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特許7230621半導体ウェハの洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】半導体ウェハの洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230221BHJP
   C11D 1/12 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 1/34 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 1/18 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 1/22 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 1/14 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 1/28 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 3/33 20060101ALI20230221BHJP
   C11D 3/30 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
H01L21/304 647B
C11D1/12
C11D1/34
C11D1/18
C11D1/22
C11D1/14
C11D1/28
C11D3/33
C11D3/30
H01L21/304 622Q
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019055845
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020161511
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹下 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】竹下 寛
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-094852(JP,A)
【文献】特開2014-170927(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025373(WO,A1)
【文献】特開2018-026461(JP,A)
【文献】特開2017-101248(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 1/12
C11D 1/34
C11D 1/18
C11D 1/22
C11D 1/14
C11D 1/28
C11D 3/33
C11D 3/30
B08B 1/00
B08B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ン酸型アニオン界面活性剤を含む洗浄液を用いて、半導体ウェハ上の体積平均粒子径100nm以下のコロイダルシリカを除去する、半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項2】
前記リン酸型アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸を含む、請求項1に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄液が、更に、キレート剤(B)を含む、請求項1又は2に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項4】
前記キレート剤(B)が、アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項5】
前記キレート剤(B)が、アミノ酸及び有機酸を含む、請求項又はに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項6】
前記アミノ酸が、アスパラギン酸を含む、請求項に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項7】
前記有機酸が、酒石酸及びクエン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項又はに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項8】
前記洗浄液が、更に、pH調整剤(C)を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項9】
前記半導体ウェハが、化学的機械的研磨後の半導体ウェハである、請求項1~のいずれか1項に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項10】
前記半導体ウェハが、コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している、請求項1~のいずれか1項に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
【請求項11】
請求項1~1のいずれか1項に記載の洗浄方法を含む、半導体ウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハは、シリコン基板の上に、配線となる金属膜や層間絶縁膜の堆積層を形成した後に、研磨粒子を含む水系スラリーからなる研磨剤を使用する化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing。以下、「CMP」と略す場合がある。)工程によって表面の平坦化処理を行い、平坦になった面の上に新たな層を積み重ねていくことで製造される。半導体ウェハの微細加工は、各層において精度の高い平坦性が必要であり、CMPによる平坦化処理の重要性は非常に高い。
