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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-22
(45)【発行日】2023-03-03
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20230224BHJP
   B66C 13/20 20060101ALI20230224BHJP
   G05G 25/00 20060101ALI20230224BHJP
   G05G 7/04 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
E02F9/20 K
E02F9/20 M
B66C13/20
G05G25/00 C
G05G7/04 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018215765
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020084435
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 一茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 透
(72)【発明者】
【氏名】洪水 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 龍之介
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/101233(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/054581(WO,A1)
【文献】特開2006-194074(JP,A)
【文献】特開2017-101415(JP,A)
【文献】特開2009-235833(JP,A)
【文献】特開2005-273442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
B66C 13/20
G05G 25/00
G05G 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体にアタッチメントが設置された上部旋回体を搭載し、アクチュエータの作動によって前記アタッチメントにおける回動動作および前記上部旋回体の旋回動作を行う作業機械であって、
オペレータが操作する操作レバーと、
前記操作レバーの操作に従って前記アクチュエータを作動させる作動装置と、
前記アクチュエータに取り付けられて当該アクチュエータの動作の速度を検出するセンサと、
前記操作レバーの操作量を検出する操作量検出手段と、
前記作動装置を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラが、
操作対象が前記回動動作か前記旋回動作かを判別するとともに、前記アクチュエータの動作が加速か減速かを判別する作業動作判別部と、
前記操作レバーの操作量を補正する操作量補正部と、
前記オペレータを判別する操作者判別部および/または前記オペレータの技量を判別する技量判別部と、
前記操作量の補正に用いられる算出情報を記憶する情報記憶部と、
を有し、
前記算出情報は、
前記アクチュエータの速度に比例ゲインを乗じた第1変数および前記アクチュエータの加速度に微分ゲインを乗じた第2変数を含む数式、または、前記第1変数、前記第2変数、および前記アクチュエータの躍度に二重微分ゲインを乗じた第3変数を含む数式と、
前記速度、前記加速度、または前記躍度に対応した軸と、前記オペレータおよび/または前記オペレータの技量に対応した軸と、前記比例ゲイン、前記微分ゲイン、または前記二重微分ゲインに対応した軸とを有する3次元マップと、
を含み、
前記操作量補正部が、前記数式と、前記3次元マップから取得される前記比例ゲイン、前記微分ゲイン、または前記二重微分ゲインとに基づいて、適切な操作量との差に相当する補正値を算出し、前記操作レバーの実操作量を前記補正値で補正することにより、前記作動装置が、補正された前記操作量に基づいて制御される作業機械
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、油圧ショベルなどの作業機械に関するものであり、その中でも特に、安定的かつ効率的な操作を可能にする操作支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルやクレーンなどの作業機械では、オペレータが操作レバーを操作してアームなどを動かすことにより、掘削や運搬などの作業を行う。アームなどはそれ自体の重量が重いうえに、通常、その動作には大きなモーメントが作用する。従って、作業個々の動作には大きな慣性が働くため、その操作は非常に難しい。
