IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ポルフィセン化合物 図1
  • 特許-ポルフィセン化合物 図2
  • 特許-ポルフィセン化合物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】ポルフィセン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20230228BHJP
【FI】
C07D487/22 CSP
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019020780
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2019137676
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018020985
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 利和
(72)【発明者】
【氏名】久枝 良雄
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲寧▼
(72)【発明者】
【氏名】古賀 大貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 章博
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-248974(JP,A)
【文献】Ganapathi, Emandi et al.,Facile Synthesis of 9,10,19,20-Tetraarylporphycenes,European Journal of Organic Chemistry ,2014年,2014(30),,6701-6706
【文献】Anju, K. S. et al.,9,10,19,20-Tetraarylporphycenes,Organic Letters,2008年,10(24),,5545-5548
【文献】Anand, Venkataramana Rao. G. et al.,Meso Aryl Heptaphyrins: The First 30π Aromatic Expanded Porphyrins with an Inverted Structure,Organic Letters,2000年,2(24),,3829-3832
【文献】Shimizu, Soji et al.,meso-aryl-substituted [26]hexaphyrin(1.1.0.1.1.0) and [38]nonaphyrin(1.1.0.1.1.0.1.1.0) from oxidative coupling of a tripyrrane,Angewandte Chemie, International Edition ,2005年,44(15),,2225-2229
【文献】Ono, Toshikazu et al.,Facile synthesis of 9,10,19,20-tetraalkylporphycenes,Chemistry Letters ,2017年,46(2),,260-262
【文献】Ono, Toshikazu et al.,Gram-scale synthesis of porphycenes through acid-catalyzed oxidative macrocyclizations of E/Z-mixed 5,6-diaryldipyrroethenes,RSC Advances ,2018年,8(69),,39269-39273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[3]で表されるポルフィセン化合物。
【化1】
(式[3]中、R3、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、またはフッ素原子を表し、R4、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、またはフッ素原子を表す。ただし、R3とR4は互いに異なる基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポルフィセン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルフィセンは、ポルフィリンの構造異性体の一つであり、特異な光学特性、電気化学特性等を有することから、近赤外発光を利用した偽造防止用途、フォトダイナミックセラピーやバイオイメージング等の蛍光センサー、有機EL、有機半導体、太陽電池等の有機エレクトロニクス材料などとして、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
ポルフィセン化合物の製造方法としては、従来、ビスピロール化合物の二量化反応を利用した製造方法が知られている(例えば、非特許文献1)。
しかしながら、上記非特許文献1が開示する方法は、収率が3~5%と極めて低く、ポルフィセン化合物を産業応用可能なスケールで製造できる方法ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Org.Lett.2008,10,5545-5548
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、収率が良好なポルフィセン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のLUMOエネルギーを有する酸化剤の存在下でビスピロール化合物の二量化反応を行うことで、目的のポルフィセン化合物が比較的良好な収率で得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. 式[2a]および式[2b]
【化1】
(式[2a]および式[2b]中、R1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロアルキル基、またはYで置換されていてもよいフェニル基を表し、
2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロアルキル基、Yで置換されていてもよいフェニル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数1~10のハロアルコキシ基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アセトキシ基、またはスルホ基を表し、
Yは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のハロアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、または炭素原子数1~5のハロアルコキシ基を表す。)
で表されるビスピロール化合物の少なくとも一種を、酸化剤および酸の存在下でカップリング反応させる、式[1]
