(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】フェライト仮焼体粉末及びフェライト焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/11 20060101AFI20230307BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230307BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20230307BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20230307BHJP
C04B 35/40 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
H01F1/11
H01F41/02 G
C01G49/00 E
C01G49/00 D
C01G51/00 B
C04B35/40
(21)【出願番号】P 2021045310
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-12-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】小林 義徳
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-161815(JP,A)
【文献】特開2020-161658(JP,A)
【文献】特開2020-126931(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181056(WO,A1)
【文献】特開2019-160838(JP,A)
【文献】特開2017-126719(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034401(WO,A1)
【文献】特開2012-4406(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111756(WO,A1)
【文献】特開2009-246243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/11
H01F 41/02
C01G 49/00
C01G 51/00
C04B 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca
1-x-yR
xA
yFe
2n-zCo
zにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦1-x-y≦0.55、
0.25≦x≦0.35、
0.15≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
9.0≦2n-z<11.0
を満足し、平均粒径が0.65μmを超えるフェライト仮焼体粉末。
【請求項2】
Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca
1-x-yR
xA
yFe
2n-zCo
zにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦1-x-y≦0.55、
0.25≦x≦0.35、
0.15≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
9.0≦2n-z<11.0
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、0.65μmを超える平均粒径の仮焼体の粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
を有するフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下のSiO
2を添加する工程をさらに有することを特徴とする請求項2に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下のSiO
2を添加する工程と、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対してCaO換算で0質量%を超え1.5質量%以下のCaCO
3とを添加する工程とをさらに有することを特徴とする請求項2に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト仮焼体粉末及びフェライト焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結磁石は最大エネルギー積が希土類系焼結磁石(例えば、NdFeB系焼結磁石)の1/10にすぎないが、主原料が安価な酸化鉄であることからコストパフォーマンスに優れており、化学的に極めて安定であるという特長を有している。そのため、各種モータやスピーカ等様々な用途に用いられており、世界的な生産量は現在でも磁石材料の中で最大である。
