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特許7238511Ni系フェライトおよびそれを用いたコイル部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】Ni系フェライトおよびそれを用いたコイル部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/30 20060101AFI20230307BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20230307BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20230307BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230307BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C04B35/30
H01F1/34 140
H01F17/04 F
C01G53/00 A
C01G49/00 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019051780
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020152603
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】田中 智
(72)【発明者】
【氏名】小湯原 徳和
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-169194(JP,A)
【文献】特開2006-193343(JP,A)
【文献】特開平01-212234(JP,A)
【文献】特開2006-282437(JP,A)
【文献】特開2015-043459(JP,A)
【文献】特開2006-151743(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1587193(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/30
H01F 1/34
H01F 17/04
C01G 53/00
C01G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃での初透磁率μiが600以上で、保磁力Hcが50A/m未満で、印加磁界4kA/mにおける磁束密度B4kが360mT以上のNi系フェライトであって、
前記Ni系フェライトの成分組成が、45.5mol%以上47.0mol%以下のFe、28.0mol%以上30.0mol%以下のZnO、7.5mol%以上9.0mol%以下のCuO、1.2mol%超4.2mol%以下のMnO、及び残部NiOとして表され、FeとMnOとの合計量が、48.2mol%超49.8mol%以下であるNi系フェライト。
【請求項2】
請求項1に記載のNi系フェライトであって、
FeとMnOとの合計量が48.5mol%以上で、20℃での初透磁率μiが650以上であり、密度が5.20×10kg/m超のNi系フェライト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNi系フェライトを用いたコイル部品であって、
前記コイル部品は、コイルと、前記コイルの磁路に配置される前記Ni系フェライトで構成された磁心とを含むコイル部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品等に使用されるNi系フェライトとそれを用いたコイル部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性フェライトはスピネル型結晶構造を有し、その化学量論組成は3価化合物と2価化合物が等モルに配合されることが知られている。例えばNi系フェライトのスピネル型結晶(一般式Fe・MeO)は、FeとMeO(Me:Ni,Zn)が50:50の比率で化学量論組成となる。
【0003】
このような磁性フェライトの一般的な製造方法では、磁性フェライトを構成する元素の酸化物等を素原料として準備し、それを所定の組成となるように配合し焼成してスピネル化する。均一なスピネル化反応を得る観点から、素原料を本焼成よりも低温度で焼成してスピネル化する仮焼成を経て得られた仮焼粉を所定の形状に固めて成形して成形体とし、それを焼結して磁心とする製法を採用する場合が多い。
【0004】
磁性フェライトの磁気特性は組成に強く依存することが知られている。コイル部品等に用いられる磁性フェライトとして要求される特性としては、例えば小型化のためには、使用される周波数、温度領域において初透磁率μiが高くて、所定の印加磁界での磁束密度が大きく、保磁力が小さいことが挙げられる。
【0005】
