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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/00 20060101AFI20230222BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230222BHJP
   C08K 5/50 20060101ALI20230222BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20230222BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20230222BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C08L81/00
C08K3/013
C08K5/50
C08G75/045
C08K9/06
B32B27/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019068434
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164713
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
(72)【発明者】
【氏名】國土 萌衣
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047849(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/00
C08K 3/013
C08K 5/50
C08G 75/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子構造内に2以上の不飽和炭素結合を有する化合物と、(B)分子構造内に2以上のチオール基を有する化合物と、(C)ルイス塩基性化合物と、(D)無機フィラーと、(E)ラジカル発生剤と、を含有し、
(D)無機フィラーは、シランカップリング剤により表面処理が施されていることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
(C)ルイス塩基性化合物の含有量が、(A)分子構造内に2以上の不飽和炭素結合を有する化合物と(B)分子構造内に2以上のチオール基を有する化合物の合計含有量100質量部に対して0.5~3質量部であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
(C)ルイス塩基性化合物が、ホスフィン化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
ホスフィン化合物が、アリール基および/またはアルキルアリール基を有するホスフィン化合物であることを特徴とする請求項3に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
アリール基および/またはアルキルアリール基を有するホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィンであることを特徴とする請求項4に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を含むことを特徴とする積層板。
【請求項8】
請求項6に記載の硬化物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール-エン硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チオール基と不飽和炭素結合のラジカル付加であるチオール・エン反応は、酸素による阻害を受けづらく、速硬化性に優れるという利点がある。そのため、チオール基を有する化合物と不飽和炭素結合を有する化合物とを含む組成物(チオール-エン硬化性組成物)は光学用部品や接着剤の用途等で有用な硬化性組成物として提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-503143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、硬化性組成物においては高機能化の観点から、組成物中に無機フィラーを充填することで、無機フィラーが有する特性を硬化性組成物や硬化物に付与する方法が広く検討されている。このような場合には、硬化性組成物が無機フィラーを充填することで流動性が低下し、塗布性や成型性を阻害することが無いように調製することが重要となる。
【0005】
しかしながら、チオール-エン硬化性組成物においては、硬化性に優れるが故に、組成物が増粘やゲル化、ないしは硬化してしまう場合があり、塗布や成型におけるハンドリング性や組成物の長期保存が難しく、ポットライフ(可使時間)が短いことが問題であった。特にシリカ等の無機フィラーを配合させると、組成物のポットライフは著しく悪化してしまう。
【0006】
そこで本発明は、良好なポットライフを備えるチオール-エン硬化性組成物を提供することを課題とする。特に、無機フィラーを配合した場合でも、良好なポットライフを備えるチオール-エン硬化性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討したところ、チオール-エン反応を過剰に促進してしまう要因が組成物の酸性度にあると推測し、ルイス塩基性である化合物を配合したところ、詳細なメカニズムは明らかではないが、チオール-エン反応が安定化し、さらに、シリカ等の無機フィラーを充填しても良好なポットライフが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)分子構造内に2以上の不飽和炭素結合を有する化合物と、(B)分子構造内に2以上のチオール基を有する化合物と、(C)ルイス塩基性化合物と、(D)無機フィラーと、(E)ラジカル発生剤と、を含有する硬化性組成物を提供する。
【0009】
(C)ルイス塩基性化合物の含有量は、(A)分子構造内に2以上の不飽和炭素結合を有する化合物と(B)分子構造内に2以上のチオール基を有する化合物の合計含有量100質量部に対して0.5~3質量部でもよい。
【0010】
(C)ルイス塩基性化合物は、ホスフィン化合物でもよい。ホスフィン化合物は、アリール基および/またはアルキルアリール基を有するホスフィン化合物でもよく、特にトリフェニルホスフィンでもよい。
【0011】
また本発明によれば、前記硬化性組成物を硬化して得られる硬化物が提供される。
また本発明によれば、前記硬化物を含む積層板が提供される。
また本発明によれば、前記硬化物を有する電子部品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好なポットライフを備えるチオール-エン硬化性組成物を提供することが可能となる。特に、無機フィラーを配合した場合でも、良好なポットライフを備える硬化性組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のチオール-エン硬化性組成物について詳述する。なお、説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0014】
