(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】白金族金属系触媒及び硬化性オルガノポリシロキサン組成物並びに剥離シート
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20230222BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20230222BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C08L83/07
C09D183/04
C09D4/02
(21)【出願番号】P 2021536982
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028326
(87)【国際公開番号】W WO2021020247
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2019139763
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】小林 中
(72)【発明者】
【氏名】井原 俊明
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-077979(JP,A)
【文献】特開2011-254009(JP,A)
【文献】特開平11-335564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C09D 183/04
C09D 4/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)白金族金属系触媒と、ii)(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンとを含有する触媒組成物であって、該触媒組成物の全質量に対する白金族金属原子の量が0.01~5.0質量%である、
前記触媒組成物。
【請求項2】
該触媒組成物の全質量に対する白金族金属原子の量が0.1~0.6質量%である、請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記i)白金族金属系触媒が、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンを配位子としたカールステッド触媒である、請求項1又は2記載の触媒組成物。
【請求項4】
iii)(メタ)アクリル基を有さないオルガノポリシロキサンを触媒組成物全質量に対して99質量%以下でさらに含有し、上記ii)オルガノポリシロキサンの量が触媒組成物全質量に対して0.5~99.5質量%である、請求項1~3のいずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記ii)オルガノポリシロキサンが重量平均分子量500以上を有する、請求項1~4のいずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項6】
以下の(A)~(C)成分を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物、
(A)請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒組成物を、(A)、(B)、及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~
70質量ppmとなる量
であり、該(A)触媒組成物中に含まれるii)オルガノポリシロキサンの量が(A)、(B)、及び(C)成分の合計100質量部に対し0.01~3質量部となる量、
(B)
下記平均組成式(1)で表される、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有する、
直鎖状のオルガノポリシロキサン
R
1
a
SiO
(4-a)/2
・・・(1)
(式中、R
1
は互いに独立に、非置換の、又はハロゲン原子置換された、炭素数1~12の1価炭化水素基であり、R
1
のうち少なくとも2つはアルケニル基であり、aは0<a≦3を満たす正数である)、及び
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分中のアルケニル基の個数に対する(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が1~5となる量。
【請求項7】
(C)成分が下記平均組成式(2)で表される、請求項
6記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物
R
2
bH
cSiO
(4-b-c)/2・・・(2)
(式中、R
2は互いに独立に、アルケニル基でない、非置換又は置換の炭素数1~12の1価炭化水素基であり、b及びcは、0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦3.0を満たす正数であり、但し該(C)成分は少なくとも2個のヒドロシリル基を有する)。
【請求項8】
(A)、(B)、及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~50質量ppmである、請求項6又は7記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項9】
以下の(A)~(C)成分を含む剥離シート用硬化性オルガノポリシロキサン組成物、
(A)請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒組成物を、(A)、(B)、及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~70質量ppmであり、該(A)触媒組成物中に含まれるii)オルガノポリシロキサンの量が(A)、(B)、及び(C)成分の合計100質量部に対し0.01~3質量部となる量、
(B)下記平均組成式(1)で表される、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
R
1
a
SiO
(4-a)/2
・・・(1)
(式中、R
1
は互いに独立に、非置換の、又はハロゲン原子置換された、炭素数1~12の1価炭化水素基であり、R
1
のうち少なくとも2つはアルケニル基であり、aは0<a≦3を満たす正数である)、及び
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分中のアルケニル基の個数に対する(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が1~5となる量。
【請求項10】
(C)成分が下記平均組成式(2)で表される、請求項9記載の剥離シート用硬化性オルガノポリシロキサン組成物
R
2
b
H
c
SiO
(4-b-c)/2
・・・(2)
(式中、R
2
は互いに独立に、アルケニル基でない、非置換又は置換の炭素数1~12の1価炭化水素基であり、b及びcは、0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦3.0を満たす正数であり、但し該(C)成分は少なくとも2個のヒドロシリル基を有する)。
【請求項11】
(A)、(B)、及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~50質量ppmである、請求項9又は10記載の剥離シート用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項12】
シート状基材と、該基材の少なくとも一面に請求項
9~11のいずれか1項記載の
剥離シート用硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなる層とを有する剥離シート。