【0003】
半導体ウェハは、銅若しくは銅合金を有する配線とバリアメタルからなる配線とを有する配線層、並びに、トランジスタとその配線層とを電気的に接続するコンタクトプラグを有するコンタクトプラグ層を有し、それぞれ同様の工程で配線層又はコンタクトプラグ層を基板上に形成し、同様にCMPによって平坦化される。CMP工程後の半導体ウェハ表面には、CMP工程で使用された研磨剤に由来するコロイダルシリカ等の微粒子や防食剤由来の有機残渣等が多量に存在することから、これらを除去するために、CMP工程後の半導体ウェハは、洗浄工程に供される。
【0004】
半導体集積回路は、日々性能向上が求められており、積極的に開発が進められている。性能向上の1つの道筋として、トランジスタ、コンタクトプラグ及び配線構造の微細化が挙げられる。性能向上を実現させるために、各層において新たな金属が適用されている。
【0005】
配線層において、銅イオンが絶縁膜層に拡散してしまうことを防ぐため、タンタル/窒化タンタルがバリアメタルとして銅配線層の外側に使用されていたが、銅配線の微細化に伴い、タンタル/窒化タンタル層も薄くする必要性がでてきた。しかしながら、タンタル/窒化タンタル層を薄くすると、銅イオン拡散のバリア性に課題を有するため、タンタル/窒化タンタル層を薄くすることには限界がある。バリア性を補うため、コバルト、ルテニウム又はそれらの合金が、候補材料として検討されている。コバルトやルテニウムをタンタル/窒化タンタルと併用することで、バリアメタル層を更に薄くすることが可能となり、配線構造の更なる微細化が実現できる。
【0006】
また、コンタクトプラグ層において、従来使用していた銅、タングステン又はタングステン合金を配線又はコンタクトプラグの材料として使用すると、微細化に伴う抵抗値の増加による信号遅延の課題を有する。そのため、電子の平均自由工程が短いコバルト又はコバルト合金からなる配線又はコンタクトプラグが導入され始めている。
【0007】
同時に、コバルトが露出している面を洗浄するための様々な洗浄方法が提案され始めている。半導体ウェハの洗浄方法として、例えば、特許文献1~4に記載の洗浄方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2008-528762号公報
【文献】特表2015-512959号公報
【文献】特開2012-74678号公報
【文献】特開2014-212262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CMP工程後の半導体ウェハの表面には、CMP工程で使用される研磨剤中のコロイダルシリカ等の微粒子が金属上に残留しやすい。従来、コロイダルシリカに代表される微粒子は、ゼータ電位の制御による静電反発を利用し、除去性を向上させてきた。コバルトを利用したトランジスタ、コンタクトプラグ及び配線構造の微細化を進めるに伴い、CMP工程で使用する研磨剤中のコロイダルシリカ等の微粒子の粒子径をより小さくする必要がある。しかしながら、微粒子の粒子径を小さくすると、静電反発は弱くなり、微粒子が金属上に残留しやすいという課題を有する。
【0010】
特許文献1~4に記載の洗浄方法は、CMP工程後における銅が露出している面の洗浄を前提としているため、粒子径が小さい微粒子の除去を想定していない。そのため、特許文献1~4に記載の洗浄方法は、粒子径が小さい微粒子の除去を目的として洗浄液の組成を好適化していないため、粒子径が小さい微粒子の除去性に劣ると考えられる。
【0011】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、粒子径が小さい微粒子、具体的には、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従前、様々な成分を含む洗浄液を使用した洗浄方法が検討されていたが、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の界面活性剤を含む洗浄液を使用した洗浄方法が、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]スルホン酸型アニオン界面活性剤及びリン酸型アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤(A)を含む洗浄液を用いて、半導体ウェハ上の体積平均粒子径100nm以下の微粒子を除去する、半導体ウェハの洗浄方法。
[2]前記スルホン酸型アニオン界面活性剤が、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、アルキルメチルタウリン酸、スルホコハク酸ジエステル及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[3]前記リン酸型アニオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸を含む、[1]又は[2]に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[4]前記洗浄液が、更に、キレート剤(B)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[5]前記キレート剤(B)が、アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[4]に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[6]前記キレート剤(B)が、アミノ酸及び有機酸を含む、[4]又は[5]に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