(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/04 20060101AFI20230228BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20230228BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
G01N35/04 A
G01N35/02 G
G01N35/02 B
G01N35/00 C
(21)【出願番号】P 2021163395
(22)【出願日】2021-10-04
(62)【分割の表示】P 2020500347の分割
【原出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018022845
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】嘉部 好洋
(72)【発明者】
【氏名】大草 武徳
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-504577(JP,A)
【文献】特開2010-107449(JP,A)
【文献】特開2016-070788(JP,A)
【文献】特開2007-315831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/04
G01N 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吸引口を有する試薬ボトルを複数収容し、中心軸の周りに円周方向に回転動作することにより、前記試薬ボトルを所望の位置に搬送する試薬ディスクと、
回転軸の周りに回転動作し、前記試薬ディスク上の所定位置にある前記試薬ボトルの試薬を吸引する試薬分注機構と、
前記試薬ディスクを覆うカバーとを有し、
前記試薬ボトルは、前記試薬ボトルの中心軸と前記試薬ディスクの径とが所定の傾きθ(θ>0)をなすように前記試薬ディスクに収容され、
前記試薬分注機構の回転軌道は、前記試薬ディスク上の前記所定位置にある1つの試薬ボトルの前記複数の吸引口の上を通過するよう設定され、
前記カバーには、前記試薬分注機構が前記1つの試薬ボトルの前記複数の吸引口のいずれにもアクセスできる開口部が設けられ
、
前記試薬ボトルは、互いに等距離に配置される、前記試薬ディスクに配置された状態で内側から順に第1の吸引口、第2の吸引口及び第3の吸引口を有し、
前記傾きθは、前記第2の吸引口の中心を通る前記試薬ボトルの中心軸と前記第2の吸引口の中心を通る前記試薬ディスクの径とのなす角であり、20°≦θ≦30°である自動分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記開口部の位置に、前記試薬ボトルの吸引口に設けられた蓋を開閉する試薬容器蓋開閉機構を有する自動分析装置。
【請求項3】
請求項1において、
回転軸の周りに回転動作し、前記試薬ボトルの磁性粒子溶液を攪拌する磁性粒子攪拌装置を有し、
前記磁性粒子攪拌装置は、前記開口部から、前記1つの試薬ボトルのあらかじめ定められた吸引口にアクセスする自動分析装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記1つの試薬ボトルは、磁性粒子溶液を収容する第1の容器と試薬を収容する第2の容器とを有し、
前記磁性粒子攪拌装置が前記1つの試薬ボトルの前記第1の容器にアクセスして前記磁性粒子溶液を攪拌している間、前記試薬分注機構は前記1つの試薬ボトルの前記第2の容器にアクセスして試薬の分注を行う自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学分析や免疫分析に用いる自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置では、試薬ボトルから試薬を吸引して反応容器に吐出し、サンプル(試料、検体とも呼ばれる)と試薬とが混和された反応液を生成する工程(以下、分注工程という)を有する。このため、自動分析装置には、複数の試薬ボトルを設置するための試薬ディスクが設けられている。試薬ディスクは複数の小区画を有し、そのそれぞれに試薬ボトルを搭載する。小区画の数は、自動分析装置が実行する測定項目や搭載可能な反応容器の数に応じて定められる。測定項目は医学の発達に伴い増加し、それに対応して分析試薬の種類も増加し、できるだけ多くの試薬を装置上に搭載できることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているように、複数の吸引口を有した試薬容器が放射状に配置される試薬ディスクを有する自動分析装置が知られている。試薬容器に設けられた複数の吸引口に対して、水平面での回転動作、及び鉛直方向の上下移動が可能である分注機構をアクセスさせて、試薬容器から試薬を吸引する。
