(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】天然ガス液化装置および天然ガス液化方法
(51)【国際特許分類】
F25J 1/00 20060101AFI20230217BHJP
【FI】
F25J1/00 B
(21)【出願番号】P 2020510060
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012449
(87)【国際公開番号】W WO2019188957
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018060261
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入澤 真
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-106688(JP,A)
【文献】特開平2-157583(JP,A)
【文献】特表2015-501410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 1/00-1/02,5/00
F25B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項12】
前記冷媒供給工程では、前記冷媒を複数の減圧器に導入し、
前記冷媒供給工程bでは、前記複数の減圧器においてそれぞれ異なる該減圧器を冷媒流れの始点とし、前記圧縮機の2段目以降のそれぞれ異なる圧縮段を冷媒流れの終点とする上記請求項7~11の何れか一項に記載の天然ガス液化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス液化装置および天然ガス液化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガスを液化し、液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)(以下、「LNG」と称することもある)として供給する方法の一つとして、窒素等の不燃性ガスを冷媒に用い、膨張タービンで膨張した冷媒によって天然ガスを冷却し、液化する方法が知られている。このような方法は、主として小規模な液化装置に採用される。膨張タービンを複数備える場合もあるが、特に小規模な液化装置においては、膨張タービンを1台のみ備える構成が採用されている。
【0003】
非特許文献1のFIG.4における左側の図は、天然ガスを冷却するための冷媒である窒素を、1台の膨張タービンで膨張、降温させて熱交換器に導入し、天然ガスを冷却・液化する、従来の方法における最もシンプルなプロセスを示す図である。
また、非特許文献1のFIG.4における右側の図は、同左側の図に比べて性能(消費動力)が改善される従来のプロセスを示している。このプロセスでは、1台の膨張タービンを用いて降温させた窒素を用いて天然ガスを冷却することに加え、ジュール・トムソン弁(以下、JT弁と略称することがある)を用いて窒素を減圧し、より低温側の領域まで降温させた液体窒素を用いて、天然ガスをさらに冷却している。
非特許文献1のFIG.4の右図が開示するプロセスによれば、同左図が開示するプロセスに比べて、膨張タービンの入口温度を高くできるので、冷媒の流量を少なくでき、冷媒を圧縮するための圧縮機の消費動力を低減することが可能になる。
【0004】
非特許文献1のFIG.4の右図が開示するプロセスで、消費動力が最小となるように条件を決定した場合、冷媒(窒素)系統の圧力を高くする必要がある。このため、装置設計時、配管等の設計圧力を高く設定する必要があり、装置に使用する圧縮機や熱交換器の仕様が高耐圧の機種に限定されることになるの。このため、装置の小型化が困難になったり、装置コストが増大したりするという問題がある。また、これを避けるために圧力を低く設定した場合には、消費動力が大幅に増加するという問題がある。
【0005】
特許文献1には、非特許文献1のFIG.4の右図に開示されたプロセスにおいて、窒素とメタンとの混合物を冷媒に用いるプロセスが開示されている。特許文献1は、上記冷媒を採用することで、窒素のみからなる冷媒を用いた場合に比べて、液化のための所要エネルギーを低減することを目的としている。しかしながら、特許文献1では、可燃物であるメタンを含む冷媒を使用するため、不燃性ガスである窒素のみを冷媒に用いた場合に比べて、冷媒系統を安全な仕様とするためのコストが増大する。
【0006】
また、天然ガスの液化技術の分野においては、例えば、特許文献2に開示されているような、冷媒が異なる圧力の系統に分かれて圧縮機に戻る技術について、数多くの提案がなされている。
具体的には、特許文献2の請求項5の液化方法は、特許文献2の
図1にも示されているように、第二の膨張したガス状冷媒流れ(174)を、第二の圧縮機(130)で圧縮し、第一の膨張したガス状冷媒流れ(152)からの第一の部分(154)と、第二の部分(160)と混合している。 特許文献2には、上記構成を採用する目的として、低温膨張機の排出圧力を高温膨張機の排出圧力よりも低くすることで、より低い温度を達成しながら、高温膨張機の排出口からのガス状冷媒流れを高い圧力でガス状冷媒圧縮機の段の間に導入し、圧縮機の消費動力を低減することが記載されている。
しかしながら、特許文献2の実施例、および
図3によれば、高圧冷媒圧縮機(132)の流量は、21、495Ibmol/時と196、230Ibmol/時の合計である217、725Ibmol/時であるのに対して、低圧冷媒圧縮機(130)の流量は、その上流の流れ(170)と同じ53、091Ibmol/時であり、高圧冷媒圧縮機(132)の24%程度と少ない。このため、これら2つの圧縮機は、流量の差が大きいことから一体化するのは困難なため、複数の圧縮機を使用することになり、設置面積とコストが増大するという問題がある。
また、特許文献2が開示する技術では、上記ように、流れ(170)の流量の割合が小さいので、小規模な装置においては、膨張機(138)や低圧冷媒圧縮機(130)の流量が非常に少なくなる。しかしながら、そのような小型の機種が市場に存在しないため、この技術を適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第3818714号明細書
【文献】日本特許第5647299号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】M.Roberts(APCI)他「Brayton refrigeration cycles for small-scale LNG」Gas Processing July/August 2015、P27-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、
図3に、冷媒が一つの系統で圧縮機に戻る、一般的な冷媒系統を示す。
図3は、上記特許文献1が開示する冷媒系統、および非特許文献1のFIG.4の右図が開示する冷媒系統をさらに詳細に示した従来の統計図である。
【0010】
図3に示すように、冷媒を圧縮するための圧縮機としては、複数で直列に接続された多段階圧縮の構成が従来より一般的に採用されている。複数の圧縮段で圧縮された窒素等の冷媒は、必要に応じて制動ブロワーを介して熱交換器に導入され、天然ガスの冷却・液化に供される。熱交換器を通過した冷媒は、減圧器で減圧された後、熱交換器内に再導入され、再び熱交換に供された後、複数で設けられた圧縮段の1段目に導入される。一方、複数の圧縮段で圧縮された冷媒の一部は膨張タービンに導入され、膨張後の冷媒は、熱交換器内において上記減圧器で減圧された冷媒と合流して熱交換に供された後、上記同様、複数の圧縮段の1段目に戻される。
【0011】
より詳細に説明すると、まず、天然ガスGを液化する天然ガス液化装置100において、天然ガス供給源106に貯蔵された天然ガスGは、低温で固化する成分や腐食の原因となる成分が除去された後、予備冷却器107で冷却されたのち、熱交換器104へ導入される。この際、熱交換器104に導入される天然ガスの圧力は1~8MPa程度であり、また、通常、消費動力や設計圧力等を考慮して3~6MPa程度の圧力とされる。また、熱交換器104へ導入される天然ガスGの温度は、一般に、常温(20~40℃程度)、又は、冷凍機等で補助的(予備的)に冷却された温度(-20~-50℃程度)とされる。
【0012】
熱交換器104に導入された天然ガスGは、低温の窒素等を含有する冷媒との熱交換で冷却されて液化し、LNGとなる。この際、天然ガスGの組成や圧力等によって異なるが、おおよそ-50℃程度の低温で液化が始まり、-100℃程度で完全に液化する。また、熱交換器104を通過して排出されるLNGの温度は、低圧の貯槽108へ導入した際の気化量を少なくするために可能な限り低温とし、理想的には-160℃程度とされる。
【0013】
