(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2251 20180101AFI20230306BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230306BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20230306BHJP
【FI】
G01N23/2251
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
(21)【出願番号】P 2019146172
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】三羽 貴文
(72)【発明者】
【氏名】君塚 平太
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】福田 宗行
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-053989(JP,A)
【文献】特開2010-067516(JP,A)
【文献】特開2017-162590(JP,A)
【文献】特開2014-211314(JP,A)
【文献】特開2017-134882(JP,A)
【文献】特開平09-180667(JP,A)
【文献】特開昭62-115636(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0195406(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0075327(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
H01J 37/28
H01J 37/22
H01L 21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の位置的または時間的に異なる複数の照射点に荷電粒子線を照射する荷電粒子線光学系と、
前記荷電粒子線光学系による荷電粒子線の照射に応じて前記試料から放出された電子を検出する検出器と、
前記複数の照射点において前記検出器によって検出された電子から、前記照射点間の依存関係を演算する演算器と、
表示装置と、
を有し、
前記演算器は、前記照射点間の依存関係を表す有向グラフを生成し、前記有向グラフを前記表示装置に表示し、
前記有向グラフは、位置的に異なる照射点間において、依存関係の方向と依存関係の強さとを表すものであり、位置的に同一の照射点において、照射時間に対する依存関係の強さを表すものである、
荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記演算器は、前記荷電粒子線を第1の照射点に照射した後に、
前記第1の照射点とは位置的に異なる第2の照射点に照射した
第1の場合と、前記第2の照射点に照射した後に前記第1の照射点に照射した
第2の場合とで、前記第1の照射点または前記第2の照射点に対応する前記検出器での検出結果を比較することで前記照射点間の依存関係を演算する、
荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記演算器は、前記荷電粒子線を
位置的に同一である第3の照射点に持続的に照射した場合の、各時点における前記検出器での検出結果を比較することで、前記照射点間の依存関係を演算する、
荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、さらに、
前記
有向グラフと、デバイス構造との対応関係を保持する推定構造データベースと、
前記演算器による演算結果と前記推定構造データベースとを比較することで、対応する前記デバイス構造を出力する比較器と、
を有する、
荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記
有向グラフと、等価回路との対応関係を保持する推定構造データベースと、
前記演算器による演算結果と前記推定構造データベースとを比較することで、対応する前記等価回路を出力する比較器と、
を有する、
荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項2記載の荷電粒子線装置において、
前記演算器は、前記第1の照射点に照射した時点と前記第2の照射点に照射した時点との時間間隔をΔTとし、前記第2の照射点を対象とした前記検出器による検出結果であり、前記第1の場合での前記検出結果と前記第2の場合での前記検出結果との変化量をΔBとして、前記有向グラフに含まれる前記依存関係の強さ|W|を、
|W|=|ΔB/ΔT|
によって算出する、
荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項3記載の荷電粒子線装置において、
