(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】含フッ素硬化性組成物及び物品
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20230303BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20230303BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20230303BHJP
C08G 77/385 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
C08F290/06
C09D4/02
C09D133/14
C08G77/385
(21)【出願番号】P 2021525973
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020718
(87)【国際公開番号】W WO2020250665
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019108326
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂野 安則
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002216(JP,A)
【文献】特開2017-190429(JP,A)
【文献】特開2013-216732(JP,A)
【文献】特開2010-285501(JP,A)
【文献】特開2010-053114(JP,A)
【文献】特開2017-008128(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142567(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14
C08G 77/00-77/62
C08G 65/00-65/48
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中の片方の末端にトリフルオロメチル基を有し、他方の末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有する
下記一般式(1)
Rf
A
-Z
1
-Q
1
[X
1
]
a
(1)
〔式(1)中、Rf
A
はZ
1
と結合しない側の末端がトリフルオロメチル基である1価のパーフルオロポリエーテル基であり、Rf
1
-O-Rf
2
-CF
2
-(式中、Rf
1
は酸素原子と結合しない側の末端がトリフルオロメチル基である酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、Rf
2
は4種の繰り返し単位-CF
2
O-、-CF
2
CF
2
O-、-CF
2
CF
2
CF
2
O-、-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O-のうち、1種又は複数種がランダムに配列した2価のパーフルオロポリエーテル基である。)で表される。Z
1
は酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基からなる連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。Q
1
は少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。aは2~5の整数である。X
1
は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基である。〕
で表される含フッ素アクリル化合物からなる成分(A)、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中のそれぞれの末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有し、1分子中に平均して4~10個の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる成分(B)、及びフルオロポリエーテル構造を含まず、1分子中に平均して2個以上の(メタ)アクリル基を有する非フッ素化アクリル化合物からなる成分(C)を必須成分とし、成分(C)100質量部に対して、成分(A)と成分(B)の配合量の合計が0.05~50質量部であり、かつ成分(B)100質量部に対する成分(A)の配合量が1~100質量部である含フッ素硬化性組成物。
【請求項2】
更に、光重合開始剤(D)を含有する請求項1に記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項3】
Rf
2
が、-(CF
2
O)
m
(CF
2
CF
2
O)
n
-(mは1~200の整数であり、nは1~170の整数であり、m+nは6~201の整数である。)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基である請求項1又は2に記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項4】
成分(B)が、下記一般式(2)で表される含フッ素アクリル化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
【化1】
(式中、Rf
Bは2価のパーフルオロポリエーテル基である。Z
1は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基からなる連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。Q
1は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。aは2~5の整数である。Z
2はそれぞれ独立に酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~100の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。R
1は独立に水素原子又は炭素数1~8の1価の炭化水素基である。R
2は独立に水素原子、又は酸素原子及び/もしくは窒素原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基であり、但し、R
2は1分子中のそれぞれの末端に2個以上、かつ1分子中に平均して4~10個の前記1価の有機基を有する。)
【請求項5】
成分(A)において、一般式(1)のX
1が、下記のいずれかで示されるものである請求項3又は4に記載の含フッ素硬化性組成物。
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)CH=CH
2]
3
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2]
3
【化2】
【請求項6】
成分(A)において、一般式(1)のQ
1が、下記のいずれかで示されるものである請求項3~5のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
【化3】
(式中、aは2~5の整数であり、bは1~5の整数である。)
【請求項7】
成分(A)において、一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物が、下記式で表される化合物から選ばれるものである請求項3~6のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
(式中、Rf
Aは上記と同じである。)
【請求項8】
成分(B)において、一般式(2)のZ
1が、下記式のいずれかで表されるものである請求項4~7のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【請求項9】
成分(B)において、一般式(2)のQ
1が、下記式で表されるものである請求項4~8のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
【化14】
(式中、a1は2又は3である。)
【請求項10】
成分(B)において、一般式(2)で表される含フッ素アクリル化合物が、下記一般式(3)又は(4)で表される含フッ素アクリル化合物である請求項4~9のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
【化15】
【化16】
(式中、Z
1、Q
1、aは上記の通りであり、Rf
B’は-CF
2O(CF
2O)
m(CF
2CF
2O)
nCF
2-であり、mは1~200の整数、nは1~170の整数、m+nは6~201の整数であり、-(CF
2O)-と-(CF
2CF
2O)-の配列はランダムであり、R
3は水素原子又はメチル基であり、d1、e1は0~10の整数である。)
【請求項11】
成分(C)の非フッ素化アクリル化合物が、1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有しウレタン結合を有さない多官能アクリル化合物、又
は脂肪族ポリイソシアネートと水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られた1分子中に3個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート類、又は前記多官能アクリル化合物と多官能ウレタン(メタ)アクリレート類とを含む2種類以上のアクリル化合物の混合物である請求項1~10のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の含フッ素硬化性組成物の硬化被膜を表面に有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性、滑り性に優れた硬化被膜を与える含フッ素硬化性組成物、及び該組成物の硬化被膜を表面に有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形体等の表面を保護する手段として、ハードコート処理が広く一般に用いられている。これは成形体の表面に硬質の硬化樹脂層(ハードコート層)を形成し、傷つき難くするものである。ハードコート層を構成する材料としては、熱硬化性樹脂や紫外線もしくは電子線硬化型樹脂など活性エネルギー線による硬化性組成物が多く使用されている。
【0003】
一方、樹脂成形品の利用分野の拡大や高付加価値化の流れに伴い、硬化樹脂層(ハードコート層)に対する高機能化の要望が高まっており、その一つとして、ハードコート層への防汚性の付与が求められている。これはハードコート層の表面に撥水性、撥油性などの性質を付与することにより、汚れ難く、あるいは汚れても容易に取り除くことができるようにするものである。
【0004】
ハードコート層に防汚性を付与する方法としては、一旦形成されたハードコート層表面に含フッ素防汚剤を塗工及び/又は定着させる方法が広く用いられているが、含フッ素硬化性成分を硬化前の硬化性樹脂組成物に添加し、これを塗布硬化させることでハードコート層の形成と防汚性の付与を同時に行う方法についても検討されてきた。例えば、特開平6-211945号公報(特許文献1)には、アクリル系の硬化性樹脂組成物にフルオロアルキルアクリレートを添加、硬化させることで防汚性を付与したハードコート層の製造が示されている。
【0005】
近年、こうした含フッ素アクリル化合物を配合した防汚性に優れる活性エネルギー線硬化性組成物は、用途が大きく拡大してきており、新たな機能が求められてきている。
【0006】
このように大きく用途範囲が広がることでハードコート、特に大型ディスプレイ表面の防汚処理、スマートフォンやタブレットなどの携帯用情報機器のディスプレイや筐体の表面処理においては、撥水性に代表される防汚性能、滑り性に代表される耐摩耗性についてより高い性能が求められてきている。これらの要求に対応する一つの手段はよりフッ素変性の高い成分を表面に配列させることである。しかし、単一構造の含フッ素アクリル化合物でフッ素含有率を増加させると、フッ素化されていないハードコート剤の他成分に対する溶解性が低下し、塗工表面に欠損等の不均一部分による部分塗工不良やゆず肌状の全面塗工不良が発生する。
なお、本発明に関連する従来技術として、上述した文献と共に下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-211945号公報
【文献】特開2010-53114号公報
【文献】特開2010-138112号公報
【文献】特開2010-285501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、安定した溶解性を有し、硬化後に高い防汚性、及び高い滑り性を有する含フッ素硬化性組成物、並びに該組成物の硬化被膜を表面に有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、このような硬化性樹脂組成物に防汚性を付与できるフッ素化合物として、様々な開発を進めており、例えば、特開2010-53114号公報(特許文献2)、特開2010-138112号公報(特許文献3)、特開2010-285501号公報(特許文献4)に示す光硬化可能なフッ素化合物を提案している。これらの防汚特性、滑り性を向上させるには化合物中のフッ素成分の含有率を増加させる方法が考えられる。しかし、上述したように単一構造の含フッ素アクリル化合物で非フッ素化成分への溶解性を向上させた場合、塗工表面へのフッ素成分の濃縮が起きにくくなり、結果として防汚性能が発現しにくくなってしまう場合がある。
そこで、本発明者は、更なる検討を重ねた結果、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中の片方の末端にトリフルオロメチル基を有し、他方の末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる成分(A)、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中のそれぞれの末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有し、1分子中に平均して4~10個の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる成分(B)、及びフルオロポリエーテル構造を含まず、1分子中に平均して2個以上の(メタ)アクリル基を有する非フッ素化アクリル化合物からなる成分(C)を必須成分とし、成分(C)100質量部に対して、成分(A)と成分(B)の配合量の合計が0.05~50質量部であり、かつ成分(B)100質量部に対する成分(A)の配合量が1~100質量部である含フッ素硬化性組成物が、防汚性・撥水性に優れ、低い動摩擦係数を有する硬化被膜を形成し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記の含フッ素硬化性組成物及び該組成物の硬化被膜を表面に有する物品を提供する。
[1]
フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中の片方の末端にトリフルオロメチル基を有し、他方の末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有する
