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特許7232610流体漏洩検知システム、流体漏洩検知装置、設計支援システム、設計支援装置、及び学習装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】流体漏洩検知システム、流体漏洩検知装置、設計支援システム、設計支援装置、及び学習装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/00 20060101AFI20230224BHJP
   G01M 3/02 20060101ALI20230224BHJP
   G01M 3/38 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
G01M3/00 H
G01M3/02 M
G01M3/38 L
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018195205
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020063955
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 良治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 倫与
(72)【発明者】
【氏名】日置 輝夫
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-231979(JP,A)
【文献】特開2000-346796(JP,A)
【文献】特開2018-077120(JP,A)
【文献】特開2016-114500(JP,A)
【文献】特表2008-547105(JP,A)
【文献】特開平05-172689(JP,A)
【文献】特開2005-241633(JP,A)
【文献】特開平02-190733(JP,A)
【文献】特開平02-190734(JP,A)
【文献】特開平02-047527(JP,A)
【文献】特開2004-102692(JP,A)
【文献】特開2012-132847(JP,A)
【文献】特開平08-043239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物に設置され、設置位置における検知対象量の値を検知する複数のセンサと、
前記複数のセンサにより検知された前記検知対象量の値に基づいて、前記建造物における流体の漏洩状況を判定するための漏洩状況判定アルゴリズムを使用して、前記建造物における流体の漏洩を検知する流体漏洩検知装置と、
前記漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習装置と、
を備え、
前記流体漏洩検知装置は、
前記複数のセンサにより検知された前記検知対象量の値を取得する実測値取得部と、
前記実測値取得部により取得された前記検知対象量の値の分布に基づいて、前記漏洩状況判定アルゴリズムを使用して前記建造物における前記流体の漏洩状況を判定する漏洩状況判定部と、
を備え、
前記学習装置は、
前記建造物の所定の位置から前記流体が漏洩したときに前記複数のセンサのそれぞれにより検知される前記検知対象量の値の分布を学習データとして使用した機械学習により前記漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習部と、
前記建造物の構造データを保持する構造データ保持部と、
前記建造物の所定の位置から前記流体が漏洩したときの前記建造物における前記流体の挙動を、前記構造データ保持部に保持された前記建造物の構造データに基づく三次元流動シミュレーションによりシミュレートする三次元流動シミュレータと、
を備え、
前記学習部は、前記三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて算出された前記検知対象量の値の分布を更に学習データとして使用した機械学習により前記漏洩状況判定アルゴリズムを学習する
ことを特徴とする流体漏洩検知システム。
【請求項2】
前記建造物の内部に構造物が設置され、
前記三次元流動シミュレータは、前記構造物と干渉しながら拡散する前記流体の挙動をシミュレートする
請求項1に記載の流体漏洩検知システム。
【請求項3】
前記学習装置は、
前記複数のセンサの設置位置を示すデータを保持するセンサ位置データ保持部と、
前記三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて、前記センサ位置データ保持部に保持された設置位置にある前記複数のセンサのそれぞれにより検知されると推測される前記検知対象量の値を算出することにより、前記学習データを生成する学習データ生成部を更に備え、
前記学習部は、前記学習データ生成部により生成された学習データを使用した機械学習により前記漏洩状況判定アルゴリズムを学習する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体漏洩検知システム。
【請求項4】
前記学習部は、前記三次元流動シミュレータにより算出された、前記流体の漏洩源の位置、前記流体の種類、前記流体を構成する複数の物質の組成、前記流体の漏洩量、前記流体の漏洩方向、或いは前記建造物の状態又は環境を表す物理量の異なる複数のシミュレーションにより算出された前記検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により前記漏洩状況判定アルゴリズムを学習することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の流体漏洩検知システム。
【請求項5】
前記判定部は、前記複数のセンサにより検知された前記検知対象量の値を入力して、漏洩した流体に起因する影響の有無又は範囲を出力する影響範囲判定アルゴリズムを使用し、前記実測値取得部により取得された前記検知対象量の値に基づいて影響の有無又は範囲を判定し、
