(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】新規な多孔性架橋ポリマー、それを用いた固定化触媒および装置
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20230221BHJP
C08F 30/02 20060101ALI20230221BHJP
C07C 15/14 20060101ALI20230221BHJP
C07C 1/32 20060101ALN20230221BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
B01J31/28 Z
C08F30/02
C07C15/14
C07C1/32
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020031870
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2021-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月27日 公益社団法人 化学工学会発行の「化学工学会第84年会予稿集」にてweb上で公開された。
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】松本 光
(72)【発明者】
【氏名】三浦 佳子
(72)【発明者】
【氏名】星野 友
(72)【発明者】
【氏名】澤村 正也
(72)【発明者】
【氏名】岩井 智弘
(72)【発明者】
【氏名】石川 真一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538746(JP,A)
【文献】特開昭57-024644(JP,A)
【文献】特開2009-062512(JP,A)
【文献】特開2014-030820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0065500(US,A1)
【文献】特表2004-504940(JP,A)
【文献】特表2018-518970(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136909(WO,A1)
【文献】特開2007-302859(JP,A)
【文献】特表2000-507604(JP,A)
【文献】特開平10-066868(JP,A)
【文献】米国特許第04522953(US,A)
【文献】MATSUMOTO, H. et al.,Application of Macroporous Polystyrene-Triphenylphosphine Monolith to Palladium-Catalyzed Cross-Coupling Reaction in Flow System,ABSTRACTS of ISPC2019 The 4th International Symposium on Process Chemistry,2019年07月04日,p.128(1P-27)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 31/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
C08F 301/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフェニルホスフィン配位子、架橋性モノマー、モノマーおよび界面活性剤を混合した有機相に重合開始剤を水に溶解した水相を添加し撹拌してエマルジョンを得た後、重合する、架橋性ランダムコポリマーの製造方法であって、
前記ポリマーは、空隙率が60%以上であり、かつ1μm~100μmの孔径を有し、
前記ポリマーは、下記一般式で表される構造式である構成単位(a1)
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R
1,R
2およびR
3はそれぞれ同一または異なってよく、置換基を有してもよい炭素数5以上の環状アルキル基、もしくは置換基を有してもよい炭素数6以上のアリール基を表す。)、
以下に示す(a2-1)、(a2-2)または(a2-3)で表される構成単位(a2)
【化5】
【化6】
【化7】
(上記式a2-3中、R1は水素または炭素鎖1から5のアルキル基、R2は炭素鎖1から10のアルキル基を示す。)、および
以下に示す(a3-1)、(a3-2)または(a3-3)で表される架橋構成単位(a3)を有し、
【化8】
【化9】
【化10】
である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって製造された架橋性ランダムコポリマーに対し、金属溶液
を浸漬した後、ろ過して金属を固定化したポリマーを得る、
金属を固定化したポリマーの製造方法であって、
前記金属がパラジウム、ロジウム、イリジウム及びニッケルからなる群より選ばれる1または複数の金属である、
金属を固定化したポリマーの製造方法。
【請求項3】
トリフェニルホスフィン配位子、架橋性モノマー、モノマーおよび界面活性剤を混合した有機相に重合開始剤を水に溶解した水相を添加し撹拌してエマルジョンを得た後、重合
することにより、架橋性ランダムコポリマー
を得て、次いで、当該ポリマー
に対し金属溶液を浸漬した後、ろ過
することにより得られる、金属を固定化したポリマーであって、
前記架橋性ランダムコポリマーは、空隙率が60%以上であり、かつ1μm~100μmの孔径を有する、金属を固定化したポリマー。
【請求項4】
フェニルハロゲン化物とフェニルホウ素化合物が有機溶媒に溶解した有機相と、塩基性塩を含む水相とを、T字流路を介して、
