(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】スペーサおよび絶縁装置
(51)【国際特許分類】
H02G 5/06 20060101AFI20230301BHJP
H02B 13/035 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H02G5/06 351C
H02G5/06 351A
H02B13/035 301B
(21)【出願番号】P 2019060129
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会主催 平成30年度(第71回)電気・情報関係学会九州支部連合大会プログラム,2018年9月27日~2018年9月28日 (2)2018年 IEEE主催 CEIDP/IEEE CONFERENCE ON ELECTRICAL INSULATION AND DIELECTRIC PHENOMENA(電気絶縁と誘電現象に関する会議)プログラム,2018年10月21日~2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚史
(72)【発明者】
【氏名】岡部 成光
(72)【発明者】
【氏名】小迫 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】匹田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 和馬
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-223366(JP,A)
【文献】特開2015-070667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 5/06
H02B 13/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電性部材と、
前記第1導電性部材と異なる第2導電性部材と、
前記第1導電性部材と前記第2導電性部材とに挟まれた状態で配置された絶縁部材と、
前記第1導電性部材と接触した状態で、前記絶縁部材内に配置された非線形抵抗部材とを有し、
前記絶縁部材と前記第1導電性部材とが接触する第1領域の中心から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記第1導電性部材とが接触する第2領域の中心から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であ
り、
前記絶縁部材と、前記第1導電性部材と、前記非線形抵抗部材とが、前記第1領域の中心と前記第2領域の中心が一致した状態で、配置されている
ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体において、
0.980r1≦r2≦0.995r1である
ことを特徴とする構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の構造体において、
前記非線形抵抗部材は、前記絶縁部材の前記第1導電性部材と接触する側の面に形成された穴に埋め込まれている
ことを特徴とする構造体。
【請求項4】
一端において第1導電性部材に接合にされ、他端において前記第1導電性部材と異なる第2導電性部材に接合にされ、前記第1導電性部材を前記第2導電性部材上に支持する絶縁部材と、
前記第1導電性部材に接触した状態で、前記絶縁部材の前記一端側に配置された非線形抵抗部材と、を有し、
前記絶縁部材と前記第1導電性部材とが接触する第1領域の中心から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記第1導電性部材とが接触する第2領域の中心から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であ
り、
前記絶縁部材と、前記第1導電性部材と、前記非線形抵抗部材とが、前記第1領域の中心と前記第2領域の中心が一致した状態で、配置されている
ことを特徴とするスペーサ。
【請求項5】
請求項4に記載のスペーサにおいて、
0.980r1≦r2≦0.995r1である
ことを特徴とするスペーサ。
【請求項6】
グラウンド電位に接続された接地容器と、
前記接地容器の内部に設けられ、高電圧が印加される導電性部材と、
前記接地容器の内部において、前記導電性部材を支持するスペーサと、を備え、
前記スペーサは、一端において前記導電性部材と接合され、他端において前記接地容器と接合された絶縁部材と、前記導電性部材と接触した状態で前記絶縁部材内に配置された非線形抵抗部材を有し、
