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特許7236247測定システムおよび測定システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-01
(45)【発行日】2023-03-09
(54)【発明の名称】測定システムおよび測定システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/20 20060101AFI20230302BHJP
   G01B 5/008 20060101ALI20230302BHJP
【FI】
G01B21/20 101
G01B5/008
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018202585
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020071029
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100080252
【氏名又は名称】鈴木 征四郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 満
(72)【発明者】
【氏名】大根田 隆男
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 侑利
(72)【発明者】
【氏名】寺下 羊
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0334201(US,A1)
【文献】特開平11-190617(JP,A)
【文献】特表2014-527170(JP,A)
【文献】特開2001-021304(JP,A)
【文献】特開2011-163796(JP,A)
【文献】特開2016-015839(JP,A)
【文献】特開平09-257461(JP,A)
【文献】特表2009-524032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00- 5/30
G01B 21/00-21/32
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の形状を測定する三次元測定機と、前記測定対象物の測定手順をプログラムした測定パートプログラムに従って前記三次元測定機を駆動制御する制御装置と、を有する測定システムであって
記三次元測定機は、雰囲気温度を測定するための雰囲気温度計、外部振動を測定するための振動計、および、ワークの温度を測定するワーク用温度計のなかから選択される第一センサと第二センサとを有し、
前記制御装置には、前記測定対象物の形状測定が正常に行なわれるための第一条件として前記第一センサによって計測されるセンサ値に対して適正範囲が設定されているとともに、第二条件として前記第二センサによって計測されるセンサ値に対して適正範囲が設定されており、
前記制御装置は、前記第一条件および前記第二条件の両方が満たされている場合は前記測定パートプログラムの実行を開始させ、前記第一条件および前記第二条件の一つでも満たされていない場合は前記測定パートプログラムの実行を中断させ、
さらに、前記測定パートプログラムの実行をしているときも、前記測定パートプログラムの実行を中断しているときも、前記第一センサおよび前記第二センサによって取得されたモニタリングデータをモニタリングデータ記録部に記録していく
ことを特徴とする測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の測定システムにおいて、
前記三次元測定機は、
定盤に立設されたY軸コラムと、
前記Y軸コラムの上端面に配設され、水平面に平行なY方向に移動可能なYスライダを有するY軸移動機構と、
前記Yスライダに支持され、水平面内で前記Y方向に垂直であるX方向に長さを有するX軸ガイド部を有するX軸移動機構と、
前記定盤に対して相対移動可能になるように前記X軸移動機構に直接的または間接的に支持されたプローブと、を備え、
前記X軸ガイド部は、前記Yスライダに片持ちで支持されている
ことを特徴とする測定システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の測定システムにおいて、
記制御装置は、
前記測定パートプログラムの実行時に実行命令の番号と、前記三次元測定機の消費電流と、を時系列で記録する
ことを特徴とする測定システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記制御装置は、
同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値を測定パートプログラムごとに記録する
ことを特徴とする測定システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記制御装置は、
