(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】皮膚の疾患又は状態の検出、診断又は治療のための皮膚パッチデバイス及び皮膚パッチデバイスを備えたキット。
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20230220BHJP
A61M 37/00 20060101ALN20230220BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61M37/00 510
(21)【出願番号】P 2019539626
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032167
(87)【国際公開番号】W WO2019044993
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2017166153
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する理想自己と家族の絆が導くモチベーション向上社会創生拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 洋行
(72)【発明者】
【氏名】大黒 耕
(72)【発明者】
【氏名】長峯 邦明
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0051695(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0310665(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107007927(CN,A)
【文献】国際公開第2013/058879(WO,A2)
【文献】国際公開第2005/049108(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/195119(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/069615(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
A61F 2/82 - 2/97
A61M 25/00 -29/04
A61M 35/00 -36/08
A61M 37/00
A61M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルアレイと、
前記マイクロニードルに取り付けられた標識分子と、
前記マイクロニードルに取り付けられた前記標識分子が前記マイクロニードルから解離することにより生じた変化を電気信号として検出するセンサ部と
を備える皮膚の疾患又は状態を検出、診断及び/又は治療するための
皮膚パッチデバイス。
【請求項2】
前記標識分子は、生体高分子と、生体高分子と会合する標識分子とから構成された凝集体としてマイクロニードルに取り付けられている請求項1に記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項3】
前記生体高分子がタンパク質又は核酸である請求項2に記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項4】
前記標識分子がATPに結合可能な標識分子である請求項1~3のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項5】
前記マイクロニードルの先端がニッケル、ニッケル合金、及び金からなる群より選択される金属によりメッキされている請求項1~4のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項6】
前記マイクロニードルの先端が導電性高分子により被覆されている請求項1~5のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項7】
前記標識分子が、ポリオキシアルキレン、ポリアリルアミン、又はその両方を含む主鎖と、前記主鎖に取り付けられたグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群より選択されるカチオン性の基と、前記主鎖における該カチオン性の基とは別の位置に、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、及びイミノ(-N-)結合からなる群より選択される結合を介して取り付けられたフェニルボロン酸の部分とを備えている請求項1~6のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項8】
前記マイクロニードルが内部に網目状に延びる流路を有する請求項1~7のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項9】
前記センサ部がトランジスタから構成される請求項1~8のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項10】
前記トランジスタが、そのゲート電極がマイクロニードルと電気接続され、参照電極がソース電極と接続された延長ゲート型である、 請求項9に記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項11】
前記トランジスタの活性層が有機半導体である、請求項9又は10に記載の
皮膚パッチデバイス。
【請求項12】
請求項1~1
1のいずれかに記載の
皮膚パッチデバイスを備えた皮膚の疾患又は状態の検出若しくは診断用、又は皮膚内への薬剤送達用のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の疾患又は状態の検出、診断又は治療のためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人体最大の臓器であり、その疾患はクオリティ・オブ・ライフに大きな影響を及ぼす。アトピーの発症は皮膚のバリア機能の低下との関連が指摘されている。また、たとえば皮膚疾患の一つである皮膚がんは近年患者数が増加している。皮膚がんは早期発見によって生存率を高められると言われているが、シミ・ホクロと見分けづらく診断が困難である。
【0003】
従来、皮膚がんはダーモスコピー(Dermoscopy)により専門医が目視により対象部位を直接観察していたが、主観的評価であるため医師の知識・経験により評価にばらつきがあった。
【0004】
また、ダーモスコピーでの疑いがあった場合には、生検により皮膚がんであるか否かを確定するが、生検は侵襲的であるため、あまり多くの部位に適用できないという問題があった。
【0005】
さらには、ダーモスコピーを用いた場合、治療薬投与等による治療は別に行う必要がある。
【0006】
