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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】モータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20230302BHJP
【FI】
H02P25/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021183539
(22)【出願日】2021-11-10
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(73)【特許権者】
【識別番号】521263537
【氏名又は名称】NASCA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
(72)【発明者】
【氏名】城ノ口 秀樹
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-100462(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111525847(CN,A)
【文献】実開昭63-105458(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部を備えるモータ装置であって、
前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、
前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備え、
前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであり、
前記複数のティース部には、第1系統の三相巻線および第2系統の三相巻線が巻回されており、
前記第1系統の三相巻線と前記第2系統の三相巻線の対応する各相の間が還流ダイオードで接続されており、
前記還流ダイオードはダイオード収容部に収容されており、
前記スイッチインバータ部と前記ダイオード収容部は別体に分離して設けられていることを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記ダイオード収容部は、前記モータ部に設けられていることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=5:6であることを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記還流ダイオードが、SiCまたはGaNで構成されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記スイッチインバータ部は、第1インバータ部および第2インバータ部を備え、
前記第1インバータ部は、前記第1系統の三相巻線の各相に接続される3つの並列接続されたスイッチを有し、
前記第2インバータ部は、前記第2系統の三相巻線の各相に接続される3つの並列接続されたスイッチを有することを特徴とするモータ装置。
【請求項6】
請求項に記載のモータ装置であって、
前記第1インバータ部と前記第2インバータ部は、別体に分離して設けられていることを特徴とするモータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置に関し、特に、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータのモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源として用いられている。また、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータも提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
従来の三相巻線を2系統備えたモータ装置は、第1系統の三相巻線としてA相コイル、E相コイル、C相コイルを有し、第2系統の三相巻線としてD相コイル、B相コイル、F相コイルを有している。また、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に、各相に対応する上段スイッチと下段スイッチが直列接続されてスイッチインバータを構成し、6つのスイッチインバータが並列に接続されている。また、各スイッチインバータの上段スイッチと下段スイッチの間には、各相の巻線(コイル)の一端が接続され、各相の巻線の他端は中性点に接続されている。このような従来のモータ装置では、各相の巻線を流れる電流値をモニターしながら、第1系統と第2系統のそれぞれにおいて3相ベクトル制御を行うことで、各相のコイルに適切に電流が流れて、スイッチトリラクタンスモータを回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-103957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来のモータ装置では、各インバータで2系統の三相巻線の各々を個別に制御できるため、複雑な回転制御を行うことができるが、6相のインバータを用いるため12個のスイッチが必要であり、回路に含まれるスイッチ数が増加してしまう。