【請求項13】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法であり、
i)白金族金属系触媒と、ii)(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンとを混合して触媒組成物を調製する工程を含むことを特徴とし、該触媒組成物において、触媒組成物の全質量に対する白金族金属原子の量が0.01~5.0質量%であり、
前記触媒組成物(A)と、下記(B)及び(C)成分とを、
(B)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分中のアルケニル基の個数に対する(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が1~5となる量
前記(A)、(B)及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~70質量ppmとなる量で混合して硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得る工程を含む、前記製造方法。
【請求項14】
該(A)触媒組成物中に含まれるii)オルガノポリシロキサンの量が(A)、(B)、及び(C)成分の合計100質量部に対し0.01~5質量部となる量である、請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
前記i)白金族金属系触媒が、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンを配位子としたカールステッド触媒である、請求項13又は14記載の製造方法。
【請求項16】
iii)(メタ)アクリル基を有さないオルガノポリシロキサンを触媒組成物全質量に対して99質量%以下でさらに含有し、上記ii)オルガノポリシロキサンの量が触媒組成物全質量に対して0.5~99.5質量%である、請求項13~15のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項17】
(B)成分が下記平均組成式(1)で表される、請求項13~16のいずれか1項記載の製造方法
R
1
a
SiO
(4-a)/2
・・・(1)
(式中、R
1
は互いに独立に、非置換の、又はハロゲン原子置換された、炭素数1~12の1価炭化水素基であり、R
1
のうち少なくとも2つはアルケニル基であり、aは0<a≦3を満たす正数である)。
【請求項18】
(C)成分が下記平均組成式(2)で表される、請求項13~17のいずれか1項記載の製造方法
R
2
b
H
c
SiO
(4-b-c)/2
・・・(2)
(式中、R
2
は互いに独立に、アルケニル基でない、非置換又は置換の炭素数1~12の1価炭化水素基であり、b及びcは、0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦3.0を満たす正数であり、但し該(C)成分は少なくとも2個のヒドロシリル基を有する)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保存安定性が高くかつヒドロシリル化反応を促進する触媒として有用な白金族金属系触媒、及びそれを用いた硬化性オルガノポリシロキサン組成物、並びにそれを用いて製造された剥離シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドロシリル化反応でポリマーを架橋させるための触媒としては、数多くの白金族金属系触媒が知られている。その中でも、特公昭42-22924号公報や特公昭46-28795号公報に記載されているような、ビニル基含有シロキサンと塩化白金酸等の白金化合物との反応によって製造される白金-ビニルシロキサン錯体触媒は触媒活性が高く、ヒドロシリル化反応用の触媒として有用とされている。
【0003】
一方、ヒドロシリル化反応で架橋する硬化性オルガノポリシロキサン組成物が数多く報告されており、紙やプラスチック等のシート状基材と粘着材料との接着や固着を防止するために、基材表面に該組成物の硬化皮膜を形成した剥離シートとしての利用が古くから知られている(特許文献1:特開昭47-32072号公報)。ヒドロシリル化反応で剥離性皮膜を形成する方法は、硬化性に優れ、軽剥離から重剥離までの様々な剥離特性の要求に対して対応可能であることから広く用いられている。
【0004】
従来、剥離シート用硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対し、前述した白金族金属系触媒は白金族金属濃度として60~500質量ppmの量で使用される場合が多い。これは白金族金属濃度が60質量ppm未満の場合、硬化反応が十分に進まず残存するSi-H基量が多くなることから剥離力が高くなり、また、未反応のオルガノポリシロキサンが存在し移行成分となるため、剥離紙に貼り合わせる粘着剤面に未反応のオルガノポリシロキサンが移行し粘着力の低下を起こすためである。そのため、剥離シートの製造において、白金族金属触媒の使用量を減らすことは困難であることが多い。
【0005】
しかしながら、白金族金属は地球上において希少な貴金属であるため価格が高く、剥離シートの製造原価の中に占める白金族金属触媒の割合は大きい。白金族金属系触媒を減らすことが低価格化に直結するため、白金族金属系触媒の使用量を減らすことが強く望まれている。
【0006】
加えて白金族金属系触媒は、長期保管や高温下での保管時に白金族金属同士が凝集することで黒色に変色し、触媒活性が低下することが知られている。前述した白金-ビニルシロキサン錯体触媒では、ビニル基含有シロキサンの含有量を増やせば白金族金属同士の凝集を抑制できるが、それと同時に触媒活性も低下することから望ましくない。そのため触媒活性を低下させることなく、高い保存安定性を有する白金族金属系触媒の開発が依然として望まれている。
【0007】
白金族金属系触媒の使用量を低減する方法として、特表2018-520214号公報には、シリコーンベースポリマーと、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等のアクリレートとを含む離型コーティング材が記載されている。該コーティング材によれば、アクリレートがヒドロシリル化の促進剤として作用することで、剥離コーティング組成物に一般的に使用される白金触媒の濃度を減少することができる。しかし特表2018-520214号公報には触媒の保存安定性については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭42-22924号公報
【文献】特公昭46-28795号公報
【文献】特開昭47-32072号公報
【文献】特表2018-520214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、保存安定性が高く、少ない白金族金属系触媒量での付加反応が可能な白金族金属系触媒、並びに該触媒を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供すること、及び該組成物の硬化物を有する剥離シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点を解消するために鋭意検討した結果、(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと白金族金属触媒との混合である触媒組成物は、保存安定性が高く、少ない白金族金属系触媒量で付加反応が可能な白金族金属系触媒となる事を見出した。さらに、付加反応硬化型のオルガノポリシロキサン組成物に当該触媒組成物を配合することで硬化性を向上できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
すなわち本発明は、i)白金族金属系触媒と、ii)(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンとを含有する触媒組成物であって、該触媒組成物の全質量に対する白金族金属原子の量が0.01~5.0質量%である、前記触媒組成物を提供する。
