(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20230306BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20230306BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20230306BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230306BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20230306BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20230306BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20230306BHJP
【FI】
H10K50/12
C09K11/06 690
C09K11/06 660
G09F9/30 365
H05B33/14 B
H10K85/60
H10K59/10
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2021128619
(22)【出願日】2021-08-04
(62)【分割の表示】P 2018518150の分割
【原出願日】2017-04-06
【審査請求日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2016100865
(32)【優先日】2016-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川邉 里美
(72)【発明者】
【氏名】谷 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛人
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199622(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/098246(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/129491(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/062075(WO,A1)
【文献】特開2015-135836(JP,A)
【文献】特開2015-167150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00
H10K 59/00
C09K 11/06
G09F 9/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極により挟まれた発光層と、前記発光層を含む複数の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が、リン光発光性化合物、下記式と下記要件(11)の関係を満たすホスト化合物A及びホスト化合物Bを含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
ホスト化合物A=X+nR
1
ホスト化合物B=X+mR
2
(式中、Xは複数の芳香環基が連結した構造を有し、結合位置も同一である構造を表す。前記芳香環基とは、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を意味する。
ホスト化合物AのX及びホスト化合物BのXは、同一構造である。
R
1は、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
R
2は、電子吸引性基、
含窒素5員芳香族複素環、又は
含窒素6員芳香族複素環を表す。
nは、0又は1~4の整数を表し、nが0の場合は、R
1は水素原子を表す。
mは、1~4の整数を表す。
前記Xは、下記一般
式(5)、又は、(7)で表される構造を有する。)
(11)[前記ホスト化合物AのHOMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのHOMOエネルギー準位]≧0.15eV
【化1】
(一般式(5)において、環aは2つの隣接環の任意の位置で縮合する式(a5)で表される芳香環又は複素環を表し、X
51はC-R又は窒素原子を表す。環bは2つの隣接環の任意の位置で縮合する式(b5)で表される複素環を表し、L
1及びL
2は各々独立に、炭素数6~22の芳香族炭化水素環基、炭素数3~16の芳香族複素環基、又はそれらが2~10連結された基を表す。L
1及びL
2におけるこれらの芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基は、置換基を有してもよい。pは0~7の整数を表す。ここで、pが2以上の場合、L
1はそれぞれ同一でも異なってもよく、L
2はそれぞれ同一でも異なってもよい。R、R
51~R
53は各々独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~38のアラルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数2~40のジアルキルアミノ基、炭素数12~44のジアリールアミノ基、炭素数14~76のジアラルキルアミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数2~20のアシルオキシ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルコキシカルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数6~22の芳香族炭化水素環基、又は炭素数3~16の芳香族複素環基を表し、これらはそれぞれ置換基を有してもよい。
【化2】
(一般式(7)において、X
71、X
72及びX
73は各々独立に、C-R´又は窒素原子を表し、X
71、X
72及びX
73の少なくとも一つは窒素原子である。R´、Ar
71及びAr
72は各々独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を表す。R´、Ar
71及びAr
72が全て同時に水素原子であることはない。)
【請求項2】
前記R
2が、電子吸引性基、又は、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、キノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環、アクリジン環、フェナジン環、ベンゾキノリン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジオキサジン環、トリフェノジチアジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環から選択される含窒素芳香族複素環を表す請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記R
2が、下記構造(a)又は下記構造(b)を表す請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】
【請求項4】
前記ホスト化合物Aと前記ホスト化合物Bが、下記要件(12)及び(13)の関係を満たすことを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(12)前記ホスト化合物A及び前記ホスト化合物Bの励起三重項エネルギー(T
1エネルギー)≧3.0eV
(13)[前記ホスト化合物AのLUMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのLUMOエネルギー準位]≧0.15eV
【請求項5】
前記リン光発光性化合物が、下記D-1~D-13のいずれかの化合物である請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項6】
前記発光層が、下記要件(14)~(16)の関係を満たす前記リン光発光性化合物、前記ホスト化合物A及び前記ホスト化合物Bを含有することを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(14)前記リン光発光性化合物の溶液中における発光スペクトルの発光極大波長が、470nm以下
(15)[前記リン光発光性化合物のHOMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのHOMOエネルギー準位]≧0.35eV
(16)前記ホスト化合物Aと前記ホスト化合物Bの比率が、10:90~90:10
【請求項7】
前記電子吸引性基が、シアノ基、ニトロ基、アルキルホスフィノ基、アリールホスフィノ基、アシル基、フルオロアルキル基、ペンタフルオロスルファニル基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種以上である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記電子吸引性基が、シアノ基、ニトロ基、ジメチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、ジナフチルホスフィノ基、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、フッ素原子、及び、臭素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記電子吸引性基が、シアノ基である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記一般式(5)中、(a5)におけるX
51
が、C-Rである請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記一般式(7)において、X
71
、X
72
及びX
73
の内、二つ又は三つが窒素原子である請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記ホスト化合物Aが、下記501a又は502aの化合物であり、前記ホスト化合物Bが、下記551b、552b、553b、554b、及び、555bのうちのいずれかの化合物である、請求項3又は請求項4を引用する場合を除く、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化7】
【請求項13】
前記ホスト化合物Aが、下記701a又は702aの化合物であり、前記ホスト化合物Bが、下記751b、752b、753b、754b、755b、及び、756bのうちのいずれかの化合物である、請求項3、請求項4、又は、請求項10を引用する場合を除く、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化8】
【請求項14】
請求項1から請求項
13のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする表示装置。
【請求項15】
請求項1から請求項
13のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、並びに、それを具備した表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう)は、陽極と陰極の間を、有機発光物質が含有された有機薄膜層(単層部又は多層部)で構成する薄膜型の全固体素子である。
有機EL素子に電圧を印加すると、有機薄膜層に陰極から電子が、陽極から正孔が注入され、これらが発光層(有機発光物質含有層)において再結合して励起子が生じる。有機EL素子はこれら励起子からの光の放出(蛍光・リン光)を利用した発光素子であり、次世代の平面ディスプレイや照明として期待されている技術である。
更に、通常の蛍光発光を利用する有機EL素子に比べ、原理的に約4倍の発光効率が実現可能である励起三重項からのリン光発光を利用する有機EL素子がプリンストン大学から報告されて以来、室温でリン光を示す材料の開発を始めとし、発光素子の層構成や電極の研究開発が世界中で行われている。
【0003】
