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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】フタル酸エステル組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/80 20060101AFI20230301BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20230301BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20230301BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230301BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C07C69/80 A
C07C67/08
C08K5/12
C08L101/00
C08L27/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021529172
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2020025907
(87)【国際公開番号】W WO2021002406
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019124253
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】清岡 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松坂 洸季
(72)【発明者】
【氏名】田中 善幸
【審査官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-279335(JP,A)
【文献】特開2009-007353(JP,A)
【文献】特表2017-509592(JP,A)
【文献】特表2017-506216(JP,A)
【文献】特表2008-503525(JP,A)
【文献】特開2017-122081(JP,A)
【文献】特開2000-053803(JP,A)
【文献】国際公開第2014/075957(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/80
C07C 67/08
C08K 5/12
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタル酸エステルを含むフタル酸エステル組成物であって、前記フタル酸エステルが、(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートからなる、フタル酸エステル組成物。
【請求項2】
(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを合わせて10重量%以上含む請求項1に記載のフタル酸エステル組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフタル酸エステル組成物を含む可塑剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフタル酸エステル組成物及び樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂が塩化ビニル系樹脂である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールの混合物と、フタル酸及びフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種とをエステル化反応させる、請求項1に記載のフタル酸エステル組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混合物が、ブチルアルデヒドとバレルアルデヒドのクロスアルドール反応及び水添反応により製造されたものである、請求項7に記載のフタル酸エステル組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタル酸エステル組成物に関する。また、本発明は、フタル酸エステル組成物を含む可塑剤、樹脂組成物および成形体、さらにはフタル酸エステル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フタル酸のアルコールエステルは、塩化ビニル系樹脂等樹脂の可塑剤として用いられている(特許文献1)。中でも炭素原子数が8個のアルコール(以下、C8アルコールという。)である2-エチルヘキサノールのフタル酸エステルである、ジオクチルフタレート(DOP)は、可塑剤として用いた場合の柔軟性、耐熱性、耐寒性、耐油性及び加工性等の諸性能のバランスが良く、特に塩化ビニル系樹脂用の可塑剤として幅広く用いられている。
【0003】
しかし、DOPは近年の化学品規制及びそれに伴う自主規制により、他の可塑剤による代替が進みつつある。代替可塑剤に最も要求されることは、上記諸性能がDOPに近いということである。
【0004】
このことから、DOPの代替可塑剤としては、炭素数が9個のアルコール(以下、C9アルコールという。)であるイソノニルアルコールのフタル酸エステルである、ジイソノニルフタレート(DINP)が多く使用されている。DINPは、DOPと同様のフタル酸エステルであり、上記諸性能がDOPに近いからである。
【0005】
