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特許7232442光に応答して可逆的に表面相分離構造を変える細胞培養用基材
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  • 特許-光に応答して可逆的に表面相分離構造を変える細胞培養用基材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】光に応答して可逆的に表面相分離構造を変える細胞培養用基材
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20230224BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230224BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20230224BHJP
   C08F 4/04 20060101ALI20230224BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
C08F293/00
C12N5/071
C08F2/38
C08F4/04
C08F220/12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019006770
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2019194305
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2018087249
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.発行者名:公益社団法人高分子学会 刊行物名:「高分子学会予稿集 67巻1号[2018]」 発行日:平成30年5月8日 2. 集会名:第67回(2018年)高分子学会年次大会 発表日:平成30年5月24日 3.発行者名:公益社団法人日本化学会 刊行物名:「日本化学会秋季事業 第8回CSJ化学フェスタ2018プログラム集」 発行日:平成30年9月26日 4. 集会名:日本化学会秋季事業 第8回CSJ化学フェスタ2018 発表日:平成30年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【弁理士】
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(74)【代理人】
【識別番号】100207653
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】武田 直也
(72)【発明者】
【氏名】今任 景一
(72)【発明者】
【氏名】坂野 誠人
(72)【発明者】
【氏名】松下 武司
(72)【発明者】
【氏名】福士 英明
(72)【発明者】
【氏名】謝 小毛
【審査官】久保 道弘
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
C12N 5/071
C08F 2/38
C08F 4/04
C08F 220/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されることを特徴とする、ブロック共重合体:
【化1】
_________________________________________________________
ただし、
環Aが、C5~C8の芳香環であり、
R1が、C1~C18の置換されていてもよい直鎖又は分枝状のアルキル基であり、
R2が、H又はC1~C17の置換されていてもよい直鎖又は分枝状のアルキル基であり、
R1の炭素数 > R2の炭素数であり、
R3、R4及びR5が、それぞれ独立して、H又は-CH3から選択され、
Xaが、O又はSから選択され、
Yaが、-NO2、-CN、-COOH、-F、-Cl、-Br、-I、-OH、-NH2、-CH3から選択され、及び、
nが、5~200であり、
xが、5~200であり、
yが、5~50である。
【請求項2】
前記式(I)において、
nが、100~180であり、
xが、60~140であり、
yが、9~30であることを特徴とする、請求項1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
前記式(I)の化合物が、下記式(II)で表されることを特徴とする、請求項1に記載のブロック共重合体:
【化2】
_________________________________________________________
ただし、
nが、133~146であり、
xが、74~115であり、
yが、11~25である。
【請求項4】
ガラス又はシリコンからなる基体表面に対して表面固定された有機層上に請求項1~3のいずれか1項に記載の式(I)の化合物が被膜されていることを特徴とする、相分離構造体システム。
【請求項5】
前記表面固定された有機層が、ケイ素化合物試薬によって有機化合物を表面に固定された有機層、又は、ランダム共重合体を含む有機層であることを特徴とする、請求項4に記載の相分離構造体システム。
【請求項6】
前記ケイ素化合物試薬が、トリメトキシ(メチル)シラン又は1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジブチル‐1,1,3,3-テトラメチルジシラザン又は1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンから選択される化合物を含むことを特徴とする、請求項5に記載の相分離構造体システム。
【請求項7】
前記ランダム共重合体が、下記式(III)の構造を有することを特徴とする、請求項5に記載の相分離構造体システム:
【化3】
ただし、
R6が、-COOH又は-CH2OHであり、
R7が、-C6H5又は-S-(CH2)11-CH3であり、
pが、20~200であり、
qが、20~200である。
【請求項8】
前記式(III)において、
pが、55~60であり、
qが、54~59である、
ことを特徴とする、請求項7に記載の相分離構造体システム。
【請求項9】
前記相分離構造体システムは、光に応答して可逆的な表面相分離構造が変化する相分離構造を有することを特徴とする、請求項4~8のいずれか1項に記載の相分離構造体システム。
【請求項10】
前記表面相分離構造の変化が、表面の微細な凹凸構造、膜表面の濡れ性、又は、硬さの変化を伴うことを特徴とする、請求項9に記載の相分離構造体システム。
【請求項11】
前記相分離構造体システムが、細胞培養用の基材であることを特徴とする、請求項4~10のいずれか1項に記載の相分離構造体システム。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか1項に記載のブロック共重合体:PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)の製造方法であって、
下記反応式1で表されるように、重合開始剤として4,4′-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (4,4’-azobis(4-cyanopentanoic acid))を、RAFT重合連鎖移動剤としてジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル (4-cyanopentanoic acid dithiobenzoate)を用いて、メチルメタクリレート(methylmethacrylate)を反応させて、PMMA (poly-methylmethacrylate)を調製する工程、
【化4】

ただし、nが、5~200であり;

次に、
下記反応式2で表されるように、4,4′-アゾビス(4-シアノペンタン酸)を用いて、前記PMMAと、SpMA (1'-(2-Methacryloyloxyethyl)-3',3'-dimethyl-6-nitrospiro(2H-1-benzopyran-2,2'-indoline))と、n-ブチルメタクリレート(n-Butyl methacrylate) とを反応させる工程、
を含むことを特徴とする、製造方法;
【化5】
ただし、
nが、5~200であり、
xが、5~200であり、
yが、5~50である。
【請求項14】
相分離構造体システムの製造のための、請求項1~3のいずれか1項に記載のブロック共重合体の使用。
【請求項15】
光に応答させて可逆的に表面相分離構造を変化させ、該変化によって、培養細胞が接着と脱離とを若しくは接着した培養細胞が脱離と再接着とを行う、又は、培養細胞の分化、伸展、遊走、若しくは、遺伝子及びタンパク質の発現の変化を制御するための、請求項4~12のいずれか1項に記載の分離構造体システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光に応答して可逆的に表面相分離構造を変えるブロック共重合体、その製造方法、及び、該ブロック共重合体を使用する細胞培養用基材等に関する。
【背景技術】
【0002】
In vitroにおける細胞培養では細胞挙動制御に増殖因子、分化誘導因子等の液性生体シグナル因子を用いてきた。一方で、細胞培養基材表面の微細構造や濡れ性、弾性率等の材料特性が細胞足場構造の微小環境の変化をもたらし、細胞の挙動に影響を与えることが明らかとなった(非特許文献1、2)。近年、足場材料のみで細胞の挙動制御を試みる研究に大きな注目が集まっており、その中でも微細構造や物性が固定された静的な足場を用いた研究が多くなされているが、動的な足場は外部刺激による材料特性の制御を介して、細胞挙動の制御を可能とする。さらに、生体内環境は刻々と変化するため、その模倣をすることで、新たな培養形態への応用も可能である。
【0003】
外部刺激の中でも、光による外部刺激は局所的、即時的、非接触的に刺激を付与できる。この性質を利用して細胞の接脱着を制御する光応答性基材の報告もなされてきたが、それらは光分解反応による表面状態変化を誘起しているため、分解生成物による細胞への毒性や予期せぬ副作用が懸念される(非特許文献3)。
【0004】
その中で現在、温度変化という外部刺激を利用して培養基材表面の濡れ性と分子運動性を変化させ、細胞の接着性を制御する技術がすでに開発されており、細胞シート作製用の基材として有名な材料がある。温度応答性高分子として有名なpoly(N-isopropylacrylamide) (PIPAAm) は水中で約32℃に下限臨界溶液温度(LCST)を有し、LCST以上の温度では重合体分子は疎水性となり自己凝集するのに対し、LCST以下の温度では親水性となり重合体鎖が水和する。この時の動的な濡れ性変化と、重合体鎖が水和することによる分子運動性の変化を利用し、細胞接脱着及び細胞分離制御システムの構築が行われた(非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、温度変化という外部刺激はその変化を与える範囲選択性や温度という連続したパラメータの変化にかかる時間などにより、パターニングなどの微細な操作が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nagase K., et al., J. Mater. Chem. B, 2017, 5, 5924-5930
【文献】Engler, A. J.et al., Cell 2006, 126, 677-689.
【文献】Nakanishi, J. et al., J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 16314-16315.
