(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20230306BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20230306BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20230306BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D7/00 504
A23L27/60 A
(21)【出願番号】P 2018149956
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017168165
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017183460
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊島 尊
(72)【発明者】
【氏名】辻野 祥伍
(72)【発明者】
【氏名】生稲 淳一
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091228(JP,A)
【文献】特開2015-109808(JP,A)
【文献】特開平08-269478(JP,A)
【文献】特開2000-309794(JP,A)
【文献】特開2003-265104(JP,A)
【文献】国際公開第2003/092396(WO,A1)
【文献】特開2020-022425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21
A23
C11B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を
62~90質量%含有し、
該油脂中の炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドが2.5質量%以下である、油脂組成物。
【請求項2】
油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を70~90質量%含有する油脂が、エステル交換油脂及び/又はエステル化された油脂であり、油脂組成物中に該油脂を50~100質量%含有する、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂が、構成脂肪酸の68質量%以上がオレイン酸である植物油と、炭素数6~10の飽和脂肪酸のトリグリセリドとのエステル交換油脂である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
前記油脂組成物が、乳化剤を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂組成物が、フライ用途とマヨネーズ用途から選ばれる用途である、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から食用油脂は、主要用途としてフライ調理、炒め調理などに用いられてきた。通常、油脂を用いてフライ調理を行う場合、揚げ種から蒸気が発生し泡立つが、フライ調理を繰り返すことで、油脂の劣化および揚げ種からの溶出成分の影響で泡立ちが激しくなる。ひどい泡立ちの場合、泡により揚げ種が見えないばかりか、容器からあふれるなどの作業上の安全性が悪化する。そのため、一定量以上のフライ調理はできず、特に卵や肉を含む揚げ種をフライ調理すると油脂の劣化が早い。これらフライ調理時の泡を抑える方法として、シリコーンオイルの添加が行われてきたが、シリコーンオイルは効果が限定的な上、近年、その生分解性の悪さから使用を避ける傾向にある。
【0003】
また、ヤシ油と大豆油の混合油、中鎖脂肪酸トリグリセリドと菜種油などのエステル交換油等は比較的泡立ちが多く、このような構成脂肪酸が炭素数6~10の脂肪酸と炭素数14~22脂肪酸の両者を含むトリグリセリドは、シリコーンの添加でも泡を抑えることができない。そのため、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含む油脂に特定の乳化剤を添加することで、フライ調理における泡立ちを抑える発明が開示されている。例えば、特許文献1には、グリセリンあるいはジグリセリンと脂肪酸のモノエステルを配合することが開示されている。また、特許文献2には、特定のショ糖脂肪酸エステルを配合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4040204号公報
【文献】特許第4046438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、乳化剤は、原材料費が油脂に比べて高く、添加工程を必要とするため、より安価な製品を簡便に提供することが求められている。また、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有する油脂で製造したマヨネーズは、粘度が低くなり、乳化剤を配合した同油脂では、粘度が低すぎて、マヨネーズとしての保形性を保てない問題があった。そのため、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有する油脂で、フライ調理等の加熱調理とマヨネーズ等の乳化用途に用いる汎用油脂が必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、フライ調理における泡立ちを抑えた油脂組成物を提供することを目的とする。また、フライ調理における泡立ちを抑え、且つ、良好なマヨネーズを調整できる油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を57~90質量%含有し、該油脂中の炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドが2.5質量%以下である、油脂組成物。