好ましい態様としては、前記触媒組成物の全質量に対する白金族金属原子の量が0.1~0.6質量%である、前記触媒組成物を提供する。
さらに本発明は、以下の(A)~(C)成分を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物の硬化物を備える剥離シートを提供する。
(A)上述した触媒組成物を、(A)、(B)、及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~100質量ppmとなる量、
(B)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、及び
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分中のアルケニル基の個数に対する(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が1~5となる量。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒組成物は、触媒活性が高くかつ保存安定性が高いために、ヒドロシリル化反応用の触媒として好適に使用することができる。さらに本発明の触媒組成物を含有した硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、少ない触媒量で十分に硬化することができ、従来の組成物と同等の剥離力を有する硬化皮膜形成が可能である。従って、剥離シート等の用途に好適に使用でき、また、白金族金属系原子量を減らせるため剥離シートの製造原価を大幅に安くすることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
(A)白金族金属系触媒組成物
本発明の(A)成分は、i)白金族金属系触媒と、ii)(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンとを含有する白金族金属系の触媒組成物である。当該触媒組成物中のi)白金族金属系触媒の量は、(A)触媒組成物の質量に対する白金族金属原子の含有率が0.01~5.0質量%、好ましくは0.015~4.75質量%、より好ましくは0.02~4.5質量%となる量である。より好ましくは、0.1~0.6質量%であり、より好ましくは0.12~0.5質量%であり、特に好ましくは0.15~0.45質量%となる量である。また、(A)触媒組成物中のii)オルガノポリシロキサンの含有割合は、(A)成分全体の質量に対して99.9質量%以下であり、好ましくは99.85質量%以下、好ましくは99.75質量%以下であり、より好ましくは99.5質量%以下である。当該触媒組成物は更に、希釈剤として、iii)(メタ)アクリル基を有さないオルガノポリシロキサンを99質量%以下で含んでいても良い。該iii)希釈剤の量は、好ましくは0.1~99質量%であり、好ましくは0.1~98.5質量であり、より好ましくは1~97.5質量%、さらに好ましくは3~95質量%となる量である。さらに好ましくは5~90質量%であり、さらに好ましくは10~80質量%となる量である。該希釈剤を含む場合、ii)成分の含有量は、好ましくは0.5~99.5質量%であり、さらに好ましくは2.5~99.5質量%であり、さらに好ましくは5~99質量%であるのがよい。
【0014】
上記触媒組成物の調製方法は、上記i)成分、ii)成分、及び必要に応じてiii)成分をそれぞれの所定量添加し混合する方法が一般的である。添加する順番に特に規定はないが、上記iii)成分を添加する場合、ii)成分及びiii)成分を予め均一に混合した後、i)成分を添加する方法が好ましい。
【0015】
i)白金族金属系触媒は、従来公知の、白金族金属錯体を主成分とする白金族金属系触媒であればよい。前記白金族金属系触媒とは、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸と各種オレフィン類との錯体、塩化白金酸とビニル基含有オルガノシロキサン等との錯体、白金とビニル基含有オルガノシロキサン等との錯体である。白金族金属原子とはこれらの触媒に含まれる白金原子等を意味する。中でも特に、白金とビニル基含有オルガノシロキサン等との錯体が好ましい。該触媒は塩化白金酸6水和物(H2PtCl6・6H2O)と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンを反応させることで得ることができる。また、公知の触媒として、白金と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体であるカールステッド触媒も好適である。該触媒中の白金族金属原子の含有量(白金族金属濃度)は、例えばカールステッド触媒の場合、通常17.0~24.0質量%である。
【0016】
ii)(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンは、(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン化合物であり、1種単独で又は2種以上の組合せであってもよい。該オルガノポリシロキサンを白金族金属系触媒と混合することで、白金族金属系触媒の保存安定性及び触媒活性を高めることができる。この明確な理由については定かではないが、ii)(メタ)アクリル基含有オルガノポリシロキサンが白金族金属原子に何らかの形で配位することで、上記効果を発現していると推測される。
【0017】
ii)オルガノポリシロキサンは、(メタ)アクリル基を1分子中に2個以上有し、好ましくは3~200個有し、より好ましくは3~50個有するのがよい。(メタ)アクリル基の数が上記上限値を超えると、後述する組成物に配合した際に、(B)成分及び(C)成分との相溶性が低下するおそれがあるため好ましくない。また、(メタ)アクリル基の数が上記下限値未満では触媒の保存安定性を向上することができない。これは、オルガノポリシロキサンが、白金族金属原子に十分に配位することができないためと推測される。
【0018】
ii)オルガノポリシロキサンは重量平均分子量500以上を有するのがよく、好ましくは500~27,000であり、より好ましくは580~20,000であり、さらに好ましくは650~10,000である。重量平均分子量が上記下限値より少ない場合、白金原子に対する配位が弱くなるためか、(A)成分の保存安定性が低下することがある。また重量平均分子量が上記上限値を超えると、(B)成分及び(C)成分との相溶性が低下することがあるため好ましくない。尚、本発明において、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:トルエン)によるポリスチレン換算の重量平均分子量により測定できる。
【0019】
ii)(メタ)アクリル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンの構造は特に制限されるものでなく、直鎖状、分岐状、及び網目状のいずれでもよいが、特には下記一般式(3)で表される化合物が好ましい。尚、下記括弧内に示されるシロキサン単位の結合順序は制限されるものでなく、ランダムに配列していても、ブロック構造を形成していてもよい。
【化1】
(式中、R
3は、互いに独立に、非置換又は置換の炭素原子数1~18の一価炭化水素基、アルコキシ基、水酸基、エポキシ基、ポリオキシアルキレン基、または(メタ)アクリル基を有する有機基であり、R
3のうち少なくとも2つは(メタ)アクリル基を有する有機基であり、dは0~12の整数であり、eは0~500の整数であり、fは0~10の整数であり、gは0~5の整数であり、2≦d+e+f+g≦500を満たす。)
【0020】
