(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230228BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230228BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550C
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2019066880
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】篠田 敏男
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149402(JP,A)
【文献】特表2010-541203(JP,A)
【文献】特開2009-094450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/
C09G 1/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素および酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、
砥粒と、スルホン酸系化合物またはその塩と、液体キャリアとを含み、
前記砥粒は、その表面がカチオン修飾されており、単位表面積あたりのシラノール基数が、0個/nm
2を超えて2.5個/nm
2以下であ
り、
前記窒化ケイ素の研磨速度(Å/min)/前記酸化ケイ素の研磨速度(Å/min)が0.6以上1.7以下となるように設計されている、研磨用組成物。
【請求項2】
前記スルホン酸系化合物が、下記式Aまたは式B:
【化1】
【化2】
上記式Aおよび式B中、X
1、X
2、X
3およびX
4は、それぞれ独立して、水酸基、置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基または置換されてもよい炭素数6~10のフェニル基であり、X
5は、2価の基である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記スルホン酸系化合物が、上記式Aで示される、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
X
1、X
2、X
3およびX
4が、それぞれ独立して、水酸基または置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基である、請求項
2または3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記修飾が、化学結合によるものである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
酸化剤を実質的に含まない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
pHが、7.0未満である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
pHが、2.0超4.0未満である、請求項
7に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記窒化ケイ素の研磨速度(Å/min)/前記酸化ケイ素の研磨速度(Å/min)が0.81~1.2である、請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
上記式A中、X
1
およびX
2
のいずれもが、非置換の炭素数1~3のアルキル基、
X
1
およびX
2
のいずれかが、アミノ基で置換された炭素数1~3のアルキル基、
あるいは、
X
1
およびX
2
のいずれかが、置換されてもよい炭素数6~10のフェニル基である、請求項2~9のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
上記式A中、X
1
およびX
2
のいずれもが、非置換の炭素数1~3のアルキル基、
X
1
およびX
2
のいずれかが、アミノ基で置換された炭素数1~3のアルキル基、
あるいは、
X
1
およびX
2
のいずれかが、炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数6~10のフェニル基である、請求項10に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、
砥粒と、
スルホン酸系化合物またはその塩と、
液体キャリアと
を含み、
前記砥粒は、その表面がカチオン修飾されており、単位表面積あたりのシラノール基数が、0個/nm
2
を超えて2.5個/nm
2
以下であり、
前記スルホン酸系化合物またはその塩が、アミノ基を有する、あるいは、非置換の炭素数1~3のアルキル基を有する、研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、具体的には、シャロートレンチ分離(STI)、層間絶縁膜(ILD膜)の平坦化、タングステンプラグ形成、銅と低誘電率膜とからなる多層配線の形成などの工程で用いられている。
【0003】
近年では、2種以上の研磨対象物において、ある膜種の研磨速度は向上させ、ある膜種の研磨速度は抑制させる、いわゆる研磨選択比を制御したいとの要求がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、窒化ケイ素と、酸化ケイ素とを有する研磨対象物において、窒化ケイ素に対し、酸化ケイ素を選択的に研磨しようとする技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、研磨選択比の制御について鋭意検討している過程で、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、高速に研磨したい課題があることを見出した。そこで、本発明が解決しようとする課題は、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、高速に研磨できる、新規な、研磨用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、砥粒と、スルホン酸系化合物またはその塩と、液体キャリアとを含み、前記砥粒は、その表面がカチオン修飾されており、単位表面積あたりのシラノール基数が、0個/nm2を超えて2.5個/nm2以下である、研磨用組成物により上記課題が解決されうることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、高速に研磨できる、新規な、研磨用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0010】
