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特許7238626繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20230307BHJP
   C08G 61/00 20060101ALI20230307BHJP
   C08G 18/54 20060101ALI20230307BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230307BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20230307BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
C08G61/00
C08G18/54
C08K3/22
C08K7/04
C08L61/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019117314
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004278
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】塩根 英樹
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-176403(JP,A)
【文献】特開平8-127706(JP,A)
【文献】特開平5-001157(JP,A)
【文献】特開平9-151228(JP,A)
【文献】特開2005-240026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/04-10、5/24
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
C08G18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂(A)、ジビニルベンゼン化合物(B)、水酸化アルミニウム(C)、ポリイソシアネート化合物(D)、及び強化繊維(E)を含有する繊維強化成形材料であって、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対し、前記水酸化アルミニウム(C)が110~240質量部であり、前記ポリイソシアネート化合物(D)が1~23質量部であることを特徴とする繊維強化成形材料。
【請求項2】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)の芳香環を架橋するメチレン結合のオルソ-パラ比が、3以上である請求項1記載の繊維強化成形材料。
【請求項3】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)の数平均分子量が300~2,000である請求項1又は2記載の繊維強化成形材料。
【請求項4】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との質量比(A/B)が40/60~70/30である請求項1~3のいずれか1項記載の繊維強化成形材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の繊維強化成形材料を用いた成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
シートモールディングコンパウンド(SMC)は、熱硬化性樹脂、無機充填剤、増粘剤、硬化剤等を混ぜたペーストをガラス繊維に含浸させてシート状とし、熟成処理を行って、半硬化させた成形材料である。このSMCを金型によって加熱・加圧成形することで、成形品が得られる。このような成形品は、優れた耐久性や耐水性、機械強度、難燃性等の特性を利用して、浴室機器や貯水槽、浄化槽、建築材、床材、電気部品、車両用材料等として幅広く用いられているが、建築用材料や車両用材料、航空機材料等においては、高い難燃性が求められている。
【0003】
難燃性を得る手法として、含塩素化合物や含臭素化合物などのハロゲン化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物を添加する方法がある。しかしながら、環境保護の観点から使用することが好ましくないとの指摘があり、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物を含まない難燃機構が必要となっている。
【0004】
一方、SMCの主要な構成成分の熱硬化性樹脂としては、従来、不飽和ポリエステル樹脂が一般的であったが、高い難燃性を付与する目的で、フェノール樹脂を用いることが検討されており、その中でも、常温で液状を示すレゾール型のフェノール樹脂の使用が好ましいとされている(例えば、特許文献1~3。)。
【0005】
しかしながら、このようなレゾール型のフェノール樹脂は、加熱することで脱水縮合を起こして硬化が進行することで、副生成物として水分が脱離してしまう課題があり、この水分の脱離はSMC成形時にフクレ、ソリの原因となるため、成形時に水分を除去するガス抜き工程を設ける必要があった。
【0006】
そこで、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物を含まず、簡便な作業工程により、難燃性に優れる成形品が得られる材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-189110号公報
【文献】特開2004-182964号公報
