(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】治療支援システム、治療支援方法及び治療支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230302BHJP
【FI】
A61N5/10 M
(21)【出願番号】P 2021118224
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2021-07-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「橋渡し研究戦略的推進プログラム」「リアルタイム体内中線量可視化画像誘導至適陽子線治療システムの研究開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592131906
【氏名又は名称】みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西尾 禎治
(72)【発明者】
【氏名】根本 裕也
(72)【発明者】
【氏名】前川 秀正
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057859(JP,A)
【文献】特表2017-512593(JP,A)
【文献】特開2009-160308(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0038684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムであって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、人体の組織の複雑度に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援システム。
【請求項2】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムであって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、前記患者の状態によって生じる組成変化の可能性に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援システム。
【請求項3】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムであって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、臓器の存在に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援システム。
【請求項4】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムであって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、検出条件に応じて、注意領域のスコアリングを行ない、前記スコアリングにより注意領域を特定し、前記
特定した注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援システム。
【請求項5】
前記検出装置は、粒子線の照射領域を計測する計測面を有し、
前記プレ照射の粒子線の照射方向が、前記計測面の法線方向で重ならない複数の位置において、プレ照射位置を決定することを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の治療支援システム。
【請求項6】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、人体の組織の複雑度に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援方法。
【請求項7】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、前記患者の状態によって生じる組成変化の可能性に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援方法。
【請求項8】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、臓器の存在に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援方法。
【請求項9】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なう方法であって、
前記制御部が、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、検出条件に応じて、注意領域のスコアリングを行ない、前記スコアリングにより注意領域を特定し、前記
特定した注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示することを特徴とする治療支援方法。
【請求項10】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なうプログラムであって、
前記制御部を、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、人体の組織の複雑度に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示する手段として機能させることを特徴とする治療支援プログラム。
【請求項11】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なうプログラムであって、
前記制御部を、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、前記患者の状態によって生じる組成変化の可能性に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示する手段として機能させることを特徴とする治療支援プログラム。
