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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】振動板
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/08 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
H04R7/08
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022003151
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2019501391の分割
【原出願日】2018-02-21
(65)【公開番号】P2022050594
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2017032650
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 順
(72)【発明者】
【氏名】田原 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】内田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 研人
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-066284(JP,U)
【文献】国際公開第2015/083248(WO,A1)
【文献】特開2005-190683(JP,A)
【文献】特開平6-325868(JP,A)
【文献】特開2009-100223(JP,A)
【文献】特開2015-065649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板構成体および、前記ガラス板構成体の片面または両面に設置された少なくとも1つの振動子を含む振動板であって、
前記ガラス板構成体は、
少なくとも2枚の板と、前記2枚の板の両側から挟み込むようにして保持された液体層と、を含み、
前記2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であり、
前記2枚の板の各々の端面がずれて配置されることより、断面視において階段状を呈する段差部を構成し、
当該段差部において、少なくとも前記液体層を封止するように設けられたシール材を更に備え、
前記2枚の板の内面の、前記シール材が配置される部分を除く全面が、前記液体層に接する状態で対向している、振動板。
【請求項2】
前記シール材が、前記段差部において、一方の板の端面と、前記液体層の端面と、他方の板の主面に密着する、請求項1に記載の振動板。
【請求項3】
前記シール材が、前記一方の板の端面と、前記液体層の端面と、前記他方の板の主面に沿って、断面視においてL字状に延びた輪郭を有する、請求項2に記載の振動板。
【請求項4】
前記シール材がテーパー面を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項5】
前記ガラス板の比弾性率が、2.5×10/s以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項6】
前記液体層は、25℃、1atmにおける蒸気圧が1×10Pa以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項7】
前記液体層の厚みが、
前記2枚の板の合計の厚みが1mm以下の場合は、前記2枚の板の合計の厚みの1/10以下であり、
前記2枚の板の合計の厚みが1mm超の場合は、100μm以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項8】
物理強化ガラス板および化学強化ガラス板の少なくともいずれか一方のガラス板を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項9】
前記2枚の板の厚みが、それぞれ0.01~15mmである、請求項1から8のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項10】
前記液体層がジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1から9のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項11】
前記シール材が、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、エチレン共重合体系、ポリアクリル酸エステル系、シアノアクリレート系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、線状ポリイミド系、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系、反応性アクリル系、ゴム系、シリコーン系、変性シリコーン系からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1から10のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項12】
さらに他のガラス板を含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項13】
少なくとも1枚のガラス板が合わせガラスからなるガラス板である、請求項1から12のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項14】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面にコーティング又はフィルムが形成された、請求項1から13のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項15】
ガラス板構成体が曲面形状である、請求項1から14のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項16】
ガラス板構成体の25℃における損失係数が1×10-2であり、かつ、
少なくとも1枚の前記ガラス板は、板厚方向の縦波音速度が5.5×10m/s以上である、請求項1から15のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項17】
前記液体層の25℃における粘性係数が1×10-4~1×10Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mである、請求項1から16のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項18】
外周の長さが1m以上である、請求項1から17のいずれか1項に記載の振動板。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の振動板を用いた開口部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な音響性能を有するガラス板構成体に関し、また、ガラス板構成体を用いた振動板および開口部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、スピーカーまたはマイクロフォン用の振動板としてコーン紙や樹脂が用いられている。これらの材料は損失係数が大きく、共振振動が生じにくいことから、可聴域における音の再現性能が良いとされている。
しかし、これらは何れも材料における音速値が低いため、高周波で励振した際に、音波周波数に材料の振動が追従しにくく、分割振動が発生しやすい。そのため特に高周波数領域において所望の音圧が出にくい。
【0003】
近年、特にハイレゾ音源等で再生が求められる帯域は20kHz以上の高周波数領域であり、ヒトの耳では聞こえにくい帯域とされるものの、臨場感が強く感じられるなど、より感情に迫るものがあることから、該帯域の音波振動を忠実に再現できることが望ましい。
【0004】
そこで、コーン紙や樹脂に代えて、金属、セラミックス、ガラス等の、材料に伝播する音速が速い素材を用いることが考えられる。しかしながら、一般的にこれら素材はいずれも損失係数が紙と比べて1/10~1/100程度と小さいことから、意図しない残響音が残りやすい。さらには、部材の固有振動数で励振した際に共振モードが発生することによる著しい音色の劣化が発生し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開平5-227590号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Olivier Mal et al.,“A Novel Glass Laminated Structure for Flat Panel Loudspeakers”AES Convention 124,7343.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スピーカー用の振動板として、1枚のガラスを用いたものや(特許文献1)、2枚のガラス板の間に厚さ0.5mmのポリブチル系のポリマー層を有する合せガラスが知られている(非特許文献1)。しかし当該振動板は、共振による著しい音色の劣化が発生することが問題となっていた。