[7]前記アミノ酸が、アスパラギン酸を含む、[6]に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[8]有機酸が、酒石酸及びクエン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[6]又は[7]に記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[9]前記洗浄液が、更に、pH調整剤(C)を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[10]前記半導体ウェハが、化学的機械的研磨後の半導体ウェハである、[1]~[9]のいずれかに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[11]前記半導体ウェハが、コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している、[1]~[10]のいずれかに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[12]前記微粒子が、コロイダルシリカを含む、[1]~[11]のいずれかに記載の半導体ウェハの洗浄方法。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の洗浄方法を含む、半導体ウェハの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の洗浄方法は、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる。
また、本発明の半導体ウェハの製造方法は、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる洗浄方法を含むため、動作不良が抑制された半導体デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
(半導体ウェハの洗浄方法)
本発明の半導体ウェハの洗浄方法は、スルホン酸型アニオン界面活性剤及びリン酸型アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の界面活性剤(A)を含む洗浄液を用いて、半導体ウェハ上の体積平均粒子径100nm以下の微粒子を除去する方法である。
【0017】
(界面活性剤(A))
洗浄液は、界面活性剤(A)を含む。界面活性剤(A)は、スルホン酸型アニオン界面活性剤及びリン酸型アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
洗浄剤は、界面活性剤(A)を含むことで、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の表面に界面活性剤(A)の分子が付着し、水中で分散させることができ、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる。
これらの界面活性剤(A)の中でも、より体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れることから、スルホン酸型アニオン界面活性剤が好ましい。
【0018】
スルホン酸型アニオン界面活性剤は、スルホ基又はその塩を有するアニオン界面活性剤をいう。
スルホン酸型アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、アルキルメチルタウリン酸、スルホコハク酸ジエステル、それらの塩等が挙げられる。これらのスルホン酸型アニオン界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのスルホン酸型アニオン界面活性剤の中でも、水溶性で、分散作用に優れることから、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、アルキルメチルタウリン酸、スルホコハク酸ジエステル、それらの塩が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸の塩がより好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸が更に好ましい。
【0019】
リン酸型アニオン界面活性剤は、リン酸基又はその塩を有するアニオン活性剤をいう。
リン酸型アニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、アルキルリン酸、それらの塩等が挙げられる。これらのリン酸型アニオン界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのリン酸型アニオン界面活性剤の中でも、水溶性で、分散作用に優れることから、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸の塩が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸がより好ましい。
【0020】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸は、下記一般式(1)~(3)で表される化合物である。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
一般式(1)~(3)において、R、R、R、Rは、それぞれアルキル基を表し、同一であってもよく、異なってもよい。Oは、酸素原子である。Xは、リン酸基を表す。Yは、アルキレンオキサイドを表す。n、n、n、nは、1以上の整数を表す。
【0025】
