(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】組成物から作られる物品
(51)【国際特許分類】
C08L 71/10 20060101AFI20230301BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20230301BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230301BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20230301BHJP
H01B 3/42 20060101ALI20230301BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C08L71/10
C08L27/12
C08K7/14
H01B3/30 P
H01B3/42 G
H01B3/44 C
(21)【出願番号】P 2017193610
(22)【出願日】2017-10-03
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2017014267
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017117830
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 紀生
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096577(JP,A)
【文献】特開2015-042740(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171029(WO,A1)
【文献】特表2015-502441(JP,A)
【文献】特開2014-130215(JP,A)
【文献】国際公開第2016/187260(WO,A1)
【文献】特表2015-504942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00-71/14
C08L 27/00-27/24
C08K 3/00-13/08
H01B 3/00-3/14
H01B 7/00-7/02
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリールエーテルケトンと、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、
テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、又はエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体であるフッ素樹脂、及び/又はテトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体である含フッ素エラストマーとを含み、前記ポリアリールエーテルケトンと、前記フッ素樹脂及び前記含フッ素エラストマーの合計との体積比が、95:5~65:35である組成物から作られ、管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、および繊維状成形体からなる群から選択される物品。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体に基づく単位と、含フッ素単量体(ただし、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく単位とを含有する、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記組成物における前記ポリアリールエーテルケトンの繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位である、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項4】
前記組成物が、さらに少なくとも1種の強化フィラーを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記強化フィラーが繊維状強化フィラーである請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記繊維状強化フィラーがSガラス繊維である請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記強化フィラーを前記組成物の全質量に対して5~40質量%含有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品である、請求項1~7のいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
ラップトップ、携帯電話、GPS、タブレット、携帯端末、携帯記録装置、携帯再生装置および携帯ラジオ受信機のいずれかである、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
シームレスベルトである、請求項1~7のいずれか一項に記載の物品。
【請求項11】
画像形成装置用シームレスベルトである、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
繊維状成形体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の物品。
【請求項13】
モノフィラメント、マルチフィラメント、織布、不織布のいずれかである、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