【0008】
そこで本発明では、良好な音響性能を有するガラス板構成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研鑽を積んだ結果、所定のガラス板構造体とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1> ガラス板構成体および、前記ガラス板構成体の片面または両面に設置された少なくとも1つの振動子を含む振動板であって、前記ガラス板構成体は、少なくとも2枚の板と、前記2枚の板の両側から挟み込むようにして保持された液体層と、を含み、前記2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であり、前記2枚の板の各々の端面がずれて配置されることより、断面視において階段状を呈する段差部を構成し、当該段差部において、少なくとも前記液体層を封止するように設けられたシール材を更に備え、前記2枚の板の内面の、前記シール材が配置される部分を除く全面が、前記液体層に接する状態で対向している、振動板。
<2> 前記シール材が、前記段差部において、一方の板の端面と、前記液体層の端面と、他方の板の主面に密着する、前記<1>に記載の振動板。
<3> 前記シール材が、前記一方の板の端面と、前記液体層の端面と、前記他方の板の主面に沿って、断面視においてL字状に延びた輪郭を有する、前記<2>に記載の振動板。
<4> 前記シール材がテーパー面を有する、前記<1>から<3>のいずれか1項に記載の振動板。
<5> 前記ガラス板の比弾性率が、2.5×10/s以上である、前記<1>から<4>のいずれか1項に記載の振動板。
<6> 前記液体層の25℃における粘性係数が1×10-4~1×10Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mである、前記<1>から<5>のいずれか1項に記載の振動板。
<7> 前記液体層の厚みが、前記2枚の板の合計の厚みが1mm以下の場合は、前記2枚の板の合計の厚みの1/10以下であり、前記2枚の板の合計の厚みが1mm超の場合は、100μm以下である、前記<1>から<6>のいずれか1項に記載の振動板。
<8> 物理強化ガラス板および化学強化ガラス板の少なくともいずれか一方のガラス板を含む、前記<1>から<7>のいずれか1項に記載の振動板。
<9> 前記2枚の板の厚みが、それぞれ0.01~15mmである、前記<1>から<8>のいずれか1項に記載の振動板。
<10> 前記液体層がジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記<1>から<9>のいずれか1項に記載の振動板。
<11> 前記シール材が、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、エチレン共重合体系、ポリアクリル酸エステル系、シアノアクリレート系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、線状ポリイミド系、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系、反応性アクリル系、ゴム系、シリコーン系、変性シリコーン系からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記<1>から<10>のいずれか1項に記載の振動板。
<12> さらに他のガラス板を含む、前記<1>から<11>のいずれか1項に記載の振動板。
<13> 少なくとも1枚のガラス板が合わせガラスからなるガラス板である、前記<1>から<12>のいずれか1項に記載の振動板。
<14> ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面にコーティング又はフィルムが形成された、前記<1>から<13>のいずれか1項に記載の振動板。
<15> ガラス板構成体が曲面形状である、前記<1>から<14>のいずれか1項に記載の振動板。
<16> ガラス板構成体の25℃における損失係数が1×10-2であり、かつ、少なくとも1枚の前記ガラス板は、板厚方向の縦波音速度が5.5×10m/s以上である、前記<1>から<15>のいずれか1項に記載の振動板。
<17> 前記液体層の25℃における粘性係数が1×10-4~1×10Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mである、前記<1>から<16>のいずれか1項に記載の振動板。
<18> 外周の長さが1m以上である、前記<1>から<17>のいずれか1項に記載の振動板。
<19> 前記<1>から<18>のいずれか1項に記載の振動板を用いた開口部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スピーカーやマイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等に用いられる振動板用途等において、低共振特性により、低音域から高周波域にかけて音の再現性が良好となる。また、強度を確保することも可能となる。さらに、建築・車両用開口部材用途等において、高い振動減衰能を利用して共振を生じにくくし、共振に起因する異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)は、本発明の第1の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるI-I線に沿った断面図であり、図1(c)は、図1(b)にC部分の拡大図である。
図2図2は、本発明のガラス板構成体の他の例を示す断面図である。
図3図3は、本発明のガラス板構成体のその他の例を示す断面図である。
図4図4は、本発明のガラス板構成体のさらにその他の例を示す断面図である。
図5図5は、本発明のガラス板構成体のさらにその他の例を示す斜視図である。
図6図6(a)は、図5に示す例の平面図であり、図6(b)は、図6(a)におけるII-II線に沿った断面図である。
図7図7(a)は、本発明の第2の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図7(b)は、図7(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図8図8(a)は、本発明の第3の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図8(b)は、図8(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図9図9(a)は、本発明の第4の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図9(b)は、図9(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図10図10(a)は、本発明の第5の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図10(b)は、図10(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図11図11(a)は、本発明の第6の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図11(b)は、図11(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図12図12(a)は、本発明の第7の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図12(b)は、図12(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図13図13(a)は、本発明の第8の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図13(b)は、図13(a)におけるI-I線に沿った断面図である。
図14図14(a)は、R面取りを施した端面の面取り部の例を示す断面図であり、図14(b)は斜め面取りを施した端面の面取り部の例を示す断面図である。
図15図15(a)は、シール部が第1の板と第2の板の間に入り込むように延長した延長部を有する例を示す断面図であり、図15(b)は、第1の板の端面に二つの斜め面取りが施された例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態に基づいて、本発明の詳細およびその他の特徴について説明する。なお、以下の図面において、同一又は対応する部材又は部品には、同一又は対応する符号を付すことにより、重複する説明を省略する。また、図面は、特に指定しない限り、部材又は部品間の相対比を示すことを目的としない。よって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、適宜選択可能である。
【0014】
また本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0015】
(ガラス板構成体の概要)
本発明に係るガラス板構成体は、少なくとも2枚の板と、2枚の板の間に保持された液体層と、を含み、2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であるガラス板構成体である。当該ガラス板構成体は、2枚の板の各々の端面がずれて配置されることより、断面視において階段状を呈する段差部を構成し、当該段差部において、少なくとも液体層を封止するように設けられたシール材を更に備える。