【化2】
(式[1]中、R1およびR2は、前記と同じ意味を表す。)
で表されるポルフィセン化合物の製造方法であって、
前記酸化剤が、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31G(d)を使用する密度汎関数法により算出される最低空軌道エネルギー(LUMO)が-5.0eV以上のキノン化合物であることを特徴とするポルフィセン化合物の製造方法、
2. 前記酸化剤が、前記LUMOエネルギーが-4.5eV以上のキノン化合物である1のポルフィセン化合物の製造方法、
3. 前記キノン化合物が、ベンゾキノン類である1または2のポルフィセン化合物の製造方法、
4. 前記ベンゾキノン類が、テトラハロベンゾキノンである3のポルフィセン化合物の製造方法、
5. 前記キノン化合物が、シアノ基を有しない化合物である1~3のいずれかのポルフィセン化合物の製造方法、
6. 前記酸が、スルホン酸、ハロ酢酸、およびこれらの酸無水物、並びにボラン類から選ばれる少なくとも1種である1~5のいずれかのポルフィセン化合物の製造方法、
7. 前記酸が、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、およびこれらの酸無水物、並びに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体から選ばれる少なくとも1種である6のポルフィセン化合物の製造方法、
8. 前記R2が、すべて水素原子である1~7のいずれかのポルフィセン化合物の製造方法、
9. 前記R1が、それぞれ独立して、Yで置換されていてもよいフェニル基(Yは前記と同じ意味を表す。)である1~8のいずれかのポルフィセン化合物の製造方法、
10. 式[3]で表されるポルフィセン化合物、
【化3】
(式[3]中、R3は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、またはフッ素原子を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、またはフッ素原子を表す。ただし、R3とR4は互いに異なる基を表す。)
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ポルフィセン化合物を比較的良好な収率で得ることができるため、産業応用可能な製法として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例19で得られたPc-MeOPの単結晶X線構造解析図である。
図2】実施例20で得られたPc-CF3P/MeOPの単結晶X線構造解析図である。
図3】実施例21で得られたPc-FP/MeOPの単結晶X線構造解析図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るポルフィセン化合物の製造方法は、式[2a]および式[2b]で表されるビスピロール化合物の少なくとも一種を、酸化剤および酸の存在下でカップリング反応させて式[1]で表されるポルフィセン化合物の製造する際に、酸化剤として、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31G(d)を使用する密度汎関数法により算出される最低空軌道エネルギー(LUMO)が-5.0eV以上のキノン化合物を用いることを特徴とする。
【0011】
【化4】
【0012】
上記各式において、R1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロアルキル基、またはYで置換されていてもよいフェニル基を表し、R2は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロアルキル基、Yで置換されていてもよいフェニル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数1~10のハロアルコキシ基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アセトキシ基、またはスルホ基を表し、Yは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のハロアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、または炭素原子数1~5のハロアルコキシ基を表す。
【0013】
炭素原子数1~10のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
炭素原子数1~10のハロアルキル基としては、上記炭素原子数1~10のアルキル基の少なくとも1つの水素原子が、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子で置換された基が挙げられ、その具体例としては、フルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、2-クロロエチル、2-ブロモエチル、1,1-ジフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロエチル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル、3-ブロモプロピル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル、3-ブロモ-2-メチルプロピル、4-ブロモブチル、パーフルオロペンチル、2-(パーフルオロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
【0014】
炭素原子数1~10のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ基等が挙げられる。
炭素原子数1~10のハロアルコキシ基としては、上記炭素原子数1~10のアルコキシ基の少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された基が挙げられ、その具体例としては、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、ブロモジフルオロメトキシ、2-クロロエトキシ、2-ブロモエトキシ、1,1-ジフルオロエトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ、2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエトキシ、ペンタフルオロエトキシ、3-ブロモプロポキシ、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロポキシ、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イルオキシ、3-ブロモ-2-メチルプロポキシ、4-ブロモブトキシ、パーフルオロペンチルオキシ、2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ基等が挙げられる。
