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特許7231712フッ素化電解質を備えるNi系リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】フッ素化電解質を備えるNi系リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230221BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230221BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230221BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230221BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230221BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230221BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021510536
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2019061195
(87)【国際公開番号】W WO2019211357
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】18170729.0
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】アルム・パク
(72)【発明者】
【氏名】テ-ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒ-スン・ギル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-セバスチャン・ブリーデル
(72)【発明者】
【氏名】ジ-ヘ・ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ムン-ヒュン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ミ-スン・オ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュンチョル・イ
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス・アラン・ハウ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ-ヨン・キム
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-165297(JP,A)
【文献】国際公開第2013/183655(WO,A1)
【文献】特表2017-506805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体電解質リチウム二次電池セルであって、
-以下の一般式を有するリチウム遷移金属系酸化物粉末を含む正極材料であって、
Li1+a((Ni(Ni0.5Mn0.5 Co1-k1-a、式中、Aが、ドーパントであり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1、及びk≦0.01である、正極材料と、
-電解質組成物であって、
a)少なくとも1つの環状カーボネート、
b)少なくとも1つのフッ素化非環状カルボン酸エステル、
c)少なくとも1つの電解質塩、
d)リチウムホスフェート化合物、リチウムボロン化合物、リチウムスルホネート化合物、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つのリチウム化合物、並びに
e)少なくとも1つの環状イオウ化合物、を含む、電解質組成物と、を含む、液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項2】
前記電解質組成物が、少なくとも1つの環状カルボン酸無水物を含む、請求項1に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項3】
前記少なくとも1つの環状カーボネートが、以下の式(I)又は(II)であり、
【化1】

式中、同じであっても異なってもよいR~Rが、水素、フッ素、C~C-アルキル、-アルケニル、-アルキニル、-フルオロアルキル、-フルオロアルケニル、又は-フルオロアルキニル基から独立して選択される、請求項1または2に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項4】
前記電解質組成物が、式(I)又は(II)の少なくとも1つの非フッ素化環状カーボネートを含み、同じであっても異なってもよいR~Rが、水素、C~C-アルキル、-アルケニル、又は-アルキニル基から独立して選択される、請求項3に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項5】
前記電解質組成物が、式(I)又は(II)の少なくとも1つのフッ素化環状カーボネートを含み、R~Rの少なくとも1つが、フッ素、又はC~C-フルオロアルキル、-フルオロアルケニル、-フルオロアルキニル基である、請求項3又は4に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項6】
前記少なくとも1つのフッ素化非環状カルボン酸エステルが、以下の式によって表され、
-COO-R
式中、
i)Rが、H、アルキル基、又はフルオロアルキル基であり、
ii)Rが、アルキル基又はフルオロアルキル基であり、
iii)R及びRのいずれか又は両方が、フッ素を含み、
iv)2個で一対のR及びRが、少なくとも2個の炭素原子を含むが、7個以下の炭素原子を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項7】
前記電解質塩が、リチウム塩である、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項8】
前記リチウム塩は、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(CF)、リチウムビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(C)、リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF(C)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドLiN(CSO、LiN(CSO、リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアルセネート、リチウムヘキサフルオロアンチモネート、リチウムテトラクロロアルミネート、リチウムアルミネート(LiAlO4)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート、リチウムノナフルオロブタンスルホネート、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、式中xが0~8に等しい整数であるLi1212-x、及びフッ化リチウムとB(OC の混合物から選択される、請求項7に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項9】
前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、又はこれらの混合物から選択される、請求項7または8に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項10】
前記リチウム化合物が、
i)リチウムモノフルオロホスフェート、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムトリフルオロメタンホスフェート、リチウムテトラフルオロホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキザレート)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキザレート)ホスフェート、リチウムトリス(オキザレート)ホスフェート、から選択されるリチウムホスフェート化合物、
ii)リチウムテトラフルオロボレート、リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、式中xが0~8の範囲の整数であるLi1212-x、から選択されるリチウムボロン化合物、
iii)リチウムフルオロスルホネート、リチウムトリフルオロメタンスルホネートから選択されるリチウムスルホネート化合物、及び
iv)これらの混合物、から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項11】
前記リチウム化合物が、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムビス(オキザレート)ボレート、及びこれらの混合物から選択される、請求項10に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項12】
前記環状イオウ化合物が、以下の式によって表され、
【化2】

式中、Yが、酸素又はHCA基であり、各Aが、独立して、水素、又は任意選択的にフッ素化エテニル、アリル、エチニル、プロパルギル、若しくはC~Cアルキル基であり、nが、0又は1である、請求項1~11のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項13】
前記環状カルボン酸無水物が、式(IV)~(XI)のうちの1つによって表され、
【化3】

式中、R~R14が、各々独立して、水素、フッ素、任意選択的にフッ素、アルコキシ、及び/若しくはチオアルキル置換基によって置換された直鎖若しくは分岐鎖のC~C10アルキル基、直鎖若しくは分岐鎖のC~C10アルケニル基、又はC~C10アリール基である、請求項2または請求項2を引用する請求項3から12のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項14】
前記リチウム遷移金属系酸化物粉末が、1000ppm以下の炭素含有量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項15】
前記リチウム遷移金属系酸化物粉末が、400ppm以下の炭素含有量を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項16】
前記リチウム遷移金属系酸化物粉末が、0.05~1.0重量%のイオウ含有量を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項17】
前記粉末が、0.15~5重量%のLiNaSOの二次相を更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項18】
前記粉末が、前記リチウム遷移金属系酸化物を含むコア、及び前記LiNaSOの二次相を含むコーティングからなる、請求項17に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項19】
前記二次相が、最高1重量%の、Al、LiAlO、LiF、LiPO、MgO、及びLiTiOのうちのいずれか1つ以上を更に含む、請求項17又は18に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項20】
前記ドーパントAが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg、及びZrのうちのいずれか1つ以上である、請求項1~19のいずれか一項に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【請求項21】
前記粉末が、前記リチウム遷移金属系酸化物を含むコア、並びにリチウム及び遷移金属を含む表面層からなり、前記表面層が、外側及び内側界面によって区切られ、前記内側界面が、前記コアと接触し、Aが、少なくとも1つのドーパントであり、かつAlを含み、前記コアが、0.3~3mol%のAl含有量を有し、前記表面層が、前記内側界面における前記コアの前記Al含有量から、前記外側界面における少なくとも10mol%まで増加するAl含有量を有し、前記Al含有量が、XPSによって決定される、請求項20に記載の液体電解質リチウム二次電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のカソード材料組成物及び選択された電解質組成物を有する、高Ni-超過「NMC」カソード材料を含む電池に関する。「NMC」とは、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを意味する。高Ni-超過NMC粉末は、好ましくは、充電式リチウムイオン電池におけるカソード活性材料として使用することが可能である。本発明の電解質組成物と組み合わせたカソード材料を含有する電池は、高い可逆容量、高温保存時の向上した熱安定性、及び高い充電電圧においてサイクルさせた場合の良好な長期サイクル安定性などの、優れた性能を示す。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池技術は、現在では、電子モビリティ及び固定動力装置両方のための、最も有望なエネルギー蓄電手段である。以前はカソード材料として最も一般的に使用されていたLiCoO(ドープされている、又はされていない-以後、「LCO」と称される)は、良好な性能を有しはするが、高価である。なお、コバルト資源が徐々に枯渇してきている故に、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物又はニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以後、それぞれ「NCA」及び「NMC」と称される-両方ともドープされ得ることに留意されたい)は、LCOに取って代わる、見込みのある候補となってきた。これらの材料は、高可逆容量、比較的高い容積エネルギー密度、良好なレート容量、長期のサイクル安定性、及び低コストを有する。
【0003】
NMCカソード材料は、一般式Li1+a[Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-aに対応する、LiCoO、LiNi0.5Mn0.5及びLiNiOの固体状態の溶液として理解することができ、式中、「z」は、下で定義するように、LiNi0.5Mn0.5中のNiが100%二価(Ni2+)であり、LiNiO中のNiが100%三価(Ni3+)であるときの、いわゆるNi超過を表す。4.3Vにおいて、LiCoO及びLiNi0.5Mn0.5の公称容量は約160mAh/gであり、対して、LiNiOの公称容量は220mAh/gである。典型的なNMC系材料は、LiM’Oとして表され、式中、M’=Ni’Mn’Co’であり、また、M’=Ni1/3Mn1/3Co1/3を有する「111」材料、M’=Ni0.4Mn0.4Co0.2を有する「442」材料、M’=Ni0.5Mn0.3Co0.2を有する「532」材料、又はM’=Ni0.6Mn0.2Co0.2を有する「622」と称され得る。M’は、Al、Ca、Ti、Mg、W、Zr、B、及びSiなどのドーパント「A」によってドープされ得、式Li1-a((Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-k1+aをもたらす。
【0004】
(ドープされていない)NMCカソード可逆容量は、これらの容量から概算することができる。例えば、NMC622は、0.2LiCoO+0.4LiNi0.5Mn0.5+0.4LiNiOとして理解することができる。期待容量は、0.2×160+0.4×160+0.4×220=184mAh/gに等しい。「Ni-超過」により、容量が増大する。例えば、Ni-超過は、NMC622では0.4である。リチウム化学量論をLi/(Ni+Mn+Co)=1.0と見なした場合、「Ni-超過」は、三価Niの関数である。図1は、Ni-超過の関数としての期待容量を示す。ここで、x-軸はNi-超過(「Z」)であり、またy-軸は計算された可逆容量である。
【0005】