防火服、耐火服、フィルター、輸送機器内装品のいずれかである、請求項12に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物から作られた各種物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトンなどのポリアリールエーテルケトンは、耐熱性、耐薬品性、卓越した強度および優れた耐疲労性等機械的特性に優れることが知られている。また、ポリアリールエーテルケトンの衝撃強度を向上させるために、ポリフェニルスルホン等のポリマーと混合した組成物が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記組成物においても、例えば低温における耐衝撃性などはまだ不十分であり、組成物からなる物品が使用される環境によっては破損が生じることがある。ポリアリールエーテルケトンの持つ優れた各種物性を維持しつつ、耐衝撃性を更に改善する必要性が依然として存在する。
【0005】
本発明は、ポリアリールエーテルケトンの持つ優れた各種物性を有するとともに、耐衝撃性をさらに高めた物品の提供をすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
【0007】
[1]ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物から作られ、管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、繊維状成形体および被覆電線からなる群から選択される物品。
[2]前記含フッ素重合体がカルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する溶融成形可能なフッ素樹脂及び/又はテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、およびクロロトリフルオロエチレンから選ばれる1種以上の単量体に基づく単位を含む含フッ素エラストマーであることを特徴とする、[1]に記載の物品。
[3]前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体に基づく単位と、含フッ素単量体(ただし、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく単位とを含有する、[2]に記載の物品。
[4]前記含フッ素エラストマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位およびプロピレンに基づく単位を有する共重合体、ヘキサフルオロプロピレンに基づく単位およびフッ化ビニリデンに基づく単位を有する共重合体、ならびにテトラフルオロエチレンに基づく単位およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を有する共重合体から選ばれる、[2]に記載の物品。
[5]前記組成物における前記ポリアリールエーテルケトンの繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位である、[1]~[4]のいずれかに記載の物品。
[6]前記組成物におけるポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体の体積比が、99:1~55:45である、[1]~[5]のいずれかに記載の物品。
[7]前記組成物が、さらに少なくとも1種の強化フィラーを含むことを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の物品。
[8]前記強化フィラーが繊維状強化フィラーである[7]に記載の物品。
[9]前記繊維状強化フィラーがSガラス繊維である[8]に記載の物品。
[10]前記強化フィラーを組成物の全質量に対して5~40質量%含有する、[8]または[9]に記載の物品。
[11]携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品である、[1]~[10]のいずれかに記載の物品。
[12]ラップトップ、携帯電話、GPS、タブレット、携帯端末、携帯記録装置、携帯再生装置および携帯ラジオ受信機のいずれかである、[11]に記載の物品。
[13]シームレスベルトである、[1]~[10]のいずれかに記載の物品。
[14]画像形成装置用シームレスベルトである、[13]の物品。
[15]繊維状成形体である、[1]~[10]のいずれかに記載の物品。
[16]モノフィラメント、マルチフィラメント、織布、不織布のいずれかである、[15]の物品。
[17]防火服、耐火服、フィルター、輸送機器内装品のいずれかである、[15]の物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の物品は、ポリアリールエーテルケトンの持つ優れた各種物性を有するとともに、高い耐衝撃性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の物品の原料となる組成物は、ポリアリールエーテルケトン(以下、PAEKとも記す。)および含フッ素重合体を含む。
なお、本発明の含フッ素重合体において、「単位」とは単量体が重合することによって形成された該単量体に基づく単位を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
【0010】
本発明におけるPAEKとしては、前記特表2015-502441号公報の[0010]~[0022]に記載されたものが挙げられる。PAEKは、ベンゼン環がエーテルとケトンにより結合した構造が繰り返された単位(以下、繰り返し単位とも記す。)を有する。繰り返し単位の50mol%以上が、「-Ph-O-Ph-CO-Ph-O-」(ただし、「-Ph-」は1,4-フェニレン基である)で表される繰り返し単位であるものが好ましい。PAEKとしては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンが挙げられ、中でも機械的強度および耐熱性の観点からポリエーテルエーテルケトンが特に好ましい。これらは市販品としても入手可能であり、ソルベイアドバンストポリマーズ社製「KetaSpre KT-820」、ビクトレックスジャパン社製「VICTREX PEEK(登録商標) 150P」、ダイセルエボニック社製「VESTAKEEP 1000G」等が挙げられる。
【0011】