【文献】Nagase K., et al., J. Mater. Chem., 2012, 22, 19514-19522.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光に対して応答し、可逆的な光異性化を起こす置換基を有する重合体材料を作製し、光応答性細胞培養材料、及び、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究し、光応答性細胞培養材料として、2種類のメタクリレート類によるジブロック共重合体を合成し、微細構造やその物性を動的に変化させるために、光に可逆的に応答するフォトクロミック分子の一つであるスピロベンゾピランをベースとしたモノマーを前記ジブロック共重合体に導入した。そして、材料表面の微細構造の作製を目的に、ジブロック共重合体の各ブロックの物性の違いによる自己凝集により自発的にミクロ及びナノスケールを含む微細構造を形成する相分離という現象を利用した。そのために表面に有機層を積層することで疎水修飾を施した基体上に前記光応答性ジブロック共重合体を被膜することにより、表面に微細構造を有する培養基板を作製し、本発明を完成させた。
【0009】
具体的には、本発明は、下記式(I)で表されることを特徴とする、ブロック共重合体を提供する:
【化1】
ただし、
環Aが、C5~C8の芳香環であり、
R1が、C1~C18の置換されていてもよい直鎖又は分枝状のアルキル基であり、
R2が、H又はC1~C17の置換されていてもよい直鎖又は分枝状のアルキル基であり、
R1の炭素数 > R2の炭素数であり、
R3、R4及びR5が、それぞれ独立して、H又は-CH3から選択され、
Xaが、O又はSから選択され、
Yaが、-NO2、-CN、-COOH、-F、-Cl、-Br、-I、-OH、-NH2、-CH3から選択され、及び、
nが、5~200であり、
xが、5~200であり、
yが、5~50である。
【0010】
本発明のブロック共重合体の前記式(I)において、
nが、100~180であり、
xが、60~140であり、
yが、9~30である場合がある。
【0011】
本発明のブロック共重合体において、前記式(I)の化合物が、下記式(II)で表される場合がある:
【化2】
ただし、
nが、133~146であり、
xが、74~115であり、
yが、11~25である。
【0012】
また、本発明は、ガラス又はシリコンからなる基体表面に対して表面固定された有機層上に前記式(I)又は(II)の化合物が被膜されている相分離構造体システムを提供する。
【0013】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記表面固定された有機層が、ケイ素化合物試薬によって有機化合物を表面に固定された有機層、又は、ランダム共重合体を含む有機層である場合がある。
【0014】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記ケイ素化合物試薬が、トリメトキシ(メチル)シラン又は1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジブチル‐1,1,3,3-テトラメチルジシラザン又は1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンから選択される化合物を含む場合がある。。
【0015】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記ランダム共重合体が、下記式(III)の構造を有する場合がある:
【化3】
ただし、
R6が、-COOH又は-CH2OHであり、
R7が、-C6H5又は-S-(CH2)11-CH3であり、
pが、20~200であり、
qが、20~200である。
【0016】
本発明の相分離構造体システムの前記式(III)において、
pが、55~60であり、
qが、54~59である、
場合がある。
【0017】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記相分離構造体システムは、光に応答して可逆的な表面相分離構造が変化する相分離構造を有する場合がある。
【0018】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記表面相分離構造の変化が、表面の微細な凹凸構造、膜表面の濡れ性、又は、硬さの変化を伴う場合がある。
【0019】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記相分離構造体システムが、細胞培養用の基材である場合がある。
【0020】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記細胞培養用の基材が、光に応答して可逆的に、培養細胞が接着と脱離とを若しくは接着した培養細胞が脱離と再接着とを行う、又は、培養細胞の分化、伸展、遊走、若しくは、遺伝子及びタンパク質の発現の変化を制御する場合がある。
【0021】
さらに、本発明は、前記ブロック共重合体:PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)の製造方法であって、
下記反応式1で表されるように、重合開始剤として4,4′-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (4,4’-azobis(4-cyanopentanoic acid))を、RAFT重合連鎖移動剤としてジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル (4-cyanopentanoic acid dithiobenzoate)を用いて、メチルメタクリレート(methylmethacrylate)を反応させて、PMMA (poly-methylmethacrylate)を調製する工程、
【化4】
ただし、nが、5~200であり;

次に、
下記反応式2で表されるように、4,4′-アゾビス(4-シアノペンタン酸)を用いて、前記PMMAと、SpMA (1'-(2-Methacryloyloxyethyl)-3',3'-dimethyl-6-nitrospiro(2H-1-benzopyran-2,2'-indoline))と、n-ブチルメタクリレート(n-Butyl methacrylate) とを反応させる工程、
を含む製造方法を提供する;
【化5】
ただし、
nが、5~200であり、
xが、5~200であり、
yが、5~50である。
【0022】
また、本発明は、相分離構造体システムの製造のための、前記ブロック共重合体の使用を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、光に応答させて可逆的に表面相分離構造を変化させ、該変化によって、培養細胞が接着と脱離とを若しくは接着した培養細胞が脱離と再接着とを行う、又は、培養細胞の分化、伸展、遊走、若しくは、遺伝子及びタンパク質の発現の変化を制御するための、前記分離構造体システムの使用を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって、光に対して応答し、可逆的な光異性化を起こす置換基を有する重合体材料を作製し、光応答性細胞培養材料、及び、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ブロック共重合体:PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)の1H-NMRスペクトルを表す。
図2】ランダム共重合体:P(MMA-r-nBMA)の1H-NMRスペクトルを表す。
図3】原子間力顕微鏡による相分離表面構造の像とUV光による相分離構造の変化を表す図。スケールバーは5 μmを表す。
図4】UV光と可視光の繰り返し照射による相分離構造の可逆的スイッチングにおける原子間力顕微鏡による相分離表面構造の像を表す図。スケールバーは5 μmを表す。
図5】MMA : nBMA : SpMA = 146 : 115 : 21と133 : 115 : 25のポリマー修飾基板についての、UV光又は可視光を照射することにより相分離表面構造の表面凹凸構造の変化を惹起させたときの相分離構造体システムの表面及び断面を表す図。
図6】MMA : nBMA : SpMA = 127 : 118 : 28のポリマー修飾基板についての、UV光を照射することにより相分離表面構造の表面凹凸構造の変化を惹起させたときの相分離構造体システムの表面及び断面の凹凸構造の高低差の変化を表す図。
図7】光スイッチングできる相分離構造表面を有する細胞培養基板において培養した細胞の顕微鏡写真図。スケールバーは、それぞれ、上段が200 μm、下段が100 μmを表す。
図8】光スイッチングできる相分離構造表面を有する細胞培養基板において培養した細胞にUV光と可視光とを繰り返し照射した際の可逆的な細胞接着性の変化を表す顕微鏡写真及び表面構造の変化と細胞接着性を模式的に表した図。
図9】UV光又は可視光を照射した細胞培養基板において培養した細胞に、当初照射した光とは異なる光を照射して、表面層分離を変化させた際の細胞の接着又は脱離を観察した顕微鏡写真。細胞の顕微鏡写真のスケールバーは200 μmを、中に示した相分離構造を表す像のスケールバーは5 μmを表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.ブロック共重合体
本発明の実施形態の1つはブロック共重合体である。
【0027】
本発明は、光に対して応答し、可逆的な光異性化を起こすスピロベンゾピランを有するブロック共重合体からなる材料を作製し、光応答性細胞培養材料を製造する。
【0028】
材料表面の微細構造の作製にはブロック重合体の各ブロックの物性の違いによる自己凝集により自発的にミクロ及びナノスケールを含む微細構造を形成する相分離という現象を利用する。この現象を引き起こすために、例えば、メチルメタクリレートとn-ブチルメタクリレートによるジブロック共重合体を合成する。さらに、この微細構造やその物性を動的に変化させるために、例えば、光に対して可逆的に応答するフォトクロミック分子の一つであるスピロベンゾピランをベースとしたモノマーをn-ブチルメタクリレートブロックに導入する。この光応答性ジブロック共重合体を、表面にアルキル鎖等の有機層を積層することで疎水修飾を施したガラス基板等の基体上にスピンコートによって修飾し、熱処理を施すことで、表面に微細構造を有する培養基板を作製する。スピロベンゾピランはUV光の照射により閉環型で極性の低いスピロピラン型から開環型で双性イオンのメロシアニン型に光異性化し、これに伴う極性の変化と立体的な構造変化によって導入したジブロック共重合体の凝集形態を変化させることができる。
【0029】
具体的には、本実施形態であるブロック共重合体は、下記式(I)で表されることを特徴とする、ブロック共重合体を提供する:
【化6】
ただし、
環Aが、C5~C8の芳香環であり、
R1が、C1~C18の置換されていてもよい直鎖又は分枝状のアルキル基であり、
R2が、H又はC1~C17の置換されていてもよい直鎖又は分枝状のアルキル基であり、
R1の炭素数 > R2の炭素数であり、
R3、R4及びR5が、それぞれ独立して、H又は-CH3から選択され、
Xaが、O又はSから選択され、
Yaが、-NO2、-CN、-COOH、-F、-Cl、-Br、-I、-OH、-NH2、-CH3から選択され、及び、
nが、5~200であり、
xが、5~200であり、
yが、5~50である。
【0030】
前記式(I)において、
nが、100~180であり、
xが、60~140であり、
yが、9~30であるブロック共重合体であることができる。
【0031】
本発明のブロック共重合体において、前記式(I)の化合物が、下記式(II)で表されるブロック共重合体であることができる:
【化7】
ただし、
nは133~146であり、
xは74~115であり、
yは、11~25である。
【0032】
