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特許7233740熱硬化性樹脂組成物、それを含むフィルム、ならびにそれらを用いた多層配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、それを含むフィルム、ならびにそれらを用いた多層配線板
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20230228BHJP
   C08F 4/34 20060101ALI20230228BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230228BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C08F299/02
C08F4/34
C08J5/18 CEZ
H05K1/03 610H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020522125
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2019020331
(87)【国際公開番号】W WO2019230531
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018102458
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】黒川 津与志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】寺木 慎
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/148155(WO,A1)
【文献】特開2017-031276(JP,A)
【文献】特開2016-089137(JP,A)
【文献】特開2010-111758(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024678(WO,A1)
【文献】特開2007-262191(JP,A)
【文献】特開2008-248141(JP,A)
【文献】特開2009-040934(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076167(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/02
C08F 4/34
C08J 5/18
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)末端にスチレン基を有しフェニレンエーテル骨格を有する熱硬化性樹脂、
(B)スチレン系熱可塑性エラストマー、
(C)スルフィド系シランカップリング剤
および、
(D)ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤
を含有し、
前記(A)末端にスチレン基を有しフェニレンエーテル骨格を有する熱硬化性樹脂および前記(B)スチレン系熱可塑性エラストマーの合計100質量部に対する前記(C)スルフィド系シランカップリング剤の含有量が、0.1~5.0質量部であり、
前記(A)末端にスチレン基を有する熱硬化性樹脂および前記(B)スチレン系熱可塑性エラストマーの合計100質量部に対する前記(D)ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤の含有量が、0.1~5.0質量部である、
ことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物(但し、(1)リン-窒素系難燃剤、ならびに、(2)キュリー温度が-50℃以下の第2族~第6族の金属酸化物および第2族~第6族の金属酸化物の塩を含有する場合を除く)
【請求項2】
前記成分(A)の熱硬化性樹脂における数平均分子量(Mn)が、1000~5000である、
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(B)のスチレン系熱可塑性エラストマーが水添されている、
請求項1または2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)スルフィド系シランカップリング剤が、ポリスルフィド系シランカップリング剤である、
請求項1~3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(E)シリカフィラーをさらに含む、
請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(E)成分のシリカフィラーが、シランカップリング剤で表面処理されている、
請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物(但し、当該熱硬化性樹脂組成物が、ビスマレイミドを含有する場合を除く)。
【請求項8】
前記(D)ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤が、ジクミルパーオキサイドである、
請求項1~7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含むフィルム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項11】
請求項9に記載のフィルムの硬化物。
【請求項12】
請求項10に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む多層配線板。
【請求項13】
