IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-合わせガラス 図1
  • 特許-合わせガラス 図2
  • 特許-合わせガラス 図3
  • 特許-合わせガラス 図4
  • 特許-合わせガラス 図5
  • 特許-合わせガラス 図6
  • 特許-合わせガラス 図7
  • 特許-合わせガラス 図8
  • 特許-合わせガラス 図9
  • 特許-合わせガラス 図10
  • 特許-合わせガラス 図11
  • 特許-合わせガラス 図12
  • 特許-合わせガラス 図13
  • 特許-合わせガラス 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20230307BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20230307BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
C03C27/12 M
C03C27/12 K
B60J1/00 J
B32B17/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020522218
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019021128
(87)【国際公開番号】W WO2019230732
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018103406
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
(72)【発明者】
【氏名】儀間 裕平
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214059(JP,A)
【文献】特開2017-071544(JP,A)
【文献】特開2019-099405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B60J 1/00-1/20
B32B 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外側ガラス板と車内側ガラス板との間に中間膜を有する車両用の合わせガラスであって、
JIS規格R3212で規定される試験領域Aと、
車両内に搭載されるデバイスが情報を送信及び/又は受信する情報送受信領域と、
前記車外側ガラス板及び前記車内側ガラス板のうち何れか一方のガラス板と前記中間膜との間の、平面視において、前記試験領域Aの外側であって前記情報送受信領域と重複する領域に接着された、前記情報送受信領域を加熱可能なフィルムと、を有し、
前記フィルムは、基材と、前記基材上に形成された加熱要素と、前記加熱要素に接続されるバスバーと、を備え、
前記加熱要素は、少なくとも1本のスリットにより2つ以上の加熱領域に分割されており、
前記2つ以上の加熱領域が、少なくとも1つのバスバーを共有し、直列に接続されている合わせガラス。
【請求項2】
前記フィルムは、前記車内側ガラス板に粘着層を介して接着されている請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記粘着層の厚さは5μm以上120μm以下である請求項2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記粘着層は、引張速度300mm/minでの180deg剥離試験による前記車内側ガラス板との接着力が10N/25mm以上である請求項2又は3に記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記粘着層は、アクリル系、アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、ポリビニルブチラール系からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂から形成されている請求項2乃至4の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記フィルムを含めた前記情報送受信領域の可視光透過率Tvは、70%以上である請求項1乃至5の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記フィルムを含めた前記情報送受信領域のヘイズは、1%以下である請求項1乃至6の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記加熱要素は、金、銀、銅、又はスズドープ酸化インジウムから形成されている請求項1乃至7の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項9】
前記バスバーは、銀、銅、錫、金、アルミニウム、鉄、タングステン、クロムからなる群から選択される少なくとも1つの金属、前記群から選択される2つ以上の金属を含む合金、又は導電性有機ポリマーから形成されている請求項1乃至8の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項10】
前記基材は、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、プリブチレンテレフタレート、ポリビニルブチラール、ポリエチル酢酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーのホモポリマー又はコポリマーから形成されている請求項乃至の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項11】
前記基材の厚さは5μm以上500μm以下である請求項乃至10の何れか一項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の安全性向上を目的に、自動的に前方を走行する車両や歩行者との衝突を回避する機能を有する車両が開発されている。このような車両は、例えば、カメラ等のデバイスを車内に搭載し、車両のガラス(例えば、フロントガラス等)を介して、道路状況等の情報の送受信を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところが、寒冷地においては、ガラスに付着した水分の凍結や、車内外の温度差によるガラスの曇が、これらのデバイスの機能を喪失させてしまう場合がある。そこで、この問題を回避するために、ガラスの車内側のデバイスが設けられる領域に加熱可能なフィルムを貼り付ける技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2011-510893号公報
【文献】特表2012-530646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フィルムを均一に発熱させるためには、フィルムの平面形状が矩形であることが好ましい。しかし、ガラスの車内側のデバイスが設けられる領域にフィルムを貼り付ける場合、他部品との干渉でフィルムの形状に制約が出てしまい、フィルムを所望の形状にすることが困難である。フィルムの形状が矩形でない異形状である場合、フィルムを均一に加熱できず、ガラスの凍結や曇等によりデバイスのセンシング性能が阻害されてしまう。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、凍結や曇等によりデバイスのセンシング性能が阻害されにくい車両用の合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本合わせガラスは、車外側ガラス板と車内側ガラス板との間に中間膜を有する車両用の合わせガラスであって、JIS規格R3212で規定される試験領域Aと、車両内に搭載されるデバイスが情報を送信及び/又は受信する情報送受信領域と、前記車外側ガラス板及び前記車内側ガラス板のうち何れか一方のガラス板と前記中間膜との間の、平面視において、前記試験領域Aの外側であって前記情報送受信領域と重複する領域に接着された、前記情報送受信領域を加熱可能なフィルムと、を有し、前記フィルムは、基材と、前記基材上に形成された加熱要素と、前記加熱要素に接続されるバスバーと、を備え、前記加熱要素は、少なくとも1本のスリットにより2つ以上の加熱領域に分割されており、前記2つ以上の加熱領域が、少なくとも1つのバスバーを共有し、直列に接続されていることを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