上記式(3)において、炭素原子数1~18の非置換又は置換の一価炭化水素基は、好ましくは炭素原子数1~12であり、さらに好ましくは炭素原子数1~8である。該一価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、及びドデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、プロペニル基、5-ヘキセニル基、オクテニル基、及びデセニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、及びトリル基等のアリール基;ベンジル基、及びフェネチル基等のアラルキル基;これらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部をハロゲン原子、エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基、シアノ基、水酸基等で置換したものが挙げられる。また、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基等が挙げられる。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、及びポリオキシプロピレン基等が挙げられる。
【0021】
上記式(3)において、R3のうち少なくとも2つは(メタ)アクリル基を有する有機基である。好ましくは(メタ)アクリル基含有有機基を有するケイ素原子の割合が、全ケイ素原子中の0.01~50mol%であり、より好ましくは0.05~45mol%、更に好ましくは0.1~40mol%であるのがよい。(メタ)アクリル基含有有機基の量が、上記下限値より少ないと、白金原子に対する配位が弱くなるためか、(A)成分の保存安定性が低下することがある。更に硬化促進効果もはっきりしない場合がある。また上記上限値より多いと、(B)成分及び(C)成分との相溶性が低下することがあるため好ましくない。
【0022】
(メタ)アクリル基含有有機基とは、より詳細には、CH2=CR4COOR5-で表される基である。R4は水素原子もしくはメチル基であり、水素原子がより好ましい。R5は炭素原子数1~20の2価の基であり、分岐や環状構造を有していてもよく、エポキシ基、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート結合、水酸基を含んでいてもよい。R5としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デシレン基等の直鎖状のアルキレン基、メチルエチレン基、メチルプロピレン基等の分岐状アルキレン基、シクロヘキシレン基等の環状アルキレン基、プロペニレン基等のアルケニレン基、フェニレン基等のアリーレン基、メチレンフェニレン基、メチレンフェニレンメチレン基等のアラルキレン基等の2価炭化水素基が例示され、また、この2価炭化水素基に、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート結合を介在していてもよく、これらを組み合わせて用いることもできる。更に、これらの2価炭化水素基の水素原子の一部又は全部がエポキシ基や水酸基で置換されていてもよい。これらの中でもR5としては、プロピレン基が特に好ましい。
【0023】
上記式(3)におけるdは0~12の整数であり、好ましくは0~10の整数であり、より好ましくは0~8の整数である。eは0~500の整数であり、好ましくは0~400の整数であり、より好ましくは2~300の整数である。fは0~10の整数であり、好ましくは0~6の整数であり、より好ましくは0~3の整数である。gは0~5の整数であり、好ましくは0~4の整数であり、より好ましくは0~3の整数である。e、f及びgが上記上限値より多いと粘度が高くなってしまい、後述する(B)成分及び(C)成分との相溶性が低下することがあるため好ましくない。また2≦d+e+f+g≦500であり、好ましくは2≦d+e+f+g≦400であり、より好ましくは2≦d+e+f+g≦300を満たす。
【0024】
上記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンとしては、例えば下記のものが挙げられる。
・(AMeSiO2/2)3~10
・(Me3SiO1/2)2(AMeSiO2/2)2~200(Me2SiO2/2)0~495
・(Me3SiO1/2)0~1(A’Me2SiO1/2)1~2(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~495
・(Me3SiO1/2)3~12(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~493(ASiO3/2)0~9(MeSiO3/2)1~10
・(Me3SiO1/2)0~11(A’Me2SiO1/2)1~12(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~493(ASiO3/2)0~9(MeSiO3/2)1~10
・(Me3SiO1/2)3~12(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~494(ASiO3/2)1~10(MeSiO3/2)0~9
・(Me3SiO1/2)4~12(AMeSiO2/2)2~200(Me2SiO2/2)0~492(SiO4/2)1~5
・(Me3SiO1/2)5~12(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~490(ASiO3/2)0~9(MeSiO3/2)1~10(SiO4/2)1~5
・(Me3SiO1/2)0~11(A’Me2SiO1/2)1~12(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~490(ASiO3/2)0~9(MeSiO3/2)1~10(SiO4/2)1~5
・(Me3SiO1/2)5~12(AMeSiO2/2)0~200(Me2SiO2/2)0~491(ASiO3/2)1~10(MeSiO3/2)0~9(SiO4/2)1~5
(上記各式において、MeはCH3-であり、AはCH2=CHCOOC3H6-もしくはCH2=C(CH3)COOC3H6-であり、A’はCH2=CHCOOCH2-もしくはCH2=C(CH3)COOCH2-である)
【0025】
(A)触媒組成物は上記の通り、さらに希釈剤として、iii)(メタ)アクリル基を有さないオルガノポリシロキサンを含有してもよい。該オルガノポリシロキサンは、(メタ)アクリル基以外のいかなる置換基を有していてもよい。例えば、上記一般式(3)においてR3で示した基のうち(メタ)アクリル基含有有機基以外の置換基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。また、iii)オルガノポリシロキサンの分子構造は、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状等いずれでもよい。粘度は、希釈剤として機能するものであればよいが、回転粘度計により測定した25℃における粘度1~10,000mPa・sを有するのが好ましく、1~1,000mPa・sがより好ましい。粘度が上記下限値より低いと、塗工量が不十分になる恐れがある。また上記上限値を超えると作業性が低下する恐れがある。上記iii)希釈剤を含む場合、(A)成分の全質量に対して、99質量%以下、好ましくは0.1~99質量%、好ましくは0.1~98.5質量%、より好ましくは1~97.5質量%、さらに好ましくは3~95質量%、より好ましくは5~90質量%、さらに好ましくは10~80質量%となる量であるのがよい。
【0026】
硬化性オルガノポリシロキサン
さらに本発明は、以下の(A)~(C)成分を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物の硬化物を備える剥離シートを提供する。
(A)上述した触媒組成物を、(A)、(B)、及び(C)成分の合計質量に対する白金族金属原子の量が1~100質量ppmとなる量、