本発明では、光応答性ユニットの例としてスピロベンゾピランを用いることができる。スピロベンゾピランは光異性化により、アゾベンゼンと比較してより大きな極性変化を示しかつ立体的な構造変化も引き起こす分子である。液面や高温条件等の分子運動性が高い条件以外において光のみによる相分離構造転換を成せるだけの駆動力をスピロベンゾピランによって得ることができる。
【0033】
より詳細に説明すると、スピロベンゾピランはフォトクロミック分子である。フォトクロミック分子とは光の照射により、その分子の物性を可逆的に光異性化させることができる分子の総称である。
【0034】
以下に本発明で使用するフォトクロミック分子であるスピロベンゾピランの光異性化による構造変化を示す。スピロベンゾピランは極性の低い閉環構造であるスピロピラン型から、約365nmの波長のUV光を照射することで双性イオンを有する開環構造のメロシアニン型に光異性化する(下記式A参照)。このとき、メロシアニン型は580nmにスピロピラン型にはない吸収を示すようになり、その補色である紫色を呈するようになる。スピロベンゾピランは熱力学的にスピロピラン型が安定な構造になっている。
【化8】
【0035】
ジブロック共重合体の自己凝集による相分離構造の形成には各ブロックの物性と各ブロックの割合が重要となる。そこでジブロック共重合体を合成するにあたり、分子鎖長を正確に制御する技術が必要である。そこで本発明では、その具体例として、リビングラジカル重合の1つである可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT重合:Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer Polymerization)を用いて重合体の重合を行う。
【0036】
RAFT重合とは、適切な連鎖移動剤(RAFT剤)を選択し、合成の際に使用することで、狭い分子量分布の重合体を作成することができる重合方法である。RAFT重合の反応過程には、一般的なリビングラジカル重合の反応過程である、開始反応、成長反応、停止反応に加え、RAFT剤を介する平衡反応がある(スキーム1参照)。1つのRAFT剤が2つの重合体鎖間のラジカルを保存しながら、ラジカルを素早く移動させることで全体の重合をゆっくり進めることができる。その結果、各重合体鎖間に重合度の差が発生しづらくなり、分子量分布の小さい重合体を重合することが可能である。
【化9】
【0037】
本発明では、このRAFT重合を用いることにより、重合度の範囲の狭い、即ち、均一性の高いブロック共重合体を製造することにより、下記で説明する光に可逆的に反応する相分離構造体システムを製造することができる。
【0038】
なお、本ブロック共重合体は、下記「3.ブロック共重合体の製造方法」の実施形態や実施例に記載の方法に従って製造することができる。また、下記「4.ブロック共重合体の使用」の実施形態や、実施例に記載の方法に従って使用することができる。
【0039】
2.相分離構造体システム
本発明のもう1つの実施形態は、相分離構造体システムである。上記のとおり、本発明は、光に対して応答し、可逆的な光異性化を起こすスピロベンゾピランを有する重合体材料を作製し、光応答性細胞培養材料を開発した上で、相分離構造体システムとして、その材料表面の微細構造の作製については、ブロック重合体の各ブロックの物性の違いによる自己凝集により自発的にミクロ及びナノスケールを含む微細構造を形成する相分離現象を利用する。
【0040】
この現象を引き起こすために、例えば、メチルメタクリレートとn-ブチルメタクリレートによるジブロック共重合体を合成する。さらに、この微細構造やその物性を動的に変化させるために、例えば、光に対して可逆的に応答するフォトクロミック分子の一つであるスピロベンゾピランをベースとしたモノマーをn-ブチルメタクリレートブロックに導入する。
【0041】
この光応答性ジブロック共重合体を表面に、例えばアルキル基からなる有機層又はランダム共重合体を含む有機層に積層することで疎水修飾を施したガラス基板等の基体上にスピンコートによって修飾し、熱処理を施すことで、表面に微細構造を有する培養基板を作製する。すなわち、この場合、ガラス基板上に有機層と光応答性ジブロック共重合の順序で積層された相分離構造システムを形成させて使用する。
【0042】
この相分離構造システムにおけるスピロベンゾピランは、UV光の照射により閉環型で極性の低いスピロピラン型から開環型で双性イオンのメロシアニン型に光異性化し、これに伴う極性の変化と立体的な構造変化によって導入したジブロック共重合体の凝集形態を変化させることができる(上記式(III)参照)。
【0043】
すなわち、具体的に説明すると、本実施形態の例としては、ガラス又はシリコンからなる基体表面に対して表面固定された有機層上に前記式(I)の化合物が被膜されている相分離構造体システムを挙げることができる。
【0044】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記表面固定された有機層が、ケイ素化合物試薬によって有機化合物を表面に固定された有機層であることができる。
【0045】
本発明の相分離構造体システムにおいて、前記ケイ素化合物試薬が、トリメトキシ(メチル)シラン又は1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジブチル‐1,1,3,3-テトラメチルジシラザン又は1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンから選択することができる。
【0046】
また、前記有機層としてランダム共重合体を使用するときは、前記ランダム共重合体が、下記式(III)の構造を有する相分離構造体システムを作製し、使用する:
【化10】
ただし、
R6が、-COOH又は-CH2OHであり、
R7が、-C6H5又は-S-(CH2)11-CH3であり、
pが、20~200であり、
qが、20~200である。
【0047】
本発明の分離構造体システムが、光に応答して可逆的に表面相分離構造を変化することができる。
【0048】
本発明の相分離構造体システムにおいては、前記表面相分離構造の変化することが、膜表面の微細な凹凸構造の変化、濡れ性の変化及び又は硬さの変化を伴うことができる。
【0049】
本明細書において、「微細な凹凸構造の変化」とは、10~30 nmの範囲、好ましくは15~25 nmの範囲の表面の高低差が、この範囲以下の高低差になる又は前記高低差が消失する、又は、前記範囲よりも高低差が小さい若しくはない状態から前記数値範囲の高低差を生じることをいう。
【0050】
本発明の相分離構造体システムが、細胞培養用の基材として使用することができる。
【0051】
相分離構造の確認は、例えば、原子間力顕微鏡を用いた重合体を修飾した基板の表面解析によって行うことができる。重合体の組成や重合体をスピンコートする際の濃度により相分離の構造は異なる。例えば、この基板にUV光を照射することにより、この構造は光応答により変化し、条件によっては完全に消失するという大きな変化を示すことができる。さらにこの相分離構造が消滅した基板に対し、可視光を照射することにより、再び相分離由来の微細構造を復活させることができる。
【0052】
本発明の相分離構造体システムは、光に応答して可逆的に、培養細胞が接着と脱離を行う、又は、培養細胞の分化、伸展、遊走、若しくは、遺伝子及びタンパク質の発現の変化を制御することが可能な細胞培養用の基材として利用することが可能である。
【0053】
例えば、本発明の相分離構造体システムを細胞培養用の基材として使用し、細胞の該基材への接着、該基材に接着させた培養細胞の脱離、又は、培養細胞が脱離した基材への培養細胞の再接着を、可視光又はUV光を照射することによる膜表面の微細構造の動的な可逆的変化によってもたらすことができる。
【0054】
すなわち、可視光を本発明の相分離構造体システムの表面に照射することにより表面の微細な凹凸構造が小さくなり若しくは消失し、UV光を照射することにより該相分離構造体システムの表面の微細な凹凸構造が可逆的に相対的に大きくなる特性を有する相分離構造体システムである。本相分離構造体システムにおいて、表面の微細な凹凸構造が小さい若しくは消失しているときに接着した培養細胞は、相分離構造体システムの表面にUV光を照射することにより微細な凹凸構造が相対的に大きくなる際に、該培養細胞の脱離が惹起される。一方、UV光の照射により表面の微細な凹凸構造が相対的に大きい状態のときに相分離構造体システム表面に接着させた培養細胞は、可視光の照射により表面の微細な凹凸構造が相対的に小さくなる若しくは消失する際に、該相分離構造体システム表面より脱離する。
【0055】
したがって、本発明の相分離構造体システムの表面への培養細胞の接着、脱離及び再接着等を可視光又はUV光を照射することで制御することが可能である。
【0056】
3.ブロック共重合体の製造方法
本発明の他の実施形態は、上記相分離構造体システムで使用されるブロック共重合体の製造方法である。
【0057】
該ブロック共重合体の製造方法の具体的な例としては、前記ブロック共重合体:PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)の製造方法であって、
下記反応式1で表されるように、ジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル (4-Cyanopentanoic acid dithiobenzoate) と4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (4,4’-azobis(4-cyanopentanoic acid)) と、メチルメタクリレート(methylmethacrylate)とを反応させ、PMMA (Poly-Methylmethacrylate)を調製する工程、及び、
【化11】

下記反応式2に表されるように、前記PMMA、4,4′-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (4,4’-azobis(4-cyanopentanoic acid))、SpMA (1'-(2-Methacryloyloxyethyl)-,3',3'-dimethyl-6-nitrospiro(2H-1-benzopyran-2,2'-indoline))と、n-ブチルメタクリレート(n-Butyl methacrylate) とを反応させる工程、
を含む製造方法である。
【化12】
【0058】
より具体的なブロック共重合体の製造方法は、下記実施例に詳細に記載する。
【0059】
4.ブロック共重合体の使用
本発明のもう1つの実施形態は、相分離構造体システムの製造のための前記ブロック共重合体の使用である。
【0060】
既に、ブロック共重合体及び相分離構造体システムの製造方法は、上記に示した。上記の方法に従い、前記ブロック共重合体を使用して、相分離構造体システムを製造することができる。そして、該相分離構造体システムは、光に応答して可逆的に、培養細胞が接着と脱離を行う、又は、培養細胞の分化、伸展、遊走、若しくは、遺伝子及びタンパク質の発現の変化を制御することが可能な細胞培養用の基材として利用することができる。
【0061】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0062】
スピロベンゾピラン(SpOH)の合成
材料及び方法
【0063】
試薬
本実施例では、下記の試薬を用いた。
2,3,3-トリメチル-3H-インドール (97 %, 和光純薬工業株式会社, 大阪, 日本)
2-ブロモエタノール (97 %, 和光純薬工業株式会社)
アセトニトリル (99.5 %, 和光純薬工業株式会社)
水酸化カリウム (85.0 %, 和光純薬工業株式会社)
2-ヒドロキシ-5-ニトロベンズアルデヒド(和光純薬工業株式会社)
ジエチルエーテル (98.0 %, 和光純薬工業株式会社)
ヘキサン (96.0 %, 和光純薬工業株式会社)
エタノール (99.5 %, 和光純薬工業株式会社)
【0064】
装置
本実施例では、下記の装置を用いた。
核磁気共鳴(NMR)スペクトロメーター (1H-NMR; UNITY INOVA 400 MHz spectrometer, Varian, Palo Alto, CA, U.S.A.)
