(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20230227BHJP
【FI】
G01B11/00 B
(21)【出願番号】P 2019100619
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】氏原 大希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義将
(72)【発明者】
【氏名】原 慎一
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-041706(JP,A)
【文献】特開平10-082858(JP,A)
【文献】特開2008-232833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01B 9/00- 9/10
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物までの距離を測定する測定装置であって、
レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐する分岐部と、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して複数のビート信号を発生させるビート信号発生部と、
前記複数のビート信号を前記レーザ共振器の共振器周波数の4倍以上の周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する変換部と、
前記デジタル信号に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する算出部と
を備える、測定装置。
【請求項2】
前記変換部は、前記デジタル信号を周波数情報に変換する周波数変換部を有し、
前記算出部は、
前記周波数変換部が変換した周波数情報の周波数帯域を、予め定められた帯域幅の複数の帯域の周波数情報に分割する分割部と、
分割された複数の周波数情報毎にビート信号の周波数位置を検出する検出部と、
検出した複数のビート信号の周波数位置に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する距離算出部と
を有する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記距離算出部は、前記複数のビート信号の周波数位置に対応する前記測定装置から前記計測対象物までの距離をそれぞれ算出し、算出した複数の距離を平均化する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記距離算出部は、前記複数のビート信号の対応する周波数位置を換算し、換算した周波数位置を平均化し、平均化した周波数位置に対応する前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記変換部は、前記デジタル信号を周波数情報に変換する周波数変換部を有し、
前記算出部は、
前記周波数変換部が変換した周波数情報の周波数帯域を、予め定められた帯域幅の複数の帯域の周波数情報に分割する分割部と、
分割された複数の周波数情報を対応する1つの周波数帯域の周波数情報に変換してから、周波数毎に信号レベルを積算する積算部と、
積算された周波数情報におけるビート信号の周波数位置を検出する検出部と、
検出した前記ビート信号の周波数位置に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する距離算出部と
を有する、請求項1に記載の測定装置。
【請求項6】
前記分割部は、前記予め定められた帯域幅を前記共振器周波数以下の帯域幅とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項7】
計測対象物までの距離を測定する測定装置の測定方法であって、
レーザ共振器を有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、
前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐するステップと、
前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して複数のビート信号を発生させるステップと、
前記複数のビート信号を前記レーザ共振器の共振器周波数の4倍以上の周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換するステップと、
前記デジタル信号に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出するステップと
を備える、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する周波数シフト帰還レーザ(FSFL:Frequency Shifted Feedback Laser)が知られている。また、このような周波数シフト帰還レーザを用いた光学式の距離計が知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】原武文,「FSLレーザによる距離センシングとその応用」,オプトニューズ,Vol.7,No.3,2012年,pp.25-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周波数シフト帰還レーザを用いた光学式距離計は、非接触で大量の三次元情報を取得可能であり、例えば、設計および生産現場等で用いられてきた。このような光学式距離計は、受光デバイスおよび測定回路等で電気的なノイズが発生して電気信号に重畳することがあり、測定精度が低減してしまうことがあった。