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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、缶用部材、及び缶
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20230222BHJP
   C09D 151/08 20060101ALI20230222BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20230222BHJP
   B65D 1/16 20060101ALI20230222BHJP
   B65D 25/34 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D151/08
C08G59/14
B65D1/16 111
B65D25/34 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018220430
(22)【出願日】2018-11-26
(65)【公開番号】P2019183107
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018077723
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔矢
(72)【発明者】
【氏名】戸部 暁文
(72)【発明者】
【氏名】深山 航
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-247818(JP,A)
【文献】特開2001-089699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0013289(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00508120(EP,A1)
【文献】特表2009-538762(JP,A)
【文献】特開平09-100440(JP,A)
【文献】特表平01-501482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08G 59/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合樹脂(C)、および水を含有する、水性塗料組成物であって、
前記複合樹脂(C)が、エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリレート系共重合体(B)部とを有し、
前記エポキシ樹脂(A)部を構成するエポキシ樹脂(A)が、ビスフェノール骨格及びビフェノール骨格のいずれも有さないエポキシ化合物中のエポキシ基と、カルボキシル基を有するポリエステルのカルボキシル基との反応生成物であって、エポキシ基を有する反応生成物であって、
前記エポキシ化合物が、
環状炭化水素単位、およびエポキシ基以外の複素環単位からなる群より選ばれる単位と、
2個のグリシジル基と、を有するエポキシ化合物であり、
環状炭化水素単位を有するエポキシ化合物が、ベンゼンジオール系ジグリシジルエーテルである、
水性塗料組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が200以上、200,000以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記複合樹脂(C)が、前記エポキシ樹脂(A)部の少なくとも一方の末端に、前記アクリレート系共重合体(B)部を有する複合樹脂である、請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記複合樹脂(C)が、前記エポキシ樹脂(A)部の側鎖に前記アクリレート系共重合体(B)部を有するグラフト型ポリマーである、請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
缶用基材表面に、請求項1乃至のいずれか一項に記載の水性塗料組成物の塗膜を有する、缶用部材。
【請求項6】
缶を構成する複数の缶用部材のうち、少なくとも一部に請求項に記載の缶用部材を用いてなる缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は水性塗料組成物、缶用部材、及び缶に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶には、ブリキ、ティンフリースチール、アルミ等の金属素材が内容物に直接接触し腐食するのを防ぐために、通常、薄い合成樹脂保護被膜が施されている。内面被覆用の水性塗料組成物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアクリル系樹脂とが部分的に結合した状態にある、いわゆる自己乳化性ビスフェノール型エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを水性媒体中に溶解ないし分散させた塗料組成物が知られている。
【0003】
ここで缶の内面を被覆する塗料には、内容物の風味を損なわない耐フレーバー性、耐腐食性、耐レトルト性などの他、缶部材成型時の加工を可能とする、加工性に優れる塗膜を形成できることが求められている。
特許文献1には、自己乳化性のビスフェノール型エポキシ樹脂(A)部およびフェノール樹脂(D)をアミンもしくはアンモニア存在下に水性媒体中に分散して含む水性塗料組成物が開示されている。特許文献1によれば、当該水性塗料組成物の塗膜は、アルコール飲料中のフレーバー香気成分が吸着し難く、亜硫酸塩を含むアルコール飲料に対する耐蝕性に優れ、加工性に優れた塗膜を形成し得るとされている。
【0004】
一方、缶用塗料として、ビスフェノールA(BPA)型エポキシ樹脂を含まない水性塗料組成物が検討されている。
ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いない手法として、例えば特許文献2には、エチレン性不飽和結合を含有するポリエステル樹脂に、カルボキシル基を含有する特定の不飽和モノマーをグラフト重合してなるアクリル変性ポリエステル樹脂を含有する特定の缶内面用水性被覆組成物が開示されている。
【0005】
また別の手法として、乳化重合法により合成したエマルション型アクリル樹脂を含む水性塗料組成物がある。一般に乳化重合法は、乳化剤として界面活性剤を使用するので、塗料から形成した塗膜中に残存する界面活性剤の影響により耐レトルト性が悪化し、塗膜の白化やブリスター(点状剥離)を生じる問題があった。例えば特許文献3では、界面活性剤を用いない特定のソープフリー型アクリル樹脂エマルションを含む製缶塗料用水性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-36964号公報
【文献】特開2002-302639号公報
【文献】特開2002-155234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の缶内面被覆組成物では、耐レトルト性が不十分であった。また、特許文献3などのようなエマルション型アクリル樹脂は、一般に、缶内容物中のフレーバー香気成分が塗膜に吸着され易いという問題があった。
【0008】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、BPAなどのビスフェノール骨格やビフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を原料として用いず、缶内容物中のフレーバー香気成分が吸着し難く、耐レトルト性に優れた塗膜を形成し得る水性塗料組成物、及び、当該水性塗料組成物の塗膜を有する被覆缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る水性塗料組成物の一実施形態は、複合樹脂(C)、および水を含有する、水性塗料組成物であって、
前記複合樹脂(C)が、エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリレート系共重合体(B)部とを有し、
前記エポキシ樹脂(A)部を構成するエポキシ樹脂(A)が、ビスフェノール骨格及びビフェノール骨格のいずれも有さないエポキシ化合物中のエポキシ基と、カルボキシル基を有するポリエステルのカルボキシル基との反応生成物であって、エポキシ基を有する反応生成物である。
【0010】
本開示に係る缶用部材の一実施形態は、缶用基材表面に、前記本開示の水性塗料組成物の塗膜を有する。
【0011】
本開示に係る缶の一実施形態は、缶を構成する複数の缶用部材のうち、少なくとも一部に前記本開示の缶用部材を用いてなる缶である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、BPAなどのビスフェノール骨格やビフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を使うことなく、缶内容物中のフレーバー香気成分が吸着し難く、耐レトルト性に優れた塗膜を形成し得る水性塗料組成物、及び、当該水性塗料組成物の塗膜を有する缶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、缶の一実施形態を示す模式図である。
図2図2は、加工性試験の試験片の作製方法の説明する模式図である。(a)は、テストパネル(試験片1)を折り曲げる前の模式図、(b)はテストパネル(試験片1)を折り曲げて試験片3を作製する模式図、(c)は試験片3におもりを落下させる方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の水性塗料組成物、及び缶について説明する。
なお、本開示において、モノマーは、エチレン性不飽和モノマーである。また、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸、及びメタクリル酸の各々を含み、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの各々を含む。
また、本開示において、(イソ)アルキルエーテルは、ノルマルアルキルエーテル(n-アルキルエーテル)、及び、イソアルキルエーテルの各々を含む(アルキルには、プロピル、ブチル等の具体的なアルキル基が入ることがある)。
また、本開示の塗膜は、水性塗料組成物を金属板等の基材に塗装して形成した被膜をいう。
本開示においてビスフェノール骨格とは、下記構造式(1)の骨格をいう。なお構造式(1)中のRは、各々独立に水素原子又は有機基である。また本開示においてビフェノール骨格とは、下記構造式(2)の骨格をいう。
【0015】
【化1】
【0016】
【化2】
【0017】
[水性塗料組成物]
本開示の水性塗料組成物は、複合樹脂(C)、および水を含有する、水性塗料組成物であって、
前記複合樹脂(C)が、エポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリレート系共重合体(B)部とを有し、
前記エポキシ樹脂(A)部を構成するエポキシ樹脂(A)が、ビスフェノール骨格及びビフェノール骨格のいずれも有さないエポキシ化合物中のエポキシ基と、カルボキシル基を有するポリエステルのカルボキシル基との反応生成物であって、エポキシ基を有する反応生成物である。
【0018】
複合樹脂(C)とは、単なる混合物ではなく、エポキシ樹脂(A)部の少なくとも一部と、アクリレート系共重合体(B)部の少なくとも一部とが、互いに結合している樹脂をいう。
詳細は後述するが、複合樹脂(C)は、アクリレート系共重合体(B)とエポキシ樹脂(A)とを反応させて両者の結合物を得ることもできるし、エポキシ樹脂(A)を、アクリレート系共重合体(B)部を形成するためのアクリレート系モノマーと反応させ、結果として、両者の結合物を得ることもできる。
【0019】
本開示の水性塗料組成物は、ポリエステル構造を含むエポキシ樹脂(A)部と、アクリレート系共重合体(B)部とを有する複合樹脂(C)を含むことにより、フレーバー香気成分が吸着し難く、耐レトルト性、加工性に優れた塗膜を形成し得る。
【0020】
<エポキシ樹脂(A)>
本開示においてエポキシ樹脂(A)は、ビスフェノール骨格も有さず、ビフェノール骨格も有さないエポキシ化合物とポリエステルとの反応生成物である。
【0021】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物とは、分子内に1つ以上のオキシラン環構造を有する化合物である。オキシラン環構造としては、グリシジル基が好ましい。本開示におけるエポキシ化合物は、ビスフェノール骨格およびビフェノール骨格のいずれも有さないエポキシ化合物である。以下、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ化合物と略すことがある。