前記三次元測定機の移動機構の加減速度、速度および移動距離を時系列で記録する
ことを特徴とする測定システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記三次元測定機は、さらに、前記三次元測定機のY軸移動機構、X軸移動機構およびZ軸移動機構のそれぞれに設けられた各エンコーダに付設されたエンコーダ用温度センサを備え、
前記制御装置は、
前記エンコーダ用温度センサで計測された温度を時系列で記録する
ことを特徴とする測定システム。
【請求項7】
測定対象物の形状を測定する三次元測定機と、前記測定対象物の測定手順をプログラムした測定パートプログラムに従って前記三次元測定機を駆動制御する制御装置と、を有する測定システムの制御方法であって、
前記三次元測定機は、雰囲気温度を測定するための雰囲気温度計、外部振動を測定するための振動計、および、ワークの温度を測定するワーク用温度計のなかから選択される第一センサと第二センサとを有していて、
前記制御装置は、前記測定対象物の形状測定が正常に行なわれるための第一条件として前記第一センサによって計測されるセンサ値に対して適正範囲を設定するとともに、第二条件として前記第二センサによって計測されるセンサ値に対して適正範囲を設定し、
前記第一条件が満たされているかどうかの第一判定をし、
前記第二条件が満たされているかどうかの第二判定をし、
前記第一条件および第二条件の一つでも満たされていない場合は前記測定パートプログラムの実行を中断させ、
前記第一条件および第二条件の両方が満たされている場合は前記測定パートプログラムの実行を開始させ,
さらに、前記測定パートプログラムの実行をしているときも、前記測定パートプログラムの実行を中断しているときも、前記第一センサおよび前記第二センサによって取得されたモニタリングデータをモニタリングデータ記録部に記録していく
ことを特徴とする測定システムの制御方法
【請求項8】
請求項7に記載の測定システムの制御方法であって、
前記三次元測定機には、モニタリングデータを取得するためのセンサとして、さらに、前記三次元測定機のY軸移動機構、X軸移動機構およびZ軸移動機構のそれぞれに設けられた各エンコーダに付設されたエンコーダ用温度センサが設けられており、
前記制御装置は、前記モニタリングデータとして前記エンコーダ用温度センサで取得された温度データをモニタリングデータ記録部に記録していく
ことを特徴とする測定システムの制御方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の測定システムの制御方法において、
当該測定システムの電源がONになると前記制御装置はモニタリングを開始して、前記モニタリングデータをモニタリングデータ記録部に記録していき、
続いて、前記制御装置は前記モニタリングデータが前記第一条件および第二条件を満たしているか確認し、前記モニタリングデータが前記第一条件および第二条件を満たしている場合、前記制御装置は前記三次元測定機によるワークの測定を許可し、前記モニタリングデータが前記第一条件および第二条件の一方でも満たしていない場合には、前記制御装置はワークの測定動作を中断させ、前記モニタリングデータが前記第一条件および第二条件を満たすのを待ち、前記モニタリングデータが前記第一条件および第二条件を満たしたら、中断を解除して、ワークの測定を許可し、
前記制御装置は、電源がONの間は、前記第一センサおよび前記第二センサによって取得されたモニタリングデータを前記モニタリングデータ記録部に記録していく
ことを特徴とする測定システムの制御方法。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれかに記載の測定システムの制御方法において、
前記第一条および前記第二条件は、測定対象物に応じて用意される測定パートプログラムに、測定対象物に応じた測定が正常に行われる条件として組み込まれている
ことを特徴とする測定システムの制御方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定システムに関する。具体的には、形状測定システムであって、さらに、周囲の環境情報と測定機の状態ログとを関連づけて記録する測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の形状や寸法を測定する三次元測定機(座標測定機)が広く使用されている。三次元測定機としては、接触式/非接触式プローブを使用して測定対象物の表面を検知するものもあるし、カメラで撮像した画像イメージを使用する画像測定機もある。
【0003】
三次元測定機で測定対象物を測定するにあたっては、まず、測定対象物に応じた測定手順を予め測定パートプログラムとして組んで用意しておく。実際の測定作業では、定盤の上に測定対象物を載置した後、オペレータは「測定開始」の指令を三次元測定機に与える。あとは、自動的に三次元測定機が測定パートプログラムに従って測定対象物を決められた手順で順々に測定していく。測定対象物を自動的に入れ替えるシステムも合わせて利用することで、次々と自動的に測定が継続的に実行される。