請求項3に記載の金属を固定化したポリマーを充填したカラムに供給して反応させ、前記フェニルハロゲン化物と前記フェニルホウ素化合物とがカップリングした生成物を得る、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性高分子による触媒、およびそれを用いた連続流通式合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密化成品の連続流通式合成が関心を集めている。連続流通式合成法は、温度制御の安定性や流通プロセスを通じた攪拌効果などによって、効率的な有機合成方法として注目を集めている。連続流通合成法においては、基質を流通させることで合成を制御することができ、製造量も流通量によって簡便に制御することができる。自動化、オンデマンド生産、および安全性においてバッチシステムに対して有利であり(例えば、非特許文献1)、自動化やオンデマンド生産はコンピューターサイエンスの発展に基づいて、新しい化学生産プロセスのシステムとして注目されている(例えば、非特許文献2)。
【0003】
連続流通合成法は注目を集める一方で、バッチシステムでの精密化成品合成に重要な役割を果たす触媒を用いることができない。有機金属触媒は炭素―炭素結合生成を含む、多くの精密有機合成反応を媒介しており、薬剤をはじめとする精密化成品の合成方法に欠かせないものである。そのため、連続流通式合成法においても使用可能な固定化触媒の開発が望まれている。これまでに固定化触媒を用いた、精密化成品の合成は、シリカゲルなどの粒子型の固定化触媒が開発されてきている(例えば、非特許文献3)。また、粒子型固定化触媒を連続させたフロー合成による精密化成品の合成が報告されている(例えば、非特許文献4)。
連続流通式合成法においては、触媒活性を有すると同時に、反応溶媒が流通可能であることが求められる。粒子型の固定化触媒は、調製しやすく、スケールなども自在に変更可能であるため、しばしば用いられている。一方で、粒子を充填したカラム管は圧力損失が大きく、液体を流通させることが困難である。また、触媒の固定化も粒子状に形成されるデッドエンド構造部分に集中しやすいので、効果的に作用しにくいことが、これまでに報告されている。粒子型に対して、貫通孔を有する多孔材料を固定化触媒とすることで、低い圧力損失で、基質溶液を流通させ、連続式流通型リアクターとできることが報告されている(例えば、非特許文献5)。
【0004】
連続流通合成法における固定化触媒では、連続的に溶媒を流通させることが求められる。有機合成においては、しばしば塩の生成を伴うため、高い空隙率と低い流通圧力損失が求められる。固定化触媒の素材としては、シリカ粒子、ポリマー粒子が多く報告されているが、連続流通反応においては高い圧力損失につながるため、必ずしも十分とは言えず、より高い空隙率を有する素材を固定化触媒として用いることが望ましい。
【0005】
高分子やシリカゲルなどを用いた多孔性材料は流通性が高いことが知られており、溶液の流通性が高く、表面積が大きいことが知られている(例えば、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。多孔性の材料は、流通式の合成装置に用いることが可能と考えられており、これまでに酵素を固定化した多孔性材料によるバイオリアクター(例えば、非特許文献9、非特許文献10)、Pdを固定化した多孔材料によるリアクターが報告されている(例えば、非特許文献11、非特許文献12)。
【0006】
有機金属触媒には種々のものがあり、金属と配位子の組み合わせよりなる様々な有機金属触媒が開発され、精密化成品の製造に用いられている。中でも、有機リン配位子は多くの有機金属触媒に用いることのできるもので、有用性が高い。トリアルキルホスフィンやトリフェニルホスフィンは高い触媒活性を有することで多くの触媒に用いられている(例えば、非特許文献13)。ホスフィン配位子を用いることで、金属との錯体形成によって高い触媒活性を発現させることができる。
【0007】
ホスフィン配位子としては、フェニル系のホスフィン配位子の有用性は広く知られている。トリフェニルホスフィンの固定化触媒としては、シリカ粒子に固定化した触媒が多くの研究者によって検討されてきた(例えば、非特許文献14)。高分子にホスフィン配位子を結合させた材料についても報告が行われてきた(例えば、非特許文献15)。固定化触媒として、バッチで反応を用いた有機化学反応について、有用であることが知られている。シリカ粒子に固定化したホスフィン配位子、金属錯体を用いた連続式流通合成も報告されている(例えば、非特許文献16)。
【0008】
これまでに、岩井、澤村らはトリス(4-ビニルフェニル)ホスフィンとスチレンの共重合体によって、塩化アリールのクロスカップリング反応を可能にする、活性の高い、高分子固定化ホスフィン配位子を開発している。このパラジウムをこの固定化触媒による触媒は塩化アリールを含む、多くの化合物の炭素―炭素結合形成クロスカップリングを触媒することが報告されている(例えば、非特許文献17)。また、高分子粒子に固定化したトリフェニルホスフィンを利用したフロー反応についても報告されている(例えば、非特許文献18)。
【0009】
高分子化合物は、重合条件と成型条件によって、多種多様な材料形態が可能となる。これまでに、高分子に固定化したホスフィン配位子が報告されているが、連続流通反応に適した空隙率と強度を有する固定化触媒が報告されていない。連続流通反応に適した、高い空隙率、触媒活性を有する多孔性の固定化触媒の開発が必要と考えられる。一部の研究グループから、多孔性高分子のトリフェニルホスフィンについて報告がなされているが、クロスカップリングを含む有機化学反応については報告されていない(例えば、非特許文献19、非特許文献20)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Jun-ichi Yoshida, The Chemical Record, 2010, 10, 332-341.