開示の一実施態様によれば、凍結や曇等によりデバイスのセンシング性能が阻害されにくい車両用の合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係る車両用のフロントガラスを例示する図である。
図2】第1の実施の形態に係るフィルムを例示する図である。
図3】第1の実施の形態の変形例1に係るフィルムを例示する断面図である。
図4】第2の実施の形態に係るフィルムを例示する断面図である。
図5】第2の実施の形態の変形例1に係るフィルムを例示する断面図である。
図6】第3の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図(その1)である。
図7】第3の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図(その2)である。
図8】第4の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図である。
図9】バスバーの極間距離について説明する図である。
図10】第5の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図である。
図11】第6の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図である。
図12】実施例及び比較例の結果を示す図である。
図13】第1の実施の形態の変形例2に係るフィルムを例示する断面図である。
図14】第2の実施の形態の変形例2に係るフィルムを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、各図面において、本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0011】
なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されず、実施の形態に係る合わせガラスは、車両用のフロントガラス以外にも適用可能である。又、車両とは、代表的には自動車であるが、電車、船舶、航空機等を含むガラスを有する移動体を指すものとする。
【0012】
又、平面視とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視ることを指し、平面形状とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視た形状を指すものとする。又、本願明細書においては、上下は図面のZ軸方向、左右は図面のY軸方向を指すものとする。
【0013】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係る車両用のフロントガラスを例示する図であり、図1(a)はフロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である(フロントガラス20はZ方向を上方として車両に取り付けられた状態である)。図1(b)は、図1(a)に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た断面図である。なお、図1(b)において、便宜上、フロントガラス20と共にデバイス300を図示しているが、デバイス300はフロントガラス20の構成要素ではない。
【0014】
図1に示すように、フロントガラス20は、車内側ガラス板であるガラス板21と、車外側ガラス板であるガラス板22と、中間膜23と、遮蔽層24と、フィルム25とを有する車両用の合わせガラスである。
【0015】
フロントガラス20において、ガラス板21とガラス板22とは、中間膜23及びフィルム25を挟持した状態で固着されている。中間膜23は、複数層の中間膜から形成されてもよい。ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23の詳細については後述する。
【0016】
遮蔽層24は、ガラス板21の車内側の面21aの周縁部に設けられている。遮蔽層24は、不透明な層であり、例えば、所定の色の印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成できる。遮蔽層24は、例えば、不透明な(例えば、黒色の)着色セラミック層である。フロントガラス20の周縁部に不透明な遮蔽層24が存在することで、フロントガラス20の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂や、デバイス300を係止するブラケットをフロントガラス20に貼り付ける接着部材等の紫外線による劣化を抑制できる。
【0017】
フロントガラス20には、JIS規格R3212で規定される試験領域Aが画定されている。又、フロントガラス20には、情報送受信領域26が画定されている。試験領域Aは平面視で遮蔽層24に囲まれた領域の内側に位置し、情報送受信領域26は遮蔽層24に設けられた開口部内に位置している。
【0018】
情報送受信領域26は、車両内のフロントガラス20の上辺周縁部等にデバイス300が配置される場合に、デバイス300が情報を送信及び/又は受信する領域として機能する。情報送受信領域26の平面形状は特に限定されないが、例えば、等脚台形である。情報送受信領域26は、フロントガラス20を車両に取り付けたときに、運転手の視界を阻害しないと同時に、情報の送信及び/又は受信に有利なため、試験領域Aよりも上側に位置することが好ましい。
【0019】
なお、デバイス300は、情報を送信及び/又は受信するデバイスであり、例えば、可視光や赤外光等を取得するカメラ、ミリ波レーダ、赤外線レーザ等が挙げられる。車両内に、デバイス300以外に情報送受信領域26を介して情報を送信及び/又は受信する他のデバイスが配置されてもよい。ここで、「信号」とは、ミリ波、可視光、赤外光等を含む電磁波を指す。
【0020】
フィルム25は、ガラス板21と中間膜23との間の、平面視において、試験領域Aの外側であって情報送受信領域26と重複する領域に接着された、情報送受信領域26を加熱可能なフィルムである。フィルム25の平面形状は、例えば、情報送受信領域26の平面形状よりも若干大きな矩形とすることが好ましいが、台形としてもよいし、矩形や台形の任意の辺が曲線状になった形状としてもよいし、その他の形状としてもよい。
【0021】
フィルム25を含めた情報送受信領域26の可視光透過率Tvは、70%以上であることが好ましい。又、フィルム25を含めた情報送受信領域26のヘイズは、1%以下であることが好ましい。
【0022】
図2は、第1の実施の形態に係るフィルムを例示する図であり、図2(a)はフィルムを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した平面図、図2(b)は図2(a)のA-A線に沿う断面図である。なお、図2(a)において、ガラス板21及び22、中間膜23、遮蔽層24、粘着層29、基材251、及び保護膜254の図示は省略している。又、図2(a)において、便宜上、情報送受信領域26を破線で示している。
【0023】
フィルム25は、基材251と、加熱要素252と、バスバー253と、保護膜254とを備えている。但し、保護膜254は、フィルム25の必須の構成要素ではなく、必要に応じて設けることができる。
【0024】
フィルム25は、ガラス板21に粘着層29を介して接着されている。より詳しくは、フィルム25の基材251の車内側の面は、粘着層29を介して、情報送受信領域26内に位置するガラス板21の車外側の面21b、及び情報送受信領域26の周囲に隣接するガラス板21の車外側の面21bに接着されている。
【0025】
粘着層29は、例えば、アクリル系、アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、ポリビニルブチラール系からなる群から選択される少なくとも1つの樹脂から形成できる。
【0026】
粘着層29は、引張速度300mm/minでの180deg剥離試験によるガラス板21との接着力が10N/25mm以上であることが好ましい。粘着層29が引張速度300mm/minでの180deg剥離試験によるガラス板21との接着力が10N/25mm以上であると、フロントガラス20が割れた場合であっても、割れたガラスの脱落を防ぐことができる。
【0027】
粘着層29の厚さは、例えば、5μm以上120μm以下である。粘着層29の厚さを5μm以上とすることで、合わせガラス作製時の圧着の際に、粘着層29がガラス板21とフィルム25との熱収縮率差を緩和するため、フィルム25の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、デバイス300のセンシング性能を確保できる。又、粘着層29の厚さを5μm以上とすることで、高温高湿の環境下で繰り返し使用した際の粘着層29のエッジ劣化を抑制できる。
【0028】