このとき、オペレータは三次元測定機の傍にいる必要はない。測定対象物が大きなものであったり、複雑な形状であったり、同形状のものを数多く測定する場合などには、無人での長時間自動測定が便利であり、広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-062194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
長時間の無人自動測定を行う場合に、警告やエラー、中止がなく測定動作が問題なく終了していても、ある時間帯の測定結果が他の時間帯の測定結果と比較して大きな差を持つことがあった。
この原因としては種々考えられる。
例えば、三次元測定機の設置環境の温度(雰囲気温度)が変化する場合が有り得る。雰囲気温度が変化する状況は、例えば、三次元測定機の設置環境の扉を長く開放状態にする場合、照明を消灯する場合、空調の故障などが有り得る。従来の三次元測定機では、雰囲気温度を記録する機能は無かったため、上記のような温度変化による異常を知ることができなかった。別途に部屋の温度のログをとっている場合には、測定データと見比べながら推測はできるかもしれないが、データの突き合わせ作業が大変であるし、一つ一つ測定値の取得時間とそのときの環境温度とを正確に突き合わせることは難しい。なお、三次元測定機のなかには、測定対象物自体の温度を測定する温度計を持つものもあるが、この温度計では環境温度を取得したり記録したりすることはできなかった。
【0006】
本発明の目的は、周囲の環境情報と測定機の状態ログとを関連づけて記録する測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の測定システムは、
測定対象物の形状を測定する三次元測定機と、
前記測定対象物の測定手順をプログラムした測定パートプログラムに従って前記三次元測定機を駆動制御する制御装置と、を有する測定システムであって、
前記三次元測定機には雰囲気温度を測定するための雰囲気温度計が設けられ、
前記制御装置は、前記雰囲気温度計で計測された雰囲気温度データを取得して、時系列で記録する
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の測定システムは、
測定対象物の形状を測定する三次元測定機と、
前記測定対象物の測定手順をプログラムした測定パートプログラムに従って前記三次元測定機を駆動制御する制御装置と、を有する測定システムであって、
前記制御装置は、
前記測定パートプログラムの実行時に実行命令の番号と、前記三次元測定機の消費電流と、を時系列で記録する
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の測定システムは、
測定対象物の形状を測定する三次元測定機と、
前記測定対象物の測定手順をプログラムした測定パートプログラムに従って前記三次元測定機を駆動制御する制御装置と、を有する測定システムであって、
前記制御装置は、
同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値を測定パートプログラムごとに記録する
ことを特徴とする。
【0010】
本発明の測定システムは、
測定対象物の形状を測定する三次元測定機と、
前記測定対象物の測定手順をプログラムした測定パートプログラムに従って前記三次元測定機を駆動制御する制御装置と、を有する測定システムであって、
前記制御装置は、
前記三次元測定機の移動機構の加減速度、速度および移動距離を時系列で記録する
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の測定システムを用いた測定動作の制御方法は、
前記測定システムを用いた測定動作の制御方法であって、
前記制御装置は、
前記測定対象物の形状測定が正常に行なわれるための環境条件の一つとして雰囲気温度の適正範囲を設定し、
雰囲気温度が前記雰囲気温度の適正範囲に入っているか判定し、
前記雰囲気温度が前記雰囲気温度の適正範囲から外れていたら、前記測定パートプログラムの実行を中断させ、
前記雰囲気温度が前記雰囲気温度の適正範囲に入ったら、前記測定パートプログラムの実行を開始させる
ことを特徴とする。
【0012】
本発明では、
前記三次元測定機には外部振動を測定するための振動計が設けられ、
前記制御装置は、
前記測定対象物の形状測定が正常に行なわれるための環境条件の一つとして外部振動の上限値を設定し、
前記外部振動の振動レベルが設定された前記上限値以下であるか判定し、
前記振動レベルが前記上限値を越えていたら、前記測定パートプログラムの実行を中断させ、
前記振動レベルが前記上限値以下になったら、前記測定パートプログラムの実行を開始させる
ことが好ましい。
【0013】