【0008】
油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を70~90質量%含有する油脂が、エステル交換油脂及び/又はエステル化された油脂であり、油脂組成物中に該油脂を50~100質量%含有する、ことが好ましい。
【0009】
前記油脂が、構成脂肪酸の68質量%以上がオレイン酸である植物油と、炭素数6~10の飽和脂肪酸のトリグリセリドとのエステル交換油脂である、ことが好ましい。
【0010】
本発明の油脂組成物は、乳化剤を含まないことが好ましい。
【0011】
本発明の油脂組成物は、フライ用途とマヨネーズ用途から選ばれる用途であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エステル交換油脂の構成脂肪酸中に中鎖脂肪酸を含有するにもかかわらず、フライ時の泡立ちが改善された油脂組成物を提供することができる。また、乳化剤を低減あるいは含まないことにより、良好な保形性を有するマヨネーズを得ることができる油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を57~90質量%含有し、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドを2.5質量%以下である油脂を用いることで、フライ時の泡立ちが改善されることを見出した。この知見に基づき、本願発明の油脂組成物を完成するに至った。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0014】
<油脂組成物>
以下、本発明の加熱調理用油脂組成物について、詳説する。
【0015】
(油脂)
本発明の油脂組成物は、油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を57~90質量%含有し、該油脂中の炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドが2.5質量%以下である。
【0016】
本発明において、炭素数6~10の飽和脂肪酸は、油脂中に一定量以上あることで、栄養効果が得られる。また、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が多くなると、泡立ちが激しくなる。そのため、炭素数6~10の飽和脂肪酸は、油脂の構成脂肪酸中に、8~20質量%含有される。より好ましくは、10~16質量%含有されることである。
炭素数6~10の飽和脂肪酸は、直鎖状飽和脂肪酸が好ましく、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸が挙げられる。これらは、ヤシ油、パーム核油由来の脂肪酸を用いることができ、単独、あるいは組み合わせて用いることができる。例えば、例えばカプリル酸/カプリン酸=80/20~0/100(質量比)、好ましくはカプリル酸/カプリン酸=60/40~75/25(質量比)で用いることができる。
【0017】
本発明おいて、オレイン酸は、油脂中に57質量%以上あることで、炭素数6~10の飽和脂肪酸を含有することによる泡立ちを抑えることができる。オレイン酸含有量は、高いほど泡立ちを抑制するため、好ましい。市販で入手できるオレイン酸の純度が98~99%であることを考慮すると炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%用いる場合、オレイン酸の上限は90質量%である。そのため、オレイン酸は、油脂の構成脂肪酸中に、57~90質量%であることが好ましい。より好ましくは60~95質量%である、さらに好ましくは62~75質量%である。オレイン酸は、油脂の構成脂肪酸中に、65~75質量%含有されることが、最も好ましい。オレイン酸は、菜種、大豆、ひまわり、紅花、オリーブ等の高オレイン酸品種由来を用いることができる。また、低オレイン酸含有量のパーム脂肪酸を分留して高純度にしたものなどを用いることができる。
【0018】
本発明において、油脂中の、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドは2.5質量%以下である。炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドの量が2.5質量%より多くなると、フライ時の泡立ちが激しくなるので好ましくない。より好ましくは、油脂中の、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドは2.0質量%以下であり、さらに好ましくは、1.6質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以下である。
【0019】
