(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法及び全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230217BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230217BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230217BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230217BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0562
H01M10/052
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020556327
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2019037138
(87)【国際公開番号】W WO2020202602
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019069402
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川橋 保大
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-187419(JP,A)
【文献】特開2018-063757(JP,A)
【文献】特開2017-065975(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061504(WO,A1)
【文献】特開2018-070419(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043669(WO,A1)
【文献】特開2018-024570(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088320(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/117027(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115547(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109546144(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109455772(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108615868(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108502937(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 10/0562
H01M 10/052
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、前記反応液中のpHを10.5~11.5、アンモニウムイオン濃度を5~25g/L、液温を50~65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む、
組成式が複合水酸化物であるNi
xCo
yMn
1-x-y(OH)
2
(式中、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)
で表され、平均粒子径D50が1.0~5.0μmであり、円形度が0.85~0.95である全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記晶析反応において、前記反応液を、反応槽内で単位体積当たりの撹拌所要動力を1.8~7.3kW/m
3として撹拌して反応させる請求項
1に記載の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法により製造された前駆体を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me)とリチウムの原子数との比(Li/Me)が0.98~1.05となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、
前記リチウム混合物を酸素雰囲気中、450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間で焼成する工程と、
を含む全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法及び全固体リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレべリング用といった大型用途におけるリチウム二次電池についても、高エネルギー密度、電池特性向上が求められている。
【0003】
ただ、リチウムイオン電池の場合は、電解液は有機化合物が大半であり、たとえ難燃性の化合物を用いたとしても火災に至る危険性が全くなくなるとは言いきれない。こうした液系リチウムイオン電池の代替候補として、電解質を固体とした全固体リチウムイオン電池が近年注目を集めている。
【0004】
また、非水系電解質二次電池の正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)で代表されるリチウムコバルト複合酸化物とともに、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)で代表されるリチウムニッケル複合酸化物、マンガン酸リチウム(LiMnO2)で代表されるリチウムマンガン複合酸化物等が広く用いられている。
【0005】
ところで、コバルト酸リチウムは、コバルトの埋蔵量が少ないため高価であり、かつ供給不安定で価格の変動も大きいコバルトを主成分として含有しているという問題点があった。このため、比較的安価なニッケルまたはマンガンを主成分として含有するリチウムニッケル複合酸化物またはリチウムマンガン複合酸化物がコストの観点から注目されている(特許文献1~3)。しかしながら、マンガン酸リチウムについては、熱安定性ではコバルト酸リチウムに比べて優れているものの、充放電容量が他の材料に比べ非常に小さく、かつ寿命を示す充放電サイクル特性も非常に短いことから、電池としての実用上の課題が多い。一方、ニッケル酸リチウムは、コバルト酸リチウムよりも大きな充放電容量を示すことから、安価で高エネルギー密度の電池を製造することができる正極活物質として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/115544号
【文献】特開2011-124086号公報