本発明は、研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物であって、砥粒と、スルホン酸系化合物またはその塩と、液体キャリアとを含み、前記砥粒は、その表面がカチオン修飾されており、単位表面積あたりのシラノール基数が、0個/nm2を超えて2.5個/nm2以下である、研磨用組成物である。かかる構成によって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、高速に研磨できる。なお、2種以上の研磨対象物とは、2種であっても、3種であっても、それ以上であってもよい。2種以上の研磨対象物としては、下記のように、酸化ケイ素(SiO2)および窒化ケイ素(SiN)を含むことがよい。
【0011】
[研磨対象物]
本発明の一実施形態によれば、研磨対象物は、酸化ケイ素(SiO2)および窒化ケイ素(SiN)の少なくとも一方を含む。本発明の一実施形態によれば、研磨対象物は、酸化ケイ素(SiO2)および窒化ケイ素(SiN)を含む。かような研磨対象物に対して、本発明の実施形態の研磨用組成物を適用することによって、同様の速度で、かつ、高速に研磨できる。本発明の一実施形態において、酸化ケイ素(SiO2)としては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)由来の酸化ケイ素(SiO2)が好適である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物の用途は制限されないが、半導体基板に用いられることが好ましい。
【0012】
[砥粒]
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、砥粒を含み、前記砥粒の表面がカチオン修飾されている。表面がカチオン修飾された砥粒を用いないと本発明の所期の効果が奏されない虞がある。
【0013】
本発明の一実施形態において、当該修飾は、化学結合によるものである。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0014】
本発明の一実施形態において、砥粒の具体例としては、例えば、シリカ等の金属酸化物からなる粒子が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカがより好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の表面がカチオン修飾されている。本発明の一実施形態において、表面がカチオン修飾されているコロイダルシリカとして、アミノ基または第4級アンモニウム基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤またはN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム等の第4アンモニウム基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基または第4級アンモニウム基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。本発明の一実施形態において、前記砥粒は、アミノ基を有するシランカップリング剤または第4アンモニウム基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化させてなる。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数(シラノール基数)が、0個/nm2を超えて2.5個/nm2以下である。シラノール基数が、2.5個/nm2超であると、本発明の所期の効果を奏することができない。本発明の一実施形態において、シラノール基数が、2.4個/nm2以下、2.4個/nm2未満、2.3個/nm2以下、2.2個/nm2以下、2.1個/nm2以下、2.0個/nm2以下、1.9個/nm2以下、あるいは、1.8個/nm2以下である。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0017】
本発明の一実施形態において、シラノール基数が、0.2個/nm2以上、0.4個/nm2以上、0.6個/nm2以上、0.8個/nm2以上、1.0個/nm2以上、1.2個/nm2以上、1.4個/nm2以上、1.5個/nm2以上、1.6個/nm2以上、あるいは、1.7個/nm2以上である。シラノール基が存在しないと、本発明の所期の効果を奏することができない。また、シラノール基数がかような下限で存在することによって、砥粒の分散性を向上させ、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数を2.5個/nm2以下にするためには、砥粒の製造方法の選択等により制御することができ、例えば、焼成等の熱処理を行うことが好適である。本発明の一実施形態において、焼成処理とは、例えば、砥粒(例えば、シリカ)を、120~200℃の環境下に、30分以上保持する。このような、熱処理を施すことによって、砥粒表面のシラノール基数を、2.5個/nm2以下等の所望の数値にせしめることができる。このような特殊な処理を施さない限り、砥粒表面のシラノール基数が2.5個/nm2以下にはならない。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均一次粒子径が10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることがよりさらに好ましく、30nm以上であることがよりさらに好ましい。本発明の一実施形態の研磨用組成物において、前記砥粒の平均一次粒子径が60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。前記砥粒の平均一次粒子径を大きく調整することで酸化ケイ素を含む研磨対象物を向上させることができる傾向があり、前記砥粒の平均一次粒子径を小さく調整することで窒化ケイ素の研磨速度を含む研磨対象物を向上させることができる傾向にある。よって、2種以上の研磨対象物(特に、酸化ケイ素、窒化ケイ素)を同様の速度で高速で研磨する観点では、前記砥粒の平均一次粒子径は、25~50nmであることが好ましい。本発明における平均一次粒子径は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用してもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が40nm以上であることが好ましく、45nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、55nm以上であることがよりさらに好ましく、60nm以上であることがよりさらに好ましく、65nm以上であることがよりさらに好ましい。