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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】表面処理液、及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20230227BHJP
   C09D 201/08 20060101ALI20230227BHJP
   C09D 201/06 20060101ALI20230227BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230227BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20230227BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20230227BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230227BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230227BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230227BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D201/08
C09D201/06
C09K3/00 R
C09K3/18 101
B05D1/40 A
B05D7/00 Z
B05D7/24 302E
C08J7/04 U
C09D201/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019507412
(86)(22)【出願日】2018-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2018003682
(87)【国際公開番号】W WO2018173508
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2017058287
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】先崎 尊博
(72)【発明者】
【氏名】野口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大坂 享史
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022815(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/140668(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/072369(WO,A1)
【文献】特開2017-196351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C09K 3/00
C09K 3/18
A61L 17/00-33/18
C12N 1/00-7/08
C12M 1/00-3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂と、(C)溶媒とのみからなり
前記(A)樹脂が、水酸基、及びシアノ基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iと、前記官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIとを有し、
ただし、前記官能基IIが水酸基、及びシアノ基から選択される1以上の基を含む場合、前記(A)樹脂は前記官能基Iを有していなくてもよく、
前記(A)樹脂の重量平均分子量が100,000以上であり、
前記官能基Iが、下式(A2):
CH=CR-(R-CO-R・・・(A2)
(式(A2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の炭化水素基であり、aは0又は1であり、R、-O-R、又は-NH-Rであり、Rは、水酸基、及びシアノ基からなる群より選択される1以上の官能基で置換された炭化水素基である。)
で表される単量体に由来し、
前記官能基IIが、疎水性基であるとき、前記官能基IIは下式(A3):
CH=CR-(CO-O)-R・・・(A3)
(式(A3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、bは0又は1であり、R、下式(A4):
-SiR-(-O-SiR-)-R・・・(A4)
で表される基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1~6の炭化水素基であり、nは0以上の整数である。)
で表される単量体に由来し、
前記官能基IIが、親水性基であるとき、前記官能基IIは下式(A5):
CH=CR-CO-NH-R・・・(A5)
(式(A5)中、Rは、アミノ基、スルホン酸基、及び水酸基からなる群より選択される1以上の基で置換された炭素原子数2、3又は4のアルキル基、又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基である。)
で表される単量体に由来する、
表面処理液(ただし、下記繰り返し単位(a)と下記繰り返し単位(b)とを有する重合体を含む、メディカルデバイス用組成物、細胞接着防止剤及びシリコーン基材処理用組成物からなる群より選ばれる1種の重合体組成物からなる表面処理液を除く。)。
(a)親水性繰り返し単位
(b)側鎖にポリオキシアルキレン基を有し、その側鎖末端が炭素数5~30のアルキル基、炭素数5~30のアルカノイル基または炭素数6~30のアリール基で構成される繰り返し単位
【請求項2】
(A)樹脂と、(C)溶媒とを含み、
前記(A)樹脂が、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iと、前記官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIとを有し、
ただし、前記官能基IIが水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基から選択される1以上の基を含む場合、前記(A)樹脂は前記官能基Iを有していなくてもよく、
前記(A)樹脂の重量平均分子量が100,000以上であり、
前記官能基Iが、下式(A2):
CH =CR -(R -CO-R ・・・(A2)