前記絶縁部材と前記導電性部材とが接触する第1領域の中心から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記導電性部材とが接触する第2領域の中心から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であ
り、
前記絶縁部材と、前記導電性部材と、前記非線形抵抗部材とが、前記第1領域の中心と前記第2領域の中心が一致した状態で、配置されている
ことを特徴とする絶縁装置。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁装置において、
0.980r1≦r2≦0.995r1である
ことを特徴とする絶縁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサおよび絶縁機器に関し、例えば、導体を周囲と絶縁した状態で保持するスペーサ、当該スペーサを用いた絶縁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、変電所等に設置される、SF6(六フッ化硫黄)ガス等を用いたガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulated Switchgear)等の絶縁装置は、環境負荷の低減やコストダウンの要求から、小形化が望まれている。
【0003】
一般的に、ガス絶縁開閉装置は、高電圧が印加される導電性部材と開閉装置等の電気機器等を、接地された金属から成る容器(「接地容器」とも称する。)内に収容した状態で、例えば空気よりも絶縁耐力が高いSF6等のガスを接地容器内に封入した構造を有している。高電圧が印加される導電性部材は、接地容器内において、スペーサによって接地容器から絶縁された状態で支持されている。スペーサは、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂材料を主成分として構成されている。
【0004】
ガス絶縁開閉装置の小形化するための一つの方法として、高電圧導体と接地容器との間の距離を短くして接地容器の外径を短くすることが有効である。そのためには、高電圧導体と接地容器との間にある絶縁スペーサの絶縁耐力を向上させる必要がある。
【0005】
絶縁スペーサの絶縁耐力を向上させる方法として、例えば、下記非特許文献1に、フィラー剤を添加したエポキシ樹脂によって絶縁スペーサを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「IV.ガス絶縁開閉装置の注型絶縁物」,富永 正太郎, 小鯛 正二郎,1977年12月,電氣學會雜誌
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示された絶縁スペーサによれば、ガス絶縁開閉装置の接地容器内部における、SF6ガスを介して高電圧導体と絶縁スペーサ(エポキシ樹脂)とが最も近接する領域(以下、「トリプルジャンクション部」とも称する。)の電界が非常に高くなり、その結果、絶縁スペーサが破損し、ガス絶縁開閉装置内の絶縁性能が低下する虞がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、絶縁装置におけるスペーサと高電圧が印加される導電性部材との間の電界を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態に係る構造体は、第1導電性部材と、前記第1導電性部材と異なる第2導電性部材と、前記第1導電性部材と前記第2導電性部材とに挟まれた状態で配置された絶縁部材と、前記第1導電性部材と接触した状態で、前記絶縁部材内に配置された非線形抵抗部材とを有し、前記絶縁部材と前記第1導電性部材とが接触する第1領域の中心から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記第1導電性部材とが接触する第2領域の中心から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る構造体によれば、絶縁装置におけるスペーサと高電圧が印加される導電性部材との間の電界を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る構造体の断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る構造体の、
図1のZ方向正側から見た上面図である。
【
図3】
図1における構造体の領域700の拡大図である。
