(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-06
(45)【発行日】2023-03-14
(54)【発明の名称】成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20230307BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230307BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20230307BHJP
【FI】
C23C14/00 B
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2020205209
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188868
【氏名又は名称】小川 智丈
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】砂川 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功康
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-013707(JP,A)
【文献】特開2016-225325(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087505(WO,A1)
【文献】特開2004-083960(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
C23C 16/44-16/54
H05B 33/10
H05B 33/14
H10K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な搬送方向に基板を搬送する搬送装置と、
前記搬送装置の下方に配置され、前記基板に蒸着物質を蒸着する蒸着装置と、を備え、
前記基板を搬送しながら蒸着を行うインライン型の成膜装置であって、
前記搬送装置は、
前記基板の搬送空間を形成する搬送チャンバと、
前記搬送チャンバの天井部の内面を覆う複数の防着部材と、を備え、
前記搬送チャンバは、前記基板の搬入口を有する第一の端部を備え、
前記複数の防着部材は、
前記天井部の前記内面に沿って配置された第一の防着部材と、
前記第一の防着部材に対して、前記第一の端部の側に配置された第二の防着部材と、を含み、
前記第二の防着部材は、
前記第一の防着部材の側から前記第一の端部の側に延びる横壁部と、
前記横壁部から下方へ延びる
第一の縦壁部と、
前記横壁部から上方へ延びる第二の縦壁部と、を有する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記第二の縦壁部は、前記横壁部の途中の部位から上方へ延びており、
前記横壁部と前記
第一の縦壁部とは、L字型を形成している、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記複数の防着部材は、
前記第二の防着部材の前記
第一の縦壁部の下端部から前記第一の端部の側へ延びる第三の防着部材を含む、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記第二の防着部材は、
前記
第一の縦壁部の下端部から前記第一の端部の側へ延びる下側横壁部を有する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記第一の端部は、前記搬入口の周囲を補強する補強リブを有し、
前記補強リブは、前記第一の端部と前記
第一の縦壁部との間に位置している、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記搬送チャンバは、前記第二の防着部材を係止するフック部を有する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記搬送チャンバは、
前記天井部の一部に相当する部分に開口部を有するチャンバ本体と、
前記開口部を塞ぐ蓋部材と、を備え、
前記第一の防着部材としての複数の防着部材が前記蓋部材に支持されている、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記搬送チャンバは、
前記基板の搬出口を有し、前記搬送方向で前記第一の端部と反対側の第二の端部を備え、
前記複数の防着部材は、
前記第一の防着部材に対して、前記第二の端部の側に配置された第四の防着部材と、を含み、
前記第四の防着部材は、
前記第一の防着部材の側から前記第二の端部の側に延びる
第二の横壁部と、
前記
第二の横壁部から下方へ延びる
第三の縦壁部と、
前記第二の横壁部から上方へ延びる第四の縦壁部と、を有する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜装置であって、
前記複数の防着部材は、
前記第四の防着部材の前記
第三の縦壁部の下端部から前記第二の端部の側へ延びる第五の防着部材を含む、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項1に記載の成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記搬送装置によって前記基板を搬送する搬送工程と、
搬送されている前記基板に、前記蒸着装置によって蒸着を行う蒸着工程と、を有する、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項11】