更に、Ni及びMnの価格は、Coのものよりもかなり低い。したがって、Coの代わりにNi及びMnを使用することによって、送達されるエネルギー単位当たりのカソードのコストが非常に低減される。大規模な適用のための、’2020カソード材料の価格競争コンペティション、及び2014年5月27日開催のOREBA1.0会議において告知された、kWh’当たりの価格の観点における前途有望なLFP部門最高パフォーマーによれば、LCOのカソード容量当たりの金属価格は35$/kWhであるが、一方でNMC111に関しては22$/kWhである。Niの価格はMnの価格より高い故に、NMCのNi含有量が増大するのでカソード容量当たりの金属の価格もまた増大するが、LCOの価格には達しない。したがって、高エネルギー密度及び低い処理コスト(LCOとの対照による)を伴うNi-超過NMCは、今日の電池市場においてより好ましい。
【0006】
NMCの大規模製造は、調製が容易でありかつ高品質のカソード材料を生成する、ということを要求する。カソード材料におけるNi-超過が増大するので(これは、容量の観点から所望される)、製造がより困難となる。一例として(NCAのような、非常に高いNi-超過カソード材料)、LiNi0.8Co0.15Al0.05は、空気中で、又はLiCOをリチウム源として使用して調製することができない。リチウム前駆体としてLiCOが使用される場合、分解のためにカーボネートが必要とされ、かつCOが気相へと放出される。しかし、非常に高いNi-超過カソード材料のCO均衡分圧は、非常に小さい。したがって、たとえ純酸素においてであっても、COの気相輸送は、反応速度論を制限し、かつCOの分解が非常にゆっくりと発生する。なお、非常に高いNi-超過カソードは、低い熱力学的安定性を有する。完全に反応し、かつ完全にリチウム化した非常に高いNi-超過カソードは、正常な空気において加熱された場合に、更に分解する。空気のCO均衡分圧は十分に高く、これにより、COが結晶構造からリチウムを抽出してLiCOを形成する。したがって、非常に高いNi-超過カソードの製造の間、COの遊離ガス、典型的には酸素が必要とされる。これは、より高い製造コストの原因となる。更に、リチウム源としてLiCOの使用が不可能である故に、より安価なLiCOの代わりに、製造コストを更に増大させるLiO、LiOH・HO又はLiOH同様のリチウム前駆体が適用されることが必要である。なお、遷移金属前駆体(例えば、混合遷移金属水酸化物)は、カーボネートを有さないことが必要である。
【0007】
最終的に、水酸化リチウム(LiOH・HO又はLiOH)を使用した場合、水酸化リチウムの低い融点が、考慮される項目である。LiCOが溶融する前に反応する傾向にあるのに対して、水酸化リチウムは反応する前に溶融する傾向がある。これは、生成物の不均質性、溶融したLiOHを伴うセラミックサガーの浸透などと同様の、量産プロセス中の多くの不必要な影響の原因となる。なお、高Ni-超過NMCの製造中、厳格に実容量を限定するLi部位内へとNiイオンが移動する傾向にあり、よって適切な化学量論を有することが困難である。本問題はまた、挿入機構の可逆性にも影響を及ぼし、容量減退をもたらす。
【0008】
NCA同様の非常に高いNi-超過カソード材料の増大した容量は、かなりの製造コストに達する、ということが要約できる。
【0009】
非常に高いNi-超過カソードの別の問題は、可溶性塩基の含有量である。「可溶性塩基」の概念は、例えば、国際公開第2012-107313号に明瞭に記載されており、可溶性塩基は、LiCO及びLiOHのような表面不純物を意味する。Ni-超過カソード材料におけるLiの低い熱力学的安定性故に、残留するカーボネートが非常にゆっくりと分解する、又は空気中に存在するCOが容易に吸着して、カソードの表面上にLiCOを形成する。更に、水分又は湿気の存在下において、Liはバルクから容易に抽出され、LiOHの形成をもたらす。したがって、好ましくない「可溶性塩基」は、NCA同様の非常に高いNi-超過カソードの表面上で、容易に発生する。
【0010】
非常に高いNi-超過の場合には、多くのカーボネート不純物源が存在する可能性がある。具体的には、可溶性塩基は、生産において遷移金属源として使用される混合遷移金属水酸化物から生じ得る。混合遷移金属水酸化物は、通常、遷移金属硫酸塩と水酸化ナトリウム(NaOH)などの工業グレードの塩基との共沈によって得られる。したがって、水酸化物は、CO 2-不純物を含有する可能性がある。リチウム源を用いて焼結する間、残留物CO 2-はリチウムと反応してLiCOを生じさせる。焼結の間にLiM’O結晶子が成長するので、LiCO塩基がこれらの結晶子の表面上に蓄積される。したがって、NMC622のような高いNi過剰NMCにおける高温での焼結後に、カーボネート化合物が最終生成物の表面上に残る。この塩基は水に溶解し、したがって、可溶性塩基は、米国特許第7,648,693号に記載されているように、pH滴定と呼ばれる技術によって測定することができる。
【0011】
それらがリチウムイオン電池における不十分なサイクル安定性の原因である故に、可溶性塩基、特に残留物LiCOは、主要な懸念材料である。また、前駆体として使用される材料が空気に対して敏感である故に、大規模調製中に非常に高いNi-超過を維持できるかどうかは、明らかではない。したがって、増大する温度において、COを有しない酸化ガス(典型的にはO)において非常に高いNi-超過カソード材料の調製を実施して、可溶性塩基含有量を減少させる。LiOH・HOはまた、LiCOの代わりにリチウム源としても使用され、可溶性塩基含有量を減少させる。LiOH・HOを使用して高いNi-超過NMCを調製するための典型的なプロセスは、例えば、米国特許出願第2015/0010824号において適用されている。低いLiCO不純物を伴う、リチウム源としてのLiOH・HOを、目的とする組成物において混合遷移金属水酸化物とブレンドし、かつ大気雰囲気下で高温で焼結する。本プロセスでは、高いNi-超過NMC最終生成物(NMC622と同様)の塩基含有量が、更に減少する。
【0012】
NMCにおけるNi-超過により高いエネルギー密度を得る、2つの主要な傾向が存在する。1つの傾向は、正常な充電電圧において高容量を得るために、Ni-超過を非常に高い値まで増大させることである。第2の傾向は、より少ないNi-超過において高容量を得るために、電荷容量を増大させることである。
【0013】
NCAは、例えば、全てのNiが三価である故に、約0.8の非常に高いNi-超過を有する。NC91(LiNi0.9Co0.1)では、Ni-超過は、ちょうど0.9である。これらのカソード材料は、たとえ比較的低い電荷容量であっても非常に高い容量を有する。一例として、-NC91は、対極としてリチウムを用いたコインセル試験において、4.3Vにおいて220mAh/gほどの高い容量を有する。前述のように、このようなカソード材料を適切な価格において量産プロセスで生成することは、困難である。更に、不十分な安全性の問題が観察された。
【0014】
充電した電池の安全性の問題は、一般的な懸念材料である。安全性は、熱暴走と称するプロセスに関係している。発熱反応故に、電池は昇温して電池内の反応速度が増大し、熱暴走により電池の爆発が引き起こされる。熱暴走は、ほとんどの場合、電解質の燃焼により引き起こされる。電池が完全に充電されており、かつカソードが脱リチウム化した状態にある場合、得られたLi1-xM’Oにおける「x」の値は高い。これらの高度に脱リチウム化したカソードは、電解質と接触した場合に非常に危険である。脱リチウム化したカソードは酸化剤であり、かつ還元剤として作用する電解質と反応することができる。本反応は非常に発熱性であり、かつ熱暴走を引き起こす。究極的な場合では、電池が爆発し得る。単純な方法では、脱リチウム化したカソードから得られる酸素を使用して電解質が燃焼すると、説明することができる。一度、電池において特定の温度に達していると、カソードが分解して電解質を燃焼させる酸素を送達する。反応後-二価の状態でNiが安定しており、かつ高いNi-超過が存在するので-ほとんどの遷移金属は二原子価である。概略的に-カソードの各モルは1モルの酸素を送達して電解質を燃焼させることができる:NiO+電解質→NiO+燃焼生成物(HO、CO)。
【0015】
高いエネルギー密度を得るその他の傾向は、Ni-超過をより中間値で設定するが、高電荷容量を適用することである。Ni-超過に関する典型的な値は、約0.4~約0.6の範囲で変動する。この領域を、「高Ni-超過」と称する。4.2又は4.3Vの高Ni-超過NMCにおける可逆容量は、「非常に高い」Ni-超過化合物(Ni-超過>0.6を伴う)の可逆容量未満である。非常に高いNi-超過カソード(fx.NCA)同様の、同じ充電状態(すなわち、脱リチウム化したカソードに残留するLi)を達成するために、高Ni-超過カソード(fx.NMC622)を伴う電池は、より高い電圧へと充電される必要がある。同様の充電状態は、例えば、NCAについて4.2V及びNMC622を使用して4.35Vで得ることができる。したがって、「高Ni-超過」NMCの容量を向上させるために、より高い充電電圧が適用される。
【0016】
高充電電圧においてでさえも、得られた脱リチウム化した高Ni-超過カソードは、前述の脱リチウム化した非常に高いNi-超過カソードよりも、より低い電圧において安全である。Ni系カソードが酸素燃焼反応中にNiOを形成する傾向にあるのに対して、Ni-M’は、脱リチウム化プロセス中により安定したM’化合物を形成する傾向にある。これらの化合物はより高い最終酸素化学量論を有し、このように、より少ない酸素において電解質を燃焼させることが可能である。Ni-超過を伴わないカソードに関する概略的な例は、LiMn0.5Ni0.5→Mn0.5Ni0.5+電解質→0.5NiMnO+燃焼生成物(HO、CO)である。この場合、燃焼反応後に50%のみの遷移金属が二価である故に、0.5の酸素が電解質を燃焼させるのに有効である。これは、上述の非常に高いNi-超過カソードの場合とは異なり、ほぼ1モルが有効である。
【0017】
原則では、依然としてより低いNi-超過カソードへと第2の傾向を継続させることができる。小さいNi-超過のみを伴うカソード材料を、依然としてより高い電圧へと充電することができる。一例として、NMC532を約4.45Vへと充電する、又はNMC442を約4.55Vへと充電して、類似の容量を達成することができる。この場合-より低いNi含有量故に、脱リチウム化したカソードの安全性が更に向上すると予測され、また製造プロセスも簡略化される。しかし、既知の電解質がこれらの非常に高い充電電圧において良好に作用しなかったので、この手法は、実行可能ではなく、したがって、不十分なサイクル安定性が観察された。
【0018】
本発明は、非常に高い(>0.6)Ni-超過は有さないが、高いNi-超過(0.4~0.6)のみを有するカソード材料に、より高い充電電圧を適用する、第2の傾向を意味する。Ni含有量及び充電電圧の両方が増大するので、良好な安全性及び安価な調製プロセスを得ることが困難である。先行技術から、このように、Liイオン電池における首尾の良い調製及び適用に関する多くの問題を、高Ni-超過材料が有していることが、知られている。したがって、許容可能な高Ni超過材料を作製するために、最適化されたNMC組成物及び高度の電池性能を有し、高可逆容量が良好なサイクル安定性及び安全性と共に得られる、このようなカソード材料が必要である。
【0019】
高電圧(4.3~4.4V)で使用される高Ni-超過カソードの別の問題は、電池のサイクル中の電解質との反応である。カソード材料からの金属元素は、電解質中に溶解し、これは、活性材料の減少及び容量の減少をもたらす。
【0020】
更に、NMCカソード材料を有する電池に関する既知の電解質組成物の主要な問題は、可逆容量に関するそれらの不十分な性能、温度変化に対するそれらの高い感度故の蓄電安定性、及び高電圧(4.3~4.4V)でのサイクル性能である。更に、誘発ガスの発生が電池の爆発につながり得る故に、高電圧でのそのような電解質組成物の成分の分解は、安全上の問題である。
【0021】
したがって、特にそれらが高Ni-超過を有するNMCカソード材料を含む、高電圧(4.3~4.4V)でのNi系リチウムイオン二次電池の性能及び安全性を向上させること、に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0022】
第1の態様から概観すると、本発明は、正極材料と、電解質組成物と、を含む液体電解質充電式電池を提供することができ、正極材料は、以下の一般式を有するリチウム遷移金属系酸化物粉末を含み、Li1+a((Ni(Ni0.5Mn0.5Co1-k1-a、式中、Aは、ドーパントであり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1、及びk≦0.01であり、電解質組成物は、
a)少なくとも1つの環状カーボネート、
b)少なくとも1つのフッ素化非環状カルボン酸エステル、
c)少なくとも1つの電解質塩、
d)リチウムホスフェート化合物、リチウムボロン化合物、リチウムスルホネート化合物、及びこれらの混合物から選択される少なくとも1つのリチウム化合物、
e)少なくとも1つの環状イオウ化合物、並びに
f)任意選択的に、少なくとも1つの環状カルボン酸無水物、を含む。
【0023】
本明細書で使用するとき、「電解質組成物」という用語は、充電式電池、特に液体電解質リチウム二次電池セルの電解質としての使用に適している化学組成を意味する。
【0024】
本明細書で使用するとき、「電解質塩」という用語は、電解質組成物中に少なくとも部分的に可溶性であり、電解質組成物中で少なくとも部分的にイオンに分離する、イオン性塩を意味する。
【0025】
本明細書で使用するとき、「環状カーボネート」という用語は、特に有機カーボネートを意味し、有機カーボネートは、炭酸のジアルキルジエステル誘導体であり、有機カーボネートは、一般式R’OC(O)OR’’を有し、式中、R’及びR’’は、相互接続した原子を介して環状構造を形成し、また、少なくとも1つの炭素原子を有するアルキル基から各々独立して選択され、式中、R’及びR’’は、同じ又は異なり得、分岐又は非分岐、飽和又は不飽和、置換又は非置換であり得る。
【0026】
本発明に従って使用することができる、分岐又は非分岐アルキル基の特定の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチルが挙げられる。
【0027】
「フッ素化非環状カルボン酸エステル」という用語は、ジアルキルカルボン酸エステルを指し、アルキル基は、相互接続した原子を介して環状構造を形成せず、また、構造中の少なくとも1つの水素原子がフッ素によって置換される。アルキル基は、少なくとも1つの炭素原子を有するアルキル基から独立して選択され、それらは、同じ又は異なり得、分岐又は非分岐、飽和又は不飽和であり得る。
【0028】
より一般的には、本明細書で言及される任意の有機化合物に関連する「フッ素化」という用語は、以下、少なくとも1つの水素がフッ素によって置き換えられることを意味する。「フルオロアルキル、フルオロアルケニル、及びフルオロアルキニル基」という用語は、少なくとも1つの水素がフッ素によってそれぞれ置き換えられるアルキル、アルケニル、及びアルキニル基を意味する。
【0029】
「リチウムホスフェート化合物」という用語は、実験式においてリチウム及びリン酸基の両方を有する化合物を意味する。リチウム及びリン酸基は、必ずしも互いに直接結合しているわけではなく、同じ化合物中に存在する。
【0030】
「リチウムボロン化合物」という用語は、実験式においてリチウム及びボロン、好ましくはボレート基を有する化合物を意味する。リチウム及びボロン又はボレート基は、必ずしも互いに直接結合しているわけではなく、同じ化合物中に存在する。
【0031】
「リチウムスルホネート化合物」という用語は、実験式においてリチウム及びスルホネート基を有する化合物を意味する。リチウム及びスルホネート基は、必ずしも互いに直接結合しているわけではなく、同じ化合物中に存在する。
【0032】
「環状イオウ化合物」という用語は、一般に、硫酸又はスルホン酸のジアルキル(ジ)エステル誘導体である、有機環状硫酸塩又はスルトンを意味し、アルキル基は、相互接続した原子を介して環状構造を形成し、また、同じ又は異なり得、分岐又は非分岐、飽和又は不飽和、置換又は非置換であり得る、少なくとも1つの炭素原子を有するアルキル基から各々独立して選択される。
【0033】
「環状カルボン酸無水物」という用語は、カルボン酸から誘導される有機化合物を意味し、2つのアシル基は、一般式RC(O)-O-C(O)Rに従って酸素原子に結合し、R及びRは、相互接続した原子を介して環状構造を形成し、また、少なくとも1つの炭素原子を有するアルキル基から各々独立して選択され、R及びRは、同じ又は異なり得、分岐又は非分岐、飽和又は不飽和、置換又は非置換であり得る。