このような測定精度の低下を防止すべく、従来、複数回の測定結果を平均化していたが、測定時間が増加してスループットが低下してしまうという問題が生じていた。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、簡便な構成で、光学式距離計の測定時間を短縮させつつ測定精度の低減を抑制できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、計測対象物までの距離を測定する測定装置であって、レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力する前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐する分岐部と、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して複数のビート信号を発生させるビート信号発生部と、前記複数のビート信号を前記レーザ共振器の共振器周波数の4倍以上の周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する変換部と、前記デジタル信号に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する算出部とを備える、測定装置を提供する。
【0008】
前記変換部は、前記デジタル信号を周波数情報に変換する周波数変換部を有し、前記算出部は、前記周波数変換部が変換した周波数情報の周波数帯域を、予め定められた帯域幅の複数の帯域の周波数情報に分割する分割部と、分割された複数の周波数情報毎にビート信号の周波数位置を検出する検出部と、検出した複数のビート信号の周波数位置に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する距離算出部とを有してもよい。
【0009】
前記距離算出部は、前記複数のビート信号の周波数位置に対応する前記測定装置から前記計測対象物までの距離をそれぞれ算出し、算出した複数の距離を平均化してもよい。
【0010】
前記距離算出部は、前記複数のビート信号の対応する周波数位置を換算し、換算した周波数位置を平均化し、平均化した周波数位置に対応する前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出してもよい。
【0011】
前記変換部は、前記デジタル信号を周波数情報に変換する周波数変換部を有し、前記算出部は、前記周波数変換部が変換した周波数情報の周波数帯域を、予め定められた帯域幅の複数の帯域の周波数情報に分割する分割部と、分割された複数の周波数情報を対応する1つの周波数帯域の周波数情報に変換してから、周波数毎に信号レベルを積算する積算部と、積算された周波数情報におけるビート信号の周波数位置を検出する検出部と、検出した前記ビート信号の周波数位置に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出する距離算出部とを有してもよい。
【0012】
前記分割部は、前記予め定められた帯域幅を前記共振器周波数以下の帯域幅としてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、計測対象物までの距離を測定する測定装置の測定方法であって、レーザ共振器を有するレーザ装置から複数のモードの周波数変調レーザ光を出力するステップと、前記周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐するステップと、前記測定光を計測対象物に照射して反射された反射光と、前記参照光とを混合して複数のビート信号を発生させるステップと、前記複数のビート信号を前記レーザ共振器の共振器周波数の4倍以上の周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換するステップと、前記デジタル信号に基づき、前記測定装置から前記計測対象物までの距離を算出するステップとを備える、測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な構成で、光学式距離計の測定時間を短縮させつつ測定精度の低減を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す。
【
図2】本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
【
図3】本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
【
図4】本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
【
図5】本実施形態に係るビート信号発生部150および変換部160の構成例を示す。
【
図6】本実施形態に係るビート信号発生部150および変換部160の直交検波の概略の一例を示す。
【
図7】本実施形態に係る変換部160が出力する周波数情報の一例を示す。
【
図8】本実施形態に係る測定装置100に設けられている変換部160および算出部170の構成例を示す。
【
図9】本実施形態に係る測定装置100に設けられている変換部160および算出部170の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[測定装置100の構成例]
図1は、本実施形態に係る測定装置100の構成例を計測対象物10と共に示す図である。測定装置100は、当該測定装置100および計測対象物10の間の距離を光学的に測定する。また、測定装置100は、計測対象物10に照射するレーザ光の位置を走査して、計測対象物10の三次元的な形状を計測してもよい。測定装置100は、レーザ装置110と、分岐部120と、光サーキュレータ130と、光ヘッド部140と、ビート信号発生部150と、変換部160と、算出部170と、表示部180とを備える。