特許文献1には、Feを40~50mol%、ZnOを20~33mol%、CuOを2~10mol%、MnOを0.1~1mol%含有し、残部がNiOの、磁気損失が低減されたNi系フェライト材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-198212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1ではMnOを使用し、Mn4+のイオンをスピネル結晶のイオン結晶間へ侵入させ、各イオン間の距離を大きくすることで、結晶の歪や結晶中の応力を減少させて保磁力を小さくしてNi系フェライト材料のヒステリシス損失を低減する。しかし、所定の印加磁界での磁束密度が大きく、初透磁率μiが高いとの記載は見られない。
【0008】
そこで本発明は、保磁力が小さく、初透磁率μiが大きく、かつ所定の印加磁界での磁束密度が大きいNi系フェライトと、それを用いたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、20℃での初透磁率μi が600以上で、保磁力Hcが50A/m未満で、印加磁界4kA/m における磁束密度B4kが360mT以上のNi系フェライトであって、前記Ni系フェライトの成分組成が、45.5mol%以上47.0mol%以下のFe、28.0mol%以上30.0mol%以下のZnO、7.5mol%以上9.0mol%以下のCuO、1.2mol%超4.2mol%以下のMnO、及び残部NiOとして表され、FeとMnOとの合計量が、48.2mol%超49.8mol%以下のNi系フェライトである。
【0010】
本発明のNi系フェライトは、FeとMnOとの合計量が48.5mol%以上で、20℃での初透磁率μiが650以上であり、密度が5.20×10kg/m超であるのが好ましい。
【0011】
第2の発明は、第1の発明のNi系フェライトを用いたコイル部品であって、前記コイル部品は、コイルと、前記コイルの磁路に配置される第1の発明のNi系フェライトで構成された磁心とを含むコイル部品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保磁力が小さく、初透磁率μiが大きく、かつ所定の印加磁界での磁束密度が大きいNi系フェライトと、それを用いたコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るNi系フェライトのFeのモル量とMnOのモル量との合計量と20℃及び100℃での保磁力Hcとの関係を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係るNi系フェライトのFeのモル量とMnOのモル量との合計量と印加磁界4kA/mで20℃における磁束密度B4kとの関係を示すグラフである。
図3】本発明の一実施形態に係るNi系フェライトのFeのモル量とMnOのモル量との合計量と印加磁界4kA/mで100℃における磁束密度B4kとの関係を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態に係るNi系フェライトのFeのモル量とMnOのモル量との合計量と20℃での初透磁率μiとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るNi系フェライトとそれを用いたコイル部品について具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0015】
(A)組成
本実施形態のNi系フェライトは、Fe、ZnO、CuO、MnO、NiOの総量を100mol%とし、45.5mol%以上47.0mol%以下のFe、28.0mol%以上30.0mol%以下のZnO、7.5mol%以上9.0mol%以下のCuO、1.2mol%超4.2mol%以下のMnO、及び残部NiOとし、FeとMnOとの合計量が、48.2mol%超49.8mol%以下で表される組成で構成される。各素原料中には数ppm~数百ppm程度の不可避的不純物元素が含まれ得る。具体的な不可避的不純物元素としては、Si、Ca、B、C、S、Cl、Se、Br、Te、I、Li、Na、Mg、Al、K、Ga、Ge、Sr、In、Sn、Sb、Ba、Bi、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等が挙げられるが、Ni系フェライト中の不可避的不純物はFe、ZnO、CuO、NiOの総量100質量部に対して総量で1質量部以下とし、極力少なく抑えるのが好ましい。不可避的不純物の中でもNa、S、Cl、P、Cr、Bはできるだけ少ない方が好ましく、工業的な許容範囲は合計で0.1質量部以下が好ましく、更に0.05質量部以下であることが好ましい。
【0016】
本実施形態の組成について、以下説明する。
Feが45.5mol%未満、あるいは47.0mol%超では所望の初透磁率μiや保磁力Hcが得られない場合がある。また高い飽和磁束密度B4kを得る為、好ましくは、Feは45.7mol%以上が好ましく、より好ましくは46.0mol%以上である。
【0017】
ZnOが28.0mol%未満、あるいは30.0mol%超では、所望の初透磁率μiや保磁力が得られない場合がある。ZnOの好ましい含有量は28.5mol%以上である。また29.5mol%以下が好ましい。
【0018】
CuOが7.5mol%未満、あるいは9.0 mol%超であると、所望の初透磁率μiが得られない場合がある。CuOの好ましい含有量は7.8mol%以上である。また8.5mol%以下が好ましい。
【0019】