前記学習部は、前記三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて算出された前記検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により前記影響範囲判定アルゴリズムを学習する
請求項1から4のいずれかに記載の流体漏洩検知システム。
【請求項6】
前記判定部は、前記複数のセンサにより検知された前記検知対象量の値を入力して、流体の漏洩に対する対応の内容又は範囲を出力する対応内容判定アルゴリズムを使用し、前記実測値取得部により取得された前記検知対象量の値に基づいて対応の内容又は範囲を判定し、
前記学習部は、前記三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて算出された前記検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により前記対応内容判定アルゴリズムを学習する
請求項1から5のいずれかに記載の流体漏洩検知システム。
【請求項7】
前記学習部は、所定の対応内容が実行されたときの流体の漏洩状況を前記三次元流動シミュレータにシミュレートさせた場合のシミュレーション結果を前記所定の対応内容を実行しなかった場合のシミュレーション結果と比較することにより判定された前記所定の対応内容の良否を学習データとして使用した機械学習により前記対応内容判定アルゴリズムを学習する請求項6に記載の流体漏洩検知システム。
【請求項8】
前記学習部は、対応内容を実行しない場合よりも流体の漏洩量、漏洩範囲、又は影響範囲が小さくなることを報酬とする強化学習により前記対応内容判定アルゴリズムを学習する請求項6又は7に記載の流体漏洩検知システム。
【請求項9】
前記学習部は、複数のタイミングで異なる複数の対応内容を実行した場合の流体の漏洩状況を前記三次元流動シミュレータにシミュレートさせることにより生成された学習データを使用した機械学習により前記対応内容判定アルゴリズムを学習する請求項8に記載の流体漏洩検知システム。
【請求項10】
前記センサは、前記流体の濃度を検知する流体濃度センサを含むことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の流体漏洩検知システム。
【請求項11】
前記センサは、赤外線カメラを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の流体漏洩検知システム。
【請求項12】
建造物に設置され、設置位置における検知対象量の値を検知する複数のセンサにより検知された前記検知対象量の値を取得する実測値取得部と、
前記実測値取得部により取得された前記検知対象量の値の分布に基づいて、前記建造物における流体の漏洩状況を判定する漏洩状況判定部と、
を備え、
前記漏洩状況判定部は、前記建造物の所定の位置から前記流体が漏洩したときの前記建造物における前記流体の挙動を、前記建造物の構造データに基づく三次元流動シミュレーションによりシミュレートした結果に基づいて算出された前記検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により学習された漏洩状況判定アルゴリズムを使用して、前記建造物における前記流体の漏洩状況を判定することを特徴とする流体漏洩検知装置。
【請求項13】
建造物の所定の位置から流体が漏洩したときに、前記建造物に設置された複数のセンサのそれぞれにより検知される検知対象量の値を学習データとして取得する学習データ取得部と、
前記学習データ取得部により取得された学習データを使用した機械学習により、前記複数のセンサにより検知された前記検知対象量の値を入力して前記流体の漏洩源の位置を出力する漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習部と、
前記建造物の構造データを保持する構造データ保持部と、
前記建造物の所定の位置から前記流体が漏洩したときの前記建造物における前記流体の挙動を、前記構造データ保持部に保持された前記建造物の構造データに基づく三次元流動シミュレーションによりシミュレートする三次元流動シミュレータと、
を備え、
前記学習部は、前記三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて算出された前記検知対象量の値を更に学習データとして使用した機械学習により前記漏洩状況判定アルゴリズムを学習することを特徴とする学習装置。
【請求項14】
建造物における流体の漏洩に関する危険度を判定するための危険度判定アルゴリズムを学習する学習装置と、
前記学習装置により学習された前記危険度判定アルゴリズムを使用して前記建造物の設計を支援する設計支援装置と、
を備え、
前記学習装置は、
前記建造物における前記流体の漏洩挙動のシミュレーション結果から評価された流体の漏洩に関する危険度と、そのシミュレーションにおける前記建造物の構造因子との間の相関関係を学習するための学習データを生成する学習データ生成部と、
前記学習データ生成部により生成された学習データを使用して、前記危険度判定アルゴリズムを学習する学習部と、
を備え、
前記設計支援装置は、
建造物の構造を表す構造データを取得する構造データ取得部と、
前記構造データ取得部により取得された構造データに基づいて、前記危険度判定アルゴリズムにより前記建造物の危険度を判定する危険度判定部と、
を備えることを特徴とする設計支援システム。
【請求項15】
前記設計支援装置は、前記危険度判定部により判定された危険度が所定の条件に合致する場合に、前記建造物の設計変更を推奨する設計変更推奨部を更に備える請求項14に記載の設計支援システム。
【請求項16】
建造物の構造を表す構造データを取得する構造データ取得部と、
前記建造物における流体の漏洩挙動のシミュレーション結果から評価された流体の漏洩に関する危険度と、そのシミュレーションにおける前記建造物の構造因子との間の相関関係を学習するための学習データを使用した機械学習により学習された、前記建造物における流体の漏洩に関する危険度を判定するための危険度判定アルゴリズムを使用して、前記構造データ取得部により取得された構造データに基づいて前記建造物の危険度を判定する危険度判定部と、
