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特許7235557硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたトゥプリプレグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-28
(45)【発行日】2023-03-08
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたトゥプリプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20230301BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20230301BHJP
   C08G 18/58 20060101ALI20230301BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/40
C08G18/58
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019062039
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020158716
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕一
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-077074(JP,A)
【文献】特開2016-011409(JP,A)
【文献】特開2017-078125(JP,A)
【文献】特開平04-145185(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163491(WO,A1)
【文献】特開2018-002766(JP,A)
【文献】特開2017-203108(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099060(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08G 18/58
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、ウレタン変性エポキシ樹脂(B)、ジシアンジ
アミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物またはイミダゾール化合物(D)を必須成分とする硬化性樹脂組成物であって、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計100質量部に対し、20質量部以上がエポキシ当量180g/eq以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂であり、硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数(Ep)に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数(Hy)の比(Hy/Ep)が0.25~0.45であり、ウレタン変性エポキシ樹脂(B)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計100質量部に対し10~50質量部であり、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が5~50Pa・sの範囲であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、ウレタン変性率が5~50質量%、エポキシ当量が200~500g/eqであることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらにコアシェルゴム粒子(E)を含み、コアシェルゴム粒子(E)の配合量が、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び、(E)成分の合計100質量部に対し、1~10質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物に、体積含有率が48~72%となるように強化繊維を配合してなることを特徴とするトゥプリプレグ。
【請求項5】
請求項に記載のトゥプリプレグをフィラメントワインディング成形法で成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化時に高い破壊靱性が得られるエポキシ樹脂組成物と、それを用いたトゥプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料はガラス繊維、アラミド繊維や炭素繊維等の強化繊維と、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性マトリクス樹脂から構成され、軽量かつ、強度、耐食性や耐疲労性等の機械物性に優れることから、航空機、自動車、土木建築およびスポーツ用品等の構造材料として幅広く適応されている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法には、熱硬化性のマトリクス樹脂が予め強化繊維へ含浸されたプリプレグを用いるオートクレーブ成形法、プレス成形法や、強化繊維へ液状のマトリクス樹脂を含浸させる工程と熱硬化による成形工程を含む、ウェットレイアップ成形法、引き抜き成形法、フィラメントワインディング成形法、RTM法等の手法がある。
【0004】
フィラメントワインディング成形法の一つに、強化繊維へあらかじめ樹脂が含浸されたトゥプリプレグを用いるドライ法が挙げられる。ドライ法は巻き付け速度の短時間化や樹脂比率の安定性に優れることから、繊維強化複合材料の高生産性と品質安定化に優位性があり、特に高圧ガスタンクの製造法の一つとして適用されている。
【0005】
ドライ法ではトゥプリプレグ品質を高めるべく、用いられるマトリクス樹脂には安定した含浸性と巻き付け時のハンドリング性を確保するため、好ましい粘度の範囲にあり粘度の増加率が小さいマトリクス樹脂が用いられる。また、硬化後の成形体には繊維強化複合材料の耐衝撃性と耐疲労性を高めるべく破壊靱性値が高いこと、加えて長期信頼性の点から吸水率が低いことが望まれる。
【0006】
マトリクス樹脂の破壊靱性を高める手法は様々あり、ゴム変性エポキシ、ウレタン変性エポキシ等の変性エポキシ樹脂の使用や、低弾性率なゴム状ポリマー、ブロックコポリマー、コアシェル型ゴム粒子等のポリマーの添加が挙げられる(特許文献1~4)。変性エポキシ樹脂やポリマー成分の添加により破壊靱性を高めるためには、変性エポキシ樹脂やポリマー以外の成分や、硬化後の架橋密度の大小にも着目する必要がある。