本発明の測定システムを用いて前記三次元測定機の故障の予兆を検知する方法は、
前記測定システムを用いて、前記三次元測定機の故障の予兆を検知する方法であって、
同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値を測定パートプログラムごとに記録し、
測定パートプログラムごとに記録された前記積算電流値の変化の傾向に基づいて前記三次元測定機の故障の予兆を判定する
ことを特徴とする。
【0014】
本発明の測定システムを用いて前記三次元測定機の故障の予兆を検知する方法は、
前記測定システムを用いて、前記三次元測定機の故障の予兆を検知する方法であって、
前記制御装置は、さらに、同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値を測定パートプログラムごとに記録するものであり、
予め正常な前記三次元測定機を用いて同じ測定パートプログラムに従って同形状の測定対象物を測定したときの雰囲気温度と消費電流値との正常な関係を求めておき、
同じ測定パートプログラムに従って同形状の測定対象物を測定したときの雰囲気温度と消費電流値との関係が前記正常な関係から外れてきたら、前記三次元測定機の故障の予兆と判定する
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】測定システムの全体構成図である。
図2】三次元測定機をローアングルからみた斜視図である。
図3図2の一部拡大図において雰囲気温度計の設置状態を例示する図である。
図4】雰囲気温度計に温度計カバーを設置した状態を例示した図である。
図5】モーションコントローラおよびホストコンピュータの機能ブロック図である。
図6】各モニタリングデータの累積値を一覧表示した画面例である。
図7】ワーク測定時(測定パートプログラム実行時)におけるX、Y、Z軸移動機構の各電流値と雰囲気温度を時系列で表示した例である。
図8図7中のある時刻での情報を詳細に示す表示例を示した図である。
図9】日ごとの稼動状況の一覧を例示する表示例の図である。
図10】ワーク測定中の温度モニタリングデータの一例を示す図である。
図11】モニタリングデータを用いた測定動作の許可判定の手順を示すフローチャートである。
図12図11の測定動作の許可判定を受けて実際の測定動作を行なう手順を示すフローチャートである。
図13】測定パートプログラムの実行時のログの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の測定システム100に係る第1実施形態について説明する。
図1は、測定システム100の全体構成図である。
測定システム100は、三次元測定機200と、モーションコントローラ300と、ホストコンピュータ500と、を備えている。
【0017】
三次元測定機200の基本的な構成は既知であるが、簡単に説明しておく。
三次元測定機200は、測定対象物を載置する定盤210と、定盤210に立設されたY軸コラム220と、ワークを検出するプローブ230と、プローブ230を互いに直交するXYZ方向に移動させる移動機構240と、を備える。
【0018】
Y軸コラム220は、Y方向に幅広かつX方向に幅狭であって、定盤210の上面においてX方向の一端縁に立設されている。Y軸コラム220は略T型形状であり、Y軸コラム220の上端部は定盤210の一辺よりも長く、Y軸コラム220の下端部は定盤210の一辺よりも短い。
【0019】
移動機構240は、Y軸コラム220上に設置されている。移動機構240は、Y軸移動機構250と、X軸移動機構260と、Z軸移動機構270と、を備える。
【0020】
Y軸移動機構250は、Y軸コラム220の上端部で支持されるY軸ガイド部と、Y軸ガイド部でY方向に移動可能とされたYスライダと、を備える。X軸移動機構260は、Yスライダに固定されたX軸ガイド部と、X軸ガイド部でX方向に移動可能とされたXスライダと、を備える。
X軸ガイド部は、X軸方向に長さを有する長尺であり、一端だけがYスライダに固定され、片持ちで支持されている。
Z軸移動機構270は、Xスライダに支持されている。Z軸移動機構270は、Xスライダに取り付けられたZ軸駆動部と、Z軸駆動部によりZ方向に移動可能に支持されたZスピンドル271と、を備える。
【0021】
プローブ230は、Zスピンドル271の下端部に取り付けられている。プローブ230は、例えば、先端部が球とされた接触式プローブであるが、非接触式プローブであってもよい。
【0022】
細かく説明しないが、Yスライダ、XスライダおよびZスピンドル271を移動させる動力機構としては、ボールネジ機構やベルトドライブ機構を採用できる。各動力機構はモーションコントローラ300からの駆動制御信号によって駆動制御される。Y軸移動機構250、X軸移動機構260およびZ軸移動機構270には、それぞれYスライダ、XスライダおよびZスピンドル271の位置を検出するエンコーダが設けられている。
【0023】