【文献】特開2007-169457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物を含まず、成形性に優れ、簡便な作業工程により、難燃性に優れる成形品が得られる繊維強化成形材料及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、ノボラック型フェノール樹脂、ジビニルベンゼン化合物、水酸化アルミニウム、ポリイソシアネート化合物、及び強化繊維を特定の組成比で含有する繊維強化成形材料が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、ノボラック型フェノール樹脂(A)、ジビニルベンゼン化合物(B)、水酸化アルミニウム(C)、ポリイソシアネート化合物(D)、及び強化繊維(E)を含有する繊維強化成形材料であって、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対し、前記水酸化アルミニウム(C)が110~240質量部であり、前記ポリイソシアネート化合物(D)が1~23質量部であることを特徴とする繊維強化成形材料及びそれを用いた成形品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維強化成形材料から得られる成形品は、難燃性等に優れることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維強化成形材料は、ノボラック型フェノール樹脂(A)、ジビニルベンゼン化合物(B)、水酸化アルミニウム(C)、ポリイソシアネート化合物(D)、及び強化繊維(E)を含有する繊維強化成形材料であって、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対し、前記水酸化アルミニウム(C)が110~240質量部であり、前記ポリイソシアネート化合物(D)が1~23質量部であるものである。
【0013】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいう。
【0014】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)は、特に限定されないが、前記ジビニルベンゼン化合物(B)との相溶性に優れることから、芳香環を架橋するメチレン結合のオルソ-パラ比が3以上であることが好ましい。ここで、オルソ-パラ比は、芳香環の水酸基に対してパラ位同士で架橋しているメチレン結合数と、オルソ位とパラ位とで架橋しているメチレン結合数の1/2との和に対する、オルソ位同士で架橋しているメチレン結合数と、オルソ位とパラ位とで架橋しているメチレン結合数の1/2との和との比である。なお、ノボラック型フェノール樹脂(A)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0015】
また、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)の数平均分子量は、200~2,000が好ましく、300~1,000がより好ましい。
【0016】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)は、例えば、ホルムアルデヒド供給物質とフェノール化合物とを、必要に応じて、触媒の存在下、そのモル比が0.5~1.0となるようにして反応させることにより得られる。
【0017】
前記ホルムアルデヒド供給物質としては、例えば、ホルムアルデヒド水溶液や、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。なお、これらのホルムアルデヒド供給物質は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0018】
前記フェノール化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールAF等のビスフェノール化合物、クレゾール、p-ターシャリーブチルフェノール等のアルキル置換フェノール化合物、ブロモフェノール等のハロゲノフェノール化合物、レゾルシン等のフェノール性水酸基を2個以上含有する芳香族炭化水素、1-ナフトール、2-ナフトール、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物などが挙げられる。なお、これらのフェノール化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0019】
前記触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ホウ酸マンガン等の金属塩、酸化鉛、酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0020】
また、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)の製造の際、必要に応じて、フルフラール、尿素、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等を併用することもできる。
【0021】
上記反応は有機溶剤の存在下で行ってもよいし、得られた反応生成物に有機溶剤を加えてもよいが、オルソ-パラ比の大きい樹脂が得られ易いため、有機溶剤の存在下で行うことが好ましい。
【0022】
前記有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0023】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)は、前記触媒の残留量を水洗等により低減したものが好ましく、0.005ppm以下のものが好ましい。
【0024】
前記ジビニルベンゼン化合物(B)としては、例えば、ジビニルベンゼン、アルキルジビニルベンゼン、これらのハロゲン置換物等が挙げられるが、反応性や作業性がより優れることから、ジビニルベンゼンが好ましい。なお、これらのジビニルベンゼン化合物(B)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との質量比(A/B)は、成形性及び難燃性のバランスがより優れることから、40/60~70/30の範囲であることが好ましい。
【0026】
また、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と反応し得るビニル化合物として、前記ジビニルベンゼン化合物(B)以外のその他のビニル化合物を含有することができる。その他のビニル化合物としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、モノブロモスチレン等の芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸ステアリルエステル、(メタ)アクリル酸、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の脂肪族ビニル化合物が挙げられる。これらのその他のビニル化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0027】
前記水酸化アルミニウム(C)は、良好な成形性を維持しながら、成形品に難燃性を付与できることから、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物との合計100質量部に対し、110~240質量部であることが重要であるが、成形性と難燃性のバランスがより向上することから、120~220質量部がより好ましい。