このようなエポキシ化合物としては、鎖状炭化水素単位、オキシアルキレン単位、環状炭化水素単位、およびエポキシ基以外の複素環単位からなる群より選ばれる単位と、グリシジル基を2個以上有することが好ましい。加工性と耐水性に優れる塗膜を形成できる点から、環状炭化水素単位もしくはエポキシ基以外の複素環単位と、1分子中にグリシジル基を2個有することが好ましい。より加工性に優れる塗膜が形成できる点から、鎖状炭化水素単位と、1分子中にグリシジル基を2個有することが好ましい。
【0022】
鎖状炭化水素単位は、直鎖または分岐を有する炭化水素単位である。
直鎖の炭化水素単位は、炭素原子数1~20のアルキレンが好ましい。炭素原子数が1~20のアルキレンとしては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ペンチレン、ヘキシレン、デシレン等が挙げられる。
また、分岐を有する炭化水素単位は、主鎖の炭素原子数1~20のアルキレン基、およびその側鎖に炭素数1~4のアルキル基を有する単位が好ましい。前記側鎖は、前記主鎖に1または2以上有することが好ましい。
【0023】
オキシアルキレン単位としては、(ポリ)オキシエチレン基、(ポリ)オキシプロピレン基、(ポリ)オキシテトラメチレン基等が挙げられる。
【0024】
環状の炭化水素単位は、炭素数5~6の環構造が好ましい。炭素数5~6の環構造は、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基が挙げられる。
また、環状の炭化水素単位は、例えば、デカリンのように炭素数5~6の環構造を2つ有する構造であっても良い。また環状の炭化水素単位は、置換基として、前記鎖状炭化水素単位を有してもよい。
【0025】
エポキシ基以外の複素環を構成するヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等があげられ、中でも酸素原子が好ましい。
エポキシ基以外の複素環単位としては、フラン、テトラヒドロフラン、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ピロール、ピロリジン、オキサゾール、イミダゾール、ピリジン、ピペリジン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジオキソラン等が挙げられる。
また、複素環単位は、例えば、プリンのように複素環構造を2つ有する構造であっても良い。また複素環単位は、置換基として、前記鎖状炭化水素単位を有してもよい。
【0026】
鎖状炭化水素単位を有するエポキシ化合物を使用すると塗膜の加工性は、環状の炭化水素単位を有するエポキシ化合物を使用する場合より向上する。また、環状の炭化水素単位を有するエポキシ化合物を使用すると塗膜の耐水性は、鎖状炭化水素単位を有するエポキシ化合物を使用する場合より向上する。
【0027】
好ましいエポキシ化合物のうち、鎖状炭化水素単位を有するエポキシ化合物としては、例えば、
アジピン酸、コハク酸、フタル酸等の種々のカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ化合物;
エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-ヘプタンジオールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテル、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0028】
好ましいエポキシ化合物のうち、オキシアルキレン単位を有するエポキシ化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリペンタメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヘプタメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0029】
好ましいエポキシ化合物のうち、環状炭化水素単位を有するエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール系ジグリシジルエーテル類、ビフェノール系ジグリシジルエーテル類、ベンゼンジオール系ジグリシジルエーテル類及び芳香族系ジグリシジルエーテル類から選ばれるジグリシジルエーテル類の芳香環に水素を添加したエポキシ化合物;
テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ダイマー酸等の種々のカルボン酸類と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ化合物;
1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、等の環状構造を有するアルキレングリコールジグリシジルエーテル類;
ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、カテコールジグリシジルエーテル等の芳香族系ジグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0030】
好ましいエポキシ化合物のうち、エポキシ基以外の複素環単位からなる群より選ばれる単位を有するエポキシ化合物としては、例えば、イソソルビドジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0031】
(ポリエステル)
ポリエステルは、多価カルボン酸と多価アルコールとの重合生成物であり、前述のエポキシ化合物と反応し、エポキシ樹脂(A)を形成するための原料であるため、カルボキシル基を有している。また、ポリエステルは、前記エポキシ化合物と同様に、ビスフェノール骨格及びビフェノール骨格のいずれも有さないことが好ましい。ポリエステルは、例えば、多価カルボン酸のカルボキシル基と多価アルコールの水酸基とを脱水縮合することで得られる。
【0032】
多価カルボン酸は、1分子中に2個以上のカルボン酸を有する化合物であればよく、中でも1分子中に2個以上4個以下のカルボン酸を有する化合物であることが好ましく、1分子中に2個のカルボン酸を有するジカルボン酸であることが更により好ましい。
ジカルボン酸の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、およびナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、および1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、およびドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のα、β-不飽和ジカルボン酸等;およびこれらの酸無水物などが挙げられる。
多価カルボン酸は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
また、多価アルコールは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であればよく、中でも1分子中に2個以上4個以下の水酸基を有する化合物であることが好ましく、1分子中に2個の水酸基を有するジオールであることが更により好ましい。
ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、および3-メチル-1,5-ペンタンジオールなどの脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレングリコール等のエーテル結合を含有するジオール等が挙げられる。
多価アルコールは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0034】
ポリエステルの水酸基価は特に限定されないが、水酸基価は0.001mgKOH/g以上であることが好ましく、0.005mgKOH/g以上であることがより好ましく、0.01mgKOH/g以上であることが原料入手性の観点から特に好ましい。また、ポリエステルの水酸基価は60mgKOH/g以下であることが好ましく、50mgKOH/g以下であることがより好ましく、40mgKOH/g以下であることが柔軟性をよくする観点から特に好ましい。
ポリエステルの酸価は特に限定されないが、酸価は10mgKOH/g以上であることが好ましく、15mgKOH/g以上であることがより好ましく、20mgKOH/g以上であることが、合成上のハンドリングの観点から特に好ましい。また、酸価は200mgKOH/g以下であることが好ましく、175mgKOH/g以下であることがより好ましく、150mgKOH/g以下であることが柔軟性をよくする観点から特に好ましい。
【0035】
ポリエステルの質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、500以上であることが好ましく、750以上であることがより好ましく、1,000以上であることが柔軟性をよくする点で特に好ましい。また10,000以下であることが好ましく、9,000以下であることがより好ましく、8,000以下であることが合成上のハンドリングの観点から特に好ましい。
なお、本開示において数平均分子量及び質量平均分子量は、GPC法(標準ポリスチレン換算)により測定されるものである。
【0036】
本開示においてポリエステルは、前記多価カルボン酸と前記多価アルコールとを重縮合して得られる。反応温度及び反応時間は、所定の数平均分子量のポリエステルが得られるように適宜調整することができる。
【0037】
本開示においてポリエステルは、カルボキシル基を有するものであり、分子末端にカルボキシル基を有することがより好ましい。
【0038】
(エポキシ樹脂(A)の合成)
前記エポキシ化合物とポリエステルとの反応は、常圧、加圧、減圧いずれの条件で行うこともできる。
また、反応温度は通常、60~240℃、好ましくは80~220℃、より好ましくは100~200℃である。反応温度が上記下限以上であると反応を進行させやすいために好ましい。また、反応温度が上記上限以下であると副反応が進行しにくく、高純度のエポキシ樹脂を得る観点から好ましい。
反応時間としては特に限定されないが、通常0.5~24時間であり、好ましくは1~22時間であり、更に好ましくは1.5~20時間である。反応時間が上記上限以下であると、生産効率向上の点で好ましく、上記下限以上であると、未反応成分を削減できる点で好ましい。
本開示においてエポキシ樹脂(A)を製造するための反応工程には触媒を用いてもよい。触媒としては、通常、エポキシ樹脂の製法におけるアドバンス法の触媒として用いられるものであれば特に制限されない。
【0039】
本開示においてエポキシ樹脂(A)の製造に使用するエポキシ化合物とポリエステルの配合比は、得られるエポキシ樹脂の理論エポキシ当量が200,000g/当量以下となる配合比であることが好ましく、150,000g/当量以下となる配合比であることがより好ましく、100,000g/当量以下となる配合比であることが他材料との相溶性を確保する点で特に好ましい。一方、理論エポキシ当量の下限は、100g/当量を超え、120g/当量以上、特に150g/当量以上、とりわけ200g/当量以上であることが、柔軟性に優れたエポキシ樹脂を得ることができ、好ましい。
ここで理論エポキシ当量とは、エポキシ化合物、ポリエステルに含まれる全てのエポキシ基とカルボキシル基が1:1で反応したときの反応生成物のエポキシ当量を意味する。
【0040】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、200以上200,000以下が好ましく、250以上100,000以下がより好ましく、300以上50,000以下が特に好ましい。
エポキシ当量が上記下限値以上であれば、塗膜の加工性及び耐蝕性がより優れている。また、上記上限値以下であれば後述するアクリレート系共重合体(B)部との反応が進みやすく、水性塗料組成物中の複合樹脂の分散安定性に優れている。
【0041】
また、エポキシ樹脂(A)の質量平均分子量は、7,000以上200,000以下が好ましく、7,100以上150,000以下がより好ましく、7,200以上100,000以下が特に好ましい。
質量平均分子量が上記下限値以上であれば、塗膜の加工性に優れ、例えば缶胴部内面塗料として用いた場合に、蓋との巻き締め部における塗膜の亀裂が抑制され、缶の耐腐食性が向上する。また、上記上限値以下であれば、水性塗料組成物の粘度が高くなりすぎず、塗工に適した粘度に調整することができる。
【0042】
<アクリレート系共重合体(B)部>