三次元測定機200に付設されるセンサとしては、上記の各移動機構240(250、260、270)の位置検出用エンコーダ、プローブ230の接触検知センサ、プローブ230の変位センサがある。また、各移動機構240(250、260、270)を電流フィードバックでも制御するため、モータの電流値を検出する電流センサがある。さらに、温度センサとして、エンコーダの測定値を温度補正するため、各エンコーダに温度センサが付設されている。
【0024】
ここまでは、通常の三次元測定機200が標準的に備えているセンサであるが、本実施形態の三次元測定機200には、測定対象物の状態および環境の情報をモニターするためのセンサが付設されている。
測定対象物の状態をモニターするためのセンサとして、ワーク用温度計が設けられている。ワーク用温度計は、明示的に図示しないが、例えば、定盤210の表面に露出するように複数個配置しておく。さらに、環境の情報をモニターするためのセンサとしては、雰囲気温度を測定するための雰囲気温度計281と、外部振動を検出する振動センサ(不図示)と、が設けられている。
【0025】
図2は、三次元測定機200をローアングルからみた斜視図である。
図3は、図2の一部拡大図であって、雰囲気温度計281の設置状態を例示する図である。
雰囲気温度計281は、Y軸コラム220の上端側であって、X軸の正側の側面に配置されている。雰囲気温度計281の基部側は覆い板221でカバーされ、温度をセンシングする先端部だけが開口部から外部に露出している。
【0026】
雰囲気温度計281に物(例えばワーク)や人の手が触れないように、雰囲気温度計281に温度計カバー282を設けておくのが好ましい。
図4は、雰囲気温度計281に温度計カバー282を設置した状態を例示した図である。温度計カバー282は、人の指が入らない程度に小さな通気孔を有している。温度計カバー282は着脱可能としておき、雰囲気温度計281を容易にメンテナンスできるようにしておくとよい。
【0027】
振動計の設置位置は限定されないが、例えば、定盤210(の側面)などに配置しておいてもよい。
【0028】
(モーションコントローラ300の構成)
図5は、モーションコントローラ300およびホストコンピュータ500の機能ブロック図である。モーションコントローラ300は、三次元測定機200を駆動制御する。また、モーションコントローラ300は、三次元測定機200に付設されたセンサからセンサ信号を取得して記録する。
モーションコントローラ300は、測定指令取得部310と、カウンタ部320と、モニタリングデータ記録部330と、移動指令生成部340と、駆動制御部350と、を備える。
【0029】
測定指令取得部310は、ホストコンピュータ500から測定指令として、測定対象物の設計データや測定パートプログラムを取得する。
【0030】
カウンタ部320は、エンコーダから出力される検出信号をカウントして各スライダ変位量を計測するとともに、プローブ230センサから出力される検出信号をカウントしてプローブ230の変位量を計測する。計測されたスライダおよびプローブ230の変位からプローブ先端(測定子)の座標値PPが得られる。
【0031】
モニタリングデータ記録部330は、測定機の状態ログおよび周囲の環境情報を取得して時系列で記録する。
測定機の状態ログとしては、例えば、各移動機構240(250、260、270)の加減速度、速度、移動距離、各移動機構240(250、260、270)の消費電流値、がある。また、周囲の環境情報としては、雰囲気温度および外部振動の振動レベルがある。
【0032】
また、モーションコントローラ300は、測定パートプログラムの実行時に実行命令の番号(行番号)をモニタリングデータ記録部330にログとして記録していく(例えば図13参照)。
【0033】
モニタリングデータ記録部330に記録されたデータは、定期的(例えば数分おき)にホストコンピュータ500に送られる。ホストコンピュータ500からさらに、全体を管理するサーバコンピュータにデータを送るようにしてもよい。
【0034】
移動指令生成部340は、プローブ230で測定対象物表面を測定するためのプローブ230の移動経路を算出し、その移動経路に沿った速度ベクトルを算出する。
【0035】
駆動制御部350は、移動指令生成部340にて算出された移動ベクトルに基づいて、各スライダを駆動制御する。
【0036】
なお、モーションコントローラ300には、手動コントローラ400が接続されている。手動コントローラ400は、ジョイスティックおよび各種ボタンを有し、ユーザからの手動入力操作を受け付け、ユーザの操作指令をモーションコントローラ300に送る。この場合、モーションコントローラ300(駆動制御部350)は、ユーザの操作指令に応じて各スライダを駆動制御する。
【0037】
(ホストコンピュータ500の構成)
ホストコンピュータ500は、CPU510(CentralProcessingUnit)やメモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ300を介して三次元測定機200を制御する。
