(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】金属粉末製造装置、及び金属粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20230221BHJP
【FI】
B22F9/08 A
(21)【出願番号】P 2019572323
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019005986
(87)【国際公開番号】W WO2019160154
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018026917
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511053964
【氏名又は名称】ハード工業有限会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山形 虎雄
(72)【発明者】
【氏名】山形 琢一
(72)【発明者】
【氏名】千綿 伸彦
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145442(JP,A)
【文献】特開2017-145494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/02,9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を垂下する供給手段と、
前記供給手段から垂下した溶融金属に、燃焼炎噴射口から超音速の燃焼炎を集中噴射し、集中した前記燃焼炎を噴出集束流にして直下に噴出させる燃焼炎噴射手段と、
前記噴出集束流の上流部周りの雰囲気を安定させる安定部材と、
を有する、金属粉末製造装置。
【請求項2】
前記安定部材は、前記噴出集束流を下端開口に通過させる筒部を有するととともに、前記筒部の上端開口を前記燃焼炎噴射手段との間に隙間を設けて、前記上端開口の縁を前記噴出集束流の上流部周りに配する、請求項1に記載の金属粉末製造装置。
【請求項3】
前記安定部材は、前記噴出集束流の上流部周りにガスを噴射するガス噴射部を有する、請求項1に記載の金属粉末製造装置。
【請求項4】
前記安定部材は、前記燃焼炎噴射手段との間に隙間を設けて配置され前記噴出集束流を下端開口に通過させる筒部を有するとともに、前記筒部の内側面に、流体を噴出して前記内側面に沿って下方に流す流体噴出口を有する、請求項1に記載の金属粉末製造装置。
【請求項5】
前記流体噴出口を、前記内側面の周方向に複数開口する、請求項4に記載の金属粉末製造装置。
【請求項6】
前記流体として液体を噴出可能にする、請求項4または請求項5に記載の金属粉末製造装置。
【請求項7】
前記安定部材は、前記筒部の上端開口から下端開口までの長さが、10mm以上であることを特徴とする、請求項2または請求項4に記載の金属粉末製造装置。
【請求項8】
前記隙間は、5mm以上であることを特徴とする、請求項2または請求項4に記載の金属粉末製造装置。
【請求項9】
垂下した溶融金属に超音速の燃焼炎を集中噴射し、前記燃焼炎を噴出集束流にして直下に噴出するとともに、前記噴出集束流の上流部に、周りの雰囲気を安定させる安定部材を配置した状態で前記燃焼炎を噴出する、金属粉末の製造方法。
【請求項10】
前記安定部材は、前記噴出集束流の上流部周りに気流を流入させるものである、請求項9に記載の金属粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属粉末を製造する金属粉末製造装置、及び金属粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末の製造方法として、溶融金属を垂下して溶滴に粉砕し、その溶滴を冷却して金属粉末を形成するアトマイズ法が知られている。また、アトマイズ法は、高圧ガスにより粉砕するガスアトマイズ法や、高圧水により粉砕する水アトマイズ法が知られている。
【0003】