【0034】
以下の説明では、「~から~の範囲」「~と~との間」という表現は、境界も含むことを理解するべきである。
【0035】
組み合わせ可能な異なる実施例は、次の特徴を提供し得る。
-リチウム遷移金属系酸化物粉末が、1000ppm以下の炭素含有量を有する、
-リチウム遷移金属系酸化物粉末が、400ppm以下の炭素含有量を有する、
-リチウム遷移金属系酸化物粉末が、0.05~1.0重量%のイオウ含有量を有する、
-リチウム遷移金属系酸化物粉末が、0.1~0.3重量%のイオウ含有量を有する、
-粉末が、0.15~5重量%のLiNaSOの二次相を更に含む、及びここでは、粉末は、リチウム遷移金属系酸化物を含むコア、及びLiNaSOの二次相を含むコーティングからなるものであり得る。また、二次相は、最高1重量%の、Al、LiAlO、LiF、LiPO、MgO、及びLiTiOのうちのいずれか1つ以上を更に含むものであり得、
-ドーパントAは、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg、及びZrのうちいずれか1つ以上である。
-粉末は、リチウム遷移金属系酸化物を含むコア、並びにリチウム及び遷移金属を含む表面層からなり、表面層が、外側及び内側界面によって区切られ、内側界面が、コアと接触し、Aが、少なくとも1つのドーパントであり、かつAlを含み、コアは、0.3~3mol%のAl含有量を有し、表面層は、内側界面におけるコアのAl含有量から、外側界面における少なくとも10mol%まで増加するAl含有量を有し、Al含有量は、XPSによって決定される。この実施形態では、表面層は、コアのNi、Co、及びMnの遷移金属の密な混合物、及びAl、並びにLiF、CaO、TiO、MgO、WO、ZrO、Cr、及びVからなる群からのいずれか1つ以上の化合物、からなるものであり得、
-電解質組成物中の当該少なくとも1つの環状カーボネートは、式(I)又は(II)のものであり、
【化1】

式中、同じであっても異なってもよいR~Rは、水素、フッ素、C1~C8アルキル基、C1~C8アルケニル基、C1~C8アルキニル基、C1~C8フルオロアルキル基、C1~C8フルオロアルケニル基、又はC1~C8フルオロアルキニル基から独立して選択され、
-電解質組成物中の当該少なくとも1つの環状カーボネートは、上記の式(I)又は(II)の「非フッ素化」環状カーボネートであり、式中、同じであっても異なってもよいR~Rは、水素、C1~C8アルキル基、C1~C8アルケニル基、又はC1~C8アルキニル基から独立して選択され、
-電解質組成物中の当該少なくとも1つの環状カーボネートは、上記の式(I)又は(II)の「フッ素化」環状カーボネートであり、R~Rの少なくとも1つは、フッ素、又はC1~C8フルオロアルキル基、C1~C8フルオロアルケニル基、C1~C8フルオロアルキニル基であり、
-組成物は、式(I)の少なくとも2つの環状カーボネート、好ましくは両方を含み、上で定義したように、少なくとも1つが、「非フッ素化」環状カーボネートであり、少なくとも1つが、「フッ素化」環状カーボネートであり、
-電解質配合物中の当該フッ素化非環状カルボン酸エステルは、以下の式のものであり、
-COO-R
式中、
i)Rは、水素、アルキル基、又はフルオロアルキル基であり、
ii)Rは、アルキル基又はフルオロアルキル基であり、
iii)R及びRのいずれか又は両方は、フッ素を含み、
iv)2個で一対のR及びRは、少なくとも2個の炭素原子を含むが、7個以下の炭素原子を含む。
-電解質組成物の少なくとも1つの電解質塩は、リチウム塩、好ましくは、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(CF)、リチウムビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(C)、リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF(C)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドLiN(CSO、LiN(CSO、リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアルセネート、リチウムヘキサフルオロアンチモネート、リチウムテトラクロロアルミネート、リチウムアルミネート(LiAlO4)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート、リチウムノナフルオロブタンスルホネート、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、式中xが0~8に等しい整数であるLi1212-x、B(OCなどのフッ化リチウム及びアニオン受容体の混合物、並びにこれらの混合物、
-電解質組成物中の当該少なくとも1つのリチウム化合物は、
i)リチウムモノフルオロホスフェート、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムトリフルオロメタンホスフェート、リチウムテトラフルオロホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキザレート)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキザレート)ホスフェート、リチウムトリス(オキザレート)ホスフェート、から選択されるリチウムホスフェート化合物、
ii)リチウムテトラフルオロボレート、リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、式中xが0~8の範囲の整数であるLi1212-xHx、から選択されるリチウムボロン化合物、
iii)好ましくはリチウムジフルオロホスフェート、リチウムビス(オキザレート)ボレート、
iv)これらの混合物、から選択され、
好ましくはリチウムジフルオロホスフェート、リチウムビス(オキザレート)ボレート及びこれらの混合物から選択され、
-電解質組成物中の当該少なくとも1つの環状イオウ化合物は、以下の式によって表され、
【化2】

式中、Yは、酸素又はHCA基であり、各Aは、独立して、水素、又は任意選択的にフッ素化エテニル、アリル、エチニル、プロパルギル、若しくはC~Cアルキル基であり、nは、0又は1であり、
-当該少なくとも1つの環状カルボン酸無水物は、式(IV)~(XI)のうちの1つによって表され、
【化3】

式中、R~R14は、各々独立して、水素、フッ素、任意選択的にフッ素、アルコキシ、及び/若しくはチオアルキル置換基によって置換された直鎖若しくは分岐鎖のC~C10アルキル基、直鎖若しくは分岐鎖のC~C10アルケニル基、又はC~C10アリール基である。
【0036】
本発明は、優れた高容量、長いサイクル安定性、及び熱安定性などの強化された電池性能をもたらす、狭い範囲内に最適化された組成物を有する高Ni-超過NMC材料と共に、そのようなNi超過MMC材料によって動作するように特に最適化された電解質組成物を有する、液体電解質充電式電池を開示する。これらのカソード材料を、優位性のあるプロセスにより生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】Ni-超過関数としての、計算されたNMC材料の可逆容量
図2】三元Ni-Mn-Co組成物三角形における、特定の組成物の種類
図3】コインセル試験方法1におけるNMC化合物の、初期放電容量の等高線図
図4】コインセル試験方法1におけるNMC化合物の、容量減退の等高線図
図5a】コインセル試験方法2におけるNMC化合物の、勾配結果
図5b図5aの分解図
図6】コインセル試験方法2におけるNMC化合物の、勾配結果の等高線図
図7】コインセル試験方法3におけるNMC化合物の、回復容量の等高線図
図8】NMC化合物のDSCスペクトル
図9】x-軸がサイクル数であり、かつy-軸が相対的放電容量である、フルセルサイクル寿命の試験結果。
図10】コインセル試験方法1からの容量減退と、フルセルサイクルの寿命との間の相関。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、特定の電解質組成物と、充電式リチウム電池におけるカソード材料として使用される特定のリチウム遷移金属酸化物との相乗的な組み合わせに焦点を当てている。カソード材料は、Ni、Mn、及びCoから選択される1つ以上の遷移金属であるM’を伴うLiM’Oである、NMC組成物を有するが、M’はまた、その他の元素によってドープされてもよい。本発明のカソード材料は、最適な性能の達成を可能にする組成物の特定の種類を有する。
【0039】
中でも、良好なサイクル安定性及び安全性と共に、高可逆容量が達成される。Coの容量が0.18~0.22の範囲であり、かつNi及びMnが狭い範囲内で変化する場合に、向上した性能が得られる。このNi-Mnの範囲は、互いに関連する2つの関係(Ni-Mn及びNi/Mn)によって表すことができる。(1+(2×z))/yにより表されるNi/Mnのモル比はまた、「Ionics,20,1361~1366(2014)」に記載されているように、容量及びサイクル安定性などの性能に影響を与え得る。Ni/Mn比率の増大に伴って総放電容量が増大するが、比率が大きくなり過ぎる場合に、電極材料の安定性が低下する。他方では、Ni含有量に対してMn含有量が増大する場合、容量は減少する。Ni含有量がNi超過「z」(=NiマイナスMn)の両方を増大させるので、Mnに対するNiの化学量論比も同様に増大する。Ni-超過が0.42~0.52の範囲で変化する場合、またMnに対するNiの化学量論比が3.15~4.25の範囲で変化する場合、向上した性能が得られる。図2は、三元Ni-Mn-Co組成物三角形の範囲にある、本特定の組成物を示す。好ましい化学量論領域は、(1)0.615/0.195/0.189、(2)0.622/0.198/0.180、(3)0.664/0.156/0.18、(4)0.631/0.149/0.22、(5)0.60/0.18/0.22の、Ni-Mn-Co端を伴う五角形内である。
【0040】
典型的に、本発明において開示されたカソード材料は、混合金属水酸化物M’(OH)、オキシ水酸化物M’OOH、又は中間体M’O(OH)2-a(M’=Ni、Mn、及びCoを伴い、かつ0<a<1)同様の混合遷移金属前駆体を使用した複数の焼結法により、製造される。以下の説明では、用語「M’-水酸化物」は、これらの異なる前駆体組成物を包含する。M’-水酸化物は、典型的には沈殿プロセスにより調製される。酸性溶液を含有する金属の供給材料(複数可)を、撹拌反応器内へと供給する。同時に、塩基の供給材料(複数可)を、反応器へと追加する。なお、粒子の成長をより良好に制御するために、アンモニア又はシュウ酸塩などの添加剤を、反応器内へと供給する。通常使用される金属酸は、遷移金属サルフェート溶液であり、また典型的な塩基は、NaOHである。したがって、沈殿反応「M’SO+2NaOH→M’(OH)+NaSO」が起こる。多くの沈殿装置設計が可能である。連続撹拌タンク反応器(CSTR)プロセスは、供給溶液を供給し、かつ継続的に過剰流量を集水する両方の連続プロセスを提供する。
【0041】
代替的に、設計は、反応器が充填された後に沈殿が停止するバッチプロセスであり得る。液体(沈澱又は濾過後)が取り除かれるが、プロセス中に固体の大部分が反応器内に残留する故に、反応器内でより多くの沈殿物が蓄積するバッチプロセスと沈殿濃縮プロセスとの組み合わせでも可能である。本方法では、反応器へのM’SO及びNaOHの供給を、より長時間継続させることができる。
【0042】
RPM撹拌器同様の沈殿反応状態の間、タンクのpH、流量及び流量率、滞留時間及び温度などは良好に維持されて、高品質の混合遷移金属水酸化物生成物を得るために制御される。沈殿後に、得られた混合遷移金属水酸化物を濾過し、洗浄して乾燥させる。このように、混合遷移金属水酸化物が得られる。混合遷移前駆体は、以下の焼結プロセスのための前駆体となる。
【0043】
混合遷移金属を沈殿方法により調製してもよいので、沈殿したM’-水酸化物中の目的の遷移金属組成物M’は、0.18~0.22モルのCo含有量を有し、かつ0.42~0.52のNi-超過(=Ni-Mn)を含有する。なお、Mnに対するNiの比率は3.15~4.25である。遷移金属組成物は、このように、Ni(Ni0.5Mn0.5Coとして記載することができ、ここで0.42≦z≦0.52、0.18≦x≦0.22及び3.15<(2×z/y)+1<4.25である。
【0044】
本発明のカソード材料を、費用効果の高い焼結プロセスにより調製することができる。酸素含有ガスにおいて、焼結を実施する。純O同様のCO自由大気において調製されることを必要とする、非常に高いNi-超過カソード材料を伴うカソード材料に対して、本発明のカソード材料は空気中で焼結させることができ、これは、調製プロセスのコストを減少させることを可能にする。典型的には、カソード材料は複数の焼結アプローチにより調製される。再焼結が適用される場合、第1の焼結プロセスは、1未満のLi/M’化学量論比を有する生成物を送達する。また第2の焼結プロセスは、1の数に近いLi/M’の化学量論比を有する、完全にリチウム化した生成物を送達する。このようなプロセスが、国際公開第2017-042654号に開示されている。
【0045】
第1の焼結工程では、混合遷移金属前駆体がリチウム源とブレンドされる。典型的には、LiOH・HO又はLiCOがリチウム源として使用される。Ni-超過が高すぎる場合にLiCOを使用することができない、という点を除いて、LiCOの使用が可能であり、かつ調製コストを提言することを可能にする。酸素含有ガス(例えば、空気の流れで)においてブレンドを焼結し、リチウム欠損中間材料を得る。典型的な焼結温度は、650℃より高いが、950℃未満である。中間材料は、1の数未満のLi/M’の化学量論比、典型的には0.7~0.95の範囲を有する。
【0046】
第2の焼結プロセスでは、最終のLi/M’目的組成物を得るために、第1の焼結工程からのリチウム欠損中間体がLiOH・HOと混合される。目的の比率は、化学量論Li/M’=1.00の値に近い。酸素含有ガス(例えば、空気の流れ又は酸素で)においてブレンドを焼結し、最終カソード材料を得る。典型的な焼結温度は800℃より高いが、880℃未満である。典型的には、焼結後に後処理工程(ミリング、ふるい分け、等)が続く。2段階の焼結プロセスを適用する代わりに、その他の好適なプロセスによりカソード材料を調製することもできる。従来の単一工程焼結が、代替として可能である。単一焼結を適用する場合、典型的なLi源はLiOH・HOである。
【0047】
得られたカソード材料は、良好な結晶構造を有し、また低い可溶性塩基を有する。特に可溶性カーボネート塩基の含有量が低い。典型的な炭素含有量(可溶性カーボネートとして存在している)に関する値は、150ppm~約1000ppmの範囲で変動するが、好ましくは400ppmを超過しない。炭素含有量が高すぎる場合、より小さい容量が得られ、かつサイクル安定性が低下する。更に、バルジング特性が低下する。バルジングは、充電したパウチセルが熱に曝された場合に、電池内でガスが放出される故に電池容積が増大する、不必要な特性である。最終的に、カソードはイオウを含有してよい。少なくとも0.05質量%、好ましくは少なくとも0.1質量%のイオウが存在してよい。イオウの存在は、サイクル安定性を向上させて、可逆容量を増大させる。結果は、イオウが多結晶カソード材料における粒界を最適化するのに重要である、ということを示している。イオウ含有量が幾分少ない場合、次に粒界が非常に狭く、かつ可逆容量が低下する。イオウ含有量は1質量%を超えるべきではなく、さもなければ可逆容量が失われてしまう。
【0048】
第2の焼結プロセス後に、得られた材料を充電式リチウムイオン電池におけるカソード材料として使用することができる。本特定の組成物を伴うカソードの性能を表面処理により更に高めることができ、それによって、性能を低下させることなく充電電圧を増大させることが可能であり、したがって、高エネルギー密度を得ることができる。表面処理は、サイクル中又は充電中に電池において生じる望ましくない反応に対して表面を安定させ、かつ延長されたサイクリング中の粒子の亀裂(これが、望ましくない副反応を強める新たな表面を誘発し得る故に)を防止するのに有効であり得る。充電-放電中のカソードにおけるLi含有量の変化は、ひずみを生じさせる体積変化を引き起こす。表面コーティングは、表面におけるひずみを減少させることに寄与し得、かつクラック核生成を遅らせる。その機構は、「Journal of The Electrochemical Society,164,A6116-A6122(2017)」に記載されている。典型的な表面処理アプローチでは、全ての表面又は表面部分は、好適な化学物質によって被覆される。現時点では、Al及びZr系化合物が普及しているが、多くの化学物質を表面処理に使用することができ、それらの幾つかは「Nature Communications,7,13779(2016)」に列挙されている。化学物質の適用は、湿式又は乾式処理により行われる。通常、表面処理に関する化学物質の量は少なく、1質量%以下の範囲である。本発明では、Al及び/若しくはLiF、又はLiNaSOを表面に適用する、表面コーティング法が使用されてきた。これらの方法は、米国特許第6,753,111号、国際公開第2016-116862号、及び欧州特許第3111494(A1)号に記載されている。化学物質を含有する、Mg、B、P、等を適用するその他の表面処理方法が知られている。
