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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】到来波受信装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/04 20060101AFI20230220BHJP
   H01Q 21/20 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
G01S3/04 C
H01Q21/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019032898
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020134496
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 豪
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 陽平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】酒井 道
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-154912(JP,A)
【文献】特開昭63-100387(JP,A)
【文献】特開2020-012720(JP,A)
【文献】特開平06-188626(JP,A)
【文献】特開2018-032968(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0155625(US,A1)
【文献】伊丹豪,サブ波長導体周期構造における散乱パターンの解析による電磁波到来方向推定手法の提案,電子情報通信学会技術研究報告,日本,2018年07月,vol.118,no.162,7-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74
H01Q 21/00-21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来波を受信する到来波受信装置であって、
支持盤に、対象とする到来波の波長帯の中で波長が最も短いものに対してサブ波長間隔で円状または円弧状に等間隔に配置された、到来波を散乱させる機能を有する複数の散乱体と、
前記複数の散乱体により形成される第1の円または円弧の内側に配置された、前記散乱体によって散乱された到来波を受信し、受信された到来波に応じた電気信号を出力する複数のセンサと
前記複数のセンサの各々の位置情報と、前記複数のセンサの各々から出力される前記受信された到来波に応じた電気信号とに基づいて、学習済みの推定モデルを用いて、前記複数の散乱体によって散乱される前の到来波の周波数および入射角を推定する、データ処理部と
を具備する、到来波受信装置。
【請求項2】
前記散乱体によって散乱された前記到来波が前記支持盤に対して垂直方向に伝搬するのを制限する、導波路形成部材をさらに具備する、請求項1に記載の到来波受信装置。
【請求項3】
前記複数のセンサは、前記第1の円または円弧と同心でかつ前記第1の円または円弧よりも半径の小さい第2の円または円弧に沿って配置される、請求項1に記載の到来波受信装置。
【請求項4】
前記複数のセンサは、前記第2の円または円弧の円周上で、非等間隔に配置される、請求項に記載の到来波受信装置。
【請求項5】
前記複数のセンサは、前記第1の円または円弧の中心と前記複数の散乱体の各々の中心とを結ぶ線分上に配置される、請求項1に記載の到来波受信装置。
【請求項6】
前記複数のセンサは、前記第1の円または円弧の中心と前記複数の散乱体の各々の中心とを結ぶ線分上で、前記第1の円または円弧の中心からそれぞれ異なる距離のところに配置される、請求項に記載の到来波受信装置。
【請求項7】
前記複数の散乱体の各々は、円柱状または正多角柱状をなす導体または誘電体からなる、請求項1に記載の到来波受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一態様は、到来波を受信する到来波受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器の小型化・高機能化が進み、無線LAN(Local Area Network)やLTE(登録商標)(Long Term Evolution)などの無線回線を使用した無線通信サービスが急速に普及し、スマートフォン、タブレット型端末、ノート型パーソナルコンピュータなどのモバイル端末は、公私を問わず必要不可欠な存在になってきている。それに伴い、パブリックスペースや公共施設、病院やオフィス、店舗などにおいて、Wi-Fi(登録商標)などの無線LANサービスが急速に広がり国内全体に浸透しつつある。これにより、無線通信端末・機器からの電波の送受信が広域かつ頻繁に行われるようになり、通信周波数帯同士の干渉による通信品質の劣化や、無線電波による周辺の他の電子機器・装置への影響が懸念されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
また、デバイスの高機能化によって内部回路の駆動周波数の高周波化が進んでおり、マイクロ波帯での放射ノイズの影響も懸念される。近年のIoT(Internet of Things)や5G(第5世代移動通信システム)の進展も相伴ってデバイスの数は急増し、従来は通信を行わなかった機器も無線通信を行うようになり、デバイスからの放射ノイズによる無線環境の劣化や通信障害が懸念されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
したがって、(1)頻繁かつ広域な無線通信に起因する通信周波数帯同士の干渉による通信品質の劣化、(2)通信端末・機器からの無線電波によるその他の周辺機器への影響、(3)端末数の急増に起因する放射ノイズによる無線通信への影響という、3つの問題が存在し、電波環境・電磁環境を効率的かつ最適に制御する技術が切実に求められている。
【0005】
これらを実現する解決手段として、アンテナ技術分野で用いられている、周波数選択板(FSS:Frequency Selective Surface)に着目した周波数選択性の電磁シールドが検討されている(例えば、非特許文献3を参照)。これは、処置が必要な場所や、端末・機器が判別できた際に適切に制御する技術であり、効率的な要因特定のためには、無線環境や電磁ノイズの可視化技術が上記技術と同様に求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】村田英一,「マルチユーザMIMOシステムにおけるユーザ端末共同干渉キャンセル」,信学技報,A・P2013-123,2013年11月
【文献】戸花照雄他,「フェライト板によるプリント基板からの放射の抑制効果の数値解析」,電子情報通信学会論文誌B,Vol.J85-B No.2 pp.250-257,2002年2月