ホストコンピュータ500は、さらに、記憶部520と、形状解析部530と、を備える。記憶部520は、測定対象物(ワーク)Wの形状に関する設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)、形状測定で得られた形状測定データ、および、測定動作全体を制御する測定制御プログラムを格納する。さらに、記憶部520は、モーションコントローラ300から送られてくるモニタリングデータを記録する。
【0038】
形状解析部530は、モーションコントローラ300から出力された測定データに基づいて測定対象物の表面形状データを算出し、算出した測定対象物の表面形状データの誤差や歪み等を求める形状解析を行う。
【0039】
CPU510(中央処理装置)で測定制御プログラムが実行されることにより、モーションコントローラ300を介して三次元測定機200で測定動作が実行される。
【0040】
ホストコンピュータ500には、必要に応じて、出力装置(ディスプレイやプリンタ)および入力装置(キーボードやマウス)が接続されている。
【0041】
図6から図10は、モニタリングデータの表示例である。
オペレータは記録されたモニタリングデータを呼び出して確認することができる。
図6においては、各モニタリングデータの累積値を一覧表示した画面例である。
701の通電時間は、三次元測定機200の電源がONになっていた総時間である。
702のCNC稼働時間は、三次元測定機200で自動測定動作を行なった総時間である。
703のサーボON回数とは、電源ONした回数である
704、705、706のX軸オドメータ、Y軸オドメータ、Z軸オドメータ、は、X軸移動機構260、Y軸移動機構250、Z軸移動機構270のぞれぞれの総移動距離である。
707のB軸オドメータは、回転テーブルの総回転回数である。(図1には回転テーブルを図示していないが、定盤210上にワークを載置する回転テーブルを設置した場合と解釈されたい。)
【0042】
708、709、710、711のX軸トリップメータ、Y軸トリップメータ、Z軸トリップメータ、B軸トリップメータは、X軸移動機構260、Y軸移動機構250、Z軸移動機構270、回転テーブルのユーザが任意に開始時を指定後のそれぞれの移動距離である。
【0043】
712、713のプローブヘッドA軸回転回数、プローブヘッドB軸回転回数というのは、直交する二つの回転駆動軸(A軸、B軸)を有するタイプのプローブヘッドを用いたときのそれぞれの回転軸の回転回数である。
【0044】
714、715、716はタッチプローブ230の使用時のログである。
入力回数というのはタッチを検出した回数である。通電時間は電源ONの時間である。交換回数というのは、別のタッチプローブから交換してタッチプローブAをプローブヘッドに取り付けて使用した回数である。
【0045】
717のタッチモジュール交換回数というのは、別のタッチモジュールから交換してタッチモジュールAをタッチプローブAに取り付けて使用した回数である。
【0046】
718、719はタッチスタイラスAの使用時のログである。
タッチスタイラス入力回数は、タッチスタイラスAでものにタッチした回数である。
タッチスタイラスA交換回数は、別のタッチスタイラスから交換してタッチスタイラスAをタッチモジュールに取り付けて使用した回数である。
720、721はタッチスタイラスBの使用時のログである。
【0047】
722、723、724は倣いプローブの使用時のログである。
入力回数は、倣いプローブがものに接触した回数である。
通電時間は、電源ONの時間である。
交換回数というのは、別の倣いプローブから交換してプローブヘッドに倣いプローブCを取り付けて使用した回数である。
【0048】
図7はワーク測定時(測定パートプログラム実行時)におけるX、Y、Z軸移動機構260、250、270の各電流値と雰囲気温度を時系列で表示した例である。図7中のある時刻での情報を詳しくみたい場合には、所望のデータの点をマウスカーソルなどで選択すると、図8に例示のように数値で詳細が示されるようになっている。
【0049】
図9は、日ごとの稼動状況の一覧を例示する表示例である。
上段には、日ごとに、電源OFF時間、CNC(正常測定時間)、エラーが示されている。
下段の左欄は、日ごとのCNC(正常測定時間)とエラーとの割合が示されている。
下段の右欄は、日ごとの電源ON時間とCNC(正常測定時間)とが折れ線グラフで示されている。
【0050】
図10では、ワーク測定中の温度モニタリングデータである。
図10では、X、Y、Z軸移動機構250、260、270の各エンコーダに付設された温度計のデータ、ワークの温度を測定するワーク用温度計のデータ、および、雰囲気温度計281のデータが時系列で表わされている。
測定動作が開始されると、X、Y、Z軸移動機構250、260、270の各モータが駆動され、モータからの熱が影響を与えていることがわかる。