【0065】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2,3,3-トリメチル-3H-インドリウムブロミド(1-(2-Hydroxyethyl)-2,3,3-trimethyl-3H-indolium bromide; 以下TMIBRと記載)の合成
下記反応式3に表されるように、表1に示す仕込量でTMIBRを合成した。ここで、2,3,3-トリメチル-3H-インドール(2,3,3-Trimethyl-3H-indole) に対して、2-ブロモエタノールが十分量存在するように、モル比で 1 : 1.50 となるようにした。
【化13】
【表1】
【0066】
二つ口ナスフラスコ(300 mL)に溶媒として アセトニトリル (100 mL)を加え、窒素バブリングを施した。2,3,3-トリメチル-3H-インドール(13.0 g, 81.6 mmol)及び2-ブロモエタノール(15.2 g, 122.0 mmol)を二つ口フラスコ内の アセトニトリルと混合し、窒素雰囲気下、90℃で 24 時間還流反応させた。反応終了後、エバポレーターを用いて45℃でアセトニトリルを除去した。残存した紫のオイル状の液体をヘキサン(25 mL)で3回超音波洗浄し、TMIBR を得た。
【0067】
TMIBR の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 7.79-7.54 (m, aromatic, 4H), 4.89 (t, CH2-OH, 2H), 4.19 (t, N-CH2-CH2, 2H), 3.12 (s, C-CH3, 3H), 1.65 (s, C-(CH3)2, 6H).
【0068】
9,9,9a-トリメチル-2,3,9a-テトラヒドロ - オキサゾロ[3,2-a]インドール(9,9,9a-Trimethyl-2,3,9,9a-tetrahydro-oxazolo[3,2-a]indole; TMIO)の合成
下記反応式4に表されるように、表2に示す仕込量でTMIOを合成した。ここで、水酸化カリウムは TMIBR の合成で用いた2,3,3-トリメチル-3H-インドールに対して、モル比で 1 : 1.18 となるように調製した。
【化14】
【表2】
【0069】
氷浴中で水酸化カリウム(5.40 g, 96.2 mmol)を H2O(300 mL)に溶解させ、水酸化カリウム水溶液を調製した。TMIBR (全量)に水酸化カリウム水溶液を加え、室温で 10 分間撹拌し反応させた。ジエチルエーテル(300 mL)を用いて 3 回分液し、ジエチルエーテル層を抽出した。分液操作後、エバポレーターを用いてジエチルエーテルを除去し、TMIO を得た[ 収量 15.6 g (76.7 mmol) 収率 94.0 % ]。
【0070】
TMIOの1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 7.13-6.72 (m, aromatic, 4H), 3.82-3.66 (m, O-CH2-, 2H), 3.57-3.43 (m, N-CH2-,2H), 1.42 and 1.37 (s, C-(CH3)2, 6H), 1.16 (s, C-CH3, 3H).
【0071】
2-(3 '、3'-ジメチル-6-ニトロ-3'H-スピロ[クロメン-2,2'-インドール] -1'-イル) - エタノール (2-(3',3'-dimethyl-6-nitro-3'H-spiro[chromene-2,2'-indol]-1'-yl)-ethanol; 以下SpOHと記載)の合成
下記反応式5に表されるように、表3に示す仕込量でSpOHを合成した。ここで、TMIO に対して、2-ヒドロキシ-5-ニトロベンズアルデヒド (2-hydroxy-5-nitrobenzaldehyde)が十分量存在するように、モル比で 1 : 1.34 となるようにした。
【化15】
【表3】
【0072】
二つ口ナスフラスコ (300 mL)に溶媒として エタノール(40 mL)を加えた。TMIO (15.6 g, 66.9 mmol)及び2-ヒドロキシ-5-ニトロベンズアルデヒド(17.2 g, 103.0 mmol)を二つ口フラスコ内のエタノールと混合し、窒素バブリングを施した。窒素雰囲気下、90℃で 24 時間還流反応させた。反応終了後、吸引濾過装置を用いてエタノールを除去し、得られた固体をエタノールでさらに洗浄した。真空乾燥機 (FVO-30, Fine, 東京, 日本)で 50 ℃、6 時間乾燥させ、SpOHを得た[ 収量 23.6 g (67.0 mmol) 収率 87.4 % ]。
【0073】
SpOHの1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.03 and 8.00 (d, ortho-aromatic to NO2, 2H), 7.21-6.66 (m, aromatic, 6H),5.88 (d, -CH=CH-C-O-, 1H), 5.87 (d, -CH=CH-C-O-, 1H), 3.84-3.69 (m, CH2-OH, 3H), 3.50-3.30 (m, N-CH2-, 2H), 1.29 and 1.20 (s, C-(CH3)2, 6H).
【実施例2】
【0074】
スピロベンゾピランモノマー(SpMA)の合成
材料及び方法
本実施例では、下記の試薬を用いた。
2-(3',3'-ジメチル-6-ニトロ-3'H-スピロ[クロメン-2,2'-インドール] -1'-イル) - エタノール (SpOH)
メタクリル酸クロリド(97.0 %, 和光純薬工業株式会社)
トリエチルアミン (99.0 %, 関東化学株式会社)
N,N-ジメチル-4-アミノピリジン (99.0 %, 和光純薬工業株式会社)
塩酸 (36 %, 和光純薬工業株式会社)
炭酸水素ナトリウム (99.5 %, ナカライテスク株式会社, 京都, 日本)
硫酸マグネシウム (98.0 %, 和光純薬工業株式会社)
塩化メチレン (99.5 %, 和光純薬工業株式会社)
ヘキサン (96.0 %, 和光純薬工業株式会社)
【0075】
本実施例では、下記の装置を用いた。
核磁気共鳴(NMR)スペクトロメーター (1H-NMR; UNITY INOVA 400 MHz spectrometer, Varian, Palo Alto, CA, U.S.A.)
【0076】
1'-(2-メタクリロイルオキシエチル)-,3',3'-ジメチル-6-ニトロスピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2'-インドリン) (1'-(2-Methacryloyloxyethyl)-,3',3'-dimethyl-6-nitrospiro(2H-1-benzopyran-2,2'- indoline; 以下SpMAと記載)の合成
下記反応式6に表されるように、表4に示す仕込量でSpMAを合成した。ここで、SpOHに対して、メタクリル酸クロリドが十分量存在するように、モル比で 1 : 1.29 となるようにした。
【化16】
【表4】
【0077】
二つ口ナスフラスコ (300 mL)に溶媒として事前に硫酸マグネシウムで脱水を施した塩化メチレン (100 mL)を加えた。SpOH (5.00 g, 14.2 mmol)及びN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(0.237 g, 1.94 mmol)を二つ口ナスフラスコ内の 塩化メチレンと混合し、窒素バブリングを施した。トリエチルアミン(1.82 g, 18.0 mmol)及びメタクリル酸クロリド(1.91 g, 18.3 mmol)を残りの塩化メチレン(50 mL)と混合し、氷浴中窒素雰囲気下で 1 時間滴下し、24 時間反応させた。反応終了後、塩酸(100 mM, 500 mL)、飽和 炭酸水素ナトリウム(1.14 M, 500 mL)、H2O (100 mL)の順に洗浄し、回収した塩化メチレン層を硫酸マグネシウムにより脱水した。エバポレーターを用いて塩化メチレンを除去し、50 ℃に加熱したヘキサン(1 L)を加え、2 時間撹拌した。冷凍庫で溶液を冷やし、SpMA を析出させ、吸引濾過でSpMAを回収した[ 収量 2.39 g (5.69 mmol) 収率 40.1 % ]。
【0078】
SpMAの1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.03 and 8.00 (d, ortho-aromatic to NO2, 2H), 7.23-6.67 (m, aromatic, 6H),6.07 and 5.56 (s, CH2=C, 2H), 5.87 (d, -CH=CH-C-O-, 1H), 4.30 (t, N-CH2-CH2-, 2H), 3.58-3.40 (m,N-CH2-, 2H), 1.92 (s, CH3-C=CH2, 3H), 1.28 and 1.17 (s, C-(CH3)2, 6H).