【
図4】非線形抵抗部材を含む絶縁部材のサンプルの作成方法を説明するための図である。
【
図5】解析に用いたサンプルの構成を示す図である。
【
図6】
図5に示したサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界緩和効果に関する解析結果を示す図である。
【
図7】本実施の形態に係る構造体を適用したガス絶縁開閉装置の一例を示す図である。
【
図8】
図7に示される絶縁装置における高電圧導体とスペーサとの接合部分の拡大図である。
【
図9】本実施の形態に係る構造体を適用したガス絶縁開閉装置の別の一例を示す図である。
【
図10】
図9に示される絶縁装置における高電圧導体とスペーサとの接合部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0013】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る構造体(10)は、第1導電性部材(1)と、前記第1導電性部材と異なる第2導電性部材(2)と、前記第1導電性部材と前記第2導電性部材とに挟まれた状態で配置された絶縁部材(30)と、前記第1導電性部材と接触した状態で、前記絶縁部材内に配置された非線形抵抗部材(31)とを有し、前記絶縁部材と前記第1導電性部材とが接触する第1領域(40)の中心(P1)から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記第1導電性部材とが接触する第2領域(41)の中心(P2)から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であることを特徴とする。
【0014】
〔2〕上記構造体において、0.980r1≦r2≦0.995r1であってもよい。
【0015】
〔3〕上記構造体において、前記非線形抵抗部材は、前記絶縁部材の前記第1導電性部材と接触する側の面(300)に形成された穴(303)に埋め込まれていてもよい。
【0016】
〔4〕本発明の代表的な実施の形態に係るスペーサ(3A,3B)は、一端において第1導電性部材(1A,1B)に接合にされ、他端において前記第1導電性部材と異なる第2導電性部材(2A,2B)に接合にされ、前記第1導電性部材を前記第2導電性部材上に支持する絶縁部材(30A,30B)と、前記第1導電性部材に接触した状態で、前記絶縁部材の前記一端側に配置された非線形抵抗部材(31A,31B)と、を有し、前記絶縁部材と前記第1導電性部材とが接触する第1領域(40A,40B)の中心(P1)から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記第1導電性部材とが接触する第2領域(41A,41B)の中心(P2)から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であることを特徴とする。
【0017】
〔5〕上記スペーサにおいて、0.980r1≦r2≦0.995r1であってもよい。
【0018】
〔6〕本発明の代表的な実施の形態に係る絶縁装置(100A,100B)は、グラウンド電位に接続された接地容器(2A,2B)と、前記接地容器の内部に設けられ、高電圧が印加される導電性部材(1A,1B)と、前記接地容器の内部において、前記導電性部材を支持するスペーサ(3A,3B)とを備え、前記スペーサは、一端において前記導電性部材と接合され、他端において前記接地容器と接合された絶縁部材(30A,30B)と、前記導電性部材と接触した状態で前記絶縁部材内に配置された非線形抵抗部材(31A,31B)とを有し、前記絶縁部材と前記導電性部材とが接触する第1領域(40A,40B)の中心(P1)から前記第1領域の端部までの距離をr1とし、前記非線形抵抗部材と前記導電性部材とが接触する第2領域(41A,41B)の中心(P2)から前記第2領域の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1であることを特徴とする。
【0019】
〔7〕上記絶縁装置において、0.980r1≦r2≦0.995r1であってもよい。
【0020】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。
なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0021】
図1乃至
図3は、本発明の実施の形態に係る構造体の構成を示す図である。
図1には、本発明の実施の形態に係る構造体10の断面図が示され、
図2には、
図1のZ方向正側から見た構造体10の上面図が示されている。