このように、リン光発光方式は、大変ポテンシャルの高い方式であるが、素子寿命はまだ十分とはいえない。実際に、スマートフォンにもテレビにも、赤色発光と緑色発光にはこのリン光発光が適用されているものの、青色発光には旧来の蛍光発光が使われており、まだ青色リン光を使った電子ディスプレイは実用化されていない。
【0004】
発光素子において、リン光発光材料は、通常ホスト化合物と呼ばれる有機化合物との混合膜として使用されているが、これには、主に二つの要因がある。一つ目は、発光材料同士が凝集することにより発光効率が低下してしまうため、ホストは発光材料の分散剤の役割を有する。二つ目は、発光材料へ電荷(正孔・電子)を運ぶ役割である。
【0005】
ここで、素子寿命に影響を与える要因として、一つ目としては、発光材料が分解することにより非発光となること、二つ目としては、発光材料以外の化合物が化学反応を起こして、励起三重項エネルギー(T1エネルギー)が低下し、クエンチャーとなり、発光が低下すること、三つ目としては、発光層の膜質変化により電荷(正孔・電子)の移動性が変化し、発光材料において再結合確率の低下、再結合位置の変化による寿命の低下が起こること、等が挙げられる。
【0006】
特に、青色リン光材料はバンドギャップが広いため、HOMOのエネルギー準位が低く、LUMOのエネルギー準位が高くなり、T1エネルギーが高くなる。このため、青色リン光材料とホスト化合物のHOMOエネルギー差が小さくなるため、ホスト化合物が主に正孔を運ぶようになり、正孔の移動度が早く、リン光発光材料の正孔トラップ能が低下する。これにより、再結合確率の低下が起きたり、発光位置が陰極側に片寄り発光領域が低下したりするため、素子寿命低下の原因となっていると考えている。また、青色リン光材料とホスト化合物のHOMOエネルギー差が小さいため、ホスト励起子が生成しやすく、発光層の膜質変化が発生し、キャリア移動性や結合確率の低下が起きていると考えている。
【0007】
このような課題に対して、ホストに、アクセプター性の高い芳香族化合物を用い、HOMOエネルギー準位を低くすることで、青色リン光材料とホスト化合物のHOMOエネルギー差が大きいホスト化合物を得る方法がある。しかしながら、アクセプター性の高いホスト化合物は励起子の耐性が悪いため、素子寿命が低いという課題がある。
【0008】
そこで、特許文献1には、ホスト化合物の基本骨格の60%以上が同一構造を有するホスト化合物を2種類以上用いることで、発光層に使用する化合物の結晶化を抑制して、素子の発光効率、駆動電圧を改良する技術が開示されている。
また、特許文献2には、発光層に含まれるホスト化合物の3環から5環が縮環した芳香族炭化水素環と芳香族複素環の総数、単環又は2環が縮合した芳香族炭化水素環と芳香族複素環との総数を規定することでホスト化合物同士の凝集を抑制し、素子寿命、及び駆動電圧を改良する技術が開示されている。
【0009】
しかし、これらの技術は、特定のホスト化合物の混合による凝集抑制により、膜質を安定化させるものと思われるが、キャリアの輸送性の調整については述べられていない。このため、青色リン光材料とホスト化合物のHOMOエネルギー差が小さいという、青色リン光材料の特有の性質によって発生する課題(例えば、正孔の移動度が早くなり再結合確率が低下するという課題、発光位置が陰極側に片寄るため発光領域が低下するという課題、キャリア漏れによって周辺層が劣化するという課題、ホスト励起子が生成しやすいため、発光層の膜質変化が発生し、キャリア移動性や結合確率が低下するという課題)に対しては、改良の余地がある。そのため、キャリア輸送性を調整すること、及び膜質安定性を向上させることにより、素子を長寿命化すると共に、素子を長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率変動が抑制された有機EL素子の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2012/096263号
【文献】特開2014-179493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、長寿命で、長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子、該素子を備えた表示装置及び照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、以下の事項を見出した。有機EL素子の発光層に、ある化合物と、該化合物に電子吸引性基、又は、5員又は6員の含窒素複素環を置換させることによって、HOMOのエネルギー準位差が0.15eV以上異なるようにした近似の骨格を有する2種類の化合物を用いる。これにより、キャリア移動特性を変化させつつ、かつ、2種の化合物が近似構造の化合物であるため、2種の化合物の会合状態が1分子のように振る舞い、安定な会合状態を形成することができる。これにより、通電時の膜安定性が高くなり、長寿命で、長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率低下が抑制された有機EL素子等を提供する課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.陽極及び陰極により挟まれた発光層と、前記発光層を含む複数の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層が、リン光発光性化合物、下記式と下記要件(11)の関係を満たすホスト化合物A及びホスト化合物Bを含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
ホスト化合物A=X+nR1
ホスト化合物B=X+mR2
(式中、Xは複数の芳香環基が連結した構造を有し、結合位置も同一である構造を表す。前記芳香環基とは、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を意味する。
ホスト化合物AのX及びホスト化合物BのXは、同一構造である。
R1は、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
R2は、電子吸引性基、5員の含窒素複素環又は6員の含窒素複素環を表す。
nは、0又は1~4の整数を表し、nが0の場合は、R1は水素原子を表す。
mは、1~4の整数を表す。)
(11)[前記ホスト化合物AのHOMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのHOMOエネルギー準位]≧0.15eV
【0014】
2.前記Xが、下記一般式(2)~(7)で表される構造を有することを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
【0016】
(一般式(2)~(4)において、X1及びX2は各々独立に、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子のいずれか一つを表し、窒素原子の場合は置換基を有する。L1、L2及びL3は、連結基を表す。)
【0017】
【0018】
(一般式(5)において、環aは2つの隣接環の任意の位置で縮合する式(a5)で表される芳香環又は複素環を表し、X51はC-R又は窒素原子を表す。環bは2つの隣接環の任意の位置で縮合する式(b5)で表される複素環を表し、L1及びL2は各々独立に、炭素数6~22の芳香族炭化水素環基、炭素数3~16の芳香族複素環基、又はそれらが2~10連結された基を表す。L1及びL2におけるこれらの芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基は、置換基を有してもよい。pは0~7の整数を表す。ここで、pが2以上の場合、L1はそれぞれ同一でも異なってもよく、L2はそれぞれ同一でも異なってもよい。R、R51~R53は各々独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~38のアラルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数2~40のジアルキルアミノ基、炭素数12~44のジアリールアミノ基、炭素数14~76のジアラルキルアミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数2~20のアシルオキシ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルコキシカルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数6~22の芳香族炭化水素環基、又は炭素数3~16の芳香族複素環基を表し、これらはそれぞれ置換基を有してもよい。
【0019】
【0020】
(一般式(6)において、A61~A68は各々独立に、C-Rx又は窒素原子を表し、複数のRxはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。複数のRxは各々独立に、水素原子、あるいは、一般式(2)~(4)の置換基と同義である。R61及びR62は各々独立に、Rxと同義の基を表す。)
【0021】
【0022】
(一般式(7)において、X71、X72及びX73は各々独立に、C-R´又は窒素原子を表し、X71、X72及びX73の少なくとも一つは窒素原子である。R´、Ar71及びAr72は各々独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を表す。R´、Ar71及びAr72が全て同時に水素原子であることはない。)
【0023】
3.前記R2が、電子吸引性基、含窒素5員芳香族複素環、又は含窒素6員芳香族複素環であることを特徴とする前記1又は前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0024】
4.前記ホスト化合物Aと前記ホスト化合物Bが、下記要件(12)及び(13)の関係を満たすことを特徴とする前記1から前記3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(12)前記ホスト化合物A及び前記ホスト化合物Bの励起三重項エネルギー(T1エネルギー)≧3.0eV
(13)[前記ホスト化合物AのLUMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのLUMOエネルギー準位]≧0.15eV
【0025】
5.前記発光層が、下記要件(14)~(16)の関係を満たす前記リン光発光性化合物、前記ホスト化合物A及び前記ホスト化合物Bを含有することを特徴とする前記1から前記4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(14)前記リン光発光性化合物の溶液中における発光スペクトルの発光極大波長が、470nm以下
(15)[前記リン光発光性化合物のHOMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのHOMOエネルギー準位]≧0.35eV
(16)前記ホスト化合物Aと前記ホスト化合物Bの比率が、10:90~90:10
【0026】
6.前記1から前記5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする表示装置。
【0027】
7.前記1から前記5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする照明装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、長寿命で、長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子、該素子を備えた表示装置及び照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図3】有機EL素子から構成される表示装置の一例である。
【
図6】
図3の表示部Aに係るパッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、表示装置や照明装置に好適に具備させることができる。
【0031】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0032】