【0003】
それにより、作業機械の操作は、熟練を要する技術となっており、経験者でも、作業の内容や操作する機種によっては、うまく操作できない場合も多い。そのため、作業機械の操作を支援する技術が要望されており、特許文献1に、その一例が開示されている。
【0004】
特許文献1では、初心者は熟練者に比べて操作レバーを微操作し易いという点に着目し、操作レバーの操作量頻度に基づいて、操作ゲインを調整する。操作量頻度が少ない場合、操作ゲインを大きくし、より小さいレバー操作量で同じ速度指令値が得られるようにする。そうすることで、操作量頻度の偏りを平滑化し、作業効率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-101415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
操作レバーの操作量に応じて、操作対象であるアームなどは、加速または減速する。例えば、操作対象を大きく移動させる場合、効率的に操作するには、最初、操作レバーの操作量を大きくし、大きな加速度で加速して操作対象を移動させる必要がある。
【0007】
そして、操作対象を所望する位置で停止させるには、慣性を考慮して、慎重に、行き過ぎないように適切なタイミングかつ操作量で減速しなければならない。すなわち、加速時と減速時とでは、操作レバーの扱い方が異なり、適切な操作量は異なる。特許文献1の操作支援技術の場合、このような加減速での相違は考慮されないため、改善の余地がある。
【0008】
操作対象が行き過ぎた場合には、所望する位置で停止するまで、繰り返し操作する必要がある。特許文献1の操作支援技術では、このようなやり直し操作も操作量頻度に含まれる。
【0009】
また、初心者は、微操作だけでなく、過剰に操作する場合もある。特許文献1の操作支援技術では、そのような過剰操作は考慮されていない。
【0010】
開示する技術の主な目的は、オペレータの操作に差があっても、安定的かつ効率的な操作を可能にする、作業機械を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示する技術は、下部走行体に上部旋回体を搭載し、アクチュエータの作動によって作業動作を行う作業機械に関する。
【0012】
前記作業機械は、オペレータが操作する操作レバーと、前記操作レバーの操作に従って前記アクチュエータを作動させる作動装置と、前記作業動作の動きに関連する動作情報を検出するセンサと、前記操作レバーの操作量を検出する操作量検出手段と、前記作動装置を制御するコントローラと、を備える。
【0013】
そして、前記コントローラが、操作対象とされる前記作業動作、および、少なくともその作業動作の動きが加速か減速かを判別する作業動作判別部と、前記作業動作判別部による判別結果と前記動作情報とに基づいて前記操作量を補正する操作量補正部とを有し、前記作動装置が、補正された前記操作量に基づいて制御される。
【0014】
すなわち、開示する技術は、油圧ショベルやクレーンなど、作業に大きな力を要する作業機械を対象としている。そして、そのような作業動作は、オペレータが操作レバーを操作し、アクチュエータが作動することによって行われる。
【0015】
作業動作の動きに関連する動作情報は、センサで検出され、コントローラに入力される。そして、コントローラは、操作対象とされる作業動作、および、少なくともその作業動作の動きが加速か減速かを判別し、その判別結果と、入力される動作情報とに基づいて操作レバーの操作量を補正し、補正された操作量に基づいて作動装置を制御することで、アクチュエータを作動させる。なお、コントローラは、作業動作およびその動きの加減速に加え、定常動作や停止動作などを判別する場合もある。
【0016】
それにより、作動装置は、オペレータが実際に出力する操作量ではなく、加速か減速かを含めた、操作対象とされる作業動作の動きに基づいて補正された操作量によって制御される。従って、オペレータの癖や技量の差などにより、操作レバーの操作量が適切でなくても、実際の動きを反映した操作量によって制御されるので、安定的かつ効率的な操作が可能になる。
【0017】
前記作業機械はまた、前記コントローラは、所定の数式に基づいて予め設定された算出情報を有し、前記操作量補正部が、前記算出情報に前記動作情報を導入して算出される補正値により、前記操作量を補正する、としてもよい。
【0018】