本開示においてカルボキシル基含有アクリレート系共重合体(B)部は、共重合成分として少なくともカルボキシル基含有モノマーを有し、必要に応じて更に、その他のエチレン性不飽和モノマーを有していてもよいものである。
【0043】
本開示においてカルボキシル基含有モノマーは、少なくとも、エチレン性不飽和結合と、カルボキシル基を有している。
エチレン性不飽和結合としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。
またカルボキシル基含有モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。
カルボキシル基含有モノマーは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
その他のエチレン性不飽和モノマーは、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;
スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー;
N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー等が挙げられる。
また、その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸アルキルエステル系モノマー、又はスチレン系モノマーを用いることが好ましく、中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、スチレンがより好ましい。
その他のエチレン性不飽和モノマーは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
カルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部の組成は、カルボキシル基含有モノマーを30~70質量%含有することが好ましく、40~70質量%含有することがより好ましい。
カルボキシル基含有モノマーの割合が上記下限値以上であれば、得られる複合樹脂(C)の親水性が向上し、水性塗料組成物中の分散安定性がより向上する。また、カルボキシル基含有モノマーの割合が上記上限値以下であれば、共重合体(B)中のカルボキシル基の割合が高くなりすぎず、親水性と耐水性を高度に両立できると共に、エポキシ樹脂との反応が不均一となりにくく、反応中のゲル化も抑制され、また、得られた塗料組成物の粘度も抑制され、粘度の経時安定性にも優れている。
【0046】
カルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部の重合方法は、常法に従い、アゾビス系の重合開始剤、過酸化物系の重合開始剤等を適宜用いることができる。
アゾビス系の重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
過酸化物系の重合開始剤としては、例えば、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド(過酸化ベンゾイル)、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0047】
また、反応工程において使用される有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、下記に示すような親水性が比較的高い溶剤が好ましい。
具体的には、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-アミルアルコール、アミルアルコール、メチルアミルアルコール、オクタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ) ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ) ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル等の各種エーテルアルコールないしはエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトシブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート等のアセテート類等の有機溶剤を適宜用いることができ、必要に応じては、反応後に別途追加してもよい。
【0048】
<複合樹脂(C)>
本開示の水性塗料組成物は、前記エポキシ樹脂(A)部と前記アクリレート系共重合体(B)部とを有する複合樹脂(C)を含有する。
複合樹脂(C)の合成方法は特に限定されないが、以下3つの方法を説明する。なお、後述する第1及び第2の方法によれば、前記エポキシ樹脂(A)部と前記アクリレート系共重合体(B)部とがオキシエステル結合を介して結合し、複合樹脂(C)として前記エポキシ樹脂(A)部の少なくとも一方の末端に、前記アクリレート系共重合体(B)部を有するエポキシ・アクリル複合樹脂を好適に得ることができる。なお、前記エポキシ・アクリル複合樹脂は、エポキシ樹脂(A)部-アクリレート系共重合体(B)部-エポキシ樹脂(A)部のようなブロック型ポリマーでもよい。
また、後述する第3の方法によれば、前記アクリレート系共重合体(B)部が前記エポキシ樹脂(A)部の2級または3級炭素にグラフト結合し、複合樹脂(C)として前記エポキシ樹脂(A)部の側鎖に前記アクリレート系共重合体(B)部を有するグラフト型ポリマーを好適に得ることができる。
なお、オキシエステル結合とは、カルボキシル基とグリシジル基との付加反応であるエステル化反応により生成する結合であり、以下のような構造を有する。
-COO-CR-CR(OH)-
(ここで、R、R、及びRは各々独立に、水素原子または有機基である。)
【0049】
(第1の方法)
まず、複合樹脂(C)を合成する第1の方法(エステル化法)について説明する。第1の方法により得られる複合樹脂(C-1)は、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)部とカルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部とが、オキシエステル結合を介して結合している。
第1の方法において複合樹脂(C)は、あらかじめ用意されたカルボキシル基含有アクリル系共重合体(B)中のカルボキシル基の一部とビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)中のグリシジル基とをエステル化反応させて合成する。
【0050】
複合樹脂(C-1)を得る際、エポキシ樹脂(A)とアクリル共重合体(B)の割合は質量比で60/40~90/10であることが好ましく、65/35~85/15であることがより好ましい。
アクリル共重合体(B)の割合が60/40以下であれば、エポキシ樹脂(A)とアクリル共重合体とのエステル化反応が進みやすく、得られる複合樹脂(C-1)の水性塗料組成物中の分散安定性に優れている。また、アクリル共重合体(B)の割合が60/40以下であれば、親水性が高くなりすぎず、塗膜の耐水性にも優れている。
一方、アクリル共重合体(B)の割合が90/10以上であれば、生成される複合樹脂(C-1)の親水性が十分となり、水性塗料組成物中での分散安定性に優れ、経時下においても複合樹脂(C-1)の沈降が生じにくい。
【0051】
エステル化の際に用いられるエステル化触媒としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が好ましい。
前記有機アミン化合物は、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
前記アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
塩基性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
エステル化触媒はカルボキシル基含有モノマー100モル%に対して、1~80モル%が好ましく、5~60モル%がより好ましい。尚、エステル化反応時の温度、時間等の反応条件は特別なものではなく、公知の条件を用いる。
【0053】
上記により得られた複合樹脂(C-1)を水性分散体とするには、常法のアクリル変性エポキシ樹脂を水分散させる手法と同様にして得ることができる。詳しくは、複合樹脂(C-1)中に存在するカルボキシル基を、塩基性化合物等で中和し、親水性を付与する手法が挙げられる。さらに詳しくは、複合樹脂(C-1)に塩基性化合物を加えた後、水性媒体を添加して水性分散体とする方法や、複合樹脂(C-1)に、塩基性化合物を含有する水性媒体を添加して水性分散体とする方法等が例示できる。
【0054】
複合樹脂(C-1)中に存在するカルボキシル基の中和に用いられる塩基性化合物としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が好ましい。
前記有機アミン化合物は、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
前記アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
塩基性化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
本開示における水性媒体は、水と親水性溶剤との混合物である。全水性媒体中、少なくとも50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上が水である。親水性溶剤としては、カルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部を得る際に例示したものが同様に挙げられる。
【0056】
(第2の方法)
複合樹脂(C)を合成する第2の方法(直接法(変形エステル化法ともいう))について説明する。第2の方法により得られる複合樹脂(C-2)は、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)部とカルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部とが、オキシエステル結合を介して結合している。
第2の態様の複合樹脂(C-2)は、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)中のグリシジル基とカルボキシル基含有モノマー(b1)を反応させて、エポキシ樹脂(A)の末端にエチレン性不飽和基を配置し、次いで、アクリル共重合体(B)部を構成するためのカルボキシル基含有モノマーを含むエチレン性不飽和モノマーを共重合させて合成する。
【0057】
ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)とカルボキシル基含有モノマー(b1)との反応の際に用いるエステル化触媒としては、既に説明したエステル化触媒を用いることができる。
エチレン性不飽和基を有するエポキシ樹脂(A)とエチレン性不飽和モノマーを共重合する際に用いられる重合開始剤としては、既に説明した重合開始剤を用いることができる。
また、第2の方法で使用される有機溶剤は、既に説明した有機溶剤を用いることができる。
【0058】
複合樹脂(C-2)は、合成のプロセスが第1の方法とは異なるが、結果として、複合樹脂(C-1)と同様に、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有モノマーを必須成分として共重合されたアクリル共重合体(B)部とがオキシエステル結合を介して結合し、複合樹脂を形成する。
従って、複合樹脂(C-2)を構成しているビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)部とラジカル重合性のモノマーに由来する部分との質量比は、第1の方法の場合と同様であることが好ましい。すなわち、エステル化の際に用いるカルボキシル基含有モノマー(b1)と、共重合の際に使用するエチレン性不飽和モノマー(b2)との合計量(b1)+(b2)は、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)との質量比(A)/[(b1)+(b2)]は60/40~90/10の関係にあることが好ましく、65/35~85/15がより好ましい。また、エチレン性不飽和モノマーに由来する部分についても、エチレン性不飽和モノマー中のカルボキシル基含有モノマーの割合が、30~70質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0059】
(第3の方法)
複合樹脂(C)を合成する第3の方法(グラフト法)について説明する。第3の方法により得られる複合樹脂(C-3)は、前記アクリレート系共重合体(B)部が前記エポキシ樹脂(A)のメチレンユニットにグラフト結合している。