(式(A2)中、R は水素原子又はメチル基であり、R は2価の炭化水素基であり、aは0又は1であり、R は、-OH、-O-R 、又は-NH-R であり、R は、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の官能基で置換された炭化水素基である。)
で表される単量体に由来し、
前記官能基IIが、疎水性基であるとき、前記官能基IIは下式(A3):
CH =CR -(CO-O) -R ・・・(A3)
(式(A3)中、R は水素原子又はメチル基であり、bは0又は1であり、R は、下式(A4):
-SiR -(-O-SiR -) -R ・・・(A4)
で表される基であり、R 、R 、及びR は、それぞれ独立に炭素原子数1~6の炭化水素基であり、nは0以上の整数である。)
で表される単量体に由来し、
前記官能基IIが、親水性基であるとき、前記官能基IIは下式(A5):
CH =CR -CO-NH-R ・・・(A5)
(式(A5)中、R は、アミノ基、スルホン酸基、及び水酸基からなる群より選択される1以上の基で置換された炭素原子数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、R は水素原子又はメチル基である。)
で表される単量体に由来し、
被処理体の表面におけるタンパク質吸着抑制処理に用いられる、表面処理液(ただし、下記繰り返し単位(a)と下記繰り返し単位(b)とを有する重合体を含む、メディカルデバイス用組成物、細胞接着防止剤及びシリコーン基材処理用組成物からなる群より選ばれる1種の重合体組成物からなる表面処理液を除く。)
(a)親水性繰り返し単位
(b)側鎖にポリオキシアルキレン基を有し、その側鎖末端が炭素数5~30のアルキル基、炭素数5~30のアルカノイル基または炭素数6~30のアリール基で構成される繰り返し単位
【請求項3】
(A)樹脂と、(C)溶媒とを含み、
前記(A)樹脂が、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iと、前記官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIとを有し、
ただし、前記官能基IIが水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基から選択される1以上の基を含む場合、前記(A)樹脂は前記官能基Iを有していなくてもよく、
前記(A)樹脂の重量平均分子量が100,000以上であり、
前記官能基Iが、下式(A2):
CH =CR -(R -CO-R ・・・(A2)
(式(A2)中、R は水素原子又はメチル基であり、R は2価の炭化水素基であり、aは0又は1であり、R は、-OH、-O-R 、又は-NH-R であり、R は、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の官能基で置換された炭化水素基である。)
で表される単量体に由来し、
前記官能基IIが、疎水性基であるとき、前記官能基IIは下式(A3):
CH =CR -(CO-O) -R ・・・(A3)
(式(A3)中、R は水素原子又はメチル基であり、bは0又は1であり、R は、下式(A4):
-SiR -(-O-SiR -) -R ・・・(A4)
で表される基であり、R 、R 、及びR は、それぞれ独立に炭素原子数1~6の炭化水素基であり、nは0以上の整数である。)
で表される単量体に由来し、
前記官能基IIが、親水性基であるとき、前記官能基IIは下式(A5):
CH =CR -CO-NH-R ・・・(A5)
(式(A5)中、R は、アミノ基、スルホン酸基、及び水酸基からなる群より選択される1以上の基で置換された炭素原子数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、R は水素原子又はメチル基である。)
で表される単量体に由来し、
被処理体の表面における細胞接着抑制処理に用いられる、表面処理液(ただし、下記繰り返し単位(a)と下記繰り返し単位(b)とを有する重合体を含む、メディカルデバイス用組成物、細胞接着防止剤及びシリコーン基材処理用組成物からなる群より選ばれる1種の重合体組成物からなる表面処理液を除く。)
(a)親水性繰り返し単位
(b)側鎖にポリオキシアルキレン基を有し、その側鎖末端が炭素数5~30のアルキル基、炭素数5~30のアルカノイル基または炭素数6~30のアリール基で構成される繰り返し単位
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理液の、被処理体の表面への塗布を含む、表面処理方法。
【請求項5】
被処理体上の前記表面処理液が塗布された箇所のリンスを含む、請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記被処理体が基板であり、前記表面処理液の塗布がスピンコートにより行われる、請求項4又は5に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記表面処理液が塗布される面の材質が有機材料であり、前記(A)樹脂が、前記官能基Iとして、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する、請求項4~6のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項8】
前記表面処理液が塗布される面の材質が無機材料であり、前記(A)樹脂が、前記官能基Iとして、水酸基及び/又はシアノ基を有する、請求項4~6のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項9】
請求項2に記載の表面処理液を用いて、前記被処理体の表面のタンパク質吸着を抑制する処理を行う、請求項4~8のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項10】
請求項3に記載の表面処理液を用いて、前記被処理体の表面の細胞接着を抑制する処理を行う、請求項4~8のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理液、及び当該表面処理液を用いる表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の物品の表面の性質を改質するための表面処理を行うために、様々な表面処理液が使用されている。例えば、表面改質の中でも、物品の表面の親水化又は疎水化についての要求は大きい。親水化用又は疎水化用の薬剤や表面処理液を用いる表面処理について、特許文献1等に多数提案されている。また、バイオセンサー表面での非特異的なタンパク質の吸着や、医療機器表面の汚染を抑制する目的等で、被処理体の表面へのタンパク質等の吸着を抑制するための表面処理が望まれている。このような表面処理に用いられる表面処理剤について、例えば特許文献2等に提案されている。
【0003】
