(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】リチウム二次電池正極活物質用前駆体、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230227BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230227BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230227BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2020116515
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2021-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】花房 竜也
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】清水 稔
【審判官】齋藤 正貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/116649(WO,A1)
【文献】特開2018-6346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともNiと元素Mとを含有するリチウム二次電池正極活物質用前駆体であって、
前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素(ただし、前記元素Mは少なくともMnを含む)であり、
前記リチウム二次電池正極活物質用前駆体を、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が60%となる粒子径D
60(μm)と、10%となる粒子径D
10(μm)との比D
60/D
10の値が、2.0以下であり、
BET比表面積が30m
2/g以上であ
り、
下記式(B)を満たす、リチウム二次電池正極活物質用前駆体。
0.027≦ 6/(D
50
×S)≦ 0.035 ・・・ (B)
(D
50
は、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径(μm)である。Sは、リチウム二次電池用正極活物質前駆体のBET比表面積(m
2
/g)である。)
【請求項2】
下記組成式(A)で示される、請求項1に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
Ni
1-xM
xO
z(OH)
2-t ・・・(A)
(組成式(A)中、0<x≦0.3、0≦z≦3、-0.5≦t≦2であり、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。ただし、前記元素Mは少なくともMnを含む。)
【請求項3】
前記D
10(μm)と、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径D
50(μm)との比D
10/D
50が0.55以上である、請求項1
又は2に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
【請求項4】
BET比表面積が80m
2/g以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
【請求項5】
層状構造を有するリチウム金属複合酸化物であって、少なくともリチウムとニッケルと元素Mを含有し、
前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、
前記リチウム金属複合酸化物を、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が60%となる粒子径D
60(μm)と、10%となる粒子径D
10(μm)との比D
60/D
10の値が
2.19以上2.5以下であり、
BET比表面積が0.30m
2/g以上0.50m
2/g以下であり、
下記組成式(1)で示され、
前記D
10(μm)と、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径D
50(μm)との比D
10/D
50が0.40以上0.60未満である、リチウム金属複合酸化物。
Li[Li
m(Ni
(1-n)M
n)
1-m]O
2 ・・・(1)
(ただし、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦m≦0.2、0<n≦0.3、0<m+n<0.3を満たす。)
【請求項6】
CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークから求めた結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークから求めた結晶子サイズβとの比α/βが、1.71以上2.50以下である、請求項
5に記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項7】
請求項
5又は
6に記載のリチウム金属複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項
7に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
請求項
8に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池正極活物質用前駆体、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属複合酸化物は、リチウム二次電池用正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中型又は大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0003】
リチウム金属複合酸化物は、例えばニッケルやコバルトを含む金属複合化合物を前駆体とし、前駆体とリチウム化合物とを混合して焼成することにより製造される。前駆体の製造工程において、得られる前駆体の物性を制御することにより、所望の特性を発揮できるリチウム金属複合酸化物を製造することができる。
【0004】
例えば特許文献1には、粒度分布測定から求めた均一度(D60/D10)が特定の範囲であるコバルト酸リチウムが記載されている。特許文献1には、特定の物性を満たす粒状粒子のコバルト酸を前駆体として用いることにより、製造されるコバルト酸リチウムの物性を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウム二次電池の応用分野が進む中、例えばサイクル維持率のさらなる向上が求められる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、リチウム二次電池のサイクル維持率を従来よりも向上させることができるリチウム金属複合酸化物を製造することができるリチウム二次電池正極活物質用前駆体、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]少なくともNiと元素Mとを含有するリチウム二次電池正極活物質用前駆体であって、前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、前記リチウム二次電池正極活物質用前駆体を、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が60%となる粒子径D60(μm)と、10%となる粒子径D10(μm)との比D60/D10の値が、2.0以下であり、BET比表面積が20m2/g以上である、リチウム二次電池正極活物質用前駆体。
[2]下記組成式(A)で示される、[1]に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
Ni1-xMxOz(OH)2-t ・・・(A)
(組成式(A)中、0<x≦0.3、0≦z≦3、-0.5≦t≦2であり、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である)
[3]下記式(B)を満たす、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
6/(D50×S)≦ 0.035 ・・・ (B)
(D50は、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径(μm)である。Sは、リチウム二次電池用正極活物質前駆体のBET比表面積(m2/g)である。)
[4]前記D10(μm)と、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径D50(μm)との比D10/D50が0.55以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
[5]BET比表面積が80m2/g以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体。
[6]層状構造を有するリチウム金属複合酸化物であって、少なくともリチウムとニッケルと元素Mを含有し、前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、前記リチウム金属複合酸化物を、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が60%となる粒子径D60(μm)と、10%となる粒子径D10(μm)との比D60/D10の値が2.5以下であり、BET比表面積が0.30m2/g以上0.60m2/g以下である、リチウム金属複合酸化物。
[7]下記組成式(1)で示される、[6]に記載のリチウム金属複合酸化物。
Li[Lim(Ni(1-n)Mn)1-m]O2 ・・・(1)
(ただし、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦m≦0.2、0<n≦0.3、0<m+n<0.3を満たす。)
[8]前記D10(μm)と、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径D50(μm)との比D10/D50が0.40以上0.60未満である、[6]又は[7]に記載のリチウム金属複合酸化物。
[9]CuKα線を使用したX線回折測定において2θ=18.7±2°の範囲内のピークから求めた結晶子サイズαと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークから求めた結晶子サイズβとの比α/βが、1.71以上2.50以下である、[6]~[8]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物。
[10][6]~[9]のいずれか1つに記載のリチウム金属複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極活物質。
[11][10]に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
[12][11]に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウム二次電池のサイクル維持率が高いリチウム金属複合酸化物を製造することができるリチウム二次電池正極活物質用前駆体、リチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図1B】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本実施形態に用いる攪拌手段の一例を示す模式図である。
【
図3】テイラー渦流連続式攪拌反応装置の断面の模式図である。
【
図4】空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する結晶子の模式図である。
【
図5】
図5は、全固体リチウムイオン二次電池が備える積層体を示す模式図である。
【
図6】
図6は、全固体リチウムイオン二次電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<定義>
本明細書において、「リチウム二次電池正極活物質用前駆体」を「前駆体」と記載する場合がある。
本明細書において「サイクル維持率」とは、下記の方法により測定する。「サイクル維持率が高い」とは、サイクル維持率の値が82%を超えることを意味する。
まず、コイン型のリチウム二次電池を室温で10時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
次に、室温において4.3Vまで1mAで定電流充電してから4.3Vで定電圧充電する定電流定電圧充電を5時間行った後、2.5Vまで1mAで放電する定電流放電を行うことで初期充放電を行う。
放電容量を測定し、得られた値を「初回放電容量」(mAh/g)とする。
充電容量を測定し、得られた値を「初回充電容量」(mAh/g)とする。
初期充放電後、初期充放電の条件と同様に1mAで充電、1mAで放電を繰り返す。
その後、50サイクル目の放電容量(mAh/g)を測定する。
初回放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出する。サイクル維持率が高いほど、充電と放電を繰り返した後の電池の容量低下が抑制されるため、電池性能として望ましいことを意味する。
サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)÷初回放電容量(mAh/g) ×100
【0011】
本明細書において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物の累積体積粒度分布は、レーザー回折散乱法によって測定する。粒度分布測定装置は、例えばマルバーン社製、マスターサイザー2000が使用できる。
得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積割合が10%となる粒子径をD10(μm)、50%となる粒子径をD50(μm)、60%となる粒子径をD60(μm)とする。
【0012】
本明細書において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物のBET比表面積は、BET比表面積測定装置を用いて測定する。BET比表面積測定装置としては、例えば島津製作所社製流動式比表面積自動測定装置、フロソーブ2300IIが使用できる。
【0013】
本明細書において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物の組成は、前駆体又はリチウム金属複合酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定する。ICP発光分光分析装置としては、例えば株式会社パーキンエルマー製、Optima7300が使用できる。
【0014】
本明細書において、粉末X線回折測定はX線回折装置により測定できる。X線回折装置としては、例えば、株式会社リガク製UltimaIVgが使用できる。