請求項11に記載のフィルムの硬化物を含む多層配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性樹脂組成物、それを含む樹脂フィルム、ならびにそれらを用いた多層配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器に使用されるプリント配線板は、機器の小型化、軽量化、および、高性能化が進んでいる。特に、多層プリント配線板に対し、さらなる高多層化、高密度化、薄型化、軽量化、高信頼性、および、成形加工性等が要求されている。
また、最近のプリント配線板における伝送信号の高速化要求に伴い、伝送信号の高周波化が顕著に進んでいる。これにより、プリント配線板に使用される材料に対して、高周波領域、具体的には、周波数1GHz以上の領域での電気信号損失を低減できることが求められる。
【0003】
一方、多層プリント配線板に使用される層間接着剤、および、プリント配線板の表面保護膜(すなわち、カバーレイフィルム)として用いられる接着フィルムについても、高周波領域で優れた電気特性(低誘電率(ε)および低誘電正接(tanδ))を示すことが求められる。
【0004】
本願出願人は、特許文献1において、樹脂フィルム、および、該樹脂フィルムの製造に用いる樹脂組成物を提案している。この樹脂フィルムは、FPCの配線をなす金属箔、および、ポリイミドフィルム等のFPCの基板材料に対して、優れた接着強度を有する。かつ、この樹脂フィルムは、周波数1~10GHzの高周波領域で優れた電気特性を示す。具体的には、この樹脂フィルムは、周波数1~10GHzの領域で、低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-89137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の樹脂組成物では、高周波領域で優れた電気特性を得るために、末端にスチレン基を有する熱硬化性樹脂が用いられている。
一方、低熱膨張係数(CTE)の観点から、熱硬化性樹脂にガラスクロスあるいはフィラーを配合することが知られている。
ガラスクロスあるいはフィラーを用いると、熱硬化性樹脂における銅箔への接着強度が低下する。このため、銅箔への接着力の向上のため、特許文献1では、熱硬化性樹脂にスルフィド系シランカップリング剤を添加することを提案している。
【0007】
しかしながら、本願開示者は、以下の点を見出した。すなわち、末端スチレン基の熱硬化性樹脂は、硬化するために、高温での加熱が必要である。さらに、熱硬化性樹脂にスルフィド系シランカップリング剤を添加すると、ラジカル重合反応温度が、さらに高温側へシフトしてしまう。
後述する実施例では、硬化特性の評価として、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)で得られる発熱ピークが用いられている。これに関し、本願開示者は、以下の点を見出した。すなわち、末端スチレン基の熱硬化性樹脂は、DSCで得られる発熱ピークが200℃程度と高い。さらに、末端スチレン基の熱硬化性樹脂にスルフィド系シランカップリング剤を添加すると、DSCで得られる発熱ピークが、さらに30℃以上上昇する。この現象により、スルフィド系シランカップリング剤を添加しない場合の硬化条件(例えば、200℃、60分)では、熱硬化性樹脂が充分に硬化せず、本来の特性が得られない可能性のあることがわかった。
【0008】
本開示における1つの目的は、以下のようなフィルム、および、該フィルムの製造に用いられる熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。このフィルムは、プリント基板の配線をなす金属箔および基板材料に対して、優れた接着強度を有する。さらに、このフィルムは、高周波領域で優れた電気特性を示す。具体的には、このフィルムは、周波数1~100GHzの領域で、低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示す。さらに、このフィルムは、より優れた硬化性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に関して提供される熱硬化性樹脂組成物(本熱硬化性樹脂組成物)は、
(A)末端にスチレン基を有する熱硬化性樹脂、
(B)スチレン系熱可塑性エラストマー、
(C)スルフィド系シランカップリング剤
および、
(D)ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤
を含有することを特徴とする。
【0010】
本熱硬化性樹脂組成物において、前記成分(A)の熱硬化性樹脂は、末端にスチレン基を有しフェニレンエーテル骨格を有する熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0011】
本熱硬化性樹脂組成物において、前記成分(A)の熱硬化性樹脂における数平均分子量(Mn)が、1000~5000であることが好ましい。
【0012】
本熱硬化性樹脂組成物において、前記成分(B)のスチレン系熱可塑性エラストマーが、水添されていることが好ましい。
【0013】
本熱硬化性樹脂組成物において、前記(C)スルフィド系シランカップリング剤が、ポリスルフィド系シランカップリング剤であることが好ましい。
【0014】
本熱硬化性樹脂組成物は、(E)シリカフィラーをさらに含むことが好ましい。
【0015】
本熱硬化性樹脂組成物において、前記(E)成分のシリカフィラーが、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。
【0016】
また、本開示の他の態様として、本熱硬化性樹脂組成物を含むフィルム(本フィルム)が提供される。
【0017】
また、本開示の他の態様として、本熱硬化性樹脂組成物の硬化物、および、本フィルムの硬化物が提供される。
【0018】