【0051】
本実施形態では、三次元測定機200自体についているセンサ(電流センサやエンコーダの温度計)からのデータも、三次元測定機200に後から付設されるセンサ(雰囲気温度計281や振動計)からのデータもモーションコントローラ300に一度記録される。そして、モーションコントローラ300では、三次元測定機200から測定データとして各エンコーダおよびプローブセンサからのデータを取得するのはもちろん、三次元測定機200に与える制御指令のログを記録する。これらのデータがモーションコントローラ300内で時系列に記録されることにより、互いに関連したデータとして記録される。例えば、電流値の上昇、そのときの制御指令、各移動機構240(250-270)の状態、そのときの温度がすべて統合的に記録されている。オペレータとしては、あとから測定データを検証するときにこれらモニタリングデータを参照することで、測定データの信頼性や三次元測定機200の稼動状況を簡便に検証できるようになる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態としては、モニタリングデータを用いて測定動作の開始と中断を自律的に制御する測定動作の許可判定を説明する。
図11は、モニタリングデータを用いた測定動作の許可判定の手順を示すフローチャートである。
図12は、図11の測定動作の許可判定を受けて実際の測定動作を行なう手順を示すフローチャートである。図11および図12の各ステップは、基本的には、モーションコントローラ300によって実行される。
【0053】
まず、図11のモニタリングデータを用いた測定動作の許可判定を説明する。測定対象物に応じて測定パートプログラムが用意され、ホストコンピュータ500にインストールにされている点については従来通りである。オペレータは、測定が正常に行なわれる環境条件を予め設定しておく。ここでは、ワーク温度の範囲(例えば20±1℃)、振動レベルの上限値、および、雰囲気温度の範囲(20±1℃)を設定しておくとする。
【0054】
測定システム100の電源がONになると(ST110)、モーションコントローラ300は、モニタリングを開始し(ST120)、ワーク温度計のデータ、振動計のデータ、雰囲気温度計281、その他のセンサのデータを取得して記録していく(ST130)。そして、オペレータから測定開始の指令が入力されたとする(ST140:YES)。オペレータは、この時点で三次元測定機200から離れて部屋を退出してしまってもよい。
【0055】
続いて、モーションコントローラ300は、モニタリングデータが設定された環境条件を満たしているか確認する。すなわち、ワーク温度(ST141)、振動レベル(ST142)、雰囲気温度(ST143)が設定された環境条件を満たしているか確認する。モニタリングデータが環境条件を満たしている場合、モーションコントローラ300は、ワークの測定を許可する(ST150)。一方、ワーク温度(ST141)、振動レベル(ST142)、雰囲気温度(ST143)のうちの一つでも環境条件を満たしていない場合には、モーションコントローラ300は、ワークの測定動作を中断する(ST160)。モーションコントローラ300は、ワークの測定動作を中断させる際には中断フラグを立てておき、ST130-ST170をループしながらすべての環境条件が満たれるのを待つ。すべての環境条件が満たされたら(ST141-ST143:YES)、中断フラグを解除して、ワークの測定を許可する(ST150)。
【0056】
図11の測定動作の許可判定を受けて、さらに、モーションコントローラ300は図12の測定動作を行なう。モーションコントローラ300は、測定開始の指令を受けると(図11のST140)、測定パートプログラムを呼び出して、測定動作の準備を行なう(ST210)。次に、図11の測定動作の許可判定でワーク測定の許可(図11のST150)があるまで待機する(ST220)。そして、ワーク測定の許可があれば(ST220:YES)、モーションコントローラ300は、測定パートプログラムに従ってワークの測定動作を実行する(ST230)。ST210-ST240をループしながら測定パートプログラムに従ってワークの測定を実行し、途中で中断フラグが立つと(図11のST160)、中断フラグが解除になるまでワークの測定を中断する(ST220:NO)。
【0057】
もちろん、第1実施形態で例示したように、電源がオンの間は測定機の状態ログおよび周囲の環境情報はモニタリングデータとしてモニタリングデータ記録部330に記録される。
【0058】
本実施形態では、オペレータが測定開始の指令を与えた後、オペレータが三次元測定機200の傍から離れて退出したとしても、モーションコントローラ300が自動的に測定を開始する。