一般式(1)~(3)において、R、R、R、Rのアルキル基の炭素数は、8~24が好ましく、10~20がより好ましく、12~18が更に好ましい。R、R、R、Rのアルキル基の炭素数が下限値以上であると、界面活性剤(A)の疎水性が増し、半導体ウェハの表面上に吸着しやすくなる。また、R、R、R、Rのアルキル基の炭素数が上限値以下であると、洗浄工程後のリンス工程において、界面活性剤(A)の除去を容易に行うことができる。
【0026】
一般式(1)~(3)において、R、R、R、Rのアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0027】
一般式(1)~(3)において、Xをリン酸基とすることで、コバルトへの配位作用や防食効果に優れる。
【0028】
一般式(1)~(3)において、Yは、親水性を示し、コバルト又はコバルトを含む化合物への作用が小さく、界面活性剤(A)が有する防食性能への影響が小さいことから、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基が好ましく、エチレンオキサイド基がより好ましい。尚、Yの端部の酸素原子は、Xと結合する。
【0029】
一般式(1)~(3)において、n、n、n、nは、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、2~10が更に好ましい。n、n、n、nが小さいと界面活性剤の疎水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が強くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は強くなる。一方、n、n、n、nが大きいと界面活性剤の親水性が強くなり、半導体ウェハ表面への吸着作用が弱くなり、コバルト又はコバルトを含む化合物への防食効果は弱くなる。このような状況を勘案し、nを適宜設定すればよい。
【0030】
(キレート剤(B))
洗浄液は、金属イオンや金属錯体の除去性に優れることから、界面活性剤(A)以外に、キレート剤(B)を含むことが好ましい。
【0031】
キレート剤(B)は、金属イオンと配位できる化合物であればよいが、金属イオンや金属錯体の除去性に優れ、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができることから、アミノ基を有するキレート剤、カルボキシル基を有するキレート剤、ヒドロキシル基を有するキレート剤、ホスホン酸基を有するキレート剤、硫黄原子を有するキレート剤が好ましく、アミノ基を有するキレート剤、カルボキシル基を有するキレート剤、ヒドロキシル基を有するキレート剤がより好ましく、アミノ基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤、ヒドロキシル基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤が更に好ましい。
【0032】
アミノ基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤としては、例えば、グリシン、セリン、アスパラギン酸、ヒスチジン等のアミノ酸;アミノ酸の誘導体;ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸等のアミノポリカルボン酸;アミノポリカルボン酸の誘導体等が挙げられる。これらのアミノ基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアミノ基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤の中でも、金属イオンや金属錯体の除去性に優れ、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができることから、アミノ酸が好ましく、アスパラギン酸がより好ましい。
【0033】
ヒドロキシル基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤としては、例えば、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。これらのヒドロキシル基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのヒドロキシル基とカルボキシル基の両者を有するキレート剤の中でも、コバルト又はコバルトを含む化合物上に除去したい成分が残留しにくいことから、酒石酸、クエン酸が好ましく、酒石酸がより好ましい。
【0034】
(pH調整剤(C))
洗浄液は、pHを調整することでコバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができることから、界面活性剤(A)以外に、pH調整剤(C)を含むことが好ましい。
【0035】
pH調整剤(C)としては、例えば、酸、アルカリ等が挙げられる。pH調整剤(C)の中でも、ゼータ電位を調整し、界面活性剤(A)の効果を十分に発揮させることができることから、アルカリが好ましく、pH調整剤(C)自体が洗浄後の半導体ウェハ上に残存することを抑制することができることから、第4級アンモニウム水酸化物がより好ましい。
【0036】
酸としては、例えば、無機酸、有機酸等が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸の中でも、金属不純物が少ないことから、無機酸、有機酸が好ましく、有機酸がより好ましい。
【0037】
無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらの無機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの無機酸の中でも、揮発性が低いことから、硫酸、リン酸が好ましく、硫酸がより好ましい。
【0038】