他方、患者から生物学的流体を抽出したり、患者へ薬物を供給したりするための低侵襲的なデバイスとしてマイクロニードルが使用されているが(特許文献1)、患者から得られたデータを用いて診断を行うには大型な外部の診断装置が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、大型の外部機器を必要とせずに、被験者の生体内試料から、その場で皮膚の疾患又は状態を検出、診断又は治療できるパッチ型デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、マイクロニードルを備えたマイクロニードルアレイと、被験者の生体内の特定の分子に特異的に応答する標識分子と、センサ部(特には有機トランジスタ)とを組み合わせた。より具体的には、マイクロニードルを導電性の電極とすると共に、上記標識分子をマイクロニードルアレイに取り付け、上記標識分子がマイクロニードルから解離することにより生じた変化を電気信号としてセンサ部で検出することにより、その場(局所)測定による皮膚の疾患又は状態の検出、診断又は治療を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
[1]複数のマイクロニードルを備えたマイクロニードルアレイと、
前記マイクロニードルに取り付けられた標識分子と、
前記マイクロニードルに取り付けられた前記標識分子が前記マイクロニードルから解離することにより生じた変化を電気信号として検出するセンサ部と
を備える皮膚の疾患又は状態を検出、診断及び/又は治療するための皮膚パッチデバイス。
[2]前記標識分子は、生体高分子と、生体高分子と会合する標識分子とから構成された凝集体としてマイクロニードルに取り付けられている[1]に記載の皮膚パッチデバイス。
[3]前記生体高分子がタンパク質又は核酸である[2]に記載の皮膚パッチデバイス。
[4]前記標識分子がATPに結合可能な標識分子である[1]~[3]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイス。
[5]前記マイクロニードルの先端がニッケル、ニッケル合金、及び金からなる群より選択される金属によりメッキされている[1]~[4]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイス。
[6]前記マイクロニードルの先端が導電性高分子により被覆されている[1]~[5]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイス。
[7]前記標識分子が、ポリオキシアルキレン、ポリアリルアミン、又はその両方を含む主鎖と、前記主鎖に取り付けられたグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群より選択されるカチオン性の基と、前記主鎖における該カチオン性の基とは別の位置に、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、及びイミノ(-N-)結合からなる群より選択される結合を介して取り付けられたフェニルボロン酸の部分とを備えている[1]~[6]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイス。
[8]前記マイクロニードルが内部に網目状に延びる流路を有する[1]~[7]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイス。
[9]前記センサ部がトランジスタから構成される[1]~[8]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイス。
[10]前記トランジスタが、そのゲート電極がマイクロニードルと電気接続され、参照電極がソース電極と接続された延長ゲート型である、 [9]に記載の皮膚パッチデバイス。
[11]前記トランジスタの活性層が有機半導体である、[9]又は[10]に記載の皮膚パッチデバイス。
[12][1]~[11]のいずれかに記載の皮膚パッチデバイスを備えた皮膚の疾患又は状態の検出若しくは診断用、又は皮膚内への薬剤送達用のキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明のデバイスを被験者の皮膚に刺入れた状態で、被験者の生体内試料から、その場で皮膚の疾患又は状態を検出、診断又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の皮膚パッチの略側面図。
【
図2】好ましい実施形態のマイクロニードル(A)及びマイクロニードルアレイ(B)の略断面図。
【
図3】別の好ましい実施形態のマイクロニードル(A)及びマイクロニードルアレイ(B)の略断面図。
【
図4】マイクロニードルアレイを示す説明図。(A)マイクロニードルの寸法を示す説明図、(B)マイクロニードルアレイの寸法を示す説明図。
【
図5】マイクロニードルの表面に付着した生体高分子応答性の標識分子と、ATP存在下での該標識分子の解離について説明する模式図。
【
図7】ATP応答性の他の標識分子の一例の構造式。
【
図8】酵素トリプシン(a)への標識分子(b)の接着(c)による凝集体(d)の形成と、ATP(d)の存在下での標識分子の酵素からの解離(e)について説明する模式図。
【
図10】センサ部のトランジスタの構造を示す略図。
【
図11】マイクロニードルアレイの別例を示す略平面図。
【
図12】マイクロニードルアレイの別例を示す略平面図。
【
図13】別のセンサ部のトランジスタの構造。(A)は略側面図、(B)は略平面図。
【
図14】水晶振動子マイクロバランス(QCM)による経時的な共振周波数の変化を示すグラフ。
【
図15】(A)標識分子を表面に取り付けた、自己組織化単分子膜を備えたマイクロニードル型金電極の略部分拡大図、(B)標識分子を表面に取り付けた、PEDOT:PSS層を備えたマイクロニードル型金電極の略部分拡大図、(C)
図15(A)のマイクロニードル型金電極の電位変化を示すグラフ、(D)
図15(B)のマイクロニードル型金電極の電位変化を示すグラフ。
【
図16】マイクロニードル上の電位の変化を示すグラフ。横軸は時間、縦軸は電位のドリフト(線形)を差し引いた値である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、皮膚の「疾患」は、皮膚の不健康又は異常な状態を表す。
【0014】
本明細書において、皮膚の「状態」は、皮膚の健康状態を表す。
【0015】
本明細書において、皮膚の疾患又は状態の「検出」は、皮膚の疾患又は状態の有無の判定、皮膚の疾患又は状態の予防効果の判定、皮膚の疾患又は状態の治療効果の判定、皮膚の疾患又は状態の診断(特には早期診断)のための検査方法、及び皮膚の疾患又は状態の治療(特には早期治療)のための検査方法を含む。
【0016】
本明細書において、皮膚の疾患又は状態の「診断」は、皮膚の疾患又は状態の有無又は性質を同定することを意味する。皮膚の疾患又は状態の有無の検出が皮膚の疾患又は状態の有無の判定を指す場合、「検出」と「診断」は同義である。
【0017】
本明細書において、「治療」とは、(1) 疾患を予防すること、即ち、疾患にさらされるか、或いは疾患にかかりやすい可能性があるが、まだ疾患の症状を経験していない或いは疾患の症状が出ていない被験者において疾患の臨床症状を発症させないこと;(2) 疾患を阻害すること、即ち、疾患又はその臨床症状の発症を、抑止、制御、減速、停止または抑制すること;或いは(3)疾患を軽減すること、即ち、疾患又はその臨床症状を退行させるか、或いは疾患又はその臨床症状を改善させることが挙げられる。
【0018】
本明細書において、「被験者」は、ヒト及び非ヒト動物を含む。非ヒト動物には、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ及びブタのような哺乳動物)、鳥類、魚類、爬虫類、両生類等が含まれる。好ましい被験者はヒト、又はマウス、ラット等の非ヒト哺乳動物である。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の皮膚の疾患又は状態を検出、診断及び/又は治療するためのデバイスとしての皮膚パッチ1を示す。皮膚パッチ1は、マイクロニードルアレイ10と、マイクロニードルアレイ10に取り付けられた検出部30と、検出部30におけるマイクロニードルアレイ10とは反対側に取り付けられた皮膚パッチ1の表面の装飾及び/又は保護のための表面層60とを備えている。