【0003】
代表的なフェライト焼結磁石は、マグネトプランバイト構造を有するSrフェライトであり、基本組成はSrFe12O19で表される。1990年代後半にSrFe12O19のSr2+の一部をLa3+で置換し、Fe3+の一部をCo2+で置換したSr-La-Co系フェライト焼結磁石(以下、略して「SrLaCo磁石」という場合がある)が実用化されたことによりフェライト磁石の磁石特性は大きく向上した。また、2007年には、磁石特性をさらに向上させたCa-La-Co系フェライト焼結磁石(以下、略して「CaLaCo磁石」という場合がある)が実用化された。
【0004】
前記のSrLaCo磁石及びCaLaCo磁石ともに、高い磁石特性を得るためにはCoが不可欠である。SrLaCo磁石は原子比で0.2程度(Co/Fe=0.017、すなわちFe含有量の1.7%程度)のCoが、CaLaCo磁石では原子比で0.3程度(Co/Fe=0.03、すなわちFe含有量の3%程度)のCoが含有されている。Co(酸化Co)の価格はフェライト焼結磁石の主原料である酸化鉄の十倍から数十倍に相当する。従って、CaLaCo磁石では、SrLaCo磁石に比べ原料コストの増大が避けられない。フェライト焼結磁石の最大の特長は安価であるという点にあるため、たとえ高い磁石特性を有していても、価格が高いと市場では受け入れられ難い。従って、世界的には、未だSrLaCo磁石の需要が高い。
【0005】
近年、電気自動車の供給量増加によるLiイオン電池の需要増大に伴い、Coの価格が急騰している。その余波を受け、コストパフォーマンスに優れるSrLaCo磁石においても、製品価格を維持することが困難な状況にある。このような背景から、磁石特性を維持しながら、いかにしてCoの使用量を削減するかが喫緊の課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/105449号
【文献】特開2018-30751号公報
【0007】
特許文献1は、Co含有量を低減したCa-La-Co系フェライト焼結磁石として、六方晶構造を有するフェライト相が主相をなし、前記主相を構成する金属元素の組成が一般式:RxCamA1-x-m(Fe12-yMy)z(ただし、RはLaを必須成分として含むLa、Ce、Pr、Nd及びSmからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を示し、AはSr及び/又はBaを示し、MはCoを必須成分として含むCo、Zn、Ni、Mn、Al及びCrからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を示し、x、m、y及びzはそれぞれ0.2≦x≦0.5、0.13≦m≦0.41、0.7(x - m)≦0.15、0.18≦yz≦0.31、及び9.6≦12z≦11.8を満足する。)により表されフェライト焼結磁石を開示している。上記一般式では、Co含有量は原子比で0.18~0.31である。
【0008】
しかし、特許文献1の実施例では、Co含有量が原子比で0.18と少ない場合、(Ca + La + Sr)に対するSrの割合が原子比で0.5を超えており、Ca含有量よりSr含有量が多い。すなわち、Co含有量が少ない領域では、Sr-La-Co系フェライト焼結磁石に近い組成となっている。このように、特許文献1には、Coの含有量の原子比が0.18以下で、Sr含有量よりCa含有量が多いCa-La-Co系フェライト焼結磁石の実施例は記載されていない。
【0009】
特許文献2は、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有し、Ca、La、Fe及びCoの金属元素の組成を原子比で示す一般式:Ca1-xLaxFe2n-zCozにおいて、x、z及びnが0.3≦x≦0.6、0.1≦z≦0.24、及び4.5≦n≦5.5を満足するCa-La-Co系フェライト化合物を開示している。このCa-La-Co系フェライト化合物では、Co含有量は原子比で0.1~0.24である。
【0010】
しかし、特許文献2のCa-La-Co系フェライト化合物はSr及び/又はBaを含有していないので、Laの含有量xが0.3≦x≦0.6と多い。特許文献2の実施例において、試料1~4ではCoの含有量zが0.090~0.180と少ないが、Laの含有量xは0.450~0.550と多い。特にCoの含有量zが0.090及び0.095と少ない比較例の試料1及び2では、Laの含有量xが0.550と多いだけでなく、飽和磁化σs及び異方性磁界HAのいずれも低い。また、Coの含有量zが0.134及び0.180の試料3及び4でも、Laの含有量xはそれぞれ0.524及び0.450と多い。フェライト焼結磁石の原料コストを低減するためにCoの含有量を低減することは重要であるが、高価格のLaの含有量を低減することも重要である。従って、特許文献2のCa-La-Co系フェライト化合物は高性能ながら、コスト低減の観点からは十分に満足ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来のSrLaCo磁石よりもCoの使用量を削減した高性能なフェライト焼結磁石を安価に提供することにある。
