(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】被搬送体、容器キャリア及び搬送装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/04 20060101AFI20230303BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20230303BHJP
【FI】
G01N35/04 G
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2019195183
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】星 遼佑
(72)【発明者】
【氏名】青山 康明
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
(72)【発明者】
【氏名】玉腰 武司
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 洋
(72)【発明者】
【氏名】神原 克宏
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 邦昭
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520344(JP,A)
【文献】国際公開第2019/170488(WO,A1)
【文献】特表2017-522565(JP,A)
【文献】特表2014-532870(JP,A)
【文献】実開昭57-144059(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G54/00 -54/02 、
G01N35/00 -37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁力を推力に利用する搬送装置の構成要素であって水平方向に移動可能な被搬送体であって、
前記被搬送体の摺動面に対して鉛直方向に所定のギャップが形成されるように底面部が配置された可動子を有し、
前記可動子は、永久磁石と、カバーと、を含み、
前記永久磁石の前記ギャップに対向するギャップ対向面は、一方の磁極を有し、
前記カバーは、前記永久磁石の前記ギャップ対向面とは鉛直方向反対側に設置され、
前記カバーの水平方向の最外径は、前記永久磁石の水平方向の最外径よりも大きく、
前記可動子の前記底面部には、摺動部が設けられ、
前記被搬送体の前記摺動面は、前記摺動部に設けられ、
前記カバーは、平板で構成され
、円板状であり、
前記カバーの下面は、前記摺動面に平行である、被搬送体。
【請求項2】
前記カバーは、前記ギャップ側の面に凹部を有し、
前記凹部の鉛直方向の寸法は、前記永久磁石の鉛直方向の寸法よりも小さく、
前記凹部には、前記永久磁石の一部が埋め込まれている、請求項1記載の被搬送体。
【請求項3】
前記カバーは、軟磁性体で形成されている、請求項1記載の被搬送体。
【請求項4】
前記カバーは、前記永久磁石の前記ギャップ対向面とは鉛直方向反対側に直接接するように設置されている、請求項1記載の被搬送体。
【請求項5】
前記可動子の前記ギャップ対向面には、
前記摺動部が設けられている、請求項1記載の被搬送体。
【請求項6】
請求項1記載の被搬送体であって、
検体容器を設置する容器保持部と、
前記容器保持部を支持するキャリア基部と、を含み、
前記キャリア基部は、前記可動子を有する、容器キャリア。
【請求項7】
複数の電磁石が配置された搬送路と、
電源と、
制御部と、
被搬送体と、を備え、
前記複数の電磁石の電磁力を推力に利用して前記被搬送体を所望の位置に搬送する装置であって、
前記被搬送体は、
前記被搬送体の摺動面に対して鉛直方向に所定のギャップが形成されるように底面部が配置された可動子を有し、
前記可動子は、永久磁石と、カバーと、を含み、
前記カバーは、前記永久磁石の前記ギャップに対向するギャップ対向面とは鉛直方向反対側に設置され、
前記カバーの水平方向の最外径は、前記永久磁石の水平方向の最外径よりも大きく、
前記可動子の前記底面部には、摺動部が設けられ、
前記被搬送体の前記摺動面は、前記摺動部に設けられ、
前記カバーは、平板で構成され
、円板状であり、
前記カバーの下面は、前記摺動面に平行である、搬送装置。
【請求項8】
前記カバーの水平方向の最外径をD
2とし、前記複数の電磁石のうち隣接する電磁石の中心軸のピッチをAとしたとき、次の不等式(1)が満たされる、請求項7記載の搬送装置。
D
2/2<A …(1)
【請求項9】
前記カバーは、前記ギャップ側の面に凹部を有し、
前記凹部の鉛直方向の寸法は、前記永久磁石の鉛直方向の寸法よりも小さく、