【0016】
ガラス板構成体は、2枚の板の各々の端面がずれて配置されることより、断面視において階段状を呈する段差部を構成している。そして、少なくとも液体層を封止するように設けられたシール材が、段差部において設けられている。この構成により、低共振特性を確保しつつ、強度に優れたガラス板構成体が実現される。
【0017】
具体的には、シール材が、段差部において、一方の板の端面と、液体層の端面と、他方の板の主面に密着している。一方の板の端面および液体層の端面が、他方の板の主面に対して垂直な場合、シール材は、断面視においてL字状に延びた輪郭を有する。本発明において「主面」とは、前記一方の板に対して前記他方の板が突出している部分の面をいう。このような構成により、ガラス板構成体の強度が向上する。
【0018】
前記端面や前記主面は、面取りされている場合は曲面でもよい。この場合、L字状のL字角度は直角(90°)に限定されず、当該角度は、0°より大きく180°より小さい範囲にあることが好ましく、30°~150°の範囲にあることがより好ましく、60°~120°の範囲にあることがさらに好ましく、80°~100°の範囲にあることがさらに好ましい。また、シール材は前記L字状の輪郭において、前記一方の板の端面に面取り加工を施すことにより形成される面取り部に充填されていてもよい。
【0019】
また、シール材がテーパー面を有することが好ましい。本発明において「テーパー面」とは、前記段差部における前記板の面(一方の板の端面または他方の板の主面)に対して斜めの状態で対向する斜面を構成する面をいう。これにより、ガラス板構成体を加工したのと同じ効果を得ることができる。
【0020】
本発明に係るガラス板構成体は、25℃における損失係数が1×10-2以上であり、かつ、少なくとも1枚のガラス板の板厚方向の縦波音速値が5.5×10m/s以上であることが好ましい。なお、損失係数が大きいとは振動減衰能が大きいことを意味する。
【0021】
損失係数とは、半値幅法により算出したものを用いる。材料の共振周波数f、振幅hであるピーク値から-3dB下がった点(すなわち、最大振幅-3[dB]における点)の周波数幅をWとしたときに、{W/f}で表される値を損失係数と定義する。
共振を抑えるには、損失係数を大きくすればよく、すなわち、振幅hに対し相対的に周波数幅Wは大きくなり、ピークがブロードとなることを意味する。
【0022】
損失係数は材料等の固有の値であり、例えばガラス板単体の場合にはその組成や相対密度等によって異なる。なお、損失係数は共振法などの動的弾性率試験法により測定することができる。
【0023】
縦波音速値とは、振動板中で縦波が伝搬する速度をいう。縦波音速値およびヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により測定することができる。
【0024】
(液体層)
本発明に係るガラス板構成体は、少なくとも2枚(少なくとも一対)の板の間に液体からなる層(液体層)を設けることで、高い損失係数を実現することができる。中でも、液体層の粘性や表面張力を好適な範囲にすることで、より損失係数を高くすることができる。
これは、一対の板を粘着層を介して設ける場合とは異なり、一対の板が固着せず、各々の板としての振動特性を持ち続けることに起因するものと考えられる。
【0025】
液体層は25℃における粘性係数が1×10-4~1×10Pa・sであり、かつ、25℃における表面張力が15~80mN/mであることが好ましい。粘性が低すぎると振動を伝達しにくくなり、高すぎると液体層の両側に位置する一対の板同士が固着して1枚の板としての振動挙動を示すようになることから、共振振動が減衰されにくくなる。また、表面張力が低すぎると板間の密着力が低下し、振動を伝達しにくくなる。表面張力が高すぎると、液体層の両側に位置する一対の板同士が固着しやすくなり、1枚の板としての振動挙動を示すようになることから、共振振動が減衰されにくくなる。
【0026】
液体層の25℃における粘性係数は1×10-3Pa・s以上がより好ましく、1×10-2Pa・s以上がさらに好ましい。また、1×10Pa・s以下がより好ましく、1×10Pa・s以下がさらに好ましい。
液体層の25℃における表面張力は17mN/m以上がより好ましく、30mN/m以上がさらに好ましい。
【0027】
液体層の粘性係数は回転粘度計などにより測定することができる。液体層の表面張力はリング法などにより測定することができる。
【0028】
液体層は、蒸気圧が高すぎると液体層が蒸発してガラス板構成体としての機能を果たさなくなるおそれがある。そのため、液体層は、25℃、1atmにおける蒸気圧が1×10Pa以下が好ましく、5×10Pa以下がより好ましく、1×10Pa以下がさらに好ましい。
【0029】
液体層の厚みは薄いほど、高剛性の維持および振動伝達の点から好ましい。具体的には、2枚の板の合計の厚みが1mm以下の場合は、液体層の厚みは、2枚の板の合計の厚みの1/10以下が好ましく、1/20以下がより好ましく、1/30以下がさらに好ましく、1/50以下がよりさらに好ましく、1/70以下がことさらに好ましく、1/100以下が特に好ましい。
また2枚の板の合計の厚みが1mm超の場合は、液体層の厚みは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がよりさらに好ましく、15μm以下がことさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。
液体層の厚みの下限は、製膜性および耐久性の点から0.01μm以上が好ましい。
【0030】
液体層は化学的に安定であり、液体層と液体層の両側に位置する2枚の板とが、反応しないことが好ましい。
化学的に安定とは、例えば光照射により変質(劣化)が少ないものであったり、少なくとも-20~70℃の温度領域で凝固、気化、分解、変色、ガラスとの化学反応等が生じないものを意味する。
【0031】
液体層の成分としては、具体的には、水、オイル、有機溶剤、液状ポリマー、イオン性液体およびそれらの混合物等が挙げられる。
より具体的には、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ストレートシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル)、変性シリコーンオイル、アクリル酸系ポリマー、液状ポリブタジエン、グリセリンペースト、フッ素系溶剤、フッ素系樹脂、アセトン、エタノール、キシレン、トルエン、水、鉱物油、およびそれらの混合物、等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、プロピレングリコールまたはシリコーンオイルを主成分とすることがより好ましい。
【0032】
上記の他に、粉体を分散させたスラリーを液体層として使用することもできる。損失係数の向上といった観点からは、液体層は均一な流体であることが好ましいが、ガラス板構成体に着色や蛍光等といった意匠性や機能性を付与する場合には、該スラリーは有効である。
液体層における粉体の含有量は0~10体積%が好ましく、0~5体積%がより好ましい。
粉体の粒径は沈降を防ぐ観点から10nm~10μmが好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0033】
また、意匠性・機能性付与の観点から、液体層に蛍光材料を含んでもよい。蛍光材料を粉体として分散させたスラリー状の液体層でも、蛍光材料を液体として混合させた均一な液体層でもよい。これにより、ガラス板構成体に光の吸収および発光といった光学的機能を付与することができる。
【0034】
(板及びガラス板)
本発明に係るガラス板構成体においては、液体層を両側から挟むように、少なくとも2枚(少なくとも一対)の板が設けられる。そして、2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板である。このような構成において、何れかの板が共振した場合に、液体層の存在により、他の板が共振しない、又は、他の板の共振の揺れを減衰することができることから、ガラス板構成体は、ガラス板単独の場合と比べて損失係数を高くすることができる。
【0035】
一対の板を構成する2枚の板のうち、一方の板と他方の板の共振周波数のピークトップの値は異なることが好ましく、共振周波数の範囲が重なっていないものがより好ましい。ただし、一方の板および他方の板の共振周波数の範囲が重複していたり、ピークトップの値が同じであっても、液体層の存在によって、一方の板が共振しても、他方の板の振動が同期しないことで、ある程度共振が相殺されることから、ガラス板単独の場合に比べて高い損失係数を得ることができる。
【0036】
すなわち、一方の板の共振周波数(ピークトップ)をQa、共振振幅の半値幅をwa、他方のス板の共振周波数(ピークトップ)をQb、共振振幅の半値幅をwbとした時に、下記[式1]の関係を満たすことが好ましい。
(wa+wb)/4<|Qa-Qb|・・・[式1]
上記[式1]における左辺の値が大きくなるほど二つの板の共振周波数の差異(|Qa-Qb|)が大きくなり、高い損失係数が得られるようになることから好ましい。
【0037】
そのため、下記[式1’]を満たすことがより好ましく、下記[式1”]を満たすことがより好ましい。
(wa+wb)/2<|Qa-Qb|・・・[式1’]