また、ガスアトマイズ法の一種として、溶融金属を超音速の燃焼炎により粉砕する、燃焼炎ガスアトマイズ法が知られている(例えば、特開2014-136807号公報、国際公開2012-157733号公報)。燃焼炎ガスアトマイズ法は、溶融金属を微細な溶滴に粉砕することができ、通常のガスアトマイズ法よりも微細な金属粉末を形成できることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載された燃焼炎ガスアトマイズ法では、集中噴射した燃焼炎が、超音速ガス流の噴出集束流となって集中点から直下に噴出される。その際、噴出集束流の上流部周りには、ガス流に倣った気流が形成されるが、噴出集束流が超音速であるために、噴出集束流の上流部周りに、負圧部分、すなわち、周囲よりも気圧の低い部分が発生しやすくなる。
【0005】
特に、溶融金属を中空管の下端に垂下し、その下端の外周に沿って燃焼炎を噴射する「コンファインド型」の金属粉末製造装置では、噴出集束流の上方を、燃焼炎噴射手段が閉塞するので、噴出集束流の上流部周りに、負圧部分が発生しやすくなる。
【0006】
このような負圧部分は、噴出集束流を引き寄せ、発生と消失を繰り返して、噴出集束流を揺動させてしまうことがある。すなわち、負圧部分の発生により、噴出集束流が揺動し、乱流を発生してしまうことがある。これにより、溶融金属の粉砕が不安定になり、形成された金属粉末の粒径分布が悪くなって、所望の粒度分布が得られなくなるおそれがある。
【0007】
そこで本開示では、噴出集束流の揺動を抑制して、安定した噴出集束流にすることができる、金属粉末製造装置、及び金属粉末製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る金属粉末製造装置は、溶融金属を垂下する供給手段と、前記供給手段から垂下した溶融金属に、燃焼炎噴射口から超音速の燃焼炎を集中噴射し、集中した前記燃焼炎を噴出集束流にして直下に噴出させる燃焼炎噴射手段と、前記噴出集束流の上流部周りの雰囲気を安定させる安定部材と、を有する。
【0009】
第1の態様に係る金属粉末製造装置によれば、噴出集束流の上流部周りにおいて、負圧の発生を抑制でき、噴出集束流の揺動を抑制して、安定した噴出集束流にすることができる。これにより、溶融金属を安定して粉砕可能な、すなわち、微細にしてかつ粒径分布が良好な金属粉末を形成することが可能な、金属粉末製造装置にすることができる。
【0010】
なお、ここで言う「噴出集束流の上流部」とは、超音速の燃焼炎が集中して噴出集束流を形成する部分のことであり、集中する直前の超音速の燃焼炎部分を含む部分を意味している。また、雰囲気が安定するとは、具体的には、負圧部分の発生が抑制されること、雰囲気における圧力の変動が抑制されること等を意味している。
【0011】
第2の態様に係る金属粉末製造装置は、第1の態様に係る金属粉末製造装置において、前記安定部材は、前記噴出集束流を上端開口から下端開口に通過させる筒部を有するととともに、前記筒部の上端開口を前記燃焼炎噴射手段との間に隙間を設けて、前記噴出集束流の上流部周りに配する。
【0012】
第2の態様に係る金属粉末製造装置によれば、筒部の上端開口と燃焼炎噴射手段との間に隙間が設けられているため、筒部周囲の雰囲気ガスが噴出集束流に引き込まれ、噴出集束流の上流部周りから筒部の上端開口にかけて、噴出集束流周りに流入する気流を形成することができる。これにより、噴出集束流の上流部周りにおいて、負圧部分の発生を抑制でき、安定した噴出集束流にすることができる。
【0013】
第3の態様に係る金属粉末製造装置は、第1の態様に係る金属粉末製造装置において、前記安定部材は、前記噴出集束流の上流部周りにガスを噴射するガス噴射部を有する。
【0014】
第3の態様に係る金属粉末製造装置によれば、ガス噴射部から噴出集束流の上流部周りにガスを噴射することで、噴出集束流の上流部周りに気流を流入させることができる。これにより、噴出集束流の上流部周りにおいて、負圧部分の発生を抑制でき、安定した噴出集束流にすることができる。
【0015】
第4の態様に係る金属粉末製造装置は、第1の態様に係る金属粉末製造装置において、前記安定部材は、前記燃焼炎噴射手段との間に隙間を設けて配置された上端開口から前記噴出集束流を流入させる筒部を有するとともに、前記筒部の内側面に、流体を噴出して前記内側面に沿って下方に流す流体噴出口を有する。
【0016】
第4の態様に係る金属粉末製造装置によれば、筒部の上端開口と燃焼炎噴射手段との間に隙間が設けられているため、筒部周囲の雰囲気ガスを、流体の流れにより上端開口から筒部内に引き込み、噴出集束流の上流部周りから筒部の上端開口にかけて、噴出集束流周りに気流を流入させることができる。これにより、噴出集束流の上流部周りにおいて、負圧部分の発生を抑制でき、安定した噴出集束流にすることができる。
【0017】