上記した目的等で行われる表面処理に使用される表面処理用の薬剤に関して、例えば、被膜表面に親水性と防汚性とを付与できる表面調整剤として、少なくともアクリルアミドモノマーと、特定の骨格のシロキシ基含有モノ(メタ)アクリレートモノマーとが共重合された、重量平均分子量1500~50000の共重合物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5437523号公報
【文献】特許第4665762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の表面調整剤を用いて親水化処理を行う場合、表面調整剤のみを含む溶液を用いて被処理体の表面を処理しても、表面調整剤が被処理体の表面に付着しにくい。その結果、所望する親水化効果を得にくい。
このため、特許文献1では、表面調整剤の溶液に、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂等の樹脂を被膜形成成分として配合した液を、表面処理液として用いている。
【0006】
そして、特許文献1に記載の表面調整剤と、被膜形成成分とを含む表面処理液を用いる場合、被処理体の表面が樹脂を含む被膜により被覆されてしまうため、良好な親水化はできても、被処理体が有する有用な表面特性まで損なわれてしまう。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、被膜形成性の樹脂を含んでいなくても、被処理体の表面の良好な親水化又は疎水化を行うことができる表面処理液と、当該表面処理液を用いる表面処理方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、(A)樹脂と、(C)溶媒とを含む表面処理液において、(A)樹脂として、重量平均分子量が100,000以上であって、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iと、前記官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIとを有する樹脂を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の第一の態様は、(A)樹脂と、(C)溶媒とを含み、
(A)樹脂が、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iと、前記官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIとを有し、
ただし、官能基IIが水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基から選択される1以上の基を含む場合、(A)樹脂は官能基Iを有していなくてもよく、
(A)樹脂の重量平均分子量が100,000以上である、表面処理液である。
【0010】
本発明の第二の態様は、第一の態様にかかる表面処理液の、被処理体の表面への塗布を含む、表面処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被膜形成性の樹脂を含んでいなくても、被処理体の表面の良好な親水化又は疎水化を行うことができる表面処理液と、当該表面処理液を用いる表面処理方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪表面処理液≫
表面処理液(以下、単に処理液とも記す。)は、(A)樹脂と、(C)溶媒とを含む。
(A)樹脂は、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iと、官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIとを有する。なお、官能基IIが水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基から選択される1以上の基を含む場合には、(A)樹脂は官能基Iを有していなくてもよい。
また、表面処理液は、(B)強酸を含んでいてもよい。(B)強酸のpKaは1以下である。
【0013】
処理液が、重量平均分子量が100,000以上であり、官能基Iを有する(A)樹脂を含むことにより、表面処理時に、(A)樹脂が、被処理体の表面に良好に結合ないし付着する。このため、被処理体の表面には、(A)樹脂が有する親水性又は疎水性の官能基IIが高効率で導入される。その結果、前述の条件を満たす(A)樹脂を含む処理液を用いて表面処理を行うと、被処理体の表面が高度に親水化又は疎水化される。
【0014】
以下、処理液に含まれる必須又は任意の成分について説明する。
【0015】
<(A)樹脂>
(A)樹脂は、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の基である官能基Iを有する。また、(A)樹脂の重量平均分子量が100,000以上である。かかる分子量を有する(A)樹脂を用いる場合、処理液による処理時に、官能基Iと非処理体表面との反応又は相互作用に起因して、(A)樹脂が被処理体表面に結合ないし付着しやすい。
【0016】
(A)樹脂の重量平均分子量は、表面処理効果が良好である点から、200,000以上が好ましく、300,000以上がより好ましい。(A)樹脂が、後述する(C)溶媒に可溶である限りにおいて、(A)樹脂の重量平均分子量は1,000,000以上であってもよい。
(A)樹脂の重量平均分子量の上限は、(A)樹脂が(C)溶媒に可溶である限りにおいて特に限定されない。(A)樹脂の重量平均分子量は、例えば、250万以下であってよく、400万以下であってよい。
【0017】
(A)樹脂は、官能基I以外の親水性基又は疎水性基である官能基IIを有する。親水性基を有する(A)樹脂を含む処理液を用いると親水化処理でき、疎水性基を有する(A)樹脂を含む処理液を用いると疎水化処理できる。
親水性基又は疎水性基は、従来から、当業者に親水性基又は疎水性基であると認識されている官能基であれば特に限定されず、その中から適宜選択できる。
【0018】
(A)樹脂の種類は、(A)樹脂が、所定の官能基を有し、且つ(C)溶媒に可溶である限り特に限定されない。(A)樹脂の例としては、(メタ)アクリル樹脂、ノボラック樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中では、官能基の導入や、官能基を有する単位の含有比率の調整が容易である事から(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0019】
親水性基の具体例としては、ポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基がブロック又はランダム結合したポリオキシアルキレン基等)、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基等があげられる。また、これらの基を含む有機基も親水性基として好ましい。