一方、窒素ガス系統においては、冷媒に用いられる窒素ガスが、冷媒源101から複数の圧縮段を備える圧縮機102に導入され、例えば、3~6MPa程度に圧縮される。圧縮機102は、上記複数の圧縮段102A~102Dと、各圧縮段の出口側に各々配置される冷却器121A~121Dとを具備する。
【0014】
圧縮された窒素ガスからなる冷媒は、膨張タービン103によって駆動される制動ブロワー131によってさらに圧縮された後、その一部が膨張タービン103へ導入される。また、発電機制動の膨張タービンや、圧縮機に組み込まれた膨張タービンへ導入されるケースもある。何れの場合においても、膨張タービン103において発生する動力は、窒素ガスの圧縮に利用される。
【0015】
熱交換器104に導入される窒素(冷媒)の圧力は、臨界圧力(3.4MPa)よりも高く、かつ天然ガス液化装置の消費動力や設計圧力等を考慮して決定される。
熱交換器104に導入された窒素は、低温の窒素との熱交換で冷却され、一部が-50℃程度で抜き出されて膨張タービン103に導入され、残りは熱交換器104内でさらに冷却される。
膨張タービン103に導入された窒素は、ほぼ、等エントロピーの膨張によって-140℃程度となり、熱交換器104に戻される。
【0016】
熱交換器104に導入された冷却された残りの窒素は、JT弁又は液タービン(Liquid expander、Dense fluidexpander)を具備する減圧器105に導入され、減圧器105により減圧されて気液二相流又は液相となる。これにより、減圧器105により減圧された後の窒素は、膨張タービン103の出口の窒素よりも低い温度、理想的には-160℃よりも低い温度で熱交換器104へ戻されて天然ガスGと窒素を冷却し、自らは気化して膨張タービン103の出口と同等の温度まで昇温する。
【0017】
膨張タービン103の出口と同等の温度となった窒素は、膨張タービン103の出口の窒素と合流し、天然ガスGと窒素の冷却に利用され、常温となって圧縮機102の1段目の圧縮段102Aの入口に戻る。よって、膨張タービン103の出口の窒素と、減圧器105の出口の窒素とは同じ圧力となる。
【0018】
ここで、減圧器105の出口で気化する窒素により、天然ガスGを-160℃程度まで冷却するためには、窒素の沸点を-160℃よりも低くする必要があるため、減圧器105の出口における窒素圧力は、1.3MPa程度より高くすることができない。一方、これよりも低い窒素圧力とした場合、圧縮機102の入口圧力が低くなり、消費動力が増えるので、減圧器105の出口圧力は、可能な限り高い圧力、すなわち、1.3MPa程度とすることが望ましい。
【0019】
ところで、減圧器105の出口圧力が1.3MPaのとき、圧縮機102の出口圧力を上げると、これに伴って消費動力が減少する。圧縮機102の出口圧力が6MPa程度、膨張タービン103の入口圧力が11MPa程度のときに消費動力が最小値となる。しかしながら、このような圧力は、圧縮機102や熱交換器104の設計条件としてはかなり高圧であり、設計圧力が高くなることから、高圧に対応できる圧縮機や熱交換器として採用できる機種が限定される。このため、例えば、高耐圧仕様の熱交換器の採用を余儀なくされ、以下に説明する理由により、小規模な天然ガス液化装置を構成することが困難になる場合がある。
【0020】
例えば、小規模な装置の熱交換器として一般的にアルミプレートフィン式熱交換器が用いられている。高耐圧アルミプレートフィン式熱交換器を採用する場合、構造が単純で強度面では優れるものの、伝熱性能の低いプレーンフィンタイプのものを採用せざるを得ない。
冷媒系統の圧力を下げた場合には、伝熱性能の高いセレートフィンタイプ又はヘリングボーンフィンタイプのものを採用することができ、熱交換器の性能向上と小型化が可能になる。
熱交換器の設計条件が同じである場合、プレーンフィンタイプの熱交換器の伝熱面積は、セレートフィンタイプの熱交換器の伝熱面積の約1.5~2倍となることから、プレーンフィンタイプのものを採用した場合には、装置の小型化が困難になる。
【0021】
装置の小型化を図り、かつ、装置価格を低減するためには、圧力を下げて各機器の選択肢を増やす必要がある。しかしながら、減圧器105の出口圧力が1.3MPaのままで圧縮機102の入口圧力を下げると、膨張タービン103の膨張比が小さくなり、流量が増加する。さらに、膨張比が小さくなることから、膨張タービン103の出口温度も高くなる。膨張タービン103の出口温度を-160℃まで冷やすための熱量が増大し、減圧器105の流量も増える。このため、圧縮機102の消費動力が増加してしまうという問題がある。
一方、膨張比を大きくするために膨張タービン103の出口圧力を下げると、減圧器105の出口圧力も同時に下がるので、減圧器105を通過する窒素を、不必要に低い圧力から圧縮するための無駄な動力が必要になるという問題があった。
【0022】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、不燃性ガスを冷媒に用い、比較的低い冷媒圧力の範囲において、消費動力を低減することが可能な天然ガス液化装置および天然ガス液化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の天然ガス液化装置を提供する。
(1)天然ガスを冷却して液化することで液化天然ガスを製造する天然ガス液化装置であって、
不燃性ガスを含有する冷媒を複数の圧縮段で圧縮する圧縮機と、
前記天然ガスを冷却して液化し、液化天然ガスとする熱交換器と、
前記天然ガスを前記熱交換器に導入し、該熱交換器で液化された前記液化天然ガスを外部に向けて供給する天然ガス液化ラインと、
前記圧縮機で圧縮された前記冷媒を前記熱交換器に導入し、さらに、該熱交換器を通過した前記冷媒を減圧器に導入する第1冷媒ラインと、
前記減圧器で減圧された冷媒を前記熱交換器に導入し、該熱交換器を通過した前記冷媒を、前記圧縮機に備えられる前記複数の圧縮段の内の2段目以降に導入する第2冷媒ラインと、
前記第1冷媒ラインから分岐し、前記冷媒の少なくとも一部を膨張タービンに導入する第3冷媒ラインと、
前記膨張タービンで膨張した冷媒を前記熱交換器に導入し、該熱交換器を通過した前記冷媒を、前記圧縮機に備えられる前記複数の圧縮段の内の初段に導入する第4冷媒ラインとを備えることを特徴とする天然ガス液化装置。
【0024】
(2)前記第1冷媒ラインの経路中に設けられ、前記膨張タービンによって駆動され、前記第1冷媒ラインを流通する前記冷媒を圧縮する制動ブロワーをさらに備えることを特徴とする上記(1)記載の天然ガス液化装置。
【0025】
(3)前記熱交換器が、セレートフィンタイプ又はヘリングボーンフィンタイプのフィンが用いられたアルミプレートフィン式熱交換器であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の天然ガス液化装置。
【0026】
(4)前記液化ラインにおける前記熱交換器の入口側に、前記天然ガスを気化タイプの冷媒によって冷却する予備冷却器をさらに備えることを特徴とする上記(1)~(3)3の何れかに記載の天然ガス液化装置。
【0027】
(5)前記熱交換器が、少なくとも前記冷媒-3を該熱交換器に導入する位置を境に、複数に分割されることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載の天然ガス液化装置。
【0028】
(6)前記減圧器を複数備え、それぞれ異なる該減圧器を冷媒流れの始点とし、前記圧縮機の2段目以降のそれぞれ異なる圧縮段を冷媒流れの終点とする、複数の前記第2冷媒ラインを備えることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載の天然ガス液化装置。
【0029】
本発明は、上記目的を達成するために、さらに以下の天然ガス液化方法を提供する。
(7)天然ガスを冷却して液化することで液化天然ガスを製造する天然ガス液化方法であって、
前記天然ガスを熱交換器に導入し、該熱交換器で冷却されて液化した前記液化天然ガスを外部に供給する天然ガス供給工程と、
前記熱交換器に導入された前記天然ガスを冷却するための不燃性ガスからなる冷媒を前記熱交換器に導入する冷媒供給工程とを備え、
前記冷媒供給工程は、不燃性ガスを複数の圧縮段を有する圧縮機で圧縮して得た冷媒を熱交換器に導入し、該熱交換器を通過した前記冷媒を減圧器に導入する冷媒供給工程aと、
前記減圧器による減圧・膨張によって降温された少なくとも一部が液相とされた冷媒を前記熱交換器に導入し、該熱交換器を通過して昇温した前記冷媒を、前記圧縮機に備えられる前記複数の圧縮段の内の2段目以降に導入する冷媒供給工程bと、
前記冷媒供給工程aにおける前記冷媒の少なくとも一部を膨張タービンに導入する冷媒供給工程cと、
前記膨張タービンで膨張して降圧および降温された冷媒を前記熱交換器に導入し、該熱交換器を通過して昇温された前記冷媒を、前記圧縮機に備えられる前記複数の圧縮段の内の初段に導入する冷媒供給工程dとを有することを特徴とする天然ガス液化方法。
【0030】
