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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】皮膚表面の放電処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/44 20060101AFI20230224BHJP
【FI】
A61N1/44
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017108470
(22)【出願日】2017-05-31
(65)【公開番号】P2018201701
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000106900
【氏名又は名称】シシド静電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317005789
【氏名又は名称】株式会社ひらめき
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】高木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金 天海
(72)【発明者】
【氏名】竹内 隆一
(72)【発明者】
【氏名】日吉 功
(72)【発明者】
【氏名】榎本 洋介
(72)【発明者】
【氏名】出澤 純一
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505553(JP,A)
【文献】特開2008-047372(JP,A)
【文献】特表2010-518586(JP,A)
【文献】国際公開第2016/094497(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/192997(WO,A1)
【文献】特表2016-519596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体バリア放電における電極バリア層として機能する誘電性バリア体と、
前記誘電性バリア体の背面側に配置されて、前記誘電性バリア体を介して絶縁される第1電極と、
前記誘電性バリア体の正面側に近接又は密着して配置されて、処理対象となる皮膚表面にあてがわれるメッシュ状の第2電極とを少なくとも含み、
前記第1電極と大地との間には、高圧交流電圧が印加され、さらに
前記第2電極が、その電位がゼロ電位に保持されるように、良導性の電流路を経由して大地に導通する第1の状態と、前記第2電極が、その電位が、電流による自己バイアス作用により、電源周波数に同期して、ゼロ電位に保持されることなく、変動するような動作が可能となるようなインピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通する第2の状態と、前記第2電極の電位が、大地から浮いた状態とされる第3の状態と、の中から選択された1つの状態に切り替えるためのスイッチを有する、皮膚表面の放電処理装置。
【請求項2】
前記メッシュ状の第2電極が、良導性材料からなる線材を縦横格子状に組成してなる構造を有する、請求項1に記載の皮膚表面の放電処理装置。
【請求項3】
皮膚疾患の治療装置として構成される、請求項1に記載の皮膚表面の放電処理装置。
【請求項4】
皮膚表面の美容装置として構成される、請求項1に記載の皮膚表面の放電処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、皮膚疾患の治療や皮膚の活性化による美容効果等の用途に好適な皮膚表面の放電処理装置に係り、特に、肌と接する先端部の構造に特徴を有する皮膚表面の放電処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚疾患の一つであるアトピー性皮膚炎(AD)は有症率が6.9%と比較的高い疾患であるが、その根本的な治療法は未だ確立されておらず、症状改善手法もステロイド剤・免疫抑制薬などに限られている。ステロイド剤には副腎機能の低下や骨粗しょう症など、免疫抑制薬には高血圧や腎臓機能低下など、と言った副作用のリスクがあるため、薬学的副作用がないAD治療法が求められている。
【0003】