本発明において、油脂中の、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるグリセリド以外のトリグリセリドは、特に限定するものではない。例えば、後述するエステル交換油脂、あるいはエステル化された油脂を用いた場合、構成脂肪酸に炭素数6~10の飽和脂肪酸を2つ含むトリグリセリドの量は、5~25質量%になるのが好ましく、6~15質量%であるのがより好ましい。また、構成脂肪酸に炭素数6~10の飽和脂肪酸を1つ含むトリグリセリドの量は、20~50質量%になるのが好ましく、25~40質量%になるのがより好ましい。また、構成脂肪酸に炭素数6~10の飽和脂肪酸を含まないトリグリセリドの量は、30~65質量%になるのが好ましく、45~65質量%になるのがより好ましい。 なお、炭素数6~10の飽和脂肪酸以外の構成脂肪酸は、植物油に存在する炭素数16~22の脂肪酸であることが好ましい。
【0020】
油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%とオレイン酸を57~90質量%含有する油脂は、エステル交換、あるいはエステル化から得ることができる。そのため、これらの油脂はエステル交換油及び/又はエステル化された油脂であることが好ましい。これらの油脂は、油脂組成物中に50~100質量%含有することが好ましく、より好ましくは80~100質量%である。これらの油脂を、油脂組成物中に95~100質量%含有されることが最も好ましい。なお、将来的には、エステル交換油脂及び/又はエステル化された油脂に代えて、品種改良で得られた植物から得られる油脂を用いることが期待できる。
【0021】
前述の通り、本発明では、油脂の構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を70~90質量%含有する油脂として、エステル交換油脂及び/又はエステル化された油脂を用いることができる。これらの油脂以外に配合される油脂としては、油脂の構成脂肪酸に炭素数12以下の脂肪酸を含まない油脂がフライ時の泡立ちを悪化させない点で好ましい。油脂の構成脂肪酸に炭素数12以下の脂肪酸を含まない油脂としては、大豆油、菜種油、紅花油、コーン油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油等の植物油が挙げられる。油脂の構成脂肪酸に炭素数12以下の脂肪酸を含まない油脂は、油脂組成物中に0~50質量%含有されることが、好ましい。より好ましくは0~20質量%含有されるであり、0~5質量%含有されることが最も好ましい。
【0022】
本発明で用いる油脂は、精製油脂であることが好ましい。本発明の油脂は、搾油必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により製造することができる。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の品質に応じて適宜選択される。
【0023】
(エステル交換油脂)
本発明の油脂組成物は、炭素数6~10の飽和脂肪酸のグリセリド、炭素数6~10の飽和脂肪酸の低級アルコールエステル、炭素数6~10の飽和脂肪酸から選ばれる1種以上と、油脂の構成脂肪酸が高オレイン酸である油脂をエステル交換して得ることができる。あるいは、オレイン酸の低級アルコールエステル、オレイン酸から選ばれる1種以上と、炭素数6~10の飽和脂肪酸のグリセリドとをエステル交換して得ることができる。
炭素数6~10の飽和脂肪酸のグリセリドとしては、トリグリセリドが好ましい。例えば、市販の中鎖脂肪酸トリグリセリドとして販売されているものを用いることができる。
油脂の構成脂肪酸が高オレイン酸の油脂は、構成脂肪酸中オレイン酸が68質量%以上である油脂が好ましく、構成脂肪酸中オレイン酸が70質量%以上である油脂がより好ましく、構成脂肪酸中オレイン酸が75質量%以上である油脂がさらに好ましく、構成脂肪酸中オレイン酸が80質量%以上である油脂が最も好ましい。これらの油脂として、高オレイン酸菜種油、高オレイン酸ひまわり油、高オレイン酸紅花油、オリーブ油等を用いることができる。
また、炭素数6~10の飽和脂肪酸の低級アルコールエステル、炭素数6~10の飽和脂肪酸、オレイン酸の低級アルコールエステル、オレイン酸は、市販のものを用いることができる。なお、低級アルコールエステルの低級アルコールは、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール等の炭素数1~3の低級アルコールが、副生物のアルコールを除去しやすいことから好ましい。
【0024】
本発明の油脂組成物は、構成脂肪酸の68質量%以上がオレイン酸である植物油と、炭素数6~10の飽和脂肪酸のトリグリセリドのエステル交換油脂であることが、エステル交換の過程で、低級アルコールや水分が副生しないため好ましい。
【0025】
エステル交換は、ナトリウムメチラートのようなアルカリ触媒やリパーゼ等の酵素を用いて行うことができる。使用する原料の割合は、最終的な製造油脂が、構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を57~90質量%含有するように調整する。
【0026】
例えば、ナトリウムメチラートを触媒とするエステル交換反応を行う場合、原料を混合し、混合物を100mmHg以下の減圧下で80~100℃に加熱し、原料混合物に含まれる気体成分および水分を除去する。これにナトリウムメチラート0.02~0.5質量%を添加し、常圧・窒素気流下あるいは10mmHg以下の減圧下で10~60分間、80~100℃で攪拌することによりエステル交換反応を行う。反応の完了はガスクロマトグラフィーにより反応生成物のトリグリセリド組成を測定することにより確認する。反応の停止は反応生成物に水を添加するかリン酸などの酸を添加することにより行う。その後、触媒および過剰の酸を除去するために十分な水洗を行い、乾燥後、反応生成物を常法により脱色、脱臭する。