なお、本発明でいうHOMO(最高被占軌道:Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位及びLUMO(最低空軌道:Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギー準位は、米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian03(Gaussian03、Revision D02,M.J.Frisch,et al, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.)を用いて求めた値である。
本発明に用いるホスト化合物A及びホスト化合物Bは、キーワードとしてB3LYP/6-31G*を用い、リン光発光性化合物はB3LYP/LanL2DZを用いて、対象とする分子構造の構造最適化を行うことによりHOMOのエネルギー準位及びLUMOのエネルギー準位を算出する(eV単位換算値)。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いことが知られている。
【0033】
ホスト化合物A及びホスト化合物BのT1エネルギーは、時間依存密度汎関数法(Time-Dependent DFT)による励起状態計算を実施して算出した。
【0034】
《本発明の効果の発現機構ないし作用機構》
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
青色リン光発光材料は、バンドギャップが広いため、T1エネルギーが高くなり、HOMOのエネルギー準位が低く、LUMOのエネルギー準位が高くなる。このため、青色リン光発光材料とホスト化合物のHOMOエネルギー差が小さくなる。このため、ドーパントによる正孔トラップ能が低下し、ホストが主に正孔移動するため移動度が早くなり、キャリアの再結合確率の低下が起きたり、発光位置が陰極側に片寄り発光領域が低下したりすることにより、素子寿命の低下の原因となっていると推定している。
【0035】
また、キャリアの周辺層への漏れによって、周辺層の化学変化が起こり、周辺層の膜質変化や、クエンチャー生成による素子寿命の低下が起きるものと推定している。また、ホストが励起子になりやすいため、ホストの化学変化により、膜質安定性の低下や、T1エネルギーの低下、クエンチャー生成に起因する素子寿命の低下が発生していると推察している。
【0036】
このような原因に対して、HOMOのエネルギー準位差が0.15eV以上異なる2種類のホスト化合物で、あたかも1分子の様に振る舞う会合体を形成するホスト化合物を用いることで、キャリア移動特性を調整し、ホスト励起子の生成を抑制させることができ、更に膜質安定性を向上させることができる。これにより、素子寿命が長く、長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率低下の課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0037】
《有機エレクトロルミネッセンス素子》
本発明の有機EL素子は、陽極及び陰極により挟まれた発光層と、前記発光層を含む複数の有機層を有する。そして、発光層が、リン光発光性化合物を含有すると共に、下記式と下記要件(11)の関係を満たすホスト化合物A及びホスト化合物Bを含有する。
以下、本発明の有機EL素子材料について説明する。
【0038】
本発明において、発光層に含まれる有機EL材料は、リン光発光性化合物と、下記式及び要件(11)の関係を満たすホスト化合物A及びホスト化合物Bである。
【0039】
ホスト化合物A=X+nR1
ホスト化合物B=X+mR2
【0040】
式中、Xは複数の芳香環基が連結した構造を有し、結合位置も同一である構造を表す。前記芳香環基とは、芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基を意味する。
ここで、「結合位置も同一である構造」とは、ホスト化合物AのXと、ホスト化合物BのXとの両者で、複数の芳香環基の連結部位(結合位置)も同一であるという意味である。
また、ホスト化合物AのX及びホスト化合物BのXは、同一構造である。
【0041】
芳香族炭化水素環基としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o-テルフェニル環、m-テルフェニル環、p-テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。特に好ましくは、ベンゼン環である。
【0042】
芳香族複素環基としては、例えば、シロール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、チエノチオフェン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わったものを表す)、ジベンゾシロール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環やジベンゾフラン環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わった環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、アクリジン環、ベンゾキノリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環、ジチエノベンゼン環等が挙げられる。特に好ましくは、ジベンゾフラン環、カルバゾール環である。
これらの芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基は、置換基を有していてもよい。
【0043】
R1は、水素原子、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
フェニル基としては、例えば、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等が挙げられる。
【0044】
R2は、電子吸引性基、5員の含窒素複素環又は6員の含窒素複素環を表す。
電子吸引性基としては、シアノ基、ニトロ基、アルキルホスフィノ基、アリールホスフィノ基、アシル基、フルオロアルキル基、ペンタフルオロスルファニル基、及び、ハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の置換基を用いることができる。アルキルホスフィノ基としては、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基等が挙げられる。また、アリールホスフィノ基としては、例えば、ジフェニルホスフィノ基、ジナフチルホスフィノ基等が挙げられる。また、アシル基としては、例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基等が挙げられる。また、フルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。また、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子等が挙げられる。電子吸引性基としては、シアノ基が好ましい。
【0045】
5員又は6員の含窒素複素環は、置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい。また、これらの含窒素複素環基は、単環であってもよいし、5員環ないし6員環が更に縮環して多環縮合環を形成していてもよい。
5員の含窒素複素環としては、例えば、含窒素5員芳香族複素環であり、6員の含窒素複素環としては、例えば、含窒素6員芳香族複素環である。
含窒素5員芳香族複素環としては、具体的には、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環等が挙げられる。また、含窒素6員芳香族複素環としては、具体的には、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環等が挙げられる。
なお、R2としては、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、キノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環、アクリジン環、フェナジン環、ベンゾキノリン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジオキサジン環、トリフェノジチアジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環等のその他の多員の含窒素芳香族複素環を用いることもできる。
【0046】
nは、0又は1~4の整数を表し、nが0の場合は、R1は水素原子を表す。mは、1~4の整数を表す。
【0047】
(要件(11)について)
(11)[前記ホスト化合物AのHOMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのHOMOエネルギー準位]≧0.15eV
【0048】
要件(11)の式の値が0.15eV未満では、ホスト化合物Aとホスト化合物Bで正孔を運ぶため、正孔の移動度が早く、再結合確率の低下や発光領域の低下により素子寿命が短くなり、長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率低下が起きる。したがって、要件(11)の式の値は、0.15eV以上とする。素子寿命をより長くし、長時間駆動させた後の電圧上昇及び効率低下をより抑制する観点から、好ましくは0.17eV以上、より好ましくは0.20eV以上である。上限については特に規定されるものではないが、キャリア輸送性の観点から、好ましくは0.60eV以下である。
【0049】
ホスト化合物A及びホスト化合物BのXとしては、例えば、下記一般式(2)~(7)で表される構造を有するものが挙げられる。ただし、Xとしてはこれに限定されるものではない。
【0050】
〈一般式(2)~(4)で表される化合物〉
一般式(2)~(4)について、説明する。
【0051】
【0052】
一般式(2)~(4)において、X1及びX2は各々独立に、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子のいずれか一つを表し、窒素原子の場合は置換基を有する。
置換基としては、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素環基(アリール基ともいい、例えば、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、非芳香族複素環基、芳香族複素環基(ヘテロアリール基ともいい、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、ジベンゾチオフェニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、ハロゲン原子、アルコキシル基、シクロアルコキシル基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、アリールスルホニル基、アミノ基、ジアリールアミノ基、アリールシリル基、アリールホスフィノ基、アリールホスホリル基を用いることができる。
なお、これらの基は、更に上記の置換基によって置換されていてもよいし、また、それらが互いに縮合して更に環を形成してもよい。
【0053】
置換基は、好ましくは、アリール基又はヘテロアリール基であり、アリール基として好ましくはフェニル基である。ヘテロアリール基として好ましくはジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基及びカルバゾリル基である。アリール基及びヘテロアリール基は、各芳香環を形成する炭素原子の一部が窒素原子に置き換わっていてもよいし、更に置換基を有していてもよい。
【0054】
一般式(2)~(4)において、L1、L2及びL3は、連結基を表す。
L1、L2及びL3で表される連結基として、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基等の炭化水素基の他、ヘテロ原子を含むものであってもよく、芳香環基、複素環基に由来する連結基であってもよい。芳香環基としては、具体的にベンゼン、トルエン、ナフタレン等が挙げられ、複素環基としては、具体的には、ピリジン、チアゾール、イミダゾール、フラン、チオフェン、ピリミジン、ジベンゾフラニル基、及びカルバゾリル基等が挙げられる。