発明者らは、所定の数式に動作情報を導入して算出される補正値を用いることにより、操作量が適切に補正できることを確認した。従って、そのような数式に基づく算出情報を用いて操作量を補正すれば、制御の過程で複雑な判断を行わなくても、安定的かつ効率的な操作が可能になる。従って、制御の簡素化が図れ、演算処理の負担が軽減できる。
【0019】
その場合、前記動作情報は、前記作業動作の速度および加速度を含み、前記数式が、前記速度に所定の係数を乗じた第1変数と、前記加速度に所定の係数を乗じた第2変数とを加算する、としてもよい。
【0020】
少なくとも、このような数式を用いることによって適切な補正値が算出できる。変数が2つだけであるため、演算も簡素化できる。
【0021】
特に、前記動作情報が更に、前記所定の動作の躍度を含み、前記数式が更に、前記躍度に所定の係数を乗じた第3変数を加算する、とするのが好ましい。
【0022】
作業機械の場合、作業動作に大きな慣性が働くので、円滑に操作するのは難しい。僅かな操作ブレでもショックを受け易い。それに対し、数式に、このような第3変数を加えることで、より円滑な操作が可能になり、ショックを抑制できる。
【0023】
前記作業機械はまた、前記オペレータを判別するオペレータ判別手段を備え、前記操作量補正部が、判別された前記オペレータに対応した前記算出情報を用いて前記補正値を算出する、としてもよい。
【0024】
オペレータの操作には、個々に癖や好みがある。そのため、操作レバーの操作性もオペレータの各々で異なる。オペレータ判別手段を備えていれば、そのような個々のオペレータでの操作性の違いを、操作レバーの操作量に反映させることができる。従って、よりいっそう安定的かつ効率的な操作が可能になる。
【0025】
前記作業機械はまた、前記オペレータの技量を判別する技量判別手段を備え、前記操作量補正部が、判別された前記技量に対応した前記算出情報を用いて前記補正値を算出する、としてもよい。
【0026】
作業動作には大きな慣性が働くし、加減速のタイミングや程度は、作業状況によって絶えず変化する。そのため、初心者はもとより、熟練者であっても、操作レバーを安定的かつ効率的に操作するのは難しい。技量判別部を備えていれば、そのような技量の影響を、操作レバーの操作量に反映させることができる。従って、更にいっそう安定的かつ効率的な操作が可能になる。
【発明の効果】
【0027】
開示する技術によれば、オペレータの操作に差があっても、安定的かつ効率的な操作を可能にする作業機械が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態で開示する作業機械(油圧ショベル)を示す概略図である。
図2】操作レバーによるアクチュエータの制御システムを示す概略図である。
図3】コントローラおよびその関連機器との関係を示すブロック図である。
図4】算出情報を例示する概略図である。
図5】操作レバーの操作支援に関する制御例を示すフローチャートである。
図6】操作レバーの操作支援に関する制御の一例を示す概念図である。
図7】旋回動作の操作例を示す概略図である。上図は、旋回モータの回転速度の経時変化を表している。下図は、操作レバーの操作量の経時変化を表している。
図8】操作レバーの操作支援に関する制御の変形例を示すフローチャートである。
図9】作業者の技量の判別に関する制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0030】
(作業機械)
図1に、本実施形態で開示する油圧ショベル1(作業機械)を示す。油圧ショベル1は、一対のクローラ2a,2aを有する下部走行体2と、その上に旋回可能な状態で搭載された上部旋回体3とで構成されている。上部旋回体3の中央部には、上部旋回体3を旋回させる油圧式の旋回モータ4(アクチュエータ)が設置されている。
【0031】
上部旋回体3には、旋回モータ4の他にも、アタッチメント5、キャブ6、機械室7などが設置されている。アタッチメント5は、バケット5a、アーム5b、ブーム5c、および、これらを駆動する油圧シリンダ5d(アクチュエータ)などで構成されている。
【0032】
ブーム5cは上部旋回体3の前部に、アーム5bはブーム5cの先端部に、バケット5aはアーム5bの先端部に、それぞれ回動可能に支持されている。これらブーム5c等の各々は、対応する油圧シリンダ5dの作動を制御することによって回動する。
【0033】
機械室7には、後述するエンジン33や油圧ポンプ30、コントロールバルブ31などの駆動装置が収容されている。上部旋回体3には、エンジン33の燃料を貯蔵する燃料タンクや、油圧制御に用いられる作動油を貯蔵する作動油タンク34が機械室7に併設されている。また、アタッチメント5との間で前後のバランスを確保するために、上部旋回体3の後部には、高重量なカウンタウエイト8が設置されている。