【0028】
前記ポリイソシアネート化合物(D)としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-体、2,4’-体、又は2,2’-体、若しくはそれらの混合物)、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ヌレート変性体、ビュレット変性体、ウレタンイミン変性体、ジエチレングリコールやジプロピレングリコール等の数平均分子量1,000以下のポリオールで変性したポリオール変性体等のジフェニルメタンジイソシアネート変性体、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート変性体、ビュレット変性体、アダクト体、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらの中でも、取り扱い性(フィルム剥離性・タック性)に優れる成形材料が得られることから、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-体、2,4’-体、又は2,2’-体、若しくはそれらの混合物)、ジフェニルメタンジイソシアネート変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートがより好ましい。なお、これらのポリイソシアネート化合物(D)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0029】
前記ポリイソシアネート化合物(D)は、増粘効果と得られる成形品の外観及び強度とのバランスの観点から、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対し、1~23質量部であることが重要であるが、2~18質量部であることがより好ましい。
【0030】
前記強化繊維(E)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、テトロン繊維等の有機繊維などが挙げられるが、より高強度、高弾性の成形品が得られることから、ガラス繊維又は炭素繊維好ましい。これらの強化繊維(E)は単独で用いることも、2種以上併用することもできる。
【0031】
前記強化繊維(E)の形状としては特に制限はなく、例えば、短繊維、長繊維、ヤーン、マット、シート等が挙げられる。
【0032】
本発明の成形材料の成分中の、前記強化繊維(E)の含有率は、得られる成形品の機械強度がより向上することから、10~60質量%の範囲が好ましく、20~40質量%の範囲がより好ましい。
【0033】
本発明の繊維強化成形材料の成分としては、ノボラック型フェノール樹脂(A)、ジビニルベンゼン化合物(B)、水酸化アルミニウム(C)、ポリイソシアネート化合物(D)、及び強化繊維(E)以外のものを使用してもよく、例えば、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)以外の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化促進剤、重合禁止剤、充填剤、低収縮剤、離型剤、増粘剤、減粘剤、顔料、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、抗菌剤、紫外線安定剤、補強材、光硬化剤等を含有することができる。
【0034】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂、ビニルウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。また、これらの熱硬化性樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0035】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイソプレン樹脂およびこれらを共重合等により変性させたものが挙げられる。また、これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0036】
前記硬化促進剤としては、例えば、塩化アルミニウム、塩化第一錫等の金属塩化物、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、酢酸、しゅう酸、マレイン酸等の有機カルボン酸、亜リンモノフェニル等の亜リン酸エステル、硫酸や有機スルホン酸から誘導されるエステル化合物、p-トルエンスルホン酸メチルや、塩化アンモニウム等の塩、塩化ベンジル、クロロメチルスチレン、塩化ベンゾイル、ハロゲン化金属のスルフォニウム塩等で代表される潜在性触媒などが挙げられる。これら硬化促進剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0037】
前記硬化促進剤は、硬化性及び得られる成形品の性能のバランスがより向上することから、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)100質量部に対して、0.5~10質量部の範囲が好ましい。
【0038】
前記充填剤としては、無機化合物、有機化合物があり、成形品の強度等の物性を調整するために使用できる。
【0039】
前記無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、アスベスト、バーライト、バライタ、シリカ、ケイ砂、ドロマイト石灰石、石こう、アルミニウム微粉、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、寒水石、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン、鉄粉等が挙げられる。
【0040】
前記有機化合物としては、セルロース、キチン等の天然多糖類粉末や、合成樹脂粉末等があり、合成樹脂粉末としては、硬質樹脂、軟質ゴム、エラストマーまたは重合体(共重合体)などから構成される有機物の粉体やコアシェル型などの多層構造を有する粒子を使用できる。具体的には、ブタジエンゴムおよび/またはアクリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等からなる粒子、ポリイミド樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、フェノール樹脂粉末などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0041】