本発明における含フッ素重合体は、融点を有する含フッ素重合体に限られず、含フッ素エラストマー等の融点を有しない含フッ素重合体も包含する。
【0012】
含フッ素エラストマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VdF)、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)から選ばれる1種以上の単量体に基づく単位を含むエラストマーが好ましい。以下、テトラフルオロエチレンに基づく単位を「TFE単位」、等とも記す。
【0013】
含フッ素エラストマーとしては、TFE/プロピレン含有共重合体(TFE単位とプロピレン単位(以下P単位とも記す)とを含有する共重合体を意味する。なお、「/」で結ばれた各構成単位の合計、TFE/P含有共重合体の場合にはTFE単位とP単位との合計が、すべての構成単位の合計に占める割合は、50モル%以上であることが好ましい。他の「含有共重合体」についても同様である。)、HFP/VdF含有共重合体、TFE/(パーフルオロ(アルキルビニルエーテル))(PAVE)含有共重合体が好ましい。
なお、TFE/PAVE含有共重合体には、TFE単位とPAVE単位とを有する共重合体であっても、さらにP単位やVdF単位を含むものは含まない。また、HFP/VdF含有共重合体には、HFP単位とVdF単位とを有する共重合体であっても、さらにP単位を含むものは含まない。
【0014】
ここで、PAVEは、下式(I)で表される化合物であり、具体的には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)が挙げられる。
CF2=CF(ORF) ・・・(I)
[式中、RFは炭素数1~8の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基である。]
【0015】
上記の含フッ素エラストマーのなかでも、TFE/P(TFE単位とP単位とからなる共重合体)がさらに好ましい。TFE/Pにおいて、TFE:P(TFE単位とP単位とのモル比を意味する。単位はモル%:モル%であり、合計で100モル%である。他のモル比についても同様である。)は、30~80:70~20が好ましく、40~70:60~30がより好ましく、60~50:40~50がさらに好ましい。
【0016】
含フッ素エラストマーにおけるフッ素含有量は、50~74質量%であることが好ましく、55~70質量%であることがより好ましい。含フッ素エラストマーにおけるフッ素含有量は、具体的には、TFE/P共重合体においては57~60質量%であることが好ましく、HFP/VdF共重合体においては66~71質量%であることが好ましく、TFE/PMVE共重合体においては66~70質量%であることが好ましい。
【0017】
含フッ素エラストマーの数平均分子量は、1万~150万が好ましく、2万~100万がより好ましく、2万~80万がさらに好ましく、5万~60万が特に好ましい。含フッ素エラストマーの数平均分子量が前記下限値以上であれば、物品の機械的強度が良好となる。含フッ素エラストマーの数平均分子量が前記上限値以下であれば、高い流動性を有し、組成物中における分散が良好となり、かつ物品の柔軟性が高まる。
【0018】
含フッ素エラストマーのムーニー粘度(ML1+10、121℃)は、20~200が好ましく、30~150がより好ましく、40~120がさらに好ましい。
ムーニー粘度は、分子量の尺度であり、JIS K6300-1:2000に準じて測定される。この値が大きいと分子量が大きいことを示し、小さいと分子量が小さいことを示す。含フッ素エラストマーのムーニー粘度が前記範囲内にあれば、組成物の機械的特性および成形性に優れる。
【0019】
融点を有する含フッ素重合体としては、各種物品を製造する際の加工性の観点から、溶融成形可能なものが好ましい。溶融成形可能な含フッ素重合体としては溶融成形可能なフッ素樹脂が挙げられ、公知のものが使用でき、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
【0020】
フッ素樹脂は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものが好ましい。カルボニル基含有基としては、酸無水物基およびカルボキシ基が好ましい。フッ素樹脂で、これらの官能基を有するものとしては、WO2016/017801号の[0018]~[0048]に記載された共重合体等が挙げられる。
フッ素樹脂が前記官能基を有すると、本発明の物品の耐衝撃強度が向上するため好ましい。
【0021】
フッ素樹脂が、前記官能基として、単量体に由来する官能基を有する場合、耐衝撃性が優れる点から、下記の重合体(B11)が特に好ましい。
TFE単位またはCTFE単位(u1)と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体(以下、「酸無水物基含有環状炭化水素単量体」とも記す。)に由来する単位(u2)と、含フッ素単量体(ただし、TFEおよびCTFEを除く。)に由来する単位(u3)とを有する重合体(B11)。
ここで、単位(u2)の有する酸無水物基が官能基に相当する。
【0022】
単位(u2)を構成する酸無水物基含有環状炭化水素単量体としては、無水イタコン酸(IAH)、無水シトラコン酸(CAH)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸(NAH)、無水マレイン酸等が挙げられる。酸無水物基含有環状炭化水素単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
酸無水物基含有環状炭化水素単量体としては、IAH、CAHおよびNAHからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。IAH、CAHおよびNAHからなる群から選ばれる1種以上を用いると、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11-193312号公報参照)を用いることなく、酸無水物基を有する重合体(B11)を容易に製造できる。