【文献】G. Itami et al., “A Novel Design Method for Miniaturizing FSS Based on Theory of Meta-materials”, International Symposium on Antennas and Propagation (ISAP2017), 1066, Phuket, Thailand, Nov. 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、非特許文献3に記載の技術では、FSSを用いて到来する無線電波あるいは電磁ノイズ(以下、これらを総称して「到来波」と言う。)の到来方向を推定することができるが、FSSは電磁界空間フィルタとして作用するものであるため、受信する到来波の周波数帯域が制限されてしまい、特定の周波数の到来波しか到来方向を推定できない、という課題があった。
【0008】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、特定の周波数に限定することなく、広帯域の到来波を効率的に受信する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためにこの発明の第1の態様は、到来波を受信する到来波受信装置にあって、支持盤に、対象とする到来波の波長帯の中で波長が最も短いものに対してサブ波長間隔で円状または円弧状に等間隔に配置された、到来波を散乱させる機能を有する複数の散乱体と、上記複数の散乱体により形成される第1の円または円弧の内側に配置された、上記散乱体によって散乱された到来波を受信し、受信された到来波に応じた電気信号を出力する複数のセンサとを具備するようにしたものである。
【0010】
この発明の第2の態様は、上記第1の態様において、上記散乱体によって散乱された上記到来波が上記支持盤に対して垂直方向に伝搬するのを制限する導波路形成部材をさらに具備するようにしたものである。
【0011】
この発明の第3の態様は、上記第1の態様において、上記複数のセンサの各々の位置情報と、上記複数のセンサの各々から出力される上記受信された到来波に応じた電気信号とに基づいて、学習済みの推定モデルを用いて、上記複数の散乱体によって散乱される前の到来波の周波数および入射角を推定するデータ処理部をさらに具備するようにしたものである。
【0012】
この発明の第4の態様は、上記第1の態様において、上記複数のセンサが、上記第1の円または円弧と同心でかつ上記第1の円または円弧よりも半径の小さい第2の円または円弧に沿って配置されるようにしたものである。
【0013】
この発明の第5の態様は、上記第4の態様において、上記複数のセンサが、上記第2の円または円弧の円周上で、非等間隔に配置されるようにしたものである。
【0014】
この発明の第6の態様は、上記第1の態様において、上記複数のセンサが、上記第1の円または円弧の中心と上記複数の散乱体の各々の中心とを結ぶ線分上に配置されるようにしたものである。
【0015】
この発明の第7の態様は、上記第6の態様において、上記複数のセンサが、上記第1の円または円弧の中心と上記複数の散乱体の各々の中心とを結ぶ線分上で、上記第1の円または円弧の中心からそれぞれ異なる距離のところに配置されるようにしたものである。
【0016】
この発明の第8の態様は、上記第1の態様において、上記複数の散乱体の各々が、円柱状または正多角柱状をなす導体または誘電体からなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明の第1の態様によれば、到来波受信装置において、支持盤に円状または円弧状に等間隔に配置された複数の散乱体によって到来波が散乱され、この散乱された到来波が、複数の散乱体により形成される円または円弧の内側に配置された複数のセンサによって受信される。これらの複数のセンサは、受信した到来波に応じた電気信号を出力する。これにより、特定の周波数に限定することなく、広帯域の到来波を散乱体によって散乱させ、散乱された到来波を受信することができる。到来波は、その周波数および入射角に応じた散乱挙動を示すことから、散乱された到来波を受信したセンサから、その受信した到来波に応じた電気信号を出力させることにより、広帯域の到来波についての散乱挙動を調べることができる。
【0018】
この発明の第2の態様によれば、導波路形成部材をさらに備えることにより、散乱体によって散乱された到来波の垂直方向への伝搬が制限される。これにより、散乱された到来波が作る電界の強度を高め、散乱された到来波をセンサによってより効率的に受信することができる。
【0019】
この発明の第3の態様によれば、データ処理部をさらに備えることにより、各センサの位置情報と、各センサから出力された電気信号とに基づいて、散乱体によって散乱される前の到来波の周波数および入射角が推定される。これにより、特定の周波数に限定することなく、広帯域の到来波を受信し、その散乱挙動に基づいて、もとの到来波の周波数および入射角を推定することができ、所定の空間における電波環境または電磁環境の推定を行うことができる。
【0020】
この発明の第4の態様によれば、複数のセンサは、複数の散乱体により形成される第1の円または円弧と同心でかつ第1の円または円弧よりも半径の小さい第2の円または円弧に沿って配置される。これにより、複数のセンサは、第1の(または第2の)円の中心から等距離に配置されることになる。センサの配置に一定の制限を設けることにより、広帯域の到来波の散乱挙動に基づく電気信号のその後の解析処理を比較的容易にすることができる。
【0021】
この発明の第5の態様によれば、複数のセンサはさらに、第2の円または円弧の円周上で、非等間隔に配置される。これにより、センサと円の中心との間の距離を等距離に維持したまま、センサに多様な角度情報を付与することができ、限られた数のセンサからより多くの情報を得ることができる。
【0022】
この発明の第6の態様によれば、複数のセンサは、複数の散乱体により形成される第1の円または円弧の中心と各散乱体の中心とを結ぶ線分上に配置される。このように、第1の(または第2の)円または円弧の中心と散乱体とセンサとが同一線分上に並ぶという一定の制限を設けることにより、広帯域の到来波の散乱挙動に基づく電気信号のその後の解析処理を比較的容易にすることができる。
【0023】
この発明の第7の態様によれば、複数のセンサはさらに、複数の散乱体により形成される第1の円または円弧の中心と各散乱体の中心とを結ぶ線分上で、第1の円または円弧の中心からそれぞれ異なる距離のところに配置される。これにより、角度方向については一定の制限を維持したまま、センサに多様な径方向位置情報を付与することができ、限られた数のセンサからより多くの情報を得ることができる。
【0024】
この発明の第8の態様によれば、到来波受信装置には、円柱状または正多角柱状をなす導体または誘電体からなる。これにより、到来波は、一定の規則性を維持しつつ、入射角に応じて多様な散乱を示すことになり、その散乱パターンに基づいてより多くの情報を得ることができる。
【0025】
すなわちこの発明の各態様によれば、特定の周波数に限定することなく、広帯域の到来波を効率的に受信する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る到来波受信装置の全体構成を示す図である。
図2図2は、図1に示した到来波受信装置のうち到来波受信ユニットを上方から見た平面図である。
図3図3は、図1に示した到来波受信装置のうちデータ処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4図4は、図3に示したデータ処理部のソフトウェア構成を示すブロック図である。