なお、DINPの原料となるイソノニルアルコールは、通常、様々な分岐異性体からなるC9アルコールの混合物である。イソノニルアルコールのフタル酸エステルとしては、Cas.No.27458-94-2のイソノニルアルコールとフタル酸との反応物であるCas.No.28553-12-0のDINPと、Cas.No.68526-84-1のイソノニルアルコールとフタル酸との反応物であるCas.No.68515-48-0のDINPの2種類が知られている。
【0006】
その他の代替可塑剤としては、供給面やコスト等の観点から、C8アルコールである2-エチルヘキサノールのテレフタル酸エステルであるテレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開平10-120515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、DINPには、これを含有する塩化ビニル系樹脂組成物等の合成樹脂組成物を、コンクリートなどのアルカリ成分を含有する物質と接触する用途で用いた場合、加水分解が起こり、不快な臭気を生じるという問題があった。また、その原料アルコールであるイソノニルアルコールが、DOPの原料アルコールである2-エチル-ヘキサノールに比べ、生産量が少なく供給懸念があり、DOPからDINPへの切り替えが更に進んだ場合には、DINPの供給が逼迫する恐れもある。
【0009】
また、DOTPを可塑剤として用いた場合、耐光性や耐油性等、一部の性能がDOPに比べ劣るため、軟質塩化ビニル製品の一部用途でDOPの代替として用いることが困難な場合があった。
【0010】
本発明は、DOPの代替として、可塑剤として用いた場合の柔軟性、耐熱性、耐油性及び加工性等の諸性能のバランスが良く、更に、耐加水分解性に優れ、かつアルカリ成分を含む物質と接触する等、加水分解が起こる条件で使用した場合であっても不快な臭気を生じ難いフタル酸エステル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを含むフタル酸エステル組成物を可塑剤として用いた場合、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下を要旨とするものである。
[1](2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを含むフタル酸エステル組成物。
[2]更に、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)及びジ-(2-プロピルヘプチル)フタレート(DPHP)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[1]に記載のフタル酸エステル組成物。
[3](2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを合わせて10重量%以上含む[1]または[2]に記載のフタル酸エステル組成物。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載のフタル酸エステル組成物を含む可塑剤。
[5][1]~[3]のいずれか1つに記載のフタル酸エステル組成物及び樹脂を含む樹脂組成物。
[6]前記樹脂が塩化ビニル系樹脂である[5]に記載の樹脂組成物。
[7][5]又は[6]に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
[8]2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールの混合物と、フタル酸及びフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種とをエステル化反応させる、[1]に記載のフタル酸エステル組成物の製造方法。
[9]前記混合物が、ブチルアルデヒドとバレルアルデヒドのクロスアルドール反応及び水添反応により製造されたものである、[8]に記載のフタル酸エステル組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフタル酸エステル組成物は、可塑剤として用いた場合、柔軟性、耐熱性、耐油性及び加工性等の諸性能のバランスが良く、更に、耐加水分解性に優れ、かつアルカリ成分を含有する物質と接触する等、加水分解が起こる条件で用いた場合でも、不快な臭気を生じ難い。そのため、本発明のフタル酸エステル組成物は、DOPの代替として塩化ビニル系樹脂等用の可塑剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
1.フタル酸エステル組成物及びその製造方法
本発明のフタル酸エステル組成物は、(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを含むフタル酸エステル組成物である。
【0016】
また、本発明のフタル酸エステル組成物は、2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールの混合物と、フタル酸及びフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種とをエステル化反応させることにより製造することができる。
【0017】