本発明の一実施形態において、前記砥粒の平均二次粒子径が、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましく、75nm以下であることがよりさらに好ましい。前記砥粒の平均二次粒子径を大きく調整することで酸化ケイ素を含む研磨対象物を向上させることができる傾向があり、前記砥粒の平均二次粒子径を小さく調整することで窒化ケイ素の研磨速度を含む研磨対象物を向上させることができる傾向にある。よって、2種以上の研磨対象物(特に、酸化ケイ素、窒化ケイ素)を同様の速度で高速で研磨する観点では、前記砥粒の平均二次粒子径は、55~90nmであることが好ましい。本発明における平均二次粒子径は、実施例に記載の方法によって測定される値を採用してもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物中の砥粒の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)の下限は、1.3以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、1.6以上であることがよりさらに好ましく、1.7以上であることがよりさらに好ましく、1.8以上であることがよりさらに好ましく、1.9以上であることがよりさらに好ましい。2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。本発明の一実施形態において、研磨用組成物中の砥粒の平均会合度の上限は、4.0以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましく、2.5以下であることがよりさらに好ましい。2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記研磨用組成物中で、前記砥粒の含有量が、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.3質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.4質量%以上であることがよりさらに好ましい。かかる下限であることによって研磨速度を向上できる効果がある。本発明の一実施形態において、前記研磨用組成物中で、前記砥粒の含有量が、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることがよりさらに好ましく、2質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.5質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.2質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.0質量%以下であることがよりさらに好ましく、1.0質量%未満であることがよりさらに好ましく、0.9質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.8質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.6質量%以下であることがよりさらに好ましい。かかる上限であることによって2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0023】
特に酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する場合、酸化ケイ素の研磨速度は、窒化ケイ素の研磨速度よりも、研磨組成物中の砥粒の含有量(砥粒濃度)に依存する傾向がある。そのため、本発明の一実施形態においては、前記研磨用組成物中で、前記砥粒の含有量を、0.1~2質量%に調整することが好ましく、0.2~1.5質量%に調整することがより好ましく、0.3~1.2質量%に調整することがより好ましく、0.4~0.9質量%に調整することがさらに好ましい。かような範囲に調整しておくことで、いずれかの研磨対象物の研磨速度が極端に上がりすぎたり、いずれかの研磨対象物の研磨速度が極端に下がりすぎたりせず、これらの研磨対象物の研磨速度を同様に向上することができる。なお、本明細書に開示されている全ての下限値上限値の値は、全ての組合せが開示されている。
【0024】
[スルホン酸系化合物またはその塩]
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は、スルホン酸系化合物またはその塩を含む。スルホン酸系化合物またはその塩を含まないと、本発明の所期の効果を奏することができない。
【0025】
本発明の一実施形態において、スルホン酸系化合物は、SOp(ただし、pは、1~5の実数である)で表される部分構造を有する化合物である。なお、pはその平均値を表すものとする。例えば、ペルオキソ1硫酸(H2SO5)とペルオキソ2硫酸(H2S2O8)との等モル混合物(H2SO4.5)は、SOpのpが4.5の部分構造を有する化合物として取り扱う。なお、スルホン酸系化合物は、水和物の形態であってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、スルホン酸系化合物としては、特に制限されないが、例えば、亜硫酸およびその塩、硫酸およびその塩、過硫酸およびその塩、スルホン酸基含有化合物またはその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物等が挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態において、スルホン酸系化合物が、アミノ基を有する。かかる実施形態であることによって、本発明の所期の効果を効率的に奏する。本発明の一実施形態において、スルホン酸系化合物が、非置換の炭素数1~3のアルキル基を有する。かかる実施形態であることによって、本発明の所期の効果を効率的に奏する。
【0028】
本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、下記式Aまたは式B:
【0029】
【0030】
【0031】
上記式Aおよび式B中、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、水酸基、置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基、または、置換されてもよいフェニル基であり、X5は、2価の基である。本発明の一実施形態において、2価の基としては、炭素数1~3(より好ましくは炭素数1~2)のアルキレン基等が好適である。式Aまたは式Bで示されるスルホン酸系化合物は塩の形態でもよい。本発明の一実施形態において、X1およびX2は、置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、非置換の炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0032】