<成分(A):不飽和炭素結合を有する化合物>
本発明の硬化性組成物は、成分(A)として、分子構造内に2以上の不飽和炭素結合を有する化合物を含む。本発明において「不飽和炭素結合」とは、特に断らない限り、エチレン性二重結合を意味する。
【0015】
分子構造内に2以上の不飽和炭素結合を有する化合物としては、典型的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基から選択される1以上の官能基を合計2つ以上有する化合物が挙げられる。
【0016】
このような化合物としては、例えば、ポリオールとアクリル酸とのエステル化合物、ポリオールとメタクリル酸とのエステル化合物、アリルアルコールとポリカルボン酸とのエステル化合物などが挙げられる。
【0017】
ポリオールとアクリル酸とのエステル化合物としては、例えば、グリセリンジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートが挙げられる。
【0018】
ポリオールとメタクリル酸とのエステル化合物としては、例えば、グリセリンジメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジメタクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリメタクリレートが挙げられる。
【0019】
アリルアルコールとポリカルボン酸とのエステル化合物としては、ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、シュウ酸ジアリル、コハク酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリルが挙げられる。
【0020】
不飽和炭素結合を有する化合物としては、上述の化合物以外にも、ジアリルベンゼンやトリアリルシアヌレート、ブタジエン、ビニルエーテルなども含まれる。
【0021】
これらの中でも、優れたポットライブが得られることからアリル基を有する化合物、具体的には、アリルアルコールとポリカルボン酸とのエステル化合物が好ましく、ジアリルフタレートがより好ましく、ジアリルオルソフタレートが特に好ましい。また、硬化物の耐熱性や強度を向上させる観点から、ジアリルフタレートとトリアリルシアヌレートを併用することが好ましい。
【0022】
<成分(B):チオール基を有する化合物>
本発明の硬化性組成物は、成分(B)として、分子構造内に2以上のチオール基を有する化合物を含む。
【0023】
このような化合物としては、例えば、ポリオールとメルカプト有機酸のエステル化合物(チオール基含有エステル化合物)が挙げられる。
【0024】
チオール基含有エステル化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(β-チオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールポリ(β-チオプロピオネート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が挙げられる。
【0025】
チオール基を有する化合物としては、例えば、1,4-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、1,10-デカンジチオールなどのアルキルポリチオール化合物;末端チオール基を有するポリエーテル;末端チオール基を有するポリチオエーテル;エポキシ化合物と硫化水素との反応によって得られるチオール化合物;ポリチオール化合物とエポキシ化合物との反応によって得られる末端チオール基を有するチオール化合物;等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、チオール基含有エステル化合物が好ましく、硬化物の強靭性が優れる観点から、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオンが特に好ましい。
【0027】
(A)不飽和炭素結合を有する化合物および(B)チオール基を有する化合物の含有割合は、ポットライフの観点からチオール基を有する化合物に対して不飽和炭素結合を有する化合物が当量比で0.5以上19.0以下の割合であることが好ましく、硬化物の耐熱性や強度を向上する観点から3.0以上10.0以下の割合であることがより好ましい。
【0028】
ここでいう「当量比」とは、(A)不飽和炭素結合を有する化合物の当量とチオール基含有化合物の当量の比のことである。1当量のチオール基を有する化合物の質量は、チオール基を有する化合物の分子量を1分子中のチオール基の数で割った数である。1当量の不飽和炭素結合を有する化合物の質量は、不飽和炭素結合を有する化合物の分子量を1分子中の不飽和炭素結合の数で割った数である。つまり、チオール基を有する化合物に対して、不飽和炭素結合を有する化合物が当量比で0.5~2.0というのは、チオール基の数が1に対して不飽和炭素結合の数が0.5~2.0という意味である。
【0029】
本願において、成分(A)および(B)を併せて樹脂成分と呼称する場合がある。
【0030】
<成分(C):ルイス塩基性化合物>
本発明の硬化性組成物は、成分(C)として、ルイス塩基性化合物を含む。ルイス塩基性化合物とは非共有電子対を有する化合物のことである。このような化合物を使用することで、無機フィラーを含む組成物において、組成物のチオール-エン反応が安定化させることが可能となった。シリカ等の無機フィラーをチオール-エン反応系に配合すると硬化反応が促進されてしまう(即ち、ポットライフが短くなる)。そのためチオール-エン硬化性組成物にシリカ等の無機フィラーを配合することは従来できなかった。
【0031】
(C)ルイス塩基性化合物としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレートなど分子内にエーテル結合を有する化合物、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアルコールアクリル酸多量体エステルなどのオキソラン環含有化合物;トリメチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、1,2-ビスジフェニルフォスフィノベンゼン、ビスジフェニルホスフィノメタン、トリ(p―トリル)ホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3-メトキシフェニル)ホスフィンなどのホスフィン化合物や、トリフェニルホスファイト、トリ―p-トリルホスファイトなどのホスファイト化合物を含むリン化合物;が挙げられる。ホスフィン化合物は酸素と反応しても安定なホスフィンオキシド化合物を形成し、副反応を起こすリスクが小さい。次に、ホスフィン化合物について詳述する。