(wa+wb)/1<|Qa-Qb|・・・[式1”]
なお、板の共振周波数(ピークトップ)および共振振幅の半値幅は、ガラス板構成体における損失係数と同様の方法で測定することができる。
【0038】
一方の板と他方の板は、質量差が小さいほど好ましく、質量差がないことがより好ましい。板の質量差がある場合、軽い方の板の共振は重い方の板で抑制することはできるが、重い方の板の共振を軽い方の板で抑制することは困難である。すなわち、質量比に偏りがあると、慣性力の差異により原理的に共振振動を互いに打ち消せなくなるためである。
【0039】
(一方のA/他方の板)で表される2枚の板の質量比は0.8~1.25(8/10~10/8)が好ましく、0.9~1.1(9/10~10/9)がより好ましく、1.0(10/10、質量比0)がさらに好ましい。
【0040】
一方の板および他方の板の厚みはいずれも薄いほど、板同士が液体層を介して密着しやすく、また、板を少ないエネルギーで振動させることができる。そのため、スピーカー等の振動板用途の場合には、板の厚みは薄いほど好ましい。具体的には2枚の板の板厚がそれぞれ15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下がさらにより好ましく、1.5mm以下が特に好ましく、0.8mm以下が特により好ましい。一方、薄すぎると板の表面欠陥の影響が顕著になりやすく割れが生じやすくなったり、強化処理しにくくなることから、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。
【0041】
また、共振現象に起因する異音の発生を抑制した建築・車両用開口部材用途においては、一方の板および他方の板の板厚はそれぞれ0.5~15mmが好ましく、0.8~10mmがより好ましく、1.0~8mmがさらに好ましい。
【0042】
一方の板および他方の板の少なくともいずれか一方の板は、損失係数が大きい方が、ガラス板構成体としての振動減衰も大きくなり、振動板用途として好ましい。具体的には、板の25℃における損失係数は1×10-4以上が好ましく、3×10-4以上がより好ましく、5×10-4以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、生産性や製造コストの観点から5×10-3以下であることが好ましい。また、一方の板および他方の板の両方が、上記損失係数を有することがより好ましい。
なお、板の損失係数は、ガラス板構成体における損失係数と同様の方法で測定することができる。
【0043】
一方の板および他方の板の少なくともいずれか一方の板は、板厚方向の縦波音速値が高い方が高周波領域の音の再現性が向上することから、振動板用途として好ましい。具体的には、板の縦波音速値が5.5×10m/s以上が好ましく、5.7×10m/s以上がより好ましく、6.0×10m/s以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、板の生産性や原料コストの観点から7.0×10m/s以下が好ましい。また、一方の板および他方の板の両方が、上記音速値を満たすことがより好ましい。
なお、板の音速値は、ガラス板構成体における縦波音速値と同様の方法で測定することができる。
【0044】
本発明に係るガラス板構成体において、一方の板および他方の板の少なくとも1枚の板はガラス板により構成される。他の1枚の板の素材は任意であり、ガラス以外の樹脂による樹脂板、セラミックによるセラミック板など、種々のものを採用することができる。意匠性や加工性の観点からは、樹脂板またはその複合材料を用いることが好ましく、樹脂板が、アクリル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET樹脂、FRP材料を用いることが特により好ましい。また、振動特性の観点からは、剛性の高いセラミック材料を用いることが好ましく、例えばAl、SiC、Si、AlN、ムライト、ジルコニア、イットリア、YAG等のセラミックスおよび単結晶材料がより好ましい。また、セラミック材料については透光性を有する材料であることが特により好ましい。他の1枚の板は好ましくはガラス板である。
【0045】
少なくとも1枚の板を構成するガラス板の組成は特に限定されないが、酸化物基準の質量%で、例えば下記範囲であることが好ましい。
SiO:40~80質量%、Al:0~35質量%、B:0~15質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、LiO:0~20質量%、NaO:0~25質量%、KO:0~20質量%、TiO:0~10質量%、かつ、ZrO:0~10質量%。但し上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0046】
ガラス板の組成はより好ましくは、下記範囲である。
SiO:55~75質量%、Al:0~25質量%、B:0~12質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、LiO:0~20質量%、NaO:0~25質量%、KO:0~15質量%、TiO:0~5質量%、かつ、ZrO:0~5質量%。但し上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0047】
ガラス板の比重はいずれも小さいほど、少ないエネルギーでガラス板を振動させることができる。具体的にはガラス板の比重が2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.5以下がさらにより好ましい。下限は特に限定されないが、2.2以上であることが好ましい。
ガラス板のヤング率を密度で除した値である比弾性率は、大きいほど、ガラス板の剛性を高くすることができる。具体的にはガラス板の比弾性率が2.5×10/s以上が好ましく、2.8×10/s以上がより好ましく、3.0×10/s以上がさらにより好ましい。上限は特に限定されないが、ガラス製造時の成形性の観点から4.0×10/s以下であることが好ましい。
【0048】
(ガラス板構成体)
本発明に係るガラス板構成体は、少なくとも2枚の板と、2枚の板の間に保持された液体層と、を含み、2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であるガラス板構成体である。当該ガラス板構成体は、2枚の板の各々の端面がずれて、すなわち突出して配置されることより、断面視において階段状を呈する段差部を構成し、当該段差部において、少なくとも液体層を封止するように設けられたシール材を更に備える。
【0049】
この構成により、1枚の板が他の板に対し動きやすくなるとともに、強度も確保しやすくなるため、低共振特性を確保しつつ、強度に優れたガラス板構成体が実現される。前記段差部における2枚のうちの一方の板の突出量、すなわち寸法差(またはオフセット量ともいう)は、前記2枚の板の合計板厚に対する比率に基づく値で示すと、好ましくは0.1倍以上、さらには0.2倍以上、さらには0.5倍以上が好ましい。また好ましくは10倍以下、さらには5倍以下、さらには2倍以下が好ましい。また突出量は、突出の幅の値で示すと、好ましくは0.1mm以上、さらには0.2mm以上、さらには0.5mm以上が好ましい。また好ましくは30mm以下、さらには15mm以下、さらには7.5mm以下が好ましい。ここで規定される突出量の下限は、シール材の板に対する接着力、2枚の板の剥離強度、接着作業性等を考慮するものであり、突出量の上限は専ら振動特性等を考慮するものである。尚、突出量は、一方の板の最端部と他方の板の最端部との間の距離で示されるものである。
【0050】
具体的には、シール材が、段差部において、一方の板の端面と、液体層の端面と、他方の板の主面に密着している。一方の板の端面および液体層の端面が、他方の板の主面に対して垂直な場合、シール材は、断面視においてL字状に延びた輪郭を有する。このような構成により、ガラス板構成体の強度が向上する。
【0051】
また、シール材がテーパー面を有することが好ましい。これにより、ガラス板構成体を加工したのと同じ効果を得ることができる。
【0052】
シール材は、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル系、ポリビニルアルコール系、エチレン共重合体系、ポリアクリル酸エステル系、シアノアクリレート系、飽和ポリエステル系、ポリアミド系、線状ポリイミド系、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系、反応性アクリル系、ゴム系、シリコーン系、変性シリコーン系からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0053】
また、ガラス板構成体の直線透過率が高いと、透光性の部材としての適用が可能となる。そのため、日本工業規格(JIS R3106-1998)に準拠して求められた可視光透過率が60%以上であることが好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。
なお、透光性の部材としては、例えば透明スピーカー、透明マイクロフォン、建築、車両用の開口部材等の用途が挙げられる。
【0054】
ガラス板構成体の透過率を高めるために、屈折率を整合させることも有用である。すなわち、ガラス板構成体を構成するガラス板と液体層との屈折率は近いほど、界面における反射および干渉が防止されることから好ましい。中でも液体層の屈折率と液体層に接する一対のガラス板の屈折率との差がいずれも0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.01以下であることがさらにより好ましい。