【0055】
〈一般式(5)で表される化合物〉
一般式(5)について、説明する。
【0056】
【0057】
(一般式(5)において、環aは2つの隣接環の任意の位置で縮合する式(a5)で表される芳香環又は複素環を表し、X51はC-R又は窒素原子を表す。環bは2つの隣接環の任意の位置で縮合する式(b5)で表される複素環を表し、L1及びL2は各々独立に、炭素数6~22の芳香族炭化水素環基、炭素数3~16の芳香族複素環基、又はそれらが2~10連結された基を表す。L1及びL2におけるこれらの芳香族炭化水素環基又は芳香族複素環基は、置換基を有してもよい。pは0~7の整数を表す。ここで、pが2以上の場合、L1はそれぞれ同一でも異なってもよく、L2はそれぞれ同一でも異なってもよい。R、R51~R53は各々独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数7~38のアラルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数2~40のジアルキルアミノ基、炭素数12~44のジアリールアミノ基、炭素数14~76のジアラルキルアミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数2~20のアシルオキシ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、炭素数2~20のアルコキシカルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数6~22の芳香族炭化水素環基、又は炭素数3~16の芳香族複素環基を表し、これらはそれぞれ置換基を有してもよい。
【0058】
一般式(5)中、(a5)におけるX51が、C-Rであることが好ましい。
【0059】
〈一般式(6)で表される化合物〉
一般式(6)について、説明する。
【0060】
【0061】
一般式(6)において、A61~A68は各々独立に、C-Rx又は窒素原子(N)を表し、複数のRxはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。A61~A68のいずれか一つ以上がNである場合には、電荷輸送性が向上し、低電圧で駆動時の電圧上昇を小さく抑えることができる。
【0062】
更に、A61及びA63のいずれか一つ以上がNであることが好ましく、更にはA61がNであることがより好ましい形態として挙げられる。また一方で、A61~A68が全てC-Rxである場合にも、耐久性をより向上させることができるため、好ましい形態として挙げられる。特に一般式(6)においては、A61~A68はいずれもC-Rxであることが好ましい。
【0063】
複数のRxは各々独立に、水素原子、あるいは、一般式(2)~(4)で説明した置換基と同義であり、前記置換基の構造と同じ構造が挙げられる。なお、これらの置換基は更に一般式(2)~(4)で説明した置換基によって置換されていてもよいし、また、それらが互いに縮合して更に環を形成してもよい。Rxが置換基の場合、アリールホスホリル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基が好ましい。
【0064】
一般式(6)において、R61及びR62は各々独立に、Rxと同義の基を表す。R61及びR62は、アリールシリル基、アリールホスホリル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、ジアリールアミノ基のいずれかであることが好ましく、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基のいずれかであることが好ましい。芳香族炭化水素環基としてはフェニル基、芳香族複素環基としては、ジベンソフリル基等が好ましく挙げられる。
【0065】
〈一般式(7)で表される化合物〉
一般式(7)で表される化合物について説明する。
【0066】
【0067】
一般式(7)において、X71、X72及びX73は各々独立に、C-R´又は窒素原子を表し、X71、X72及びX73の少なくとも一つは窒素原子である。
好ましくはX71、X72及びX73の内、二つ又は三つが窒素原子であり、より好ましくはX71、X72及びX73の全てが窒素原子である。
【0068】
一般式(7)において、R´、Ar71及びAr72は各々独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1~12のアルキル基、又は、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~30のアリール基を表す。R´、Ar71及びAr72が全て同時に水素原子であることはない。
【0069】
好ましくは、R′は水素原子又はアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。好ましくは、Ar71、Ar72は炭素数1~12のアルキル基又は環形成炭素数6~30のアリール基であり、より好ましくは、Ar71及びAr72は炭素数4以下のアルキル基又は環形成炭素数6~12のアリール基である。
【0070】
以下に、ホスト化合物A及びホスト化合物Bの具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
(要件(12)、(13)について)
本発明の有機EL素子の一つの態様では、ホスト化合物Aとホスト化合物Bが、上記要件(11)の関係のほかに、下記要件(12)、(13)の関係を満たすことが好ましい。
【0079】
(12)前記ホスト化合物A及び前記ホスト化合物Bの励起三重項エネルギー(T1エネルギー)≧3.0eV
【0080】
ホスト化合物AのT1エネルギー及びホスト化合物BのT1エネルギーが、いずれも3.0eV以上であれば、ホスト化合物A及びホスト化合物Bが、リン光発光材料のクエンチャーとなりにくく、素子寿命がより長くなりやすくなる。したがって、ホスト化合物A及びホスト化合物BのT1エネルギーは、3.0eV以上とすることが好ましい。素子寿命をより長くする観点から、より好ましくは3.03eV以上、更に好ましくは3.05eV以上である。上限については特に規定されるものではないが、化合物の安定性の観点から、より好ましくは3.2eV以下である。
【0081】
なお、ホスト化合物A及びホスト化合物Bのいずれか一方のみのT1エネルギーが3.0eV以上であっても、前記効果を奏するが、ホスト化合物A及びホスト化合物Bのいずれも、T1エネルギーが3.0eV以上であれば、前記効果をより向上させることができる。そのため、ホスト化合物A及びホスト化合物Bのいずれも、T1エネルギーが3.0eV以上であることが好ましい。
【0082】
(13)[前記ホスト化合物AのLUMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのLUMOエネルギー準位]≧0.15eV
【0083】
要件(13)の式の値が、0.15eV以上であれば、発光層内の電子移動度が遅くなり、発光領域が広くなり、素子寿命がより長くなりやすくなる。したがって、要件(13)の式の値は、0.15eV以上であることが好ましい。素子寿命をより長くする観点から、より好ましくは0.20eV以上、更に好ましくは0.22eV以上である。上限については特に規定されるものではないが、キャリアバランスの観点から、より好ましくは0.6eV以下である。
【0084】
(要件(14)~(16)について)
本発明の有機EL素子の一つの態様では、リン光発光性化合物、ホスト化合物A及びホスト化合物Bが、上記要件(11)の関係のほかに、下記要件(14)~(16)の関係を満たすことが好ましい。
【0085】
(14)前記リン光発光性化合物の溶液中における発光スペクトルの発光極大波長が、470nm以下
【0086】
リン光発光性化合物の溶液中における発光スペクトルの発光極大波長を、470nm以下にすることで、素子の色域を向上させることができる。したがって、リン光発光性化合物の溶液中における発光スペクトルの発光極大波長は、470nm以下とすることが好ましい。素子の色域をより向上させる観点から、より好ましくは465nm以下、更に好ましくは460nm以下である。下限については特に規定されるものではないが、化合物の安定性の観点から、より好ましくは435nm以上である。
【0087】
溶液中の発光スペクトルは、例えば、無極性溶媒にドーパントを溶解した溶液に励起光を照射することにより得られる蛍光スペクトルから求めることができる。具体的には、例えば、2-メチルテトラヒドロフランにドーパントを溶解し、日立製F-7000を用いて、蛍光スペクトルの測定を行う。
【0088】
(15)[前記リン光発光性化合物のHOMOエネルギー準位]-[前記ホスト化合物BのHOMOエネルギー準位]≧0.35eV
【0089】
要件(15)の式の値を、0.35eV以上とすることで、リン光発光性化合物による正孔トラップ性が高まり、正孔の移動度の調整がしやすくなる。したがって、要件(15)の式の値は、0.35eV以上であることが好ましい。正孔の移動度をより調整しやすくする観点から、より好ましくは0.5eV以上、更に好ましくは0.65eV以上である。上限については特に規定されるものではないが、キャリアバランス、正孔の注入性の観点から、より好ましくは1.5eV以下である。
【0090】
(16)前記ホスト化合物Aと前記ホスト化合物Bの比率が、10:90~90:10
【0091】
ホスト化合物Aとホスト化合物Bの比率を、10:90~90:10とすることで、膜質安定性が向上しやすく、また、正孔移動度の調整がしやすくなる。したがって、ホスト化合物Aとホスト化合物Bの比率は、10:90~90:10とすることが好ましい。前記比率は、膜質安定性をより向上させる観点、正孔の移動度の調整の観点から、好ましくは、30:70~70:30、より好ましくは、40:60~60:40である。
【0092】
≪有機エレクトロルミネッセンス素子の概要≫
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極及び陰極により挟まれた発光層と、前記発光層を含む複数の有機層を有するものである。
【0093】
[有機EL素子の構成層]
本発明の有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を上げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)陽極/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(8)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(9)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/電子輸送層/陰極
(10)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
【0094】
上記の中で(6)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
本発明に用いる発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。発光層を複数層とする例としては、
(11)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/青発光層/緑赤発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(12)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/緑赤発光層/青発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(13)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/緑赤発光層/中間層/青発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0095】
白色発光素子とする場合、請求項1(原出願の出願当初の請求項1)に対しては(12)の構成、請求項2(原出願の出願当初の請求項2)に対しては(11)の構成を好ましく用いることができる。
【0096】