【0034】
キャブ6は、上部旋回体3の前部に設置された箱形の運転室である。キャブ6にオペレータが搭乗して油圧ショベル1の操作が行われる。
【0035】
図2に簡略化して示すように、キャブ6の内部には、オペレータが着座するシート20が設置されていて、その左右に操作レバー21,21が設置されている。これら操作レバー21,21は、油圧シリンダ5dおよび旋回モータ4の作動を操作するレバーである。オペレータが、各操作レバー21を前後左右に揺動操作することにより、その操作方向および操作量に応じて、上部旋回体3は旋回し、ブーム5c等は回動する。
【0036】
例えば、左側の操作レバー21を前後方向に揺動操作することにより、上部旋回体3が旋回する。左側の操作レバー21を左右方向に揺動操作することにより、アーム5bが回動する。右側の操作レバー21を前後方向に揺動操作することにより、ブーム5cが回動する。右側の操作レバー21を左右方向に揺動操作することにより、バケット5aが回動する。なお、操作方向と操作対象との関係は、適宜設定できる。
【0037】
操作レバー21の後方には、オペレータによって操作される操作部22が配置されている。操作部22には、様々な操作スイッチ、モニタなどの入出力装置が設置されている。
【0038】
(制御システム)
油圧ショベル1の制御システムは、図2に簡略化して示すように、油圧系システムと電気系システムとで構成されている。
【0039】
油圧系システムは、油圧ポンプ30、コントロールバルブ31(作動装置)、油圧シリンダ5d、旋回モータ4、高圧油経路32(太実線で示す)などからなる駆動系油圧システムと、コントロールバルブ31、電磁比例弁40、リモコン弁41、低圧油経路42(細実線で示す)などからなる操作系油圧システムとで構成されている。駆動系の制御には、大きな力が必要なため、高圧の油圧が用いられる。一方、操作系の制御には、低圧の油圧が用いられる。
【0040】
電気系システムは、センサ50、コントローラ51、レバー計52(操作量検出手段)、電磁比例弁40、電気配線53(破線で示す)などで構成されている。電気系システムは、油圧系システムに付設されていて、難しい操作レバー21の操作を支援する。
【0041】
油圧ポンプ30は、エンジン33によって駆動される。油圧ポンプ30は、作動油タンク34から油を取り込んで、コントロールバルブ31に高圧の油(圧油)を供給する。コントロールバルブ31は、各油圧シリンダ5dおよび旋回モータ4(これらを総称してアクチュエータともいう)の各々に対応した切替弁(図示せず)を有している。コントロールバルブ31は、これら切替弁を介してアクチュエータに圧油を循環供給する。
【0042】
切替弁は、第1高圧油経路32aを通じて圧油をアクチュエータに導入し、第2高圧油経路32bを通じてアクチュエータから圧油を導出する第1位置と、第2高圧油経路32bを通じて圧油をアクチュエータに導入し、第1高圧油経路32aを通じてアクチュエータから圧油を導出する第2位置と、第1位置と第2位置との間に位置して、アクチュエータに圧油の導入および導出を行わない第3位置と、に切り替え可能に構成されている。
【0043】
油圧シリンダ5dの各々に対応した切替弁が、第1位置と第2位置との間で切り替わることで、その油圧シリンダ5dが伸縮する。ブーム5c、アーム5b、およびバケット5aは、それに伴って回動する。そして、旋回モータ4に対応した切替弁が、第1位置と第2位置との間で切り替わることで、旋回モータ4は、正逆方向に回転する。上部旋回体3は、それに伴って左右に旋回する。このような切替弁の切り替えは、操作系油圧システムによって行われる。
【0044】
リモコン弁41は、操作レバー21に付設されている。リモコン弁41は、操作レバー21の操作に応じて、所定の切替弁に、所定の大きさの油圧を供給する。それによって切替弁が切り替わる。
【0045】
操作レバー21が基準位置(操作レバー21が操作されていない時に位置する位置)にある時は、各切替弁は、第3位置に位置するように設定されている。操作レバー21が、基準位置から揺動操作されると、その操作方向および操作量に応じて、対応する切替弁が、第1位置と第2位置との間で切り替わり、所定圧の圧油が、操作対象とされるアクチュエータに循環供給される。
【0046】
例えば、上部旋回体3を所定方向に短時間で大きく旋回させたい場合には、その操作に対応した方向に操作レバー21を大きく揺動させる。それにより、その操作量に対応して、所定の圧力(パイロット圧)が、リモコン弁41からコントロールバルブ31に出力される。その結果、旋回モータ4が回転し、上部旋回体3が急旋回する。
【0047】