【0021】
マイクロニードルアレイ10は、シート状の基材12と、基材12の片方の面に立設された複数のマイクロニードル14とを備えている。マイクロニードル14の表面にはさらに、生体高分子22と、生体高分子22と会合する分子糊とも呼ばれる標識分子24とから構成された凝集体20が取り付けられている(
図5参照)。後述するように、一実施形態では、標識分子24はATP26と結合可能である。
【0022】
検出部30は、マイクロニードルアレイ10の基材12におけるマイクロニードル14が立設された面とは反対側の面に取り付けられている。検出部30は導線62に繋がれており、検出部30において被験者の生体内試料から得られた生体情報のデータを導線62を介して送信する、及び/又は導線62を介して有線式に外部電源(非図示)から検出部30へ電気を供給することができる。
【0023】
次に、マイクロニードルアレイ10、凝集体20、及び検出部30のそれぞれについてより詳しく説明する。
(1)マイクロニードルアレイ10
マイクロニードルアレイ10は、公知のいかなるマイクロニードルアレイの構成を有していてもよいが、一実施形態では、多孔質のマイクロニードルアレイ10であることが好ましい。そのような多孔質のマイクロニードルアレイ10が日本国特開2017-724に記載されている。具体的には、
図2(A),(B)に示すように、マイクロニードルアレイ10及び各マイクロニードル14は内部に網目状に延びる複数の流路16を備えている。
【0024】
なお、
図2(A),(B)に示すマイクロニードルアレイ10の内部では、流路16の断面形状が流路 16の延在方向に関する位置によって異なり、また、流路16の断面積が流路16の延在方向に亘って不定である、より具体的には、流路16の断面積が不規則に漸増及び漸減を繰り返している。
【0025】
代わりに、
図3(A),(B)に示すように、マイクロニードルアレイ10の内部を、流路16の断面形状が流路16の延在方向に亘って同じであり、また、流路2の断面積が流路2の延在方向に亘って一定である構成としてもよい。
【0026】
マイクロニードル14を皮膚(図示せず)に刺入した際には、皮下組織液とマイクロニードル14に設けられた網目状に延びる流路16との間で毛細管現象が生じ、皮下組織液をマイクロニードル14の流路16を通じて高速で吸い上げることが可能となる。そのため、マイクロニードル14は、優れた吸水速度を備える。この作用効果により、例えば、皮下組織液等の体液の採取(サンプリング)を高速で行うことができる。
【0027】
また、マイクロニードル14が内部に網目状に延びる流路16を備えているため、薬剤溶液をマイクロニードル14の流路16を通じて迅速に皮下に投与することも可能となる。
【0028】
ここで、
図2(A)及び
図3(A)に示すように、マイクロニードル14では、流路16の径Rが、前述の毛細管現象による効果を十分に得る観点から、好適には30μm以下であり、更に好適には10μm以下であり、特に好適には5μm以下であり、また、好適には50nm超であり、更に好適には100nm以上であり、より好適には500nm以上で あり、特に好適には1μm以上である。
【0029】
なお、流路16の径Rとは、マイクロニードル14の内部に設けられた全ての流路16についてそれらの延在長さに亘って径(最大径)を測定した場合における径の平均値を指す。
【0030】
また、マイクロニードル14では、流路16の延在長さLが、10~1000μmであってよく、前述の毛細管現象による効果を十分に得る観点から、100~1000μmであることが好ましく、製造の簡便性の観点から、100~300μmであることが更に好ましい。
【0031】
なお、流路16の延在長さLとは、マイクロニードル14の内部に設けられた全ての流路16についてそれらの延在長さを測定した場合における延在長さの平均値を指す。
【0032】
更に、マイクロニードル14では、流路16の延在長さLの流路16の径Rに対する割合(L /R)が、マイクロニードル14の内部に流路16をより連続的に設けて、マイクロニードル14の吸水速度を更に高める観点から、好適には2以上であり、更に好適には10以上であり、特に好適には100以上であり、最も好適には1000以上である。
【0033】
マイクロニードル14は、その内部を貫通する流路16を少なくとも1つ備えることが好ましい。貫通していない流路16では、流路16内の圧力が高まり、皮下組織液の流路16への導入が遅くなるのに対して、貫通する流路16では、皮下組織液が毛細管現象により流路16に導入される際に、流路16内の圧力の高まりが抑制され、皮下組織液の流路16への導入が速くなる。
【0034】
また、マイクロニードル14の空隙率は、吸水速度を更に高めつつ、機械的強度を十分に得る観点から、5~50%であることが好ましく、10~30%であることが更に好ましい。
【0035】
図1~
図3(B)に示すマイクロニードル14は、円錐台形状を有している。
【0036】
図4(A)及び(B)は、マイクロニードル14及びマイクロニードルアレイ10の寸法をそれぞれ示す説明図である。マイクロニードル14の円錐台形状における底面の円の直径Rbは、20~500μmとしてよく、作製の簡便さおよび皮膚への刺し入れのしやすさ、機械的強度の観点から、100~400μmであることが好ましく、例えば、300μmであってよい。頂面の円の直径Rtは、1~50μmとしてよく、作製の簡便さ、及び皮膚への刺し入れのしやすさの観点から、5~20μmであることが好ましく、例えば10μmであってよい。
【0037】
マイクロニードル14の高さHは、20~1000μmとしてよく、角質を貫通させた上で表皮との十分な接触面積を確保し、真皮への侵襲を防ぐ観点から、30~600μmであることが好ましく、 例えば600μmであってよい。
【0038】
なお、本発明のマイクロニードルの三次元形状は、円錐台形状に限定されることなく、皮膚に刺入することが可能である限り、円錐形状、四角錐形状、四角錐台形状等の他の形状としてもよい。
【0039】
マイクロニードル14の材料は、特に限定されないが、マイクロニードル14は表面が金属又は導電体である必要がある。従って、マイクロニードル14は、金属から形成されるか、または例えば、金属、樹脂、ハイドロゲル材料、酸化物等からなるマイクロニードル14を、金属、導電性高分子、ナノカーボン等でさらにコーティングしたものである。
【0040】
マイクロニードル14を形成する金属としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、チタン、チタン合金、銀、金等が挙げられる。
【0041】
また、コーティングに用いられる金属としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、チタン、チタン合金、銀、金等が挙げられる。導電性高分子は、共役したポリエン系がエネルギー帯を形成し伝導性を示すポリマーを指し、例えばポリアセチレン、ポリチオフェン等が挙げられる。ポリチオフェンとしては、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))を含むチオフェンが周知であり、ポリスチレンスルホン酸(PSS)をドープしたPEDOT(PEDOT:PSS)は市販のものを利用可能である。
