(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】排ガス処理設備
(51)【国際特許分類】
F23J 15/04 20060101AFI20230221BHJP
B01D 53/38 20060101ALI20230221BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
F23J15/04
B01D53/38 ZAB
B01D53/78
(21)【出願番号】P 2021019965
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】原島 慎吾
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-219260(JP,A)
【文献】特開2016-190206(JP,A)
【文献】特開2016-057009(JP,A)
【文献】特開2002-172384(JP,A)
【文献】特開平09-038463(JP,A)
【文献】特開昭63-028430(JP,A)
【文献】特表2010-536549(JP,A)
【文献】特表2001-502604(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109152(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029343(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 15/04
B01D 53/38
B01D 53/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造プロセスからのWF
6を含む排ガスを除害処理する除害装置と、該除害装置に水を供給する給水手段とを有する半導体製造プロセスからの排ガス処理設備において、
該給水手段に供給される水にコリン
又はコリンと過酸化水素を添加して該排ガ
ス処理設備におけるタングステン酸化物を含む堆積物の生成を抑制する薬剤添加手段を設けたことを特徴とする半導体製造プロセスからの排ガス処理設備。
【請求項2】
前記除害装置の下流側にスクラバーが設けられており、
該スクラバーの用水にコリン
又はコリンと過酸化水素を添加する薬剤添加装置を備えた請求項
1の排ガス処理設備。
【請求項3】
前記除害装置は、半導体製造プロセスからの排ガスを燃焼処理する燃焼室と、該燃焼室の内壁面に沿って水を流す水流出手段とを備えており、前記給水手段は、該水流出手段に水を供給する請求項1
又は2の排ガス処理設備。
【請求項4】
半導体製造プロセスからのWF
6を含む排ガスを除害処理する除害装置と、該除害装置に水を供給する給水手段とを有する排ガス処理設備によって半導体製造プロセスからの排ガスを除害処理する方法において、
該給水手段に供給される水に薬剤添加手段によってコリン
又はコリンと過酸化水素を添加して該排ガ
ス処理設備におけるタングステン酸化物を含む堆積物の生成を抑制することを特徴とする半導体製造プロセスからの排ガス除害処理方法。
【請求項5】
前記除害装置の下流側にスクラバーが設けられており、
該スクラバーの用水にコリン
又はコリンと過酸化水素を薬剤添加装置によって添加する請求項
4の排ガス除害処理方法。
【請求項6】
前記除害装置は、半導体製造プロセスからの排ガスを燃焼処理する燃焼室と、該燃焼室の内壁面に沿って水を流す水流出手段とを備えており、前記給水手段は、該水流出手段に水を供給する請求項
4又は5の排ガス除害処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセス等からの排ガスを除害燃焼等により処理するための排ガス処理設備(除害装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、LED、太陽電池等の製造プロセスからは、ペルフルオロ化合物などを含んだ排ガスが排出される。なお、この排ガス中にはCH2F2、WF6、BCl3、Cl2、F2、HF、SiH4、NH3、PH3、TEOS(テトラエトキシシラン)、TRIS(トリエトキシシラン)、TiCl4などが含まれることもある。このような排ガスを処理する排ガス処理設備(除害装置)では、燃焼、電気加熱、プラズマなどを用いて、ペルフルオロ化合物等を燃焼(酸化)又は熱分解反応させた後、スクラバーで排ガスを洗浄し、ガス中の水可溶成分や微粒子等を除去する。
【0003】
この排ガスの燃焼処理装置として、燃焼室の下流側においてスプレーノズルによって水をスプレーしてガスを冷却するよう構成したものがある(特許文献1)。また、燃焼室の内壁面に沿って水を流下させ、燃焼生成物の内壁面への付着を防止すると共に、内壁面を燃焼熱から防護するよう構成した水冷式燃焼方式の除害装置がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-26244号公報
【文献】特開2003-24741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の除害装置にあっては、除害装置内部やスクラバー、配管等において堆積物が生成し易く、除害装置を停止して堆積物を除去する作業が必要となる。なお、堆積物としてはシリカ系やタングステン系の酸化物等の固形物などが挙げられるが、これ以外の固形物も生成する。
【0006】
本発明は、排ガス処理設備における堆積物の生成を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の排ガス処理設備は、排ガスを除害処理する除害装置と、該除害装置に水を供給する給水手段とを有する排ガス処理設備において、該給水手段に供給される水にコリン及び/又はアンモニアを添加する薬剤添加手段を設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様では、前記薬剤添加手段は、前記水に、コリン及び/又はアンモニアと、過酸化水素とを添加する。
【0009】
本発明の一態様では、前記除害装置の下流側にスクラバーが設けられており、該スクラバーの用水にコリン及び/又はアンモニアを添加する薬剤添加手段を備える。
【0010】