(8)前記冷媒供給工程aにおける、前記膨張タービンの入口側の圧力が9MPa未満であることを特徴とする上記(7)記載の天然ガス液化方法。
【0031】
(9)前記冷媒供給工程aは、前記膨張タービンで発生する動力を利用して、前記圧縮機によって多段で圧縮された前記冷媒をさらに追加圧縮する工程をさらに具備することを特徴とする上記(7)または(8)記載の天然ガス液化方法。
【0032】
(10)前記天然ガス供給工程は前記熱交換器に導入される前の前記天然ガスを、気化タイプの冷媒によって予備冷却する工程をさらに具備することを特徴とする上記(7)~(9)のいずれかに記載の天然ガス液化方法。
【0033】
(11)少なくとも、前記冷媒-3を該熱交換器に導入する位置を境に、前記熱交換器を複数に分割することを特徴とする上記(7)~(10)のいずれかに記載の天然ガス液化方法。
【0034】
(12)前記冷媒供給工程では、前記冷媒を複数の減圧器に導入し、
前記冷媒供給工程bでは、前記複数の減圧器においてそれぞれ異なる該減圧器を冷媒流れの始点とし、前記圧縮機の2段目以降のそれぞれ異なる圧縮段を冷媒流れの終点とする上記(7)~(11)のいずれかに記載の天然ガス液化方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る天然ガス液化装置によれば、圧縮機における複数の圧縮段で圧縮され、さらに減圧器で減圧されて熱交換器を通過した冷媒-2を、圧縮機における複数の圧縮段の内の2段目以降に導入する第2冷媒ラインと、膨張タービンで膨張して熱交換器を通過した冷媒-3を、圧縮機における初段の圧縮段に導入する第4冷媒ラインとを備えている。
すなわち、熱交換器から比較的低圧で戻される冷媒-3は、複数の圧縮段の内の初段の圧縮段に導入される。一方、熱交換器から比較的高圧で戻される冷媒-2は、複数の圧縮段の2段目以降に導入される。このため、特に、膨張タービンの入口の圧力が比較的低い範囲において消費動力を低減することが可能になる。
これにより、熱交換器として、低圧仕様ながら伝熱性能の高いタイプのものを採用できるので、熱交換器の性能向上と小型化とが可能となる。また、装置全体の小型化およびコストの低減も可能になる。
また、後述の実施例の欄で詳しく説明するが、第2冷媒ラインの流量が冷媒全体の10%未満と少量となることから、圧縮機における第2冷媒ラインが導入される前の圧縮段の流量は、後の圧縮段の流量の90%程度となる。このため、各々の圧縮機間の流量差が小さく、これらの圧縮段を一体の圧縮機として設計するのが容易になる。
さらに、減圧器に減圧弁を使用した場合には、第2冷媒ラインの流量が少ない小規模な装置にも適用可能となる。
【0036】
また、本発明に係る天然ガス液化方法によれば、冷媒供給工程は、減圧器による減圧・膨張によって降温され、少なくとも一部が液相とされた冷媒-2を熱交換器に導入し、この熱交換器を通過して昇温した冷媒-2を、圧縮機における複数の圧縮段の内の2段目以降に導入する冷媒供給工程bと、膨張タービンで膨張して降圧および降温された冷媒-3を熱交換器に導入し、この熱交換器を通過して昇温された冷媒-3を、圧縮機における初段の圧縮段に導入する冷媒供給工程bとを有する。
これにより、上記同様、熱交換器から比較的低圧で戻される冷媒-3が初段の圧縮段に導入される。一方、熱交換器から比較的高圧で戻される冷媒-2は2段目以降の圧縮段に導入される。このため、膨張タービンの入口の圧力が比較的低い範囲において消費動力を低減することが可能になる。
したがって、使用する装置の小型化が可能になることに加え、運転コストの低減も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の一実施形態である天然ガス液化装置および天然ガス液化方法について模式的に説明する図であり、装置全体の構成を示す系統図である。
【
図2】本発明の天然ガス液化装置および天然ガス液化方法の実施例について説明する図であり、膨張タービンの入口側の圧力と、圧縮機の消費動力との関係を示すグラフである。
【
図3】従来の天然ガス液化装置の構成を示す系統図である。
【
図4】本発明の他の実施形態である天然ガス液化装置及び天然ガス液化方法について模式的に説明する図であり、装置全体の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を適用した一実施形態である天然ガス液化装置および天然ガス液化方法について、
図1および
図2を適宜参照しながら説明する(
図3の従来図も適宜参照)。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示する材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0039】
本発明に係る天然ガス液化装置および天然ガス液化方法は、天然ガスを液化してLNGを供給する装置および方法として、特に、膨張タービンを1台のみ備える構成の小規模な液化装置として好適なものである。
【0040】
<天然ガス液化装置>
以下、本実施形態の天然ガス液化装置10の構成について詳述する。
図1に示すように、本実施形態の天然ガス液化装置10は、天然ガスGを冷却して液化することで液化天然ガス(LNG)Fを製造する装置である。具体的には、天然ガス液化装置10は、循環する冷媒を説明するための便宜上の始点である冷媒源1から供給される、主として不燃性ガスを含有する冷媒を複数の圧縮段2A~2Dで圧縮する圧縮機2;天然ガスGを冷却して液化し、液化天然ガス(LNG)Fとする熱交換器4;天然ガスGを熱交換器4に導入し、この熱交換器4で液化された液化天然ガスFを外部に向けて供給する液化ラインFL;圧縮機2で圧縮された冷媒-1を熱交換器4に導入し、さらに、この熱交換器4を通過した冷媒-1を減圧器5に導入する第1冷媒ラインL1;減圧器5で減圧された冷媒-2を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過した冷媒-2を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目である圧縮段2B以降に導入する第2冷媒ラインL2;第1冷媒ラインL1から分岐し、冷媒-1の少なくとも一部を膨張タービン3に導入する第3冷媒ラインL3;膨張タービン3で膨張した冷媒-3を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過した冷媒-3を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の初段の圧縮段2Aに導入する第4冷媒ラインL4;を備えて概略構成される。
【0041】
本実施形態の天然ガス液化装置10においては、
図1中に示すように、天然ガスGの流れ、および冷媒-1~冷媒-3の流れが、全体として、天然ガス供給工程、および冷媒供給工程に分けられている。
【0042】
また、図示例の天然ガス液化装置10においては、上記各々に加え、さらに、第1冷媒ラインL1の経路中に設けられ、第1冷媒ラインL1を流通する冷媒-1を圧縮する制動ブロワー31、およびその出口側に冷却器32が備えられている。
また、図示例の天然ガス液化装置10では、さらに、液化ラインFLにおける熱交換器4の入口側に、天然ガスGを冷却する予備冷却器7が備えられている。
【0043】
圧縮機2は、冷媒源1から供給される冷媒を、複数の圧縮段2A~2Dで圧縮する。図示例の圧縮機2は、各圧縮段2A~2Dが順次直列に接続されている。第1溶媒ラインL1における各圧縮段2B~2Dの出口側には、冷却器21B~21Dがそれぞれ設けられている。第4溶媒ラインL4における圧縮段2Aの入り口側には、冷却器21Aが設けられている。図示例においては、冷媒源1が、詳細を後述する第4冷媒ラインL4の経路中に設けられ、この第4冷媒ラインL4から圧縮機2に、不燃性ガスが冷媒として供給される。
【0044】
圧縮機2としては、特に限定されず、従来からこの分野で用いられている、複数の圧縮段を備えたものを何ら制限無く用いることができる。特に、2段目以降の圧縮段に追加の流体を導入するための設計が容易であるという観点から、ギアード型の遠心式圧縮機(Integrally geared)を好適に用いることができる。一方、一軸型の遠心式圧縮機(Single shaft)は、一般的にギアード型よりも高価で効率が低い。また、往復動式圧縮機はメンテナンス周期が短いため、ギアード型等と同じLNG生産量を得るためには、運転時間が短くなる分を装置の大型化で補う必要があり、装置コストが増大する。したがって、実使用上における一般的な稼働条件等の観点からは、上述したギアード型の遠心式圧縮機を圧縮機2に採用することが好ましい。
【0045】
また、冷媒源1から圧縮機2に向けて供給される冷媒として用いられる不燃性ガスとしては、例えば、窒素が挙げられる。
【0046】
膨張タービン3は、圧縮機2で圧縮された冷媒-1を膨張させるものであり、詳細を後述する第1冷媒ラインL1における分岐点Pから分岐した第3冷媒ラインL3によって、冷媒-1の少なくとも一部が導入される。そして、膨張タービン3で膨張された冷媒-1は、詳細を後述する第4冷媒ラインL4により、熱交換器4内に導入される。