具体的には、リチウム金属複合酸化物の粉末を専用の基板に充填し、Cu-Kα線源を用いて、回折角2θ=10°~90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行い、粉末X線回折スペクトルを得る。
統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、前記粉末X線回折スペクトルから2θ=18.7±2°の範囲内の回折ピークの半値幅Aと、2θ=44.6±2°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを算出する。
ピークの回折角、及び得られた半値幅を、Scherrer式(D=Kλ/Ecosθ(D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、E:ピークの半値幅))に代入し、結晶子サイズを算出する。
【0015】
<リチウム二次電池正極活物質前駆体>
本実施形態は、少なくともNiと元素Mとを含有するリチウム二次電池正極活物質用前駆体である。
元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。
本実施形態の前駆体とリチウム化合物とを混合して焼成することにより、リチウム金属複合酸化物を製造することができる。
【0016】
[D60/D10]
本実施形態の前駆体は、D60とD10との比D60/D10の値が、2.0以下であり、1.99以下が好ましく、1.98以下がより好ましく、1.97以下がさらに好ましい。
D60/D10は、1に近いほど、ピーク幅が狭い粒度分布であることを意味する。本明細書において、「ピーク幅が狭い粒度分布」を「シャープな粒度分布」と記載する場合がある。
D60/D10の下限値は1に近いほど好ましい。下限値の例としては、1.00以上、1.10以上、1.20以上、1.30以上が挙げられる。
D60/D10の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、D60/D10は、1.00以上2.00以下、1.10以上1.99以下、1.20以上1.98以下、1.30以上1.97以下が挙げられる。
【0017】
D60/D10が上記特定の範囲を満たす前駆体は、粒度分布の形態に依らず、シャープな粒度分布を持つことを意味する。D60/D10は、粉体流動特性の評価指標の1つとしても用いられている物性である。
【0018】
[BET比表面積]
本実施形態の前駆体は、BET比表面積が20m2/g以上であり、26m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましい。
本実施形態の前駆体は、BET比表面積が80m2/g以下であることが好ましく、76m2/g以下がより好ましく、72m2/g以下がさらに好ましい。
BET比表面積の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、BET比表面積は、20m2/g以上80m2/g以下、26m2/g以上76m2/g以下、30m2/g以上72m2/g以下が挙げられる。
【0019】
D60/D10が2.0以下であり、BET比表面積が20m2/g以上である前駆体を用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。その理由は以下のように考えられる。
【0020】
本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、D60/D10の値が1に近いシャープな粒度分布を示すと考えられる。シャープな粒度分布を示す粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子の存在割合が小さい。このようなリチウム金属複合酸化物を含む正極活物質は、一次粒子同士の界面が少なく、充電及び放電時にリチウム金属複合酸化物の粒子が割れることを抑制できる。
粒子が割れて発生する新生面は、電解液を分解してガス発生の原因となる。また、新生面同士の微細な隙間はリチウムイオンが移動する際の抵抗となりうる。
本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、リチウムイオンの移動抵抗となりうるリチウム金属複合酸化物の粒子の割れが低減されやすい。このため、正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0021】
BET比表面積が20m2/g以上である前駆体を用いると、前駆体とリチウム化合物の混合物を焼成する工程においてリチウムとの反応性を高めることができる。このような前駆体を原料に用いると、BET比表面積が0.3m2/g以上、かつリチウム金属複合酸化物の粒子の中にリチウムイオンが均一に分布したリチウム金属複合酸化物が得られやすい。
【0022】
BET比表面積が0.3m2/g未満であるリチウム金属複合酸化物は、過度に結晶が成長し、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面におけるリチウムイオンの移動抵抗が増大しうる。
本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、過度な結晶成長が抑制されているため、リチウムイオンの移動抵抗が抑制されやすい。
さらに本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、リチウム金属複合酸化物の粒子の中にリチウムイオンが均一に分布した状態となりやすいためリチウムイオン伝導性が向上しやすい。このようなリチウム金属複合酸化物を正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0023】
BET比表面積が80m2/g以下である前駆体を原料に用いると、BET比表面積が0.6m2/g以下のリチウム金属複合酸化物が得られやすい。
BET比表面積が上記上限値以下であるリチウム金属複合酸化物を使用したリチウム二次電池用正極活物質は、電解液との接触面積の過度な増大を抑制でき、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応が抑制されやすい。
【0024】
本実施形態の前駆体を原料として用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として使用した際に電解液との接触面積の過度な増大を抑制しやすい。このため、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応が抑制されやすく、リチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0025】
[組成]
本実施形態の前駆体は、下記組成式(A)で表されることが好ましい。
Ni1-xMxOz(OH)2-t ・・・(A)
(組成式(A)中、0<x≦0.3、0≦z≦3、-0.5≦t≦2であり、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である)
【0026】
xの下限値としては、0.01が好ましく、0.02がより好ましく、0.03が特に好ましい。xの上限値としては、0.44が好ましく、0.42がより好ましく、0.40が特に好ましい。
xの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.01≦x≦0.44が好ましく、0.02≦x≦0.42がより好ましく、0.03≦x≦0.40が特に好ましい。
【0027】
zの下限値としては、0.02が好ましく、0.03がより好ましく、0.05が特に好ましい。zの上限値としては、0.50が好ましく、0.40がより好ましく、0.30が特に好ましい。上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.02≦z≦0.50が好ましく、0.03≦z≦0.40がより好ましく、0.05≦z≦0.30が特に好ましい。
【0028】
tの下限値としては、-0.45が好ましく、-0.40がより好ましく、-0.35が特に好ましい。tの上限値としては、1.8が好ましく、1.6がより好ましく、1.4が特に好ましい。上記上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、-0.45≦t≦1.8が好ましく、-0.40≦t≦1.6がより好ましく、-0.35≦t≦1.4が特に好ましい。
【0029】
[式(B)]
本実施形態の前駆体は、下記式(B)を満たすことが好ましい。
6/(D50×S)≦ 0.035g/cm3 ・・・ (B)
(D50(μm)は、前記累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が50%となる粒子径である。Sは、リチウム二次電池用正極活物質前駆体のBET比表面積(m2/g)である。)
6/(D50×S)の値は0.034g/cm3以下がより好ましく、0.033g/cm3以下がさらに好ましい。6/(D50×S)の下限値は例えば、0.001g/cm3以上、0.002g/cm3以上、0.003g/cm3以上が挙げられる。
6/(D50×S)の値の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.001g/cm3≦6/(D50×S)≦ 0.035g/cm3、0.002g/cm3≦6/(D50×S)≦ 0.034g/cm3、0.003g/cm3≦6/(D50×S)≦ 0.033g/cm3が挙げられる。
【0030】
式(B)を満たす前駆体は、粒子径が同程度のものよりBET比表面積が大きく、焼成工程におけるリチウムとの反応性を高めやすい。このような前駆体を原料に用いると、リチウム金属複合酸化物の粒子の中にリチウムイオンが均一に分布したリチウム金属複合酸化物が得られやすい。
本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、リチウム金属複合酸化物の粒子の中にリチウムイオンが均一に分布した状態となりやすい。このため、正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0031】
[D10/D50]
本実施形態の前駆体は、D10とD50との比D10/D50の値が0.55以上であることが好ましく、0.56以上がより好ましく、0.57以上がさらに好ましい。D10/D50の上限値は、例えば1.0以下、0.90以下、0.80以下が挙げられる。D10/D50の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.55以上1.0以下、0.56以上0.90以下、0.57以上0.80以下が挙げられる。
【0032】
D10/D50の値が0.55以上の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、粒子径が小さい粒子、すなわち比表面積が大きい粒子の割合が小さい。比表面積が大きい粒子の割合が小さいリチウム金属複合酸化物を使用したリチウム二次電池用正極活物質は、電解液との接触面積の過度な増大を抑制でき、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応が抑制されやすい。
【0033】
本実施形態の前駆体を原料に用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として使用した際に電解液との接触面積の過度に増大しにくい。このため、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応が抑制されやすく、リチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0034】
<リチウム金属複合酸化物>
本実施形態は、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物である。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、少なくともリチウムとニッケルと元素Mを含有する。
元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。
【0035】
[D60/D10]
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、D60とD10との比D60/D10の値が、2.50以下であり、2.45以下が好ましく、2.42以下がより好ましく、2.40以下がさらに好ましい。
D60/D10は、1に近いほど、シャープな粒度分布であることを意味する。
D60/D10の下限値は1に近いほど好ましいが、下限値の例を挙げると、1.00以上、1.10以上、1.20以上、1.30以上が挙げられる。
D60/D10の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、比D60/D10は、1.00以上2.50以下、1.10以上2.45以下、1.20以上2.42以下、1.30以上2.40以下が挙げられる。
【0036】
[BET比表面積]
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、BET比表面積が0.30m2/g以上であり、0.31m2/g以上が好ましく、0.32m2/g以上がより好ましい。
本実施形態の前駆体は、BET比表面積が0.60m2/g以下であり、0.59m2/g以下が好ましく、0.55m2/g以下がより好ましい。
BET比表面積の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、BET比表面積は、0.30m2/g以上0.60m2/g以下、0.31m2/g以上0.59m2/g以下、0.32m2/g以上0.55m2/g以下が挙げられる。
【0037】
D60/D10が2.5以下であり、BET比表面積が0.30m2/g以上0.60m2/g以下であるリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。その理由は以下のように考えられる。
【0038】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、D60/D10の値が1に近いシャープな粒度分布を有する。シャープな粒度分布を示す粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子の存在割合が小さい。このようなリチウム金属複合酸化物を使用した正極活物質は、一次粒子同士の界面が少なく、充電及び放電時にリチウム金属複合酸化物の粒子が割れにくくなる。
【0039】
リチウム金属複合酸化物の粒子が割れて発生する新生面に電解液が接すると、電解液が分解されてガス発生の原因となる。また新生面同士の微細な隙間はリチウムイオンが移動する際の抵抗となりうる。
D60/D10が上記特定の範囲であるリチウム金属複合酸化物は、リチウム金属複合酸化物の粒子が割れにくく、リチウムイオンの移動抵抗が抑制されやすい。このため、正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0040】
BET比表面積が上記特定の範囲であるリチウム金属複合酸化物は、適度に結晶成長した粒子であり、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面におけるリチウムイオンの移動抵抗を低減しやすい。