前記演算器は、前記第3の照射点に対する照射時間間隔をΔTとし、前記第3の照射点を対象とした前記検出器による検出結果であり、前記照射時間間隔で生じた前記検出結果の変化量をΔBとして、前記有向グラフに含まれる前記依存関係の強さ|W|を、
|W|=|ΔB/ΔT|
によって算出する、
荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関し、例えば、荷電粒子線を用いて試料の内部構造を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡を用いた試料解析法の1つに、電子ビームを試料に照射することによって得られる二次電子等の検出に基づいて、電位コントラスト像を形成し、当該電位コントラスト像の解析に基づいて、試料上に形成された素子の電気特性を評価する手法が知られている。
【0003】
特許文献1には、電位コントラストから電気抵抗値を算出し、欠陥を判別する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、電位コントラストを用いて試料の抵抗値を推定する方法を開示している。一方、例えば、試料によっては、試料内に形成される部材間で相互作用が生じる場合がある。このような場合、単一の観察条件だけでは試料の内部デバイス構造を十分に推定することが困難となり得る。
【0006】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、試料の内部デバイス構造を推定可能な荷電粒子線装置を提供することにある。
【0007】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による荷電粒子線装置は、荷電粒子線光学系と、検出器と、演算器と、を有する。荷電粒子線光学系は、試料上の位置的または時間的に異なる複数の照射点に荷電粒子線を照射する。検出器は、荷電粒子線光学系による荷電粒子線の照射に応じて試料から放出された電子を検出する。演算器は、複数の照射点において検出器によって検出された電子から、照射点間の依存関係を演算する。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、荷電粒子線装置を用いて、試料の内部デバイス構造を推定可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の一実施の形態による荷電粒子線装置の主要部の構成例を示す概略図である。
【
図1B】
図1Aにおける計算機周りの主要部の構成例を示す概略図である。
【
図2】
図1Bの電子顕微鏡装置の主要部の動作例を示すフロー図である。
【
図3】(a)~(d)は、
図1Bにおける演算器の処理内容の一例を説明する模式図である。
【
図4】(a)~(d)は、
図1Bの電子顕微鏡装置において、スキャン方向を変えながら所定の試料から得られた照射結果の一例を示す図であり、(e)は、(a)~(d)の照射結果から得られる照射点間の依存関係の一例を示す図である。
【
図5】
図1Bにおける推定構造データベースの構成例を示す概略図である。
【
図6】(a)は、
図1Bの演算器による演算結果の一例を示す図であり、(b)は、(a)の演算結果に応じた比較器からの出力内容の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
《荷電粒子線装置の構成》
図1Aは、本発明の一実施の形態による荷電粒子線装置の主要部の構成例を示す概略図である。
図1Bは、
図1Aにおける計算機周りの主要部の構成例を示す概略図である。明細書では、荷電粒子線装置が、電子線を用いる電子顕微鏡装置である場合を例とするが、これに限らず、例えば、イオン線を用いるイオン顕微鏡装置等であってもよい。
図1Aに示す荷電粒子線装置は、電子顕微鏡本体101と、計算機102と、表示装置103と、記憶装置104と、入出力装置105とを備える。入出力装置105は、例えば、キーボードやマウス等のユーザインタフェースである。
【0015】
電子顕微鏡本体101は、電子源111と、パルス変調器112と、絞り113と、偏向器114と、対物レンズ115と、ステージ116と、検出器117と、これらを制御する電子顕微鏡制御器110とを備える。ステージ116上には試料SPLが搭載される。パルス変調器112は、予め定められたパルス化条件に基づいて、電子源111からの電子線(荷電粒子線)をパルス化(変調)して試料SPLへ照射する。偏向器114は、試料SPL上で電子線をスキャンする。
【0016】
図1Bには、電子顕微鏡本体101として、
図1Aに示した電子顕微鏡制御器110、電子源111、偏向器114および検出器117が代表的に示される。この内、電子源111および偏向器114等は、電子線光学系(荷電粒子線光学系)120と呼ばれる。電子線光学系120は、試料SPL上の位置的または時間的に異なる複数の照射点に電子線(荷電粒子線)を照射する。検出器117は、当該電子線光学系120による電子線の照射に応じて試料SPLから放出された電子(二次電子、反射電子)の放出量を検出する。