【文献】国際公開第2015/008582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発火、漏えい、爆発の恐れのある非水系電解液を使用しない全固体電池は、安全性は向上するものの、正極層での固体電解質と正極活物質との接触を良好にとることができず、電池性能が低下する場合があった。例えば、固体電解質と正極活物質との界面において、電気接触状態が不十分の場合には、電池の内部抵抗の増大や、電池として機能するための十分な容量を確保できない等の電池性能の低下を招く場合がある。そこで、固体電解質と正極活物質との接触を向上させるために、それぞれの粒子を小粒径化することで接触点を増やすことが考えられる。しかしながら、正極活物質を小粒径化することでタップ密度が低下してしまい、体積当たりのエネルギー密度が低下してしまう問題がある。
【0008】
そこで、本発明の実施形態は、全固体リチウムイオン電池に用いたときに優れた電池特性が得られる全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は一実施形態において、組成式がLiaNixCoyMn1-x-yO2
(式中、0.98≦a≦1.05、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)
で表され、平均粒子径D50が1.0~5.0μmであり、タップ密度が1.6~2.5g/ccであり、円形度が0.85~0.95である全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質である。
【0010】
本発明は、別の一実施形態において、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、前記反応液中のpHを10.5~11.5、アンモニウムイオン濃度を5~25g/L、液温を50~65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む、組成式が複合水酸化物であるNixCoyMn1-x-y(OH)2(式中、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)で表され、平均粒子径D50が1.0~5.0μmであり、円形度が0.85~0.95である全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法である。
【0011】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、前記晶析反応において、前記反応液を、反応槽内で単位体積当たりの撹拌所要動力を1.8~7.3kW/m3として撹拌して反応させる。
【0012】
本発明は、更に別の一実施形態において、本発明の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法により製造された前駆体を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me)とリチウムの原子数との比(Li/Me)が0.98~1.05となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、前記リチウム混合物を酸素雰囲気中、450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間で焼成する工程とを含む全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法である。
【0013】
本発明は、更に別の一実施形態において、正極層、負極層及び固体電解質層を備え、本発明の全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を前記正極層に備えた全固体リチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、全固体リチウムイオン電池に用いたときに優れた電池特性が得られる全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フラットディスクタービンの外観模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の構成)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質は、組成式がLiaNixCoyMn1-x-yO2
(式中、0.98≦a≦1.05、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)
で表される。
【0017】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質において、Liの組成が0.98未満では、リチウム量が不足して安定した結晶構造を保持しにくく、1.05を超えると当該正極活物質を用いて作製した全固体リチウムイオン電池の放電容量が低くなるおそれがある。
【0018】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の平均粒子径D50は1.0~5.0μmに制御されている。このような構成によれば、固体電解質と正極活物質との接触面積が大きくなり、正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が良好となる。当該平均粒子径D50は1.5μm以上であってもよく、2.5μm以上であってもよく、3.0μm以上であってもよい。また、当該平均粒子径D50は5.0μm以下であってもよく、4.5μm以下であってもよく、3.5μm以下であってもよい。
【0019】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質のタップ密度が1.6~2.5g/ccに制御されている。このような構成によれば、全固体リチウムイオン電池に用いたときに、全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の体積あたりにエネルギー密度が大きくなり、優れた電池容量及び電池容量維持率が得られる。当該タップ密度が1.8~2.5g/ccであるのが好ましく、2.0~2.5g/ccであるのがより好ましい。
【0020】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の円形度は0.85~0.95に制御されている。このような構成によれば、平均粒子径D50は1.0~5.0μmという小粒径であるにもかかわらず、タップ密度を1.6~2.5g/ccに制御することができる。この結果、固体電解質と正極活物質との接触面積が大きくなり、正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性を良好としながら、体積あたりにエネルギー密度が大きい全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を提供することができる。
【0021】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体は、組成式が複合水酸化物であるNixCoyMn1-x-y(OH)2(式中、0.8≦x≦1.0、0≦y≦0.20である。)で表される。前駆体の平均粒子径D50は1.0~5.0μmであり、円形度が0.85~0.95である。
【0022】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、反応液中のpHを10.5~11.5、アンモニウムイオン濃度を5~25g/L、液温を50~65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む。