【文献】Jaroslaw M. GrandaらNature, 2018, 559, 377-381.
【文献】Tetsu TsubogoらAngewante Chem Int. Ed. 2013, 52, 6590-6604.
【文献】Tetsu Tsubogoら Nature, 2015, 520, 329-332.
【文献】Hikaru Matsumotoら ACS omega, 2017, 2, 8796-8802
【文献】シリカゲル多孔材料 Hiroyashi Minakuchi らAnalytical Chemistry, 1996, 68, 3498-3501.
【文献】高分子多孔材料 Thomas Rohrら、Macromolecules, 2003, 36, 1677-1684.
【文献】Keisuke Okadaら Chemical Communications2011, 47, 7422-7424.
【文献】シリカ多孔材料 Koei KawakamiらInt Eng. Chem. Res. 2005, 44, 236-240
【文献】高分子多孔材料、Jana KrenkovaらAnalytical Chemistry,2009, 81, 2004-2012.
【文献】シリカ多孔材料によるクロスカップリング反応 Grant Chaplain らAustralian Journal of Chemistry, 2012, 66, 208-212.
【文献】高分子多孔材料によるクロスカップリング反応 Roderick C. Jonesら Tetrahedron, 2009, 65, 7474-7481.
【文献】Doonald H. Valentine Jr ら Synthesis, 2003, 3, 0317-0334.
【文献】Wei ChenらTetrahedron, 2011, 67, 318-325.
【文献】Lin-Jing Zhaoら J. Comb Chem 2004, 6, 680-683.
【文献】シリカ粒子:Juan de M. Munozら Adv. Synth. Catal. 2012, 35, 3456-3460。Tomohiro Iwaiら Chemistry A -J, 2014, 20, 1057-1065
【文献】Tomohiro Iwaiら Angewante Chem Int. Ed. 2013, 52, 12322-12326.
【文献】Tomohiro Ichitsukaら ChemCatChem, 2019, 11, 2427-2431
【文献】トリフェニルホスフィン固定化多孔性高分子を用いた固定化触媒 アミノカルボニル化 Yizhu Leiら Transition metal Chemistry, 2016, 41, 1-7
【文献】トリフェニルホスフィン固定化多孔性高分子を用いた二酸化炭素変換反応;Zhenzhen Yangら ACS Catalyst 2016, 6, 1268-1273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ホスフィン配位子を高分子やシリカ粒子に固定化する試みはこれまでにも行われてきた。これらの固定化触媒は、金属と配位させることで、固定化金属触媒として調製される。しかしながら、これらの固定化触媒では連続流通反応に適した高い空隙率と強度のある、固定化触媒の開発は行われていなかった。
【0012】
そこで、本発明は、連続流通反応に高い有用性を持つ、多孔性高分子固定化触媒の提供を目的とする。多孔性材料の合成手法としては、貧溶媒を重合系に加えて、相分離によって、多孔性材料を得る方法(ポリアクリルアミド:Shaofeng XieらJournal of Polymer Science, Part A polymer Chemistry, 1997, 35, 1013-1021) や熱誘起相分離法(Yuanrong Xinら Polymer, 2012, 53, 2847-2853)があるが、空隙率が十分とは言えなかった。
【0013】
一方で水相と有機相を混合させてエマルジョンの状態で連結させることで、高い空隙率を持つ高分子を得ることが可能であることが報告されている(Andrea BarbettaらChemical Communications, 2000, 221-222。Neil R. Cameron, Polymer 2005, 46, 1439-1449.)。こうした高分子の合成方法は高内水相比エマルジョンと呼ばれており、多孔性高分子を得るのに有用であるが、固定化触媒としては一部に利用されているのみである。(校内水相比エマルジョンを用いたパラジウム固定化シリカ触媒 Nicolas BrunらNew Journal of Chemistry, 2013, 37, 157-168.)