【実施例3】
【0079】
RAFT 重合連鎖移動剤であるジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル(CPADB)の合成
材料及び方法
本実施例では、下記の試薬を用いた。
4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)(4,4'-azobis(4-cyanopentanoic acid); 98.0 %,和光純薬工業株式会社)
塩化ベンジル (99.0 %, 和光純薬工業株式会社)
ナトリウムメトキシド (96.0 %, 東京化学工業株式会社)
イオウ (98.0 %,和光純薬工業株式会社)
メタノール (99.8 %,和光純薬工業株式会社)
ジエチルエーテル (98.0 %, 和光純薬工業株式会社)
塩酸 (36.0 %,和光純薬工業株式会社)
水酸化ナトリウム (97.0 %, 和光純薬工業株式会社)
フェリシアン化カリウム(III) (99.0 %, 和光純薬工業株式会社)
酢酸エチル(99.5 %, 和光純薬工業株式会社)
ヘキサン (96.0 %, 和光純薬工業株式会社)
シリカゲル (ワコーゲルR C-200; 和光純薬工業株式会社)
【0080】
本実施例では、下記の装置を用いた。
核磁気共鳴(NMR)スペクトロメーター(1H-NMR; UNITY INOVA 400 MHz spectrometer, Varian, Palo Alto, CA, U.S.A.)
薄層クロマトグラフィー:Aluminum TLC plate (TLC Silica gel 60 F254, silica gel coated with flourescent indicator F254, EMD Millipore, MA, U.S.A)
【0081】
ジチオ安息香酸 (dithiobenzoic acid; 以下DTBAと記載)の合成
下記反応式7に表されるように、表5に示す仕込量でDTBAを合成した。ここで、塩化ベンジルに対して、ナトリウムメトキシド及びイオウが、モル比で 1 : 1.98 となるように調製した。
【化17】
【表5】
【0082】
二つ口ナスフラスコ (500 mL)にナトリウムメトキシド(27.0 g, 0.500 mol)を加え、溶媒として事前に硫酸マグネシウムで脱水を施したメタノール(250 mL)を氷冷しながら加えた。ナトリウムメトキシドが溶解し、発熱が収まり次第、イオウ(16.0 g, 0.499 mol)を加え、窒素バブリングを行いながら撹拌した。窒素雰囲気下で氷冷しながら 塩化ベンジル (31.9 g, 0.252 mmol)を滴下した。滴下終了後、68 ℃で 18 時間還流反応した。反応終了後、反応溶液を氷冷し、析出した固体を吸引濾過により取り除いた。エバポレーターでメタノールを除去し、その後氷冷した H2O (150 mL)を加えて、再び吸引濾過を行った。ジエチルエーテル(100 mL)で 3 回洗浄し、H2O 層を回収した。回収した H2O 層に 1.0 M 塩酸(250 mL)を加えて、ジエチルエーテル(100 mL)で3回分液操作を行い、生成した DTBA をジエチルエーテル層に抽出した。1.0 M水酸化ナトリウム(750 mL)、で 3 回分液操作を行い、生成した DTBA を H2O 層に抽出し、DTBA 溶液を得た。
【0083】
ジ(チオベンゾイル)ジスルフィド (di(thiobenzoyl) disulfide; 以下DTDと記載)の合成
下記反応式8に表されるように、表6に示す仕込量でDTDを合成した。ここで、DTD の合成で用いた 塩化ベンジルに対して、フェリシアン化カリウム(III)が、モル比で 1 : 1.24 となるように調製した。
【化18】
【表6】
【0084】
H2O (1000 mL)に フェリシアン化カリウム(III) (102.5 g, 0.311 mol)を溶解させ、撹拌しながら DTBA 溶液を滴下し反応させた。生じた赤紫色固体を吸引濾過により回収した。洗浄液が無色になるまでH2Oで洗浄した後、減圧乾燥により DTD を得た[ 収量 19.9 g (64.9 mmol) 収率 51.5 % ]。
【0085】
DTDの1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.09 (m, ortho-aromatic, 2H), 7.61 (m, para-aromatic, 1H), 7.45 (m, meta - aromatic, 2H).
【0086】
ジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル(4-Cyanopentanoic acid dithiobenzoate; 以下CPADBと記載)の合成
下記反応式9に表されるように、表7に示す仕込量でCPADBを合成した。ここで、DTD に対して、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (4,4’-azobis(4-cyanopentanoic acid))が十分量存在するように、モル比で 1 : 1.49 となるようにした。
【化19】
【表7】
【0087】
二つ口ナスフラスコ(500 mL)に DTD(12.3 g, 40.1 mmol)と 4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (16.8 g, 59.9 mmol)を加え、酢酸エチル(230 mL)に溶解させ、撹拌しながら窒素バブリングを施した。窒素雰囲気下で 85 ℃、24 時間還流反応させた。エバポレーターを用いて、酢酸エチルを除去し、カラムクロマトグラフィ (固定相;シリカゲル, 展開溶媒; ヘキサン: 酢酸エチル= 3:2)により精製し(Rf 値: 0.32)、CPADBを得た[ 収量 3.9 g (14.0 mmol) 収率 34.9 % ]。
【0088】
CPADBの1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 7.91 (m, ortho-aromatic, 2H), 7.58 (m, para -aromatic, 1H), 7.40 (m, meta - aromatic, 2H), 2.77-2.42 (m, -CH2-CH2-, 4H), 1.95 (d, -CH3, 3H).
【実施例4】
【0089】
PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)の重合
材料及び方法
本実施例では、下記の試薬を用いた。
1'-(2-メタクリロイルオキシエチル)-,3',3'-ジメチル-6-ニトロスピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2'-インドリン)(SpMA)
ジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル (4-Cyanopentanoic acid dithiobenzoate; 以下CPADBと記載)
メチルメタクリレート(methyl methacrylate;98.0%, 和光純薬工業株式会社)を入手し、精製後使用した。
n-ブチルメタクリレート(n-butyl methacrylate;98.0 %, 和光純薬工業株式会社)を入手し、精製後使用した。
4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (98.0 %, 和光純薬工業株式会社)
1,4-ジオキサン (99.5 %和光純薬工業株式会社; 120℃で蒸留)
【0090】
本実施例では、下記の装置を用いた。
核磁気共鳴(NMR)スペクトロメーター (1H-NMR; UNITY INOVA 400 MHz spectrometer, Varian, Palo Alto, CA, U.S.A.)
高速液体クロマトグラフィー (GPC; EXTREMA, 日本分光株式会社, 東京, 日本)
UV 測定装置 : UV-4075 (日本分光株式会社)
オートサンプラー : AS-4050 (日本分光株式会社)
カラムオーブン : CO-4060 (日本分光株式会社)
カラム : KF-G4A (Shodex, 昭和電工株式会社, 東京, 日本), KF-806L (Shodex, 昭和電工株式会社), KF-806L (Shodex,昭和電工株式会社)
【0091】
ポリメチルメタクリレート (poly-methylmethacrylate; 以下PMMAと記載)の重合
下記反応式10に表されるように、表8及び9に示す仕込量でPMMAを合成した。ここで、メタクリル酸メチルが 130 units 程度になるように仕込量を設定した。なお、表8の仕込量では、目標とするユニットよりも大きい重合体(ポリマー)が得られたため、メタクリル酸メチルの割合を減らした表9の仕込量で改めて合成を行った。ここで得られた重合体をそれぞれ PMMA#1、PMMA#2とした。
【化20】
【表8】
【表9】
【0092】
二つ口ナスフラスコ(100 mL)に ジチオ安息香酸 4-シアノペンタン酸エステル(PMMA#1; 0.0626 g, 0.22 mmol, PMMA#2; 0.0714 g, 0.26 mmol)と 4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸) (144 units; 0.0133 g, 0.0464 mmol)を加えた。窒素置換を 3 回行った後、1,4-ジオキサン(35 mL)をシリンジで滴下し、窒素バブリングを施した。窒素雰囲気下で メタクリル酸メチル(3.8 mL)をシリンジで滴下し、70 ℃で 21 時間反応させた。反応終了後、再沈殿法(良溶媒; テトラヒドロフラン, 貧溶媒;メタノール)により PMMA を精製した[ PMMA-1; 収量 2.76 g 収率 75.2 % ] [ PMMA#2; 収量 2.10 g 収率 57.1 % ]。

【0093】
PMMA_1の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ =7.89 (broad, ortho-aromatic H), 7.52 (broad, para-aromatic H), 7.36 (broad, meta-aromatic H), 3.78-3.42 (broad, -O-CH3), 2.56 (broad, -CH2-CH2-), 2.07-1.74 (broad, -CH2-), 1.02-0.84 (broad, methacrylic methylene).