なお、第4の態様に係る金属粉末製造装置では、筒部周囲の雰囲気ガスを、流体の流れにより強く筒部内に引き込むことができるので、筒部の位置は、噴出集束流の上流部から下流側にずらした位置、すなわち、燃焼炎の集中点から下の噴出集束流周りに配置することもできる。
【0018】
第5の態様に係る金属粉末製造装置は、第4の態様に係る金属粉末製造装置において、前記流体噴出口を、前記内周面の周方向に複数開口する。
【0019】
このような流体噴出口とすることで、筒部周囲の雰囲気ガスをスパイラルな気流にして筒部内に引き込み、噴出集束流の上流部周りから筒部の上端開口にかけて、スパイラルにして流入する気流を形成することができる。これにより、噴出集束流の上流部周りにおいて、負圧部分の発生をより抑制でき、スパイラルな気流により噴出集束流の位置を一定にし、より一層安定した噴出集束流にすることができる。
【0020】
第6の態様に係る金属粉末製造装置は、第4の態様または第5の態様に係る金属粉末製造装置において、前記流体として液体を噴出可能にする。
【0021】
第6の態様に係る金属粉末製造装置によれば、筒部内に引き込んだ雰囲気ガスの温度を容易に低くすることができる。これにより、安定した噴出集束流にして、粉砕した溶滴を急冷することが可能となり、粒径分布が良好にして、かつ、非晶質な金属粉末を容易に形成することが可能な、金属粉末製造装置にすることができる。
【0022】
ここで、第6の態様に係る金属粉末製造装置では、噴出集束流に対して、筒部を傾けて配置してもよく、噴出集束流が筒部内の液体に突入し、溶滴が液体により直接冷却できるようにしてもよい。この場合、液体の流れは、溶滴の冷却効率を高めるために、例えば旋回流にすることが好ましい。このようにすることで、粉砕した溶滴をより急冷することが可能となり、粒径分布が良好にして、かつ、より非晶質な金属粉末を容易に形成することが可能な、金属粉末製造装置にすることができる。
なお、筒部を傾け過ぎると噴出集束流が不安定になる場合がある。したがって、傾ける角度は小さく抑えることが好ましく、噴出集束流に対して30度以内の角度にすることが好ましい。
【0023】
第7の態様に係る金属粉末製造装置は、第2の態様または第4の態様に係る金属粉末製造装置において、前記安定部材は、前記筒部の上端開口から下端開口までの長さが、10mm以上であることを特徴とする。
【0024】
第7の態様に係る金属粉末製造装置では、筒部の上端開口から下端開口までの長さを10mm以上としたので、10mm未満とした場合に比較して、粒径分布の均一化を図ることができる。
【0025】
第8の態様に係る金属粉末製造装置は、第2の態様または第4の態様に係る金属粉末製造装置において、前記隙間は、5mm以上であることを特徴とする。
【0026】
第8の態様に係る金属粉末製造装置では、筒部の上端開口と燃焼炎噴射手段との間に設けた隙間を5mm以上としたので、5mm未満とした場合に比較して、所定の粒径を有する微細な金属粉末を安定かつ効率よく製造することができる。
【0027】
また、第9の態様に係る金属粉末の製造方法は、垂下した溶融金属に超音速の燃焼炎を集中噴射し、前記燃焼炎を噴出集束流にして直下に噴出するとともに、前記噴出集束流の上流部周りに雰囲気を流入させる。
【0028】
第9の態様に係る金属粉末の製造方法によれば、噴出集束流の上流部周りの雰囲気を安定させて、噴出集束流の上流部周りにおいて、負圧部分の発生を抑制し、噴出集束流の揺動を抑制して、安定した噴出集束流にすることができる。これにより、溶融金属を安定して粉砕可能な、すなわち、粒径分布が良好な金属粉末を形成することが可能な金属粉末の製造方法にすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本開示に係る金属粉末製造装置、及び金属粉末の製造方法によれば、安定した噴出集束流にして、微細にしてかつ粒径分布が良好な金属粉末を形成することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態である金属粉末製造装置を示す概念図である。
【
図2】本発明の第2実施形態である金属粉末製造装置を示す概念図である。
【
図3】本発明の第3実施形態である金属粉末製造装置を示す概念図である。
【
図4】本発明の第4実施形態である金属粉末製造装置の筒部及びノズルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[第1実施形態]