【0047】
制動ブロワー31は、第1冷媒ラインL1の経路上に設けられる。上述したように、制動ブロワー31は、膨張タービン3で発生する動力によって駆動されるものであり、第1冷媒ラインL1を流通する冷媒-1をさらに圧縮する。また、第1冷媒ラインL1の経路上において、制動ブロワー31の出口側には冷却器32が設けられている。
また、制動ブロワー31は、冷媒-1の圧力の設定によっては、設置を省略することも可能である。
【0048】
熱交換器4には、詳細を後述する液化ラインFL、および第1~4冷媒ラインL1~L4が挿通される。このような構成により、熱交換器4は、低温の冷媒-2、および冷媒-3と、天然ガスGとを熱交換し、この天然ガスGを冷却して液化する。また、本実施形態の熱交換器4は、冷媒同士での熱交換を行うことも可能であり、詳細を後述するが、第2冷媒ラインL2を流通する冷媒-2と、第4冷媒ラインL4を流通する冷媒-3とにより、第1冷媒ラインL1を流通する冷媒-1を冷却する。
【0049】
本実施形態の天然ガス液化装置10においては、熱交換器4として、アルミプレートフィン式の熱交換器を採用することができる。アルミプレートフィン式熱交換器、特に、伝熱性能の高いセレートフィンタイプやヘリングボーンフィンタイプのアルミプレートフィン式熱交換器は、高耐圧ではないものの、熱交換効率が非常に高いという特徴がある。本実施形態の天然ガス液化装置10は、冷媒供給工程を比較的低圧で運転するので、熱交換器4として、上記アルミプレートフィン式熱交換器を採用することにより、熱交換器4および装置全体の性能向上と小型化とが可能になる。
【0050】
ところが、熱交換器4にアルミプレートフィン式熱交換器を採用した場合、熱交換器の設計に適用される法規によっては、従来技術で消費動力が最小となる11.1MPaという圧力に対応できないケースもある。また、上記圧力に対応できるケースであっても、使用するフィン形式が高強度であるが、構造が単純で伝熱性能が低いため、伝熱面積を大きく必要があり、装置が大型化する問題がある。また、設計圧力が高いことから高価になるという問題もある。また、シェル&コイル式(Shell&Coil)や拡散接合式(Diffusion bonding)の熱交換器は、高圧力に対応できるものの、同じ性能である場合のコストがアルミプレートフィン式の数倍となる。
このような各形式の熱交換器における問題点を総合的に考慮した場合、熱交換器4として、設計圧力を低くして、伝熱性能に優れた、セレートフィンタイプ等のアルミプレートフィン式熱交換器を用いることが好ましい。
【0051】
減圧器5は、第1冷媒ラインL1から導入される冷媒-1を減圧して膨張させることにより、少なくとも一部が液相とされた冷媒-2とする。また、減圧器5の出口には、第2冷媒ラインL2の一端が接続され、冷媒-2を熱交換器4に導入する。
減圧器5としては、冷媒を減圧できれば特に限定されないが、具体的には、JT弁のような減圧弁を用いることができる。また、減圧器5としては、液タービンを用いることも可能である。
【0052】
そして、本実施形態の天然ガス液化装置10は、冷媒供給工程(冷媒経路B)を構成する第1冷媒ラインL1、第2冷媒ラインL2、第3冷媒ラインL3および第4冷媒ラインL4と、天然ガス供給工程を構成する液化ラインFLとを具備する。これら天然ガス供給工程および冷媒供給工程で使用する各ラインは、例えば、その内部にそれぞれの流体を挿通することが可能な、適切な配管で構成される。
【0053】
液化ラインFLは、上記ように、天然ガスGを熱交換器4に導入し、この熱交換器4で冷却され、液化した液化天然ガスFを外部に向けて供給する。
すなわち、図示例の液化ラインFLは、入口側が天然ガス源6に接続され、経路中に設けられた予備冷却器7から熱交換器4に向けて挿通され、出口側が液化天然ガスFを貯留する貯槽8に接続されている。
【0054】
第1冷媒ラインL1は、上記ように、圧縮機2で圧縮された冷媒-1を熱交換器4に導入し、さらにこの熱交換器4を通過した冷媒-1を減圧器5に導入する。
すなわち、図示例の第1冷媒ラインL1は、入口側が圧縮機2の最終段である圧縮段2Dに冷却器21Dを介して接続している。そして、制動ブロワー31および冷却器32を経て熱交換器4を挿通する。熱交換器4を通過した第1冷媒ラインL1の出口側は減圧器5の入口に接続されている。
【0055】
第2冷媒ラインL2は、
図1中に示すように、減圧器5で減圧された冷媒-2を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過した冷媒-2を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目である圧縮段2B以降に導入する。
すなわち、図示例の第2冷媒ラインL2の一端側は、減圧器5の出口に接続される。第二冷媒ラインL2は、熱交換器4を挿通する。その他端は圧縮機2における2段目の圧縮段2Bの入口に接続されている。
【0056】
第3冷媒ラインL3は、
図1中に示すように、第1冷媒ラインL1の分岐点Pから分岐し、冷媒-1の少なくとも一部を膨張タービン3に導入する。
すなわち、図示例の第3冷媒ラインL3の一端側は、熱交換器4内に挿通された第1冷媒ラインL1の経路中に接続され、他端側が膨張タービン3の入口側に接続されている。
【0057】
第4冷媒ラインL4は、
図1中に示すように、膨張タービン3で膨張した冷媒-3を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過した冷媒-3を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の初段の圧縮段2Aに導入する。
すなわち、図示例の第4冷媒ラインL4の一端側は、膨張タービン3の出口に接続される。第4冷媒ラインL4は、熱交換器4を挿通する。その他端側は、圧縮機2における2段目の圧縮段2Bの入口に接続されている。
【0058】
本実施形態の天然ガス液化装置10においては、液化ラインFLによって天然ガスGを熱交換器4に導入する前に、天然ガスGを気化タイプの冷媒によって予め冷却する予備冷却器7が備えられていることが好ましい。
図1に示す例においては、予備冷却器7は、液化ラインFLの経路上における熱交換器4の入口側に設けられている。このように、予備冷却器7を備えることで、液化ガスGを予め所定温度以下まで冷却した状態で熱交換器4に導入できる。このため、熱交換器4における天然ガスGの液化効率が向上する効果が得られる。
予備冷却器7としては、特に限定されないが、例えば、フロン冷凍機を採用することが可能である。
【0059】
本実施形態の天然ガス液化装置10によれば、上記構成を備えることにより、詳細は後述するが、特に、膨張タービンの入口の圧力が比較的低い範囲において消費動力を低減できる。これにより、熱交換器として、低圧仕様ながら伝熱性能の高いタイプ、具体的にはアルミプレートフィン式のものを採用できる。このため、熱交換器の性能向上と小型化が可能になり、また、装置全体の小型化も可能となるものである。
【0060】
<天然ガス液化方法>
以下に、本実施形態の天然ガス液化方法について、
図1を参照しながら説明する。
本実施形態においては、上述したような本実施形態の天然ガス液化装置10を用いて天然ガス10を液化する方法について説明する。
【0061】
本実施形態の天然ガス液化方法は、天然ガスGを冷却して液化することで液化天然ガス(LNG)Fを製造する方法である。
具体的には、本実施形態の天然ガス液化方法は、天然ガスGを熱交換器4に導入し、この熱交換器4で冷却されて液化した液化天然ガス(LNG)Fを外部に供給する天然ガス供給工程と、熱交換器4に導入された天然ガスGを冷却するための主に不燃性ガスを含有する冷媒を熱交換器4に導入する冷媒供給工程とを備える。
【0062】
そして、冷媒供給工程は、燃性ガスを複数の圧縮段2A~2Dを有する圧縮機2で圧縮して得た冷媒-1を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過した冷媒-1を減圧器5に導入する冷媒供給工程aと、減圧器5による減圧・膨張によって降温され、少なくとも一部が液相とされた冷媒-2を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過して昇温した冷媒-2を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目の圧縮段2B以降に導入する冷媒供給工程bと、冷媒供給工程aにおける冷媒-1の少なくとも一部を膨張タービン3に導入する冷媒供給工程cと、膨張タービン3で膨張して降圧および降温された冷媒-3を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過して昇温された冷媒-3を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の初段の圧縮段2Aに導入する冷媒供給工程dとを有する。