【0032】
ホスフィン化合物としては、典型的には、一般式(A)で表されるモノホスフィン化合物、一般式(B)で表されるジホスフィン化合物が挙げられる。
【0033】
【化1】
【0034】
【化2】
【0035】
ここで一般式(1)および一般式(2)におけるPはリン原子を表す。一般式(1)および一般式(2)におけるRは、それぞれ個別に、水素原子または炭素数1~15の炭化水素基を示す。Rのうち少なくとも1つは炭化水素基であることが好ましく、全てのRが炭化水素基であることが好ましい。一般式(2)におけるXは単結合または炭素数1~12の2価の炭化水素基を示す。
【0036】
炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状、分岐鎖状、環状いずれの構造であってもよい。炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。アルキルシクロアルキル基、アルキルアリール基やアリールアルキル基などそれぞれを置換基として有してもよい。炭化水素基のなかでもアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基が好ましく、アリール基またはアルキルアリール基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0037】
一般式(1)で表されるモノホスフィン化合物としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-iso-プロピルホスフィン、t-ブチルホスフィン、t-ブチルジメチルホスフィン、ジ-t-ブチルジメチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルヘキシルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルベンジルホスフィンが挙げられる。
【0038】
一般式(2)で表されるジホスフィン化合物としては、例えば、ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)メタン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンが挙げられる。
【0039】
(C)ルイス塩基性化合物としては、酸化されて形成されるホスフィンオキシド化合物の安定性がより高いことから、アリール基および/またはアルキルアリール基を有するホスフィン化合物(具体的には、式中のRがアリール基および/またはアルキルアリール基であるモノホスフィン化合物)がより好ましく、トリフェニルホスフィン(TPP)が最も好ましい。
【0040】
(C)ルイス塩基性化合物の含有量は、樹脂成分の合計含有量100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.1~4質量部がより好ましく、0.5~3質量部が更に好ましく、0.5~1.0質量部が特に好ましい。
【0041】
<成分(D):無機フィラー>
本発明の硬化性組成物は、成分(D)として、無機フィラーを含む。
【0042】
無機フィラーは、本発明の効果が阻害されない限りにおいて限定されない。無機フィラーとしては、例えば、シリカ(非結晶性シリカ、結晶性シリカ)、ノイブルグ珪土、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、ジルコニア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ガラス粉末、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、天然マイカ、合成マイカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化鉄、非繊維状ガラス、ハイドロタルサイト、ミネラルウール、アルミニウムシリケート、カルシウムシリケート、ジルコン酸カルシウム、亜鉛華等の無機フィラーを用いることができる。
そして、本発明の硬化性組成物は、組成物中で酸性を示すシリカ、ジルコニア、酸化チタン、活性アルミナ等の酸化金属類、タルク、クレー(カオリン)等のケイ酸塩鉱物を含んでも優れたポットライブが得られる。
【0043】
無機フィラーは付与する特性に応じて選択され、熱寸法安定性(低熱膨張性)、低誘電損失、高強度化の観点からシリカ、熱伝導性の観点から酸化アルミニウムや窒化ホウ素、白色化や光反射用途の観点からから酸化チタンが好ましい。また、無機フィラーの形状としては、充填性や硬化物の機械的強度の観点から球状であることがより好ましい。
【0044】
無機フィラーの平均粒径は、好ましくは0.02~10μm、より好ましくは0.02~3μmである。ここで平均粒径は、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から、累積分布によるメディアン径(d50、体積基準)として求めることができる。
【0045】
異なる平均粒径の無機フィラーを併用することも可能である。無機フィラーの高充填化を図る観点から、例えば平均粒径1μm以上の無機フィラーとともに、平均粒径1μm未満のナノオーダーの微小の無機フィラーを併用してもよい。
【0046】
無機フィラーはカップリング剤により表面処理が施されていることが好ましい。表面をシランカップリング剤で処理することで、組成物の他の成分との親和性/相溶性を向上させることができ、また組成物のポットライフを向上させることができる。
【0047】
シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、フェニルシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤などを用いることができる。エポキシシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。メルカプトシランカップリング剤としては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。ビニルシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシランなどを用いることができる。中でも、ポットライフを向上させることから、ビニルシランカップリング剤、フェニルシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤が好ましい。
【0048】
シランカップリング剤の使用量は、例えば、無機フィラー100質量部に対して0.1~5質量部、0.5~3質量部としてもよい。
【0049】
樹脂成分と(D)無機フィラーとの質量含有割合は、樹脂成分:無機フィラーが50:50~70:30の範囲内であることが好ましい。このような無機フィラーとの質量含有割合であれば、ポットライフに優れた硬化性樹脂組成物が得られる。
【0050】
<成分(E):ラジカル発生剤>