【0015】
ハロゲン原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のハロアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、または炭素原子数1~5のハロアルコキシ基であるYで置換されていてもよいフェニル基の具体例としては、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、2,3-ジメチルフェニル、3,4-ジメチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2-トリフルオロメチルフェニル、3-トリフルオロメチルフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、2,3-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2,6-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、3,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル、2,3-ジメトキシフェニル、3,4-ジメトキシフェニル、3,5-ジメトキシフェニル、2,3-ビス(トリフルオロメトキシ)フェニル、3,4-ビス(トリフルオロメトキシ)フェニル、3,5-ビス(トリフルオロメトキシ)フェニル、2-フルオロフェニル、3-フルオロフェニル、4-フルオロフェニル、2,3-ジフルオロフェニル、3,4-ジフルオロフェニル、3,5-ジフルオロフェニル、2-クロロフェニル、3-クロロフェニル、4-クロロフェニル、2,3-ジクロロフェニル、3,4-ジクロロフェニル、3,5-ジクロロフェニル、2-ブロモフェニル、3-ブロモフェニル、4-ブロモフェニル、2,3-ジブロモフェニル、3,4-ジブロモフェニル、3,5-ジブロモフェニル基等が挙げられる。
なお、上記Yにおける、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のハロアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、および炭素原子数1~5のハロアルコキシ基としては、上記炭素原子数1~10のアルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基で例示した基のうち、炭素原子数1~5のものが挙げられる。
【0016】
これらの置換基の中でも、上記R1としては、それぞれ独立して、Yで置換されていてもよいフェニル基が好ましく、フェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、3,5-ジフルオロフェニル基がより好ましい。
また、上記R2としては、すべて水素原子が好ましい。
【0017】
なお、上記式[2a]のビスピロール化合物における二重結合(オレフィン)部位の標記「×」はE/Z配置が任意であることを意味する。すなわち、本発明の製造方法では、[2a]のビスピロール化合物として、E体のみ、Z体のみ、E/Z体の混合物のいずれを用いても目的のポルフィセン化合物を得ることができる。
【0018】
本発明で使用可能なビスピロール化合物としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、上述のとおり、以下のオレフィン部位のE/Zは任意である。
【0019】
【化5】
【0020】
本発明の製造方法では、ビスピロール化合物のカップリング反応の際に、酸化剤として、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31G(d)を使用する密度汎関数法(DTF法(B3LYP/6-31G(d)))により算出される最低空軌道(LUMO)エネルギーが-5.0eV以上、好ましくは-4.5eV以上のキノン化合物を用いる。
このようなLUMOエネルギーを有するキノン化合物を用いることで、目的のポルフィセン化合物の収率を向上させることができる。
【0021】
このようなキノン化合物としては、公知のベンゾキノン類、ナフトキノン類、アントラキノン類等から、上記DTF法によるLUMOエネルギーが-5.0eV以上のものを選択して適宜用いることができるが、本発明では、特に、ベンゾキノン類を用いることが好ましく、テトラハロベンゾキノンを用いることがより好ましく、テトラクロロベンゾキノンを用いることがより一層好ましく、2,3,5,6-テトラクロロ-p-ベンゾキノン(クロラニル)を用いることがさらに好ましい。
これらのキノン化合物は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
なお、下記に示されるように、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)のような、環構造1つに対してシアノ基を複数個有するキノン類は、LUNOエネルギーが低い傾向にあるため、本発明で用いるキノン化合物は、シアノ基を有する場合は、キノン類を構成する環構造の合計数と同じ数(すなわち、環構造1つ当たり1個)が好ましく、シアノ基を有しないことがより好ましい。
【0023】
【化6】
【0024】
以下に、本発明で好適に用いることができるキノン化合物を、そのLUMOエネルギーとともに示すが、これらに限定されるものではない。
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
本発明の製造方法において、上記酸化剤の使用量は、目的のポルフィセン化合物が得られる限り、特に限定されるものではないが、収率をより高めることを考慮すると、式[2a]および式[2b]で表されるビスピロール化合物1当量に対し、0.1~10当量が好ましく、0.5~8当量がより好ましく、1~5当量がより一層好ましい。
【0028】
また、本発明の製造方法では、上記酸化剤とともに酸を用いる。
酸としては、有機酸、無機酸、ルイス酸等から適宜選択して用いることができるが、特に、有機酸、ルイス酸が好ましい。
有機酸としては、スルホン酸、カルボン酸、ハロカルボン酸、およびこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0029】
スルホン酸およびその無水物の具体例としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トリフルオロメチルベンゼンスルホン酸およびその無水物等が挙げられる。
カルボン酸およびその無水物の具体例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびその無水物等が挙げられる。
ハロカルボン酸およびその無水物の具体例としては、フルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸等のハロ酢酸およびその無水物;ペンタフルオロプロピオン酸およびその無水物などが挙げられる。