【0041】
さらに、上記リチウム金属複合酸化物をリチウム二次電池用正極活物質として用いた場合には、電解液との接触面積が過度に増大しにくく、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応を抑制しやすい。
【0042】
BET比表面積が上記特定の範囲であるリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として使用した際に電解液との接触面積が過度に増大しにくく、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応を抑制しやすい。このため、リチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0043】
[組成]
リチウム金属複合酸化物は、下記組成式(1)で表されるものが好ましい。
Li[Lim(Ni(1-n)Mn)1-m]O2 ・・・(1)
(ただし、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦m≦0.2、0<n≦0.3、0<m+n<0.3を満たす。)
【0044】
組成式(1)において、mは-0.05以上であることが好ましく、 -0.02以上であることがより好ましく、0以上が特に好ましい。また、mは0.10以下が好ましく、0.08以下がより好ましく、0.06以下が特に好ましい。
mの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
本実施形態において、mは-0.05以上0.20以下であることが好ましく、-0.02以上0.10以下であることがより好ましく、0以上0.06以下であることが特に好ましい。
【0045】
組成式(1)において、放電レート特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、0<m+n≦0.25であることが好ましく、0.05≦m+n≦0.20であることがより好ましく、0.07≦m+n≦0.12であることが特に好ましい。
【0046】
組成式(1)において、nは0.05以上が好ましく、0.09以上がより好ましい。また、nは、0.20以下が好ましく、0.15以下がより好ましい。
nの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、nは、0.05以上0.20以下、0.09以上0.15以下が挙げられる。
【0047】
mとnの組み合わせとしては、-0.02≦m≦0.10かつ0.09≦n≦0.15であることが好ましい。
【0048】
[D10/D50]
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、D10とD50との比D10/D50の値が0.40以上0.60未満であることが好ましい。D10/D50は、0.55以下がより好ましく、0.54以下がさらに好ましい。D10/D50は、0.43以上がより好ましく、0.44以上がさらに好ましい。D10/D50の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、0.43以上0.55以下、0.44以上0.54以下が挙げられる。
【0049】
D10/D50の値が上記特定の範囲であるリチウム金属複合酸化物は、粒子径が小さい粒子、すなわち比表面積が大きい粒子の割合が小さい。比表面積が大きい粒子の割合が小さいリチウム金属複合酸化物を使用したリチウム二次電池用正極活物質は、電解液との接触面積が過度に増大しにくい。このため、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応が抑制されやすい。
【0050】
D10/D50の値が上記特定の範囲であるリチウム金属複合酸化物は、正極活物質として使用した際に電解液との接触面積が過度に増大しにくい。このため、充電と放電とを繰り返した場合のリチウムイオンの移動以外の不可逆反応が抑制されやすく、リチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0051】
(層状構造)
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0052】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0053】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0054】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0055】
[α/β]
上述の要件3について、「結晶子サイズα」「結晶子サイズβ」は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定によって測定して解析した値を用いて算出することができる。
【0056】
まず、X線回折装置を用いて粉末X線回折測定を行う。
リチウム複合金属化合物粉末を専用の基板に充填し、Cu-Kα線源を用いて、回折角2θ=10°~90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行うことで、X線回折スペクトルを得る。得られたX線回折スペクトルから、2θ=18.7±2°の範囲内のピークと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークとを決定する。
次いで統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、前記粉末X線回折スペクトルから2θ=18.7±2°の範囲内の回折ピークの半値幅Aと、2θ=44.6±2°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを算出する。
【0057】
さらに、ピークの回折角、及び得られた半値幅を、Scherrer式(D=Kλ/Ecosθ(D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、E:ピークの半値幅))に代入し、結晶子サイズを算出する。
【0058】
なお、Scherrer式を用いて、回折ピークの半値幅から結晶子サイズを算出することは、従来から使用されている手法である(例えば「X線構造解析-原子の配列を決める-」2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著、参照)。
【0059】
以下に、本実施形態のリチウム金属複合酸化物が、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造である場合を例に、図面を用いてより具体的に説明する。
【0060】
図4は、空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する結晶子の模式図である。
図4に示す結晶子において、003面の垂線方向の結晶子サイズは、上述の結晶子サイズαに相当する。また、
図4に示す結晶子において、104面の垂線方向の結晶子サイズは、結晶子サイズβに相当する。
【0061】
結晶子サイズ比α/βの値が1よりも大きいほど、
図4中のz軸に対して平行に結晶子が異方成長したものであることを示し、α/βの値が1に近づくほど、結晶子が等方成長したものであることを示す。
【0062】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、結晶子サイズ比α/βが1.0以上である。すなわち、本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、結晶子が、
図4中のx軸またはy軸に対して、z軸方向に異方成長したものである。
【0063】
本実施形態の正極活物質においては、リチウム金属複合酸化物が異方成長した結晶子を有することにより、放電容量等の電池性能を向上させることができる。
【0064】
例えば、結晶子サイズ比α/βが1.0以上であるリチウム金属複合酸化物の結晶子をケース1とし、
図4のxy平面と平行な方向に結晶子が異方成長した扁平な結晶子をケース2としたとき、同じ体積のケース1の結晶子とケース2の結晶子とを比較する。この場合、ケース1の結晶子は、ケース2の結晶子よりも結晶子の中心までの距離が短い。そのため、ケース1の結晶子では、充放電に伴うLiの移動が容易となる。
【0065】
本実施形態においては、α/βは1.71以上2.50以下であることが好ましい。
α/βは、1.72以上がより好ましく、1.73以上がさらに好ましい。α/βは、2.40以下がより好ましく、2.30以下がさらに好ましい。
α/βの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、α/βは、1.72以上2.40以下、1.73以上2.30以下が挙げられる。
【0066】
α/βが上記特定の範囲であるリチウム金属複合酸化物は、充放電に伴うLiの移動抵抗が小さいため、正極活物質として使用した際にリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0067】
本実施形態の一つの態様において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物は一次粒子のみからなる。
本実施形態の一つの態様において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物は一次粒子の凝集体である二次粒子と、前記二次粒子とは独立して存在する一次粒子とから構成される。
本実施形態の一つの態様において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物は一次粒子の凝集体である二次粒子のみからなる。
本実施形態の一つの態様において、前駆体及びリチウム金属複合酸化物は粉末である。
【0068】
<リチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質前駆体を製造する方法について説明する。
前駆体は、少なくともニッケルと元素Mを含む。前駆体としては、例えば金属複合水酸化物としてのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物や、金属複合酸化物としてのニッケルコバルトマンガン複合酸化物が挙げられる。
以下、前駆体の製造方法の一例として、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造する実施形態について説明する。
【0069】
前駆体を製造する工程は、ニッケルとコバルトとマンガンを含む金属含有水溶液と、pH調整溶液と、錯化剤溶液とを、攪拌手段と反応流路を備える反応装置に連続的に供給して反応させる。これにより、NiaCobMnc(OH)2(式中、a+b+c=1)で表される金属複合水酸化物が得られる。
【0070】
[各原料]
前駆体の製造に用いる原料液である、金属含有水溶液、pH調整溶液及び錯化剤溶液について説明する。
【0071】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0072】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0073】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0074】
以上の金属塩は、上記NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応する割合で用いる。すなわち、各金属塩は、ニッケル塩溶液の溶質におけるニッケル、コバルト塩溶液の溶質におけるコバルト、マンガン塩溶液の溶質におけるアルミニウムのモル比が、NiaCobMnc(OH)2の組成比に対応してa:b:cとなる量を用いる。
【0075】
また、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水である。
【0076】
pH調整溶液として、アルカリ性水溶液を用いる。アルカリ性水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が使用できる。
なお、本明細書におけるpHの値は、反応物の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応装置からサンプリングした反応物の温度が、40℃になったときに測定する。
サンプリングした反応物の温度が40℃よりも低い場合には、反応物を加熱して40℃になったときにpHを測定する。
サンプリングした反応物の温度が40℃よりも高い場合には、反応物を冷却して40℃になったときにpHを測定する。
【0077】
錯化剤溶液は、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン、及びマンガンイオンと錯体を形成可能な化合物である。錯化剤としては、例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
アンモニウムイオン供給体としては、例えば水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が使用できる。
【0078】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
【0079】
[反応手段]
攪拌手段と反応流路を備える反応装置としては、例えばテイラー式反応装置を備える反応装置やマイクロリアクター、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプの反応槽といった反応装置を用いることができる。粒子径を制御する観点から、攪拌手段の剪断力が高い装置を用いることが好ましい。このような装置としては、例えばテイラー式反応装置やマイクロリアクターが挙げられる。
【0080】
バッチ式共沈殿法で用いる反応装置としては、オーバーフローパイプを備えない反応槽を用いることができる。あるいは、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽を備え、オーバーフローした反応沈殿物を濃縮層で濃縮し、再び反応槽へ循環させる機構を有するタイプの装置を用いることもできる。
【0081】
本実施形態においては、テイラー式反応装置を備える反応手段を使用することが好ましい。テイラー式反応装置としては、テイラー渦流連続式攪拌反応装置が好適に使用できる。
【0082】
図2に、テイラー式反応装置を備える反応手段の一例を模式図にて示す。
図2に示す反応手段60は、原料液貯槽T1、原料液貯槽T2、原料液貯槽T3、輸送ポンプP1、輸送ポンプP2、輸送ポンプP3、熱交換器H1、熱交換器H2、熱交換器H3、テイラー渦流連続式攪拌反応装置40及び反応物貯蔵槽50を備える。テイラー渦流連続式攪拌反応装置40は、以降「反応装置40」と記載する場合がある。
【0083】
原料液貯槽T1には例えばニッケルとコバルトとマンガンを含む金属含有水溶液が貯蔵されている。ニッケルとコバルトとマンガンを含む金属含有水溶液は、輸送ポンプP1により原料液貯槽T1から反応装置40に送液される。ニッケルとコバルトとマンガンを含む金属含有水溶液の温度を調整する必要がある場合には、熱交換器H1により調整する。