下記一般式(1)
Rf
A
-Z
1
-Q
1
[X
1
]
a
(1)
〔式(1)中、Rf
A
はZ
1
と結合しない側の末端がトリフルオロメチル基である1価のパーフルオロポリエーテル基であり、Rf
1
-O-Rf
2
-CF
2
-(式中、Rf
1
は酸素原子と結合しない側の末端がトリフルオロメチル基である酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、Rf
2
は4種の繰り返し単位-CF
2
O-、-CF
2
CF
2
O-、-CF
2
CF
2
CF
2
O-、-CF
2
CF
2
CF
2
CF
2
O-のうち、1種又は複数種がランダムに配列した2価のパーフルオロポリエーテル基である。)で表される。Z
1
は酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基からなる連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。Q
1
は少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。aは2~5の整数である。X
1
は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基である。〕
で表される含フッ素アクリル化合物からなる成分(A)、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中のそれぞれの末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有し、1分子中に平均して4~10個の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる成分(B)、及びフルオロポリエーテル構造を含まず、1分子中に平均して2個以上の(メタ)アクリル基を有する非フッ素化アクリル化合物からなる成分(C)を必須成分とし、成分(C)100質量部に対して、成分(A)と成分(B)の配合量の合計が0.05~50質量部であり、かつ成分(B)100質量部に対する成分(A)の配合量が1~100質量部である含フッ素硬化性組成物。
[2]
更に、光重合開始剤(D)を含有する[1]に記載の含フッ素硬化性組成物。
[3]
Rf
2
が、-(CF
2
O)
m
(CF
2
CF
2
O)
n
-(mは1~200の整数であり、nは1~170の整数であり、m+nは6~201の整数である。)で表される2価のパーフルオロポリエーテル基である[1]又は[2]に記載の含フッ素硬化性組成物。
[4]
成分(B)が、下記一般式(2)で表される含フッ素アクリル化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
【化1】
(式中、Rf
Bは2価のパーフルオロポリエーテル基である。Z
1は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基からなる連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。Q
1は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。aは2~5の整数である。Z
2はそれぞれ独立に酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~100の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。R
1は独立に水素原子又は炭素数1~8の1価の炭化水素基である。R
2は独立に水素原子、又は酸素原子及び/もしくは窒素原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基であり、但し、R
2は1分子中のそれぞれの末端に2個以上、かつ1分子中に平均して4~10個の前記1価の有機基を有する。)
[5]
成分(A)において、一般式(1)のX
1が、下記のいずれかで示されるものである[3]又は[4]に記載の含フッ素硬化性組成物。
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)CH=CH
2]
3
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2]
3
【化2】
[6]
成分(A)において、一般式(1)のQ
1が、下記のいずれかで示されるものである[3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
【化3】
(式中、aは2~5の整数であり、bは1~5の整数である。)
[7]
成分(A)において、一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物が、下記式で表される化合物から選ばれるものである[3]~[6]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
(式中、Rf
Aは上記と同じである。)
[8]
成分(B)において、一般式(2)のZ
1が、下記式のいずれかで表されるものである[4]~[7]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
[9]
成分(B)において、一般式(2)のQ
1が、下記式で表されるものである[4]~[8]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
【化14】
(式中、a1は2又は3である。)
[10]
成分(B)において、一般式(2)で表される含フッ素アクリル化合物が、下記一般式(3)又は(4)で表される含フッ素アクリル化合物である[4]~[9]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
【化15】
【化16】
(式中、Z
1、Q
1、aは上記の通りであり、Rf
B’は-CF
2O(CF
2O)
m(CF
2CF
2O)
nCF
2-であり、mは1~200の整数、nは1~170の整数、m+nは6~201の整数であり、-(CF
2O)-と-(CF
2CF
2O)-の配列はランダムであり、R
3は水素原子又はメチル基であり、d1、e1は0~10の整数である。)
[11]
成分(C)の非フッ素化アクリル化合物が、1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有しウレタン結合を有さない多官能アクリル化合物、又
は脂肪族ポリイソシアネートと水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られた1分子中に3個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート類、又は前記多官能アクリル化合物と多官能ウレタン(メタ)アクリレート類とを含む2種類以上のアクリル化合物の混合物である[1]~[10]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の含フッ素硬化性組成物の硬化被膜を表面に有する物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の含フッ素硬化性組成物は、塗工時には安定した溶解性を有し、高い防汚性、汚れ拭き取り性、滑り性を有する硬化表面を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の含フッ素硬化性組成物は、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中の片方の末端にトリフルオロメチル基を有し、他方の末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる成分(A)、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中のそれぞれの末端に2個以上の(メタ)アクリル基を有し、1分子中に平均して4~10個の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる成分(B)、及びフルオロポリエーテル構造を含まず、1分子中に平均して2個以上の(メタ)アクリル基を有する非フッ素化アクリル化合物からなる成分(C)からなり、上記成分(A)、(B)、(C)を必須成分とする。
【0013】
本発明において、「アクリル化合物」とは、アクリル基、メタクリル基を有する化合物の総称であり、また、「(メタ)アクリル基」とは、アクリル基とメタクリル基の一方又は両方を示し、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方を示し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方を示す。
【0014】
なお、本発明において、成分(A)、(B)、(C)の各成分はそれぞれ単一の化合物である必要はなく、例えば配合における質量を考える場合は成分(A)、(B)、(C)のそれぞれの条件に一致する複数の化合物の混合物の配合量の合計をそれぞれ各成分量として考えればよい。
【0015】
〔成分(A)〕
本発明の含フッ素硬化性組成物における第一の必須成分である成分(A)は、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中の片方の末端にトリフルオロメチル基を有し、他方の末端に(即ち、分子鎖の片末端に)2個以上、好ましくは2~15個、より好ましくは2~9個の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる。
【0016】
このような化合物としては、例えば下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物を示すことができる。
RfA-Z1-Q1[X1]a (1)
【0017】
上記式(1)中、RfAはZ1と結合しない側の末端がトリフルオロメチル基である1価のパーフルオロポリエーテル基であり、Rf1-O-Rf2-CF2-で示すことができる。
【0018】
ここで、Rf1は酸素原子と結合しない側の末端がトリフルオロメチル基である酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であり、CF3-Zf-(Zfは単結合、又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1~10のパーフルオロアルキレン基である)で示される基であることが好ましい。Rf1として、具体的には、
CF3-
CF3CF2-
CF3CF2-
CF3CF2CF2-
CF3CF2CF2CF2-
CF3CF2CF2CF2CF2-
CF3CF2CF2CF2CF2CF2-
CF3OCF2CF2CF2-
CF3CF2OCF2CF2CF2-
CF3OCF2CF2CF2-
CF3OCF2CF2CF2CF2-
CF3OCF(CF3)CF2-
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2-
(CF3)2CFOCF2CF2-
CF3CF2OCF2CF2CF2-
CF3CF2CF2OCF2CF2CF2-
CF3CF2CF2OCF2CF2CF2CF2-
(CF3)2CFCF2OCF2CF2-
CF3CF2CF2CF2OCF2CF2CF2-
が挙げられ、これらの中でも特にCF3-が好ましい。
【0019】
また、Rf2は以下の4種の繰り返し単位
-CF2O-
-CF2CF2O-
-CF2CF2CF2O-
-CF2CF2CF2CF2O-
のうち、1種又は複数種がランダムに配列した分子量600~20,000、好ましくは1,200~10,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、該分子量は、1H-NMR及び19F-NMRに基づく末端構造と主鎖構造との比率から算出される数平均分子量である。Rf2の好ましいものとしては、例えば以下のようなものを示すことができる。なお、下記の構造において、左側の結合手はOと、右側の結合手はCF2と結合する。
-(CF2O)m(CF2CF2O)n-
【0020】
各繰り返しユニットの配列はランダムであり、mは1~200の整数、好ましくは6~50の整数であり、nは1~170の整数、好ましくは6~50の整数であり、m+nは6~201の整数、好ましくは12~100の整数である、m、n及びm+nの値はこれより小さいと硬化被膜に防汚性を付与する効果が小さくなり、これよりも大きいと非フッ素化成分との相溶性が悪くなり、塗工液の濁りや塗工不良の原因となる。これらm及びnの値は分布を持っていてもよく、分布を持つ場合は19F-NMR等から求められるm+nの値が数平均で上記範囲を満たすことが好ましい。
【0021】
上記式(1)中、Z
1は酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基からなる連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、炭素原子に結合した水素原子の一部がフッ素原子に置換されていてもよい。このようなZ
1として、好適な構造としては、以下に示す構造群が挙げられる。なお、下記の構造において、左側の結合手はRf
Aと、右側の結合手はQ
1と結合する。
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化17】
【0022】
これらの中でも特に
-CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2-
-CH
2CH
2CH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2CH
2-
【化18】
が好ましい。
【0023】
上記式(1)中、aは独立に2~5の整数であり、好ましくは2~4の整数であり、より好ましくは2又は3である。aが2未満では成分(C)に対する溶解性が低下し、塗工液の不均一化や塗膜の欠損を引き起こす場合があり、5より大きいと(B)成分との相溶性が高くなりすぎて、(B)成分を単独で配合し(A)成分を配合しない場合に比較して表面特性の優位性が得られない場合がある。
【0024】
上記式(1)中、Q
1は少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよい。このようなQ
1の好ましいものとして、それぞれ少なくとも(a+1)個のSi原子を有するシロキサン構造、非置換又はハロゲン置換のシルアルキレン構造、シルアリーレン構造又はこれらの2種以上の組み合わせからなる(a+1)価の連結基が挙げられる。このとき、(a+1)個の結合手は(a+1)個のSi原子をそれぞれ有することが好ましい。特に好ましい構造として、具体的には、下記の構造が示される。
但し、下記の構造において、aは上記式(1)のaと同じである。また、bは1~5の整数であり、好ましくは1~3の整数である。各ユニットの並びはランダムであり、(a+1)個の各ユニット等の結合手は、Z
1及び[ ]で括られたa個のX
1のいずれかの基と結合する。
【化19】
【0025】
ここで、Tは(a+1)価の連結基であり、例えば以下のものが例示される。
【化20】
【0026】
これらの中でも特に以下のものが好ましい。
【化21】
(式中、a2は2~4の整数である。)
【0027】
上記式(1)中、X1は独立に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を、好ましくは1~3個有する1価の有機基である。