前記凹部には、前記永久磁石の一部が埋め込まれている、請求項7記載の搬送装置。
【請求項10】
前記カバーは、軟磁性体で形成されている、請求項7記載の搬送装置。
【請求項11】
前記カバーは、前記永久磁石の前記ギャップ対向面とは鉛直方向反対側に直接接するように設置されている、請求項7記載の搬送装置。
【請求項12】
前記可動子の前記ギャップ対向面には、
前記摺動部が設けられている、請求項7記載の搬送装置。
【請求項13】
前記カバーの水平方向の最外径をD
2とし、前記複数の電磁石のうち隣接する電磁石の中心軸のピッチをAとしたとき、次の不等式(1)が満たされる、請求項7記載の搬送装置。
D
2/2<A …(1)
【請求項14】
前記被搬送体は、容器キャリアであり、
前記容器キャリアは、
検体容器を設置する容器保持部と、
前記容器保持部を支持するキャリア基部と、を含み、
前記キャリア基部は、前記可動子を有する、請求項7記載の搬送装置。
【請求項15】
前記永久磁石の水平方向の最外径をD
1とし、前記複数の電磁石のうち隣接する電磁石の中心軸のピッチをAとしたとき、次の不等式(2)が満たされる、請求項7記載の搬送装置。
0<D
1/A≦1.5 …(2)
【請求項16】
前記永久磁石の水平方向の最外径をD
1とし、前記カバーの水平方向の最外径をD
2としたときに、次の不等式(3)が満たされる、請求項2記載の被搬送体。
1.0<D
2/D
1 …(3)
【請求項17】
前記永久磁石の水平方向の最外径をD
1とし、前記カバーの水平方向の最外径をD
2としたときに、次の不等式(3)が満たされる、請求項7記載の搬送装置。
1.0<D
2/D
1 …(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被搬送体、容器キャリア及び搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、血漿、血清、尿その他の体液等の生体試料(以下「検体」という。)の分析を行う検体分析システムにおいては、それぞれの検体について、指示された分析項目を検査するため、複数の機能を有する装置を接続し、自動的に各工程を処理している。言い換えると、検体分析システムでは、生化学や免疫など複数の分析分野の分析部を搬送ラインで接続し、一括して複数の分析がなされている。
【0003】
搬送ラインの搬送方式には、(1)ベルトコンベヤによる方式と、(2)電磁吸引力を推力に利用する方式とがある。
【0004】
上記(2)の方式は、検体を保持するホルダ等の容器キャリアに永久磁石を設け、移送面に設けられた電磁回路の巻線に電流を供給することにより発生する電磁吸引力を、容器キャリアの推力として利用している。この場合に、容器キャリアに永久磁石のみを設けた構造では、空間に漏れる磁束が多くなるため、漏れ磁束を低減し、推力を向上する試みもされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、摺動部材の上に永久磁石が配置され、永久磁石の上に軟磁性材料で作られたカバーが配置された、ラボラトリ試料分配システム用の試料コンテナキャリヤであって、カバーは、永久磁石の側方を包囲する部分(側方包囲部分)を有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の試料コンテナキャリヤにおいては、カバーが永久磁石の側方を包囲しているため、カバーが永久磁石の補極となり、漏れ磁束を低減し、永久磁石と電磁回路との間におけるパーミアンスを増加させる作用が得られる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の試料コンテナキャリヤは、側方包囲部分の分だけ質量が増加するため、試料コンテナキャリヤが移送面に接する部分における摩擦力が大きくなる点で、改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、搬送装置を構成する被搬送体を軽量化し、被搬送体の摺動面と搬送路との摩擦力を小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電磁力を推力に利用する搬送装置の構成要素であって水平方向に移動可能な被搬送体であって、その摺動面に対して鉛直方向に所定のギャップが形成されるように底面部が配置された可動子を有し、可動子は、永久磁石と、カバーと、を含み、永久磁石のギャップに対向するギャップ対向面は、一方の磁極を有し、カバーは、永久磁石のギャップ対向面とは鉛直方向反対側に設置され、カバーの水平方向の最外径は、永久磁石の水平方向の最外径よりも大きく、カバーは、平板で構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、搬送装置を構成する被搬送体を軽量化し、被搬送体の摺動面と搬送路との摩擦力を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る搬送装置を示す概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係る容器キャリアを示す断面図である。