本発明の一実施形態において、置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基における、置換基としては、水酸基、アミノ基が好適である。本発明の一実施形態において、置換されてもよい炭素数6~10のフェニル基における置換基としては、水酸基、アミノ基、炭素数1~3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基)が好適である。
【0033】
本発明の一実施形態において、置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基における、アルキル基の炭素数は、1~2が好ましい。本形態において、アルキル基の炭素数が3を超えると、スルホン酸系化合物に界面活性効果が生じ、砥粒または被研磨面に吸着してしまい、被研磨面と砥粒間との摩擦が低減し研磨が進行しづらくなる虞もある。
【0034】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物が、実質的に界面活性剤を含まないことも好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、式Aまたは式Bで示される化合物であるが、好適には、前記スルホン酸系化合物が、式Aで示されるかかる実施形態であることによって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0036】
本発明の一実施形態において、X1、X2、X3およびX4が、それぞれ独立して、水酸基、または、置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基である。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、より高速に研磨できる。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物(またその塩)が、下記化学式(1)で表される化合物およびその塩、ならびに、下記化学式(2)で表される化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物等が挙げられる。
【0038】
【0039】
R1~R6は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、スルホン酸基もしくはその塩の基、炭素数1~4(より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2)のアルキル基であり、この際、R1~R6の少なくとも1つが、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R1~R6の2つ以上が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R1~R6の3つ以上が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R1~R6の4つ以下が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R1~R6の3つ以下が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R1~R6の2つ以下が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。
【0040】
【0041】
R23~R28は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、アミノ基、スルホン酸基もしくはその塩の基、または炭素数1~3(より好ましくは1~2、さらに好ましくは1)のアルキル基であり、この際、R23~R28の少なくとも1つが、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R23~R28の少なくとも2つ以上、3つ以上、4つ以上、あるいは、5つ以上が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。本発明の一実施形態において、R23~R28の少なくとも6つ以下、5つ以下、4つ以下、3つ以下、あるいは、2つ以下が、スルホン酸基もしくはその塩の基である。かような実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。
【0042】
本発明の一実施形態において、R23~R28の少なくとも1つが、アミノ基であることが好ましい。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。本発明の一実施形態において、R23~R28の2つ以上あるいは3つ以上が、アミノ基である。本発明の一実施形態において、R23~R28の3つ以下あるいは2つ以下が、アミノ基である。
【0043】
本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、ベンゼン環を含まない。かかる実施形態であることによって、ベンゼン環による立体障害を抑制し、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。また、本発明の一実施形態において、上述のように、スルホン酸系化合物が、非置換の炭素数1~3のアルキル基を有し、ベンゼン環は含まない。
【0044】
また、本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、p-トルエンスルホン酸ではない。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラメチレンスルホン酸ではない。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、1,2-ジヒドロキシベンゼン-4,6-ジスルホン酸ではない。かかる実施形態であることによって、ベンゼン環による立体障害を抑制し、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。本発明の一実施形態において、スルホン酸系化合物のスルホン酸基もしくはその塩の基が、1つのみである。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。
【0045】