図5図5は、図3および図4に示したデータ処理部による学習処理の手順と内容を示すフローチャートである。
図6図6は、図3および図4に示したデータ処理部による推定処理の手順と内容を示すフローチャートである。
図7A図7Aは、動作検証に用いる解析モデルの外観を示す略図である。
図7B図7Bは、動作検証に用いる解析モデルに関する変数を示す図である。
図8A図8Aは、入射角をθ=0degに固定したときに第1の周波数f=3.5GHzの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図8B図8Bは、入射角をθ=0degに固定したときに第2の周波数f=4.0GHzの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図8C図8Cは、入射角をθ=0degに固定したときに第3の周波数f=4.5GHzの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図8D図8Dは、入射角をθ=0degに固定したときに第4の周波数f=5.0GHzの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図8E図8Eは、入射角をθ=0degに固定したときに第5の周波数f=5.5GHzの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図8F図8Fは、入射角をθ=0degに固定したときに第6の周波数f=6.0GHzの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図9A図9Aは、周波数をf=5.5GHzに固定したときに第1の入射角θ=0degの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図9B図9Bは、周波数をf=5.5GHzに固定したときに第2の入射角θ=2.25degの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図9C図9Cは、周波数をf=5.5GHzに固定したときに第3の入射角θ=4.5degの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図9D図9Dは、周波数をf=5.5GHzに固定したときに第4の入射角θ=6.75degの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図9E図9Eは、周波数をf=5.5GHzに固定したときに第5の入射角θ=9.0degの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図9F図9Fは、周波数をf=5.5GHzに固定したときに第6の入射角θ=11.25degの到来波により現れる散乱パターンを示す図である。
図10図10は、動作検証に用いる解析モデルの平面図である。
図11A図11Aは、学習済みの推定モデルを用いた周波数の推定結果を示す図である。
図11B図11Bは、学習済みの推定モデルを用いた入射角の推定結果を示す図である。
図12A図12Aは、散乱体の配列により生み出される屈折率を算出するための模式図である。
図12B図12Bは、散乱体の円状または円弧状配列により生み出される屈折率を算出するための模式図である。
図13A図13Aは、到来波の周波数f=1GHzにおいて入射角を変化させたときの散乱パターンから受信される信号空間分布を示す図である。
図13B図13Bは、到来波の周波数f=2.0GHzにおいて入射角を変化させたときの散乱パターンから受信される信号空間分布を示す図である。
図13C図13Cは、到来波の周波数f=3.0GHzにおいて入射角を変化させたときの散乱パターンから受信される信号空間分布を示す図である。
図13D図13Dは、到来波の周波数f=4.0GHzにおいて入射角を変化させたときの散乱パターンから受信される信号空間分布を示す図である。
図13E図13Eは、到来波の周波数f=5.0GHzにおいて入射角を変化させたときの散乱パターンから受信される信号空間分布を示す図である。
図13F図13Fは、到来波の周波数f=6.0GHzにおいて入射角を変化させたときの散乱パターンから受信される信号空間分布を示す図である。
図14A図14Aは、直円柱状の散乱体に対する異なる角度の到来波の入射を示す図である。
図14B図14Bは、直正六角柱状の散乱体に対する異なる角度の到来波の入射を示す図である。
図15A図15Aは、円周上に配列された散乱体に対して、センサが同心円上かつ同軸上に配置された、第1のセンサ配置パターンを示す図である。
図15B図15Bは、円周上に配列された散乱体に対して、各センサが同軸上に配置された、第2のセンサ配置パターンを示す図である。
図15C図15Cは、円周上に配列された散乱体に対して、センサが同心円上に配置された、第3のセンサ配置パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
【0028】
[一実施形態]
(1)構成
(1-1)到来波受信装置
図1は、この発明の一実施形態に係る到来波受信装置1の全体構成を示す図である。
到来波受信装置1は、到来波受信ユニット2と、データ処理ユニット3とを備えている。
【0029】
到来波受信ユニット2は、支持盤7を備えている。支持盤7は、円板状をなす導体からなる平板7Aおよび7Bを、図示しない樹脂製スペーサにより一定の間隔を隔てて互いに平行に配置したものである。支持盤7の平板7A,7B間の空間には、複数の散乱体4および複数のセンサ5が、互いに同心円状に配置されている。なお、図中10は支持盤7を床等に対し所定の高さ位置に設置するための支持部材であり、省略することも可能である。
【0030】
複数の散乱体4は、各々が直円柱状に構成された導体または誘電体からなり、平板7A,7Bに対し例えばゴムブッシュにより絶縁状態を保持した状態で、平板7A,7Bの外縁に沿って等間隔に配置されている。散乱体4としては、例えばA5052などのアルミニウム合金が用いられる。複数の散乱体4によって形成される円の内側には、パターン生成領域6が形成される。
【0031】
複数のセンサ5は、例えば、微小モノポールアンテナ、微小ループアンテナ、EBG(Electromagnetic Band Gap)センサ、容量性電圧プローブからなり、上記複数の散乱体4により形成される円の内側のパターン生成領域6内に等間隔で配置される。各センサ5の配置位置は、複数の散乱体4により構成される円の中心点と各散乱体4の中心位置とを結ぶ線分上に設定される。各センサ5にはそれぞれ信号線9が接続され、これらの信号線9は平板7A,7Bの中心部に設けられた孔部(図示せず)を通して支持盤7の外部へまとめて引き出され、データ処理ユニット3に接続されている。
【0032】
図2は、到来波受信ユニット2を上方から見た平面図である。
到来波受信ユニット2は、広帯域の到来波IWを受信するためのユニットであり、円状に配置された複数の散乱体4によって到来波を散乱させる。このとき複数の散乱体4は、その内側にパターン生成領域6を形成する。パターン生成領域6は、上記複数の散乱体4により散乱された到来波IWを、定在波分布(散乱パターン)として支持盤7の平板7A,7B面に対して垂直方向に閉じ込める機能を有する。
【0033】