【0020】
(A)樹脂が、官能基IIとして、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基を含む親水性基又は疎水性基を有する場合、当該親水性基又は疎水性基に含まれる水酸基、シアノ基、又はカルボキシル基は、官能基Iとしての役割も果たす。
このため、(A)樹脂が、官能基IIとして、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基を含む親水性基又は疎水性基を有する場合、(A)樹脂は、官能基Iを有していなくてもよい。
なお、水酸基、及びカルボキシル基を含む親水性基には、水酸基そのもの、及びカルボキシル基そのものが含まれる。
【0021】
処理液の親水化効果が優れる点で、親水性基としては、下記式(A1):
-NH-R・・・(A1)
(式(A1)中、Rは、アミノ基、スルホン酸基、及び水酸基からなる群より選択される1以上の基で置換された炭素原子数1~4のアルキル基、又は水素原子である。)
で表される基が好ましい。
【0022】
式(A1)で表される親水性基の具体例としては、アミノ基と、下記式で表されるRを有する基と、が挙げられる。
【化1】
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
上記の式(A1)で表される親水性基の具体例のうち、より好ましい基としては、下記式で表されるRを有する基が挙げられる。
【化4】
【0026】
上記の式(A1)で表される親水性基の具体例のうち、特に好ましい基としては、下記式で表されるRを有する基が挙げられる。
【化5】
【0027】
疎水性基の具体例としては、例えば、フッ素化炭化水素基、シリル基、シロキサン基、炭素原子数6~20のアルキル基、及び炭素原子数10~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
フッ素化炭化水素基としては、式(A3)について後述する基が好ましい。
シリル基の好適な例としては、後述する式(A4)で表され、nが0である基が挙げられる。シリル基の具体例としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
シロキサン基の好適な例としては、後述する式(A4)で表され、nが1以上である基が挙げられる。
【0028】
(A)樹脂としては、種々の官能基を導入しやすく、官能基量の調整が容易である事から、不飽和結合を有する単量体の重合体であるのが好ましい。かかる重合体は、ホモポリマーであっても、コポリマーであってもよい。
【0029】
この場合、(A)樹脂が有する官能基Iは、下式(A2):
CH=CR-(R-CO-R・・・(A2)
(式(A2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の炭化水素基であり、aは0又は1であり、Rは、-OH、-O-R、又は-NH-Rであり、Rは、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の官能基で置換された炭化水素基である。)
で表される単量体に由来する基であるのが好ましい。
【0030】
上記式(A2)中、Rは2価の炭化水素基である。2価の炭化水素基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。(A)樹脂の入手や調製が容易である事から、Rとしての2価の炭化水素基の炭素原子数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~10が特に好ましく、1~6が最も好ましい。
【0031】
としての2価の炭化水素基は、脂肪族基でも、芳香族基でも、脂肪族部分と芳香族部分とを含む炭化水素基であってもよい。2価の炭化水素基が、脂肪族基である場合、当該脂肪族基は、飽和脂肪族基でも不飽和脂肪族基でもよい。また、当該脂肪族基の構造は、直鎖状でも、分岐鎖状でも、環状でも、これらの構造の組み合わせであってもよい。
【0032】
の好適な具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、n-ブタン-1,4-ジイル基、n-ペンタン-1,5-ジイル基、n-ヘキサン-1,6-ジイル基、n-ヘプタン-1,7-ジイル基、n-オクタン-1,8-ジイル基、n-ノナン-1,9-ジイル基、n-デカン-1,10-ジイル基、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、ナフタレン-2,6-ジイル基、ナフタレン-2,7-ジイル基、ナフタレン-1,4-ジイル基、ビフェニル-4,4’-ジイル基等が挙げられる。
【0033】
は、-OH、-O-R、又は-NH-Rであり、Rは、水酸基、シアノ基、及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の官能基で置換された炭化水素基である。
の基の主骨格を構成する炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族基の炭素原子数は1~20が好ましく、1~12がより好ましい。
直鎖状、又は分岐鎖状の脂肪族基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
環状の脂肪族基の好適な例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及びシクロオクチル基等のシクロアルキル基や、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、及びテトラシクロドデカン等のポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基や、これらのポリシクロアルカンのC1-C4アルキル置換体から1個の水素原子を除いた基が挙げられる。
芳香族炭化水素基の好適な例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基、及びビフェニリル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基は、メチル基、エチル基等のC1-C4アルキル基で置換されていてもよい。
【0034】
式(A2)で表される単量体に由来する単位の特に好ましい具体例としては、下記a2-1~a2-9の単位が挙げられる。下記a2-1~a2-9の単位の中では、a2-1~a2-4の単位がより好ましい。
【化6】
【0035】
(A)樹脂が、官能基IIとして疎水性基を有する場合、官能基IIは下式(A3):
CH=CR-(CO-O)-R・・・(A3)