【0004】
一方、試料の分析に磁性粒子試薬を用いる場合、分注工程において、磁性粒子溶液の吸引を行う直前に磁性粒子溶液の撹拌を行い、磁性粒子をその溶液に十分に混合しておく必要がある。特許文献2では、特許文献1と同様に試薬容器を放射状に試薬ディスクに配置するとともに、所定の試薬容器の複数の開口部上を通る直線上に磁性粒子攪拌装置、試薬分注装置を配置し、試薬ディスク上で試薬容器を上記直線に沿って移動させることにより、試薬の攪拌、吸引を行わせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2015/019880号
【文献】特開2016-70788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題について、
図11を用いて説明する。磁性粒子試薬の場合、磁性粒子溶液と試薬とサンプルとを混和させて使用する。このため、磁性粒子試薬の試薬ボトルは磁性粒子溶液を収容する容器と複数の試薬をそれぞれ収容する複数の容器とで1セットを構成している。
図11において試薬ボトル201の3つの吸引口のうち、吸引口202が磁性粒子溶液に対するものであり、吸引口203,204が試薬に対するものとする。
【0007】
ここで、特許文献1のように、試薬ボトル201が試薬ディスク210に放射状に配置され、試薬分注機構211が回転動作を行って試薬ボトルにアクセスする構成を採用する場合、
図11に示すように、吸引口が異なると試薬分注機構211による吸引位置が異なる。例えば、吸引口204の場合、吸引位置は位置P1となり、吸引口202の場合、吸引位置は位置P2となる(図では位置P1,P2にある試薬ボトルを示しているが、実際には試薬ディスクはカバーに覆われているため、試薬ボトルをみることはできない)。このため、分注工程において、試薬ボトル201に対して、試薬(吸引口204から)を吸引、磁性粒子溶液(吸引口202から)を攪拌、磁性粒子溶液(吸引口202から)を吸引、という動作を行う場合には、必ず試薬ディスク210を位置P1から位置P2に回転移動させる動作を伴う。さらに、自動分析装置の各機構の配置により、位置P1とは別の位置で磁性粒子溶液の攪拌を行う、あるいは、位置P1とは別の位置で試薬ボトル201の各吸引口に設けられた蓋を開ける場合には、それぞれ試薬ディスクを当該位置に回転動作させてそれぞれの動作を実行させる必要が生じるため、試薬の分注工程に要する時間をさらに長引かせる要因となる。
【0008】
一方、特許文献2では磁性粒子試薬の分注工程において試薬ディスクの回転は不要とされているが、試薬容器は磁性粒子攪拌装置、試薬分注装置の間を移動させる必要があり、そのための時間が同様に必要になる。また、試薬ディスクや機構が大型化しており、部品点数の削減や小型化のためには、回転動作する試薬分注機構を適用することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態である自動分析装置は、複数の吸引口を有する試薬ボトルを複数収容し、中心軸の周りに円周方向に回転動作することにより、試薬ボトルを所望の位置に搬送する試薬ディスクと、回転軸の周りに回転動作し、試薬ディスク上の所定位置にある試薬ボトルの試薬を吸引する試薬分注機構と、試薬ディスクを覆うカバーとを有し、試薬ボトルは、試薬ボトルの中心軸と試薬ディスクの径とが所定の傾きθ(θ>0)をなすように試薬ディスクに収容され、試薬分注機構の回転軌道は、試薬ディスク上の所定位置にある1つの試薬ボトルの複数の吸引口の上を通過するよう設定され、カバーには、試薬分注機構が1つの試薬ボトルの複数の吸引口のいずれにもアクセスできる開口部が設けられ、試薬ボトルは、互いに等距離に配置される、試薬ディスクに配置された状態で内側から順に第1の吸引口、第2の吸引口及び第3の吸引口を有し、傾きθは、第2の吸引口の中心を通る試薬ボトルの中心軸と第2の吸引口の中心を通る試薬ディスクの径とのなす角であり、20°≦θ≦30°である。
【0010】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0011】