複数のセンサ5の各々は、散乱体4によって散乱された到来波IWを受信する。より詳細には、各センサ5は、散乱された到来波IWによって生成される散乱パターンの電界強度を電気信号に変換する役割を有する。具体的には、各センサ5の出力端に検波ダイオードなどを接続することで、当該センサ5が配置されている箇所における散乱パターンの電界強度の情報が電力に変換され、受信信号として得られる。センサ5の数は出力の数を表すため、到来波に対して得るべき情報量に応じて数を決定する必要がある。
【0034】
上記各センサ5から出力された受信信号は、それぞれ信号線9を介して支持盤7の外へ導出され、データ処理ユニット3に入力される。データ処理ユニット3は、信号処理部3Aとデータ処理部3Bとを備えている。信号処理部3Aは、センサ5から出力された受信信号に対し、測定対象帯域外の周波数成分を除去するフィルタ処理や必要な増幅処理等を行った後、アナログ信号からディジタル信号に変換する。そして、このディジタル化された受信信号をデータ処理部3Bへ出力する。
【0035】
データ処理部3Bは、信号処理部3Aから受け取ったディジタル化された受信信号に基づいて、到来波の周波数fおよび入射角(到来方向)θを推定するために所定のデータ処理を行い、処理結果を出力する。データ処理部3Bの構成及び動作については、以下でさらに説明する。
【0036】
なお、信号処理部3Aは必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。また、信号処理部3Aおよびデータ処理部3Bは、別個の構成とすることもでき、または一体構成とすることもできる。
【0037】
上記したように到来波受信ユニット2では、任意の周波数fおよび入射角θをもった到来波IWが入射すると、到来波IWが散乱体4によって散乱され、パターン生成領域6内で例えば図2に8Aや8Bとして示すように偏在した部分に強い電界強度をもつ散乱パターンが形成される。例えば、図2の例では、周波数f1 および入射角θ1 をもつ到来波IW1 と、周波数f2 および入射角θ2 をもつ到来波IW2 が入射すると、それぞれ上記周波数および入射角に応じた異なる散乱パターンが形成される。複数のセンサ5は、この散乱パターンを電界強度分布として受信し、それに応じたアナログ受信信号を生成し、出力する。
【0038】
従って、対象とする到来波IWの波長以下の電磁界散乱現象を利用し広帯域で現象を画一化することで、周波数fおよび入射角θに応じて広帯域な到来波を周波数成分ごとに分離することができる。具体的には、対象とする到来波IWの波長帯の中で波長が最も短い(周波数が高い)ものに対してサブ波長間隔(例えば、波長の1/2~1/10)で同形状の散乱体4を円周上に等間隔で周期的に配置することで(散乱体4の間隔<波長)、到来波IWの広帯域な周波数情報と角度情報を取得することができる。このように、近傍界と遠方界の境界領域を非共振構造として用いることで、広帯域化を図っている。
【0039】
(1-2)データ処理部3B
次に、この発明の一実施形態に係る到来波受信装置1が備えるデータ処理ユニット3のデータ処理部3Bについてさらに説明する。
【0040】
(1-2-1)ハードウェア構成
図3は、データ処理部3Bのハードウェア構成の一例を、信号処理部3Aとともに示したブロック図である。
データ処理部3Bは、受信した信号パターン(出力)をもとに到来波(入力)に関する逆問題を解く処理を行うもので、例えばサーバコンピュータまたはパーソナルコンピュータにより構成される。一実施形態では、逆問題の解法として機械学習を用いることにより、到来波の高精度な推定を可能にする。
【0041】
データ処理部3Bは、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサ30Aを有する。そして、このハードウェアプロセッサ30Aに対し、プログラムメモリ30B、データメモリ32、入出力インタフェース31を、バス50を介して接続したものとなっている。
【0042】
入出力インタフェース31には、データ処理部3Bに付設される入力デバイス21および表示デバイス22が接続される。入出力インタフェース31は、キーボードやタッチパネル、マウス等の入力デバイス21を通じてオペレータが入力した操作データを取り込むとともに、表示データを液晶または有機EL(Electro Luminescence)等を用いた表示デバイス22へ出力して表示させる処理を行う。なお、入力デバイス21および表示デバイス22はデータ処理部3Bに内蔵されたデバイスを使用してもよく、または外付けの入力デバイスおよび表示デバイスを使用してもよい。
【0043】
入出力インタフェース31はまた、信号処理部3Aから出力されたディジタル受信信号を取得する役割を果たす。このディジタル受信信号は、到来波受信ユニット2から出力されたアナログ信号に対し、信号処理部3Aにおいてフィルタ処理や増幅等の所定の処理後にADC20によってディジタル化された信号である。
【0044】
プログラムメモリ30Bは、記憶媒体として、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、ROM等の不揮発性メモリとを組み合わせて使用したもので、一実施形態に係る各種制御処理を実行するために必要なプログラムが格納されている。
【0045】
データメモリ32は、記憶媒体として、例えば、HDDまたはSSD等の随時書込みおよび読出しが可能な不揮発性メモリと、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリとを組み合わせて使用したもので、データ処理を行う過程で取得および作成された各種データを記憶するために用いられる。
【0046】
(1-2-2)ソフトウェア構成
図4は、データ処理部3Bのソフトウェア構成を、図3に示したハードウェア構成と関連付けて示したブロック図である。データ処理部3Bは、上記入出力インタフェース31と、制御ユニット30と、上記データメモリ32とを備えている。
【0047】
データメモリ32の記憶領域には、計測データ記憶部321と、推定モデル記憶部322とが設けられている。
【0048】
計測データ記憶部321は、取得したディジタル信号を計測データとして記憶するために用いられる。
【0049】
推定モデル記憶部322は、到来波の推定を行うための推定モデルを記憶するために用いられる。
【0050】
ただし、上記記憶部321~322は必須の構成ではなく、例えば、USBメモリなどの外付け記憶媒体や、クラウドに配置されたデータベースサーバ等の記憶装置に設けられたものであってもよい。
【0051】
制御ユニット30は、上記ハードウェアプロセッサ30Aと、上記プログラムメモリ30Bとから構成され、ソフトウェアによる処理機能部として、計測データ取得部301と、学習部302と、推定部303と、出力制御部304とを備えている。これらの処理機能部は、いずれもプログラムメモリ30Bに格納されたプログラムを、上記ハードウェアプロセッサ30Aに実行させることにより実現される。制御ユニット30は、また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(field-programmable gate array)などの集積回路を含む、他の多様な形式で実現されてもよい。
【0052】