ルイス酸の具体例としては、BF3・Et2O(三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、ボロントリフルオリド・ジエチルエーテルコンプレックス)、BH3・THF(ボラン・テトラヒドロフランコンプレックス)、BH3・Me2S(ボラン・ジメチルスルフィドコンプレックス)等のボラン類;塩化アルミニウム(III)、臭化アルミニウム(III)、アルミニウムトリイソプロポキシド、塩化ジエチルアルミニウム等のアルミニウム化合物;トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)等のスカンジウム化合物;塩化チタン(IV)、チタンテトライソプロポキシド、チタノセンビス(トリフルオロメタンスルホナート)等のチタン化合物;塩化鉄(III)、臭化鉄(III)等の鉄化合物;塩化ニッケル(II)等のニッケル化合物;トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)等の銅化合物;塩化亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛(II)等の亜鉛化合物;トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム(III)等のイットリウム化合物;ジルコニウムテトライソプロポキシド等のジルコニウム化合物;トリフルオロメタンスルホン酸銀等の銀化合物;塩化インジウム(III)等のインジウム化合物;塩化スズ(IV)等のスズ化合物;トリフルオロメタンスルホン酸ランタン(III)等のランタン化合物;トリフルオロメタンスルホン酸セリウム(III)等のセリウム化合物;トリフルオロメタンスルホン酸ネオジム(III)等のネオジム化合物;トリフルオロメタンスルホン酸ツリウム(III)等のツリウム化合物;トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム(III)等のイッテルビウム化合物;トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)等のハフニウム化合物;ケイ素、バナジウム、マンガン、コバルト、ガリウム、モリブデン、カドミウム、アンチモン、タングステン、鉛等の金属の、ハロゲン化物、トリフルオロメタンスルホン酸塩などが挙げられる。
これらの酸は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
これらの中でも、ポルフィセン化合物の収率を向上させることを考慮すると、スルホン酸、ハロ酢酸、およびこれらの酸無水物、並びにボラン類から選ばれる少なくとも1種が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、およびこれらの酸無水物、並びに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において、酸の使用量は、その種類によって変動するため一概に規定することができないが、収率をより高めることを考慮すると、式[2a]および式[2b]で表されるビスピロール化合物1当量に対し、0.1~20当量が好ましく、0.2~10当量がより好ましく、0.5~7当量がより一層好ましい。
【0032】
上記カップリング反応は有機溶媒中で行ってもよい。
溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定はなく、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール等のアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類などが挙げられ、これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。
これらの中でも、ポルフィセン化合物の収率をより向上させることを考慮すると、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、塩化メチレン、クロロホルムがより好ましい。
【0033】
反応温度は、溶媒の融点から沸点の範囲で適宜設定すればよいが、10~100℃が好ましく、15~50℃がより好ましい。
反応時間は、通常、1~72時間程度である。
反応終了後は、シリカゲル/アルミナ混合物等を充填したショートカラム等でろ過し、溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー等の公知の精製法にて目的物を得ることができる。
【実施例
【0034】
以下、製造例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製および物性の分析に用いた装置および条件は、以下の通りである。
【0035】
(1)1H NMRスペクトル
装置:BRUKER社製 AVANCE(登録商標)500
基準:テトラメチルシラン(δ0.00ppm)
(2)単結晶X線構造解析
装置:(株)リガク製 デスクトップ単結晶X線構造解析装置 XtaLAB mini
(3)UV-Visスペクトル
装置:(株)日立ハイテクサイエンス製 分光光度計 U-3900H
(4)絶対発光量子収率測定
装置:浜松ホトニクス(株)製 絶対PL量子収率測定装置 C9920-02G
(5)発光寿命測定
装置:浜松ホトニクス(株)製 小型蛍光寿命測定装置 Quantaurus-Tau C11367-02
(6)LUMOエネルギー計算
ソフトウェア:Wavefunction社製 Spartan’16
計算方法:B3LYP/6-31G(d)
【0036】
また、略記号は以下の意味を表す。
BQ:1,4-ベンゾキノン[シグマアルドリッチジャパン(同)製]、LUMOエネルギー;-3.54eV
DDQ:2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン[シグマアルドリッチジャパン(同)製]、LUMOエネルギー;-5.10eV
TBQ:テトラブロモ-1,4-ベンゾキノン(別名:ブロマニル)[東京化成工業(株)製]、LUMOエネルギー;-4.24eV
OTCQ:テトラクロロ-1,2-ベンゾキノン(別名:o-クロラニル)[シグマアルドリッチジャパン(同)製]、LUMOエネルギー;-4.36eV
PTCQ:テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(別名:p-クロラニル)[東京化成工業(株)製]、LUMOエネルギー;-4.27eV
TFQ:テトラフルオロ-1,4-ベンゾキノン(別名:フルオラニル)[東京化成工業(株)製]、LUMOエネルギー;-4.20eV
BF3E:三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体[和光純薬工業(株)製、46.0~49.0%(BF3)]
PTSA:p-トルエンスルホン酸一水和物[東京化成工業(株)製]
TFA:トリフルオロ酢酸[和光純薬工業(株)製]
TfOH:トリフルオロメタンスルホン酸[和光純薬工業(株)製]
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