を備えることを特徴とする設計支援装置。
【請求項17】
建造物における流体の漏洩挙動のシミュレーション結果から評価された流体の漏洩に関する危険度と、そのシミュレーションにおける前記建造物の構造因子との間の相関関係を学習するための学習データを生成する学習データ生成部と、
前記学習データ生成部により生成された学習データを使用して、前記建造物における流体の漏洩に関する危険度を判定するための危険度判定アルゴリズムを学習する学習部と、
を備えることを特徴とする学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物における流体の漏洩を検知するための流体漏洩検知システム、その流体漏洩検知システムに利用可能な流体漏洩検知装置及び学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントなどの建造物において、可燃性の気体や毒性の気体が漏洩した場合、迅速に検知して適切な対応を行う必要がある。漏洩ガスを検知するための技術として、赤外線カメラなどを用いてガスを検知する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-128318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された漏洩ガス検知技術では、赤外線カメラの撮影範囲外におけるガスの漏洩状況や、ガスの漏洩源の位置などを把握することが困難であった。とくに、浮遊式生産貯蔵出荷設備(Floating Production Storage and Offloading:FPSO)などのオフショア(海上)設備は、設置される機器の密度が高く、漏洩したガスが機器などと干渉しつつ拡散していく挙動が複雑で予測が困難である上、機器の影になって赤外線カメラで撮影できない不可視領域が多くなるので、漏洩源を特定することは更に困難である。このような建造物においても、流体が漏洩したときに迅速に検知し、適切な対応を行うことを可能とする技術が必要である。
【0005】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、建造物における流体の漏洩状況を的確に検知することを可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の流体漏洩検知システムは、建造物に設置され、設置位置における検知対象量の値を検知する複数のセンサと、複数のセンサにより検知された検知対象量の値に基づいて、建造物における流体の漏洩を検知する流体漏洩検知装置と、を備える。流体漏洩検知装置は、複数のセンサにより検知された検知対象量の値を取得する実測値取得部と、実測値取得部により取得された検知対象量の値の分布に基づいて、建造物における流体の漏洩状況を判定する漏洩状況判定部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、流体漏洩検知装置である。この装置は、建造物に設置され、設置位置における検知対象量の値を検知する複数のセンサにより検知された検知対象量の値を取得する実測値取得部と、実測値取得部により取得された検知対象量の値の分布に基づいて、建造物における流体の漏洩状況を判定する漏洩状況判定部と、を備える。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、学習装置である。この装置は、建造物の所定の位置から流体が漏洩したときに、建造物に設置された複数のセンサのそれぞれにより検知される検知対象量の値を学習データとして生成する学習データ生成部と、学習データ取得部により取得された学習データを使用した機械学習により、複数のセンサにより検知された検知対象量の値を入力して流体の漏洩源の位置を出力する漏洩位置判定アルゴリズムを学習する学習部と、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、建造物を適切に管理することを可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態に係る流体漏洩検知システムの全体構成を示す図である。
図2】第1の実施の形態に係る流体漏洩検知装置の構成を示す図である。
図3】第1の実施の形態に係る学習装置の構成を示す図である。
図4】学習データ生成部により生成される学習データの例を示す図である。
図5】第2の実施の形態に係る設計支援システムの全体構成を示す図である。
図6】第2の実施の形態に係る学習装置の構成を示す図である。
図7】第2の実施の形態に係る設計支援装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る流体漏洩検知システムの全体構成を示す。本実施の形態では、液化天然ガス、石油製品、化学製品、工業製品などを生産するためのプラントなどの建造物において流体の漏洩を検知する例について説明する。流体漏洩検知システム1は、プラント3に設けられた機器や配管などの設備4から漏洩した流体を検知するためにプラント3に設置された複数のセンサ5と、複数のセンサ5による検知結果に基づいてプラント3における流体の漏洩状況を検知する流体漏洩検知装置10と、流体漏洩検知装置10において流体の漏洩状況を判定するために使用される流体漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習装置40とを備える。これらの装置は、通信手段の一例であるインターネット2により接続される。通信手段は、インターネット2以外の任意の通信手段であってもよい。建造物は、プラント以外の任意の地上建造物、海上建造物、地中建造物、水中建造物、建築物、構造物、設備などであってもよい。
【0013】