【0027】
リパーゼを用いてエステル交換反応を行う場合、原料を混合し、リパーゼの活性が十分に発揮される反応温度である40~100℃の範囲に調温する。その後、リパーゼを原料混合物に対して0.005~10質量%の割合で添加し、2~48時間の範囲でエステル交換反応を行う。この反応は常圧下で窒素気流中で行うことが望ましい。反応の完了はガスクロマトグラフィーにより反応生成物のトリグリセリド組成を測定することにより確認する。反応の停止は酵素を濾過により除去することにより行う。反応生成物は水洗、乾燥の後、常法により脱色、脱臭する。なお、中鎖脂肪酸を使用した場合は、反応の停止後に遊離脂肪酸を薄膜式エバポレーターで除去しておく。
リパーゼを用いたエステル交換反応が不十分であると、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が多くなる。中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が多い油脂組成物は、連続したフライ調理時において、発煙や泡立ちが激しくなるので好ましくない。
リパーゼとしては、アルカリゲネス属、キャンデイダ属、リゾプス属、ムコール属またはシュードモナス属由来のリパーゼや、肝臓由来のホスホリパーゼA等が挙げられるが、特にキャンデイダ属またはリゾプス属由来のリパーゼが好ましい。
【0028】
(エステル化された油脂)
本発明の油脂組成物は、炭素数6~10の飽和脂肪酸、オレイン酸、グリセリンを混合し、無触媒又はアルカリ中での加熱によるエステル化、あるいはリパーゼによるエステル化で得ることができる。エステル化反応においては、水分が副生し、反応を進めるためには水分を除去する必要があるため、加熱によるエステル化が好ましい。使用する原料の割合は、最終的な製造油脂が、構成脂肪酸中に、炭素数6~10の飽和脂肪酸を8~20質量%、オレイン酸を57~90質量%となるように調整する。
【0029】
例えば、無触媒でエステル化反応を行う場合、原料を混合し、混合物を常温、あるいは100mmHg以下の減圧下で200℃以上に加熱し、3~20時間エステル化させる。この時、窒素気流化で行うことが着色を防ぐ点で好ましい。反応の完了は、酸価により遊離脂肪酸量を測定することにより確認する。反応生成物を常法により脱酸、脱色、脱臭する。なお、残存脂肪酸が多い場合は、反応生成物から薄膜式エバポレーター等で脂肪酸を除去しておくことが好ましい。
【0030】
リパーゼを用いてエステル化反応を行う場合、原料を混合し、リパーゼの活性が十分に発揮される反応温度である40~100℃の範囲に調温する。その後、リパーゼを原料混合物に対して0.005~10質量%の割合で添加し、5~200時間の範囲でエステル化反応を行う。この反応は常圧下で窒素気流中、又は微減圧下で行うことが望ましい。反応の完了は、酸価により遊離脂肪酸量を測定することにより確認する。反応の停止は酵素を濾過により除去することにより行う。反応生成物は水洗、乾燥の後、常法により脱酸、脱色、脱臭する。なお、残存脂肪酸が多い場合は、反応生成物から薄膜式エバポレーター等で脂肪酸を除去しておくことが好ましい。
リパーゼとしては、アルカリゲネス属、キャンデイダ属、リゾプス属、ムコール属またはシュードモナス属由来のリパーゼや、肝臓由来のホスホリパーゼA等が挙げられるが、特にキャンデイダ属またはリゾプス属由来のリパーゼが好ましい。
【0031】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物中には、本発明の効果を損ねない程度に、油脂以外の成分を加えることができる。これらの成分とは、例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、乳化剤、シリコーンオイル、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。
【0032】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。
【0033】
乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、モノグリセリド、ジグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。一部の乳化剤を含有させることでフライ適性、特に泡立ち抑制をさらに向上させることができる。しかし、乳化剤を含有することで、マヨネーズの粘度が低下する問題が発生するために、乳化剤添加は、少量又は添加しないことが好ましい。例えば、添加する本発明では上記乳化剤の少なくとも1種が選択でき、油脂組成物への添加量は、乳化剤全体として0.5質量%未満が好ましく、さらに好ましくは0.01~0.2質量%である。最も好ましくは、乳化剤を含有しないことである。
【0034】
シリコーンオイルとしては、食品用途で市販されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800~5000mm2/sのものが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、特に800~2000mm2/s、さらに900~1100mm2/sであることが好ましい。ここで、「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0035】
<油脂組成物の用途>
本発明の加熱調理用油脂組成物は、あらゆる加熱調理用途に用いることができるが、フライ時の泡立ちが抑制されているため、フライ用途に適している。また、乳化剤の添加が少量、あるいは未添加の油脂組成物は、フライ用途とマヨネーズ用途に適している。