THF:テトラヒドロフラン
BP-Ph:1,2-ジフェニル-1,2-ジピロリルエチレン
BP-MeP:1,2-ビス(3,5-ジメチルフェニル)-1,2-ジピロリルエチレン
BP-CF3P:1,2-ビス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)-1,2-ジピロリルエチレン
BP-FP:1,2-ビス(3,5-ジフルオロフェニル)-1,2-ジピロリルエチレン
BP-MeOP:1,2-ビス(3,5-ジメトキシフェニル)-1,2-ジピロリルエチレン
Pc-Ph:9,10,19,20-テトラフェニルポルフィセン
Pc-MeP:9,10,19,20-テトラキス(3,5-ジメチルフェニル)ポルフィセン
Pc-CF3P:9,10,19,20-テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ポルフィセン
Pc-Ph/CF3P:9,10-ビス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)-19,20-ジフェニルポルフィセン
Pc-FP:9,10,19,20-テトラキス(3,5-ジフルオロフェニル)ポルフィセン
Pc-MeOP:9,10,19,20-テトラキス(3,5-ジメトキシフェニル)ポルフィセン
Pc-CF3P/MeOP:9,10-ビス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)-19,20-ビス(3,5-ジメトキシフェニル)ポルフィセン
Pc-FP/MeOP:9,10-ビス(3,5-ジフルオロフェニル)-19,20-ビス(3,5-ジメトキシフェニル)ポルフィセン
【0037】
[1]ビスピロール化合物の製造
[製造例1]ビスピロール化合物BP-Phの製造
窒素雰囲気下、予め2質量%塩酸で活性化した亜鉛粉末[ナカライテスク(株)製、純度≧85.0%]12.4g(190mmol)を乾燥THF285gに縣濁させた。この懸濁液へ、四塩化チタン[和光純薬工業(株)製]18.4g(96mmol)を0℃で滴下した。反応液を3時間還流させた後、2-ベンゾイルピロール[東京化成工業(株)製]4.4g(24mmol)をTHF22gに溶解させた溶液を滴下した。反応液を5時間還流させた後、1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、反応を停止させた。有機層を酢酸エチルで抽出し、蒸留水、飽和食塩水でそれぞれ洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で精製し、(E/Z)-BP-Ph1.6gを黄色固体として得た(収率44%)。
1H NMRスペクトルのN-Hプロトンの積分比から、得られたビスピロール化合物のE/Z比は、E:Z=2:1であった。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=8.09ppm(brs,2HZ,NH),7.50(m,10HE,Ph),7.24(brs,2HE,NH),7.10(m,10HZ,Ph),6.72(m,2HZ,Py),6.45(m,2HE,Py),6.19(m,2HZ,Py),5.97(m,4HZ/E,Py),5.39(m,2HE,Py)
【0038】
[製造例2]ビスピロール化合物(E)-BP-Phおよび(Z)-BP-Phの製造
製造例1と同様に反応させて得られた粗物を、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で分離し、(E)-BP-Phおよび(Z)-BP-Phをそれぞれ得た。なお、E体、Z体は、1H NMRスペクトルにより同定した。
【0039】
[製造例3-1]2-(3,5-ジメチルベンゾイル)ピロールの製造
窒素雰囲気下、三塩化アルミニウム[キシダ化学(株)製]8.0g(60mmol)を乾燥ジクロロメタン660gに縣濁させた。この懸濁液へ、3,5-ジメチルベンゾイルクロリド[東京化成工業(株)製]8.4g(50mmol)をゆっくり滴下した。反応液を5分間撹拌した後、ピロール[東京化成工業(株)製]3.7g(55mmol)を加えた。反応混合物を一晩撹拌した後、氷浴下で1mol/L塩酸を加え、反応を停止させた。有機層をジクロロメタンで抽出し、蒸留水、飽和食塩水でそれぞれ洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製し、2-(3,5-ジメチルベンゾイル)ピロール6.8gを白色固体として得た(収率68%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.69ppm(brs,1H,NH),7.52(s,2H,Ar),7.21(s,1H,Ar),7.15(m,1H,Py),6.89(m,1H,Py),6.34(m,1H,Py),2.39(s,6H,CH3
【0040】
[製造例3-2]ビスピロール化合物BP-MePの製造
亜鉛粉末の量を3.5g(54mmol)に、乾燥THFの量を71gに、四塩化チタンの量を4.6g(24mmol)に、2-ベンゾイルピロールTHF溶液を製造例3-1で得られた2-(3,5-ジメチルベンゾイル)ピロール1.2g(6.0mmol)をTHF22gに溶解させた溶液に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様に操作して(E/Z)-BP-MeP0.42gを黄色固体として得た(収率38%)。
1H NMRスペクトルのN-Hプロトンの積分比から、得られたビスピロール化合物のE/Z比は、E:Z=9:5であった。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=8.03ppm(brs,2HZ,NH),7.31(brs,2HE,NH),7.11(s,6HE,Ar),6.71(m,6HZ,Ar/2HZ,Py),6.46(m,2HE,Py),6.17(m,2HZ,Py),5.96(m,4HZ/E,Py),5.40(m,2HE,Py),2.38(s,24HZ/E,CH3
【0041】
[製造例4-1]2-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル)ピロールの製造
三塩化アルミニウムの量を9.6g(72mmol)に、乾燥ジクロロメタンの量を800gに、3,5-ジメチルベンゾイルクロリドを3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド[東京化成工業(株)製]16.6g(60mmol)に、ピロールの量を4.4g(66mmol)に、それぞれ変更した以外は、製造例3-1と同様に操作して2-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル)ピロール11.4gを白色固体として得た(収率62%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.64ppm(brs,1H,NH),8.35(s,2H,Ar),8.08(s,1H,Ar),7.25(m,1H,Py),6.87(m,1H,Py),6.43(m,1H,Py)
