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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】窒化硼素蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/63 20060101AFI20230302BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230302BHJP
   C01B 35/14 20060101ALI20230302BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230302BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20230302BHJP
【FI】
C09K11/63
C09K11/08 B
C01B35/14
H01L33/50
H01S5/022
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019069772
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2019183146
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018075395
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村▲崎▼ 嘉典
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
C01B 35/14
H01L 33/50
H01S 5/022
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上550nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、下記式(I)で表される組成を含む、窒化硼素蛍光体。
Ca :M1 (I)
(式(I)中、M1は、Tb、Sm及びPrからなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x≦0.10を満たす数である。)
【請求項2】
250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、下記式(II)で表される組成を含む、窒化硼素蛍光体。
(II)
(式(II)中、Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素である。)
【請求項3】
前記式(I)において、xが、0≦x≦0.03を満たす数である、請求項1に記載の窒化硼素蛍光体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化硼素蛍光体と、励起光源とを含む発光装置。
【請求項5】
前記励起光源が発光ダイオード又は半導体レーザーである、請求項4に記載の発光装置。
【請求項6】
Caを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、必要に応じてTb、Sm及びPrからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1を含む化合物と、を混合した混合物を準備し、前記混合物を10気圧以下の範囲の圧力において熱処理する工程を含み、得られる窒化硼素蛍光体が、下記式(I)で表される組成を含む窒化硼素蛍光体の製造方法。
Ca :M1 (I)
(式(I)中、M1は、Tb、Sm及びPrからなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x≦0.10を満たす数である。)
【請求項7】
アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、を含む化合物とを混合した混合物を準備し、前記混合物を10気圧以下の範囲の圧力において熱処理する工程を含み、得られる窒化硼素蛍光体が、下記式(II)で表される組成を含む窒化硼素蛍光体の製造方法。
(II)
(式(II)中、Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素である。)
【請求項8】
前記熱処理する雰囲気が、不活性雰囲気又は還元雰囲気である、請求項6又は7に記載の窒化硼素蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理する温度が、1200℃以上1600℃以下の範囲内である、前記請求項6から8のいずれか一項に記載の窒化硼素蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化硼素蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light Emitting Diode、以下「LED」ともいう。)やレーザーダイオード(Laser Diode、以下「LD」ともいう。)等の励起光源と、蛍光体を組み合わせて、光の混色の原理によって白色、電球色等に発光する発光装置が種々開発されている。これらの発光装置は、照明用、車載用、液晶表示装置のバックライト用、ディスプレイ用、イルミネーション用、プロジェクター用などの幅広い分野で利用されている。
【0003】