【0017】
レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、複数のモードの周波数変調レーザ光を出力する。レーザ装置110は、共振器内に周波数シフタが設けられ、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化する複数の縦モードレーザを出力する。レーザ装置110は、一例として、周波数シフト帰還レーザである。周波数シフト帰還レーザについては後述する。
【0018】
分岐部120は、レーザ装置が出力する周波数変調レーザ光の一部を参照光とし、残りの少なくとも一部を測定光として分岐する。分岐部120は、一例として、1入力2出力の光ファイバ型の光カプラである。
図1の例において、分岐部120は、測定光を光サーキュレータ130に供給し、参照光をビート信号発生部150に供給する。
【0019】
光サーキュレータ130は、複数の入出力ポートを有する。光サーキュレータ130は、例えば、一のポートに入力した光を次のポートから出力させ、当該次のポートから入力する光を更に次のポートから出力させる。
図1は、光サーキュレータ130が3つの入出力ポートを有する例を示す。この場合、光サーキュレータ130は、分岐部120から供給される測定光を光ヘッド部140に出力する。また、光サーキュレータ130は、光ヘッド部140から入力する光をビート信号発生部150へと出力する。
【0020】
光ヘッド部140は、光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10に向けて照射する。光ヘッド部140は、一例として、コリメータレンズを有する。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光をコリメータレンズでビーム状に調節してから出力する。
【0021】
また、光ヘッド部140は、計測対象物10に照射した測定光の反射光を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光をコリメータレンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合、光ヘッド部140は、共通の1つのコリメータレンズを有し、当該コリメータレンズが、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。なお、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離をdとする。
【0022】
これに代えて、光ヘッド部140は、集光レンズを有してもよい。この場合、光ヘッド部140は、光ファイバを介して光サーキュレータ130から入力する光を計測対象物10の表面に集光する。そして、光ヘッド部140は、計測対象物10の表面で反射した反射光の少なくとも一部を受光する。光ヘッド部140は、受光した反射光を集光レンズで光ファイバに集光して光サーキュレータ130に供給する。この場合においても、光ヘッド部140は、共通の1つの集光レンズを有し、当該集光レンズが、測定光を計測対象物10に照射し、また、計測対象物10からの反射光を受光してよい。
【0023】
ビート信号発生部150は、測定光を計測対象物10に照射して反射された反射光を光サーキュレータ130から受けとる。また、ビート信号発生部150は、分岐部120から参照光を受けとる。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を混合してビート信号を発生させる。ビート信号発生部150は、例えば、光電変換素子を有し、ビート信号を電気信号に変換して出力する。
【0024】
ここで、反射光は、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離を往復しているので、参照光と比較して少なくとも距離2dに応じた伝搬距離の差が生じることになる。レーザ装置110が出力する光は、時間の経過とともに発振周波数が線形に変化するので、参照光および反射光の発振周波数は、当該伝搬距離の差に対応する伝搬遅延に応じた周波数差が生じる。ビート信号発生部150は、このような周波数差に対応するビート信号を発生させる。
【0025】
変換部160は、ビート信号発生部150が発生させたビート信号をデジタル信号に変換する。また、変換部160は、変換したデジタル信号を周波数変換して、当該ビート信号の周波数を検出する。ここで、ビート信号の周波数をνBとする。
【0026】
算出部170は、変換部160の変換結果に基づき、参照光と測定光との伝搬距離の差を検出する。算出部170は、ビート信号の周波数νBに基づき、光ヘッド部140から計測対象物10までの距離dを算出する。
【0027】
表示部180は、算出部170の算出結果を表示する。表示部180は、ディスプレイ等を有し、算出結果を表示してよい。また、表示部180は、記憶部等に算出結果を記憶させてもよい。表示部180は、ネットワーク等を介して外部に算出結果を供給してもよい。
【0028】
以上の測定装置100は、計測対象物10に照射した測定光の反射光と、参照光との間の周波数差を解析することにより、測定装置100および計測対象物10の間の距離dを測定可能とする。即ち、測定装置100は、非接触および非破壊の光学式距離計を構成できる。測定装置100のより詳細な構成について次に説明する。
【0029】
[レーザ装置110の構成例]
図2は、本実施形態に係るレーザ装置110の構成例を示す。
図2のレーザ装置110は、周波数シフト帰還レーザの一例を示す。レーザ装置110は、レーザ共振器を有し、当該レーザ共振器内でレーザ光を発振させる。レーザ装置110のレーザ共振器は、周波数シフタ112と、増幅媒体114と、WDMカプラ116と、ポンプ光源117、出力カプラ118とを含むレーザ共振器を有する。