(B)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、及び
(C)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを、(B)成分中のアルケニル基の個数に対する(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数比が1~5となる量。
【0027】
当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物における(A)成分の配合量は、いわゆる触媒量であればよく、すなわち、後述する(B)成分と(C)成分の付加反応を進行させるための有効量であればよい。通常、剥離シート用硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、硬化皮膜作製のために配合する触媒濃度は、組成物中、白金族金属原子の量として60~500質量ppmである。しかし本発明においては、(A)触媒組成物の配合量は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の全質量、すなわち(A)~(C)成分の合計質量に対して、白金族金属原子の質量換算で1~100質量ppmであればよく、好ましくは1~70質量ppm、より好ましくは1~50質量ppmであることができる。本発明の(A)触媒組成物であれば、このような少ない触媒量であっても、硬化反応を十分に進行させることができる。
【0028】
さらには、硬化性オルガノポリシロキサン組成物における(A)触媒組成物の配合量は、(A)成分中に含まれるii)オルガノポリシロキサンの量が、(A)、(B)、及び(C)成分の合計100質量部に対して0.01~5質量部となる量であり、好ましくは0.05~3質量部、より好ましくは0.1~2質量部であるのがよい。上記下限値未満では、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化促進効果が十分に得られず、また、組成物の保存安定性が低下するおそれもある。一方、上記上限値を超えると、得られる硬化物を有する剥離シートを対象物から剥離する際に移行成分が増えるため、残留接着率や密着性が低下するおそれがある。
【0029】
以下、硬化性オルガノポリシロキサン組成物に含まれる(B)成分及び(C)成分について更に説明する。
[(B)成分]
(B)成分は、下記平均組成式(1):
R1
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は互いに独立に、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R1のうち少なくとも2つはアルケニル基であり、aは0<a≦3を満たす正数である)
で表される、ケイ素に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。(B)成分は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
(B)成分はビニル価0.001~0.7mol/100gを有するのが好ましく、0.005~0.5mol/100gがより好ましく、0.01~0.1mol/100gがさらに好ましい。ビニル価が上記下限値より少ないと、反応点が少なくなりすぎて硬化不良を起こす場合があり、上記上限値を超えると、架橋密度が高くなりすぎて剥離が重くなる場合がある。アルケニル基としては、炭素原子数2~8、好ましくは2~4であるのがよい。例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、及びヘプテニル基等が挙げられ、中でもビニル基が好ましい。
【0031】
(B)成分中のアルケニル基以外の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~12、好ましくは1~10の、非置換又は置換の1価炭化水素基が挙げられる。非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。中でもアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0032】
上記式(1)中のaは0<a≦3を満たす正数であり、該オルガノポリシロキサンは直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。またこのような(B)成分の回転粘度計により測定した25℃における粘度は特に限定されないが、5~70,000mPa・s(30質量%トルエン溶解粘度)が好ましく、7~60,000mPa・s(30質量%トルエン溶解粘度)がより好ましい。ここで30質量%トルエン溶解粘度とは、オルガノポリシロキサンをトルエン中に30質量%溶解した溶液の粘度のことである。粘度が上記下限値より低いと、塗工量が不十分になる恐れがある。また上記上限値を超えると作業性が低下する恐れがある。
【0033】
(B)成分は重量平均分子量100~300,000を有するのが好ましく、500~280,000がより好ましい。(B)成分の重量平均分子量が上記下限値より低いと、基材への塗工量が不十分になる場合がある。また、上記上限値を超えると、作業性が低下する場合がある。なお、本発明において、重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:トルエン)によるポリスチレン換算の重量平均分子量により測定できる(以下、同様)。
【0034】
(B)成分として、例えば、両末端アルケニル基含有シロキサン、側鎖アルケニル基含有シロキサン、片末端及び側鎖アルケニル基含有シロキサン、両末端及び側鎖アルケニル基含有シロキサン、分岐型末端アルケニル基含有シロキサンを挙げることができる。
より詳細には、下記のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンが例示される。
・(ViMe2SiO1/2)2(Me2SiO2/2)1~n
・(ViMe2SiO1/2)1(Me2SiO2/2)1~n(ViMeSiO2/2)1~m
・(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)1~n(ViMeSiO2/2)2~m
・(ViMe2SiO1/2)3~p(Me2SiO2/2)0~n(ViMeSiO2/2)0~m(MeSiO3/2)1~q
・(ViMe2SiO1/2)4~p(Me2SiO2/2)0~n(ViMeSiO2/2)0~m(MeSiO3/2)1~q(SiO4/2)1~r
(式中、MeはCH3-であり、ViはCH2=CH-である。また、n、m、p、q、及びrは0以上の整数であり、且つ、上記オルガノポリシロキサンの25℃における粘度が5~70,000mPa・s(30質量%トルエン溶解粘度)を満たす値である)
【0035】
[(C)成分]
(C)成分は、下記平均組成式(2):
R2
bHcSiO(4-b-c)/2・・・(2)
(式中、R2は互いに独立に、アルケニル基ではない、非置換又は置換の炭素数1~12の1価炭化水素基であり、b及びcは、0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦3.0を満たす正数である)で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(Si-H基)を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。(C)成分は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(C)成分は、該(C)成分中のSi-H基が(B)成分中に含まれるアルケニル基とヒドロシリル化反応して架橋構造を形成する、所謂架橋剤である。
【0036】