図1にしたがって、本発明の第1実施形態に係る金属粉末製造装置10について説明する。
図1に示すように、本実施形態の金属粉末製造装置10は、溶融金属Mを供給する供給手段12、溶融金属Mを粉砕して溶滴Mmpを生成する燃焼炎噴射手段14を含む構成としている。そして、金属粉末製造装置10は、供給手段12、及び燃焼炎噴射手段14を、開放空間中(一例として、大気中)に配置している。
【0032】
供給手段12は、溶融金属Mを収納する容器16を備え、容器16の外周側には、金属材料を加熱溶融して溶融金属Mにする高周波コイル18を配置している。供給手段12は、容器16の底面下方の中央に、容器16の内部に連通する注湯ノズル20を有し、容器16の内部に収納した溶融金属Mを、注湯ノズル20から垂下できるようにしている。
【0033】
燃焼炎噴射手段14の中央には、供給手段12の下側に位置し、溶融金属Mを垂下させる円錐状の中空管部22が下方に向けて延びている。また、燃焼炎噴射手段14は、円環状の燃焼室24と、燃焼炎26を噴射する燃焼炎噴射口28を備えていて、燃焼炎噴射口28が、円環状にして中空管部22の外周側を囲むようにしている。
【0034】
本実施形態の燃焼炎噴射手段14は、燃焼室24の内部において、例えば、空気と炭化水素である灯油とを気体混合して燃焼し、燃焼炎噴射口28から下方内側に向かい、燃焼炎噴射口28の円周に沿って隙間なく燃焼炎26を噴射できるようにしている。なお、燃焼炎26は、溶融金属Mの融点より高温にして、かつ、超音速のガス流として噴射される。
【0035】
また、燃焼炎噴射手段14は、コンファインド型の構成にして、供給手段12の下方にて、燃焼炎噴射口28から斜め下方に向かって、燃焼炎26を噴射できるものであり、燃焼炎26を、注湯ノズル20から供給した溶融金属Mの垂下流Maを取り囲んで、垂下流Maの一箇所(以後、垂下流Maに燃焼炎26が集中する集中位置SPとする)に集中して噴射できるようにしている。
【0036】
また、燃焼炎噴射手段14は、燃焼炎26を、注湯ノズル20から供給される溶融金属Mの垂下流Maの外周に沿って隙間なく、均等な噴射圧力にて集中噴射できるものであり、噴射した燃焼炎26が、垂下流Maの集中位置SPに集中して衝突できるようにしている。
【0037】
さらに、燃焼炎噴射手段14は、燃焼炎26を、超音速にて集中噴射できるものであり、集中した燃焼炎26が、広がりが抑えられた略直線状の噴出集束流34となって、集中位置SPから鉛直直下に向けて、噴出できるようにしている。
【0038】
ここで、燃焼炎26が、垂下流Maの集中位置SPに衝突すると、溶融金属Mは粉砕され、霧状に微細化した溶融状態の金属粉末、即ち、溶滴Mmpが生成される。(以降、本粉砕を一次粉砕と称する。)そして、溶滴Mmpを含んだ噴出集束流34は、超音速あるいは超音速に近い高速を保って、燃焼炎噴射手段14の軸線CLcの延長線上を流下する。
【0039】
なお、一次粉砕により生成した溶滴Mmpは、質量を有する液体なので、慣性力が働き、気体である噴出集束流34よりも流下速度が遅くなる。このため、流下する溶滴Mmpは、流下する過程において、相対速度の速い噴出集束流34により、引っ張られ、引きちぎられるような力を受け、再粉砕されて微細化される。(以降、本粉砕を二次粉砕と称する。)
【0040】
噴出集束流34の流速や形状は、例えば、燃焼室24内の圧力や中空管部22及び燃焼炎噴射口28の形状によって決定される。また、粉砕能力は、噴出収束流34の流れに対して中空管部22から吐出される溶融金属Mの単位時間当たりの吐出量との比率によって決定される。すなわち、噴出収束流34に対して吐出される溶融金属Mの量が多いほど溶融金属Mの単位体積当たりの粉砕エネルギーが小さくなり、粉砕が不十分になる。
一方、中空管部22からの溶融金属Mの吐出量は、溶融金属Mの液面高さによる自重と、容器16の溶融金属Mに作用する気圧(一例として容器16の置かれている環境の気圧。なお、容器16が圧力容器(
図1では図示せず)の中に配置されている場合には、圧力容器内の気圧。)と、燃焼炎噴射口28の下側部分との差圧に加え、燃焼炎26の噴出によって発生する引き込む流れによって発生する圧力(負圧)によって決定される。