また、本開示の他の態様として、本熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む多層配線板、および、本フィルムの硬化物を含む多層配線板が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本熱硬化性樹脂組成物は、スルフィド系シランカップリング剤を使用しても、使用しなかったときと同条件で、充分に硬化することが可能である。
本フィルムは、プリント基板の配線をなす金属箔および基板材料に対して、優れた接着強度を有する。さらに、本フィルムは、高周波領域で優れた電気特性を示す。具体的には、本フィルムは、周波数1~100GHzの領域で、低誘電率(ε)、および、低誘電正接(tanδ)を示す。そのため、本フィルムは、電気・電子用途の接着フィルム、および、プリント配線板のカバーレイフィルムに好適である。また、本フィルムは、半導体装置の基板間の層間接着に好適である。本フィルムは、特に、ミリ波基板用の接着フィルムとして好適である。また、本フィルムは、FPC自体としても使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の熱硬化性樹脂組成物の一実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、以下に示す成分(A)~成分(D)を含有する。
【0021】
(A)末端にスチレン基を有する熱硬化性樹脂
成分(A)の末端にスチレン基を有する熱硬化性樹脂(以下、本明細書において、「成分(A)の熱硬化性樹脂」と記載する。)は、末端にスチレン基を有しフェニレンエーテル骨格を有する熱硬化性樹脂であることが好ましい。
末端にスチレン基を有しフェニレンエーテル骨格を有する熱硬化性樹脂は、下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【化1】
式(1)中、-(O-X-O)-は、下記一般式(2)または(3)で表される。
【化2】
【化3】
【0022】
式(2)中、R1,R2,R3,R7,およびR8は、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R4,R5,およびR6は、水素原子または炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0023】
式(3)中、R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,およびR16は、水素原子または炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。-A-は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状または環状の2価の炭化水素基である。
【0024】
式(1)中、-(Y-O)-は、一般式(4)で表される。-(Y-O)-では、1種類の構造または2種類以上の構造が、ランダムに配列している。
【化4】
式(4)中、R17およびR18は、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R19およびR20は、水素原子または炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0025】
式(1)中、aおよびbは、0~100の整数である。aおよびbの少なくともいずれか一方は、0でない。
【0026】
式(3)における-A-としては、例えば、メチレン、エチリデン、1-メチルエチリデン、1,1-プロピリデン、1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、および1-フェニルエチリデン等の、2価の有機基が挙げられる。ただし、式(3)における-A-は、これらに限定されない。
【0027】
式(1)で示される化合物としては、R1,R2,R3,R7,R8,R17,およびR18が炭素数3以下のアルキル基であり、R4,R5,R6,R9,R10,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R19,およびR20が水素原子または炭素数3以下のアルキル基であるものが好ましい。特に、一般式(2)または一般式(3)で表される-(O-X-O)-が、一般式(5)、一般式(6)、または一般式(7)で表される化合物であること、および、一般式(4)で表される-(Y-O)-が、式(8)または式(9)で表される化合物であるか、あるいは、式(8)で表される化合物と式(9)で表される化合物とがランダムに配列した構造であることが、より好ましい。
【0028】
【化5】
【化6】
【化7】
【0029】
【化8】
【化9】
【0030】
式(1)で示される化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物とを酸化カップリングさせることによって得られる2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基を、ビニルベンジルエーテル化することで、式(1)で示される化合物を製造することができる。
【0031】
成分(A)の熱硬化性樹脂の数平均分子量は、GPC法によるポリスチレン換算で1000~5000の範囲にあることが好ましく、1000~3000の範囲にあることがより好ましく、1000~2500の範囲にあることがさらに好ましい。数平均分子量が1000以上であれば、本実施形態の樹脂組成物を塗膜状にした際に、べたつきが生じ難い。また、数平均分子量が5000以下であれば、本実施形態の樹脂組成物における溶剤への溶解性の低下を抑制できる。また、数平均分子量が上記範囲にある成分(A)の熱硬化性樹脂を用いることにより、本実施形態の樹脂組成物における高周波での電気特性、および、硬化性が向上する。
【0032】
(B)スチレン系熱可塑性エラストマー
成分(B)のスチレン系熱可塑性エラストマーとは、スチレン、その同族体もしくはその類似体を含有する熱可塑性エラストマーを意味する。