【
図3】一実施形態に係る搬送装置の搬送路における電磁石の配置を示す上面図である。
【
図4B】実施例1の可動子を示す模式断面図である。
【
図5A】比較例の可動子の永久磁石により生じる磁束分布を示す模式図である。
【
図5B】実施例1の可動子の永久磁石により生じる磁束分布を示す模式図である。
【
図6】
図5Bの可動子の寸法等を示す断面図である。
【
図7A】比較例及び実施例1の可動子のカバーの質量を比較して示すグラフである。
【
図7B】比較例及び実施例1の可動子の静止摩擦力を比較したグラフである。
【
図8】比較例及び実施例1の可動子の推力特性を示すグラフである。
【
図9】実施例2の可動子の推力特性を示すグラフである。
【
図10】実施例2及び3の可動子の推力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、被搬送体、容器キャリア及び搬送装置に関する。搬送装置は、検体分析システムや分析に必要な前処理を行う検体前処理装置等に好適に用いられる。
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、形状、配置その他の構成を変更しても、本発明の所望の作用効果が得られればよい。
【0015】
図1は、一実施形態に係る搬送装置を示す概略構成図である。
【0016】
本図に示すように、搬送装置1は、複数の電磁石25a、25bと、駆動回路50a、50bと、電流検出部30a、30bと、演算部40と、電源55と、を備えている。電磁石25aは、磁性体で形成されたコア22aと、コア22aの外周部に巻かれた巻線21aと、を有している。同様に、電磁石25bは、コア22bと、巻線21bと、を有している。コア22a、22bは、円柱状である。
【0017】
電磁石25a、25bの上面部(上部)には、容器キャリア110が移動可能に載置される。容器キャリア110には、図示していない永久磁石が内蔵されている。容器キャリア110は、被搬送物(被搬送体)である。ここで、「上部」とは、部材を通常の設置方法により設置した場合に鉛直方向に高い部分となる部位をいう。本図に示す電磁石25a、25bの場合、上部が平面状になっているため、「上面部」と呼ぶ。
【0018】
容器キャリア110の永久磁石としては、ネオジム合金やフェライト等が好適に用いられる。なお、場合によっては、永久磁石の代わりに、軟磁性体等を用いても構わない。
【0019】
容器キャリア110の例としては、液体の検体を入れた試験管、試料セル等の検体容器を1本ずつ保持する検体ホルダや、検体容器を複数本保持する検体ラックがある。
【0020】
電磁石25a、25bの巻線21a、21bはそれぞれ、駆動回路50a、50bに接続されている。電磁石25a、25bはそれぞれ、駆動回路50a、50bにより印加される電圧により、磁界を発生させる。磁界は、コア22a、22bの上端部から上方に生じる。これらの磁界により、容器キャリア110の永久磁石に推力が生じる。
【0021】
電流検出部30a、30bはそれぞれ、電磁石25a、25bの巻線21a、21bに流れる電流を検出し、それらの電流値を演算部40に送る機能を有する。演算部40は、検出された電流値等を用いて、容器キャリア110を移動させる制御信号を出力する。これにより、容器キャリア110を所望の位置に搬送することができる。なお、電流検出部30a、30bは、直列抵抗の電圧を測定するもの、カレントトランスによるもの、ホール電流センサを用いたものなどを用いることができるが、これらに限定するものではない。
【0022】
演算部40は、電流検出部30a、30bにより検出された電流値等を基に、コア22と容器キャリア110との相対的な位置関係を演算し、搬送装置1内における容器キャリア110の位置を演算する。また、演算部40は、この演算した容器キャリア110の位置情報を用いて、容器キャリア110の駆動に必要な電流量及びその電流を供給するタイミングを決定する。
【0023】
駆動回路50a、50bには、電源55が接続されている。電源55は、交流であっても直流であってもよい。直流の場合は、電池を用いてもよい。
【0024】
図2は、一実施形態に係る容器キャリアを示す断面図である。
【0025】
本図においては、容器キャリア110は、容器保持部210と、キャリア基部212と、で構成されている。容器保持部210には、検体容器222が挿入され、固定されるようになっている。
【0026】