【0042】
マイクロニードル14を金属によりコーティング(めっき)する場合、例えばマイクロニードル14の先端を含む一部、マイクロニードル14の全体、又はマイクロニードル14と基部12とを含むマイクロニードルアレイ10の連続する一面全体をめっきすることができる。電解めっき法及び無電解めっき法が周知であり、無電解めっき法が好ましい。樹脂又は導電性高分子との界面の接着性から、ニッケルめっきが好ましい。樹脂又は導電性高分子上へのニッケルめっきと、ニッケル上への金めっきは、従来より良く知られており、製造が比較的容易である。
【0043】
マイクロニードル14の多孔質表面のめっきの表面に、さらに自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer, SAM)などの有機分子の修飾を行うと、マイクロニードル14の内壁は親水性を有して毛細管現象が起こる。
【0044】
マイクロニードル14の多孔質表面のめっきの表面に、自己組織化単分子膜(SAM)などの有機分子の修飾を行い、生体高分子22と結合する構成とすることができる。SAMが含む単分子としては、通常、炭素原子数4~20程度のカルボキシアルカンチオール(例えば(株)同仁化学研究所、シグマアルドリッチ ジャパン(株)などから入手可能)が用いられる。SAMの形成方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
また、マイクロニードル14の多孔質表面のめっきの表面を、PEDOT:PSS層等の導電性高分子により被覆する構成としてもよい。特に、PEDOT:PSSは電子部材の帯電性の防止等に効果があり、微小な電気的変化を測定する本発明においては、電位安定性の観点から好ましい。PEDOT:PSSの形成方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0045】
樹脂としては、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等が挙げられる。特に、多官能性架橋剤存在下で重合することで剛直な架橋構造となるポリグリシジルメタクリレート又はポリスチレンジビニルベンゼンコポリマー等が、ポリエチレングリコールなどと混合することで連続的な細孔構造をもつポリマーモノリスとなることから好ましい。多孔質ポリマーモノリスについては例えばF. Svec. J. Chromatogr. A, 1217 (2010), 902-924を参照されたい。
【0046】
マイクロニードル14がポリマーモノリスである場合について以下に詳述する。ポリマーモノリスの空隙率は、マイクロニードル14の機械的強度を十分に得る観点、また、皮膚組織液を高速かつ多量に採取する観点から、5~80%であることが好ましく、10~70%であることが更に好ましく、30~60%であることが特に好ましく、40~50%であることが最も好ましい。なお、「空隙率」は、マイクロニードル14内に画成された細孔体積の、マイクロニードルの外容積に対する割合である。空隙率は、乾燥したマイクロニードル14を蛍光色素を含む水溶液に浸漬して取り出した後、マイクロニードル14が吸収した蛍光色素を純水で抽出することによって測定することができる。また、ポリマーモノリスの曲げ破断応力は、マイクロニードル14の機械的強度を十分に得る観点から、10kPa~50MPaであることが好ましく、100kPa~30MPaであることが更に好ましく、300kPa~20MPaであることが更により好ましく、1MPa~20MPaであることが特に好ましく、2MPa~5MPaであることが最も好ましい。なお、「引張破断応力」は、引張荷重によりハイドロゲルが破断する応力を、ロードセルを用いて計測することによって、測定することができる。測定装置としては、例えば、インストロン社製の引張試験機5960シリーズ等が挙げられる。
【0047】
ハイドロゲル材料とは、水(分散媒)に分散させることによって、ハイドロゲルを形成する材料をいう。ハイドロゲル材料としては、例えば、寒天、ゼラチン、アガロース、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロチウムガム、アラビヤガム、トラガントガム、カラヤガム、セルロースガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、キトサン、カラギーナン、クインスシード、ガラクタン、マンナン、デンプン、デキストリン、カードラン、カゼイン、ペクチン、コラーゲン、フィブリン、ペプチド、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のコンドロイチン硫酸塩、ヒアルロン酸(ムコ多糖類)及びヒアルロン酸ナトリウム等のヒアルロン酸塩、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、及びアルギン酸カルシウム等のアルギン酸塩、並びにこれらの誘導体等の天然高分子;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体及びこれらの塩;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸・メタクリル酸アルキルコポリマー等のポリ(メタ)アクリル酸類及びこれらの塩;ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸コポリマー、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸無水物)とポリエチレングリコールとの架橋体、ポリエチレングリコール架橋体、N-ビニルアセトアミド架橋体、アクリルアミド架橋体、デンプン・アクリル酸塩グラフトコポリマー架橋物等の合成高分子;シリコーン;相互侵入網目構造ヒドロゲル及びセミ相互侵入網目構造ヒドロゲル;これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0048】
これらの中でも、ハイドロゲルを構成する材料としては、耐荷重、生体親和性の観点から、コラーゲン、グルコマンナン;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム;相互侵入網目構造ヒドロゲル及びセミ相互侵入網目構造ヒドロゲルが好ましい。また、優れた機械的強度及び優れた生体適合性を得る観点から、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸無水物)とポリエチレングリコールとの架橋体が好ましい。更に、ハイドロゲルの電気的中性を担保する観点から、架橋ポリエチレングリコールが好ましい。
【0049】
マイクロニードル14の材料は、上記網目状に延びる流路16により吸水速度を高めながら、マイクロニードル14自体に通液性を与えることによって吸水速度を更に高める観点から、ハイドロゲル材料を含んでいても良い。ハイドロゲル材料は、ニードルを皮膚に刺し入れた際に皮下組織液等の体液を吸収することによって、ハイドロゲルとし得る。
【0050】
酸化物としては、無機酸化物及びその誘導体が挙げられ、ここで、無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0051】
薬剤としては、例えば、分子量500以下の低分子医薬、分子量500を超える高分子医薬、DNA、RNA、ペプチド(2個以上50以下のアミノ酸が結合したものを指す)等が挙げられる。高分子医薬には、抗体医薬等のタンパク質が含まれる。薬剤の例としては、抗腫瘍剤、ホルモン(例えばインシュリン)、ワクチン等が挙げられる。