【請求項12】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なうプログラムであって、
前記制御部を、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、臓器の存在に応じた検出条件で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示する手段として機能させることを特徴とする治療支援プログラム。
【請求項13】
粒子線を照射する照射装置と、
前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、
前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備えた治療支援システムを用いて、治療支援を行なうプログラムであって、
前記制御部を、
患者に対する治療計画における照射位置の中で
、検出条件に応じて、注意領域のスコアリングを行ない、前記スコアリングにより注意領域を特定し、前記
特定した注意領域においてプレ照射位置を特定し、
前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、
前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、
前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、
前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示する手段として機能させることを特徴とする治療支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粒子線を用いた治療を支援するための治療支援システム、治療支援方法及び治療支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を用いて治療を行なう場合、患者の被曝量を低減するために、的確な位置に適切な放射線量で照射する必要がある。このため、透視画像撮影装置によって患者に埋め込まれたマーカの現在位置を算出し、放射線治療中に透視するための撮影用放射線による患者の被曝量を低減する放射線治療制御装置が検討されている(例えば、特許文献1参照)。この文献に記載された技術では、一組の透視画像撮影装置から3つ以上のマーカの透視画像を取得し、各マーカ間の各々の距離を取得する。そして、各マーカの現在位置を算出し、治療用放射線を照射するか否かを判別する。
【0003】
また、高いエネルギで高速の粒子線を用いて、治療を行なう場合もある。粒子線の一つである陽子線は、入射陽子が体内で停止する寸前の場所で大きなエネルギを損失し、その場所に「ブラッグピーク」と呼ばれる高線量領域を形成する。このため、正常な領域のダメージを減らし、体内の患部に強い放射線を集中的に照射することができる。このような粒子線(陽子線)の照射において、入射陽子核と患者体内にある標的原子核で起こる原子核破砕反応を利用し、陽子線照射領域を可視化し、その可視化情報から腫瘍に対する照射線量を誘導する技術も検討されている(例えば、非特許文献1参照)。この文献に記載された技術では、陽子線治療において標的原子核破砕反応によって患者体内の照射領域に生成されるポジトロン放出核を検出する陽電子断層装置(PET装置)「Beam ON-LINE Positron Emission Tomography system」を用いる。このPET装置を、陽子線回転ガントリー照射室内に設置することで、陽子線照射領域を可視化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】西尾禎治,“原子核破砕反応を利用した照射領域可視化による高精度陽子線治療“,[online],2011年,一般財団法人 高度情報科学技術研究機構,RISTニュース,No.50,p.24-35,[令和3年6月14日検索],インターネット<URL:http://www.rist.or.jp/rnews/50/50s4.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、患者の患部周辺の状態に応じて、線量分布が変化するため、的確な照射が難しいことがある。例えば、患部の周囲に重要な臓器が存在する場合には、粒子線の照射位置のずれの影響を低減することが大切である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する治療支援システムは、粒子線を照射する照射装置と、前記粒子線の照射領域を計測する検出装置と、前記検出装置で検出した照射位置を取得する制御部と、を備える。そして、前記制御部が、患者に対する治療計画における照射位置の中で注意領域を特定し、前記注意領域においてプレ照射位置を特定し、前記照射装置に対して、前記プレ照射位置で、前記治療計画における照射エネルギでプレ照射を指示し、前記検出装置において検出した前記プレ照射の照射領域を取得し、前記プレ照射の照射領域に応じて、前記治療計画の照射条件を調整し、前記照射装置に対して、前記調整した照射条件でポスト照射を指示する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、患部の周辺状況を考慮して、粒子線の照射による治療を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の治療支援システムの説明図である。
【
図2】実施形態のハードウェア構成の説明図である。
【
図4】実施形態の粒子線の照射位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~