【0042】
[製造例4-2]ビスピロール化合物BP-CF3Pの製造
亜鉛粉末の量を3.5g(54mmol)に、乾燥THFの量を71gに、四塩化チタンの量を4.5g(24mmol)に、2-ベンゾイルピロールTHF溶液を製造例4-1で得られた2-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル)ピロール1.8g(5.9mmol)をTHF22gに溶解させた溶液に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様に操作して(E/Z)-BP-CF3P0.81gを黄色固体として得た(収率47%)。
1H NMRスペクトルのN-Hプロトンの積分比から、得られたビスピロール化合物のE/Z比は、E:Z=3:2であった。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=8.17ppm(brs,2HZ,NH),7.82(s,2HE,Ar),7.77(s,4HE,Ar),7.63(s,2HZ,Ar),7.50(s,4HZ,Ar),7.40(brs,2HE,NH),6.83(m,2HZ,Py),6.63(m,2HE,Py),6.26(m,2HZ,Py),6.09(m,2HE,Py),6.05(m,2HZ,Py),5.65(m,2HE,Py)
【0043】
[製造例5-1]2-(3,5-ジフルオロベンゾイル)ピロールの製造
三塩化アルミニウムの量を9.6g(72mmol)に、乾燥ジクロロメタンの量を800gに、3,5-ジメチルベンゾイルクロリドを3,5-ジフルオロベンゾイルクロリド[東京化成工業(株)製]10.6g(60mmol)に、ピロールの量を4.4g(66mmol)に、それぞれ変更した以外は、製造例3-1と同様に操作して2-(3,5-ジフルオロベンゾイル)ピロール6.9gを白色固体として得た(収率56%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.64ppm(brs,1H,NH),7.43(m,2H,Ar),7.20(m,1H,Ar),7.02(m,1H,Py),6.91(m,1H,Py),6.38(m,1H,Py)
【0044】
[製造例5-2]ビスピロール化合物BP-FPの製造
亜鉛粉末の量を14.5g(222mmol)に、乾燥THFの量を400gに、四塩化チタンの量を21.4g(112mmol)に、2-ベンゾイルピロールTHF溶液を製造例5-1で得られた2-(3,5-ジフルオロベンゾイル)ピロール5.9g(28mmol)をTHF44gに溶解させた溶液に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様に操作して、(E/Z)-BP-FP3.6gを黄色固体として得た(収率66%)。
1H NMRスペクトルのN-Hプロトンの積分比から、得られたビスピロール化合物のE/Z比は、E:Z=2:1であった。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=8.04ppm(brs,2HZ,NH),7.41(brs,2HE,NH),6.94(m,4HE,Ar),6.87(m,2HE,Ar),6.75(m,4HZ,Ar),6.65-6.61(m,2HZ,Ar/2Hz,Py),6.59(m,2HE,Py),6.20(m,2HZ,Py),6.05(m,2HE,Py),6.01(m,2HZ,Py),5.59(m,2HE,Py)
【0045】
[製造例6-1]2-(3,5-ジメトキシベンゾイル)ピロールの製造
三塩化アルミニウムの量を6.4g(48mmol)に、乾燥ジクロロメタンの量を530gに、3,5-ジメチルベンゾイルクロリドを3,5-ジメトキシベンゾイルクロリド[東京化成工業(株)製]8.0g(40mmol)に、ピロールの量を2.9g(44mmol)に、それぞれ変更した以外は、製造例3-1と同様に操作して2-(3,5-ジメトキシベンゾイル)ピロール5.0gを白色固体として得た(収率54%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.50ppm(brs,1H,NH),7.13(m,1H,Ar),7.03(m,2H,Ar),6.93(m,1H,Py),6.65(m,1H,Py),6.33(m,1H,Py),3.84(s,6H,OCH3
【0046】
[製造例6-2]ビスピロール化合物BP-MeOPの製造
亜鉛粉末の量を4.5g(69mmol)に、乾燥THFの量を116gに、四塩化チタンの量を6.6g(35mmol)に、2-ベンゾイルピロールTHF溶液を製造例6-1で得られた2-(3,5-ジメトキシベンゾイル)ピロール2.0g(8.6mmol)をTHF22gに溶解させた溶液に、シリカゲルクロマトグラフィーの溶媒をジクロロメタン-ヘキサン(体積比1:1)に、それぞれ変更した以外は、製造例1と同様に操作して、(E/Z)-BP-MeOP0.66gを黄色固体として得た(収率35%)。
1H NMRスペクトルのN-Hプロトンの積分比から、得られたビスピロール化合物のE/Z比は、E:Z=8:5であった。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=8.06ppm(brs,2HZ,NH),7.51(brs,2HE,NH),6.70(m,2HZ,Ar),6.63(m,4HE,Ar),6.56(m,2HE,Ar),6.50(m,2HE,Py),6.32(m,4HZ,Ar),6.25(m,2HZ,Py),6.17(m,2HZ,Py),6.02(m,2HZ,Py),5.97(m,2HE,Py),5.50(m,2HE,Py),3.80(s,12HE,OCH3),3.59(s,12HZ,OCH3
【0047】
[2]ポルフィセン化合物の製造
[実施例1]Pc-Phの製造
【化9】
【0048】
製造例1で得られた(E/Z)-BP-Ph100mg(0.322mmol)を、ジクロロメタン265gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA30.6mg(0.161mmol、ビスピロール化合物に対し0.5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ237mg(0.966mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で3時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で精製し、Pc-Ph35mgを紫白色固体として得た(収率35%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.44ppm(d,4H,Py),8.44(d,4H,Py),7.70(m,8H,Ph),7.39-7.36(m,12H,Ph),5.98(brs,2H,NH)
【0049】
[実施例2~14]Pc-Phの製造
各試剤を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様に操作してPc-Phを得た。収率を表1に併せて示す。