複合樹脂(C-3)は、フリーラジカル発生剤を用いて、前記エポキシ樹脂(A)に、カルボキシル基含有モノマーを含むエチレン性不飽和モノマーをグラフトさせて合成する。一般に、水素引き抜き反応を伴って、エポキシ樹脂(A)中の2級、及び3級の炭素にラジカルが生成し、そこを起点としてラジカル重合性モノマーの重合、もしくはその共重合体の生長末端と反応することで、アクリル重合体が形成される。すなわち、グラフト重合がおこなわれ、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)部に結合した、カルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部が生成する。
本開示におけるグラフト結合とは、このようにして生成した、ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A)部中の炭素原子とカルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部中の炭素原子との間の結合をいう。
【0060】
フリーラジカル発生剤としては、前記アクリル共重合体(B)部を得る際に例示した重合開始剤のうち、過酸化物が好適であり、特にベンゾイルパーオキサイドが好ましい。
グラフト反応の際に使用される有機溶剤としては、既に説明した有機溶剤を使用できる。
尚、グラフト反応時の温度、時間等の反応条件は特別なものではなく、公知の条件を用いて行うことができる。
【0061】
第3の方法により得られる複合樹脂(C-3)は、形成のプロセスが第1、第2の態様とは異なり、前記エポキシ樹脂(A)部と前記アクリル共重合体(B)部とがグラフト結合を介して結合し、複合樹脂を形成している。
第3の方法により得られる複合樹脂(C-3)を構成しているエポキシ樹脂(A)部とエチレン性不飽和モノマーに由来する部分との質量比は、第1、第2の態様の複合樹脂(C)の場合と同様であることが好ましい。すなわち、エポキシ樹脂(A)と、カルボキシル基含有モノマーを含むエチレン性不飽和モノマー(c)との質量比(A)/(c)が60/40~90/10(質量比)であることが好ましく、65/35~85/15の割合であることがより好ましい。
また、カルボキシル基含有アクリル共重合体(B)部を構成することとなるエチレン性不飽和モノマー100質量%中のカルボキシル基含有モノマーの割合は30~70質量%含有することが好ましく、40~70質量%含有することがより好ましい。
【0062】
前記第1の方法、又は前記第2に方法において、前記フリーラジカル発生剤を加えることにより、前記グラフト重合を同時または2段階等で行ってもよい。また、前記第3の方法において、エステル化触媒を加えることにより、エポキシ樹脂(A)のグリシジル基にカルボキシル基含有モノマーをオキシエステル結合させてもよい。
これらの方法によれば、エポキシ樹脂(A)部の末端及び側鎖にアクリル共重合体(B)部が形成された複合樹脂(C)を得ることができる。
【0063】
<その他の成分>
本開示の水性塗料組成物は、通常、前記複合樹脂(C)を分散する水等の媒体を含み、更に、効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含有してもよい。以下、好適に含まれ得る成分について説明する。
【0064】
(親水性有機溶剤)
本開示の水性塗料組成物は、通常、水を含有し、さらに必要に応じて、親水性有機溶を含有してもよい。親水性有機溶剤を含有することにより、例えば、塗装性などを向上することができる。親水性溶媒としては、特に限定されるものではないが、前記アクリル共重合体(B)部を合成する際に用いる溶剤として例示したものと同様のものを用いることが好ましい。
親水性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
本開示の水性塗料組成物には、さらに、必要に応じて塗膜の硬化性や金属への密着性を向上させる目的で、硬化剤(D)を添加することができる。硬化剤(D)としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、β-ヒドロキシアルキルアミド、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン等を用いることができ、硬化剤(D)は1種または2種以上添加することができる。
硬化剤(D)は、自己架橋反応し得る他、複合樹脂(C)中のカルボキシル基と反応し得る。また、複合樹脂(C)が水酸基を有する場合には、硬化剤(D)は、それらの水酸基とも反応し得る。さらに、アクリレート系共重合体(B)部を構成する、その他のエチレン性不飽和モノマーがアミド系モノマーを含み、複合樹脂(C)がこのアミド系モノマーに由来する架橋性官能基を有する場合は、これら架橋性官能基とも反応し得る。
【0066】
フェノール樹脂としては、フェノール化合物と、ホルムアルデヒド等のアルデヒドとの付加縮合反応により合成した樹脂が挙げられる。
フェノール化合物としては、例えば、フェノール、o-クレゾール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-ノニルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、カテコール、レゾルシノール、およびハイドロキノン等が挙げられる。この場合、フェノール化合物は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
フェノール樹脂は市販品を用いてもよい。好ましく使用できる市販品としては、例えば、Allnex社製Phenodur PR285、PR516、PR566、PR612、VPR1785;住友ベークライト社製 スミライトレジンPR-55317、PR-55819、PR-53893A;アイカSDKフェノール社製 ショウノールBKS-368、CKS-3898等を挙げることができる。
【0068】
またアミノ樹脂としては、尿素やメラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ化合物にホルムアルデヒドを付加反応させたもの等を挙げることができる。この場合、アミノ化合物は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
アミノ樹脂は市販品を用いてもよい。好ましく使用できる市販品としては、例えば、Allnex社製Cymel301、303LF、304、323、325、328、370、659、1123;また、BASF社製 Luwipal014、015、018、066、070、052、B017等を挙げることができる。
【0070】
上記フェノール樹脂やアミノ樹脂は、ホルムアルデヒドの付加により生成したメチロール基の一部ないし全部を、炭素数が1~12なるアルコール類によってエーテル化した形のものも好適に用いられる。
【0071】
硬化剤(D)を用いる場合には、複合樹脂(C)100質量部に対して、0.5~20質量部添加することが好ましく、1~10質量部添加することがより好ましい。両者の質量比がこの範囲内にあれば、耐レトルト性や耐腐食性、加工性等がより向上する。
【0072】
また本開示の水性塗料組成物は、必要に応じて、製缶工程における塗膜の傷付きを防止するなど目的で、ワックス等の滑剤および硬化触媒等を添加することもできる。
ワックスとしては、蜜蝋、ラノリンワックス、鯨蝋、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバ油、パーム油等の動植物系ワックス;
モンタンワックス、オゾゲライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の鉱物、石油系ワックス;
フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、テフロン(登録商標)ワックス等の合成ワックス等が挙げられる。
硬化触媒としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸化合物、および硫酸、ならびにこれらの中和物等が挙げられる。
【0073】
また、本開示の水性塗料組成物は、必要に応じて塗装性を向上させるなどの目的で、界面活性剤、消泡剤およびレベリング剤等の各種成分を含有してもよい。
【0074】
また、本開示の水性塗料組成物は、必要に応じて塗膜を着色し意匠性を付与する等の目的で、染料、有機顔料、無機顔料等を添加することができる。
【0075】
<水性塗料組成物の用途>
本開示の水性塗料組成物は、金属、プラスチックス等の部材を被覆する塗膜を形成する目的で好適に使用することができる。特に、飲料や食品等を収納する缶等の収納容器を被覆する用途が好ましく、その内面および外面を問わずに使用できるところ、その高度な加工性を活かして缶の内面を被覆する用途がより好ましく、特に飲料缶の内面に使用することが好ましく、中でも缶胴用部材、または缶蓋用部材の内面に使用することが好ましい。また、エンジンオイル等の食品用途以外の収納容器にも好適に用いることができる。なお、本開示の水性塗料組成物は、缶の外面を被覆する用途にも使用できることはいうまでもない。
【0076】
前記金属は、例えば、アルミニウム、錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、ニッケル処理鋼板等が好ましく、さらにジルコニウム処理や燐酸処理等の表面処理を施すことができる。また、前記プラスチックスは、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン、並びに、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等が好ましい。
【0077】
塗装方法は、エアースプレー、エアレススプレー、および静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、ならびに電着塗装等の公知の方法を使用できる。
金属に塗装する場合、150~350℃の温度で、10秒~30分間焼き付けることが好ましく、10秒~15分間がより好ましい。
【0078】
[缶用部材、および缶]
飲料や食品等を収納するための缶には様々な形態のものがあるが、少なくとも2つの缶用部材を組み合わせて形成される。大きくは、缶胴部と底部とが一体となっている有底円筒状の部材と蓋用部材とで構成される2ピース缶(広義)、円筒状の缶胴部と前記缶胴部の上下に位置する蓋用部材と底用部材とで構成される3ピース缶に分類される。2ピース缶(広義)には、リキャップ可能な蓋用部材とボトル用部材とを備える、いわゆるボトル缶も含まれる。ボトル缶のボトル用部材の飲み口部には前記蓋用部材によって開閉可能なスクリューが設けられている。
塗膜の乾燥後の厚み(塗布量)は特に限定されず、部材の種類等に応じて適宜選定すればよく、通常1~200mg/dm程度が好ましく、5~180mg/dmがより好ましい。
【0079】
図1を参照して缶用部材の一例を説明する。
図1は、缶用部材のうち2ピース缶用の有底円筒状の部材の一実施形態を示す模式図である。図1の(a)は有底円筒状の部材の全体図であり、(b)はA部分の断面の拡大図である。図1の例に示される有底円筒状の部材10は、缶材11の内側に前記水性塗料組成物の塗膜12を有している。このような有底円筒状の部材は、大面積の平板状の缶用基材から一缶分ごとの平板の円形の部材を打ち抜き、前記平板状円形部材を有底円筒状に成型加工し、その内面に水性塗料組成物をスプレー塗装し、硬化し、内面の塗膜を形成し、得ることができる。外面塗膜形成は適宜内面塗膜形成と同時、または前後して行うことができる。
2ピース缶用の有底円筒状の部材の場合、塗料の硬化条件は、150~300℃の温度で、10秒~10分間焼き付けることが好ましく、30秒~5分間がより好ましい。また、缶用の有底円筒状の部材における塗膜の乾燥後の厚み(塗布量)は、通常5~150mg/dm程度が好ましく、10~100mg/dmがより好ましい。
【0080】
缶用部材のうち3ピース缶用の缶胴部用の部材は、以下のようにして得ることができる。即ち、平板状の缶用基材表面に前記水性塗料組成物をロールコーター等で塗装し、硬化し、塗膜を設けた後、塗膜を設けた平板状の缶用基材から一缶分ごとの四辺形の部材を切り出し、四辺形の積層体を筒状に丸めて、端部を接合し、容器の胴部を作ることができる。外面塗膜形成は適宜内面塗膜形成と同時、または前後して行うことができる。
【0081】
缶用部材のうち蓋用部材や底用部材は、平板状の缶用基材表面、またはロール状に巻かれた長尺の缶用基材表面に前記水性塗料組成物をロールコーター等で塗装し、硬化し、塗膜を設けた後、一缶分ごとの平板の円形の部材を打ち抜き、形成される。
蓋用の場合は、さらに凹凸の多い複雑で高度な成型加工を施し、開口予定部を形成するので、蓋用の塗膜には他の部材用塗膜よりも高度な加工性が要求される。一方、開口の際には、開口部周辺の塗膜が開口部側に残らないような開口性(切れの良さ)が要求される。