このような発光装置として、例えば、特許文献1は、250nm以上400nm以下の波長範囲の光を発する励起光源と、その光の少なくとも一部を吸収して発光する蛍光体とを組み合わせることで、白色系の混色光を発する発光装置を開示している。このような発光装置に用いる蛍光体として、例えば、MSiO:Eu2+(式中、Mは、Sr、Ca、Ba、Mg、Zn及びCdからなる群から選ばれる2価の金属の少なくとも一つである。)で表されるオルソシリケート蛍光体が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2008-509552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光装置に用いられる蛍光体としては、用途によって様々な発光スペクトルが得られ、幅広い波長範囲の励起光によって発光させることができ、発光特性及び信頼性の要求を満足させることができる蛍光体の開発が望まれている。
そこで本発明の一態様は、そのような要求を満足させる可能性を有する窒化硼素蛍光体、発光装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の態様を包含する。
【0007】
本発明の第一の態様は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aと、窒素及び硼素と、必要に応じて、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1と、を含む、窒化硼素蛍光体である。
【0008】
本発明の第二の態様は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aと、窒素及び硼素とを含む、窒化硼素蛍光体である。
【0009】
本発明の第三の態様は、前記窒化硼素蛍光体と、励起光源とを含む発光装置である。
【0010】
本発明の第四の態様は、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、必要に応じてTb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1を含む化合物と、を混合した混合物を準備し、前記混合物を10気圧以下の範囲の圧力において熱処理する工程を含む窒化硼素蛍光体の製造方法である。
【0011】
本発明の第五の態様は、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、を混合した混合物を準備し、前記混合物を10気圧以下の範囲の圧力において熱処理する工程を含む窒化硼素蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、比較的幅広い波長範囲の励起光により様々な発光スペクトルを有する光を発する窒化硼素蛍光体、発光装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1に係る窒化硼素蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例2に係る窒化硼素蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図3図3は、実施例3に係る窒化硼素蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図4図4は、実施例4に係る窒化硼素蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図5図5は、実施例5に係る窒化硼素蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図6図6は、実施例6に係る窒化硼素蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図7図7は、実施例4乃至6に係る窒化硼素蛍光体の励起スペクトルを示す図である。
図8図8は、実施例1に係る窒化硼素蛍光体と、参考例のオルソシリケート系蛍光体について、25℃(室温)から150℃の温度範囲における相対発光エネルギー(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る窒化硼素蛍光体、発光装置及び窒化硼素蛍光体の製造方法を説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下の窒化硼素蛍光体、発光装置及び窒化硼素蛍光体の製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。
【0015】
窒化硼素蛍光体
本発明に係る窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aと、窒素及び硼素と、必要に応じて、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1と、を含む。
【0016】
窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aと、窒素及び硼素とを含む。
【0017】
前記窒化硼素蛍光体は、下記式(I)で表される組成を含んでいてもよい。
:M1 (I)
(式(I)中、Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、M1は、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x≦0.10を満たす数である。)
【0018】
前記窒化硼素蛍光体は、下記式(II)で表される組成を含んでいてもよい。
(II)
(式(II)中、Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素である。)
【0019】