図3には、
図1に示される構造体10の領域700の拡大図が示されている。
【0022】
構造体10は、異なる電圧が印加される複数の導体間を絶縁部材によって絶縁した構成を有している。構造体10は、後述するように、ガス絶縁開閉装置等の絶縁装置に適用される。
【0023】
具体的に、構造体10は、第1導電性部材1、第2導電性部材2、絶縁部材30、および非線形抵抗部材31を有する。なお、
図1乃至3では、一例として、第1導電性部材1、第2導電性部材2、絶縁部材30、および非線形抵抗部材31がZ軸に沿って積層され、絶縁部材30の面300,301がX-Y平面と平行に配置されているものとする。
【0024】
第1導電性部材1は、導電性材料(例えば、アルミニウムや銅)を主成分として構成されており、例えば6千V以上の高電圧が印加される高電圧導体である。第1導電性部材1は、例えば円柱状に形成されている。
【0025】
第2導電性部材2は、導電性材料(例えば、アルミニウムや鉄)を主成分として構成されており、例えばグラウンド電位に接続される。第2導電性部材2は、円板状に形成されている。
【0026】
絶縁部材30は、絶縁材料を主成分として構成されている。上記絶縁材料は、樹脂を主成分とする材料であって、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする材料である。絶縁部材30は面300と、面300に対向する面301を有している。絶縁部材30は、面300において第1導電性部材1と接合され、面301において第2導電性部材2と接合されている。
【0027】
図1に示すように、絶縁部材30は、第1導電性部材1と第2導電性部材2との間に挟まれた状態で配置されている。絶縁部材30は、例えば、平面視矩形の板状に形成されている。
【0028】
非線形抵抗部材31は、非線形抵抗材料(以下、「NRM:Non-Linear Resistive Material」とも称する。)を含む。例えば、非線形抵抗部材31は、エポキシ樹脂に酸化亜鉛(ZnO)バリスタ粒子を添加した複合材料から構成されている。非線形抵抗部材31は、例えば一端が平面状に形成され、他端が曲面状に形成された円柱形状を有する。
【0029】
非線形抵抗部材31は、絶縁部材30の第1導電性部材1と接触する側の面300と、絶縁部材30の第2導電性部材2と接触する側の面301との間に配置されている。具体的に、非線形抵抗部材31は、第1導電性部材1と接触した状態で、絶縁部材30内に配置されている。例えば、
図1および
図3に示すように、非線形抵抗部材31は、絶縁部材30の面300に形成された穴(例えば非貫通孔)303に埋め込まれた状態で配置されている。非線形抵抗部材31の一部は、絶縁部材30の面300から露出し、第1導電性部材1と接触している。
【0030】
上述したように、第1導電性部材1は、絶縁部材30の面300と接触するとともに、非線形抵抗部材31と接触する。
図2において、第1導電性部材1と絶縁部材30とが接触する第1領域は参照符号40で示され、第1導電性部材1と非線形抵抗部材31とが接触する第2領域は参照符号41で示されている。
【0031】
ここで、第1領域40の中心P1から第1領域40の端部までの距離をr1とし、第2領域41の中心P2から第2領域41の端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1となるように構造体10を形成することにより、気体(例えば空気やSF6等のガス)を介して第1導電性部材1と絶縁部材30とが最も近接するトリプルジャンクション部TJの電界の強度をより効果的に低減することが可能となる。
【0032】
以下に、非線形抵抗部材31を含む絶縁部材30のサンプルを用いて実現した構造体10に関する解析結果を示す。
【0033】
図4は、非線形抵抗部材31を含む絶縁部材30のサンプルの作成方法を説明するための図である。
【0034】
先ず、絶縁部材30を作成する。例えば、樹脂成形用の金型を用意し、その金型内に溶解したエポキシ樹脂を流し込込んで硬化させ、成形された樹脂加工物を金型から取り出す。例えば、この金型には、成形された樹脂加工物(絶縁部材30)に上述した穴303が形成されるように、突起部が形成されている。
【0035】
次に、非線形抵抗部材31を作成するために混合物を作成する。例えば、エポキシ樹脂に非線形抵抗材料(マイクロバリスタ)の酸化亜鉛(ZnO)粒子を添加し、ミキサーを用いて混合および脱泡することにより、混合物320を生成する。
【0036】
その後、