近年の研究によると、ADの皮膚炎症症状の原因が表皮における黄色ブドウ球菌等の皮膚常在菌の過度な群繁殖であることが判明している。そのため、表皮上の黄色ブドウ球菌等の皮膚常在菌を殺菌することができる方法が求められている。
【0004】
代表的な殺菌方法としては、オートクレーブ処理、エチレンオキサイド処理、γ線滅菌処理などが知られている。しかし、これらの処理には長い処理時間や密閉空間での処理が必要であるため、耐熱性のない物質には使用できないこと、有毒であること、滅菌中に処理対象が変質してしまう虞があること等々、それぞれ問題がある。
【0005】
一方、近年、大気圧プラズマによる殺菌方法が注目されている。大気圧プラズマは、殺菌に必要な時間が短く、一般的な大気下で実施可能であり、オゾンやヒドロキシラジカルなどの多くの反応生化学種を生成するため、皮膚疾患、救急医療、細胞のアンチエイジング効果、癌治療など、多岐にわたって効果が期待されている。
【0006】
大気圧プラズマ殺菌では、プラズマに誘起される物理的および化学的作用が殺菌に寄与している。物理的作用は放電ストリーマにおける正と負のイオンによって進行する。化学的作用は活性中性種によって進行する。また、大気圧プラズマ放電による殺菌では熱の寄与が微々たるものであると報告されている。
【0007】
大気圧プラズマは、一般に、誘電体バリア放電を利用して生成される。誘電体バリア放電とは、例えば、一定の間隔をもった一対の平行平板電極の片側又は両側を絶縁体(誘電体)で覆い、それらの電極間に高周波高電圧を印加した際に生ずる放電のことである。誘電体バリア放電においては、電極が絶縁体で覆われていることから、電極には電荷が流れ込むことがない。そのため、大電流が流れることはなく、また、火花放電やコロナ放電のように、放電に伴う音も発生しない(所謂、無音放電)(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】http://www.tamaoki-electronics.co.jp/custom/barrier.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の技術的背景下になされたものであり、その目的とするところは、大気圧プラズマを利用することにより、人体に与える負担を極力軽減させつつも、皮膚疾患の治療効果や皮膚の活性化による美容効果を得ることを可能とした皮膚表面の放電処理装置を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の技術的な課題は、以下の構成を有する皮膚表面の放電処理装置により解決することができると考えられる。
【0012】
すなわち、本発明に係る皮膚表面の放電処理装置は、誘電体バリア放電における電極バリア層として機能する誘電性バリア体と、前記誘電性バリア体の背面側に配置されて、前記誘電性バリア体を介して絶縁される第1電極と、前記誘電性バリア体の正面側に近接又は密着して配置されて、殺菌対象となる皮膚表面にあてがわれるメッシュ状の第2電極とを少なくとも含み、前記第1の電極と前記大地との間に高圧交流電圧を印加するようにしたものである。
【0013】
このような構成によれば、例えば皮膚疾患の治療に応用する場合には、前記メッシュ状の第2電極を前記対象となる皮膚表面にあてがった状態において、前記第1電極と前記大地との間に高圧交流電圧を印加すると、例えば、前記第2電極が良導性の電流路を経由して大地に導通するものであれば、主として、前記誘電性バリア体と前記メッシュ状の第2電極との間において誘電体バリア放電(大気下プラズマ放電)が生ずるようになり、この大気下プラズマ放電により生ずる反応性化学種(例えば、オゾンやヒドロキシラジカル)はメッシュの隙間を通過して皮膚表面へと至り、皮膚表面に付着した常在菌コロニー(例えば、黄色ブドウ球菌等々)に対して殺菌作用を及ぼすこととなる。しかも、第2電極を構成するメッシュの格子部分(すなわち、ゼロ電位の導電部分)は、誘電性バリア体の前面に一様に分布するため、大気下プラズマ放電は、誘電性バリア体の前面において一様に発生することとなり、殺菌対象となる皮膚表面をムラなく殺菌することが可能となる。一方、前記誘電性バリア体と皮膚表面との間には、誘電体バリア放電は殆ど生じないから、接触電流に起因して人体皮膚に与える負担は極力軽減される。そのため、本発明装置によれば、人体に与える負担を極力軽減させつつも、高い殺菌効率を得ることが可能となる。
【0014】