本発明の繊維強化成形材料は、生産性に優れる観点及びデザイン多様性を有する成形性の観点から、シートモールディングコンパウンド(以下、「SMC」と略記する。)又はバルクモールディングコンパウンド(以下、「BMC」と略記する。)であることが好ましい。
【0042】
前記SMCの製造方法としては、通常のミキサー、インターミキサー、プラネタリーミキサー、ロール、ニーダー、押し出し機などの混合機を用いて、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)、前記ジビニルベンゼン化合物(B)、前記水酸化アルミニウム(C)、前記ポリイソシアネート化合物(D)等の各成分を混合・分散し、得られた樹脂組成物を上下に設置されたキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布し、前記強化繊維(E)を前記上下に設置されたキャリアフィルム上の樹脂組成物で挟み込み、次いで、全体を含浸ロールの間に通して、圧力を加えて前記強化繊維(E)に樹脂組成物を含浸させた後、ロール状に巻き取る又はつづら折りに畳む方法等が挙げられる。さらに、この後に25~60℃の温度で熟成を行うことが好ましい。キャリアフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンとポリプロピレンのラミネートフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等を用いることができる。
【0043】
前記BMCの製造方法としては、前記SMCの製造方法と同様に、通常のミキサー、インターミキサー、プラネタリーミキサー、ロール、ニーダー、押し出し機などの混合機を用いて、前記ノボラック型フェノール樹脂(A)、前記ジビニルベンゼン化合物(B)、前記水酸化アルミニウム(C)、前記ポリイソシアネート化合物(D)等の各成分を混合・分散し、得られた樹脂組成物に前記強化繊維(E)を混合・分散させる方法等が挙げられる。また、SMCと同様に25~60℃の温度で熟成することが好ましい。
【0044】
本発明の成形品は、前記繊維強化成形材料より得られるが、生産性に優れる点とデザイン多様性に優れる観点からその成形方法としては、SMC又はBMCの加熱圧縮成形が好ましい。
【0045】
前記加熱圧縮成形としては、例えば、SMC、BMC等の成形材料を所定量計量し、100~200℃に加熱した金型に投入し、圧縮成形機にて型締めを行い、成形材料を賦型させ、0.1~30MPaの成形圧力を保持することによって、成形材料を硬化させ、その後成形品を取り出し成形品を得る製造方法が用いられる。なお、加熱条件や加圧条件は段階的に変更することもできる。
【0046】
本発明の繊維強化成形材料から得られる成形品は、外観、曲げ強さ、曲げ弾性率等に優れることから、自動車部材、鉄道車両部材、航空宇宙機部材、船舶部材、住宅設備部材、スポーツ部材、軽車両部材、建築土木部材、OA機器等の筐体等に好適に用いることができる。
【実施例
【0047】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。フェノール樹脂のオルソ-パラ比は13C-NMR測定により求めたものである。
【0048】
(合成例1:ノボラック型フェノール樹脂(A-1)の合成)
攪拌機、コンデンサー、温度計及び滴下ロートを備えた4つ口2Lフラスコに、フェノール940g(10モル)及び80質量%パラホルムアルデヒドを281g(7.5モル)、更にキシレンを470g加え攪拌を開始した。触媒として酢酸亜鉛2水和物を4.7g加え、還流温度まで昇温した。5時間還流下にて反応させた後、蒸留を開始して水と溶剤であるキシレンを除去しつつ、130℃まで昇温した。130℃にて1時間保持した後、蒸留しながら150℃まで昇温した。さらに減圧下で遊離フェノールを一部除去した後、析出した触媒を濾過しながら取り出し、融点58℃の固形ノボラック型フェノール樹脂(A-1)を得た。このノボラック型フェノール樹脂(A-1)のオルソ-パラ比は6.6であった。
【0049】
(調製例1:混合液(1)の調製)
得られたノボラック型フェノール樹脂(A-1)の100質量部に対して、ジビニルベンゼン100質量部を50℃にて溶解させて、ノボラック型フェノール樹脂とジビニルベンゼンとの混合物(1)を得た。
【0050】
(調製例2:混合液(2)の調製)
得られたノボラック型フェノール樹脂(A-1)の115質量部に対して、ジビニルベンゼン85質量部を50℃にて溶解させて、ノボラック型フェノール樹脂とジビニルベンゼンとの混合物(2)を得た。
【0051】
(実施例1:繊維強化成形材料(1)の作製及び評価)
合成例1で得た混合物(1)100質量部(ノボラック型フェノール樹脂50質量部、ジビニルベンゼン50質量部)に、水酸化アルミニウム(日本軽金属社製「B103」、以下、「水酸化アルミニウム(C-1)」と略記する。)200質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(DIC株式会社製、「ハイプロックスSP-292K」、ジフェニルメタンジイソシアネート変性体;以下、「ポリイソシアネート化合物(D-1)」と略記する。)10質量部、硬化促進剤(キシレン-4-スルホン酸水和物2質量部とクレゾール4質量部との混合物)6質量部を混合し、樹脂組成物(1)を得た。
【0052】
上記で得た樹脂組成物(1)を、PPフィルム上に塗布し、1インチ(25mm)にカットしたガラス繊維ロービング(日東紡社製「RS 480PB-549 AC」、以下、強化繊維(E-1)と略記する。)を繊維含有率が23質量%になるよう準備し、繊維方向性が無く厚みが均一になるように、塗布した樹脂上に空中から均一落下させ、同様に樹脂組成物(1)を塗布したフィルムで挟み込みガラス繊維に樹脂を含浸させた後、40℃恒温機中に4時間放置し、シート状の繊維強化成形材料(1)を得た。
【0053】
[成形品の作製]
上記で得られたシート状の繊維強化成形材料(1)をフィルムから剥離し、20cm×20cmにカットしたものを23×23cmの平板金型の中央にセットし、プレス圧力15MPaでプレス金型温度上型125℃/下型115℃、プレス時間15分、その後プレス金型温度上型155℃/下型145℃、プレス時間15分、その後プレス金型温度上型185℃/下型175℃、プレス時間30分で成形し、厚み1.5mmの平板状の成形品(1)を得た。
【0054】
[成形性の評価]
上記で得られた成形品(1)の外観を観察し、以下の基準により成形性を評価した。
○:成形材料の流動性が良好であり、成形品に表面荒れ等の欠陥がみられない。
△:成形材料の流動性は良好であるが、成形品の一部に表面荒れ等の欠陥がみられる。