複数の吸引口を有する同一の試薬ボトルに対して、試薬分注機構および攪拌装置が同時にアクセス可能となり、単位時間当たりの分注工程回数、分析処理能力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】試薬ディスクに対する試薬分注機構の配置を説明するための図。
【
図3】試薬ボトル中心を通る円周の径D1の算出方法を説明するための図。
【
図4】試薬保冷庫内径D2及び外径Dの算出方法を説明するための図。
【
図5】試薬分注機構の回転軌道径(最小値)R1の算出方法を説明するための図。
【
図6】吸引位置誤差εを最適化した試薬分注機構の回転軌道径Rの算出方法を説明するための図。
【
図7】試薬ボトルの傾きθと試薬保冷庫外径Dのグラフ。
【
図8】試薬ボトルの傾きθと試薬分注機構の回転軌道径(最小値)R1のグラフ。
【
図9】試薬ボトルの傾きθと吸引位置誤差εのグラフ。
【
図10】試薬ボトルの傾きθと試薬分注機構の回転軌道径Rのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1Aに自動分析装置1の全体構成を示す。水平面であるXY平面に設置された自動分析装置1を上(Z方向)から見た平面の構成を示している。X方向及びY方向は水平面を構成する互いに直交する方向であり、ここでは、X方向は装置1の横幅の方向に対応し、Y方向は装置1の縦幅の方向に対応している。Z方向は、X方向及びY方向に垂直な鉛直方向であり、装置1の高さ方向に対応している。また、これに加えて、水平面において試薬ディスク2の半径方向Rと、試薬ディスク2の円周方向Cとを示している。
【0014】
自動分析装置1は、制御コンピュータ123、ラック搬送部120、ラック搬送ライン118、サンプル分注機構103、インキュベータディスク104、搬送機構106、保持部材107、反応容器攪拌機構108、廃棄孔109、試薬ディスク2、試薬分注機構114、磁性粒子攪拌装置115、反応容器搬送機構116、検出ユニット117を有する。
【0015】
制御コンピュータ123は、自動分析装置1の分析依頼情報に基づいて各機構を制御して、分析のための各工程を実現する。工程には分注工程等を含む。また、制御コンピュータ123は、ユーザに対するインタフェースを提供する。
【0016】
自動分析装置1が分析対象とするサンプル(試料)はサンプル容器102に収容され、サンプル容器102はラック101に架設された状態で自動分析装置1に搬入される。ラック搬送部120は、外部と自動分析装置1との間でラック101を搬入または搬出を行う機構である。また、ラック搬送部120には、自動分析装置1の電源投入指示部121及び電源切断指示部122が備えられている。電源投入指示部121及び電源切断指示部122は、オペレータ(自動分析装置1を操作するユーザ)が入力操作するボタンである。なお、制御コンピュータ123の表示部に、電源投入指示部121及び電源切断指示部122に相当する入力部を備えてもよい。
【0017】
ラック搬送部120により搬入されたラック101は、ラック搬送ライン118によって、サンプル分注機構103近傍のサンプル分注位置まで移動される。インキュベータディスク104には、その円周部に複数の反応容器105が設置可能であり、円周方向に設置された反応容器105をそれぞれ所定位置に移動させる回転運動が可能である。
【0018】
搬送機構106は、X、Y、Zの3軸の各方向に移動可能である。搬送機構106は、サンプル分注チップと反応容器105とを搬送する機構であり、サンプル分注チップ及び反応容器105を保持する保持部材107、反応容器105を攪拌する反応容器攪拌機構108、サンプル分注チップまたは反応容器105を廃棄する廃棄孔109、サンプル分注チップ装着位置110、及びインキュベータディスク104の所定箇所の範囲を移動する。
【0019】
保持部材107には、未使用の反応容器及び未使用のサンプル分注チップが複数個保持されている。まず、搬送機構106は、保持部材107の上方に移動し、下降して未使用の反応容器105を把持した後に上昇し、更にインキュベータディスク104の所定位置の上方に移動した後に下降して、反応容器105をインキュベータディスク104の所定位置に設置する。
【0020】