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の態様を含む。
[1] ランダムコポリマーが架橋した架橋性ポリマーであって、前記ランダムコポリマーはトリフェニルホスフィン配位子等のホスフィン配位子を含む構成単位(a1)、構成単位(a2)および架橋構成単位(a3)を有し、かつ多孔性である、ポリマー。殊に、構成単位(a2)は、フェニル基やアルキル基などの疎水性の側鎖官能基を含むスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド誘導体からなる構成単位からなるポリマーに係る。
[2] 前記構成単位が水と有機溶媒の混合条件下で重合されており、空隙率が60%以上である、上記のポリマー。すなわち、上記の構成単位(a1)、構成単位(a2)および架橋構成単位(a3)を有し、水と有機溶媒の混合によるエマルジョン条件下によって重合されており、空隙率が60%以上、かつ多孔性である架橋ポリマーに係る。本発明の架橋ポリマーは水と有機溶媒の混合によるエマルジョン条件下によって重合されている状態であって、空隙率が60%以上、かつ多孔性である特性を有するが、精緻な物性値で記載することよりも重合の条件により記載することが実際的である。
[3] 前記構成単位(a1)に金属を配位した、上記のポリマー。
[4] [3]に記載のホスフィン配位子を含む構成単位(a1)を有するポリマーに金属を配位した、固定化触媒。
[5] [4]に記載の固定化触媒を含む反応器を備える、連続流通式装置。
[6] [4]に記載の固定化触媒を含む反応器を備える、有機合成装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水、有機溶媒およびその混合溶媒を用いた連続流通式装置あるいは有機合成装置に適用可能なホスフィン配位子を有する高分子固定化触媒が提供される。
本発明のポリマーは高い空隙率を有することから、これを有する固定化触媒は連続流通反応あるいは有機合成反応に有用である。
本発明の固定化触媒を含む反応器を備える装置は各種有機合成反応への適用が可能で、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】トリフェニルホスフィン構造を含む多孔性高分子の走査型電子顕微鏡の写真であり、図中のバー(黒色)は10μmの長さを示す。
【
図2】トリフェニルホスフィン構造を含む多孔性高分子の水銀圧入試験の結果であり、横軸(X軸)は細孔径(単位はm)、縦軸(Y軸)は対数微分細孔容積(logarithmic differential pore volume)(単位はcm
3/g)を示す。
【
図3】トリフェニルホスフィン構造を含む多孔性高分子の
31P-NMRの結果であり、横軸(X軸)は化学シフト(単位はppm)を示す。
【
図4】トリフェニルホスフィン構造を含む多孔性高分子のTHFの透過試験の結果であり、横軸(X軸)はQ(単位はmL/h)、縦軸(Y軸)は対数微分細孔容積(logarithmic differential pore volume)(単位はkPa)を示す。
【
図5】パラジウムを固定化した多孔性高分子触媒の透過型電子顕微鏡像であり、図中のバー(白色)は10μmの長さを示す。
【
図6】パラジウムを固定化した多孔性高分子触媒の
31P-NMRの結果であり、横軸(X軸)は化学シフト(単位はppm)を示す。
【
図7】パラジウムを固定化した多孔性高分子触媒を用いたクロスカップリングの連続流通合成の結果であり、Lは管の長さを表す。図中、横軸(X軸)はτ(単位はh)、縦軸(Y軸)は、上図は反応器中のu(u in reactor)(単位はcm/h)、下図は収率(Yield)(単位は%)を示す。
【
図8】パラジウムを固定化した多孔性高分子触媒を用いたクロスカップリングの連続流通合成終了後の透過型顕微鏡像であり、図中のバー(白色)は10μmの長さを示し、黒点はパラジウムを表す。
【
図9】本発明の固定化触媒を含む反応器を備える連続流通式装置もしくは有機合成装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「構成単位」とは、ポリマーを構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。
「置換基を有してもよい」と記載する場合、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
「芳香族炭化水素基」は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基を意味する。芳香環は、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でもよいし、多環式でもよい。芳香環は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;及び前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換された芳香族複素環を包含する。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含する。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