また、スイッチインバータと三相巻線の間の配線数と配線長が大きいため、全てスイッチインバータを介してモータ装置に供給される電力に損失が生じるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、一つの回転子に2系統の三相巻線を備えるスイッチトリラクタンスモータを駆動ためのスイッチ数を低減するとともに、電力の利用効率向上を図ることができるモータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部を備えるモータ装置であって、前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備え、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであり、前記複数のティース部には、第1系統の三相巻線および第2系統の三相巻線が巻回されており、前記第1系統の三相巻線と前記第2系統の三相巻線の対応する各相の間が還流ダイオードで接続されており、前記還流ダイオードはダイオード収容部に収容されており、前記スイッチインバータ部と前記ダイオード収容部は別体に分離して設けられていることを特徴とする。
【0008】
このような本発明のモータ装置では、2系統の三相巻線の間が還流ダイオードで接続され、還流ダイオードがダイオード収容部に収容されているため、還流ダイオードを経て三相巻線に電流を還流させる配線長を短縮して、スイッチ数を低減するとともに電力の利用効率向上を図ることができる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記ダイオード収容部は、前記モータ部に設けられている。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=5:6である。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記還流ダイオードが、SiCまたはGaNで構成されている。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記スイッチインバータ部は、第1インバータ部および第2インバータ部を備え、前記第1インバータ部は、前記第1系統の三相巻線の各相に接続される3つの並列接続されたスイッチを有し、前記第2インバータ部は、前記第2系統の三相巻線の各相に接続される3つの並列接続されたスイッチを有する。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記第1インバータ部と前記第2インバータ部は、別体に分離して設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、一つの回転子に2系統の三相巻線を備えるスイッチトリラクタンスモータを駆動するためのスイッチ数を低減するとともに、電力の利用効率向上を図ることができるモータ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】第1実施形態に係るモータ装置のモータ部10およびスイッチインバータ部20の概要を示す模式図である。
図1B】モータ部10の構造例を示す模式図である。
図2】スイッチ制御部からスイッチインバータ部20に送出される制御信号のタイミングチャートであり、3つのスイッチ群における上段スイッチと下段スイッチへの制御信号を示している。
図3】第1実施形態に係るモータ装置の構成を示す等価回路図である。
図4】比較例に係るモータ装置の構成を示す等価回路図である。
図5】第1実施形態に係る駆動回路において、第1インバータ部20bのスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図5(a)はスイッチA,Eがオン時の電流を示し、図5(b)はスイッチAをオフにした直後の電流を示している。
図6】比較例に係る駆動回路において、上段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図6(a)はスイッチA,Eがオン時の電流を示し、図6(b)はスイッチAをオフにした直後の電流を示している。
図7】第1実施形態に係る駆動回路において、第2インバータ部20aのスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図7(a)はスイッチB,Dがオン時の電流を示し、図7(b)はスイッチBをオフにした直後の電流を示している。
図8】比較例に係る駆動回路において、下段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図8(a)はスイッチB,Dがオン時の電流を示し、図8(b)はスイッチBをオフにした直後の電流を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1Aは、本実施形態に係るモータ装置のモータ部10およびスイッチインバータ部20の概要を示す模式図である。図1Bは、モータ部10の構造例を示す模式図である。
【0018】
図1Aに示すように、本実施形態のモータ装置は、モータ部10と、ダイオード収容部15と、スイッチインバータ部20とを備えている。また図1Bに示すように、モータ部10は回転子(ロータ)11と、回転子11の周囲に配置された固定子(ステータ)12を備えている。また、回転子11には、外周に沿って強磁性体からなるロータティースが配置されている。また固定子12は、コアバック部とその内周に突出して形成された複数のティース部13を備えている。また、各ティース部13には巻線(コイル)14が巻回されて、A相巻線、E相巻線、C相巻線の第1系統の三相巻線と、D相巻線、B相巻線、F相巻線の第2系統の三相巻線が構成されている。
【0019】
コアバック部は、回転子11の外側に回転子11の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部13が等間隔に突出して形成されている。コアバック部には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0020】