【0084】
原料液貯槽T2には例えばpH調整溶液が貯蔵されている。pH調整溶液は、輸送ポンプP2により原料液貯槽T2から反応装置40に送液される。pH調整溶液の温度を調整する必要がある場合には、熱交換器H2により調整する。
【0085】
原料液貯槽T3には例えば錯化剤溶液が貯蔵されている。錯化剤溶液は、輸送ポンプP3により原料液貯槽T3から反応装置40に送液される。錯化剤溶液の温度を調整する必要がある場合には、熱交換器H3により調整する。
【0086】
なお、本実施形態は
図2に特に限定されず、例えば1つ以上の貯槽及び1つ以上の熱交換器を用いることができる。
【0087】
ニッケルとコバルトとマンガンを含む金属含有水溶液と、pH調整溶液と、錯化剤溶液とが、反応装置40の中で反応した反応物は、反応装置40から反応物貯槽50に送られる。
【0088】
図3に、反応装置40の断面の模式図を示す。反応装置40は、シリンダ41と、攪拌手段42とを備える。シリンダ41は中空の円筒形状の反応容器である。攪拌手段42は円筒形状である。
攪拌手段42は、シリンダ41に接触しない態様でシリンダ41の内部に配置されている。シリンダ41と攪拌手段42とは、共軸二重円筒構造を形成している。攪拌手段42が回転軸の周方向に回転することで、反応流路Sに存在する流体を攪拌する。
【0089】
シリンダ41には、原料液を導入する1つ以上の導入口が設けられている。
シリンダ41は一方の端部に3つの導入口43a、43b及び43cを備える。さらにシリンダ41は、他方の端部に反応物を排出する排出口44を備える。
【0090】
例えば導入口43aは原料貯槽T1と、導入口43bは原料貯槽T2と、導入口43cは原料貯槽T3と、それぞれ輸送ポンプ及び熱交換器を介して接続している。
【0091】
反応装置40に、導入口43a、43b及び43cから原料液が導入されると、導入口近傍の反応流路Sにおいて各原料液が混合されて反応し、得られた反応物が排出口44から排出される。
【0092】
本実施形態において、導入口から導入された各原料液は、反応流路Sにおいて混合されて反応し、反応物となる。
シリンダ41と攪拌手段42との隙間である反応流路Sにおいて、反応が進行する。シリンダ41を固定し、攪拌手段42のみを不図示の駆動部により回転させると、反応流路Sにおいて、流体は遠心力とコリオリの力によって、らせんを描きながら攪拌手段42の回転方向に沿って回転する流れが発生する。ここでいう「流体」は、各原料液が混合された混合液及び各原料液が混合されて反応した反応物を意味する。
【0093】
これにより、流体は攪拌手段42に沿って規則的かつ互いに反対方向に回転する第1の環状渦流U1と第2の環状渦流U2が対になった環状渦流Uが複数形成される。環状渦流Uをテイラー渦流という。環状渦流Uは、攪拌手段42の軸流方向に分散することなく平行移動する。
テイラー渦流のらせん状の流れによって、反応流路Sにおいて、流体は効率的に混合され、かつ効率的に熱が伝えられる。
【0094】
本実施形態においては、導入口43a、43b及び43c近傍で中和反応が起こり、金属複合水酸化物が生成される。金属複合水酸化物生成後から流体が排出口44から排出される間に、反応流路Sにおいて金属複合水酸化物の結晶が成長していく。
【0095】
本実施形態においては、各原料液の導入口近傍の温度を制御することが好ましい。具体的には、例えば、
図3の符号Ma、Mb及びMcに示す温度測定位置で各原料液の温度を測定する。
温度測定位置における最高温度と最低温度との差が1.5℃以下となる条件に、各原料液の温度を調整する。
【0096】
最高温度と最低温度は、温度測定位置における各原料液の最高温度と最低温度である。最高温度と最低温度との差を1.5℃以下に調整することにより、各原料液が導入口から反応流路Sに導入された直後の反応を安定させることができるため、前駆体のD60/D10の値とBET比表面積を本実施形態の範囲内に制御できる。
【0097】
各原料液の温度の調整は、例えば
図2に示す熱交換器H1、H2及びH3により行う。温度を調整する原料液は特に限定されず、ニッケルコバルトマンガン金属含有水溶液、pH調整溶液、錯化剤溶液のいずれであってもよい。本実施形態においては、pH調整溶液を添加することで反応が開始するため、pH調整溶液の温度を優先的に調整することが好ましい。
【0098】
本実施形態においては、テイラー数が60以上20000以下となる条件で、攪拌手段42を回転させることが好ましい。テイラー数であるTaは下記の式により算出される。
【0099】
【数1】
(R
iは攪拌手段42の外径(mm)、ωは攪拌手段42の回転速度(rad/s)、dはシリンダ41の内壁面と攪拌手段42との距離(mm)、μは流体の粘度(Pa・s)、ρは流体の密度(kg/m
3))
【0100】
反応装置40は、シリンダ41の内壁面と攪拌手段42との隙間であるギャップ幅d1を調整することにより、前駆体の比D60/D10の値とBET比表面積を制御できる。前駆体の比D60/D10の値とBET比表面積を本実施形態の範囲内に制御するため、ギャップ幅d1を2mm以上、20mm以下の範囲で調整することが好ましい。
【0101】
攪拌手段42の回転速度は、10rad/s以上が好ましく、25rad/s以上がより好ましい。
【0102】
本実施形態において、テイラー渦流連続式攪拌反応装置としては、例えば、株式会社チップトン社製、TVF-1型が使用できる。
【0103】
以上の反応後、得られた反応物を水で洗浄した後、乾燥することで、金属複合化合物が得られる。本実施形態では、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が得られる。なお、反応物を水で洗浄した際に反応物に由来する夾雑物が残存する場合には、反応物を、弱酸性の水溶液や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ性水溶液で洗浄してもよい。
【0104】
上記の洗浄工程や乾燥工程で金属複合化合物の粒子の割れや欠けが多く発生する場合には、分級してもよい。分級方法としては、例えば、風力分級や篩によるスクリーン式の選別が使用できる。
【0105】
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0106】
例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を酸素含有雰囲気で焼成することによりニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製することができる。最高保持温度は、例えば350℃以上800℃以下の範囲が挙げられる。焼成時間のうち、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間は、例えば1時間以上30時間以下の範囲が挙げられる。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、例えば100℃/時間以上の範囲が挙げられる。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0107】
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
【0108】
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差と、から算出される。
【0109】
<リチウム金属複合酸化物の製造方法>
本実施形態は、前記前駆体の製造方法によって得られた前駆体と、リチウム化合物とを混合する混合工程と、得られた混合物を焼成する焼成工程を有する、リチウム複合金属化合物の製造方法である。
【0110】
[混合工程]
本工程は、前駆体と、リチウム化合物とを混合し、混合物を得る工程である。
【0111】
<リチウム化合物>
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
【0112】
本実施形態の前駆体と、リチウム化合物との混合方法について説明する。
前駆体と、リチウム化合物とを、最終目的物の組成比を勘案して混合する。例えば、ニッケルコバルトマンガン金属複合化合物を用いる場合、ニッケルコバルトマンガン複合化合物とリチウム化合物は、LiNiaCobMncO2(式中、a+b+c=1)の組成比に対応する割合で用いられる。また、最終目的物であるリチウム金属複合酸化物において、リチウムが過剰(含有モル比が1超)である場合には、リチウム化合物に含まれるリチウムと、金属複合化合物に含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率となる割合で混合する。
【0113】
ニッケルコバルトマンガン複合化合物及びリチウム化合物の混合物を焼成することによって、リチウム-ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素含有雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0114】
本実施形態においては、不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行ってもよい。不活性溶融剤の存在下で焼成を行うことにより、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後のリチウム金属複合酸化物に残留していてもよいし、焼成後に水やアルコールで洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、焼成後のリチウム金属複合酸化物は水やアルコールを用いて洗浄することが好ましい。
【0115】
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物の粒子径を制御できる。
【0116】
焼成工程は、1回のみの焼成であってもよく、複数回の焼成段階を有していてもよい。
複数回の焼成段階を有する場合、最も高い温度で焼成する工程を本焼成と記載する。本焼成の前には、本焼成よりも低い温度で焼成する仮焼成を行ってもよい。また、本焼成の後には本焼成よりも低い温度で焼成する後焼成を行ってもよい。
【0117】
本焼成の焼成温度(最高保持温度)は、リチウム金属複合酸化物の粒子の成長を促進させる観点から、600℃以上が好ましく、650℃以上がより好ましく、700℃以上が特に好ましい。また、リチウム金属複合酸化物の粒子にクラックが形成されることを防止し、リチウム金属複合酸化物の粒子の強度を維持する観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
【0118】
本焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、650℃以上1100℃以下、700℃以上1000℃以下が挙げられる。
【0119】
仮焼成又は後焼成の焼成温度は、本焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上700℃以下の範囲が挙げられる。
【0120】
通常、保持温度が高くなればなるほど、リチウム金属複合酸化物の粒子の粒子径は大きくなり、BET比表面積は小さくなる傾向にある。焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0121】
本実施形態においては、保持温度の設定は、後述する不活性溶融剤の融点を考慮すればよく、不活性溶融剤の融点マイナス200℃以上不活性溶融剤の融点プラス200℃以下の範囲で行うことが好ましい。
【0122】
また、前記保持温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0123】
焼成によって得たリチウム金属複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
【0124】
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩及びAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0125】
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF2(融点:1402℃)、MgF2(融点:1263℃)、SrF2(融点:1473℃)及びBaF2(融点:1355℃)を挙げることができる。
【0126】
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl2(融点:782℃)、MgCl2(融点:714℃)、SrCl2(融点:857℃)及びBaCl2(融点:963℃)を挙げることができる。
【0127】
Aの炭酸塩としては、Na2CO3(融点:854℃)、K2CO3(融点:899℃)、Rb2CO3(融点:837℃)、Cs2CO3(融点:793℃)、CaCO3(融点:825℃)、MgCO3(融点:990℃)、SrCO3(融点:1497℃)及びBaCO3(融点:1380℃)を挙げることができる。
【0128】
Aの硫酸塩としては、Na2SO4(融点:884℃)、K2SO4(融点:1069℃)、Rb2SO4(融点:1066℃)、Cs2SO4(融点:1005℃)、CaSO4(融点:1460℃)、MgSO4(融点:1137℃)、SrSO4(融点:1605℃)及びBaSO4(融点:1580℃)を挙げることができる。
【0129】
Aの硝酸塩としては、NaNO3(融点:310℃)、KNO3(融点:337℃)、RbNO3(融点:316℃)、CsNO3(融点:417℃)、Ca(NO3)2(融点:561℃)、Mg(NO3)2、Sr(NO3)2(融点:645℃)及びBa(NO3)2(融点:596℃)を挙げることができる。
【0130】
Aのリン酸塩としては、Na3PO4、K3PO4(融点:1340℃)、Rb3PO4、Cs3PO4、Ca3(PO4)2、Mg3(PO4)2(融点:1184℃)、Sr3(PO4)2(融点:1727℃)及びBa3(PO4)2(融点:1767℃)を挙げることができる。
【0131】
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)2(融点:408℃)、Mg(OH)2(融点:350℃)、Sr(OH)2(融点:375℃)及びBa(OH)2(融点:853℃)を挙げることができる。
【0132】
Aのモリブデン酸塩としては、Na2MoO4(融点:698℃)、K2MoO4(融点:919℃)、Rb2MoO4(融点:958℃)、Cs2MoO4(融点:956℃)、CaMoO4(融点:1520℃)、MgMoO4(融点:1060℃)、SrMoO4(融点:1040℃)及びBaMoO4(融点:1460℃)を挙げることができる。
【0133】
Aのタングステン酸塩としては、Na2WO4(融点:687℃)、K2WO4、Rb2WO4、Cs2WO4、CaWO4、MgWO4、SrWO4及びBaWO4を挙げることができる。
【0134】
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、不活性溶融剤全体の融点が下がることもある。
【0135】
また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム金属複合酸化物を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩及びAの塩化物からなる群から選ばれる1種以上の塩が好ましい。