また、缶胴部用部材の開口部は、缶胴部用部材の開口部よりも一回り大きな径の蓋用部材・底用部材が接合される場合があり、接合の結果、蓋用部材・底用部材の円周上の接合部は、缶胴部用部材の胴部よりも外側に出っ張ることがある。従って、蓋用部材・底用部材のための外面塗膜には、滑り性に富み、傷付き難いことが要求される。
蓋用部材や底用部材の場合、塗料の硬化条件は、150~350℃の温度で、10秒~30分間焼き付けることが好ましく、10秒~15分間がより好ましい。蓋用部材や底用部材における塗膜の乾燥後の厚み(塗布量)は、通常10~200mg/dm程度が好ましく、20~180mg/dmがより好ましい。ロール状に巻かれた長尺の缶用基材を用いる場合には、塗料の硬化条件は、200~350℃の温度で、10秒~3分間焼き付けることが好ましく、10秒~1分間がより好ましい。塗膜の乾燥後の厚み(塗布量)は、通常10~200mg/dm程度が好ましく、20~180mg/dmがより好ましい。
【0082】
缶用基材としては、アルミニウム、錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、ニッケル処理鋼板等が挙げられ、さらにジルコニウム処理や燐酸処理等の表面処理を施すことができる。
【0083】
本開示の缶は、缶を構成する複数の缶用部材のうち、少なくとも一部に前記の缶用部材を用いてなる缶である。
2ピース缶の場合は、有底円筒状の部材の開口端部を整えた後、内容物を入れ、蓋用部材を取り付け、開封可能な缶を形成する。
3ピース缶の場合は、筒状部材の両端の開口部端部を整えた後、底用部材を取り付け、内容物を入れた後、蓋用部材を取り付け、開封可能な缶を形成する。
本開示の水性塗料組成物から形成される塗膜は、飲料や食品等缶内容物のフレーバー香気成分が吸着し難く、耐レトルト性にも優れているので、内面用塗料として好適である。また、加工性や開口性にも優れるので缶蓋用の内面塗料としても外面用塗料としても好適である。外面用塗料の場合は、ワックスやシリコーン等を入れ、塗膜の滑り性や耐傷付き性を向上することが好ましい。
【0084】
本開示の缶は、内容物として飲料水、清涼飲料水、茶飲料、アルコール飲料等の飲料を収納する用途が好ましい。また、魚肉、果物等の非飲料を収納してもよい。
【0085】
本開示の缶は、所定の工程により缶内へ飲料が充填された後、保管中に、内面の塗膜が飲料中のフレーバー成分、特にエステル化合物およびリモネンを吸着しにくいため、特にアルコール飲料のフレーバー保持性に優れている。
なお、本開示でいうアルコール飲料中のエステル化合物としては、「醸造成分一覧(財団法人日本醸造協会編集)」にも記載されるように、酢酸エチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸2-フェニルエチル等が挙げられる。アルコール飲料中には種々のフレーバー物質が含まれるが、特に含有量の多さと官能的閾値の低さから、上記のようなエステル化合物の吸着性が低いことが重要である。
【実施例
【0086】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は質量部を、「%」とは質量%をそれぞれ表す。
【0087】
(数平均分子量および質量平均分子量の測定条件)
東ソー(株)製 高速GPC装置 8020シリーズ(THF溶媒、カラム温度40℃、ポリスチレン標準)を用いて測定した。具体的には、カラムとして東ソー(株)製G1000HXL、G2000HXL、G3000HXL、G4000HXLの4本を直列に連結し、流量1.0ml/minにて測定して得られた測定値である。
【0088】
[製造例1]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-1)の製造>
水添ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:198g/当量)360質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)1000質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.36質量部を3Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量18,000、エポキシ当量2,500のエポキシ樹脂(A-1)を得た。
【0089】
[製造例2]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-2)の製造>
1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(エポキシ当量:116g/当量)230質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)1166質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.23質量部を3Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量23,000、エポキシ当量3,200のエポキシ樹脂(A-2)を得た。
【0090】
[製造例3]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-3)の製造>
シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(エポキシ当量:144g/当量)46質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)185質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.05質量部を0.5Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量16,000、エポキシ当量2,400のエポキシ樹脂(A-3)を得た。
【0091】
[製造例4]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-4)の製造>
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(エポキシ当量:109g/当量)200質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)781質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.2質量部を2Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量28,000、エポキシ当量4,000のエポキシ樹脂(A-4)を得た。
【0092】
[製造例5]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-5)の製造>
レゾルシノールジグリシジルエーテル(エポキシ当量:113g/当量)180質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)1075質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.2質量部を2Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量25,000、エポキシ当量3,500のエポキシ樹脂(A-5)を得た。
【0093】
[製造例6]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-6)の製造>
ヒドロキノンジグリシジルエーテル(エポキシ当量:128g/当量)120質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)970質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.1質量部を2Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量32,000、エポキシ当量4,700のエポキシ樹脂(A-6)を得た。
【0094】
[製造例7]
<ビスフェノール骨格等を有さないエポキシ樹脂(A-7)の製造>
イソソルビドジグリシジルエーテル(エポキシ当量:130g/当量)120質量部、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールから構成されるポリエステル(三菱ケミカル社製 FC-2976、酸価:61.4mgKOH/g)772質量部、N,N-ジメチルベンジルアミン0.1質量部を2Lフラスコに入れ、窒素ガス雰囲気下150℃で6時間、重合反応を行い、質量平均分子量21,000、エポキシ当量3,000のエポキシ樹脂(A-7)を得た。
【0095】
【表1】
【0096】
[製造例101]缶胴部用
<アクリル系共重合体(B-1)溶液の製造>
ブチルセロソルブ:n-ブタノール=58:42(質量比)中で、過酸化ベンゾイルを用い、メタクリル酸:スチレン:アクリル酸エチル=55:35:10(質量比)のモノマーを重合し、固形分23.5%のアクリル系共重合体(B-1)溶液を得た。
【0097】
[製造例102~105]缶胴部用
<アクリル系共重合体(B-2)~(B-5)溶液の製造>
モノマーの組成比を表2のように変更し、過酸化ベンゾイルの量を変更した以外は、製造例101と同様にして固形分23.5%のアクリル系共重合体(B-2)~(B-5)溶液を得た。
【0098】
[製造例106]缶蓋用
<アクリル系共重合体(B-6)溶液の製造>
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:ブチルセロソルブ=73:27(質量比)中で、過酸化ベンゾイルを用い、メタクリル酸:スチレン:アクリル酸エチル=50:25:25(質量比)のモノマーを重合し、固形分23.5%のアクリル系共重合体(B-6)溶液を得た。
【0099】
[製造例107~108]缶蓋用
<アクリル系共重合体(B-7)~(B-8)溶液の製造>
モノマーの組成比を表2のように変更し、過酸化ベンゾイルの量を変更した以外は、製造例106と同様にして固形分23.5%のアクリル系共重合体(B-7)~(B-8)溶液を得た。
【0100】
【表2】
【0101】
なお表2中の略号は以下のとおりである。
MAA:メタクリル酸
St :スチレン
EA :エチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EMA:エチルメタクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
【0102】
[[2ピース缶の缶胴部用内面塗料]]
[実施例1]
<水性塗料組成物の製造(エステル化法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-1)128部、上記アクリル系共重合体(B-1)溶液136.2部(不揮発分約32部を含む)を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。その後、90℃まで冷却し、90℃を保持した状態でジメチルアミノエタノール7.3部を添加し、3時間反応させ、複合樹脂を得た。なお、前記のジメチルアミノエタノールの量は、アクリル系共重合体(B-1)を形成しているメタクリル酸の量に対して40モル%である。その後、イオン交換水527.8部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得、以下のようにして評価した。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-1)とアクリル系共重合体(B-1)は質量比で80:20である。
【0103】
[テストパネル1の作製]
実施例1で得られた水性塗料組成物を、焼付乾燥後の塗膜質量が45mg/dmとなるように0.1mm厚のアルミ板上に、塗膜性能評価のためにバーコーターで塗装し、200℃×120秒の焼付乾燥を行って試験用パネルを作製した。
【0104】
<折り曲げ加工性>
初期、および耐蝕性試験1、2の後のテストパネル1について、以下の手順にて折り曲げ加工性を以下の基準で評価した。
テストパネル1を幅30mm縦50mmの大きさに準備した(試験片1)。
次いで、図2の(a)のように試験片1の塗膜を外側にして、縦長さ30mmの位置に直径3mmの丸棒2を添える。そして。図2の(b)のように丸棒2に沿って試験片1を2つ折りにして幅30mm・縦約30mmの試験片3を作製した。この2つ折りにした試験片3の間に厚さ0.26mmのアルミ板(省略)3枚はさみ、図2の(c)のように幅15cm×高さ5cm×奥行き5cmの直方体状の1kgのおもり4を高さ40cmから試験片3の折り曲げ部に落下させて完全に折り曲げ、試験片5を作製した。