【0049】
Ni-超過が0.52よりも高い場合、表面処理の性能を向上させる効果はより少ない。Ni-超過が0.42未満である場合、次に、表面処理は性能を向上させるが、容量は不十分となる。表面処理の組み合わせ及び適切なNi-超過は、共同作用する。
【0050】
通常、化学物質を表面へと適用した後に、熱処理が続く。典型的な熱処理温度は、
(a)100~250℃:プロセスが、溶融又は乾燥による古典的なコーティングプロセスである場合、
(b)300~450℃:表面反応が所望されるが、バルクが反応するべきではない場合、及び
(c)600~800℃:特定の固体状態の拡散又はバルク反応を伴う場合。
【0051】
本発明の実施例は(1)Al系コーティングを適用し、続いて(c)の範囲の温度において熱処理を適用してよく、又は(2)(b)の温度範囲を使用したAl及びLiF系コーティング若しくはAl及びLiNaSO系コーティングを適用してよい。
【0052】
本発明では、狭い組成範囲のみが、高容量と同時に良好なサイクル安定性及び安全性を得ることを可能にする、ということが観察されている。組成物が最適な領域から逸脱している場合、次にサイクル安定性の低下が観察される。最適な領域内において、比較的高い充電電圧を適用することにより、十分な高容量が達成され得る。この狭い最適化された領域内のカソード材料は、大型電池及び4.15V超える充電電圧を適用する電池での使用に特に適している。本カソード材料は、典型的には、4.3Vあるいは4.35Vで、及び高温で良好な性能を示す。また、最適化された組成物を伴うカソード材料は、NMC811又はNC91などの非常に高いNi-超過NMCと比較して、大いに良好な安全特性及びサイクル安定性を示す。
【0053】
組成物が上記の値からわずかに逸脱しているだけの場合であっても、性能は悪化する。Ni-超過がより低い場合、同様に一定電圧での容量も減少し、またより高い充電電圧を適用して目的の容量を達成する必要がある。この電圧が高すぎるので、不十分なサイクル安定性が観察される。Co含有量がより高い場合、カソードのコストが増大し、かつ一定電圧での容量が減少する。Co含有量がより低い場合、サイクリング中の構造的不安定性が観察される。構造的不安定性は、基準と比較して悪化したサイクル安定性により、それ自体を証明する。非常に高いNi-超過カソードに関してより典型的であるこのような不安定性が、より少ないCo含有量を伴う中間高Ni-超過カソードに関して観察される、ということは、驚くべきことである。著者は、カソード材料において良好な性能を達成するために、正確なCo濃度の制御が非常に重要である、と結論づけている。Ni-超過がより高い場合、調製における困難が増大する。また、一定電圧から得られる容量は予測されるものよりも低く、また目的の容量を得るためにより高い電圧において充電される場合、得られる性能はより低い。特に、安全性は低下し、かつ目的の組成物と比較してサイクル安定性はより低い。
【0054】
カソード材料の金属に対するリチウムの比率は、1の数に近い(ゼロに近い「a」を伴うLi1+aM’1-a)。リチウムの濃度がより高い場合、次に、可溶性塩基の含有量は増大し、かつ容量は低下する。リチウムの濃度がより少ない場合、容量は低下する。著者は、約0.95~1.05の範囲内での、遷移金属に対するリチウムの化学量論比の制御が良好な性能を得るために非常に重要である、と結論づけている。
【0055】
結論は以下のとおりである。組成物が最適な組成物と異なる場合、全体の性能が悪化する。詳細には:
-Coが0.22より多い場合、容量が低下する
-Coが0.18未満である場合、サイクル安定性が低下する
-Ni-超過が0.42未満である場合、容量が不十分である
-Ni-超過が0.52より多い場合、サイクル安定性及び安全性特性が低下する
-Ni/Mn(=(z+(0.5×y))/0.5×y)の比率が4.25より大きい場合、サイクル安定性は低下する
-Ni/Mn比率が3.15未満である場合、容量が低下する
-Li/M’の化学量論量が1.05を著しく超過する場合、容量が低下し、かつ可溶性塩基の含有量が多くなり過ぎる、及び
-Li/M’の化学量論量がより少なく0.95未満である場合、容量及びサイクル安定性が低下する。
【0056】
以下、本発明による電池において使用される電解質組成物を、以下の好ましい実施形態を参照しながら説明する。本発明がこれらの好ましい実施形態に限定されないことが理解されるであろう。
【0057】
当該電解質組成物は、少なくとも1つの環状カーボネートを含む。一実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは、以下の式(I)又は(II)であり、
【化4】

式中、同じであっても異なってもよいR~Rは、水素、フッ素、C1~C8アルキル基、C1~C8アルケニル基、C1~C8アルキニル基、C1~C8フルオロアルキル基、C1~C8フルオロアルケニル基、C1~C8フルオロアルキニル基から独立して選択される。
【0058】
好ましくは、R~Rは、水素、フッ素、C1~C3アルキル基、C1~C3アルケニル基、C1~C3アルキニル基、C1~C3フルオロアルキル基、C1~C3フルオロアルケニル基、又はC1~C3フルオロアルキニル基から独立して選択される。
【0059】
より好ましくは、R及びRは、フッ素又はC1~C3アルキル基から独立して選択され、C1~C3アルキルは、好ましくはメチレン基であり、R、R、R、Rは、上で定義したとおりである。
【0060】
更により好ましくは、R及びRは、フッ素又はメチレン基から独立して選択され、R、R、R、Rは、それぞれ水素である。
【0061】
サブ実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは、上記の式(I)のものである。
【0062】
サブ実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは、上記の式(II)のものである。
【0063】
サブ実施形態では、式(I)又は(II)の少なくとも2つの環状カーボネートは、電解質組成物中に存在する。
【0064】
一実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは「非フッ素化」環状カーボネートである。その点で、非フッ素化環状カーボネートは、上記の式(I)又は(II)のものであり得、式中、同じであっても異なってもよいR~Rは、水素、C1~C8アルキル基、C1~C8アルケニル基、又はC1~C8アルキニル基から独立して選択される。
【0065】
好ましくは、本発明による電解質組成物が式(I)又は(II)の非フッ素化環状カーボネートを含むとき、R~Rは、水素、C1~C3アルキル基、C1~C3アルケニル基、又はC1~C3アルキニル基から独立して選択される。より好ましくは、本発明による電解質組成物が式(I)又は(II)の非フッ素化環状カーボネートを含むとき、R及びRは、水素又はC1~C3アルキル基から独立して選択され、当該C1~C3アルキルは、好ましくはメチレン基であり、R、R、R、Rは、水素、C1~C3アルキル基、又はビニル基から独立して選択される。
【0066】
更により好ましくは、本発明による電解質組成物が式(I)又は(II)の非フッ素化環状カーボネートを含むとき、R及びRは、独立してメチレン基であり、R、R、R、Rは、それぞれ水素である。
【0067】
好ましいサブ実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは、上で定義した式(I)の非フッ素化環状カーボネートである。
【0068】
別の好ましいサブ実施形態では、本発明による電解質組成物は、少なくとも2つの環状カーボネートを含み、好ましくはどちらも式(I)であり、2つのうちの少なくとも1つが、上で定義した非フッ素化環状カーボネートである。
【0069】
非フッ素化環状カーボネートは、特に、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレン基カーボネート、エチルプロピルビニレン基カーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、及びこれらの混合物から選択することができる。より好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及びこれらの混合物から選択される。プロピレンカーボネートが特に好ましい。
【0070】
非フッ素化環状カーボネートは、(例えば、Sigma-Aldrichから)市販されており、又は当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、非フッ素化環状カーボネートを精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。例えば、プロピレンカーボネートは、米国特許第5437775号に記載されている方法に従って、高純度で合成することができる。
【0071】
当該少なくとも1つの環状カーボネート、好ましくは上で定義した非フッ素化環状カーボネートは、電解質組成物の総重量に対して、5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは12重量%~40重量%、より好ましくは15重量%~35重量%、更により好ましくは17重量%~30重量%の範囲の量で電解質組成物中に存在し得る。
【0072】
代替的な実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは、「フッ素化」環状カーボネートである。その点では、フッ素化環状カーボネートは、上記の式(I)又は(II)であり得、式中、R~Rの少なくとも1つは、フッ素、C1~C8フルオロアルキル基、C1~C8フルオロアルケニル基、又はC1~C8フルオロアルキニル基である。
【0073】
好ましくは、本発明による電解質組成物が式(I)又は(II)のフッ素化環状カーボネートを含むとき、R~Rの少なくとも1つは、フッ素、C1~C3フルオロアルキル基、C1~C3フルオロアルケニル基、又はC1~C3フルオロアルキニル基である。より好ましくは、本発明による電解質組成物が式(I)又は(II)のフッ素化環状カーボネートを含むとき、R及びRは、独立して、フッ素であり、R、R、R、Rは、水素、フッ素、又はC1~C3アルキル基から独立して選択され、好ましくはメチル基である。
【0074】
更により好ましくは、本発明による電解質組成物が式(I)又は(II)のフッ素化環状カーボネートを含むとき、R及びRは、独立して、フッ素であり、R、R、R、Rは、それぞれ水素である。
【0075】
好ましいサブ実施形態では、当該少なくとも1つの環状カーボネートは、上で定義した式(I)のフッ素化環状カーボネートである。
【0076】
フッ素化環状カーボネートは、特に、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、及びこれらの混合物から選択することができ、好ましくは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンである。
【0077】
フッ素化環状カーボネートは、市販されており(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンは、特にSolvayから入手することができる)、又は国際公開第2014056936号に記載されているような当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、フッ素化環状カーボネートを精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0078】
別の代替的な実施形態において、組成物は、少なくとも2つの環状カーボネートを含む。
【0079】
好ましくは、少なくとも2つの環状カーボネートが本発明による電解質組成物中に存在するとき、少なくとも1つは、非フッ素化環状カーボネートであり、少なくとも1つは、上で説明したフッ素化環状カーボネートである。
【0080】
フッ素化環状カーボネートは、電解質組成物の総重量に対して、0.5重量%~20重量%、好ましくは0.8重量%~15重量%、より好ましくは1重量%~10重量%、より好ましくは2重量%~10重量%、更により好ましくは3重量%~10重量%の範囲の量で電解質組成物中に存在し得る。
【0081】
本発明による電解質組成物はまた、少なくともフッ素化非環状カルボン酸エステルも含む。一実施形態によれば、フッ素化非環状カルボン酸エステルは、以下の式のものであり、
-COO-R
式中、
i)Rは、水素、アルキル基、又はフルオロアルキル基であり、
ii)Rは、アルキル基又はフルオロアルキル基であり、
iii)R及びRのいずれか又は両方は、フッ素を含み、
iv)2個で一対のR及びRは、少なくとも2個の炭素原子を含むが、7個以下の炭素原子を含む。
【0082】
サブ実施形態では、R及びRは、本明細書上記で定義されるとおりであり、2個で一対のR及びRは、RもRもFCH-基又は-FCH-基を含有しないという条件で、少なくとも2個の炭素原子を含むが、7個以下の炭素原子を含み、少なくとも2個のフッ素原子を更に含む。
【0083】
サブ実施形態において、Rは、水素であり、Rは、フルオロアルキル基である。
【0084】
サブ実施形態において、Rは、アルキル基であり、Rは、フルオロアルキル基である。
【0085】
サブ実施形態において、Rは、フルオロアルキル基であり、Rは、アルキル基である。
【0086】
サブ実施形態において、Rは、フルオロアルキル基であり、Rは、フルオロアルキル基であり、R及びRは、互いに同じであるか、又は異なり得る。
【0087】
好ましくは、Rの炭素原子数は、1~5個、好ましくは1~3個、更に好ましくは1個又は2個、更により好ましくは1個である。
【0088】
好ましくは、Rの炭素原子数は、1~5個、好ましくは1~3個、更に好ましくは2個である。
【0089】
好ましくは、Rは、水素、C1~C3アルキル基、又はC1~C3フルオロアルキル基、より好ましくはC1~C3アルキル基、及び更に好ましくはメチル基である。
【0090】
好ましくは、Rは、C1~C3アルキル基又はC1~C3フルオロアルキル基、より好ましくはC1~C3フルオロアルキル基、更に好ましくは少なくとも2個のフッ素原子を含むC1~C3フルオロアルキル基である。
【0091】
好ましくは、RもRもFCH-基又は-FCH-基を含有しない。
【0092】
当該フッ素化非環状カルボン酸エステルは、特に、2,2-ジフルオロエチルアセテート、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、3,3-ジフルオロプロピルアセテート、3,3-ジフルオロプロピルプロピオネート、メチル3,3-ジフルオロプロパノエート、エチル3,3-ジフルオロプロパノエート、エチル4,4-ジフルオロブタノエート、ジフルオロエチルホルメート、トリフルオロエチルホルメート、及びこれらの混合物からなる群から選択することができ、好ましくは、2,2-ジフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルホルメート、及びこれらの混合物からなる群から選択することができ、好ましくは、2,2-ジフルオロエチルアセテートである。
【0093】
フッ素化非環状カルボン酸エステルは、専門の化学薬品企業から購入することができ、又は当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。例えば、2,2-ジフルオロエチルアセテートは、アセチルクロリド及び2,2-ジフルオロエタノールから、塩基性触媒を伴って、又は伴わずに調製することができる。加えて、2,2-ジフルオロエチルアセテート及び2,2-ジフルオロエチルプロピオネートは、Wiesenhoferらによって国際公開第2009/040367号の実施例5に記載されている方法を使用して調製することができる。他のフッ素化非環状カルボン酸エステルは、異なる開始カルボキシレート塩を使用して、同じ方法を使用して調製することができる。代替的に、これらのフッ素化溶媒のいくつかは、Matorix Scientific(Columbia SC)などの企業から購入することができる。