【0050】
[比較例1]Pc-Phの製造
(E/Z)-BP-Phを(Z)-BP-Phに、PTCQをDDQ219mg(0.966mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様に操作してPc-Phを得た。収率を表1に併せて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示されるように、LUMOエネルギーが-5.0eV以上の酸化剤(PTCQ、OTCQ、TFQ、TBQ、BQ)を用いた各実施例では、酸の種類や添加量によって変動はあるものの、LUMOエネルギー;-5.10eVのDDQを酸化剤として用いた比較例1に比べ、Pc-Phの収率が高いことがわかる。
【0053】
[実施例15]Pc-MePの製造
【化10】
【0054】
製造例3-2で得られた(E/Z)-BP-MeP100mg(0.273mmol)を、ジクロロメタン212gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA260mg(1.37mmol、ビスピロール化合物に対し5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ200mg(0.813mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で3時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で精製し、Pc-MeP46mgを紫白色固体として得た(収率46%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.43ppm(d,4H,Py),8.53(d,4H,Py),7.31(s,8H,Ar),7.00(s,4H,Ar),5.95(brs,2H,NH),2.37(s,24H,CH3
【0055】
[実施例16]Pc-CF3Pの製造
【化11】
【0056】
製造例4-2で得られた(E/Z)-BP-CF3P100mg(0.172mmol)を、ジクロロメタン133gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、TfOH12.9mg(0.086mmol、ビスピロール化合物に対し0.5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ126mg(0.512mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で3時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で精製し、Pc-CF3P87mgを紫白色固体として得た(収率87%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.61ppm(d,4H,Py),8.48(d,4H,Py),8.15(s,8H,Ar),7.98(s,4H,Ar),5.69(brs,2H,NH)
【0057】
[実施例17]Pc-FPの製造
【化12】
【0058】
製造例5-2で得られた(E/Z)-BP-FP2.00g(5.23mmol)を、ジクロロメタン4,000gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA496mg(2.61mmol、ビスピロール化合物に対し0.5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ4.00g(16.3mmol、ビスピロール化合物に対し3.1eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で3時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で精製し、Pc-FP1.43gを紫白色固体として得た(収率72%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.52ppm(d,4H,Py),8.50(d,4H,Py),7.29(m,8H,Ar),6.99(m,4H,Ar),5.67(brs,2H,NH)
【0059】
[実施例18]Pc-Ph/CF3Pの製造
【化13】
【0060】
製造例1で得られた(E/Z)-BP-Ph54mg(0.174mmol)、および製造例4-2で得られた(E/Z)-BP-CF3P100mg(0.172mmol)を、ジクロロメタン265gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA30mg(0.158mmol、ビスピロール化合物に対し0.5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ245mg(0.997mmol、ビスピロール化合物に対し2.9eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で3時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比2:8))で精製し、Pc-Ph/CF3P12mgを紫白色固体として得た(収率8%)。また、同時に、Pc-Ph15mg(収率14%)、Pc-CF3P68mg(収率34%)を併せて得た。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.56ppm(d,2H,Py),9.49(d,2H,Py),8.51(d,2H,Py),8.39(d,2H,Py),8.16(s,4H,Ar),7.95(s,2H,Ar),7.71(dd,4H,Ph),7.41(m,6H,Ph),5.92(brs,1H,NH),5.81(brs,1H,NH)
【0061】
[実施例19]Pc-MeOPの製造
【化14】
【0062】
製造例6-2で得られた(E/Z)-BP-MeOP130mg(0.302mmol)を、ジクロロメタン265gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA57.4mg(0.302mmol、ビスピロール化合物に対し1eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ222mg(0.903mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で3時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-メタノール(体積比98:2))で精製し、Pc-MeOP41mgを紫色固体として得た(収率32%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.43ppm(d,4H,Py),8.60(d,4H,Py),6.95(d,8H,Ar),6.56(t,4H,Ar),5.87(brs,2H,NH),3.80(s,24H,OCH3
【0063】
[実施例20]Pc-CF3P/MeOPの製造