次いで、試験片5の折り曲げ部を濃度1%の食塩水中に浸漬させた。次いで、試験片5の、食塩水中に浸漬されていない平面部の金属部分と、食塩水との間を6.0V×4秒通電した時の電流値を測定した。なお、折り曲げ加工、通電試験はいずれも23℃付近で行った。
塗膜の加工性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、電流値が高くなる。
【0105】
[初期]の評価基準
A:5mA未満
B:5mA以上10mA未満
C:10mA以上20mA未満
D:20mA以上
上記評価結果が「B」であれば、初期状態において良好な折り曲げ加工性を有し、「A」であれば初期状態において優れた折り曲げ加工性を有する。一方、「D」であれば折り曲げ加工性は不良である。
【0106】
[耐蝕性試験1]
100℃に加熱した10%エタノール水溶液にテストパネル1を60分間浸漬した後、50℃まで自然冷却し、50℃で1ヵ月保存後、23℃付近まで自然冷却した。
【0107】
[耐蝕性試験2]
クエン酸を含むpH3程度の10%エタノール水溶液を100℃に加熱し、テストパネル1を60分間浸漬した後、50℃まで自然冷却し、50℃で1ヵ月保存後、23℃付近まで自然冷却した。
【0108】
[耐蝕性試験1、2後]の評価基準
A:10mA未満
B:10mA以上15mA未満
C:15mA以上20mA未満
D:20mA以上
上記評価結果が「B」であれば、良好な耐蝕性を有し、「A」であれば優れた耐蝕性を有する。一方、「D」であれば耐蝕性は不良である。
【0109】
<耐レトルト性試験>
テストパネル1を水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃-30分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で評価した。
A:未処理の塗膜と変化なし
B:ごく薄く白化
C:やや白化
D:著しく白化
上記評価結果が「B」であれば、良好な耐レトルト性を有し、「A」であれば優れた耐レトルト性を有する。一方、「D」であれば耐レトルト性は不良である。
【0110】
<フレーバー成分吸着>
フレーバー標準物質として、含有量の多さと官能的閾値の低さから重要と考えられるエステル化合物である酢酸エチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸イソアミル、及び酢酸2-フェニルエチルに、オレンジフレーバーの代表的成分として知られているリモネンを用いた。塗膜面積500cmのテストパネル1を、各種フレーバー標準物質(酢酸エチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸2-フェニルエチル、リモネンの6種類)各5ppmを含む5%エタノール水溶液500ccに浸漬し、密栓したのち30℃で3カ月経過させた。3カ月経過後の各試験パネルを取り出し、蒸留水で水洗した後、二硫化炭素10ccに塗膜を再浸漬し、試験パネルに吸着した各フレーバー標準物質を抽出し、吸着量をガスクロマトグラフィーにより定量した。浸漬液(500cc)中に含まれる各フレーバー標準物質の量を100%として、塗膜に吸着した量から各フレーバー成分の吸着率を計算し、以下の基準に従って評価した。吸着率が低い程、フレーバー保持性が優れている。
A:6種類のフレーバー物質吸着率平均値が5.0%未満
B:6種類のフレーバー物質吸着率平均値が5.0%以上10%未満
C:6種類のフレーバー物質吸着率平均値が10%以上20%未満
D:6種類のフレーバー物質吸着率平均値が20%以上
上記評価結果が「B」であれば、良好なフレーバー保持性を有し、「A」であれば優れたフレーバー保持性を有する。一方、「D」であればフレーバー保持性は不良である。
【0111】
<密着性(碁盤目剥離試験)>
テストパネル1の塗膜にカッターナイフで基材に到達するように直交する11本の傷を1mm間隔で付けた後、水、またはクエン酸を含むpH2程度の水溶液に前記テストパネルを浸漬したまま、レトルト窯で125℃-30分間レトルト処理を行い、23℃付近まで自然冷却し、それぞれ密着性評価用の試験片とした。
各試験片の傷にセロハンテープを密着させた後、剥がし、塗膜の剥離状態等を観察した。
A: 全く剥離なし
B: 5%未満の剥離あり
C: 5~20%の剥離あり
D: 20%を超える剥離あり
上記評価結果が「B」であれば、良好な密着性を有し、「A」であれば優れた密着性を有する。一方、「D」であれば密着性は不良である。
【0112】
<BPA抽出量>
塗膜面積1000cmのテストパネル1を準備した。テストパネルを幅20mm縦50mmの短冊状にカットし、耐圧瓶にて1000mLの水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃-30分間レトルト処理を行った。レトルト処理後の水を、エバポレーターを用いて水を除去した後、残留物をTHF2mLにて溶解し、日立製HPLC(Chromaster5110、5210、5310、5410、5440)にて分析を行った。
【0113】
[実施例2~7]
エポキシ樹脂(A-1)の代わりにエポキシ樹脂(A-2)~(A-7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂(A)とアクリル系共重合体(B)とを80:20(質量比)で反応させて、複合樹脂を含む、水性塗料組成物を得た。
【0114】
[実施例8~10]
エポキシ樹脂(A-1)とアクリル系共重合体(B-1)とを質量比で、85:15、75:25、65:35で反応させた以外は実施例1と同様にして、水性塗料組成物を得た。なお、ジメチルアミノエタノールの量は、アクリル系共重合体(B-1)を形成しているメタクリル酸の量に対して40モル%とした。
【0115】
[実施例11~14]、[実施例15~18]
エポキシ樹脂(A-1)の代わりに、実施例11~14ではエポキシ樹脂(A-2)を用い、実施例15~18ではエポキシ樹脂(A-5)を用い、アクリル系共重合体(B-1)溶液の代わりにアクリル系共重合体(B-2)~(B-5)溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂(A)とアクリル系共重合体(B)とを80:20(質量比)で反応させて、水性塗料組成物を得た。
【0116】
[実施例19~20]
エポキシ樹脂(A-1)の代わりにエポキシ樹脂(A-2)を用いた以外は実施例8、10と同様にして、エポキシ樹脂(A-2)とアクリル系共重合体(B-1)とを質量比で、85:15、65:35で反応させ水性塗料組成物を得た。
【0117】
[実施例21~22]
エポキシ樹脂(A-1)の代わりにエポキシ樹脂(A-2)を用い、アクリル系共重合体(B-1)の代わりにアクリル系共重合体(B-3)を用いた以外は実施例8、10と同様にして、エポキシ樹脂(A-2)とアクリル系共重合体(B-3)とを質量比で、85:15、65:35で反応させ水性塗料組成物を得た。
【0118】
[実施例23~26]
エポキシ樹脂(A-2)の代わりにエポキシ樹脂(A-5)を用いた以外は実施例19~22と同様にして、エポキシ樹脂(A-5)とアクリル系共重合体(B-1)またはアクリル系共重合体(B-3)とを質量比で、85:15、65:35で反応させ水性塗料組成物を得た。
【0119】
[実施例27]
<水性塗料組成物の製造(グラフト法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-1)128部、ブチルセロソルブ60.0部、n-ブタノール43.2部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態で、メタクリル酸17.6部、スチレン11.2部、エチルアクリレート3.2部、および過酸化ベンゾイル1.5部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃にて、さらに1時間保持した後、90℃まで冷却し、複合樹脂を生成し、中和剤としてジメチルアミノエタノール7.3部を添加した。続けて、イオン交換水527.3部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-1)とアクリル系モノマー等の質量比は80:20である。
【0120】
[実施例28]
<水性塗料組成物の製造(直接法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-1)128部、ブチルセロソルブ60.0部、n-ブタノール43.2部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態でメタクリル酸0.8部、ハイドロキノン0.004部を仕込み、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液0.15部を仕込み、3時間反応させた。
90℃まで冷却した後、その温度を保持し、メタクリル酸16.8部、スチレン11.2部、エチルアクリレート3.2部、および過酸化ベンゾイル1部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。さらに、90℃にて1時間保持し、複合樹脂を生成した後、60℃まで冷却し、中和剤としてジメチルアミノエタノール7.3部を添加した。続けて、イオン交換水527.7部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-1)とアクリル系モノマー等の質量比は80:20である。
【0121】
[実施例29]
<水性塗料組成物の製造(グラフト法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-2)112部、ブチルセロソルブ90.1部、n-ブタノール65.1部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態で、メタクリル酸26.4部、スチレン16.8部、エチルアクリレート4.8部、および過酸化ベンゾイル2.2部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃にて、さらに1時間保持した後、90℃まで冷却し、複合樹脂を生成し、中和剤としてジメチルアミノエタノール11部を添加した。続けて、イオン交換水470.6部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-2)とアクリル系モノマー等の質量比で70:30である。
【0122】
[実施例30]
<水性塗料組成物の製造(直接法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-2)112部、ブチルセロソルブ90.1部、n-ブタノール65.1部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態でメタクリル酸0.7部、ハイドロキノン0.004部を仕込み、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液0.13部を仕込み、3時間反応させた。
90℃まで冷却した後、その温度を保持し、メタクリル酸25.7部、スチレン16.8部、エチルアクリレート4.8部、および過酸化ベンゾイル1.5部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。さらに、90℃にて1時間保持し、複合樹脂を生成した後、60℃まで冷却し、中和剤としてジメチルアミノエタノール11部を添加した。続けて、イオン交換水471.2部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-2)とアクリル系モノマー等の質量比は70:30である。
【0123】
[実施例31(グラフト法)、実施例32(直接法)]
<水性塗料組成物の製造>
エポキシ樹脂(A-1)の代わりに、エポキシ樹脂(A-5)を用いた以外は、実施例27と同様にしてグラフト法で、実施例28と同様にして直接法で、それぞれ固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
【0124】
[実施例33]
<水性塗料組成物の製造(グラフト法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-7)120部、ブチルセロソルブ75.1部、n-ブタノール54.2部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態で、メタクリル酸24.0部、メチルメタクリレート6.0部、エチルメタクリレート4.0部、ブチルメタクリレート6.0部、および過酸化ベンゾイル1.8部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃にて、さらに1時間保持した後、90℃まで冷却し、複合樹脂を生成し、中和剤としてジメチルアミノエタノール10部を添加した。続けて、イオン交換水498.9部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-7)とアクリル系モノマー等の質量比で75:25である。