センサ5は、設置位置における検知対象量の値を検知する。センサ5は、例えば、プラント3において漏洩する可能性のある流体の濃度、種類、組成などや、温度、圧力などの物理量や、赤外線、紫外線、可視光などの光などを検知するものであってもよい。また、センサ5は、単体のセンサにより設置位置における検知対象量を検知する点検知方式のセンサであってもよいし、投光部と受光部の組を含むセンサにより投光部と受光部の間の検知対象量を検知する線検知方式のセンサであってもよいし、二次元又は三次元の画像を撮像する可視光カメラ又は赤外線カメラなどであってもよい。本実施の形態では、ガスの濃度を検知するガス濃度センサと赤外線カメラをセンサ5として設置する例について説明する。
【0014】
図2は、第1の実施の形態に係る流体漏洩検知装置10の構成を示す。流体漏洩検知装置10は、通信装置11、表示装置12、入力装置13、制御装置20、及び記憶装置30を備える。
【0015】
通信装置11は、無線又は有線による通信を制御する。通信装置11は、インターネット2を介して、センサ5及び学習装置40などとの間でデータを送受信する。表示装置12は、制御装置20により生成された表示画像を表示する。入力装置13は、制御装置20に指示を入力する。
【0016】
記憶装置30は、制御装置20が使用するデータ及びコンピュータプログラムを格納する。記憶装置30は、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33を含む。
【0017】
制御装置20は、実測値取得部21、漏洩状況判定部22、影響範囲判定部23、対応内容判定部24、及び提示部25を備える。これらの構成は、ハードウエアコンポーネントでいえば、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0018】
実測値取得部21は、複数のセンサ5により検知された検知対象量の値を取得する。検知対象量は、上述したように、ガス濃度センサにより検知される所定の種類のガスの濃度や、赤外線カメラにより撮像される赤外線の強度などである。
【0019】
漏洩状況判定部22は、実測値取得部21により取得された検知対象量の値の分布に基づいて、プラント3におけるガスの漏洩源の位置、種類、方向、量などの漏洩状況を判定する。漏洩状況判定部22は、複数のセンサ5により検知された検知対象量の分布に基づいて、統計的手法などにより漏洩状況を判定してもよいが、本実施の形態では、学習装置40により学習された漏洩状況判定アルゴリズム31を使用して漏洩状況を判定する。漏洩状況判定アルゴリズム31は、複数のセンサ5により検知された検知対象量の値を入力して流体の漏洩源の位置、漏洩方向、漏洩量などの漏洩状況を表すパラメータを出力する。
【0020】
影響範囲判定部23は、実測値取得部21により取得された検知対象量の値の分布、又は、漏洩状況判定部22により判定された流体の漏洩状況に基づいて、流体の漏洩源が位置する建造物のセグメントを同定するとともに、漏洩した流体による影響が漏洩源のセグメントに留まらないと推測される場合は、漏洩した流体の拡散、漏洩した流体に起因する着火、火災、爆発などの影響の有無及び範囲を判定する。影響範囲判定部23は、検知対象量の値の分布や漏洩状況などに基づいたルールベースの判定基準にしたがって影響範囲を判定してもよいが、本実施の形態では、学習装置40により学習された影響範囲判定アルゴリズム32を使用して影響範囲を判定する。影響範囲判定アルゴリズム32は、複数のセンサ5により検知された検知対象量の値、漏洩状況判定部22により判定された漏洩状況を表すパラメータなどを入力して流体の漏洩の影響範囲を表すパラメータを出力する。
【0021】
対応内容判定部24は、実測値取得部21により取得された検知対象量の値の分布、漏洩状況判定部22により判定された流体の漏洩状況、又は影響範囲判定部23により判定された流体の漏洩による影響範囲に基づいて、漏洩源又は着火源の制御、消火設備の制御、流体の弁の緊急遮断制御、脱圧制御などの対応内容及び対応範囲を判定する。対応内容判定部24は、検知対象量の値の分布、漏洩状況、影響範囲などに基づいたルールベースの判定基準にしたがって対応内容及び対応範囲を判定してもよいが、本実施の形態では、学習装置40により学習された対応内容判定アルゴリズム33を使用して対応内容及び対応範囲を判定する。対応内容判定アルゴリズム33は、複数のセンサ5により検知された検知対象量の値、漏洩状況判定部22により判定された漏洩状況を表すパラメータ、影響範囲判定部23により判定された影響範囲を表すパラメータなどを入力して対応内容及び対応範囲を表すパラメータを出力する。
【0022】
提示部25は、漏洩状況判定部22により判定された流体の漏洩状況や、影響範囲判定部23により判定された流体の漏洩による影響範囲や、対応内容判定部24により判定された対応内容及び対応範囲などを、表示装置12に表示する。
【0023】
図3は、第1の実施の形態に係る学習装置の構成を示す。学習装置40は、通信装置41、表示装置42、入力装置43、制御装置50、及び記憶装置60を備える。
【0024】
通信装置41は、無線又は有線による通信を制御する。通信装置41は、インターネット2を介して、センサ5及び流体漏洩検知装置10などとの間でデータを送受信する。表示装置42は、制御装置50により生成された表示画像を表示する。入力装置43は、制御装置50に指示を入力する。
【0025】
記憶装置60は、制御装置50が使用するデータ及びコンピュータプログラムを格納する。記憶装置60は、構造データ保持部61、センサ位置データ保持部62、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33を含む。
【0026】
構造データ保持部61は、プラント3の構造を表す構造データを保持する。センサ位置データ保持部62は、構造データ保持部61に保持された構造データにより表されるプラントに仮想的に設置された複数の仮想センサの位置を示すデータを保持する。複数の仮想センサは、現実のプラント3に設置された複数のセンサ5の設置位置と同じ位置に仮想的に設置される。
【0027】
制御装置50は、実測値取得部51、数値流体力学シミュレータ52、漏洩状況設定部53、学習データ生成部54、学習部55、及び結果提示部56を備える。これらの機能ブロックも、ハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できる。
