されるモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。
【化13】
【0025】
上記一般式(1)で示されるモノマーの製造方法は、特定の製造方法に限定されない。上記一般式(1)で示されるモノマーを、例えば、後述する実施例に示される合成方法で製造することが出来る。
【0026】
上記一般式(1)で示される重合性モノマーを、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩からなる塩の構造を有するモノマーから選択される1種又は2種以上のモノマーと共重合することによって、導電性ポリマー用高分子化合物を得ることが出来る。この導電性ポリマー用高分子化合物は、上記一般式(2)で示される繰り返し単位aと下記一般式(4)で示される繰り返し単位を含む共重合体からなることが好ましい。
【0027】
【化14】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。R
7は、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Yはエーテル基、アミノ基のいずれかを示し、アミノ基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。Rf
1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf
2とRf
3は少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフッ素原子若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基であり、nは1~4の整数である。Xはリチウム、ナトリウム、カリウム、又は下記一般式(5)で示される窒素化合物である。b1‘、b2‘、b3‘、b4‘、b5‘、b6‘、及びb7‘は、0≦b1‘<1.0、0≦b2‘<1.0、0≦b3‘<1.0、0≦b4‘<1.0、0≦b5‘<1.0、0≦b6‘<1.0、0≦b7‘<1.0であり、0<b1‘+b2‘+b3‘+b4‘+b5‘+b6‘+b7‘<1.0である。)
【化15】
(式中、R
101d、R
101e、R
101f、R
101gは、それぞれ水素原子、もしくは炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数7~12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは炭素数3~10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)
【0028】
これをイオン交換することによって、上記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位bとを含む共重合体からなる、重量平均分子量が1,000~500,000の範囲の導電性ポリマー用高分子化合物を得ることが出来る。重量平均分子量が上記範囲の導電性ポリマー用高分子化合物は、上記一般式(2)で示される繰り返し単位aと下記一般式(3)で示される繰り返し単位を含む共重合体からなることが好ましい。
【0029】
【化16】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エーテル基、あるいはエステル基のいずれか又はこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかである。R
7は、炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、アミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、エステル基のいずれかである。Yはエーテル基、アミノ基のいずれかを示し、アミノ基は水素原子、あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~12の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基のいずれかを含んでもよい。Rf
1はフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf
2とRf
3は少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する炭素数1~4の直鎖状、分岐状のアルキル基、又はフッ素原子若しくはトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基であり、nは1~4の整数である。b1、b2、b3、b4、b5、b6、及びb7は、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0、0≦b4<1.0、0≦b5<1.0、0≦b6<1.0、0≦b7<1.0であり、0<b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7<1.0である。)
【0030】
繰り返し単位b1‘を得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。
【0031】
【0032】
【0033】
【化19】
(式中、R
1は前述の通り。XはLi、Na、K、アミン化合物である。)
【0034】
繰り返し単位b2‘を得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。
【化20】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【化26】
(式中、R
3は前述の通り。XはLi、Na、K、アミン化合物である。)
【0041】
繰り返し単位b3‘を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化27】
【0042】
【0043】
【化29】
(式中、R
5は前記と同様であり、XはLi、Na、K、アミン化合物である。)
【0044】
繰り返し単位b4‘を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化30】
【0045】
【0046】
【化32】
(式中、R
8は前記と同様であり、XはLi、Na、K、アミン化合物である。)
【0047】
繰り返し単位b5‘を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化33】
(式中、R
10は前記と同様であり、XはLi、Na、K、アミン化合物である。)
【0048】
繰り返し単位b6‘を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化34】
【0049】
【化35】
(式中、R