本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物が、硫酸、ジメチルスルホン、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-アミノエタンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸1水和物、1,2-エタンジスルホン酸などが好適である。
【0046】
本発明の一実施形態において、前記スルホン酸系化合物における塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0047】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物中のスルホン酸系化合物またはその塩の含有量の下限は、0.00001mol/L以上であることが好ましく、0.0001mol/L以上であることがより好ましく、0.0005mol/L以上であることがさらに好ましく、0.001mol/L以上であることがよりさらに好ましく、0.002mol/L以上であることがよりさらに好ましく、0.003mol/L以上であることがよりさらに好ましく、0.004mol/L以上であることがよりさらに好ましい。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。また、研磨用組成物中のスルホン酸系化合物またはその塩の含有量の上限は、0.1mol/L以下であることが好ましく、0.05mol/L以下であることがより好ましく、0.01mol/L以下であることがさらに好ましく、0.009mol/L以下であることがよりさらに好ましく、0.008mol/L以下であることがよりさらに好ましく、0.007mol/L以下であることがよりさらに好ましく、0.006mol/L以下であることがよりさらに好ましい。かかる実施形態であることによって、2種以上の研磨対象物を同様の速度で高速に研磨できる。
【0048】
[液体キャリア]
本発明の一実施形態によれば、液体キャリアとしては、有機溶媒、水(特に純水)が考えられるが、研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0049】
[研磨用組成物のpH]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、7.0未満の酸性であっても、7.0の中性であっても、7.0超の塩基性であってもよいが、好ましくは、7.0未満である。かかる実施形態であることによって、窒化ケイ素、酸化ケイ素の研磨速度を同様に向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、6.0未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、5.0未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、4.0未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.9以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.8以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.7以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.6以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.5以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.4以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.3以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.2以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.1以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.0以下である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、3.0未満である。かような実施形態であることによって、窒化ケイ素、酸化ケイ素の研磨速度を同様に向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.0以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.2以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.4以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.6以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、1.8以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.0以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.0超である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.1以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.2以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.3以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.4以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.5以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.6以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.8以上である。かような実施形態であることによって、窒化ケイ素、酸化ケイ素の研磨速度を同様に向上させることができる。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHが、2~6である。かかる実施形態であることによって、酸化ケイ素の研磨速度をより向上させながら、窒化ケイ素の研磨速度も同様に向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.0超4.0未満である。