請求項1に記載の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法であって、
前記搬送装置によって前記基板を搬送する搬送工程と、
搬送されている前記基板に、前記蒸着装置によって蒸着を行う蒸着工程と、を有する、
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造においては、マスクを用いて基板上に有機材料や金属材料等の蒸着物質が蒸着される。基板を搬送する搬送装置の下方に蒸着装置を配置し、基板の下から蒸着物質を基板へ放出する成膜装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基盤は搬送装置の搬送チャンバ内を搬送される。蒸着装置から放出される蒸着物質は、搬送チャンバ内に進入するため、その天井部の内面に蒸着物質が付着し得る。天井部の内面に蒸着物質が付着することを防止するために、防着部材によって内面を覆うことが有効である。しかし、天井部の隅部の位置は作業者の手が届きにくい。蒸着物質の付着が進んで防着部材を清掃又は交換する際、メンテナンスが不便であるという課題がある。
【0005】
本発明は、搬送チャンバの天井部内面に対する蒸着物質の付着を防止しつつ、メンテナンス性を向上する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
水平な搬送方向に基板を搬送する搬送装置と、
前記搬送装置の下方に配置され、前記基板に蒸着物質を蒸着する蒸着装置と、を備え、
前記基板を搬送しながら蒸着を行うインライン型の成膜装置であって、
前記搬送装置は、
前記基板の搬送空間を形成する搬送チャンバと、
前記搬送チャンバの天井部の内面を覆う複数の防着部材と、を備え、
前記搬送チャンバは、前記基板の搬入口を有する第一の端部を備え、
前記複数の防着部材は、
前記天井部の前記内面に沿って配置された第一の防着部材と、
前記第一の防着部材に対して、前記第一の端部の側に配置された第二の防着部材と、を含み、
前記第二の防着部材は、
前記第一の防着部材の側から前記第一の端部の側に延びる横壁部と、
前記横壁部から下方へ延びる第一の縦壁部と、
前記横壁部から上方へ延びる第二の縦壁部と、を有する、
ことを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、搬送チャンバの天井部内面に対する蒸着物質の付着を防止しつつ、メンテナンス性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の正面図。
【
図4】(A)~(C)は移動装置による蒸着装置の移動動作の説明図。
【
図5】(A)及び(B)は防着部材の取り外し例の説明図。
【
図8】(A)及び(B)は更に別の例の防着部材の斜視図。
【
図9】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<成膜装置の概要>
図1は本発明の一実施形態に係る成膜装置1の正面図、
図2は成膜装置1の側面図である。
図3は成膜装置1の内部構造を示す説明図である。なお、各図において矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは垂直方向(鉛直方向)を示す。成膜装置1は、搬送装置2と、複数の蒸着装置3と、を備える。複数の蒸着装置3はX方向に並べて配置されており、搬送装置2はこれら蒸着装置3の上方に位置するよう、フレーム4に支持されている。フレーム4は複数の支柱4aと複数の支柱4aに支持された複数の梁4bとを備え、搬送装置2は梁4bに固定されている。
【0011】
搬送装置2は、使用時に真空に維持される搬送空間(搬送室)20aを内部に形成する搬送チャンバ20を備える。搬送チャンバ20のX方向の一方の端部21には搬入口21aが、反対側の他方の端部22には搬出口22aが設けられており、処理対象物は、搬入口21aから搬送空間20a内に搬入され、処理後に搬出口22aから外部へ搬出される。搬入口21a及び搬出口22aにはゲートバルブが設けられる。搬送チャンバ20の端部21には、搬入口21aの周囲を囲む環状の補強リブ21bが一体に形成され、搬入口21a周辺の剛性を向上している。補強リブ21bは端部21の内面から搬送空間20aへ突出している。同様に、搬送チャンバ20の端部22には、搬出口22aの周囲を囲む環状の補強リブ22bが一体に形成され、搬出口22a周辺の剛性を向上している。補強リブ22bは端部22の内面から搬送空間20aへ突出している。
【0012】
搬送空間20aには、X方向に配列された複数の搬送ローラRが設けられている。この搬送ローラRの列は、Y方向に離間して二列配置されている。各搬送ローラRはY方向の回転軸周りに回転する。搬送対象物は、二列の搬送ローラRの列に、そのY方向の両端部が載置され、搬送ローラRの回転によってX方向に水平姿勢で搬送される。すなわち、本実施形態における搬送対象物の搬送方向はX方向である。なお、本実施形態では処理対象物の搬送機構としてローラ機構を用いたが、磁気浮上搬送等、他の種類の搬送機構であってもよい。
【0013】
各蒸着装置3は、使用時に真空に維持される内部空間を形成するソースチャンバ3aを備える。ソースチャンバ3aは、上部に開口部が形成された箱型を有しており、開口部を介して、搬送空間20aとソースチャンバ3aの内部空間とが連通している。蒸着装置3は上方に蒸着物質13を放出する蒸着源6を備える。本実施形態の蒸着源6はいわゆるラインソースであり、搬送装置2での処理対象物の搬送方向(X方向)と交差する方向(本実施形態では搬送方向と直交するY方向)に延設されている。蒸着源6は、蒸着物質の原材料を収容する坩堝や、坩堝を加熱するヒータ等を備え、原材料を加熱してその蒸気である蒸着物質を搬送空間20aへ放出する。なお、蒸着源6はスポットソースであってもよい。