11は前記と同様であり、XはLi、Na、K、又はアミン化合物である。)
【0050】
繰り返し単位b7‘を与えるモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【化36】
【0051】
【0052】
【化38】
(式中、R
13は前記と同様であり、XはLi、Na、K、又はアミン化合物である。)
【0053】
また、上述のように、本発明の導電性ポリマー用高分子化合物としては、具体的には下記スチレンスルホン酸由来のモノマーを共重合することも出来る。
【化39】
(式中X
2は水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム、アミン化合物である。)
【0054】
X2がアミン化合物の場合としては、下記一般式(5)で示される化合物を挙げることができる。
【0055】
【化40】
(式中、R
101d、R
101e、R
101f、R
101gは、それぞれ水素原子、もしくは炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数7~12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101dとR
101e、R
101dとR
101eとR
101fのそれぞれは炭素数3~10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)
【0056】
また、上述のように、本発明の導電性ポリマー用高分子化合物は、繰り返し単位a、繰り返し単位b、スチレンスルホン酸由来の繰り返し単位c以外の繰り返し単位dを有していてもよく、この繰り返し単位dとしては、メタクリル系、スチレン系、ビニルナフタレン系、ビニルシラン系、アセナフチレン、インデン、ビニルカルバゾールなどを挙げることが出来る。
【0057】
繰り返し単位dを得るためのモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することが出来る。
【化41】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
本発明の導電性ポリマー用高分子化合物を合成する方法としては、上記一般式(1)で示される重合性モノマーと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、窒素化合物塩からなる塩の構造を有するモノマーから選択される1種又は2種以上のモノマー、例えば上記一般式(4)で示される繰り返し単位b1’~b7’を与えるモノマーのうち所望のモノマーを、溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合を行うことで、共重合体からなる高分子化合物を得ることができる。得られた共重合体をイオン交換することによって、一般式(4)で示される繰り返し単位b1‘~b7‘を一般式(3)で示されるb1~b7に変換することが出来る。
【0065】
重合時に使用する溶剤としては水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、n-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジメチルスルホアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルエチルケトン、γ-ブチロラクトン等を例示できる。
【0066】
ラジカル重合開始剤としては、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ラウロイルパーオキシド、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、又は4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等を例示できる。
【0067】
反応温度は、好ましくは50~80℃であり、反応時間は好ましくは2~100時間、より好ましくは5~20時間である。
【0068】
本発明の導電性ポリマー用高分子化合物において、上記一般式(2)で示される繰り返し単位a、上記一般式(3)で示される繰り返し単位b1~b7を含む繰り返し単位bとなるモノマーは、それぞれ1種類でも2種類以上の組み合わせでもよい。
また、上記繰り返し単位aと上記繰り返し単位b1~b7を含む繰り返し単位bをそれぞれ形成する1種又は2種類以上のモノマーがランダムに共重合されていても、それぞれがブロックで共重合されていてもよい。ブロック共重合ポリマー(ブロックコポリマー)を導電膜とした場合は、2種類以上の繰り返し単位aからなる繰り返し単位部分同士が凝集して海島構造を形成することによって導電性が向上するメリットが期待される。
【0069】
また、上記繰り返し単位a、b1~b7を含むb、c、dを得るためのモノマーがランダムに共重合されていても、それぞれがブロックで共重合されていてもよい。
【0070】
ラジカル重合でランダム共重合を行う場合は、共重合を行うモノマーやラジカル重合開始剤を混合して加熱によって重合を行う方法が一般的である。第1のモノマーとラジカル重合開始剤の存在下で重合を開始し、後に第2のモノマーを添加した場合は、ポリマー分子の片側が第1のモノマーが重合した構造で、もう一方が第2のモノマーが重合した構造となる。しかしながらこの場合、中間部分には第1と第2のモノマーの繰り返し単位が混在しており、ブロックコポリマーとは形態が異なる。ラジカル重合でブロックコポリマーを形成するには、リビングラジカル重合が好ましく用いられる。
【0071】
RAFT重合(Reversible Addition Fragmentation chain Transfer polymerization)と呼ばれるリビングラジカルの重合方法は、ポリマー末端のラジカルが常に生きているので、第1のモノマーで重合を開始し、これらが消費された段階で第2のモノマーを添加することによって第1と第2の繰り返し単位によるブロックコポリマーを形成することが可能である。また、第1のモノマーで重合を開始し、これが消費された時点で第2のモノマーを添加し、次いで第3のモノマーを添加した場合はトリブロックコポリマーを形成することもできる。
【0072】
RAFT重合を行った場合は分子量分布(分散度)が狭い狭分散ポリマーが形成される特徴があり、特にモノマーを一度に添加してRAFT重合を行った場合は、より分子量分布が狭いポリマーを形成することができる。
【0073】
なお、本発明の導電性ポリマー用高分子化合物においては、分子量分布(Mw/Mn)は1.0~2.0であることが好ましく、特に1.0~1.5と狭分散であることが好ましい。狭分散であれば、高分子化合物を用いて合成した導電性ポリマーの導電率が不均一になるのを防ぐことができる。
【0074】