本発明のフタル酸エステル組成物は、要求される可塑剤の性能により各フタレートの含有量を任意に決めればよいが、各フタレートの含有量はビス(2-エチルヘプチル)フタレートを5~45重量%、ビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを5~45重量%及び(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレートを10~90重量%とすることが好ましい。各フタレートの含有量は、特にビス(2-エチルヘプチル)フタレートを20~30重量%、ビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを20~30重量%及び(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレートを40~60重量%とすることが本発明の特徴である不快な臭気を発生させず、また、耐加水分解性に優れ、かつ汎用可塑剤であるDOPに近い可塑剤性能を有するため好ましい。
【0018】
このような組成のフタル酸エステル組成物は、混合割合が1:5~5:1(重量比)である2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールの混合物と、フタル酸及びフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種とをエステル化反応させることにより得られる。
【0019】
また、前記エステル化反応における(前記アルコール混合物)/(フタル酸及びフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種)はモル比で通常2~3、好ましくは2.05~2.95、更に好ましくは2.1~2.9である。
【0020】
なお、本明細書においては、上記「フタル酸及びフタル酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種」のことを「フタル酸及び/又はフタル酸無水物」と記載することがある。
【0021】
前記エステル化反応は、所望のエステル生成物を製造することができる限り、その反応条件等に特段の制限はない。例えば、2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールの混合物と、フタル酸及び/又はフタル酸無水物とを、エステル化触媒、好ましくは硫酸等の酸触媒の存在下、又は有機チタン化合物や有機錫化合物等の金属系触媒等の存在下に、必要に応じて窒素雰囲気中で、エステル生成物の沸点以下の温度で加熱し、エステル化反応により生成する水を除去しながら反応させることができる。
【0022】
前記エステル化反応の反応温度は、使用する触媒等にもよるが、エステル生成物の安定性及び脱水効率等の面から、通常100~250℃、好ましくは120~230℃とすることができる。反応終了後、真空蒸留(ストリッピング)、水蒸気蒸留、アルカリ中和、水洗浄及び濾過等の精製方法を用いて、系内に残存する未反応カルボン酸、未反応アルコール及び触媒等を除去して精製することにより、目的とするフタル酸エステル組成物を得ることができる。精製に際しては、脱色剤、脱臭剤、吸着剤、濾過助剤等の品質改良助剤を使用してもよい。
【0023】
目的とする組成物が得られたことの確認は、各種分析手法により確認することができる。例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)やガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)等により確認することが簡便で好ましい。
【0024】
なお、本発明に用いられる2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールの混合物は、それぞれ製造された2-エチルヘプチルアルコールと2-プロピルヘキシルアルコールを混合したものであってもよいが、ブチルアルデヒドとバレルアルデヒドの混合アルデヒドをクロスアルドール反応及び水添反応することにより得られる混合物であることが、製造工程数が少ないことからより好ましい。
【0025】
混合アルデヒドにおけるブチルアルデヒドとバレルアルデヒドの混合割合は、1:4~4:1(重量比)が好ましく、2:3~3:2(重量比)がより好ましい。
【0026】
上記混合アルデヒドは、プロピレンのヒドロホルミル化反応により製造されたブチルアルデヒドとブテンのヒドロホルミル化反応により製造されたバレルアルデヒドを混合した混合アルデヒドでもよく、プロピレンとブテンの混合物のヒドロホルミル化反応により製造された混合アルデヒドであってもよい。
【0027】
ヒドロホルミル化反応における触媒としては、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、(モノ又はジ)アルキル(ジ又はモノ)アリールホスフィン等の有機ホスフィン;トリアルキルホスファイト、トリアリールホスファイト、(モノ又はジ)アルキル(ジ又はモノ)アリールホスファイト等のモノホスファイト;それらのビスホスファイト、ポリホスファイト等の環状又は非環状の有機ホスファイト;等を配位子とするロジウム錯体触媒等が挙げられる。また、それらの錯体触媒と共に、有機ホスフェートを一定量存在させることとしてもよい。
【0028】
ヒドロホルミル化反応は、常法に従って溶媒を用いて液相で行うことができ、通常、15~200℃の温度、0.1~300kg/cmの圧力下、水素と一酸化炭素のモル比(H/CO)を10/1~1/10の範囲とし、0.01~20時間の反応時間でなされる。
【0029】
また、ロジウム錯体触媒の使用量は、ロジウム原子として1~100000ppmとすることができる。配位子となる有機燐化合物の使用量はロジウムに対する燐の原子比で1~10000モル倍とすることができる。ロジウム錯体触媒の調製は、ロジウム源化合物と有機燐化合物を反応系内にそれぞれ供給して反応系内で錯体を形成しても、或いは、反応系外でロジウム源化合物と有機燐化合物から予め錯体を形成してその錯体を反応系に添加してもよい。