(式(A3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、bは0又は1であり、Rは、フッ素化炭化水素基、又は下式(A4):
-SiR-(-O-SiR-)-R・・・(A4)
で表される基であり、R、R、及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1~6の炭化水素基であり、nは0以上の整数である。)
で表される単量体に由来するのが好ましい。
【0036】
式(A3)中、Rがフッ素化炭化水素基である場合、当該フッ素化炭化水素基の主骨格を構成する炭化水素基は、前述のRの基の主骨格を構成する炭化水素基と同様である。当該フッ素化炭化水素基は、炭化水素基が有する水素原子の全てがフッ素原子で置換された基でもよい。
としてのフッ素化炭化水素基の具体例としては、-CF、-CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-(CFCF、-CHCF、-CHCFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CHCHCF、-CHCHCFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、-CHCH(CFCF、及び-CH(CF等の鎖状フッ素化アルキル基;ペンタフルオロフェニル基、o-トリフルオロメチルフェニル基、m-トリフルオロメチルフェニル基、p-トリフルオロメチルフェニル基等のフッ素化芳香族炭化水素基;オクタフルオロアダマンチル基等のフッ素化脂環式基が挙げられる。
【0037】
式(A3)中、Rが式(A4)で表される基である場合、R、R、及びRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、又はフェニル基であるのが好ましく、R、R、及びRが全てメチル基であるのがより好ましい。
式(A4)中、nの上限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。nは、0以上35以下の整数であるのが好ましく、0以上10以下の整数であるのがより好ましい。
【0038】
式(A3)で表される単量体に由来する、疎水性基を有する単位の特に好ましい具体例としては、下記a3-1~a3-22の単位が挙げられる。下記の単位の中では、a3-8、a3-18、a3-19、及びa3-22の単位がより好ましい。
【化7】
【0039】
また、(A)樹脂が、官能基IIとして親水性基を有する場合、官能基IIは下式(A5):
CH=CR-CO-NH-R・・・(A5)
(式(A5)中、Rは、アミノ基、スルホン酸基、及び水酸基からなる群より選択される1以上の基で置換された炭素原子数1~4のアルキル基、又は水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基である。)
で表される単量体に由来するのが好ましい。
【0040】
式(A5)中、Rについては、前述した通りである。
【0041】
式(A5)で表される単量体に由来する、親水性基を有する単位の特に好ましい具体例としては、下記a5-1~a5-5の単位が挙げられる。下記の単位の中では、a5-1~a5-4の単位がより好ましい。
【化8】
【0042】
(A)樹脂が不飽和結合を有する単量体の重合体である場合、かかる重合体は、本発明の目的を阻害しない範囲で、前述の式(A2)で表される単量体に由来する単位、式(A3)で表される単量体に由来する単位、及び式(A5)で表される単量体に由来する単位以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。
【0043】
その他の構成単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ペンチル(メタ)アクリルアミド、N-イソペンチル(メタ)アクリルアミド、N-フェニル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ペンチル(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びクロルスチレン等の単量体に由来する構成単位が挙げられる。
【0044】
(A)樹脂が不飽和結合を有する単量体の重合体である場合、かかる重合体に含まれる全構成単位中の式(A2)で表される単量体に由来する構成単位のモル比率は、0.1~50モル%が好ましく、1~20モル%がより好ましく、1~15モル%が特に好ましい。
【0045】
(A)樹脂が不飽和結合を有する単量体の重合体である場合、かかる重合体に含まれる全構成単位中の式(A3)又は(A5)で表される単量体に由来する構成単位のモル比率は、50~99.9モル%が好ましく、60~99モル%がより好ましく、70~99モル%が特に好ましい。
ただし、式(A5)で表される単量体に由来する構成単位が水酸基、シアノ基、カルボキシル基のいずれか1つの基を含む場合、重合体に含まれる全構成単位中の式(A5)で表される単量体に由来する構成単位の比率は100%であってもよい。
【0046】
処理液に含まれる(A)樹脂の量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、処理液の塗布性等を勘案して適宜定められる。典型的には、処理液中の(A)樹脂の量は、処理液中の(A)樹脂の量と、後述する(C)溶媒の量との関係は、以下の関係である量が好ましい。
処理液中の樹脂の質量を100質量部とする場合に、後述する(C)溶媒の量が100~10000質量部であるのが好ましく、500~8000質量部であるのがより好ましく、1000~6000質量部であるのが特に好ましい。
【0047】
<(B)強酸>
処理液は、(B)強酸を含んでいてもよい。(B)強酸のpKaは1以下である。なお、pKaは水中での値である。
(B)強酸は、(A)樹脂が有する官能基Iに作用することで、(A)樹脂の被処理体の表面への付着又は結合を促進させる。
(B)強酸の種類は、pKaが1以下である限り特に限定されない。(B)強酸としては、pKaが1以下である酸を2種以上組み合わせて用いることができる。
【0048】
(B)強酸の好適な例としては、フッ素化脂肪族カルボン酸(例えばトリフルオロ酢酸等)、フルオロスルホン酸、炭素原子数1~30のアルカンスルホン酸(例えばメタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸等)、アリールスルホン酸(例えばベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、炭素原子数1~30のフルオロアルカンスルホン酸(例えばトリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸及びトリデカフルオロヘキサンスルホン酸)、ビススルホニルイミド化合物、2つのスルホニル基がフルオロアルキレン基で連結された環状スルホニルイミド化合物、及びN-アシルフルオロアルカンスルホン酸アミド等が挙げられる。