MnOが1.20mol%以下、あるいは4.20mol%超であると、所望の初透磁率μiが得られない場合がある。MnはMnフェライト[Fe・(Mn,Zn)O]を構成し、それを含むNi系フェライトの保磁力Hcの低減、飽和磁束密度B4kの増加、初透磁率μiの増加に寄与するが、MnOとFeとの合計量48.20mol%未満あるいは49.80mol%超であると、所望の初透磁率μi、磁束密度B4k、保磁力Hcが得られない場合がある。
【0020】
またNiOは残部であって、好ましくは11.0mol%以上17.8mol%以下である。さらに好ましくは、NiOは12.0mol%以上であり、13.0mol%以上であるのがいっそう好ましい。また16.0mol%以下が好ましく、さらに好ましくは15.0mol%以下である。
【0021】
各成分の定量は、蛍光X線分析及びICP発光分光分析により行うことができる。予め蛍光X線分析により含有元素の定性分析を行い、次に含有元素を標準サンプルと比較する検量線法により定量する。
【0022】
(B)Ni系フェライトの製造方法
Fe、ZnO、CuO、MnO及びNiOを所定割合で湿式混合した後、乾燥し、800~1000℃で仮焼成してスピネル化した仮焼粉とするのが好ましい。得られた仮焼粉をイオン交換水とともにボールミルに投入し、平均粉砕粒径(空気透過法)が1.7~2.1μmとなるまで粉砕してスラリーとすれば良い。得られたスラリーにバインダとしてポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーにて顆粒化した後、加圧成形して所定形状の成形体を得ることが出来る。
【0023】
得られた成形体を焼成炉にて焼結してNi系フェライト(磁心)を得る。焼成工程は昇温工程と、高温保持工程と、降温工程とを有する。焼成工程における雰囲気は、不活性ガス雰囲気でも良いし大気雰囲気でも構わない。ここで、成形体は昇温工程を経て、高温保持工程の設定された高温温度に到達し、焼結される。この高温保持工程において、焼成炉の設定温度は1050~1200℃とするのが好ましい。温度が1050℃未満であると焼結が不十分で、初透磁率μiが小さく、磁心の強度が得られない場合がある。また温度が1200℃超であると焼結が過剰となり、また焼成炉のエネルギー消費も多くなって製造コストの上昇を招くため好ましくない。
【0024】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例
【0025】
本実施形態のNi系フェライトの磁心を製造する場合、Fe、ZnO、CuO、MnOびNiOの各成分が表1に示す割合となるように、素原料を湿式混合した後、乾燥し900℃で1時間仮焼成した。得られた仮焼粉をイオン交換水とともにボールミルに投入し、平均粉砕粒径が1.9μmとなるまで粉砕してスラリーとした。得られたスラリーにバインダとしてポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーにて顆粒化した後、加圧成形してリング状の成形体を得た。
【0026】
得られた成形体を焼成炉にて大気中、1120℃で2時間保持して焼結し、外径30mm×内径20mm×高さ10mmの円環状の磁心を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
各磁心の初透磁率μi、磁束密度B4k、保磁力Hc、焼結体密度dsを、下記の方法により測定した。
(1)初透磁率μi
磁心を被測定物とし、導線を20ターン巻回して測定試料(コイル部品)とし、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製4285A)により、恒温槽内にて温度20℃、周波数100kHz、1mAの電流で測定したインダクタンスから次式により求めた。
初透磁率μi=(le×L)/(μ×Ae×N
(le:磁路長、L:試料のインダクタンス(H)、μ:真空の透磁率=4π×10-7(H/m)、Ae:磁心の断面積、N:導線の巻数)
【0029】
(2)磁束密度B4k、保磁力Hc
磁束密度(B4k)および保磁力(Hc)は、一次側巻線と二次側巻線とをそれぞれ40回巻回した磁心に、4kA/mの磁界を印加し、直流磁化測定試験装置(メトロン技研株式会社製SK-110型)を用いて20℃、100℃において測定した。
【0030】
(3)焼結体密度ds
アルキメデスの原理を利用し、水中置換法により焼結体密度を算出した。
【0031】
得られた結果を表2に纏めて示す。また図1にFeのモル量とMnOのモル量との合計量と20℃及び100℃における保磁力Hcとの関係を示し、図2にFeのモル量とMnOのモル量との合計量と印加磁界4kA/mで20℃における磁束密度B4kとの関係を示し、図3にFeのモル量とMnOのモル量との合計量と印加磁界4kA/mで100℃における磁束密度B4kとの関係を示し、図4にFeのモル量とMnOのモル量との合計量と初透磁率μiとの関係を示す。
【0032】
【表2】
【0033】
No.1*~7の磁心を使用した試料では、密度dsが何れも5.20×10kg/mを超えていた。実施例のNo.4~7の磁心では、初透磁率μiが600以上で、保磁力Hcが50A/m未満で、印加磁界4kA/m における磁束密度B4kが360mT以上であった。このような本発明のNi系フェライトを使用したコイル部品は、小型を図ることが出来る。

図1
図2
図3
図4