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、Si-H基を1分子中に3~200個有することが好ましく、10~100個有することがより好ましい。また、Si-H基含有量としては、0.001~3.5mol/100gが好ましく、0.01~2.5mol/100gがより好ましく、0.02~2.0mol/100gがさらに好ましい。Si-H基含有量が少なすぎると、キュアー性や密着性が悪くなる場合があり、多すぎると剥離力が重くなる場合がある。
【0037】
上記平均組成式(2)において、R2は、アルケニル基ではない、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、上述した式(1)中のR1として例示したものが挙げられる。全R2の少なくとも50モル%、典型的には60~100モル%はメチル基であることが好ましい。メチル基の割合が全R2の50モル%未満の場合、(B)成分との相溶性に劣り、白濁もしくは組成物が相分離したりするという問題が発生する恐れがある。bは0.7≦b≦2.1、cは0.001≦c≦1.0、b+cは0.8≦b+c≦3.0を満たす正数である。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは直鎖状、及び分岐状のいずれであってもよい。
【0038】
(C)成分の回転粘度計により測定した25℃での粘度は特に限定されないが、2~1,000mPa・sが好ましく、2~500mPa・sがより好ましく、5~200mPa・sがさらに好ましい。25℃における粘度が上記下限値より低いと、基材との密着性が悪化する場合がある。また上記上限値を超えると硬化性が低下し、残留接着率の低下や剥離力の上昇が見られる場合がある。また(C)成分は、重量平均分子量100~10,000を有するのが好ましく、200~5,000がより好ましい。(C)成分の重量平均分子量が上記下限値より小さいと密着性が大幅に悪化する場合があり、上記上限値より大きいと反応性が悪くなり、残留接着率の低下や剥離力の上昇が見られる場合がある。重量平均分子量の測定方法は上述した通りである。
【0039】
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、例えば、両末端ハイドロジェンシリル基含有シロキサン、側鎖ハイドロジェンシリル基含有シロキサン、片末端及び側鎖ハイドロジェンシリル基含有シロキサン、両末端及び側鎖ハイドロジェンシリル基含有シロキサン等を挙げることができる。
より詳細には、下記のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが例示される。
・(MeHSiO2/2)2~200(Me2SiO2/2)0~200
・(Me3SiO1/2)2(MeHSiO2/2)2~200
・(Me3SiO1/2)2(MeHSiO2/2)2~200(Me2SiO2/2)1~200
・(Me2HSiO1/2)2(MeHSiO2/2)0~198(Me2SiO2/2)0~200
・(Me3SiO1/2)3~12(MeHSiO2/2)2~200(Me2SiO2/2)0~200(MeSiO3/2)1~10
・(Me3SiO1/2)3~12(MeHSiO2/2)1~199(Me2SiO2/2)0~200(HSiO3/2)1~10
(式中、MeはCH3-である。)
【0040】
硬化性オルガノポリシロキサン中の(B)成分と(C)成分の配合比は、(B)成分中のアルケニル基の個数に対する、(C)成分中のSi-H基の個数の比が1~5となる量比であり、より好ましくは個数比が1.2~3となる量比であるのがよい。(C)成分の量が上記下限値より少ないと、硬化性と密着性が不十分となることがある。また上記上限値より多いと残存するSi-H基量が増えるため、剥離力が高くなるといった問題が生じる。
【0041】
[その他の成分]
硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、上記(A)~(C)成分以外にも、その他の任意の成分を配合することができる。例えば下記の成分が挙げられる。その他の成分は、各々1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合してもよい。
【0042】
・(B)成分以外のアルケニル基含有化合物
本発明の組成物には、(B)成分以外にも、(C)成分と付加反応するアルケニル基含有化合物を配合してもよい。(B)成分以外のアルケニル基含有化合物としては、硬化物の形成に関与するものが好ましく、1分子あたり1個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。その分子構造は、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状等いずれでもよい。
【0043】
更に、上記オルガノポリシロキサン以外のアルケニル基含有有機化合物を配合することも可能である。例えば、αオレフィン、ブタジエン、多官能性アルコールから誘導されたジアクリレートなどのモノマー; ポリエチレン、ポリプロピレンまたはスチレンと他のエチレン性不飽和化合物(例えば、アクリロニトリルまたはブタジエン)とのコポリマーなどのポリオレフィン; アクリル酸、メタクリル酸、またはマレイン酸のエステル等の官能性置換有機化合物から誘導されたオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。これらのアルケニル基含有化合物は室温で液体であっても固体であってもよい。
【0044】
・付加反応制御剤
組成物のポットライフを確保するために、付加反応制御剤を配合することができる。付加反応制御剤は、上記(A)白金族金属系触媒に対して硬化抑制効果を有する化合物であれば特に限定されず、従来から公知のものを用いることもできる。例えば、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物;硫黄含有化合物;1-エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンテン-3-オール、フェニルブチノール等のアセチレンアルコール類;3-メチル-3-1-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-イン等のアセチレン系化合物;アルケニル基を2個以上含む化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体等が挙げられる。
【0045】
付加反応制御剤による硬化抑制効果の度合は、その付加反応制御剤の化学構造によって異なる。よって、使用する付加反応制御剤の各々について、その添加量を最適な量に調整することが好ましい。最適な量の付加反応制御剤を添加することにより、組成物は室温での長期貯蔵安定性及び加熱硬化性に優れたものとなる。通常の配合量は、(A)~(C)成分の合計100質量部に対して0.001~5質量部が好ましく、0.01~3質量部がより好ましい。
【0046】
・有機溶剤
オルガノポリシロキサン組成物の粘度を下げるために、各種有機溶媒を配合してもよい。例えば、トルエン、ヘキサン、キシレン、メチルエチルケトン等のオルガノポリシロキサンに可溶な有機溶剤(シロキサン溶剤を含まない)や、オクタメチルテトラシロキサン、デカメチルペンタシロキサン等の低粘度の環状シロキサン、短鎖の直鎖シロキサンや分岐シロキサン等のオルガノポリシロキサン(シロキサン溶剤)を用いるのが好ましい。なお、有機溶剤を配合した場合もその特性は低下するものではない。
有機溶剤の量は、(B)、及び(C)成分の合計質量の3~50倍であることが好ましく、8~30倍であることがより好ましい。
【0047】
・その他の任意成分
滑り性を与える目的で(A)~(C)成分以外の高分子量直鎖型オルガノポリシロキサン、剥離力を調節する目的で(A)~(C)成分以外のアリール基を有するシリコーン樹脂、シリコーンレジン、シリカ、ケイ素原子に結合した水素原子もアルケニル基も有さない低分子量のオルガノポリシロキサン等を配合してもよい。さらに、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、公知の酸化防止剤、顔料、安定剤、帯電防止剤、消泡剤、密着向上剤、増粘剤、及びシリカ等の無機充填剤を配合することができる。