有機酸としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基を有する有機化合物等が挙げられる。これらの有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機酸の中でも、コバルト又はコバルトを含む化合物上に除去したい成分が残留しにくいことから、アミノ基を有する有機化合物、カルボキシル基を有する有機化合物が好ましく、カルボキシル基を有する有機化合物がより好ましい。
【0039】
アルカリとしては、例えば、無機アルカリ、有機アルカリ等が挙げられる。これらのアルカリは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリの中でも、アルカリ自体の製造が容易であることから、無機アルカリ、有機アルカリが好ましく、金属成分を含まないことから、アンモニア、第4級アンモニウム水酸化物、アルカノールアミン化合物がより好ましく、第4級アンモニウム水酸化物が更に好ましく、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化コリンが特に好ましい。
【0040】
(水(D))
洗浄液は、微粒子除去性に優れることから、界面活性剤(A)以外に、水(D)を含むことが好ましい。
【0041】
(他の成分)
洗浄液は、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤(A)、キレート剤(B)、pH調整剤(C)、水(D)以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、例えば、還元剤、エッチング抑制剤等が挙げられる。
【0042】
(洗浄液の物性)
洗浄液のpHは、水酸化物イオンが豊富に存在するため、微粒子と半導体ウェハ表面が共に負に帯電し、電気的な斥力が働き、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れることから、8~14が好ましく、9~13がより好ましく、10~12が更に好ましい。
【0043】
(洗浄液中の成分の質量比)
界面活性剤(A)に対するキレート剤(B)の質量比(キレート剤(B)の質量/界面活性剤(A)の質量)は、1~50が好ましく、1.5~40がより好ましい。界面活性剤(A)に対するキレート剤(B)の質量比が下限値以上であると、金属イオンや金属錯体の除去性に優れる。また、界面活性剤(A)に対するキレート剤(B)の質量比が上限値以下であると、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる。
【0044】
界面活性剤(A)に対するpH調整剤(C)の質量比(pH調整剤(C)の質量/界面活性剤(A)の質量)は、3~200が好ましく、5~100がより好ましい。界面活性剤(A)に対するpH調整剤(C)の質量比が下限値以上であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができる。また、界面活性剤(A)に対するpH調整剤(C)の質量比が上限値以下であると、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる。
【0045】
pH調整剤(C)に対するキレート剤(B)の質量比(pH調整剤(C)の質量/キレート剤(B)の質量)は、1~10が好ましく、1.5~8がより好ましい。pH調整剤(C)に対するキレート剤(B)の質量比が下限値以上であると、金属イオンや金属錯体の除去性に優れる。また、pH調整剤(C)に対するキレート剤(B)の質量比が上限値以下であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができる。
【0046】
(洗浄液中の各成分の含有率)
界面活性剤(A)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.00001質量%~2質量%が好ましく、0.00005質量%~0.2質量%がより好ましく、0.0005質量%~0.01質量%が更に好ましい。界面活性剤(A)の含有率が下限値以上であると、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れる。また、界面活性剤(A)の含有率が上限値以下であると、洗浄液の泡立ちを抑制することができ、洗浄後の洗浄液の除去が容易である。
【0047】
キレート剤(B)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~5質量%が好ましく、0.002質量%~3質量%がより好ましく、0.005質量%~0.5質量%が更に好ましい。キレート剤(B)の含有率が下限値以上であると、金属イオンや金属錯体の除去性に優れる。また、キレート剤(B)の含有率が上限値以下であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができる。
【0048】
pH調整剤(C)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~50質量%が好ましく、0.005質量%~20質量%がより好ましく、0.02質量%~2質量%が更に好ましい。pH調整剤(C)の含有率が下限値以上であると、コバルト又はコバルトを含む化合物の腐食を抑制することができる。また、pH調整剤(C)の含有率が上限値以下であると、洗浄後のpH調整剤(C)自体の残留を抑制することができる。
【0049】
他の成分の含有率は、洗浄液100質量%中、10質量%以下が好ましく、0質量%~1質量%がより好ましい。他の成分の含有率が上限値以下であると、本発明の効果を損なうことなく、他の成分の効果を付与することができる。
【0050】
水(D)の含有率は、水(D)以外の成分(界面活性剤(A)、キレート剤(B)、pH調整剤(C)及び他の成分)の残部とすることが好ましい。
【0051】
(洗浄液の製造方法)
洗浄液の製造方法は、特に限定されず、界面活性剤(A)、並びに、必要に応じて、キレート剤(B)、pH調整剤(C)、水(D)及び他の成分を混合することで製造することができる。