【0094】
少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、フッ素化非環状カルボン酸エステルを精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法、特に真空蒸留又はスピニングバンド蒸留を使用して行うことができる。
【0095】
フッ素化非環状カルボン酸エステルは、特に、電解質組成物の総重量に対して、5重量%~95重量%、好ましくは10重量%~80重量%、より好ましくは20重量%~75重量%、より好ましくは30重量%~70重量%、更により好ましくは50重量%~70重量%の範囲の量で電解質組成物中に存在し得る。
【0096】
本発明による電解質組成物はまた、好ましくはリチウム塩である、少なくとも1つの電解質塩も含む。好適な電解質塩としては、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(CF)、リチウムビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF(C)、リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF(C)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドLiN(CSO、LiN(CSO、リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムテトラフルオロボロレート、リチウムパークロレート、リチウムヘキサフルオロアルセネート、リチウムヘキサフルオロアンチモネート、リチウムテトラクロロアルミネート、LiAlO4、リチウムトリフルオロメタンスルホネート、リチウムノナフルオロブタンスルホネート、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、xが0~8に等しい整数であるLi1212-x、並びにフッ化リチウムとB(OCなどの陰イオン受容体との混合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらのうちの2つ以上の混合物、又は相当する電解質塩もまた使用され得る。
【0097】
電解質塩は、好ましくは、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及びこれらの混合物から選択され、より好ましくは、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、及びこれらの混合物から選択される。電解質塩は、最も好ましくは、リチウムヘキサフルオロホスフェートである。
【0098】
電解質塩は、通常、電解質組成物の総量に対して、5重量%~20重量%、好ましくは6重量%~18重量%、より好ましくは8重量%~17重量%、より好ましくは9重量%~16重量%、更により好ましくは11重量%~16重量%の範囲の量で電解質組成物中に存在する。
【0099】
電解質塩は、市販されており(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの場合はSigma-Aldrich若しくはSolvayなどの、専門の化学薬品企業から購入することができ)、又は当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。LiPFは、例えば、米国特許第5866093号に記載されている方法に従って製造することができる。例えばスルホニルイミド塩は、米国特許第5072040号に記載されているように製造することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、電解質塩精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0100】
本発明による電解質組成物は、リチウムホスフェート化合物、リチウムボロン化合物、リチウムスルホネート化合物、及びこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの追加的なリチウム化合物を更に含む。
【0101】
一実施形態によれば、当該リチウム化合物は、リチウムホスフェート化合物から選択される。それは、リチウムモノフルオロホスフェート、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムトリフルオロメタンホスフェート、リチウムテトラフルオロホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキザレート)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキザレート)ホスフェート、リチウムトリス(オキザレート)ホスフェート、及びこれらの混合物から好都合に選択することができる。
【0102】
サブ実施形態によれば、当該リチウム化合物は、フッ素化リチウムホスフェート化合物から選択される。特にリチウムモノフルオロホスフェート、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムホスフェートトリフルオロメタン、リチウムテトラフルオロホスフェート、及びこれらの混合物から選択することができ、好ましくは、リチウムジフルオロホスフェートである。
【0103】
別のサブ実施形態によれば、当該リチウム化合物は、リチウムオキザレートホスフェート化合物から、特に、最終的にはフッ素化オキザレートホスフェート化合物から選択される。特にリチウムジフルオロビス(オキザレート)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキザレート)ホスフェート、リチウムトリス(オキザレート)ホスフェート、及びこれらの混合物から選択することができ、より具体的には、ジフルオロビス(オキザレート)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(オキザレート)ホスフェート、又はこれらの混合物から選択することができる。
【0104】
一実施形態によれば、当該リチウム化合物は、リチウムボロン化合物から、特に、最終的にリチウムオキサレートボレートから選択される。リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、リチウムテトラフルオロボレート、xが0~8の範囲の整数であるLi1212-x、及びこれらの混合物から選択することができ、より具体的には、リチウムビス(オキザレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキザレート)ボレート、リチウムテトラフルオロボレート、及びこれらの混合物から好都合に選択することができ、好ましくは、リチウムビス(オキザレート)ボレートである。
【0105】
一実施形態によれば、当該リチウム化合物は、リチウムスルホネートから選択される。リチウムフルオロスルホネート、リチウムトリフルオロメタンスルホネート、又はこれらの混合物から好都合に選択することができる。
【0106】
特定の実施形態によれば、当該リチウム化合物は、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムビス(オキザレート)ボレート、及びこれらの混合物から選択される。
【0107】
リチウム化合物は、市販されており(Sigma-Aldrichなどの専門の化学薬品企業から購入することができ)、又は当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。リチウムビス(オキザレート)ボレートは、例えば、ドイツ特許第19829030号に記載されているように合成することができる。リチウムジフルオロホスフェートは、例えば、米国特許第8889091号に記載されているように合成することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、リチウム化合物を精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0108】
リチウム化合物は、電解質組成物の総量に対して、0.1重量%~5重量%、好ましくは0.2重量%~4重量%、より好ましくは0.3重量%~3重量%、より好ましくは0.4重量%~2重量%、更により好ましくは0.5重量%~1重量%、の範囲の量で電解質組成物中に存在し得る。
【0109】
本発明による電解質組成物は、少なくとも1つの環状イオウ化合物を更に含む。一実施形態によれば、当該環状イオウ化合物は、以下の式によって表され、
【化5】

式中、Yは、酸素であるか、又はHCA基を表し、式中、各Aは、独立して、水素、又は任意選択的に、フッ素化エテニル(HC=CH-)、アリル(HC=CH-CH-)、エチニル(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH-)、又はC~Cアルキル基であり、nは、0又は1である。HCA基は、水素原子に結合される炭素原子、上で定義したA実体、並びに環状イオウ化合物の隣接するイオウ及び炭素原子を表す。各A実体は、非置換であり得るか、又は部分的若しくは完全にフッ素化され得る。好ましくは、Aは、非置換である。より好ましくは、Aは、水素又はC~Cアルキル基である。更により好ましくは、Aは、水素である。
【0110】
サブ実施形態では、Yは、酸素である。代替的なサブ実施形態では、Yは、CHである。
【0111】
サブ実施形態では、nは、0である。代替的なサブ実施形態では、nは、1である。
【0112】
特定のサブ実施形態では、Yは、酸素であり、n=0である。代替的な特定のサブ実施形態では、Yは、酸素であり、n=1である。
【0113】
特定のサブ実施形態では、Yは、CHであり、n=0である。代替的な特定のサブ実施形態では、Yは、CHであり、n=1である。
【0114】
2種以上のイオウ化合物の混合物もまた使用され得る。
【0115】
環状イオウ化合物は、特に、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジメチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,6-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5,6-トリエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5-ジメチル-2,2-ジオキシド、ジオキサチアン-4,6-ジメチル-2,2-ジオキシド、ジオキサチアン-4,5,6-トリメチル-2,2-ジオキシド、1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、4-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、5-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、3-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、4-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、5-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、6-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、及びこれらの混合物から選択することができる。
【0116】
第1のサブ実施形態では、環状イオウ化合物は、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジメチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,6-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5,6-トリエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5-ジメチル-2,2-ジオキシド、ジオキサチアン-4,6-ジメチル-2,2-ジオキシド、ジオキサチアン-4,5,6-トリメチル-2,2-ジオキシド、及びこれらの混合物から選択される環状硫酸塩である。
【0117】
より具体的には、環状硫酸塩は、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジメチル-2,2-ジオキシドから選択されることができる、及びこれらの混合物から選択することができ、好ましくは、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシドである。
【0118】
代替的に、環状硫酸塩は、1,3,2-ジオキサチアン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-エチニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-エテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,6-ジエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5,6-トリエテニル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-5-メチル-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-4,5-ジメチル-2,2-ジオキシド、ジオキサチアン-4,6-ジメチル-2,2-ジオキシド、ジオキサチアン-4,5,6-トリメチル-2,2-ジオキシド、及びこれらの混合物から選択することができ、好ましくは、1,3,2-ジオキサチアン-2,2-ジオキシドである。
【0119】
第2のサブ実施形態では、環状イオウ化合物は、1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、4-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、5-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、3-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、4-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、5-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、6-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、及びこれらの混合物から選択されるスルトンである。より具体的には、スルトンは、1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、4-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、5-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、及びこれらの混合物から選択することができ、好ましくは、1,3-プロパンスルトン及び/又は3-フルオロ-1,3-プロパンスルトンから選択することができ、より好ましくは、1,3-プロパンスルトンである。
【0120】
代替的に、スルトンは、1,4-ブタンスルトン、3-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、4-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、5-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、6-フルオロ-1,4-ブタンスルトン、及びこれらの混合物から選択することができ、好ましくは、1,4-ブタンスルトン及び/又は3-フルオロ-1,4-ブタンスルトンから選択することができ、より好ましくは、1,4-ブタンスルトンである。
【0121】