【0055】
ガラス板構成体を構成する板の少なくとも1枚および液体層の少なくともいずれか一方に着色することも可能である。これは、ガラス板構成体に意匠性を持たせたい場合や、IRカット、UVカット、プライバシーガラス等の機能性を持たせたい場合に有用である。
【0056】
ガラス板構成体を構成する板のうちガラス板は少なくとも1枚であればよいが、2枚以上のガラス板を用いてもよい。この場合、すべて異なる組成のガラス板を用いてもよく、すべて同じ組成のガラス板を用いてもよく、同じ組成のガラス板と異なる組成のガラス板とを組み合わせて用いてもよい。中でも、異なる組成からなる2種類以上のガラス板を用いることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
ガラス板の質量や厚みについても同様に、すべて異なっても、すべて同一でも、一部が異なっていてもよい。中でも、構成するガラス板の質量が全て同一であることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
【0057】
ガラス板構成体を構成するガラス板の少なくとも1枚に物理強化ガラス板や化学強化ガラス板を用いることもできる。これは、ガラス板構成体の破壊を防ぐのに有用である。ガラス板構成体の強度を高めたい場合には、ガラス板構成体の最表面に位置するガラス板を物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板とすることが好ましく、構成するガラス板の全てが物理強化ガラス板又は強化ガラス板であることがより好ましい。
【0058】
また、ガラス板として、結晶化ガラスや分相ガラスを用いることも、縦波音速値や強度を高める点から有用である。特に、ガラス板構成体の強度を高めたい場合には、ガラス板構成体の最表面に位置するガラス板を結晶化ガラス又は分相ガラスとすることが好ましい。
【0059】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲でコーティングやフィルムを形成してもよい。コーティングの施工やフィルムの貼付は例えば傷付き防止等に好適である。
コーティングやフィルムの厚みは、表層のガラス板の板厚の1/5以下であることが好ましい。コーティングやフィルムには従来公知の物を用いることができるが、コーティングとしては例えば撥水コーティング、親水コーティング、滑水コーティング、撥油コーティング、光反射防止コーティング、遮熱コーティング、高反射コーティング等が挙げられる。また、フィルムとしては例えばガラス飛散防止フィルム、カラーフィルム、UVカットフィルム、IRカットフィルム、遮熱フィルム、電磁波シールドフィルム等が挙げられる。
【0060】
ガラス板構成体の形状は、用途によって適宜設計することができ、平面板状であっても曲面形状でもよい。
低周波数帯域の出力音圧レベルを上げるため、ガラス板構成体にエンクロージャーまたはバッフル板を付与した構造とすることも出来る。エンクロージャーまたはバッフル板の材質は特に限定されないが、本発明のガラス板構成体を用いることが好ましい。
【0061】
ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲で、フレーム(枠)を設けてもよい。フレームは、ガラス板構成体の剛性を向上させたい場合、あるいは曲面形状を保持したい場合等に有用である。フレームの材質としては従来公知の物を用いることができるが、例えばAl、SiC、Si、AlN、ムライト、ジルコニア、イットリア、YAG等のセラミックスおよび単結晶材料、FRP等の複合材料、アクリル、ポリカーボネート等の樹脂材料、ガラス材料、木材等を用いることが出来る。
用いるフレームの重量は、ガラス板の重量の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0062】
ガラス板構成体とフレームとの間にはシール部材を有することもできる。さらに、ガラス板構成体の外周端面の少なくとも一部を、ガラス板構成体の振動を妨げないシール部材でシールしてもよい。シール部材としては、伸縮性の高いゴム、樹脂、ゲル等を用いることが出来る。
【0063】
シール部材用の樹脂に関しては、アクリル系、シアノアクリレート系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、フェノール系等を用いることができる。硬化方法としては一液型、二液混合型、加熱硬化、紫外線硬化、可視光硬化等が挙げられる。
熱可塑性樹脂(ホットメルトボンド)を用いることも出来る。例として、エチレン酢酸ビニル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系が挙げられる。
【0064】
ゴムに関しては、例えば天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ハイパロン)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム(チオコール)、水素化ニトリルゴムを用いることが出来る。シール部材の厚さtは、薄すぎると十分な強度が確保されず、厚すぎると振動の支障となる。ゆえにシール部材の厚さは10μm以上かつガラス板構成体の合計厚みの5倍以下であることが好ましく、50μm以上かつガラス板構成体の合計厚みより薄いことがより好ましい。
【0065】
ガラス板構成体のガラス板と液体層との界面における剥離防止等のために、向かい合うガラス板の面の少なくとも一部に本発明の効果を損なわない範囲で上記のシール部材を塗布することができる。この場合、シール部材塗布部の面積は振動の支障とならないように液体層の面積の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0066】
また、シール性能を向上するために、ガラス板のエッジ部分を適切な形状に加工することも出来る。例えば少なくとも一方のガラス板の端部をC面取り(ガラス板の断面形状が台形形状)またはR面取り(ガラス板の断面形状が略円弧状)することにより、シール部材とガラスの接触面積を増大させ、シール部材とガラスの接着強度を向上させることが出来る。
【0067】
(振動板、開口部材)
本発明は、上記ガラス板構成体および振動子を含む振動板、上記ガラス板構成体を用いた開口部材に関する。
【0068】
振動板としては、例えば、ガラス板構成体の片面または両面に1個以上の振動素子や振動検出素子(振動子)を設置することにより、スピーカー、マイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等の筺体振動体や筺体スピーカーとして機能させることができる。出力音圧レベルを向上させるためには2個以上の振動素子をガラス板構成体の両面に設置することが望ましい。一般に振動板に対する振動子の位置は構成体の中央部であることが望ましいが、本材料は高音速かつ高減衰性能を有するため、振動子をガラス板構成体の端部に設置してもよい。本発明に係る振動板を用いることにより、従来再現が難しかった高周波領域の音の再生が容易に可能となる。また、ガラス板構成体の大きさ、形状、色調等における自由度が高く、意匠性を施すことが可能であることから、デザイン性にも優れた振動板を得ることができる。また、ガラス板構成体表面または近傍に設置した集音用マイクロフォンまたは振動検出器で音声または振動をサンプリングし、これと同位相あるいは逆位相の振動をガラス板構成体に発生させることによりサンプリングした音声または振動を増幅したり打ち消したりすることができる。このとき、上記のサンプリング点における音声または振動の特性が、ガラス板構成体に伝搬するまでの間に或る音響伝達関数に基づいて変化する場合、および、ガラス板構成体に音響変換伝達関数が存在する場合には、制御フィルタを用いて制御信号の振幅と位相を補正することにより、振動を精度よく増幅したりキャンセルしたりすることが可能となる。上記のような制御フィルタを構成する際、例えば最小二乗法(LMS)アルゴリズムを用いることが出来る。
【0069】
より具体的な構成として、例えば、複層ガラスの全部または少なくとも1枚のガラス板を本発明のガラス板構成体とし、制御対象の音波振動が流入する側の板の振動レベルまたはガラス間に存在する空間の音圧レベルをサンプリングし、これを制御フィルタにより適切に信号補正した上で音波振動が流出する側に設置されたガラス板構成体上の振動素子に出力する構造とすることが出来る。
【0070】
本振動板の用途としては、例えば電子機器用部材として、フルレンジスピーカー、15Hz~200Hz帯の低音再生用スピーカー、10kHz~100kHz帯の高音再生スピーカー、振動板の面積が0.2m以上の大型スピーカー、振動板の面積が3cm以下の小型スピーカー、平面型スピーカー、円筒型スピーカー、透明スピーカー、スピーカーとして機能するモバイル機器用カバーガラス、TVディスプレイ用カバーガラス、映像信号と音声信号とが同一の面から生じるディスプレイ、ウェアラブルディスプレイ用スピーカー、電光表示器、照明器具、等に利用することが出来る。また、ヘッドフォン、イヤフォンまたはマイク用の振動板、振動センサーとして用いることが出来る。
車両等の輸送機械の内装用振動部材として、車載・機載スピーカーとして用いることができる。例えばスピーカーとして機能するサイドミラー、サンバイザー、インパネ、ダッシュボード、天井、ドア、その他内装パネルとすることが出来る。これらをマイクロフォンおよびアクティブノイズコントロール用振動板として機能させることもできる。