【0049】
これらの(B)強酸が、フルオロアルキル基、又はフルオロアルキレン基を含む場合、これらの基は、部分的にフッ素化されたフルオロアルキル基、又はフルオロアルキレン基であってもよく、完全にフッ素化されたパーフルオロアルキル基、又はパーフルオロアルキレン基であってもよい。
【0050】
これらの(B)強酸の中では、フルオロスルホン酸、炭素原子数1~30のアルカンスルホン酸、炭素原子数1~30のフルオロアルカンスルホン酸、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド酸、2つのスルホニル基がフルオロアルキレン基で連結された環状スルホンイミド酸、及びN-アシルフルオロアルカンスルホン酸アミドが好ましく、炭素原子数1~30のフルオロアルカンスルホン酸、ビススルホニルイミド化合物、2つのスルホニル基がフルオロアルキレン基で連結された環状スルホニルイミド化合物、及びN-アシルフルオロアルカンスルホン酸アミドが好ましい。
【0051】
炭素原子数1~30のフルオロアルカンスルホン酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、及びノナフルオロブタンスルホン酸等が好ましい。
【0052】
ビススルホニルイミド化合物としては、下式(B1)で表される化合物が好ましい。
【化9】
式(B1)中、X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの電子吸引性基で置換された炭化水素基を表す。炭化水素基は、式(B1)で表される化合物の強酸性が損なわれない範囲で、電子吸引性基以外の種々の基で置換されていてもよい。X及びXの炭素原子数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~7が特に好ましい。
電子吸引性基で置換された炭化水素基としては、フッ素化アルキル基、ニトロ基を有するアリール基が好ましい。フッ素化アルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でも、環状でもよい。フッ素化アルキル基は、完全にフッ素化されたパーフルオロアルキル基であるのが好ましい。ニトロ基を有するアリール基としては、o-ニトロフェニル基、m-ニトロフェニル基、及びp-ニトロフェニル基が好ましく、p-ニトロフェニル基がより好ましい。
【0053】
式(B1)で表される化合物の好適な具体例としては、下式の化合物が挙げられる。
【化10】
【0054】
2つのスルホニル基がフルオロアルキレン基で連結された環状スルホニルイミド化合物としては、下式(B2)で表される化合物が好ましい。
【化11】
式(B2)中、Xは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表す。Xの炭素原子数は、2~6が好ましく、3~5がより好ましく、3が特に好ましい。
【0055】
式(B2)で表される化合物の好適な具体例としては、下式の化合物が挙げられる。
【化12】
【0056】
N-アシルフルオロアルカンスルホン酸アミドとしては、下式(B3)で表される化合物が好ましい。
【化13】
式(B3)中、Xは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。Xの炭素原子数は、1~10が好ましく、1~7がより好ましく、1~3が特に好ましい。
は、炭化水素基である。炭化水素基について、前述のRの基の主骨格を構成する炭化水素基と同様である
【0057】
式(B3)で表される化合物の好適な具体例としては、下式の化合物が挙げられる。
【化14】
【0058】
処理液が(B)強酸を含む場合の処理液中の(B)強酸の含有量は、処理液による表面処理を良好に行うことが出来る限り特に限定されない。処理液中の(B)強酸の含有量は、(A)樹脂100質量に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部が特に好ましい。
【0059】
<(C)溶媒>
(C)溶媒は、(A)樹脂と、(B)強酸とが可溶である溶媒であれば特に限定されない。処理液中に、(A)樹脂と、(B)強酸とが、所定量溶解していれば、処理液は、溶解していない状態の(A)樹脂と、(B)強酸とを含んでいてもよい。(A)樹脂と、(B)強酸とは、処理液に完全に溶解しているのが好ましい。
処理液が、不溶物を含む場合、表面処理時に、被処理体の表面に不溶物が付着する場合がある。この場合、表面処理された被処理体の表面を、後述するような方法でリンスすることにより、被処理体の表面に付着する不溶物を除去することができる。
【0060】
(C)溶媒は、水であっても、有機溶媒であっても、有機溶媒の水溶液であってもよい。
【0061】
(C)溶媒として使用される有機溶媒の具体例としては、
ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;
ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;
N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド類;
N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシメチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン等のラクタム類;
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;
ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルグリコール、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のジアルキルグリコールエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;
メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン等のケトン類;
2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-i-プロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸-i-ブチル、ぎ酸-n-ペンチル、酢酸-i-ペンチル、プロピオン酸-n-ブチル、酪酸エチル、酪酸-n-プロピル、酪酸-i-プロピル、酪酸-n-ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸-n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチル等の他のエステル類;