【0125】
[実施例34]
<水性塗料組成物の製造(直接法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-7)120部、ブチルセロソルブ75.1部、n-ブタノール54.2部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態でメタクリル酸0.6部、ハイドロキノン0.004部を仕込み、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液0.14部を仕込み、3時間反応させた。
90℃まで冷却した後、その温度を保持し、メタクリル酸23.4部、メチルメタクリレート6.0部、エチルメタクリレート4.0部、ブチルメタクリレート6.0部、および過酸化ベンゾイル1.3部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。さらに、90℃にて1時間保持し、複合樹脂を生成した後、60℃まで冷却し、中和剤としてジメチルアミノエタノール10部を添加した。続けて、イオン交換水499.3部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-7)とアクリル系モノマー等の質量比で75:25である。
【0126】
[実施例16-2]~[実施例16-4]
表7に示すように、実施例16の水性塗料組成物中に含まれる複合樹脂100質量部に対し、
Phenodur PR612(Allnex社製、フェノール樹脂溶液:固形分80%)を、固形分で1、3、8質量部それぞれ加えた。
【0127】
[実施例16-5]~[実施例16-7]
表7に示すように、実施例16の水性塗料組成物中に含まれる複合樹脂100質量部に対し、Cymel303LF(Allnex社製、アミノ樹脂)、Primid QM-1260(EMS Chemie社製、β-ヒドロキシアルキルアミド)、Cymel NF2000(Allnex社製、トリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン溶液:固形分50%)を、それぞれ固形分で3質量部加えた。
【0128】
[比較例1]
<水性塗料組成物の製造(エステル化法)>
上記実施例1において、原料の種類及び組成を表6のように変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
【0129】
以下の比較製造例1、及び比較例2~4については、「特開2015-193834」に即した方法によって作製を行った。
【0130】
[比較製造例1]
<アクリル系共重合体(E)の合成>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル8部、イオン交換水18.2部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸10部、スチレン6部、アクリル酸エチル4部、および過酸化ベンゾイル0.3部の混合物を滴下槽から4時間にわたって連続滴下し重合した。
滴下終了から1時間後、及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。次いで冷却することで数平均分子量25000、ガラス転移温度80℃のアクリル系共重合体の溶液(不揮発分41%)を得た。
次に、ジメチルエタノールアミン5.2部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水46.3部を加え、アクリル系共重合体を水に溶解させた。その結果、不揮発分20%の、カルボキシル基を有し、カルボキシル基以外の架橋性官能基を有しないアクリル系共
重合体(E)水溶液を得た。
【0131】
[比較例2]
<水性塗料組成物の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、比較製造例1で得られたアクリル系共重合体(E)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。別途、滴下槽1にスチレン5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、ポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n-ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、Phenodur PR612(Allnex社製フェノール樹脂溶液:固形分80%)1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料組成物を得た。
【0132】
[比較例3]
<水性塗料組成物の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、比較製造例1で得られたアクリル系共重合体(E)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。別途、滴下槽1にスチレン10.92部、アクリル酸エチル9.03部、N-ブトキシメチルアクリルアミド1.05部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、ポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水55部、n-ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル8.6部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.15部、Phenodur PR612(Allnex社製フェノール樹脂溶液:固形分80%)1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料組成物を得た。
【0133】
[比較例4]
<水性塗料組成物の製造>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、比較製造例1で得られたアクリル系共重合体(E)水溶液45部、イオン交換水18.5部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。別途、滴下槽1にメタクリル酸メチル5.69部、アクリル酸エチル15.09部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.22部を仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.74部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液0.92部を仕込んだ。攪拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、ポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水57部、n-ブタノール13.6部、エチレングリコールモノブチルエーテル9.1部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩0.16部、Phenodur PR612(Allnex社製フェノール樹脂溶液:固形分80%)1.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が18.5%の水性塗料組成物を得た。
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
【表6】
【0138】
【表7】
【0139】
【表8】
【0140】
なお、表3~8中、
*1:NPES-629(NAN YA PLASTICS CORPORATION製BPA型エポキシ樹脂)
*2:MAA/St/EA = 55/35/10 ((B)-1と同じモノマー組成)
*3:MAA/MMA/EMA/BMA = 60/15/10/15 ((B)-3と同じモノマー組成)
*4:Phenodur PR612、Allnex社製のフェノール樹脂溶液
*5:Cymel 303LF、Allnex社製のアミノ樹脂
*6:Primid QM-1260、EMS Chemie社製のβ-ヒドロキシアルキルアミド
*7:Cymel NF2000、Allnex社製のトリス(アルコキシカルボニルアミノ)トリアジン溶液
をそれぞれ表す。
また、表中のN.D.は、検出されなかったことを示す。
【0141】
表3~8に示されるとおり、ビスフェノール骨格やビフェノール骨格を有さないエポキシ化合物と、ポリエステルとの反応生成物であるエポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリレート系共重合体(B)部とを含む複合樹脂(C)を含有する、実施例1~34、及び16-2~16-7の水性塗料組成物より得られた塗膜は、いずれも、フレーバー成分の吸着が抑制され、耐レトルト性や折り曲げ加工性に優れていることが明らかとなった。比較例1の水性塗料組成物は、フレーバー成分の吸着が抑制され、耐レトルト性や折り曲げ加工性のいずれも良好であったが、ビスフェノールAの溶出が認められた。
【0142】
[[缶蓋内面]]
[実施例101]
<水性塗料組成物の製造(エステル化法)>
アクリル系共重合体(B-1)の代わりにアクリル系共重合体(B-7)溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、エポキシ樹脂(A-1)とアクリル系共重合体(B-7)とを80:20(質量比)で反応させて、水性塗料組成物を得、以下のようにして評価した。
なお、ジメチルアミノエタノールの量は、アクリル系共重合体(B-7)を形成しているメタクリル酸の量に対して40モル%とした。
【0143】
[テストパネル2の作製]
実施例101で得られた水性塗料組成物を、焼付乾燥後の塗膜質量が130mg/dmとなるように0.26mm厚のアルミ板上にバーコーターで塗装し、次いで第1ゾーンの温度が286℃ 、第2ゾーンの温度が326℃である2連型のコンベアーオーブンを24秒で通過させて焼付乾燥することでテストパネル2を作製した。
【0144】
<折り曲げ加工性>
得られたテストパネル2について、実施例1等の缶胴部内面用塗料の場合と同様の方法、同様の基準で電流値により初期の折り曲げ加工性を評価した。
【0145】
<開口性試験>
テストパネル2を縦50mm×横50mmの大きさに準備した。テストパネルの無塗装面に、飲料缶で一般的なステイオンタブ開口部の形状の型を当て、プレス機でプレスし、無塗装面に開口予定部を形成し、試料(テスト蓋材)とした。
次いで、開口予定部の一端を塗装面側から無塗装面側に向けて細い棒状工具で打ち、開口予定部の前記一端をアルミニウム板ごと無塗装面側に突出させた。無塗装面側に突出した開口予定部の一端をペンチで挟み、開口予定部の形状に沿って開口予定部以外の部分からアルミニウム板ごと引きはがし、開口部を形成し、開口部を顕微鏡で拡大し目視判定した。
開口性が不良であると、塗膜が開口部の周辺部に残存しやすくなり、開口部内にはみ出す幅が大きくなる。開口性が良好であるとは、塗膜が開口部内にまったくはみ出さないか、あるいは、はみ出したとしても、そのはみ出し幅がごくわずかである状態をいう。具体的な判定方法としては、はみ出ている塗膜の幅を測定し、下記評価基準にて評価した。
A:はみ出ている塗膜の最大幅が100μm未満
B:はみ出ている塗膜の最大幅が100μm以上、200μm未満
C:はみ出ている塗膜の最大幅が200μm以上、400μm未満
D:はみ出ている塗膜の最大幅が400μm以上
なお、飲料缶の蓋は、開口に際しては口金を缶内部に押し込むステイオンタブ方式が一般的である。しかし、内面塗膜の開口性評価は口金を缶外部に引きはがす方式の方が厳しいので、本開示では上述のように評価する。
上記評価結果が「B」であれば、良好な開口性を有し、「A」であれば優れた開口性を有する。一方、「D」であれば開口性は不良である。
【0146】
<耐レトルト性試験>
テストパネル2を水に浸漬したまま、水、またはクエン酸を2質量%含むpH2程度の水溶液に浸漬したまま、レトルト釜で125℃-30分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で評価した。
A:未処理の塗膜と変化なし
B:ごく薄く白化
C:やや白化
D:著しく白化