計測データ取得部301は、上記入出力インタフェース31により、信号処理部3Aから出力されたディジタル信号を計測データとして所定時間分取り込み、これらの計測データを時系列に従い、計測データ記憶部321に格納する処理を行う。このとき、計測データには、時間情報と、各センサ5を識別する情報とが付与される。
【0053】
学習部302は、例えば入力デバイス21を通じて入力されたオペレータからの指示信号をトリガとして、推定モデル記憶部322に格納された推定モデルを読み出し、計測データ記憶部321から学習用データとして読み出した計測データを当該推定モデルに入力して学習を行い、その学習結果により推定モデル記憶部322に記憶された推定モデルを更新する処理を行う。一実施形態では、推定モデルは、ニューラルネットワークモデルであり、学習部302は、当該ニューラルネットワークの各パラメータを学習する処理を行う。
【0054】
推定部303は、やはり例えば入力デバイス21を通じて入力されたオペレータからの指示信号をトリガとして、推定モデル記憶部322に格納された学習済みの推定モデルを読み出し、計測データ記憶部321から推定用データとして読み出した計測データを当該推定モデルに入力して、到来波について推定する処理を行う。
【0055】
出力制御部304は、推定部303による推定結果をもとに出力データを生成し、入出力インタフェース31を介して出力する処理を行う。例えば、出力制御部304は、到来波の周波数および入射角の推定結果を表示デバイス22に表示させるための出力データを生成する。出力制御部304はまた、入力デバイス21を通じて入力された指示信号に応じて、計測データ記憶部321に格納された計測データに基づき、到来波が作り出す散乱パターンを二次元マップとして表示デバイス22に表示させるための出力データを生成するように構成されてもよい。出力制御部304はまた、入力デバイス21を通じて入力された指示信号に応じて、推定モデル記憶部322に記憶された情報に基づいて、学習済みのパラメータを表示させるための出力データを生成するように構成されてもよい。
【0056】
(2)動作
次に、以上のように構成された到来波受信装置1の動作を、データ処理部3Bの動作を中心に説明する。
【0057】
(2-1)到来波の受信
上述のように、到来波IWが到来波受信ユニット2に入射すると、散乱体4によって散乱され、散乱された到来波IWがパターン生成領域6において散乱パターンを生成する。パターン生成領域6内に配置された複数のセンサ5は、この散乱パターンを、各位置の平均電界強度として受信し、その平均電界強度に応じたアナログ信号を出力する。このアナログ信号を受け取った信号処理部3Aは、フィルタ処理や増幅処理などの所定の処理を行ったのち、ADC20によりアナログ信号をディジタル信号に変換してデータ処理部3Bへと出力する。
【0058】
(2-2)計測データの取得・蓄積
データ処理部3Bは、あらかじめ、上記のように信号処理部3Aから出力されたディジタル信号を、計測データ取得部301の制御の下、所定の時間間隔で計測データとして取得し、計測データ記憶部321に格納している。このとき、時間情報とともに、各センサを識別する情報も付与される。また、入力デバイス21を通じて入力された指示信号に応じて、計測データに対し、学習用データであるか推定用データであるかを識別する情報を付与するようにしてもよい。
【0059】
一実施形態では、データ処理部3Bは、入力デバイス21を通じて入力されたオペレータからの指示信号を受け付けて、以下のように学習処理または推定処理を開始するように構成される。
【0060】
(2-3)学習処理
図5は、図4に示したデータ処理部3Bによる、到来波の推定を行うための推定モデルを学習する処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0061】
まずステップS101において、データ処理部3Bは、制御ユニット30の制御の下、学習処理を開始するためのトリガの有無を監視している。この状態で、学習処理の指示信号を受け付けると、ステップS102に移行する。
【0062】
ステップS102において、データ処理部3Bは、学習部302の制御の下、計測データ記憶部321に格納された計測データを学習用データとして取得する。
【0063】
次いでステップS103において、データ処理部3Bは、学習部302の制御の下、あらかじめ推定モデル記憶部322に格納された推定モデルを読み出し、取得した学習用データを当該モデルに入力してその学習を行う。学習対象とする推定モデルは、設計者等によって任意に設定されることができる。一実施形態では、推定モデルとしてニューラルネットワークが使用される。例えば、学習部302は、周波数fおよび入射角θが既知の到来波IWを用いたときに取得された計測データと各センサ5の位置情報とを推定モデルに対する入力とし、その入力に対して当該推定モデルから出力される周波数f’および入射角θ’と実際の値fおよびθとの間の誤差を最小化するように、当該推定モデルの学習を行う。
【0064】
次いでステップS104において、データ処理部3Bは、学習部302の制御の下、推定モデル記憶部322に格納された推定モデルを学習済みモデルにより更新する。
【0065】
(2-4)推定処理
図6は、図4に示したデータ処理部3Bによる、学習済みの推定モデルを用いて到来波の周波数および入射角について推定する処理の処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0066】
上記学習処理と同様に、まずステップS201において、データ処理部3Bは、制御ユニット30の制御の下、推定処理を開始するためのトリガの有無を監視している。この状態で、推定処理の指示信号を受け付けると、ステップS202に移行する。
【0067】
ステップS202において、データ処理部3Bは、推定部303の制御の下、計測データ記憶部321に格納された計測データを推定用データとして取得する。
【0068】
次いでステップS203において、データ処理部3Bは、推定部303の制御の下、推定モデル記憶部322に格納された学習済みの推定モデルを読み出し、取得した推定用データを当該モデルに入力して到来波の推定を行う。例えば、推定部303は、周波数および入射角が未知の条件下で取得された計測データと各センサ5の位置情報とを学習済みの推定モデルに入力し、その入力に対して当該推定モデルから出力される周波数および入射角を到来波の推定結果として取得する。
【0069】
次いでステップS204において、データ処理部3Bは、推定部303の制御の下、推定結果を提示するための出力データを生成させるため、推定結果を出力制御部304へと出力する。
【0070】
(3)検証
(3-1)パターン生成領域
図7Aは、一実施形態に係る到来波受信装置1の動作の検証に用いられる解析モデルの外観を示す。図7Bは、その解析モデルに用いられるモデル変数を示す。
【0071】
図7Aは、特に、パターン生成領域6として平行平板導波路を採用したモデルを示している。図7Aにおいて、kは電波の進行方向を表すベクトルであり、E0は電界の向きを表すベクトルである。ここでは、散乱体の数は16個として設定されている。散乱パターンは、周期T(1/f)分の平均電界強度の二次元分布(x-y平面,z=0)として算出される。
【0072】
図8A図8Fは、入射角θを0degに固定して周波数fを3.5GHzから6.0GHzまで0.5GHzきざみで変化させたときの平均電界強度分布のイメージ図である。図8Aはf=3.5GHz、図8Bはf=4.0GHz、図8Cはf=4.5GHz、図8Dはf=5.0GHz、図8Eはf=5.5GHz、図8Fはf=6.0GHzの場合を示している。これらの図から、周波数が大きくなるにつれてパターンの数が増加するという関係性があることが観察される。