分子中の不飽和結合の存在は、誘電正接(tanδ)の増大を招く。このため、成分(B)のスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水添されたものを用いることが好ましい。水添されたスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることにより、水添されていないものを用いた場合と比較して、さらに低い誘電正接(tanδ)が得られる。
成分(B)としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、およびスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、ならびに、これらの共重合体の水添物が挙げられる。ここで例示した化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上のものが混合されて用いられてもよい。
【0033】
成分(A)と、成分(B)との質量比は、成分(A):成分(B)=10:90~90:10であることが好ましく、20:80~80:20であることがより好ましく、20:80~50:50であることがさらに好ましい。
成分(B)が多くなると、相対的に成分(A)が減少するため、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化性が悪くなり、ピール強度等の特性が得られにくくなる。反対に、成分(A)が多くなると、相対的に成分(B)が減少するため、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を含むフィルムおよびその硬化物が、硬く脆くなり、フィルム性が損なわれる。このため、割れが発生したり、ピール強度等の硬化物としての物性が低下したりするおそれがある。
【0034】
(C)スルフィド系シランカップリング剤
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に、成分(C)として、スルフィド系シランカップリング剤を含有することにより、この熱硬化性樹脂組成物を含むフィルムの高周波での電気特性を維持しつつ、プリント基板の配線として広く用いられる銅箔との接着強度が向上する。その結果、熱硬化性樹脂組成物が接着後に剥がれるリスクを低減できる。
スルフィド系シランカップリング剤は、スルフィド結合を2個以上有するポリスルフィド系シランカップリング剤であることが好ましい。
ポリスルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリブトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジメトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジブトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジメトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド、および、ビス(ジブトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0035】
ポリスルフィド系シランカップリング剤におけるスルフィド結合の数は、密着性の観点から、2、3、または、4であることが好ましく、4であることが特に好ましい。
【0036】
ポリスルフィド系シランカップリング剤では、安定性の観点から、Siに結合するアルコキシ基は、メトキシ基またはエトキシ基であることが好ましく、エトキシ基であることがより好ましい。
【0037】
成分(C)のスルフィド系シランカップリング剤は、成分(A)および成分(B)の合計100質量部に対し、0.1~5.0質量部含まれることが好ましく、0.1~3.0質量部含まれることがより好ましく、0.1~2.0質量部含まれることがさらに好ましい。
【0038】
(D)ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物に、成分(D)として、ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤を配合することにより、成分(A)として末端にスチレン基を有する熱硬化性樹脂を含有するとともに、成分(C)としてスルフィド系シランカップリング剤を含有するにもかかわらず、ラジカル重合反応温度が高温側にシフトすることを抑制できる。ラジカル重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、およびケトンパーオキサイド等も存在する。しかし、これらのラジカル重合開始剤では、ラジカル重合反応温度が高温側にシフトすることを抑制することが困難である。
成分(D)のジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、常温で固体のものを用いることが好ましい。常温で固体のものは、揮発しにくいため、取扱性に優れる。
成分(D)のジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤は、保存安定性の観点から、ジクミルパーオキサイド(日油株式会社製、品名:パークミルD)であることが好ましい。
成分(D)のジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤は、成分(A)および成分(B)の合計100質量部に対し、0.1~5.0質量部含まれることが好ましく、0.1~3.0質量部含まれることがより好ましく、0.1~2.0質量部含まれることがさらに好ましい。
【0039】
本開示の熱硬化樹脂組成物は、上記成分(A)~成分(D)以外に、以下に述べる成分を、必要に応じて含有してもよい。
【0040】
(E)シリカフィラー
成分(E)として、シリカフィラーが含有された場合、本開示の熱硬化性樹脂組成物を含むフィルムの熱膨張係数(CTE)を低減することができる。