図4に示すように、樹脂加工物310に形成された穴303を覆うように樹脂加工物310上に筒部材400を載置するとともに、筒部材400内に混合物320を導入する。これにより、樹脂加工物310の穴303に混合物320が沈降する。筒部材400が載置された樹脂加工物310を恒温槽内に配置し、所定時間加熱することにより、絶縁部材30の内部に非線形抵抗部材31が形成されたサンプルを作成することができる。
本解析では、上述した非線形抵抗部材31に係る距離r2を変更したサンプルを複数作成した。
【0037】
次に、上述の方法によって作成したサンプルを用いて構造体10を形成し、第1導電性部材1と第2導電性部材2との間にインパルス電圧を加えたときのトリプルジャンクション部TJの電界強度を計算した。
【0038】
図5は、解析に用いたサンプルの構成を示す図である。
同図に示すように、円柱状の電極としての第1導電性部材1の半径を7.5mm、第1導電性部材1の一端部の曲率半径を2.5mmとした。また、円板状の電極としての第2導電性部材2の半径を25mm、第2導電性部材2の端部の曲率半径を5mmとした。また、上述の手法により作成したサンプルにおける絶縁部材30の厚みを10.5mm、絶縁部材30の中心P1から端部までの距離を30mmとし、第1導電性部材1と絶縁部材30との接触領域の半径(r1)を5mmとした。
【0039】
更に、サンプルにおける非線形抵抗部材31の深さを10mmとし、非線形抵抗部材31の半径(r2)をサンプル毎に異なる値に設定した。なお、
図5には、非線形抵抗部材31の半径(r2)を5mmとした場合が一例として示されている。
【0040】
図6は、
図5に示したサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界緩和効果に関する解析結果を示す図である。
【0041】
同図において、縦軸は電界の強度〔kV/mm〕を表している。同図に示される参照符号500~505は、
図6に示した構造体10における第2導電性部材2をグラウンド電位に接続し、第1導電性部材1にインパルス電圧(波高値:1kV,立上り時間:1μ秒,パルス幅:50μ秒)を印加したときのサンプル毎のトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表している。
【0042】
すなわち、参照符号500は、絶縁部材30に非線形抵抗部材31を設けていないサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表し、参照符号501は、r2=0.4r1としたサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表し、参照符号502は、r2=0.8r1としたサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表し、参照符号503は、r2=r1としたサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表している。更に、参照符号504は、r2=1.2r1としたサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表し、参照符号505は、r2=1.5r1としたサンプルを用いたときのトリプルジャンクション部TJの電界の強度を表している。
【0043】
図6から理解されるように、非線形抵抗部材31に係る距離r2が絶縁部材30に係る距離r1に近づくほど、トリプルジャンクション部TJの電界の強度が低下する傾向がある。すなわち、非線形抵抗部材31の第1導電性部材1と接触する領域41の端部が絶縁部材30の第1導電性部材1と接触する領域40の端部が近づくほど、トリプルジャンクション部TJの電界の強度が低下する傾向がある。
【0044】
この解析結果から理解されるように、0.8r1≦r2≦r1を満たすように非線形抵抗部材31を絶縁部材30内に形成することにより、より効果的に、トリプルジャンクション部TJの電界を緩和することが可能となる。
【0045】
一方、
図6から理解されるように、非線形抵抗部材31に係る距離r2が絶縁部材30に係る距離r1を超えた場合、トリプルジャンクション部TJの電界強度が急激に上昇する傾向がある。例えば、r2=r1としたサンプルの場合、電界強度が3.5kV/mmであるのに対し、r2=1.2r1としたサンプルの場合、電界強度が101kV/mmとなり、r2=1.5r1としたサンプルの場合、電界強度が146kV/mmとなる。
【0046】
このように、非線形抵抗部材31が、絶縁部材30と第1導電性部材1とが接触する領域を超えて形成された場合(r2>r1の場合)、トリプルジャンクション部TJの電界緩和効果が得られないばかりか、電界の強度を更に上昇させてしまうことになり、好ましくない。