上述の例において、前記第2電極が所定インピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通するものであれば、電流による自己バイアス作用により、第2電極の電位を電源周波数に同期して所定電位範囲で変動させることができる。これにより、大気下プラズマ放電の発生態様を積極的にコントロールすることもできる。
【0015】
また、前記第2電極が電位的に大地から浮いた状態とされるものであれば、第2電極の電位を皮膚電位に応じて変動させることができ、これによっても、誘電バリア体の前面側に、均一な電位分布を生成して安定な大気圧下放電を実現することができる。
【0016】
さらに、上述の例において、前記第2の電極を、良導性の電流路を経由して大地に導通する状態と、所定インピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通する状態と、電位的に大地から浮いた状態の中から選択された1つに切り替えるためのスイッチを有するものであれば、上述の3つの状態をスイッチの操作で簡単に切り替えることができ、これにより汎用性の高い放電処理装置を実現することができる。
【0017】
なお、誘電性バリア体はその前面を覆うメッシュ状の第2電極とともに、殺菌対象となる皮膚表面にあてがわれるものであるから、殺菌対象となる皮膚の凹凸形状等に応じて様々な形状乃至構造のものを採用することができる。殺菌対象となる皮膚表面として比較的に平坦な領域を想定するのであれば、誘電性バリア体としては一定厚さの平板状の誘電体(例えば、一定厚さの平板状のガラス板)を採用することもでき、その場合には、第1の電極としては、当該ガラス板の背面に被着される薄膜状電極(例えば、アルミ製フィルム、アルミ製蒸着膜)にて実現することができる。
【0018】
また、殺菌対象となる皮膚表面として湾曲状に凹んだ領域を想定したり、或いは皮膚表面にあてがったままゆっくりと摺り動かすことを想定する場合には、前方へ膨出するが如き断面弧状の湾曲状誘電体(例えば、一定厚さのガラス製略湾曲状の中空体)を採用することができ、その場合にも、第1の電極としては、当該中空体の背面(内面)に被着される薄膜状電極(例えば、アルミ製フィルム、アルミ製蒸着膜)にて実現することができる。
【0019】
さらに、誘電性バリア体1として、真空引き或いは放電性ガスの注入された一定厚みの中空球状誘電体(例えば、中空のガラス球)を採用すると共に、その中心部に点状の第1電極を配置しても、上述の略半球状誘電体を実現することができる。
【0020】
本発明装置の好ましい実施の態様においては、前記メッシュ状の第2電極が、良導性材料からなる線材を縦横格子状に組成してなる構造を有する、ものであってもよい。
【0021】
メッシュ状の第2電極は、誘電性バリア体の表面との間において、できるだけ全面一様に誘電体バリア放電(大気下プラズマ放電)を発生させると共に、この大気下プラズマ放電により発生した比較的残留性の高い反応性化学種(例えば、オゾンやヒドロキシラジカル)をスムーズに皮膚表面へと通過させて、皮膚表面に付着した常在菌コロニー(例えば、黄色ブドウ球菌等々)に対して殺菌作用を及ぼすものであることが好ましい。
【0022】
このような観点からすると、良導性材料からなる線材を縦横格子状に組成してなる構造を有するもの、良導性金属板に均等にパンチ孔を明けたもの等々、様々な構成を採用することができる。もっとも、良導性材料からなる線材を縦横格子状に組成してなる構造を有するものであれば、誘電性バリア体の表面に密着させた場合にも、その表面に微細な凹凸が生ずるため、両者間に大気下プラズマ放電を誘発する微細な空隙が生じ易い利点がある。
【0023】
本発明装置の好ましい実施の態様においては、前記反応性化学種には、オゾン及び/又は過酸化水素等の殺菌能力を有する反応性化学種が含まれていてもよい。
【0024】
このような構成によれば、それらの反応性化学種は発生直後に分解消失することなく残存性が高いため、第2電極を構成するメッシュの隙間を通して皮膚表面に至り、有効に殺菌効果を果たすことができる。
【0025】