なお、必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう)を設けてもよい。
【0097】
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
本発明に用いる正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
【0098】
(タンデム構造)
また、本発明に係る有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/第2発光ユニット/第3発光ユニット/陰極
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
【0099】
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
【0100】
また、第3発光ユニットはなくてもよく、一方で第3発光ユニットと電極の間に更に発光ユニットや中間層を設けてもよい。
【0101】
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料及び構成を用いることができる。
【0102】
中間層に用いられる材料としては、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2、Al等の導電性無機化合物層、Au/Bi2O3等の2層膜、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば上記の代表的な素子構成で挙げた(1)~(13)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、国際公開第2005/009087号、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010-192719号、特開2009-076929号、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等によるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
〔有機層〕
上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層を「有機層」ともいう。
本発明に係る有機EL素子は、上述のような有機層を複数有する。
なお、特に区別の必要のない場合、各有機層をまとめて、単に「有機層」ともいう。
以下、各有機層について、詳細に説明する。
【0106】
<発光層>
本発明に用いる発光層は、陽極及び陰極により挟まれており、後述する少なくとも1種のリン光発光性化合物(ドーパント)と、前述したホスト化合物A及びホスト化合物Bを含有する。
なお、発光層中のリン光発光性化合物は、発光層の総量に対し1~90質量%であることが好ましい。
【0107】
本発明に用いる発光層は、電極又は電子輸送層及び正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層である。
発光層の厚さの総和は特に制限はないが、膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加することを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、好ましくは2nm~5μmの範囲内に調整され、更に好ましくは2~200nmの範囲内に調整され、特に好ましくは5~100nmの範囲内に調整される。
【0108】
発光層の作製には、後述するリン光発光性化合物やホスト化合物を用いて、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいい、例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(LangmuirBlodgett法))等を挙げることができる。)等により成膜して形成することができる。
【0109】
(リン光発光性化合物)
本発明に用いるリン光発光性化合物は、溶液中における発光スペクトルの発光極大波長が、470nm以下であることが好ましい。
【0110】
リン光発光性化合物とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0111】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光発光性化合物は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。本発明において使用できるリン光発光性化合物としては、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0112】
リン光性発光化合物の発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光発光性化合物(ドーパント)に移動させることでリン光発光性化合物(ドーパント)からの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つはリン光発光性化合物(ドーパント)がキャリアトラップとなり、リン光発光性化合物(ドーパント)上でキャリアの再結合が起こり、リン光性発光性化合物(ドーパント)からの発光が得られるというキャリアトラップ型である。これらいずれの場合においても、リン光発光性化合物(ドーパント)の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0113】
(リン光発光性化合物の具体例)
本発明に使用できる公知のリン光発光性化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている金属錯体等の化合物等が挙げられる。
【0114】
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78,1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許出願公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0108737号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2009/0165846号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許出願公開第2006/0263635号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許出願公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2006/0251923号明細書、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許出願公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/098120号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許出願公開第2012/228583号明細書、米国特許出願公開第2012/212126号明細書、特開2012-069737号公報、特開2012-195554号公報、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-302671号公報、特開2002-363552号公報、特開2009-231516号公報、国際公開2012/112853号、特許5124942号公報、特許4784600号公報、特開2010-47764号公報等である。
【0115】
本発明において、リン光発光性化合物は、効果に影響を及ぼさない範囲で、複数種の化合物を併用して用いてもよい。
【0116】
以下、本発明に用いるリン光発光性化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
(ホスト化合物)
本発明においては、ホスト化合物A及びホスト化合物Bを用いる。ホスト化合物A及びホスト化合物Bについては前述したとおりである。ここでは、ホスト化合物におけるその他の事項について説明する。
【0122】
本発明に用いるホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
ホスト化合物は、好ましくは室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物であり、更に好ましくはリン光量子収率が0.01未満の化合物である。また、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
【0123】
また、ホスト化合物の励起状態エネルギーは、同一層内に含有されるリン光発光性化合物の励起状態エネルギーよりも高いことが好ましい。
ホスト化合物としては、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、更に、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対して安定して動作させる観点から、高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。より好ましくはTgが90℃以上であり、更に好ましくは120℃以上である。
【0124】
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS-K-7121に準拠した方法により求められる値である。
【0125】
本発明において、ホスト化合物は、効果に影響を及ぼさない範囲で、複数種の化合物を併用して用いてもよい。
【0126】
<正孔阻止層>
本発明に用いる正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接する。
発光層の陰極側に隣接する正孔阻止層とは、広い意味では電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい化合物からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる層である。
【0127】
本発明に用いる正孔阻止層の厚さとしては、好ましくは3~100nmの範囲であり、更に好ましくは5~30nmの範囲である。
【0128】
正孔阻止層に用いられる化合物としては、電子輸送性があり、正孔を輸送する能力が低い化合物がよく、具体的には、後述の電子輸送層に用いられる化合物、及び前述のホスト化合物として用いられる化合物を好ましく用いることができる。
また、必要に応じて、後述する電子輸送層に使用される化合物を、本発明に用いる正孔阻止層に含まれる化合物として用いることができる。
【0129】
例えば、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体テトラゾール誘導体等の含窒素芳香族複素環誘導体、ジベンゾフラン誘導体等が挙げられる。
【0130】
<電子輸送層>
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する化合物からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
【0131】
電子輸送層の厚さの総和については特に制限はないが、通常は2nm~5μmの範囲であり、より好ましくは2~500nmであり、更に好ましくは5~200nmである。
【0132】
また、有機EL素子においては発光層で生じた光を電極から取り出す際、発光層から直接取り出される光と、光を取り出す電極と対極に位置する電極によって反射されてから取り出される光とが干渉を起こすことが知られている。光が陰極で反射される場合は、電子輸送層の厚さの総和を5nm~200μmの間で適宜調整することにより、この干渉効果を効率的に利用することが可能である。
一方で、電子輸送層の厚さを厚くすると電圧が上昇しやすくなるため、特に厚さが厚い場合においては、電子輸送層の電子移動度は10-5cm2/Vs以上であることが好ましい。
【0133】
電子輸送層に用いられる化合物(以下、電子輸送材料という)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0134】