【0052】
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)に示すように、本発明の実施形態のマイクロニードルアレイ10では、マイクロニードル14が、正方形の基材12上に、マイクロニードル14の底面が基材12表面上に位置するように、配置されている。マイクロニードルアレイ10におけるマイクロニードル14の立設態様としては、特に限定されることなく、適用部位や使用目的に合わせて適宜定めることができる。マイクロニードル14は基材に均一に又は不均一に立設されていてよく、例えば、
図4(B)に示すように、所定方向に複数個(
図4(B)では11個)、該所定方向に直交する方向に複数個(
図4(B)では11個)立設される。
【0053】
図4(B)に、マイクロニードルアレイ10の寸法を示す説明図を示す。マイクロニードル14の数は、特に限定されることなく、適用部位や使用目的に合わせて適宜定めることができる。 隣接するマイクロニードル14間の距離d(マイクロニードル14の底面間の最短距離)は、特に限定されないが、10~500μmとしてよく、皮膚に刺し入れるニードルの単位面積当たりの量を十分としつつ、刺入時にニードル1つ当たりにかかる力を十分にしてニードルの皮膚への刺入を容易にする観点から、20~300μmであることが好ましく、例えば、50μmであってよい。
【0054】
マイクロニードルアレイ10の基材12の材料は、特に限定されないが、基材12は、ポリマーモノリス又はハイドロゲルを含むことが好ましく、ポリマーモノリス又はハイドロゲルからなるものとしてもよい。基材12の材料はマイクロニードル14の材料と同じであってもよい。マイクロニードル14と基材12とが一体化されていることが好ましい。本発明の効果を高める観点から、流路16がマイクロニードル14と基材12とにおいて連通していることが、好ましい。
【0055】
マイクロニードルアレイ10の製造方法は、公知のマイクロニードルアレイの製造方法であってもよい。好ましい製造方法の例がL. Liu et al., RSC Advances (2016) 6, 48630-48635に記載されている。具体的には、マイクロニードルアレイは、細孔の鋳型となるポリエチレングリコールのメトキシエタノール溶液の存在下で、多官能性の架橋剤とグリシジルメタクリレートモノマーを光重合することで調製される。光重合の後、ポリエチレングリコールを洗浄除去することにより、マイクロニードル及びマイクロニードルアレイ内に流路16が形成される。
【0056】
(2)凝集体20
図5の矢印の左側に示すように、皮膚パッチ1を被験者の皮膚に刺入れる前には、生体高分子22と標識分子24とから構成された凝集体20は、マイクロニードル14の表面に付着している。生体高分子22はカルボキシレート基(COO
-)及びホスフェート基(H
2PO
4
-)等のアニオンを有する生体高分子である。標識分子24はこれらのアニオンを介して生体高分子22と多価塩架橋を形成することで分子会合し、生体高分子22とともに凝集体を形成する。生体高分子22は、好ましくはタンパク質(例えば酵素)、核酸等である。
【0057】
生体分子を共有結合により標識すると、生体分子の化学的な変性が生じるが、本発明の一実施形態では、生体高分子22を生体高分子22のまま標識分子24により標識できるため、より自然な状態で皮膚の疾患又は状態を検出、診断及び/又は治療することができる。
【0058】
図の矢印の右側に示すように、皮膚パッチ1を被験者の皮膚に刺入れた後では、マイクロニードル14の周囲が被験者の皮下の流体、特には組織液に浸される。
【0059】
標識分子24は、被験者の生体内の特定の分子と結合するように設計することができる。例えば、標識分子24をフェニルボロン酸基を有するように設計すると、ATP26と結合させることが可能である。組織液中にはATP26が存在するため、凝集体20中の標識分子24はマイクロニードル14の表面から解離して、標識分子24はATP26と結合する。標識分子24が生体分子22から解離することで生体分子22の活性が回復し、後述するように、この変化を電気信号として検出部30にて検出することができる。
【0060】
ATP応答性の標識分子24は、(i)ポリオキシアルキレン、ポリアリルアミン、又はその両方を含む主鎖と、(ii)該主鎖の片端又は両端に取り付けられた蛍光性の基、(iii)該主鎖に取り付けられたグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基からなる群より選択されるカチオン性の基と、(iv)主鎖における該カチオン性の基とは別の位置の、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、及びイミノ(-N-)結合からなる群より選択される結合を介して取り付けられたフェニルボロン酸の部分とを備えている。
【0061】
図6は、ATP応答性の標識分子24の一例の構造式である。(i)のポリオキシアルキレンからなる主鎖の両端に(ii)の蛍光性の基としてチオールが付加されたフェニルマレイミドが取り付けられ、(i)の第一のポリオキシアルキレンの繰り返し単位中に(iii)のカチオン性の基としてグアニジン基(Gu
+)が付加され、(i)の第二のポリオキシアルキレンの繰り返し単位中に(iv)のアミド結合を介したフェニルボロン酸(BA)の部分が取り付けられている。xは1~100であり、yは1~100である。
【0062】
(i)の主鎖はポリアルキレンオキシ基を含むため、親水性が高く、組織液中に溶解することができる。アルキレン基は、炭素数1~6、好ましくは2~5の直鎖状又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレンオキシ基としては、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基などが挙げられるが、入手のしやすさや親水性などの点からエチレンオキシ基が好ましい。また、これらのアルキレンオキシ基は、水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基などの親水性の基で置換されていてもよい。
【0063】
分岐鎖におけるアルキレンオキシ基の繰り返し数としては、特に制限はないが、好ましくは1~10、より好ましくは1~6、さらに好ましくは2~4が挙げられる。アルキレンオキシ基の高分子量化を容易にするために、アルキレン基の繰り返しがジスルフィド結合により結合されてもよい。ジスルフィド結合は細胞内で容易に分解されるため、細胞毒性を低減するという利点も有する。
【0064】
(ii)の蛍光性の基は、測定可能な蛍光を発する基であって、主鎖に結合できる基であれば特に限定されず、公知の蛍光色素を使用することができる。好ましくは、蛍光性の基としては、チオールが付加されたフェニルマレイミド、フルオレセインマレイミド、ローダミンマレイミド、シアニンマレイミドが挙げられる。
【0065】
(iii)の該主鎖に取り付けられるグアニジン基、チオウレニウム基、及びイソチオウレニウム基は、下記の[1]~[3]の通りである。
【0066】
【0067】
が挙げられる。これらの基の水素原子部分は炭素数1~10、好ましくは1~5の直鎖状 又は分岐状のアルキル基などで置換されていてもよい。
【0068】
標識分子24がもつこれらのカチオン性の基が、生体高分子22のカルボキシレート基(COO- )及びホスフェート基(H2PO4