混合の順番は、特に限定されず、一度にすべての成分を混合してもよく、一部の成分を予め混合した後に残りの成分を混合してもよい。
【0052】
洗浄液の製造方法は、洗浄に適した含有率になるように、各成分を配合してもよいが、輸送や保管等のコストを抑制することができることから、水(D)以外の各成分を高含有率で含む洗浄液を調製した後、洗浄前に水(D)で希釈して洗浄液を調製してもよい。
希釈する倍率は、洗浄対象に応じて適宜設定できるが、30倍~120倍が好ましく、40倍~110倍がより好ましい。
【0053】
(洗浄対象)
本発明の洗浄方法の洗浄対象は、半導体ウェハである。半導体ウェハの中でも、本発明の効果をより必要とすることから、金属が露出している面を有する半導体ウェハが好ましく、本発明の効果を更に必要とすることから、コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面を有する半導体ウェハがより好ましい。
【0054】
金属としては、コバルト、ルテニウム、銅、アルミニウム、タングステン等が挙げられる。これらの金属の中でも、本発明の効果をより必要とすることから、コバルトが好ましい。
【0055】
(化学的機械的研磨(CMP))
本発明の洗浄方法は、半導体ウェハ上の体積平均粒子径100nm以下の微粒子を除去する。本発明の洗浄方法は、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れることから、化学的機械的研磨後の洗浄に好適である。
【0056】
化学的機械的研磨(CMP)とは、半導体ウェハの表面を機械的に加工し、平坦化するプロセスのことをいう。通常、CMP工程は、専用の装置を用い、半導体ウェハの裏面をプラテンと呼ばれる治具に吸着させ、半導体ウェハの表面を研磨パッドに押し付け、研磨パッド上に研磨粒子を含む研磨剤を垂れ流し、半導体ウェハの表面を研磨する。
【0057】
CMPは、研磨剤を用いて、被研磨体を研磨パッドに擦り付けて、研磨が行われる。
研磨剤としては、例えば、コロイダルシリカ(SiO)、フュームドシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、セリア(CeO)等の微粒子が挙げられる。これらの研磨剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの研磨剤の中でも、被研磨体の平坦化に優れることから、コロイダルシリカ、フュームドシリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。
微粒子は、被研磨体である半導体ウェハの汚染の主因となるが、界面活性剤(A)を含む洗浄液は、半導体ウェハに付着した微粒子を除去して洗浄液に分散させると共に再付着を防止する作用を有しているため、微粒子汚染の除去に対して高い効果を示す。
【0058】
微粒子の体積平均粒子径は、100nm以下が好ましく、5nm~85nmがより好ましく、10nm~70nmが更に好ましい。微粒子の体積平均粒子径が下限値以上であると、微粒子の除去性に優れる。また、微粒子の体積平均粒子径が上限値以下であると、半導体集積回路の微細化が可能である。
微粒子の体積平均粒子径は、微粒子を水に分散させて、粒度分布計を用いて測定する。
【0059】
研磨剤には、微粒子以外にも、酸化剤、分散剤等の添加剤が含まれることがある。特に、コバルト又はコバルトを含む化合物が露出している面を有する半導体ウェハにおけるCMPでは、コバルトが腐食しやすいため、防食剤が含まれることが多い。
【0060】
防食剤は、防食効果の高いアゾール系防食剤が好適に用いられる。より具体的には、へテロ原子が窒素原子のみの複素環を含むものとして、ジアゾール系、トリアゾール系、テトラゾール系;窒素原子と酸素原子の複素環を含むものとして、オキサゾール系、イソオキサゾール系、オキサジアゾール系;窒素原子と硫黄原子の複素環を含むものとして、チアゾール系、イソチアゾール系、チアジアゾール系等が挙げられる。これらの防食剤の中でも、防食効果に優れることから、ベンゾトリアゾール防食剤が好ましい。
【0061】
(洗浄条件)
本発明の洗浄方法は、界面活性剤(A)を含む洗浄液を、半導体ウェハに直接接触させて洗浄する方法が好ましい。
半導体ウェハに直接接触させる方法としては、例えば、洗浄槽に界面活性剤(A)を含む洗浄液を満たして半導体ウェハを浸漬させるディップ式;ノズルから半導体ウェハ上に界面活性剤(A)を含む洗浄液を流しながら洗浄対象を高速回転させるスピン式;半導体ウェハに界面活性剤(A)を含む洗浄液を噴霧して洗浄するスプレー式等が挙げられる。これらの方法の中でも、短時間でより効率的な汚染除去ができることから、スピン式、スプレー式が好ましい。
【0062】
洗浄を行うための装置としては、例えば、カセットに収容された複数枚の半導体ウェハを同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1個の半導体ウェハをホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置等が挙げられる。これらの装置の中でも、洗浄時間の短縮、洗浄液の使用の削減ができることから、枚葉式洗浄装置が好ましい。
【0063】
本発明の洗浄方法は、半導体ウェハに付着した微粒子による汚染の除去性が更に向上し、洗浄時間の短縮ができることから、物理力による洗浄が好ましく、洗浄ブラシを用いるスクラブ洗浄、周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄がより好ましく、CMP後の洗浄により好適であることから、樹脂製ブラシを用いるスクラブ洗浄が更に好ましい。
樹脂製ブラシの材質は、特に限定されないが、樹脂製ブラシ自体の製造が容易であることから、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールが好ましい。