又、粘着層29の厚さを120μm以下とすることで、フィルム25の車内側及び車外側の面が平滑面であるガラス板21の車外側の面21bに追従する。そのため、フィルム25の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、デバイス300のセンシング性能を確保できる。
【0029】
基材251としては、例えば、プラスチックフィルムやガラスを用いることができる。基材251の厚さは、5μm以上500μm以下としてよいが、好ましくは10μm以上200μm以下であり、更に好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0030】
基材251となるプラスチックフィルムは、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、プリブチレンテレフタレート、ポリビニルブチラール、ポリエチル酢酸ビニルからなる群から選択される少なくとも1つのモノマーのホモポリマー又はコポリマーから形成できる。基材251となるガラスの材料としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等が挙げられる。
【0031】
加熱要素252は、基材251上に形成されている。加熱要素252は、例えば、金、銀、銅、スズドープ酸化インジウム等の導電性薄膜から形成できる。加熱要素252は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法やイオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)を用いて形成できる。加熱要素252は、化学蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)やウェットコーティング法を用いて形成してもよい。又、加熱要素252のシート抵抗は、150Ω/□以下とすることが好ましい。
【0032】
1組のバスバー253は、基材251の端部に沿って延び、加熱要素252と電気的に接続されている。1組のバスバー253の一方の極は例えば正極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の正側と接続される。又、1組のバスバー253の他方の極は例えば負極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の負側と接続される。
【0033】
バッテリー等の電源から1組のバスバー253を介して加熱要素252に電流が供給されると、加熱要素252が発熱する。加熱要素252で発生した熱は、フロントガラス20の情報送受信領域26を温め、情報送受信領域26を構成するガラス板21及び22の表面の凍結や曇を取り除き、デバイス300による良好なセンシングを確保する。
【0034】
なお、加熱要素252への給電に、非接触給電を用いてもよい。非接触給電とは、コネクタや配線等による物理的な接触を介さずに、無線で電力供給を行う方法である。非接触給電には、例えば、互いに非接触な給電部と受電部の各々に設けられたコイル同士を近接させた状態で電磁誘導により電力供給を行う電磁誘導方式を用いることができる。
【0035】
バスバー253としては、銀ペーストが好適に用いられる。銀ペーストは、例えば、スクリーン印刷等の印刷方式により塗布できる。バスバー253は、銀、銅、錫、金、アルミニウム、鉄、タングステン、クロムからなる群から選択される少なくとも1つの金属、この群から選択される2つ以上の金属を含む合金、又は導電性有機ポリマーから、スパッタ法等により形成してもよい。又、バスバー253として、銅リボンや平編み銅線を用いてもよい。
【0036】
保護膜254は、加熱要素252及びバスバー253を保護する膜である。保護膜254の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0037】
なお、図1(b)及び図2(b)では、遮蔽層24がガラス板21の車内側の面21aに設けられているが、これには限定されない。遮蔽層24は、例えば、ガラス板22の車内側の面22bに設けてもよいし、ガラス板21の車内側の面21aとガラス板22の車内側の面22bの両方に設けてもよい。
【0038】
ガラス板22の車内側の面22bに遮蔽層24を設ける場合には、フィルム25のエッジの隠蔽と透視歪を低減する観点から、遮蔽層24のエッジ近傍とフィルム25のエッジ近傍とを平面視で1mm以上重複させることが好ましい。又、フィルム25のエッジを隠蔽する層をフィルム25自体に設けてもよい(例えば、フィルム25の周縁部を着色する)。
【0039】
ここで、ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23について詳述する。
【0040】
フロントガラス20において、ガラス板21の車内側の面21a(フロントガラス20の内面)と、ガラス板22の車外側の面22a(フロントガラス20の外面)とは、平面であっても湾曲面であっても構わない。
【0041】
ガラス板21及び22としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等を用いることができる。ガラス板21及び22が無機ガラスである場合、例えば、フロート法によって製造できる。
【0042】
フロントガラス20の外側に位置するガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板22の板厚が1.8mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
【0043】
フロントガラス20の内側に位置するガラス板21の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板21の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりフロントガラス20の質量が大きくなり過ぎない。
【0044】
ガラス板21の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、ガラス品質(例えば、残留応力)を維持できる。ガラス板21の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質(例えば、残留応力)の維持に特に有効である。ガラス板21の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。
【0045】
但し、ガラス板21及び22の板厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、ガラス板21及び22の一方又は両方が、フロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔状の領域を備えていてもよい。
【0046】
フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板21及び22は、フロート法等による成形の後、中間膜23による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0047】
ガラス板21とガラス板22とを接着する中間膜23としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0048】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0049】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜23を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。 中間膜23の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜23の膜厚が0.5mm以上であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が十分となる。又、中間膜23の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜23の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜23の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
【0050】
なお、中間膜23は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を3層から構成し、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0051】