【0136】
また、Aは、ナトリウム(Na)及びカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。
【0137】
すなわち、上記の不活性溶融剤の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaCl、KCl、Na2CO3,K2CO3、Na2SO4、及びK2SO4からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、K2SO4及びNa2SO4のいずれか一方又は両方を用いることがより好ましい。
【0138】
本実施形態において、焼成時の不活性溶融剤の存在量は適宜選択すればよい。一例を挙げると、焼成時の不活性溶融剤の存在量はリチウム化合物100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、粒子の成長を促進させる必要がある場合、上記に挙げた不活性溶融剤以外の不活性溶融剤を併せて用いてもよい。この場合に用いる不活性溶融剤としては、NH4Cl、NH4Fなどのアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0139】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、前記本実施形態のリチウム金属複合酸化物を含有する。本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、本実施形態のリチウム金属複合酸化物以外のリチウム金属複合酸化物を含んでいてもよい。
【0140】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本実施形態によって製造されるリチウム金属複合酸化物を用いたリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、及びこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0141】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、前記本実施形態のリチウム金属複合酸化物からなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有していてもよい。
【0142】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0143】
図1A、
図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0144】
まず、
図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することで、電極群4とする。
【0145】
次いで、
図1Bに示すように、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0146】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0147】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0148】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0149】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0150】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することで、正極内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができるが、多く添加しすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、及び正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0151】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0152】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0153】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力及び正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0154】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0155】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0156】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0157】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0158】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0159】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0160】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0161】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOv(ここで、vは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOv(ここで、vは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOv(ここで、vは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOv(ここで、vは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOv(ここで、vは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOv(ここで、vは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0162】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSv(ここで、vは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSv(ここで、vは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSv(ここで、vは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSv(ここで、vは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSv(ここで、vは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSv(ここで、vは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSv(ここで、vは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0163】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-wAwN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方又は両方であり、0<w<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0164】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0165】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
【0166】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0167】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0168】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0169】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0170】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0171】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0172】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0173】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0174】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0175】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0176】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C4F9SO3)、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2及びLiC(SO2CF3)3からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0177】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0178】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0179】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0180】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態によって製造されるリチウム金属複合酸化物を用いているため、正極活物質を用いたリチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0181】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池のサイクル維持率を向上させることができる。
【0182】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、サイクル維持率の高い二次電池となる。
【0183】
<全固体リチウムイオン二次電池>
次いで、全固体リチウムイオン二次電池の構成を説明しながら、本実施形態によって製造されるリチウム二次電池用正極活物質を、全固体リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウムイオン二次電池について説明する。
【0184】
図5、6は、全固体リチウムイオン二次電池の一例を示す模式図である。
図5は、全固体リチウムイオン二次電池が備える積層体を示す模式図である。
図6は、全固体リチウムイオン二次電池の全体構成を示す模式図である。
【0185】
全固体リチウムイオン二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。
各部材を構成する材料については、後述する。
【0186】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。
【0187】
積層体100において、正極110と負極120とは、互いに短絡しないように固体電解質層130を挟持している。その他、全固体リチウムイオン二次電池1000は、正極110と負極120との間に、従来の液系リチウムイオン二次電池で用いられるようなセパレータを有し、正極110と負極120との短絡を防止していてもよい。
【0188】
全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーターや、外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0189】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0190】
全固体リチウムイオン二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(又はシート型)、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0191】
全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100を1つ有することとして図示しているが、これに限らない。全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0192】
以下、各構成について順に説明する。
【0193】
(正極)
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0194】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるリチウム二次電池用正極活物質を含む。また、正極活物質層111は、固体電解質(第2の固体電解質)、導電材、バインダーを含むこととしてもよい。
【0195】
正極活物質層111に含まれる正極活物質は、正極活物質層111に含まれる第2の固体電解質と接触している。詳しくは、正極活物質層111は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子(正極活物質)と、複数の粒子(正極活物質)の間に充填され粒子(正極活物質)と接触する固体電解質とを含む。
【0196】
(固体電解質)
正極活物質層111が有してもよい固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質、有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。
【0197】
本実施形態においては、酸化物系固体電解質、又は硫化物系固体電解質を用いることが好ましく、酸化物系固体電解質を用いることがより好ましい。
【0198】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物などが挙げられる。
【0199】
ペロブスカイト型酸化物としては、LidLa1-dTiO3(0<d<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LieLa1-eTaO3(0<e<1)などのLi-La-Ta系酸化物、LifLa1-fNbO3(0<f<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0200】