【0023】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法は、このように反応液中のpH、アンモニウムイオン濃度、液温を一定の範囲内に制御しながら晶析反応させることを特徴としており、当該方法によって、平均粒子径D50が1.0~5.0μmであり、円形度が0.85~0.95である全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体を作製することができる。
【0024】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法においては、上述のように反応液中のpH、アンモニウムイオン濃度、液温を一定の範囲内に制御しながら晶析反応させるが、そのためには、例えば、(1)ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の混合水溶液、(2)アンモニア水、(3)アルカリ金属の塩基性水溶液の3つの原料を、反応槽に同時に少量ずつ連続供給して反応させる。一例を具体的に挙げると、10Lの反応槽に(1)ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の混合水溶液を0.60L/h、(2)アンモニア水を0.40L/h、(3)水酸化ナトリウムの水溶液を0.35L/hで同時に連続供給して晶析反応させてもよい。このように3つの原料を、反応槽に同時に少量ずつ連続供給して反応させることで、反応槽中の反応液のpHとアンモニア濃度の変動が良好に抑制され、反応液中のpHを10.5~11.5、アンモニウムイオン濃度を5~25g/Lに制御しやすくなる。
【0025】
上記(3)のアルカリ金属の塩基性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸塩等の水溶液であってもよい。また、当該炭酸塩の水溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液などの炭酸基の塩を用いた水溶液が挙げられる。
【0026】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法において、反応液中のpHを10.5~11.5に制御しながら晶析反応を行うが、pHが10.5未満であると反応液中の金属溶解度が高くなり、生成する前駆体の金属比率が低下して、調整した金属塩の組成比から逸脱するおそれがある。またpHが11.5を超えると、生成する前駆体の粒径が小さくなり過ぎて、正極活物質のタップ密度が低下し、体積当たりのエネルギー密度が低下するおそれがある。反応液中のpHは10.7以上であってもよく、10.9以上であってもよく、11.3以下であってもよく、11.1以下であってもよい。
【0027】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法において、反応液中のアンモニウムイオン濃度を5~25g/Lに制御しながら晶析反応を行うが、このような構成によれば、ニッケルとコバルトの溶解度が高くなり、高いpH領域でも粒子径を適宜調整することができる。また、生成する前駆体を使用して作製した全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質のタップ密度が高くなり、体積当たりのエネルギー密度を高くすることができる。反応液中のアンモニウムイオン濃度は10~22g/Lであることが好ましく、15~20g/Lであることが更により好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法において、反応液の液温を50~65℃に制御しながら晶析反応を行うが、液温が50℃未満であると生成する前駆体の粒径が大きくなり過ぎて、正極活物質にした際に、固体電解質との接触面積が不十分となるので抵抗が大きくなる。その結果、充放電時のリチウムの移動が阻害されレート特性が低下するおそれがあり、65℃を超えると装置に不具合が生じるおそれやエネルギーコストの面で不利となるおそれがある。
【0029】
晶析反応において、反応液を、反応槽内で単位体積当たりの撹拌所要動力を1.8~7.3kW/m3として撹拌して反応させるのが好ましい。このような構成によれば、平均粒子径が小さな前駆体水酸化物が析出して微粒子同士が凝集することで粗大な粒子が発生することを良好に抑制することができる。その結果、円形度が0.85~0.95である全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体を良好に製造することができる。
【0030】
上記単位体積当たりの撹拌所要動力は下記式1で求められる。
式1:単位体積当たりの撹拌所要動力(kW/m
3)=動力数Np×液比重(kg/m
3)×{回転数(rpm)/60}
3×{翼径(m)}
5/反応液の液量(m
3)
例として、撹拌翼の形状は、
図1に示すようなフラットディスクタービンを用いることができる。また、液比重は、純水の比重である988.07kg/m
3とし、翼径は80mm、反応液の液量は10Lで計算する。動力数Npは、事前に、水10Lを入れた反応槽にて800rpmの時の攪拌機の動力を実測して求めた「動力数Np=3.62」を用いる。上記の式1にて各回転数での単位体積当たりの撹拌所要動力を算出することができる。
【0031】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の前駆体の製造方法によれば、小粒径で円形度の高い前駆体を製造することができるため、当該前駆体を後述のように所定の条件で焼成することにより、円形度を高めることで、小粒径でありながらタップ密度の高い全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を製造することができる。その結果、全固体リチウムイオン電池に用いたときに優れた電池特性が得られる全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質が得られる。
【0032】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法は、上述の方法で製造された前駆体を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me)とリチウムの原子数との比(Li/Me)が0.98~1.05となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、リチウム混合物を酸素雰囲気中、450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間焼成する工程とを含む。当該リチウム混合物を680℃未満で焼成すると前駆体とリチウム化合物が十分に反応しないという問題が生じるおそれがあり、850℃超で焼成すると結晶構造からの酸素の脱離という問題が生じるおそれがある。