【0048】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分及び必要に応じて付加反応制御剤や任意成分をそれぞれの所定量混合することによって得られる。ポットライフの面からは、上記(B)成分、(C)成分及び任意成分を予め均一に混合した後、(A)触媒組成物を使用直前に添加する方法が好ましい。
【0049】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の回転粘度計により測定した25℃における粘度は、10~5,000mPa・sであることが好ましく、50~3,000mPa・sであることがより好ましい。
【0050】
[塗工品(剥離シート)]
本発明はさらに、シート状基材と、該基材表面の片面又は両面に、上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化皮膜とを有する剥離シートを提供する。該基材表面の片面又は両面に、上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗工し、加熱することにより硬化皮膜を形成することができる。
【0051】
塗工方法及び加熱硬化条件は特に制限されず、適宜選択されればよいが、例えば、硬化性オルガノポリシロキサン組成物をそのまま、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター等による塗工、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の塗工方法を用いて、紙、フィルム等のシート状基材の片面又は両面上に0.01~100g/m2塗工した後、50~200℃で1~120秒間加熱することにより、基材上に硬化皮膜を形成させることができる。基材の両面に剥離層を作る場合は、基材の片面ずつ硬化皮膜の形成操作を行なうことが好ましい。
【0052】
なお、本発明において、剥離シートとは、シート状基材が紙であるものに加え、公知の各種フィルム等で形成されたものも含む。基材の例としては、ポリエチレンラミネート紙、グラシン紙、上質紙、クラフト紙、クレーコート紙等各種コート紙、ユポ等合成紙、ポリエチレンフィルム、CPPやOPP等のポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリフェノールフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。また人工皮革、セラミックシート、両面セパレーター等の製造用の工程紙を基材として使用することも可能である。これらの基材と剥離層の密着性を向上させるために、基材面にコロナ処理、エッチング処理、プライマー処理あるいはプラズマ処理したものを用いてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記に挙げる重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:トルエン、ポリスチレン換算)により求め、粘度は25℃において回転粘度計を用いて測定した値である。
下記の例において、オルガノポリシロキサンの平均組成を示す記号は以下の通りである。
M:(CH3)3SiO1/2
MVi:(CH2=CH)(CH3)2SiO1/2
D:(CH3)2SiO2/2
DH:(CH3)HSiO2/2
DA:(CH2=CHCOOC3H6)(CH3)SiO2/2
T:(CH3)SiO3/2
【0054】
実施例及び比較例で用いた各成分は以下の通りである。
(A)成分
i)カールステッド触媒:白金濃度21.5質量%
白金と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体
ii)側鎖にアクリル基を有するオルガノポリシロキサン:
・DA
4 重量平均分子量730
・M2DA
10D50 重量平均分子量4,120
・M3DA
12D150T1 重量平均分子量14,620
・M3DA
24D210T1 重量平均分子量26,700
iii)(メタ)アクリル基を有さないオルガノポリシロキサン
・M2D45 粘度40mPa・s、
・MVi
2D15 ビニル価0.021mol/100g、粘度10mPa・s
・MVi
2D155 ビニル価0.017mol/100g、粘度430mPa・s
(B)成分
メチルビニルポリシロキサン:MVi
2D155
ビニル価0.017mol/100g、粘度430mPa・s
(C)成分
メチルハイドロジェンポリシロキサン:M2DH
64
Si-H含有量1.61mol/100g、粘度35mPa・s
その他成分
付加反応制御剤:1-エチニルシクロヘキサノール(ECHA)
【0055】
・比較例用成分
・M2DA
1D4 重量平均分子量630
・トリコサエチレングリコールジアクリレート(1):
エチレングリコール単位を23個有する両末端型ジアクリレート 分子量1,108
・プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(2) 分子量1,296
・アクリル酸 分子量72
【0056】
触媒組成物の調製及び保存安定性の評価
[実施例1]
i)成分として白金濃度21.5質量%のカールステッド触媒0.020質量部、ii)成分として平均分子式:DA
4で表される側鎖にアクリル基を有する環状オルガノポリシロキサン1.98質量部を均一になるまで混合し、白金濃度0.215質量%である、無色透明の白金触媒組成物(A-1)を得た。
【0057】
[実施例2~7、比較例1~6]
実施例1の組成を、下記表1又は2に記載の組成(単位:質量部)に変更した他は実施例1の手順を繰り返して、各成分を均一になるまで混合し、白金触媒組成物(A-2)~(A-7)及び比較用の白金触媒組成物(a-1)~(a-6)を得た。
【0058】
[保存安定性の評価]
上記実施例1~7及び比較例1~6にて得た白金触媒組成物の1gを5mlガラス瓶に入れ、密閉状態で105℃の乾燥機に保管した。1時間後に乾燥機から取り出し、外観の変化を観察することで、高温下の保存安定性を確認した。結果を下記表1に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
表2に示される通り、アクリル基を有さないオルガノポリシロキサンと白金触媒とを混合して成る白金触媒組成物(a-1)、触媒組成物中の白金濃度が過剰の白金触媒組成物(a-2)、側鎖にアクリル基を1個のみ有するオルガノポリシロキサンと白金触媒とを混合して成る白金触媒組成物(a-3)、及びオルガノポリシロキサン以外のアクリレートと白金触媒とを混合して成る白金触媒組成物(a-4)、(a-5)、及び(a-6)は、いずれも、105℃×1時間後に黒色不透明な物へと変化してしまい、保存安定性が低い。これに対し、表1に示される通り、側鎖にアクリル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと白金触媒とを混合して成る本発明の白金触媒組成物(A-1)~(A-7)は、105℃×1時間後の外観が無色~淡黄色透明を維持しており、高い保存安定性を有している。
【0062】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物の調製
[実施例8]
(B)成分として平均分子式:MVi
2D155で表される両末端がビニル基で封鎖された直鎖状のメチルビニルポリシロキサン100質量部、(C)成分として平均分子式:M2DH
64で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン2.3質量部、その他成分として1-エチニルシクロヘキサノール0.3質量部加え、均一になるまで混合した。その後、実施例1にて調製した白金触媒組成物(A-1)を(A)~(C)成分の合計質量に対して白金原子質量換算で41.1ppmとなる量で加え、均一になるまで攪拌して、オルガノポリシロキサン組成物を得た。該組成物において、(B)成分中のアルケニル基に対する(C)成分中のSi-H基の個数比(H/Vi)は2.18であった。