【0094】
PMMA_2の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ =7.89 (broad, ortho-aromatic H), 7.52 (broad, para-aromatic H), 7.36 (broad, meta-aromatic H), 3.71-3.55 (broad, -O-CH3), 2.53 (broad, -CH2-CH2-), 2.07-1.76 (broad, -CH2-), 1.02-0.84 (broad, methacrylic methylene).
【0095】
PMMA-b-P (nBMA-stat-SpMA)の合成
下記反応式11に表されるように、表10~13に示す仕込量でPMMA-b-P (nBMA-stat-SpMA)を合成した。ここで、各ユニット数の異なる 4種類のジブロック共重合体を設計し、MMA : nBMA :SpMA が 146 : 120 程度 : 28 程度の重合体を 2 種, 146 : 75 程度 : 15 程度, 133 : 120 程度 : 28 程度となるようにした。ここでで得られた重合体をそれぞれ PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_1、PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_2、PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_3、PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_4 とした。
【化21】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0096】
ナスフラスコ(100 mL)にPMMA、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、SpMA を加えた。窒素置換を3回行った後、1,4-ジオキサン(6 mL)をシリンジで滴下し、凍結脱気を5回施した。窒素雰囲気下でメタクリル酸-n-ブチルをシリンジで滴下し、70 ℃で21時間反応させた。反応終了後、再沈殿法(良溶媒; テトラヒドロフラン, 貧溶媒;メタノール)により PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)を精製した。得られたPMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)の収量及び収率を下記に示す。
[PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_1; 収量 100 mg 収率 50.0 % ]
[PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_2; 収量 1.51 g 収率 75.4 % ]
[PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_3; 収量 0.93 g 収率 66.5 % ]
[PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_4; 収量 1.59 g 収率 75.5 % ]
【0097】
PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_1の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.03 (broad, ortho -aromatic to NO2), 7.21-6.74 (broad, aromatic), 5.88 (broad, -CH=CH-C-O-), 3.94 (broad, N-CH2-CH2-, -CH2-CH2-O-), 3.60-3.55 (broad, -O-CH2-CH2-,O=C-O-CH3), 1.94-1.81 (broad, -CH2-), 1.40-0.85 (broad, C-(-CH3)2), 1.02-0.85 (broad, methacrylic methyl).
【0098】
PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_2の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)を図1に示した。
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.02 (broad, ortho -aromatic to NO2), 7.21-6.69 (broad, aromatic), 5.89 (broad, -CH=CH-C-O-), 3.93 (broad, N-CH2-CH2-, -CH2-CH2-O-), 3.60-3.55 (broad, -O-CH2-CH2-,O=C-O-CH3), 1.94-1.81 (broad, -CH2-), 1.45-0.85 (broad, C-(-CH3)2), 1.02-0.85 (broad, methacrylic methyl).
【0099】
PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_3の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.01 (broad, ortho -aromatic to NO2), 7.21-6.69 (broad, aromatic), 5.89 (broad, -CH=CH-C-O-), 3.94 (broad, N-CH2-CH2-, -CH2-CH2-O-), 3.60 (broad, -O-CH2-CH2-, O=C-O-CH3), 1.95-1.82 (broad, -CH2-), 1.39-0.85 (broad, C-(-CH3)2), 1.03-0.85 (broad, methacrylic methyl).
【0100】
PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)_4の1H-NMR スペクトラム(400 MHz CDCl3)
1H-NMR (CDCl3):δ = 8.00 (broad, ortho -aromatic to NO2), 7.21-6.74 (broad, aromatic), 5.87 (broad, -CH=CH-C-O-), 3.94 (broad, N-CH2-CH2-, -CH2-CH2-O-), 3.60 (broad, -O-CH2-CH2-,O=C-O-CH3), 1.94-1.82 (broad, -CH2-), 1.40-0.85 (broad, C-(-CH3)2), 1.02-0.85 (broad, methacrylic methyl).
【0101】
合成した4種類のPMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)に対してそれぞれ分子量Mnを1H-NMR、分子量分布Mw/MnをGPC (展開溶媒 : THF)で測定した。その結果を表14に示す。得られた重合体の組成比に基づいて、重合体の名称をMMA : nBMA : SpMA = 146 : 155 : 25、146 : 115 : 21、146 : 74 : 11、133 : 115 :25と表した。
【表14】
【実施例5】
【0102】
ピラニア溶液による基板表面の不純物分解
材料及び方法
本実施例では、下記の試薬を用いた。
硫酸 (95.0 %, 和光純薬工業株式会社)
過酸化水素(30.0%, 和光純薬工業株式会社)
【0103】
基板作製に用いるガラス基板の洗浄及びシラノール基の露出の為に、基板をピラニア溶液で処理した。ピラニア溶液は 硫酸と過酸化水素の体積分率が7 : 3 となるように氷冷しながら調製した。発熱がなくなったらガラス基板をピラニア溶液に浸漬し、24 時間処理した。ピラニア溶液は強力な酸化力を有し、基板表面に付着した有機物を酸化することにより、基板表面から有機物を除去し、併せて基板表面にシラノール基を露出させる。
ピラニア溶液処理が終了したら、Milli-Q 水で十分にピラニア溶液を洗浄した。ピラニア洗浄基板は Milli-Q 水中に浸漬して、新たな有機物汚れが付かないように保存した。シランカップリング反応や測定に使用する際には Milli-Q 水中に保存していた基板を 3 時間減圧乾燥を行い、ガラス基板表面の水を十分に乾燥させたものを用いた。
【実施例6】
【0104】
シランカップリング反応による基板表面のアルキル化
材料及び方法
本実施例では、下記の試薬を用いた。
トルエン (99.0 %, 和光純薬工業株式会社)
トリメトキシシラン (C1; 98.0 %, 東京化学工業株式会社)
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(hexamethyldisilazane; HMDS; 96.0 %, 和光純薬工業株式会社)
アセトン (99.5 %, 和光純薬工業株式会社)
【0105】
トリメトキシ(メチル)シラン(Trimethoxy(methyl)silane (C1) )修飾
修飾する重合体薄膜を固定するため、シランカップリング溶液を調製した。トルエン(100 mL)中に トリメトキシ(メチル)シラン(0.83 mL)を混合し 15 分間窒素バブリングしながら撹拌した。その後、実施例5でピラニア溶液処理したガラス基板をシランカップリング溶液に浸漬し、50 ℃で 24 時間反応させた。反応終了後、Milli-Q 水でシランカップリング溶液を十分に洗浄し、減圧乾燥を 3 時間行うことで、C1 修飾基板を作製した。
【0106】
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(hexamethyldisilazane)修飾
実施例5でピラニア溶液処理したガラス基板上に1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(200 μL)をキャストし、乾燥機を用いて 140 ℃で 15 分間乾燥させた。その後、アセトン中に浸漬させ 15 分間超音波洗浄を施し、減圧乾燥を 1 時間行うことで、HMDS 修飾基板を作製した。
【実施例7】
【0107】
MMAと nBMAとのランダム共重合体:P(MMA-r-nBMA)の合成
MMAと nBMAとのランダム共重合体:P(MMA-r-nBMA)を下記の反応式12に従って合成した。
【化22】
ただし、
nが、20~200であり、
mが、20~200である。
【0108】
(1)材料
下記の試薬を使用した。
・4-シアノ-4-[(ドデシルスルファニル - チオカルボニル)スルファニル]ペンタノール(4-Cyano-4-[(dodecylsulfanyl-thiocarbonyl)sulfanyl]pentanol;99.0%, シグマ-アルドリッチ)
・メチルメタクリレート(methyl methacrylate;98.0%, 和光純薬工業株式会社)を入手し、精製後使用した。
・n-ブチルメタクリレート(n-butyl methacrylate;98.0 %, 和光純薬工業株式会社)を入手し、精製後使用した。
・4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)(4,4'-Azobis(4-cyanopentanoic acid;98.0 %, 和光純薬工業株式会社)
・1,4-ジオキサン (99.5 % 和光純薬工業株式会社)を入手し、蒸留後使用した。
・テトラヒドロフラン(99.5 %, 和光純薬工業株式会社)
・メタノール(99.8 %, 和光純薬工業株式会社)
【0109】
(2) 合成条件
合成条件を表15に示した。
【0110】
【表15】
【0111】
(3) 反応
二つ口ナスフラスコ(100 mL)に4,4'-Azobis(4-cyanopentanoic acid)(15.2mg, 0.054mmol)および(4-Cyano-4-[(dodecylsulfanyl -thiocarbonyl)sulfanyl]pentano(120.6 mg, 0.3 mmol)を加えた。窒素置換を行った後、1,4-ジオキサン(8 mL)を滴下し、窒素バブリングを行った。窒素雰囲気下でメチルメタクリレート(1.31 mL)およびブチルメタクリレート(1.79 mL)を滴下し、70℃で21時間反応させた。
反応終了後、良溶媒としてテトラヒドロフランを、貧溶媒としてメタノールを使用し、再沈殿法を行い、ゴム状の固形物を得た。
さらに得られた固形物を良溶媒であるテトラヒドロフランに溶解し、溶媒をを減圧除去しP(MMA-r-nBMA)を得た。(収量 1.257 g, 収率 44.1% )
P(MMA-r-nBMA)の1H-NMRスペクトルを図2に示した。
【実施例8】
【0112】
スピンコーターによるガラス基板表面への光応答性重合体の修飾
材料及び方法
本実施例では、下記の材料を用いた。
PMMA-b-P(nBMA-stat-SpMA)
トルエン(99.0 %, 和光純薬工業株式会社)
マイクロカバーガラス 24 mm×24 mm×0.13-0.17 mm (上記C1又はHMDSで修飾)
【0113】
本実施例では、下記の装置を用いた。
スピンコーター (ACT-300DH, 株式会社アクティブ、 埼玉、 日本)
【0114】
均一な厚みを有する重合体薄膜を作製するため、スピンコート法による修飾を行った。スピンコート法は半導体の製造過程で使用されることもあり、安定して薄膜を作製することができる修飾方法である。合成した光応答性ジブロック共重合体をトルエン (360 μL, 10 mg/mL)に溶解させ、表15に示す回転条件で実施例6でシラン修飾を施したガラス基板に窒素雰囲気下でスピンコートした後、140 ℃で 12 時間減圧環境下で熱アニーリングを施した。
【表16】
【実施例9】
【0115】
原子間力顕微鏡による相分離表面構造の観察
材料及び方法
本実施例では、下記の材料を用いた。
マイクロカバーガラス 24 mm×24 mm×0.13-0.17 mm (重合体で修飾)
カンチレバー (OMCL-AC240TS-W2, オリンパス工業株式会社, 東京, 日本) (バネ定数 2.0 N/m、共振周波数 70 kHz)
【0116】
本実施例では、下記の装置を用いた。
原子間力顕微鏡(Atomic force microscope; Dimension 3100 Nanoscope IV, Veeco, Plainview, New York , U.S.A)
原子間力顕微鏡(Atomic force microscope; MultiMode Nanoscope IIIa, Bruker AXS K.K. , Billerica, Massachusetts, U.S.A)
UVランプ (365 nm wavelength handheld; UVGL-58, 1.2 mW/cm2, UVP, CA, U.S.A.).