次いで、搬送機構106は、再び保持部材107の上方に移動し、下降して未使用のサンプル分注チップを把持した後に上昇し、サンプル分注チップ装着位置110の上方に移動した後に下降して、サンプル分注チップをサンプル分注チップ装着位置110に設置する。サンプル分注チップは、コンタミネーションを防止するため、サンプル分注機構103がサンプルを分注する際にノズル(プローブ)の先端に装着され、当該サンプルの分注が終了すると破棄される。
【0021】
サンプル分注機構103は、水平面での回転動作及び鉛直方向(Z方向)の上下移動が可能である。サンプル分注機構103は、サンプル分注チップ装着位置110の上方まで回転動作により移動した後、下降して、ノズルの先端にサンプル分注チップを圧入して装着する。ノズルの先端にサンプル分注チップを装着したサンプル分注機構103は、搬送ラック101に載置されているサンプル容器102の上方に移動した後、下降して、そのサンプル容器102に保持されているサンプルを所定量吸引する。サンプルを吸引したサンプル分注機構103は、インキュベータディスク104の上方に移動した後、下降して、インキュベータディスク104に保持されている未使用の反応容器105にサンプルを吐出する。サンプル吐出が終了すると、サンプル分注機構103は廃棄孔109の上方に移動し、使用済みのサンプル分注チップを廃棄孔109から廃棄する。
【0022】
試薬ディスク2はディスク形状を有し、回転動作が行われる。試薬ディスク2には複数の試薬ボトル3が設置されている。試薬ディスク2は、水平面において鉛直方向の中心軸の周りに回転する。これにより、試薬ディスク2上に配置されている試薬ボトル3が円周方向Cに移動し、工程に応じた所定の位置に搬送される。
【0023】
試薬ディスク2は、例えば3個の容器部を1セットとした試薬ボトル3が設置可能となっている。
図1Bに試薬ボトル3の斜視模式図を示す。磁性粒子試薬の場合、磁性粒子溶液を収容する1つの容器部と試薬を収容する2つの容器部とで1セットを構成する。なお、試薬ボトル3における容器部の数は複数であればよく、3には限られない。各容器部は、試薬を収容する本体部と、試薬に対してアクセス可能な吸引口301と、吸引口301を密閉可能な蓋302とを有している。試薬ボトル3全体の外形は、肩部303を有する略直方体の形状であり、肩部の上側に3つの吸引口301が並んで上側に突出している。自動分析装置の試薬容器蓋開閉機構(図示せず)による開閉動作を行うため、蓋302の一端に突起部304が設けられ、試薬ボトル3の側面方向に突出している。蓋302はヒンジ305を回転軸として回転可能とされ、蓋302には密閉部材306が設けられ、吸引口301に密閉部材306を挿入して蓋302を閉めることにより、試薬が蒸発したり、濃度変化を生じたりすることを抑制している。
図1Aに示されるように、本実施例の自動分析装置1は、試薬ボトル3が試薬ディスク2の半径方向Rに対して所定の角度θ(θ>0)を有するように配置されている(ここでは、「斜め配置」と称する)。この詳細については後述する。
【0024】
なお、試薬ディスク2の上部には図示しないカバーが設けられており、ほこり等の侵入が防止されているとともに、試薬ディスク2を含む空間部分が所定の温度に保温または保冷されている。すなわち、試薬ディスク2を含む空間部分は、保温庫や保冷庫としても機能する。本実施例では、領域4において試薬分注機構114または磁性粒子攪拌装置115が試薬ボトル3にアクセスするため、カバーに開口部を設けるとともに、試薬容器蓋開閉機構を設けることが望ましい。これにより試薬容器の蓋の開閉動作と試薬吸引動作との間に試薬ディスクの回転動作を行うことが不要とし、分注工程に要する時間を短くすることができる。
【0025】
試薬分注機構114は、水平面での回転動作、及び鉛直方向の上下移動が可能である。試薬分注機構114は、領域4(カバーの開口部)の上方に回転動作で移動した後に、下降し、ノズル(プローブ)の先端を、試薬容器蓋開閉機構によって開蓋された試薬ボトル3内の試薬に浸漬して、所定量の試薬を吸引する。次いで、試薬分注機構114は、上昇した後、インキュベータディスク104の所定位置の上方に回転動作で移動して、反応容器105に試薬を吐出する。図に示されるように、試薬分注機構114の回転軌道は所定位置の1つの試薬ボトルの複数の吸引口の上を通過するように設定されている。
【0026】
磁性粒子攪拌装置115もまた、水平面での回転動作、及び鉛直方向の上下移動が可能である。磁性粒子溶液を収容する容器の吸引口の位置は位置5である。このため、磁性粒子攪拌装置115は、位置5の上方に回転動作で移動した後に、下降し、磁性粒子攪拌装置115の先端を、試薬ボトル3内の磁性粒子溶液に浸漬して、攪拌する。
【0027】