環状イオウ化合物は、市販されており(例えば、Sigma-Aldrichなどの専門の化学薬品企業から購入することができ)、又は当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、環状イオウ化合物を精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0122】
環状イオウ化合物は、電解質組成物の総量に対して、0.2重量%~10重量%、好ましくは0.3重量%~7重量%、より好ましくは0.4重量%~5重量%、より好ましくは0.5重量%~3重量%の範囲の量で電解質組成物中に存在する。
【0123】
本発明による電解質組成物は、少なくとも1つの環状カルボン酸無水物を好都合に含むことができる。一実施形態では、環状カルボン酸無水物は、式(IV)~(XI)のうちの1つによって表され、
【化6】

式中、R~R14は、各々独立して、水素、フッ素、任意選択的にフッ素、アルコキシ、及び/若しくはチオアルキル置換基によって置換された直鎖若しくは分岐鎖のC1~C10アルキル基、直鎖若しくは分岐鎖のC2~C10アルケニル基、又はC6~C10アリール基である。
【0124】
アルコキシ基は、1~10個の炭素を有し得、直鎖又は分岐鎖であり得、アルコキシ基の例としては、-OCH、-OCHCH、及び-OCHCHCHが挙げられる。
【0125】
チオアルキル基は、1~10個の炭素を有し得、直鎖又は分岐鎖であり得、チオアルキル置換基の例としては、-SCH、-SCHCH、及び-SCHCHCHが挙げられる。
【0126】
サブ実施形態では、R~R14は、各々独立して、水素、フッ素、又はC1~C3アルキル基であり、好ましくは水素である。
【0127】
サブ実施形態では、当該少なくとも1つの環状カルボン酸無水物は、上記の式(IV)のものである。
【0128】
当該少なくとも1つの環状カルボン酸無水物は、特に、無水マレイン酸、無水コハク酸、グルタル酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、1-シクロペンテン-1,2-ジカルボキシル無水物、2,3-ジフェニルマレイン酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物、2,3-ジヒドロ-1,4-ジチエノ-[2,3-c]フラン-5,7-ジオン、フェニルマレイン酸無水物、及びこれらの混合物から選択することができる。
【0129】
好ましくは、当該少なくとも1つの環状カルボン酸無水物は、無水マレイン酸、無水コハク酸、グルタル酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、又はこれらの混合物から選択される。
【0130】
更に好ましくは、当該少なくとも1つの環状カルボン酸無水物は、無水マレイン酸である。
【0131】
環状カルボン酸無水物は、(Sigma-Aldrichなどの)専門の化学薬品企業から購入することができ、又は当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。例えば、無水マレイン酸は、米国特許第3907834号に記載されているように合成することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで、環状カルボン酸無水物を精製することが望ましい。精製は、当技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0132】
環状カルボン酸無水物は、通常、電解質組成物の総量に対して、0.10重量%~5重量%、好ましくは0.15重量%~4重量%、より好ましくは0.20重量%~3重量%、より好ましくは0.25重量%~1重量%、更により好ましくは0.30重量%~0.80重量%の範囲の量で電解質組成物中に存在する。
【0133】
一実施形態によれば、本発明の電解質組成物は、溶媒、1つ以上の添加物、及び電解質塩からなる。
【0134】
溶媒は、少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの環状カーボネート、及び少なくとも1つのフッ素化非環状カルボン酸エステルから好都合になり得る。サブ実施形態では、溶媒は、少なくとも1つの非フッ素化環状カーボネート、少なくとも1つのフッ素化カーボネート、及び少なくとも1つのフッ素化非環状カルボン酸エステルからなり、各々は上に記載したものなどである。
【0135】
当該添加物は、少なくともリチウム化合物、環状イオウ化合物、及び任意選択的に環状カルボン酸無水物を好都合に含むか、又はそれらからなり得、各々は上に記載したものなどである。
【0136】
電解質塩は、上に記載したものなどの、1つ以上のリチウム塩から好都合になり得る。
【0137】
一実施形態によれば、本発明の電解質組成物は、少なくとも1つの、少なくとも2つの以下の特徴、又はそれらの組み合わせを含む(全てのパーセンテージは、電解質組成物の総重量に対する重量によって表される)。
-15%~35%の、より好ましくは17%~30%の、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、及びこれらの混合物から選択される非フッ素化環状カーボネート、
-2%~10%の、より好ましくは3%~10%の、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、
-30%~70%の、より好ましくは50%~70%の、2,2-ジフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート、2,2-ジフルオロエチルホルメート、及びこれらの混合物から選択されるフッ素化非環状カルボン酸エステル、
-9%~16%の、より好ましくは11%~16%の、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及びこれらの混合物から選択される電解質塩、
-0.4%~2%の、より好ましくは0.5%~1%の、リチウムジフルオロホスフェート、リチウムビス(オキザレート)ボレート、及びこれらの混合物から選択される追加的なリチウム化合物、
-0.4%~5%の、より好ましくは0.5%~3%の、1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチアン-2,2-ジオキシド、1,3-プロパンスルトン、及びこれらの混合物から選択される環状イオウ化合物、
-0.25%~1%の、より好ましくは0.30%~0.80%の、無水マレイン酸、無水コハク酸、グルタル酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、及びこれらの混合物から選択される環状カルボン酸無水物。
【0138】
本明細書で引用される全ての特許出願及び刊行物の開示は、本明細書に記載されるものに対して補足的な、例示的な、手続き的な、又は他の詳細を提供する範囲で、参照により本明細書に組み込まれる。参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本明細書が優先するものとする。
【0139】
いずれの請求項も、本発明の実施形態として明細書に組み込まれる。したがって、請求項は、更なる説明であり、本発明の好ましい実施形態への追加である。
【0140】
分析方法の説明
A)コインセル試験
a)コインセルの調製
正極の調製に関しては、重量比90:5:5の配合で、電気化学的活性材料、コンダクタ(Super P、Timcal)、バインダ(KF#9305、Kureha)を溶媒(NMP、三菱)中に含有するスラリーを、高速ホモジェナイザにより調製する。均質化したスラリーを、230μmのギャップを伴うドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。スラリーでコーティングした箔をオーブン内で120℃において乾燥させて、次にカレンダ工具を使用してプレスする。次に、これを真空オーブン中で再び乾燥させて、電極フィルム内の残留溶媒を完全に除去する。コインセルは、アルゴンを充填させたグローブボックス中で組み立てられる。セパレータ(Celgard2320)を、正極と、負極としてのリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中1MのLiPFを電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次に、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0141】
b)試験方法1
方法1は、従来の「一定のカットオフ電圧」試験である。本発明における従来のコインセル試験は、表1に示した手順に従う。各セルを、Toscat3100コンピュータ制御ガルバノスタットサイクリングステーション(galvanostatic cycling station)(東洋製)を用いて、25℃においてサイクルする。本コインセル試験手順は、160mA/gの1C電流定義を使用し、かつ以下のように2つの部分で構成される。
【0142】
パートIは、4.3~3.0V/Li金属のウインドウ範囲における0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cでのレート性能評価である。初期電荷容量(CQ1)及び放電容量(DQ1)が定電流モード(CC)で測定される第1のサイクルを除いて、全ての後続サイクルは、0.05Cの終了電流基準を有する充電の間、定電流-定電圧の特徴を示す。第1のサイクルに関する30分間、及び全ての後続サイクルに関する10分間の休止時間(rest time)が、各充電と放電との間で許容される。
【0143】
パートIIは、1Cのサイクル寿命の評価である。充電カットオフ電圧は、4.5V/Li金属として設定される。4.5V/Li金属の放電容量は、サイクル7及び34において0.1Cで測定され、また、サイクル8及び35において1Cで測定される。
【0144】
パートIIIは、4.5~3.0V/Li金属での、充電に対する1Cレート及び放電に対する1Cレートを使用した加速サイクル寿命実験である。容量減退は、以下のように計算される:
【数1】

【表1】
【0145】
c)試験方法2
異なるカソード材料の特定の容量が異なる場合、異なるカソード材料のサイクリング安定性を比較することは容易ではない。1つのサンプルが低い容量を有して良好に循環し、かつその他が高容量を有して循環が悪くなる場合、適正な比較を行うことは容易ではない。したがって、「試験方法2」は、一定の電荷容量プロトコルを使用する。試験方法2は、同一容量でのサイクル安定性を比較している。200mAh/gの一定の電荷容量を選択する。一般的に、可逆容量が失われるので、サイクリング中に減退が観察される。したがって、200mAh/gで固定された電荷容量を維持するために、充電電圧が持続的に増大する。充電終止電圧のモニタリングは、固定された充電電圧条件下でサイクリング中の減退率を数量化する、高感度の手法である。電圧の増大が速くなると、サイクル安定性が悪化する。
【0146】
4.7Vの最大電圧が、定義される。電解質の安定性が高電圧で劇的に低下するので、より高い電圧での試験では、感度はわずかである。したがって、電荷容量が4.7Vを超える場合、定電圧(V=4.7V)の試験タイプへと試験を切り替える。一定のQから一定のVへの転換サイクルは、サイクル数の関数として容量をグラフで計算する場合に、容易に検知される。これは、サイクル安定性の特性を決定するための良好な参照である。その後に転換が起こり、サイクル安定性がより良好となる。
【0147】
最終的に、「正規」(一定のV)試験の間、必ずしも第1のサイクルのように全容量が達成されるとは限らない。時々、最初の何回かのサイクルの間に、容量が増大する。この作用は、「負の減退」又は「活性化」と呼ばれている。このような作用を最小限に抑えるために、200mAh/gの固定電荷容量を適用する前に、低電圧で10サイクルを実施する。活性化の間の構造的損傷により引き起こされる容量損失を防止することが可能である故に、「穏やかな」試験条件である低電圧が選択される。したがって、200mAh/gの固定電荷容量を使用することで、次の「強すぎる」サイクルの間に容量減退が発生することを意図する。
【0148】
表2は、詳細な試験プロトコルを示す。本コインセル試験手順は、220mA/gの1C電流定義を使用し、かつ以下のように2つの部分で構成される。
【0149】
パートI(活性化)は、4.1~3.0V/Li金属窓範囲における0.5Cでの、第1から第10のサイクルまでのサイクル寿命の評価である。サイクルは、0.05Cの終電流基準を伴う充電の間の、定電流-低電圧を特徴とする。全てのサイクルに関して、各充放電の間に20分間の休止時間を設けることが許容される。
【0150】
パートII(一定のQサイクリング)は、固定電荷容量(Q)下での、サイクル寿命の評価である。本パートにおける第1のサイクルに関して、電荷容量及び放電容量は、4.3V~3.0/Liの金属窓範囲において0.2Cで測定される。次の9サイクルの間に、試験を実施して、固定電荷容量を達成する。充電時間は、200mAh/gの電荷容量が得られる場合に限定される。一定の容量を獲得するために、充電終止電圧を増大させる。また、電荷容量が4.7Vを超える場合、定電圧(V=4.7V)の試験タイプへと試験を切り替える。本手順を4回繰り返す。最終的に、1サイクルを0.2Cで更に測定する。
【0151】
以下のとおり計算された勾配(S)により、サイクル安定性を測定する。
【数2】

式中、Nは、4.7Vに到達するまでのサイクル数(14サイクル後)であるか、又はNは、サイクル51で4.7Vの電圧に到達していない場合に37である。より低い勾配Sでは、より安定したサイクリング材料が観察される。
【表2】
【0152】
d)試験方法3
「試験方法3」は、蓄電特性の試験である。本試験では、高温での蓄電前後の容量を測定する。上述のようにコインセルを調製する。容量を、4.3~3.0V/Liの金属窓範囲において、0.1Cで測定する。表3は、適用した試験手順の詳細についてまとめている。
【表3】
【0153】
第1のサイクルにおける放電容量DQ1’を基準値として使用し、蓄電特性を評価する。第2のサイクル充電を行い、蓄電の準備を行う。190mAh/gまでコインセルを充電した後、コインセルを分解する。電極が「湿って」いるために、DMCで洗浄することにより過剰な電解質を取り除き、かつ電極をAIパウチバッグ内で密封する。これらのパウチバッグを、80℃で2週間保存する。蓄電後、これらの電極及び新鮮な電解質を用いて新しいコインセルを組み立てる。電池の循環装置内に挿入させた後、事後サイクリング工程を適用して残存容量を測定する。表4は、適用した事後試験手順の詳細についてまとめている。ここで、保持容量(DQ2’’)=第2サイクルでの放電容量、を選択して、蓄電特性を評価する。蓄電期間の前後の放電容量の変化により、特性を決定する。回復容量(R.Q)は、以下のように計算される。
【数3】

【表4】
【0154】
B)炭素分析
カソード材料の炭素含有量を、EMIA-320V炭素/イオウ分析器により測定する。1gのカソード材料を、高周波誘導電気炉内のセラミック坩堝の中に配置する。1.5gのタングステン及び0.3gのスズを、促進剤として坩堝の中へ加える。プログラム可能な温度で、材料を加熱する。燃焼の間に生成したガスを、次に、4つの赤外線検出器により分析する。CO含有量及びCO含有量の分析により、炭素濃度を測定する。
【0155】
C)示差走査熱量計(DSC)分析
コインセル電極を、前述したように調製した。約3.3mgの活性材料を含有する小型電極を押し込んで、コインセルに組み立てる。C/24レートを使用してセルを4.3Vまで充電し、続いて少なくとも1時間定電圧充電する。コインセルの分解後、ジメチルカーボネート(DMC)を用いて電極を繰り返し洗浄して、残留する電解質を除去する。DMCの蒸発後、電極をステンレス鋼の缶内へと埋めて、かつ約1.3mgの電解質を加え、続いてセルを密封して閉じる(圧着)。電解質は、上記のコインセルの調製に使用されるものと同一である。TAインストルメントDSC Q10装置を使用して、DSC測定を実施する。5℃/分の加熱速度を使用して、50~350℃でDSCスキャンを実施する。DSCセル及び圧縮装置もまた、TAにより供給された。100~320℃の基準以上のピーク面積を積分することにより、発熱容量を推定する。
【0156】
D)フルセル試験
a)フルセル電極の調製1