【0028】
X
1としては、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有するものであれば特に限定されるものではないが、下記式で表されるものが特に好ましい。
【化22】
(式中、R
4は水素原子又はメチル基であり、Z
3は酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。R
5は酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基である。Z
4は炭素数1~6の2価の炭化水素基であり、dは0又は1である。R
6はそれぞれ独立にジオルガノシリレン基と(メタ)アクリル基を有する1価の有機基であり、R
7は炭素数1~6の1価の炭化水素基であり、cは0又は1である。)
【0029】
ここで、R4は水素原子又はメチル基であり、水素原子であることが好ましい。
【0030】
Z
3は酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~20、好ましくは1~10の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。Z
3の好ましい構造としては、以下のものを挙げることができる。なお、下記の構造において、左側の結合手はCHR
4と、右側の結合手はOR
5と結合する。
-CH
2-
-CH
2OCH
2CH
2-
【化23】
【0031】
R5は酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基である。1価の有機基としては、末端に少なくとも1個、好ましくは1又は2個の(メタ)アクリル基を有する基が好ましい。また、構造途中にアミド結合、エーテル結合、エステル結合などを有していてもよい。このような構造として、例えば、以下のものを挙げることができる。
-C(=O)CH=CH2
-C(=O)C(CH3)=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)CH=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OCH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
-C(=O)NHC(CH3)[CH2OC(=O)CH=CH2]2
-C(=O)NHC(CH3)[CH2CH2OC(=O)CH=CH2]2
これらの中でも特に好適なのは、以下のものである。
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)CH=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
【0032】
Z4は炭素数1~6、好ましくは1~4の2価の炭化水素基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基などが挙げられる。
dは0又は1であり、好ましくは0である。
【0033】
R6はそれぞれ独立にジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基と(メタ)アクリル基を有する1価の有機基である。R6としては、下記に示すものが例示できる。
-Si(CH3)2CH2OC(=O)CH=CH2
-Si(CH3)2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
-Si(CH3)2CH2CH2OC(=O)CH=CH2
-Si(CH3)2CH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
-Si(CH3)2CH2CH2CH2OC(=O)CH=CH2
-Si(CH3)2CH2CH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
中でも、特に
-Si(CH3)2CH2OC(=O)CH=CH2
-Si(CH3)2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
が好ましい。
【0034】
R7は炭素数1~6、好ましくは1~4の1価の炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基などが挙げられる。R7としては、メチル基が好ましい。
cは0又は1であり、好ましくは0である。
【0035】
X
1の好ましい構造として、具体的には、下記の構造が例示される。
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)CH=CH
2]
3
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)C(CH
3)=CH
2]
3
【化24】
【0036】
特に好ましくは
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHCH
2CH
2OC(=O)CH=CH
2
-CH
2CH
2CH
2OCH
2CH
2OC(=O)NHC(CH
3)[CH
2OC(=O)CH=CH
2]
2
-CH
2CH
2Si[OSi(CH
3)
2CH
2OC(=O)CH=CH
2]
3
【化25】
である。
【0037】
このような成分(A)として、更に具体的には、以下の構造群で示される化合物を挙げることができる。
【化26】
【化27】
【化28】
【0038】
【0039】
【0040】
【化34】
【化35】
(式中、Rf
Aは上記と同じであり、好ましくはCF
3O-(CF
2O)
m(CF
2CF
2O)
n-CF
2-であり、m、n及びm+nは前記の通りである。)
【0041】
上記成分(A)である下記一般式(1)
RfA-Z1-Q1[X1]a (1)
(式中、RfA、Z1、Q1、X1、aは上記と同じである。)
で表される含フッ素アクリル化合物の好適な合成方法としては、例えば、下記一般式(5)
RfA-Z1-Q1[H]a (5)
(式中、RfA、Z1、Q1、aは上記と同じであり、[ ]で括られたa個のHはすべてQ1構造中のケイ素原子と結合している。)
で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物に、下記一般式(6)
CH2=CR4-Z3-OH (6)
(式中、R4、Z3は上記と同じである。)
で表される末端不飽和基含有アルコールをヒドロシリル化反応させることにより、中間体である含フッ素アルコール化合物を得ることができる。
【0042】
ここで、上記式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物としては、例えば、下記に示すものが例示できる。
【化36】
(式中、Rf
Aは上記と同じである。)
【0043】
また、上記式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールとしては、下記に示すものが例示できる。
CH
2=CH-CH
2-OH
CH
2=CH-CH
2OCH
2CH
2-OH
【化37】
【0044】
このヒドロシリル化(付加)反応は、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物と、式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールを混合し、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度50~150℃、好ましくは60~120℃で、1分~48時間、特に10分~12時間反応を行うことが望ましい。反応温度が低すぎると反応が十分に進行しないまま反応が停止してしまう場合があり、高すぎるとヒドロシリル化の反応熱による温度上昇で反応が制御できなくなり、突沸や原料の分解などが起こる場合がある。
【0045】
この場合、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物と、式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールとの反応割合は、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物の[ ]で括られたHの総モル数に対して、式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールの末端不飽和基を0.5~5倍モル、特に0.9~2倍モル使用して反応させることが望ましい。式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールが、これより少なすぎると高い溶解性を持つ含フッ素アルコール化合物を得ることが困難となる場合があり、これ以上多すぎると反応溶液の均一性が低下して反応速度が不安定となり、また反応後に式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールの除去を行う場合に加熱、減圧、抽出等の条件を余剰の未反応のアルコールが増える分だけ厳しくする必要が出てくる。
【0046】
付加反応触媒は、例えば、白金、ロジウム又はパラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。
付加反応触媒の配合量は、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物に対し、含まれる金属量が0.1~5,000質量ppmとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.2~1,000質量ppmとなる量である。
【0047】
上記の付加反応は、溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど、広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができるが、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する含フッ素アルコール化合物が、上記反応温度において可溶であるものが好ましい。このような溶剤としては、例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm-キシレンヘキサフロライドが好ましい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物100質量部に対して、好ましくは5~2,000質量部であり、より好ましくは50~500質量部である。これより少なければ溶剤による希釈の効果が少なくなり、多ければ希釈度が高くなりすぎて反応速度の低下を招く場合がある。
【0048】
反応終了後、未反応の式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールや希釈溶剤を減圧留去、抽出、吸着等の公知の方法で除去することが好ましいが、これらを含んだ反応混合物のまま次の反応に使用することもできる。
【0049】
このように一般式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物と一般式(6)で表される末端不飽和基含有アルコールをヒドロシリル化反応させることで、下記一般式(7)で表される含フッ素アルコール化合物を得ることができる。
RfA-Z1-Q1[CH2-CHR4-Z3-OH]a (7)
(式中、RfA、Z1、Q1、R4、Z3、aは上記と同じである。また、それぞれの[ ]で括られたa個のCH2はすべてQ1構造中のケイ素原子と結合している。)
【0050】
このような式(7)で表される含フッ素アルコール化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化38】
【化39】
【化40】
(式中、Rf
Aは上記と同じである。)
【0051】
次いで、上記で得られた式(7)で表される含フッ素アルコール化合物に(メタ)アクリル基を導入することにより、目的とする含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
このような式(7)で表される含フッ素アルコール化合物に(メタ)アクリル基を導入する方法として、一つは下記式(8)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと反応させてエステルを形成する方法、もう一つは下記式(9a)又は(9b)で表される(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物と反応させる方法が挙げられ、これらの方法により、上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
XC(=O)CR3=CH2 (8)
O=C=N-CH2CH2OC(=O)CR3=CH2 (9a)
O=C=N-C(CH3)[CH2OC(=O)CR3=CH2]2
(9b)
(式中、Xはハロゲン原子であり、R3は水素原子又はメチル基である。)
【0052】
ここで、式(8)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとしては、下記に示すものが挙げられる。
XC(=O)CH=CH2
XC(=O)C(CH3)=CH2
(式中、Xは上記と同じである。)
特にアクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリドが好ましい。
【0053】
また、式(9a)又は(9b)で表される(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物としては、下記に示すものが挙げられる。
O=C=N-CH2CH2OC(=O)CH=CH2
O=C=N-CH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
O=C=N-C(CH3)[CH2OC(=O)CH=CH2]2
【0054】
これらの(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物は、含フッ素アルコール化合物の水酸基量の合計に対して等モル以上を仕込み反応させ、水酸基をすべて反応させてもよいが、含フッ素アルコール化合物1モルに対して平均して1モル以上の(メタ)アクリル基を導入させればよく、水酸基を過剰とさせることで、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物を残存させないようにしてもよい。具体的には、反応系中の含フッ素アルコール化合物量をxモル、含フッ素アルコール化合物の水酸基量の合計をyモルとした場合、(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物はxモル以上2yモル以下であることが望ましく、特に好ましくは0.6yモル以上1.4yモル以下である。少なすぎる場合、(メタ)アクリル基が全く導入されない含フッ素アルコール化合物が残存する可能性が高くなり、生成物の溶解性が低くなってしまう可能性がある。多すぎる場合、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物の残存の除去が困難となる。
【0055】