【0041】
成分(E)のシリカフィラーは、シランカップリング剤で表面処理されていることが、耐湿信頼性(誘電率、誘電正接の変化率が小さいこと)が向上するため好ましい。
表面処理に使用するシランカップリング剤は、下記一般式(10)で表されるシランカップリング剤であることが好ましい。
【化10】
上記式中、R1~R3は、それぞれ独立して、炭素数が1~3のアルキル基であり、R4は、少なくとも末端に不飽和二重結合を有する官能基であり、nは、3~9である。ピール強度向上の観点から、一般式(10)のR4は、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、および(メタ)アクリロキシ基のいずれかであることが、好ましい。一般式(10)において、nが5~9であると、熱硬化性樹脂組成物の硬化物における外力に対する応力が緩和されるため、優れたはんだ耐熱性を得られる。特に、R4がビニル基であると、極めて優れたはんだ耐熱性を得られる。
ピール強度向上の観点から、一般式(10)のR4は、ビニル基であることが好ましい。また、低熱膨張性の観点から、一般式(10)において、nは、3又は4であることが好ましい。
【0042】
一般式(10)で表されるシランカップリング剤としては、オクテニルトリアルコキシシランおよび(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランが、挙げられる。オクテニルトリアルコキシシランとしては、オクテニルトリメトキシシラン、およびオクテニルトリエトキシシラン等が、挙げられる。(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシランとしては、(メタ)アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、および(メタ)アクリロキシオクチルトリエトキシシラン等が、挙げられる。ピール強度向上の観点から、オクテニルトリメトキシシランが用いられることが、より好ましい。一般式(10)で表されるシランカップリング剤の市販品としては、信越化学製オクテニルトリメトキシシラン(品名:KBM-1083)、および、信越化学製メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(品名:KBM-5803)が、挙げられる。
また、上記以外のシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の市販品としては、信越化学製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(品名:KBM-503)が、挙げられる。
表面処理に使用されるシランカップリング剤は、単独でも2種以上であってもよい。
【0043】
成分(E)のシリカフィラーとしては、溶融シリカ、普通珪石、球状シリカ、破砕シリカ、結晶性シリカ、および非晶質シリカ等が挙げられ、特に限定されない。シリカフィラーの分散性、熱硬化性樹脂組成物の流動性、硬化物の表面平滑性、誘電特性、低熱膨張性、および接着性等の観点からは、シリカフィラーは、球状の溶融シリカであることが望ましい。また、シリカフィラーの平均粒径(球状でない場合には、その平均最大径)は、特に限定されない。ただし、比表面積が小さいと、硬化後の耐湿性が向上することを考慮すると、シリカフィラーの平均粒径は、0.05~20μmであることが好ましく、0.1~15μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることがさらに好ましい。ここで、シリカフィラーの平均粒径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置により測定された、体積基準のメジアン径を意味する。成分(E)として使用されるシリカフィラーは、単独でも2種以上であってもよい。
【0044】
シランカップリング剤を用いて、シリカフィラーを表面処理する方法は、特に限定されず、例えば、乾式法および湿式法等が、挙げられる。
【0045】
乾式法では、シリカフィラーと、シリカフィラーの表面積に対して適切な量のシランカップリング剤とを、撹拌装置に入れ、適切な条件で撹拌する。あるいは、予めシリカフィラーを攪拌装置に入れ、適切な条件で攪拌しながら、シリカフィラーの表面積に対して適切な量のシランカップリング剤を、原液または溶液にて、滴下または噴霧等により添加する。攪拌によって、シリカフィラー表面にシランカップリング剤を均一に付着させ、(加水分解させることによって)表面処理を実施する。撹拌装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー等の、高速回転で撹拌・混合ができるミキサーが挙げられる。ただし、撹拌装置は、特に限定されない。
【0046】
湿式法では、表面処理されるシリカフィラーの表面積に対して、十分な量のシランカップリング剤を、水または有機溶剤に溶解させることによって、表面処理溶液を作成する。この表面処理溶液に、シリカフィラーを添加し、スラリー状になるよう撹拌することにより、シランカップリング剤とシリカフィラーとを十分に反応させる。その後、濾過および/または遠心分離等を用いて、シリカフィラーを表面処理溶液から分離し、加熱乾燥して、表面処理を行う。
【0047】
成分(E)としてシリカフィラーを含める場合、シリカフィラーは、成分(A)および成分(B)の合計100質量部に対し、50~600質量部含まれることが好ましく、100~500質量部含まれることがより好ましく、200~400質量部含まれることがさらに好ましい。これらの範囲は、シリカフィラーの表面処理が行われている場合には、表面処理剤(例えばシランカップリング剤)を含めた質量の範囲である。