そうして、操作レバー21を所定のタイミングで基準位置に戻していく。それにより、その操作量に対応して、所定のパイロット圧が、リモコン弁41からコントロールバルブ31に出力される。その結果、旋回モータ4は徐々に減速し、上部旋回体3は旋回を停止する。
【0048】
電磁比例弁40は、低圧油経路42におけるリモコン弁41とコントロールバルブ31との間の部位に設置されている。電磁比例弁40は、コントローラ51の制御に従って、リモコン弁41がコントロールバルブ31に出力するパイロット圧を増減する。すなわち、電磁比例弁40は、リモコン弁41からコントロールバルブ31に出力されるパイロット圧の比率(ゲイン)を変更する。
【0049】
センサ50は、各油圧シリンダ5dおよび旋回モータ4に取り付けられていて、これらの動作速度(動作情報)を検出する。例えば、旋回モータ4に取り付けられているセンサ50は、旋回モータ4が回転する速度を検出する。油圧シリンダ5dに取り付けられているセンサ50は、油圧シリンダ5dが伸縮する速度を検出する。
【0050】
レバー計52は、操作レバー21に付設されている。レバー計52は、各操作レバー21の操作方向別に、その単位時間当たりの操作量Uh(t)を検出する。
【0051】
コントローラ51は、CPUやメモリなどのハードウエアと、ハードウエアに実装された制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。
【0052】
図3に、コントローラ51と、その主な関連機器との関係を示す。コントローラ51は、センサ50、レバー計52、操作部22、および電磁比例弁40と電気的に接続されている。コントローラ51は、センサ50、レバー計52、および操作部22から入力される電気信号に基づいて、電磁比例弁40を電気的に制御する。
【0053】
それにより、コントローラ51は、操作レバー21による操作が安定的かつ効率的に行えるように、コントロールバルブ31を制御する。すなわち、これら装置により、操作支援システムが構成されている。
【0054】
コントローラ51は、センサ50およびレバー計52から出力される検出信号を入力する。コントローラ51はまた、操作部22との間で情報信号を入出力する。
【0055】
コントローラ51には、機能的な構成として、操作者判別部51a(オペレータ判別手段)、技量判別部51b(技量判別手段)、作業動作判別部51c、操作量補正部51d、情報記憶部51eなどが設けられている。
【0056】
操作者判別部51aは、オペレータを識別可能な情報(操作者情報)に基づいて、油圧ショベル1を操作するオペレータを判別する。
【0057】
オペレータは、個々に操作の癖や好みがある。そのため、操作レバー21の操作性もオペレータの個々で異なる。操作者判別部51aは、そのような個々のオペレータでの操作性の違いを、操作レバー21の操作量に反映させる。
【0058】
操作者情報の具体例としては、例えば、ID番号や、予め情報記憶部51eに設定されたオペレータ名簿などが挙げられる。オペレータが、操作部22を操作してID番号を入力したり、コントローラ51が出力してモニタに表示されるオペレータ名簿から該当者を選択したりする。そうすることにより、操作部22からコントローラ51に、オペレータを特定する情報信号が入力され、その情報信号に基づいて、操作者判別部51aは、オペレータを判別する。
【0059】
技量判別部51bは、アクチュエータの操作技量に関連する情報(技量情報)に基づいて、オペレータの技量を判別する。
【0060】
操作レバー21の操作は難しい。作業動作には大きな慣性が働くし、加減速のタイミングや程度は、作業状況によって絶えず変化する。そのため、初心者はもとより、熟練者であっても、安定的かつ効率的に操作するのは難しい。そのため、操作レバー21の操作には、オペレータの技量が大きく影響する。技量判別部51bは、そのような技量の影響を、操作レバー21の操作量に反映させる。
【0061】
技量情報の具体例としては、例えば、予め設定される技量判定値や、予め情報記憶部51eに設定される技量区分などが挙げられる。技量判定値は、操作試験などの実施により、各オペレータが取得する判定値であり、例えば、10段階などでその技量が設定される。技量区分は、例えば、初心者、中級者、上級者などの複数の技量区分が、予め情報記憶部51eに設定される。
【0062】
オペレータは、操作部22を操作して自身の技量判定値を入力したり、コントローラ51が出力してモニタに表示される技量区分から該当する技量を選択したりする。そうすることにより、操作部22からコントローラ51に、技量を特定する情報信号が入力され、その情報信号に基づいて、技量判別部51bは、オペレータの技量を判別する。
【0063】
技量判別部51bはまた、後述するように、オペレータの操作状況に基づいて、自動的に技量が判別できるようにしてもよい。