その他の用途として、超音波発生装置用振動板、超音波モーター用スライダ、低周波発生装置、液中に音波振動を伝搬させる振動子、およびそれを用いた水槽並びに容器、振動素子、振動検出素子、振動減衰装置用のアクチュエータ用材料として用いることができる。
【0071】
開口部材としては、例えば、建築・輸送機械等に用いられる開口部材が挙げられる。例えば、車両、航空機、船舶、発電機等の駆動部などから発生する騒音の周波数帯で共振しにくいガラス板構成体を用いた場合、それらの騒音に対して特に優れた発生抑制効果を得ることが可能となる。また、ガラス板構成体にIRカット、UVカット、着色等の機能を付与することもできる。
【0072】
開口部材に適用する際には、ガラス板構成体の片面または両面に1個以上の振動素子や振動検出素子(振動子)を設置した振動板を、スピーカーやマイクロフォンとして機能させることもできる。本発明に係るガラス板構成体を用いることにより、従来再現が難しかった高周波領域の音の再生が容易に可能となる。また、ガラス板構成体の大きさ、形状、色調等における自由度が高く、意匠性を施すことが可能であることから、デザイン性にも優れた開口部材を得ることができる。また、ガラス板構成体表面または近傍に設置した集音用マイクロフォンまたは振動検出器で音声または振動をサンプリングし、これと同位相あるいは逆位相の振動をガラス板構成体に発生させることによりサンプリングした音声または振動を増幅したり打ち消したりすることができる。
【0073】
より具体的には、車内スピーカー、車外スピーカー、遮音機能を有する車両用フロントガラス、サイドガラス、リアガラスまたはルーフガラスとして用いることができる。このとき、特定の音波振動のみを透過または遮断できる仕組みとしてもよい。また、音波振動により撥水性、耐着雪性、耐着氷性、防汚性を向上させた車両用窓、構造部材、化粧板として用いることもできる。具体的には、自動車用窓ガラスやミラーのほか、レンズ、センサーおよびそれらのカバーガラスとして用いることができる。
【0074】
建築用開口部材としては、振動板および振動検出装置として機能する窓ガラス、ドアガラス、ルーフガラス、内装材、外装材、装飾材、構造材、外壁、遮音板および遮音壁、および太陽電池用カバーガラスとして用いることが出来る。それらを音響反射(残響)板として機能させてもよい。また、音波振動により上記の撥水性、耐着雪性、防汚性を向上させることもできる。
【0075】
(ガラス板構成体の製造方法)
本発明に係るガラス板構成体は一対のガラス板の間に液体層を形成することにより得ることができる。
一対のガラス板の間に液体層を形成する方法は特に限定されず、例えば、ガラス板表面に液体層を形成し、その上に別のガラス板を設置する方法、それぞれ液体層を表面に形成したガラス板同士を貼り合わせる方法、2枚のガラス板の隙間から液体層を流し入れる方法等が挙げられる。
【0076】
液体層の形成についても特に限定されず、例えば、液体層を構成する液体をディスペンサー、スピンコート、ダイコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法によりガラス板表面に塗布することができる。
【0077】
(ガラス板構成体の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のガラス板構成体10を示し、図1(a)は、第1の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるI-I線に沿った断面図であり、図1(c)は、図1(b)にC部分の拡大図である。
【0078】
ガラス板構成体10は、少なくとも2枚の板である第1の板(一方又は他方の板)11および第2の板(他方又は一方の板)12と、第1の板11および第2の板12の間に保持された液体層16とを含む。2枚の板、第1の板11と第2の板12のうち少なくとも1枚の板は、ガラス板により構成されている。
【0079】
図1(b)、図1(c)に示すように、2枚の板である第1の板11と第2の板12の各々の端面がずれて配置されることより、断面視において階段状を呈する段差部50が構成されている。そして、この段差部50において、シール材31が少なくとも液体層16を封止するように設けられている。
【0080】
シール材31は、段差部50において、第1の板11の端面11aと、液体層16の端面16aと、第2の板12の主面12aに密着している。このような構成により、液体層16がシール材31により封止され、液体層16の漏れが防止されるとともに、第1の板11、液体層16、第2の板12の接合が強化され、ガラス板構成体10の強度が増すこととなる。
【0081】
また、本実施形態では、段差部50において、第1の板11の端面11aおよび液体層16の端面16aが、第2の板12の主面12aに対して垂直になるように構成されている。この結果、シール材31は、断面視において段差部50に沿ってL字状に延びた輪郭を有する。このような構成により、第1の板11、液体層16、第2の板12の接合がさらに強化され、ガラス板構成体10の強度がさらに増すこととなる。
【0082】
さらに本実施形態では、シール材31がテーパー面31aを有している。ガラス板構成体10の縁部は、テーパー加工等がされることがあるが、このようなシール材31の形状を採用することにより、ガラス板構成体を加工したのと同じ効果を得ることができる。
【0083】
図2は、ガラス板構成体10の他の例を示す断面図である。図2のガラス板構成体10においては、図1のガラス板構成体10に対し、最表面にコーティング、フィルムなどのカバー層21が形成されている。カバー層21により、様々な機能を付与することができる。
【0084】
図3は、ガラス板構成体10のその他の例を示す断面図である。図3のガラス板構成体10は、図1のガラス板構成体10の構成に加えて、他のガラス板13を含む。このような構成により、ガラス板構成体10の強度を増すことができる。尚、ガラス板構成体10の端部にはシール部材32が設けられており、液体層16を封止している。シール部材32の代わりにシールテープ40(図7参照)を貼付してもよい。
【0085】
図4は、ガラス板構成体10のさらにその他の例を示す断面図である。図4のガラス板構成体10は、図1のガラス板構成体10を曲面形状に加工したものである。このような形状により、ガラス板構成体が利用される種々の装置(振動板、開口部材など)のデザインの自由度を挙げることができる。
【0086】
図5および図6は、ガラス板構成体10のさらにその他の例を示し、図5は当該例の斜視図であり、図6(a)は、図5の例の平面図であり、図6(b)は、図6(a)におけるII-II線に沿った断面図である。本例においては、ガラス板構成体10の外縁、少なくともガラス板構成体10の最表面に、フレーム(枠)30が設けられている。フレーム30により、ガラス板構成体10の剛性がさらに向上する。また、図4のガラス板構成体10に適用した場合、曲面形状をより強固に保持することができる。さらに、ガラス板構成体10とフレーム30との間にはシール部材32が設けられている。このシール部材32は伸縮性を有しており、フレーム30を容易にガラス板構成体10に取り付けることが可能となる。
【0087】
図7は、本発明の第2実施形態のガラス板構成体10を示し、図7(a)は、本発明の第2の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図7(b)は、図7(a)におけるI-I線に沿った断面図である。図1の実施形態では、第1の板11は、第2の板12より一回り小さく、平面視において矩形(正方形または長方形)のガラス板構成体10において4辺すべて、すなわちガラス板構成体10の全周縁に段差部50が形成されている。よって、ガラス板構成体10の全周縁にシール材31が設けられている。一方、図7の第2実施形態においては、平面視において矩形のガラス板構成体10において3辺に段差部50が形成され、3辺にシール材31が設けられている。そして3辺のうち一辺10Aにおいて、シール材31の幅が広くなっている。尚、段差部50のない辺10Bには、シールテープ40が貼付され、液体層16を封止している。シールテープ40の代わりに、シール部材32を設けてもよい。
【0088】
図8は、本発明の第3の実施形態のガラス板構成体10を示し、図8(a)は、本発明の第3の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図8(b)は、図8(a)におけるI-I線に沿った断面図である。図8の第2実施形態においては、平面視において矩形のガラス板構成体10において2辺に段差部50が形成され、2辺にシール材31が設けられている。本実施形態においては、第1、第2実施形態に比べてシール材31の量を減らすことができる。尚、段差部50のない二つの辺10A、10Bには、シールテープ40が貼付され、液体層16を封止している。シールテープ40の代わりに、シール部材32を設けてもよい。
【0089】
図9は、本発明の第4の実施形態のガラス板構成体10を示し、図9(a)は、本発明の第4の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図9(b)は、図9(a)におけるI-I線に沿った断面図である。本実施形態は、図7の第2実施形態と類似しているが、3辺のうち一辺10Aにおいて、シール材31の幅が広くなっておらず、他の辺における幅とほぼ同じになっている。尚、段差部50のない辺10Bには、シールテープ40が貼付され、液体層16を封止している。シールテープ40の代わりに、シール部材32を設けてもよい。