【0030】
前記混合アルデヒドのクロスアルドール反応も、常法に従って液相又は気相で行うことができ、例えば液相の場合、通常、苛性ソーダ等のアルカリ水溶液中で、60~120℃の温度、該温度での液の飽和圧力以上、例えば常圧~10kg/cmの圧力下でなされる。
【0031】
更に、前記クロスアルドール反応で得られた混合アルデヒドの水添反応も、常法に従って液相又は気相で行うことができ、通常、例えばニッケル、パラジウム、白金等の第VIII族金属含有触媒、酸化銅と酸化亜鉛還元混合物含有固体触媒、銅-クロム系触媒又は銅-クロム-マンガン-バリウム系触媒等の触媒の存在下に、通常、50~300℃の温度、常圧~200kg/cmの水素圧力下でなされる。水添反応により得られた反応生成物は、例えば蒸留等により分離精製される。
【0032】
本発明のフタル酸エステル組成物は(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを合わせて10重量%以上含むことが好ましく、50~100重量%含むことがより好ましく、70~100重量%含むことが更に好ましく、80~100重量%含むことが特に好ましい。
【0033】
本発明のフタル酸エステル組成物は、更に他のフタル酸エステルを含んでいてもよい。他のフタル酸エステルとしては、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)及びジ-(2-プロピルヘプチル)フタレート(DPHP)等が挙げられ、本発明のフタル酸エステル組成物はこれらの少なくとも1種を含んでもよい。
本発明のフタル酸エステル組成物は可塑剤として用いることができる。
【0034】
2.可塑剤
本発明の可塑剤は、本発明のフタル酸エステル組成物を含む。本発明の可塑剤は(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを合わせて10重量%以上含むことが好ましく、50~100重量%含むことがより好ましく、70~100重量%含むことが更に好ましく、80~100重量%含むことが特に好ましい。
【0035】
本発明の可塑剤は、本発明のフタル酸エステル組成物の他に、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、安息香酸エステル系可塑剤及びポリエステル系可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの可塑剤を含んでもよい。
【0036】
3.樹脂組成物及びその成形体
本発明の樹脂組成物は、本発明のフタル酸エステル組成物及び樹脂を含む。本発明の樹脂組成物に用いられる樹脂(被可塑化物)としては、特に限定されず、従来可塑剤が用いられている樹脂やゴム、例えば、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、塩素化ポリエチレン等のビニル系樹脂、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム等のゴムや各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの中で、塩化ビニル系樹脂が特に好ましい。
【0037】
その塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと、エチレン、プロピレン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、マレイン酸又はそのエステルとの共重合体、塩化ビニルと、アクリロニトリル、アクリル酸又はそのエステルとの共重合体、塩化ビニルと、メタクリル酸又はそのエステルとの共重合体等が挙げられる。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、該樹脂100重量部に対して、(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート及びビス(2-プロピルヘキシル)フタレートを合わせて0.1~300重量部の割合で含有することが好ましく、1~200重量部の割合で含有することが更に好ましく、5~100重量部の割合で含有することが特に好ましい。
【0039】
各フタレートの合計含有量が前記範囲以上であれば、樹脂組成物に十分な可塑性を付与することができる。一方、各フタレートの合計含有量が前記範囲以下あれば、機械的強度等の諸物性の低下やブリードアウトを生じる恐れがない。
【0040】
なお、本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、アジピン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、安息香酸エステル系可塑剤及びポリエステル系可塑剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの可塑剤を含んでもよい。また、本発明の樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂に通常用いられる添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、離型剤、難燃剤、着色剤、充填材等を含んでもよい。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、成形加工して成形体としてもよい。その場合、成形する方法としては、二つに大別できる。その一つは、懸濁重合により得られた塩化ビニル系樹脂を、本発明の可塑剤及びその他の配合剤と混合し、ミルロール、カレンダーロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、押出機等の混練機で溶融混練した後、押出成形、射出成形、中空成形、圧縮成形等により所望の形状に成形して成形体とする方法である。他の一つは、乳化重合若しくは微細懸濁重合により得られた塩化ビニル系樹脂を、本発明の可塑剤及びその他の配合剤と混合して粘稠なプラスチゾルとした後、ディップ成形、スラッシュ成形、回転成形等により所望の形状に成形した後、高温でゲル化させて成形体とする方法である。