上記評価結果が「B」であれば、良好な耐水性、耐酸性を有し、「A」であれば優れた耐水性、耐酸性耐¥を有する。一方、「D」であれば耐水性、耐酸性は不良である。
【0147】
<フレーバー成分吸着性>、<BPA抽出量>
テストパネル2について、実施例1等の缶胴部内面用塗料の場合と同様の方法、同様の基準でフレーバー成分吸着、BPA抽出量を評価した。
【0148】
[実施例102~107]
<水性塗料組成物の製造(エステル化法)>
エポキシ樹脂(A-1)の代わりにエポキシ樹脂(A-2)~(A-7)を用いた以外は、実施例101と同様にして、エポキシ樹脂(A)とアクリル系共重合体(B)とを80:20(質量比)で反応させて、水性塗料組成物を得た。
【0149】
[実施例108~110]
エポキシ樹脂(A-1)とアクリル系共重合体(B-7)とを質量比で、85:15、75:25、65:35で反応させた以外は実施例101と同様にして、水性塗料組成物を得た。なお、ジメチルアミノエタノールの量は、アクリル系共重合体(B-7)を形成しているメタクリル酸の量に対して40モル%とした。
【0150】
[実施例111~112]、[実施例113~114]
エポキシ樹脂(A-1)の代わりに、実施例111~112ではエポキシ樹脂(A-2)を用い、実施例113~114ではエポキシ樹脂(A-5)を用い、アクリル系共重合体(B-7)溶液の代わりにアクリル系共重合体(B-6)、(B-8)溶液を用いた以外は、実施例101と同様にして、エポキシ樹脂(A)とアクリル系共重合体(B)とを80:20(質量比)で反応させて、水性塗料組成物を得た。
【0151】
[実施例115~116]、[実施例117~118]
エポキシ樹脂(A-1)の代わりにエポキシ樹脂(A-2)を用い、実施例115、116ではアクリル系共重合体(B-6)溶液を、実施例117、118ではアクリル系共重合体(B-7)溶液を用いた以外は実施例108、110と同様にして、エポキシ樹脂(A-2)とアクリル系共重合体(B-6)または(B-7)とを質量比で、85:15、65:35で反応させ水性塗料組成物を得た。
【0152】
[実施例119~122]
エポキシ樹脂(A-2)の代わりにエポキシ樹脂(A-5)を用いた以外は実施例115~118と同様にして、エポキシ樹脂(A-5)とアクリル系共重合体(B-6)またはアクリル系共重合体(B-7)とを質量比で、85:15、65:35で反応させ水性塗料組成物を得た。
【0153】
[実施例123]
<水性塗料組成物の製造(グラフト法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-5)120部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル94.4部、ブチルセロソルブ34.9部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態で、メタクリル酸18.0部、アクリル酸エチル(エチルアクリレート)4.0部、メチルメタクリレート6.0部、ブチルメタクリレート12.0部、および過酸化ベンゾイル1.8部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃にて、さらに1時間保持した後、90℃まで冷却し、複合樹脂を生成し、中和剤としてジメチルアミノエタノール10部を添加した。続けて、イオン交換水498.9部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-5)とアクリル系モノマー等の質量比は75:25である。
【0154】
[実施例124]
<水性塗料組成物の製造(直接法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-7)120部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル94.4部、ブチルセロソルブ34.9部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態でメタクリル酸0.6部、ハイドロキノン0.004部を仕込み、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液0.14部を仕込み、3時間反応させた。
90℃まで冷却した後、その温度を保持し、メタクリル酸17.4部、アクリル酸エチル(エチルアクリレート)4.0部、メチルメタクリレート6.0部、ブチルメタクリレート12.0部、および過酸化ベンゾイル1.3部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。さらに、90℃にて1時間保持し、複合樹脂を生成した後、60℃まで冷却し、中和剤としてジメチルアミノエタノール10部を添加した。続けて、イオン交換水499.3部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-7)とアクリル系モノマー等の質量比は75:25である。
【0155】
[実施例125]
<水性塗料組成物の製造(グラフト法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-2)128部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル75.3部、ブチルセロソルブ27.9部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態で、メタクリル酸16.0部、スチレン8.0部、アクリル酸エチル(エチルアクリレート)8.0部、および過酸化ベンゾイル1.5部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃にて、さらに1時間保持した後、90℃まで冷却し、複合樹脂を生成し、中和剤としてジメチルアミノエタノール6.6部を添加した。続けて、イオン交換水527.3部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-2)とアクリル系モノマー等の質量比は80:20である。
【0156】
[実施例126]
<水性塗料組成物の製造(直接法)>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、前記エポキシ樹脂(A-4)128部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル75.3部、ブチルセロソルブ27.9部を仕込み、120℃まで加熱、攪拌して、エポキシ樹脂を完全に溶解させた。反応容器内を120℃に保持した状態でメタクリル酸0.8部、ハイドロキノン0.004部を仕込み、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液0.15部を仕込み、3時間反応させた。
90℃まで冷却した後、その温度を保持し、メタクリル酸15.2部、スチレン8.0部、エチルアクリレート8.0部、および過酸化ベンゾイル1部を混合したアクリルモノマーおよび重合開始剤溶液を1時間かけて滴下した。さらに、90℃にて1時間保持し、複合樹脂を生成した後、60℃まで冷却し、中和剤としてジメチルアミノエタノール6.6部を添加した。続けて、イオン交換水527.7部を1時間かけて徐々に滴下して、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
なお、反応に供したエポキシ樹脂(A-4)とアクリル系モノマー等の質量比は80:20である。
【0157】
[比較例101]
<水性塗料組成物の製造(エステル化法)>
上記実施例101において、原料の種類及び組成を表11のように変更した以外は、実施例101と同様にして、固形分20.0%の水性塗料組成物を得た。
【0158】
[比較例102]~[比較例104]
比較例2~4で得られた水性塗料組成物を缶蓋内面用の塗料組成物として評価する際には便宜上比較例102~104とする。
【0159】
【表9】
【0160】
【表10】
【0161】
【表11】
【0162】
【表12】
【0163】
なお、表9~12中、
*1:NPES-629(NAN YA PLASTICS CORPORATION製BPA型エポキシ樹脂)
*8:MAA/EA/MMA/BMA = 45/10/15/30 ((B)-7と同じモノマー組成)
*9:MAA/St/EA = 50/25/25 ((B)-6と同じモノマー組成)
をそれぞれ表す。
また、表中のN.D.は、検出されなかったことを示す。
【0164】
表9~表12に示されるとおり、ビスフェノール等の骨格を有さないエポキシ化合物と、ポリエステルとの反応生成物であるエポキシ樹脂(A)部と、カルボキシル基含有アクリレート系共重合体(B)部とを有する複合樹脂(C)を含有する、各実施例の水性塗料組成物より得られた塗膜は、いずれも、フレーバー成分の吸着が抑制され、耐レトルト性や折り曲げ加工性に優れていることが明らかとなった。比較例101の水性塗料組成物は、フレーバー成分の吸着が抑制され、耐レトルト性や折り曲げ加工性のいずれも良好であったが、ビスフェノールAの溶出が認められた。
【0165】
[[缶蓋外面用塗料]]
[実施例102-2、105-2、123-2~126-2及び比較例101-2]
前記実施例102、105、123~126及び比較例101の水性塗料組成物中に含まれる複合樹脂100質量部に対し、カルナバWAX及びポリエチレンWAXをそれぞれ固形分で2質量部添加し、外面用の水性塗料組成物とし、以下の方法で評価した。
【0166】
[テストパネル3の作製]
WAXを添加した前記の外面用水性塗料組成物を、焼付乾燥後の塗膜質量が45mg/dmとなるように0.26mm厚のアルミ板上にバーコーターで塗装し、次いで第1ゾーンの温度が286℃ 、第2ゾーンの温度が326℃である2連型のコンベアーオーブンを24秒で通過させて焼付乾燥することで試験用パネルを作製した。
【0167】
<動摩擦係数>
テストパネル3の塗膜面に、3個の鋼球がついた重さ1kgの錘を、鋼球が塗膜面と接するようにして乗せ、この錘を150cm/分の速さで引っ張り、このときの動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が小さいほど滑り性は良好である。
【0168】
<耐摩耗性>
トライボギアHEIDON-22H(新東科学(株)製)を使用し、荷重1000g、往復幅2mm、往復速度300mm/分の条件において、接触子φ3mmのステンレス球をテストパネル3上で往復運動させた。塗膜に傷が発生し、その傷がアルミ基材に到達するまでの往復回数を測定した。
A:往復回数が1000回以上
B:500回以上1000回未満
C:200回以上500回未満
D:200回未満
上記評価結果が「B」であれば、良好な耐摩耗性を有し、「A」であれば優れた耐摩耗性を有する。一方、「D」であれば耐摩耗性は不良である。
【0169】
<耐レトルト性試験>
缶胴部用評価の場合と同様に、テストパネル3を水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃-30分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で評価した。
A:未処理の塗膜と変化なし
B:ごく薄く白化
C:やや白化
D:著しく白化
上記評価結果が「B」であれば、良好な耐レトルト性を有し、「A」であれば優れた耐レトルト性を有する。一方、「D」であれば耐レトルト性は不良である。
【0170】
<密着性(碁盤目剥離試験)>
テストパネル3の塗膜にカッターナイフで基材に到達するように直交する11本の傷を1mm間隔で付けた後、水に前記テストパネルを浸漬したまま、レトルト窯で125℃-30分間レトルト処理を行い、23℃付近まで自然冷却し、密着性評価用の試験片とした。
各試験片の傷にセロハンテープを密着させた後、剥がし、塗膜の剥離状態等を観察した。
A:全く剥離なし
B:5%未満の剥離あり
C:5~20%の剥離あり
D:20%を超える剥離あり
上記評価結果が「B」であれば、良好な密着性を有し、「A」であれば優れた密着性を有する。一方、「D」であれば密着性は不良である。
【0171】
【表13】
【0172】
なお、表13中、
*1:NPES-629(NAN YA PLASTICS CORPORATION製BPA型エポキシ樹脂)
*8:MAA/EA/MMA/BMA = 45/10/15/30 ((B)-7と同じモノマー組成)
*9:MAA/St/EA = 50/25/25 ((B)-6と同じモノマー組成)
をそれぞれ表す。
【0173】
表13に示すように、WAXを添加した実施例102-2、105-2、123-2~126-2の水性塗料組成物より得られた塗膜は、従来のビスフェノール骨格を含むエポキシ樹脂を用いた比較例101-2の水性塗料組成物と同様にすべての物性が良好であった。
【符号の説明】
【0174】
1 テストパネル
2 丸棒
3 試験片
4 おもり
10 缶
11 缶材
12 塗膜
図1
図2