【0064】
作業動作判別部51cは、操作する操作レバー21と、その操作方向とに基づいて、オペレータが操作する作業動作(操作対象)を判別する。すなわち、上部旋回体3の旋回動作か、ブーム5cの回動動作か、アーム5bの回動動作か、バケット5aの回動動作か、を判別する。また、その作業動作の動きが加速であるか減速であるか、すなわち、これらを駆動するアクチュエータが加速したのか減速したのかも判別する。更に、その作業動作の動きが定常動作であるか、停止動作であるかなど、操作に対して重要な動きを判別する場合もあり得る。
【0065】
操作量補正部51dは、センサ50から入力されるアクチュエータの動作速度に基づいて、操作レバー21の操作量を補正する。情報記憶部51eは、操作量の補正に関連した様々な情報を記憶し、適宜、操作量補正部51dとの間で情報を入出力する。
【0066】
例えば、情報記憶部51eには、操作量の補正に用いられる算出情報が記憶されている。算出情報は、次に示す数式(1)に基づいて設定されている。
【0067】
Ua(t)=Kp・v(t)+Kd・a(t)+Kdd・j(t)・・・(1)
【0068】
数式(1)のうち、Ua(t)は、単位時間当たりの操作量の補正値である。同様に、Kpは比例ゲインであり、Kdは微分ゲインであり、Kddは二重微分ゲインである。また、v(t)は、単位時間当たりのアクチュエータの速度であり、a(t)は、単位時間当たりのアクチュエータの加速度であり、j(t)は、単位時間当たりのアクチュエータの躍度である。
【0069】
a(t)およびj(t)は、v(t)、つまり、アクチュエータの速度から算出できる。従って、センサ50は、アクチュエータの速度のみを検出し、コントローラ51に出力する。
【0070】
発明者らは、この数式を用い、速度等に対応した、適切な比例ゲイン等を設定することで、操作レバー21の操作が安定的かつ効率的に行えることを、実験等により確認している。すなわち、速度に比例ゲインを乗じた第1変数と、加速度に微分ゲインを乗じた第2変数と、躍度に二重微分ゲインを乗じた第3変数とを加算するだけで、適切な操作量の補正値が取得できる。従って、制御の過程で、複雑な判断を行う必要が無く、制御の簡素化が図れ、演算処理の負担が軽減できる。
【0071】
数式(1)は、速度に関する第1変数および加速度に関する第2変数のみでも使用できるが、躍度に関する第3変数を加えるのが好ましい。油圧ショベル1の場合、作業動作に大きな慣性が働くので、円滑に操作するのが難しく、僅かな操作ブレでもショックを受け易い。第3変数を加えることで、そのようなショックを抑制できる。
【0072】
操作量補正部51dは、数式(1)で算出される操作量の補正値Ua(t)により、操作レバー21の操作量を補正する。具体的には、フィードバック制御により、操作レバー21から出力される実操作量Uh(t)から、補正値Ua(t)を減算する。そうして得られる補正された操作量U(t)を、コントロールバルブ31に出力する。
【0073】
このような補正は、コントローラ51が電磁比例弁40を制御し、パイロット圧のゲインを調整することによって行われる。
【0074】
この油圧ショベル1では、制御の簡素化を図るため、算出情報として、マップ等が予め情報記憶部51eに設定されている。図4に、その算出情報を例示する。
【0075】
例示の算出情報は、三次元のマップからなり、速度、加速度、または躍度に対応した軸と、オペレータ(操作者)に対応した軸と、比例ゲイン、微分ゲイン、または二重微分ゲインに対応した軸とを有している。3次元マップは、各作業動作に対応して設定されている。オペレータは、操作者判別部51aによって判別される。
【0076】
例えば、オペレータに対応する値がP1であり、操作中のあるタイミングにおいて、速度に対応する値がP2であったとすると、例示のマップでは、比例ゲインとしてP3の値が選択される。微分ゲインおよび二重微分ゲインも、これと同様にして選択される。速度等が決まれば、比例ゲイン等も一意に定まるので、制御を簡素にできる。
【0077】
オペレータに対応した軸の代わりに、オペレータの技量に対応した軸を有するマップであってもよい。マップは、実験等に基づいて設定され、必要に応じて変更される。
【0078】
(制御の具体例)
図5に、操作レバー21の操作支援に関するコントローラ51の制御例を示す。
【0079】
油圧ショベル1にオペレータが搭乗して、油圧ショベル1が始動されると、センサ50が検出信号を出力する。コントローラ51は、その検出信号を読み込む(ステップS1)。オペレータは、操作部22を操作し、ID番号の入力などを行う。そうすることにより、操作部22からコントローラ51に、オペレータを特定する情報信号が入力され、その情報信号に基づいて、コントローラ51(操作者判別部51a)は、オペレータを判別する(ステップS2)。