本発明装置の好ましい実施の態様においては、アトピー性皮膚炎等の皮膚常在菌の過度の群繁殖を原因とする皮膚疾患の治療装置として構成されてもよい。このような構成によれば、薬学的副作用がないAD治療法を実現することができる。さらに、本発明の好ましい実施の態様においては、大気圧下プラズマ放電による皮膚刺激を利用した美容装置として構成されてもよい。このような構成によれば、一定領域の皮膚表面を満遍なく刺激することにより、当該領域を一様に活性化できる美容効果の高い美容装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る皮膚表面の放電処理装置によれば、例えば皮膚疾患の治療に応用する場合には、前記メッシュ状の第2電極を前記対象となる皮膚表面にあてがった状態において、前記第1電極と前記大地との間に高圧交流電圧を印加すると、例えば、前記第2電極が良導性の電流路を経由して大地に導通するものであれば、主として、前記誘電性バリア体と前記メッシュ状の第2電極との間において誘電体バリア放電(大気下プラズマ放電)が生ずるようになり、この大気下プラズマ放電により生ずる反応性化学種(例えば、オゾンやヒドロキシラジカル)はメッシュの隙間を通過して皮膚表面へと至り、皮膚表面に付着した常在菌コロニー(例えば、黄色ブドウ球菌等々)に対して殺菌作用を及ぼすこととなる。しかも、第2電極を構成するメッシュの格子部分(すなわち、ゼロ電位の導電部分)は、誘電性バリア体の前面に一様に分布するため、大気下プラズマ放電は、誘電性バリア体の前面において一様に発生することとなり、殺菌対象となる皮膚表面をムラなく殺菌することが可能となる。一方、前記誘電性バリア体と皮膚表面との間には、誘電体バリア放電は殆ど生じないから、接触電流に起因して人体皮膚に与える負担は極力軽減される。そのため、本発明装置によれば、人体に与える負担を極力軽減させつつも、高い殺菌効率を得ることが可能となる。
【0027】
上述の例において、前記第2電極が所定インピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通するものであれば、電流による自己バイアス作用により、第2電極の電位を電源周波数に同期して所定電位範囲で変動させることができる。これにより、大気下プラズマ放電の発生態様を積極的にコントロールすることもできる。
【0028】
また、前記第2電極が電位的に大地から浮いた状態とされるものであれば、第2電極の電位を皮膚電位に応じて変動させることができ、これによっても、誘電バリア体の前面側に、均一な電位分布を生成して安定な大気圧下放電を実現することができる。
【0029】
さらに、上述の例において、前記第2の電極を、良導性の電流路を経由して大地に導通する状態と、所定インピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通する状態と、電位的に大地から浮いた状態の中から選択された1つに切り替えるためのスイッチを有するものであれば、上述の3つの状態をスイッチの操作で簡単に切り替えることができ、これにより汎用性の高い放電処理装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明装置の原理的構成図である。
図2図2は、メッシュ状の第2電極の例を示す図である。
図3図3は、本発明装置の作用説明図である。
図4図4は、本発明装置の使用例を示す図である。
図5図5は、実験装置の模式図である。
図6図6は、図5の実験装置で測定される電圧電流波形を示すグラフである。
図7図7は、図5の実験装置で得られるV-qリサージュ図形を示す図である。
図8図8は、図5の実験装置における放電処理時間とコロニー数との関係を示すグラフである。
図9図9は、図5の実験装置における投入エネルギーとコロニー数との関係を示すグラフである。
図10図10は、放電処理条件を示す図表である。
図11図11は、放電処理時間とコロニー数との関係を示すグラフである。
図12図12は、投入エネルギーとコロニー数との関係を示すグラフである。
図13図13は、メッシュなしの電圧電流波形およびV-qリサージュ図形を示す図である。
図14図14は、放電処理時間とコロニー数との関係を示すグラフである。
図15図15は、投入エネルギーとコロニー数との関係を示すグラフである。
図16図16は、測定用回路の一例を示す回路図である。
図17図17は、実験装置の模式図である。
図18図18は、印加電圧波形およびU2の電圧波形を示す図である。
図19図19は、実効値で計算したタッチカレントを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る皮膚表面の放電処理装置の好適な実施の一形態(皮膚疾患の治療装置)を添付の図1図4を参照して詳細に説明する。