【0048】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上記成分(A)~成分(E)以外の成分を、必要に応じてさらに含有してもよい。このような成分の具体例としては、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤、その他の熱硬化性樹脂、その他の熱硬化性樹脂の硬化剤、熱可塑性樹脂、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、揺変剤、難燃剤、ブルーミング防止剤、ブロッキング防止剤、および分散剤などを挙げられる。各成分(配合剤)の種類および配合量は、常法通りである。
【0049】
(熱硬化性樹脂組成物の調製)
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、慣用の方法により製造されることができる。
例えば、溶剤の存在下で、上記成分(A)~成分(D)(熱硬化性樹脂組成物が、上記成分(E)および/または他の任意成分を含有する場合には、さらにこれらの任意成分)を、加熱攪拌混合機により溶解および混合する。あるいは、上記成分(A)~成分(D)を、これらが所望の含有割合となるように、それぞれ所定の溶剤に溶解させ、それら(熱硬化性樹脂組成物が、上記成分(E)および/または他の任意成分を含有する場合には、さらにこれらの任意成分)を、攪拌混合機に所定量投入し、混合および攪拌してもよい。成分(E)等のフィラー等が含有される場合には、さらに分散装置を使用することが望ましい。
【0050】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、以下に示す好適な特性を有している。
【0051】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物では、その熱硬化物が、高周波での電気特性に優れている。具体的には、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物では、周波数1~100GHzの領域での誘電率(ε)が、3.5以下であることが好ましく、3.3以下であることがより好ましい。また、周波数1~100GHzの領域での誘電正接(tanδ)が、0.004以下であることがより好ましく、0.003以下であることがより好ましい。
周波数1~100GHzの領域での誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)が上記の範囲であることにより、高周波領域での電気信号損失を低減することができる。
【0052】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物では、その熱硬化物が、高周波での電気特性の耐湿信頼性にも優れている。具体的には、後述する実施例に記載の手順で85℃/85%RHの条件下で1000時間放置した後の、周波数1~100GHzの領域での誘電率(ε)の変化率が、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。また、周波数1~100GHzの領域での誘電正接の変化率(tanδ)が、120%以下であることがより好ましく、80%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、その熱硬化物が十分な接着強度を有している。具体的には、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物では、JIS K6854-2に準拠して測定された銅箔(光沢面及び粗化面)に対するピール強度(180度ピール)が、4N/cm以上であることが好ましく、6N/cm以上であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物では、示差走査熱量計(DSC)で測定された場合の発熱ピークが、190℃以下であり、(A)成分単独でのDSC発熱ピークの200℃よりも低い。このため、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、(C)成分を添加しなかった場合と同様の所定の硬化条件200℃×60分で、充分に硬化されることが可能である。
【0055】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を含むフィルム(以下、本明細書において、「本実施形態のフィルム」と記載する。)は、公知の方法により得ることができる。例えば、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を、溶剤で適正な粘度に希釈して、塗工液を得る。この塗工液を、支持体の少なくとも片面に塗布し、乾燥させる。これにより、支持体付のフィルム、または、支持体から剥離したフィルムとして、本実施形態のフィルムを提供することができる。
【0056】
塗工液として使用可能な溶剤としては、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエンおよびキシレン等の芳香族溶剤;ならびに、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミドおよび1-メチル2-ピロリドン等の高沸点溶剤等が挙げられる。溶剤の使用量は、特に限定されず、塗工液を最適な粘度に調整できるような量であればよい。溶剤の使用量は、好ましくは、固形分に対して20~70質量%である。
【0057】
支持体は、フィルムの製造方法および用途に応じて、適宜選択され、特に限定されない。支持体としては、例えば、銅およびアルミニウム等の金属箔、ポリイミド、液晶ポリマーおよびPTFE等の樹脂からなる基材、ならびに、ポリエステルおよびポリエチレン等の樹脂のキャリアフィルム等が挙げられる。
【0058】
塗工液を塗布する方法は、特に限定されない。この塗布方法としては、例えば、スロットダイ方式、グラビア方式、およびドクターコーター方式等が挙げられる。塗布方法は、所望のフィルムの厚みなどに応じて、適宜選択されることができる。
【0059】