-)等のアニオン性と結合することで、標識分子24は生体高分子22と分子間相互作用により会合することができる。
【0069】
(iv)のフェニルボロン酸の部分はATP26中のリボース基と共有結合を形成する。この結果、標識分子24がもつカチオン性の基がATP26中のリン酸基と優先的に結合するようになり、標識分子24が生体高分子22から解離する。
【0070】
ATP応答性の標識分子24の合成方法に関し、(i)のポリオキシアルキレンを含む主鎖への(iii)のカチオン性の基の導入については特許第4949206を参照されたい。
図7は、ATP応答性の標識分子24のもう一つの例の構造式である。(i)の第一のポリアリルアミンの繰り返し単位中に(iii)のカチオン性の基としてグアニジン基(Gu
+)が付加され、(i)の第二のポリアリルアミンの繰り返し単位中に(iv)のアミド結合を介したフェニルボロン酸(BA)の部分が取り付けられている。xは1~100であり、yは1~100である。(i)のポリアリルアミンからなる主鎖の一端または両端には(ii)の蛍光性の基が取り付けられ得る。
(i)の主鎖はポリアリルアミン基を含むため、親水性が高く、組織液中に溶解することができる。繰り返し単位のアルキレン基は、炭素数1~6、好ましくは2~5の直鎖状又は分岐状のアルキレンが挙げられる。好ましいアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられるが、入手のしやすさや親水性などの点からエチレン基が好ましい。また、これらのアルキレン基は、水酸基、炭素数1~5のアルコキシ基などの親水性の基で置換されていてもよい。
(ii)の蛍光性の基、(iii)のカチオン性の基、及び(iv)のフェニルボロン酸の部分は
図6を参照しながら(i)がポリオキシアルキレンを含む主鎖である場合に説明したのと同じものを使用することができる。
【0071】
図8は、凝集体20の形成と、ATPの存在下での標識分子24の解離を示す一例である。
【0072】
生体高分子22としての酵素トリプシン(a)へ、ATP応答性の標識分子24(b)が接着し、凝集体20が形成される(c)。この系にATP(d)が存在すると、凝集体20の酵素トリプシンから標識分子24が解離し、標識分子24はATPと結合する。(e)。
【0073】
このような構成をとることで、ATPの濃度依存的に酵素の活性を調節することができ、以下のセンサ部でこの酵素反応を検出部30にて電気化学的に検出することでATP濃度を計測することができる。
【0074】
(3)検出部30
図9は、検出部30の構成を示す略図である。本実施形態の検出部30は、基板31上に、センサ部32と、センサ部32に信号を与えて駆動させるセンサ駆動回路部34と、プリント基板31全体に電源を供給する給電部33と、センサ部32からの出力を処理して検出信号を出力する検出回路部35と、該検出信号を外部に出力するための出力インタフェース(出力IF)部36とが一体的に集積化されるように構成されている。
【0075】
センサ部32にはバイオセンサとしてのトランジスタが設けられている。本発明に係るトランジスタは、公知のトランジスタ構造により構成することもでき、無機トランジスタでも有機トランジスタであってもよい。デバイス全体が柔軟になり体表へ装着しやすくなることから、有機半導体を用いた電界効果トランジスタ(有機電界効果トランジスタ)が好ましい。中でも、マイクロニードルアレイ10の導電性の多孔質のマイクロニードル14からなるマイクロニードル電極との接続が容易であり、半導体と生体(ここでは皮下の間質液)の直接接触を避けることで安定した動作が可能な延長ゲート型有機電界効果トランジスタが好ましい。
【0076】
有機半導体の構成材料としては、P型の場合は、ペンタセン、テトラメチルペンタセン、パーフルオロペンタセン、TIPSペンタセン等のペンタセン類、Cn-DNTT等のジナフトチエノチオフェン類、Cn-BTBT等のベンゾチエノベンゾチオフェン類、TES-ADT等のアントラジチオフェン類、ルブレン、P3HT等のポリチオフェン類、PBTTT等のポリチエノチオフェン類等を用いることができ、N型の場合は、フラーレン等を用いることができる。
【0077】
図10に延長ゲート型トランジスタ37の例を示す。トランジスタ37は、トランジスタ部位38と延長ゲート電極部位39とから構成される。トランジスタ部位38は、基板40と、基板40上に形成されたゲート電極41、ゲート電極41の表面に設けられたゲート絶縁膜42、更にゲート絶縁膜42の表面に設けられたソース電極43及びドレイン電極44、並びにソース電極43及びドレイン電極44間をつなぐ半導体層45から構成される。延長ゲート電極部位39は、延長ゲート電極としてのマイクロニードル14と、参照電極46とから構成され、それぞれトランジスタ部位38のゲート電極41及びソース電極43と導電性配線(非図示)で接続されている。皮膚47へマイクロニードル14を刺入すると参照電極46は皮膚47の表面に接触し、マイクロニードル14と参照電極46が皮膚を介して電気的に回路を形成する。本構成において、マイクロニードル14の表面及び内壁が検出表面となる。
図10のマイクロニードル14の表面の太線は、生体高分子22と標識分子24とから構成された凝集体20が固定された検出表面を示す。
【0078】
図10に示した回路48は、ゲート電極に電圧を印加するための回路、回路49はソース・ドレイン電極43,44間に電流を流すために電圧を印加する回路である。このようなトランジスタ37によれば、回路48において上記参照電極46に対しマイクロニードル14に電位V
GSを印加すると、ソース電極43とゲート電極41で挟まれたゲート絶縁膜42が分極し、ゲート絶縁膜42と半導体層45の界面に電荷を誘起され、その結果回路49におけるソース・ドレイン電極43,44間の電流I
SDが制御される。一方、回路48には途中にゲート絶縁膜41を挟んでいるため電流は流れず、印加電圧V
GSは、ゲート絶縁膜42にかかる電圧、延長ゲート電極/皮膚47界面電位、及び参照電極46の電位として分配される。V
GS一定のもとで、マイクロニードル14表面で、電荷を有する標識分子24が生体高分子22から脱離すると、マイクロニードル14/皮膚47の界面の電位が変化する。あるいは、標識分子24の脱離で酵素などの生体高分子22の活性が回復すると、その酵素反応によりマイクロニードル14/皮膚47の界面の電位が変化する。この場合、参照電極46の電位は一定のため、V
GSのうちゲート絶縁膜42に分配される電圧が変化することになる。その結果、ゲート絶縁膜42/半導体層45の界面に誘起される電荷が変化し、I
SDが変化する。この電流の変化は電流計(非図示)でサンプリングされ、検出回路部35で処理され、所定の検出信号として出力IF部36から取り出される。
【0079】
本実施形態では、センサ部32を含めてすべての構成を単一の基板31上に集積化することが可能であり、非常に小型でかつ簡便な構成により皮膚の疾患又は状態を検出、診断及び/又は治療することができるデバイスを得ることができる。
【0080】
また、電界効果トランジスタ(FET)は、検出表面上に捉えた分子固有電荷をトランジスタ特性変化と同期させて検出する全くの非侵襲な計測法であり、リアルタイム計測であること、レーザーや光学系が不要なため安価で小型化に有利であること、また半導体加工技術による高密度・超並列化が容易に行える点など、ハイスループットシステム化において求められる主要要件を潜在的に網羅する。
【0081】
そのため、被験者の生体内試料から得られた生体情報のデータのセンシングと、皮膚の疾患又は状態の検出、診断又は治療を、その場で迅速に(例えば約10分以下で)効率的に行うことが可能となる。