これらの反応は、必要に応じて適当な溶剤で希釈して反応を行ってもよい。このような溶剤としては、含フッ素アルコール化合物の水酸基、(メタ)アクリル酸ハライドのハロゲン原子、(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しない溶剤であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、トルエン、キシレン、イソオクタンなどの炭化水素系溶剤、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、m-キシレンヘキサフロライド(別名:ヘキサフルオロメタキシレン)、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤などが挙げられる。この溶剤は、反応後に減圧留去等の公知の手法で除去してもよく、目的の用途に応じてそのまま希釈溶液として使用してもよい。
溶剤の使用量は特に限定されないが、反応成分の全合計質量に対して10倍以下が好ましい。溶媒の使用量が多すぎると、反応速度が大幅に低下する危険がある。
【0056】
また、反応の際には、必要に応じて重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては特に制限はないが、通常、アクリル化合物の重合禁止剤として用いられるものを用いることができる。具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4-tert-ブチルカテコール、ジブチルヒドロキシトルエン等を挙げることができる。重合禁止剤の使用量は反応条件、反応後の精製条件、最終的な使用条件から決定すればよく、特に制限はされないが、通常、反応成分の全合計質量に対して0.01~5,000ppm、特に好ましくは0.1~500ppmである。
【0057】
含フッ素アルコール化合物に(メタ)アクリル酸ハライドを反応させる場合、特にアクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリドを反応させて、エステルを生成することが好ましい。該エステル生成反応は、上記反応中間体(含フッ素アルコール化合物)、受酸剤を混合攪拌しながら(メタ)アクリル酸ハライドを滴下して行う。受酸剤はトリエチルアミン、ピリジン、尿素などが使用できる。受酸剤の使用量は、(メタ)アクリル酸ハライドの仕込みモル数に対して0.9~3倍程度が望ましい。少なすぎるとトラップされない酸が多く残存することになり、多すぎると余剰となる受酸剤の除去が困難になる。
【0058】
(メタ)アクリル酸ハライドの滴下は、反応混合物の温度を0~35℃に維持し、20~60分かけて行う。その後、更に30分~10時間攪拌を継続する。反応終了後、未反応の(メタ)アクリル酸ハライド、反応により発生した塩及び反応溶媒等を留去、吸着、濾過、洗浄等の方法で除去することで、上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0059】
また、反応停止の際に、メタノール、エタノール等のアルコール化合物を系内に添加し、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドをエステル化してもよい。生成した(メタ)アクリル酸エステル類は、未反応の(メタ)アクリル酸ハライド除去と同様の方法で除去できるが、残存させたまま使用することもできる。
【0060】
含フッ素アルコール化合物と(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物との反応の場合には、含フッ素アルコール化合物と(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物を必要に応じて溶媒と共に攪拌し、反応を進行させる。
【0061】
この反応において、反応の速度を増加するために適切な触媒を加えてもよい。触媒としては、例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクタン酸第1錫などのアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン[別名:オルトチタン酸テトラキス(2-エチルヘキシル)]、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムキレート化合物等が例示される。これらはその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用できるが、特に反応性の面からチタン化合物や錫化合物の使用が好ましい。これらの触媒を反応物総質量に対して、0.01~2質量%、好ましくは0.05~1質量%加えることにより、反応速度を増加させることができる。
【0062】
上記反応は0~120℃、好ましくは10~70℃の温度で、1分~500時間、好ましくは10分~48時間行う。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、反応温度が高すぎると副反応として(メタ)アクリル基の重合が起きてしまう可能性がある。
【0063】
反応終了後、未反応のイソシアネート化合物及び反応溶媒等を留去、吸着、濾過、洗浄等の方法で除去することで、上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0064】
また反応停止の際に、メタノール、エタノール等のアルコール化合物を系内に添加し、未反応のイソシアネート化合物とウレタン結合を形成させてもよい。生成したウレタン(メタ)アクリレート類は、未反応のイソシアネート化合物と同様の方法で除去できるが、残存させたまま使用することもできる。
【0065】
上記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物のもう一つの好適な合成方法としては、例えば、上記一般式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物に、下記一般式(10)
CH2=CR4-(Z4)d-SiR7
cM3-c (10)
(式中、R4、Z4、R7、d、c、は上記の通りである。Mはそれぞれ独立にアルコキシ基又はアルコキシアルコキシ基である。)
で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物をヒドロシリル化反応させることにより、中間体である含フッ素反応性シラン化合物を得ることができる。
【0066】
ここで、上記式(10)中、Mはアルコキシ基又はアルコキシアルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1~9のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基、エトキシエトキシ基等の炭素数2~10のアルコキシアルコキシ基が例示できる。
【0067】
上記式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物としては、下記のものが例示できる。
CH2=CHSi(OCH3)3
CH2=CHCH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHSi(OC2H5)3
CH2=CHCH2Si(OC2H5)3
CH2=CHCH2CH2Si(OC2H5)3
CH2=CHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OC2H5)3
CH2=CHSi(OC3H7)3
CH2=CHCH2Si(OC3H7)3
CH2=CHCH2CH2Si(OC3H7)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OC3H7)3
CH2=CHSiCH3(OCH3)2
CH2=CHCH2SiCH3(OCH3)2
CH2=CHCH2CH2CH2CH2SiCH3(OCH3)2
CH2=CHSiCH3(OC2H5)2
CH2=CHCH2SiCH3(OC2H5)2
CH2=CHCH2CH2SiCH3(OC2H5)2
CH2=CHCH2CH2CH2CH2SiCH3(OC2H5)2
【0068】
中でも特に以下のものが好適である。
CH2=CHSi(OCH3)3
CH2=CHCH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHCH2CH2CH2CH2Si(OCH3)3
CH2=CHSi(OC2H5)3
CH2=CHCH2Si(OC2H5)3
【0069】
上記式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物と、式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物は、これらを混合攪拌し、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度50~150℃、好ましくは60~120℃で、1分~72時間、特に5分~12時間反応を行うことが望ましい。反応温度が低すぎると反応が十分に進行しないまま反応が停止してしまう場合があり、高すぎるとヒドロシリル化の反応熱による温度上昇で反応が制御できなくなり、突沸や原料の分解などが起こる場合がある。
【0070】
この場合、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物と、式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物の仕込み比率は、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物の[ ]で括られたHの総モル数に対して、式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物の不飽和基を0.1~5倍モル、特に0.8~2倍モル使用して反応させることが望ましい。式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物が、これより少なすぎると式(5)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物においてSi-H基が多く残存してしまい目的とする効果が得られない可能性が出てくる。これ以上多すぎると反応溶液の均一性が低下して反応速度が不安定となり、また反応後に式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物の除去を行う場合に加熱、減圧、抽出等の条件を余剰の未反応成分が増える分だけ厳しくする必要が出てくる。
【0071】
付加反応触媒は、例えば、白金、ロジウム又はパラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。
付加反応触媒の配合量は、式(10)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物に対し、含まれる金属量が0.1~5,000質量ppmとなることが好ましく、より好ましくは0.2~1,000質量ppmである。
【0072】
上記の付加反応は、溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど、広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができる。このような有機溶剤としては、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する含フッ素反応性シラン化合物が、上記反応温度において可溶であるものが好ましい。例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm-キシレンヘキサフロライドが好ましい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物100質量部に対して、好ましくは5~2,000質量部であり、より好ましくは50~500質量部である。これより少なければ溶剤による希釈の効果が薄くなり、多ければ希釈度が高くなりすぎて反応速度の低下を招く場合がある。
【0073】
反応終了後、未反応の式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物や希釈溶剤を減圧留去、抽出、吸着等の公知の方法で除去することが好ましいが、これらを含んだ反応混合物のまま次の反応に使用することもできる。
【0074】
このように一般式(5)で表される末端にa個のSi-H基を有する含フッ素化合物と一般式(10)で表される末端不飽和基含有反応性シラン化合物を反応させることで、下記式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物を得ることができる。
RfA-Z1-Q1[CH2CHR4-(Z4)d-SiR7
cM3-c]a (11)
(式中、RfA、Z1、Q1、R4、Z4、d、R7、c、M、aは上記と同じである。)
【0075】
このような式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化41】
【化42】
(式中、Rf
Aは上記と同じである。)
【0076】
次いで、上記で得られた式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物は、ジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物と反応させることで、目的とする含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0077】
このようなジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物として、具体的には、下記のものが例示できる。
HOSi(CH3)2CH2OC(=O)CH=CH2
HOSi(CH3)2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
HOSi(CH3)2CH2CH2OC(=O)CH=CH2
HOSi(CH3)2CH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
HOSi(CH3)2CH2CH2CH2OC(=O)CH=CH2
HOSi(CH3)2CH2CH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
【0078】
中でも、特に
HOSi(CH3)2CH2OC(=O)CH=CH2
HOSi(CH3)2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
が好ましい。
【0079】
式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物と上記ジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物との反応は、これらを必要に応じて触媒や溶剤と共に攪拌することで行えばよい。反応は0~120℃、好ましくは10~70℃の温度で、1分~300時間、好ましくは30分~72時間行うことができる。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、反応温度が高すぎると副反応として(メタ)アクリル基の重合や、ジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物同士の脱水縮合が起きてしまう可能性がある。