本発明の硬化性組成物は、成分(E)として、ラジカル発生剤を含む。ラジカル発生剤としては、熱ラジカル発生剤、光ラジカル発生剤が挙げられる。
【0051】
熱ラジカル発生剤としては、例えば、アゾ系、過酸化物系、レドックス系が挙げられる。
【0052】
アゾ系熱ラジカル発生剤としては、例えば、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4´-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2´-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´-アゾビス(N,N´-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0053】
過酸化物系熱ラジカル発生剤としては、例えば、ジベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルマレエート、過酸化ラウロイル、1,1-ビス(3,3-ジメチルブチルペルオキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0054】
光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、α-ケトール系、芳香族スルホニルクロリド系、光活性オキシム系、ベンゾイン系、ベンジル系、ベンゾフェノン系、ケタール系、チオキサントン系、アシルフォスフィンオキシド系等が挙げられる。
【0055】
ベンゾインエーテル系光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン[商品名:イルガキュア651、BASF社製]、アニソイン等が挙げられる。
【0056】
アセトフェノン系光ラジカル発生剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名:イルガキュア184、BASF社製]、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン[商品名:イルガキュア2959、BASF社製]、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン[商品名:ダロキュア1173、BASF社製]、メトキシアセトフェノン等が挙げられる。
【0057】
α-ケトール系光ラジカル発生剤としては、例えば、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエチル)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等が挙げられる。
【0058】
芳香族スルホニルクロリド系光ラジカル発生剤としては、例えば、2-ナフタレンスルホニルクロライド等が挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)-オキシム等が挙げられる。
【0059】
ベンゾイン系光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン等が挙げられる。
【0060】
ベンジル系光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンジル等が挙げられる。
【0061】
ベンゾフェノン光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3´-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が挙げられる。
【0062】
ケタール系光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0063】
チオキサントン系光ラジカル発生剤としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等が挙げられる。
【0064】
アシルフォスフィンオキシド系光ラジカル発生剤としては、例えば、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-n-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(1-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-t-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)シクロヘキシルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)オクチルホスフィンオキシド、ビス(2-メトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2-メトキシベンゾイル)(1-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジエトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジエトキシベンゾイル)(1-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジブトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4-ジメトキシベンゾイル)(2-メチルプロパン-1-イル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)(2,4-ジペントキシフェニル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルプロピルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルエチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルプロピルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2-フェニルエチルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルベンジルブチルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルベンジルオクチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジイソプロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2-メチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-4-メチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジエチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,3,5,6-テトラメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジ-n-ブトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)イソブチルホスフィンオキシド、2,6-ジメチトキシベンゾイル-2,4,6-トリメチルベンゾイル-n-ブチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジブトキシフェニルホスフィンオキシド、1,10-ビス[ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド]デカン、トリ(2-メチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0065】