本実施形態のフィルムの厚みは、用途に応じて要求される基板厚み、部品厚み、および機械的強度などの特性に基づいて、適宜設計される。本実施形態のフィルムの厚みは、一般に、10~200μmである。
【0060】
乾燥の条件は、塗工液に使用される溶剤の種類および量、塗工液の塗布の厚み、ならびに、乾燥装置の相違などに応じて、適宜設計され、特に限定されない。例えば、乾燥は、60~150℃の温度で、大気圧下で行われることができる。
【0061】
本実施形態のフィルムを、電気・電子用途の接着フィルムとして使用する場合、その使用手順は以下の通りである。
本実施形態のフィルムを用いて接着される対象物のうちの一方の対象物の被接着面に、本実施形態のフィルムを載置する。その後、他方の対象物を、その被接着面がフィルムの露出面と接するように、載置する。ここで、支持体付のフィルムを用いる場合、フィルムの露出面が一方の対象物の被接着面に接するように、フィルムを載置する。そして、被着面上に、該フィルムを仮圧着する。ここで、仮圧着時の温度は、例えば130℃とすることができる。仮圧着時に、支持体を剥離することによって、フィルムを露出させる。
次に、露出されたフィルム(絶縁フィルム)の面上に、他方の対象物を、その被接着面がフィルムの露出面と接するように、載置する。これらの手順を実施した後、所定温度及び所定時間での熱圧着を実施し、その後、加熱硬化を実施する。
熱圧着時の温度は、好ましくは100~160℃である。熱圧着の時間は、好ましくは0.5~3分である。
加熱硬化の温度は、好ましくは160~240℃であり、より好ましくは180~220℃である。加熱硬化の時間は、好ましくは30~120分である。
なお、仮圧着工程および熱圧着工程は、省略されても良い。
なお、予めフィルム化されたものを使用する代わりに、以下の手順が実施されてもよい。すなわち、溶剤で適正粘度に希釈した本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を、一方の接着対象物の被接着面に塗布し、乾燥させる。その後、乾燥された熱硬化性樹脂組成物上に、上記した一方の対象物を載置する。
【0062】
本実施形態のフィルムをカバーレイフィルムとして使用する場合、その使用手順は以下の通りである。
本実施形態のフィルムを、主面に配線パターンが形成された配線付樹脂基板の所定の位置、すなわち、配線パターンが形成された側の、カバーレイフィルムで被覆する位置に、配置する。その後、所定温度及び所定時間で、仮圧着、熱圧着および加熱硬化を実施する。なお、仮圧着工程および熱圧着工程は、省略されても良い。
仮圧着、熱圧着および加熱硬化の温度および時間は、上記電気・電子用途の接着フィルムとして使用する場合と同様である。
【0063】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物および本実施形態のフィルムの硬化物は、その優れた高周波での電気特性により、主面上に配線パターンが形成されている配線付樹脂基板を含む、フレキシブル配線板に使用できる。
この配線付樹脂基板は、ポリイミドフィルムおよび液晶ポリマーフィルム等の樹脂基板、および、この樹脂基板の主面上に形成された配線パターンを含む。上記のフレキシブル配線板は、この配線付樹脂基板の配線パターン側に、上記の手順によって、本実施形態のフィルムを接着し、硬化したものである。
また、本実施形態のフレキシブル配線板は、以下のように形成されてもよい。上述した配線付樹脂基板の配線パターン側に、適正粘度を有するように溶剤で希釈された本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を塗布する。その後、該配線パターン上に、樹脂組成物の硬化物からなる層を形成する。
【0064】
本実施形態のフィルムは、半導体装置の基板間の層間接着にも使用されることができる。この場合、上記した接着される対象物が、半導体装置を構成する、互いに積層された複数の基板となる。なお、半導体装置の基板間の層間接着についても、予めフィルム化したものを使用する代わりに、適正粘度を有するように溶剤で希釈された本実施形態の熱硬化性樹脂組成物を使用してもよい。
【0065】
本実施形態の多層配線板は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、または、本実施形態のフィルムの硬化物を含む。本実施形態の多層配線板は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物、または、本実施形態のフィルムを硬化することによって作製される。この多層配線板は、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、また本実施形態のフィルムの硬化物を含んでいるため、耐熱性、耐湿信頼性、および耐吸湿リフロー性に優れる。多層配線板としては、マイクロ波およびミリ波通信用の基板、特に、車載用ミリ波レーダー基板等の高周波用途のプリント配線板等が挙げられる。多層配線板の製造方法は、特に、限定されない。多層配線板の製造方法として、一般的なプリプレグを使用してプリント配線板を作製する場合と同様の方法を、用いることができる。
【実施例
【0066】
以下、実施例により、本実施形態を詳細に説明する。ただし、本実施形態は、これらに限定されない。
【0067】
(実施例1~9、比較例1~4)
サンプル作製と測定方法
各成分を、下記表に示す配合割合(質量部)になるように計量した。その後、先に所定量のトルエンが投入された加熱攪拌機に、成分(A)および成分(B)を投入した。70℃に加温しながら、攪拌羽を回転数35rpmで回転させながら、常圧にて、溶解混合を2時間行った。その後、常温まで冷却してから、その他の各成分を加熱攪拌機に投入し、攪拌羽を回転数60rpmで回転させ、攪拌混合を1時間行った。その後、塗工に適した粘度を有するように、所定量のトルエンをさらに加えて攪拌して、樹脂組成物を希釈した。その後、樹脂組成物を、湿式微粒化装置(ナノマイザーMN2-2000AR、吉田機械興業株式会社製)にて分散させた。