RAFT重合を行うには連鎖移動剤が必要であり、具体的には2-シアノ-2-プロピルベンゾチオエート、4-シアノ-4-フェニルカルボノチオイルチオペンタン酸、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボネート、4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニルチオカルボニル)スルファニル]ペンタン酸、2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)-2-メチルプロパン酸、シアノメチルドデシルチオカルボネート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモチオエート、ビス(チオベンゾイル)ジスルフィド、ビス(ドデシルスルファニルチオカルボニル)ジスルフィドを挙げることができる。これらの中では、特に2-シアノ-2-プロピルベンゾチオエートが好ましい。
【0075】
ここで、上記繰り返し単位a、b1~b7、c、dの割合は、0<a<1.0、0≦b1<1.0、0≦b2<1.0、0≦b3<1.0、0≦b4<1.0、0≦b5<1.0、0≦b6<1.0、0≦b7<1.0、0<b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7<1.0、0≦c<1.0、0≦d<1.0であり、好ましくは0.1≦a≦0.9、0≦b1≦0.9、0≦b2≦0.9、0≦b3≦0.9、0≦b4≦0.9、0≦b5≦0.9、0≦b6≦0.9、0≦b7≦0.9、0.1≦b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7≦0.9、0≦c≦0.8、0≦d≦0.8であり、より好ましくは0.2≦a≦0.85、0≦b1≦0.8、0≦b2≦0.8、0≦b3≦0.8、0≦b4≦0.8、0≦b5≦0.8、0≦b6≦0.8、0≦b7≦0.8、0.15≦b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7≦0.8、0≦c≦0.7、0≦d≦0.7である。なお、a+b1+b2+b3+b4+b5+b6+b7+c+d=1であることが特に好ましい。
【0076】
本発明の導電性ポリマー用高分子化合物の製造方法では、上述のようにしてモノマーを重合させた後、イオン交換によって、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基のリチウム、ナトリウム、カリウム、窒素化合物からなる塩の構造から選択される1種又は2種以上をフルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基に変換する。このとき、イオン交換は、例えばイオン交換樹脂を用いて行えばよい。
【0077】
上述のような方法で、上記一般式(2)で示される繰り返し単位aと、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド基、n-カルボニルフルオロスルホンアミド基を有するモノマーによる繰り返し単位から選択される1種又は2種以上の繰り返し単位b、例えば上記一般式(3)で示される繰り返し単位b1~b7を含む導電性ポリマー用高分子化合物を容易に製造することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
【0080】
窒素雰囲気下、原料1(120g)、原料2(352g)を仕込み、トルエン(400g)、テトラヒドロフラン(THF)(400g)に懸濁させ、氷浴で冷却した。その後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液(160g)を内温15℃以下で滴下し、滴下終了後、室温まで昇温して12時間熟成した。熟成後、反応系を冷却し、20質量%塩酸(182g)を滴下して反応を停止した。その後、トルエン(500g)を加えて抽出し、通常の水系後処理(aqueous work-up)、溶剤留去の後、蒸留精製を行い(沸点65℃/20Pa)、183gのモノマーa1を無色透明のオイルとして得た(収率61%)。
【0081】
【0082】
[合成例1-2-1]中間体1の合成
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム(27.2g、55質量%)のTHF(200ml)溶液に、原料3(93g)のTHF(150ml)溶液を内温50℃程度で滴下し、その後80℃にて6時間撹拌した。その後反応溶液を10℃まで冷却し、原料4(108g)を滴下した。滴下終了後、内温35℃で12時間熟成した。熟成後、反応溶液を冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液(150g)で反応を停止した。トルエン(500ml)を加えて抽出し、通常の水系後処理(aqueous work-up)、溶剤留去の後、減圧蒸留を行い、170gの中間体1を無色透明のオイルとして得た(収率93%)。
【0083】
[合成例1-2-2]中間体2の合成
窒素雰囲気下、中間体1(165g)、イミダゾール(46g)、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)(500g)をフラスコに仕込み、氷浴で冷却した。その後、トリエチルシリルクロリド(81g)を滴下した。滴下終了後、室温まで昇温して12時間熟成した。熟成後、反応液を氷冷し、飽和重層水(500g)を滴下して反応を停止した。ヘキサン(800ml)で抽出後、通常の水系後処理(aqueous work-up)、溶剤留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、210gの中間体2を無色透明のオイルとして得た(収率97%)。
【0084】
[合成例1-2-3]中間体3の合成
窒素雰囲気下、マグネシウム(10.2g)、中間体2(192g)、THF(400g)からグリニャール試薬を調製した。調製したグリニャール試薬をトルエン(200g)で希釈し、氷浴で冷却した。更に、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド(1.1g)を添加し、30分間熟成した。氷浴で系を冷却しながら、臭化ビニル(52g)、THF(100g)、トルエン(100g)からなる溶液を内温20℃以下を維持しながら滴下した。滴下終了後、氷浴下で1時間熟成した。熟成後、塩化アンモニウム(40g)、20質量%塩酸(40g)、水(200g)からなる溶液を滴下し、反応を停止した。ヘキサン(800ml)で抽出後、通常の水系後処理(aqueous work-up)、溶剤留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、146gの中間体3を無色透明のオイルとして得た(収率85%)。
【0085】
[合成例1-2-4]モノマーa2の合成