【0017】
ここで、例えば、記憶装置104には、図示は省略されるが、試料SPLに電子線を照射する際の各種条件を規定する複数のスキャンレシピが格納される。各スキャンレシピは、例えば、光学条件、スキャン条件、パルス化条件等の組み合わせを定める。光学条件は、例えば、加速電圧、リターディング電圧、照射電流(プローブ電流)、スキャン速度、スキャン間隔、倍率、開き角、ワーキングディスタンス等を定める。リターディング電圧は、図示は省略されるが、試料SPLに電圧を印加することで、試料SPL直前で電子線の速度を減速させるための電圧である。
【0018】
スキャン条件は、例えば、試料SPLの平面上におけるスキャン範囲や、当該スキャン範囲における電子線の動かし方(例えば、右方向、左方向、上方向、下方向等)などを定める。すなわち、スキャン条件は、偏向器114等を用いて、どの時点でどの座標に電子線をフォーカスするか(ただし、フォーカスするが実際に照射するとは限らない)を定める。パルス化条件は、試料SPLに電子線をパルス状に照射する際のパルス化条件を定め、所定の制御周期においてどの時点からどの期間だけ電子線の照射をオンにするかを定める。すなわち、パルス化条件は、パルス変調器112等を用いて、スキャン条件に基づきフォーカスされた先で実際の照射を行うか否かを定める。
【0019】
電子顕微鏡本体101内の電子顕微鏡制御器110は、このようなスキャンレシピに基づき、電子線光学系120を制御する。また、電子顕微鏡制御器110は、電子線光学系120の制御に同期して検出器117を制御する。
【0020】
計算機102は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を含むコンピュータシステムによって構成される。計算機102は、スキャン条件選択部125と、電子線照射結果記憶部126と、演算器127と、比較器128と、推定構造データベース129と、推定結果記憶部130と、演算結果記憶部131と、インタフェース132とを備える。これらの各部は、例えば、CPU等によるプログラム処理や、記憶部を構成する計算機102内の揮発性メモリまたは不揮発性メモリ等によって実現される。
【0021】
スキャン条件選択部125は、記憶装置104に格納される所定のスキャンレシピに基づき、当該スキャンレシピで規定される複数のスキャン条件の中の一つを選択する。電子線光学系120は、スキャン条件選択部125で選択されたスキャン条件に基づいて、電子顕微鏡制御器110からの制御を介して、試料SPLに電子線を照射する。検出器117は、当該電子線の照射に応じて試料SPLから放出される電子を検出する。
【0022】
電子線照射結果記憶部126は、検出器117によって検出された電子を電子線照射結果として記憶する。電子線照射結果は、例えば、検出器117によって検出された照射点毎の二次電子放出量の実測値であっても、当該実測値を二次電子像(電位コントラスト像)に変換したものであってもよい。
【0023】
演算器127は、詳細は後述するが、スキャン条件選択部125を介してスキャン条件(例えば、右方向、左方向等)を変えながら、複数の照射点において検出器117によって検出された電子(すなわち、電子線照射結果記憶部126に格納される照射結果)から、照射点間の依存関係を演算する。そして、演算器127は、当該照射点間の依存関係の演算結果を、演算結果記憶部131に格納する。また、演算器127は、演算結果記憶部131に格納された演算結果をインタフェース132を介して表示装置103に表示するか、または、記憶装置104に格納する。
【0024】
推定構造データベース129は、例えば、計算機102内の不揮発性メモリまたは記憶装置104等によって実現され、照射点間の依存関係と、デバイス構造(または等価回路)との対応関係を保持する。比較器128は、演算器127による演算結果(すなわち、照射点間の依存関係)と推定構造データベース129とを比較することで、対応するデバイス構造(または等価回路)を出力し、推定結果記憶部130に格納する。また、比較器128は、推定結果記憶部130に格納された推定結果をインタフェース132を介して表示装置103に表示するか、または、記憶装置104に格納する。
【0025】
《荷電粒子線装置の動作》
図2は、
図1Bの電子顕微鏡装置の主要部の動作例を示すフロー図である。ステップS101において、スキャン条件選択部125は、演算器127からの指示に基づき、スキャンレシピを選択する。スキャンレシピには、例えば、電子線のスキャン方向(右方向、左方向、上方向、下方向等)やスキャン速度等が異なる複数のスキャン条件が規定される。ステップS102において、スキャン条件選択部125は、選択したスキャンレシピに規定された複数のスキャン条件の一つ(例えば、右方向へのスキャン)を選択し、電子顕微鏡本体101の電子顕微鏡制御器110へ指示する。
【0026】