NASICON型酸化物としては、Li1+gAlgTi2-g(PO4)3(0≦g≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、LihM1
iM2
oPpOqで表される酸化物である。
式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、h、i、o、p及びqは、任意の正数である。
【0201】
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4-Li3M4O4で表される酸化物などが挙げられる。
式中、M3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
【0202】
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZ)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0203】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。非晶質(アモルファス)固体電解質として、例えばLi3BO3、Li2B4O7、LiBO2などのLi-B-O化合物が挙げられる。酸化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
【0204】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系化合物、Li2S-SiS2系化合物、Li2S-GeS2系化合物、Li2S-B2S3系化合物、Li2S-P2S3系化合物、LiI-Si2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li10GeP2S12などを挙げることができる。
【0205】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。また、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0206】
Li2S-P2S5系化合物としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-ZjSk(j、kは正の数。Zは、Ge、Zn又はGa)などを挙げることができる。
【0207】
Li2S-SiS2系化合物としては、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4、Li2S-SiS2-LirM5Os(r、sは正の数。M5は、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn)などを挙げることができる。
【0208】
Li2S-GeS2系化合物としては、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-P2S5などを挙げることができる。
【0209】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質材料が含まれることが好ましい。
【0210】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4-3KI、LiBH4-PI2、LiBH4-P2S5、LiBH4-LiNH2、3LiBH4-LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I、Li4(BH4)(NH2)3などを挙げることができる。
【0211】
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。
【0212】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0213】
(導電材)
正極活物質層111が有してもよい導電材としては、炭素材料や金属化合物を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、適切な量を正極活物質層111に添加することにより正極110の内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックの添加量が多すぎると、正極活物質層111と正極集電体112との結着力、及び正極活物質層111内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。金属化合物としては電気導電性を有する金属、金属合金や金属酸化物が挙げられる。
【0214】
正極活物質層111中の導電材の割合は、炭素材料の場合は正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0215】
(バインダー)
正極活物質層111がバインダーを有する場合、バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
以下、ポリフッ化ビニリデンのことを、PVdFと称することがある。また、ポリテトラフルオロエチレンのことを、PTFEと称することがある。
【0216】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極活物質層111全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極活物質層111と正極集電体112との密着力、及び正極活物質層111内部の結合力がいずれも高い正極活物質層111となる。
【0217】
正極活物質層111は、予め正極活物質を含むシート状の成型体として加工し、本発明における「電極」として使用してもよい。また、以下の説明において、このようなシート状の成型体を「正極活物質シート」と称することがある。正極活物質シートに集電体を積層した積層体を、電極としてもよい。
【0218】
正極活物質シートは、上述の固体電解質、導電材及びバインダーからなる群から選ばれるいずれか1つ以上を含むこととしてもよい。
【0219】
正極活物質シートは、例えば、正極活物質と、焼結助剤と、上述の導電材と、上述のバインダーと、可塑剤と、溶媒とを混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをキャリアフィルム上に塗布して乾燥させることで得られる。
【0220】
焼結助剤としては、例えばLi3BO3やAl2O3を用いることができる。
【0221】
可塑剤としては、例えばフタル酸ジオクチルを用いることができる。
【0222】
溶媒としては、例えばアセトン、エタノール、N-メチル-2-ピロリドンを用いることができる。
【0223】
スラリーの調製時において、混合はボールミルを用いることができる。得られた混合物には、混合時に混入した気泡が含まれることが多いため、減圧して脱泡するとよい。脱泡すると、一部の溶媒が揮発し濃縮することで、スラリーが高粘度化する。
【0224】
スラリーの塗布は、公知のドクターブレードを用いて行うことができる。
【0225】
キャリアフィルムとしては、PETフィルムを用いることができる。
【0226】
乾燥後に得られる正極活物質シートは、キャリアフィルムから剥離され、適宜打ち抜き加工により必要な形状に加工されて用いられる。また、正極活物質シートは、適宜厚み方向に一軸プレスしてもよい。
【0227】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、Al、Ni、ステンレス、Auなどの金属材料を形成材料とするシート状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0228】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0229】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材、バインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0230】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0231】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒;が挙げられる。以下、N-メチル-2-ピロリドンのことを、NMPということがある。
【0232】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0233】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。
【0234】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質、導電材を含むこととしてもよい。固体電解質、導電材、バインダーは、上述したものを用いることができる。
【0235】
(負極活物質)
負極活物質層121が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極110よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0236】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0237】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOv(ここで、vは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOv(ここで、vは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOv(ここで、vは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOv(ここで、vは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOv(ここで、vは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOv(ここで、vは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0238】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSv(ここで、vは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSv(ここで、vは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSv(ここで、vは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSv(ここで、vは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSv(ここで、vは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSv(ここで、vは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSv(ここで、vは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0239】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3-wAwN(ここで、AはNi及びCoのいずれか一方又は両方であり、0<w<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0240】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0241】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。
【0242】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li-Al、Li-Ni、Li-Si、Li-Sn、Li-Sn-Niなどのリチウム合金;Si-Znなどのシリコン合金;Sn-Mn、Sn-Co、Sn-Ni、Sn-Cu、Sn-Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0243】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0244】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極120の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0245】
また、上記負極活物質の中では、熱的安定性が高い、Li金属によるデンドライト(樹枝状晶)が生成しがたいなどの理由から、酸化物が好ましく用いられる。酸化物の形状としては、繊維状、又は微粉末の凝集体などが好ましく用いられる。
【0246】
(負極集電体)
負極120が有する負極集電体122としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0247】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0248】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質(第1の固体電解質)を有している。正極活物質層111に固体電解質が含まれる場合、固体電解質層130を構成する固体電解質(第1の固体電解質)と、正極活物質層111に含まれる固体電解質(第2の固体電解質)とが同じ物質であってもよい。固体電解質層130は、リチウムイオンを伝達する媒質として機能するとともに、正極110と負極120とを分け短絡を防止するセパレータとしても機能する。
【0249】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0250】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0251】
さらに、固体電解質層130は、固体電解質を予めペレット状に形成し、固体電解質のペレットと、上述の正極活物質シートとを重ねて積層方向に一軸プレスすることで形成することができる。正極活物質シートは、正極活物質層111になる。
【0252】
得られた正極活物質層111と固体電解質層130との積層体に対し、さらに正極活物質層111に正極集電体112を配置する。積層方向に一軸プレスして、さらに焼結することで、固体電解質層130と正極110とを形成することができる。
【0253】
このような正極110は、固体電解質層130と接触している。固体電解質層130は、第1の固体電解質を有する。
【0254】
正極110は、固体電解質層130に接する正極活物質層111と、正極活物質層111が積層された正極集電体112と、を有する。正極活物質層111は、リチウム金属複合酸化物の結晶を含む複数の粒子(すなわち、本発明の一態様である正極活物質)と、複数の粒子の間に充填され粒子と接触する固体電解質(第2の固体電解質)とを含む。
【0255】