図6に従って、治療支援システム、治療支援方法及び治療支援プログラムを具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、粒子線としての陽子を患者の患部に照射して、患部の治療を行なう場合を説明する。この場合、陽子線の照射状態を確認するプレ照射と、患部を治療するためのポスト照射とを行なう。
このため、ネットワークを介して接続された治療計画装置10、支援装置20、治療装置30を用いる。
【0011】
(ハードウェア構成例)
図2は、治療計画装置10、支援装置20、治療装置30等として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0012】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0013】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースや無線インタフェース等である。
【0014】
入力装置H12は、ユーザ等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。
【0015】
記憶装置H14は、治療計画装置10、支援装置20、治療装置30の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0016】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、治療計画装置10、支援装置20、治療装置30における各処理(例えば、後述する制御部21における処理)を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、治療計画装置10、支援装置20、治療装置30のアプリケーションプログラムが起動された場合、後述する各処理を実行するプロセスを動作させる。
【0017】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行なう専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、以下で構成し得る。
【0018】
〔1〕コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ
〔2〕各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路
〔3〕それらの組み合わせ、を含む回路
プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0019】
(各情報処理装置の機能)
次に、治療計画装置10、支援装置20、治療装置30の機能を説明する。
治療計画装置10は、患部に対して放射線の入射方法を検討し、適切な線量が処方できているかを確認するためのシミュレータである。この治療計画装置10は、CT撮影装置から、所定の画像間隔で断層撮影したCT画像(DICOMデータ)を取得する。そして、治療計画装置10は、公知の方法を用いて、DICOMデータにおいて輪郭抽出を行ない、CT輪郭情報を生成する。このCT輪郭情報は、DICOM ROI(Region Of Interest)データにより構成されており、所定間隔で撮影したCT画像(断層画像)において特定した所定部位(体表面、骨、患部及びリスク臓器等)の輪郭を構成する点(座標)の集合体からなるデータである。この治療計画装置10においては、患部の体表面形状、患部の形状、位置、リスク臓器との位置関係によって、治療ビームの線質、入射方向、照射範囲、処方線量・照射回数等を決定する。
【0020】
支援装置20は、粒子線(陽子線)治療を支援するためのコンピュータシステムである。この支援装置20は、制御部21、治療情報記憶部22、注意領域記憶部23を備えている。
【0021】
制御部21は、後述する処理(マッピング段階、照射指示段階、調整段階等を含む処理)を行なう。このための治療支援プログラムを実行することにより、制御部21は、マッピング部211、照射指示部212、調整部213等として機能する。
【0022】
マッピング部211は、陽子線のプレ照射を行なう位置を決定する処理を実行する。
照射指示部212は、治療装置30に対して、陽子線の照射を指示する処理を実行する。
調整部213は、プレ照射の結果に応じて、陽子線のポスト照射の照射条件を調整する処理を実行する。
【0023】
治療情報記憶部22には、患者の治療のための陽子線照射についての治療管理情報が記録される。この治療管理情報は、治療計画装置10から治療計画情報を取得した場合に記録される。この治療管理情報は、患者コード、治療予定日に関連付けて、CT輪郭情報、照射条件情報を含む。
患者コードは、各患者を特定するための識別子である。
治療予定日は、この患者に対して、治療計画における陽子線照射による治療の予定日(年月日)である。
【0024】
CT輪郭情報には、この患者の患部のCT画像において、所定部位(体表面、骨、患部及びリスク臓器等)の輪郭の位置情報が含まれる。
照射条件は、この患者に対して、治療予定日に照射する陽子線を照射する条件である。照射条件としては、陽子線の照射位置、照射方向、照射エネルギ、照射線量、ビーム照射法等がある。ここで、ビーム照射法には、例えば、「拡大ビーム照射法」と「スキャニング照射法」等がある。
【0025】
注意領域記憶部23には、注意領域を特定するための注意領域管理情報が記録される。この注意領域管理情報は、注意領域を特定するための検出条件を決定した場合に記録される。この注意領域管理情報は、注意領域を特定するための検出条件及びスコアに関する情報を含む。
【0026】
本実施形態では、注意領域として、例えば以下の領域を特定する。
(a)組成や密度の変化が大きい領域
例えば、CT画像において、人体の組織(骨等)の混在により、CT値の分布むら(複雑度)が大きい領域である。
【0027】
(b)組成変化の可能性がある領域
患者の状態(例えば、鼻水の有無)によって、組成変化が生じる可能性がある領域である。
【0028】
(c)照射位置がずれると患者への影響が大きい領域
照射範囲の近傍にリスク臓器(視神経組織や脳組織等の重要臓器)が存在する領域である。