【0032】
<本発明装置の構成>
本発明装置の原理的構成図が、図1に示されている。同図に示されるように、この装置は、誘電体バリア放電における電極バリア層として機能する誘電性バリア体1と、誘電性バリア体1の背面側に配置されて、誘電性バリア体1を介して絶縁される第1電極2と、誘電性バリア体1の正面側に近接又は密着して配置されて、殺菌対象となる皮膚4の表面にあてがわれ、かつ大地GNDへと導通されるメッシュ状の第2電極3とを少なくとも含み、第1電極2と大地GNDとの間に、高圧交流電源5によって、高圧交流電圧を印加するように構成されている。なお、以下の明細書においては、第1電極2と誘電性バリア体1との積層体を「放電リアクタ」と言うこともある。
【0033】
誘電体バリア体1は、所定厚さの平板状の誘電体(例えば、ガラス板など)により構成することができる。第1電極2は、誘電性バリア体1の背面(図では上面)に被着された導電性の薄膜(例えば、アルミ製のテープ、アルミ製の蒸着膜など)にて構成することができる。
【0034】
一方、本発明の要部であるところのメッシュ状の第2電極3は、誘電性バリア体1の表面(図では下面)との間において、できるだけ全面一様に誘電体バリア放電(大気下プラズマ放電)を発生させると共に、この大気下プラズマ放電により発生した比較的残留性の高い反応性化学種(例えば、オゾンやヒドロキシラジカル)をスムーズに皮膚4の表面へと通過させて、皮膚4の表面に付着した常在菌(例えば、黄色ブドウ球菌等々)に対して殺菌作用を及ぼすものであることが好ましい。
【0035】
このような観点からすると、図2(a)に示されるように、良導性材料からなる線材(例えば、銅線、アルミ線、それらの合金線など)3aを縦横格子状に組成してなる構造を有するワイヤメッシュ、図2(b)に示されるように、良導性金属板(例えば、銅版、アルミ板、それらの合金版など)3bに均等にパンチ孔3cを明けたパンチ孔メッシュ等々、様々な構成を採用することができる。もっとも、良導性材料からなる線材3aを縦横格子状に組成してなる構造を有するワイヤメッシュであれば、誘電性バリア体1の表面に密着させた場合にも、両者間には微細な凹凸が生ずるため、両者間に大気下プラズマ放電を誘発する微細な空隙が生じ易い利点がある。
【0036】
メッシュ状の第2電極3は、導通路6を介して大地GNDへと導通する。導通路6は、専用の電線により構成しても良いが、高流電圧に対しては人体のインピーダンスは殆ど無視できる程度に低いため、第2電極3を人体の一部に接触させることで、人体そのものを導通路6とすることもできる。なお、第2電極3と人体との接触を確実にするためには、例えば第2電極3から導出された電線の先端に金属製ブレスレットや専用のコンタクタを設けてもよい。
【0037】
第1電極2と大地GNDとの間には、周波数(例えば、10Hz~500kHz)、電圧(例えば、100V~20kV)の高圧交流電源5が介在される。この種の高圧交流電源としては、従来より、様々な回路構成のものが提案されているので、それら公知の電源回路(例えば、特開2000-59290号公報、特開2000-278962号公報、特開2009-4177号公報など参照)を採用することができる。
【0038】
このとき、高圧交流電源5の一端は、導通路7を介して大地GNDへと導通する。この場合にあっても、導通路7は、専用の電線により構成しても良いが、交流電圧に対しては人体のインピーダンスは殆ど無視できる程度に低いため、高圧高周波電源5の一端を人体の一部に接触させることで、人体そのものを導通路7とすることもできる。
【0039】
なお、誘電性バリア体1はその前面を覆うメッシュ状の第2電極3とともに、殺菌対象となる皮膚4の表面にあてがわれるものであるから、殺菌対象となる皮膚表面の凹凸形状等に応じて様々な形状乃至構造のものを採用することができる。殺菌対象となる皮膚表面として比較的に平坦な領域を想定するのであれば、誘電性バリア体としては一定厚さの平板状の誘電体(例えば、一定厚さの平板状のガラス板)を採用することもでき、その場合には、第1の電極としては、当該ガラス板の背面に被着される薄膜状電極(例えば、アルミ製フィルム、アルミ製蒸着膜)にて実現することができる。
【0040】