キャリア基部212には、円柱状の永久磁石218と、カバー220と、が設けられている。カバー220は、永久磁石218の上面部に設置されている。カバー220は、永久磁石218よりも直径(外径)が大きい。カバー220は、軟磁性体で形成されていることが望ましい。軟磁性体としては、磁性ステンレス鋼、S45C等が好適に用いられる。また、カバー220は、永久磁石218の上面部に直接接するように設置されていることが望ましい。
【0027】
また、キャリア基部212は、摺動部214を有する。摺動部214は、摺動面216で
図1の電磁石25a、25bに接するようになっている。よって、摺動面216は、容器キャリア110(被搬送体)の底面部であり、搬送装置の搬送路に接触する部分である。
【0028】
なお、永久磁石218及びカバー220を合わせて「可動子」と呼ぶ。可動子の下部には、摺動部214が設けられている。摺動部214は、可動子と
図1の電磁石25a、25bとの間に、後述の「ギャップ」を生じさせる部材である。よって、可動子の底面部は、被搬送体の底面部よりも鉛直方向に高い位置に配置されている。永久磁石218のギャップに対向するギャップ対向面は、一方の磁極を有する。そして、永久磁石218の他方の磁極は、カバー220に接している。カバー220は、永久磁石218のギャップ対向面とは鉛直方向反対側に設置されている。
【0029】
本図においては、カバー220は、平板状であり、その下面に永久磁石218を付設した構成を有するが、カバー220のギャップ側の面に凹部(窪み)を設け、その凹部に永久磁石218の一部が埋め込まれた構成としてもよい。凹部の鉛直方向の寸法(深さ)は、永久磁石の鉛直方向の寸法(高さ)よりも小さい。
【0030】
図3は、一実施形態に係る搬送装置の搬送路における電磁石の配置を示す上面図である。
【0031】
本図に示すように、容器キャリアの搬送路には、複数の電磁石125が配置されている。それぞれの電磁石125は、コア122を有している。電磁石125は、格子状に配置されている。これにより、容器キャリアが移動する方向を前後左右に自在に制御することができる。
【0032】
次に、側方包囲部分の有無による効果について説明する。なお、以下の説明において、実施例1~3及び比較例の永久磁石が有する磁極の強さ(磁気量)は、等しいものとする。
【0033】
【0034】
本図に示す可動子410aは、容器キャリアのキャリア基部に設けられたものであり、永久磁石218及びそのカバー420を含むものである。カバー420は、永久磁石218の上面部に固定されている。カバー420は、永久磁石218よりも直径が大きく、側方包囲部分421を有する。側方包囲部分421は、永久磁石218の周囲(側方)を覆っている。側方包囲部分421の外径は、カバー420の上部の外径と同じである。カバー420は、軟磁性体で形成されている。カバー420が側方包囲部分421を有することにより、漏れ磁束を低減することができる。
【0035】
【0036】
本図に示す可動子410bは、
図4Aと同じ形状を有する永久磁石218及びそのカバー220を含むものである。カバー220は、円板状であり、側方包囲部分を有しない。カバー220は、永久磁石218よりも直径が大きい。カバー220は、軟磁性体で形成され、永久磁石218の上面部に固定されている。カバー220の直径を永久磁石218よりも直径が小さくした場合、漏れ磁束が増加し、推力に寄与する磁束が減少するため、推力が低下する。よって、カバー220の直径を永久磁石218よりも直径が大きくすることが望ましい。
【0037】
なお、本実施例においては、カバー220の形状を円板状としているが、カバーの形状は、本実施例に限定されるものではなく、例えば、正方形や楕円、ひし形でもよい。
【0038】
図5Aは、比較例の可動子の永久磁石により生じる磁束分布を示す模式図である。
【0039】
本図の可動子410aは、
図4Aに示すものと同じである。すなわち、カバー420は、側方包囲部分421を有する。
【0040】
可動子410aは、図示していない摺動部を介して、電磁石25a、25b、25cを有する搬送路に載置されている。電磁石25a、25b、25cは、ヨーク26の上面に設置されている。なお、本図は、断面図であるが、電磁石25aの前後(図面の奥側及び手前側)にも電磁石が隣接して配置されている。
【0041】
側方包囲部分421の下面と電磁石25aの上面との距離Dは、永久磁石218の下面と電磁石25aの上面との距離dに等しい。ここで、距離D、dは、上面及び下面がいずれも平行な二平面と仮定した場合における距離として定義したものである。なお、距離dは、
図2の摺動部214により設けられるものである。
【0042】
図5Bは、実施例1の可動子の永久磁石により生じる磁束分布を示す模式図である。
【0043】
本図の可動子410bは、
図4Bに示すものと同じである。すなわち、カバー220は、側方包囲部分を有しない。このため、距離dは、