酸無水物基含有環状炭化水素単量体としては、物品の耐衝撃性が著しく優れる点から、IAHまたはNAHが好ましい。
【0024】
単位(u3)を構成する含フッ素単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有する含フッ素化合物が好ましく、たとえば、フルオロオレフィン(フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、ヘキサフルオロイソブチレン等。ただし、TFEを除く。)、CF2=CFORf1(ただし、Rf1は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいPAVE、CF2=CFORf2SO2X1(ただし、Rf2は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基であり、X1はハロゲン原子または水酸基である。)、CF2=CFORf3CO2X2(ただし、Rf3は炭素数1~10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基であり、X2は水素原子または炭素数1~3のアルキル基である。)、CF2=CF(CF2)pOCF=CF2(ただし、pは1または2である。)、CH2=CX3(CF2)qX4(ただし、X3は水素原子またはフッ素原子であり、qは2~10の整数であり、X4は水素原子またはフッ素原子である。)(以下、「FAE」とも記す。)、環構造を有する含フッ素単量体(ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ-1,3-ジオキソール、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)等)等が挙げられる。
【0025】
含フッ素単量体としては、重合体(B11)の成形性、物品の耐屈曲性等に優れる点から、HFP、PAVEおよびFAEからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、FAEおよびHFPのいずれか一方または両方がより好ましい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)6F等が挙げられ、CF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましい。
【0026】
FAEとしては、CH2=CF(CF2)2F、CH2=CF(CF2)3F、CH2=CF(CF2)4F、CH2=CF(CF2)5F、CH2=CF(CF2)6F、CH2=CF(CF2)2H、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4H、CH2=CF(CF2)5H、CH2=CF(CF2)6H、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CH(CF2)5F、CH2=CH(CF2)6F、CH2=CH(CF2)2H、CH2=CH(CF2)3H、CH2=CH(CF2)4H、CH2=CH(CF2)5H、CH2=CH(CF2)6H等が挙げられる。
FAEとしては、CH2=CH(CF2)q1X4(ただし、q1は、2~6であり、2~4が好ましい。)が好ましく、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4Hがより好ましく、CH2=CH(CF2)4FまたはCH2=CH(CF2)2Fが特に好ましい。
【0027】
重合体(B11)の各単位の好ましい割合は下記のとおりである。
単位(u1)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)との合計に対して、90~99.89モル%が好ましく、95~99.47モル%がより好ましく、96~98.95モル%がさらに好ましい。
単位(u2)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)との合計に対して、0.01~3モル%が好ましく、0.03~2モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。
単位(u3)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)との合計に対して、0.1~9.99モル%が好ましく、0.5~9.97モル%がより好ましく、1~9.95モル%がさらに好ましい。
【0028】
重合体(B11)は、単位(u1)~(u3)に加えて、フッ素を有しない単量体(ただし、酸無水物基含有環状炭化水素単量体を除く。)に由来する単位(u4)を有していてもよい。
フッ素を有しない単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有するフッ素を有しない化合物が好ましく、たとえば、オレフィン(エチレン(以下、「E」とも記す。)、プロピレン、1-ブテン等)、ビニルエステル(酢酸ビニル等)等が挙げられる。フッ素を有しない単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
フッ素を有しない単量体としては、物品の機械的特性等に優れる点から、エチレン、プロピレン、1-ブテンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0029】
単位(u4)がエチレンである場合の各単位の好ましい割合は下記のとおりである。
単位(u1)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)と単位(u4)との合計100モル%のうち、25~80モル%が好ましく、40~65モル%がより好ましく、45~63モル%がさらに好ましい。
単位(u2)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)と単位(u4)との合計100モル%のうち、0.01~5モル%が好ましく、0.03~3モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。