【0028】
実測値取得部51は、プラント3においてガスが漏洩したときに複数のセンサ5により検知された検知対象量の値と、そのときの漏洩状況を表すパラメータを、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33を学習するための学習データとして取得する。しかし、現実のプラント3においてガスなどの流体が漏洩することはほとんどないし、ガスが漏洩したときの漏洩状況をプラント3において実験することも困難であるから、学習データとして使用可能な実測値は少数に限られる。したがって、本実施の形態では、プラント3において様々な条件下で流体が漏洩したときの漏洩状況を数値流体力学シミュレータ52により再現して学習データを作成する。
【0029】
数値流体力学シミュレータ52は、構造データ保持部61に保持された建造物の構造データを使用して、建造物において漏洩した流体の挙動をシミュレートする。構造データ保持部61は、例えば、建造物を複数の計算格子に分割し、計算格子ごとに中心点の座標、体積、範囲、密集度などの構造データを保持する。密集度は、計算格子の体積に対する、その計算格子に含まれる構造物の長さ又は体積の比である。計算格子の形状は、直方体であってもよいし、正四面体であってもよいし、その他の任意の形状であってもよい。構造データ保持部61には、建造物の三次元形状を表す三次元形状データが保持されてもよいし、数値流体力学シミュレータ52が使用可能な任意の形式の構造データが保持されてもよい。また、構造データ保持部61には、プラント3に設置された機器、配管、架構などの形状、配置位置、数量などが保持されてもよい。数値流体力学シミュレータ52は、漏洩状況設定部53により設定された漏洩状況において、所定の時間間隔で計算格子ごとの流れ方程式の近似解を求め、それぞれの計算格子における流体の圧力、流速、密度などを算出する。数値流体力学シミュレータ52は、流体の漏洩開始から所定時間が経過するまでの流体の挙動をシミュレートする。これにより、可燃性気体や毒性気体などを内包する機器や配管などから流体が漏洩した場合の、建造物に設置された各種の構造物との干渉や拡散などの状況を的確に再現することができる。
【0030】
漏洩状況設定部53は、数値流体力学シミュレータ52によりシミュレートする流体の漏洩状況を設定する。漏洩状況設定部53は、漏洩源の位置、開口面積、開口形状、漏洩物の種類、組成、温度、漏洩方向、漏洩速度、漏洩量、漏洩期間などの漏洩状況を表すパラメータを設定するとともに、風速、風向、気流の乱れなどの風況を表すパラメータや、気温、気圧、湿度、天候、大気安定度などの気象条件を表すパラメータや、地形や地表の状態などを表すパラメータなどの環境条件を設定する。プラント3において生じうる多様な漏洩状況を設定して漏洩の挙動を数値流体力学シミュレータ52にシミュレートさせて学習データを生成することにより、多様な漏洩状況を的確に検知可能な漏洩状況判定アルゴリズム31を学習させることができる。学習の効率を向上させるために、漏洩状況設定部53は、プラント3において発生する可能性が比較的高いと考えられる漏洩状況や、発生した場合の危険度や重大度が高いと考えられる漏洩状況を優先的に設定し、それらの漏洩状況を優先的に学習させてもよい。
【0031】
結果提示部56は、数値流体力学シミュレータ52によりシミュレートされた流体の漏洩状況を表示装置42に表示する。結果提示部56は、例えば、漏洩源から漏洩した流体が拡散する様子をアニメーション表示してもよい。この場合、結果提示部56は、任意の視点位置及び視線方向を設定して構造データ保持部61に保持された構造データをレンダリングすることによりプラント3の画像を生成し、生成したプラント3の画像に流体の漏洩状況のシミュレーション結果を重畳表示してもよい。また、結果提示部56は、流体の濃度や種類などによって表示色を異ならせてもよい。これにより、ガス濃度センサや赤外線カメラなどによる検知範囲外における流体の挙動も可視化することができる。
【0032】
結果提示部56は、任意の二次元断面におけるガス濃度の分布を表示してもよい。結果提示部56は、任意の視点位置から任意の視線方向に見たガス雲の画像を表示してもよい。結果提示部56は、視点位置から視線方向に見た光路上のガス濃度とガス雲の長さによる積分値を算出し、算出した積分値を任意の二次元断面で表示してもよい。
【0033】
学習データ生成部54は、数値流体力学シミュレータ52によるシミュレーション結果に基づいて、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33を学習させるための学習データを生成する。学習データ生成部54は、ガス濃度センサにより検知されるガス濃度の値を学習データとして生成してもよいし、赤外線カメラにより撮像される画像の画素値を学習データとして生成してもよい。
【0034】
プラント3のセンサ5としてガス濃度センサが設置される場合、学習データ生成部54は、センサ位置データ保持部62に保持された設置位置にある複数の仮想的なガス濃度センサのそれぞれにより検知されると推測されるガス濃度の値の時間変化を算出し、それらの値と漏洩状況を表すパラメータとの組を学習データとして生成する。
【0035】
プラント3のセンサ5として赤外線カメラが設置される場合、学習データ生成部54は、センサ位置データ保持部62に保持された設置位置にある複数の仮想的な赤外線カメラのそれぞれにより撮像されると推測される画像の画素値の時間変化を算出し、それらの値と漏洩状況を表すパラメータとの組を学習データとして生成する。この場合、学習データ生成部54は、赤外線カメラの設置位置から赤外線カメラの視線方向に見た光路上のガス濃度とガス雲の長さの積分値を画素値として算出してもよい。
【0036】