(d)照射線量が少ない領域
治療計画の照射条件において、陽子線の照射線量が少ない領域である。照射線量が少ない領域は、プレ照射線量の影響が大きく、ポスト照射線量の調整が困難である。
【0029】
スコアは、各検出条件で検出した注意領域に付与する値である。ここでは、ポスト照射を注意すべき注意領域(a~c)ほど、プレ照射による確認を促進するための高いスコアが設定されている。また、注意領域(d)は、プレ照射を抑制するためのスコアが設定されている。
【0030】
治療装置30は、放射線を患部に照射することにより、がん等の患部の治療を行なう装置である。この治療装置30には、患者P1が仰臥や背臥するための治療台が設けられている。そして、治療装置30は、照射装置31、検出装置32を備える。
照射装置31は、治療台の患者P1に対して、360度任意の方向から放射線を照射する装置(回転ガントリー)である。
検出装置32は、陽子線治療において標的原子核破砕反応によって患者体内の照射領域に生成されるポジトロン放出核を検出する陽電子断層装置(PET装置)である。このポジトロン放出核の放出位置により、照射深さ位置(照射領域)を特定することができる。検出装置32は、照射装置31から照射される陽子線の照射方向の側面から、ポジトロン放出核を検出する計測面321,322を備える。
【0031】
(照射支援処理)
図3を用いて、照射支援処理を説明する。
まず、支援装置20の制御部21は、治療計画から照射範囲の取得処理を実行する(ステップS101)。具体的には、制御部21のマッピング部211は、治療計画装置10から、治療予定日(当日)に、陽子線照射による治療を行なう患者の患者コードの治療計画情報を取得し、治療情報記憶部22に記録する。そして、マッピング部211は、CT輪郭情報において、照射条件(陽子線の照射位置、照射方向、照射エネルギ)を用いて、陽子線の照射範囲を特定する。
【0032】
次に、支援装置20の制御部21は、照射範囲内の注意領域の抽出処理を実行する(ステップS102)。具体的には、制御部21のマッピング部211は、注意領域記憶部23を用いて、粒子線の照射範囲のCT輪郭情報において、照射位置のずれの影響が大きい注意領域をマッピングする。
【0033】
ここで、検出条件「組成や密度の変化が大きい領域」については、CT画像の画像解析により、画像に含まれる領域毎に、CT値の分布むらを示す指標を算出する。そして、この指標が分布むら基準値以上の領域を特定する。
【0034】
また、検出条件「組成変化の可能性がある領域」については、CT画像の画像解析により、患者の状態によって、組成変化が生じる可能性がある領域(例えば、鼻腔)の領域を特定する。
【0035】
また、検出条件「照射位置がずれると患者への影響が大きい領域」については、CT画像の画像解析により、リスク臓器がある領域(例えば、視神経組織や脳組織)を特定する。
また、検出条件「照射線量が少ない領域」については、治療計画の照射条件において、陽子線の照射線量が、線量基準値より少ない領域を特定する。
【0036】
次に、支援装置20の制御部21は、抽出された注意領域の重み付け処理を実行する(ステップS103)。具体的には、制御部21のマッピング部211は、検出条件でマッピングした注意領域毎に、注意領域記憶部23のスコアを加算したスコアリングにより、重み付けを行なう。
【0037】
次に、支援装置20の制御部21は、重み付け注意領域のマッピング処理を実行する(ステップS104)。具体的には、制御部21のマッピング部211は、治療計画の照射範囲及びその近傍範囲(予め定められた距離範囲)内で、スコアが高い注意領域を特定(マッピング)する。次に、マッピング部211は、高いスコアで重み付けされた注意領域において、ペンシルビーム近似によって、陽子線のプレ照射位置を決定する。例えば、頭部に、複数本の陽子線を照射する場合を想定する。
【0038】
ここで、
図4に示すように、照射装置31から、顔面F1の正面方向に向けて陽子線を照射する場合を想定する。この場合、検出装置32の計測面321,322を、陽子線を照射方向に検出できるように配置する。
そして、
図5に示すように、計測面321,322の法線方向に対して重ならない位置で、プレ照射位置B1,B2,B3,B4,B5を決定する。
【0039】
次に、支援装置20の制御部21は、治療計画の照射エネルギでプレ照射指示処理を実行する(ステップS105)。具体的には、制御部21の照射指示部212は、陽子線の照射を治療装置30に対して、プレ照射位置毎にプレ照射指示を送信する。このプレ照射指示には、陽子線の照射エネルギ及びプレ照射線量(予定値)に関する情報を含める。この場合、照射エネルギとしては、治療計画における、各プレ照射位置での照射エネルギを設定する。また、プレ照射線量(予定値)としては、治療計画の処方線量内であって、検出装置32でポジトロン放出核を検知可能な最小線量を用いる。そして、治療装置30の照射装置31は、指示されたプレ照射位置毎に、照射エネルギ及びプレ照射線量により、陽子線の照射を行なう。
【0040】
次に、支援装置20の制御部21は、計測結果の取得処理を実行する(ステップS106)。具体的には、制御部21の調整部213は、治療装置30の検出装置32から、プレ照射によるポジトロン放出核を検出し、この放出分布により、照射深さ位置情報(照射領域)、プレ照射線量(実績値)を取得する。
この場合、
図6に示すように、計測面321,322により、各プレ照射位置B1~B5の粒子線の到達した高線量領域(実績照射深さ)位置を検出する。
【0041】
次に、支援装置20の制御部21は、治療計画との比較処理を実行する(ステップS107)。具体的には、制御部21の調整部213は、照射エネルギを用いたペンシルビーム近似での予定深さ位置、プレ照射線量(予定値)と、検出装置32において検出した実績深さ位置、プレ照射線量(実績値)とを比較する。
【0042】
次に、支援装置20の制御部21は、治療計画と一致しているかどうかについての判定処理を実行する(ステップS108)。具体的には、制御部21の調整部213は、照射線量や、予定深さ位置と実績深さ位置とが一致している場合には、治療計画と一致していると判定する。予定深さ位置と実績深さ位置とにずれ(差分)が生じている場合には、治療計画と不一致と判定する。