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン等)等が挙げられる。
【0135】
また、ホスト化合物の具体例で挙げた化合物が挙げられる。
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
【0136】
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0137】
また、これらの材料を高分子鎖に導入した又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子化合物を用いることもできる。
【0138】
本発明に用いる電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト化合物としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
【0139】
有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0140】
米国特許第6528187号明細書、米国特許第7230107号明細書、米国特許出願公開第2005/0025993号明細書、米国特許出願公開第2004/0036077号明細書、米国特許出願公開第2009/0115316号明細書、米国特許出願公開第2009/0101870号明細書、米国特許出願公開第2009/0179554号明細書、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl.Phys.Lett.75,4(1999)、Appl.Phys.Lett.79,449(2001)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.79,156(2001)、米国特許第7964293号明細書、米国特許出願公開第2009/030202号明細書、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、欧州特許出願公開第2311826号明細書、特開2010-251675号公報、特開2009-209133号公報、特開2009-124114号公報、特開2008-277810号公報、特開2006-156445号公報、特開2005-340122号公報、特開2003-45662号公報、特開2003-31367号公報、特開2003-282270号公報、国際公開第2012/115034号等である。
また、ホスト化合物の具体例で挙げた化合物が挙げられる。
【0141】
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0142】
<電子注入層>
電子注入層とは、必要に応じて、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123頁~166頁)に詳細に記載されている。
【0143】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウム、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウム、フッ化セシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその厚さは0.1nm~5μmの範囲が好ましい。
【0144】
<電子阻止層>
本発明に係る電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接する。
本発明において発光層に隣接する電子阻止層とは、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい化合物からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述した電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に用いる電子阻止層に含まれる材料として用いることができる。
【0145】
電子阻止層の厚さとしては、好ましくは3~100nmの範囲であり、更に好ましくは5~30nmの範囲である。
【0146】
<正孔注入層>
本発明に用いる正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
【0147】
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のごとく陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
【0148】
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の電子阻止層に用いられる化合物等が挙げられる。
【0149】
中でも、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
【0150】
正孔注入層に用いられる化合物は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0151】
<正孔輸送層>
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する化合物からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
【0152】
正孔輸送層の厚さの総和については特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲であり、より好ましくは2nm~500nmであり、更に好ましくは5nm~200nmである。
正孔輸送層に用いられる化合物(以下、「正孔輸送材料」ともいう。)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0153】
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子化合物又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT:PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
【0154】
トリアリールアミン誘導体としては、α-NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
【0155】
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
【0156】
更に不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型-Si、p型-SiC等の無機化合物を用いることもできる。更にIr(ppy)3に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子化合物又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
【0157】
本発明の有機EL素子に適用可能な、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0158】
例えば、Appl.Phys.Lett.69,2160(1996)、J.Lumin.72-74,985(1997)、Appl.Phys.Lett.78,673(2001)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.51,913(1987)、Synth.Met.87,171(1997)、Synth.Met.91,209(1997)、Synth.Met.111,421(2000)、SID Symposium Digest,37,923(2006)、J.Mater.Chem.3,319(1993)、Adv.Mater.6,677(1994)、Chem.Mater.15,3148(2003)、米国特許出願公開第2003/0162053号明細書、米国特許出願公開第2002/0158242号明細書、米国特許出願公開第2006/0240279号明細書、米国特許出願公開第2008/0220265号明細書、米国特許第5061569号、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号明細書、EP650955、米国特許出願公開第2008/0124572号明細書、米国特許出願公開第2007/0278938号明細書、米国特許出願公開第2008/0106190号明細書、米国特許出願公開第2008/0018221号明細書、国際公開第2012/115034号、特表2003-519432号公報、特開2006-135145号公報、米国特許出願番号13/585981号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
【0159】
<含有物>
前述した本発明における有機層は、更に他の含有物が含まれていてもよい。
含有物としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
含有物の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、更に好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的等によってはこの範囲内ではない。
【0160】
[有機層の形成方法]
本発明の有機層(正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の形成方法について説明する。
本発明の有機層の形成方法は、特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう)等による形成方法を用いることができる。
【0161】
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法等のロール・to・ロール方式適性の高い方法が好ましい。
【0162】
本発明に用いる有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0163】
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
更に層毎に異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450℃、真空度10-6~10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-50~300℃、厚さ0.1nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0164】
本発明に用いる有機層の形成は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施しても構わない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0165】
[陽極]
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5V以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、また、パターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
また、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
陽極の厚さは材料にもよるが、通常10nm~1μm、好ましくは10nm~200nmの範囲で選ばれる。
【0166】
[陰極]
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0167】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、厚さは通常10nm~5μm、好ましくは50nm~200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0168】
また、陰極に上記金属を1~20nmの厚さで作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0169】