【0090】
図10は、本発明の第5の実施形態のガラス板構成体10を示し、図10(a)は、本発明の第5の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図10(b)は、図10(a)におけるI-I線に沿った断面図である。本実施形態においては、他の実施形態と異なり、段差部50、シール材31が、ガラス板構成体10の周縁に設けられておらず、平面視でガラス板構成体10の略中央に設けられている。このような構成も、2枚の板(第1の板11と第2の板12)の各々の端面がずれて配置されるという要件を満たしている。そして、ガラス板構成体10の強度が増すこととなる。また、ガラス板構成体10の周縁の端面には、シールテープ40が貼付され、液体層16を封止している。
【0091】
図11は、本発明の第6の実施形態のガラス板構成体10を示し、図11(a)は、本発明の第6の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図11(b)は、図11(a)におけるI-I線に沿った断面図である。本実施形態においては、他の実施形態と異なり、シール材31が、ガラス板構成体10の対向する2つの辺において、かつ、反対側の面に設けられている。このような構成においても、ガラス板構成体10の強度を向上させることができる。尚、段差部50のない二つの辺10A、10Bには、シールテープ40が貼付され、液体層16を封止している。シールテープ40の代わりに、シール部材32を設けてもよい。
【0092】
図12は、本発明の第7の実施形態のガラス板構成体10を示し、図12(a)は、本発明の第7の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図12(b)は、図12(a)におけるI-I線に沿った断面図である。本実施形態においては、第2の板12がガラス板であるが、合わせガラスからなるガラス板となっている。通常、合わせガラスというと、複数のガラス板を合わせたものをいうが、本発明においては一体化された板として取り扱う。ただし、本発明における、「少なくとも2枚の板と、前記2枚の板の間に保持された液体層と、を含み、前記2枚の板のうち少なくとも1枚の板がガラス板であるガラス板構成体」自体は、本発明においては前記合わせガラスに含めない。合わせガラスは、第1のガラス12Aと第2のガラス12Bとの間に樹脂等からなる中間層12cが挟まれた状態で構成されている。このような構成においても、ガラス板構成体10の強度を向上させることができる。尚、段差部50のない二つの辺10A、10Bには、シールテープ40が貼付され、液体層16を封止している。シールテープ40の代わりに、シール部材32を設けてもよい。
【0093】
図13は、本発明の第8の実施形態のガラス板構成体10を示し、図13(a)は、本発明の第8の実施形態のガラス板構成体の平面図であり、図13(b)は、図13(a)におけるI-I線に沿った断面図である。本実施形態においては、他の実施形態の様に平面視において矩形(正方形または長方形)ではなく、ガラス板構成体10が平面視において円形形状に形成されている。他の構成については他の実施形態と同じである。
【0094】
上記いずれの実施形態もその大きさは制限されないが、例えば外周の長さが1m以上となるような大型のガラス板構造体を構成することが可能である。
【0095】
また、段差部50は、2枚の板(第1の板11および第2の板12)が重なっていない非積層部分ということができる。この非積層部分の平面視における面積は、2枚の板が重なっている積層部分の面積に対し、0.1%以上であって20%以下の割合に設定することが望ましい。割合が1%より小さいと封止する面積が不十分となる可能性があり、20%より大きいと共振抑制効果が減少する可能性がある。
【0096】
また、本発明のガラス板構成体は、所定の関係にある2枚の板(第1の板11および第2の板12)を積層することにより構成されるが、段差部を形成できる限り、ここでの所定の関係には様々なものがある。図1等の実施形態の様に、外径サイズが異なる2枚の板を用いたものは代表的な例である。ただし、図10の実施形態の様に、外径サイズが同じであっても、互いに異なる形状の2枚の板を用いても段差部を形成することができる。また、図11の実施形態の様に、外径サイズ、形状が同じであっても、互いにずらして配置することにより段差部を形成することができる。
【0097】
本発明の様に、段差部が存在しない場合、シール材を2枚の板の間の周縁や端面に設けることが考えられる。しかしながら、このような構成においては強度の確保のため、シール材の幅や厚みを大きくしたり、シール材の硬度を高めたりするなどの工夫が必要となる。しかしながら、このような工夫により、2枚の板同士の拘束力が増大し、損失係数が低下し、共振振動が誘起されやすくなるため響性能が損なわれるおそれがある。
【0098】
一方、本発明では、2枚の板の各々の端面をずれて配置することより、階段状を呈する段差部を形成し、段差部において、液体層を封止するようにシール材が設けられる。この結果、音響性能と強度を高いレベルで両立することが可能となった。
【0099】
第1の板11の端面11aには、種々の面取り加工を施すことが可能である。図14は、端面11aに面取り加工を施すことにより形成される面取り部の例を示す。図14(a)はR面取り11a1を施した端面11aの面取り部の例を示し、図14(b)は斜め面取り11a2を施した端面11aの面取り部の例を示す。シール材31は、このような加工を施した面取り部に密着する様に取り付けることができる。図14(a)の例においては、シール材31は、面取り部と第2の板12との間に充填されることになる。
【0100】
図15は、段差部50の変形例を示している。図15(a)は、シール材31が第1の板11と第2の板12の間に入り込むように延長した延長部31bを有する例を示す。例えばシール材31の材料の塗布後、当該材料を硬化する際に、シール材が第1の板11と第2の板12に入り込む様に硬化プロセスを制御することにより、延長部31bを形成することができる。図15(b)は、第1の板11の端面11aに二つの斜め面取りが施された例を示す。本例では、図14(b)の斜め面取りと同様な第1の斜め面取り11a2に加え、第1の斜め面取り11a2とは逆向きに傾いた第2の斜め面取り11a3が形成されており、第2の斜め面取り11a3の下方であって、第2の板12の上方にシール材31が充填されている。なお、第2の板12の端面において、図14(a)で示したR面取りが施されている。
【実施例
【0101】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。以下の実施例1~5におけるシール材は断面視においてL字状に延びた輪郭を有し、L字状のL字角度は直角(90°)である。
【0102】
<実施例1>
基板1である第2の板として110mm×110mm×0.5mmのガラス板Aを用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER 400DS-s)を用い、液体層として粘性係数3000mPa・sのシリコーンオイル(信越化学工業製;KF-96)を塗布した。さらに基板2である第1の板として100mm×100mm×0.5mmのガラス板Bをガラス板Aの中央部に密着させ、液厚が3μmの厚さとなるように貼合した。これにより、前記2枚のガラス板の全ての端面の位置が不一致となるように配置されたガラス積層体が得られた。次に、ガラス板Aとガラス板Bの段差部にUV硬化樹脂(協立化学製;XVL-14)を塗布し、硬化させた後、ガラス板Aを103mm×103mm×0.5mmの大きさとなるように未貼合部位を切断し、段差シールがされたガラス板構成体が得られた。ガラス板Aおよびガラス板Bの組成(質量%)および物性値を以下に示す。段差部における突出量は1.5mmである。
【0103】
(ガラス板A)SiO:61.5%、Al:20%、B:1.5%、MgO:5.5%、CaO:4.5%、SrO:7%、密度:2.7g/cm、ヤング率:85GPa、比弾性率:3.2×10/s
(ガラス板B)SiO:60%、Al:17%、B:8%、MgO:3%、CaO:4%、SrO:8%、密度:2.5g/cm、ヤング率:77GPa、比弾性率:3.1×10/s
【0104】
<実施例2>
ガラス板Aを110mm×110mm×0.5mmのアクリル樹脂基板に変えた以外は実施例1と同様にしてガラス板構成体を得た。
【0105】
<実施例3>
100mm×100mm×0.5mmのガラス板Aを用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER400DS-s)を用い、液体層として粘性係数3000mPa・sのシリコーンオイル(信越化学工業製;KF-96)を端部から幅5mmのあそびを設け、一様に塗布した。さらにガラス板Aの端部に線幅約2mmでUV硬化樹脂(協立化学製;XVL-14)を塗布した。次に、基板2である第1の板として100mm×100mm×0.5mmのガラス板Bをガラス板Aの中央部から上下、左右それぞれの方向に1mmオフセットさせた状態で密着させ、液厚が3μmの厚さとなるように減圧下で貼合した。これにより、前記2枚のガラス板の全ての端面の位置が不一致となるように配置されたガラス積層体が得られた。次に同ガラス構成体にUV照射することにより、樹脂を硬化させた。ここで、端部よりはみ出したUV硬化樹脂により、当該段差部において液体層を封止する構造が形成された。段差部における突出量は1.0mmである。