近紫外線領域の波長範囲に発光ピーク波長を有する発光素子として、例えば半導体レーザーが挙げられる。近紫外線領域を含む250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの励起光によって、波長変換が可能な蛍光体が求められている。本発明の第一の実施形態に係る窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの励起光によって、480nm以上650nm未満の緑色から橙色の領域に発光ピーク波長を有する。発光素子の励起光は、好ましくは250nm以上400nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、さらに好ましくは250nm以上380nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、特に好ましくは250nm以上370nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。
【0020】
前記窒化硼素蛍光体に含まれる元素Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。前記元素Aは、発光効率や信頼性の観点から、好ましくはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、より好ましくはCa、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、さらに好ましくはCa及びBaから選ばれる少なくとも一種の元素であり、よりさらに好ましくはCaを含む。
【0021】
前記窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する励起光によって、少なくとも一つの母体発光に起因する発光スペクトルを示す。前記窒化硼素蛍光体に含まれる元素M1及び前記式(I)で表される組成における元素M1は、母体に含まれる賦活元素であるが、前記窒化硼素蛍光体は、母体発光を示す蛍光体であるため、賦活元素である元素M1を含まない場合でも発光させることができる。前記窒化硼素蛍光体は、賦活元素である元素M1を含んでいなくてもよい。元素M1を含んでいない前記窒化硼素蛍光体は、前記式(II)で表される組成を含むことが好ましい。前記窒化硼素蛍光体は、元素M1で表される賦活元素を含んでいてもよい。窒化硼素蛍光体が、賦活元素である元素M1を含む場合は、幅広い波長範囲の励起光を吸収して、賦活元素に起因する様々な発光スペクトルを有する発光が得られ、窒化硼素蛍光体が発する光の色調を変更することができる。元素M1は、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、好ましくはTb、Sm、Pr、Ce及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、より好ましくはTb、Sm、Pr及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、よりさらに好ましくはTb、Sm及びPrからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。元素M1は、Tb、Sm及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素であってもよく、Tb及びYbから選択される少なくとも一種の元素であってもよい。元素M1は、Euを除く。250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起された場合に、ユウロピウムは、窒化硼素化合物の発光を阻害するキラー元素となる場合がある。前記式(I)で表される組成において、変数xは、前記窒化硼素蛍光体の賦活元素である元素M1のモル比を表し、元素M1のモル比を表す変数xは、0であってもよい。前記式(I)で表される組成において、変数xは、光源の種類による色調の変化や信頼性の観点から0以上0.10以下(0≦x≦0.10)、好ましくは0以上0.08以下(0≦x≦0.08)、より好ましくは0以上0.05以下(0≦x≦0.05)、さらに好ましくは0以上0.03以下(0≦x≦0.03)である。
【0022】
前記窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上550nm未満の範囲内に少なくとも一つの発光ピーク波長を有し、元素AがCaを含むことが好ましい。前記窒化硼素蛍光体が元素M1を含む場合は、元素M1が、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素であることが好ましい。前記式(I)で表される組成を含む窒化硼素蛍光体は、元素AがCaを含み、元素M1が、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、xが、0≦x≦0.03を満たす数であることが好ましい。前記窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を励起されて480nm以上550nm未満の範囲内に2つの発光ピーク波長を有していてもよい。前記窒化硼素蛍光体は、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて、550nmを超える範囲に元素M1に起因する発光ピーク波長を有していてもよい。窒化硼素蛍光体が、550nmを超える範囲に発光ピークを有する場合には、550nmを超える範囲の発光ピークの発光強度は、480nm以上550nm未満の範囲内の発光ピークの発光強度よりも低い。
【0023】
発光装置