窒素雰囲気下、中間体3(129g)をTHF(260ml)に溶解し、氷浴で冷却した。その後、テトラブチルアンモニウムフルオリド(300g、1mol/L THF溶液)を内温20℃以下で滴下した。滴下終了後、更に1時間熟成した。熟成後、反応液を氷浴で冷却し、水(500g)を添加して反応を停止した。トルエン(500g)で抽出後、通常の水系後処理(aqueous work-up)、溶剤留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、91gのモノマーa2を無色透明のオイルとして得た(収率97%)。
【0086】
【0087】
【0088】
[実施例1]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.20gのモノマーa1と3.75gのモノマーb1-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=21,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.90
この高分子化合物を(ポリマー1)とする。
【化52】
【0089】
[実施例2]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.51gのモノマーa1と2.55gのモノマーb1-2と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=22,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.93
この高分子化合物を(ポリマー2)とする。
【化53】
【0090】
[実施例3]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.57gのモノマーa2と2.55gのモノマーb1-2と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=26,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.99
この高分子化合物を(ポリマー3)とする。
【化54】
【0091】
[実施例4]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.51gのモノマーa1と1.97gのモノマーb2-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=19,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.61
この高分子化合物を(ポリマー4)とする。
【化55】
【0092】
[実施例5]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.51gのモノマーa1と1.97gのモノマーb3-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=18,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.68
この高分子化合物を(ポリマー5)とする。
【化56】
【0093】
[実施例6]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、0.90gのモノマーa1と4.60gのモノマーb4-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてアンモニウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=26,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.04
この高分子化合物を(ポリマー6)とする。
【化57】
【0094】
[実施例7]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、0.90gのモノマーa1と2.35gのモノマーb5-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてナトリウム塩をスルホ基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=31,000
分子量分布(Mw/Mn)=2.11
この高分子化合物を(ポリマー7)とする。
【化58】
【0095】
[実施例8]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.20gのモノマーa1と1.93gのモノマーb6-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてリチウム塩をスルホンイミド基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=23,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.88
この高分子化合物を(ポリマー8)とする。
【化59】
【0096】
[実施例9]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.20gのモノマーa1と2.60gのモノマーb7-1と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてカリウム塩をn-カルボニルスルホンアミド基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=29,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.66
この高分子化合物を(ポリマー9)とする。
【化60】
【0097】
[実施例10]
窒素雰囲気下、64℃で撹拌したメタノール10gに、1.20gのモノマーa1と1.90gのモノマーb7-2と0.12gの2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルをメタノール3gに溶かした溶液を4時間かけて滴下した。さらに64℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を10gの酢酸エチルに激しく撹拌しながら滴下した。生じた固形物を濾過して取り、50℃で15時間真空乾燥して、白色重合体を得た。
得られた白色重合体を純水100gに溶解し、イオン交換樹脂を用いてカリウム塩をn-カルボニルスルホンアミド基に変換した。得られた重合体を
19F,
1H-NMR及びGPC測定したところ、以下の分析結果となった。
重量平均分子量(Mw)=27,000
分子量分布(Mw/Mn)=1.61
この高分子化合物を(ポリマー10)とする。
【化61】
【0098】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。