650mAhのパウチ型セルを次のように調製する。カソード材料、Super-P(Timcalから市販されているSuper-PTM Li)、正極導電剤としてグラファイト(Timcalから市販されているKS-6)、及び正極結合剤としてポリフッ化ビニリデン(Kurehaから市販されているPVDF 1710)を分散媒としてN-メチル2-ピロリドン(NMP)に加え、これにより、正極活性材料粉末、正極導電剤super-P及びグラファイト、並びに正極結合剤の質量比が92/3/1/4となるようにした。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅は43mmであり、長さは447mmである。典型的なカソード活性材料の充填量は、11.5±0.2mg/cmである。次に、電極を乾燥させて、120kgf(1176.8N)の圧力を使用してカレンダ加工する。典型的な電極密度は、3.3±0.05g/cm3である。また、正極の端部には、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0157】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、カルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)との質量比96/2/2の混合物を、銅箔の両面に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は8.0±0.2mg/cmである。
【0158】
b)フルセル電極の調製2
200mAhのパウチ型セルを次のように調製する。カソード材料、Super-P(Timcalから市販されているSuper-PTM Li)、正極導電剤としてグラファイト(Timcalから市販されているKS-6)、及び正極結合剤としてポリフッ化ビニリデン(Kurehaから市販されているPVDF 1710)を分散媒としてN-メチル2-ピロリドン(NMP)に加え、これにより、正極活性材料粉末、正極導電剤super-P及びグラファイト、並びに正極結合剤の質量比が92/3/1/4となるようにした。その後、混合物を混練して正極混合スラリーを調製する。次いで、得られた正極混合スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に適用する。適用領域の幅は26mmであり、長さは207mmである。典型的なカソード活性材料の充填量は、11.0±0.2mg/cmである。次に、電極を乾燥させて、120kgf(1176.8N)の圧力を使用してカレンダ加工する。典型的な電極密度は、3.3±0.05g/cmである。また、正極の端部には、正極集電体タブとして機能するアルミニウム板がアーク溶接されている。
【0159】
市販の負極が用いられる。要するに、グラファイト、カルボキシ-メチル-セルロース-ナトリウム(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)との質量比96/2/2の混合物を、銅箔の両面に適用する。負極の端部には、負極集電体タブとして機能するニッケル板をアーク溶接する。負極活物質の典型的な充填重量は10.0±0.2mg/cmである。
【0160】
c)フルセルアセンブリ
螺旋状に巻かれた電極アセンブリを得るために、正極シート、及び負極シート、並びにそれらの間に差し込まれた、厚さ20μmの微多孔性ポリマーフィルム(Celgardから市販のCelgard(登録商標)2320)から作られたセパレータシートを、巻線コアロッドを用いて螺旋状に巻いた。アセンブリ及び電解質は、次に、-50℃の露点を有する風乾室内でアルミニウム積層されたパウチ内に入れられ、これにより、平坦なパウチ型のリチウム二次電池が調製される。二次電池の設計容量は、4.20Vまで充電する場合に650又は200mAhである。
【0161】
フルセルアセンブリについて、3種類の電解質を使用する。
【0162】
1:1:1の体積比のエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒中に1.2モル/Lの濃度でリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)塩を溶解させることにより、第1の電解質を得る。更に、上記の混合物の総重量の1重量%のビニレン基カーボネート(VC)、1重量%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)、0.5重量%のリチウムビス(オキザレート)ボレート(LiBOB)、及び0.5重量%の1,3-プロペンスルトン(PRS)を、添加剤として加える。調製した電解質を、EL1と名付ける。
【0163】
75:4:21の質量比の2,2-ジフルオロエチルアセテート(DFEA、Solvay)、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC、Enchem)、プロピレンカーボネート(PC、Enchem)を組み合わせることにより、第2の電解質を調製する。85.78gのこの混合物を、11.37gのLiPF、0.85gのLiBOB、1.50gの1,3,2-ジオキサチオラン2,2-ジオキシド(ESa、Enchem)、及び0.50gの無水マレイン酸(MA、Enchem)と組み合わせる。調製した電解質を、EL2と名付ける。
【0164】
1:1:1の体積比のEC、DEC、及びEMCの混合溶媒中に1.2モル/Lの濃度のLiPF塩を溶解させることにより、第3の電解質を調製する。更に、上記の混合物の総重量の1.5重量%のビニルエチレンカーボネート(VEC)、1.5重量%のビニレン基カーボネート(VC)、及び1%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)が、添加物として含まれる。調製した電解質を、EL3と名付ける。
【0165】
非水電解液を、室温で8時間含浸させる。電池は、その理論容量の15%で予備充電し、室温で1日エージングする。次に電池を脱気させて、アルミニウムパウチを密閉する。電池は、次のように使用するために調製する。電池は、最大4.2又は4.35VのCCモード(定電流)で0.25Cの電流(1C=650又は200mAhを有する)を使用し、次に、C/20のカットオフ電流に到達するまでCVモード(定電圧)を使用して充電し、その後に、0.5CレートのCCモードで2.7又は3.0Vのカットオフ電圧に下がるまで放電する。次に、電池は、CCモード(定電流)で0.5Cの電流を使用して4.2又は4.35Vまで、次に、C/20のカットオフ電流に到達するまで充電CVモードを使用して充電する。
【0166】
D1)フルセル試験方法1
下記条件下において45℃で、調製したフルセル電池を充電し、かつ数回放電して、それらの充電-放電サイクルの性能を測定する。
-1CレートにおいてCCモードで4.2Vまで、次にC/20に到達するまでCVモードで充電を行う。
-次に、セルを10分間休止設定する。
-1CレートにおいてCCモードで2.7Vに下がるまで放電を行う。
-次に、セルを10分間休止設定する。
-電池が約80%の保持容量に到達するまで充電-放電サイクルを続ける。100サイクル毎に1回、0.2CレートにおいてCCモードで2.7Vに下がるまで放電を行う。
【0167】
80%の回復容量でのサイクル数(80%のR.Qでのサイクル#)を得て、サイクルにおける放電容量が初期放電容量の80%に達したときのサイクル数を数える。1000サイクル以内で放電容量が初期放電容量の80%に到達しない場合、放電容量が線形に減少し続けると想定される最新の50サイクルを使用して、80%のR.Q.でのサイクル#を外挿する。
【0168】
D2)フルセル試験方法2
下記条件下において25℃で、調製したフルセルを充電し、かつ数回放電して、それらの充電-放電サイクルの性能を測定する。
-1CレートにおいてCCモードで4.35Vまで、次にC/20に到達するまでCVモードで充電を行う。
-次に、セルを10分間休止設定する。
-1CレートにおいてCCモードで3.0Vに下がるまで放電を行う。
-次に、セルを10分間休止設定する。
-電池が約80%の保持容量に到達するまで充電-放電サイクルを続ける。
【0169】
80%の回復容量でのサイクル数(80%のR.Qでのサイクル#)を得て、サイクルにおける放電容量が初期放電容量の80%に達したときのサイクル数を数える。1000サイクル以内で放電容量が初期放電容量の80%に到達しない場合、放電容量が線形に減少し続けると想定される最新の50サイクルを使用して、80%のR.Q.でのサイクル#を外挿する。
【0170】
内部抵抗又は直流抵抗(Direct Current Resistance)(DCR)は、バッテリーに好適なパルス試験を行うことにより測定される。DCRの測定については、例えば、「Appendix I page 2 of the USABC Electric Vehicle Battery Test Procedures」に記載されており、http://www.uscar.orgで見ることができる。USABCとは、「US advancedbattery consortium」の略であり、USCARとは、「United States Council for Automotive Research」の略である。
【0171】
500サイクル後のDCRの増加は、以下のように得られる。
【数4】
【0172】
D3)フルセル試験方法3
試験は、方法D2)と同じ方法であるが、45℃で行う。
【0173】
D4)膨張試験
上記の調製方法によって調製した650又は200mAhのポーチ型電池を、4.35Vまで完全に充電し、オーブンに入れて90℃まで加熱し、4時間そこに保管する。充電されたカソードは、90℃で電解質と反応しガスを発生する。発生したガスが、膨張を生じさせる。4時間後に、厚さ又は膨張率((保管後の厚さ-保管前の厚さ))/保管前の厚)の増加を測定する。
【0174】
製造実施例
以下の説明は、再焼結プロセスを通しての高Ni-超過NMC粉末の製造手順の実施例を提供し、これは前述のように、通常はLiCO又はLiOH・HOであるリチウム源と、通常は混合遷移金属水酸化物M’(OH)又はオキシ水酸化物M’OOH(M’=Ni、Mn、及びCOを伴う)であるがこれらの水酸化物に限定されない混合遷移金属源との間の、固体状態反応である。再焼結プロセスとしては、とりわけその他の2つの焼結工程が挙げられる。
1)第1のブレンド:リチウムが欠損した焼結前駆体、リチウム及び混合遷移金属源を、Henschel Mixer(登録商標)において30分間、均質にブレンドする。
2)第1の焼結:第1のブレンド工程からのブレンドを、700~950℃で5~30時間、炉内における酸素を含有した環境下で焼結する。第1の焼結後に焼結ケークを粉砕し、第2のブレンド工程のために準備ができた状態となるように分類してふるいにかける。本工程から得られた生成物は、リチウムが欠損した焼結前駆体であり、LiM’OにおけるLi/M’の化学量論比が1未満であることを意味する。
3)第2のブレンド:リチウムが欠損した焼結前駆体を、Li化学量論を補正するためにLiOH・HOとブレンドする。ブレンドを、Henschel Mixer(登録商標)において30分間実施する。
4)第2の焼結:第2のブレンド工程からのブレンドを、800~950℃の範囲内で5~30時間、炉内における酸素を含有した環境下で焼結する。
5)後処理工程:第2の焼結後に、焼結ケークを粉砕し、非アグロメレート化NMC粉末を得るために、分類してふるいにかける。
【実施例1】
【0175】
前述の「製造実施例」に従って、サンプルEX1.1を調製する。ニッケル-マンガン-コバルトの混合水酸化物(M’(OH))は、前駆体として使用され、M’(OH)は、大型の連続持続的撹拌槽型反応器(CSTR)において、ニッケル-マンガン-コバルトの混合サルフェート、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて共沈プロセスにより調製される。第1のブレンド工程では、Li/M’比率が0.85である5.5kgのM’(OH)(M’=Ni0.625Mn0.175Co0.20(Ni-超過=0.45)である)及びLiOH・HOの混合物を調製する。チャンバ炉内の酸素環境下で、800℃において10時間、第1のブレンドを焼結する。Li/M’が1.01である50gの第2のブレンドを調製するために、得られたリチウム欠乏性焼結前駆体をLiOH・HOとブレンドする。チャンバ炉内の乾燥空気環境下で、840℃において10時間、第2のブレンドを焼結する。上記の調製したEX1.1は、式Li1.005M’0.995(Li/M’=1.01)を有する。
【0176】
式Li0.975M’1.025(Li/M’=0.95)を有するEX1.2を、第1及び第2の焼結温度がそれぞれ720℃及び845℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0177】
式Li1.015M’0.985(Li/M’=1.03)を有するEX1.3を、第2の焼結温度が835℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0178】
式Li1.024M’0.976(Li/M’=1.05)を有するEX1.4を、第2の焼結温度が835℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0179】
リチウムイオン電池用の正極として実施例を評価するために、前述の「コインセル調製」によりコインセルを調製する。前述の「試験方法1」により、実施例の、従来のコインセル試験を実施する。初期放電容量(DQ1)を、4.3~3.0V/Li金属窓範囲において、0.1Cで測定する。充電及び放電に関して、容量減退(1C/1C QFad.)を、4.5~3.0V/Liの金属において、1Cで測定する。一定の充電状態において実施例のサイクル安定性を調査するために、前述の「試験方法2」によりコインセルを評価し、かつ200mAh/gの一定の電荷容量を使用する。転換点までサイクル数の関数として充電終止電圧を使用して、サイクルの安定性を意味する勾配(複数)を評価する。前述の「試験方法3」により、80℃において2週間、実施例の蓄電特性を推定する。蓄電特性を示す回復容量(R.Q)を、蓄電前(DQ1’)及び蓄電後(DQ2’’)の容量の変化を観察することにより評価する。
【0180】
前述の「炭素分析」により、サンプルの炭素含有量を測定する。50~350℃においてサンプルが燃焼する間に発生したガス(CO及びCO)を検出することにより、炭素濃度を測定する。前述の「DSC分析」により、実施例の熱安定性を調査する。DSCの結果における100~320℃の基準以上のピーク面積の総和を示すことにより、発熱容量を推定する。
【0181】
EX1.1~EX1.4の初期放電容量、容量減退、勾配、回復容量、炭素含有量、及び発熱容量を、表5に示す。
【0182】
比較実施例1
式Li1.034M’0.966(Li/M’=1.07)を有するサンプルCEX1を、第1及び第2の焼結温度がそれぞれ720℃及び830℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0183】
比較実施例2
組成物Li1.005M’0.995(Li/M’=1.01)を有するサンプルCEX2を、M’(OH)中のM’がNi0.65Mn0.10Co0.25(Ni-超過=0.55)であり、第2の焼結温度が800℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って得る。
【0184】
比較実施例3
組成物Li1.005M’0.995(Li/M’=1.01)を有するCEX3を、M’(OH)中のM’がNi0.65Mn0.175Co0.175(Ni-超過=0.48)であり、第2の焼結温度が825℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0185】
比較実施例4
組成物Li1.005M’0.995(Li/M’=1.01)を有するCEX4を、M’(OH)中のM’がNi0.6Mn0.2Co0.2(Ni-超過=0.4)であり、第2の焼結温度が860℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って調製する。
【0186】
比較実施例5
組成物LiM’O(Li/M’=1.00)を有するCEX5を、前駆体として使用されるM’(OH)中のM’がNi0.68Mn0.12Co0.2(Ni-超過=0.56)であり、第2の焼結温度が820℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って得る。
【0187】
比較実施例6
式Li0.995M’1.005(Li/M’=0.99)を有するCEX6を、M’(OH)中のM’がNi0.7Mn0.15Co0.15(Ni-超過=0.55)であり、第2の焼結温度が830℃であることを除いて、EX1.1と同じ方法に従って得る。
【0188】
比較実施例CEX1~6の初期放電容量及び容量減退を、EX1と同じ方法に従って測定する。80℃において2週間でのサイクル安定性、蓄電特性、及び炭素含有量を意味する実施例の勾配もまた、同様である。初期放電容量、容量減退、勾配、回復容量、及び炭素含有量を、表5に示す。