β-プロピロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-ペンチロラクトン等のラクトン類;
n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、メチルオクタン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族炭化水素類;
ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;
p-メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナン等のテルペン類;等が挙げられる。
【0062】
(C)溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒である場合、(C)溶媒中の有機溶媒の含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0063】
<その他の成分>
処理液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記した(A)樹脂、及び(C)溶媒以外に、種々の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、前述の(B)強酸以外に、着色剤、界面活性剤、消泡剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0064】
<処理液の調製方法>
処理液を調製する方法は特に限定されない。処理液は、典型的には、それぞれ所定量の(A)樹脂と、(C)溶媒と、必要に応じてその他の成分を、均一に混合することにより調製される。
【0065】
以上説明した処理液は、例えば、細胞培養器具や、細胞等の生体試料を含む液体を流通させるマイクロ流路デバイスの等の細胞接着防止用の表面処理、種々の物品への防汚性や防曇性の付与等の目的での表面処理等に好適に使用される。
被処理体の表面を、以上説明した処理液により処理する場合、被処理体表面におけるタンパク質の吸着と、細胞の接着とを抑制することができる。
【0066】
≪表面処理方法≫
以上説明した表面処理液を用いる表面処理方法は、通常、被処理体の表面への表面処理液の塗布を含む。表面処理液の塗布方法は特に限定されない。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、浸漬法等が挙げられる。被処理体が基板である場合、表面処理液を均一に塗布することで、基板表面を均一に親水化又は疎水化できることから、塗布方法としてスピンコート法が好ましい。
【0067】
被処理体の表面処理液が塗布される面の材質は特に限定されず、有機材料であっても、無機材料であってもよい。
有機材料としては、PET樹脂やPBT樹脂等のポリエステル樹脂、各種ナイロン、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂等、種々の樹脂材料が挙げられる。
また、種々のレジスト材料に含まれる感光性の樹脂成分や、アルカリ可溶性の樹脂成分も有機材料として好ましい。
無機材料としては、ガラス、シリコンや、銅、アルミニウム、鉄、タングステン等の種々の金属が挙げられる。金属は、合金であってもよい。
【0068】
前述の表面処理液により表面処理される面の材質は特に限定されないが、表面処理液が塗布される面の材質が有機材料である場合は、官能基Iとして水酸基及び/又はカルボキシル基を有する(A)樹脂を含む表面処理液を用いるのが好ましい。
表面処理液が塗布される面の材質が無機材料である場合は、官能基Iとして水酸基及び/又はシアノ基を有する(A)樹脂を含む表面処理液を用いるのが好ましい。
【0069】
被処理体の形状は特に限定されない。被処理体は平坦な基板であってもよく、例えば、球状や、柱状等の立体形状であってもよい。また、被処理体の表面は、平滑であっても、規則的又は不規則な凹凸を有していてもよい。
【0070】
表面処理液を、被処理体の表面に塗布した後は、必要に応じて塗布膜を加熱して(C)溶媒の少なくとも一部を除去してもよい。
【0071】
被処理体上の表面処理液が塗布された箇所はリンスされるのが好ましい。前述の通り、重量平均分子量が100,000以上であり、所定の官能基を有する(A)樹脂を含む表面処理液を被処理体の表面に塗布すると、被処理体の表面に(A)樹脂が良好に付着又は結合する。しかし、被処理体の表面には、当該表面に付着又は結合していない(A)樹脂もある程度の量存在している。従って、(A)樹脂の、被処理体の表面特性に与える影響を極力低減させるために、リンスにより、被処理体の表面に付着又は結合していない(A)樹脂を洗い流すのが好ましい。
【0072】
表面処理液が(C)溶媒として水を含む場合、水によりリンスを行うのが好ましい。また、表面処理液が(C)溶媒として有機溶媒を含む場合、有機溶媒によりリンスを行うのも好ましい。有機溶媒によりリンスを行う場合、表面処理液に含まれる有機溶媒と同種の有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0073】
表面処理液の塗布後、又はリンス後に、被処理体の表面を乾燥させることにより、良好に親水化又は疎水化された物品が得られる。
また、前述の通り、被処理体の表面を、以上説明した処理液により処理する場合、被処理体表面におけるタンパク質の吸着と、細胞の接着とを抑制することができる。
このため、以上説明した表面処理方法は、被処理体の表面におけるタンパク質吸着を抑制する目的、又は非処理体の表面における細胞接着を抑制する目的で好ましく実施される。
【実施例
【0074】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1~11、及び比較例1~4〕
各実施例及び比較例において、表1に記載の比率で、以下に説明する構成単位を含有する樹脂を(A)樹脂として用いた。
単位A-1~A-5は、親水性基又は疎水性基である官能基IIを(A)樹脂に導入する構成単位である。単位A-1~A-3は親水性基を有する。単位A-4及びA-5は疎水性基を有する。
単位B-1~B-3は、(A)樹脂に官能基Iを導入する構成単位である。
【0076】
【化15】
【0077】
【化16】
【0078】
実施例及び比較例について、(C)溶媒としてS1:エタノール水溶液(濃度90質量%)、及びS2:プロピレングリコールモノメチルエーテルを用いた。
【0079】
(表面処理液の調製)
表1及び2に記載される種類及びモル比率の構成単位からなる(A)樹脂を、濃度1質量%となるように表1及び2に記載される種類の溶媒に溶解させて、各実施例及び比較例の表面処理液を得た。
各実施例及び比較例で用いた樹脂(A)の重量平均分子量を表1及び表2に記す。