より具体的な目的は、従来のSrLaCo磁石よりも少ないCo含有量(原子比で0.15程度)で従来のSrLaCo磁石と同等の磁石特性を有するフェライト焼結磁石を提供することにある。
また、従来のSrLaCo磁石と同等のCo含有量(原子比で0.18程度)で従来のSrLaCo磁石を超える磁石特性を有するフェライト焼結磁石を提供することにある。
さらに、フェライト仮焼体粉末の平均粒径を従来よりも大きくすることによって製造コストの低減を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフェライト仮焼体粉末は、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-yRxAyFe2n-zCozにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦1-x-y≦0.55、
0.25≦x≦0.35、
0.15≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
9.0≦2n-z<11.0
を満足し、平均粒径が0.65μmを超えることを特徴とする。
【0013】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-yRxAyFe2n-zCozにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦1-x-y≦0.55、
0.25≦x≦0.35、
0.15≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
9.0≦2n-z<11.0
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、0.65μmを超える平均粒径の仮焼体の粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
を有することを特徴とする。
【0014】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下のSiO2を添加する工程をさらに有していても良い。
【0015】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法において、前記仮焼工程後、前記成形工程前に、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下のSiO2を添加する工程と、前記仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対してCaO換算で0質量%を超え1.5質量%以下のCaCO3とを添加する工程とをさらに有していても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来のSrLaCo磁石よりもCoの使用量を削減した高性能なフェライト焼結磁石を安価に提供することができる。
より具体的には、従来のSrLaCo磁石よりも少ないCo含有量(原子比で0.15程度)で従来のSrLaCo磁石と同等の磁石特性を有するフェライト焼結磁石を提供することができる。
また、従来のSrLaCo磁石と同等のCo含有量(原子比で0.18程度)で従来のSrLaCo磁石を超える磁石特性を有するフェライト焼結磁石を提供することができる。
さらに、フェライト仮焼体粉末の平均粒径を従来よりも大きくすることによって製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.フェライト仮焼体粉末
本発明のフェライト仮焼体粉末は、Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-yRxAyFe2n-zCozにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦1-x-y≦0.55、
0.25≦x≦0.35、
0.15≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
9.0≦2n-z<11.0
を満足し、平均粒径が0.65μmを超えることを特徴とする。
【0018】
本発明のフェライト仮焼体粉末において、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む。La以外の希土類元素を含有する場合、それらの含有量はモル比でRの合計量の50%以下であるのが好ましい。原子比x(Rの含有量)は0.25≦x≦0.35の条件を満たす。原子比xが0.25未満又は0.35超であると高いBr及びHcJを得ることができない。原子比xの好ましい範囲は0.30≦x≦0.35であり、より好ましい範囲は0.325≦x≦0.35である。
【0019】