ステップS103において、電子線光学系120は、電子顕微鏡制御器110を介してスキャン条件選択部125から指示されたスキャン条件に基づいて、試料SPLへ電子線を照射する。ステップS104において、検出器117は、電子線の照射に応じて試料SPLから放出された電子を検出し、当該検出結果を電子線照射結果記憶部126へ格納する。ステップS105において、スキャン条件選択部125は、演算器127からの指示に基づき、スキャンレシピに規定される全てのスキャン条件による照射が完了したか否かを判別する。
【0027】
ステップS105において、全てのスキャン条件による照射が完了していない場合、スキャン条件選択部125は、ステップS106において、スキャンレシピ内の別のスキャン条件(例えば、左方向へのスキャン)を選択し、ステップS103の処理に戻る。一方、ステップS105において、全てのスキャン条件による照射が完了した場合、演算器127は、ステップS107において、電子線照射結果記憶部126に格納された照射結果に基づき、照射点間の依存関係を演算し、当該演算結果を演算結果記憶部131に格納する。次いで、ステップS108において、演算器127は、演算結果記憶部131に格納された演算結果をインタフェース132を介して表示装置103に表示する。
【0028】
《演算器の詳細》
図3(a)~
図3(d)は、
図1Bにおける演算器の処理内容の一例を説明する模式図である。
図3(a)には、照射点X,Yに対する照射結果が示され、左方向へのスキャンに伴う照射結果301aと、右方向へのスキャンに伴う照射結果301bとが示される。
図3(a)の照射結果301a,301bでは、次のような現象が生じている。照射点Xに事前照射を行うと、照射点Yを明るくする効果(すなわち、照射点Yからの二次電子放出量を増加させる効果)がある。逆に、照射点Yに事前照射を行っても、照射点Xを明るくする(および暗くする)効果はない。
【0029】
そこで、演算器127は、このような照射点X,Y間の依存関係を、有向グラフ311で表現し(すなわち、依存関係を表す有向グラフ311を生成し)、当該有向グラフ311を表示装置103に表示する。具体的には、演算器127は、照射点X,Y間の依存関係を、照射点Xから照射点Yへの依存関係を示す矢印と、この依存関係の強さを表す正極の重み係数“+|W|”で表現する。
【0030】
図3(b)にも、照射点X,Yに対する照射結果が示され、左方向へのスキャンに伴う
図3(a)とは異なる照射結果302aと、右方向へのスキャンに伴う
図3(a)とは異なる照射結果302bとが示される。
図3(b)の照射結果302a,302bでは、次のような現象が生じている。照射点Xに事前照射を行うと、照射点Yを暗くする効果(すなわち、照射点Yからの二次電子放出量を減少させる効果)がある。逆に、照射点Yに事前照射を行っても、照射点Xを暗くする(および明るくする)効果はない。このような照射点X,Y間の依存関係は、
図3(a)の場合と同様にして、照射点Xから照射点Yへの関係性を示す矢印と、この関係性の強さを表す負極の重み係数“-|W|”で表現される。
【0031】
このように、演算器127は、電子線を照射点Xに照射した後に照射点Yに照射した場合と、照射点Yに照射した後に照射点Xに照射した場合とで、照射点Xまたは照射点Yに対応する検出器117での検出結果を比較することで位置的に異なる照射点X,Y間の依存関係を演算する。この際のスキャン方法に関しては、例えば、右方向に連続的に照射することで、結果的に、照射点Xを照射した後に照射点Yを照射する方法(すなわち、照射点Xと照射点Yの間の箇所にも照射する方法)であってよい。または、右方向にスキャンしながら
図1Aのパルス変調器112を用いることで、明示的に、照射点Xを照射した後に照射点Yを照射する方法(すなわち、照射点Xと照射点Yの間の箇所に照射しない方法)であってもよい。
【0032】
図3(c)には、照射点Xに対して持続的に照射した場合の照射結果が示される。
図3(c)の照射結果303では、次のような現象が生じている。照射点Xへの照射を持続すると、照射点Xが段階的に明るくなる効果(すなわち、照射点Xからの二次電子放出量を増加させる効果)がある。この現象は、照射点Xから同じく照射点Xへの関係性を示す矢印と、この関係性の強さを表す正極の重み係数“+|W|”で表現される。
【0033】
図3(d)にも、照射点Xに対して持続的に照射した場合の
図3(c)とは異なる照射結果が示される。
図3(d)の照射結果304では、次のような現象が生じている。照射点Xへの照射を持続すると、照射点Xが段階的に暗くなる効果(すなわち、照射点Xからの二次電子放出量を減少させる効果)がある。この現象は、
図3(c)の場合と同様にして、照射点Xから同じく照射点Xへの関係性を示す矢印と、この関係性の強さを表す負極の重み係数“-|W|”で表現される。
【0034】