【0080】
このとき、オペレータが、自身の技量も入力するようにしてもよい。
【0081】
そして、操作レバー21の操作が開始されると(ステップS3でYes)、コントローラ51は、レバー計52から入力される検出信号に基づいて、操作レバー21の実操作量Uh(t)を取得する(ステップS4)。
【0082】
操作レバー21の操作により、操作するアクチュエータおよびその動作方向が決まるので、コントローラ51(作業動作判別部51c)は、オペレータが操作する作業動作を判別する(ステップS5)。この説明では、図6に示すように、旋回動作が行われるものとして説明する。
【0083】
同時に、コントローラ51は、図6に示すように、センサ50から入力される検出信号に基づいて、その操作レバー21の操作によって作動する旋回モータ4の回転速度V(t)を取得する(ステップS6)。コントローラ51は、判別されたオペレータおよび取得した速度(場合によっては、更にオペレータの技量)の各情報に基づいて、情報記憶部51eに設定されているマップの中から対応するマップを選択し、比例ゲイン、微分ゲイン、二重微分ゲイン、加速度a(t)、および躍度j(t)を取得する(ステップS7)。
【0084】
コントローラ51は、取得した比例ゲイン等と数式(1)とを用いて、操作量の補正値Ua(t)を算出する(ステップS8)。コントローラ51は、そうして得られる補正値Ua(t)を、操作レバー21から出力される実操作量Uh(t)から減算し、補正された操作量U(t)を取得する。コントローラ51は、その補正された操作量U(t)を、電磁比例弁40を制御して、パイロット圧のゲインを調整することにより、コントロールバルブ31に出力する(ステップS9)。
【0085】
コントローラ51は、操作レバー21の操作が終了するまで(ステップS10でYes)、このようなフィードバック制御を繰り返し実行する(ステップS10でNo)。
【0086】
図7に、このような制御に基づいて行われる旋回動作とその操作例を示す。図7の上図の実線は、旋回モータ4の回転速度の経時変化を表している。図7の下図の実線は、上図に対応した操作レバー21の操作量の経時変化を表している。これら経時変化は、適切な操作を表している。
【0087】
上部旋回体3を大きく旋回させる場合、効率的に行うには、最初に大きく加速するのが好ましい。そのためには、操作レバー21は、基準位置から大きく揺動操作して、操作量を大きくする必要がある。ところが、オペレータの癖や技量の差などにより、仮想線L1で示すように、加速時に操作量が抑制される場合がある。その場合、仮想線L2で示すように、速度が不足し、適切な操作状態から逸脱してしまう。
【0088】
それに対し、この油圧ショベル1では、操作レバー21の操作量が、旋回モータ4の回転速度に基づいて、高い応答性で補正される。それにより、タイムラグをほとんど生じることなく、操作量の不足分が補われるので、オペレータの操作量が足らなくても、適切な操作を確保できる。操作量が過多の場合も、操作量の過剰分が低減されるので、適切な操作を確保できる。
【0089】
そして、所定のタイミングで減速される。すなわち、慣性による旋回動作を慎重に見極めながら、操作レバー21を基準位置に向かって徐々に揺動操作する。その際、オペレータの癖や技量の差などにより、仮想線L3で示すように、減速時に操作量が過多になる場合がある。その場合、仮想線L4で示すように、速度が超過し、適切な操作状態から逸脱してしまう(過度に旋回してしまう)。
【0090】
それに対し、この油圧ショベル1では、操作レバー21の操作量が、旋回モータ4の回転速度に基づいて、高い応答性で補正される。それにより、タイムラグをほとんど生じることなく、操作量の過剰分が低減されるので、オペレータの操作量が過多であっても、適切な操作を確保できる。操作量が過少の場合も、操作量の不足分が補われるので、適切な操作を確保できる。
【0091】
このように、この油圧ショベル1によれば、オペレータの操作に差があっても、安定的かつ効率的な操作が可能になる。
【0092】
(制御の変形例)
図8に、コントローラ51の制御の変形例を示す。この制御では、オペレータの技量が、自動的に、操作支援に反映される点で、上述した制御と異なる。基本的な制御は、上述した制御例と同じである。従って、同じ内容の処理については、同じ符号を用いてその説明は簡略化する。
【0093】
コントローラ51は、油圧ショベル1の始動によってセンサ50から出力される検出信号を読み込む(ステップS1)。操作部22から入力される情報信号に基づいて、コントローラ51は、オペレータを判別する(ステップS2)。
【0094】