AはSr及び/又はBaである。原子比y(Aの含有量)は0.15≦y≦0.40の条件を満たす。原子比yが0.15未満又は0.40超であると、高いBr及びHcJを得ることができない。原子比yの好ましい範囲は0.20≦y≦0.35であり、より好ましい範囲は0.20≦y≦0.30であり、さらに好ましい範囲は0.20≦y≦0.25である。
【0020】
原子比1-x-y(Caの含有量)は0.30≦1-x-y≦0.55の条件を満たす。原子比1-x-yが0.30未満又は0.55超であると、高いBr及びHcJを得ることができない。原子比1-x-yの好ましい範囲は0.40≦1-x-y≦0.50であり、より好ましい範囲は0.40≦1-x-y≦0.45であり、さらに好ましい範囲は0.425≦1-x-y≦0.45である。
【0021】
原子比1-x-y(Caの含有量)と原子比y(Aの含有量)は1-x-y>yの関係を満たす。この関係を満足しないと高いBr及びHcJを得ることができない。
【0022】
原子比z(Coの含有量)は0<z≦0.18の条件を満たす。原子比zが0.18を超えるとCo使用量の削減効果を得ることができない。一方、原子比zが0(Coを含有しない)ではHcJの低下が大きくなる。原子比zの上限は好ましくは0.17である。従って、原子比zの好ましい範囲は0<z≦0.17であり、より好ましい範囲は0.15≦z≦0.17である。
【0023】
原子比2n-z(Feの含有量)は9.0≦(2n - z)<11.0の条件を満たす。原子比2n-zが9.0未満又は11.0以上になると高いBr及びHcJを得ることができない。原子比2n-zの好ましい範囲は9.0≦2n-z≦10.5であり、より好ましい範囲は9.0≦2n-z≦10.0であり、さらに好ましい範囲は9.5≦2n-z≦10.0である。
【0024】
前記一般式はCa、R、A、Fe及びCoの金属元素の組成(原子比)を示すが、酸素(O)を含む組成は、一般式:Ca1-x-yRxAyFe2n-zCozOαで表される。酸素の原子比αは基本的に19であるが、Fe及びCoの価数、x、y及びzやnの値によって異なってくる。また、還元性雰囲気で焼成した場合の酸素の空孔(ベイカンシー)、フェライト相におけるFeの価数の変化、Coの価数の変化等により金属元素に対する酸素の比率は変化する。従って、実際のフェライト仮焼体粉末における酸素の原子比αは19からずれる場合がある。そのため、本発明においては、最も組成が特定し易い金属元素の原子比で組成を表記している。
【0025】
本発明のフェライト仮焼体粉末を構成する主相は、六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造を有する化合物相(フェライト相)である。一般に、磁性材料、特に焼結磁石は、複数の化合物から構成されており、その磁性材料の特性(物性、磁石特性等)を決定づけている化合物が「主相」と定義される。
【0026】
「六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造を有する」とは、一般的な条件のフェライト仮焼体粉末X線回折測定において、主として六方晶のマグネトプランバイト型(M型)構造のX線回折パターンが観察されることを言う。
【0027】
2.フェライト焼結磁石の製造方法
上述した本発明のフェライト仮焼体粉末を用いてフェライト焼結磁石を製造する本発明の方法を以下詳細に説明する。
【0028】
本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、
Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-yRxAyFe2n-zCozにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.30≦1-x-y≦0.55、
0.25≦x≦0.35、
0.15≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
9.0≦2n-z<11.0
を満足する原料粉末を混合し、混合原料粉末を得る原料粉末混合工程、
前記混合原料粉末を仮焼し、仮焼体を得る仮焼工程、
前記仮焼体を粉砕し、0.65μmを超える平均粒径の仮焼体の粉末を得る粉砕工程、
前記仮焼体の粉末を成形し、成形体を得る成形工程、及び
前記成形体を焼成し、焼結体を得る焼成工程、
を有する。
【0029】
(1) 原料粉末混合工程
原料粉末としては、価数にかかわらず、それぞれの金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物等の化合物を使用することができる。Caの化合物としては、Caの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Laの化合物としては、La2O3等の酸化物、La(OH)3等の水酸化物、La2(CO3)3・8H2O等の炭酸塩等が挙げられる。A元素の化合物としては、Sr及び/又はBaの炭酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。Feの化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、ミルスケール等が挙げられる。Coの化合物としては、CoO、Co3O4等の酸化物、CoOOH、Co(OH)2等の水酸化物、CoCO3等の炭酸塩、及びm2CoCO3・m3Co(OH)2・m4H2O等の塩基性炭酸塩(m2、m3及びm4は正の数である)が挙げられる。