このような構成により、試薬として磁性粒子試薬を用いる場合、磁性粒子攪拌装置115により磁性粒子溶液の攪拌を行っている間、試薬分注機構114により試薬の分注を行うことができる。これにより、磁性粒子試薬の分注工程にかかる時間を短縮することができる。
【0028】
サンプル、試薬、磁性粒子溶液が吐出された反応容器105は、インキュベータディスク104の回転によって所定位置に移動し、搬送機構106によって、反応容器攪拌機構108へと搬送される。反応容器攪拌機構108は、反応容器105に回転運動を加えることで、反応容器105内のサンプルと試薬とを攪拌して混和する。これにより、反応容器105内に反応液が生成される。
【0029】
攪拌の終了した反応容器105は、搬送機構106によって、インキュベータディスク104の所定位置に戻される。反応容器搬送機構116は、インキュベータディスク104と検出ユニット117との間で反応容器105を移載する。反応容器搬送機構116は、反応容器105を把持して上昇し、回転動作によって検出ユニット117に反応容器105を搬送する。その反応容器105は、検出ユニット117内で分析される。分析の終了した反応容器105は反応容器搬送機構116によってインキュベータディスク104に戻される。その後、反応容器105は、搬送機構106によって、インキュベータディスク104から廃棄孔109の上方に移動し、その廃棄孔から廃棄される。
【0030】
図2を参照して、試薬ディスク2に試薬ボトル3を斜め配置する場合における、試薬ディスク2に対する試薬分注機構114の最適配置について説明する。試薬ディスク2は、ディスク形状を有し、円周部に複数の試薬ボトル3が収容される。試薬ディスク2の回転軸をOで示す。試薬ボトル3は3つの吸引口31,32,33を有している(吸引口を区別する場合、試薬ディスク2に収容された状態で内側から順に、第1吸引口31、第2吸引口32、第3吸引口33とする)。試薬分注機構114は、試薬ボトル3-1の3個の吸引口に沿った軌道(試薬分注機構114を回転動作させた場合のノズルの軌道をS2として示す)を通る水平面での回転動作、及び鉛直方向の上下移動が可能である。試薬分注機構114の回転軸をPで示す。
【0031】
試薬ディスク2にはN個の試薬ボトル3が搭載される。試薬ボトル3の幅方向長さをd、奥行き方向長さをw、3つの吸引口間の距離をp1とする。試薬ボトル3はすべて同一形状である。本実施例においては、試薬ボトル3は試薬ディスク2の径に対して所定の傾きθ(θ>0)をもって配置される(なお、θは試薬ボトル3-1の第2吸引口32の中心を通る試薬ディスク2の径L0と試薬ボトル3-1の第2吸引口32の中心を通る試薬ボトル3の中心軸(奥行き方向)L1とのなす角として定義する)。
【0032】
また、試薬ディスク2に関して、試薬ボトル3の第2吸引口32の中心を通る円周C1、試薬保冷庫の内周C2、試薬保冷庫の外周(=試薬ディスク2の外周)C3を示している。円周C1の径をD1、試薬保冷庫の内径をD2、試薬保冷庫の外径(=試薬ディスク2の外径)をDとする。隣接する試薬ボトル3間同士の最短距離をd1、試薬ボトル3と試薬保冷庫の内周とのクリアランスをd2、試薬保冷庫の厚みをd3とおく。
【0033】
また、試薬分注機構114の駆動機構の径をd4、試薬分注機構114の回転軌道S2(上述のように、ノズルの軌道を「試薬分注機構の回転軌道」と称し、その大きさは試薬分注機構の中心軸とノズルとの距離に相当する)の径をR1とおく。なお、後述するようにR1は回転軌道S2の径を最小とした場合の長さであり、回転軌道S2が試薬ボトル3-1の第2吸引口32の中心を通る回転軌道の径である。
【0034】
試薬ディスク2への試薬ボトルの搭載数N、試薬ボトルの形状、距離d1~d4は固定値である。例えば、d1、d2は試薬ボトルを支えるのに必要な強度で満たすように定められている。そこで、試薬ボトル3の傾きθを変数として、試薬ディスク2の外径Dおよび試薬分注機構114の回転軌道の径を算出し、最適化を図る。試薬ディスク2の外径が大きいと装置の大型化につながり、試薬分注機構114の回転軌道の径が大きいと回転動作に伴う振動等により分注動作が不正確になるおそれがあるため、いずれもできるだけ小さくすることが望ましい。
【0035】
まず、円周C1の径D1を求める。径D1の求め方につき、