(E)ラジカル発生剤の含有量は、樹脂成分の合計含有量100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.1~4質量部がより好ましく、0.5~3質量部が特に好ましい。
【0066】
本発明の組成物は、さらに、必要に応じて、シランカップリング剤、イオントラップ剤、レベリング剤、消泡剤、搖変剤、粘度調整剤、難燃剤、界面活性剤などの添加剤を含有してもよい。
【0067】
<硬化物>
硬化物は、上述した硬化性組成物を硬化することで得られる。
【0068】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。一例として、プリント配線板等の基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)を行う工程を実施した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、成分として熱ラジカル発生剤を含有していれば加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)、光ラジカル発生剤を含有していれば露光(光源として、高圧水銀灯ランプやメタルハライドランプ等を搭載した光照射装置による露光)によりラジカル種を発生させ、チオール-エン反応を起こす硬化工程を実施すればよい。なお、各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度および時間、加熱温度および時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0069】
<封止材・アンダーフィル材>
本発明の硬化性組成物は、速硬化性を備え、硬化収縮が小さいことから、電子部品の封止材やアンダーフィル材に用いることができる。
【0070】
詳しく説明すると、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、リジッド及びフレキシブル配線板、ガラス、シリコーンウエハ等の支持基材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、抵抗アレイ、コイル、スイッチ等の受動素子などの素子を搭載し、支持基材と素子の間や素子を覆うように本発明の硬化性組成物をディスペンス方式、注型方式、印刷方式等により注入、被覆し、硬化させる。特にリジッド及びフレキシブル配線板やガラス上に形成した配線に半導体素子をバンプ接続によるフリップチップボンディングした実装方法に好適である。
【0071】
<電子部品>
本発明の硬化性組成物からなる硬化物は、硬化収縮が小さく、含有する無機フィラーによって強度、熱伝導性、光反射性を付与することができるため、多種多用な電子部品に使用可能である。
【実施例
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
以下、実施例、比較例および参考例に用いた原料を列記する。
【0074】
A-1:ジアリルオルソフタレート(東京化成工業社製)
A-2:ジアリルイソフタレート(東京化成工業社製)
A-3:トリアリルシアヌレート(東京化成工業社製)
B-1:1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(昭和電工株式会社製)
C-1:トリフェニルホスフィン(富士フィルム枠純薬株式会社製)
D-1:表面修飾されていないシリカ(アドマテックス社製「SQC6(粒径500nm)」)
D-2:ビニル修飾されたシリカ(アドマテックス社製「SV-C10(粒径500nm)」)
D-3:フェニル修飾されたシリカ(アドマテックス製「5SP-E1(粒径600nm)」)
E-1:1,1-ビス(3,3-ジメチルブチルペルオキシ)シクロヘキサン
【0075】
表1に記載した組成にて実施例、比較例および参考例の硬化性組成物を調製した。これら組成物について下記の試験によって評価した。評価結果は表1に併記した。
【0076】
(粘度)
組成物の粘度[mPa・s]を25℃、50rpmの条件にてコーンプレート型粘度計(東機産業社製TVH-33H)で測定した。調製直後および調製から6時間経過後の2度のタイミングにおいて測定した。
【0077】
なお、表中の『粘度(0h)』は調製直後の組成物の粘度を意味し、『粘度(6h)』は調製から6時間経過後の組成物の粘度を意味する。
【0078】
(ポットライフ)
ポットライフは、6時間経過による組成物の増粘比率(粘度(6h)/粘度(0h))によって評価した。増粘比率が1.2未満のものを「◎」、1.2以上1.5未満のものを「〇」、1.5以上2.0未満のものを「△」、2.0以上のものを「×」と評価した。
【0079】
(弾性率)
ガラス板にポリテトラフルオロエチレンテープ(PTFEテープ:ガラスクロス入り,表面が粗面)を貼って、その上から同じサイズの表面が平滑なPTFEテープを重ね貼りする。そのテープ付きガラス板を二枚用意する。そしてその片方のガラス板のテープの両端から1cmのところにもう二枚テープを重ね貼りしてスペーサーとする。スペーサー付きのガラス板のテープ上にサンプルを充填させもう一枚のガラス板で挟み込み両端をクリップで固定した。そのサンプルが充填されたガラス板を110℃で熱した熱風循環式乾燥炉で1時間硬化させ硬化膜を得た。この硬化膜を幅 5mm、長さ70mmにカットし、引張試験を下記条件にて行い、試験応力が0.5MPaから1.0MPaにかけての応力-歪み曲線の傾きからN=5の平均弾性率を求めた。
[測定条件]
試験機:引張試験機EZ-SX(株式会社島津製作所製)
チャック間距離:50mm
試験速度:3mm/min
伸び計算:(引張移動量/チャック間距離)×100
【0080】
(ガラス転移温度)
弾性率の評価と同様に作製した硬化膜を幅5mm、長さ30mmにカットし、動的粘弾性試験(DMA)を下記条件にて行い、ガラス転移温度を測定した。
[測定条件]
試験機:G2 RSA (ティー・エイ・インスツルメント社製)
測定モード:引張モード
チャック間距離:10mm
温度条件:窒素雰囲気下、-30℃~150℃まで5℃/分で昇温させた後、150~-30℃まで5℃/分で降温し、降温過程でのガラス転移温度を測定
【0081】
【表1】