図4は、学習データ生成部54により生成される学習データの例を示す。図4(a)及び図4(c)は、数値流体力学シミュレータ52によるシミュレーション結果を示す。漏洩したガスが拡散し、ガス雲63が形成されている。学習データ生成部54は、仮想的な赤外線カメラ64の視点位置と視線方向を設定し、視点位置から視線方向に見た光路上のガス濃度とガス雲の長さによる積分値を算出することにより、その視点位置に設置された赤外線カメラにより撮像されると推測される画像を生成する。図4(b)及び図4(d)は、学習データ生成部54により生成された画像を示す。いずれの画像においてもガス雲63が撮像されているが、図4(a)におけるガス雲63は図4(c)におけるガス雲63よりも仮想的な赤外線カメラ64の視線方向に長く拡散しているので、図4(b)に示す画像では図4(d)に示す画像よりも濃くガス雲63が写っている。学習データ生成部54は、センサ位置データ保持部62に保持された複数の設置位置に仮想的な赤外線カメラ64の視点位置を設定して、このような画像を多数生成し、漏洩状況を表すパラメータと組み合わせて学習データとする。これにより、赤外線カメラにより撮像される画像と漏洩状況を表すパラメータとの関係を学習することができる。
【0037】
学習データ生成部54は、各センサの位置におけるガス濃度又は赤外線画像の画素値に代えて、又はそれらに加えて、漏洩ガスに関する別のパラメータを学習データとして生成してもよい。例えば、ガス雲を横切る任意の二次元断面上のガス濃度の分布、ガス雲の大きさ、ガス濃度又は画素値の空間微分値又は時間微分値、風速又は風向の分布、等価量論ガス濃度の値又は分布などを学習データとして生成してもよい。この場合、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33は、入力層にこれらの値を入力するニューラルネットワークであってもよく、流体漏洩検知装置10は、実測値取得部21により取得された検知対象量の値に基づいて、これらの値を算出し、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33に入力してもよい。
【0038】
学習データ生成部54は、影響範囲判定アルゴリズム32を学習するための学習データを生成するために、可燃性ガスの濃度及び温度などに基づいて着火可能性を算出し、着火可能性が所定値以上である範囲を影響範囲としてもよい。また、毒性ガスの濃度と恕限量とを比較し、毒性ガスの濃度が恕限量を超えている範囲を影響範囲としてもよい。様々な流体の危険性を統一的に評価するために、ガス雲内の各点におけるガス濃度に応じた層流燃焼速度などの燃焼特性値によりガス濃度を補正した値を、ガス雲全体で積分した積分値を算出してもよい。
【0039】
学習データ生成部54は、対応内容判定アルゴリズム33を学習するための学習データを生成するために、所定の対応内容が実行されたときの流体の漏洩状況を更に数値流体力学シミュレータ52にシミュレートさせ、そのシミュレーション結果に基づいて、その対応内容の良否を判定してもよい。例えば、所定のタイミングで防火戸を閉じた場合の流体の拡散状況を数値流体力学シミュレータ52によりシミュレートさせ、その後の流体の拡散状況を、防火戸を閉じなかった場合の流体の拡散状況と比較することにより、所定のタイミングで防火戸を閉じる対応の良否を判定してもよい。結果提示部56により数値流体力学シミュレータ52によるシミュレーション結果をオペレータに提示し、入力装置43を介してオペレータから対応内容や対応の良否を取得してもよい。
【0040】
学習部55は、実測値取得部51により取得された実測値又は学習データ生成部54により生成された学習データを教師データとして使用し、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33を教師あり深層学習により学習する。学習部55は、教師データに含まれる入力データと出力データに応じてニューラルネットワークの中間層の重みを調整することにより、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33を学習する。学習済みの漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33は、流体漏洩検知装置10に提供される。
【0041】
学習部55は、強化学習により対応内容判定アルゴリズム33を学習してもよい。この場合、学習部55は、様々なタイミングで様々な対応内容を実行した場合の流体の漏洩状況を数値流体力学シミュレータ52にシミュレートさせ、対応内容を実行しない場合よりも流体の漏洩量、漏洩範囲、又は影響範囲が小さくなることなどを報酬とする強化学習により、対応内容判定アルゴリズム33を学習してもよい。
【0042】
流体漏洩検知装置10は、流体の漏洩が検知されたときに、流体の漏洩挙動を表示装置12に表示してもよい。流体漏洩検知装置10は、漏洩開始から現在までの流体の漏洩挙動を表示装置12に表示してもよいし、将来予測される流体の漏洩挙動を表示装置12に表示してもよい。この場合、流体漏洩検知装置10は、学習装置40から流体の漏洩挙動を示す動画像を取得して表示してもよいし、流体の漏洩挙動を示す動画像を生成するための構成を備えてもよい。後者の場合、流体漏洩検知装置10は、構造データ保持部61、数値流体力学シミュレータ52、及び漏洩状況設定部53を備えてもよい。これにより、プラント3において流体が漏洩した場合であっても、流体の漏洩挙動を視覚的に分かりやすくオペレータに提示することができるので、オペレータが的確な対応内容を決定することができるように支援することができる。
【0043】
流体漏洩検知装置10の漏洩状況判定部22は、漏洩状況判定アルゴリズム31に代えて、ガス濃度の分布や赤外線カメラの画像などと漏洩状況を表すパラメータとの組を多数格納した漏洩状況データベースを参照して漏洩状況を判定してもよい。この場合、漏洩状況判定部22は、実測値取得部21により取得された検知対象量の値の分布に合致又は類似するガス濃度の分布や赤外線カメラの画像などを漏洩状況データベースから検索することにより、漏洩状況を判定してもよい。この場合、漏洩状況判定部22は、画像マッチング技術などを利用して漏洩状況データベースを検索してもよい。
【0044】
(第2の実施の形態)