【0106】
<実施例4>
基板1である第2の板として100mm×100mm×0.5mmのガラス板Aを用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER 400DS-s)を用い、液体層として粘性係数3000mPa・sのシリコーンオイル(信越化学工業製;KF-96)を端部から幅5mmのあそびを設け、一様に塗布した。さらにガラス板Aの端部に線幅約2mmでUV硬化樹脂(協立化学製;XVL-14)を塗布した。次に、基板2である第1の板として100mm×100mm×0.5mmのガラス板Bをガラス板Aの中央部に置き、ガラスAとガラスBの下辺が1度の角度を成すようにずらした状態で密着させ、液厚が3μmの厚さとなるように減圧下で貼合した。これにより、前記2枚のガラス板の全ての端面の位置が不一致となるように配置されたガラス積層体が得られた。次に同ガラス構成体にUV照射することにより、樹脂を硬化させた。ここで、端部よりはみ出したUV硬化樹脂により、当該段差部において液体層を封止する構造が形成された。
【0107】
<実施例5>
基板1である第2の板として100mm×100mm×0.5mmのガラス板Aを用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER 400DS-s)を用い、液体層として粘性係数3000mPa・sのシリコーンオイル(信越化学工業製;KF-96)を端部から幅5mmのあそびを設け、一様に塗布した。さらにガラス板Aの端部に線幅約2mmでUV硬化樹脂(協立化学製;XVL-14)を塗布した。次に、基板2である第1の板として上底98mm、下底102mm、高さ100mm、厚さ0.5mmのガラス板Bをガラス板Aの中央部に置き(上下、左右均等に配置)、ガラスAとガラスBの重心の位置が一致する状態で密着させ、液厚が3μmの厚さとなるように減圧下で貼合した。これにより、前記2枚のガラス板の端面二辺の位置が不一致となるように配置されたガラス積層体が得られた。次に同ガラス構成体にUV照射することにより、樹脂を硬化させた。ここで、端部よりはみ出したUV硬化樹脂により、当該段差部において液体層を封止する構造が形成された。
【0108】
<比較例1>
ガラス板Aとして100mm×100mm×0.5mmのガラス板を用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER400DS-s)を用い、液体層として粘性係数3000mPa・sのシリコーンオイル(信越化学工業製;KF-96)を塗布した。さらにガラス板Bとして100mm×100mm×0.5mmのガラス板をガラス板Aの中央部に密着させ、液厚が3μmの厚さとなるように端部を揃えて貼合した。次に、ガラス板Aとガラス板Bの端部にUV硬化樹脂(協立化学製;XVL-14)を塗布し、UV硬化樹脂を硬化させた。この工程により、段差部がなく、端面シールがされたガラス板構成体の比較例1を得た。
【0109】
<比較例2>
ガラス板Aとして100mm×100mm×0.5mmのガラス板を用意し、そこにディスペンサー(武蔵エンジニアリング製;SHOTMASTER400DS-s)を用い、液体層として粘性係数3000mPa・sのシリコーンオイル(信越化学工業製;KF-96)を塗布した上で、基板周辺部にディスペンサーを用いてUV硬化樹脂(協立化学製;XVL-14)をディスペンサーにより塗布した。さらにガラス板Bとして100mm×100mm×0.5mmのガラス板をガラス板Aの中央部に密着させ、液厚が3μmの厚さとなるように端部を揃えて真空貼合した後にUV硬化樹脂を硬化させた。この工程により、段差部がなく、面内シールがされたガラス板構成体の比較例2を得た。
【0110】
<比較例3>
比較例3として、100mm×100mm×1.0mmのシリカガラス単板を用いた。
【0111】
<比較例4>
比較例4として、100mm×100mm×1.0mmのアクリル樹脂単板を用いた。
【0112】
<評価方法>
(ヤング率、縦波音速値、密度)
実施例1~比較例4のガラス板構成体および単板のヤング率Eおよび音速Vは、長さ100mm、幅100mm、厚さ0.5mm~1mmの試験片を用い、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により25℃で測定した(オリンパス株式会社製、DL35PLUSを使用)。ガラス板構成体の縦波音速値は、板厚方向の音速を測定した。
ガラス板の密度ρはアルキメデス法(株式会社島津製作所、AUX320)により25℃で測定した。
【0113】
(共振周波数)
ガラス板およびガラス板構成体の共振周波数は、長さ100~103mm、幅100~103mm、厚さ1mmの試験基板(ガラス板構成体または単板)の下面中心部に加振器(Labworks製;ET139)を接続し、温度25℃の環境下において、試験片に30Hz~10000Hzの帯域における正弦波振動を印加した際の応答を、試験基板の上面中心部に設置した加速度ピックアップにより検知し、FFTアナライザ(株式会社小野測器製、DS―3000)により周波数応答特性を解析した。振動振幅hが極大となる周波数を共振周波数fとした。
【0114】
(損失係数)
実施例1~比較例4のガラス板構成体および単板において、損失係数は、上記測定で求めた材料の共振周波数f、最大振幅hより-3dB下がった点(すなわち、最大振幅-3[dB]における点)の周波数幅Wを用い、W/fで表される減衰値により評価した。
【0115】
(粘性係数)
液体層に用いるシリコーンオイルの粘性係数は回転粘度計(BROOKFIELD社、RVDV-E)を用い、25℃で計測した。
【0116】
(耐剥離性)
実施例1~比較例2のガラス板構成体の1辺の両端を切断し、25mm幅×100mmのガラス板構成体を得た。次いで、25mm×100mm×1mmの剥離試験用ガラス板を用意し、ガラス板構成体を構成するガラス板Bの主面に、ガラス板Bと剥離試験用ガラス板の100mm端辺同士がずれないよう合わせた。ガラス板Bの25mm幅端辺から5mm外側に剥離試験用ガラス板の25mm端辺がくる状態としてガラス板Bと剥離試験用ガラス板を粘着剤で固定し、剥離試験用ガラス板構成体を得た。
【0117】
次に剥離試験用ガラス板構成体を構成するガラス板A(実施例2においてはアクリル樹脂基板)の主面が水平となるように定盤に真空吸着させた。そして、剥離試験用ガラス板においてガラス板Bと貼り合わされていない5mm×25mmの部分をAUTOGRAPH AG-X plus(SHIMADZU製)を用いて速さ30mm/minで垂直方向に引き上げた。引き揚げ時に生じた最大の荷重値を剥離荷重値とした。結果を表1および表2にまとめて示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
段差部をシールすることにより2枚のガラス板を固定した場合(実施例1)、縦波音速値はいずれも6.0×10m/s以上かつ、25℃における減衰値が7×10-2以下と優れていた。更に剥離強度評価ではガラス板の破壊が先に生じたことから、音響性能および剥離強度の両面で優れた性能を示した。
【0121】
段差部をシールすることによりガラス板とアクリル樹脂基板を固定した場合(実施例2)、ガラス板の縦波音速値はいずれも6.0×10m/s以上かつ、25℃における減衰値が1.1×10-1以上と優れていた。剥離強度評価ではガラス板の破壊が先に生じたことから、音響性能および剥離強度の両面で優れた性能を示した。
【0122】
端面シールにより2枚のガラス板を固定した場合(比較例1)、縦波音速値はいずれも6.0×10m/s以上かつ、25℃における減衰値が7×10-2以下と優れていたが、剥離強度が20N/25mmでと優位に低く、実施例の構成と比較し、剥離強度の面で性能が劣っていた。
【0123】
面内シールにより2枚のガラス板を固定した場合(比較例2)、縦波音速値はいずれも6.0×10m/s以上であったが、25℃における減衰値が1×10-2以下と低く、更に剥離強度が40N/25mmであり実施例1、2と比較し、音響性能および剥離強度の面で劣っていた。
【0124】
シリカガラス単板(SiOガラス単板)を用いた場合(比較例3)、縦波音速値はいずれも6.0×10m/s以上であったが、25℃における減衰値が1×10-2以下と低く、振動板として適さなかった。また、アクリル樹脂単板を用いた場合(比較例4)、25℃における減衰値は2.2×10-2と良好である一方、縦波音速値は2.7×10m/sと低く振動板として適さなかった。
【0125】
本出願は、2017年2月23日に日本国特許庁に出願した特願2017-032650号に基づく優先権を主張するものであり、特願2017-032650号の全内容を本出願に援用する。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明に係るガラス板構成体は、縦波音速値が大きく、かつ、損失係数が大きいとともに、強度も向上させることができる。そのため、スピーカーやマイクロフォン、イヤフォン、モバイル機器等に用いられる振動板、建築・車両用開口部材等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0127】
10 ガラス板構成体
11 第1の板
12 第2の板
16 液体層
21 カバー層(コーティングまたはフィルム)
30 フレーム(枠)
31 シール材
32 シール部材
40 シールテープ
50 段差部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15