【0063】
すなわち、本実施形態の天然ガス液化方法においては、冷媒供給工程aが上述した天然ガス液化装置10の第1冷媒ラインL1に対応する。冷媒供給工程bが第2冷媒ラインL2に対応する。冷媒供給工程cが第3冷媒ラインL3に対応する。冷媒供給工程dが第4冷媒ラインL4に対応する。
【0064】
本実施形態の天然ガス液化方法においては、天然ガス供給工程における天然ガス、および冷媒供給工程を構成する冷媒供給工程a~冷媒供給工程dにおける冷媒少なくとも一部が、熱交換器4内を通過する。これにより、熱交換器4内において、冷媒-2および冷媒-3により、冷媒-1を冷却する。さらには、熱交換器4内において、冷媒-2および冷媒-3により、天然ガスGを冷却する。
【0065】
以下に、本実施形態の天然ガス液化方法における具体的な手順について詳述する。
まず、冷媒供給工程aにおいて、冷媒源1から不燃性ガスである窒素を圧縮機2に供給する。そして、複数の圧縮段2A~2Dを有する圧縮機2において、窒素を多段階で圧縮することで、最終段である圧縮段2Dの出口側から得られる冷媒-1を、第1冷媒ラインL1を介して熱交換器4に導入する。
その後、熱交換器4を通過した冷媒-1を、第1冷媒ラインL1を介して減圧器5に導入する。
【0066】
冷媒供給工程bにおいては、減圧器5による減圧・膨張によって降温され、少なくとも一部が液相とされた冷媒-2を、第2冷媒ラインL2を介して熱交換器4に導入する。そして、熱交換器4を通過して昇温した冷媒-2を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目以降、
図1に示す例では圧縮段2Bの入口に導入する。
【0067】
冷媒供給工程cにおいては、上記冷媒供給工程aで冷媒-1を流す第1冷媒ラインL1の分岐点Pから分岐する第3冷媒ラインL3を介して、冷媒-1の少なくとも一部を膨張タービン3に導入する。
【0068】
冷媒供給工程dにおいては、膨張タービン3で膨張して降圧および降温された冷媒-3を、第4冷媒ラインL4を介して熱交換器4に導入する。そして、熱交換器4を通過して昇温された冷媒-3を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の初段の圧縮段2Aに導入する。
【0069】
また、本実施形態では、天然ガス供給工程において、上記各冷媒供給工程a~(d)とほぼ同時に、天然ガス源6から供給される天然ガスGを、天然ガスラインFLを介して熱交換器4に導入し、冷却・液化する。
そして、熱交換器4で液化した液化天然ガス(LNG)Fを、液化ラインFLを介して貯槽8に導入する。
【0070】
本実施形態の天然ガス液化方法においては、冷媒供給工程において上記各冷媒供給工程a~冷媒供給工程dを実施することにより、以下に説明するような作用が得られる。
まず、冷媒供給工程cにおいて、第1冷媒ラインL1を流通する冷媒-1の少なくとも一部を、第3冷媒ラインL3によって概ね中間的な温度で取り出して膨張タービン3で膨張させることで、低温とされた冷媒-3が得られる。そして、熱交換器4内における熱交換において、主として冷媒-3と天然ガスGとを熱交換し、冷却された天然ガスGが液化することで液化天然ガスFが得られる。
また、天然ガスGとの熱交換で概ね常温に近い温度まで昇温した冷媒-3は、圧縮機2の初段の圧縮段2Aの入口に戻され、再び圧縮される。
【0071】
また、熱交換器4内においては、第3冷媒ラインL3によって少なくとも一部が取り出された後の残りの冷媒-1を、冷媒-2および冷媒-3と熱交換させることにより、上記中間的な温度よりも低い温度に冷却する。そして、上記中間的な温度よりも低い温度とされた冷媒-1を減圧器5で膨張させることにより、膨張タービン3によって膨張して降圧および降温された冷媒-3に比べて高圧で、しかも温度が低く、少なくとも一部が液化した冷媒-2が得られる。
【0072】
また、熱交換器4内においては、上記冷媒-2および冷媒-3と、天然ガスGおよび圧縮機2で圧縮された後の冷媒-1との間で熱交換を行い、これら天然ガスGおよび冷媒-1を冷却する。そして、この熱交換によって気化し、概ね常温となった冷媒-3を、圧縮機2の2段目の圧縮段2B以降の入口に戻す。
【0073】
本実施形態においては、膨張タービン3から第4冷媒ラインL4を介して熱交換器4へ戻される冷媒-3の圧力は、膨張タービン3によって大きく低下し、減圧器5で減圧された冷媒-2の圧力よりも低い。そこで、本実施形態では、熱交換器4内において、天然ガスGおよび冷媒-1の冷却に冷媒-3を利用した後、この冷媒-3を圧縮機2の初段の圧縮段2Aに戻し、複数の圧縮段2A~2Dによって十分に圧縮する。
一方、減圧器5によって減圧されて熱交換器4内に戻される冷媒-2は、圧力が冷媒-3よりも高いので、天然ガスGおよび冷媒-1との熱交換で冷却に利用した後、概ね常温の状態で、圧縮機2の2段目以降の圧縮段(図示例では圧縮段2B)に導入する。
これにより、従来のように(
図3も参照)、冷媒系統において熱交換器を通過した冷媒の全てを圧縮機の初段に導入する場合に比べ、圧縮機の消費動力、すなわち装置全体の消費動力を低減することが可能になる。
【0074】
すなわち、後述の実施例の欄で詳しく説明するが、本実施形態の天然ガス液化方法においては、例えば、JT弁を具備する減圧器5の出口(
図1中の(viii))の圧力を1.3MPaに保持しながら、膨張タービン3の出口(同(vi))の圧力を下げることができる。これにより、圧縮機2の出口(同(iii))の圧力を下げたときに膨張タービン3の膨張比が小さくなり、流量が増加するという問題を改善できる。さらに、減圧器5で減圧されて、熱交換器4を通過した低圧の冷媒-2を、不必要に圧縮するという無駄な動力を必要としない。これにより、例えば、実使用上の理由により、圧縮機2の出口の圧力を、消費動力が最小となる圧力よりも低い圧力で設計した場合であっても、従来の方法に比べて大幅に消費動力を改善することが可能になる。
【0075】
これに対して、従来の技術(
図3も参照)では、膨張タービン103の出口の圧力を下げると減圧器102の出口の圧力も同時に下がるので、圧力を下げるほど損失が大きくなる。
すなわち、後述の実施例で説明するが、冷却性能の向上のみに着目して高い圧力で設計すれば、本実施形態と従来技術とに冷却性能の大きな差はない。しかしながら、より現実的な実使用環境に着目して、低い圧力で設計する場合は、本実施形態に係る構成の方が、より小型で安価であるとともに、冷却性能にも優れた天然ガス液化装置を実現できる。
【0076】
本実施形態の天然ガス液化方法においては、
図1中に(v)で示した、冷媒供給工程cにおける、膨張タービン3の入口側の圧力が9MPa未満であることが好ましい。また、比較的低い冷媒圧力の範囲において消費動力を低減する観点からは、膨張タービン3の入口側の圧力は、6~8MPaが好ましく、7~7.5MPaがより好ましい。
【0077】
本実施形態の天然ガス液化方法においては、冷媒供給工程aにおいて、圧縮機2によって多段で圧縮された冷媒-1を、さらに追加圧縮することがより好ましい。
図1に示す例では、上述した制動ブロワー31により、冷媒-1を追加圧縮した後、熱交換器4に導入している。このように、冷媒-1を、膨張タービン3で発生する動力を利用してさらに追加圧縮することで、圧縮機2の消費動力を増やすことなく、より高い圧力で熱交換器4に導入できる。
【0078】
また、本実施形態においては、天然ガス供給工程では、熱交換器4に導入される前の天然ガスGを、気化タイプの冷媒によって予備冷却することがより好ましい。
図1に示す例では、上述したフロン冷凍機等からなる予備冷却器7により、天然ガスGを予備冷却した後、熱交換器4に導入している。このように、天然ガスGを予備冷却することで、上述したように、予め、液化ガスGを所定温度以下まで冷却した状態で熱交換器4に導入できるので、熱交換器4における天然ガスGの液化効率が向上する。
【0079】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の天然ガス液化装置10によれば、減圧器5で減圧されて熱交換器4を通過した冷媒-2を、複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目の圧縮段2B以降に導入する第2冷媒ラインL2と、膨張タービン3で膨張して熱交換器4を通過した冷媒-3を、圧縮機2における初段の圧縮段2Aに導入する第4冷媒ラインとを備えた構成を採用している。すなわち、熱交換器4から比較的低圧で戻される冷媒-3は、複数の圧縮段2A~2Dの内の初段の圧縮段2Aに導入される。一方、熱交換器4から比較的高圧で戻される冷媒-2は、複数の圧縮段2A~2Dの2段目の圧縮段2B以降に導入される。このため、特に、膨張タービンの入口の圧力が比較的低い範囲において消費動力を低減することが可能になる。これにより、熱交換器4として、低圧仕様ながら伝熱性能の高いアルミプレートフィン等のタイプのものを採用できるので、熱交換器4の性能向上と小型化とが可能になり、また、装置全体の小型化およびコストの低減も可能になる。