【0064】
洗浄温度は、20℃~30℃の室温でもよく、半導体ウェハの性能を損なわない範囲で30~70℃に加温してもよい。
【0065】
(半導体ウェハの製造方法)
本発明の半導体ウェハの製造方法は、本発明の洗浄方法を含む方法であり、本発明の洗浄方法は、前述した通りである。
【実施例
【0066】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0067】
(原料)
界面活性剤(A-1):ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(商品名「SERVOXYL VPBZ5/100」、アルキル基の炭素数12~18、エチレンオキサイドの繰り返し単位5)
界面活性剤(A-2):ドデシルベンゼンスルホン酸(ライオン株式会社製)
界面活性剤(A’-1):ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸(商品名「AKYPO RLM-45」、日光ケミカルズ株式会社製、アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイドの繰り返し単位4)
界面活性剤(A’-2):ポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名「レオコールTDA-400-75」、ライオン株式会社製、アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイドの繰り返し単位40)
キレート剤(B-1):L-アスパラギン酸(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(B-2):L-(+)-酒石酸(東京化成工業株式会社製)
キレート剤(B-3):クエン酸(三菱ケミカル株式会社製)
pH調整剤(C-1):テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製)
pH調整剤(C-2):水酸化コリン(ハンツマン株式会社製)
水(D-1):水
【0068】
(pH測定)
実施例及び比較例で得られた洗浄液を、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、pH計(機種名「D-24」、株式会社堀場製作所製)により、pHを測定した。
【0069】
(体積平均粒子径の測定)
コロイダルシリカを含むスラリーを、水でコロイダルシリカ濃度が5質量%となるように調製し、超音波洗浄機を用いて超音波を当て、粒度分布計(機種名「EX-150」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて体積平均粒子径(nm)を測定した。コロイダルシリカの体積平均粒子径は、61nmであった。
【0070】
(微粒子残留割合の測定・評価)
コバルト膜を成膜したシリコン基板(10mm×20mm)を、前記コロイダルシリカを含むスラリー(コロイダルシリカの体積平均粒子径61nm)に10秒間浸漬させ、次いで、実施例及び比較例で得られた洗浄液中に2分間浸漬させ、超純水で30秒間すすぎ、エアブローで乾燥させた。得られた基板の表面を、FE-SEM(機種名「S―4800」、日立ハイテクノロジーズ株式会社製)で観察し、微粒子の残留割合を測定した。測定点は、基板中心を起点(0mm、0mm)とし、(1mm、1mm)、(1mm、-1mm)、(-1mm、-1mm)、(-1mm、1mm)の計5点とした。得られたSEM画像を、画像ソフト(ソフト名「ImageJ」)で解析した。解析は、四角の枠内の微粒子の面積をピクセルで求めた。5点の測定点について前記の操作を行い、5点の平均を算出し、微粒子残留割合(%)とし、以下の基準により評価した。
A:微粒子残留割合が1%未満
B:微粒子残留割合が1%以上2%未満
C:微粒子残留割合が2%以上10%未満
D:微粒子残留割合が10%以上25%未満
E:微粒子残留割合が25%以上
【0071】
[実施例1]
洗浄液100質量%中、界面活性剤(A-1)が0.006質量%、キレート剤(B-1)が0.013質量%、キレート剤(B-2)が0.006質量%、pH調整剤(C-1)が0.063質量%、水(D-1)が残部となるよう、各成分を混合し、洗浄液を得た。得られた洗浄液を用いて、前述したようにコバルト膜を成膜したシリコン基板を洗浄した。
洗浄の評価結果を、表1に示す。尚、実施例1の微粒子残留割合の測定において、コバルトの腐食は確認されなかった。
【0072】
[実施例2~5、比較例1~3]
表1に示す原料の種類・含有率とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。
洗浄の評価結果を、表1に示す。尚、実施例2~5及び比較例1~3の微粒子残留割合の測定において、コバルトの腐食は確認されなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から分かるように、実施例で用いた洗浄液による洗浄方法は、コバルトの腐食を抑制しつつ、コバルト上の体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れた。
一方、比較例1で用いた洗浄液による洗浄方法は、洗浄液に界面活性剤を含まず、コバルトの腐食を抑制しつつも、コバルト上の体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に劣った。また、比較例2及び比較例3で用いた洗浄液による洗浄方法は、洗浄液に界面活性剤(A)とは異なる界面活性剤を含み、コバルトの腐食を抑制しつつも、コバルト上の体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の洗浄方法は、体積平均粒子径が100nm以下の微粒子の除去性に優れることから、化学的機械的研磨後の洗浄に好適である。