【化15】
【0064】
製造例4-2で得られた(E/Z)-BP-CF3P27mg(0.046mmol)、および製造例6-2で得られた(E/Z)-BP-MeOP20mg(0.046mmol)を、ジクロロメタン80gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA8.8mg(0.046mmol、ビスピロール化合物に対し0.5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ68mg(0.277mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で6時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタンで洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比1:1))、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン)、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-メタノール(体積比98:2))で順に精製し、Pc-CF3P/MeOP4mgを紫色固体として得た(収率9%)。また、同時に、Pc-CF3P13mg(収率24%)、Pc-MeOP8mg(収率20%)を併せて得た。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.53ppm(d,2H,Py),9.46(d,2H,Py),8.68(d,2H,Py),8.38(d,2H,Py),8.14(s,4H,Ar),7.94(s,2H,Ar),6.94(d,4H,Ar),6.57(t,2H,Ar),5.84(brs,1H,NH),5.77(brs,1H,NH),3.81(s,12H,OCH3
【0065】
[実施例21]Pc-FP/MeOPの製造
【化16】
【0066】
製造例5-2で得られた(E/Z)-BP-FP18mg(0.046mmol)、および製造例6-2で得られた(E/Z)-BP-MeOP20mg(0.046mmol)を、ジクロロメタン80gに溶解した。この溶液に、遮光/窒素雰囲気下、PTSA8.8mg(0.046mmol、ビスピロール化合物に対し0.5eq.)を加え、室温(およそ23℃)で一晩撹拌した。そこへ、PTCQ68mg(0.277mmol、ビスピロール化合物に対し3eq.)を加え、大気下、室温(およそ23℃)で6時間撹拌した。反応混合物を、シリカゲル/アルミナ混合物(質量比9:1)を充填したショートカラムに通し、さらにジクロロメタン、ジクロロメタン-メタノール(体積比98:2)で順に洗い流した。得られた溶液の溶媒を減圧留去し、粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-ヘキサン(体積比3:1))、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン-メタノール(体積比98:2))で順に精製し、Pc-FP/MeOP7mgを紫色固体として得た(収率19%)。また、同時に、Pc-FP14mg(収率40%)、Pc-MeOP6mg(収率15%)を併せて得た。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=9.48ppm(d,2H,Py),9.44(d,2H,Py),8.65(d,2H,Py),8.43(d,2H,Py),7.30(m,4H,Ar),6.96(m,2H,Ar),6.93(d,4H,Ar),6.57(t,2H,Ar),5.84(brs,1H,NH),5.75(brs,1H,NH),3.80(s,12H,OCH3
【0067】
上記実施例15~21のまとめを表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示されるように、種々のビスピロール化合物(BP-MeP、BP-CF3P、BP-FP、BP-MeOP)に対しても、同様に高い収率でポルフィセン化合物が得られることがわかる。また、2種のビスピロール化合物を用いた場合(実施例18,20,21)、これまで反応収率が低く単離が困難であったヘテロカップリング体(Pc-Ph/CF3P、Pc-CF3P/MeOP、Pc-FP/MeOP)についても、通常の操作で得られることがわかる。
【0070】
また、実施例19で得られたPc-MeOP、実施例20で得られたPc-CF3P/MeOPおよび実施例21で得られたPc-FP/MeOPについて、単結晶X線構造解析の結果を図1~3および表4~6にそれぞれ示す。
さらに、これらの化合物の1×10-6mol/Lジクロロメタン溶液について、UV-Visスペクトル、並びに紫外光(385nm)照射下における発光スペクトル、絶対発光量子収率、および発光寿命を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
[3]ポルフィセン金属錯体の製造
[参考例1]Cu(Pc-Ph)の製造
【0076】
【化17】
【0077】
Pc-Ph20mg(0.033mmol)、および酢酸銅(II)一水和物[東京化成工業(株)製]33mg(0.165mmol、ポルフィセン化合物に対し5eq.)を、DMF3gに溶解した。この溶液を10mLのマイクロウェーブ反応用耐圧チューブに封入し、出力300Wでマイクロウェーブを照射しながら、80℃で10分間、さらに150℃で20分間反応させた。反応混合物にジクロロメタン40gを加えて得られた溶液を、蒸留水、飽和食塩水でそれぞれ洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して粗物を得た。この粗物をシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン)で精製し、ポルフィセン銅錯体Cu(Pc-Ph)21mgを紫色固体として得た(収率93%)。
得られたCu(Pc-Ph)の1×10-5mol/Lジクロロメタン溶液について、UV-Visスペクトルを測定した。得られた結果を表7に示す。
【0078】
[参考例2]Pt(Pc-Ph)の製造
【0079】
【化18】
【0080】
酢酸銅(II)一水和物をビス(ベンゾニトリル)ジクロロ白金(II)[東京化成工業(株)製]78mg(0.165mmol、ポルフィセン化合物に対し5eq.)に、反応温度および時間を80℃で10分間、さらに250℃で30分間に、それぞれ変更した以外は、参考例1と同様に操作し、ポルフィセン白金錯体Pt(Pc-Ph)24mgを紫色固体として得た(収率91%)。
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ=8.94ppm(d,4H,Py),8.03(d,4H,Py),7.64(m,8H,Ph),7.32(m,12H,Ph)
また、得られたPt(Pc-Ph)の1×10-5mol/Lジクロロメタン溶液について、UV-Visスペクトルを測定した。得られた結果を表7に示す。
【0081】
【表7】
図1
図2
図3