中間膜23を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜23が完成する。
【0052】
合わせガラスを作製するには、ガラス板21とガラス板22との間に、中間膜23、フィルム25及び粘着層29(粘着層29は予めフィルム25の一方の側に設けておく)を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。
【0053】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0054】
ガラス板21とガラス板22との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜23及びフィルム25の他に、赤外線反射、発光、調光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。
【0055】
このように、フロントガラス20では、ガラスの車内側のデバイスが設けられる領域にフィルムを貼り付ける場合とは異なり、フィルム25をフロントガラス20内に封入している。そのため、フィルム25が他部品(例えば、デバイス300用のブラケット)と干渉するおそれがなくなり、フィルム25の平面形状の設計自由度を向上できる。その結果、フィルム25の平面形状を容易に所望の形状(例えば、矩形)にできる。
【0056】
例えば、フィルム25の平面形状を矩形とし、矩形のフィルム25の両端部に1組のバスバー253を平行に配置する。これにより、フィルム25の形状が矩形でない異形状である場合よりも容易にフィルム25全体に均一に電流を流すことが可能となり、フィルム25を均一に発熱させることができる。その結果、凍結や曇等によりデバイス300のセンシング性能が阻害されにくいフロントガラス20を実現できる。
【0057】
又、フロントガラス20では、フィルム25をフロントガラス20内に封入しているため、フィルム25が傷つくおそれを低減できる。
【0058】
又、フロントガラス20では、フィルム25をフロントガラス20内に封入しているため、フロントガラス20に亀裂が入った際に、亀裂の進展を抑制できる。
【0059】
なお、フロントガラス20にフィルム25を封入する際に、2枚の中間膜でフィルム25を挟む形態も考えられるが、この形態は好ましくない。2枚の中間膜を用いる場合、各々の中間膜の厚さが数100μm程度となるため、フィルム25が平滑面であるガラス板21の車外側の面21bやガラス板22の車内側の面22bに追従できない。その結果、フィルム25によれが生じてフィルム25の車内側及び車外側の面の平滑性が低下し、デバイス300のセンシング性能が阻害される。
【0060】
これに対して、フロントガラス20では、粘着層29の厚さを120μm以下としているため、フィルム25の車内側及び車外側の面が平滑面であるガラス板21の車外側の面21bに追従する。そのため、フィルム25の車内側及び車外側の面の平滑性が維持され、デバイス300のセンシング性能を確保できる。又、フロントガラス20では、粘着層29の厚さを120μm以下としているため、情報送受信領域26内のガラス板21の車内側の面21aの温度をより高くできる。
【0061】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、フィルムと中間膜との間にも粘着層を設ける例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0062】
図3は、第1の実施の形態の変形例1に係るフィルムを例示する断面図であり、図2(b)に対応する断面を示している。なお、第1の実施の形態の変形例1に係るフロントガラス20Aの全体の平面形状及び断面形状は、図1と同様である。
【0063】
図3に示すフロントガラス20Aは、フィルム25と中間膜23との間に粘着層39を設けた点がフロントガラス20(図2(b)参照)と相違する。
【0064】
フロントガラス20Aでは、フィルム25の基材251の車内側の面は、粘着層29を介して、情報送受信領域26内に位置するガラス板21の車外側の面21b、及び情報送受信領域26の周囲に隣接するガラス板21の車外側の面21bに接着されている。それに加え、フロントガラス20Aでは、フィルム25の保護膜254の車外側の面(加熱要素252と接する面の反対面)は、粘着層39を介して、中間膜23の車内側の面に接着されている。
【0065】
フィルム25の保護膜254と中間膜23とが密着し難い場合があり、その場合には、図3に示すように、粘着層39を設けて保護膜254の車外側の面を中間膜23の車内側の面に接着することが好ましい。
【0066】
粘着層39の材料は、第1の実施の形態で粘着層29の材料として例示した材料の中から適宜選択できる。粘着層39の厚さは、例えば、5μm以上120μm以下である。
【0067】
このように、フィルム25と中間膜23とを接着する粘着層39を設けてもよい。これにより、フィルム25の保護膜254と中間膜23との密着性を向上できる。
【0068】
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、車外側のガラス板と中間膜との間に粘着層及びフィルムを設ける例を示す。なお、第2の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0069】
図4は、第2の実施の形態に係るフィルムを例示する断面図であり、図2(b)に対応する断面を示している。なお、第2の実施の形態に係るフロントガラス20Bの全体の平面形状及び断面形状は、図1と同様である。
【0070】
図4に示すフロントガラス20Bは、フィルム25が粘着層29を介してガラス板22の車内側の面22bに固着された点がフロントガラス20(図2(b)参照)と相違する。すなわち、フロントガラス20Bでは、フィルム25は、ガラス板22と中間膜23との間の、平面視において、試験領域Aの外側であって情報送受信領域26と重複する領域に接着されている。
【0071】
フロントガラス20Bでは、フィルム25の基材251の車外側の面は、粘着層29を介して、情報送受信領域26内に位置するガラス板22の車内側の面22b、及び情報送受信領域26の周囲に隣接するガラス板22の車内側の面22bに接着されている。
【0072】
このように、フィルム25はガラス板22の車内側の面22bに接着してもよい。この場合にも、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0073】
〈第2の実施の形態の変形例1〉
第2の実施の形態の変形例1では、フィルムと中間膜との間にも粘着層を設ける他の例を示す。なお、第2の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0074】
図5は、第2の実施の形態の変形例1に係るフィルムを例示する断面図であり、図2(b)に対応する断面を示している。なお、第2の実施の形態の変形例1に係るフロントガラス20Cの全体の平面形状及び断面形状は、図1と同様である。
【0075】
図5に示すフロントガラス20Cは、フィルム25と中間膜23との間に粘着層39を設けた点がフロントガラス20B(図4参照)と相違する。
【0076】
フロントガラス20Cでは、フィルム25の基材251の車外側の面は、粘着層29を介して、情報送受信領域26内に位置するガラス板22の車内側の面22b、及び情報送受信領域26の周囲に隣接するガラス板22の車内側の面22bに接着されている。それに加え、フロントガラス20Cでは、フィルム25の保護膜254の車内側の面(加熱要素252と接する面の反対面)は、粘着層39を介して、中間膜23の車外側の面に接着されている。
【0077】
フィルム25の保護膜254と中間膜23とが密着し難い場合があり、その場合には、図5に示すように、粘着層39を設けて保護膜254の車内側の面を中間膜23の車外側の面に接着することが好ましい。
【0078】
粘着層39の材料は、第1の実施の形態で粘着層29の材料として例示した材料の中から適宜選択できる。粘着層39の厚さは、例えば、5μm以上120μm以下である。
【0079】
このように、フィルム25と中間膜23とを接着する粘着層39を設けてもよい。これにより、フィルム25の保護膜254と中間膜23との密着性を向上できる。
【0080】
〈第3の実施の形態〉
第3の実施の形態では、第1又は第2の実施の形態とは異なる加熱要素を設ける例を示す。なお、第3の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0081】