【0018】
「スチレン誘導体からなる構成単位」とは、スチレン誘導体の二重結合が開裂して構成される構成単位を意味し、スチレンの芳香族環の水素原子を置換し他化合物からなる構成単位も含む。
【0019】
「アクリル酸エステルから誘導される構成単位」とは、アクリル酸エステルのエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。「アクリル酸エステル」は、アクリル酸(CH2=CH-COOH)のカルボキシ基末端の水素原子が有機基で置換された化合物である。
【0020】
「メタクリル酸エステルから誘導される構成単位」とは、メタクリル酸エステルのエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。「メタクリル酸エステル」はメタクリル酸(CH2=C(CH3)-COOH)のカルボキシ基末端の水素原子が有機基で置換された化合物である。
【0021】
「アクリルアミド誘導体から誘導される構成単位」とは、アクリルアミド誘導体のエチレン性二重結合が開裂して構成される構成単位を意味する。「アクリルアミド誘導体」は、アクリルアミド(CH2=CH-NH2)のアミノ基の水素原子の一方又は両方が有機基で置換された化合物である。
【0022】
「連続流通式リアクター」とは、液体を送液する環状管を反応装置とした、有機合成デバイスのことである。
【0023】
「架橋性ポリマー」とは、少なくとも2つ以上の置換基、官能基等が結合可能な部位を有した構成単位を用いた事に得られるポリマーのことである。
【0024】
「ランダムコポリマー」とは、本発明の構成単位(a1、a2及びa3)が各々不規則に配列されたポリマーのことである。ランダムコポリマーは、ブロックコポリマーとは異なり、ブロック毎に重合反応を行う必要がないため、製造時間及び製造コストを抑制することができる。
【0025】
「エマルジョン条件下の重合」
本実施形態の架橋ポリマーは水と有機溶媒を混合した系で、それらが油層と水層に分かれた上で細かく分散したエマルジョンの条件下で重合する(Andrea BarbettaらChemical Communications, 2000, 221-222)。ポリマーの構成単位は有機溶媒層に溶解して重合するため、水が存在した部分が空隙となり、60%以上の空隙率を有するポリマーになる。
【0026】
まず、本発明の構成要件a1、a2またはa3について詳細に説明する。
(構成単位(a1))
本発明の構成要件a1は、アルキルもしくはアリールホスフィン骨格、さらに少なくとも1つ以上の置換基、官能基等が結合可能な部位を有した構造式のことであり、具体的には下記一般式で表される構造式である。
【0027】
【化1】
(式中、R
1,R
2およびR
3はそれぞれ同一または異なってよく、置換基を有してもよい炭素数5以上の環状アルキル基、もしくは置換基を有してもよい炭素数6以上のアリール基を表す。lおよびmは、0もしくは1の整数を表す。*は置換基、官能基等が結合可能な部位を示す。)
【0028】
炭素数5以上のアルキル基の具体例としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプペンチル基、シクロオクチル基を挙げることができる。炭素数6以上のアリール基の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環を表し、炭素原子の一部がヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換してもよい。尚、これらの炭素数5以上の環状アルキル基、もしくは炭素数6以上のアリール基の水素原子を、任意の置換基に置き換えてもよい。
【0029】
また、一般式a1における置換基、官能基等が結合可能な部位として特段の限定は無いが、任意の他の構成単位との結合のため、例えば当該部位に予めビニル基等で置換された原料を用いることができる。その際の原料の具体的な例としては、例えば、下記一般式a1-1、a1-2およびa1-3を挙げることができる。
【化2】
【化3】
【化4】
【0030】
本発明における構成単位(a1)は、上記した中の1種でもよく、2種以上でもよい。本実施形態における構成単位(a1)の割合は、全ポリマーを構成する合計(100モル%)に対して、1モル%以上が好ましく、1.5モル%以上が特に好ましい。
【0031】
(他の構成単位 a2)
ランダムコポリマーは、上記構成単位(a1)に加えて少なくとも1種の他の構成単位を有し、少なくとも2種の構成単位を有する。他の構成単位としては、スチレン、アルキル化スチレン、炭素数1-10のアルキル側鎖を含むアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド誘導体などが挙げられる。
【0032】
構成単位(a2)の好ましい例としては、以下に示す、(a2-1)、(a2-2)、(a2-3)で表される構成単位が挙げられる。これらの内でも有機溶媒に可溶で水への溶解性が低いことが望ましいことから、特に(a2-1)が好ましい。
【0033】
【0034】
【0035】
【化7】
(上記式a2-3中、R1は水素または炭素鎖1から5のアルキル基、R2は炭素鎖1から10のアルキル基を示す。)
【0036】