[支持基板]
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい(なお、透明である場合は「透明基板」ともいう。)。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0170】
樹脂フィルムとしては、公知のものを使用でき、例えば、特開2015-038941号公報の段落0370等に記載の樹脂等を好適に使用できる。
【0171】
樹脂フィルムの表面には、特開2015-038941号公報の段落0371~0373等に記載のような、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1.0×10-3ml/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、1.0×10-5g/(m2・24h)以下の高性能なガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
【0172】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を、蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
【0173】
[封止]
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されるものではない。
具体的には、例えば、特開2015-038941号公報の段落0379、0382、0383等に記載の封止部材及び接着剤を好適に使用できる。
【0174】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。更には、ポリマーフィルムはJIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1.0×10-3ml/m2/24h以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1.0×10-3g/(m2/24h)以下のものであることが好ましい。
【0175】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0176】
また、特開2015-038941号公報の段落0384、0385等に記載のように、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
【0177】
なお、封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0178】
このような吸湿性化合物としては、例えば、特開2015-038941号公報の段落0387等に記載の化合物が好適に用いられる。
【0179】
[保護膜、保護板]
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜又は前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜又は保護板を設けてもよい。特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0180】
[光取り出し向上技術]
有機エレクトロルミネッセンス素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6~2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないと一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0181】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば、米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば、特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば、特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば、特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば、特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)等が挙げられる。
【0182】
[集光シート]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、支持基板(基板)の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工することや、また、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
このようなマイクロレンズアレイや、集光シートとしては、公知のものを使用でき、例えば、特開2015-038941号公報の段落0401~0403等に記載のものを好適に使用できる。
【0183】
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
【0184】
発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられる。発光光源としてはこれらに限定されるものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0185】
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【0186】
《本発明の照明装置の一態様》
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の照明装置の一態様について説明する。
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて封止し、
図1及び
図2に示すような照明装置を形成することができる。
【0187】
図1は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のGB(グローブボックス、純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
【0188】
図2は、照明装置の断面図を示し、
図2において、105は陰極、106は複数の有機層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【0189】
《表示装置の一態様》
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の表示装置の一態様について説明する。
【0190】
本発明の表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
【0191】
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
【0192】
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法である。
【0193】
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
【0194】
また、有機EL素子の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて製造できる。
【0195】
得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として電圧2~40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が-の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0196】
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
【0197】
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0198】
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0199】
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
【0200】
図3は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0201】
ディスプレイ4は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。
【0202】
制御部Bは表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0203】
【0204】
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
【0205】
図4においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0206】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
【0207】
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
【0208】
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0209】
次に、画素の発光プロセスを説明する。
【0210】
【0211】
画素は有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0212】
図5において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0213】
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0214】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。
【0215】
しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。
【0216】
順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
【0217】
即ち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0218】
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
【0219】
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0220】
図6はパッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
図6において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
【0221】
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
【0222】
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
【0223】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0224】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、実施例に用いる化合物の構造を以下に示す。なお、その他の化合物については、本明細書中に記載のものである。なお、下記の化合物S-1、S-57、H-441は、特開2014-179493号公報に記載の化合物であり、H-9、H-219は、米国特許出願公開第2013/0112952号明細書に記載の化合物である。なお、以下の本発明には、参考例(原出願の出願当初の本発明)を含む。
【0225】
【0226】
【0227】
[実施例1]
《有機EL素子1-1の作製》
(陽極の形成)