【0073】
図9A図9Fは、周波数fを5.5GHzに固定して入射角θを0degから11.25degまで2.25degきざみで変化させたときの平均電界強度分布のイメージ図である。図9Aはθ=0deg、図9Bはθ=2.25deg、図9Cはθ=4.5deg、図9Dはθ=6.75deg、図9Eはθ=9.0deg、図9Fはθ=11.25degの場合を示している。これらの図から、入射角が大きくなるにつれてパターンの向きが変化するという関係性があることが観察される。
【0074】
図1に示した到来波受信装置1のパターン生成領域6は、上述したように、複数の散乱体4の配列(または当該配列により形成される円環状部分)によって散乱された到来波IWを、定在波分布(散乱パターン)として、散乱体4が配置された面に対して垂直方向に閉じ込める役割がある。具体的には、パターン生成領域6は、複数の散乱体4の一方の端部を含む平面と平行に配置された上側の円形導体平板7Bおよび散乱体4の他方の端部を含む平面と平行に配置された下側の円形導体平板7Aからなる平行平板導波路として実施することができる。パターン生成領域6を構成する上側および下側の円形導体平板7Aおよび7Bは、少なくとも円周上に配置された散乱体4の内側領域を覆うサイズであればよいが、図1に示したように散乱体4自体をも覆うサイズであってもよい。このような構造により、散乱体4の配列(または当該配列により形成される円環状部分)によって散乱された到来波IWを平行平板導波路内に閉じ込め、上下方向への伝搬漏れを防止することができる。上側および下側の円形導体平板7Aおよび7Bは、一例として、A5052などのアルミニウム合金から構成される。
【0075】
あるいは、パターン生成領域6は、例えば、マイクロストリップ線路、メタマテリアル伝送路など種々の構造により構成されるものであってもよい。特に、複数の散乱体4の配列により形成される円環状部分の電気長を空間以上に大きくするために、メタマテリアルによって誘電率や透磁率を実効的に大きくし全体として小型化することも可能である。なお、到来波IWの散乱パターンを形成する条件(TE(Transverse Electric)モード/TM(Transverse Magnetic)モード)に合わせて導波路の構造をそれぞれに対応させる必要がある。例えば、図7Aに示したような平行平板導波路を用いると、図8A図8Fおよび図9A図9Fに示すように、散乱パターンを周波数・入射角に応じて分離できることが電磁界解析で確認された。
【0076】
(3-2)推定モデル
図10は、一実施形態に係る到来波受信装置1の動作の検証に用いられる解析モデルの平面図を示す。図10では、支持盤7上で16個の散乱体4が円周上に配置され、その内側に散乱パターンを生成するためのパターン生成領域6を形成している。パターン生成領域6内には、散乱体4の配列により形成される円よりも半径の小さい同心円上に、16個のセンサ5が配置されている。
【0077】
データ処理部3Bは、図10に示したモデルにより、複数のセンサ5によって得られた信号パターン(パターン生成領域6における散乱パターンの電界分布に対応する電気信号の空間分布)をもとに、当該信号パターンから到来波IWの周波数fと入射角θを導出する。具体的には、データ処理部3Bは、到来波IWの周波数fと入射角θを入力とし、各センサ5の位置とそれぞれから取得された信号強度を出力とする多元連立方程式の逆問題を解くことで到来波情報を推定する。この際に、ベースとなるのは逆散乱解析であり、そこに機械学習を適用し、あらかじめ入力と出力の組み合わせデータを十分学習させることで、より効率的に解を導出できるため演算量を減らすことが可能になる。到来波の周波数や角度が全く予想できない場合にも、あらかじめ教師あり学習を適用することにより、推定された情報が得られる。また、到来波の周波数や角度がある程度予想できる場合には、教師なし学習によるクラスタリングから、効率的に推定された情報を得ることができる。
【0078】
図11A図11Bは、一実施形態に係る到来波受信装置1を用いて機械学習(教師あり)を適用した場合に図8A図8Fおよび図9A図9Fから得られた二次元分布をもとに図10に示した条件で学習し、周波数と角度を推定した結果を示している。すなわち、図10に示した16個のセンサ5の各々から得られる電力(E)を入力とし、周波数および入射角を推定するニューラルネットワークを学習させた。入力データは、周波数を3.5GHz~6.0GHzとし、入射角を0deg~360degで1.125deg間隔とした。ニューラルネットワークは、入力層の層数を16、第1の中間層の層数を64、第2の中間層の層数を64、出力層の層数を3とした。
【0079】
図11Aは、このような学習済みニューラルネットワークモデルを用いた周波数fの推定結果を示す。横軸は真の周波数値[GHz]、縦軸は推定(予測)された周波数値[GHz]を示す。図11Bは、同じ学習済みニューラルネットワークモデルを用いた入射角θの推定結果を示す。横軸は真の入射角[deg]、縦軸は推定(予測)された入射角[deg]を示す。周波数および入射角のいずれについても、高い精度で推定結果が得られたことがわかる。
【0080】
(3-3)散乱体
次に、散乱体4に関する検証について説明する。
図12Aは、散乱体4と到来波IWとの関係性を示すために、一例として直線上に配列された散乱体4と波長スケールとを示す模式図である。
【0081】
直線上に配列された複数の散乱体4によって形成される散乱パターンと、センサ5から得られる電気信号との関係性は、例えば、J. T. Shen et al., “Mechanism for Designing Metallic Metamaterials with a High Index of Refraction,” Physical Review Letters, 94, 197401, May 2005に開示された方法によって得ることができる(散乱体は導体とする)。
【0082】
上記J. T. Shen他の文献によると、図12Aに示したような直線上に配列された導体散乱体4の周期構造を用いる場合、散乱体4の配列に対して入射する到来波IWが感じる屈折率nは、以下の式で表される。
n ≒ d/a (1)
ここで、dは散乱体の周期、aは散乱体の間隔である。すなわち、散乱体の周期dと間隔aを適宜調整することで、実効的な屈折率nを制御することができる。
【0083】
図12Bは、円周上に配列された散乱体4と屈折率の関係を示す模式図である。なお、簡単のために散乱体4は円周の一部についてのみ示している。円周上配列に対し、図12Aに関して説明した式(1)の当てはめを考えると、散乱体4の周期dc および間隔ac は、散乱体4の半径r、円周の半径R、および隣り合う散乱体4の各々の中心と円の中心とを通る直線がなす角θc によって次式で表される。
= 2・R・sin(θ/2) (2)
= d-2r (3)
これを上記屈折率の式(1)に当てはめると、
c ≒ dc / ac (4)
屈折率nを適切な値に設定することで、散乱パターンのコントラスト向上と信号強度の両立が期待できる。なお、散乱体の周期dは、対象とする到来波の波長帯の中で最も短い波長よりも小さいことが好ましい。
【0084】