【0033】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質の製造方法によれば、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩、アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液を含有する水溶液を反応液とし、反応液中のpHを10.5~11.5、アンモニウムイオン濃度を5~25g/L、液温を40~65℃に制御しながら晶析反応を行うことで前駆体を作製しているため、結晶性が高く、焼成時に良好に反応する遷移金属の前駆体を作製することができる。そして、これをリチウム源とLi/(Ni+Co+Mn)=0.98~1.05のモル比で混合して450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間焼成することで、平均粒子径D50が1.0~5.0μmであり、タップ密度が1.6~2.5g/ccであり、円形度が0.85~0.95である全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を製造することができる。
【0034】
(全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を備えた全固体リチウムイオン電池)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を用いて正極層を形成し、固体電解質層、当該正極層及び負極層を備えた全固体リチウムイオン電池を作製することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0036】
以下に示すように、実施例1~13及び比較例1~6にてそれぞれ酸化物系正極活物質前駆体及び酸化物系正極活物質を作製し、その平均粒子径D50、円形度、タップ密度を測定し、さらに当該正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池の電池特性を測定した。また、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)及びイオンクロマトグラフ法により、正極活物質のLi、Ni、Mn、Coの含有量を測定した。その分析結果から、当該正極活物質をLiaNixCoyMn1-x-yの金属組成で表した場合のa、x、yを求めた。その結果、後述の表1の正極活物質作製条件で示す組成と同様であることを確認した。なお、表1のLi/Me比は上記式中のaに対応する。
【0037】
(実施例1~13及び比較例1~6)
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンの1.5moL/L水溶液をそれぞれ作製し、各水溶液を所定量秤量して、Ni:Co:Mnが表1のmоl%比となるように混合金属塩溶液を調整して、撹拌翼を容器内部に設置した反応槽へ送液した。
【0038】
次に、表1に示した単位体積当たりの撹拌所要動力で撹拌翼を稼働させながら、反応槽内の混合液のpH及びアンモニウムイオン濃度を表1に示す値となるように、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を前記反応槽内の混合液中に添加し、晶析法によってNi-Co-Mnの複合水酸化物を共沈させた。このときの反応槽内の混合液の温度は表1に示す反応温度となるようにウォータージャケットで保温した。
【0039】
上記単位体積当たりの撹拌所要動力は下記式1で算出した。
式1:単位体積当たりの撹拌所要動力(kW/)=動力数Np×液比重(kg/m
3)×{回転数(rpm)/60}
3×{翼径(m)}
5/反応液の液量(m
3)
撹拌翼の形状は、
図1に示すようなフラットディスクタービンを用いた。また、反応液の液比重は988.07kg/m
3、翼径は80mm、反応液の液量は10Lで計算し、動力数Npは、水10Lを入れた反応槽にて800rpmの時の、攪拌機の動力を実測して求めたNp=3.62を用いて、上記の式1にて各回転数での単位体積当たりの撹拌所要動力を算出した。
【0040】
また、反応で生成する共沈物の酸化を防止するために反応槽へ窒素ガスを導入した。反応槽へ導入するガスはヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどの酸化を促進しないガスであれば、上記の窒素ガスに限らず使用することができる。
【0041】
共沈した沈殿物を吸引・濾過した後、純水で水洗して、120℃、12時間の乾燥をした。このようにして作製されたNi-Co-Mn複合水酸化物粒子の組成:NixCoyMn1-x-y(OH)2、平均粒子径D50、円形度を測定した。
【0042】
次に、複合水酸化物粒子のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム(Li)原子数との比(Li/Me)が表1に示す値となるように水酸化リチウムと混合して、自動乳鉢で30分間、混合し、混合された粉体をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉で表1に示す焼成温度1で4時間焼成した後、さらに表1に示す焼成温度2で8時間、酸素雰囲気中で焼成し、酸化物系正極活物質を作製した。
【0043】
-平均粒子径D50-
酸化物系正極活物質前駆体及び酸化物系正極活物質の平均粒子径D50は、それぞれMicrotrac製MT3300EXIIにより測定した。
【0044】
-円形度-
酸化物系正極活物質前駆体及び酸化物系正極活物質の円形度は、Malvern社製の粒子画像分析装置「Morphologi G3」にて、取得した2万個以上の粒子の光学画像から、「solidity=0.93」のパラメータを用いてフィルタ処理を行い、測定した。
【0045】
-タップ密度-
酸化物系正極活物質のタップ密度は、セイシン企業製のタップデンサーを用いて求めた。具体的には、10ccのメスシリンダーに酸化物系正極活物質5gを投入し、当該タップデンサーに設置し、1500回上下振動し、メスシリンダーの目盛を読み取り、酸化物系正極活物質の体積と質量から算出した。
【0046】
-電池特性-
以下、全固体電池セルの作製はアルゴン雰囲気下のグローブボックス内にて行った。実施例1~13及び比較例1~6で得られた酸化物系正極活物質をそれぞれLiOC2H5とNb(OC2H5)5にて被覆した後に、酸素雰囲気にて400℃で1時間焼成し、ニオブ酸リチウムのアモルファス層にて表面を被覆した正極材活物質を作製した。
次に、当該表面を被覆した正極材活物質75mgと硫化物固体電解質材料Li3PS425mgとを混合し、正極合材を得た。
また、硫化物固体電解質材料Li3PS480mgを、ペレット成形機を用いて5MPaの圧力でプレスし、固体電解質層を形成した。当該固体電解質層の上に正極合材10mgを投入し、30MPaの圧力でプレスして合材層を作製した。
次に、得られた固体電解質層と正極活物質層との合材層の上下を裏返し、固体電解質層側に、SUS板にLi箔(5mm径×厚み0.1mm)を貼り合わせたものを設け、20MPaの圧力でプレスしてLi負極層とした。これによって、正極活物質層、固体電解質層及びLi負極層がこの順で積層された積層体を作製した。
次に、当該積層体をSUS304製の電池試験セルに入れて拘束圧をかけて全固体二次電池とし、25℃電池初期特性(充電容量、放電容量、充放電特性)を測定した。なお、充放電条件は、充電条件:CC/CV 4.2V,0.1C、放電条件:CC 0.05C,3.0Vまでである。
【0047】
上記実施例1~13及び比較例1~6に係る試験条件及び評価結果を表1に示す。
【0048】