図5Aのものに等しいが、距離Dは、
図5Aのものよりも大きくなっている。電磁石25aは、複数の電磁石25a、25b、25cのうち可動子410a又は410bに最も近接している。
【0044】
図5A及び
図5Bにおいては、永久磁石218から出た磁束は、距離dのギャップを経由して至近の電磁石25aに入り、ヨーク26を通過し、電磁石25aの周方向に配置された電磁石25b、25c及び図示していない隣接する電磁石に入り、距離Dのギャップを経由して、可動子410aのカバー420又は可動子410bのカバー220を通り、永久磁石218に戻る。すなわち、永久磁石218による磁束は、電磁石25aを通過した後、周囲の4個の電磁石に分散する。
【0045】
このとき、
図5Aにおいて楕円で囲って示すギャップの磁気抵抗R1は、
図5Bにおいて楕円で囲って示すギャップの磁気抵抗R2に比べて小さい。これは、カバー420の側方包囲部分421によって磁気抵抗が減少するためである。
【0046】
しかし、先に述べたように、磁束は、電磁石25aの周囲の4個の電磁石に分散するため、磁気抵抗R1又はR2の寄与は、全体の磁気回路では1/4(4分の1)となる。ゆえに、
図5Aに示すカバー420の側方包囲部分421による磁気抵抗への影響も1/4となる。このため、側方包囲部分421による推力特性への影響は、比較的小さいものであることがわかる。
【0047】
したがって、
図5Bに示す、側方包囲部分を有しないカバー220の場合であっても、条件によっては、磁気回路の特性への影響を小さくすることができる。これにより、可動子410bのように、質量を小さくすることができ、摩擦力を低減し、推力特性を改善することができる。また、これにより、カバー220の構造を簡略化することができ、コストを削減することができる。
【0048】
図6は、
図5Bの可動子410bの寸法、可動子410bと電磁石25a、25b、25cとのギャップ等を更に詳細に示したものである。
【0049】
図6においては、距離D、d以外に、永久磁石218の直径D
1、永久磁石218の高さt、カバー220の外径D
2、及び隣接する電磁石間のピッチAを示している。Aについては、言い換えると、隣接する電磁石の中心軸のピッチである。
【0050】
本図においては、可動子410bと電磁石25aとのギャップ(距離d)は、
図5Bの場合の半分である。距離dを短くすると、電流に依らない永久磁石218を至近の電磁石25b又は25cに引き付ける力、すなわちディテントが増加する。言い換えると、ディテントとは、電流が0の場合(通電していない場合)において永久磁石に作用する力をいう。
【0051】
図6においては、ディテントは、電磁石25cに電流1.0p.u.を流し、可動子410bを引き付ける力を発生させて可動子410bを電磁石25aの直上であるx=0からx正方向に移動させる場合、0<x<A/2の領域では、可動子410bに対して電流による吸引力の他に、ディテントは、可動子410bを至近にある電磁石25aに引き込む力として作用するため、進行方向であるx正方向とは逆向きの力となる。したがって、ディテントによって電磁石25cに流した電流による吸引力が減少する。
【0052】
一方で、可動子410bがA/2<x<Aの領域にある場合は、ディテントは、可動子410bを電磁石25cに引き込む力として作用するため、進行方向であるx正方向と同じ向きに作用する。したがって、電磁石25cの電流による吸引力にディテントが加わり、推力が増加する。このとき、距離dを小さくするとディテントが増加するため、0<x<A/2の領域で、ディテントを含めた全体の推力が局所的に減少する場合がある。
【0053】
ここで、実施例1~3の寸法について
図6を用いて説明する。
【0054】
カバー420の半径が隣接する電磁石25間のピッチA以上の大きさとなると、検体同士が接触し、駆動に悪影響を及ぼすため、次の不等式(1)を満たすことが望ましい。
【0055】
D2/2<A …(1)
上記不等式(1)は、実施例1~3において満たされている。
【0056】
また、磁石の直径D1がピッチAの1.5倍となると、搬送方向と反対方向にあるティースと磁気による干渉を起こし、推力が減少するため、次の不等式(2)を満たすことが望ましい。
【0057】
0<D1/A≦1.5 …(2)
上記不等式(2)は、実施例1~3において満たされている。
【0058】
また、カバーの外径D2が磁石の直径D1以下である場合、漏れ磁束が増加し、推力に寄与する磁束が減少する。そのため、次の不等式(3)を満たすことが望ましい。
【0059】
1.0<D2/D1 …(3)
上記不等式(3)は、実施例1~3において満たされている。
【0060】
図7Aは、比較例及び実施例1の可動子のカバーの質量を比較して示すグラフである。
【0061】
本図のグラフにおいては、カバーの質量を示している。言い換えると、可動子を構成するカバーの質量を比較したものである。