図6は、第3の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図(その1)であり、フィルムを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した平面図である。なお、図6において、ガラス板21及び22、中間膜23、遮蔽層24、粘着層29、及び保護膜254の図示は省略している。又、図6において、便宜上、情報送受信領域26を破線で示している。フロントガラス20Dの全体の平面形状及び断面形状は、図1と同様である。
【0082】
図6に示すフロントガラス20Dは、フィルム25がフィルム25Dに置換された点が、がフロントガラス20(図2参照)と相違する。又、フィルム25Dは、加熱要素252が加熱要素252Dに置換された点が、がフィルム25(図2参照)と相違する。
【0083】
加熱要素252Dは、基材251上に形成された電熱線である。加熱要素252Dは、例えば、波線状や折れ線状に形成された複数の電熱線が所定の間隔で並置され、対向配置された1組のバスバー253間に並列に接続された構成にできる。但し、加熱要素252Dにおいて、電熱線に代えてメッシュ状の金属を用いてもよい。
【0084】
加熱要素252Dを構成する電熱線又はメッシュ状の金属の材料としては、導電性材料であれば特に制限はないが、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステンからなる群から選択される少なくとも1つの金属、この群から選択される2つ以上の金属を含む合金等が挙げられる。
【0085】
なお、バスバー253の一方の極から他方の極に至るまでの途中で、電熱線の波長や周期が変化してもよい。又、バスバー253の一方の極から他方の極に至るまでの途中において、隣接する電熱線の位相は揃っていてもよいし、ずれていてもよいが、隣接する電熱線の位相がずれていると、光の規則的な散乱による光芒を抑制できる点で好適である。
【0086】
図7は、第3の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図(その2)であり、フィルムを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した平面図である。なお、図7において、ガラス板21及び22、中間膜23、遮蔽層24、粘着層29、及び保護膜254の図示は省略している。又、図7において、便宜上、情報送受信領域26を破線で示している。フロントガラス20Eの全体の平面形状及び断面形状は、図1と同様である。
【0087】
図7に示すフロントガラス20Eは、フィルム25がフィルム25Eに置換された点が、がフロントガラス20(図2参照)と相違する。又、フィルム25Eは、加熱要素252が加熱要素252Eに置換された点が、がフィルム25(図2参照)と相違する。
【0088】
フィルム25Eでは、1組のバスバー253がフィルム25Eの角部近傍に配置されている。そして、加熱要素252Eは、基材251上に形成され、1組のバスバー253間に接続された1本の電熱線である。電熱線の材料としては上記の通りである。なお、フィルム25Eの平面形状は等脚台形であるが、矩形としてもよい。
【0089】
このように、加熱要素は電熱線又はメッシュ状の金属から構成してもよい。
【0090】
〈第4の実施の形態〉
第4の実施の形態では、加熱要素にスリットを設ける例を示す。なお、第4の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0091】
図8は、第4の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図であり、フィルムを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した平面図である。なお、図8において、ガラス板21及び22、中間膜23、遮蔽層24、粘着層29、基材251、及び保護膜254の図示は省略している。又、図8において、便宜上、情報送受信領域26を破線で示している。フロントガラス20Fの全体の平面形状及び断面形状は、図1と同様である。
【0092】
図8に示すフロントガラス20Fは、フィルム25がフィルム25Fに置換された点が、がフロントガラス20(図2参照)と相違する。又、フィルム25Fは、加熱要素252にスリットS1及びS2が設けられた点が、フィルム25(図2参照)と相違する。
【0093】
加熱要素252には、Y方向(フロントガラス20Fを車両に取り付けた状態の水平方向)に延びる2本のスリットS1及びS2が設けられている。そして、加熱要素252は、スリットS1及びS2により、3つの加熱領域252a1、252a2、及び252bに分割されている。
【0094】
スリットS1及びS2は、例えば、加熱要素252を酸等を用いて部分的に除去するエッチング方式により形成できる。スリットS1及びS2は、加熱要素252をレーザ等を用いて部分的に除去するデコート方式により形成してもよい。
【0095】
スリットS1の幅W及びスリットS2の幅Wは、各々0.3mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましく、0.1mm以下であることが更に好ましい。スリットS1の幅W及びスリットS2の幅Wが各々0.3mmより広いとデバイス300の検知性能に悪影響を及ぼす。スリットS1の幅W及びスリットS2の幅Wを各々0.3mm以下とすることで、デバイス300の検知性能に及ぼす影響を低減できる。スリットS1の幅W及びスリットS2の幅Wを各々0.2mm以下、更には0.1mm以下と狭くすることで、デバイス300の検知性能に及ぼす影響を更に低減できる。
【0096】
又、スリットS1とスリットS2との間隔Pは、10mm以上であることが好ましい。スリットS1とスリットS2との間隔Pが10mm未満であるとデバイス300の検知性能に悪影響を及ぼすが、間隔Pを10mm以上とすることで、デバイス300の検知性能に及ぼす影響を低減できる。
【0097】
加熱要素252において、加熱領域252a1の一方の端部に沿ってバスバー253d1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253dsが接続されている。又、加熱領域252a2の一方の端部に沿ってバスバー253d2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253dsが接続されている。バスバー253dsは、加熱領域252a1及び252a2に共有されており、加熱領域252a1及び252a2はバスバー253dsを介して直列に接続されている。加熱領域252a1及び252a2により第1加熱ゾーンA1が構成されている。ここで、加熱ゾーンとは、1組のバスバー間に通電することにより加熱される区域である。
【0098】
又、加熱領域252bの一方の端部に沿ってバスバー253e1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253e2が接続されている。加熱領域252bにより第2加熱ゾーンB1が構成されている。
【0099】
第1加熱ゾーンA1と第2加熱ゾーンB1とは並列に接続されている。すなわち、バスバー253d1とバスバー253d2との間に印加される電圧と、バスバー253e1とバスバー253e2との間に印加される電圧とは同一である。
【0100】
バスバー253d1とバスバー253d2の一方は正極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の正側と接続される。又、バスバー253d1とバスバー253d2の他方は負極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の負側と接続される。これにより、バスバー253d1とバスバー253d2との間に通電される。
【0101】
バッテリー等の電源からバスバー253d1とバスバー253d2を介して加熱要素252の第1加熱ゾーンA1に電流が供給されると、加熱要素252の第1加熱ゾーンA1が発熱する。第1加熱ゾーンA1と第2加熱ゾーンB1とは並列に接続されているため、第1加熱ゾーンA1と共に第2加熱ゾーンB1が発熱する。
【0102】
第1加熱ゾーンA1及び第2加熱ゾーンB1で発生した熱は、フロントガラス20Fの情報送受信領域26を温め、情報送受信領域26を構成するガラス板21の表面の凍結や曇を取り除く。これにより、デバイス300による良好なセンシングを確保できる。
【0103】
スリットS1及びS2の位置は、加熱領域252a1の平均極間距離と加熱領域252a2の平均極間距離との和が、加熱領域252bの平均極間距離と等しくなるように規定されている。これにより、第1加熱ゾーンA1と第2加熱ゾーンB1の発熱量を同等にできる。
【0104】
ここで、極間距離とは、スリットの有無に関わらず、1組のバスバー間の直線距離を指すものとする。例えば、図9(a)~図9(c)に示すように、最小極間距離lは1組のバスバー間の距離が最も近い場所の直線距離、最大極間距離lは、1組のバスバー間の距離が最も遠い場所の直線距離を表す。又、平均極間距離とは、最小極間距離と最大極間距離の平均値である。