上述した数値流体力学シミュレータ52による流体の漏洩挙動のシミュレーション結果を多数生成して解析することにより、プラントの構造などの因子と流体の漏洩に関する危険度との相関関係を抽出し、プラントの設計や改良などに活用することができる。
【0045】
図5は、第2の実施の形態に係る設計支援システムの全体構成を示す。設計支援システム6は、プラントの構造などの因子から流体の漏洩に関する危険度を判定するための危険度判定アルゴリズムを学習する学習装置70と、学習装置70により学習された危険度判定アルゴリズムを利用してプラントの設計を支援する設計支援装置80とを備える。学習装置70と設計支援装置80は、インターネット2により接続される。
【0046】
図6は、第2の実施の形態に係る学習装置の構成を示す。学習装置70は、図3に示した第1の実施の形態に係る学習装置40の学習データ生成部54及び学習部55に代えて、学習データ生成部71及び学習部72を備える。また、センサ位置データ保持部62、漏洩状況判定アルゴリズム31、影響範囲判定アルゴリズム32、及び対応内容判定アルゴリズム33に代えて、シミュレーション結果保持部73及び危険度判定アルゴリズム74を備える。その他の構成及び動作は、第1の実施の形態と同様である。
【0047】
シミュレーション結果保持部73は、数値流体力学シミュレータ52によるシミュレーション結果を保持する。シミュレーション結果保持部73は、設計を支援する対象のプラントの構造に基づくシミュレーション結果を保持してもよいし、複数のプラントの構造に基づくシミュレーション結果を保持してもよい。学習データ生成部71は、シミュレーション結果保持部73に保持されたシミュレーション結果から、流体の漏洩に関する危険度を所定の基準にしたがって評価し、評価された危険度と、そのシミュレーションにおけるプラントの構造などの因子との間の相関関係を学習するための学習データを生成する。学習データ生成部71は、ガス雲を横切る任意の二次元断面上のガス濃度の分布、ガス雲の大きさ、ガス濃度又は画素値の空間微分値又は時間微分値、等価量論ガス濃度の値又は分布、可燃性ガスの濃度及び温度、着火可能性、毒性ガスの濃度、ガス雲内の各点におけるガス濃度に応じた層流燃焼速度などの燃焼特性値によりガス濃度を補正した値をガス雲全体で積分した積分値、漏洩した流体による影響範囲などに基づいて危険度を評価してもよい。構造などの因子は、例えば、配置される構造物の種類、材質や、面積、体積、密度、運転温度などの物理量や、密集度や、内部に存在しうる流体の種類、量、温度などであってもよい。
【0048】
学習部72は、学習データ生成部71により生成された学習データを使用して、危険度判定アルゴリズム74を学習する。危険度判定アルゴリズム74は、例えば、プラントの構造データなどから抽出可能な複数の因子の値を入力し、流体の漏洩に関する危険度を出力するニューラルネットワークであってもよいし、複数の因子の値を変数として危険度を表した数式であってもよいし、複数の因子の値から危険度を判定可能な任意の形式のアルゴリズムであってもよい。学習部72は、データマイニング、ロジスティック回帰分析、多変量解析、教師なし機械学習、教師あり機械学習など、任意の技術を利用して危険度判定アルゴリズム74を学習してもよい。例えば、シミュレーション結果ごとに、複数の因子の値を入力したときに、評価された危険度が出力されるように、ニューラルネットワークの中間層を調整してもよい。また、ロジスティック回帰分析により、回帰式における回帰係数を算出してもよい。
【0049】
図7は、第2の実施の形態に係る設計支援装置の構成を示す。第2の実施の形態に係る設計支援装置80は、通信装置81、表示装置82、入力装置83、制御装置90、及び記憶装置84を備える。
【0050】
通信装置81は、無線又は有線による通信を制御する。通信装置81は、インターネット2を介して、学習装置70などとの間でデータを送受信する。表示装置82は、制御装置90により生成された表示画像を表示する。入力装置83は、制御装置90に指示を入力する。
【0051】
記憶装置84は、制御装置90が使用するデータ及びコンピュータプログラムを格納する。記憶装置84は、危険度判定アルゴリズム74を含む。
【0052】
制御装置90は、構造データ取得部91、危険度判定部92、設計変更推奨部93、及び提示部94を備える。これらの構成も、ハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、又はそれらの組合せによっていろいろな形で実現できる。
【0053】
構造データ取得部91は、プラントの構造を表す構造データを取得する。構造データ取得部91は、設計中のプラントのCADデータなどを取得してもよいし、建造済みのプラントのCADデータ又は三次元画像データなどを取得してもよい。
【0054】
危険度判定部92は、構造データ取得部91により取得された構造データに基づいて、危険度判定アルゴリズム74によりプラントの危険度を判定する。危険度判定部92は、危険度判定アルゴリズム74に入力すべき因子の値を構造データに基づいて算出し、算出された因子の値を危険度判定アルゴリズム74に入力して危険度を判定する。危険度判定部92は、プラントを複数の領域に分割し、領域ごとに危険度を判定してもよい。
【0055】
設計変更推奨部93は、危険度判定部92により判定された危険度が所定の条件に合致する場合に、プラントの設計変更を推奨する。設計変更推奨部93は、危険度が所定値よりも高い場合に、プラントの設計変更を推奨してもよい。危険度判定部92が領域ごとに危険度を判定する場合、設計変更推奨部93は領域ごとに設計変更を推奨してもよい。設計変更推奨部93は、危険度が所定値よりも高い領域にセンサ5を配置したり、危険度が所定値よりも高い領域の密集度を下げるように構造物の配置を変更したり、危険度が所定値よりも高い領域に流体の拡散を防ぐための構造物などを配置したりすることを推奨してもよい。
【0056】