この燃焼炎26の噴出による圧力は、容器16を空にした常態で、注湯ノズル20に連通する容器16の孔部16aの入り口に圧力センサーを配置し、該入り口における、溶融金属Mを吐出しない状況での圧力を測定することで得られる。この圧力はトップ圧と呼ばれる。しかしながら、燃焼炎26の噴出によって発生するトップ圧は、燃焼条件に大きく依存するため、溶融金属Mの吐出量と粉砕エネルギーを完全に独立して制御することができず、噴出集束流34の制御を難しいものとしていた。特に燃焼炎26を集中噴射する本開示の製造方法では、長時間高い温度域での粉砕が続くため、二次粉砕に影響する噴出集束流34の制御が重要である。本実施形態におけるトップ圧は、筒部36が無い場合のトップ圧に比べて、1.2倍以上になるように、制御可能となる。
したがって、筒部36が無い場合に比較して、中空管部22から吐出される溶融金属Mの吐出量を増大させることができる。
【0041】
(安定部材)
燃焼炎噴射手段14の下方には、噴出集束流34の上流部周りの雰囲気を安定させる安定部材として、一定径の筒部36が燃焼炎噴射手段14の軸線CLcと同軸的に配置されている。筒部36は、燃焼炎噴射手段14の下面から一定の距離で離間して配置されており、筒部36の上端と燃焼炎噴射手段14の下面との間に環状の隙間S1を設けている。また、筒部36は、燃焼炎26、及び噴出集束流34との間に環状の隙間S2を設けるように、その内径が決められている。
なお、筒部36は、燃焼炎噴射手段14と、溶滴Mmpを冷却するためのガスや液体が供給される部位との間に配置されることが好ましい。
【0042】
筒部36の長さLは、
図1に示すように、筒部36の上端開口から下端開口までの長さである。筒部36の長さLは、10mm以上であることが好ましい。長さLが10mm未満では、筒部36による粒径分布の均一化の効果が得られないことがある。長さLの下限は、15mmが好ましく、20mmがさらに好ましい。一方、長さLの上限は特に限定されないが、一定の長さに限定することで、筒部36の下端開口に溶滴Mmpが付着して凝固することを防止できる。
噴出集束流34は、広がりが抑えられた略直線状の流れではあるが、燃焼炎噴射手段14の下面から離れるにつれて若干ではあるが広がる傾向にある。そのため、筒部36が長すぎると、広がった噴出集束流34に含まれる溶滴Mmpが、筒部36の下側の内面に付着して凝固することがある。この場合、金属粉末製造装置10を長時間連続して稼動した場合、下端開口の流路面積が徐々に狭くなり、粒径分布の均一化の効果が得られないことがある。筒部36の長さLの上限は、300mmが好ましく、100mmがさらに好ましく、80mmがさらに好ましく、60mmがさらに好ましい。
【0043】
筒部36の上端での内径(
図1のR2)は、燃焼室24に連通し、燃焼炎噴射手段14の下側に形成される燃焼炎噴射口28の開口部の最小径(
図1のR1)に対し、1.5倍以上とすることが好ましい。1.5倍未満だと飛散する溶滴Mmpが筒部36の内側に付着して凝固しやすい。2倍以上がさらに好ましい。なお、燃焼炎噴射手段14により形成される噴出集束流34の一般的な幅を考慮すると、筒部36の上端での内径R2は30mm以上とすることが好ましい。
筒部36の内径の上限は得に限定されないが、開口部の最小径R1に対して10倍を超えると、筒部36を配置することによる本開示の効果が薄れることがある。そのため、10倍以下とすることが好ましい。例えば、筒部36の内径R2は、500mm以下が好ましい。
【0044】
(作用、効果)
次に、本実施形態の金属粉末製造装置10の、作動及び作用・効果について説明する。
【0045】
金属粉末製造装置10により金属粉末Mspを製造する手順は、まず、容器16内に金属材料を投入し、高周波コイル18により加熱溶融して溶融金属Mを作製する。その際、不図示の弁により、容器16内から燃焼炎噴射口28に通じる中空管部22を閉じ、溶融金属Mが中空管部22を垂下しないようにしておく。
【0046】
次に、燃焼炎噴射手段14の燃焼炎噴射口28から超音速の燃焼炎26を噴射し、容器16の不図示の弁を開けて、容器16内の溶融金属Mを、注湯ノズル20から垂下流Maとして鉛直下方に流出させる。
これにより、超音速の燃焼炎26を、垂下流Maの集中位置SPに集中噴射し、超音速の燃焼炎26が、垂下流Maの集中位置SPに衝突し、垂下流Maが超音速の燃焼炎26の衝突エネルギーにより一次粉砕され、霧状の微細な溶滴Mmpが生成される。
【0047】
本実施形態では、燃焼炎噴射手段14により、垂下流Maを、高温で超音速の燃焼炎26で加熱しながら、即ち、垂下流Maの粘度を低下させながら粉砕(一次粉砕)することができる。そして、超音速の燃焼炎26を集中噴射することにより、超音速の燃焼炎26の高い衝撃エネルギーで、垂下流Maを粉砕することができる。これにより、垂下流Maを容易に粉砕することができ、微細な粒径の溶滴Mmpを得ることができる。