【0117】
アルキル層の種類と重合体の組成の違いが基板表面の相分離構造に与える影響及び、スピロベンゾピランの光異性化が基板表面の相分離構造に与える影響を調べるために、C1、HMDS 各シラン修飾基板に対して 4 種類の重合体(MMA : nBMA : SpMA = 146 : 155 : 25、146 : 115 : 21、146 : 74 : 11、133 : 115 : 25)を 5 mg/mL の濃度でそれぞれスピンコートした基板を作製した(MMA : nBMA : SpMA = 146 : 155 : 25 及び 133 : 115 : 25 に関してのみ 7 mg/mL も作製した)。その後、表面微細構造を原子間力顕微鏡を用いて観察した。基板は常温、大気中において測定モードをタッピングモード、測定範囲は 20μm、スキャン速度 1 Hz の条件で測定した。UV光照射は UVランプ(365 nm wavelength)を用いて基板から 1 cm 離れた距離から90 秒間行った。
【0118】
結果及び考察
図3は、原子間力顕微鏡による相分離表面構造の像を示す。まず、UV光照射前の基板に注目した。MMA : nBMA : SpMA = 146 : 74 : 11、5 mg/mL の修飾基板は表面に何らかの構造物は確認できるものの、その高さと構造物の輪郭の形状から相分離が生じていないと考えられた。それ以外のポリマー修飾基板に関してはシラン剤の種類に依らず、同一の重合体では同様な相分離由来の表面構造を形成していることが確認できた。しかし、重合体の組成により相分離の形状が異なる結果となった。MMA : nBMA : SpMA = 146 : 155 : 25 の重合体のうち 5 mg/mL で修飾を行った基板は白色ドット状になる海島構造を示し、7 mg/mL で修飾を行った基板は白色ドメインが連なっているラメラ構造を示した。これは基板へのポリマー修飾時の濃度の違いにより、基板表面に存在する重合体分子の量が変化したことに起因すると考えられた。5 mg/mL で修飾を行った基板に現れた白色ドットドメイン部分が増加した重合体分子によりドメインのエリアが増加し、付近の異なる白色ドットドメインと融合することで、上記のようなラメラ構造を示していた。146 : 115 : 21 の重合体は白色ドメインが連なっているラメラ構造を示すのに対し、133 : 115 : 25 の重合体は白色ドット状になる海島構造を示した。これらの構造の違いは重合体の組成比率に左右されていると考えられた。
続いて UV光照射後の基板に注目する。MMA : nBMA : SpMA = 146 : 74 : 11 のポリマー修飾基板は UV光照射に関わらず変化が見られなかった。さらに、MMA : nBMA : SpMA = 146 : 155 : 25 の重合体では 2 種類のアルキル層上に 5 mg/mL で修飾を行った基板は白色ドット状になる海島構造から相分離構造が消滅する結果、7 mg/mL で修飾を行った基板のうちアルキル鎖を HMDS でグラフトした基板は白色ドメインが連なったラメラ構造から相分離構造が消滅する結果に対し、7 mg/mL で修飾を行った基板のうちアルキル鎖を C1 でグラフトした基板は白色ドメインが連なっているラメラ構造から白色ドット状の海島構造に転換にとどまり、相分離構造の消滅ほどの変化は得られなかった。この際差異が生まれた原因として、C1 による複数のシラン分子による複雑なポリマーネットワーク形成が関わっていると考えられた。この C1 ポリマーネットワークが HMDS 修飾のような単分子層に近い場合は、重合体がそのネットワーク中に捕らわれることなくスピロベンゾピランの光異性化を駆動力に相分離構造の転換が十分に行えるが、C1 ポリマーネットワークが複雑なものになればなるほど修飾した重合体がそのネットワーク中に捕らわれ、分子の運動性が制限されスピロベンゾピランの光異性化は相分離構造を消滅させるほどの駆動力が得られなかったと考えられた。これは、C1 修飾の不安定性から生じたものではないかと考察できた。一方、それ以外の重合体に関してはシラン剤の種類に依らず同一の重合体で同様の転換が見られた。まず 146 : 115 : 21 のポリマー修飾基板に着目すると白色ドメインが連なっているラメラ構造から白色ドッ ト状の海島構造に転換した。しかし、アルキル層の種類の違いにより、UV光照射前では差異がなかった構造が、UV光照射後では海島構造の各ドットの大きさが異なるものとなったが、1 枚の AFM 像内でも白色ドットの大きさにムラがあり、かつ、HMDS 修飾基板に関しては近傍にあるドットが融合しているかのような形状のドットが多く見受けられた。
【実施例10】
【0119】
可視光による相分離構造の可逆的スイッチングの観察
材料及び方法
本実施例では、下記の材料を用いた。
マイクロカバーガラス 24 mm×24 mm (重合体で修飾)
カンチレバー (OMCL-AC240TS-W2, オリンパス工業株式会社) (バネ定数 2.0 N/m、共振周波数 70 kHz)
【0120】
本実施例では、下記の装置を用いた。
原子間力顕微鏡(Atomic force microscope; Dimension 3100 Nanoscope IV, Veeco, Plainview, New York , U.S.A)
原子間力顕微鏡(Atomic force microscope; MultiMode Nanoscope IIIa, Bruker AXS K.K. , Billerica, Massachusetts, U.S.A)
UVランプ(365 nm wavelength handheld; UVGL-58, 1.2 mW/cm2, UVP, CA, U.S.A.).
LED (530 nm wavelength; LAJ4C, 8500 cd, 株式会社岩崎電機製作所, 東京, 日本).