本発明に係る発光装置は、本発明に係る窒化硼素蛍光体と、励起光源とを備える。励起光源は、発光ダイオード(LED)又は半導体レーザー(LD)であることが好ましい。発光ダイオード(LED)としては、例えば、窒化物系半導体(InAlGa1-X-YN、X≧0、Y≧0、X+Y≦1)が挙げられる。窒化物系半導体を用いた発光ダイオードを励起光源として用いることで、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。半導体レーザーとしては、例えば、Nd:YAGレーザー、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー等が挙げられる。窒化硼素と、LEDを組み合わせた発光装置は、照明用や標準光源用等の分野で用いることができる。窒化硼素蛍光体とLDとを組み合わせた発光装置は、照明用、プロジェクター用等の分野で用いることができる。
【0024】
窒化硼素蛍光体の製造方法
本発明に係る窒化硼素蛍光体の製造方法は、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、必要に応じてTb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1を含む化合物とを混合した混合物を準備し、10気圧以下の範囲の圧力において熱処理する工程を含む。前記熱処理は、1気圧以上10気圧以下の範囲内の圧力において行うことが好ましい。元素M1を含む化合物として、元素M1は、Tb、Sm及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素であってもよい。元素M1は、Tb及びYbから選択される少なくとも一種の元素であってもよい。
【0025】
本発明に係る窒化硼素蛍光体の製造方法は、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、を含む化合物とを混合した混合物を準備し、前記混合物を10気圧以下の範囲の圧力において熱処理する工程を含んでいてもよい。前記熱処理は、1気圧以上10気圧以下の範囲内の圧力において行うことが好ましい。
【0026】
本発明に係る製造方法によれば、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物又は窒化物と、窒化硼素と、必要に応じてTb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1を含む化合物を原料として、混合物を準備する。原料を含む混合物は、元素M1を含む化合物を含んでいなくてもよい。本発明に係る製造方法は、前記原料を含む混合物を10気圧以下(1.0MPa以下)の範囲の圧力において熱処理することにより、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて、480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有する窒化硼素蛍光体を製造することができる。前記製造方法によれば、10気圧を超える高圧下で熱処理をすることなく、250nm以上460nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光に励起されて母体発光する窒化硼素蛍光体を得ることができる。熱処理時の気圧は、熱処理時の温度によっても変わり、熱処理における気圧は、好ましくは8気圧以下(0.8MPa以下)の範囲であり、より好ましくは5気圧以下(0.5MPa以下)の範囲である。熱処理時の気圧の下限は、特に制限されないが、好ましくは0.1気圧以上(0.01MPa以上)又は1気圧以上である。
【0027】
アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素Aを含む水素化物としては、例えば、MgH、CaH、SrH又はBaHが挙げられる。アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む窒化物としては、Mg、Ca、Sr、SrN、Baが挙げられる。本発明の第三の実施形態に係る製造方法において、原料としては、入手しやすく、比較的反応性が高い点から、前記元素Aを含む水素化物を用いることが好ましい。
【0028】
Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素M1を含む化合物としては、例えば、元素M1を含む酸化物、塩化物、フッ化物、窒化物等が挙げられる。入手しやすく、取り扱いが容易な点から、必要に応じて、元素M1を含む酸化物又は窒化物用いることが好ましい。元素M1を含む化合物としては、具体的に、Tb、TbF、Sm、SmN、SmF、Pr11、PrN、PrF、Ce、CeO、CeF、MnO、Mn、MnO、Yb、YbN、YbFが挙げられる。
【0029】
熱処理する雰囲気は、結晶欠陥などの少ない窒化硼素蛍光体を得るために、不活性雰囲気又は還元雰囲気であることが好ましい。不活性雰囲気は、ヘリウム、ネオン及びアルゴンからなる群から選ばれる少なくとも一種の希ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気が挙げられる。不活性雰囲気は、ヘリウム、ネオン、アルゴン又は窒素を雰囲気中の主成分とする雰囲気をいう。不活性雰囲気は、必然的に不純物として酸素を含むことがあるが、本明細書において、雰囲気中に含まれる酸素の濃度が15体積%以下であれば、不活性雰囲気とする。不活性雰囲気中の酸素の濃度は、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下である。還元雰囲気は、水素を含む希ガス雰囲気、水素を含む窒素ガス雰囲気が挙げられる。還元雰囲気は、水素ガスと希ガス、又は、水素ガスと窒素ガス、を雰囲気の主成分とする雰囲気をいう。
【0030】