かかる実施形態であることによって、酸化ケイ素の研磨速度をより向上させながら、窒化ケイ素の研磨速度も同様に向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、2.1超3.9以下、2.2~3.7、2.3~3.5、2.4~3.3、あるいは、2.5~3.1である。かかる実施形態であることによって、酸化ケイ素の研磨速度をより向上させながら、窒化ケイ素の研磨速度も同様に向上させることができる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、pH調整剤を含む。本発明の一実施形態によれば、pH調整剤は酸およびアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。酸の具体例としては、例えば、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸等の有機酸、フィチン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸等の有機リン系の酸等の有機酸等が挙げられる。ただし、本発明は、スルホン酸系化合物またはその塩を研磨用組成物中に含有させることを特徴の一つとする。よって、本発明の一実施形態によれば、pH調整剤としての酸が、スルホン酸系化合物またはその塩のみである。アルカリの具体例としては、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、エチレンジアミンおよびピペラジンなどのアミン、ならびにテトラメチルアンモニウムおよびテトラエチルアンモニウムなどの第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0052】
[他の成分]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、酸化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、酸化剤は、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル等が挙げられる。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、酸化剤を含まない。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸またはジクロロイソシアヌルである酸化剤を含まない。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、ベンゾトリアゾールを含まない。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、ポリオキシアルキレン鎖を有する化合物を含まない。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、実質的に、ビニルアルコール重合体を含まない。
【0058】
なお、本明細書中、「実質的に含まない」とは、研磨用組成物中に全く含まない概念の他、研磨用組成物中に、0.0001g/L以下含む場合を含む。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、窒化ケイ素の研磨速度/酸化ケイ素の研磨速度が、0.6以上2.0未満、0.7~1.9、0.72~1.8、0.75~1.7、0.80~1.6、0.81~1.4、0.81~1.2、あるいは、0.81~1.15であるように設計されている。本発明の実施形態の研磨用組成物を適用することで、かような研磨速度比になりうる。また、本発明の実施形態においては、かような研磨速度比になりうるように、研磨用組成物の組成をさらに調整してもよい。
【0060】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、上述の特定の砥粒と、スルホン酸系化合物またはその塩とを、液体キャリアで攪拌混合することにより得ることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0061】
[研磨方法]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、窒化ケイ素および酸化ケイ素の研磨に好適に用いられる。よって、本発明の一実施形態によれば、研磨方法は、上記の研磨用組成物を用いて、または、上記の製造方法によって研磨用組成物を得、当該研磨用組成物を用いて、窒化ケイ素および酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法である。
【0062】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0063】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0064】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpmが好ましく、キャリア回転速度は、10~500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.1~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0065】
[半導体基板の製造方法]
本発明の一実施形態によれば、上記の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法も提供される。かかる実施形態によって、半導体基板の生産効率が向上する。
【実施例】
【0066】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0067】
[実施例1]
(研磨用組成物の調製)
液体キャリアとしての純水に、砥粒として表面にアミノ基が固定化されたコロイダルシリカ(シラノール基数:1.8個/nm2、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm、平均会合度:2.0)を、最終の研磨用組成物100質量%に対し0.5質量%、硫酸を最終の研磨用組成物に対し0.005mol/Lとなる量で加え、pH調整剤としてのKOHをpHが2.9となるように加えることで、実施例1の研磨用組成物を調製した。
【0068】
<シラノール基数の算出方法>
砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数(単位:個/nm2)は、以下の測定方法または計算方法により、各パラメータを測定または算出した後、下記の方法により算出した。
【0069】