【0121】
スピロベンゾピランが UV光照射と可視光照射によるそれぞれの光異性化により基板表面の相分離構造に与える影響を調べるために、HMDS 修飾基板に対して 3種類の重合体MMA : nBMA : SpMA = 146 : 115 : 21と133 : 115 : 25と127 : 118 : 28 を 5, 7, 10 mg/mL の濃度でスピンコートし、作製した。その後、表面微細構造を原子間力顕微鏡を用いて観察した。基板は室温、大気中において測定モードを タッピングモード、測定範囲は20 μm、スキャン速度 1 Hz の条件で測定した。UV光照射は基板から1 cm離れた距離から90秒行った。可視光照射は基板から20 cm離れた距離から 1800秒行った。
【0122】
結果
図4は、可視光による相分離構造の可逆的スイッチングにおける原子間力顕微鏡による相分離表面構造の像を示す。図5及び図6は、相分離表面構造の断面図を示す。まず、UV光照射前の基板に注目する。MMA : nBMA : SpMA = 146 : 115 :21、5 mg/mL の修飾基板は以前の結果と異なり表面に相分離構造は確認できなかった。それ以外のポリマー修飾基板に関しては白色ドットの大きさに差があるが、同様な相分離由来の海島構造を形成していることが確認できた。
重合体ごとにスピンコート時の修飾濃度の違いによる相分離構造の差異に注目する。MMA : nBMA : SpMA = 146 : 115 : 21 では 7 mg/mL より 10 mg/mL のほうがドットの一つあたりの面積が大きくなった。また、MMA : nBMA : SpMA = 133 : 115 : 25 ポリマー修飾基板ではスピンコート時の修飾濃度が高くなるにつれドットの一つあたりの面積が大きくなった。
続いて UV光照射後の基板に注目する。すべての修飾基板において UV光照射により相分離由来の表面構造が消滅した。その後さらに可視光を照射し、観察したところ、MMA : nBMA : SpMA = 146 : 115 : 21 のポリマー修飾基板に関しては修飾濃度に依らず、UV光照射前に似た表面構造を回復させることが分かった。MMA : nBMA : SpMA = 133 : 115 : 25 のポリマー修飾基板に関しても可視光照射により相分離由来の表面構造は回復したが、修飾濃度によって回復した表面構造の形状が異なるものとなった。5 mg/mL で修飾した基板は白色ドットが連なったようなラメラ構造と海島構造の中間のような形状であった。7 mg/mL で修飾した基板は茶色ドットが現れるようになり、白色ドメインと茶色ドメインが逆転したかのような表面構造となった。10 mg/mL はわずかに白色ドットが連なっているような傾向がみられるが、概ね UV光照射前の表面構造と同様な形状を示した。
その後さらに UV光を照射し、観察したところ、すべての修飾基板において初めの UV光照射時と同様に表面構造がすべて消滅していることが確認できた。以上より、2 種類の組成の重合体を修飾した基板上では修飾濃度に依らず相分離由来の表面構造を形成し、その構造は UV光照射で消滅、可視光照射で回復させることができる光可逆的な性質を有することが示された。
また、可視光を照射した際の表面の微細な凹凸構造は、高低差が19.23±1.35 nmであり、UV光を照射すると、この高低差がほぼ消滅した(図6)。
【実施例11】
【0123】
光スイッチングできる相分離構造表面の細胞培養基板への応用(1)
材料及び方法
本実施例では、下記の材料を用いた。
ウシ大動脈内皮細胞(bovine aortic endothelial cells; BAECs; B304-05, used for passage numbers 16, Cell Applications, San Diego, U.S.A.)
マイクロカバーガラス24 mm×24 mm×0.13-0.17 mm (重合体で修飾)
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Lot# L7N3114, Wako Pure Chemicals, Osaka, Japan)
ウシ胎児血清(Fetal bovine serum; FBS; Lot# 12868, Biowest, Nuaille, France)
ペニシリン及びストレプトマイシン(P/S; Lot# 1864855, Gibco Life Technologies, Grand Island, NY, U.S.A.)
Dulbecco's phosphate buffered saline (PBS; Lot# L7K2513, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, U.S.A.
トリプシン/EDTA(Trypsin/ethylenediaminetetraacetic acid; T/E; Lot# TWP7024, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, U.S.A.)
【0124】
本実施例では、下記の装置を用いた。
位相差顕微鏡 (Eclipse Ti-E/B, 株式会社ニコン, 東京, 日本)
【0125】
培地は DMEM に FBS を終濃度 10 %、PS を終濃度 1 %となるように調製したものを細胞培養に用いた。1×PBS は 10×PBS を滅菌水により希釈して調製した。1×T/E は10×T/E を 1×PBS により希釈して調製した。これらの試薬は 4 ℃で保存し、使用時は37 ℃まで温めてから用いた。細胞継代は細胞培養ディッシュ(φ100 mm)に 10 %コンフルエントとなるように播種し、37 ℃、5 % CO2 インキュベーター内で培養した。ここで 2.0×105 cells/cm2 をBAEC のコンフルエントとしている。継代は 100 %コンフルエントになる前に 3 日に1回の頻度で行った。継代操作に関しては、培地をアスピレーターで除去した後、1×PBS で 2 回洗浄を行った。その後 1×T/E を添加し、37 ℃、5 % CO2 インキュベーター内で約 3 分間反応させ、細胞をディッシュから剥離させた。培地を加えて T/E の反応を停止させたのち、1200 rpm で 3 分間遠心分離を行うことで細胞ペレットを回収した。上清を除去し、新たに培地を加えて細胞懸濁液を作製し、それを用いて新たな TCPS ディッシュに播種した。
【0126】
作製したポリマー修飾基板に播種した細胞が接着、伸展するかの評価を行うため、播種後day1-4、day7 の細胞形態の観察を位相差顕微鏡を用いて観察した。コントロールには TCPS の φ100 mmディッシュ 上に播種した細胞を用いた。作製したポリマー修飾基板は瞬間接着剤を基板の 4 隅に少量塗布し、φ100 mm のペトリ皿上に張り付けた。また、比較の為、ペトリ(petri)皿の基板が貼られていない部分も併せて観察した。図7は、光スイッチングできる相分離構造表面を有する細胞培養基板において培養した細胞の顕微鏡写真である。なお、TCPS の day 1の拡大像と、TCPS の day 7(day 4 時点でコンフルエントに達していた)とにおいて、撮影は行わなかった。day 1、day 2 の結果に注目すると、TCPS 上に播種した細胞挙動と比較し、ポリマー修飾基板は細胞の形態が丸く接着が十分ではなく進展していないものが多く見受けられた。これはペトリ皿にも当てはまり、ポリマー修飾基板は接着に時間がかかることがわかった。培養日数を増やしていくと、TCPS は day 3-day 4 でコンフルエントに達するのに対し、ポリマー修飾基板、ペトリ皿上に播種した細胞は day7 においてそれぞれ 30 %程度、50-60 %程度のコンフルエントまでにしか達しなかった。一方で day7 においては接着している細胞はほとんどがその手腕を伸ばし、伸展している様子も観察できた。
【0127】
本発明の相分離構造表面を有する細胞培養基板を用いることによって、細胞の脱着等の細胞の挙動を制御できる。
【実施例12】
【0128】
光スイッチングできる相分離構造表面の細胞培養基板への応用(2)
実施例10と同様に、スピロベンゾピランが UV光照射と可視光照射によるそれぞれの光異性化により基板表面の相分離構造及び培養細胞に与える影響を調べるために、ピラニア溶液処理したガラス基板上にHMDSを積層した修飾基板に対して重合体(MMA:nBMA:SpMA = 133 : 115 : 25)を10 mg/mL の濃度でスピンコートし、相分離構造体システムを作製した。
その後、実施例11と同様に、相分離構造体システムの表面にC2C12 (P10-15)を2.0×104 cells/cm2で播種し、2日間培養し、細胞の接着及び脱離の観察を位相差顕微鏡を用いて観察した。
また、UV光照射は基板から1 cm離れた距離から90秒間行うと細胞の脱離が惹起されて除去された。相分離構造体システムの表面を1×PBSで洗浄した。洗浄後、可視光照射は基板から20 cm離れた距離から1800秒間行った。なお、細胞の播種、UV光照射、洗浄及び可視光照射を4回繰り返した。
【0129】
結果
図8は、光スイッチングできる相分離構造表面を有する細胞培養基板において培養した細胞にUV光と可視光とを繰り返し照射した際の培養細胞の接着と脱離と再接着と再脱離とを観察した顕微鏡写真及び表面構造と細胞の接着性の変化を模式的に表した図である。本発明の相分離構造表面を有する細胞培養基板を相分離構造体システムとして用いることによって、細胞の脱着を可逆的に制御できた。
【実施例13】
【0130】
光スイッチングできる相分離構造表面の細胞培養基板への応用(3)
実施例10と同様に、スピロベンゾピランが UV光 照射と可視光照射によるそれぞれの光異性化により基板表面の相分離構造及び培養細胞に与える影響を調べるために、HMDS 修飾基板に対して重合体MMA : nBMA : SpMA = 133 : 115 : 25 を10 mg/mL の濃度でスピンコートし、作製した。その後、UV光及び可視光を照射していない基板、UV光を照射した基板、及び、UV光及び可視光を照射した基板の3種類の基板を準備した。この3種類の基板それぞれに、実施例11と同様に、C2C12 (P10-15)を2.0×104 cells/cm2で播種し、2日間培養し、細胞の観察を位相差顕微鏡を用いて観察した。
【0131】
結果
図9は、異なる光を照射した細胞培養基板において培養した細胞にUV光又は可視光を照射した際の顕微鏡写真である。
UV光及び可視光を照射していない基板、UV光を照射した基板、及び、UV光及び可視光を照射した基板の3種類の基板(初期状態)において、相分離構造の有無に寄らず、細胞の伸展、接着、及び増殖が観察された。
UV光又は可視光が照射された、UV光及び可視光を照射していない基板、UV光を照射した基板、及び、UV光及び可視光を照射した基板の3種類の基板(光照射後の状態)において、相分離の転換を惹起する可視光又はUV光が照射された際に、細胞の脱着の誘導が観察された。
すなわち、細胞は、相分離構造そのものを認識しているのではなく、相分離構造の動的な転換を認識していることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9