そして、操作レバー21の操作が開始されると(ステップS3でYes)、オペレータの技量が判別される(ステップS20)。コントローラ51(情報記憶部51e)は、オペレータ個々の技量情報を記憶する。技量情報は、オペレータが操作レバー21を操作することによって蓄積される、操作レバー21の操作技量に関連する情報であり、各作業動作の加速時と減速時とに分けて設定されている。
【0095】
この油圧ショベル1では、技量情報として、操作量の補正値Ua(t)が用いられている。補正値Ua(t)の絶対値(補正量)が大きくなるほど、適切な操作量との差が大きいので、技量が低いと判別する。
【0096】
具体的には、図9に示すように、コントローラ51は、技量情報の量が所定の下限値(D1)より少ない場合には(ステップS21でYes)、技量情報を蓄積する(ステップS22)。これら処理は、操作レバー21の操作が初めて行われる場合に行われる。
【0097】
コントローラ51は、技量情報の量が所定の上限値(D2)を超えているか否かを判別する(ステップS23)。技量情報の量が上限値(D2)を超えている場合、コントローラ51は、新しい技量情報が取得される度に、古い技量情報から削除して、新しい技量情報に置き換えていく(ステップS24)。
【0098】
そうして、コントローラ51は、蓄積された所定量の技量情報に基づいてオペレータの技量を判別し(ステップS25)、メインルーチンにリターンする。
【0099】
引き続き、コントローラ51は、操作レバー21の操作量の取得(ステップS4)、作業動作の判別(ステップS5)、および、作業動作の速度の取得(ステップS6)を行う。そうして、コントローラ51は、これら情報に基づいて、対応するマップを選択し、比例ゲイン等を取得する(ステップS7)。
【0100】
このとき、判別したオペレータの技量に応じて、操作量の補正に用いるマップを変更する。マップは変更しないで、マップのデータを変更してもよい。それにより、オペレータの技量の変化に応じて、より適切なマップが用いられるので、より安定した操作支援が行える。
【0101】
その後、コントローラ51は、上述した制御例と同様に、ステップS8,S9を実行し、操作レバー21の操作が終了するまで(ステップS10でYes)、このようなフィードバック制御を実行する(ステップS10でNo)。
【0102】
このように、油圧ショベル1によれば、オペレータの癖や技量などにより、操作レバー21の操作に差があっても、安定的かつ効率的な操作が可能になる。
【0103】
なお、開示する技術にかかる作業機械は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0104】
例えば、作業機械は油圧ショベルに限らず、クレーンなどにも適用できる。作業機械は、遠隔操作で作動する無人機であってもよい。
【0105】
旋回モータが電動式の作業機械にも適用できる。このような作業機械では、電気で駆動する旋回モータ、バッテリ、インバータなどが上部旋回体に設置されている。バッテリで旋回モータに電力が供給され、インバータで旋回モータの回転が駆動制御される。従って、この場合、コントローラは、操作レバーの操作量に応じて、インバータへ出力される電流に対して比例制御を行えばよい。
【0106】
操作系の制御は、油圧制御が一般的であるが、電気制御であってもよい。その場合、操作支援システムと統合できるので、操作系の制御システムを一元化できる。
【0107】
上述した実施形態では、作業動作の判別は、操作する操作レバーと、その操作方向とによって判別したが、それに限るものではない。例えば、作業動作の判別は、アクチュエータの動作方向と動作速度をセンサで検出することによっても判別できる。また、直接的に、アタッチメントや上部旋回体の動作方向とその動作速度をセンサで検出し、その検出結果に基づいて、作業動作を判別してもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 油圧ショベル(作業機械)
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 旋回モータ(アクチュエータ)
5 アタッチメント
5d 油圧シリンダ(アクチュエータ)
20 シート
21 操作レバー
22 操作部
30 油圧ポンプ
31 コントロールバルブ(作動装置)
33 エンジン
34 作動油タンク
40 電磁比例弁
41 リモコン弁
50 センサ
51 コントローラ
51a 操作者判別部(オペレータ判別手段)
51b 技量判別部(技量判別手段)
51c 作業動作判別部
51d 操作量補正部
51e 情報記憶部
52 レバー計(操作量検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9