【0030】
仮焼時の反応促進のため、原料粉末の合計100質量%に対して、必要に応じてB2O3、H3BO3等のB(硼素)を含む化合物を1質量%程度まで添加しても良い。特にH3BO3の添加は、磁石特性の向上に有効である。H3BO3の添加量は0.3質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%程度がより好ましい。H3BO3は、焼成時に結晶粒の形状やサイズを制御する効果も有するため、仮焼後(微粉砕前又は焼成前)に添加するのが好ましいが、仮焼前及び仮焼後の両方で添加しても良い。
【0031】
上述した本発明のフェライト仮焼体粉末の組成を満足するように原料粉末を混合し、原料粉末混合物とする。原料粉末の混合は湿式及び乾式のいずれで行ってもよい。スチールボール等の媒体とともに撹拌すると原料粉末をより均一に混合することができる。湿式の場合、分散媒に水を用いるのが好ましい。原料粉末の分散性を高める目的でポリカルボン酸アンモニウム、グルコン酸カルシウム等の公知の分散剤を用いても良い。混合した原料スラリーは脱水後仮焼するが、そのまま仮焼しても良い。
【0032】
(2) 仮焼工程
乾式混合又は湿式混合することによって得られた原料粉末混合物を電気炉、ガス炉等を用いて加熱することにより、固相反応により六方晶のマグネトプランバイト(M型)構造のフェライト化合物を形成する。このプロセスを「仮焼」と呼び、得られた化合物を「仮焼体」と呼ぶ。従って、本発明のフェライト仮焼体はフェライト化合物と言い換えることができる。
【0033】
仮焼工程では、温度の上昇とともにフェライト相が形成される固相反応が進行する。仮焼温度が1100℃未満では、未反応のヘマタイト(Fe2O3)が残存するため磁石特性が低くなる。一方、仮焼温度が1450℃を超えると結晶粒が成長し過ぎるため、粉砕工程において粉砕に多大な時間を要する。従って、仮焼温度は1100~1450℃であるのが好ましい。仮焼時間は0.5~5時間であるのが好ましい。
【0034】
(3) 仮焼体の粉砕工程
上記工程を経ることによって得られた仮焼体を、ハンマーミル等によって粗粉砕後、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、アトライター等によって微粉砕し、仮焼体粉末(微粉砕粉末)とする。仮焼体粉末の平均粒径は0.65μmを超え1.2μm以下にするのが好ましい。なお、粉末の平均粒径(平均粒度)は、粉体比表面積測定装置(例えば、株式会社島津製作所製SS-100)を用いる空気透過法により測定する。仮焼体の粉砕工程は乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれでもよく、双方を組み合わせてもよい。湿式粉砕の場合、分散媒として水及び/又は非水系溶剤(アセトン、エタノール、キシレン等の有機溶剤)を用いて行う。典型的には、水(分散媒)と仮焼体とを含むスラリーを生成する。スラリーには公知の分散剤及び/又は界面活性剤を固形分比率で0.2~2質量%を添加しても良い。湿式粉砕後はスラリーを濃縮しても良い。
【0035】
平均粒径が0.65μm以下になると磁石特性は向上するものの、粉砕時間が長くなるだけでなく、後述する成形工程でのプレス成形時における脱水時間や、プレスのサイクルが長くなり、工程費が高くなる。また、プレスのサイクルが長くなると、プレス成形時の金型寿命が短くなり、製造コストが高くなる。一方、平均粒径が大きくなり過ぎると(例えば1.2μmを超えると)磁石特性が低下するため好ましくない。磁石特性と製造コストとのバランスを考慮すると、平均粒径の好ましい範囲は0.66μm以上1.0μm以下である。
【0036】
本発明によるフェライト仮焼体粉末は、平均粒径が0.65μmを超えても(平均粒径を大きくしても)、得られるフェライト焼結磁石の磁石特性が低下し難いという特徴を有している。例えば、後述する実施例に示すように、組成や製造条件がほぼ同じで平均粒径が0.67μmと0.78μmでほぼ同等の磁石特性が得られる。
【0037】
(4) 仮焼体粉末の成形工程
成形工程は、粉砕工程後のスラリーを、分散媒を除去しながら磁界中又は無磁界中でプレス成形する。磁界中でプレス成形することにより、粉末粒子の結晶方位を整列(配向)させ、磁石特性を飛躍的に向上させることができる。さらに、配向を向上させるために、成形前のスラリー100質量%に対して分散剤及び潤滑剤をそれぞれ0.1~1質量%添加しても良い。また、必要に応じて成形前にスラリーを濃縮しても良い。濃縮は遠心分離、フィルタープレス等により行うのが好ましい。
【0038】