構成単位(a2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。本実施形態における構成単位(a2)の高分子に対する割合は全ランダムコポリマーを構成する全構成単位の合計(100モル%)に対して、20モル%以上が好ましく、30モル%以上が特に好ましい。
【0037】
(他の構成単位 a3)
ランダム コポリマーは(a1)および(a2)に加えて、高分子を架橋する構成単位(以下、架橋構成単位(a3)とする)として、以下に示す(a3-1)、(a3-2)、(a3-3)が挙げられる。これらの内でも有機溶媒に可溶で水への溶解性が低いことが望ましいことから、特に以下に示す(a3-1)が好ましい。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
架橋ポリマーを含むランダムコポリマーは、(a1)、(a2)および(a3)の構成単位をそれぞれ含み、(a1)、(a2)および(a3)はいくつかの構成単位を含んでもよい。
【0042】
「架橋性ポリマーの製造方法」
架橋性ポリマーは水と有機溶媒と界面活性剤を混合したエマルジョン状態によって重合する。ランダムコポリマーの各構成単位を誘導する重合性のホスフィン、モノマー、架橋剤を含む、重合性モノマー混合体を、重合開始剤の存在下で、ラジカル重合することにより製造することができる。
【0043】
本実施形態の架橋ポリマーは60%以上の空隙率と大きな孔径(1μm-100μm)を有する高分子であり、自立した構造体を形成する。さらに空隙率については74%以上、特に74%-99%の空隙率を持つことが望ましい。
ここで、架橋ポリマーの空隙率は、アルキメデス法、ピクノメーター、吸水率測定、通気率測定など公知の任意の方法で測定することができる。また架橋ポリマーの孔径は、ガス吸着法、ガス透過法、ガス拡散法、水銀圧入法、X線小角散乱法など公知の任意の方法で測定することができる。
【0044】
重合開始剤は、ラジカル共重合に一般的に用いられるものを用いればよく、ペルオキソ二硫酸カリウム(K2S2O8(Potassium persulfate))、AIBN(2, 2’-Azobis(isobutyronitrile))、V-501(4,4’-Azobis(4-cyanovaleric acid))AAPD(2,2’-Azobis(2-methylpropionamidine)Dihydrochloride)等が挙げられる。
【0045】
ラジカル重合の反応溶媒としては、クロロベンゼンやベンゼンといった水と混和しない有機溶媒と界面活性剤を含有する水性媒体を用いることができる。
【0046】
界面活性剤としては、例えば、Span80、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、又はヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)等が利用可能である。
【0047】
「金属触媒の調製方法」
ホスフィン配位子固定化高分子に対して、金属を加えて錯体を調製する。加える金属としては、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ニッケルなどが挙げられる。特に、パラジウムのPdCl2(PhCN)2を加えて調製した固定化触媒が好ましい。
【0048】
「連続流通式合成装置」
1実施形態において、本発明は、金属触媒を固定化した多孔性ポリマーによる固定化触媒と連続流通式リアクターを提供する。
【0049】
連続流通式リアクターは基質と溶媒を流通させる管を使って化学合成を行う装置である。本実施形態においては、前記の多孔性架橋ポリマーを用いた金属固定化触媒を用いた化学反応を行う装置として利用可能である。特にパラジウムを固定化した金属触媒が好ましいが他の金属による触媒でも可能である。
【0050】
固定化ホスフィンによる金属触媒を用いた化学反応は、鈴木カップリング反応やヘック反応などの多くの化学反応への適用が可能である。特に鈴木カップリングによる炭素ー炭素結合生成反応が適している。例えば、1-chloro-4-methylbenzeneとphenyl boronicacidによる鈴木カップリング反応に適用することができる。
【0051】
溶媒には、THF、トルエンなどの有機溶媒と水、およびその混合溶媒を使用することができる。これらの溶媒にはKOH、KF、K2CO3,K3PO4などの塩基性塩を含んでいることが好ましい。
【0052】
連続式流通リアクターに対して基質の溶液を注入して、多孔性固体触媒の層を通過させることで、生成物を得る。固体触媒の層のパラジウムは漏出しないことが望ましい。リアクター層に注入する、基質の量によって生成物の量が決定される。
【0053】
本実施形態では、多孔性高分子固定化触媒を管内に固定化させて、基質、塩基性化合物、溶媒を注入して行う。例えば1モルのパラジウムに対して、基質である1-メチル-4-クロロトルエンが100モル~3000モルの量、すなわち触媒回転数として100回~3000回を流通させることが挙げられる。
【0054】
本発明の固定化触媒を含む反応器を備える、連続流通式装置もしくは有機合成装置の一例として、
図9に示す。
図9に示すように、本発明の一実施形態である連続流通式装置もしくは有機合成装置1は、注入用シリンジ2,3より、ホスフィン配位子、反応基質、溶媒等を送液し、T字流路6において合流させる。その後、反応器(カラム)4に入った後、反応器4に備える固定化触媒層(カラム内)5と接触し、反応が進行する。