【0082】
(4)本発明のデバイスの使用方法
皮膚パッチ1に具現化して説明した本発明のデバイスは、被験者に全くまたはほぼ痛みを与えずに、その場で被験者の皮膚の疾患又は状態を局所的に検出、診断及び/又は治療することができる。
【0083】
本発明のデバイスは、皮膚の疾患(例えば皮膚がん)が疑われる部位に貼り付けて、皮膚の疾患の可能性を検出又は診断するために使用することができる。
【0084】
この場合、従来のダーモスコピーを用いた直接観察に比べて、医師の知識・経験にかかわらずより精度の高い検出又は診断を行うことができる。
【0085】
また、本発明のデバイスは、外科手術又は薬剤投与の前後の被験者の状態を測定することにより、皮膚の疾患の治療の効果をモニタリングするために使用することもできる。
【0086】
本発明のデバイスを薬剤の投与に使用する場合、マイクロニードル14の表面やマイクロニードル14に設けられた流路16内に薬剤を保持させることで、皮膚の疾患の部位のみに局所的に薬剤を投与できる点で有利である。
【0087】
また、本発明は、上述の本発明のデバイスを備えた皮膚の疾患又は状態の検出若しくは診断用、又は皮膚内への薬剤送達用のキットも包含する。
【0088】
上記キットは、取扱説明書をさらに備えることができる。
【0089】
また、キットが皮膚内への薬剤送達用のキットである場合、キットは治療用の薬剤をさらに備えることができる。薬剤としては、分子量500以下の低分子医薬、分子量500を超える高分子医薬、DNA、RNA、ペプチド(2個以上50以下のアミノ酸が結合したものを指す)、等が挙げられる。高分子医薬には、抗体医薬等のタンパク質が含まれる。薬剤の例としては、抗腫瘍剤、ホルモン(例えばインシュリン)、ワクチン等が挙げられる。
【0090】
なお、皮膚疾患としては、例えば皮膚がん(メラノーマを含む)、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、刺激性皮膚炎、肥厚性瘢痕、ケロイド、やけど、酒さ、乾癬、湿疹、蕁麻疹、ざ瘡、皮膚創傷、潰瘍、光老化、肝斑、及び色素沈着障害からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0092】
皮膚パッチ1の形状は略矩形に限定されず、略円形、略楕円形を含む他の形状であってもよい。例えば
図11に示すように、マイクロニードルアレイ10を略円形とし、検出部30、任意選択の表面層60も略円形にすることで、皮膚パッチ1を略円形とすることもできる。
【0093】
マイクロニードルアレイ10上のマイクロニードル14は、
図1~
図3(B)の実施形態では、隣り合うマイクロニードル14が基部12と連続する基端部で互いに接する状態で示されているが、
図12に示すように、隣り合うマイクロニードル14は互いに離間していてもよい。つまり、隣り合うマイクロニードル14と隣り合うマイクロニードル14が基部12により隔てられていてもよい。
【0094】
表面層60を省略してもよい。
【0095】
上記の実施形態では、検出部30が給電部33を内蔵していたが、導線を介して有線式に外部電源(非図示)から、検出部30に電気が供給されてもよい。
【0096】
上記の実施形態では、
図9の検出部30が給電部33、駆動回路34、検出回路35及び出力IF36を備えていたが、これらのうちの一つ又は複数が検出部30の外に外付けされていてもよい。
【0097】
図10に示したトランジスタ部位38と延長ゲート電極部位39が垂直方向につながれたトランジスタ37の構造の代わりに、
図13(A)及び(B)に示すように、トランジスタ部位38と延長ゲート電極部位39が並置されたトランジスタ37の構造としてもよい。本実施形態では、トランジスタ部位38と延長ゲート電極部位39が基板40の長手方向において離れた位置に配置されているが、他の構成は
図10に示した実施形態と同じである。
図13(B)には、延長ゲート電極としてのマイクロニードル14とゲート電極41とを接続する導電性配線50並びに参照電極46とソース電極43とを接続する導電性配線48が示されている。本構成のトランジスタ37によっても、標識分子24の解離によりマイクロニードル14の表面及び内壁で検出された変化が電気信号として検出される。
【0098】
上記の実施形態では、検出部30が給電部33を内蔵していたが、無線式若しくは非接触式で外部電源(非図示)から、検出部30が電気を供給されてもよい。また、検出部30で生じた電気信号を無線式若しくは非接触式で、外部の処理装置(非図示)へ出力する構成としてもよい。無線式若しくは非接触式で電源供給及び/又は電気信号の出力を行う構成によれば、本発明のデバイスの携帯性、機動性がより高められる。
【0099】
また、上述の実施形態及び変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。
【0100】
また、上述の実施形態及び変形例の構成、方法、工程、形状、材料及び数値などは、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0102】
実施例1 標識分子を含む凝集体の製造
プロパルギルアミンと1,3-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-2-メチル-2-チオプソイド尿素をTHF中で混合し、40℃で24時間撹拌した。溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによってビス(tert-ブトキシカルボニル)プロパルギルグアニジンを得た。
【0103】
ビス(tert-ブトキシカルボニル)プロパルギルグアニジンに3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジチオールを混合し、ベンジルジメチルケタールを添加した後、365 nmの紫外光照射下、室温で2時間撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによってビス(tert-ブトキシカルボニル)グアニジンモノマーを得た。
【0104】
プロパルギルアミンと4-カルボキシフェニルボロン酸ピナコールエステルをMeOHに溶解させ、これに塩化4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムを加えた。混合液をアルゴン雰囲気下、室温で20時間撹拌した後、溶媒を除去した。残渣を酢酸エチルに溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄した。有機層を濃縮し、酢酸エチル中で再結晶することでN-2-プロピン-1-イル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンザミドを得た。
【0105】
N-2-プロピン-1-イル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ベンザミドに3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジチオールを混合し、ベンジルジメチルケタールを添加した後、365 nmの紫外光照射下、室温で2時間撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによってピナコール保護フェニルボロン酸モノマーを得た。
【0106】