【実施例
【0042】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0043】
[臭気測定]
(イソノニルアルコールの臭気)
第一薬品産業(株)製パネル選定用5基準臭気セットを用いて、臭気知覚に問題がないと判断された5名を被験者として、20℃でイソノニルアルコール(Cas.No.27458-94-2及びCas.No.68526-84-1)の臭気測定を行った。臭気測定に際しては、表1に記載の基準で評価を行った。いずれの被験者も不快な臭気を知覚した。
【0044】
次に、ジイソノニルフタレート(DINP)0.4gをアセトン20mlに溶解した溶液に、水30ml、エタノール170ml及び塩基として水酸化カリウム100mgを添加し均一溶液とし、25℃で一日間放置した。この溶液について、同様にして同じ5名が常温で臭いを嗅いだところ、イソノニルアルコールの臭いと同様の不快な臭気を知覚した。
【0045】
この結果から、DINPを、アルカリ成分が含まれる物質と接触する用途で用いた場合に知覚される臭気は、DINPがアルカリ成分により加水分解されたことにより生じる原料アルコールであるイソノニルアルコール由来のものであると判断した。また、このイソノニルアルコールの不快な臭気の原因は、多くの種類の分岐度の異性体混合体であることに起因していると推測される。
【0046】
(原料アルコールの臭気)
第一薬品産業(株)製パネル選定用5基準臭気セットを用いて、臭気知覚に問題がないと判断された10名を被験者として、各原料アルコール(C9アルコールの混合物、イソノニルアルコールCas.No.27458-94-2、イソノニルアルコールCas.No.68526-84-1)の臭いを20℃で嗅ぎ、表1の基準で評価点を付け、その合計点を評価点とした。結果を表2に記した。なお、C9アルコールの混合物は下記の方法に従って調製した。
【0047】
<C9アルコールの混合物の製造方法>
n-ブチルアルデヒド56.5重量%とn-バレルアルデヒド43.5重量%とからなる混合アルデヒドを、あらかじめ窒素雰囲気とした内容量3Lの丸底フラスコに入れ、80℃の温度まで昇温した。2重量%の苛性ソーダ水溶液957gを1時間かけて滴下し、80℃の温度で3.5時間縮合反応させた後、反応生成物を冷却、相分離して、縮合反応生成物を得た。
【0048】
引き続いて、窒素雰囲気下で充填した内容量1LのSUS製高圧反応容器に、直径5mm、長さ5mmの円柱状のニッケル-クロム系水添触媒(あらかじめ水素流で、150℃で還元したもの)を20gと、前記縮合反応生成物500gを入れ、150℃の温度、5.0MPaの水素圧力下で液相水添反応させることにより、混合アルコールを製造した。
【0049】
前記混合アルコールを、20段オルダーショー蒸留装置を用いて、還流比10/1、130℃、1.4kPaの条件で減圧蒸留を行うことにより、2-エチルヘプチルアルコールを49.0重量%及び2-プロピルヘキシルアルコールを49.1重量%含むC9アルコールの混合物を得た。なお、各成分はGC測定により確認した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表1及び表2より本発明のフタル酸エステル組成物が可塑剤として使用された樹脂製品が加水分解の起こる条件で使用されること等により発生する原料アルコール(C9アルコールの混合物)の臭気は、DINPが可塑剤として使用された樹脂製品が加水分解の起こる条件で使用されること等により発生する原料アルコール(イソノニルアルコール)の臭気と比較し、評価者全員が臭気の強さも臭気の不快性も最も低い評価をしていることが分かる。
【0053】
これより、本発明のフタル酸エステル組成物を可塑剤として使用し、加水分解が起こる条件で用いた場合でも、不快な臭気を生じ難いことが分かる。
【0054】
[実施例1]
(フタル酸エステル組成物の製造)
無水フタル酸66g(0.45モル)、前記C9アルコールの混合物163g(1.1モル)、及びテトライソプロピルチタネート0.09mLを、攪拌機、及び冷却管付き油水分離装置を装着したフラスコに仕込み、温度を220℃まで上げ、その昇温途上で反応生成水を系外に除去し、還流状態を維持するため必要に応じて系内を減圧しながら反応させた。そして、系内反応液の酸価が0.17mgKOH/gになったところで加熱を停止して、減圧度を1.3kPaまで高めながら過剰のアルコール分を除去した。
【0055】
続いて、反応液を90℃まで冷却してその温度を保ち、珪藻土を0.19g混ぜた0.3%水酸化カルシウム水溶液を加えて20分撹拌した。その後、140℃で系内を徐々に0.5kPaまで減圧し、5時間かけて水、アルコールを除去した後、濾過することにより、ビス(2-エチルヘプチル)フタレート23.4重量%、ビス(2-プロピルヘキシル)フタレート24.6重量%及び(2-エチルヘプチル)(2-プロピルヘキシル)フタレート48.4重量%を含有するフタル酸エステル組成物を得た。
【0056】
下記測定条件で各成分をGC及びGC-MS測定により確認した。得られたフタル酸エステル組成物のJIS K6751に準拠して測定した酸価は0.003mgKOH/gであった。