【0030】
周波数シフタ112は、入力する光の周波数を略一定の周波数だけシフトする。周波数シフタ112は、一例として、音響光学素子を有するAOFS(Acousto-Optic Frequency Shifter)である。ここで、周波数シフタ112による周波数シフト量を+νsとする。即ち、周波数シフタ112は、共振器を周回する光の周波数を、1周回毎にνsだけ周波数が増加するようにシフトさせる。
【0031】
増幅媒体114は、ポンプ光が供給され、入力光を増幅する。増幅媒体114は、一例として、不純物が添加された光ファイバである。不純物は、例えば、エルビウム、ネオジウム、イッテルビウム、テルビウム、ツリウム等の希土類元素である。また、増幅媒体114は、WDMカプラ116を介してポンプ光源117からポンプ光が供給される。出力カプラ118は、共振器内でレーザ発振した光の一部を外部に出力する。
【0032】
即ち、
図2に示すレーザ装置110は、共振器内に周波数シフタ112を有するファイバリングレーザを構成する。レーザ装置110は、共振器内にアイソレータを更に有することが望ましい。また、レーザ装置110は、予め定められた波長帯域の光を通過させる光バンドパスフィルタを共振器内に有してもよい。このようなレーザ装置110が出力するレーザ光の周波数特性について次に説明する。
【0033】
図3は、本実施形態に係るレーザ装置110が出力するレーザ光の一例を示す。
図3は、時刻t
0においてレーザ装置110が出力するレーザ光の光スペクトルを左側に示す。当該光スペクトルにおいては、横軸が光強度、縦軸が光の周波数を示す。また、光スペクトルの複数の縦モードを番号qで示す。複数の縦モードの周波数は、略一定の周波数間隔で並ぶ。ここで、光が共振器を1周する時間をτ
RT(=1/ν
C)とすると、複数の縦モードは、次式のように1/τ
RT(=ν
C)間隔で並ぶことになる。なお、ν
0は、時刻t
0における光スペクトルの初期周波数とする。また、ν
Cは、レーザ共振器の共振周波数ν
cである。
【数1】
【0034】
図3は、レーザ装置110が出力する複数の縦モードの時間経過にともなう周波数の変化を右側に示す。
図3の右側においては、横軸が時間、縦軸が周波数を示す。即ち、
図3は、レーザ装置110が出力するレーザ光の周波数の時間的な変化を右側に示し、当該レーザ光の時刻t
0における瞬時周波数を左側に示したものである。
【0035】
レーザ装置110は、共振器内の光が共振器を1周する毎に、周波数シフタ112が周回する光の周波数をν
sだけ増加させる。即ち、時間がτ
RT経過する毎に、各モードの周波数はν
sだけ増加するので、周波数の時間変化dν/dtは、ν
s/τ
RTと略等しくなる。したがって、(数1)式で示した複数の縦モードは、時間tの経過に伴って、次式のように変化する。
【数2】
【0036】
[距離測定処理の詳細]
本実施形態に係る測定装置100は、(数2)式で示すような周波数成分を出力するレーザ装置110を用いて、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dを測定する。ここで、参照光および反射光の間の光路差が、距離dを往復した距離2dだけであり、距離2dに対応する伝搬遅延をΔtとする。即ち、時刻tにおいて、測定光が計測対象物10から反射して戻ってきた場合、戻ってきた反射光は、時刻tよりも時間Δtだけ過去の周波数と略一致するので、次式で示すことができる。
【数3】
【0037】
一方、時刻tにおける参照光は、(数2)式と同様に次式で示すことができる。ここで、参照光をν
q’(t)とした。
【数4】
【0038】
ビート信号発生部150は、このような反射光および参照光を重畳させるので、(数3)式の複数の縦モードと(数4)式で示す複数の縦モードとの間の複数のビート信号が発生することになる。このようなビート信号の周波数をν
B(m,d)とすると、ν
B(m,d)は、(数3)式および(数4)式より次式で示すことができる。なお、mを縦モード番号の間隔(=q-q’)とし、Δt=2d/cとした。
【数5】
【0039】
(数5)式より、距離dは、次式のように示される。ここで、1/τ
RT=ν
Cとした。
【数6】
【0040】
(数6)式より、縦モード番号の間隔mを判別すれば、ビート信号の周波数観測結果から距離dを算出できることがわかる。なお、間隔mは、レーザ装置110の周波数シフト量νsを変化させた場合のビート信号の変化を検出することで、判別することができる。このような間隔mの判別方法は、特許文献1等に記載されているように既知であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
観測されるビート信号は常に正の周波数であるから、計算上、負の周波数側に発生するビート信号は、正側に折り返され、イメージ信号として観測される。このようなイメージ信号の発生について、次に説明する。
【0042】
図4は、本実施形態に係る測定装置100が検出するビート信号の周波数と、光ヘッド部140および計測対象物10の間の距離dとの関係の一例を示す。
図4の横軸は距離dを示し、縦軸はビート信号の周波数ν
B(m,d)を示す。
図4の実線で示す複数の直線は、(数5)式に示したように、距離dに対するビート信号の周波数ν
B(m,d)の関係を、複数のm毎に示したグラフである。
【0043】
図4のように、mの値に応じた複数のビート信号が発生する。しかしながら、反射光および参照光のそれぞれに含まれる複数の縦モードは、略一定の周波数間隔ν
Cで並ぶので、mの値が等しい複数のビート信号は周波数軸上では略同一の周波数に重畳されることになる。例えば、周波数0からν
Cの間の周波数帯域を観測した場合、複数のビート信号は略同一の周波数に重畳されて、1本の線スペクトルとして観測される。
【0044】
これに加えて、0よりも小さい負の領域のビート信号の周波数ν
B(m,d)は、周波数の絶対値がイメージ信号として更に観測される。即ち、