ここで、散乱パターンのコントラストおよび情報量(例えば、散乱パターンのバリエーション)を向上させることを考える。そのためのアプローチとしては、(A1)実効媒質としての屈折率を大きくする(言い換えれば、密度を高める)こと、(A2)散乱体4の断面形状を円形または正n角形にすることにより散乱パターンの角度分解能を向上させること、が考えられる。
【0085】
(A1)については、散乱体4の直径をなるべく周期dに近い大きさにすることが好ましい。a/dを0に近づけていくと、媒質(散乱体4の配列により形成される円環状部分に対応する)の実効屈折率が大きくなる。屈折率が大きくなると、波の閉じ込め/散乱増加によるコントラスト向上が期待できる(通常のレンズを置いた場合と同等の現象)。
【0086】
(A2)については、到来波IWの入射面に対する散乱体4の境界面のバリエーションを増やすことにより、入射角ごとの散乱状態が変わるため、散乱パターンの角度情報が増加すると期待される。
【0087】
図13A図13Fは、周波数および角度ごとの散乱パターンから受信した信号空間分布(一次元)を示す。図13Aは周波数1GHzについて、図13Bは周波数2.0GHzについて、図13Cは周波数3.0GHzについて、図13Dは周波数4.0GHzについて、図13Eは周波数5.0GHzについて、図13Fは周波数6.0GHzについて、それぞれ、入射角0deg,45deg,90degの場合に得られた信号空間分布を示す。
【0088】
到来波は、直接波成分と散乱波成分で表現することができる。直接波成分は、到来波のうち散乱体4で散乱されずに直接センサで受信される成分を表し、これは散乱パターンのオフセットに対応する。そのため、例えば直接波を含む散乱パターンの信号強度の振れ幅が5,000~10,000[W/m2]、そのうち直接波成分が5,000[W/m2]であった場合、理想的にこれらを0[W/m2]にできればdB換算でコントラストが大きくなることがわかる。直接波を減らすためには、散乱体4の密度(図12Aまたは図12Bのd/aに対応)を上げる必要があり、これは周期構造のもつ実効的な屈折率を大きくすることと対応する。一方で、コントラスト向上のみを考慮すると直接波成分が減少するため信号強度そのものが小さくなりすぎてしまうというトレードオフが存在する。したがって、d/aの値をおよそ2~20程度に調整することでコントラストと信号強度を両立することができる。実際にd/a=20程度として到来波を受信した場合、図13A図13Fのように有意な信号が得られることがわかった。
【0089】
図14Aおよび図14Bは、散乱体4の断面形状と到来波IWの入射角の関係を示す模式図である。図14Aは、断面形状が円形の散乱体4Aに対する、異なる入射角をもつ到来波IW11およびIW12の入射の様子を示す。図14Bは、断面形状が正六角形の散乱体4Bに対する、異なる入射角をもつ到来波IW21およびIW22の入射の様子を示す。
【0090】
これまで散乱体4として、図14Aに示すような断面形状が円形の直円柱状の散乱体について説明してきた。散乱体4の断面形状が円形の場合、散乱体4への入射位置によって到来波IWが散乱(反射)する角度が異なる。図14Aに示したように、到来波IWはわずかな入射角の相違でも異なる角度に散乱され、異なる散乱パターンを生成すると予想される。すなわち、到来波IWの入射角に対して多様な散乱状態が得られることから、パターン生成領域6に生成される散乱パターンに含まれる角度情報が増加することになり、到来波IWの入射角の推定精度が向上する。
【0091】
ただし、散乱体4の断面形状は円形に限定されるものではなく、例えば図14Bのようにnの値が大きな正n角形であっても構わない(nは整数、例えばn≧6)。到来波IWの入射面に対する散乱体4の境界面のバリエーションを増やすと、入射角ごとの散乱状態が変わるため散乱パターンの角度情報が増加することになる。
【0092】
(3-4)センサ
次に、センサ5に関する検証について説明する。
図15Aは、到来波受信ユニット2における散乱体4の配置に対するセンサ5の配置の第1の例を示す。図15Aでは、例えば図1に示したように、センサ5は、散乱体4が配置される円(第1の円)41よりも半径の小さい同心円(第2の円)51の円周上であって、各散乱体4と円41の中心Cとを結ぶ線分と、同心円51との交点上に配置される。上述したように、このようなセンサ5の配置を用いることで、良好な推定結果が得られることがわかった。
【0093】
ここで、図15Aに示した構成に基づいてさらに考えると、センサ5の数および配置方法によって、到来波IWから得られるセンサ1つ当たりの情報量が変化し得る。到来波IWの周波数ないし入射角を推定する装置としては、受信した信号パターンからなるべく多くの情報が得られることが望ましい。この条件は、センサ5の配置に関して、(B1)周波数情報を効率よく受信する、(B2)角度情報を効率よく受信する、と置き換えられる。
【0094】
ここで、定性的な傾向として、ランダムにセンサ5を配置する場合は、センサ5の数を増やすと得られる情報量が大きくなるため、到来波IWの周波数・入射角の分解能を上げることができる。例えば、到来波IWの数、周波数、入射角、信号強度をそれぞれ10通りで表現する場合には、10=10,000通りの散乱パターンが考えられるため、センサ数と信号の量子化パターンがそれぞれ9通り・3通りの場合、3≒20,000=2×10より、9個のセンサがあれば一般的には到来波情報を解として得ることができると考えられる。ただし、センサ5が受信する情報量の重複による例外は存在する。
【0095】
ここで、クロストークの影響を考慮し、対象とする周波数帯に応じてセンサ間距離を十分に保つように留意しなければならない。しかし、EBGセンサのようにメタマテリアル効果によって実効的な電気長を拡張した構造であれば、センサ間距離を縮めることができる。メタマテリアルを用いない場合ではセンサ同士の容量結合が支配的にならないように留意する。
【0096】
図15Bは、上記(B1)について、周波数情報をより効率よく受信するためのセンサ5の配置の第2の例を示す。センサ5の位置が、基準点RPに対して径方向にずれていることがわかる。ここで、「基準点RP」とは、散乱体4が配置される円41よりも半径の小さい同心円51と、各散乱体4の中心と円41の中心Cとを結ぶ線分との交点を言う。図15Bでは、散乱体4が16個あるので、基準点RPも16点存在するが、代表的に1点の基準点RPのみを図示している。
【0097】
上記(B1)の条件は、図8A図8Fの結果を考慮すると、周波数情報がパターン周期と相関を有することから、散乱体4が配置された円41の径方向に対する山谷の周期情報を効率よく受信することに対応する。したがって、図15Bに示したように、センサ5を基準点RPから円51の径方向に互いに異なる位置で配置することで(言い換えれば、各センサ5を、円41の中心Cと各散乱体4の中心とを結ぶ線分上で、中心Cからそれぞれ異なる距離のところに配置することによって)、より多くの周期情報がセンサ5に反映されると考えられる。ただし、この際にセンサ同士が円状配置から大きくずれてしまわないように注意する必要がある(角度情報も保持するため)。
【0098】
次に、図15Cは、上記(B2)について、角度情報をより効率よく受信するためのセンサ5の配置の第3の例を示す。センサ5の位置が、基準点RPに対して弧方向(円周方向)にずれていることがわかる。図15Bと同様に、基準点RPは代表的に1点のみを図示している。
【0099】