図3を参照しながら説明する。2つの試薬ボトル3-1、3-2の中心(第2吸引口の中心)をそれぞれv1、v2とおく。ここで、v1を通って試薬ボトル3-1の中心軸(奥行き方向)L1に沿って延びる第1の補助線、v2を通って第1の補助線と直角に交わる第2の補助線をひき、第1の補助線と第2の補助線との交点をv3とおく。ここで、v1-v2間距離をr1、v2-v3間距離をx1、v1-v3間距離をy1、直線(v1-v2)と直線(v2-v3)とがなす角をθ1とおく(
図3右上に示した拡大図を参照)。このとき、三角形(v1,v2,v3)に三平方の定理を適用して(数1)が導かれる。
【0036】
【0037】
また、三角形(v1,v2,O)は、v1-O間距離=v2-O間距離=(D1)/2の二等辺三角形であることから(数2)が導かれる。
【0038】
【0039】
x1およびy1は以下に説明するように、(数4)、(数5)で算出することができる。
図3に示すように、試薬ボトル3-2の1頂点v4を通って試薬ボトル3-1の中心軸L1と平行な第3の補助線をひき、第3の補助線と第2の補助線との交点をv5とおく。直角三角形(v2,v4,v5)に着目し、v2-v5間距離をtとおくと、(数3)が導かれる。
【0040】
【0041】
したがって、x1は(数4)で表すことができる。
【0042】
【0043】
一方、直角三角形(v1,v2,v3)に着目すると、y1は(数5)で表すことができる。
【0044】
【0045】
ここで、
図3に示されるように、θ1=90-φ2であるため、θ1は(数6)で表すことができる。
【0046】
【0047】
(数4)は変数を含まない固定値のみの数式であるため、x1は固定値である。また、r1=x1cos(θ1)の関係があるため、(数2)、(数6)より、D1は(数7)で表すことができる。
【0048】
【0049】
次に、
図4を参照しながら、試薬保冷庫の内径D2及び試薬保冷庫の外径(=試薬ディスク2の外径)Dを求める。まず、試薬ディスク2の回転軸Oから最も遠い位置にある試薬ボトル3-2の頂点をv6とし、三角形(v2,O,v6)に対して余弦定理を適用する。三角形(v2,O,v6)の各辺の長さを
図4に示すようにa,b,cとおくと、寸法a、寸法b、寸法c、角度Aはそれぞれ(数8)~(数11)で算出することができる。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
ここで、試薬保冷庫の内径D2及び試薬保冷庫の外径(=試薬ディスク2の外径)Dは、それぞれ(数12)、(数13)の関係を有するため、これらに(数8)~(数11)を適用することで内径D2及び外径Dの長さを算出できる。
【0055】
【0056】
【0057】
次に、
図5を参照しながら、試薬分注機構114の回転軌道の径(最小値)R1を求める。試薬分注機構114は、回転軌道S2に沿って水平面での回転動作をするため、その回転中心軸Pは、分注対象の試薬ボトル3-1の中心(第2吸引口の中心)v1から試薬ボトル3-1の中心軸(奥行き方向)L1と直交する線51上にある。ここで、三角形(v1,O,P)に対して余弦定理を適用すると(数14)が成り立つ。
【0058】
【0059】
(数14)を変形することで(数15)に書き換えられる。
【0060】
【0061】
(数15)に対して、二次方程式の解の公式を用いることにより、R1は(数16)で算出することができる。
【0062】
【0063】
ここで、b1、c1はそれぞれ(数17)(数18)で算出される。なお、R1は、二次方程式の解の公式で得られる値のうち最小のものを使用することとする。
【0064】
【0065】
【0066】
ここで、試薬分注機構114の回転軌道径としてR1を用いた場合、第2吸引口32とそれ以外の吸引口31,33とでは、吸引位置の誤差ε0が生じる。
図6に試薬ボトル3-1の吸引口と試薬分注機構114の回転軌道との位置関係を示す(ただし、図では分かりやすさのために吸引位置の誤差を強調して示している)。なお、試薬ボトル3-1の第1吸引口31の中心をv7、第2吸引口32の中心をv1、第3吸引口33の中心をv8とおく。したがって、v1,v7,v8は試薬ボトル3-1の中心軸(奥行き方向)L1上に位置し、またv1-v7間距離及びv1-v8間距離はp1である。三角形(v1,P,v8)に対して三平方の定理を適用することにより、(数19)の関係が導き出される。
【0067】
【0068】
吸引位置の誤差ε0が存在することにより、第1吸引口31、第3吸引口33では試薬分注機構の位置ずれマージンが小さくなる。このような状態よりも、回転軌道がわずかに大きくなっても、各吸引口での吸引位置誤差を均一化した方が吸引動作の安定性を担保する観点から望ましい。そこで、各吸引口での吸引位置誤差を均一化するために、試薬分注機構の回転軌道径をεだけ伸ばすものとする。このとき、第2吸引口32の吸引位置誤差はε、第1吸引口31または第3吸引口33の吸引位置誤差は(ε0-ε)となり、これを等しくするには、(数20)の関係が成立する。