図4の縦軸が0よりも小さい領域のグラフは、周波数0を境界として折り返される。
図4は、折り返されたイメージ信号を、複数の点線で示す。折り返された複数のイメージ信号は、正負が反転するだけなので、観測される周波数軸上では折り返される前の周波数の絶対値と同一の周波数に重畳される。例えば、周波数0からν
Cの間の周波数帯域を観測した場合、このようなビート信号およびイメージ信号は、周波数がそれぞれν
C/2にならない限り、それぞれ異なる周波数に位置する。
【0045】
このように、周波数0からνCの間の観測帯域においては、ビート信号νB(m,d)と、ビート信号νB(m,d)とはmの値が異なるイメージ信号νB(m’,d)の2本の線スペクトルが発生する。ここで、一例として、m’=m+1である。この場合、ビート信号発生部150が直交検波を用いることで、このようなイメージ信号をキャンセルできる。そこで直交検波を用いたビート信号発生部150および変換部160について、次に説明する。
【0046】
図5は、本実施形態に係るビート信号発生部150および変換部160の構成例を示す。ビート信号発生部150は、反射光および参照光を直交検波する。ビート信号発生部150は、光90度ハイブリッド152と、第1光電変換部154と、第2光電変換部156とを有する。
【0047】
光90度ハイブリッド152は、入力する反射光および参照光をそれぞれ2つに分岐する。光90度ハイブリッド152は、分岐した一方の反射光と、分岐した一方の参照光とを光カプラ等で合波して第1ビート信号を発生させる。また、光90度ハイブリッド152は、分岐した他方の反射光と、分岐した他方の参照光とを光カプラ等で合波して第2ビート信号を発生させる。ここで、光90度ハイブリッド152は、分岐した2つの参照光の間に90度の位相差を生じさせてから、ビート信号を発生させる。光90度ハイブリッド152は、例えば、分岐した2つの参照光のうちいずれか一方に、π/2波長板を介してから反射光とそれぞれ合波させる。
【0048】
第1光電変換部154および第2光電変換部156は、合波した反射光および参照光を受光して電気信号に変換する。第1光電変換部154および第2光電変換部156のそれぞれは、フォトダイオード等でよい。第1光電変換部154および第2光電変換部156のそれぞれは、一例として、バランス型フォトダイオードである。
図5において、第1光電変換部154が第1ビート信号を発生させ、第2光電変換部156が第2ビート信号を発生させるものとする。以上のように、ビート信号発生部150は、位相を90度異ならせた2つの参照光と反射光とをそれぞれ合波させて直交検波し、2つのビート信号を変換部160に出力する。
【0049】
変換部160は、2つのビート信号を周波数解析する。ここでは、変換部160が、第1ビート信号をI信号とし、第2ビート信号をQ信号として周波数解析する例を説明する。変換部160は、第1フィルタ部162、第2フィルタ部164、第1AD変換器202、第2AD変換器204、クロック信号供給部210、および周波数解析部220を有する。
【0050】
第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域とは異なる周波数帯域の信号成分を低減させる。ここで、ユーザ等が周波数解析したい周波数帯域を0からνCとする。第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、例えば、周波数νC以下の信号成分を通過させるローパスフィルタである。この場合、第1フィルタ部162は、周波数νCよりも高い周波数の信号成分を低減させた第1ビート信号を第1AD変換器202に供給する。また、第2フィルタ部164は、周波数νCよりも高い周波数の信号成分を低減させた第2ビート信号を第2AD変換器204に供給する。
【0051】
第1AD変換器202および第2AD変換器204は、入力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。例えば、第1AD変換器202は第1ビート信号をデジタル信号に変換し、第2AD変換器204は第2ビート信号をデジタル信号に変換する。クロック信号供給部210は、第1AD変換器202および第2AD変換器204にクロック信号を供給する。これにより、第1AD変換器202および第2AD変換器204は、受け取ったクロック周波数と略同一のサンプリングレートでアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0052】
ここで、観測帯域を0からνCとすると、ビート信号の周波数は、最大でもレーザ共振器の共振器周波数νCである。したがって、クロック信号供給部210が、レーザ共振器の共振器周波数νCの2倍以上の周波数のクロック信号を、第1AD変換器202および第2AD変換器204に供給することで、ビート信号を観測することができる。
【0053】
周波数解析部220は、第1ビート信号および第2ビート信号を周波数データに変換する。周波数解析部220は、一例として、第1ビート信号および第2ビート信号をそれぞれデジタルフーリエ変換(DFT)する。周波数解析部220は、周波数データに変換した第1ビート信号を実部、周波数データに変換した第2ビート信号を虚部として加算し、イメージ信号を相殺する。なお、変換部160は、ビート信号がデジタル信号に変換された後は、集積回路等で周波数解析部220を構成してよい。以上のビート信号発生部150における直交検波と変換部160における周波数解析について、次に述べる。
【0054】
図6は、本実施形態に係るビート信号発生部150および変換部160の直交検波の概略の一例を示す。
図6の横軸はビート信号の周波数、縦軸は信号強度を示す。
図6は、I信号およびQ信号のいずれか一方の周波数スペクトルを示す。I信号およびQ信号のいずれの周波数スペクトルも、