100mm×100mm×1.1mmのガラス基板(NHテクノグラス社製NA45)上に、陽極としてITO(酸化インジウムスズ)を100nmの厚さで成膜を行った後、このITO透明電極を設けた透明基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0228】
(第1正孔輸送層の形成)
この透明基板上に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、ヘレウス株式会社製、CLEVIOS P VP AI 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用い、3000rpm、30秒の条件でスピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、厚さ20nmの第1正孔輸送層を設けた。
【0229】
(第2正孔輸送層の形成)
この透明基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。モリブデン製抵抗加熱ボートに、正孔輸送材料としてMoO3、電子阻止材料としてE1、ホスト化合物として201a、251b、電子輸送材料としてET-1を別々の加熱ボートに200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに発光性ドーパントとしてD-6を100mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
次いで真空槽を4×10-4Paまで減圧した後、MoO3の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、0.1nm/秒で前記第1正孔輸送層上に厚さ1nmの第2正孔輸送層を設けた。
【0230】
(電子阻止層の形成)
つぎに、電子阻止層として、E1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、0.1nm/秒で前記第2正孔輸送層に厚さ10nmの電子阻止層を設けた。
【0231】
(発光層の形成)
更に、ホスト化合物として201a、251b及び、発光性ドーパントとしてD-6の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.028nm/秒、0.028nm/秒、0.01nm/秒で前記電子阻止層上に共蒸着して厚さ50nmの発光層を設けた。
【0232】
(正孔阻止層の形成)
つぎに、発光層で使用したホスト化合物Bである251bの入った前記加熱ボートを順に通電して、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層上に順に蒸着して各々厚さ10nmの正孔阻止層を設けた。
【0233】
(電子輸送層の形成)
更にET-1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層上に蒸着して厚さ30nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
【0234】
(陰極の形成)
引き続き、フッ化リチウムを蒸着して厚さ0.5nmの陰極バッファー層(アルカリ金属化合物バッファー層)を形成し、更にアルミニウムを蒸着して厚さ110nmの陰極を形成し、実施例である有機EL素子1-1を作製した。
【0235】
《有機EL素子1-2~1-10の作製》
上記有機EL素子1-1の作製において、発光層の材料を後述の表12に記載の化合物に変更し、正孔阻止層に発光層で使用したホスト化合物Bに変更する以外は、同様な方法で有機EL素子1-2~1-10を作製した。
【0236】
また、ホスト化合物A及びホスト化合物Bについて、HOMOエネルギー準位、LUMOエネルギー準位、T1エネルギーを測定し、また、リン光発光性化合物について、溶液中における発光スペクトルの発光極大波長、HOMOエネルギー準位を測定した。
【0237】
HOMOのエネルギー準位及びLUMOのエネルギー準位は、米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian03(Gaussian03、Revision D02,M.J.Frisch,et al, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.)を用いて求めた。
具体的には、ホスト化合物A及びホスト化合物Bは、キーワードとしてB3LYP/6-31G*を用い、リン光発光性化合物はB3LYP/LanL2DZを用いて、対象とする分子構造の構造最適化を行うことによりを算出した(eV単位換算値)。
【0238】
ホスト化合物A及びホスト化合物BのT1エネルギーは、時間依存密度汎関数法(Time-Dependent DFT)による励起状態計算を実施して算出した。
【0239】
溶液中の発光スペクトルは、2-メチルテトラヒドロフランにドーパントを溶解し、日立製F-7000を用いて測定を行った。
【0240】
《有機EL素子1-1~1-10の評価》
このようにして作製したサンプルについて封止を行い、下記の評価を行った。
なお封止は、各有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極上に重ねて前記透明基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して硬化させて封止し、
図1及び
図2に示すような照明装置を作製して下記評価をした。
【0241】
(素子寿命評価)
蒸着終了後、窒素下にて封止を行って素子を作製した各々の有機EL素子を初期輝度1000cd/m2を与える電流で定電流駆動して、初期輝度の1/2(500cd/m2)になる時間を求め、これを半減寿命の尺度とした。
有機EL素子1-10の値を100として、これに対する相対値を示す。
当該数値が高いほど、寿命が良好であることを示す。
【0242】
(電圧変化)
初期輝度1000cd/m2を与える電流で定電流駆動させて電圧を測定し、初期輝度が50%になった時の電圧上昇幅(ΔV1)を求め、初期輝度での電圧(V)に対する比率(ΔV1/ΔV)を求め、有機EL素子1-10の値を100として、これに対する相対値で駆動後の電圧変化を表す値とした。
この値が小さいほど、駆動後の電圧変化が小さいことを意味するため好ましく、駆動前後で素子の膜質変化が小さく、またキャリア注入や輸送のバランスの変化が小さく、素子構成が良好であることを示す。
【0243】
(外部取り出し量子効率の変化)
2.5mA/cm2の定電流条件下による点灯を行い、点灯開始直後の発光輝度(L1)[cd/m2]を測定することにより、外部取り出し量子効率(η1)を算出した。更に、寿命測定後に同様に測定を行い、発光輝度(L2)から、外部取出し効率(η2)を算出した。
ここで、発光輝度の測定はCS-1000(コニカミノルタセンシング製)を用いて行った。
初期の素子寿命評価後の外部取り出し量子効率の差を(η1―η2)を求め、有機EL素子1-10の値を100として、これに対する相対値で駆動後の外部取り出し量子効率の変化を表す値とした。この値が小さいほど、外部取り出し量子効率の差が小さいことを意味するため好ましく、駆動前後で素子の膜質変化が小さく、またキャリア注入や輸送のバランスの変化が小さく、素子構成が良好であることを示す。
【0244】
結果は下記表12に示すとおりであった。
【0245】
【0246】
表12から、本発明の有機EL素子1-1~1-9は、比較例の有機EL素子1-10に対して、発光寿命が長く、電圧の変化、駆動前後の外部取り出し量子効率の変化が小さく、素子としての特性が向上していることが分かる。
【0247】
[実施例2]
《有機EL素子2-1~2-4の作製》
上記有機EL素子1-1の作製において、発光層の化合物を後述の表13に記載の化合物に変更し、正孔阻止層に発光層で使用したホスト化合物Bに変更し、電子阻止層の材料をE1からα-NPDに変更する以外は、同様な方法で有機EL素子2-1~2-4を作製し、封止を行った。引き続き、これらの素子を、実施例1と同様に評価を行い、有機EL素子2-4の値を100として、これに対する相対値で示した。
【0248】
結果は下記表13に示すとおりであった。
【0249】
【0250】
表13から、本発明の有機EL素子2-1~2-3は、比較例の有機EL素子2-4に対して、発光寿命が長く、電圧の変化、駆動前後の外部取り出し量子効率の変化が小さく、素子としての特性が向上していることが分かる。
【0251】
[実施例3]
《有機EL素子3-1~3-16の作製》
上記有機EL素子1-1の作製において、発光層の材料を後述の表14に記載の化合物に変更し、正孔阻止層に発光層で使用したホスト化合物Bに変更し、電子阻止層の材料をE1からα-NPDに変更し、電子輸送層の材料をET-1からET-1とET-3を1:1の比率で厚さ30nmに変更する以外は、実施例1と同様な方法で有機EL素子3-1~3-16を作製し、封止を行った。引き続き、これらの素子を、実施例1と同様に評価を行い、有機EL素子3-15の値を100として、これに対する相対値で示した。
【0252】
結果は下記表14に示すとおりであった。
【0253】
【0254】
表14から、本発明の有機EL素子3-1~3-14は、比較例の有機EL素子3-15、3-16に対して、発光寿命が長く、電圧の変化、駆動前後の外部取り出し量子効率の変化が小さく、素子としての特性が向上していることが分かる。
【0255】
[実施例4]
《有機EL素子4-1~4-6の作製》
上記有機EL素子1-1の作製において、発光層の材料を後述の表15に記載の化合物に変更し、発光層の膜厚を50nmから30nmにし、正孔阻止層に発光層で使用したホスト化合物Bに変更し、電子輸送層の材料をET-1からET-1とET-3を1:1の比率で厚さ30nmに変更する以外は、同様な方法で有機EL素子4-1~4-6を作製し、封止を行った。引き続き、これらの素子を、実施例1と同様に評価を行い、有機EL素子4-6の値を100として、これに対する相対値で示した。
【0256】
結果は下記表15に示すとおりであった。
【0257】
【0258】
表15から、本発明の有機EL素子4-1~4-5は、比較例の有機EL素子4-6に対して、発光寿命が長く、電圧の変化、駆動前後の外部取り出し量子効率の変化が小さく、素子としての特性が向上していることが分かる。
【0259】
[実施例5]
《有機EL素子5-1~5-6の作製》
上記有機EL素子1-1の作製において、発光層の材料を後述の表16に記載の化合物に変更し、正孔阻止層に発光層で使用したホスト化合物Bに変更し、電子輸送層の材料をET-1からET-2に変更する以外は、実施例1と同様な方法で有機EL素子5-1~5-6を作製し、封止を行った。引き続き、これらの素子を、実施例1と同様に評価を行い、有機EL素子5-6の値を100として、これに対する相対値で示した。
【0260】
結果は下記表16に示すとおりであった。
【0261】
【0262】
表16から、本発明の有機EL素子5-1~5-5は、比較例の有機EL素子5-6に対して、発光寿命が長く、電圧の変化、駆動前後の外部取り出し量子効率の変化が小さく、素子としての特性が向上していることが分かる。
【0263】
[実施例6]
《有機EL素子6-1~6-8の作製》
上記有機EL素子1-1の作製において、発光層の材料を後述の表17に記載の化合物に変更し、正孔阻止層に発光層で使用したホスト化合物Bに変更し、電子輸送層の材料をET-1からET-1とET-3を1:1の比率で厚さ30nmに変更する以外は、実施例1と同様な方法で有機EL素子6-1~6-8を作製し、封止を行った。引き続き、これらの素子を、実施例1と同様に評価を行い、有機EL素子6-8の値を100として、これに対する相対値で示した。
【0264】
結果は下記表17に示すとおりであった。
【0265】
【0266】
表17から、本発明の有機EL素子6-1~6-7は、比較例の有機EL素子6-8に対して、発光寿命が長く、電圧の変化、駆動前後の外部取り出し量子効率の変化が小さく、素子としての特性が向上していることが分かる。
【符号の説明】
【0267】
3 画素
4 ディスプレイ
5 走査線
6 データ線
7 電源ライン
10 有機EL素子
11 スイッチングトランジスタ
12 駆動トランジスタ
13 コンデンサー
101 有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 (複数の)有機層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤
A 表示部
B 制御部