このとき、例えば加工直後のワークは形状測定に適切な温度範囲にないかもしれないが、オペレータ自身がワークの温度が適切な範囲になるのを待たなくても、モーションコントローラ300が自動的に判断し、ワークの温度が設定された適正範囲になったところで形状測定を開始してくれる。また、三次元測定機200がワークの形状測定を行なっているときに、他の人が部屋を開けてしまって部屋の温度が急に変化してしまうことが有り得る。このような場合でも、モーションコントローラ300が自動的に雰囲気温度が変化したことを検知し、部屋の温度が適正温度に戻るまで測定作業を中断させる。
【0059】
同様に、他の人が三次元測定機200の傍で別の作業をしたり、工場の近くをトラックが通ったりするような場合には、急に大きな振動が発生することもある。このような場合でも、モーションコントローラ300が自動的に振動レベルを検知し、振動レベルが上限以下になるまで測定作業を中断させる。このようなモーションコントローラ300による測定動作の許可判定により、オペレータが監視していなくても、ワークの測定が適切に実行されるようになる。また、測定が中断するようなことがあれば、モニタリングデータを後から検証して、どのような事由で測定が中断されたのかを知ることができる。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態としては、モニタリングデータを用いて三次元測定機200の故障の予兆を判定する方法を説明する。
第1実施形態に例示したように、モーションコントローラ300はモニタリングデータとして、電流値を記録している。
電流値の記録から三次元測定機200の故障の予兆を知ることができる。例えば、消費電流が上昇していれば、配線やモータの劣化(断線)や、ガイドレール(リニアガイド)の摩耗の予兆であると考えられる。
【0061】
しかしながら、単に電流値が上下動しているだけでは正常動作なのか故障の予兆なのかは判断できない。駆動機能の加減速時に消費電流値が上昇するのは当然のことである。
【0062】
この点、まず、本実施形態では、測定パートプログラムの実行ログ、各駆動機能の加減速度、速度、を時系列で記録している。さらに、雰囲気温度もモニタリングして記録している。また、同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値を毎回記録している。
【0063】
例えば図13に例示するように、測定パートプログラムの実行時に実行命令の番号(行番号)もモニタリングデータ記録部330にログとして記録されている。同じ形状のワークを繰り返し測定するとき、同じ測定パートプログラムの同じ実行命令を実行する際でも測定機の各種部品(ガイドレール、モータ、配線など)の劣化により消費電流値に違いが生じ、例えば図13のようなログを検証することでどの箇所でどの程度の劣化が生じているか推察できる。
【0064】
このように、測定パートプログラムの実行命令の番号(行番号)、そのときの消費電流値、そのときの雰囲気温度を記録し、これらの傾向を検証することにより、三次元測定機200の故障の予兆を適確に捉えることができる。
【0065】
沢山あるログデータのなかから長期保存するログデータをオペレータが取捨選択できるようになっていてもよい。このとき、同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値の記録を長期保存するようにしておけば、データ容量を削減できる。そして、同じ測定パートプログラムを実行したときの開始時から終了時までの積算電流値の記録を長期スパンで比較することにより、AIを使用した画像解析などに頼らなくても十分実用的な傾向管理ができる。
【0066】
データ使用例として一例挙げておくと、正常な三次元測定機200で同じ動作を行なったとしても、雰囲気温度と消費電流とに相関がある。
例えば、雰囲気温度が高いときには消費電流値が下がり、雰囲気温度が低いと消費電流値が上がる傾向がある。もちろん、測定機の種類(メカ的な機構や制御ICの特性)によってはこの傾向が逆になることもあるが、本実施形態で説明したモニタリングデータの取得と記録によって傾向を検証することで測定機の種類ごとに雰囲気温度と消費電流の傾向を知ることができるようになった。したがって、例えば、雰囲気温度が高いときでも消費電流値が徐々に増加していく傾向が現れたら、これは故障の予兆であると判断できるようになった。
【0067】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
100 測定システム
200 三次元測定機
210 定盤
220 Y軸コラム
221 覆い板
230 プローブ
240 移動機構
250 Y軸移動機構
260 X軸移動機構
270 Z軸移動機構
271 Zスピンドル
281 雰囲気温度計
282 温度計カバー
300 モーションコントローラ
310 測定指令取得部
320 カウンタ部
330 モニタリングデータ記録部
340 移動指令生成部
350 駆動制御部
400 手動コントローラ
500 ホストコンピュータ
520 記憶部
530 形状解析部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13