【0105】
なお、図9(a)に示すフィルム25X、図9(b)に示すフィルム25Y、及び図9(c)に示すフィルム25Zは何れもスリットがない場合の例であるが、スリットがある場合も極間距離はスリットがない場合と同様に規定される。
【0106】
フィルム25の形状が矩形でなく、かつ、図9(a)~図9(c)に示すようにスリットを設けない構成の場合、加熱要素252内の領域によりバスバー253の極間距離の差により発熱分布が生じ、十分な発熱性能が得られない領域ができる。
【0107】
この対策として、第4の実施の形態では、図8に示すように、加熱要素252をスリットS1及びS2により3つの加熱領域252a1、252a2、及び252bに分割している。そして、分割した加熱領域252a1及び252a2が、バスバー253dsを共有し、直列に接続されている。
【0108】
このように、加熱要素252にスリットを設けて複数個の加熱領域に分割することで、各々の加熱領域内におけるバスバーの極間距離の変化を小さくできるため、加熱領域内における発熱分布の発生を抑制できる。その結果、凍結や曇等によりデバイス300のセンシング性能が阻害されにくいフロントガラス20Fを実現できる。
【0109】
なお、フィルム25の平面形状を等脚台形としたのは一例であり、フィルム25の平面形状が矩形でない場合に、加熱要素252にスリットを設けて複数個の加熱領域に分割する効果を得ることができる。特に、バスバーの最大極間距離と最小極間距離の比が1.1以上である場合に、加熱要素252にスリットを設けて複数個の加熱領域に分割する効果が顕著となる。
【0110】
なお、加熱要素252は、少なくとも1本のスリットにより2つ以上の加熱領域に分割されており、2つ以上の加熱領域が、少なくとも1つのバスバーを共有し、直列に接続されていればよい。この条件を満たしていれば、本実施の形態で示した構成には限定されず、スリットの方向や本数、バスバーの給電方向、加熱ゾーンの個数等は適宜決定できる。
【0111】
〈第5の実施の形態〉
第5の実施の形態では、第4の実施の形態とは異なる加熱要素を設ける例を示す。なお、第5の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0112】
図10は、第5の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図であり、フィルムを車室外から車室内にガラス板22、中間膜23、保護膜254等を透視した様子を模式的に示している。
【0113】
第5の実施の形態に係るフィルム25Gは、加熱要素252が加熱要素258a1及び258a2に置換された点が、フィルム25(図2等参照)と相違する。フィルム25Gにおいて、基材251等の加熱要素以外の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0114】
加熱要素258a1及び258a2は、電熱線である。なお、加熱要素258a1及び258a2は、1本の線として図示しているが、実際には、複数の電熱線が所定間隔で並置されたレイアウトとなる。
【0115】
加熱要素258a1及び258a2を構成する電熱線の金属の材料としては、前述のように、導電性材料であれば特に制限はないが、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステンからなる群から選択される少なくとも1つの金属、この群から選択される2つ以上の金属を含む合金等が挙げられる。
【0116】
フィルム25Gは、基材251上に加熱要素258a1が設けられた第1加熱ゾーンA5と、基材251上に加熱要素258a2が設けられた第2加熱ゾーンB5とを有している。第1加熱ゾーンA5と第2加熱ゾーンB5とは並列に接続されている。
【0117】
第1加熱ゾーンA5は、電熱線である加熱要素258a1の仕様の違いにより、加熱領域252a1、252a2、252a3、及び252a4に分割されている。ここで、仕様の違いとは、電熱線の幅やピッチ、厚さ、線種、材料等の違いである。
【0118】
第1加熱ゾーンA5において、加熱領域252a1の一方の端部に沿ってバスバー253d1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds1が接続されている。又、加熱領域252a2の一方の端部に沿ってバスバー253ds2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds1が接続されている。
【0119】
又、加熱領域252a3の一方の端部に沿ってバスバー253ds2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds3が接続されている。又、加熱領域252a4の一方の端部に沿ってバスバー253d2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds3が接続されている。
【0120】
バスバー253ds1は、加熱領域252a1及び252a2に共有されている。又、バスバー253ds2は、加熱領域252a2及び252a3に共有されている。又、バスバー253ds3は、加熱領域252a3及び252a4に共有されている。すなわち、加熱領域252a1、252a2、252a3、及び252a4にレイアウトされた加熱要素258a1は、バスバー253ds1、253ds2、及び253ds3を介して、バスバー253d1とバスバー253d2との間に直列に接続されている。
【0121】
バッテリー等の電源からバスバー253d1とバスバー253d2を介して加熱要素258a1に電流が供給されると、第1加熱ゾーンA5が発熱する。
【0122】
第2加熱ゾーンB5は、電熱線である加熱要素258a2の仕様の違いにより、加熱領域252b1及び252b2に分割されている。
【0123】
第2加熱ゾーンB5において、加熱領域252b1の一方の端部に沿ってバスバー253e1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253esが接続されている。又、加熱領域252b2の一方の端部に沿ってバスバー253e2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253esが接続されている。
【0124】
バスバー253esは、加熱領域252b1及び252b2に共有されている。すなわち、加熱領域252b1及び252b2にレイアウトされた加熱要素258a2は、バスバー253esを介して、バスバー253e1とバスバー253e2との間に直列に接続されている。
【0125】
バッテリー等の電源からバスバー253e1とバスバー253e2を介して加熱要素258a2に電流が供給されると、第2加熱ゾーンB5が発熱する。
【0126】
第1加熱ゾーンA5及び第2加熱ゾーンB5で発生した熱は、フロントガラスの情報送受信領域26を温め、情報送受信領域26を構成するガラス板21の表面の凍結や曇を取り除く。これにより、デバイス300による良好なセンシングを確保できる。
【0127】
このように、各々の加熱ゾーンを、電熱線である加熱要素の仕様の違いにより、複数個の加熱領域に分割することで、各々の加熱領域内におけるバスバーの極間距離の変化を小さくできるため、加熱領域内における発熱分布の発生を抑制できる。その結果、凍結や曇等によりデバイス300のセンシング性能が阻害されにくいフロントガラスを実現できる。
【0128】
なお、第1加熱ゾーンA5の各々の加熱領域において、加熱要素258a1を構成する電熱線の幅が一定である必要はなく、第1加熱ゾーンA5の各々の加熱領域において電熱線の幅が異なるようにしてもよい。同様に、第2加熱ゾーンB5の各々の加熱領域において、加熱要素258a2を構成する電熱線の幅が一定である必要はなく、第2加熱ゾーンB5の各々の加熱領域において電熱線の幅が異なるようにしてもよい。
【0129】
第1加熱ゾーンA5及び第2加熱ゾーンB5の各々の加熱領域において、電熱線のピッチを一定とした場合、電熱線の幅は、フロントガラスが車両に取り付けられたときに、情報送受信領域26の上辺に最も近い側の電熱線の幅を最も細くし、情報送受信領域26の下辺に近い側の電熱線ほど幅を太くすることが好ましい。
【0130】
具体的には、例えば、加熱領域252a1内に4本の電熱線が並置されている場合、フロントガラスが車両に取り付けられたときに、情報送受信領域26の上辺に最も近い側から下辺に近い側に行くに従って電熱線の幅をW1、W2、W3、W4とすると、W1<W2<W3<W4とすることが好ましい。
【0131】