ティース部13は、コアバック部の内周面から回転子11に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部13は同じ長さと形状で形成されるとともに等間隔に配置されており、各ティース部13の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部13およびスロットには、巻線14が巻回されており、巻線14に電流が流れることでティース部13に磁界が発生する。
【0021】
巻線14は、導電性材料で構成された線材を所定回数巻回して構成されたコイルであり、各ティース部13の間に構成されたスロットに挿入されている。図1Bに示した例では、各巻線14は、固定子12の円周に沿って順にA1相,B1相,C1相,D1相,E1相,F1相,A2相,B2相,C2相,D2相,E2相,F2相として配置される。
【0022】
ここで、A相巻線、E相巻線およびC相巻線は、それぞれ電気角における1/3周期の差で配置されており第1系統の三相巻線を構成している。同様に、D相巻線、B相巻線およびF相巻線も、それぞれ電気角における1/3周期の差で配置されており第2系統の三相巻線を構成している。図1Bでは、回転子11が10個のロータティースを備え、固定子12が12個のティース部13を備えた10極12スロットのスイッチトリラクタンスモータの例を示している。モータ部の極数Pとスロット数Sは、10極12スロットには限定されないが、P:S=5:6の比率となっている。また、ティース部13への各相の巻回方法も集中巻きに限定されず分布巻きであってもよい。
【0023】
ダイオード収容部15は、後述する還流ダイオード15a~15cを収容する部分であり、スイッチインバータ部20とは別体に分離して設けられている。ダイオード収容部15は、ケース形状の部材中に配線基板を配置し、配線基板上に還流ダイオード15a~15cを搭載する構成や、複数の還流ダイオード15a~15cを一括して樹脂封止して端子部を露出させる構成など、従来公知の構成を用いることができる。図1Aに示した例では、ダイオード収容部15を固定子12のコアバック部に設けた例を示したが、モータ部10を構成するケース部材やフレーム部材の一部にダイオード収容部15を設けるとしてもよい。
【0024】
図1Aに示すように、本実施形態のスイッチインバータ部20は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に第2インバータ部20aおよび第1インバータ部20bを備えている。第2インバータ部20aは、並列接続されたスイッチD,B,Fを有し、各スイッチのソースが接地電圧側(下流側)に接続され、ドレインがダイオード収容部15およびモータ部10に接続されている。第1インバータ部20bは、並列接続されたスイッチA,E,Cを有し、各スイッチのドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースがダイオード収容部15およびモータ部10に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に逆接続された等価回路となる。
【0025】
スイッチインバータ部20は、第2インバータ部20aと第1インバータ部20bを一括して一つのパッケージに収容して設けるとしてもよく、第2インバータ部20aと第1インバータ部20bを各々別体のパッケージに収容して分離して設けるとしてもよい。第2インバータ部20aと第1インバータ部20bを別体に分離して設ける場合には、駆動時の発熱を分散することができるため、放熱性の向上を図ることができる。
【0026】
次に、モータ装置の制御方法について説明する。図2は、スイッチ制御部からスイッチインバータ部20に送出される制御信号のタイミングチャートであり、3つのスイッチ群における上段スイッチと下段スイッチへの制御信号を示している。図2における横軸は時間経過を示しており、360度を1周期とした共通の電気角を表している。また、縦軸はオン信号およびオフ信号を示しており、横軸に重なる位置がLowでオフ信号を示し、横軸から上方に離れた位置がHighでオン信号を示している。
【0027】
図2に示したように、スイッチ制御部はスイッチインバータ部20の各スイッチに対して、180度周期(1/2周期)のオン信号とオフ信号を交互に切り替えてゲートに送出する。このとき、スイッチA、スイッチB、スイッチCに印加される制御信号は、それぞれ位相が60度(1/6周期)ずつ異なっている。また、第2インバータ部20aと第1インバータ部20bにおける対応するスイッチは、互いの制御信号が反転した反転信号とされている。具体的には、スイッチAとスイッチD、スイッチEとスイッチB、スイッチCとスイッチFには、それぞれ反転信号が入力される。ここでは第2インバータ部20aと第1インバータ部20bに完全に反転した信号を印加する例を示したが、後述するようにわずかにオン信号をオフ信号よりも長くし、第2インバータ部20aと第1インバータ部20bの両者にオン信号が印加されるオーバーラップ期間を設けるとしてもよい。
【0028】
図3は、本実施形態に係るモータ装置の構成を示す等価回路図である。巻線14のD1相とD2相は直列接続されて一端がスイッチDのドレインに接続され、他端が中性点に接続されている。また巻線14のB1相とB2相は直列接続されて一端がスイッチBのドレインに接続され、他端が中性点に接続されている。また巻線14のF1相とF2相は直列接続されて一端がスイッチFのドレインに接続され、他端が中性点に接続されている。これにより、D1相とD2相、B1相とB2相およびF1相とF2相の直列接続がスター結線されて、第1系統の三相巻線を構成している。