【0007】
マトリクス樹脂が硬化することによって得られる繊維強化複合材料は長期使用において徐々に吸水し、強度やガラス転移温度の低下を招く。特許文献5には多官能エポキシを用いることで硬化後のガラス転移温度を高めているが、この手法では吸水率が高くなるため吸水後の物性変化が大きいという課題があり、吸水前後における物性変化を抑制するためには吸水率を低くすることが望ましい。
【0008】
成形物の吸水率を低下させるためには、構造中に含まれる水酸基の量を減らすことが重要であり、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤の活性水素基が反応により生成される水酸基の量を低減させる、すなわち架橋密度を低下させることが有効な手法の一つである。
【0009】
しかしながら架橋密度を低下させると硬化物のガラス転移温度低下に伴う耐熱性の低下や靱性の低下を招くため、架橋密度が低い際にも靱性を発現させられる手法が望まれている。
【0010】
繊維強化複合材料のマトリクス樹脂に関し、ウレタン変性エポキシ樹脂やゴム粒子の添加により成形物の破壊靱性を向上させる試みが成されているものの、加えて吸水率を低下させることで長期使用における吸水時にも強度やガラス転移温度の変化を抑制できる、長期信頼性の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6222387号
【文献】特開2017-082128号公報
【文献】特開2017-082128号公報
【文献】特開2016-011409号公報
【文献】特開2013-159628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、硬化して得られる成形物の破壊靱性が高くかつ吸水率が低く、耐衝撃性、耐疲労性、および長期信頼性に優れた繊維強化複合材料を得ることができるトゥプリプレグ用のマトリクス樹脂として使用される樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは前述の課題を解決するため検討を行った結果、ウレタン変性エポキシ樹脂と用いる硬化剤の当量比に着目し、成形物に高い破壊靱性と低い吸水率を与える樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、ウレタン変性エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物またはイミダゾール化合物(D)を必須成分とする硬化性樹脂組成物であって、硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数(Ep)に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数(Hy)の比(Hy/Ep)が0.25~0.45であり、ウレタン変性エポキシ樹脂(B)の配合量が(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計100質量部に対し10~50質量部であり、かつE型粘度計により測定した25℃における粘度が5~50Pa・sの範囲であることを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【0015】
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、ウレタン変性率が5~50質量%、エポキシ当量が200~500g/eqであることが好適である。
【0016】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計100質量部に対し、20質量部以上がエポキシ当量180g/eq以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好適である。
【0017】
さらにコアシェルゴム粒子(E)を含み、コアシェルゴム粒子(E)の配合量が、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び、(E)成分の合計100質量部に対し、1~10質量部であることも好ましい。
【0018】
本発明の他の態様は、上記硬化性樹脂組成物に、体積含有率が48~72%となるように強化繊維を配合してなることを特徴とするトゥプリプレグである。
さらに他の態様は、上記トゥプリプレグをフィラメントワインディング成形法で成形して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の硬化性樹脂組成物は、これを使用したトゥプリプレグを硬化させて得られる成形物が高い破壊靱性と低い吸水率を示し、特にフィラメントワインディング成形法によって得られる繊維強化複合材料に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、ウレタン変性エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を必須成分とする。以下、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)、ウレタン変性エポキシ樹脂(B)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)、固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)を、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分ともいう。
【0021】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)は、1分子中に2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂であって、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂、イソホロンビスフェノール型エポキシ樹脂や、これらのハロゲン、アルキル置換体、水添品などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)は、(A)~(D)成分の合計100質量部に対し、好ましくは50~90質量部、より好ましくは60~85質量部含有するとよい。
特に、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の内、(A)~(D)成分の合計100質量部に対し、20質量部以上をエポキシ当量180g/eq以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂にするとよい。ウレタン変性エポキシ樹脂の分散性が向上し、破壊靱性の高い硬化物が得られる。
【0023】