このようにすることで、加熱領域内における発熱分布の発生を一層抑制できる。又、加熱ゾーン間における発熱分布の発生を抑制できる。なお、フィルム25Gにおいて、加熱ゾーンの個数や加熱領域の個数は任意に設定できる。例えば、デバイス300への影響を考慮して定められる電熱線のピッチや線幅の制約を考慮して、加熱ゾーンの個数や加熱領域の個数を調整可能である。
【0132】
〈第6の実施の形態〉
第6の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なる加熱要素を設ける例を示す。なお、第6の実施の形態において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0133】
図11は、第6の実施の形態に係るフィルムを例示する平面図であり、フィルムを車室外から車室内にガラス板22、中間膜23、保護膜254等を透視した様子を模式的に示している。
【0134】
第6の実施の形態に係るフィルム25Hは、加熱要素252が加熱要素258a1、258a2、258a3、258a4、及び258a5に置換された点が、フィルム25(図2等参照)と相違する。フィルム25Hにおいて、基材251等の加熱要素以外の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0135】
加熱要素258a1、258a2、258a3、258a4、及び258a5は、電熱線である。なお、加熱要素258a1、258a2、258a3、258a4、及び258a5は、1本の線として図示しているが、実際には、複数の電熱線が所定間隔で並置されたレイアウトとなる。
【0136】
加熱要素258a1、258a2、258a3、258a4、及び258a5を構成する電熱線の金属の材料については、第5の実施の形態と同様である。
【0137】
フィルム25Hは、基材251上に加熱要素258a1が設けられた第1加熱ゾーンA6と、基材251上に加熱要素258a2が設けられた第2加熱ゾーンB6と、基材251上に加熱要素258a3が設けられた第3加熱ゾーンC6と、基材251上に加熱要素258a4が設けられた第4加熱ゾーンD6と、基材251上に加熱要素258a5が設けられた第5加熱ゾーンE6とを有している。第1加熱ゾーンA6と第2加熱ゾーンB6と第3加熱ゾーンC6と第4加熱ゾーンD6と第5加熱ゾーンE6とは並列に接続されている。
【0138】
第1加熱ゾーンA6は、電熱線である加熱要素258a1の仕様の違いにより、加熱領域252a1、252a2、252a3、及び252a4に分割されている。
【0139】
第1加熱ゾーンA6において、加熱領域252a1の一方の端部に沿ってバスバー253d1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds1が接続されている。又、加熱領域252a2の一方の端部に沿ってバスバー253ds2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds1が接続されている。
【0140】
又、加熱領域252a3の一方の端部に沿ってバスバー253ds2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds3が接続されている。又、加熱領域252a4の一方の端部に沿ってバスバー253d2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253ds3が接続されている。
【0141】
バスバー253ds1は、加熱領域252a1及び252a2に共有されている。又、バスバー253ds2は、加熱領域252a2及び252a3に共有されている。又、バスバー253ds3は、加熱領域252a3及び252a4に共有されている。すなわち、加熱領域252a1、252a2、252a3、及び252a4にレイアウトされた加熱要素258a1は、バスバー253ds1、253ds2、及び253ds3を介して、バスバー253d1とバスバー253d2との間に直列に接続されている。
【0142】
バッテリー等の電源からバスバー253d1とバスバー253d2を介して加熱要素258a1に電流が供給されると、第1加熱ゾーンA6が発熱する。
【0143】
第2加熱ゾーンB6は、電熱線である加熱要素258a2の仕様の違いにより、加熱領域252b1及び252b2に分割されている。
【0144】
第2加熱ゾーンB6において、加熱領域252b1の一方の端部に沿ってバスバー253e1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253esが接続されている。又、加熱領域252b2の一方の端部に沿ってバスバー253e2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253esが接続されている。
【0145】
バスバー253esは、加熱領域252b1及び252b2に共有されている。すなわち、加熱領域252b1及び252b2にレイアウトされた加熱要素258a2は、バスバー253esを介して、バスバー253e1とバスバー253e2との間に直列に接続されている。
【0146】
バッテリー等の電源からバスバー253e1とバスバー253e2を介して加熱要素258a2に電流が供給されると、第2加熱ゾーンB6が発熱する。
【0147】
第3加熱ゾーンC6は、電熱線である加熱要素258a3の仕様の違いにより、加熱領域252c1及び252c2に分割されている。
【0148】
第3加熱ゾーンC6において、加熱領域252c1の一方の端部に沿ってバスバー253f1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253fsが接続されている。又、加熱領域252c2の一方の端部に沿ってバスバー253f2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253fsが接続されている。
【0149】
バスバー253fsは、加熱領域252c1及び252c2に共有されている。すなわち、加熱領域252c1及び252c2にレイアウトされた加熱要素258a3は、バスバー253fsを介して、バスバー253f1とバスバー253f2との間に直列に接続されている。
【0150】
バッテリー等の電源からバスバー253f1とバスバー253f2を介して加熱要素258a3に電流が供給されると、第3加熱ゾーンC6が発熱する。
【0151】
第4加熱ゾーンD6は、電熱線である加熱要素258a4の仕様の違いにより、加熱領域252d1及び252d2に分割されている。
【0152】
第4加熱ゾーンD6において、加熱領域252d1の一方の端部に沿ってバスバー253g1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253gsが接続されている。又、加熱領域252d2の一方の端部に沿ってバスバー253g2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253gsが接続されている。
【0153】
バスバー253gsは、加熱領域252d1及び252d2に共有されている。すなわち、加熱領域252d1及び252d2にレイアウトされた加熱要素258a4は、バスバー253gsを介して、バスバー253g1とバスバー253g2との間に直列に接続されている。
【0154】
バッテリー等の電源からバスバー253g1とバスバー253g2を介して加熱要素258a4に電流が供給されると、第4加熱ゾーンD6が発熱する。
【0155】
第5加熱ゾーンE6は、電熱線である加熱要素258a5の仕様の違いにより、加熱領域252e1及び252e2に分割されている。
【0156】
第5加熱ゾーンE6において、加熱領域252e1の一方の端部に沿ってバスバー253h1が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253hsが接続されている。又、加熱領域252e2の一方の端部に沿ってバスバー253h2が接続され、他方の端部に沿ってバスバー253hsが接続されている。
【0157】
バスバー253hsは、加熱領域252e1及び252e2に共有されている。すなわち、加熱領域252e1及び252e2にレイアウトされた加熱要素258a5は、バスバー253hsを介して、バスバー253h1とバスバー253h2との間に直列に接続されている。
【0158】
バッテリー等の電源からバスバー253h1とバスバー253h2を介して加熱要素258a5に電流が供給されると、第5加熱ゾーンE6が発熱する。
【0159】
第1加熱ゾーンA6、第2加熱ゾーンB6、第3加熱ゾーンC6、第4加熱ゾーンD6、及び第5加熱ゾーンE6で発生した熱は、フロントガラスの情報送受信領域26を温め、情報送受信領域26を構成するガラス板21の表面の凍結や曇を取り除く。これにより、デバイス300による良好なセンシングを確保できる。