【0080】
式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物とジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物との反応において、ジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物の量は、反応系中に存在する式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物に含まれるMの総モル量に対して、0.9~2倍モル、好ましくは0.95~1.1倍モルを使用することができるが、また、ジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物を式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物中のMの総モル量に対して過剰に使用し、反応途中に適切な反応率で反応を停止し、余剰のシラノール化合物を除去する方法をとることもできる。
【0081】
この反応において、反応の速度を増加するために適切な触媒を加えてもよい。例えば式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物中のMがアルコキシ基の場合、触媒としては、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクタン酸第1錫などのアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムキレート化合物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類水酸化物などが例示される。これらはその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用できるが、特に環境への影響が低いチタン化合物、ジルコニウム化合物、アルカリ土類水酸化物の使用が好ましい。
これらの触媒を反応物総質量に対して、0.01~10質量%、好ましくは0.01~5質量%加えることにより、反応速度を増加させることができる。
【0082】
上記の反応は、必要に応じて適当な溶剤で希釈して行ってもよい。このような溶剤としては、反応系中の各反応性基と直接反応しない溶剤であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、トルエン、キシレン、イソオクタンなどの炭化水素系溶剤、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤などが挙げられる。この溶剤は、反応後に減圧留去等の公知の手法で除去してもよく、目的の用途に応じてそのまま希釈溶液として使用してもよい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(11)で表される含フッ素反応性シラン化合物とジオルガノシリレン基及び(メタ)アクリル基含有シラノール化合物の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部であり、より好ましくは20~500質量部である。これより多いと反応系の濃度が低下しすぎて、反応速度が大幅に低下する場合がある。
【0083】
また、反応の際には、必要に応じて重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては特に制限はないが、通常、アクリル化合物の重合禁止剤として用いられるものを用いることができる。具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4-tert-ブチルカテコール、ジブチルヒドロキシトルエン等を挙げることができる。重合禁止剤の使用量は反応条件、反応後の精製条件、最終的な使用条件から決定すればよく、特に制限はされないが、通常、反応成分の全合計質量に対して0.01~5,000ppm、特に好ましくは0.1~500ppmである。
【0084】
反応終了後、必要に応じて未反応のジオルガノシリレン基、(メタ)アクリル基含有シラノール化合物、及び反応溶剤等を留去、吸着、再沈殿、濾過、洗浄等の方法で除去することにより、上記式(1)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0085】
〔成分(B)〕
本発明の含フッ素硬化性組成物における第二の必須成分である成分(B)は、フルオロポリエーテルを主鎖に持つ直鎖ポリマーであって、1分子中のそれぞれの末端に(即ち、分子鎖両末端のそれぞれに)2個以上、好ましくは2~5個、より好ましくは2~4個の(メタ)アクリル基を有し、1分子中に平均して4~10個、好ましくは4~8個の(メタ)アクリル基を有する化合物からなる。
【0086】
このような化合物として、具体的には下記一般式(2)で表される含フッ素アクリル化合物を示すことができる。
【化43】
【0087】
上記式(2)中、RfBは2価のパーフルオロポリエーテル基であり、-CF2O-Rf2-CF2-で示すことができる。
ここで、Rf2は上記式(1)のRfA中のRf2と同じであり、上記Rf2と同様のものが例示できる。
【0088】
上記式(2)中、Z1は独立に上記式(1)のZ1と同じであり、上記Z1と同様のものが例示でき、中でも特に以下のものが好ましい。なお、下記の構造において、左側の結合手はRfBと、右側の結合手はQ1と結合する。
-CH2CH2-
-CH2CH2CH2-
-CH2CH2CH2CH2-
-CH2OCH2CH2-
-CH2OCH2CH2CH2-
【0089】
上記式(2)中、Q
1は独立に上記式(1)のQ
1と同じであり、上記Q
1と同様のものが例示でき、中でも特に以下のものが好ましい。但し、下記の構造において、(a1+1)個の各ユニットの結合手は、Z
1及び[ ]で括られたa個のCH
2のいずれかの基と結合する。
【化44】
(式中、a1は2又は3である。)
【0090】
上記式(2)中、R1は独立に水素原子又は炭素数1~8、好ましくは1~6の1価の炭化水素基であり、1価の炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。R1としては、水素原子及びメチル基が好ましい。
【0091】
上記式(2)中、R2は独立に水素原子、又は酸素原子及び/もしくは窒素原子を含んでいてもよい(メタ)アクリル基を有する1価の有機基である。1価の有機基としては、末端に少なくとも1個、好ましくは1又は2個の(メタ)アクリル基を有する基が好ましい。また、構造途中にアミド結合、エーテル結合、エステル結合などを有していてもよい。
【0092】
このような構造として、例えば、以下のものを挙げることができる。
-C(=O)CH=CH2
-C(=O)C(CH3)=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)CH=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OCH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
-C(=O)NHC(CH3)(CH2CH2OC(=O)CH=CH2)2
【0093】
これらの中でも特に好適なのは、以下のものである。
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)CH=CH2
-C(=O)NHCH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
【0094】
上記式(2)中、aは独立に2~5の整数であり、好ましくは2~4の整数であり、より好ましくは2又は3である。aが2未満では成分(C)に対する溶解性が低下する場合があり、5より大きいと成分(A)に対する溶解性が低下する場合がある。
【0095】
上記式(2)中、Z2はそれぞれ独立に酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1~100、好ましくは1~40の2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。
【0096】
Z
2の好ましい構造としては、以下のものを挙げることができる。
-CH
2[OC
2H
4]
d[OC
3H
6]
e[OC
4H
8]
fOC
cH
2c-
(式中、dは0~29の整数、好ましくは0~10の整数であり、eは0~29の整数、好ましくは0~10の整数であり、fは0~14の整数、好ましくは0~7の整数であり、cは2~4の整数である。上記構造の合計として炭素数3~100、好ましくは3~30を満たせばよい。繰り返し単位の配列は、種類にかかわらずランダムである。また各繰り返し単位は単体でなく構造異性体の混合物でもよい。)
【化45】
【0097】
Z2として、特に好ましい構造としては、以下の2つのものが挙げられ、中でもdが0~10の整数、eが0~10の整数であるものが好適である。なお、下記の構造において、左側の結合手はCHR1と、右側の結合手はOR2と結合する。
-CH2[OC2H4]dOC2H4-
-CH2[OC3H6]eOCH2CH(CH3)-
【0098】
上記式(2)で表される含フッ素アクリル化合物として、より好ましい構造としては、下記一般式(3)、(4)で表されるものが例示できる。
【化46】
【化47】
(式中、Z
1、Q
1、aは上記の通りであり、Rf
B’は-CF
2O(CF
2O)
m(CF
2CF
2O)
nCF
2-であり、m、n、m+nは上記と同じであり、-(CF
2O)-と-(CF
2CF
2O)-の配列はランダムであり、R
3は水素原子又はメチル基であり、d1、e1は0~10の整数である。)
【0099】
成分(B)として具体的には、下記に示すものが例示できる。
【化48】
【化49】
【化50】
【0100】
【化51】
【化52】
(式中、Rf
B’は上記と同じであり、e2は1~10の整数であり、例えば4である。)
【0101】
また、上記成分(B)の式(2)で表される含フッ素アクリル化合物は、例えば、特開2010-285501号公報、特開2015-199910号公報に示される方法により合成が可能である。
【0102】
例えば、上記式(2)で表される含フッ素アクリル化合物は、まず下記一般式(12)
【化53】
(式中、Rf
B、Z
1、Q
1、aは上記と同じであり、[ ]で括られたa個のHはすべてQ
1構造中のケイ素原子と結合している。)
で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と、下記一般式(13)
CH
2=CR
1-Z
2-OH (13)
(式中、R
1、Z
2は上記と同じである。)
で表される末端不飽和基含有アルコール(分子末端にアルケニル基と水酸基を有する化合物)とをヒドロシリル化反応させることにより、中間体である含フッ素アルコール化合物を得ることができる。
【0103】
ここで、上記式(12)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物としては、例えば、下記に示すものが例示できる。
【化54】
(式中、Rf
B’は上記と同じである。)
【0104】
また、上記式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールとしては、下記に示すものが例示できる。
CH
2=CH-CH
2-OCH
2CH
2-OH
CH
2=CH-CH
2-OCH
2CH(CH
3)-OH
CH
2=CH-CH
2-(OC
3H
6)
2-OCH
2CH(CH
3)-OH
CH
2=CH-CH
2-(OC
3H
6)
4-OCH
2CH(CH
3)-OH
CH
2=CH-CH
2-(OC
3H
6)
9-OCH
2CH(CH
3)-OH
【化55】
【0105】
このヒドロシリル化(付加)反応は、式(12)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と、式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールを混合し、白金族金属系の付加反応触媒存在下、反応温度50~150℃、好ましくは60~120℃で、1分~48時間、特に10分~12時間反応を行うことが望ましい。反応温度が低すぎると反応が十分に進行しないまま反応が停止してしまう場合があり、高すぎるとヒドロシリル化の反応熱による温度上昇で反応が制御できなくなり、突沸や原料の分解などが起こる場合がある。
【0106】
この場合、式(12)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と、式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールとの反応割合は、式(10)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物の[ ]で括られたHの総モル数に対して、式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールの末端不飽和基を0.5~5倍モル、特に0.9~2倍モル使用して反応させることが望ましい。式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールが、これより少なすぎると高い溶解性を持つ含フッ素アルコール化合物を得ることが困難となる場合があり、これ以上多すぎると反応溶液の均一性が低下して反応速度が不安定となり、また反応後に式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールの除去を行う場合に加熱、減圧、抽出等の条件を余剰の未反応のアルコールが増える分だけ厳しくする必要が出てくる。
【0107】
付加反応触媒は、例えば、白金、ロジウム又はパラジウム等の白金族金属を含む化合物を使用することができる。中でも白金を含む化合物が好ましく、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、白金カルボニルビニルメチル錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-シクロビニルメチルシロキサン錯体、白金-オクチルアルデヒド/オクタノール錯体、あるいは活性炭に担持された白金を用いることができる。
付加反応触媒の配合量は、式(12)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物に対し、含まれる金属量が0.1~5,000質量ppmとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.2~1,000質量ppmとなる量である。
【0108】
上記の付加反応は、溶剤が存在しなくても実施可能であるが、必要に応じて溶剤で希釈してもよい。このとき希釈溶剤は、トルエン、キシレン、イソオクタンなど、広く一般に用いられている有機溶剤を利用することができるが、沸点が目的とする反応温度以上でかつ反応を阻害せず、反応後に生成する含フッ素アルコール化合物が、上記反応温度において可溶であるものが好ましい。このような溶剤としては、例えば、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤等の部分フッ素変性された溶剤が望ましく、特にm-キシレンヘキサフロライドが好ましい。