【0080】
実施例4~6では、単位A-2のみからなる樹脂を用いた。単位A-2に含まれる2-ヒドロキシエチルアミノ基は、親水性基であるとともに、水酸基含有基でもある。このため、単位A-2に含まれる水酸基は、官能基Iとしての役割も果たす。
【0081】
(表面処理効果の評価)
以上の方法により得られた、実施例1~11、及び比較例1~4の表面処理液を用いて、以下の方法に従って被処理体の表面処理を行った。
実施例1~9、及び比較例1~3では、被処理体としてシクロオレフィンポリマーのフィルム(ZEONOR(登録商標)(日本ゼオン社製))を用いた。
実施例10、実施例11、及び比較例4では、被処理体としてシリコンウエハーを用いた。
被処理体の種類について、表1及び表2中に、シクロオレフィンポリマーのフィルムを「樹脂」と記載し、シリコンウエハーを「Si」と記載した。
【0082】
実施例1~9、及び比較例1~3では、以下の方法で表面処理を行った。
まず、被処理体のフィルムに、処理液を浸漬塗布した後、オーブンで5分間フィルムを乾燥させた。
乾燥後、被処理体のフィルムの表面を純水で洗浄し、次いで風乾させて、表面処理されたフィルムを得た。
【0083】
実施例10、実施例11、及び比較例4では、以下の方法で表面処理を行った。
まず、シリコンウエハー上に、表面処理液を1000rpm、60秒の条件でスピンコートし、次いで、ホットプレート上で100℃、60秒の条件で乾燥を行った。
乾燥後、シリコンウエハーの表面をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで洗浄し、次いで風乾させて、表面処理されたシリコンウエハーを得た。
水の接触角の測定は、Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い表面処理された基板の表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下10秒後における接触角として測定した。水の接触角の測定結果を表1及び2に記す。なお、表面処理前の被処理体の水の接触角も、表1及び表2に記す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
実施例1~11によれば、重量平均分子量が100,000以上であり、所定の官能基を有する(A)樹脂と、(C)溶媒とを含む表面処理液を用いることにより、シクロオレフィンポリマーやシリコン等からなる被処理体の表面が良好に親水化又は疎水化されることが分かる。
【0087】
比較例1~4によれば、重量平均分子量が100,000未満である(A)樹脂を用いる場合、樹脂が有する官能基の種類によらず、良好な表面処理効果を得にくいことが分かる。
【0088】
〔実施例12及び13〕
実施例12では、構成単位の比率が、A-1/A-3/B-3として85/10/5(モル%)であり、重量平均分子量が80万である(A)樹脂を、(C)溶媒であるエタノール水溶液(濃度90質量%)中に、濃度1.0質量%となるように溶解させて表面処理液を得た。
実施例13では、構成単位の比率が、A-3/B-1として95/5(モル%)であり重量平均分子量が100万である(A)樹脂を、(C)溶媒である水中に、濃度1.0質量%となるように溶解させて表面処理液を得た。
実施例12の表面処理液を用いて表面処理された被処理体と、未処理の被処理体とについて、以下の方法に従って、細胞接着の確認試験を行った。
また、実施例12の表面処理液を用いて表面処理された被処理体と、実施例13の表面処理液を用いて表面処理された被処理体と、未処理の被処理体とについて、以下の方法に従って、タンパク質吸着の確認試験を行った。
【0089】
(細胞接着の確認試験)
セルカルチャー24ウェルマイクロプレート(Falcon(登録商標)、353047)のウェル内に、実施例12の表面処理液を500μL添加した。次いで、アスピレーターで、ウェルの表面一面に薄く液が残る程度に表面処理液を除去した。その後、65℃のオーブンで30分間乾燥させ、PBS1mLで3回洗浄し、表面処理されたプレートを作製した。比較対象として、無処理のプレートを用意した。
10%FBS添加MEMα培地にA549ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞を1ウェルあたり300,000個となるよう調製し、表面処理プレート及び無処理のプレートに播種した。37℃5%COのインキュベーターで40時間培養した。Cellstain Hoechst 33342をウェルに添加し、5分間核を染色した。ウェルをPBS1mLで1回洗浄後、10%FBS添加MEMα培地1mLを添加し、蛍光顕微鏡(キーエンス社、BZ-9000)で細胞の蛍光を観察して、視野中の細胞数を計測した。
無処理のプレートでは、視野あたりの細胞数は2,560個であった。一方、表面処理されたプレートでは、視野あたりの細胞数は0個であり、実施例12の表面処理液を用いた処理による細胞接着抑制効果が確認された。
【0090】
(タンパク質吸着の確認試験)
96ウェルイムノプレート(Nunc(登録商標) MaxiSorp、442404)のウェル内に実施例12又は実施例13の表面処理液を200μL添加した。次いで、アスピレーターで、ウェルの表面一面に薄く液が残る程度に表面処理液を除去した。その後、65℃のオーブンで30分間乾燥させ、PBS1mLで3回洗浄し、表面処理されたプレートを作製した。比較対象として、無処理のプレートを用意した。
HRP標識Goat Anti-Mouse IgG Fc Fragment(Bethyl Laboratories Inc.、A90-131P)を0.2μg/mlとなるようPBSで希釈し、100μlをウェルに添加した。室温で1時間静置後、PBSで5回洗浄した。100μLのTMB One Component HRP Microwell Substrate(Bethyl Laboratories Inc.、E102)を添加し、呈色反応を行った。100μLのELISA Stop Solution(Bethyl Laboratories Inc.、E115)を添加し酵素反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(BioTek Instruments Inc.、Synergy 4)で吸光度(波長450nm)を測定した。
無処理のプレートでは、吸光度は1.414(3ウェル平均、標準偏差0.027)であった。一方、実施例12の処理液で表面処理されたプレートでは、吸光度は0.669(3ウェル平均、標準偏差0.049)、実施例13の処理液で表面処理されたプレートでは、吸光度は0.223(3ウェル平均、標準偏差0.118)であった。上記の試験により、実施例12又は実施例13の表面処理液を用いた表面処理によりプレート表面へのタンパク質の吸着が抑制されることが確認された。