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、分子内に水酸基を有する原料エポキシ樹脂と、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールなどのポリヒドロキシ化合物と、ポリイソシアナート化合物とを、触媒の存在下で加熱反応させることによって得られる。なお、ウレタン変性エポキシ樹脂には、ポリウレタンと結合されていない未変性エポキシ樹脂が含有されていてもよい。
【0024】
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)のウレタン変性率は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは15~40質量%である。50質量%を超えるとエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり、5質量%より低いと十分な機能性を発現しない。
ここで、ウレタン変性率は、下記式で規定される。
ウレタン変性率=(ポリヒドロキシ化合物の質量+ポリイソシアネート化合物の質量)/ウレタン変性エポキシ樹脂の質量×100
所望のウレタン変性率とするために、得られるウレタン変性エポキシ樹脂(B)の合計量に対して、原料としてポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物の合計量を好ましくは5~40質量%、より好ましくは5~30質量%使用するとよい。
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、エポキシ当量が好ましくは180~1000g/eq.、より好ましくは200~500g/eq.である。
また、ウレタン変性率はGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)により、使用したエポキシ樹脂ピークの差分から計算することでも出来、概ね上記の計算式と同じ値となる。
【0025】
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)の原料エポキシ樹脂としては、好ましくは分子内に水酸基を有するもの、例えば上述したビスフェノール型エポキシ樹脂(A)として例示したものを使用するとよい。原料エポキシ樹脂の水酸基当量は、好ましくは800~10000g/eq、より好ましくは1200~8000g/eqである。水酸基当量が800g/eqより低い場合、ウレタン変性エポキシ樹脂の粘度が高くなってしまい、10000g/eqより高い場合、硬化物の機能性の低下を招く。
原料ポリヒドロキシ化合物、及びポリイソシアナート化合物については、所望のウレタン変性エポキシ樹脂(B)を得られる限り、特に限定されず、各種のものを使用できる。
望ましくは、エポキシ当量160~260g/eqのビスフェノール型エポキシ樹脂、水酸基当量240~2000g/eqの中高分子ポリオール、水酸基当量30~120g/eqの低分子ポリオール、及びトリレンジイソシアネートまたはジフェニルメタンジイソシアネートを反応させて得られるものである。
【0026】
ウレタン変性エポキシ樹脂(B)の配合量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計100質量部に対し、好ましくは10~50質量部、より好ましくは10~30質量部である。10質量部未満であると破壊靱性が低下し、50質量部を超えると硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎ強化繊維への含浸性を損なう。
【0027】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化剤としてジシアンジアミドまたはその誘導体(C)を用いる。ジシアンジアミドは、常温で固体の硬化剤であり、室温ではエポキシ樹脂にほとんど溶解しないが、180℃以上まで加熱すると溶解し、エポキシ基と反応する特性を有する。よって、室温での保存安定性に優れた潜在性硬化剤である。その誘導体としては、N‐ヘキシルジシアンジアミドのようなN‐置換ジシアンジアミド誘導体等を使用することが出来る。
【0028】
ジシアンジアミドまたはその誘導体(C)の使用量は、硬化性樹脂組成物中に含まれるエポキシ基のモル数(Ep)に対する、(C)成分に含まれる活性水素基のモル数(Hy)の比(Hy/Ep)が0.25~0.45であり、より好ましくは0.30~0.40当量である。Hy/Epが0.25未満であると架橋が疎になり、Tgが低くて脆い硬化物となる。Hy/Epが0.45を超えると架橋が密になり、破壊靱性が低く吸水率の高い硬化物となる。別の観点では硬化性樹脂組成物100質量部に対して2.0~6.0質量部の範囲が好ましい。
【0029】
固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)としては、硬化促進剤として作用し、混合時での強化繊維への含浸性に加え、硬化時における耐熱性をより満足させるものが好ましい。
【0030】
固形の芳香族ウレア化合物としては例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、N-フェニル-N’,N’-ジメチルウレア、N-(4-クロロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3,4-ジクロロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3-クロロ-4-エチルフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、N-(4-メチル-3-ニトロフェニル)-N’,N’-ジメチルウレア、2,4-ビス(N’,N’-ジメチルウレイド)トルエン、メチレン-ビス(p-N’,N’-ジメチルウレイドフェニル)等を挙げることができ、この中でも3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレアが好ましい。
また、固形のイミダゾール化合物としては2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル6-4′,5′-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物を用いることが良い。
更に、トリアジン環を含有するイミダゾール化合物も好ましく使用でき、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-S-トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、化学的に安定で、かつ、常温ではエポキシ樹脂に溶解しないものであれば上記に限定されるものではない。
【0031】