また、後述の実施例の欄([評価結果]、実施例2(表3))で詳しく説明するが、冷媒全体の流量を100%とした場合、つまり、圧縮段2Bを流れる冷媒の流量を100%とした場合、第2冷媒ラインL2中の冷媒-2の流量が10%未満と少量となる。このため、第4冷媒ラインL4からの圧縮段2Aへの冷媒-3の流量は、冷媒全体の流量を100%とした場合、90%程度となる。このように、各々の圧縮機2A~2D間の流量差が小さくなり、これらの圧縮段2A~2Dを一体の圧縮機2として設計するのが容易になる。
さらに、減圧器5に減圧弁を使用した場合には、第2冷媒ラインL2の流量が少ない小規模な装置にも適用可能となる。
【0080】
また、本実施形態の天然ガス液化方法によれば、冷媒供給工程が、減圧器5による減圧・膨張によって降温され、かつ、少なくとも一部が液相とされた冷媒-2を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過して昇温した冷媒-2を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目の圧縮段2B以降に導入する冷媒供給工程bと、膨張タービン3で膨張して降圧および降温された冷媒-3を熱交換器4に導入し、この熱交換器4を通過して昇温された冷媒-3を、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の初段の圧縮段2Aに導入する冷媒供給工程dとを有する方法を採用している。これにより、上記同様、熱交換器4から比較的低圧で戻される冷媒-3が初段の圧縮段2Aに導入される。一方、熱交換器4から比較的高圧で戻される冷媒-2は2段目の圧縮段2B以降に導入されるので、膨張タービン3の入口の圧力が比較的低い範囲において消費動力を低減することが可能になる。これにより、使用する装置の小型化が可能になることに加え、運転コストの低減も可能になる。
【0081】
<その他の形態>
本発明に係る天然ガス液化装置および天然ガス液化方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0082】
例えば、
図1に示す例の圧縮機2は、圧縮段2A~2Dの計4段の圧縮段を備えているが、圧縮段数はこれには限定されず、天然ガス液化装置の冷却性能等を勘案しながら、例えば、計2段としてもよいし、計5段以上としても構わない。
また、圧縮機2において冷媒-2が導入される位置についても、図示例のような2段目の圧縮段2Bの入口には限定されず、冷媒-2の圧力を勘案しながら、例えば、3段目の圧縮段3Cの入口であってもよい。
【0083】
また、
図1では、第1冷媒ラインL1の経路中に制動ブロワー31および冷却器32が設けられた例を示しているが、圧縮機2における冷媒-1の圧縮が十分な場合には、これらは省略することも可能である。
【0084】
また、本実施形態では、熱交換器4で液化した液化天然ガス(LNG)Fを、液化ラインFLを介して貯槽8に導入して貯留する例を説明しているが、これには限定されない。例えば、液化天然ガス(LNG)Fを、液化ラインFLを介して、装置外部のプラント等に向けて直接供給する構成を採用することも可能である。
【0085】
さらに、
図4に示す他の実施形態によれば、少ない追加コストで更なる効果を得ることも可能である。以下、本発明を適用した他の実施形態である天然ガス液化装置及び天然ガス液化方法について、
図1及び
図4を適宜参照しながら説明する。
【0086】
図1が開示する天然ガスの液化装置および天然ガスの液化方法では熱交換器4は一体型であるのに対して、
図4の天然ガスの液化装置および天然ガスの液化方法では、熱交換器4を、熱交換器4A~4Dに分割している。分割すると熱交換器の数が増えて連絡配管が必要となる点はコスト増加の要因となる。しかしながら、膨張タービン3で膨張した冷媒-3を導入する熱交換器4Bの温度より低温の熱交換器4Cおよび4Dは、それより高温の熱交換器4Aおよび4Bに比べて流体数が少なく、全体が低温で流体の密度が大きい。このため、流路の断面積を小さくできる。熱交換器を分割することで熱交換器の体積の合計を一体型よりも小さくすることが可能である。
【0087】
また、減圧器5から熱交換器4Dに導入される冷媒-2及び減圧器5´から熱交換器4Cに導入される冷媒-2´は気液二相流となり得るので、熱交換器の性能低下を避けるには流路内の気液の分配を均一にすることが重要である。この課題に対しても、膨張タービン3で膨張した冷媒-3を導入する位置を境に熱交換器を分割し、それより低温の熱交換器4Cおよび4Dの流路の断面積を小さくすることが有効な対策となる。
【0088】
さらに、例えば熱交換器4Aと4Bを分割し、各熱交換器を冷媒の流れ方向における水平方向に並べて配置することで、それらを収納する保冷箱の高さを抑えたり、複数の小型の保冷箱に分割することが容易となる。これにより、装置をユニット化して設置工事を短縮したり、移設が容易な構成とすることが可能である。
【0089】
さらに、減圧器5および減圧器5´を設置し、それぞれ異なる圧力の冷媒-2および冷媒-2´を、第2冷媒ラインL2および第2冷媒ラインL2´により、圧縮機2に備えられる複数の圧縮段2A~2Dの内の2段目である圧縮段2B以降のそれぞれ異なる圧縮段に導入してもよい。後述の実施例の欄で詳しく説明するが、このとき、第2冷媒ラインL2を通る冷媒-2は、
図1の実施形態と同じく天然ガスを-160℃に冷却するために1.3MPaである。これに対して、より高温の領域を冷却するもう一つの第2冷媒ラインL2´を通る冷媒-2´の沸点は、冷媒-2より高くて構わないので、圧力を1.3MPaより高くできる。
したがって、
図4に示す他の実施形態の天然ガスの液化装置および天然ガスの液化方法によれば、冷媒の一部を1.3MPaより高い圧力で圧縮段に戻せるので、全量を1.3MPaで戻す
図1の実施形態に比べて、さらに消費動力を低減することが可能である。
【0090】
なお、熱交換器の分割と、第2冷媒ラインの複数化とは、それぞれ個別に採用できる。また、さらに熱交換器の分割数を増やして個々のユニットをより小型化することも可能である。また、第2冷媒ラインを3本に増やして、より消費動力を低減することも可能である。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の天然ガス液化装置および天然ガス液化方法について、実施例を示してより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0092】
[参考例]
まず、参考例として、
図3に示す従来の天然ガス液化装置100を用いて、天然ガスを冷却・液化してLNGを製造した。参考例の天然ガス液化装置100においては、減圧器105としてJT弁を用いた。圧縮機102として、計4段の圧縮段102A~102Dを有し、各圧縮段102A~102Dのそれぞれの出口側に冷却器121A~121Dが備えられたものを用いた。また、冷媒として窒素ガスを用いた。
【0093】
膨張タービン103の出口の圧力を1.3MPaとした。天然ガス液化装置100構成上明らかなように、減圧器105の出口の圧力も1.3MPaとなる。
また、天然ガスを液化させる際の条件である膨張タービン103の入口の圧力を変更して、
図3中の各位置(i)~(x)を流れる流体の流量、圧力及び温度と、圧縮機102の消費動力(kw)を測定した。具体的には、該圧力が11.1MPaの状態を下記表1に、該圧力が7.2MPaの状態を下記表2に示した。
【0094】
[実施例1および2]
実施例1および2では、
図1に示す天然ガス液化装置10を用いて、天然ガスを冷却・液化してLNGを製造した。本実施例で用いた天然ガス液化装置10においては、減圧器5としてJT弁を使用した。圧縮機2として、計4段の圧縮段2A~2Dを有し、各圧縮段2A~2Dのそれぞれの出口側に冷却器21A~21Dが備えられたものを用いた。また、本実施例においても、冷媒として窒素ガスを用いた。
【0095】
実施例1においては、減圧器5の出口の圧力は、上記参考例と同じ1.3MPaとし、膨張タービン3の出口の圧力を0.9MPaとした。
このような条件で天然ガスを液化した際の膨張タービン103の出口の圧力を
図2に示す。
実施例2においては、減圧器5の出口の圧力は、上記参考例と同じ1.3MPaとし、膨張タービン3の出口の圧力を0.6MPaとし、入口圧力を7.2MPa(参考例と同じ圧力)とした。上記比較例と同様に、各ライン(i)~(x)を流れる流体の流量、圧力及び温度と、圧縮機2の消費動力(kw)を測定した。結果を下記表3に示す。
【0096】
[比較例1および2]
比較例1および2として、
図3に示す従来の天然ガス液化装置100を用いて、上記実施例と同様にして天然ガスを冷却・液化してLNGを製造した。
比較例1および2で用いた天然ガス液化装置100においても、減圧器105としてJT弁を用いた。圧縮機102として、計4段の圧縮段102A~102Dを有し、各圧縮段102A~102Dのそれぞれの出口側に冷却器121A~121Dが備えられたものを用いた。また、比較例1および2においても、冷媒として窒素ガスを用いた。