【0063】
[実施例9~15]
実施例8の組成を下記表3記載の組成(質量部)に変更した他は実施例8の手順を繰り返し(B)成分、(C)成分、及び1-エチニルシクロヘキサノールを混合した。該混合液に、実施例2~7にて得た白金触媒組成物(A-2)~(A-7)の各々を加え、均一になるまで撹拌することで実施例9~15のオルガノポリシロキサン組成物を得た。
[比較例7~12、参考例]
実施例8の組成を下記表4記載の組成(質量部)に変更した他は実施例8の手順を繰り返し(B)成分、(C)成分、及び1-エチニルシクロヘキサノールを混合した。該混合液に、比較例1~6にて得た白金触媒組成物(a-1)~(a-6)の各々を加え、均一になるまで撹拌することで、比較例7~12、及び参考例のオルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0064】
上記各オルガノポリシロキサン組成物について25℃における粘度を測定した。さらに下記に示す方法で剥離シートを作製して、剥離力を評価した。結果を表3及び4に示す。
【0065】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化]
硬化性オルガノポリシロキサン組成物をRIテスター(株式会社IHI機械システム社製)の金属ロール上に塗布し、2本のロールを45秒間回転させ、均一に引き延ばした後、ゴムロールからポリエチレンラミネート紙へ組成物を転写した。組成物を転写したポリエチレンラミネート紙を、110℃の熱風式乾燥機中で20秒間加熱して、厚さ0.9~1.1g/m2の硬化皮膜を有する剥離紙を得た。
【0066】
[剥離力]
上記の硬化方法により得られた剥離紙を25℃で24時間エージングした後、この剥離紙の硬化皮膜表面(ゴムロールからの転写面側)に、幅25mmアクリル系粘着テープTESA-7475(tesa UK Ltd)を貼り合わせ、25mm×23cmの大きさに切断した。これをガラス板に挟み、70℃で20g/cm2の荷重下で24時間エージングしたものを試料とした。30分ほど空冷した後、試料のTESA-7475テープを、引張試験機(株式会社島津製作所製 DSC-500型試験機)を用いて180°の角度で0.3m/分で剥がし、剥離するのに要した力を測定した。
【0067】
[残留接着率]
上記剥離力測定にて剥離層から剥がしたTESA-7475テープの粘着剤面をステンレス板に貼り付け、2キロのローラーを往復させ荷重を加える。30分放置後TESA-7475テープの一端を剥がしその端部をステンレス板に対して180度の角度の方向に引っ張り、剥離速度0.3m/minで剥がした。その際に剥離するのに要する力:剥離力A(N/25mm)を測定した。
また、未使用のTESA-7475テープをステンレス板に貼り付けた。上記と同じ条件にて、TESA-7475テープをステンレス板から剥離するのに要する力:剥離力B(N/25mm)を測定した。
残留接着率(%)=(A/B)×100の式にて残留接着率(%)を算出した。
【0068】
[オルガノポリシロキサン移行性]
上記剥離力測定と同様にしてポリエチレンラミネート紙表面に硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化皮膜を形成した。該硬化皮膜表面に、厚さ36μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね、室温で10MPaの加圧下で20時間圧着した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを硬化皮膜から剥がした。該ポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン硬化皮膜と接していた表面に油性のインキ(商品名:マジックインキ、寺西化学工業株式会社製)を塗り、インキのハジキ具合を観察した。
結果を下記の指標にて評価し、表3及び4に記載した。
インキのハジキなし(すなわち、シリコーン移行なし又はかなり少ない):○
インキのハジキあり(すなわち、シリコーンの移行が多い):×
【0069】
[硬化性]
硬化性オルガノポリシロキサン組成物をRIテスターの金属ロール上に塗布し、金属ロールとゴムロールからなる2本のロールを45秒間接触回転させ、均一にオルガノポリシロキサン組成物を引き延ばした後、ゴムロールからポリエチレンラミネート紙へ組成物を転写した。組成物を転写したポリエチレンラミネート紙は110℃の熱風式乾燥機中で13秒間加熱して厚さ0.9~1.1g/m2の硬化皮膜を有する剥離紙を得た。乾燥機から剥離紙を取り出して直ちに硬化皮膜面を人差し指で10回強く擦り、赤マジックインキを塗布してインキの濃さや硬化皮膜状態を観察した。
結果を下記の指標にて評価し、表3及び4に記載した。
指痕が濃く見える(すなわち、硬化性不良):×
指痕がほとんど見られない(すなわち、硬化性良好):○
【0070】
【0071】
【0072】
表4に示す通り、参考例は、白金触媒と(メタ)アクリル基含有オルガノポリシロキサンとを混合させず、比較用白金触媒組成物(a-1)を使用し、白金触媒濃度が118.8ppmと多い組成である。該組成物では、硬化は十分に進むため硬化性及びオルガノポリシロキサン移行性は良好な結果であり、低い剥離力と高い残留接着率という剥離紙本来の特性が見られている。
これに対して、比較例7は、参考例と同じ白金触媒組成物(a-1)を使用し、白金触媒の濃度を41.1pmに減らした組成である。該組成においては、110℃×13秒の加熱処理では組成物の硬化が十分進まず、表面を指で擦るとはっきりと跡が残った。また、110℃×20秒の加熱処理では硬化皮膜は得られるが、硬化が不十分であるために、張り付けたフィルムを剥がした際にフィルム側に移行するオルガノポリシロキサンの量が多く、剥離力及び残留接着率共に、参考例の剥離紙の特性には至っていない。
【0073】
また、比較例8~12は、比較例7と同じ白金濃度にて、比較例2~6で調製した白金触媒組成物(a-2)~(a-6)を添加した組成物である。いずれの組成物においても硬化が不十分であり、オルガノポリシロキサンの移行量も多い。また剥離力が参考例に比べて高くなっており、残留接着率も低いことから、目的とする剥離紙の特性には至っていない。
【0074】
これに対して、表3に示す通り、実施例8~15の組成物は、上記実施例1~7で調製した白金触媒組成物(A-1)~(A-7)を、比較例7と同等の白金濃度にて配合した組成物である。該組成物においては、触媒の白金濃度が少ないにも関わらず、硬化が十分進行し、塗工面を擦っても指跡はほとんどつかず、シリコーン移行量も少ない。また剥離力と残留接着率に関しても参考例の組成物と同等の値が得られており、少ない白金原子量でも付加反応が十分に進行している。
【0075】
上記の通り、本発明の触媒組成物は、白金族金属系触媒と、(メタ)アクリル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンとを混合させた組成物とすることにより、白金族金属系触媒の保存安定性が大幅に向上し、さらに白金濃度が50ppm以下という少ない触媒量であっても組成物の硬化反応を十分に進行させることができる。さらに本発明の触媒組成物を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物を有する剥離シートは、優れた剥離紙特性を有することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の触媒組成物を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、少ない白金族金属系触媒量で十分に硬化することができ、且つ、従来と同等の剥離力を有する硬化皮膜を形成できる。従って、剥離シート等の用途に好適である。更には、白金族金属系触媒量を低減することができるため、剥離シートの製造原価を大幅に安くすることが可能となる。