溶剤を使用する場合、その使用量は、式(12)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物100質量部に対して、好ましくは5~2,000質量部であり、より好ましくは50~500質量部である。これより少なければ溶剤による希釈の効果が薄くなり、多ければ希釈度が高くなりすぎて反応速度の低下を招く場合がある。
【0109】
反応終了後、未反応の式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールや希釈溶剤を減圧留去、抽出、吸着等の公知の方法で除去することが好ましいが、これらを含んだ反応混合物のまま次の反応に使用することもできる。
【0110】
このように一般式(12)で表される多官能Si-H基を有するフルオロポリエーテル化合物と一般式(13)で表される末端不飽和基含有アルコールをヒドロシリル化反応させることで、下記一般式(14)で表される含フッ素アルコール化合物を得ることができる。
【化56】
(式中、Rf
B、Q
1、R
1、Z
1、Z
2、aは上記と同じである。また、それぞれの[ ]で括られたa個のCH
2はすべてQ
1構造中のケイ素原子と結合している。)
【0111】
このようにして得られる式(14)で表される含フッ素アルコール化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化57】
【化58】
【化59】
(式中、Rf
B’、eは上記と同じである。)
【0112】
次いで、上記で得られた式(14)で表される含フッ素アルコール化合物に(メタ)アクリル基を導入することにより、目的とする含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
このような式(14)で表される含フッ素アルコール化合物に(メタ)アクリル基を導入する方法として、一つは下記式(15)で表される(メタ)アクリル酸ハライドと反応させてエステルを形成する方法、もう一つは下記式(16)で表される(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物と反応させる方法が挙げられ、これらの方法により、上記式(2)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
XC(=O)CR3=CH2 (15)
O=C=N-CH2CH2OC(=O)CR3=CH2 (16)
(式中、R3、Xは上記と同じである。)
【0113】
ここで、式(15)で表される(メタ)アクリル酸ハライドとしては、下記に示すものが挙げられる。
XC(=O)CH=CH2
XC(=O)C(CH3)=CH2
(式中、Xは上記と同じである。)
特にアクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリドが好ましい。
【0114】
また、式(16)で表される(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物としては、下記に示すものが挙げられる。
O=C=N-CH2CH2OC(=O)CH=CH2
O=C=N-CH2CH2OC(=O)C(CH3)=CH2
【0115】
これらの(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物は、含フッ素アルコール化合物の水酸基量の合計に対して等モル以上を仕込み反応させ、水酸基をすべて反応させてもよいが、含フッ素アルコール化合物1モルに対して平均して1モル以上の(メタ)アクリル基を導入させればよく、水酸基を過剰とさせることで、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物を残存させないようにしてもよい。具体的には、反応系中の含フッ素アルコール化合物量をxモル、含フッ素アルコール化合物の水酸基量の合計をyモルとした場合、(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物はxモル以上2yモル以下であることが望ましく、特に好ましくは0.6yモル以上1.4yモル以下である。少なすぎる場合、(メタ)アクリル基が全く導入されない含フッ素アルコール化合物が残存する可能性が高くなり、生成物の溶解性が低くなってしまう可能性がある。多すぎる場合、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドあるいは(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物の残存の除去が困難となる。
【0116】
これらの反応は、必要に応じて適当な溶剤で希釈して反応を行ってもよい。このような溶剤としては、含フッ素アルコール化合物の水酸基、(メタ)アクリル酸ハライドのハロゲン原子、(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応しない溶剤であれば特に制限なく用いることができ、具体的には、トルエン、キシレン、イソオクタンなどの炭化水素系溶剤、テトラヒドロフラン(THF)、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライド等のフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、メチルパーフルオロブチルエーテル等のフッ素変性エーテル系溶剤などが挙げられる。この溶剤は、反応後に減圧留去等の公知の手法で除去してもよく、目的の用途に応じてそのまま希釈溶液として使用してもよい。
溶剤の使用量は特に限定されないが、反応成分の全合計質量に対して10倍以下が好ましい。溶媒の使用量が多すぎると、反応速度が大幅に低下する危険がある。
【0117】
また、反応の際には、必要に応じて重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては特に制限はないが、通常、アクリル化合物の重合禁止剤として用いられるものを用いることができる。具体的には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4-tert-ブチルカテコール、ジブチルヒドロキシトルエン等を挙げることができる。
重合禁止剤の使用量は反応条件、反応後の精製条件、最終的な使用条件から決定すればよく、特に制限はされないが、通常、反応成分の全合計質量に対して0.01~5,000ppm、特に好ましくは0.1~500ppmである。
【0118】
含フッ素アルコール化合物に(メタ)アクリル酸ハライドを反応させる場合、特にアクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリドを反応させて、エステルを生成することが好ましい。該エステル生成反応は、上記反応中間体(含フッ素アルコール化合物)、受酸剤を混合攪拌しながら(メタ)アクリル酸ハライドを滴下して行う。受酸剤はトリエチルアミン、ピリジン、尿素などが使用できる。受酸剤の使用量は、(メタ)アクリル酸ハライドの仕込みモル数に対して0.9~3倍程度が望ましい。少なすぎるとトラップされない酸が多く残存することになり、多すぎると余剰となる受酸剤の除去が困難になる。
【0119】
(メタ)アクリル酸ハライドの滴下は、反応混合物の温度を0~35℃に維持し、20~60分かけて行う。その後、更に30分~10時間攪拌を継続する。反応終了後、未反応の(メタ)アクリル酸ハライド、反応により発生した塩及び反応溶媒等を留去、吸着、濾過、洗浄等の方法で除去することで、上記式(2)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0120】
また、反応停止の際に、メタノール、エタノール等のアルコール化合物を系内に添加し、未反応の(メタ)アクリル酸ハライドをエステル化してもよい。生成した(メタ)アクリル酸エステル類は、未反応の(メタ)アクリル酸ハライド除去と同様の方法で除去できるが、残存させたまま使用することもできる。
【0121】
含フッ素アルコール化合物と(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物との反応の場合には、含フッ素アルコール化合物と(メタ)アクリル基を含有するイソシアネート化合物を必要に応じて溶媒と共に攪拌し、反応を進行させる。
【0122】
この反応において、反応の速度を増加するために適切な触媒を加えてもよい。触媒としては、例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジオクテート、ジオクタン酸第1錫などのアルキル錫エステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン[別名:オルトチタン酸テトラキス(2-エチルヘキシル)]、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムキレート化合物等が例示される。これらはその1種に限定されず、2種もしくはそれ以上の混合物として使用できるが、特に環境への影響が低いチタン化合物や錫化合物の使用が好ましい。これらの触媒を反応物総質量に対して、0.01~2質量%、好ましくは0.05~1質量%加えることにより、反応速度を増加させることができる。
【0123】
上記反応は0~120℃、好ましくは10~70℃の温度で、1分~500時間、好ましくは10分~48時間行う。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、反応温度が高すぎると副反応として(メタ)アクリル基の重合が起きてしまう可能性がある。
【0124】
反応終了後、未反応のイソシアネート化合物及び反応溶媒等を留去、吸着、濾過、洗浄等の方法で除去することで、上記式(2)で表される含フッ素アクリル化合物を得ることができる。
【0125】
また、反応停止の際に、メタノール、エタノール等のアルコール化合物を系内に添加し、未反応のイソシアネート化合物とウレタン結合を形成させてもよい。生成したウレタン(メタ)アクリレート類は、未反応のイソシアネート化合物と同様の方法で除去できるが、残存させたまま使用することもできる。
【0126】
〔成分(C)〕
本発明の含フッ素硬化性組成物における第三の必須成分である成分(C)は、フルオロポリエーテル構造を含まず、1分子中に平均して2個以上の(メタ)アクリル基を有する非フッ素化アクリル化合物である。成分(C)は、分子内にウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレート類や、各種重合体の側鎖や末端に任意の方法で2個以上の(メタ)アクリル基を導入した化合物も含む。
【0127】
このような非フッ素化アクリル化合物(C)としては、1分子中に2個以上(メタ)アクリル基を有するものであればよく、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素-(2,2,2-トリ-(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2~6官能の(メタ)アクリル化合物、これらの(メタ)アクリル化合物をエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル変性品、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート類、及び(メタ)アクリル酸エステル共重合体の側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入した共重合体等を含むものが挙げられる。
【0128】
また、ウレタン(メタ)アクリレート類、ポリイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリイソシアネートと末端ジオールのポリエステルに水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるもの、ポリオールに過剰のジイソシアネートと反応させて得られるポリイソシアネートに、水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるものを使用することもできる。中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートから選ばれる水酸基を有する(メタ)アクリレートと、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、2-メチル-1,3-ジイソシアナトシクロヘキサン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトシクロヘキサン及びジフェニルメタンジイソシアネートから選ばれるポリイソシアネートを反応させたウレタン(メタ)アクリレート類が好ましい。
【0129】
成分(C)は、1種単独でも使用できるが、塗工性や硬化後被膜の特性を高めるために該当する複数の化合物を配合して使用することもできる。
【0130】
特に1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有し、ウレタン結合を有さない多官能アクリル化合物、又はこの多官能アクリル化合物と、脂肪族ポリイソシアネートと水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られた1分子中に3個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート類からなるものとを含む少なくとも2種類のアクリル化合物の混合物を用いることが好ましい。
【0131】
ここで、1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有し、ウレタン結合を有さない多官能アクリル化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びこれらをエチレンオキサイド又はプロピレンオキシドで変性させた化合物が挙げられる。
【0132】
脂肪族ポリイソシアネートと水酸基を有するアクリル化合物とを反応させて得られた1分子中に3個以上の(メタ)アクリル基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート類としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びこれらの3量化物、並びにこれらの2官能、3官能のイソシアネート類のいずれかに、脂肪族ジオール又は脂肪族ポリオールを反応させて得られる2官能以上のポリイソシアネートに、側鎖に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート類、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びこれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド変性体のいずれかを反応させたものや、脂肪族ポリオール及び側鎖に水酸基を有するポリ(メタ)アクリレート類と2-イソシアナトエチル(メタ)アクリラートや1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等のイソシアネート基を有するアクリル化合物を反応させたものを示すことができる。
【0133】
また、成分(C)としては、液状の成分だけでなく、微粒子状の高分子量体の表面や無機フィラー微粒子の表面を(メタ)アクリル基で修飾したものを含んでいてもよい。
【0134】