単位(u3)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)と単位(u4)との合計100モル%のうち、0.2~20モル%が好ましく、0.5~15モル%がより好ましく、1~12モル%がさらに好ましい。
単位(u4)の割合は、単位(u1)と単位(u2)と単位(u3)と単位(u4)との合計100モル%に対して、20~75モル%が好ましく、35~50モル%がより好ましく、37~55モル%がさらに好ましい。
【0030】
各単位の割合が前記範囲内であれば、物品の難燃性、耐薬品性等に著しく優れる。
単位(u2)の割合が前記範囲内であれば、含フッ素重合体(B11)における酸無水物基の量が適切になり、物品の耐衝撃性が著しく優れる。
単位(u3)の割合が前記範囲内であれば、含フッ素重合体(B11)の成形性、物品の耐屈曲性等に著しく優れる。
各単位の割合は、含フッ素重合体(B11)の溶融NMR分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析等により算出できる。
【0031】
重合体(B11)には、単位(u2)における酸無水物基の一部が加水分解し、その結果、酸無水物基含有環状炭化水素単量体に対応するジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、マレイン酸等)に由来する単位が含まれる場合がある。該ジカルボン酸に由来する単位が含まれる場合、該単位の割合は、単位(u2)の割合に含めるものとする。
【0032】
重合体(B11)の好ましい具体例としては、TFE/NAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/PPVE共重合体、TFE/CAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/HFP共重合体、TFE/CAH/HFP共重合体、TFE/IAH/CH2=CH(CF2)4F/E共重合体、TFE/CAH/CH2=CH(CF2)4F/E共重合体、TFE/IAH/CH2=CH(CF2)2F/E共重合体、TFE/CAH/CH2=CH(CF2)2F/E共重合体、TFE/IAH/HFP/CH2=CH(CF2)4F/E共重合体等が挙げられる。
【0033】
前記組成物における、ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体の体積比(ポリアリールエーテルケトン:含フッ素重合体)は、99:1~55:45が好ましく、99:1~60:40がより好ましく、95:5~65:35がさらに好ましい。前記範囲であると、ポリアリールエーテルケトンの性能を維持しつつ、優れた耐衝撃性を付与できる。
【0034】
前記組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の重合体を含んでもよい。例えば、前記特表2015-502441号公報の[0023]~[0025]に記載されたポリフェニルスルホン、[0029]~[0031]に記載されたポリスルホンなどが挙げられる。また、前記WO2016/017801号の[0081]に記載された各種熱可塑性樹脂なども挙げられる。これら他の重合体を含む場合は、前記組成物の20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0035】
前記組成物は、強化フィラーを含有してもよい。強化フィラーとしては前記WO2016/017801号の[0089]に記載された無機フィラー等が挙げられる。強化フィラーとしては繊維状強化フィラーが好ましく、炭素繊維またはガラス繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、前記特表2015-502441号公報の[0052][0053]に記載されたものが挙げられ、中でもSガラス繊維が好ましい。
【0036】
前記組成物が強化フィラーを含有する場合は、前記組成物の全質量に対して60質量%以下であることが好ましく、5~50質量%が好ましく、5~40質量%であることがより好ましい。前記範囲であると、本発明の物品に優れた耐衝撃性を付与できる。
【0037】
前記組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、前記強化フィラー以外の無機フィラー、有機フィラー、有機顔料、金属せっけん、界面活性剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、シランカップリング剤、有機化合物(たとえば有機モノマー、重合度50以下の有機オリゴマー等。)等が挙げられる。
【0038】
前記組成物の調製は、任意の公知の溶融混練方法によって行うことができる。
例えば、含フッ素重合体が溶融成形可能なフッ素樹脂である場合、ポリアリールエーテルケトンおよびフッ素樹脂と、必要に応じて配合されるその他の成分(熱可塑性樹脂、充填剤、顔料等。)とを混練押出機等を用いて溶融混練する方法で製造することが挙げられる。
溶融混練には、種々の混練機が使用できるが、押出機を用いることが好ましい。
混練押出機のスクリューは、2軸スクリュータイプが好ましい。
溶融混練温度は、360~450℃が好ましく、380~420℃がより好ましい。該温度が360℃以上であると、溶融混練において、含フッ素重合体と、ポリアリールエーテルケトン樹脂との相容性が向上し、含フッ素重合体が平均分散粒子径10μm以下で分散しやすくなる。
混練押出機での滞留時間は、10秒以上30分以下が好ましい。スクリュー回転数は、5rpm以上1500rpm以下が好ましく、10rpm以上500rpm以下がより好ましい。
【0039】
また、含フッ素重合体が含フッ素エラストマーである場合、溶融混練工程に用いる装置としては、混練効果の高いスクリューを備えた二軸押出機が好ましい。混練効果の高いスクリューとしては、溶融混練対象物に対する充分な混練効果を有し、かつ、過剰なせん断力を与えないものを選択できる。このような溶融混練機能を有する装置としては、ラボプラストミル混練機(株式会社 東洋精機製作所製)が挙げられる。