本発明の一態様では、前記スクラバーの用水に、コリン及び/又はアンモニアと、過酸化水素とを添加する。
【0011】
本発明の一態様では、前記薬剤添加手段は、薬剤として、半導体製造プロセスで使用される溶液又は半導体製造プロセス排水を添加する。
【0012】
本発明の一態様では、前記排ガスは、半導体製造プロセスからの排ガスである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、除害装置やスクラバーに供給する用水にコリン及び/又はアンモニアあるいはさらに過酸化水素を添加することにより、排ガス処理設備における堆積物の生成が抑制される。これにより、排ガス処理設備のメンテナンス回数を減らすことができる。また、半導体等の製造プロセスマシンの停止を防ぐことができ、半導体等の生産性が向上する。
【0014】
なお、排ガスが半導体製造プロセスからの排ガスである場合、除害装置での堆積物は、シリカや、タングステンおよびその酸化物が主成分であるが、特に、タングステンおよびその酸化物は、コリン及び/又はアンモニアを含むか、あるいはさらに過酸化水素を含む溶液に比較的よく溶解するので、堆積物が容易に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る排ガス処理設備の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1を参照して実施の形態について説明する。除害装置1に対し、半導体製造プロセスからの排ガスが供給され、排ガスが燃焼又は分解処理される。なお、除害装置は、燃焼式、プラズマ式、電熱式等のいずれでもよく、これら以外でもよい。
【0017】
除害装置1内には、水を噴霧したり、除害装置1の内壁面に沿って水を流したりするようにノズル(図示略)が設けられている。該ノズルに対して、タンク及び配管等を備えた給水ライン2によって水が供給され、ノズルから水が噴霧されるか、あるいはノズルから流出した水が除害装置1の内壁面を水膜状に流れる。この噴霧された水あるいは内壁面を流れる水が、ガス中の水可溶成分を吸収すると共に、微粒子を捕捉したり、ガス温度を低下させる。
【0018】
除害装置1で処理されたガスがスクラバー4に送られ、洗煙処理された後、次工程に送られるか大気放出される。
【0019】
スクラバー4内では、上部のノズルに対し、水が供給される。ガスは、該ノズルから散水された水と接触して水可溶成分と微粒子が水に吸収ないし捕捉された後、スクラバー4から流出する。スクラバー4に対しては、タンク及び配管等を備えた給水ライン5によって用水が供給される。
【0020】
除害装置1及びスクラバー4の底部から取り出された水は、排水ライン3,6を介して取り出され、排水処理設備(図示略)に送水されて処理される。
【0021】
本実施形態では、給水ライン2,5によって除害装置1及びスクラバー4に送水される水にコリン及び/又はアンモニア溶液を添加するように薬剤添加装置が設けられている。
【0022】
薬剤添加装置としては、薬剤溶液のタンクと、薬注ポンプと、該薬注ポンプの制御器とを備えた一般的なものを用いることができるが、これに限定されない。薬剤添加装置は、給水ライン2,5の双方に薬剤を添加するものであってもよく、給水ライン2,5にそれぞれ薬剤添加装置を設置してもよい。
【0023】
薬剤溶液としては、コリン溶液、アンモニア溶液、もしくは、これらと過酸化水素の混合溶液を利用する。この場合、アンモニアと過酸化水素の混合液として、半導体製造プロセスで洗浄液として使用されるSC-1、およびその排水を利用してもよい。なお、除害装置1やスクラバー4およびその周辺部材への影響を考慮し、腐食防止剤を併用してもよい。
【0024】
本発明では、上記薬剤溶液を常時除害装置やスクラバーの用水に添加してもよく、堆積物除去を目的として一時的に上記薬剤を用水に添加してもよい。いずれの場合も、堆積物の溶解および生成抑制の目的が十分に達成される。
【0025】
なお、コリンの添加率は0.1~10g/L特に1~10g/L程度が好適であり、アンモニアの添加率は0.1~10g/L特に1~10g/L程度が好適であり、過酸化水素の添加率は0.1~10g/L特に1~10g/L程度が好適である。また堆積物の溶解を目的とする場合は、1~10g/L程度の添加率、堆積物の生成抑制を目的とする場合は、0.1~1g/L程度の添加率が好適である。
【0026】
このように、薬剤を除害装置1及びスクラバー4の用水に添加することで、堆積物の主成分であるシリカ、タングステンおよびその酸化物を溶解させることができる。これにより、除害装置1やスクラバー4の内部、除害装置周辺配管等での詰まりを抑制ないし解消し、生産性の向上やメンテナンス頻度の低減を図ることができる。また、排ガス処理設備の停止に伴う半導体製造プロセスの稼動停止も防止され、製品の生産性が向上する。
【0027】
[実験例]
コリン及び/又はアンモニアが十分な溶解特性を有することを実証するために、以下の実験を行った。半導体製造プロセスの除害装置後段に設置されたスクラバーから堆積物を採取し、成分を分析したところ、W含有率がドライベースで約55wt%であった。
【0028】
採取直後の堆積物を純水に固形分濃度として0.1%となるように添加し分散させて試験液(検水)を調製した。
【0029】
この試験液に対し、薬剤として、コリン、コリン+H2O2、アンモニア又はアンモニア+H2O2を、それぞれコリン0.1%(wt%。以下、同様)、コリン0.05%+H2O20.05%、アンモニア0.1%、アンモニア0.05%+H2O20.05%の添加率にて添加し、10min撹拌した後、溶け残った固形分量を測定して溶解率を測定したところ、溶解率はコリン、コリン+H2O2、アンモニア+H2O2の場合はいずれも約50~60%であった。アンモニア0.1%添加の場合の溶解率は約70%であった。
【0030】
また、上記試験液に対する上記各薬剤の添加率を1%とした場合、溶解率は大概75~90%であった。
【0031】
これに対し、NaOH0.1%を添加した場合の溶解率は約20%、NaOH1%を添加した場合でも約45%と低い値であった。この結果より、コリン及び/又はアンモニアが十分な溶解特性を有することが認められた。
【0032】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 除害装置
4 スクラバー