図6の上側に示すように、略同一のスペクトル形状となる。I信号およびQ信号は、例えば、周波数0からν
Cの間の周波数帯域に、ビート信号ν
B(m,d)およびイメージ信号ν
B(m+1,d)が観測される。この場合、I信号およびQ信号は、負側の周波数0から-ν
Cの間の周波数帯域に、ビート信号-ν
B(m,d)およびイメージ信号の元のビート信号-ν
B(m+1,d)が存在する。
【0055】
ここで、I信号およびQ信号は、ビート信号発生部150が直交検波した信号成分なので、スペクトル形状が同一であっても、異なる位相情報を含む。例えば、正側の周波数0からνCの間の周波数帯域において、I信号のイメージ信号νB(m+1,d)とQ信号のイメージ信号νB(m+1,d)とは、互いに位相が反転する。同様に、負側の周波数0から-νCの間の周波数帯域において、I信号のビート信号-νB(m,d)とQ信号のビート信号-νB(m,d)とは、互いに位相が反転する。
【0056】
したがって、
図6の下側に示すように、周波数解析部220がI信号およびQ信号を用いてI+jQを算出すると、周波数0からν
Cの間の周波数帯域において、周波数ν
B(m,d)のビート信号が強め合い、周波数ν
B(m+1,d)のイメージ信号が相殺される。同様に、周波数0から-ν
Cの間の周波数帯域において、周波数-ν
B(m+1,d)のビート信号が強め合い、周波数-ν
B(m,d)のビート信号が相殺される。
【0057】
このような周波数解析部220の周波数解析結果により、周波数0からνCの間の周波数帯域には1つのビート信号が周波数νB(m,d)に観測されることになる。測定装置100は、このようにして、イメージ信号をキャンセルできるので、ビート信号の周波数νB(m,d)の周波数を検出することができる。例えば、周波数解析部220は、変換した周波数信号の信号強度が最も高くなる周波数をビート信号の周波数νB(m,d)として出力する。
【0058】
ここで、測定装置100が測定する距離dは、(数6)式で示されている。(数6)式より、νC、νs、およびνB(m,d)の3つの周波数を用いることで、距離dが算出できることがわかる。3つの周波数のうち、νB(m,d)は、以上のように、検出できることがわかる。また、νCおよびνsは、レーザ装置110の部材によって定まる周波数なので、固定値として取り扱うことができる。したがって、算出部170は、変換部160が検出したビート信号の周波数νB(m,d)と、予め定められたνCおよびνsを用いて、距離dを算出する。
【0059】
以上のように、測定装置100は、計測対象物10までの距離dを測定することができる。このような測定装置100は、第1光電変換部154および第2光電変換部156といった受光デバイス、ビート信号発生部150および変換部160といった測定回路等で電気的なノイズが重畳されることがあり、測定精度が低減してしまうことがあった。このような測定精度の低下を防止すべく、複数回の測定結果を平均化することが考えられるが、この場合、測定時間が増加してスループットが低下してしまうことがあった。
【0060】
[複数のビート信号]
そこで、本実施形態に係る測定装置100は、ビート信号の観測帯域を拡大して、異なる複数の帯域に発生する複数のビート信号を測定する。
図4に示すように、ビート信号発生部150は、反射光および参照光を混合して異なる複数のモード番号mの複数のビート信号ν
B(m,d)を発生させる。したがって、変換部160のビート信号ν
B(m,d)の観測帯域を拡大すると、異なる周波数に発生する複数のビート信号ν
B(m,d)を観測できる。
【0061】
図7は、本実施形態に係る変換部160が出力する周波数情報の一例を示す。
図7の横軸は周波数を示し、縦軸は信号レベルを示す。
図7は、直交検波により、複数のイメージ信号がキャンセルされた後の複数のビート信号を示す。複数のビート信号は、帯域幅が共振器周波数ν
Cに略一致する複数の帯域のそれぞれに、1つずつ観測される。ここで、複数の帯域を周波数の小さい順に、第1帯域、第2帯域、・・・、第k帯域とし、第1帯域のビート信号の周波数をν
B1、第2帯域のビート信号の周波数をν
B2、第k帯域のビート信号の周波数をν
Bkとする。
【0062】
測定装置100が1番目からk番目までのk個のビート信号を観測する場合、観測帯域はk×νCとなる。この場合、クロック信号供給部210は、2k×νC以上の周波数のクロック信号を、第1AD変換器202および第2AD変換器204に供給すればよい。測定装置100が2以上のビート信号を観測するためには、少なくともクロック信号は共振器周波数νCの4倍以上の周波数が必要となることがわかる。
【0063】
図3および
図4で示すように、複数のビート信号は、それぞれの帯域の対応する周波数位置に発生する。例えば、測定装置100および計測対象物10の間の距離dが一定で、電気信号に重畳するノイズが無視できるほど小さい理想的な状態の場合、k番目のビート信号の周波数ν
Bkは、(k-1)×ν
Cだけ差し引くと、1番目のビート信号の周波数ν
B1に略一致する。このように、複数のビート信号は、理想的には略一定の周波数ν
Cの間隔毎に発生する。
【0064】
そこで、測定装置100は、複数のビート信号を対応する周波数間隔だけ周波数シフトさせて、同一の周波数帯域の信号成分にしてから平均化することで、ノイズの影響を低減させる。このような測定装置100について、次に説明する。
【0065】
[変換部160および算出部170の構成例]
図8は、本実施形態に係る測定装置100に設けられている変換部160および算出部170の構成例を示す。
図8に示す変換部160は、
図5で説明した変換部160と同様の構成なので、動作が略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。
図8に示す変換部160および算出部170は、測定装置100が2×ν
C以上の観測帯域を有するように構成されている。
【0066】