【0048】
そして、垂下流Maの集中位置SPに集中噴射した燃焼炎26は、超音速のガス流の特性により、集中位置SPから広がりを抑制された噴出集束流34にして、直線状に流下する。その際、燃焼炎26の一次粉砕により霧状に生成された溶滴Mmpは、噴出集束流34と共に、超音速あるいはそれに近い高速を保って、鉛直下方に流下する。
【0049】
本実施形態の金属粉末製造装置10では、燃焼炎噴射手段14により、溶滴Mmpを、高温・高速の噴出集束流34と共に流下させることができる。即ち、噴出集束流34の加熱により、溶滴Mmpの粘度を低下させながら流下させると共に、超音速の噴出集束流34との間に相対速度差を生じさせて流下させることができる。これにより、溶滴Mmpを容易に二次粉砕することができ、より微細な溶滴Mmpを生成することができる。
二次粉砕により微細化した溶滴Mmpはその後冷却されて微細な金属粉末Mspとなる。
【0050】
ところで、筒部36が設けられていない場合、噴出集束流34の上流部周りにおいて、気流が澱んで不安定な雰囲気となる負圧部分を発生する場合があり、噴出集束流34の上流部が不安定な負圧部分に引き寄せられ、負圧の発生と消失を繰り返しながら、噴出集束流34を揺動させてしまう場合がある。燃焼炎ガスアトマイズ法では、超音速の噴出集束流34により溶滴Mmpを二次粉砕して微細化することから、不安定な噴出集束流34となると、かかる二次粉砕にバラつきを生じ、粒径分布の悪い金属粉末Mspが生成される場合がある。
【0051】
一方、本実施形態の金属粉末製造装置10では、筒部36の上端と燃焼炎噴射手段14の下面との間に形成された環状の隙間S1から、噴出集束流34の上部周りに、噴出集束流34を引き込ませるように気流C(金属粉末製造装置10の置かれている周囲の空気)を流入させることで、噴出集束流34の上流部周りにおいて負圧部分の発生が抑制され、噴出集束流34の上流部周りの気流、すなわち雰囲気を安定させることができる。
また、筒部36の上端開口と燃焼炎噴射手段14の下面との間には隙間(
図1に示す幅w)を形成することが好ましい。隙間の幅wは、5mm以上とすることが好ましい。後述するように、金属粉末Mspの粒径をコントロールすることができる。つまり、所定の粒径を有する微細な金属粉末Mspを安定かつ効率よく低コストで量産できる。隙間の幅wの下限は、7mmが好ましく、10mmがさらに好ましい。
また、隙間の幅wは、上記の範囲において、筒部36の上端での内径(
図1に示すR2)に対して0.1倍以上とすることが好ましい。0.1倍未満であると、前記で説明したコンファインド型の金属粉末製造装置と同様に、負圧部分の発生により、噴出集束流34が揺動し、乱流を発生してしまうことがある。これにより、溶融金属Mの粉砕が不安定になり、形成された金属粉末Mspの粒径分布が悪くなって、所望の粒度分布が得られなくなるおそれがある。
一方、隙間の幅wの上限は、筒部36の内径R2に対して10倍を越えると、やはり同様に、不安定な雰囲気となる負圧部分を発生する場合がある。例えば、隙間の幅wの上限は、600mm、筒部36の内径R2は、600mm以下が好ましい。この上限は、500mm以下がさらに好ましく、300mm以下がさらに好ましく、200mm以下がさらに好ましく、100mm以下がさらに好ましい。
【0052】
これにより、揺動を抑制して安定した噴出集束流34を形成することができ、溶滴Mmpの安定した2次粉砕が可能となり、微細で、かつ粒径分布が良好な金属粉末Mspを得ることが可能となる。
【0053】
本実施形態の金属粉末製造装置10によれば、溶融金属Mを垂下させる中空管部22が燃焼炎噴射口28に向けて延びているため、中空管部22から溶融金属Mを垂下して燃焼炎26で一次粉砕するまでの距離が短くなり、安定した一次粉砕となる。したがって、安定した一次粉砕と安定した二次粉砕とにより、粒径分布がより良好な金属粉末Mspを得ることが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態の金属粉末製造装置10では、筒部36の下方において、噴出集束流34に向けて水を噴霧して、二次粉砕により微細化した溶滴Mmpを急冷したり、二次粉砕により微細化した溶滴Mmpを水流に突入させて急冷してもよい。これにより、非晶質化したMspを得ることが可能となる。
【0055】