×:成形材料の流動性が不良であり、金型通りの成形品が得られない。
【0055】
[難燃性の評価]
得られた成形品(1)を125mm×13mm×1.5mmにカットし、UL94燃焼試験のうち20mm垂直燃焼試験(IEC60695-11-10B,ASTM D3801)に準拠して測定を行い、難燃性を評価した。
【0056】
(実施例2:繊維強化成形材料(2)の作製及び評価)
実施例1で用いたポリイソシアネート化合物(D-1)10質量部を3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(2)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0057】
(実施例3:繊維強化成形材料(3)の作製及び評価)
実施例1で用いたポリイソシアネート化合物(D-1)10質量部を15質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(3)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0058】
(実施例4:繊維強化成形材料(4)の作製及び評価)
実施例1で用いた水酸化アルミニウム(C-1)200質量部を120質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(4)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0059】
(実施例5:繊維強化成形材料(5)の作製及び評価)
実施例1で用いた水酸化アルミニウム(C-1)200質量部を210質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(5)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0060】
(実施例6:繊維強化成形材料(6)の作製及び評価)
実施例1で用いた混合物(1)を混合物(2)に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(6)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0061】
(実施例7:繊維強化成形材料(7)の作製及び評価)
実施例1で用いたポリイソシアネート化合物(D-1)10質量部を1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(7)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0062】
(実施例8:繊維強化成形材料(8)の作製及び評価)
実施例1で用いたポリイソシアネート化合物(D-1)10質量部を20質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(8)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0063】
(実施例9:繊維強化成形材料(9)の作製及び評価)
実施例1で用いた水酸化アルミニウム(C-1)200質量部を230質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(9)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0064】
(比較例1:繊維強化成形材料(R1)の作製及び評価)
実施例1で用いたポリイソシアネート化合物(D-1)10質量部を0.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(R1)を作製し、成形性を評価した。なお、成形性が不良であったため、難燃性の評価は行わなかった。
【0065】
(比較例2:繊維強化成形材料(R2)の作製及び評価)
実施例1で用いたポリイソシアネート化合物(D-1)10質量部を25質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(R2)を作製し、成形性を評価した。なお、成形性が不良であったため、難燃性の評価は行わなかった。
【0066】
(比較例3:繊維強化成形材料(R3)の作製及び評価)
実施例1で用いた水酸化アルミニウム(C-1)200質量部を100質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(R3)を作製し、成形性及び難燃性を評価した。
【0067】
(比較例4:繊維強化成形材料(R4)の作製及び評価)
実施例1で用いた水酸化アルミニウム(C-1)200質量部を250質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、繊維強化成形材料(R4)を作製し、成形性を評価した。なお、成形性が不良であったため、難燃性の評価は行わなかった。
【0068】
上記で得られた繊維強化成形材料(1)~(9)の組成及び評価結果を表1及び2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
上記で得られた繊維強化成形材料(R1)~(R4)の組成及び評価結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例1~9の本発明の繊維強化成形材料は、成形性に優れ、得られる成形品は難燃性に優れることが確認された。
【0074】
一方、比較例1は、ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対するポリイソシアネート化合物(D-1)が、本発明の下限である1質量部よりも少ない例であるが、成形性が不十分であることが確認された。
【0075】
比較例2は、ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対するポリイソシアネート化合物(D-1)が、本発明の上限である23質量部よりも多い例であるが、成形性が不十分であることが確認された。
【0076】
比較例3は、ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対する水酸化アルミニウム(C-1)が、本発明の下限である110質量部よりも少ない例であるが、難燃性が不十分であることが確認された。
【0077】
比較例4は、ノボラック型フェノール樹脂(A)と前記ジビニルベンゼン化合物(B)との合計100質量部に対する水酸化アルミニウム(C-1)が、本発明の下限である240質量部よりも多い例であるが、成形性が不十分であることが確認された。