提示部94は、危険度判定部92による判定結果や、設計変更推奨部93による設計変更の推奨などを表示装置82に表示する。提示部94は、任意の視点位置及び視線方向を設定して構造データ取得部91により取得された構造データをレンダリングすることによりプラントの画像を生成し、生成したプラントの画像に危険度を重畳表示してもよい。また、提示部94は、危険度の高さによって表示色を異ならせてもよい。これにより、プラントの危険度を可視化することができるので、減災プラントを設計するためのレイアウト、センサの配置、危険シナリオ、影響度などの分析、評価、設計などを的確に支援することができる。
【0057】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0058】
本発明のある態様の流体漏洩検知システムは、建造物に設置され、設置位置における検知対象量の値を検知する複数のセンサと、複数のセンサにより検知された検知対象量の値に基づいて、建造物における流体の漏洩を検知する流体漏洩検知装置と、を備える。流体漏洩検知装置は、複数のセンサにより検知された検知対象量の値を取得する実測値取得部と、実測値取得部により取得された検知対象量の値の分布に基づいて、建造物における流体の漏洩状況を判定する漏洩状況判定部と、を備える。この態様によると、建造物における流体の漏洩状況を的確に検知することができる。
【0059】
漏洩状況判定部は、機械学習により学習された、複数のセンサにより検知された検知対象量の値を入力して流体の漏洩状況を出力する漏洩状況判定アルゴリズムを使用して、流体の漏洩状況を判定してもよい。この態様によると、流体の漏洩状況を検知する精度を向上させることができる。
【0060】
漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習装置を更に備えてもよい。学習装置は、建造物の所定の位置から流体が漏洩したときに複数のセンサのそれぞれにより検知される検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習部を備えてもよい。この態様によると、漏洩状況判定アルゴリズムの精度を向上させることができる。
【0061】
学習装置は、建造物の構造データを保持する構造データ保持部と、建造物の所定の位置から流体が漏洩したときの建造物における流体の挙動を、構造データ保持部に保持された建造物の構造データに基づく三次元流動シミュレーションによりシミュレートする三次元流動シミュレータと、を更に備えてもよい。学習部は、三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて算出された検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により漏洩状況判定アルゴリズムを学習してもよい。この態様によると、実測値が少ない事例であっても、学習データを大量に生成して学習することができるので、漏洩状況判定アルゴリズムの精度及び学習効率を向上させることができる。
【0062】
学習装置は、複数のセンサの設置位置を示すデータを保持するセンサ位置データ保持部と、三次元流動シミュレータによる三次元流動シミュレーションの結果に基づいて、センサ位置データ保持部に保持された設置位置にある複数のセンサのそれぞれにより検知されると推測される検知対象量の値を算出することにより、学習データを生成する学習データ生成部を更に備えてもよい。学習部は、学習データ生成部により生成された学習データを使用した機械学習により漏洩状況判定アルゴリズムを学習してもよい。この態様によると、漏洩状況判定アルゴリズムの精度を向上させることができる。
【0063】
学習部は、三次元流動シミュレータにより算出された、流体の漏洩源の位置、流体の種類、流体を構成する複数の物質の組成、流体の漏洩量、流体の漏洩方向、或いは建造物の状態又は環境を表す物理量の異なる複数のシミュレーションにより算出された検知対象量の値を学習データとして使用した機械学習により漏洩状況判定アルゴリズムを学習してもよい。この態様によると、漏洩状況判定アルゴリズムの精度を向上させることができる。
【0064】
センサは、流体の濃度を検知する流体濃度センサを含んでもよい。
【0065】
センサは、赤外線カメラを含んでもよい。
【0066】
本発明の別の態様は、流体漏洩検知装置である。この装置は、建造物に設置され、設置位置における検知対象量の値を検知する複数のセンサにより検知された検知対象量の値を取得する実測値取得部と、実測値取得部により取得された検知対象量の値の分布に基づいて、建造物における流体の漏洩状況を判定する漏洩状況判定部と、を備える。この態様によると、建造物における流体の漏洩状況を的確に検知することができる。
【0067】
本発明のさらに別の態様は、学習装置である。この装置は、建造物の所定の位置から流体が漏洩したときに、建造物に設置された複数のセンサのそれぞれにより検知される検知対象量の値を学習データとして生成する学習データ生成部と、学習データ取得部により取得された学習データを使用した機械学習により、複数のセンサにより検知された検知対象量の値を入力して流体の漏洩源の位置を出力する漏洩状況判定アルゴリズムを学習する学習部と、を備える。この態様によると、漏洩状況判定アルゴリズムの精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 流体漏洩検知システム、3 プラント、4 設備、5 センサ、6 設計支援システム、10 流体漏洩検知装置、21 実測値取得部、22 漏洩状況判定部、23 影響範囲判定部、24 対応内容判定部、25 提示部、31 漏洩状況判定アルゴリズム、32 影響範囲判定アルゴリズム、33 対応内容判定アルゴリズム、40 学習装置、51 実測値取得部、52 数値流体力学シミュレータ、53 漏洩状況設定部、54 学習データ生成部、55 学習部、56 結果提示部、61 構造データ保持部、62 センサ位置データ保持部、70 学習装置、71 学習データ生成部、72 学習部、73 シミュレーション結果保持部、74 危険度判定アルゴリズム、80 設計支援装置、91 構造データ取得部、92 危険度判定部、93 設計変更推奨部、94 提示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7