【0047】
ところで、ガス絶縁開閉装置等の絶縁装置は、その使用状況や周辺環境により、絶縁装置の接地容器が伸縮することが知られている。その伸縮率は、例えば、接地容器の材質に応じて、0.5~2%の範囲である。
【0048】
したがって、本実施の形態に係る構造体10を上記絶縁装置に適用した場合に、構造体10においてr2>r1とならないようにするためには、接地容器の上記伸縮率を考慮し、0.980r1≦r2≦0.995r1とすることが好ましい。
【0049】
すなわち、0.980r1≦r2≦0.995r1を満たすように非線形抵抗部材31を絶縁部材30内に形成することにより、構造体10をガス絶縁開閉装置等の絶縁装置に適用した場合に、絶縁装置の運用中に接地容器が伸縮して第1導電性部材1に対する絶縁部材30(非線形抵抗部材31)の位置がずれた場合であっても、非線形抵抗部材31が絶縁部材30と第1導電性部材1との接触領域を超えることを防止することができる。これにより、絶縁装置の使用状況や周辺環境によらず、トリプルジャンクション部TJの電界を確実に低下させることが可能となる。
【0050】
次に、本実施の形態に係る構造体10のガス絶縁開閉装置への適用例を示す。
図7は、本実施の形態に係る構造体10を適用したガス絶縁開閉装置の一例を示す図である。同図には、ガス絶縁開閉装置100Bにおける構造体10が適用された箇所の断面構造が示されている。
【0051】
図7に示すように、ガス絶縁開閉装置100Bは、接地容器2Aと、高電圧導体1Aと、スペーサ3Aとを有する。
【0052】
接地容器(接地タンク)2Aは、高電圧導体1Aを収容する導電性部材である。接地容器2Aは、例えば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料から成り、例えば円筒状に形成されている。接地容器2Aは、その内部に、高電圧導体1Aを収容するとともに、例えば空気やSF6等の気体(ガス)5が充填されている。接地容器2Aは、グラウンド電位に接続されている。
【0053】
高電圧導体1Aは、例えば6万V以上の高電圧が印加される導電性部材であって、金属材料(例えば、アルミニウム)から構成されている。高電圧導体1Aは、接地容器2Aの内部に延在している。高電圧導体1Aは、接地容器2Aの内部において、例えば接地容器2Aと同一の方向に延在している。
【0054】
スペーサ3Aは、接地容器2Aの内部において、高電圧導体1Aを接地容器2に対して絶縁した状態で支持する部品である。スペーサ3Aは、絶縁部材30Aと非線形抵抗部材31Aとを有する。
【0055】
絶縁部材30Aは、上述した絶縁部材30と同様に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする材料から構成されている。絶縁部材30Aは、例えば円錐台状に形成されている。
【0056】
絶縁部材30Aは、一端において高電圧導体1Aに接合にされ、他端において接地容器2Aに接合にされ、高電圧導体1Aを接地容器2Aの内壁面上に支持する。
例えば、
図7に示すように、絶縁部材30Aの底面が接地容器2Aに接触した状態で接地容器2Aに接合され、絶縁部材30Aの底面に対向する上面が高電圧導体1Aと接触した状態で高電圧導体1Aに接合されている。
【0057】
非線形抵抗部材31Aは、上述した非線形抵抗部材31と同様のNRMから構成されている。非線形抵抗部材31Aは、高電圧導体1Aに接触した状態で、絶縁部材30Aの一端側に配置されている。具体的に、非線形抵抗部材31Aは、絶縁部材30Aの上面に形成された穴(例えば非貫通孔)303Aに埋め込まれた状態で配置されている。非線形抵抗部材31Aの一部は、絶縁部材30から露出し、高電圧導体1Aに接触している。
【0058】
図8は、
図7に示される絶縁装置100Aにおける高電圧導体1Aとスペーサ3Aとの接合部分の拡大図である。
【0059】
図7および
図8に示すように、絶縁部材30Aと高電圧導体1Aとが接触する領域40Aの中心P1から領域40Aの端部までの距離をr1とし、非線形抵抗部材31Aと高電圧導体1Aとが接触する領域41Aの中心P2から領域41Aの端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1を満たし、より好ましくは、0.980r1≦r2≦0.995r1を満たすように、スペーサ3Aが形成され、高電圧導体1Aと接合されている。
【0060】
これによれば、絶縁装置100Aにおけるトリプルジャンクション部TJの電界強度を効果的に緩和することができる。
【0061】