熱処理する温度は、好ましくは1200℃以上1600℃以下の範囲内である。熱処理する温度は、より好ましくは1250℃以上1550℃以下の範囲内であり、さらに好ましくは1300℃以上1500℃以下の範囲内である。熱処理する温度が1200℃以上1600℃以下の範囲内であれば、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起され、480nm以上650nm未満の範囲内に少なくとも一つの発光ピーク波長を有する前記式(I)で表される組成を含む、窒化硼素蛍光体を得ることができる。
【0031】
本発明に係る製造方法によって、下記式(I)で表される組成を含み、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有する窒化硼素蛍光体が得られる。
:M1 (I)
(式(I)中、Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、M1は、Tb、Sm、Pr、Ce、Mn及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、xは、0≦x≦0.10を満たす数である。)
【0032】
本発明に係る製造方法によって、下記式(II)で表される組成を含み、250nm以上460nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光に励起されて480nm以上650nm未満の範囲に少なくとも一つの発光ピーク波長を有する窒化硼素蛍光体が得られる。
(II)
(式(II)中、Aは、アルカリ土類金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素である。)
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
水素化カルシム(CaH)12.6g、窒化硼素(BN)5.0gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、Caで表される窒化硼素化合物を得た。
【0035】
実施例2
水素化カルシム(CaH)12.6g、窒化硼素(BN)5.0g、酸化テルビウム(Tb)0.2gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、Ca:Tbで表される窒化硼素化合物を得た。
【0036】
実施例3
水素化カルシム(CaH)12.6g、窒化硼素(BN)5.0g、酸化サマリウム(Sm)0.2gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、Ca:Smで表される窒化硼素化合物を得た。
【0037】
実施例4
水素化カルシム(CaH)12.6g、窒化硼素(BN)5.0g、酸化プラセオジム(Pr11)0.2gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、Ca:Prで表される窒化硼素化合物を得た。
【0038】
実施例5
水素化バリウム(BaH)20.9g、窒化硼素(BN)2.5gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、Baで表される窒化硼素化合物を得た。
【0039】
実施例6
水素化ストロンチウム(SrH)13.4g、窒化硼素(BN)2.5gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、Srで表される窒化硼素化合物を得た。
【0040】
比較例1
水素化カルシム(CaH)12.6g、窒化硼素(BN)5.0g、酸化ユウロピウム(Eu)0.2gを秤量し、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用いて、20分混合して混合物を得た。この混合物を、1350℃、1気圧(0.10MPa)の窒素ガス雰囲気中で10時間、熱処理した。得られた熱処理物を粉砕して、窒化硼素化合物を得た。
【0041】
比較例2
熱処理温度を1250℃にしたこと以外は、比較例1と同様にして、窒化硼素化合物を得た。
【0042】
比較例3
熱処理温度を1450℃にしたこと以外は、比較例1と同様にして、窒化硼素化合物を得た。
【0043】
比較例4
水素化カルシム(CaH)12.6g及び窒化硼素(BN)5.0gの代わりに、水素化バリウム(BaH)20.9g、窒化硼素(BN)2.5gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、窒化硼素化合物を得た。
【0044】
比較例5
水素化カルシム(CaH)12.6g及び窒化硼素(BN)5.0gの代わりに、水素化ストロンチウム(SrH)13.4g、窒化硼素(BN)2.5gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、窒化硼素化合物を得た。
【0045】
比較例6
酸化ユウロピウム(Eu)0.2gの代わりに窒化ユウロピウム(EuN)0.2gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、窒化硼素化合物を得た。
【0046】
X線回折スペクトル
得られた窒化硼素化合物について、X線回折スペクトル(XRD)を測定した。測定は、試料水平型多目的X線回折装置(製品名:UltimaIV、株式会社リガク製)を用い、CuKα線を用いて行った。得られたXRDパターンから各アルカリ土類金属窒化硼素化合物の形成の有無を確認した。実施例1から4は、Caで表される組成の結晶が形成されていた。実施例5及び比較例4は、Baで表される組成の結晶が形成されていた。実施例6及び比較例5は、Srで表される組成の結晶が形成されていた。比較例1から3及び6は、Caで表される組成の結晶が形成されていた。表1に各実施例の組成を示す。
【0047】