より具体的には、下記式中のCは、砥粒の合計質量を用い、下記式中のSは、砥粒のBET比表面積である。さらに具体的には、まず、固形分として1.50gの砥粒を200mlビーカーに採取し、100mlの純水を加えてスラリーとした後、30gの塩化ナトリウムを添加して溶解する。次に、1N 塩酸を添加してスラリーのpHを約3.0~3.5に調整した後、スラリーが150mlになるまで純水を加える。このスラリーに対して、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1700)使用して、25℃で0.1N 水酸化ナトリウムを用いてpHが4.0になるよう調整し、さらに、pH滴定によってpHを4.0から9.0に上げるのに要した0.1N 水酸化ナトリウム溶液の容量V[L]を測定する。平均シラノール基密度(シラノール基数)は、下記式により算出できる。
【0070】
【0071】
上記式中、
ρは、平均シラノール基密度(シラノール基数)(個/nm2)を表わし;
cは、滴定に用いた水酸化ナトリウム溶液の濃度(mol/L)を表わし;
Vは、pHを4.0から9.0に上げるのに要した水酸化ナトリウム溶液の容量(L)
を表わし;
NAは、アボガドロ定数(個/mol)を表わし;
Cは、砥粒の合計質量(固形分)(g)を表わし;
Sは、砥粒のBET比表面積の加重平均値(nm2/g)を表わす。
【0072】
<粒子径の算出方法>
また、砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0073】
<pHの測定方法>
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0074】
[実施例2~11および比較例1~6]
(研磨用組成物の調製)
各成分の種類および含有量、並びに研磨用組成物のpHを下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様に操作して、各研磨用組成物を調製した。
【0075】
上記調製した各研磨用組成物について、下記方法に従って、研磨速度(Removal Rate)(Å/min)を評価した。結果を下記表1に併せて示す。
【0076】
<研磨試験>
各研磨用組成物を使用して、研磨対象物の表面を下記の条件で研磨した。研磨対象物としては、シリコン基板表面に形成した、膜厚2500Åの窒化ケイ素と、膜厚10000ÅのTEOS(酸化ケイ素)とをそれぞれ使用した。
【0077】
[研磨装置および研磨条件]
研磨装置:卓上研磨機(日本エンギス社製 EJ-380IN)
研磨パッド:IC1000(ダウケミカル社製)
研磨圧力:3psi
研磨定盤の回転速度:60rpm
キャリアの回転速度:60rpm
研磨用組成物の供給量:50mL/min
研磨時間:60sec
In-situ dressing(その場ドレッシング)
ワークサイズ:30mm四方。
【0078】
[評価]
各研磨用組成物について、下記項目について測定し評価を行った。
【0079】
[研磨速度(研磨レート:Removal Rate)の測定]
研磨速度(Å/min)は、下記式(1)により計算した。
【0080】
【0081】
なお、各膜厚を光干渉式膜厚測定装置によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することによって評価した。評価結果を表1に併せて示す。
【0082】
【0083】
【0084】
<考察>
実施例の研磨用組成物によれば、窒化ケイ素の研磨速度および酸化ケイ素の研磨速度のいずれもが40Å/min以上であり、かつ、窒化ケイ素の研磨速度/酸化ケイ素の研磨速度が、0.6以上2.0未満であるため、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、高速に研磨できていると言える。これに対し、比較例の研磨用組成物では、窒化ケイ素の研磨速度および酸化ケイ素の研磨速度の少なくとも一方が40Å/min未満であるか、あるいは、窒化ケイ素の研磨速度/酸化ケイ素の研磨速度が、0.6未満であるため、2種以上の研磨対象物を同様の速度で、かつ、高速に研磨できていると言えない。
【0085】
なお、実施例の研磨用組成物の中でも優劣があることが示唆された。これについて考察すると、実施例2、実施例8との対比では、両者の相違は砥粒のシラノール基数であるが、研磨速度の観点でも、研磨選択比の観点でも、実施例2の方が優れていた。ゆえに、シラノール基数は、2.4個/nm2未満であることがより好ましいことが示唆される。
【0086】
また、実施例2、8~11の研磨用組成物によれば、実施例8を除き、窒化ケイ素の研磨速度および酸化ケイ素の研磨速度の少なくとも一方が100Å/min以上であり、優れた研磨速度であったと言える。これは、実施例2、8~11の研磨用組成物のスルホン酸系化合物はベンゼン環を含まないため、ベンゼン環による立体障害がなかったためと推測される。なお、実施例8の結果が比較的劣ったのは砥粒のシラノール基数が2.4個/nm2以上であったためと推測されるのは上述のとおりである。
【0087】
また、実施例2と、実施例10との対比では、両者の相違は砥粒濃度である。酸化ケイ素の研磨速度は、窒化ケイ素の研磨速度よりも、研磨組成物中の砥粒の含有量(砥粒濃度)に依存する傾向があることは上述のとおりであるが、砥粒濃度が高くなることで酸化ケイ素の研磨速度が向上したにも関わらず、その研磨速度の向上に窒化ケイ素の研磨速度が追従できなかったため、研磨選択比の観点で、実施例10の方が劣ってしまったと推測される。その場合は、研磨用組成物のpHをより低くすることによって窒化ケイ素の研磨速度を向上させ、一方、(砥粒濃度を高く調整することによって向上した)酸化ケイ素の研磨速度を抑制することができるため、研磨速度比をより好ましい数値とできることが実施例9の結果に示されている。すなわち、本発明の一実施形態においては、前記研磨用組成物の砥粒濃度およびpHの少なくとも一方を調整する調整工程を含む、窒化ケイ素の研磨速度/酸化ケイ素の研磨速度を、0.6以上2.0未満となるように設計する、研磨用組成物の製造方法も提供されている。
【0088】
また、実施例2と、実施例11との対比では、両者の相違は研磨用組成物のpHであるが、研磨用組成物のpHが低くなると窒化ケイ素の研磨速度が向上し、酸化ケイ素の研磨速度を抑制することができることは上述のとおりであり、研磨選択比の観点では、実施例11の方が劣ってしまったものと推測される。
【0089】
また、実施例5~7の研磨用組成物のスルホン酸系化合物はいずれもベンゼン環を有しており、研磨速度の観点では、ベンゼン環を有していないスルホン酸系化合物を使用している実施例2、4の方が優れている結果となった。なお、ベンゼン環を有していないスルホン酸系化合物を使用している実施例1、3の研磨用組成物による研磨速度が若干劣っているのは、メチル基やアミノ基などの電子供与性基の存在が、酸化ケイ素及び窒化ケイ素の研磨速度(特に酸化ケイ素の研磨速度)を向上に寄与し、それらを有していないためではないかと推測している。よって、本発明の一実施形態においては、スルホン酸系化合物が、電子供与性基を有する。