上記(B2)の条件は、図9A図9Fの結果を考慮すると、角度情報がパターンの向きと相関を有することから、散乱体4が配置された円41の弧方向(円周方向)に対する山谷の周期情報を効率よく受信することに対応する。したがって、図15Cに示したように、基準点RPから円51の弧方向に互いに異なる位置で(すなわち非等間隔に)センサ5を配置することで、より多くの角度情報がセンサ5に反映されると考えられる。この際にセンサ同士が弧方向に大きくずれてしまわないように注意する必要がある(周波数情報も保持するため)。
【0100】
図15Bに関して述べた配置と、図15Cに関して述べた配置とを組み合わせ、センサ5のそれぞれが、同心円51の径方向に互いに異なる位置に配置され、かつ、同心円51の弧方向に互いに異なる位置に配置されるようにしてもよい。すなわち、上記(B1)と(B2)とを組み合わせて、基準点RPから径方向および弧方向の両方にずらすことで、周波数情報と角度情報を効率よく受信できると考えられる。これにより受信信号からなるべく多くの情報量が得られるようにすることができる。
【0101】
(4)効果
以上詳述したように、この発明の一実施形態では、到来波IWを受信する到来波受信装置1にあって、支持盤7に円状または円弧状に等間隔に配置された、到来波IWを散乱させる機能を有する複数の散乱体4と、複数の散乱体4により形成される第1の円41または円弧の内側に配置された、上記散乱体4によって散乱された到来波を受信し、受信した到来波に応じた電気信号を出力する複数のセンサ5とを具備するようにしている。これにより、到来波受信装置1によって、通信周波数などの特定の周波数に限定することなく、また、走査型スキャンの手間なしに、簡便に、広帯域の到来波IWを受信し、その周波数fおよび入射角(到来方向)θを推定することが可能になる。
【0102】
また、到来波受信装置1は、散乱された到来波が垂直方向に伝搬するのを制限するように導波路形成部材として平板7Aおよび7Bをさらに具備することができる。これにより、散乱された到来波により生成される散乱パターンの電界強度を高め、より効率的に到来波を受信できるようにしている。
【0103】
また、到来波受信装置1は、さらにデータ処理部3Bを備え、データ処理部3Bにより、各センサ5から出力された電界強度に応じた電気信号と、各センサ5の位置情報とに基づいて、到来波の周波数および入射角を推定することもできる。これにより、広帯域な到来波について、その散乱挙動に基づいて、電波または電磁環境の推定を簡便に行うことができる。
【0104】
さらに、到来波受信装置1の到来波受信ユニット2において、散乱体4とセンサ5との配置を多様なものにすることもできる。複数のセンサ5を、複数の散乱体4の配列により形成される円41と同心円51上に配置することによって多様な角度情報が得られ、または同心円51から中心Cに向かって径方向にずらして配置することによって多様な周波数情報が得られることになる。このように、到来波受信ユニット2においてセンサ5を適切に配置することにより、限られた数のセンサ5からより多くの情報を得ることができる。
【0105】
さらに、散乱体4については、断面が円形または正多角形の円柱または正多角柱状にすることができる。これにより、到来波IWからより多くの散乱パターンが得られるように設計することが可能になる。
【0106】
上記のような到来波受信装置1によって、電波または電磁ノイズに限定することなく、広帯域な電磁波の周波数および到来方向を短時間かつ高精度に推定することができる。例えば、電波環境に適用した場合、周波数帯をWi-Fiなど狭帯域に限定すれば、チャネルごと・場所ごとのつながりやすさを推定することができる。一方、広帯域で使用する場合、LTE/5G等の広域無線通信のアクセスポイントを設置する場合に電波環境を推定することで、最適な設置場所を見つけることが可能となる。
【0107】
また、電磁環境に適用した場合、到来方向と周波数が瞬時に特定できるため、通信装置のノイズ故障の要因特定を効率化することができる。従来は、高度な技術者が経験則に基づきアンテナやプローブを使って、周波数ごとに到来方向を調査してから、故障要因を特定していたため、従業員の制約条件、時間、労力を要していた。しかし、上記のような到来波受信装置1によって、高度な技術を要さず、短時間かつ簡単に故障要因特定が行えるようになる。
【0108】
また他の用途として、入力をアレーアンテナからの送信信号、出力をアレーアンテナの受信信号として、散乱体4の配列状態を解くような問題として置き換えた場合に、応用として地中に埋まった不発弾や地雷の場所(解く問題の位置づけとして散乱体配列に対応)を推定することができる。
【0109】
このように、一実施形態に係る到来波受信装置1により、広帯域な到来波に対してその周波数ないしは到来方向を推定することができるようになる。
【0110】
[他の実施形態]
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0111】
例えば、複数の散乱体4が、円41上に配置されるものとして図示して説明したが、これに限るものではない。例えば、複数の散乱体4が、円の一部、すなわち円弧上に配置されるように構成することもできる。これにより、ある程度到来波の到来方向がわかっている場合など、よりシンプルな構成で到来波の受信および推定を行うことが可能となる。なお、この場合、回折の影響を抑えるため、円弧の中心角としては120°以上が好ましく、180°以上がより好ましい。
【0112】
また散乱体4について、円柱状または正n角柱状(n=3,4,5・・・)として示したが、これに限るものではない。特に、情報量を増やすという観点から、正n角柱のnは大きい整数(例えば6以上)であることが好ましいが、これに限るものではない。
【0113】
同様に、センサ5を円柱状の構成で図示したが、単に模式的に示したものにすぎず、任意の構成・形状を採用することができる。
【0114】
また支持盤7を構成する平行平板7A,7Bは、必ずしも円形板である必要はなく、図示したように一定の厚さに構成する必要もない。
【0115】
さらに、データ処理部3Bが備える各部301~304を複数の装置に分散配置し、これらの装置が互いに連携することにより学習および推定を行うようにしてもよい。あるいは、到来波受信ユニット2、信号処理部3A、データ処理部3B、入力デバイス21および表示デバイス22を単一の装置に一体化することも可能である。
【0116】
その他、データ処理部3Bによる学習方法および推定方法等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0117】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1…到来波受信装置、2…到来波受信ユニット、3…データ処理ユニット、3A…信号処理部、3B…データ処理部、4…散乱体、5…センサ、6…パターン生成領域、7…支持盤、導波路形成部材、9…信号線、10…支持部材、20…ADC、21…入力デバイス、22…表示デバイス、30…制御ユニット、31…入出力インタフェース、32…データメモリ、41…第1の円、50…バス、51…第2の円、301…計測データ取得部、302…学習部、303…推定部、304…出力制御部、321…計測データ記憶部、322…推定モデル記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C