溶融混練工程における混練温度は、220~480℃が好ましく、280~450℃がより好ましく、290~420℃がさらに好ましく、300~400℃が特に好ましい。
溶融混練工程における押出せん断速度は、上記の溶融混練工程における混練温度における、溶融混練対象物の溶融粘度に応じて設定することが好ましい。
溶融混練工程における押出せん断速度は、3~2500s-1が好ましく、10~2000s-1がより好ましく、15~1500s-1がさらに好ましい。
溶融混練工程における、溶融混練対象物の溶融混練機能を有する装置内での滞留時間は、10~290秒が好ましく、20~240秒がより好ましく、30~210秒がさらに好ましい。
【0040】
本発明による物品は、任意の適切な溶融加工方法を用いて前記組成物から製造される。特に、それらは、射出成形または押出成形によって製造される。中でも、本発明の物品を製造するのは射出成形が好ましい方法である。
【0041】
本発明は、管、管継手、多岐管、弁、医療機器、医療機器の部品、医療用ケース、医療用トレイ、航空機内部パネル、航空機内部コンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、携帯電子装置、携帯電子装置の構造部品、シームレスベルト、繊維状成形体および被覆電線からなる群から選択される物品である。
【0042】
本発明の物品としては携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品が特に好ましい。
本発明による携帯電子装置の構造部分は、金属による被覆を行うための任意の公知の方法、例えば、真空蒸着(蒸着される金属を加熱する様々な方法を含む)、化学メッキ、電解メッキ、化学気相蒸着、金属スパッタリング、および電子ビーム蒸着によって、金属によって被覆されてもよい。金属は、何らの特別な処理なしで構造部分に十分付着し得るが、通常は付着を向上させるための当技術分野で周知の何らかの方法が使用される。これは、合成樹脂表面を粗くするためのそれの単純な摩耗、接着促進剤の付与、化学エッチング、プラズマおよび/もしくは放射線(例えば、レーザ線またはUV線)への曝露による表面の官能基化、またはこれらの任意の組合せに及び得る。また、金属被覆法の一部は、構造部分が酸浴に浸漬される少なくとも1つの工程を含む。2種以上の金属または金属合金が、前記組成物から作られた構造部分にメッキされてもよく、例えば、ある金属または合金が、その良好な接着性のために合成樹脂表面に直接メッキされ、別の金属または合金が、より高い強度および/または剛性を有するために、その上にメッキされてもよい。金属被覆を形成する有用な金属および合金としては、銅、ニッケル、鉄-ニッケル、コバルト、コバルト-ニッケル、およびクロム、ならびに異なる層におけるこれらの組合せが挙げられる。好ましい金属および合金は、銅、ニッケル、および鉄-ニッケルであり、ニッケルがより好ましい。構造部分の表面は、金属で完全または部分的に被覆されてもよい。好ましくは表面積の50パーセント超が被覆され、より好ましくは表面のすべてが被覆される。構造部分の異なる領域において、金属層の厚さおよび/もしくは数、ならびに/または金属層の組成は変わってもよい。金属は、構造部分の一定の区域で1つ以上の特性を効率的に向上させるパターンで被覆されてもよい。
【0043】
本発明の物品は前記組成物から作られた少なくとも1つの構造部分を備える携帯電子装置、特にラップトップ、携帯電話、GPS、タブレット、携帯端末、携帯記録装置、携帯再生装置および携帯ラジオ受信機としても好ましい。
【0044】
また、本発明の物品としてはシームレスベルトも特に好ましい。
本発明のシームレスベルトは、前記WO2016/017801号の[0089]に記載された無機フィラー等を含むことができる。無機フィラーとしては、特に限定されないが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイトカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。中でも、安価で用意に入手できることから、カーボンブラックが好ましい。シームレスベルトの無機フィラーの含有量は、通常、1~30質量%であり、3~10質量%であることが好ましい。
本発明のシームレスベルトは画像形成装置用シームレスベルトに好適に用いられる。画像形成装置は、感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電した感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、感光体に形成された静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像手段と、感光体に形成されたトナー像を、シームレスベルトに転写する第一の転写手段と、シームレスベルトに転写されたトナー像を記録媒体に転写する第二の転写手段と、トナー像が転写されたシームレスベルトをクリーニングするクリーニングブレードを有する。
本発明のシームレスベルトは、画像形成装置として上記トナー方式の画像形成装置のみならず、インクジェット方式の画像形成装置用搬送ベルトの一部または全部として好適に用いられる。
【0045】
また、本発明の物品としては繊維状成形体も特に好ましい。
繊維状成形体としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、織布、不織布が好ましい。本発明の繊維状成形体は単層としてだけでなく、本発明の物品の原料となる樹脂組成物以外の樹脂組成物との芯鞘繊維とすることもできる。
モノフィラメント、マルチフィラメントの成形方法としては、特に限定されるものではないが押出成形、紡糸成形が好ましく用いられる。織布の成形方法としては特に限定されるものではなく、モノフィラメント、マルチフィラメント等を用い一般的な織機によって成形される。不織布の成形方法としては、特に限定されるものではないが、メルトブロー法、スパンボンド法、ニードルパンチ法、エレクトロスピニング法等が好ましく用いられる。
本発明の繊維状成形体としては、耐熱性、難燃性に優れることから、防火服、耐火服、フィルター、輸送機器内装品が好ましい。