上記のビス(tert-ブトキシカルボニル)グアニジンモノマーとピナコール保護フェニルボロン酸モノマーをMeOH中で混合し、フェニルマレイミド、ヨウ素を添加した後、室温で2時間撹拌した。ジエチルエーテルで2回再沈殿を行った後、塩酸/MeOH(v/v = 1/1)中に溶解させ、室温で24時間撹拌した。溶媒を除去することでグアニジン基含有標識分子を得た。
上記のグアニジン基含有標識分子水溶液(1 μM)と酵素(トリプシン)水溶液(50 nM)を混合し、室温で5分間静置することで酵素とグアニジン基含有標識分子(分子糊)の凝集体の溶液を得た。
【0107】
実施例2 標識分子を用いた予備試験
1mM 3,3’-ジチオジプロピオン酸のエタノール溶液に金電極を室温で1時間浸漬し、金電極上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成した。次に金電極をエタノール、純水でそれぞれ3回ずつ洗浄した。
市販のQCM(水晶振動子マイクロバランス)装置(AFFINIX Q4 (アルバック社製))の重量測定部の底面に設けられた水晶発振子に金電極を取り付け、重量測定部に測定溶液(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、Sigma Aldrich社製、D8537、pH7.4)を入れ、標識分子を最終濃度が10μMとなるように測定溶液中に添加し、次に、ATPを最終濃度が2mMとなるように溶液中に添加し、水晶発振子表面の共振周波数の変化を測定した。
結果を
図14に示す。標識分子を添加した直後(グラフ中の(a))から共振周波数が減少するが、ATPの添加(グラフ中の(b))により共振周波数が増大しており、標識分子の金電極への吸着と、標識分子のATPとの結合による金電極からの脱離が観測された。
本発明の標識分子は、ATPと結合することで金表面から脱離する性質を持つことが確認できた。
【0108】
実施例3 マイクロニードルアレイの製造
日本国特開2017-724に従って、ポリグリシジルメタクリレートからなる多孔性マイクロニードルアレイを作製した後、無電解ニッケルめっき、無電解金めっきを行うことで、細孔表面が金で被覆された多孔性マイクロニードルアレイを得た。具体的には、以下の手順で実験を行った。作成した多孔性マイクロニードルアレイをエチレンジアミン中で80℃、5時間加熱することで、細孔表面をアミノ基で修飾した。水洗、乾燥後に0.1 wt%塩化パラジウムの1 wt%塩酸溶液中に室温で30分浸漬し、Pd(II)を配位させた。水洗後、0.1 wt%次亜リン酸ナトリウム水溶液中に室温で10分浸漬して、Pd(0)とし、その後塩化ニッケル(0.10 M)、塩化アンモニウム(0.75 M)、クエン酸ナトリウム(0.25 M)の混合水溶液1 mL中に浸漬して80℃に加熱後、5 wt%次亜リン酸ナトリウム0.5 mLを加えることで、マイクロニードルアレイの細孔表面の無電解ニッケルめっきを行った。その後、ムデンノーブルAU(奥野製薬工業(株))中に浸漬することで、ニッケル上への無電解金めっきを行った。作製したマイクロニードルアレイのSEM-EDXによる表面元素分析を行い、表面が金で被覆されていることを確認した。
【0109】
実施例4 標識分子を吸着したマイクロニードルアレイの電位安定性の検討
1mMのカルボキシル基末端アルカンチオール(炭素鎖長:C20)を含むエタノール溶液に実施例3の金被覆マイクロニードルアレイを浸漬し、金表面にカルボキシル基末端アルカンチオールの単分子膜を形成した。上記実施例1で得た標識分子を含む溶液にマイクロニードルを浸漬し、標識分子(分子糊)が有するグアニジウム基を単分子膜表面のカルボキシル基と会合させ、水素結合を形成することで標識分子を固定化した第1のマイクロニードル型金電極を製造した(
図15(A))。
次に、17.5 mLの純水に1 mLの18 wt% パラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液、1 mLの0.1 M 過塩素酸リチウム、及び0.5 mLのEDOTを加えた溶液を調製し、この溶液に実施例3の金被覆マイクロニードルアレイを浸漬し、1.1 Vの電圧(vs Ag/AgCl)を30分間印加して、金表面にPEDOT:PSS層を形成した。次に、標識分子(1 μM)のトリス緩衝液にマイクロニードルを浸漬し、標識分子が有するグアニジウム基をPEDOT:PSS層のスルホ基と会合させ、標識分子を固定化した第2のマイクロニードル型金電極を製造した(
図15(B))。
図15(A)及び
図15(B)のマイクロニードル型金電極の各々とAg/AgCl参照電極との間の電位差を計測したところ、
図15(B)の電極ではドリフトが低減して電位安定性が向上することが示された(
図15(C)及び
図15(D)。
【0110】
実施例5 マイクロニードル上での電位応答
実施例4で製造したPEDOT:PSS層を表面に形成した金メッキマイクロニードルを入れた測定容器にトリス緩衝液を入れ、標識分子を最終濃度が1μMとなるように添加し、次に、ATPを最終濃度が11mMとなるように添加し、マイクロニードル上の電位の変化を測定した。
結果を
図16に示す。標識分子を添加した直後(グラフ中の(a))に正に電位がシフトし、ATPの添加(グラフ中の(b))により負に電位がシフトした。これにより、マイクロニードルはATP応答性であり、ATPを含む溶液中のATPによる電位変化を測定できることが示された。
【0111】
実施例6 延長ゲート型有機電界効果トランジスタの製造
まず、厚さ125μmのポリエチレンナフタレート基板上に銀ナノ粒子インクをインクジェット装置で描画しゲート電極(厚さ100nm)を形成した。この時、延長ゲート電極となる上記「2.マイクロニードルアレイの製造」で製造したマイクロニードルアレイの導電性多孔質のマイクロニードルと繋ぐため、ゲート電極パターンはマイクロニードル接続部位まで引き延ばした。ジクロロパラキシリレン(第三化成社製)をゲート電極を形成した基板上に真空蒸着し膜厚550nmのゲート絶縁膜を形成した。ゲート絶縁膜上に、銀ナノ粒子インクをインクジェット装置で描画し、ソース電極及びドレイン電極を形成した。参照電極作製のため、ソース電極パターンは、導電性多孔質マイクロニードル接続部位近傍まで引き延ばす形で形成した。ソース電極及びドレイン電極の上にテフロン(登録商標)(デュポン社製、AF1600)をディスペンサ装置で描画し、ソース電極及びドレイン電極を囲う隔壁層を形成した。最後に、有機半導体形成溶液をディスペンサ装置を用いて隔壁層内に滴下し、乾燥させることで有機半導体層を形成した。最後に、延長ゲート電極、及び参照電極まで引き延ばした銀配線パターンは、テフロン(登録商標)を用いて絶縁し、末端のみ露出させた。Ag/AgCl参照電極は、ソース電極から引き延ばした配線の末端露出部にAg/AgClインク(BAS社製)を塗布し作製した。
【0112】
実施例7 デバイスの組み立て
実施例4で製造した、凝集体(標識分子濃度1 μM)を表面に修飾した、PEDOT:PSS層を表面に形成した金メッキマイクロニードルを、実施例6で製造したゲート電極から引き延ばした銀配線パターン末端に、導電性エポキシ樹脂で接続・固定した。以上の工程によりデバイスが完成した。
このデバイスを皮膚表面に装着すれば、マイクロニードル上の凝集体は、皮膚内のATPと結合することで離脱するので、それを電気信号として検出すれば、皮膚内のATP濃度を観測することができるので、皮膚の疾患又は状態を検出、診断することが可能になる。
また、マイクロニードル上や、流路に薬剤を添加しておくことで、皮膚内に薬剤が投与され、皮膚の治療を、検出や診断と同時に可能となる。