発光特性
得られた窒化硼素化合物について、発光特性を測定した。発光特性は分光蛍光光度計(製品名:量子効率測定システムQE-2000、大塚電子株式会社製)で励起光の発光ピーク波長を365nmとして測定した。その発光スペクトルを図1乃至図6に示す。なお、実施例1の発光ピーク波長における発光強度が実施例の中では最も大きかったが、各実施例の窒化硼素化合物の発光スペクトルの形状を比較し易くするため、各発光スペクトルにおいて、最大の発光強度を100%とした。また、表1に各発光スペクトルおける発光ピーク波長と半値幅を求めた。半値幅は、発光スペクトルにおける最大の発光ピークの半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)をいい、各発光スペクトルにおける最大の発光ピークの最大値の50%の値を示す発光ピークの波長幅をいう。結果を表1に示す。
【0048】
励起スペクトルの測定
実施例4乃至6の窒化硼素化合物について、分光蛍光光度計(製品名:F-4500、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、実施例4は515nm、実施例5は595nm、実施例6は610nmにて、25℃±5℃(室温)で220nm以上520nm以下の範囲で励起スペクトルを測定した。実施例4乃至6それぞれの励起スペクトルの最大強度を100%とし、各波長における相対強度(%)を示す励起スペクトルを、図7に示す。
【0049】
温度特性による信頼性評価:相対発光エネルギー(%)
実施例1のCaで表される組成を含む窒化硼素化合物と、参考例として(Sr,Ba)SiO:Eu2+で表される組成を含むオルソシリケート蛍光体について、25℃(室温)から150℃の温度範囲において、発光ピーク波長が365nmである励起光源からの光によって励起させた各発光スペクトルを、分光蛍光光度計(製品名:量子効率測定システムQE-2000、大塚電子株式会社製)で測定した。実施例及び参考例の25℃で測定した発光スペクトルのエネルギー値を100%として、各温度における実施例及び参考例の蛍光体の相対的な発光スペクトルのエネルギー値(相対発光エネルギー(%))を求めた。なお、エネルギー値は、各温度において求めた発光スペクトルにおける波長480nm以上650nm以下の範囲の相対的な積分値である。図8は、実施例1の窒化硼素化合物と、参考例のオルソシリケート蛍光体の25℃(室温)から150℃の温度範囲における各温度に対する相対発光エネルギー(%)を示すグラフである。
【0050】
【表1】
【0051】
表1及び図1に示すように、実施例1のCaで表される窒化硼素化合物は、発光ピーク波長が515nmの母体発光に起因する発光ピークを有する窒化硼素蛍光体であった。
表1及び図2に示すように、実施例2のCa:Tbで表される窒化硼素化合物は、母体発光に起因して489nmに発光ピーク波長を有する第一の発光ピークと、Tbに起因して545nmに発光ピーク波長を有する第二の発光ピークを有する窒化硼素蛍光体であった。
表1及び図3に示すように、実施例3のCa:Smで表される窒化硼素化合物は、母体発光に起因して515nmに発光ピーク波長を有する第一の発光ピークと、Smに起因する2つの発光ピーク、すなわち、607nmに発光ピーク波長を有する第二の発光ピークと、651nmに発光ピーク波長を有する第三の発光ピークとを有する窒化硼素蛍光体であった。実施例3の窒化硼素蛍光体の第二の発光ピークと第三の発光ピークは、第一の発光ピークよりも発光強度が低い。
表1及び図4に示すように、実施例4のCa:Prで表される窒化硼素化合物は、母体発光に起因して515nmに発光ピーク波長を有する第一の発光ピークと、Prに起因する2つの発光ピーク、すなわち、610nmに発光ピーク波長を有する第二の発光ピークと、637nmに発光ピーク波長を有する第三の発光ピークとを有する窒化硼素蛍光体であった。実施例4の窒化硼素蛍光体の第二の発光ピークと第三の発光ピークは、第一の発光ピークよりも発光強度が低い。
表1及び図5に示すように、実施例5のBaで表される窒化硼素化合物は、発光ピーク波長が600nmの母体発光に起因する発光ピークを有する窒化硼素蛍光体であった。
表1及び図6に示すように、実施例6のSrで表される窒化硼素化合物は、発光ピーク波長が610nmの母体発光に起因する発光ピークを有する窒化硼素蛍光体であった。
【0052】
比較例1から6に係るEuを含む窒化硼素化合物は、いずれも発光しなかった。ユウロピウムは、Ca、Ba又はSrで表される窒化硼素化合物の発光を阻害するキラー元素となったと考えられる。
【0053】
図7に示すように、実施例4に係る窒化硼素蛍光体は320nm以上370nm以下の波長範囲内の励起スペクトルにおいて相対強度が最も高く、実施例5及び実施例6の窒化硼素蛍光体は、370nm以上420nm以下の波長範囲内の励起スペクトルにおいて相対強度が最も高くなった。図7は、窒化硼素蛍光体の組成に含まれる元素を選択することにより、励起スペクトルが異なる窒化硼素蛍光体が得られることを示している。すなわち、励起光源の発光ピーク波長と、窒化硼素蛍光体の組成に含まれる元素を選択することにより、本実施例にかかる窒化硼素蛍光体は、様々な発光スペクトルを有する光を効率よく発光させることができる。
【0054】
図8に示すように、実施例1の窒化硼素蛍光体は、25℃(室温)から150℃の温度範囲における相対発光エネルギーがオルソシリケート系蛍光体よりも高く、温度特性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る窒化硼素蛍光体は、LED又はLDを励起光源として用いる、照明用又はプロジェクター用の発光装置に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8