このように、演算器127は、電子線を所定の照射点に持続的に照射した場合の、各時点における検出器117での検出結果を比較することで、時間的に異なる照射点X間の依存関係を演算する。この際のスキャン方法に関しては、例えば、照射点Xに連続して照射しながら、定期的に検出器117による検出を行う方法であってよい。または、パルス変調器112を用いることで、照射点Xに対して所定の時間間隔で繰り返し照射を行い、その各回で検出器117による検出を行う方法であってもよい。
【0035】
ここで、
図3(a)~
図3(d)に示した照射点間の重み係数“|W|”は、例えば、照射時間間隔
ΔTと二次電子放出量の変化量(または、二次電子像における明度の変化量)ΔBを用いて式(1)のような形で表すことができる。例えば、
図3(a)の場合、照射時間間隔
ΔTは、照射点Xに照射した時点と照射点Yに照射した時点との時間間隔であり、変化量ΔBは、照射点Yにおける照射結果301aと照射結果301bとの明度(二次電子放出量)の差分である。また、例えば、
図3(c)の場合、照射時間間隔
ΔTは、例えば、ある時点t1とその後の時点t2との時間間隔であり、変化量ΔBは、時点t1における明度(二次電子放出量)と、時点t2における明度との差分である。
|W|=|ΔB/ΔT| (1)
【0036】
図4(a)~
図4(d)は、
図1Bの電子顕微鏡装置において、スキャン方向を変えながら所定の試料から得られた照射結果の一例を示す図であり、
図4(e)は、
図4(a)~
図4(d)の照射結果から得られる照射点間の依存関係の一例を示す図である。
図4(a)には、試料上を下方向にスキャンした場合の照射結果401が示され、
図4(b)には、試料上を上方向にスキャンした場合の照射結果402が示される。
【0037】
図4(c)には、試料上を左方向にスキャンした場合の照射結果403が示され、
図4(d)には、試料上を右方向にスキャンした場合の照射結果404が示される。例えば、
図2のステップS101で選択されるスキャンレシピには、スキャン条件として、このように、上下左右方向にそれぞれスキャンすることが規定される。
【0038】
ここで、演算器127は、
図4(a)および
図4(b)の照射結果401,402に基づき、
図4(e)の有向グラフ405に示されるように、照射点Aから照射点Bへ
図3(b)に示したような負の重み係数“-W
AB”を有する依存関係があることを検知する。また、演算器127は、
図4(c)および
図4(d)の照射結果403,404に基づき、
図4(e)の有向グラフ405に示されるように、照射点Bから照射点Eへ負の重み係数“-W
BE”を有する依存関係があり、さらに、照射点Eから照射点Bへも負の重み係数“-W
EB”を有する依存関係があることを検知する。
【0039】
なお、この例では、図示は省略されるが、照射点Cに対して電子線の持続的な照射が行われているものとする。そして、照射点Cに対する照射結果は、
図3(d)に示したように、時間が経過する毎に暗くなっているものとする。この場合、演算器127は、
図4(e)の有向グラフ405に示されるように、照射点Cにおいて、時間的に負の重み係数“-W
C”を有する依存関係があることを検知する。
【0040】
《推定構造データベースの詳細》
図5は、
図1Bにおける推定構造データベースの構成例を示す概略図である。推定構造データベース129は、
図5に示されるように、有向グラフ(すなわち照射点間の依存関係)と、デバイス構造(または等価回路)との対応関係を予め保持する。例えば、項目[1]の有向グラフ501は、照射点Xに事前照射を行うことで照射点Yからの二次電子放出量が増加することを表す。この場合、対応するデバイス構造505(または等価回路)は、例えば、MOSトランジスタMTであることが推定される。
【0041】
すなわち、照射点Xに事前照射を行うことで、照射点XをゲートとするMOSトランジスタがオンとなり、開放ノード(ソースまたはドレイン)であった照射点Yは、MOSトランジスタのチャネルを介して導通ノードとなる。その結果、その直後に照射点Yに電子線を照射すると、照射点Yは、照射点Xに事前照射を行わない場合(すなわち開放ノードであった場合)よりも帯電し難くなり、結果として照射点Yからの二次電子放出量は増加する。
【0042】
項目[2]の有向グラフ502は、照射点Xに事前照射を行うことで照射点Yからの二次電子放出量が減少することを表す。この場合、対応するデバイス構造506は、例えば、照射点X側をアノード、照射点Y側をカソードとするダイオードDDであることが推定される。すなわち、照射点Xに事前照射を行うと、これに伴う帯電がダイオードDDを介して照射点Yでも生じる。その結果、その直後に照射点Yに電子線を照射すると、照射点Yの帯電量は、照射点Xに事前照射を行わない場合よりも増加し、結果として、照射点Yからの二次電子放出量は減少する。
【0043】