また、殺菌対象となる皮膚表面として湾曲状に凹んだ領域を想定したり、或いは皮膚表面にあてがったままゆっくりと摺り動かすことを想定する場合には、前方へ膨出するが如き断面弧状の湾曲状誘電体(例えば、一定厚さのガラス製湾曲状の中空体)を採用することができ、その場合にも、第1の電極としては、当該中空体の背面(内面)に被着される薄膜状電極(例えば、アルミ製フィルム、アルミ製蒸着膜)にて実現することができる。
【0041】
さらに、誘電性バリア体1として、真空引きされた一定厚みの中空球状誘電体(例えば、中空のガラス球)を採用すると共に、その中心部に点状の第1電極を配置しても、上述の略半球状誘電体を実現することができる。
【0042】
<本発明装置の作用>
次に、図3及び図4を参照して本発明装置の作用を説明する。メッシュ状の第2電極3を殺菌対象となる皮膚4の表面にあてがった状態において、第1電極2と大地GNDとの間に高圧交流電圧を印加すると、図3(a)に示されるように、主として、誘電性バリア体1とメッシュ状の第2電極3との間において誘電体バリア放電(大気下プラズマ放電)9が生ずるようになり、この大気下プラズマ放電9により反応性化学種(例えば、オゾンやヒドロキシラジカル)10が発生する。なお、誘電性バリア体1と皮膚4の表面との間には、ほぼゼロ電位に保たれるメッシュ状の第2電極3が介在して遮蔽効果を奏することから、誘電性バリア体1と皮膚4の表面との間におけるプラズマ放電の頻度は、誘電性バリア体1とメッシュ状第2電極3との間におけるプラズマ放電の頻度にくらべて格段に低くなる。
【0043】
次いで、この反応性化学種10は、図3(b)に示されるように、メッシュの隙間(網目)を通過して皮膚4の表面へと至り、皮膚表面に付着した常在菌コロニー(例えば、黄色ブドウ球菌等々)8に対して殺菌作用を及ぼすこととなる。しかも、第2電極を構成するメッシュの格子部分(すなわち、ゼロ電位の導電部分)3aは、誘電性バリア体1の前面に一様に分布するため、大気下プラズマ放電9は、誘電性バリア体1の前面において一様に発生することとなり、殺菌対象となる皮膚表面をムラなく殺菌することが可能となる。一方、前記誘電性バリア体1と皮膚表面との間には、誘電体バリア放電9は殆ど生じないから、接触電流に起因して人体皮膚に与える負担は極力軽減される。そのため、本発明装置によれば、人体に与える負担を極力軽減させつつも、高い殺菌効率を得ることが可能となる。
【0044】
なお、本発明装置の具体的な製品化にあたっては、例えば、電源回路については専用の電源用筐体(図示せず)に収容する一方、本発明の要部であるヘッド部分(第1電極付き誘電性バリア体1とメッシュ状第2電極3との積層体)については、図4に示されるように、手持ち型の小型筐体11の先端部分に収容し、電源用筐体から手持ち筐体11へとケーブル12を介して高圧交流電圧を供給すると言った構成を採用することができる。また、本発明に係る装置の用途は、皮膚表面の治療に限定されることはなく、例えば、美容等を含むことは勿論である。
【0045】
上述の例において、第2電極3が所定インピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通するものであれば、電流による自己バイアス作用により、第2電極の電位を電源周波数に同期して所定電位範囲で変動させることができる。これにより、大気下プラズマ放電の発生態様を積極的にコントロールすることもできる。
【0046】
また、第2電極3が電位的に大地から浮いた状態とされるものであれば、第2電極3の電位を皮膚電位に応じて変動させることができ、これによっても、誘電バリア体の前面側に、均一な電位分布を生成して安定な大気圧下放電を実現することができる。
【0047】
さらに、上述の例において、第2の電極3を、良導性の電流路を経由して大地に導通する状態と、所定インピーダンス値を有する電流路を経由して大地に導通する状態と、電位的に大地から浮いた状態の中から選択された1つに切り替えるためのスイッチを有するものであれば、上述の3つの状態をスイッチの操作で簡単に切り替えることができ、これにより汎用性の高い放電処理装置を実現することができる。
【0048】
<本発明装置の効果検証>
次に、図5図20を参照しながら、本発明装置の作用効果をメッシュ状の第2電極を有しない装置との比較実験を通じて検証する。
【0049】
1. 大気圧プラズマ放電による殺菌の時間依存性(実験1)
1.1 実験方法
1.1.1 試料調製