固形の芳香族ウレア化合物または固形のイミダゾール化合物(D)の使用量は、(A)~(D)成分の合計100質量部に対し、好ましくは0.01~7質量部、より好ましくは1~5質量部である。7質量部を超える場合、粉末成分が多くなるため、ボイドが多くなり易くなる問題が生じる。0.01質量部未満の場合、速硬化性を実現できない問題が生じる。
【0032】
本発明の硬化性樹脂組成物は、効果を阻害しない限り、(A)~(D)成分の合計100質量部に対し、20質量部未満であれば、(A)成分や(B)成分以外のエポキシ樹脂を含んでいても良い。
【0033】
他のエポキシ樹脂としては、例えば1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する、ビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物のグリシジルエーテルや、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂や、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレ-ト、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-エポキシエチル-3,4-エポキシシクロヘキサン等の脂環式エポキシ樹脂や、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂や、フタル酸ジグリシジルエステルや、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルや、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルや、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミン等のグリシジルアミン類等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明の硬化性樹脂組成物中には、(A)~(D)成分に加えて、コアシェルゴム粒子(E)を含んでいても良い。コアシェルゴム粒子(E)の配合量は、(A)~(E)成分の合計100質量部に対し、1~10質量部であることが良い。この範囲内であれば硬化物の弾性率を落とすこと無く、破壊靱性を高められ強度に優れた繊維強化複合材料が得られる。
【0035】
コアシェル型ゴム粒子(E)は、コア部と、コア部の外層を形成するシェル部より構成される。コア部はエラストマーまたはゴム状のポリマーを主成分とするポリマーからなることが好ましく、シェル部はコア部にグラフト重合されたポリマーからなることが好ましい。コアシェル型ゴム粒子の添加には、靱性の向上やプリプレグのタック性の改善効果があり、平均粒子径が体積平均粒子径で1~500nmであることが好ましく、3~300nmであればさらに好ましい。
【0036】
本発明の硬化性樹脂組成物は、添加剤として表面平滑性を向上させる目的で消泡剤、レベリング剤を添加することが可能である。これら添加剤は、樹脂組成物の合計100質量部に対し、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.01~1質量部配合できる。
【0037】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分等を均一に混合することにより製造される。
得られた樹脂組成物は、25℃におけるE型粘度計コーンプレートタイプを使用して測定した粘度が5~50Pa・sの範囲である。この範囲内であると強化繊維への含浸性が良好であり、かつ樹脂ダレの少ない硬化性樹脂組成物が得られ、硬化時にも空隙の少ない繊維強化複合材料が得られる。
【0038】
本発明の硬化性樹脂組成物は、更に他の硬化性樹脂を配合することもできる。このような硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性シアネートエステル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
本発明の硬化性樹脂組成物は、カップリング剤や、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、熱硬化性樹脂粒子、あるいはシリカゲル、ナノシリカ、アルミナファイバーやクレー等の無機フィラーや、導電性フィラーを配合することができる。導電性粒子や導電性フィラーを用いることにより得られる樹脂硬化物や繊維強化複合材料の導電性を向上させられる。
【0040】
導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、金属ナノ粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。この中で特にカーボンナノチューブの配合は導電性を向上させるだけで無く、繊維強化複合材料に対して1wt%未満の配合量でも繊維強化複合材料の衝撃強度を高められるという点で広く知られており、好適に用いることができる。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物は、トゥプリプレグのマトリックス樹脂として有用であり、強化用繊維又は束に含浸されてトゥプリプレグとされる。トゥプリプレグとする方法は公知の方法でよい。得られるトゥプリプレグは、フィラメントワインディング成形法によって得られる繊維強化複合材料に好適に用いられる。
【0042】
本発明の硬化性樹脂組成物を、トゥプリプレグへ加工し、繊維強化複合材料を作製する方法は特に限定されないが、フィラメントワインディング法による圧力容器の製造方法として望ましく適用される。金属製または樹脂製のライナーにトゥプリプレグを巻きつけた後に熱硬化させることで、ライナーを被覆するよう繊維強化複合材料の層が形成された成形品が得られる。この後、必要に応じてライナーを除去しても良い。また、フィラメントワインディング法による円注状の中空な繊維強化複合材料、例えばシャフトやロール形状の成形体の製造方法として望ましく適用される。金属製または樹脂製のマンドレルにトゥプリプレグを巻き付けて加熱成形することで成形品が得られ、用途に応じてマンドレルを除去しても良い。
【0043】
本発明のトゥプリプレグに用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等から選ばれるが、強度に優れた繊維強化複合材料を得るためには炭素繊維を使用するのが好ましい。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物と強化繊維より構成されたトゥプリプレグは、強化繊維の体積含有率が48~72%であると良く、より好ましくは55~68%である。この範囲であると、空隙が少なく、かつ強化繊維の体積含有率が高い成形体が得られるため、優れた強度の成形材料が得られる。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物は、120℃の温度下で2時間かけて硬化させた硬化物について、JIS K7171に準じて測定された曲げ弾性率が2.0GPa以上、ASTM D5045に準じて測定された23℃での破壊靭性(KIc)が1.5MPa・m0.5J/m以上であり、吸水率3.0以下を示すことができる。