【0062】
本図に示すように、実施例1のカバーの質量は、比較例に比べ、25%減らすことができる。
【0063】
図7Bは、比較例及び実施例1の可動子を
図1の電磁石25aの直上に設置した場合における静止摩擦力を比較して示すグラフである。
【0064】
比較するための設置の条件は、
図2の摺動部214と同様の寸法の平板に可動子を固定し、電磁石の直上に設置し、静止摩擦力を測定したものである。
【0065】
図7Bに示すように、実施例1の静止摩擦力は、比較例に比べ、10%減らすことができる。
【0066】
本実施例は、比較例に比べ、質量及び摩擦力を小さくすることができるだけでなく、カバーの構造が簡素であり、製造も容易である。したがって、材料コスト及び製造コストを低減することができる。
【0067】
図8は、
図6の電磁石25cに電流を通電し、可動子を駆動させた場合の推力特性を示すグラフである。横軸に可動子の中心軸の位置x、縦軸に推力をとっている。破線の曲線は比較例、実線の曲線は実施例1である。ここで、推力とは、可動子に作用する電磁的な力(電磁力)のうち水平方向の分力をいう。
【0068】
本図に示すように、いずれの曲線も、xが0から0.6A程度までの範囲では傾きが正であり、xが0.6A程度からAまでの範囲では傾きが負である。いずれの曲線も、推力の最大値は、約1.2である。
【0069】
実施例1は、比較例と比べ、xが0から0.5A程度までの範囲では推力が若干大きくなっている。x=0では、実施例1は推力が約0.3、比較例は推力が約0.25である。一方、xが0.5A程度からAまでの範囲では、実施例1と比較例との推力の差が小さくなっている。ただし、実施例1と比較例との推力の差は、全範囲においてわずかである。
【0070】
図9は、実施例2の可動子の推力特性を示すグラフである。横軸に可動子の中心軸の位置x、縦軸に推力をとっている。
【0071】
本図に示すように、実施例2の場合、xが0から0.2A程度までの範囲では傾きが負であり、xが0.2A程度から0.7A程度までの範囲では傾きが正である。xが0から0.7Aまでの範囲における推力の極小値は、約0.2である。そして、xが0.7A程度からA程度までの範囲では傾きが負である。推力の最大値は、約3.5である。
【0072】
よって、実施例2は、実施例1と比べ、推力が小さい範囲がある一方、推力が約3倍となる範囲もある。このため、推力が小さい範囲では、可動子の移動速度が減少し、可動子の振動や電磁石の間における可動子の停止等が発生するおそれがある。また、実施例2の場合、推力が小さい範囲では、摩擦力の影響を受けやすい。
【0073】
実施例2のように距離dを小さくすると、ディテントが増加するのは、永久磁石218の外径D1がピッチAより小さく、永久磁石218と至近の電磁石25との間のギャップパーミアンスが局所的に大きくなることが原因である。これを解決するには、永久磁石218の外径D1を電磁石25aと電磁石25bのピッチAより大きくすればよい。これにより、永久磁石218と、隣接する2つの電磁石、例えば電磁石25aと電磁石25cそれぞれの間とのギャップパーミアンス分布を平滑にすることができる。
【0074】
図10は、実施例3の可動子の推力特性を示すグラフである。横軸に可動子の中心軸の位置x、縦軸に推力をとっている。実線の曲線は実施例3である。比較のため、実施例2についても、破線の曲線で示している。
【0075】
実施例2と比較すると、実施例3は、永久磁石218の直径D1を2.5倍としている。
【0076】
本図に示すように、実施例3の場合、xが0から0.5A程度までの範囲では傾きが正であり、xが0.5A程度からAまでの範囲では傾きが負である。推力の最大値は、約2.3である。
【0077】
実施例3は、実施例2に比べ、推力の最大値は小さくなるが、xが0から0.5A程度までの範囲における推力が大きくなり、xの変化に伴う推力の変化が小さくなっている。
【0078】
D1をピッチAより大きくすることで、ディテントが低減され、推力の局所的な減少を抑制することができる。ディテントが軽減されたことで、最大瞬間推力は減少するが、平均推力は同等である。
【0079】
したがって、D1をピッチAより大きくすることで、ギャップ間のパーミアンスの分布を平滑化し、ディテントを低減し、推力特性を改善することができる。
【符号の説明】
【0080】
1:搬送装置、21a、21b:巻線、22a、22b、122:コア、25a、25b、25c、125:電磁石、26:ヨーク、30a、30b:電流検出部、40:演算部、50a、50b:駆動回路、55:電源、110:容器キャリア、210:容器保持部、212:キャリア基部、214:摺動部、216:摺動面、218:永久磁石、220、420:カバー、410a、410b:可動子、421:側方包囲部分。