【0036】
<脂肪酸及びトリグリセリドの分析>
本発明において、油脂を構成する脂肪酸の分析は、AOCS Official Method Ce 1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定することができる。油脂中の、トリグリセリド量は、ガスクロマトグラフィー法(JAOCS,Vol.70,no.11,1111-1114(1993)に準じて測定することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1:サンプル調製)
HOLL菜種脱色油(高オレイン酸菜種脱色油 構成脂肪酸中のオレイン酸:73.4質量% 日清オイリオグループ株式会社製)、構成脂肪酸が質量比でカプリル酸:カプリン酸=75:25であるMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド 日清オイリオグループ株式会社製)を表1の配合(質量割合)で混合した。この混合物100質量部に対して、リパーゼQLM(名糖産業株式会社製)0.3質量部を添加し、攪拌下45℃で16時間、エステル交換反応を行った。反応生成物から酵素を濾別し、濾液を脱酸、脱色、脱臭(250℃、3Torr、60分)して組成物(実施例1)を得た。
組成物の炭素数6~10の飽和脂肪酸は13.7%、オレイン酸は63.1%であった。また、油脂中の、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリドは1.5質量%、炭素数6~10の飽和脂肪酸を2つ含むトリグリセリドの量は10.8質量%、構成脂肪酸に炭素数6~10の飽和脂肪酸を1つ含むトリグリセリドの量は37.8質量%であった。
【0039】
(実施例2~5、比較例1:サンプル調製)
菜種脱色油(構成脂肪酸中のオレイン酸:61.4質量%、日清オイリオグループ株式会社製)、HOLL菜種脱色油(高オレイン酸菜種脱色油 構成脂肪酸中のオレイン酸:73.4質量% 日清オイリオグループ株式会社製)、高オレイン酸ひまわり脱色油(構成脂肪酸中のオレイン酸:81.8質量%、日清オイリオグループ株式会社製)、構成脂肪酸が質量比でカプリル酸:カプリン酸=75:25であるMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド 日清オイリオグループ株式会社製)を表1の配合(質量割合)で混合した。この混合物100質量部に対して、リパーゼQLM(名糖産業株式会社製)0.3質量部を添加し、攪拌下45℃で16時間、エステル交換反応を行った。反応生成物から酵素を濾別し、濾液を脱酸、脱色、脱臭(250℃、3Torr、60分)して組成物(実施例2~5、比較例1)を得た。
【0040】
(分析)
油脂の脂肪酸の分析は、AOCS Ce1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定した。油脂中の、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリド量は、ガスクロマトグラフィー法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)に準じて測定した。
組成物(比較例1、実施例1~5)の、分析値[油脂の構成脂肪酸中の炭素数6~10の飽和脂肪酸量(質量割合)、油脂の構成脂肪酸中のオレイン酸量(質量割合)、炭素数6~10の飽和脂肪酸のみからなるトリグリセリド量(質量割合)]を表1に示す。
【0041】
【0042】
(フライ時の泡立ち試験)
油脂組成物(比較例1、実施例1~5)を試験管(内径28mm)に20ml入れ、160℃に加熱する。ジャガイモ片(立方体 1cm×1cm×1cm)を油脂組成物に入れ、発生した泡の最高到達距離を測定した。
また、比較例1にショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルO-170 三菱ケミカルフーズ株式会社製)を0.8質量%添加し、参考例1の油脂組成物を調整した。参考例1も同様に泡の最高到達距離を測定した。
また、フライを行うと、フライ調理品からリン脂質等が溶出し、泡立ちがひどくなる。そのため、油脂組成物(比較例1、実施例1~5、参考例1)にレシチン(日清オイリオグループ株式会社製)200ppm(質量割合)添加し、前述のとおり、発生した泡の最高到達距離を測定した。
測定は各3回行い、泡立ち(泡の最高到達距離の平均値)を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2に示される通り、実施例1~5は、いずれも泡立ちが良好であり、特にフライ調理品からリン脂質等が溶出して、泡立ちが激しくなるような場合であっても、充分に泡立ちが抑えられることが確認できた。
【0045】
(マヨネーズ評価)
マヨネーズは、下記の方法で作製した。
フードプロセッサーに卵3個、米酢45g、塩、5g、マスタード2g、砂糖2g、こしょう少々を入れて10秒間撹拌した。次いで、撹拌を続けながら、実施例1~5、比較例1の油脂組成物360gを少しずつ加えた。油脂組成物を加え終えた後、さらに約3分間撹拌し、マヨネーズの保形性を確認した。その結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
表2、3から、比較例1は泡立ちがひどく、比較例1にショ糖脂肪酸エステルを添加すると泡立ちが改善できるものの、マヨネーズの保形性が悪くなる。一方、実施例1~5は、泡立ちも良好で、マヨネーズの保形性も良好であった。