【実施例
【0046】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。配合量を示す部は、特に断りがない限り質量部である。またエポキシ当量の単位はg/eqである。
【0047】
合成例、実施例で使用した各成分の略号は下記の通りである。
YD-128:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量187(日鉄ケミカル&マテリアル製)
YDF-170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170(日鉄ケミカル&マテリアル製)
P700:平均分子量700のポリプロピレングリコール、水酸基当量348g/eq(日鉄ケミカル&マテリアル製)
P2000:平均分子量2000のポリプロピレングリコール、水酸基当量1002g/eq(日鉄ケミカル&マテリアル製)
BD:1,4-ブタンジオール、水酸基当量45g/eq
TMP:トリメチロールプロパン、水酸基当量45g/eq
TDI:トルエンジイソシアネート
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
MX-154:コアシェル型ゴム粒子を40wt%含有するビスフェノールA型エポキシ樹脂(カネカ社製)、エポキシ当量297
DICY:ジシアンジアミド、活性水素基当量21g/eq
DCMU:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア
TDU:1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)
2MAOK:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物
【0048】
各物性の測定方法は、以下のとおり。
(粘度の測定)
25℃における粘度の値は、E型粘度計コーンプレートタイプを用いて測定した。硬化性樹脂組成物を調整し、その内0.8mLを測定に用い、測定開始から60秒経過後の値を粘度の値とした。
【0049】
(ガラス転移温度、破壊靱性、吸水率測定用成形板の作製)
硬化性樹脂組成物を、平板形状にくり抜かれた4mm厚のスペーサーを設けた縦120mm×横120mmの金型へ流し込み、140℃で2時間硬化させて測定用成形板とし、後述する曲げ弾性率と曲げ強度の測定、および破壊靱性の測定に用いた。
【0050】
(ガラス転移温度の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより3mm×3mmの大きさに切削し、さらにベルトディスクサンダーを用いておよそ1.0mmの厚さまで研磨加工した。示差走査熱量計を用い、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分の条件で測定し、DSC曲線の変曲点での接線と、変曲の開始が見られる温度、すなわち変曲点から20~30℃低い温度領域における接線との交点をガラス転移温度Tgとした。
【0051】
(曲げ弾性率と曲げ強度の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより80mm×10mmの大きさに切削し、曲げ試験片をJIS7171に準拠する手法にて23℃の温度条件で曲げ試験を行い、曲げ弾性率と曲げ強度を算出した。
【0052】
(破壊靱性の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより80mm×10mmの大きさに切削し、
ASTM5045に準拠した試験片に加工した上で23℃の温度条件にて破壊靱性試験を行い、破壊靱性値を算出した。
【0053】
(吸水率の測定)
得られた成形板を卓上バンドソーにより40mm×10mmの大きさに切削し、吸水試験前の重量を測定し、初期重量とした。次に恒温恒湿器SH-641(エスペック社製)内にて85℃-85%RHの条件で100h静置することで試験片に吸水させた。その後、試験片を取り出し23℃-50%RHの条件で88h以上試験片を静置させてから重量を測定し、吸水後重量とした。下記式により吸水率を算出した。
吸水率(%)=(吸水後重量-初期重量)/初期重量×100
【0054】
合成例1
攪拌装置、温度計、還流管、窒素ガス導入装置、仕込み口を備えたガラス製セパラブルフラスコに、YD-128 91部、P700 10.8部を仕込み、攪拌しながら110℃まで昇温した。次に仕込み口よりMDI 9.5部を入れて1時間経過した後にBD 1.0部を仕込み、更に反応温度を130℃に保ち2時間反応を行い、ウレタン変性率23質量%、エポキシ当量230のウレタン変性エポキシ樹脂を107部得た。このエポキシ樹脂をa-1とする。
【0055】
合成例2
攪拌装置、温度計、還流管、窒素ガス導入装置、仕込み口を備えたガラス製セパラブルフラスコに、YD-128 92部、P2000 28部を仕込み、攪拌しながら110℃まで昇温した。次に仕込み口よりMDI 9.5部を入れて1時間経過した後にTMP 1.2部を仕込み、更に反応温度を130℃に保ち2時間反応を行い、ウレタン変性率36質量%、エポキシ当量263のウレタン変性エポキシ樹脂を129部得た。このエポキシ樹脂をa-2とする。
【0056】
合成例3
攪拌装置、温度計、還流管、窒素ガス導入装置、仕込み口を備えたガラス製セパラブルフラスコに、YD-128 62部、P2000 58部を仕込み、攪拌しながら110℃まで昇温した。次に仕込み口よりTDI 8.7部を入れて1時間経過した後にBD 0.9部を仕込み、更に反応温度を130℃に保ち2時間反応を行い、ウレタン変性率61質量%、エポキシ当量389のウレタン変性エポキシ樹脂を125部得た。このエポキシ樹脂をa-3とする。
【0057】
実施例1
(A)成分としてYDF-170を31部、YD-128を37部、(B)成分としてa-1を25部、(C)成分としてDICYを3.7部、(D)成分としてDCMUを3.2部、150mLのポリ容器へ入れ、真空ミキサー「あわとり練太郎」(シンキー社製)を用いて、室温下で5分間攪拌しながら混合し、硬化性樹脂組成物を得た。
【0058】
実施例2~9、比較例1~6
(A)~(D)成分として表1および表2に記載された組成にて各原料を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を作製した。
【0059】
各物性及び試験の結果をそれぞれ表1、及び表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】