【0160】
このように、各々の加熱ゾーンを、電熱線である加熱要素の仕様の違いにより、複数個の加熱領域に分割することで、各々の加熱領域内におけるバスバーの極間距離の変化を小さくできるため、加熱領域内における発熱分布の発生を抑制できる。又、加熱ゾーン間における発熱分布の発生を抑制できる。その結果、凍結や曇等によりデバイス300のセンシング性能が阻害されにくいフロントガラスを実現できる。
【0161】
なお、第1加熱ゾーンA6、第2加熱ゾーンB6、第3加熱ゾーンC6、第4加熱ゾーンD6、及び第5加熱ゾーンE6において、加熱要素を構成する電熱線のピッチが一定である必要はなく、加熱ゾーン毎に電熱線のピッチが異なるようにしてもよい。
【0162】
各電熱線の線径が一定であり、かつ各加熱ゾーンの各加熱領域の幅が一定である場合、加熱ゾーン毎の電熱線のピッチは、各加熱ゾーンのバスバーの極間距離が長くなるほど電熱線のピッチを狭くすることが好ましい。
【0163】
具体的には、フロントガラスが車両に取り付けられたときに、情報送受信領域26の上辺に最も近い側となる第1加熱ゾーンA6におけるバスバーの極間距離をHz1、電熱線のピッチをPz1、第2加熱ゾーンB6におけるバスバーの極間距離をHz2、電熱線のピッチをPz2、第3加熱ゾーンC6におけるバスバーの極間距離をHz3、電熱線のピッチをPz3、第4加熱ゾーンD6におけるバスバーの極間距離をHz4、電熱線のピッチをPz4、及び第5加熱ゾーンE6におけるバスバーの極間距離をHz5、電熱線のピッチをPz5としたときに、Hz1<Hz2<Hz3<Hz4<Hz5である場合、Pz1>Pz2>Pz3>Pz4>Pz5とすることが好ましい。
【0164】
このようにすることで、加熱ゾーン間における発熱分布の発生を一層抑制できる。なお、フィルム25Hにおいて、加熱ゾーンの個数や加熱領域の個数は任意に設定できる。例えば、デバイス300への影響を考慮して定められる電熱線のピッチや線幅の制約を考慮して、加熱ゾーンの個数や加熱領域の個数を調整可能である。
【0165】
〈実施例及び比較例〉
[実施例1]
実施例1では、車内側のガラス板21の車外側の面21bに粘着層29を介してフィルム25を接着したフロントガラス20(図2参照)を作製した。なお、フロントガラス20において、ガラス板21及び22の板厚を各々2mmとし、中間膜23の膜厚を0.76mmとした。基材251としては、厚みが70μmのポリエチレンテレフタレート、加熱要素252としては、スズドープ酸化インジウムを用いた。加熱要素252のシート抵抗は50Ω/□とした。バスバー253の幅は20μmとし、銀ペーストをスクリーン印刷して作製した。保護膜254としては、厚みが18μmのポリエチレンテレフタレート、粘着層29は、厚みが30μmのアクリル系粘着層を用いた。
【0166】
[実施例2]
実施例2では、車外側のガラス板22の車内側の面22bに粘着層29を介してフィルム25を接着したフロントガラス20B(図4参照)を作製した。なお、フロントガラス20Bにおいて、ガラス板21及び22の板厚を各々2mmとし、中間膜23の膜厚を0.76mmとした。基材251、加熱要素252、バスバー253、保護膜254、粘着層29は実施例1と同じものを用いた。
【0167】
[比較例1]
比較例1では、車内側のガラス板21の車内側の面21aに粘着層29を介してフィルム25を接着したフロントガラスを作製した。なお、比較例1のフロントガラスにおいて、ガラス板21及び22の板厚を各々2mmとし、中間膜23の膜厚を0.76mmとした。基材251、加熱要素252、バスバー253、保護膜254、粘着層29は実施例1と同じものを用いた。
【0168】
[比較例2]
比較例2では、中間膜23をガラス板21側の第1中間膜とガラス板22側の第2中間膜の2層構成とし、第1中間膜と第2中間膜との間にフィルム25を挟んだフロントガラスを作製した。なお、比較例2のフロントガラスにおいて、ガラス板21及び22の板厚を各々2mmとし、第1中間膜の膜厚を0.38mmとし、第2中間膜の膜厚を0.76mmとした。基材251、加熱要素252、バスバー253、保護膜254、粘着層29は実施例1と同じものを用いた。
【0169】
[評価]
実施例1及び2並びに比較例1及び2のフロントガラスの各々において、フィルム25に通電し、定常時の情報送受信領域26内のガラス板21の車内側の面21aの温度を測定し、結果を図12にまとめた。
【0170】
試験条件は、車内外温度20[℃]、車外対流熱伝達率:20[W/m/K]、車内対流熱伝達率:9[W/m/K]、フィルム25の発熱:600[W/m]、ガラス板21及び22の熱伝導率:1[W/m/K]、中間膜23の熱伝導率:0.19[W/m/K]である。
【0171】
図12に示すように、実施例1及び2並びに比較例1及び2の何れにおいても、定常時の情報送受信領域26内のガラス板21の車内側の面21aの温度は車内外温度+20℃以上となっている。これは、情報送受信領域26の凍結や曇を除去するという本来の目的を達成できる温度であり、薄い粘着層を介してフィルムをフロントガラス内に封入した形態の実施例1及び2でも、従来の形態である比較例1及び2と同程度の温度を実現できることが確認された。
【0172】
又、実施例1は実施例2よりも温度が高い。この結果から、車外側のガラス板22の車内側の面22bに粘着層29を介してフィルム25を接着する形態よりも、車内側のガラス板21の車外側の面21bに粘着層29を介してフィルム25を接着する形態の方が、温度を高くする観点からは好ましいといえる。
【0173】
なお、図12に示した温度だけで比べると、実施例よりも比較例の方が優れているものもある。しかし、実施例1及び2では薄い粘着層を介してフィルムをフロントガラス内に封入しているため、前述のようにフィルムの平面形状の設計自由度を向上する効果や、フィルムのよれを低減してフィルムの車内側及び車外側の面の平滑性を維持する効果等を奏する。そのため、実施例1及び2でも車内外温度+20℃以上の温度を実現できている点を考慮して総合的に判断すると、比較例1及び2よりも実施例1及び2の方が優れているといえる。
【0174】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0175】
例えば、デバイス300のセンシング性能を更に向上するために、ガラス板21の車内側の面21aに吸水若しくは親水防曇コートや防曇フィルムを設けても構わない。又、デバイス300のセンシング性能を更に向上するために、ガラス板21の車内側の面21a又はフィルム25自体にAR(Anti Reflection)コーティングを設けても構わない。
【0176】
又、基材251自体が粘着層29の機能を有していてもよい。基材251が粘着層29の機能を有していれば、フィルム25の構成要素が減り、デバイス300のセンシング性能を阻害する要因を減らすことができる。この場合、基材251の厚さは5μm以上60μm以下とすることが好ましい。
【0177】
又、第1の実施の形態の変形例2として、図13に示すフロントガラス20Gのように、車内側からガラス板21、粘着層29、保護膜254、バスバー253、加熱要素252、基材251、中間膜23、ガラス板22が順次配された構成としてもよい。又、第2の実施の形態の変形例2として、図14に示すフロントガラス20Hのように、車内側からガラス板21、中間膜23、基材251、加熱要素252、バスバー253、保護膜254、粘着層29、ガラス板22が順次配された構成としてもよい。
【0178】
又、車両に複数のデバイスが搭載される場合には、情報送受信領域26において、各々のデバイスが搭載される位置の間にバスバーを配置してもよい。又、バスバーが情報送受信領域26の上下に配置されていてもよい。
【0179】
又、ガラス板21に遮蔽層24を設けることで透視歪が悪化するため、遮蔽層24の端部を情報送受信領域26から離し、フィルム25の周縁部に遮蔽層24と同系色の着色層を設けてもよい。
【0180】
本国際出願は2018年5月30日に出願した日本国特許出願2018-103406号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2018-103406号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0181】
20、20A、20B、20C、20D、20E、20F、20G、20H フロントガラス
21、22 ガラス板
23 中間膜
24 遮蔽層
25、25D、25E、25F、25G、25H フィルム
26 情報送受信領域
29、39 粘着層
251 基材
252、258a1、258a2、258a3、258a4、258a5 加熱要素
253 バスバー
254 保護膜
300 デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14