項目[3]の有向グラフ503は、照射点Xに事前照射を行うことで照射点Yからの二次電子放出量が減少し、逆に、照射点Yに事前照射を行うことでも照射点Xからの二次電子放出量が減少することを表す。この場合、対応するデバイス構造507は、例えば、抵抗素子REであることが推定される。すなわち、照射点Xに事前照射を行うと、これに伴う帯電が抵抗素子REを介して照射点Yでも生じる。その結果、その直後に照射点Yに電子線を照射すると、照射点Yの帯電量は、照射点Xに事前照射を行わない場合よりも増加し、結果として、照射点Yからの二次電子放出量は減少する。照射点Xと照射点Yを入れ替えた場合も同様である。
【0044】
《デバイス構造の推定処理》
図6(a)は、
図1Bの演算器による演算結果の一例を示す図であり、
図6(b)は、
図6(a)の演算結果に応じた比較器からの出力内容の一例を示す図である。
図6(a)には、
図4(e)の場合と同様の有向グラフ405が示される。比較器128は、有向グラフ405における照射点Aと照射点Bとの依存関係に対応する構造を、
図5の推定構造データベース129の項目[2]に基づきダイオードDDとみなす。また、比較器128は、有向グラフ405における照射点Bと照射点Eとの依存関係に対応する構造を、
図5の推定構造データベース129の項目[3]に基づき抵抗素子REとみなす。
【0045】
このようにして、比較器128は、演算器127による演算結果(有向フラグ)と、推定構造データベース129とを比較することで、
図6(b)に示されるように、対応するデバイス構造、または、等価回路、あるいはその組み合わせを出力する。
図6(b)のデバイス構造では、照射点Aに対応するコンタクトプラグ601aと照射点Bに対応するコンタクトプラグ601bとは、コンタクトプラグ601a側をアノードとするダイオードDDを介して接続される。また、照射点Bに対応するコンタクトプラグ601bと照射点Eに対応するコンタクトプラグ601eとは、抵抗素子REとして機能する導電体602を介して接続される。これにより、コンタクトプラグ601aとコンタクトプラグ601eとは、ダイオードDDおよび抵抗素子REを介して接続される。
【0046】
なお、有向グラフ405における照射点Cは、照射を行う毎に二次電子放出量が減少することを表す。この場合、照射毎に帯電量が増加することから、例えば、絶縁性が非常に高いデバイス構造であることが推定される。逆に、
図3(c)のように正極の重み係数を有する照射点の場合、例えば、負の抵抗特性を有するデバイス構造であることが推定される。図示は省略されるが、
図5の推定構造データベース129には、このような場合のデバイス構造(または等価回路)が含まれてもよい。
【0047】
また、有向グラフにおける重み係数“W”の大きさは、例えば、正常構造とみなすか欠陥構造とみなすかを切り分ける際の判別基準として用いることができる。または、重み係数“W”の大きさは、同一種の有向グラフに対して複数のデバイス構造が推定される前提で、この複数のデバイス構造を切り分ける際の判別基準として用いることができる。
【0048】
ここで、
図1Bの例では、演算結果記憶部131に格納される
図6(a)のような有効グラフ405や、または、推定結果記憶部130に格納される
図6(b)のようなデバイス構造(または等価回路)は、表示装置103に表示される。例えば、試料SPLに何らかの異常が検出された場合、ユーザは、通常、当該試料SPLの断面構造を観察するといった不良解析を行う。この際に、表示装置103に有向グラフや、デバイス構造(または等価回路)を表示することで、ユーザは、当該表示内容に基づいて、具体的にどの断面構造を観察するのが適切かを判別することができる。その結果、不良解析を効率化すること等が可能になる。
【0049】
《実施の形態の主要な効果》
以上、実施の形態の荷電粒子線装置を用いることで、代表的には、試料の内部デバイス構造を推定可能になる。その結果、例えば、製造工程での不具合の原因や、または、製品設計上の不具合の原因等を早期に究明することが可能になり、製品開発期間の短縮や、製品の信頼性向上や、各種コストの低減等が実現可能になる。なお、ここでは、照射点間の依存関係を有向グラフで表現したが、依存関係の方向と、依存関係の強さが判るものであれば、その他の表現方法を用いてもよい。
【0050】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
101 電子顕微鏡本体
102 計算機
103 表示装置
104 記憶装置
105 入出力装置
110 電子顕微鏡制御器
111 電子源
112 パルス変調器
113 絞り
114 偏向器
115 対物レンズ
116 ステージ
117 検出器
120 電子線光学系
125 スキャン条件選択部
126 電子線照射結果記憶部
127 演算器
128 比較器
129 推定構造データベース
130 推定結果記憶部
131 演算結果記憶部
132 インタフェース
301~304,401~404 照射結果
311~314,405,501~503 有向グラフ
505~507 デバイス構造
601 コンタクトプラグ
602 導電体
A~F,X,Y 照射点
DD ダイオード
MT MOSトランジスタ
RE 抵抗素子
SPL 試料