変換部160は、複数のビート信号をレーザ共振器の共振器周波数の4倍以上の周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する。即ち、クロック信号供給部210は、レーザ共振器の共振器周波数νCの4倍以上の周波数のクロック信号を、第1AD変換器202および第2AD変換器204に供給する。第1AD変換器202および第2AD変換器204は、アナログ信号を複数のビート信号と複数のイメージ信号を含むデジタル信号のI信号およびQ信号にそれぞれ変換する。
【0067】
なお、第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、共振器周波数νCの2倍以上の周波数帯域の信号成分を通過させる。例えば、クロック信号供給部210は、2k×νC以上の周波数のクロック信号を出力し、第1フィルタ部162および第2フィルタ部164は、0からk×νCまでの周波数帯域の信号成分を通過させる。
【0068】
変換部160は、周波数変換部310を有する。周波数変換部310は、デジタル信号のI信号およびQ信号を周波数情報に変換する。周波数変換部310は、例えば、デジタルフーリエ変換等を用いて、デジタル信号を周波数情報に変換する。周波数変換部310は、変換されたI信号およびQ信号を用いてI+jQを算出し、複数のイメージ信号を相殺した算出結果を出力する。
【0069】
算出部170は、周波数変換部310が変換したデジタル信号の周波数データに基づき、測定装置100から計測対象物10までの距離dを算出する。算出部170は、分割部172と、検出部174と、距離算出部176とを有する。
【0070】
分割部172は、周波数変換部310が変換した周波数情報の周波数帯域を、予め定められた帯域幅の複数の帯域の周波数情報に分割する。分割部172は、予め定められた帯域幅を共振器周波数ν
C以下の帯域幅とする。分割部172は、一例として、
図8の例に示すように、共振器周波数ν
Cに略一致する帯域幅で周波数情報を分割する。例えば、クロック信号供給部210が出力するクロック信号の周波数を2f
Cとすると、分割部172は、f
C/ν
C以下で最大となる整数kだけ、周波数情報を分割する。
【0071】
検出部174は、分割された複数の周波数情報毎にビート信号の周波数位置を検出する。検出部174は、例えば、各帯域において信号レベルが最大となる周波数位置を検出して、複数のビート信号の周波数νB1、νB2、・・・、νBkとする。
【0072】
距離算出部176は、検出した複数のビート信号の周波数位置に基づき、測定装置100から計測対象物10までの距離dを算出する。例えば、距離算出部176は、複数のビート信号の周波数位置に対応する測定装置100から計測対象物10までの距離dをそれぞれ算出する。
【0073】
この場合、距離算出部176は、周波数νB1に対応する測定装置100から計測対象物10までの距離d1を算出する。また、距離算出部176は、周波数νB2からνCを差し引いた周波数(νB2-νC)に対応する距離d2を算出する。同様に、距離算出部176は、周波数νBkから(k-1)×νCを差し引いた周波数[νBk-(k-1)×νC]に対応する距離dkを算出する。
【0074】
そして、距離算出部176は、算出した複数の距離を平均化する。距離算出部176は、例えば、距離d1,d2,・・・,dkを平均化した値を距離dとして出力する。これにより、測定装置100は、受光デバイスおよび測定回路等で発生した電気的なノイズが電気信号に重畳しても、複数の距離dの測定結果を平均化するので、当該ノイズの影響を低減できる。
【0075】
また、測定装置100は、測定帯域を拡大して複数のビート信号を検出するので、測定光の測定回数よりも大きい数の距離dの算出結果を取得することができる。例えば、測定装置100は、1回のビート信号の検出結果から、予め定められた数の距離dの測定結果の平均値を算出できる。したがって、測定装置100は、測定精度を向上させつつ、測定時間を短縮させてスループットを向上させることができる。
【0076】
以上の本実施形態に係る測定装置100において、算出部170が複数の距離dの算出結果を平均化する例を説明したが、これに限定されることはない。測定装置100は、ビート信号の対応する周波数を平均化してから距離dを算出してもよい。
【0077】
この場合、距離算出部176は、検出部174が検出した複数のビート信号の対応する周波数位置を換算する。距離算出部176は、例えば、複数のビート信号の周波数νB1、νB2、・・・、νBkを用いて、周波数0からνCの間の観測帯域における対応する周波数位置νB1、(νB2-νC)、・・・、[νBk-(k-1)×νC]を換算する。
【0078】
そして、距離算出部176は、換算した周波数位置を平均化し、平均化した周波数位置に対応する測定装置100から計測対象物10までの距離dを算出する。このような場合においても、測定装置100は、受光デバイスおよび測定回路等で発生した電気的なノイズが電気信号に重畳しても、異なるビート信号の検出結果を平均化するので、当該ノイズの影響を低減させることができる。
【0079】
以上の本実施形態に係る測定装置100において、算出部170が距離dの算出結果またはビート信号の検出結果を平均化する例を説明したが、これに限定されることはない。測定装置100は、ビート信号の帯域毎のスペクトルを重畳し、重畳したスペクトルに基づき、距離dを算出してもよい。このような測定装置100について、次に説明する。
【0080】
[変換部160および算出部170の変形例]
図9は、本実施形態に係る測定装置100に設けられている変換部160および算出部170の変形例を示す。
図9に示す変換部160および算出部170は、
図7で説明した変換部160および算出部170と同様の構成なので、動作が略同一のものには同一の符号を付け、説明を省略する。変形例の算出部170は、分割部172と、積算部178と、検出部174と、距離算出部176とを有する。