仮焼工程の後で成形工程の前に、仮焼体又は仮焼体粉末(粗粉砕粉末又は微粉砕粉末)に焼結助剤を添加しても良い。焼結助剤としてはSiO2のみ、あるいはSiO2とCaCO3の両方を添加するのが好ましい。本発明のフェライト焼結磁石はその組成から明らかなようにCaLaCo磁石に属するが、CaLaCo磁石は主相成分としてCaを含有するため、SrLaCo磁石のようにSiO2やCaCO3等の焼結助剤を添加しなくても液相が生成し、焼結することができる。すなわち、フェライト焼結磁石において主として粒界相を形成するSiO2やCaCO3を添加しなくても本発明のフェライト焼結磁石を製造することができる。但し、HcJの低下を抑制するために、以下に示す量のSiO2及びCaCO3を焼結助剤として添加しても良い。
【0039】
SiO2を添加する場合の添加量は、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対して0質量%を超え1.5質量%以下が好ましい。また、CaCO3を添加する場合、その添加量は、仮焼体又は仮焼体粉末100質量%に対してCaO換算で0質量%を超え1.5質量%以下であるのが好ましい。焼結助剤の添加は、成形工程前であれば、粉砕工程の前、途中又は後のいずれでも良い。焼結助剤として、SiO2及びCaCO3の他に、Cr2O3、Al2O3等を添加しても良い。これらの添加量は、それぞれ1質量%以下で良い。
【0040】
なお、CaCO3の添加量は全てCaO換算で表記する。CaO換算での添加量(質量%)からCaCO3の添加量(質量%)は、(CaCO3の分子量×CaO換算での添加量)/CaOの分子量により求めることができる。例えば、CaO換算で0.5質量%のCaCO3を添加する場合、CaCO3の分子量が100.09[40.08(Caの原子量)+12.01(Cの原子量)+48.00(Oの原子量×3)]であり、CaOの分子量が56.08[40.08(Caの原子量)+16.00(Oの原子量)]であるので、CaCO3の添加量は(100.09×0.5質量%)/56.08=0.892質量%となる。
【0041】
(5) 成形体の焼成工程
プレス成形により得られた成形体を、必要に応じて脱脂した後、焼成(焼結)する。焼成は電気炉、ガス炉等を用いて行う。焼成は酸素濃度が10体積%以上の雰囲気中で行うのが好ましい。焼成雰囲気中の酸素濃度はより好ましくは20体積%以上であり、最も好ましくは100体積%である。焼成温度は1150~1250℃が好ましい。焼成温度での保持時間(焼成時間)は0時間(焼成温度での保持無し)~2時間が好ましい。
【0042】
本発明においては、例えば、後述する実施例に示すように、(A) 室温から焼成温度までの温度範囲を平均400℃/時~平均600℃/時の速度で昇温し、焼成温度に所定の時間(焼成時間)キープ後(保持無しの場合も含む)、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均300℃/時~平均600℃/時の速度で降温する焼成条件、(B) 室温から1100℃までの温度範囲を平均400℃/時~平均600℃/時の速度で昇温し、1100℃から焼成温度までの温度範囲を平均1℃/分~平均4℃/分の速度で昇温し、焼成温度に所定の時間(焼成時間)キープ後(保持無しの場合も含む)、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均300℃/時~平均600℃/時の速度で降温する焼成条件、(C) 室温から1100℃までの温度範囲を平均700℃/時~平均1000℃/時の速度で昇温し、1100℃から焼成温度までの温度範囲を平均1℃/分~平均4℃/分の速度で昇温し、焼成温度に所定の時間(焼成時間)キープ後(保持無しの場合も含む)、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均700℃/時以上の速度で降温する焼成条件、などの焼成条件を採用することができる。
【0043】
前記にて例示した(A)~(C)の焼成条件において、800℃から室温付近までの降温速度については特に制限されないが、リードタイムの短縮を考慮すれば、焼成温度から800℃までの温度範囲と同様、あるいはそれに近い降温速度であるのが好ましい。なお、本発明の実施形態において、温度を記載する場合は全て被熱処理物(成形体又は焼結体)の温度を指す。温度の測定は、焼成炉内の被熱処理物にR熱電対を接触させることにより行う。なお、焼成条件は前記条件に限定されるものではない。
【0044】
焼成工程の後、加工工程、洗浄工程、検査工程等の公知の製造プロセスを経て最終的なフェライト焼結磁石とする。
【0045】
上記工程を経て得られるフェライト焼結磁石は、以下を満足する組成となる。
Ca、R、A、Fe及びCoの金属元素(ただし、Rは希土類元素の少なくとも1種であってLaを必須に含む元素、AはSr及び/又はBa)の原子比を示す一般式:Ca1-x-yRxAyFe2n-zCozにおいて、前記x、y及びz並びにn(ただし、2nはモル比であって、2n=(Fe+Co)/(Ca+R+A)で表される)が、
0.15≦x≦0.35、
0.05≦y≦0.40、
1-x-y>y、
0<z≦0.18、及び
7.5≦2n-z<11.0
【実施例】