【0046】
本発明の物品としては被覆電線が好ましい。
本発明の被覆電線は、芯線と、前記芯線の表面を被覆している被覆材とを有し、前記被覆材が前記ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物から構成されていることを特徴とする。
芯線(導体)としては、特に限定されず、たとえば、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金、スズメッキ、銀メッキ、ニッケルメッキ等の各種メッキ線、より線、超電導体、半導体素子リード用メッキ線などが挙げられる。
本発明の被覆電線の被覆材の厚さは、3mm以下が好ましく、0.005~2.5mmがより好ましく、0.010~1.5mmがさらに好ましい。被覆材の厚さが上記範囲内であれば、電線の取扱い性に優れ、電気絶縁性、耐屈曲性がさらに優れるため好ましい。
本発明の被覆導線は前記ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物以外の複数の樹脂成分をもちいた多層構造とすることもできる。
<被覆電線の製造方法>
本発明の被覆電線は、芯線の表面を、前記ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物により被覆することにより製造できる。
前記ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物による芯線の被覆は、押出成形法等の公知の成形方法により行うことができる。たとえば、押出機を用いて、芯線上に、溶融させた前記ポリアリールエーテルケトンおよび含フッ素重合体を含む組成物を被覆させるように押し出す成形方法(電線押出成形)が挙げられる。
本発明の被覆電線は、(1)ロボット、電動機、発電機、変圧器等の電気機械、家庭用電気機器の被覆電線、(2)電話、無線機等の通信用伝送機器の被覆電線、(3)コンピュータ・データ通信機器・端末機器等の電子機器の被覆電線、(4)鉄道車両用被覆電線、(5)自動車用被覆電線、(6)航空機用被覆電線、(7)船舶用被覆電線、(8)ビル・工場幹線、発電所、石油化学・製鉄プラント等のシステム構成用被覆電線、各種機器類の被覆電線、(9)原子力発電所等極限環境で使用される被覆電線に好適に用いることができる。
【0047】
また、本発明の管、多岐管はチューブやカテーテルとして用いることができ、中でも内視鏡処置具に好ましく用いられる。
【0048】
なお、本発明の物品の原料となる前記組成物は、スピーカー振動版、外傷・骨折用プレート板、電気絶縁紙、各種電気絶縁用粘着テープ等の絶縁紙、石油・天然ガス用パイプに使われるシールテープ用途、HPLC等クロマトグラフ装置用チューブ、樹脂製チェーン、樹脂製コンベアチェーン、結束バンドとしても使用可能である。また、例えばMIDなどの回路成形部品、3Dプリンタの造形材料としても使用可能である。また、国際公開第2015/182702号の段落[0044]に記載された形状、物品としても使用可能である。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、各測定項目は下記方法により測定した。
【0050】
(MFRの測定)
株式会社テクノ・セブン製メルトインデクサーを用い、ASTM D3307に準じて、372℃にて49N(5kg)荷重下、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出する樹脂の質量(g)を測定し、その値をMFR(g/10分)とした。
【0051】
(曲げ弾性率の測定)
TOYO BALDWIN CO.,LTD.製TENSILON(型式:UTM-5T)を用い、ASTM D790に準じて測定した。
【0052】
(使用原料)
PAEK(A-1):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、ビクトレックスジャパン株式会社製、製品名「VICTREX PEEK 150P」)
PAEK(A-2):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、ソルベイアドバンストポリマーズ社製、製品名「KetaSpire KT-820」)
PAEK(A-3):ポリエーテルエーテルケトン(融点:340℃、ダイセルエボニック社製、製品名「Vestakeep 1000G」)
含フッ素エラストマー(B-1):テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(旭硝子株式会社製、製品名「AFLAS(登録商標) 150FC」)
含フッ素エラストマー(B-2):ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(DuPont社製、グレード名「バイトンフリーフローSCPW」)
フッ素樹脂(B-3):カルボニル基含有基の含有量:主鎖炭素数1×106個に対し1000個、融点:300℃、溶融流れ速度(372℃、荷重49N):22g/10分)。該樹脂は、国際公開第2015/182702号の実施例5と同様に製造し、TFE/NAH/PPVEのモル比は、97.9/0.1/2である。
他の重合体:ポリフェニルスルホン(BASF社製、「UltrasonP3010」)
【0053】
〔例1〕
二軸押出機(KZW15TW-45HG1100、スクリュー径:15mmΦ、L/D:45、株式会社テクノベル製)のスクリューの基端に、PAEK(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)とを、体積比が90:10になるように、かつ合計の投入量が2.0kg/時間になるように連続的に投入し、スクリュー回転数を200rpm、温度を380℃として、スクリューの先端側から、混練物を2.0kg/時間で連続的に吐出し、含フッ素共重合体組成物である混練物1を得た。なお、シリンダ、ヘッドおよびダイの設定温度は、C1/C2/C3/C4/C5/C6/D/H=340/350/360/370/370/370/350/350℃とした。
【0054】
〔例2〕