【0069】
【0070】
よって、最適な試薬分注機構114の回転軌道径Rは(数21)で表される。
【0071】
【0072】
以上の関係式に基づき、試薬ディスク2の外径Dおよび試薬分注機構114の回転軌道の径の最適化を検討する。具体例として、試薬ディスク2への試薬ボトル3の搭載個数Nが28、試薬ボトル3の幅方向長さdが22mm、奥行き方向長さwが78mm、吸引口間距離p1が26mm、試薬ボトル間同士の距離d1が5mm、試薬ボトル3と試薬保冷庫の内周とのクリアランスd2が5mm、試薬保冷庫の厚みd3が40mm、試薬分注機構114の駆動機構の径d4が100mm、の場合における、最適化を検討する。
図7~
図10にそれぞれ、試薬ボトル3の傾きθを0°~45°まで変化させて算出した、試薬ボトル3の傾きθと試薬保冷庫外径Dとの関係(
図7)、試薬ボトル3の傾きθと試薬分注機構114の回転軌道径(最小値)R1との関係(
図8)、試薬ボトル3の傾きθと吸引位置誤差εとの関係(
図9)、試薬ボトル3の傾きθと試薬分注機構の回転軌道径Rとの関係(
図10)を示す。
【0073】
図7より、θ<30°のとき、試薬ボトルの傾きθと試薬保冷庫外径Dとの間に相関は認められない。θが30°を越えると、試薬保冷庫外径Dが500mmを越えて急に肥大化することが分かる。
【0074】
図8より、試薬ボトルの傾きθと試薬分注機構の回転軌道径(最小値)R1には相関があり、試薬ボトル3の傾きθが大きくなるほど、試薬分注機構114の回転軌道径の最小値R1が小さくなることで試薬分注機構114を小型化できることが分かる。試薬分注機構が安定して分注動作可能な回転軌道の径の最大値を200mmとすると、傾きθを20°以上とすることが望ましい。なお、θが0°のときが、従来技術のように試薬ボトルを試薬ディスクに放射状に配置する場合に相当する。
図8から読み取れるように、試薬ボトルを試薬ディスクに放射状に配置すると、試薬分注機構に回転動作を行わせて1つの試薬ボトルの複数の吸引口にアクセスさせるには回転軌道の径が大きくなりすぎる。このため、従来技術では、
図11に示すように、吸引口に応じて試薬分注機構がアクセスする試薬ボトルを異ならせることにより、回転軌道の径を小さくしていたものである。
【0075】
一方、
図9より試薬ボトル3の傾きθと吸引位置誤差εには相関があり、試薬ボトル3の傾きθが大きくなるほど吸引位置誤差εが増大することが分かった。傾きθが40°を越えると吸引位置誤差が1.0mm以上となり、試薬ボトル3の吸引口の大きさとの関係で実装困難となる。
図10には試薬ボトルの傾きθと試薬分注機構の回転軌道径Rを示している。R,R1,εとの関係は(数21)に示される通りであるが、R1≫εのため、得られる知見は
図8と同様である。
【0076】
以上から、試薬ボトルの傾きθが20°≦θ≦30°のとき、保冷庫の外径寸法Dをおさえ、かつ試薬分注機構の回転軌道の径Rをおさえて自動分析装置に実装可能にできることが分かる。ゆえに、試薬ディスク2に試薬ボトル3を斜め配置する場合には、試薬ディスク2の径に対してθ(20°≦θ≦30°)傾けて試薬ボトルを配置することが望ましい。
【0077】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能なものである。
【符号の説明】
【0078】
1:自動分析装置、2:試薬ディスク、3:試薬ボトル、4:領域、5:磁性粒子攪拌装置のアクセス位置、31:第1吸引口、32:第2吸引口、33:第3吸引口、51:線、101:ラック、102:サンプル容器、103:サンプル分注機構、104:インキュベータディスク、105:反応容器、106:搬送機構、107:保持部材、108:反応容器攪拌機構、109:廃棄孔、110:サンプル分注チップ装着位置、114:試薬分注機構、115:磁性粒子攪拌装置、116:反応容器搬送機構、117:検出ユニット、118:ラック搬送ライン、120:ラック搬送部、121:電源投入指示部、122:電源切断指示部、123:制御コンピュータ、201:試薬ボトル、202,203,204:吸引口、210:試薬ディスク、211:試薬分注機構、301:吸引口、302:蓋:303:肩部、304:突起部、305:ヒンジ、306:密閉部材。