【0046】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0047】
実験例1
本発明に基づく実験例として、Ca、La、Sr、Fe及びCoの金属元素の組成を示す一般式:Ca1-x-yLaxSryFe2n-zCozにおいて、表1に示す原子比1-x-y、x、y、z及び2n-zになる割合でCaCO3粉末、La(OH)3粉末、SrCO3粉末、Fe2O3粉末及びCo3O4粉末を秤量し、それらの合計100質量%に対してH3BO3粉末を0.1質量%添加した後、湿式ボールミルで4時間混合し、乾燥及び整粒をして16種類の原料粉末混合物(試料No.1~16)を得た。
【0048】
全16種類の原料粉末混合物をそれぞれ大気中において表1に示す仮焼温度で3時間仮焼し、16種類の仮焼体を得た。
【0049】
各仮焼体を小型ミルで粗粉砕することにより得られた各仮焼体の粗粉末100質量%に対して、表1に示す量のCaCO3粉末(添加量はCaO換算)及びSiO2粉末を添加し、水を分散媒とした湿式ボールミルで、表1に示す平均粒度[粉体比表面積測定装置(株式会社島津製作所製SS-100)を用いた空気透過法により測定]になるまで微粉砕し、16種類の微粉砕スラリーを得た。
【0050】
加圧方向と磁界方向とが平行である平行磁界成形機(縦磁界成形機)を用い、各微粉砕スラリーを、約1 Tの磁界を印加しながら約2.4 MPaの圧力で水を除去しながらプレス成形し、16種類の成形体を得た。
【0051】
各成形体を焼成炉内に入れ、表1における焼成条件A、BまたはCで焼成した。焼成条件Aでは、焼成炉内に10 L/分の流量のエアーを流しながら、室温から表1に示す焼成温度までの温度範囲を平均400℃/時の速度で昇温し、その焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均300℃/時の速度で降温した。焼成条件Bでは、焼成炉内に10 L/分の流量のエアーを流しながら、室温から1100℃までの温度範囲を平均400℃/時の速度で昇温し、1100℃から表1に示す焼成温度までの温度範囲を平均1℃/分の速度で昇温し、その焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均300℃/時の速度で降温した。焼成条件Cでは、焼成炉内に10 L/分の流量のエアーを流しながら、室温から1100℃までの温度範囲を平均1000℃/時の速度で昇温し、1100℃から表1に示す焼成温度までの温度範囲を平均1℃/分の速度で昇温し、その焼成温度で1時間焼成した。焼成後は、焼成炉のヒータを切り、エアーの流量を10 L/分から40 L/分にして、焼成温度から800℃までの温度範囲を平均1140℃/時の速度で降温し、そのまま炉内で室温まで冷却した。
【0052】
得られた16種類のフェライト焼結磁石のBr、HcJ及びHk/HcJの測定結果を表1に示す。なお、Hkは、J-H曲線(Jは磁化の大きさを示し、Hは磁界の強さを示す。)の第2象限においてJが0.95×Jr(Jrは残留磁化であり、Jr=Br)の値になる位置のHの値である。
【0053】
【0054】
なお、公知の文献(J.Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy Vol. 55, No. 7 546 Table 2)に記載されている従来のSrLaCo磁石(原子比で0.2程度のCoを含有)の代表的な磁石特性は、Jr(Jr=Br)=0.440T、HcJ=358kA/m、Hk/HcJ=90%、である。
【0055】
表1に示すように、原子比z(Coの含有量)が0.15である本発明のフェライト仮焼体粉末を用いて製造された試料No.1~8のフェライト焼結磁石は、従来のSrLaCo磁石(原子比で0.2程度のCoを含有する)より少ないCo含有量でも従来のSrLaCo磁石と同等の磁石特性を有することが分かる。
【0056】
また、原子比z(Coの含有量)が0.17である本発明のフェライト仮焼体粉末を用いて製造された試料No.9~16のフェライト焼結磁石は、従来のSrLaCo磁石(原子比で0.2程度のCoを含有する)と同等以下のCo含有量であるにもかかわらず、従来のSrLaCo磁石を超える磁石特性を有することが分かる。
【0057】
さらに、SiO2の添加量が若干異なる(0.800質量%と0.850質量%)以外は、組成、製造条件などが全く同じである試料No.1(平均粒径0.78μm)との試料No.3(平均粒径0.67μm)との対比から明らかなように、試料No.1は試料No.3よりも平均粒径が0.11μm大きいにもかかわらずほぼ同等の磁石特性が得られている。すなわち、本発明によるフェライト仮焼体粉末は、平均粒径が0.65μmを超えても(平均粒径を大きくしても)、得られるフェライト焼結磁石の磁石特性が低下し難いという特徴を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、従来のSrLaCo磁石よりもCoの使用量を削減した高性能なフェライト焼結磁石を安価に提供することが可能となり、提供されたフェライト焼結磁石は各種モータなどに好適に利用することができる。