本実験ではStaphylococcus属に属し黄色ブドウ球菌とは近縁種でありながらヒトへの病原性の心配が無く拡散防止措置P1 レベルの実験室で取り扱うことが可能である表皮ブドウ球菌 S. epidermidis (JCM 2414)を用いた。 S. epidermidis をあらかじめ Nutrient Broth with 0.5% NaCl (Difco Laboratories:Nutrient Broth) 液体培地中で、37℃で振とう培養した後、滅菌蒸留水で希釈し、菌液を作製した。これらの菌液50μLを直径85mmの標準寒天平板(日本製薬:標準寒天培地「ダイゴ」)の全面に塗布した。放電処理後、37℃で48時間培養した。培養後、形成されたコロニー数およびコロニーの分布を評価した。
【0050】
1.1.2 実験装置
図5に実験装置の模式図を示す。放電リアクタ(第1電極付き誘電性バリア体の意)は円状のアルミテープb(Φ65 mm)と円状のガラス板a(Φ85 mm、厚さ3 mm)から構成されている。また、接地した円状のステンレス板e(Φ87 mm)の上に寒天平板dを置いた。図5(a)にメッシュなしの場合の模式図を示す。寒天平板dの上にドーナツ状のベークライト板c(外形Φ84 mm、内径Φ65 mm、厚さ1 mm)を置き、ガラス板aと寒天平板dとの距離を1 mmとした。図5(b)にメッシュありの場合の模式図を示す。ガラス板aの上に接地した円状のメッシュ状の電極j(Φ80 mm)を配置し、メッシュ状の電極jと寒天平板dとは接触させた状態で実験を行った。
【0051】
放電リアクタでの消費電力は、47 nFのセラミックコンデンサfを挿入して移動電荷量を計測し、当該移動電荷量に基づいてV-Q Lissajous法を用いて測定した。印加電圧の測定には高電圧プローブi(Tektronix P-6025A)、電荷量の測定には電圧プローブh(Tektronix P-2220)、電流の測定にはロゴスキーコイルg(Pearson current transformer 2887)をそれぞれオシロスコープ(IWATSU DS-5414)に接続して計測した。
【0052】
1.1.3 放電処理条件
本実験で処理したサンプルは、メッシュなし又はメッシュあり(M4、M20、M60、M100)で各5、20、60秒間放電処理を行ったサンプルと、無処理(Control)のサンプルである。本実験では印加電圧7.5 kV、周波数890 Hzで実験を行った。図6に寒天平板に放電した場合の電圧電流波形を示す。図7に寒天平板に放電した場合のV-qリサージュ図形を示す。なお、実験では各条件でそれぞれ3枚の寒天平板を用いた。
【0053】
1.2 実験結果
図8に放電時間とコロニー数の関係を示す。メッシュをつけたものでは、放電処理時間の増加とともに菌が不活化されていることが確認できた。図9に投入エネルギーとコロニー数との関係を示す。同図から明らかな通り、メッシュをつけたものでは、投入エネルギーの増加とともに、菌がより不活化されていくことが確認された。
【0054】
2. 大気圧プラズマ放電による殺菌のエネルギー依存性(実験2)
2.1 実験方法
2.1.1 試料調製
1.1.1と同じ方法で試料の調製を行った。
2.1.2 実験装置
1.1.2と同じ実験装置を用いた。
2.1.3 放電処理条件
本実験で処理したサンプルは、メッシュなし、メッシュあり(M4、M20、M60、M100)である。本実験では放電処理時間を各条件で異なるように設定した。印加電圧および周波数は、1.1.3と同様である。図10の図表に各条件の放電処理時間およびその時の投入エネルギーを示す。
【0055】
2.2 実験結果
図11に放電時間とコロニー数との関係を示す。同図から明らかな通り、メッシュをつけたものでは、放電処理時間の増加とともに菌が不活化されることが確認された。また、図12に投入エネルギーとコロニー数の関係を示す。同図から明らかな通り、メッシュをつけたものでは、投入エネルギーの増加とともに菌が不活化されることが確認された。
【0056】
3. 印加電圧および周波数を上げた場合の評価(実験3)
3.1 実験方法
3.1.1 試料調製
1.1.1と同じ方法で試料の調製を行った。
3.1.2 実験装置
1.1.2と同じ実験装置を用いた。
【0057】
3.1.3 放電処理条件