例えば、注入用シリンジ2,3より送液するのは、一方のシリンジに例えば[PdCl
2(PhCN)
2]、基質(THFなどに溶解)などを送液する有機層側と、K
3PO
4(水に溶解)などを送液する水層側とを、T字流路6において合流させ、その後、固定化触媒層5を備えた反応器4に送液され、反応器(カラム)4内において有機反応が進行する。その後、
図7では反応器4の下方より反応生成物が送液されて出てくることになる。なお、
図7では反応器4の下方より反応生成物が送液されるが、反応器4下方より基質等を送液し、反応器4の上方より反応生成物が送液される形態をとることもできる。
【0055】
[他の態様]
一実施形態において、本発明は、前記実施形態の多孔性固体触媒をクロスカップリングに用いることを含む連続流通式リアクターに適用する触媒を提供する。
一実施形態において、本発明は、多孔性固定化触媒を、ホスフィン配位子を用いた金属触媒を用いる連続式流通リアクターに適用する触媒を提供する。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお以下の実施例で得られた架橋ポリマーの空隙率及び孔径は、水銀圧入法により測定した。
【0057】
実施例1
<Tris(4-vinylphenyl)phosphineの合成>
【化11】
Mg片(99.5%以上、和光純薬社製、2.40g, 100mmol, 4eq)およびマグネチックスターラを300-mL丸底フラスコに入れた。窒素雰囲気下で脱水テトラヒドロフラン(THF)(純度99.5%以上、関東化学社製)(80 mL)を添加したのち、室温および撹拌下で4-Bromostyrene(純度95%、東京化成社製)(14.64 g, 80 mmol, 3.2eq)を1 hかけ滴下した。 次に、氷-水浴中および撹拌下でPCl
3(東京化成社製、使用前に蒸留精製したもの)(3.43g, 25mmol, 1eq)を30 minかけ滴下し、さらに室温下で4h反応させた。aq. NH
4Cl(純度99.5%以上 東京化成社製)を用いて停止後、混合物をEt
2O(で抽出した。有機相をMgSO
4で乾燥後、ろ別し、残留溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(EtOAc/
nhexane 97:3)で精製し、白色粉末を得た(収量4.82g, 57%収率)。
【0058】
これを分析し、以下の結果を得た。
1H NMR (CDCl3): δ 5.27 (d, J = 11.0 Hz, 3H), 5.77 (d, J = 17.4 Hz, 3H), 6.70 (dd, J = 17.4, 11.0 Hz, 3H), 7.23-7.38 (m, 12H).
13C NMR (CDCl3): δ 114.85 (3C), 126.44 (d, JC-P= 7.1 HZ, 6C), 134.00 (d, JC-P= 19.2 Hz, 6C), 136.45 (3C), 136.72 (d, JC-P= 10.1 Hz, 3C), 138.07 (3C).
31P NMR (CDCl3): δ-6.21.
【0059】
実施例2
<エマルジョン条件下の重合>
Tris(p-vinylphenyl)phosphine(1 当量)(上記および、Iwaiら、Angewante Chem Int. Ed. 2013, 52, 12322-12326)、ジビニルベンゼン(純度80%以上、シグマアルドリッチ社製20 当量.)、および4-tertブチルスチレン(純度90%以上、東京化成社製、41当量)の重合によるコポリマーで、多孔性高分子を調製した。撹拌子(20 mm × 4 mm、ロッド状)を入れたガラスバイアル(およそ20 mm i.d.)内にて、モノマー(Tris(4-vinylphenyl)phosphine、ジビニルベンゼン、および4-tertブチルスチレン)(全量で1.0 mmol)、クロロベンゼン(純度99%以上、和光純薬社製、0.19 mL)、およびSpan 80(東京化成社製、0.06 mL)を混合し、均一な有機相を得た。その有機相を3回の凍結融解サイクルにより脱気した。別に、塩化カルシウム(純度95%以上、和光純薬社製)水溶液(0.10 mol Lー1)にペルオキソ二硫酸カリウム(純度99%以上、和光純薬社製、1.9 mol%)を溶解し水相を得た。窒素を溶液に供給して、水相を脱気した。ここで有機溶媒と水溶媒の体積比率を 1:9 v/vとした。シリンジを用いて、撹拌下(500 rpm)で水相を有機相へと滴下した。すべて添加した後、さらに5分間撹拌することで溶液が白く懸濁したエマルジョンを得た。得られたエマルジョンを70°Cで6時間インキュベートした。得られた多孔性高分子をテトラヒドロフラン(THF)(純度99.5%安定剤入り 和光純薬社製)と水(水はMilliQ水)の1:1混合溶媒(1:1 v/v)とTHFにそれぞれ一浸漬して洗浄した。洗浄後、室温で終夜、真空乾燥して白色固体を得た(収量142mg、収率92%)。
【0060】
実施例3
<多孔性高分子の評価>
多孔性高分子は、走査型電子顕微鏡(SU8000、日立ハイテクノロジー社製)と水銀圧入法(オートポア、島津製作所社製)によって分析した。
図1、