正極活物質層111に含まれる固体電解質及び粒子は、それぞれ固体電解質層130に接触している。すなわち、正極活物質層111に含まれる粒子は、正極活物質層111に含まれる固体電解質及び固体電解質層130に接触している。
【0256】
なお、正極活物質層111に含まれる粒子(正極活物質)の全てが正極活物質層111に含まれる固体電解質及び固体電解質層130に接触している必要は無い。
【0257】
正極活物質層111に含まれる正極活物質は、正極活物質層111に含まれる固体電解質と接触することで、正極活物質層111に含まれる固体電解質と導通する。また、正極活物質層111に含まれる正極活物質は、固体電解質層130と接触することで、固体電解質層130と導通する。さらに、正極活物質層111に含まれる固体電解質は、固体電解質層130と接触することで、固体電解質層130と導通する。
【0258】
これらにより、正極活物質層111に含まれる正極活物質は、直接又は間接的に固体電解質層130と導通する。
【0259】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極電解質層121が接する態様で負極120を積層させることで製造することができる。これにより、固体電解質層130は、負極活物質層121と接触し、導通する。
【0260】
上述のように、得られた全固体リチウムイオン二次電池100は、正極110と負極120とが短絡しないように、固体電解質層130を正極110と負極120とを接触させて提供される。提供された全固体リチウムイオン電池100は、外部電源に接続し、正極110に負の電位、負極120に正の電位を印加することで充電される。
【0261】
さらに、充電された前記全固体リチウムイオン二次電池100は、正極110及び負極120に放電回路を接続し、放電回路に通電させることで放電する。
【0262】
以上のような構成の全固体リチウムイオン電池用正極活物質によれば、正極において固体電解質との間でリチウムイオンの授受をスムーズに行うことができ、電池性能を向上させることができる。
【0263】
以上のような構成の電極によれば、上述の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を有するため、全固体リチウムイオン電池の電池性能を向上させることができる。
【0264】
本実施形態の前駆体を用いて製造したリチウム金属複合酸化物は、下記の方法により評価する。
【0265】
[リチウム二次電池用正極の作製]
リチウム金属複合酸化物と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム金属複合酸化物:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となる割合で加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いる。
【0266】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得る。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とする。
【0267】
[リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製]
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
[リチウム二次電池用正極の作製]で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなる割合で溶解したものを用いる。
【0268】
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製する。
【0269】
[サイクル維持率]
まず、コイン型のリチウム二次電池を室温で10時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
次に、室温において4.3Vまで1mAで定電流充電してから4.3Vで定電圧充電する定電流定電圧充電を5時間行った後、2.5Vまで1mAで放電する定電流放電を行うことで初期充放電を行う。放電容量を測定し、得られた値を「初回放電容量(mAh/g)」とする。さらに充電容量を測定し、得られた値を「初回充電容量」(mAh/g)とする。
【0270】
初期充放電後、初期充放電の条件と同様に1mAで充電、1mAで放電を繰り返す。
その後、50サイクル目の放電容量(mAh/g)を測定する。
初回放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出する。
サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)÷初回放電容量(mAh/g) ×100
【0271】
本発明は、さらに以下の態様を含む。
[13]下記工程(A)、工程(B)、工程(C)及び工程(D)を備える、リチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法。
工程(A):内部が中空であるシリンダと、前記シリンダの内部であって、前記シリンダの内壁面と隔離して配置された攪拌手段と、原料液を貯蔵する1つ以上の原料液貯槽を備える反応手段を準備する工程。ただし、前記シリンダと前記攪拌手段は共軸二重円筒構造を形成し、前記シリンダと前記攪拌手段との間に反応流路を備える。
工程(B):前記原料液貯槽に、原料液である金属含有水溶液、pH調整溶液、及び錯化剤溶液をそれぞれ充填する工程。
工程(C):前記金属含有水溶液、前記pH調整溶液及び前記錯化剤溶液の反応流路への導入口近傍における、最高温度と最低温度との差を1.5℃以下に調整する工程。
工程(D):前記原料液貯槽にそれぞれ充填された前記金属含有水溶液、前記pH調整溶液及び前記錯化剤溶液を、輸送ポンプにより前記反応流路にそれぞれ送液し、前記攪拌手段を回転させることにより前記反応流路で前記金属含有水溶液、前記pH調整溶液及び前記錯化剤溶液を混合して反応させ、反応物を得る工程。
前記リチウム二次電池正極活物質用前駆体を、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定し、得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積が60%となる粒子径D60(μm)と、10%となる粒子径D10(μm)との比D60/D10の値が、2.0以下であり、BET比表面積が20m2/g以上である。
[14]前記工程(D)は、テイラー数が60以上20000以下となる条件で攪拌手段を回転する、[13]に記載のリチウム二次電池正極活物質用前駆体の製造方法。
【実施例】
【0272】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0273】
<リチウム金属複合酸化物の組成分析>
後述の方法で製造される前駆体及びリチウム金属複合酸化物の組成分析は、得られたリチウム金属複合酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマー製、Optima7300)を用いて行った。
【0274】
<前駆体の組成分析>
前駆体の組成分析は下記の方法により実施した。
まず、得られた金属複合水酸化物を大気雰囲気下650℃で5時間保持した後、室温まで冷却して金属複合酸化物を得た。金属複合水酸化物及び金属複合酸化物の重量(g)を測定し、下記の式で加熱前後での前駆体の重量減少率(%)を算出した。
前駆体の重量減少率(%)=(金属複合水酸化物の重量(g) -金属複合酸化物の重量(g))÷金属複合水酸化物の重量(g)×100
【0275】
上記の方法により得られた金属複合水酸化物及び金属複合酸化物の組成分析は、金属複合水酸化物及び金属複合酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマー製、Optima7300)を用いて行った。
【0276】
さらに、組成分析により得られた金属複合水酸化物中の金属の全質量部(%)、金属複合水酸化物中の金属の全モル質量(g/mol)及び前駆体の重量減少率(%)から、下記組成式(A)中のz及びtをそれぞれ下記の式で算出した。
Ni1-xMxOz(OH)2-t ・・・(A)
【0277】
z=(100-金属複合水酸化物中の金属の全質量部(%)-(酸素のモル質量(g/mol)+水素のモル質量(g/mol))×2÷(酸素のモル質量(g/mol)+水素のモル質量(g/mol)×2)×前駆体重量減少率(%))÷酸素のモル質量(g/mol)÷金属複合水酸化物中の金属の全質量部(%)×金属複合水酸化物中の金属の全モル質量(g/mol)
【0278】
t=2-(酸素のモル質量(g/mol)+水素のモル質量(g/mol))×2÷(酸素のモル質量(g/mol)+水素のモル質量(g/mol)×2)×前駆体重量減少率(%)÷(酸素のモル質量(g/mol)+水素のモル質量(g/mol))÷金属複合水酸化物中の金属の全質量部(%)×金属複合水酸化物中の金属の全モル質量(g/mol)
【0279】
<粒度分布の測定>
前駆体及びリチウム金属複合酸化物の累積体積粒度分布は、レーザー回折散乱法によって測定した。粒度分布測定装置はマルバーン社製マスターサイザー2000を用いた。
得られた累積粒度分布曲線において全体を100%としたときに、小粒子側からの累積体積割合が10%となる粒子径をD10(μm)、50%となる粒子径をD50(μm)、60%となる粒子径をD60(μm)としたときに、前記D10、前記D50、前記D60、の値を用いて、D60/D10、D10/D50を算出した。
【0280】
<BET比表面積>
粉末状の前駆体又は粉末状のリチウム金属複合酸化物1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、島津製作所社製流動式比表面積自動測定装置、フロソーブ2300IIを用いて測定した。
【0281】
<CuKα線を使用したX線回折測定>
粉末X線回折測定は、X線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)を用いて行った。リチウム金属複合酸化物の粉末を専用の基板に充填し、Cu-Kα線源を用いて、回折角2θ=10°~90°、サンプリング幅0.02°、スキャンスピード4°/minの条件にて測定を行うことで、X線回折スペクトルを得た。得られたX線回折スペクトルから、2θ=18.7±2°の範囲内のピークと、2θ=44.6±2°の範囲内のピークとを決定した。
統合粉末X線解析ソフトウェアJADEを用い、得られた粉末X線回折スペクトルから2θ=18.7±2°の範囲内の回折ピークの半値幅Aと、2θ=44.6±2°の範囲内の回折ピークの半値幅Bを算出した。
ピークの回折角、及び得られた半値幅を、Scherrer式(D=Kλ/Ecosθ(D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、E:ピークの半値幅))に代入し、結晶子サイズを算出した。
【0282】
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
<リチウム二次電池用正極の作製>で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム)を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPF6を1.0mol/lとなる割合で溶解したものを用いた。
【0283】
次に、負極として金属リチウムを用いて、前記負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
【0284】
<サイクル維持率>
まず、コイン型のリチウム二次電池を室温で10時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させた。
次に、室温において4.3Vまで1mAで定電流充電してから4.3Vで定電圧充電する定電流定電圧充電を5時間行った後、2.5Vまで1mAで放電する定電流放電を行うことで初期充放電を行った。放電容量を測定し、得られた値を「初回放電容量」(mAh/g)とした。さらに充電容量を測定し、得られた値を「初回充電容量」(mAh/g)とした。
初回放電容量の値と、初回充電容量の値を用い、下記の式で初回効率を算出した。
初回効率=初回放電容量(mAh/g)÷初回充電容量(mAh/g) ×100
【0285】
初期充放電後、初期充放電の条件と同様に1mAで充電、1mAで放電を繰り返した。その後、50サイクル目の放電容量(mAh/g)を測定した。初回放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出した。
サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)÷初回放電容量(mAh/g) ×100
【0286】
≪実施例1≫
反応装置には、テイラー渦流連続式攪拌反応装置(株式会社チップトン社製、TVF-1型)を用いた。
図3に示すテイラー渦流連続式攪拌反応装置40において、シリンダ41の内円筒径Roを101mm、攪拌手段42の外円筒径Riを91.8mm、シリンダ41と攪拌手段42との距離であるギャップ幅d1を4.6mmとした。ギャップ幅d1は、シリンダ41の内円筒径Roと攪拌手段42の外円筒径Riの差に1/2を乗じた値である。
【0287】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が91:5:4となる割合で混合して、金属含有水溶液を調製した。
【0288】
調整した金属含有水溶液を
図2に示す原料液貯槽T1に、pH調整溶液として水酸化ナトリウム水溶液を原料液貯槽T2に、錯化剤溶液として硫酸アンモニウム水溶液を原料液貯槽T3にそれぞれ充填した。
【0289】
図3に示す導入口43aは
図2に示す輸送ポンプP1、熱交換器H1を介して原料液貯槽T1と、導入口43bは輸送ポンプP2、熱交換器H2を介して原料液貯槽T2と、導入口43cは輸送ポンプP3、熱交換器H3を介して原料液貯槽T3と、それぞれ接続した。
【0290】
反応流路に水を満たした後、反応流路S内の流体温度を55℃に保持した。
【0291】
テイラー渦流連続式攪拌反応装置40の攪拌手段42を回転させながら、金属のモル数と硫酸アンモニウムのモル数との比が3.59、水酸化ナトリウムのモル数と金属のモル数との比が8.68、となる割合で、導入口43aから金属含有水溶液を、導入口43bから水酸化ナトリウム水溶液を、導入口43cから硫酸アンモニウム水溶液をそれぞれ連続的に反応流路Sに導入した。このとき、温度測定位置Mbに温度計を設置し、温度測定位置Mbにおける水酸化ナトリウム水溶液の最高温度と最低温度との差が1.4℃となる条件に、熱交換器H2により水酸化ナトリウム水溶液の温度を調整した。
【0292】
攪拌手段42の回転数は183rad/s、全原料液の合計導入速度は5.14mL/minとし、反応流路Sに112分間反応物を滞留させた後、排出口44からニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を回収し、反応物貯槽50に貯留した。