【0097】
比較例1においては、膨張タービン103の出口の圧力を0.9MPaとし、比較例2においては、該圧力を0.6MPaとした。
また、参考例と同様に、天然ガス液化装置100構成上、比較例1および2においては、減圧器105の出口の圧力は、膨張タービン103の出口の圧力と同じとなる。
このような条件で天然ガスを液化した際の膨張タービン103の出口の圧力を
図2に示す。
比較例2においては、膨張タービン103の入口の圧力を、7.2MPa(参考例および実施例2と同じ圧力)とした。
図3における各位置(i)~(x)を流れる流体の流量、圧力及び温度と、圧縮機2の消費動力(kw)を測定した。結果を下記表4に示す。
【0098】
[実施例3]
実施例3として、
図4に示す天然ガス液化装置10を用いて、以下に示す条件及び手順で天然ガスを冷却・液化してLNGを製造した。
本実施例で用いた天然ガス液化装置10においては、減圧器5に加えて減圧器5´を備え、いずれもJT弁を使用した。また、圧縮機2としては、計4段の圧縮段2A~2Dを有し、各圧縮段2A~2Dのそれぞれの出口側に冷却器21A~21Dが備えられたものを用いた。また、本実施例においても、冷媒として窒素ガスを用いた。
【0099】
実施例3においては、減圧器5の出口の圧力は1.3MPaとし、減圧器5´の出口の圧力は2.6MPaとした。また、膨張タービン3の入口の圧力は7.2MPa、出口の圧力は0.6MPaとした。
すなわち、減圧器5及び膨張タービン3の入口及び出口の圧力を実施例2と同じとした。実施例3における各位置(i)~(xiii)を流れる流体の流量、圧力及び温度と、圧縮機2の消費動力(kw)を測定した。その結果を下記表5中に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
[表1~5の説明]
表1は、従来の構成の天然ガス液化装置100を用いた参考例の液化プロセスにおける諸条件下での各ラインを流れる流体の流量、圧力及び温度と、圧縮機102の消費動力(kw)を示す。
表1は、従来の構成の天然ガス液化装置100を用いた参考例の液化プロセスにおいて、消費動力を最小化した例の条件を示している。
【0106】
表2は、従来の天然ガス液化装置100を用いた参考例の液化プロセスにおいて、膨張タービン出口の圧力(
図3中の(vi))は表1に記載の参考例と同じままで、膨張タービン入口(
図3中の(v))の圧力を下げた例の条件を示している。
【0107】
表3は、本発明に係る天然ガス液化装置10を用いた実施例2の液化プロセスにおいて、膨張タービン3の入口(
図1中の(v))の圧力を、表2に示した参考例と同じ値にした例の条件を示している。
【0108】
表4は、天然ガス液化装置100を用いた比較例2の液化プロセスにおいて、膨張タービンの入口(
図3中の(v))および出口(
図3中の(vi))の圧力を、表3に示した実施例2と同じ値にした例の条件を示している。
【0109】
表5は、
図4に示す他の実施形態による天然ガス液化装置10を用いた実施例3の液化プロセスにおいて、膨張タービン3の入口(
図4中の(v))及び出口(
図4中の(vi))の圧力、及び減圧器5の入口(
図4中の(vii))及び出口(
図4中の(viii))の圧力を、表3に示した実施例2と同じ値にした例の条件を示している。
【0110】
また、表1、2、4中における(i)~(ix)の各々は、それぞれ、
図3中の(i)~(ix)の位置に対応する。表3中における(i)~(x)の各々は、それぞれ、
図1中の(i)~(x)の位置に対応する。表5中における(i)~(xiii)の各々は、それぞれ、
図4中の(i)~(xiii)の位置に対応する。
なお、天然ガス系統(液化ライン)における熱交換器の入口(
図1、3、および4中の(i))および出口(
図1、3、および4中の(ii))の条件は、各実施例(
図1および
図4)、各比較例および参考例(
図3)の何れにおいても同じである。
【0111】
[評価結果]
(参考例(表1))
表1に示す参考例(膨張タービン入口圧力11.1MPa)の条件では、上記の通り、従来の液化プロセスを用いて消費動力が最も小さい。表1中に示すように、参考例においては、従来の構成の天然ガス液化装置100を用いた液化プロセスにおいて、減圧器105の出口(
図3中の(viii))の圧力は、天然ガスを-163℃に冷却できるように、窒素(冷媒)の沸点が-165℃となる1.3MPaとした。
表1に示すように、参考例では、圧縮機102の出口(
図3中の(iii))の圧力を6.1MPa、膨張タービン103の入口(
図3中の(v))の圧力を11.1MPaまで上げたとき、圧縮機102の消費動力は4660kwとなった。
【0112】
ここで、膨張タービンの入口温度を高くすると、膨張タービンの入口と出口でのエンタルピー差が大きくなり、膨張タービンの流量が減少する。一方、出口温度が高くなるので、その温度から-163℃まで冷却するための熱量が増加し、減圧器の流量は増加する。また、熱交換器における冷却曲線と加熱曲線とが近付き、温度差が小さくなる。
このような、膨張タービンの入口温度に対する、膨張タービンと減圧器の流量の相反する変化により、合計の流量、すなわち圧縮機の消費動力は、所定の入口温度において極小となる。
表1中に示した参考例における圧力では、熱交換器の温度差が確保できる範囲で最も高い入口温度である-29℃において、消費動力が極小となった。これに基づき、以下に示す参考例(表2)、各実施例および各比較例の評価結果においては、それぞれの圧力で圧縮機の消費動力が極小となるように膨張タービンの入口温度を決めて装置を稼働させた結果を説明する。
【0113】
また、それぞれの例において、圧縮機の流量、入口と出口の圧力および消費動力は、膨張タービンおよび減圧器の条件を決めると一意に算出される値であり、任意に選択できない。すなわち、圧縮機の入口の圧力は膨張タービンおよび減圧器の出口の圧力で決まる。圧縮機の流量は、そのときの膨張タービンおよび減圧器の条件において天然ガスを液化できる値により決まる。圧縮機の出口の圧力、つまり制動ブロワーの入口の圧力は、そのときに膨張タービンで発生する動力によって制動ブロワーで圧縮できる値に決まる。消費動力は、これらの各条件から算出される。
なお、圧縮機および膨張タービンの効率、および各経路の圧力損失は、全ての例で同じとした。
【0114】
(参考例(表2))
表2に示す参考例(膨張タービン入口圧力7.2MPa)は、従来の構成の天然ガス液化装置100を用いた液化プロセスにおいて、減圧器105の出口(
図3中の(viii))の圧力は表1に示した参考例と同じ1.3MPaのままで、膨張タービン103の入口(
図3中の(v))の圧力を7.2MPaに下げた例である。
【0115】
表2に示す参考例では、表1に示した参考例の場合と比べて、圧縮機102の出口の設計圧力を低くすることが可能になり、熱交換器104の設計圧力も低くできるので、機器の小型化の可能性も高まる。しかしながら、表2に示す参考例の場合、膨張タービン103の膨張比が小さくなり、流量が増加する。また、膨張タービン103の出口(
図3の(vi))の温度が高くなるので、この温度から-163℃まで冷却するための熱量が増加するため、減圧弁105における流量も増加する。このため、表2に示す参考例においては、圧縮機102の消費動力が4970kwに増大する結果となった。
【0116】
(実施例2(表3))
実施例2は、本発明に係る天然ガス液化装置10を用いた液化プロセスにおいて、膨張タービンの出口の圧力(
図1の(vi))を0.6MPaとした例であり、表3に示すように、膨張タービンの入口の圧力(
図1の(v))を参考例の表2と同じ7.2MPaに設定している。このとき、表3中に示すように、圧縮機2の出口(
図1の(iii))の圧力が3.6MPa、膨張タービン3の入口(同(v))の圧力が7.2MPaと、表2に示す参考例と同等又はそれ以下の圧力である。これにより、上記同様、機器選定の自由度が高く、アルミプレートフィン式等の高効率の熱交換器を採用でき、機器の小型化が可能であることが確認された。また、消費動力が、表2に示す参考例に対して2.0%減の4870kWに改善されているも確認された。
【0117】
表3に示す実施例2と、表2に示す参考例とは、減圧器5の出口(
図1の(viii))の圧力が1.3MPaという点では同じである。表2に示す参考例では、装置の構造上、膨張タービン3の出口(
図1の(vi))の圧力も1.3MPaになるのに対して、実施例2では膨張タービン3の出口(
図1の(vi))の圧力を0.6MPaに下げることができる点で相違する。このため、実施例2では膨張比を大きくして流量を減少させることができる。また、実施例2では、膨張タービン3の出口温度が低下するので、減圧器5を出た冷媒で冷却する熱量が減少し、流量も減少している。
【0118】