本発明の含フッ素硬化性組成物においては、各成分の組成比率は成分(C)100質量部に対して、成分(A)と成分(B)の配合量の合計が0.05~50質量部、特に好ましくは0.1~10質量部であり、かつ成分(B)100質量部に対する成分(A)の配合量が1~100質量部、特に好ましくは3~50質量部の範囲内にあることが望ましい。成分(C)に対して成分(A)、(B)の合計がこれより多すぎると、ハードコート被膜としての性能が低下し、少なすぎると十分な防汚性能を発揮できない。成分(B)に対して成分(A)の量がこれより多すぎると、成分(C)に対する溶解性が悪くなりすぎて塗工不良が発生するおそれがあり、少なすぎると成分(B)単独での使用に対しての差がみられなくなる。
【0135】
本発明の含フッ素硬化性組成物は、上述した成分(A)、(B)、(C)の3種の成分を必須とし、これらのみを配合したものを熱、電子線等で硬化させることもできるが、作業性や必要に応じてこれら3成分以外の成分を含有することもできる。
【0136】
特に成分(D)として光重合開始剤を含有することで、活性エネルギー線として紫外線を用いた場合の硬化性を高めた硬化性組成物とすることができる。
【0137】
〔成分(D)〕
成分(D)の光重合開始剤は、紫外線照射によりアクリル化合物を硬化させることができるものであれば特に限定されないが、好ましくは、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン等が挙げられ、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0138】
成分(D)の含有量は、硬化条件と目的とする該組成物の物性に応じて適宜決めることができるが、例えば成分(C)100質量部に対して、0.1~15質量部、特に1~10質量部となる量であることが望ましい。添加量がこれより少ないと硬化性が低下する場合があり、これより多くなると硬化後の物性への影響が大きくなるおそれがある。
【0139】
これら成分(A)、(B)、(C)、(D)は、それぞれの化合物の定義において構造が該当する1種類の化合物あるいは複数化合物の混合物として使用することができる。複数の化合物の混合物である場合、配合量を考えるには各化合物群の総質量をそれぞれの質量と考えればよい。
【0140】
本発明の含フッ素硬化性組成物には、更に、目的に応じて、反応性希釈剤としての1官能アクリル化合物、チオール化合物やマレイミド化合物など、(メタ)アクリル基以外の活性エネルギー線反応性化合物、有機溶剤、重合禁止剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、及び高分子や無機物のフィラー等を配合することもできる。
【0141】
有機溶剤としては、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシルなどのエステル類、トルエン、キシレン、トリエチルベンゼン、アルキルベンゼン類の芳香族類などを挙げることができる。上記溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0142】
溶剤の使用量は特に制限されるものではないが、成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、20~10,000質量部が好ましく、特に100~1,000質量部が好ましい。
【0143】
また、重合禁止剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、及びフィラーとしては特に制限されず、公知のものを本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0144】
更に、本発明の目的と効果を阻害しない範囲内においては本発明における成分(A)、(B)を製造するにあたって発生する副生成物、残存する未反応成分等を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば上述した式(7)あるいは式(14)で表される含フッ素アルコール化合物が未反応成分として残留した場合などが考えられる。
【0145】
なお、成分(C)及び各種添加物が配合されたハードコート剤は、各社からさまざまなものが市販されている。本発明の含フッ素硬化性組成物は、このような市販品のハードコート剤に成分(A)と成分(B)を添加したものであってもよい。市販品のハードコート剤として、例えば、荒川化学工業(株)「ビームセット」、大橋化学工業(株)「ユービック」、オリジン電気(株)「UVコート」、カシュー(株)「カシューUV」、JSR(株)「デソライト」、大日精化工業(株)「セイカビーム」、日本合成化学(株)「紫光」、藤倉化成(株)「フジハード」、三菱レイヨン(株)「ダイヤビーム」、武蔵塗料(株)「ウルトラバイン」等が挙げられる。
【0146】
また、上記のように市販品のハードコート剤を用いる場合であっても、目的に応じて、有機溶剤、重合禁止剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、着色剤、及びフィラー等を追加して配合することができる。
【0147】
以上のような成分(C)、(D)、及びその他任意に配合可能な添加剤については、例えばテクノネット社編「光硬化技術データブック 材料編」(2000年、テクノネット社)、フォトポリマー懇話会編「フォトポリマーハンドブック」(1989年、工業調査会)、総合技術センター編「UV・EB硬化技術」(1982年、総合技術センター)、ラドテック研究会編「UV・EB硬化材料」(1992年、シーエムシー)、技術情報協会編「UV硬化における硬化不良・阻害原因とその対策」(2003年、技術情報協会)、技術情報協会編「UV硬化樹脂の配合設計、特性評価と新しい応用」(2017年、技術情報協会)、シーエムシー出版編「UV・EB硬化材料・製品の市場実態と展望」(2007年、シーエムシー出版)、サイエンス&テクノロジー編「UV硬化プロセスの最適化」(2008年、サイエンス&テクノロジー)等に公知のものが多く示されており、これらを任意の組み合わせで使用できる。
【0148】
本発明の含フッ素硬化性組成物の配合方法については用途に応じて任意の方法で行えばよく、特に制限はされないが、他の成分と混合させる前に成分(A)と成分(B)が良く混合されていることが望ましく、例えば成分(A)と成分(B)を必要とする比率で混合し必要に応じて溶剤で希釈したものを成分(C)及びその他の成分と混合する、あるいは溶剤で希釈された成分(A)と溶剤で希釈された成分(B)を混合して成分(C)及びその他の成分と混合する方法などが好適である。
【0149】
本発明の含フッ素硬化性組成物の硬化方法は特に限定されず、成分(A)、(B)、(C)を含む組成物を、適宜溶剤で希釈、塗布したものを熱や電子線等の活性エネルギー線によって硬化させることもできるが、更に成分(D)の光重合開始剤を含有する場合は、紫外線によって硬化させることができる。紫外線による硬化の場合、紫外線照射を空気中で行うこともできるが、酸素による硬化阻害を防止するため酸素濃度を5,000ppm以下に抑えることが好ましく、窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で硬化させることが特に好ましい。
【0150】
また、本発明の含フッ素硬化性組成物の一般的な使用形態としては、本発明の含フッ素硬化性組成物層が硬化後に密着又は接着するものであればいかなる基材上に塗布することもできるが、特に樹脂基材、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ナイロン、アクリル樹脂等の樹脂を挙げることができる。これらは、フィルム、板状、及び成形部材等任意の形態をとるものに対してその表面に使用できる。
【0151】
また、フィルム基材に塗工した場合、含フッ素硬化性組成物層を塗布・形成したのと反対の面に粘着剤を塗布した構造をとっていてもよく、更に粘着剤を保護するための離型フィルムを配置してもよい。
【0152】
また、前記フィルム基材は、上記で挙げた樹脂フィルムのみからなる基材であってもよいが、本発明の含フッ素硬化性組成物との密着性を向上させるために、前記樹脂フィルムにプライマー層を設けたフィルム基材であってもよい。前記プライマー層としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等からなるものが挙げられる。
【0153】
また、本発明の含フッ素硬化性組成物は、硬化・未硬化の本発明に該当しない硬化性組成物層上に塗工硬化してもよい。例えば、硬度、耐久性、帯電防止性、カールなどの変形防止性がより高い硬化物層の上に本発明の含フッ素硬化性組成物を重ね塗りすることができる。
【0154】
また、本発明の含フッ素硬化性組成物との密着性を向上させる目的で、樹脂フィルム表面を、サンドブラスト法、溶剤処理法等による表面の凹凸化処理、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、酸化処理等により処理を施すこともできる。
【0155】
本発明の含フッ素硬化性組成物を上記基材や物品に塗布する方法としては、特に制限はされないが、例えば、ロールコート、グラビアコート、フローコート、カーテンコート、ディップコート、スプレーコート、スピンコート、バーコート、スクリーン印刷等の公知の塗工方法を用いることができる。
【0156】
塗工後、塗膜に活性エネルギー線を照射してこれを硬化させる。ここで、活性エネルギー線としては、電子線、紫外線等任意のものを用いることができるが、特に紫外線が好ましい。紫外線源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプが好適である。紫外線照射量としては、少なすぎると未硬化成分が残存し、多すぎると塗膜及び基材が劣化する可能性があるため、10~10,000mJ/cm2、特に100~4,000mJ/cm2の範囲にあることが望ましい。
【0157】
また、酸素による硬化阻害を防止するために、紫外線照射時に照射雰囲気を窒素、二酸化炭素、アルゴン等の酸素分子を含まない不活性ガスで置換したり、塗膜表面を離型性を持つ紫外線透過性のある保護層で覆い、その上から紫外線を照射したり、基材が紫外線透過性を有する場合は塗膜表面を離型性のある保護層で覆った上で基材の塗工面とは反対側から紫外線を照射してもよい。また塗膜のレベリングあるいは塗膜中の(メタ)アクリル基の重合を効果的に行うため、紫外線照射前及び照射中に塗膜及び基材を赤外線や熱風乾燥炉等任意の手法で加熱してもよい。
【0158】
このようにして得られる含フッ素硬化性組成物の硬化物層の厚みとしては特に制限されないが、0.01~5,000μm、特に0.05~200μmであることが好ましい。
【0159】
また、このようにして得られる本発明の含フッ素硬化性組成物の硬化物層は、イオン交換水の2μLの液滴が接液から1秒後に液面と固体面とのなす角により測定した静的水接触角が100°以上、特に105°以上、オレイン酸の4μLの液滴が接液から1秒後に液面と固体面とのなす角により測定した静的オレイン酸接触角が60°以上、特に65°以上である撥水撥油性表面となり得ることが好ましい。なお、上記接触角とするためには、本発明の含フッ素硬化性組成物の硬化物層が、該硬化物層の全表面積に対して平均して厚さ10nm以上の層をなせる量であることが好ましい。また、硬化物層表面には未反応の(メタ)アクリル基が残存していないほど好ましく、このため窒素、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下で硬化させた硬化物層であることが望ましい。
【0160】
以上のように、本発明の含フッ素硬化性組成物は、紫外線等の活性エネルギー線によって硬化可能であり、物品の表面に、撥水撥油性、防汚性、滑り性、耐摩耗性に優れた硬化樹脂層を形成することができる。
【0161】
更に、本発明では、上述した本発明の含フッ素硬化性組成物を表面に塗布し硬化させた硬化被膜を有する物品を提供する。上述したように、本発明の含フッ素硬化性組成物を用いれば、基材(物品)の表面に優れた表面特性を有する硬化被膜(硬化樹脂層)を形成することが可能になる。特に、アクリルハードコートの表面に撥水性、撥油性、防汚性を付与するのに有用である。これによって、指紋、皮脂、汗などの人脂、化粧品等による汚れ、機械油などが付着し難くなり、かつ拭き取り性にも優れたハードコート表面を基材に与えることができる。このため、本発明の含フッ素硬化性組成物は、人が触れて人脂、化粧品等により汚される可能性のある基材(物品)、また作業者の人脂や機械油などで汚染される可能性のある機械内部に用いられる工程材料フィルム等の表面に対する防汚塗装膜もしくは保護膜を提供することができる。
【0162】
本発明の含フッ素硬化性組成物を用いて形成される硬化被膜(硬化樹脂層)は、タブレット型コンピュータ、ノートPC、携帯電話・スマートフォン等の携帯(通信)情報端末、デジタルメディアプレイヤー、電子ブックリーダーなど各種機器の筐体、時計型・眼鏡型ウェアラブルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションプロジェクションディスプレイ、CRT、トナー系ディスプレイ、量子ドット(QD)ディスプレイなどの各種フラットパネルディスプレイ及びTVの画面などの表示操作機器表面並びにこれらの内部に使用される各種光学フィルム類、自動車の外装、ピアノや家具の光沢表面、大理石等の建築用石材表面、トイレ、風呂、洗面所等の水周りの装飾建材、美術品展示用保護ガラス、ショーウインドー、ショーケース、フォトフレーム用カバー、腕時計、化粧品容器の外装、装飾品容器の外装、自動車窓用ガラス、列車、航空機等の窓ガラス、自動車ヘッドライト、テールランプなどの透明なガラス製又は透明なプラスチック製(アクリル、ポリカーボネートなど)部材、ミリ波レーダー等の車用センサーのカバー部材、各種ミラー部材等の塗装膜及び表面保護膜として有用である。
【0163】
中でも特に、タッチパネルディスプレイなど人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、例えば、タブレット型コンピュータ、ノートPC、スマートフォン、携帯電話、その他携帯(通信)情報端末、スマートウォッチ、デジタルメディアプレイヤー、電子ブックリーダー、デジタルフォトフレーム、ゲーム機、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、GPS表示記録機器、自動車用等のナビゲーション装置、自動車用等の制御パネル、自動現金引出し預け入れ装置、現金自動支払機、自動販売機、デジタルサイネージ(電子看板)、セキュリティーシステム端末、POS端末、リモートコントローラなど各種コントローラ、車載装置用パネルスイッチなどの表示入力装置などの表面保護膜として有用である。
【0164】
更に本発明の含フッ素硬化性組成物により形成される硬化被膜は、光磁気ディスク、光ディスク等の光記録媒体;メガネレンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルター、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、反射防止膜、各種カメラ用レンズ、各種レンズ用保護フィルター、光ファイバーや光カプラーなどの光学部品・光デバイスの表面保護被膜としても有用である。
【0165】
以上のような、本発明の含フッ素硬化性組成物は、目的とする物品の表面に本発明に係る成分(A)、(B)の化合物中のフルオロポリエーテル構造を配置させることにより、撥水性、撥油性、滑り性、防汚性、指紋の目立ちにくさ、指紋拭き取り性、耐摩耗性、低屈折率特性、耐溶剤性、耐薬品性等の優れた性質を与えることをその本質としている。