【0081】
分割部172は、周波数変換部310が変換した周波数情報の周波数帯域を、予め定められた帯域幅の複数の帯域の周波数情報に分割する。分割部172は、例えば、
図7に示すように、周波数情報を第1帯域、第2帯域、・・・、第k帯域といったk個の帯域に分割する。
【0082】
積算部178は、分割された複数の周波数情報を対応する1つの周波数帯域の周波数情報に変換する。積算部178は、例えば、第1帯域を対応する周波数帯域として、分割した複数の周波数情報を変換する。この場合、積算部178は、第2帯域の周波数をνCだけ差し引いて、低周波数方向にシフトする。また、積算部178は、第3帯域の周波数を2×νCだけ差し引いて、低周波数方向にシフトする。このように、積算部178は、k番目の第k帯域の周波数を(k-1)×νCだけ差し引いて、k-1個の周波数情報を低周波数方向にそれぞれシフトする。このように、積算部178は、k個の周波数情報を第1帯域の情報に変換する。
【0083】
そして、積算部178は、分割した複数の周波数情報の信号レベルを周波数毎に積算する。これにより、複数のビート信号が積算されるので、理想的には略同一の周波数位置の信号レベルが最も大きい値となる。また、ノイズ等が発生した場合、このようなビート信号にランダムなノイズレベルが重畳される。積算する帯域の数kが増加することにより、このようなノイズ成分は平滑化されて略一定の値となるので、ノイズによるビート信号のピーク周波数の変動が抑制されることになる。
【0084】
検出部174は、積算された周波数情報におけるビート信号の周波数位置を検出する。検出部174は、例えば、第1帯域において信号レベルが最大となる周波数位置を検出して、ビート信号の周波数νBとする。
【0085】
距離算出部176は、検出したビート信号の周波数位置νBに基づき、測定装置100から計測対象物10までの距離dを算出する。以上のように、測定装置100は、複数の帯域におけるビート信号の観測結果を積算して、重畳するノイズ成分を平均化させることができるので、ノイズの影響を低減させることができる。また、本例の測定装置100も、測定時間を短縮させてスループットを向上できる。
【0086】
以上の本実施形態に係る測定装置100は、観測した複数のビート信号に基づく信号成分を平均化または重畳することで、ノイズの影響を低減させる例を説明したが、これに限定することはない。測定装置100は、
図1で説明したように、平均化処理しない動作と、平均化処理する動作とを切り換え可能に構成されていてもよい。
【0087】
この場合、例えば、クロック信号供給部210は、ユーザの入力等に応じて、供給するクロック信号の周波数を切り換え可能に設けられる。また、変換部160は、周波数解析部220と周波数変換部310とを切り換え可能に設けられる。これに代えて、周波数解析部220が、ユーザの入力等に応じて、周波数解析の動作と周波数変換の動作とを切り換えてもよい。同様に、算出部170は、ユーザの入力等に応じて、平均化処理しない動作と平均化処理の動作とを切り換える。
【0088】
これにより、測定装置100は、ユーザ等に要求される測定精度に応じて処理を切り換えることができるので、適切な処理時間で測定結果を出力することができる。また、測定装置100は、更に、ユーザの要求等に応じて、観測帯域を切り換え可能に構成されてもよい。この場合、測定装置100は、平均化するためのビート信号の数kを可変にすることができるので、要求される測定精度に応じて処理をより細かく設定できる。
【0089】
なお、以上の本実施形態に係る測定装置100に設けられている変換部160および算出部170の少なくとも一部は、集積回路等で構成されていることが望ましい。変換部160および算出部170の少なくとも一部は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、および/またはCPU(Central Processing Unit)を含む。
【0090】
変換部160および算出部170の少なくとも一部をコンピュータ等で構成する場合、これらの部位は、記憶部および制御部を含む。記憶部は、一例として、変換部160および算出部170を実現するコンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、および作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部は、OS(Operating System)、プログラム、アプリケーション、および/または種々の情報等を格納してよい。記憶部は、HDD(Hard Disk Drive)および/またはSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでよい。
【0091】
制御部は、CPU等のプロセッサであり、記憶部に記憶されたプログラムを実行することによって変換部160および算出部170の少なくとも一部として機能する。制御部は、GPU(Graphics Processing Unit)等を含んでもよい。
【0092】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0093】
10 計測対象物
100 測定装置
110 レーザ装置
112 周波数シフタ
114 増幅媒体
116 WDMカプラ
117 ポンプ光源
118 出力カプラ
120 分岐部
130 光サーキュレータ
140 光ヘッド部
150 ビート信号発生部
152 光90度ハイブリッド
154 第1光電変換部
156 第2光電変換部
160 変換部
162 第1フィルタ部
164 第2フィルタ部
170 算出部
172 分割部
174 検出部
176 距離算出部
178 積算部
180 表示部
202 第1AD変換器
204 第2AD変換器
210 クロック信号供給部
220 周波数解析部
310 周波数変換部