【0057】
(GC)
装置:島津 GC-17A
カラム:GL Science社、InertCap-1、無極性、0.32mm×60m×0.25μm
温度:80℃(0min、10℃/min)→300℃(15min)
Ti=300℃、Td=300℃
ガス:N=27cm/sec
注入量:0.2μL
スプリット:1:33
定量法:面積百分率法
【0058】
(GC-MS)
装置:島津 GC/MS-QP2010Ultra
カラム:Supelco社、Supelcowax-10、強極性、0.32mm×60m×0.25μm
温度:40℃(4min、10℃/min)→210℃(49min)
Ti=230℃、イオン源=250℃、IF=250℃
ガス:He=40cm/sec
注入量:0.2μL
スプリット:1:10
前処理:なし
測定モード:CI
【0059】
<耐加水分解性>
500mlガラス瓶に蒸留水25ml、アセトン170mlを入れて混合し、均一な溶液1を得た。得られたフタル酸エステル組成物3.8gをアセトン20mlに溶解させた溶液20mlをこの溶液1に添加し、溶液2を得た。得られた溶液2に2規定塩酸20mlを添加した後2つに分割し、溶液3を得た。
【0060】
次に、ブランク試験として、溶液3の一方を0.1規定KOH/メタノール溶液で滴定した。溶液3の他方をアルミブロックヒーターを用いて50℃で6時間加熱した後、0.1規定KOH/メタノール溶液で滴定し、ブランクとの差異より得られたフタル酸エステル組成物の加水分解率を算出し、結果を表3に示した。
【0061】
[実施例2]
実施例1で得られたフタル酸エステル組成物の代わりに、DINP〔Cas.No.28553-12-0(原料アルコールとしてCas.No.27458-94-2のイソノニルアルコールを使用)〕/実施例1で得られたフタル酸エステル組成物=1/1(重量比)の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、該混合物の加水分解率を算出し、結果を表3に示した。
【0062】
[実施例3]
実施例1で得られたフタル酸エステル組成物の代わりに、前記DINP/実施例1で得られたフタル酸エステル組成物=9/1(重量比)の混合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、該混合物の加水分解率を算出し、結果を表3に示した。
【0063】
[比較例1]
実施例1で得られたフタル酸エステル組成物の代わりに、前記DINPを用いたこと以外は実施例1と同様にしてDINPの加水分解率を算出し、結果を表3に示した。
【0064】
【表3】
【0065】
[実施例4]
(塩化ビニル系樹脂組成物の調製)
塩化ビニル樹脂(平均重合度1300)100重量部、可塑剤として、実施例1で得られたフタル酸エステル組成物50重量部、エポキシ化大豆油3重量部、CaZn系安定剤3重量部及び炭酸カルシウム20重量部からなる塩化ビニル系樹脂組成物を得た。得られた塩化ビニル系樹脂組成物は下記の方法により加工性の評価を行った。結果を表4に示した。
【0066】
<塩化ビニル系樹脂組成物の加工性試験>
得られた塩化ビニル系樹脂組成物について、ラボプラストミルを用い、温度160℃、ロータの回転数50rpmで最大トルクに達するまでの時間を測定した。時間が短いほど加工性がよいことになる。
【0067】
また、上記で得られた塩化ビニル樹脂組成物を予備混合した後、155℃に温調した2本ミルロールで5分間混合し、温度180℃で、1.96MPaの加圧下で2分間予熱した。その後、15MPaの加圧下で1分間保持することにより、厚さ1mmのプレスシートを作製した。得られたプレスシートについて、下記の評価方法にて評価した。結果を表4に示した。
【0068】
<柔軟性>
JIS K6723に準拠し、得られたプレスシートの引張強さ(MPa)を測定した。
【0069】
<揮発性(耐熱性)>
JIS K6723に準拠し、得られたプレスシートに対して加熱後引っ張り試験の条件で加熱を行った。加熱前のプレスシートを基準に、加熱後のプレスシートの重量減少量を測定した。この値を可塑剤の重量減少量(揮発量)とし、元の可塑剤重量からの減少率(%)を求めた。
【0070】
<耐油性>
JIS K6723に準拠し、得られたプレスシートを耐油性試験条件で油に浸漬した。浸漬前のプレスシートを基準に、浸漬後のプレスシートの重量減少量を測定した。この値を可塑剤の重量減少量(油への溶出量)とし、元の可塑剤重量からの減少率(%)(可塑剤の油への溶出率)を求めた。
【0071】
[比較例2]
可塑剤としてDINP(Cas.No.28553-12-0〔原料アルコールとしてCas.No.27458-94-2のイソノニルアルコールを使用)〕を用いたこと以外は実施例4と同様に評価し、結果を表4に示した。
【0072】
[比較例3]
可塑剤としてDOP(Cas.No.117-81-7)を用いたこと以外は実施例4と同様に評価し、結果を表4に示した。
【0073】
【表4】
【0074】
表3及び4より、本発明のフタル酸エステル組成物は、DOPの代替として従来使用されているDINPと比べ、耐加水分解性に優れ、かつ一般的な可塑剤性能である柔軟性、揮発性、耐油性、加工性がほぼ同等でバランスが取れていることが分かる。このことから、本発明のフタル酸エステル組成物は、DINP同様、DOPの代替として十分使用可能であることが分かる。
【0075】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年7月3日出願の日本特許出願(特願2019-124253)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。