このようにして得られた樹脂組成物を含む塗工液を、支持体(離型処理がほどこされたPETフィルム)の片面に塗布し、100℃で乾燥させた。これにより、支持体付のフィルム(厚さ100μm)を得た。
なお、表中の略号は、それぞれ以下を表わす。
成分(A)
(A1):OPE-2St 2200(品名、三菱瓦斯化学株式会社製)、オリゴフェニレンエーテル(上記一般式(1)で示される変性ポリフェニレンエーテル(式(1)中の-(O-X-O)-が一般式(5)であり、式(1)中の-(Y-O)-が式(8)である)(Mn=2200)
成分(B)
(B1):スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、G1652(品名、クレイトンポリマージャパン株式会社製)
成分(C)
(C1):ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、KBE846(品名、信越化学株式会社製)
成分(D)
(D1):ジクミルパーオキサイド、パークミルD(品名、日油株式会社製)
(D´1):t-ブチルパーオキシベンゾエート、パーブチルZ(品名、日油株式会社製)
成分(E)
(E1):未処理球状シリカ、FB-3SDX(品名、デンカ株式会社製)、平均粒径3.4μm
(E2):7-オクテニルトリメトキシシラン(品名:KBM-1083、信越化学株式会社製シランカップリング剤)で表面処理されたFB-3SDX
(E3):8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(品名:KBM-5803、信越化学株式会社製シランカップリング剤)で表面処理されたFB-3SDX
(E4):3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(品名:KBM-503、信越化学株式会社製シランカップリング剤)で表面処理されたFB-3SDX
なお、(E2)~(E4)の表面処理は、上記段落[0045]に記載の乾式法にて行われた。その際、添加されたシランカップリング剤の量については、シランカップリング剤1g当たりの最小被覆面積(m2/g)およびシリカフィラーの比表面積(m2/g)から、以下の計算式に基づいて、シリカフィラー表面が一層被覆される量を計算し、決定した。
シランカップリング剤の添加量(g)=(シリカフィラーの質量(g)×比表面積(m2/g))/シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)
【0068】
DSCピーク温度:示差走査熱量計(DSC、NETZSCH DSC204 F1 Phoenix)にて、試験片を測定器にセットした。所定の温度プログラム(25℃から300℃まで5℃/minで昇温)により得られたDSC曲線から、発熱ピークを読み取った。ピークトップの温度を、DSCピーク温度とした。
【0069】
誘電率(ε)、誘電正接(tanδ):フィルムを200℃、60分で加熱硬化させ、支持体から剥離した。その後、該フィルムから試験片(50±1mm×70±2mm)を切り出し、試験片の厚みを測定し、誘電体共振器法(SPDR法)(10GHz)にて、試験片の誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。
【0070】
耐湿信頼性:上記の試験片を、85℃/85%RHの条件下で、1000時間放置した。その後、上記と同様の手順で、試験片の誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。
【0071】
ピール強度:フィルムの両面に、銅箔(CF-T9FZSV、福田金属箔粉工業株式会社製、厚さ18μm)を貼り合わせ、プレス機でプレス硬化した(200℃、60分、10kgf)。この試験片を、10mm幅でカットし、オートグラフで引きはがした。JIS K6854-2に準拠して、試験片のピール強度(180度ピール)を測定した。ピール強度に関しては、銅箔の光沢面を内側に貼り合せた場合のピール強度と、粗化面を貼り合せた場合のピール強度とを測定した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
実施例1~9は、誘電特性(誘電率(ε)、誘電正接(tanδ))(初期値)、および、銅箔に対するピール強度のいずれに関しても、優れていた。また、DSCピーク温度が、いずれも190℃以下であった。さらに、実施例1及び実施例7~9は、耐湿信頼性にも優れていた。
なお、実施例2は、実施例1に対し、成分(A1)および(B1)の配合割合を変えた例である。実施例3~5は、実施例2に対し、成分(C1)の配合割合を変えた例である。実施例6は、実施例1に対し、成分(A1)、(B1)および(D1)の配合割合を変えた例である。実施例7~9は、実施例1に対し、成分(E2)を、成分(E3),(E4)あるいは(E1)にそれぞれ変えた例である。未処理のシリカフィラー(E1)を使用した実施例9に比べて、シランカップリング剤で表面処理されたシリカフィラー(E2),(E3)および(E4)を使用した実施例1,7,8では、耐湿信頼性がより向上している。
比較例1および2では、ジアルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤の成分(D1)の代わりに、アルキルパーオキサイド系ラジカル重合開始剤の成分(D´1)を使用した。比較例1および2では、DSCピーク温度が230℃以上であった。
成分(C1)を使用しなかった比較例3では、DSCピーク温度が190℃以下であった。しかし、銅箔に対するピール強度が低い傾向にあり、光沢面に対するピール強度は、4N/cm以下と特に低かった。
成分(C1)を使用せず、(D1)(ジクミルパーオキサイド)を使用した比較例4では、DSCピーク温度が190℃以下であった。しかし、銅箔に対するピール強度が低い傾向にあり、光沢面に対するピール強度は、4N/cm以下と特に低かった。