実施例2では、膨張タービン3を出た冷媒(窒素)は、圧縮機2で0.6MPaから3.6MPaに圧縮されるので、表2に示す参考例の場合に比べて膨張タービンの冷媒を圧縮するための圧縮比は大きくなるものの、流量は減少している。実施例2においては、減圧器5の出口における冷媒の圧力は参考例と同じなので、減圧器の冷媒を圧縮するための圧縮比は表2と同じで、流量は減少している。実施例2では、これらの総合的な作用により、消費動力が低減されている。
また、実施例2においては、減圧器5から圧縮機2へ戻る流量(
図1の(x))が少量である。圧縮段2Aの流量(
図1の(ix))は、圧縮段2B~2Dの流量(
図1の(iii))の93%程度を占めるので、各圧縮段2A~2D間の差が小さく、これらの圧縮段2A~2Dを一体の圧縮機2として容易に設計できる。
さらに、減圧器5がJT弁なので、流量が少ない小規模な装置にも適用できる。
【0119】
一方、実施例2においては、表1に示した参考例の場合と比べると、圧縮機から減圧器までの冷媒の圧力が低いことによる、熱交換器の内部における冷媒(窒素)の性質の違いから、消費動力は少し大きめとなっている。しかしながら、実施例2の場合、圧縮機102の出口の設計圧力を低くでき、熱交換器4の設計圧力も低くできるので、高効率の熱交換器を採用できるメリットがあり、かつ、同じメリットを得られる表2に示す参考例に比べると消費動力が小さい。
したがって、実施例2においては、比較的低い冷媒圧力の範囲において消費動力を低減することができ、しかも、装置の小型化および優れた冷却性能の両方が実現できることが明らかであることから、上記参考例に対して優位性を有している。
【0120】
(比較例2(表4))
表4に示す比較例2は、従来の構成の天然ガス液化装置100を用いた液化プロセスにおいて、膨張タービンの出口の圧力(
図3の(vi))を、表3に示す実施例2と同じ0.6MPaとした例である。
比較例2では、表4にも示すように、膨張タービンの入口の圧力(
図3の(v))を、実施例2と同じ7.2MPaに設定している。
表4中に示すように、比較例2においては、冷媒(窒素)の流量は、表3に示した実施例2における流量に近い値であるが、圧縮機102の消費動力は4960kwと、表3に示す値に比べて大きい。これは、比較例2では、減圧器105の出口における冷媒圧力が0.6MPaと、実施例2の1.3MPaに比べて低いことで、減圧器105から圧縮機102に送り込まれる冷媒を圧縮する消費動力が増大するためである。
【0121】
(膨張タービンの入口圧力と圧縮機の消費動力との関係)
図2のグラフ中に示す参考例のように、圧力を制限せずに最小の消費動力を追求した場合、上記表1に示したように、従来の液化プロセスを用いて膨張タービンの出口の圧力を1.3MPaとするのが最適である。
また、
図1に記載の本発明に係る構成と、
図3に記載の従来の構成とを比較することで明らかなように、本発明に係る液化プロセスを用いた場合においても、膨張タービンの出口の圧力を1.3MPaとすることで、理論的には表1と同じ低い消費動力が得られる。
【0122】
一方、実使用上の理由で冷媒の圧力を下げる場合、例えば、膨張タービンの入口圧力が9MPa又はそれ以下のときは、
図2のグラフ中の実施例1に示すように、本発明に係る天然ガス液化装置および方法を用い、膨張タービンの出口圧力を0.9MPaとすることで、参考例と同等またはそれ以下まで消費動力を低減できる。
さらに、例えば、膨張タービンの入口圧力を6MPa付近まで下げる場合には、表3に示す実施例2のように、膨張タービンの出口圧力を0.6MPaとすることで、参考例よりも、かつ、実施例1よりも消費動力を低減できる。
なお、膨張タービンの入口の圧力が9MPaより高い場合でも、本発明に係る液化プロセスを用いて、膨張タービンの出口の圧力を0.9~1.3MPaの範囲の適切な圧力とすれば、参考例と比べて消費動力を削減できることは、上記で説明した性質から明らかである。但し、消費動力の削減の程度が小さいこと、および装置の小型化のために冷媒圧力を低くして、なおかつ、消費動力を低減するという本発明の目的からは外れるため、詳しい説明や図示は省略する。
【0123】
また、
図2のグラフ中に示す実施例1と比較例1、および実施例2と比較例2を比較すると、膨張タービンの入口の圧力と出口の圧力とが同じである場合には、常に、本発明に係る実施例の方が、従来の液化プロセスによる比較例よりも消費動力が小さいことがわかる。これは、上記ように、比較例においては、膨張タービンの出口の圧力を下げるとJT弁の出口の圧力も不必要に下がるためである。
【0124】
また、表3に示す実施例2と、表5に示す実施例3とを比較すると、膨張タービンの入口の圧力と、出口の圧力とが同じである場合には、実施例3の方が消費動力が小さいことがわかる。実施例2では、減圧器から熱交換器を経て圧縮機へ戻る冷媒の全量が1.3MPaであるのに対して(表3の(x))、実施例3では減圧器を2つ備え、冷媒の一部を1.3MPaで(表5の(x))、残りを2.6MPaで(表5の(xiii))圧縮機へ戻している。これは、天然ガスを-160℃に冷却するためには、実施例3においても、冷媒の一部は実施例2と同じ1.3MPaに減圧するが、より高温領域の冷却のみに寄与する残りの冷媒の沸点はそれより高くて良いので、圧力を1.3MPaより高くできるためである。圧力が高いほど蒸発潜熱は小さいので、天然ガスを-160℃に冷却するために減圧器を通る冷媒の量は、実施例2(表3の(vii))より実施例3(表5の(vii)と(xi)の合計)の方が多い。しかし、冷媒の一部を1.3MPaより高い圧力で圧縮機へ戻す効果が大きく、実施例3は実施例2に比べてさらに消費動力を低減できる。
【0125】
なお、天然ガスは冷媒-3の温度より高い-50℃から-100℃の範囲で液化するので、この領域の冷却に多くの熱量が必要となる。これに対して、冷媒-3より低温の、減圧器により冷却される領域に必要な熱量は相対的に小さい。
したがって、特に小規模な装置では、この領域に減圧器を複数設ける方法と、より高い費用で減圧器の代わりにもう一つの膨張タービンを設けてより消費動力を低減する方法との効果の差は比較的小さいので、費用対効果の観点から前者も合理的な選択肢となり得る。
【0126】
[
図2の説明]
図2は、実施例1および2と、比較例1および2と、参考例とにおける、膨張タービンの入口側の圧力(
図1および
図3中の(v))と、圧縮機の消費動力との関係を示すグラフである。
実施例2の結果に示されるように、膨張タービンの出口側(
図1中の(vi))の圧力を0.6MPaと低圧に設定した場合には、入口側の圧力が概ね6MPa前後であるときの消費動力を、概ね4,900kw以下まで小さくできることがわかる。
実施例1の結果に示されるように、膨張タービンの出口側の圧力を0.9MPaと少し高めに設定した場合には、特に、入口側の圧力が概略7~9MPaであるときの消費動力が概ね4,800kw以下となり、消費動力を小さくできることがわかる。
【0127】
従来の装置・方法である参考例のように、膨張タービンの出口側の圧力を1.3MPaとやや高圧に設定した場合、入口側の圧力が概略9~10MPaであるときの消費動力は低めとなる。したがって、圧力仕様に制約がない場合には、従来の装置・方法であっても消費動力を低減することは可能である。しかしながら、本実施形態のように、特に、冷却性能を確保しながら熱交換器を小型化することを目的として、例えば、薄肉材料からなる熱交換器、具体的にはプレートフィン型熱交換器を用いる場合には、比較的低い冷媒圧力で運転することが求められる。このように、膨張タービンの入口側の圧力が比較的低い場合、すなわち、
図2のグラフ中に示す9MPa未満、特に、6MPa以上9MPa未満の範囲である場合においては、本実施形態の装置・方法は、何れも従来の装置・方法である、参考例、比較例1および比較例2に比べて低い消費動力での稼働が可能になることが明らかである。
【0128】
以上説明したような実施例の結果より、本発明に係る天然ガス液化装置および天然ガス液化方法が、比較的低い冷媒圧力の範囲において消費動力を低減することができ、しかも、装置の小型化および優れた冷却性能の両方が実現できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の天然ガス液化装置および天然ガス液化方法は、不燃性ガスを冷媒に用い、比較的低い冷媒圧力の範囲において、消費動力を低減することが可能となる。したがって、例えば、膨張タービンを1台のみ備える構成の小規模な天然ガス液化装置、およびそれを用いる液化方法において非常に好適である。
【符号の説明】
【0130】
10…天然ガス液化装置
1…窒素源
2…圧縮機
2A、2B、2C、2D…圧縮段(複数の圧縮段)
21A、21B、21C、21D…冷却器
3…膨張タービン
31…制動ブロワー
32…冷却器
4…熱交換器
5…減圧器
6…天然ガス供給源
7…予備冷却器
8…貯槽
L1…第1冷媒ライン
L2…第2冷媒ライン
L3…第3冷媒ライン
L4…第4冷媒ライン
FL…液化ライン
G…天然ガス
F…液化天然ガス(LNG)
P…分岐点(第1冷媒ライン)