【0029】
また、巻線14のA1相とA2相は直列接続されて一端がスイッチAのソースに接続され、他端が中性点に接続されている。また巻線14のE1相とE2相は直列接続されて一端がスイッチEのソースに接続され、他端が中性点に接続されている。また巻線14のC1相とC2相は直列接続されて一端がスイッチCのソースに接続され、他端が中性点に接続されている。これにより、A1相とA2相、E1相とE2相およびC1相とC2相の直列接続がスター結線されて、第2系統の三相巻線を構成している。
【0030】
図3では、第1系統の3相巻線と第2系統の三相巻線を共通の中性点に接続するスター結線した例を示したが、各相の接続方法はスター結線に限定されず、各相を直列に接続して環状に直列接続したダイアゴナル結線等を用いるとしてもよい。また、本実施形態では10極12スロットの例を示しているため、A相~F相をそれぞれ2つの巻線14を直列接続した構成としているが、極数Pとスロット数Sが5:6のn倍である場合には、各相において巻線14をn個直列接続したものを用いることができる。
【0031】
また、ダイオード収容部15には3つの還流ダイオード15a~15cが収用されており、スイッチインバータ部20と2系統の三相巻線の間で、各系統の三相巻線における対応する各相の間を逆接続している。具体的には、還流ダイオード15aはA1相A2相とD1相D2相の間を逆接続し、還流ダイオード15bはE1相E2相とB1相B2相の間を逆接続し、還流ダイオード15cはC1相C2相とF1相F2相の間を逆接続している。
【0032】
図1Aおよび図3に示したモータ装置では、スイッチ制御部からスイッチインバータ部20の各スイッチA~Fに、図2に示した制御信号が印加される。第2インバータ部20aのスイッチと第1インバータ部20bのスイッチの間にはそれぞれ還流ダイオード15a~15cが逆接続されているため、第1インバータ部20b側から第2インバータ部20a側への電流は遮断され、他相の巻線と中性点を経由して第2インバータ部20a側に電流が流れることは防止される。例えば、スイッチAがオンでスイッチDがオフ、さらにスイッチEがオンの場合に、スイッチEからE1相E2相、中性点、A1相A2相を経てスイッチDを流れるような電流は生じない。これにより、各相の巻線14に適切に電流が流れて、回転子11を回転させることができる。
【0033】
図4は、比較例に係るモータ装置の構成を示す等価回路図である。簡便のために極数Pとスロット数Sの比5:6をn倍してn個の巻線の直列接続したものをA~F相の一つで表現している。比較例では、スイッチインバータ部内に還流ダイオード15a~15bを一体に設けた点が、図3に示した本実施形態に係るモータ装置と異なっている。
【0034】
図4に示した比較例では、第1系統の三相巻線としてA相、E相、C相を有し、第2系統の三相巻線としてD相、B相、F相を有している。また、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に、各相に対応する6つのスイッチが直並列で接続されている。したがって、スイッチAとスイッチDの直列接続、スイッチEとスイッチBの直列接続、スイッチCとスイッチFの直列接続が並列接続されている。また、上下段の各スイッチA,E,CとスイッチD,B,Fの間には還流ダイオード15a~15cが接続されている。また、各スイッチと還流ダイオード15a~15cの間は、各相の巻線(コイル)の一端に接続されている。各相の巻線の他端は、中性点に接続されている。また、各スイッチには寄生ダイオードが逆接続された構成となっている。
【0035】
図5は、本実施形態に係る駆動回路において、第1インバータ部20bのスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図5(a)はスイッチA,Eがオン時の電流を示し、図5(b)はスイッチAをオフにした直後の電流を示している。図中の矢印は電流の流れを模式的に示している。
【0036】
図5(a)に示したように、スイッチA,E,FがオンでスイッチB,C,Dがオフの場合には、電源電圧からスイッチAとA相コイルおよびスイッチEとE相コイルを経て中性点に電流が流れ、F相コイルとスイッチFを経て中性点から電流が接地電圧に流れる。スイッチAがオフに切り替わった場合には、スイッチAの反転信号であるオン信号がスイッチDに印加されオンになる。スイッチAがオフ、スイッチDがオンになった直後には、図5(b)に示したように、A相コイルを流れていた電流の過渡応答により、D相を流れる電流の一部が還流ダイオード15aを介して、ダイオード収容部15からA相コイルに還流電流として流れる。
【0037】
図6は、比較例に係る駆動回路において、上段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図6(a)はスイッチA,Eがオン時の電流を示し、図6(b)はスイッチAをオフにした直後の電流を示している。比較例においても、図6(a)に示したように、スイッチA,E,FがオンでスイッチB,C,Dがオフの場合には、電源電圧からスイッチAとA相コイルおよびスイッチEとE相コイルを経て中性点に電流が流れ、F相コイルとスイッチFを経て中性点から電流が接地電圧に流れる。しかし図6(b)に示したように、スイッチAがオフ、スイッチDがオンになった直後には、A相コイルを流れていた電流の過渡応答により、D相を流れる電流の一部が還流ダイオード15aを介して、スイッチインバータ部20からA相コイルに還流電流として流れる。
【0038】