【0043】
治療計画と不一致と判定した場合(ステップS108において「NO」の場合)、支援装置20の制御部21は、照射エネルギの最適化処理を実行する(ステップS109)。具体的には、制御部21の調整部213は、実績深さ位置に応じて、予定深さ位置になるように照射エネルギを調整する。例えば、実績深さ位置が予定深さ位置よりも深い領域については、その差分に応じて照射エネルギを低くする。一方、実績深さ位置が予定深さ位置よりも浅い領域については、その差分に応じて照射エネルギを高くする。
【0044】
一方、治療計画と一致していると判定した場合(ステップS108において「YES」の場合)、支援装置20の制御部21は、照射エネルギの最適化処理(ステップS109)をスキップする。
【0045】
次に、支援装置20の制御部21は、プレ照射を考慮してポスト照射指示処理を実行する(ステップS110)。具体的には、制御部21の調整部213は、実績深さ位置、プレ照射線量(実績値)を用いて、治療計画の照射範囲に含まれる各照射領域におけるプレ照射線量(照射済線量)を算出する。次に、調整部213は、各照射領域における治療計画の照射線量からプレ照射線量(照射済線量)を差し引いたポスト照射線量を算出する。そして、照射指示部212は、治療装置30に対して、照射位置毎にポスト照射指示を送信する。このポスト照射指示には、陽子線の照射エネルギ及びポスト照射線量に関する情報を含める。そして、治療装置30の照射装置31は、指示された照射位置毎に、照射エネルギ及びポスト照射線量により、陽子線の照射を行なう。
【0046】
次に、支援装置20の制御部21は、ステップS106と同様に、計測結果の取得処理を実行する(ステップS111)。具体的には、制御部21の調整部213は、治療装置30の検出装置32から、ポスト照射の照射領域情報を取得する。
【0047】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、照射範囲内の注意領域の抽出処理を実行する(ステップS102)。これにより、治療計画において、陽子線の照射時に注意すべき領域を特定することができる。
【0048】
(2)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、抽出された注意領域の重み付け処理を実行する(ステップS103)。これにより、注意領域の中で、重み付けにより、プレ照射を行なう優先順位を決定することができる。
【0049】
(3)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、重み付け注意領域のマッピング処理を実行する(ステップS104)。ここで、計測面321,322の法線方向に対して重ならない位置で、プレ照射位置B1~B5を決定する。これにより、ポジトロン放出核の放出領域が重ならない状態で、プレ照射線量を低減しながら、照射方向の側面から各プレ照射位置での照射領域を特定することができる。
【0050】
(4)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、治療計画の照射エネルギでプレ照射指示処理(ステップS105)、計測結果の取得処理(ステップS106)を実行する。これにより、処方線量より少ない線量で、陽子線の照射状況を把握することができる。そして、ポスト照射における照射条件を微調整することができる。特に、短時間に大線量の照射を行なう場合には、正確な位置に適切な線量で照射を行なう必要があり、プレ照射によるポスト照射の照射条件の調整が有効である。
【0051】
(5)本実施形態では、治療計画と不一致と判定した場合(ステップS108において「NO」の場合)、支援装置20の制御部21は、照射エネルギの最適化処理を実行する(ステップS109)。これにより、患者の状況等に応じて、治療計画に応じた照射を行なうことができる。
【0052】
(6)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、プレ照射を考慮してポスト照射指示処理を実行する(ステップS110)。これにより、プレ照射を考慮して、治療計画の処方線量の陽子線の照射を行なうことができる。
【0053】
(7)本実施形態では、支援装置20の制御部21は、計測結果の取得処理を実行する(ステップS111)。これにより、治療計画における照射領域と、実際の照射領域とのずれの有無を確認することができる。
【0054】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、粒子線として陽子線を用いる。ここで、粒子線は陽子線に限定されるものではなく、例えば、炭素線等を用いることも可能である。
【0055】
・上記実施形態では、支援装置20の制御部21は、重み付け注意領域のマッピング処理を実行する(ステップS104)。ここで、計測面の法線方向に対して重ならない位置で、5ヶ所のプレ照射位置を決定する。プレ照射位置の数は、5ヶ所に限定されるものではない。
【0056】
・上記実施形態では、注意領域記憶部23には、注意領域を特定するための検出条件(a)~(d)を用いる。検出条件は、これらに限定されるものではなく、これらの一部や他の条件を用いてもよい。
また、身体の部位毎に注意領域をマッピングしたテンプレートを準備しておき、患者の輪郭にフィッテングして、注意領域を特定するようにしてもよい。
【0057】
・上記実施形態では、検出装置32として、患者体内の照射領域に生成されるポジトロン放出核を検出する陽電子断層装置を用いる。照射領域を検出できれば、ポジトロン放出核の検出に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
10…治療計画装置、20…支援装置、21…制御部、211…マッピング部、212…照射指示部、213…調整部、22…治療情報記憶部、23…注意領域記憶部、30…治療装置、31…照射装置、32…検出装置。