PAEK(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比を80:20になるように連続的に投入した以外は、例1と同様にして、含フッ素共重合体組成物である混練物2を得た。
【0055】
〔例3〕
PAEK(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比を70:30になるように連続的に投入した以外は、例1と同様にして、含フッ素共重合体組成物である混練物3を得た。
【0056】
[例4]
含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに含フッ素エラストマー(B-2)を用いた以外は、例1と同様にして、混練物4を得た。
【0057】
〔例5〕
含フッ素エラストマー(B-1)を使用しなかった(すなわち、PAEK(A-1)と含フッ素エラストマー(B-1)との体積比は100:0である。)以外は、例1と同様にして、混練物5を得た。
【0058】
〔例6〕
含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに他の重合体を用いた以外は、例1と同様にして、混練物6を得た。
【0059】
〔例7〕
含フッ素エラストマー(B-1)の代わりに他の重合体を用いた以外は、例2と同様にして、混練物7を得た。
【0060】
各例で得られた混練物を、200℃の加熱下、3時間予備乾燥し、メルト熱プレス機(ホットプレス二連式「型式:SA-301」(テスター産業株式会社製))を用いて、温度:370℃、圧力:10MPa、プレス時間:5分の条件下でプレス成形し、大きさ:80mm×80mm、厚さ:1.0±0.05mmのプレス成型品を得た。
得られたプレス成型品から曲げ弾性率評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において曲げ弾性率を求めた。
各例における結果を表1および2に示す。
【0061】
各例で得られた混練物を、射出成形機(FUNUC社製、FUNUC 30A)を用い、成形温度:230~410℃にて射出成形し、長さ:127mm、幅:12.7mm、厚さ:3.0mmの成形品を得た。その後、成形品を、コンターマシン(アマダ社製、V-400)を用いて長さ:60mm、幅:12.7mm、厚さ:3mmの形状に切削し、長さ方向の中央部分に幅が10mmになるようにノッチを入れて試験片を作製した。
試験片について、Izod試験装置(東洋精機社製)を用い、ハンマー重量:14.78N、軸心から重心までの距離:11.66cm、軸心から打撃点までの距離:35.7cm、周辺温度:常温(23℃)または-40℃の条件にてIzod衝撃強度を測定した。
各例における結果を表1、2に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
[例8]
東洋精機社製ラボプラストミル混練機に、PAEK(A-2)と含フッ素重合体(B-3)とを体積比(A-2)/(B-3)=70/30となるように投入し、スクリュー回転数30rpm、混練時間10分間、混練温度380℃の条件下で溶融混練して混練物8を得た。
【0065】
[例9]
PAEK(A-2)とフッ素樹脂(B-3)との体積比を80:20になるように投入した以外は、例8と同様にして、混練物9を得た。
【0066】
[例10]
PAEK(A-2)とフッ素樹脂(B-3)との体積比を90:10になるように投入した以外は、例8と同様にして、混練物10を得た。
【0067】
各例で得られた混練物を用い、前記と同様に曲げ弾性率評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において曲げ弾性率を求めた。
各例における結果を表3に示す。
各例で得られた混練物を用い、前記と同様にIzod衝撃強度評価試験用サンプル片を得て、23℃の条件下において常温Izod衝撃強度を、-40℃の条件下において低温Izod衝撃強度をそれぞれ求めた。
各例における結果を表3に示す。
【0068】
【0069】
[例11]
二軸押出機(KZW15TW-45HG1100、スクリュー径:15mmΦ、L/D:45、株式会社テクノベル製)のスクリューの基端に、PAEK(A-3)と含フッ素エラストマー(B-1)とを、体積比が80:20になるように、かつ合計の投入量が2.0kg/時間になるように連続的に投入し、スクリュー回転数を200rpm、温度を380℃として、スクリューの先端側から、混練物を2.0kg/時間で連続的に吐出し、含フッ素共重合体組成物である混練物を得た。なお、シリンダ、ヘッドおよびダイの設定温度は、C1/C2/C3/C4/C5/C6/D/H=340/350/360/370/370/370/350/350℃とした。
押出機(アイ・ケー・ジー社製、MS30-25)、スクリュー(IKG社製、フルフライト、L/D=24、φ30mm)、電線ダイスクロスヘッド(ユニテック社製、最大導体径3mm、最大ダイス穴径20mm)、電線引き取り機(聖製作所社製)、巻き取り機(聖製作所社製)を用いて、得られた混練物と芯線(安田工業製、0.8mm、銅、単線)から、被覆材の厚さ0.5mm、電線径φ1.8mmの電線を製造した。なお、押出温度は370℃とした。
【0070】
得られた被覆電線について、JASO D 618:2013に準拠して以下の方法で被覆材と芯線の密着力の測定を行った。
(1)電線を約75mmに切断し、このうち25mmの長さ分だけ絶縁層を剥ぎ取る。
(2)金属板に導体外径と同等な丸孔をあけ、その孔に導体を通し、250mm/分の速度で導体を引っ張り、絶縁層が抜け落ちるまでの最大引張力を測定した。3本の試験片について測定し、最も低い値を密着力とした。結果を表4に示す。
【0071】
[例12]
PAEK(A-3)と含フッ素エラストマー(B-1)の体積比を70:30にした以外は例11と同様に密着力の測定を行った。
【0072】
[例13]
PAEK(A-3)のみを用いた(PAEK(A-3)と含フッ素エラストマー(B-1)の体積比を100:0)以外は例11と同様に密着力の測定を行った。
【0073】
【0074】
本発明の物品は、高い衝撃強度を有することから、携帯電子装置または携帯電子装置の構造部品を始めとした各種用途として優れた特性を有する。