【実施例2】
【0189】
前述の「製造実施例」に従って、EX2.1を調製する。ニッケル-マンガン-コバルトの混合水酸化物(M’(OH))は、前駆体として使用され、M’(OH)は、大型の連続持続的撹拌槽型反応器(CSTR)において、ニッケル-マンガン-コバルトの混合サルフェート、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて共沈プロセスにより調製される。第1のブレンド工程では、Li/M’比率が0.8である5.5kgのM’(OH)(M’=Ni0.625Mn0.175Co0.20(Ni-超過=0.45)及びLiCOの混合物を調製する。チャンバ炉内の乾燥空気環境下で、885℃において10時間、第1のブレンドを焼結する。Li/M’が1.045である4.5kgの第2のブレンドを調製するために、得られたリチウム欠乏性焼結前駆体をLiOH・HOとブレンドする。チャンバ炉内の乾燥空気環境で、840℃において10時間、第2のブレンドを焼結する。上記の調製したEX2.1は、式Li1.022M’0.978(Li/M’=1.045)を有する。
【0190】
以下の手順により、アルミニウムでコーティングしたリチウム遷移金属酸化物であるEX2.2を調製する。1.3kgのEX2.1を、0.26gの酸化アルミニウムとブレンドする。チャンバ炉内において、750℃で7時間、ブレンドを加熱する。加熱した、アルミニウムでコーティングしたリチウム遷移金属酸化物を、270メッシュ(ASTM)のふるいでふるいにかける。
【0191】
以下のプロセスにより、二次位相としてLiNaSOを含有する、アルミニウムでコーティングしたリチウム遷移金属酸化物EX2.3を調製する。4.0kgのEX2.1を、8.0gの酸化アルミニウムとブレンドして、第1のブレンドを調製する。高RPMブレンダによって、第1のブレンドをNa溶液(140mlの水中に48gのNa粉末)とブレンドして、第2のブレンドを調製する。第2のブレンドを、375℃で6時間加熱する。加熱した、二次位相としてLiNaSOを含有する、アルミニウムでコーティングしたリチウム遷移金属酸化物を、270メッシュ(ASTM)のふるいでふるいにかける。
【0192】
EX2.1、EX2.2、及びEX2.3の初期容量及び容量減退を、EX1と同じ方法に従って測定し、かつ表5に示す。EX2.1、EX2.2、及びEX2.3のフルセル試験のために、上述の「フルセル電極の調製1」を使用して陽極を調製する。650mAhのパウチ型電池であるEX2.1-FC、EX2.2-FC、及びEX2.3-FCを、調製した陽極及び電解質としてのEL1を使用して、「フルセルアセンブリ」に記載した方法により調製する。フルセル試験は、上述した「フルセル試験方法D1)」に従って実施し、表6に与えられる回復容量の80%でサイクル数を得る。
【0193】
比較実施例7
前述の「製造実施例」に従って、EX7.1を調製する。ニッケル-マンガン-コバルトの混合水酸化物(M’(OH))は、前駆体として使用され、M’(OH)は、大型の連続持続的撹拌槽型反応器(CSTR)において、ニッケル-マンガン-コバルトの混合サルフェート、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて共沈プロセスにより調製される。第1のブレンド工程では、Li/M’比率が0.85である5.5kgのM’(OH)(M’=Ni0.6Mn0.2Co0.2(Ni-超過=0.40)及びLiCOの混合物を調製する。チャンバ炉内の乾燥空気環境下で、900℃で10時間、第1のブレンドを焼結する。Li/M’が1.055である3.0kgの第2のブレンドを調製するために、得られたリチウム欠乏性焼結前駆体をLiOH・HOとブレンドする。チャンバ炉内の乾燥空気環境下で、855℃で10時間、第2のブレンドを焼結する。上記の調製したCEX7.1は、式Li1.027M’0.973(Li/M’=1.055)を有する。
【0194】
以下の手順により、アルミニウムでコーティングしたリチウム遷移金属酸化物であるCEX7.2を調製する。1.3kgのEX7.1を、0.26gの酸化アルミニウムとブレンドする。チャンバ炉内において、750℃で5時間、ブレンドを加熱する。加熱した、アルミニウムでコーティングしたリチウム遷移金属酸化物を、270メッシュ(ASTM)のふるいでふるいにかける。
【0195】
比較実施例8
前述の「製造実施例」に従って、CEX8を調製する。ニッケル-マンガン-コバルトの混合水酸化物(M’(OH))は、前駆体として使用され、M’(OH)は、大型の連続持続的撹拌槽型反応器(CSTR)において、ニッケル-マンガン-コバルトの混合サルフェート、水酸化ナトリウム及びアンモニアを用いて共沈プロセスにより調製される。第1のブレンド工程では、Li/M’比率が0.85である5.5kgのM’(OH)(M’=Ni0.70Mn0.15Co0.15(Ni-超過=0.55)である)及びLiOH・HOの混合物を調製する。RHK(roller hearth kiln、ローラハースキルン)内の酸素環境下で、800℃で10時間、第1のブレンドを焼結する。Li/M’が0.99である3.0kgの第2のブレンドを調製するために、得られたリチウム欠乏性焼結前駆体をLiOH・HOとブレンドする。チャンバ炉内の酸素環境下で、830℃で10時間、第2のブレンドを焼結する。上記の調製したCEX8は、式Li0.995M’1.005(Li/M’=0.99)を有する。
【0196】
CEX7.1、CEX7.2、及びCEX8の初期容量及び容量減退を、EX1と同じ方法に従って測定し、かつ表5に示す。CEX7.1、CEX7.2、及びCEX8のフルセル試験のために、上述の「フルセル電極の調製1」を使用して陽極を調製する。650mAhのパウチ型電池であるCEX7.1-FC、CEX7.2-FC、及びCEX8-FCを、調製した陽極及び電解質としてのEL1を使用して、「フルセルアセンブリ」に記載した方法により調製する。フルセル試験は、上述した「フルセル試験方法D1)」に従って実施し、表6及び図9に与えられる回復容量の80%でサイクル数を得る。
【実施例3】
【0197】
実施例2.3と全く同じ手法で、前述の「製造実施例」に従って、工業規模の製品であるEX3を調製する。方法「フルセル電極調製2」及びEX3を使用して、陽極を調製する。
【0198】
200mAhのパウチ型電池であるEX3-FC1を、調製した陽極及び電解質としてのEL2を使用して、「フルセルアセンブリ」に記載した調製方法により調製する。
【0199】
200mAhのパウチ型電池であるEX3-FC2を、調製した陽極及び電解質としてのEL3を使用して、「フルセルアセンブリ」に記載した調製方法により調製する。
【0200】
比較実施例9
比較実施例7.2と同じ方法により、工業規模の製品であるCEX9を調製する。
【0201】
方法「フルセル電極調製1」及びCEX9を使用して、陽極を調製する。650mAhのパウチ型電池であるCEX9-FC1を、調製した陽極及び電解質としてのEL2を使用して、「フルセルアセンブリ」に記載した調製方法により調製する。650mAhのパウチ型電池であるCEX9-FC2を、調製した陽極材料及び電解質としてのEL3を使用して、「フルセルアセンブリ」に記載した調製方法により調製する。
【0202】
EX3-FC1、EX3-FC2、CEX9-FC1、及びCEX9-FC2の試験を、前述のフルセル試験方法(D2及びD3)及び膨張試験(D4)に従って実施する。
【0203】
結果を表7にまとめる。
【表5】

【表6】
【0204】
表5に示すように、より高いCo含有量及びより低いCo含有量を用いた実施例と、EX1.1とを比較する。第1に、例えばCEX2に関してなどのCo含有量がより高い場合、その低いMn含有量故にサイクル安定性が減少する。逆に、例えばCEX3に関してなどのCo含有量がより低い場合、サイクル中の構造的安定性は低下する。CEX3は0.48の高いNi-超過を有するにもかかわらず、低い放電容量及び不十分なサイクル安定性を有して一定の電荷容量を持続する。
【0205】
次に、低いNi-超過及び高いNi-超過を用いた実施例と、EX1.1とを比較する。CEX4に関してなどのNi-超過がより低い場合、一定電圧における容量はより低い。追加的に、高い電荷容量(200mAh/g)を達成するためにより高い充電電圧が適用され、不十分なサイクル安定性という結果をもたらす。逆に、CEX5及びCEX6などのNi-超過がより高い場合、それらはより高い放電容量を有する。したがって、高い電荷容量を得るために、より低い充電電圧が適用される。しかし、安全性は依然として低下し、かつサイクル安定性はEX1.1と比較してより低い。なお、より高いNi-超過NMC化合物(CEX5)は不十分な熱安定性を示す。
【0206】
更により高いモル比及びより低いモル比のNi/Mnを用いた実施例と、EX1.1とを比較する。表5に示すように、CEX2に関してなどのNi/Mn比率が高すぎる場合、放電容量は高いが、サイクル安定性は低下する。逆に、CEX4などのNi/Mn比率が低すぎる場合、高電圧にもかかわらず放電容量は低い。したがって、EX1.1などの3.15~4.25のNi/Mnを伴うNMC化合物は、より高い容量及びより良好なサイクル安定性を示す。
【0207】
図3は、「試験方法1」により測定された実施例の放電容量を示す。DQ1の値は、市販のソフトウェアOrigin9.1-等高線図を使用して、異なる領域で次第に変化させることにより示される。本図では、x-軸はNMC化合物におけるNi-超過(z)に関し、またy-軸はNMC化合物におけるCo/M’(モル/モル%)に関する。Ni-超過が増大するので、容量もまた増大する。約180mAh/gを超える放電容量を有するNMC化合物は、高い容量を伴う組成物に対応する。Co/M’=20モル/モル%で最適な容量が観察され、より少ないNi-超過でより高い容量が達成される。
【0208】
次に、図4は、「試験方法1」により測定された実施例の容量減退率を示す。100サイクル当たりの%での1C/1C QFad.の値は、市販のソフトウェアOrigin9.1-等高線図を使用して、異なる領域で次第に変化させることにより示される。本図では、x-軸はサンプルにおけるNi-超過(z)に関し、またy-軸はサンプルにおけるCo/M’含有量(モル/モル%)に関する。約20モル%未満の容量減退を有するサンプルは、向上したサイクル寿命を伴う組成物を有する。特定の最適なCo組成物が観察される。Ni-超過の増大を伴い、約20モル/モル%Co/M’でより良好なサイクル安定性が観察される。
【0209】
なお、図5a、5b(図5aの上部左側角部の分解図)及び6は、「試験方法2」により測定された実施例の勾配を示す。図5a及び5bでは、x-軸はサイクル数を所与し、また左及び右のy-軸はそれぞれ放電容量及び実際のカットオフ充電電圧に関する。これらの図では、「試験方法2」における次式に従って、勾配値(mV/サイクル)を計算した。例えば、EX1.1はサイクル14で4.6317Vを有し、かつそのサイクル数(N)は4.7Vに到達するまで23である。EX1.1のサイクル安定性は、以下のとおり計算される勾配(S)により、測定される。
【数5】
【0210】
なお、CEX3はサイクル14で4.6045Vを有し、かつそのサイクル数は4.7Vに到達するまで19である。CEX3の勾配は以下のように計算される。
【数6】
【0211】
図6では、勾配値(mV/サイクル)は、市販のソフトウェアOrigin9.1-等高線図を使用して、異なる領域で次第に変化させることにより示される。本図では、x-軸はサンプルにおけるNi-超過(z)に関し、またy-軸はサンプルにおけるCo/M’含有量(モル/モル%)に関する。図に示すように、約16mV未満の勾配を有するサンプルは、高度のサイクル安定性を伴う組成物を有する。Ni-超過が0.42未満でかつCoが0.18未満又は0.22を超えて勾配が高すぎる場合、Ni-超過が減少するので、勾配がより好ましくなくなることが観察される。
【0212】
更に、図7は、「試験方法3」により測定された実施例の回復容量を示す。%でのR.Q.の値は、市販のソフトウェアOrigin9.1-等高線図を使用して、異なる領域で次第に変化させることにより示される。本図では、x-軸はNi-超過(z)に関し、またy-軸はCo/M’含有量(モル/モル%)に関する。約70%を超える回復容量を有するサンプルは、高温で良好な蓄電特性を有する組成物を有する。
【0213】
上記の全ての基準が本組成物により満たされるので、最適化された組成物の最良のものは、20モル/モル%のCo/M’含有量を有するz=0.45のサンプルであることが、図3~7から推論することができる。
【0214】
図8は、EX1.1、CEX4、及びCEX5のDSCスペクトルを示す。本図では、x軸は温度(℃)に関し、またy軸は熱流(W/g)に関する。約180℃から開始して最大約250℃~264℃に到達する主な発熱ピークは、酸素放出及び酸素によるその後の電解質の燃焼を伴う脱リチウム化カソードの構造変化からもたらされる。特に、NMCにおけるNi含有量が増大するので、主な発熱ピークの温度が持続的に低下し、かつ放出される発熱が持続的に増大するが、これは不十分な安全性を示している。Ni-超過(0.56)を伴うCEX5は、その他の実施例よりもより低い発熱ピーク温度及びより高い発熱反応エンタルピーを有する。これらのサンプルは、Ni-超過が増大するので、充電カソード材料の熱安定性が著しく低下することを示す。したがって、増大した容量は、サイクル安定性を低下させるだけでなく、安全性をも低下させる。したがって、これらの実施例から、EX1.1は、増強されたセル性能及び高い熱安定性を伴う最適化された組成物を有する。
【0215】
実施例1のサンプルの電気化学的特性を更に確認するために、種々のLi/M’比率を有するNMCのサンプルは、「試験方法1」及び「炭素分析」により調査される。表5に記載されているように、CEX1などのLi/M’比率が高すぎる場合、混合遷移金属源とリチウム源との間の反応が終了せず、また未反応の溶融したリチウム源という結果をもたらす。したがって、残留するリチウムは、最終NMC生成物中に大量の炭素の存在を引き起こし、かつ低い放電容量という結果をもたらす。
【0216】
他方では、Li/M’比率が低すぎる場合、即ち0.95未満である場合、結晶構造内のリチウムの化学量論は所望のもの未満である。XRD回折データ(図示せず)は、Li/M′の結果としてより多くの遷移金属がリチウム部位上に位置し、これによりLiの拡散通路を遮断するという推論を可能にする。これは、不十分なサイクル寿命と同様に、より低い可逆容量を引き起こす。したがって、0.95~1.05のLi/M’を伴うEX1におけるサンプルは、高容量、良好なサイクル安定性及び高い熱安定性などの、高度の電気化学的性能を伴う特定の組成物を有する。
【0217】
EX2.1、CEX7.1、7.2、及びCEX8を、工業生成物と適合するプロセスを使用した規模で調製する。試験方法1によるコインセル試験及び完全なフルセル試験(図9を参照)の結果は、最適化されたNMC組成物の中でも最良である0.45のNi-超過に関する上記の推論が、工業生成物において依然として有効であることを示す。図9及び表6は、アルミニウムコーティングなどの表面改質技術により電気化学的性能が更に向上され得ることを示す電気化学的特性を、EX2.2-FC及びEX2.3-FCが有することを更に示す。
【0218】
図10は、コインセル試験方法1からの容量減退(1C/1C QFad.)とフルセルサイクルの寿命との間の相関を示す。x-軸は、コインセル試験方法1からの%/100サイクルにおける容量減退(1C/1C QFad.)であり、またy-軸は、80%の初期フルセル放電容量でのサイクル数である。これは、コインセル試験方法1からもたらされる結果が、実際の電池の電気化学的特性を表すことができるということを示している。
【表7】
【0219】
表7は、25℃及び45℃のサイクル寿命に関して最良の性能が、EX3-FC1であるEX3及びEL2の組み合わせに関して得られることを示す。これらのデータは、CEX9-FC1と比較してEX3-FC1が向上していること、並びにEL3と比較してEL2が向上していることを示す。それでもなお、実際に、EX3とEL2との組み合わせが、最も高い性能レベルに到達することを可能にする。この相乗効果はまた、表7において、非常に高い温度でのDC抵抗及び膨張比の純減少によっても明らかに顕著である。これらの値が、EX3と組み合わせたEL2に関してEL2+CEX9よりも更に低いという事実は、電解質組成物及びカソード材料を構成する分子間に相乗効果が必要であることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10