図9は、本実施の形態に係る構造体10を適用したガス絶縁開閉装置の別の一例を示す図である。同図には、ガス絶縁開閉装置100Bにおける構造体10が適用された箇所の断面構造が示されている。
【0062】
図9に示すように、ガス絶縁開閉装置100Bは、接地容器2Bと、高電圧導体1Bと、スペーサ3Bとを有する。
【0063】
接地容器(接地タンク)2Bは、高電圧導体1Bを収容する導電性部材である。接地容器2Bは、例えば、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属材料から成り、例えば円筒状に形成されている。接地容器2Bは、その内側に、高電圧導体1Bを収容するとともに、例えば空気やSF6等の気体5が充填されている。接地容器2Bは、グラウンド電位に接続されている。
【0064】
高電圧導体1Bは、高電圧が印加される導電性部材であって、高電圧導体1Aと同様の金属材料から構成されている。高電圧導体1Bは、接地容器2Bの内部において、例えば接地容器2Bと同一の方向に延在している。
【0065】
スペーサ3Bは、接地容器2Bの内部において、高電圧導体1Bを接地容器2Bに対して絶縁した状態で支持する部品である。スペーサ3Bは、絶縁部材30Bと非線形抵抗部材31Bとを有する。
【0066】
絶縁部材30Bは、上述した絶縁部材30と同様に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする材料から構成されている。絶縁部材30Bは、例えばテーパ状の筒形状、換言すれば、中空の円錐台形状を有している。
【0067】
絶縁部材30Bは、一端において高電圧導体1Bに接合にされ、他端において接地容器2Bに接合にされ、高電圧導体1Bを接地容器2Bの内壁面上に支持する。具体的に、絶縁部材30Bは、その軸線方向の一端側において高電圧導体1Bと接合され、軸線方向の他端側において接地容器2Bと接合されている。
【0068】
例えば、
図9に示すように、高電圧導体1Bは、絶縁部材30Bの軸線に沿って絶縁部材30Bを貫通した状態で絶縁部材30Bに接合されている。
【0069】
非線形抵抗部材31Bは、上述した非線形抵抗部材31と同様のNRMから構成されている。非線形抵抗部材31Bは、高電圧導体1Bに接触した状態で、絶縁部材30Bの一端側に配置されている。具体的に、非線形抵抗部材31Bは、絶縁部材30Bの高電圧導体1Bと接触する側の面に形成された穴(例えば非貫通孔)303Bに埋め込まれた状態で配置されている。非線形抵抗部材31Bの一部は、絶縁部材30Bから露出し、高電圧導体1Bに接触している。
【0070】
図10は、
図9に示される絶縁装置100Bにおける高電圧導体1Bとスペーサ3Bとの接合部分の拡大図である。
図9および
図10に示すように、絶縁部材30Bと高電圧導体1Bとが接触する領域40Bの中心P1から領域40Bの端部までの距離をr1とし、非線形抵抗部材31Bと高電圧導体1Bとが接触する領域41Bの中心P2から領域41Bの端部までの距離をr2としたとき、0.8r1≦r2≦r1を満たし、より好ましくは、0.980r1≦r2≦0.995r1を満たすように、スペーサ3Bが形成され、高電圧導体1Bと接合されている。
これによれば、絶縁装置100Bにおけるトリプルジャンクション部TJの電界強度を効果的に緩和することができる。
【0071】
埋込材料に非線形抵抗材料を用いることで,運転電界下での固体絶縁物への電界負荷を金属埋込電極に比べて緩和することができる。
【0072】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0073】
例えば、
図7等に示したガス絶縁開閉装置100A,100Bのスペーサ3A,3Bの形状はあくまで一例であり、上述したように、絶縁部材30と、非線形抵抗部材31と、高電圧導体(第1導電性部材1)との間の位置関係を満足していれば、別の形状を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…第1導電性部材、1A,1B…高電圧導体(第1導電性部材)、2…第2導電性部材、2A,2B…接地容器(第2導電性部材)、3…絶縁部材、3A,3B…スペーサ、5…気体(ガス)、10…構造体、30,30A,30B…絶縁部材、31,31A,31B…非線形抵抗部材、40,40A,40B…第1領域、41,41A,41B…第2領域、100A,100B…ガス絶縁開閉装置、300,301…面、303,303A,303B…穴(例えば非貫通孔)、P1…第1領域の中心、P2…第2領域の中心、r1…第1領域の中心P1から第1領域P1の端部までの距離(半径)、r2…第2領域の中心P2から端部までの距離(半径)、TJ…トリプルジャンクション部。