また、本実施形態では、筒部36の断面は円形であることが望ましいが、それに限られるものではない。なお、非円形の場合の筒部36の内径は、噴出集束流34が噴出される方向に見て、噴出集束流34の中心部と同軸の円で、かつ、筒部36の内径に接する最小円の径を内径とする。さらに、筒部36は、軸方向に一定径であったが、軸の一方向に向けて徐々に拡径した形状としてもよい。
【0056】
[第2実施形態]
図2にしたがって、本発明の第2実施形態に係る金属粉末製造装置10を説明する。なお、第1実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0057】
図2に示すように、本実施形態の金属粉末製造装置10では、噴出集束流34の上流部周りの雰囲気を安定せる安定部材として、燃焼炎噴射手段14の下側にガス噴射部38が配置されている。
ガス噴射部38は、先端のガス噴射口40からガスを噴射するノズル42を備えている。本実施形態のノズル42は、噴出集束流34の上流部周り囲むように環状に形成されており、噴出集束流34の軸線に対して径方向に延びている。なお、ガス噴射口40は、周方向に連続して形成されている。ガス噴射口40からは、噴出集束流34の中心に向けて、噴出集束流34の軸線に対して直交方向にガスGを噴出する。なお、ガス噴射口40から噴出させるガスGは、空気であってもよく、酸素を含まないアルゴンガス、窒素ガス、水素ガス等の不活性ガスや還元ガス等であってもよい。
【0058】
本実施形態では、噴出集束流34の上流部周りに、ガス噴射口40からガスGを噴出させることで、噴出集束流34の上流部周りの気流を安定させることができ、負圧部分の発生をより確実に抑制することができる。
【0059】
これにより、本実施形態の金属粉末製造装置10も第1実施形態と同様に、噴出集束流34の揺動を抑制して、安定した噴出集束流34を形成することができ、溶滴Mmpの安定した2次粉砕が可能となって、微細で、かつ粒径分布が良好な金属粉末Mspを得ることが可能となる。
【0060】
[第3実施形態]
図3にしたがって、本発明の第3実施形態に係る金属粉末製造装置10を説明する。なお、前述した実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0061】
図3に示すように、本実施形態の金属粉末製造装置10では、噴出集束流34の上流部周りの雰囲気を安定させる安定部材として、筒部36とガス噴射部38とが設けられている。
【0062】
ノズル42は、筒部36の上部側に設けられており、先端部分が筒部36の内部へ突出している。ノズル42の先端部分は下方に向けられており、垂下する噴出集束流34に沿うように、ガス噴射口40からガスGを噴射させることができる。
【0063】
本実施形態では、垂下する噴出集束流34に沿って流れる気流の外周側を、筒部36で覆っているため、より一層安定した噴出集束流34を形成することができる。
【0064】
[第4実施形態]
図4にしたがって、本発明の第4実施形態に係る金属粉末製造装置10を説明する。なお、前述した実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0065】
図4に示すように、本実施形態の金属粉末製造装置10では、筒部36の接線方向に沿って延びる複数(本実施形態では4本)のノズル44が、筒部36の周方向に等間隔に配置されている。
【0066】
ノズル44からは、筒部36の内周面に沿ってガスGが噴射できるようにしている。これにより、筒部36の内部において、噴出集束流34を囲むようにガスGの旋回流を形成することで、垂下する噴出集束流34を旋回流の中心に安定して配置せることができる。
【0067】
[実験結果1]
以下に、筒部36の長さLと、得られる金属粉末Mspの粒度分布との関係について示す。
本実施形態では、
図1の金属粉末製造装置10を用いた。
供給手段12の溶融金属Mは、合金組成がFeSiCrC系となるものを用いた。
燃焼炎噴射口28の開口部の最小径R1は、25mmとした。
安定部材として
図1に示す筒部36を用いた。この筒部36は、SUS304材からなり、内径が46mm、外径が50mmの円筒形のものを用いた。また、上端開口から下端開口までの長さLは、20mm、40mm、60mm(試料No.1,2,3)とした。
なお、筒部36の上端開口と燃焼炎噴射手段14の下面との隙間の幅wは、No.1,2では、10mm、No.3では、20mmとした。