図7は、本実施形態に係る駆動回路において、第2インバータ部20aのスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図7(a)はスイッチB,Dがオン時の電流を示し、図7(b)はスイッチBをオフにした直後の電流を示している。
【0039】
図7(a)に示したように、スイッチC,D,BがオンでスイッチA,E,Fがオフの場合には、電源電圧からスイッチCとC相コイルを経て中性点に電流が流れ、D相コイルとスイッチDおよびB相コイルとスイッチBを経て中性点から電流が接地電圧に流れる。スイッチBがオフに切り替わった場合には、スイッチBの反転信号であるオン信号がスイッチEに印加されオンになる。スイッチBがオフ、スイッチEがオンになった直後には、図7(b)に示したように、B相コイルを流れていた電流の過渡応答により、B相を流れる電流が還流ダイオード15bを介して、ダイオード収容部15からE相コイルに還流電流として流れる。
【0040】
図8は、比較例に係る駆動回路において、下段のスイッチをオフにした場合の電流経路を示した模式図であり、図8(a)はスイッチB,Dがオン時の電流を示し、図8(b)はスイッチBをオフにした直後の電流を示している。比較例においても、図8(a)に示したように、スイッチC,D,BがオンでスイッチA,E,Fがオフの場合には、電源電圧からスイッチAとA相コイルおよびスイッチEとE相コイルを経て中性点に電流が流れ、F相コイルとスイッチFを経て中性点から電流が接地電圧に流れる。しかし図8(b)に示したように、スイッチBがオフ、スイッチEがオンになった直後には、B相コイルを流れていた電流の過渡応答により、B相を流れる電流が還流ダイオード15bを介して、スイッチインバータ部20からE相コイルに還流電流として流れる。
【0041】
図5図8では、スイッチAとスイッチBの場合について示したが、その他のスイッチC~Fにおいても同様の動作となる。図5図8に示したように、第1インバータ部20bおよび第2インバータ部20aのスイッチを切り替えた直後には、巻線14を流れていた電流の過渡応答によって、還流ダイオード15a~15cを介して還流電流が再度モータ部10に供給される。比較例では、還流ダイオード15a~15cがスイッチインバータ部20に設けられているため、還流電流はスイッチインバータ部20から巻線14までの全ての配線長を流れることとなる。
【0042】
それに対して本実施形態では、還流ダイオード15a~15cはダイオード収容部15に設けられているため、還流電流はダイオード収容部15から巻線14までの配線長のみを流れることとなる。図1に示したように、本実施形態のモータ装置ではダイオード収容部15をスイッチインバータ部20とは別体に設けているため、ダイオード収容部15から巻線14までの配線長は、スイッチインバータ部20から巻線14までの配線長よりも短縮することができる。したがって、還流電流が巻線14に流れる際の電気抵抗による電力ロスを抑制し、電力の利用効率向上を図ることができる。
【0043】
上述したように本実施形態のモータ装置では、2系統の三相巻線の間が還流ダイオード15a~15cで接続され、還流ダイオード15a~15cがダイオード収容部15に収容されているため、還流ダイオード15a~15cを経て三相巻線に電流を還流させる配線長を短縮して、スイッチ数を低減するとともに電力の利用効率向上を図ることができる。
【0044】
(第2実施形態)
第1実施軽地では、還流ダイオード15a~15cを構成する材料を限定しないが、本実施形態では、還流ダイオード15a~15cとしてSiCまたはGaNで構成されたダイオードを用いることが好ましい。SiCまたはGaNで構成されたダイオードは、Siで構成されたダイオードよりも高温での動作が可能であり、ダイオード収容部15を設ける位置の自由度が向上する。特に、ダイオード収容部15をモータ部10のケース内に設けた場合には、モータ装置の回転動作に伴ってモータ部10の温度が上昇するが、還流ダイオード15a~15cとしてSiCまたはGaNで構成されたダイオードを用いることで回転動作を良好に継続することが可能となる。
【0045】
また、図1ではダイオード収容部15をモータ部10の側面に設けた例を示したが、ダイオード収容部15を設ける位置は限定されず、モータ部10の上面や下面に設けるとしてもよい。また、ダイオード収容部15をモータ部10から離間させて配置するとしてもよい。
【0046】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10…モータ部
11…回転子
12…固定子
13…ティース部
14…巻線
15…ダイオード収容部
15a~15c…還流ダイオード
20…スイッチインバータ部
20a…第2インバータ部
20b…第1インバータ部
【要約】
【課題】一つの回転子に2系統の三相巻線を備えるスイッチトリラクタンスモータを駆動するためのスイッチ数を低減するとともに、電力の利用効率向上を図ることができるモータ装置を提供する。
【解決手段】回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部を備えるモータ装置(10)であって、回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであり、複数のティース部には、第1系統の三相巻線(A,E,C)および第2系統の三相巻線(D,B,F)が巻回されており、第1系統の三相巻線(A,E,C)と第2系統の三相巻線(D,B,F)の対応する各相の間が還流ダイオード(15a~15c)で接続されており、還流ダイオード(15a~15c)はダイオード収容部(15)に収容されているモータ装置(10)。
【選択図】図3
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8