図2に示すように、1-100μmの孔径を有する多孔性高分子であることが明らかになった。
図3に示すように
31P-NMRによる分析で目的化合物が得られていることを確認した。
図4に示すようにTHFの透過試験を行い、THFが透過可能な多孔構造を有しており、高い透過率を有していることを確認した。
【0061】
実施例4
<パラジウム配位触媒の調製>
乾燥した前記の多孔性高分子(200 mg, 0.02 mmol)をガラスバイアルに入れ、[PdCl2(PhCN)2]( Bis(benzonitrile)palladium(II) Dichloride、東京化成社製)(3.8 mg, 0.01 mmol, P/Pd 2:1)の THF溶液(10 mL)を添加した。密栓し、室温で2 h浸漬した。脱脂綿の栓を用いてろ過し、THFで洗浄後、真空下で残留溶媒を除去し黄色固体を得た。
【0062】
得られた固体は、透過型電子顕微鏡(FEI TECNAI-20 、サーモ社製)で測定し、2nm以下の黒点として、パラジウムの固定化を観測した(
図5)。
また、203MHzの共鳴周波数の下、Bruker AVANCE III 500分光器(ブルカー社製)を用いて
31P 交差分極/マジック角回転核磁気共鳴分光(CP/MAS NMR)によって分析し、パラジウムの配位によるPのピークの変化を観測した(
図6)。
【0063】
<パラジウム固定化触媒を用いた、クロスカップリングの連続流通合成>
パラジウム固定化触媒を用いた、クロスカップリングの連続流通合成を行うにあたり、参考例として、液液二相系において、バッチ式反応系により下記のクロスカップリング反応を行なった。
【化12】
その結果、有機層/水層からなる二相系反応において、PS-TPP-Pdにより反応は進行した。反応は反応時間2時間の間では、撹拌速度に概ね比例して進行し、収率も撹拌速度が大きく寄与することが分かった。しかしながら、カラム系における反応ではどのような要因で反応速度が制御されるか不明であり、以下の実施例により確認した。
【0064】
実施例5
ステンレスカラム中での前記多孔性高分子の重合および続くパラジウムの担持を行い、THFで洗浄した(2.5 時間, 滞留時間 = 0.5 時間)。4-クロロトルエン(純度98%以上、東京化成工業、0.5 mol/L, 1eq.)、フェニルボロン酸(純度97%以上、東京化成工業、0.75 mol/L, 1.5eq.)、およびテトラブチルアンモニウムブロマイド(純度98%以上、東京化成工業、TBAB, 0.05 mol%)のTHF(純度99.5%以上、和光純薬社製)溶液を調製しガスタイトシリンジに充填した。別に、K
3PO
4(純度97%以上、和光純薬社製、3 mol/L, 3eq.)の水溶液を調製しガスタイトシリンジに充填した。T字流路を介して、二つのシリンジポンプを用いて二相反応溶液を同時に供給した(THF 相/水相、2:1 v/v)。カラムから流出するTHF相および水相を連続的に採取した。DG-980-50デガッサ、PU-980ポンプ(日本分光社製)、Mightysil RP-18 GP 250-4.6カラム(関東化学社製)、UV-2077Plus UV検出器(日本分光社製)、およびCO-2065Plusカラムオーブン(日本分光社製)を搭載した、LC-2000Plusシステム(日本分光社製)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより、THF相中の収率を算出した。そのときの生成物(4-methyl-1,1'-biphenyl)の収率を次の
図7に示す。
反応後、THF/water(2:1 v/v)、次いでTHFを供給することでカラムを洗浄した(2.5 時間, 滞留時間 = 0.5 時間)。真空下、カラム中の多孔性高分子を乾燥した。
【0065】
図7中、横軸(X軸)に示す滞留時間(residence time)τは、τ=カラム長さ(cm)/線速度(linear velocity (u)(cm/h))により得られる。また
図7上部図の縦軸(Y軸)に示す線速度u(linear velocity)は、u=カラム長さ(cm)/滞留時間(h)により得られる。
図7より、上部図に示す線速度uが小さいほど収率が高くなり、
図7ではτ=1.5hで収率が極大となる。τが増加することで、触媒-基質の接触が増加し、また線速度uの減少(撹拌の緩和)が生じることになる。従って、カラム長さを長くすることでより大きくuを保持でき、反応の効率化が図れることが推測できる。
【0066】
実施例6
<パラジウムの漏出の調査>
誘導結合プラズマ-原子吸光分析を用いて、パラジウムの担持、触媒反応、および反応後の洗浄において流出したパラジウムを定量した。カラムからの流出液(THFあるいは水相)をHCl(1 mol/L)で10倍希釈し、Seiko Instruments SPS-1700 HVR分光器(セイコーインスツル社製)を用いてパラジウム濃度を測定した。また、使用後のカラムのパラジウムの様子を透過型電子顕微鏡によって観測した(
図8)。
誘導結合プラズマ-原子吸光分析では、パラジウムは検出限界以下で、漏出はないことがわかった。透過型電子顕微鏡では
図8のようになり、パラジウムの粒子が観測された。
【符号の説明】
【0067】
1 連続流通式装置もしくは有機合成装置
2,3 注入用シリンジ
4 反応器(カラム)
5 固定化触媒層(カラム内)
6 T字流路