【0166】
このような本発明の含フッ素硬化性組成物を使用する際は、配合物の組み合わせ、組成比、どのような特性を重視するかに応じて、適切な使用方法をそれぞれの用途に応じた公知の技術を元に選定すればよい。このような公知の技術は、フッ素を含む組成物に対するものだけでなく、既存の活性エネルギー線硬化性組成物に用いられている手法を含めて検討の範囲に含めることができる。
【0167】
例えば、本発明の含フッ素硬化性組成物を配合調製する際に、本発明に係る成分(A)、(B)に加えて、前記した本含フッ素硬化性組成物における各種配合物を組み合わせる際に、低屈折率特性やこれを利用した低反射特性を重視する場合には、反応性中空シリカや反応性基を有しない中空シリカ、あるいは成分(C)として特に3官能以上の非フッ素系の多官能アクリル化合物を使用すること、また被膜強度や耐擦傷性を向上させる場合には、成分(C)として2種類以上の非フッ素系多官能アクリル化合物を好適な量に配合すること、あるいは硬度と屈曲性のバランスをとるためには、成分(C)として非フッ素系の6官能以上の多官能アクリル化合物と3官能以下のアクリル化合物の組み合わせを行うこと等は、公知のアクリル硬化性組成物配合の知見から容易に類推できる。
【0168】
また、本発明の含フッ素硬化性組成物を塗布することで物品を得る場合、例えば、フィルム基材への塗工を行う際、干渉縞を防ぐために適切な塗工膜厚となるように調整を行うこと、フィルム基材の厚さを調整してカールを抑制しやすくしたり、基材フィルムの弾性率を調整したりすることで含フッ素硬化性組成物の塗膜硬化後の変形や塗膜の割れを抑制すること等は、それぞれの特性に応じた既存の条件の組み合わせを元にスクリーニング作業を行って選定させるものであり、本発明と既存技術の組み合わせにより容易に達成可能である。
【実施例】
【0169】
以下に、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0170】
[合成例1]含フッ素アクリル化合物(A-1)の合成
還流装置と攪拌装置を備えた300L四つ口フラスコに、平均構造が下記式(I)
【化60】
で表される化合物(但し、-CF
2CF
2O-と-CF
2O-の繰り返し単位の配列はランダムである)100g(Si-H基 0.0737モル)、下記式(II)の化合物
CH
2=CH
2Si(OCH
3)
3 (II)
12.0g(0.0811モル)、m-キシレンヘキサフロライド200gを仕込み、乾燥空気雰囲気下で攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.0884g(Pt単体として2.2×10
-7モルを含有)を投入し、4時間加熱攪拌を継続してから停止した。反応液の
1H-NMR及びIRにより、Si-H基に由来するピークの消失を確認した。得られた反応液を減圧留去し、以下の構造で示される化合物(III)101.1gを得た。
【化61】
還流装置と攪拌装置を備えた100mL三つ口フラスコに、上記で得られた化合物(III)20g(-Si-OCH
3基として0.0398モル)、下記式(IV)
CH
2=CHC(=O)OCH
2Si(CH
3)
2OH (IV)
で表される化合物(IV)6.74g(0.0421モル)、m-キシレンヘキサフロライド40gを仕込み、窒素雰囲気下40℃で攪拌した。そこにチタンテトラ-2-エチルヘキソキシドの10質量%m-キシレンヘキサフロライド溶液0.2gを加え、4時間攪拌を継続した。冷却後の反応液を室温(25℃、以下同じ)にもどし、500mLのイソプロパノールに投入し、1時間攪拌後に24時間静置して得られた沈殿物をアセトン50gで溶解し、エバポレーターで50℃/267Paの条件で1時間留去し、白色軟膏状物質23.4gを得た。
1H-NMR及びIRの結果から下記に示す含フッ素アクリル化合物(A-1)であることを確認した。
【化62】
【0171】
[合成例2]含フッ素アクリル化合物(A-2)の合成
乾燥空気雰囲気下で、上記合成例1で用いた化合物(I)100.0g(Si-H基量0.0737モル)に対して、2-アリルオキシエタノール8.06g(0.0789モル)、m-キシレンヘキサフロライド50.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10
-7モルを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰の2-アリルオキシエタノールを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される淡無色透明の液体含フッ素アルコール化合物(V)53.6gを得た。
【化63】
【0172】
乾燥空気雰囲気下で、得られた液体含フッ素アルコール化合物(V)50.0g(水酸基量0.0343モル)に対して、THF50.0gとアクリロイルオキシエチルイソシアネート4.93g(0.0349モル)を混合し、50℃に加熱した。そこにオルトチタン酸テトラキス(2-エチルヘキシル)0.15gを添加し、50℃下24時間攪拌した。加熱終了後、80℃/0.266kPaで減圧留去を行い、やや白濁した液状高粘調物質52.0gを得た。
1H-NMR及びIRの結果から下記に示す含フッ素アクリル化合物(A-2)であることを確認した。
【化64】
【0173】
[合成例3]含フッ素アクリル化合物(B-1)の合成
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた5,000mL三つ口フラスコに、下記式
CH
2=CH-CH
2-O-CH
2-Rf
B1-CH
2-O-CH
2-CH=CH
2
Rf
B1:-CF
2O(CF
2CF
2O)
20.9(CF
2O)
21.2CF
2-
で表されるパーフルオロポリエーテル1,000g(0.245モル)と、m-キシレンヘキサフロライド1,400g、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン722g(3.00モル)を投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.884g(Pt単体として2.2×10
-6モルを含有)を投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。
1H-NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のテトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧留去した。その後活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の液状化合物(VI)993gを得た。
【化65】
Rf
B1:-CF
2O(CF
2CF
2O)
20.9(CF
2O)
21.2CF
2-
【0174】
乾燥空気雰囲気下で、上記で得られた化合物(VI)50.0g(Si-H基量0.0657モル)に対して、2-アリルオキシエタノール7.05g(0.0690モル)、m-キシレンヘキサフロライド50.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10
-7モルを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰の2-アリルオキシエタノールを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される淡黄色透明の液体含フッ素アルコール化合物(VII)54.9gを得た。
【化66】
Rf
B1:-CF
2O(CF
2CF
2O)
20.9(CF
2O)
21.2CF
2-
【0175】
乾燥空気雰囲気下で、得られた含フッ素アルコール化合物(VII)50.0g(水酸基量0.058モル)に対して、THF50.0gとアクリロイルオキシエチルイソシアネート9.00g(0.0638モル)を混合し、50℃に加熱した。そこにオルトチタン酸テトラキス(2-エチルヘキシル)0.15gを添加し、50℃下24時間攪拌した。加熱終了後、80℃/0.266kPaで減圧留去を行い、淡黄色のペースト状物質58.5gを得た。
1H-NMR及びIRの結果から下記に示す含フッ素アクリル化合物(B-1)であることを確認した。
【化67】
Rf
B1:-CF
2O(CF
2CF
2O)
20.9(CF
2O)
21.2CF
2-
【0176】
[合成例4]含フッ素アクリル化合物(B-2)の合成
乾燥窒素雰囲気下で、還流装置と攪拌装置を備えた500mL三つ口フラスコに、下記式
CH
2=CH-CH
2-O-CH
2-Rf
B2-CH
2-O-CH
2-CH=CH
2
Rf
B2:-CF
2O(CF
2CF
2O)
9.8(CF
2O)
9.1CF
2-
で表されるパーフルオロポリエーテル100g(0.0501モル)と、m-キシレンヘキサフロライド100g、及びテトラメチルシクロテトラシロキサン121g(0.502モル)を投入し、攪拌しながら90℃まで加熱した。ここに白金/1,3-ジビニル-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.442g(Pt単体として1.1×10
-6モルを含有)を投入し、内温を90℃以上に維持したまま4時間攪拌を継続した。
1H-NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰のテトラメチルシクロテトラシロキサンを減圧留去した。その後活性炭処理を行い、下記式で示される無色透明の液状化合物(VIII)112gを得た。
【化68】
Rf
B2:-CF
2O(CF
2CF
2O)
9.8(CF
2O)
9.1CF
2-
【0177】
乾燥空気雰囲気下で、上記で得られた化合物(VIII)50.0g(Si-H基量0.121モル)に対して、2-アリルオキシエタノール15.1g(0.149モル)、m-キシレンヘキサフロライド100.0g、及び塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0884g(Pt単体として2.2×10
-7モルを含有)を混合し、100℃で4時間攪拌した。
1H-NMR及びIRでSi-H基が消失したのを確認した後、溶剤と過剰の2-アリルオキシエタノールを減圧溜去し、活性炭処理を行い、下記式で示される淡黄色透明の液体含フッ素アルコール化合物(IX)60.2gを得た。
【化69】
Rf
B2:-CF
2O(CF
2CF
2O)
9.8(CF
2O)
9.1CF
2-
【0178】
乾燥空気雰囲気下で、得られた含フッ素アルコール化合物(IX)50.0g(水酸基量0.097モル)に対して、THF50.0gとアクリロイルオキシエチルイソシアネート17.7g(0.125モル)を混合し、50℃に加熱した。そこにジオクチル錫ジラウレート0.05gを添加し、50℃下24時間攪拌した。加熱終了後、80℃/0.266kPaで減圧留去を行い、淡黄色の高粘調液体63.5gを得た。
1H-NMR及びIRの結果から下記に示す含フッ素アクリル化合物(B-2)であることを確認した。
【化70】
Rf
B2:-CF
2O(CF
2CF
2O)
9.8(CF
2O)
9.1CF
2-
【0179】
[実施例1~9、比較例1~6]
本発明の含フッ素硬化性組成物の原料成分を下記に示す。
(A)含フッ素アクリル化合物
(A-1)合成例1で得られた含フッ素アクリル化合物
(A-2)合成例2で得られた含フッ素アクリル化合物
(B)含フッ素アクリル化合物
(B-1)合成例3で得られた含フッ素アクリル化合物
(B-2)合成例4で得られた含フッ素アクリル化合物
(C)非フッ素化アクリル化合物
(C-1)ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート
[ダイセルオルネクス(株)製 EBECRYL 40]
(C-2)ペンタエリスリトールトリアクリレート
(C-3)ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの反応物からなる多官能アクリレート[共栄社化学(株)製 UA-306H]
(D)光重合開始剤
(D-1)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:IRGACURE 184、BASFジャパン(株)製)
(D-2)2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名:IRGACURE 127、BASFジャパン(株)製)
【0180】
[含フッ素硬化性組成物の調製]
成分(A)及び(B)は全てメチルエチルケトンで20質量%に、成分(C)は酢酸ブチルで40質量%に希釈を行った。また(C-1)の希釈溶剤を酢酸ブチルから2-プロパノールに替えて40質量%に希釈したものを(C-4)として配合した。
成分(A)~(D)の各成分の溶媒成分を除いた配合比として下記表1となるように混合し、含フッ素硬化性組成物を得た。
【0181】
実施例及び比較例における成分(A)~(D)の配合比(溶媒成分を除く)
【表1】
【0182】
塗工と硬化物の作製
実施例及び比較例の各組成物をポリカーボネート基板上にワイヤーバーNo.7で塗工した(ウエット膜厚16.0μm)。塗工後100℃、1分間の乾燥を行った後、コンベヤ式メタルハライドUV照射装置(パナソニック電工(株)製)を使用し、窒素雰囲気中で、積算照射量400mJ/cm2の紫外線を塗工面に照射して組成物を硬化させ、厚み5μmの硬化膜を得た。
【0183】
[組成物の塗工状態]
各組成物の塗工(塗工表面外観)を目視で観察した。なお、平滑に塗工できなかった組成物についてはこれ以降の評価を行わなかった。結果を表2に示す。
【0184】
[撥水撥油性の評価]
1)水接触角測定
接触角計(協和界面科学(株)製 DropMaster)を用い、水2μLの液滴を硬化膜上に滴下して1秒後の水接触角を測定した。N=5の平均値を測定値とした。結果を表2に示す。
【0185】
2)オレイン酸接触角測定
接触角計(協和界面科学(株)製 DropMaster)を用い、オレイン酸4μLの液滴を硬化膜上に滴下して1秒後のオレイン酸接触角を測定した。N=5の平均値を測定値とした。結果を表2に示す。
【0186】
[動摩擦係数の測定]
ベンコット(旭化成(株)製)に対する硬化膜の動摩擦係数を、表面性試験機14FW(新東科学(株)製)を用いて下記条件で測定した。結果を表2に示す。
接触面積:10mm×35mm
荷重:100g
【0187】
[マジックハジキ性の評価]
硬化膜表面にマジックペン(ゼブラ(株)製 ハイマッキー太字)で直線を描き、そのはじき具合を目視観察によって評価した。結果を表2に示す。
【0188】
[マジック拭き取り性の評価]
硬化膜表面にマジックペン(ゼブラ(株)製 ハイマッキー太字)で直線を描き、1分後にティッシュペーパーで軽く3回擦って、マジックの跡が残らなかったものを「拭き取れる」、跡が残ったものを「拭き取れない」で評価した。結果を表2に示す。
【0189】
【0190】
上記の結果から明らかなように、成分(B)を配合せず、成分(A)、(C)のみを配合した比較例1、2の組成物は、塗工性が悪く平滑な表面が得られないが、成分(A)、(B)、(C)を配合した本発明の実施例1~9の組成物は、平滑な塗工面を作製することができ、また、本発明の実施例1~9の組成物は、成分(A)を配合せず、成分(B)、(C)のみを配合した比較例3、4、6の組成物、及び成分(A)、(B)を配合せず、成分(C)のみを配合した比較例5に比べて、高い撥液性と滑り性を持つ表面を形成することができる。