本実験で処理したサンプルは、メッシュなし、及びメッシュあり(M4、M20、M60、M100)である。メッシュなしでは、印加電圧10 kV、周波数1.21 kHzとした。メッシュありの印加電圧および周波数は、1.1.3と同じである(印加電圧7.5 kV、周波数890 Hz)。図13にメッシュなしの条件で寒天平板に放電した場合の電圧電流波形およびV-qリサージュ図形を示す。なお、実験では各条件でそれぞれ3枚の寒天平板を用いた。
【0058】
3.2 実験結果
図14に放電時間とコロニー数との関係を示す。同図から明らかな通り、放電処理時間の増加とともに菌が不活化されていることが確認された。また、図15に投入エネルギーとコロニー数との関係を示す。同図から明らかな通り、投入エネルギーの増加とともに菌が不活化されることが確認された。これらより、メッシュありでは、メッシュなしよりも菌が不活化されることが確認され、メッシュを取り付けることで殺菌効果が大きくなることが確認された。なお、1.2、2.2、3.2の実験結果の全てにおいて、最も目が細かいM100の場合に、最大の殺菌効果を示した。
【0059】
4. タッチカレント(人体を流れる電流)の測定(実験4)
4.1 実験方法
4.1.1 実験装置
本実験では図16に示す測定用回路を用いて実験を行った。図17に実験装置の模式図を示す。放電リアクタ(第1電極付き誘電性バリア体の意)は円状のアルミテープb(Φ65 mm)と円状のガラス板a(Φ85 mm、厚さ3 mm)から構成されている。図17(a)にメッシュなしの場合の模式図を示す。測定回路の測定端子Aにつながれた円状のステンレス電極e(Φ87 mm)とガラス板aを付けて実験を行った。図17(b)にメッシュありの場合の模式図を示す。測定回路の測定端子Aにつながれた円状のステンレス電極(Φ87 mm)とメッシュ電極を着けて実験を行った。図16のUの電圧に関する測定には第1の電圧プローブ(Tektronix P-2220)、図17の印加電圧の測定には第2の電圧プローブ(Tektronix P-6025A)を用い、それぞれオシロスコープ(IWATSU DS-5414)に接続して測定した。測定したUの電圧の実効値およびピーク値を用いてタッチカレントを計算した。
【0060】
4.1.2 実験条件
本実験ではメッシュなしの条件、及びメッシュあり(M4、M20、M60、M100)の条件で測定を行った。メッシュなしの条件では印加電圧7.5 kV、周波数890 Hz、及び、印加電圧9 kV、周波数1.21 kHzで実験を行った。メッシュありの条件では印加電圧7.5 kV、周波数890 Hzで実験を行った。印加電圧波形およびUの電圧波形を図18に示す。
【0061】
4.2 実験結果
図19に実効値で計算したタッチカレントを示す。同図から明らかな通り、メッシュなしの条件下ではメッシュありの場合よりもタッチカレントが大きくなることが確認された。
【0062】
なお、以上の実験にて使用したメッシュの仕様乃至型番は下記の通りである。
・M4 株式会社吉田隆 型番2004-45T
・M20 HIKARI PS20-323
・M60 HIKARI PS60-321
・M100 HIKARI PS100-321
【0063】
以上の実験結果を総合すれば、誘電性バリア体であるガラス板aの表面と寒天平板dとの間にメッシュ状第2電極に相当するメッシュjを介在させることにより、メッシュjが存在しない場合に比較して、明らかな、コロニー数の減少効果及びタッチカレントの減少効果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、大気圧プラズマを利用することにより、人体に与える負担を極力軽減させつつも、高い殺菌効率を得ることができ、皮膚表面の常在菌群繁殖を原因とする皮膚疾患(例えば、アトピー性皮膚炎)の治療装置、或いは、美容装置に応用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 誘電性バリア体
2 第1電極
3 メッシュ状の第2電極
3a 良導性の線材
3b 良導性の金属板
3c パンチ孔
4 皮膚
5 高圧交流電源
6 導電路
7 導電路
8 常在菌コロニー
9 誘電体バリア放電
10 反応性化学種
11 手持ち型筐体
12 ケーブル
a ガラス板
b アルミテープ
c ベークライト板
d 寒天平板
e ステンレス板
f セラミックコンデンサ
g ロゴスキーコイル
h 電圧プローブ
i 高電圧プローブ
j メッシュ状電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19