得られた金属粉末Mspの粒度の体積分布(メジアン径:D10、D50、D90)をマイクロトラック社製のレーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(機種名MT3300)を用いて測定した。
測定結果を表1に示す。また、粒径のバラツキを表す、(D90-D10)/D50の数値を併記する。この数値は、小さいほどバラツキが少ないことを示す。
筒部36の長さが長くなるにつれ、得られる金属粉末Mspの粒径が大きくなる。また、(D90-D10)/D50の数値は、No.1の数値(2.3)が小さい。
本実施形態の金属粉末製造装置10は、溶融金属Mに燃焼炎噴射口28から超音速の燃焼炎26を集中噴射するため、装置が大掛かりになりやすく、噴射速度の調整や燃焼温度の調整が難しくなることがある。しかし、このような金属粉末製造装置10であっても、筒部36の形状を変えることで金属粉末Mspの粒径をコントロールすることができる。つまり、所定の粒径を有する微細な金属粉末Mspを安定かつ効率よく低コストで量産できる。
【表1】
【0068】
[実験結果2]
以下に、筒部36の上端開口と燃焼炎噴射手段14の下面との隙間の幅wを変えた場合の金属粉末Mspの粒度分布との関係について示す。
本実施形態では、
図1の金属粉末製造装置10を用いた。
供給手段Mspの溶融金属Mは、合金組成がFeSiCrC系となるものを用いた。
燃焼炎噴射口28の開口部の最小径R1は、25mmとした。
安定部材として
図1に示す筒部36を用いた。この筒部36は、SUS304材からなり、図面横方向での断面が円形であり、上端開口の内径が60mm、下端開口の内径が80mmのものを用いた。また、上端開口から下端開口までの長さLは、230mmとした。
なお、本実施形態では、筒部36の下端側を、筒部36と同方向に伸びる円筒形の冷却筐体(図示せず)に挿入し、噴出集束流34に水を噴霧することで、溶滴Mmpの冷却を行うことができる構造とした。
得られた金属粉末Mspの粒度の体積分布(メジアン径:D10、D50、D90)をマイクロトラック社製のレーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(機種名MT3300)を用いて測定した。
測定結果を表2に示す。また、粒径のバラツキを表す、(D90-D10)/D50の数値を併記する。
隙間の幅wが20mmから60mmの範囲では、長くなるにつれ、(D90-D10)/D50の数値が小さくなる傾向がある。つまり、この隙間の幅wを変えることで、金属粉末Mspの粒径をコントロールすることができ、所定の粒径を有する微細な金属粉末Mspを安定かつ効率よく低コストで量産できる。
【表2】
【0069】
[その他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0070】
上記第3実施形態では、ノズル42からガスを噴射したが、ノズル42から水等の液体を噴射してもよい。これにより、筒部36の内部に引き込んだ雰囲気ガスの温度を容易に低くすることができ、安定した噴出集束流34にして、粉砕した溶滴Mmpを急冷することが可能となり、粒径分布が良好にして、かつ、非晶質な金属粉末Mspを容易に形成することが可能となる。
【0071】
また、筒部36を噴出集束流34に対して傾けて配置し、噴出集束流34を筒部36内の液体に突入させ、溶滴Mmpを液体により直接冷却できるようにしてもよい。この場合、液体の流れは、溶滴Mmpの冷却効率を高めるために、例えば、第4実施形態にて示したノズル42のようにして、旋回流にすることが好ましい。このようにすることで、粉砕した溶滴Mmpをより急冷することが可能となり、粒径分布を良好にして、かつ、より非晶質な金属粉末Mspを容易に形成することが可能となる。なお、筒部36を傾け過ぎると噴出集束流34が不安定になる場合がある。したがって、傾ける角度は小さく抑えることが好ましく、噴出集束流34に対して30度以内の角度にすることが好ましい。
【0072】
なお、金属粉末製造装置10の下方に、金属粉末Mspを吸引して回収するチャンバー、吸引装置等を配置してもよい。
【0073】
2018年2月19日に出願された日本国特許出願2018-026916号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載されたすべての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。