【0293】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して120℃で乾燥することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0294】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1の組成分析を行ったところ、x=0.092、z=0.12、t=-0.12であり、元素MはCoとMnであった。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、6/(D50×S)の値を下記表1に記載する。
【0295】
≪実施例2≫
金属のモル数と硫酸アンモニウムのモル数との比を3.56、攪拌手段の回転数を79rad/s、全原料液の合計導入速度を5.11mL/min、水酸化ナトリウムのモル数と金属のモル数との比を8.67、反応流路内の滞留時間を113分とし、温度測定位置Mbにおける水酸化ナトリウム水溶液の最高温度と最低温度との差が1.3℃となる条件に水酸化ナトリウム水溶液の温度を調整した以外は、実施例1と同様の方法によりニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。
【0296】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2の組成分析を行ったところ、x=0.091、z=0.09、t=-0.21であり、元素MはCoとMnであった。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、6/(D50×S)の値を下記表1に記載する。
【0297】
≪比較例1≫
金属のモル数と硫酸アンモニウムのモル数との比を9.53、全原料液の合計導入速度を5.26mL/min、水酸化ナトリウムのモル数と金属のモル数との比を7.05、反応流路内の滞留時間を109分とし、温度測定位置Mbにおける水酸化ナトリウム水溶液の最高温度と最低温度との差が1.9℃となる条件に、水酸化ナトリウム水溶液の温度を調整した以外は実施例1と同様の方法によりニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3を得た。
【0298】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3の組成分析を行ったところ、x=0.091、z=0.08、t=-0.11であり、元素MはCoとMnであった。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、6/(D50×S)の値を下記表1に記載する。
【0299】
≪比較例2≫
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽と、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽、及び濃縮槽から反応槽へ循環を行う機構を有する装置を用い、攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応槽内の溶液温度を50℃に保持した。
【0300】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が91:5:4となる割合で混合して、金属含有水溶液を調製した。
【0301】
次に、反応槽内に、攪拌下、調整した金属含有水溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤溶液としてバッチ式共沈殿法により添加した。反応槽内の溶液のpHが10.5(温度40℃での測定時)となる条件に水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。33時間後に水酸化ナトリウム水溶液の滴下を停止し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4を得た。
【0302】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4の組成分析を行ったところ、x=0.091、z=0.13、t=-0.18であり、元素MはCoとMnであった。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、6/(D50×S)の値を下記表1に記載する。
【0303】
≪比較例3≫
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、溶液温度を60℃に保持した。
【0304】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が91:5:4となる割合で混合して、金属含有水溶液を調製した。
【0305】
次に、反応装置内に、攪拌下、調整した金属含有水溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤溶液として連続的に添加した。反応装置内の溶液のpHが12.0(温度40℃での測定時)となる条件に水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を得た。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の粒子を洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥することで、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粉末を得た。
【0306】
前記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粉末をマツボー社製エルボージェット分級機で分級し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5を得た。
【0307】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5の組成分析を行ったところ、x=0.090、z=0.05、t=-0.18であり、元素MはCoとMnであった。
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、6/(D50×S)の値を下記表1に記載する。
【0308】
【0309】
≪実施例3≫
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を酸素含有雰囲気下650℃で5時間保持した後、室温まで冷却してニッケルコバルトマンガン複合酸化物1を得た。
得られたニッケルコバルトマンガン複合酸化物1に含まれるNi、Cо、Mnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.10となる割合で秤量した水酸化リチウムと、不活性溶融剤である炭酸カリウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が0.10となる割合で秤量した炭酸カリウムと、を乳鉢により混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を酸素含有雰囲気下790℃で5時間保持した後、室温まで冷却して焼成物を得た。
得られた焼成物を洗浄した後、脱水し、酸素含有雰囲気下760℃で5時間保持した後、室温まで冷却して、粉末状のリチウム金属複合酸化物1を得た。
【0310】
リチウム金属複合酸化物1の組成分析を行ったところ、m=0.02、n=0.096、であり、元素MはCoとMnであった。
リチウム金属複合酸化物1のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、α/βの値を下記表2に記載する。
【0311】
≪実施例4≫
得られたニッケルコバルトマンガン複合酸化物1と、得られたニッケルコバルトマンガン複合酸化物1に含まれるNi、Cо、Mnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.10となる割合で秤量した水酸化リチウムと、不活性溶融剤である炭酸カリウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が0.10となる割合で秤量した炭酸カリウムと、を乳鉢により混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を酸素含有雰囲気下820℃で5時間保持した後、室温まで冷却して焼成物を得た。
得られた焼成物を洗浄した後、脱水し、酸素含有雰囲気下760℃で5時間保持した後、室温まで冷却して、粉末状のリチウム金属複合酸化物2を得た。
【0312】
リチウム金属複合酸化物2の組成分析を行ったところ、m=0.01、n=0.095、であり、元素MはCoとMnであった。
リチウム金属複合酸化物2のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、α/βの値を下記表2に記載する。
【0313】
≪実施例5≫
得られたニッケルコバルトマンガン複合酸化物1と、得られたニッケルコバルトマンガン複合酸化物1に含まれるNi、Cо、Mnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.10となる割合で秤量した水酸化リチウムと、不活性溶融剤である炭酸カリウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が0.10となる割合で秤量した炭酸カリウムと、を乳鉢により混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を酸素含有雰囲気下850℃で5時間保持して焼成した後、室温まで冷却して焼成物を得た。
得られた焼成物を洗浄した後、脱水し、酸素含有雰囲気下760℃で5時間保持した後、室温まで冷却して、粉末状のリチウム金属複合酸化物3を得た。
【0314】
リチウム金属複合酸化物3の組成分析を行ったところ、m=0.00、n=0.095、であり、元素MはCoとMnであった。
リチウム金属複合酸化物3のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、α/βの値を下記表2に記載する。
【0315】
≪比較例4≫
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3と、得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物に含まれるNi、Cо、Mnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.10となる割合で秤量した水酸化リチウムと、不活性溶融剤である炭酸カリウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が0.10となる割合で秤量した炭酸カリウムと、を乳鉢により混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を酸素含有雰囲気下820℃で5時間保持した後、室温まで冷却して焼成物を得た。
得られた焼成物を洗浄した後、脱水し、酸素含有雰囲気下760℃で5時間保持した後、室温まで冷却して、粉末状のリチウム金属複合酸化物4を得た。
【0316】
リチウム金属複合酸化物4の組成分析を行ったところ、m=0.01、n=0.092、であり、元素MはCoとMnであった。
リチウム金属複合酸化物4のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、α/βの値を下記表2に記載する。
【0317】
≪比較例5≫
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4と、得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4に含まれるNi、Cо、Mnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.20となる割合で秤量した水酸化リチウムと、不活性溶融剤である硫酸カリウムの合計量に対する硫酸カリウムの量(モル比)が0.10となる割合で秤量した硫酸カリウムと、を乳鉢により混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を酸素含有雰囲気下940℃で5時間保持した後、室温まで冷却して焼成物を得た。
得られた焼成物を洗浄した後、脱水し、酸素含有雰囲気下760℃で5時間保持した後、室温まで冷却して、粉末状のリチウム金属複合酸化物5を得た。
【0318】
リチウム金属複合酸化物5の組成分析を行ったところ、m=-0.07、n=0.097、であり、元素MはCoとMnであった。
リチウム金属複合酸化物5のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、α/βの値を下記表2に記載する。
【0319】
≪比較例6≫
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5と、得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5に含まれるNi、Cо、Mnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.10となる割合で秤量した水酸化リチウムと、不活性溶融剤である炭酸カリウムの合計量に対する炭酸カリウムの量(モル比)が0.10となる割合で秤量した炭酸カリウムと、を乳鉢により混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を酸素雰囲気下850℃で5時間保持した後、室温まで冷却して焼成物を得た。
得られた焼成物を洗浄した後、脱水し、酸素含有雰囲気下760℃で5時間保持した後、室温まで冷却して、粉末状のリチウム金属複合酸化物6を得た。
【0320】
リチウム金属複合酸化物6の組成分析を行ったところ、m=0.01、n=0.089、であり、元素MはCoとMnであった。
リチウム金属複合酸化物6のD60/D10、BET比表面積、D10/D50、α/βの値を下記表2に記載する。
【0321】
表2に、実施例3~5、比較例4~6のリチウム金属複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池の、初回充電容量、初回放電容量、初回効率及びサイクル維持率を記載する。
【0322】
【0323】
上記結果に記載の通り、実施例3~5のリチウム金属複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、サイクル維持率が比較例よりも向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0324】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、40…テイラー渦流連続式攪拌反応装置、41…シリンダ、42…攪拌手段、43…導入口、44…排出口、S…反応流路、U…1組の環状渦流、U1…第1の環状渦流、U2…第2の環状渦流、Ma、Mb及びMc…温度測定位置、Ro…シリンダ41の内円筒径、Ri…攪拌手段42の外円筒径、d1…ギャップ幅、T1、T2及びT3:原料液貯槽、P1、P2及びP3…輸送ポンプ、H1、H2及びH3…熱交換器、50…反応物貯槽、60…反応手段