【0014】
蒸着源6の周囲には防着部材7A及び7Bが設けられている。防着部材7A及び7Bは蒸着源6からの蒸着物質がソースチャンバ3aの壁部や周辺の他の機構に付着しないようにその放出範囲を規制する遮蔽壁を構成している。
【0015】
防着部材7Aは、蒸着源6から搬送空間20aへ至る蒸着物質の放出空間(換言すると蒸着源6の上方空間)を囲むように構成された筒形の部材である。本実施形態の場合、蒸着源6がY方向に延設されたラインソースの形態であるため、防着板ユニット7は、蒸着源6の形状に沿った角筒形状を有している。防着部材7Bは、蒸着源6から搬送空間20aへ至る蒸着物質の放出空間及び蒸着源6を囲むように構成された筒形の部材である。本実施形態の場合、防着部材7Aと同様、防着部材7Bも角筒形状を有している。
【0016】
防着部材7Bは下側に位置し、防着部材7Aは上側に位置し、防着部材7Aの上部は搬送空間20aに進入している。防着部材7Aの下端部は、防着部材7Bの内側に進入しており、防着部材7Aの下端部と防着部材7Bの上端部とは鉛直方向において互いに重なっている。本実施形態の場合、防着部材7A及び7Bはソースチャンバ3aに支持されている。なお、本実施形態では、防着部材7A及び7Bが二部材の構成であるが、これらが一体の一部材であってもよい。
【0017】
成膜装置1は、搬送装置2により処理対象物を搬送しながら(搬送工程)、蒸着装置3により処理対象物に蒸着物質を蒸着する(蒸着工程)、成膜方法を実行可能な、インライン型の成膜装置である。成膜装置1は、例えば、表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する、電子デバイスの製造方法を実行する製造装置に適用可能である。
図3では、処理対象物として基板11が例示されている。基板11はマスク12と共にX方向に搬送され、基板11の下側に位置するマスク12を通して蒸着物質を基板10に蒸着することにより、所定のパターンの蒸着物質の薄膜を基板11に形成することができる。基板11は例えばガラス、樹脂、金属等の材料からなる板材であり、蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの物質である。
【0018】
本実施形態では、複数の蒸着装置3が基板11の搬送方向に配置されている。蒸着装置3により異なる種類の蒸着物質を放出する場合、基板11に異なる蒸着物質を連続的に蒸着することができる。なお、蒸着装置3の数は3つに限られず、1つあるいは2つでもよいし、4以上であってもよい。
【0019】
各蒸着装置3には、それぞれ、蒸着装置3を移動させる移動装置7が設けられている。蒸着装置3を移動させることで、そのメンテナンスが容易になる。また、搬送装置2のメンテナンスも容易になる。移動装置7は、走行ユニット5aと、一対の昇降ユニット5bとを備える。走行ユニット5aは、例えば、モータ等の駆動源と、駆動源の駆動力により転動する車輪とを備え、工場の床に敷設されたレール部材などのガイド部5cに沿ってY方向に往復移動可能である。一対の昇降ユニット5bは、走行ユニット5aに搭載されている。蒸着装置3は一対の昇降ユニット5bの間に位置し、一対の昇降ユニット5bによって昇降される。各昇降ユニット5bは、モータ等の駆動源と、駆動源の駆動力により蒸着装置3を昇降させる機構とを含み、一対の昇降ユニット5bは同期的に駆動される。
【0020】
図4は移動装置7による蒸着装置3の移動動作の説明図である。
図4(A)は蒸着装置3が、成膜処理の際の位置に位置している状態を示している。この位置において、蒸着装置3と搬送装置2とは
図3の位置関係にある。蒸着装置3を移動する場合、
図4(A)の位置から、
図4(B)に示すように、一対の昇降ユニット5bにより下方へ蒸着装置3を降下する。これにより、上部が搬送空間20aに進入していた防着板ユニット7Aが搬送空間20aから退避する。続いて走行ユニット5aを駆動して蒸着装置3をY方向に移動する。これにより
図4(C)に示すように、蒸着装置3が搬送装置2の下側からY方向にずれた位置に移動する。搬送装置2、蒸着装置3はそれぞれ内部が露出した状態となり、これらのメンテナンスを効率的に行うことができる。
【0021】
<搬送チャンバと防着構造>
搬送チャンバ20とその防着構造について
図1~
図3に加えて、
図5(A)及び
図5(B)を参照して説明する。
図5(A)及び
図5(B)は搬送チャンバ20に設けられる防着部材8A~8C(総称する場合、区別しない場合は防着部材8と称す)、防着部材9A及び9B(総称する場合、区別しない場合は防着部材9と称す)、及び、防着部材10A及び10B(総称する場合、区別しない場合は防着部材10と称す)の取り外し例の説明図である。
【0022】
搬送チャンバ20は、全体として直方体形状を有している。搬送チャンバ20の端部21と端部22は、それぞれZ-Y平面上の端壁を形成しており、これらの上端部を繋ぐように天井部23が形成されている。搬送チャンバ20は、チャンバ本体20Aと、蓋部材20Bとを備える。チャンバ本体20Aは、天井部23の一部に相当する部分に開口部23aを有しており、蓋部材20Bは開口部23aを塞ぐ板状の部材である。本実施形態の場合、開口部23aは、X方向及びY方向の中央部に位置しており、天井部23はその大部分が蓋部材20Bで形成され、チャンバ本体20Aは天井部23の周縁部を形成する。
【0023】
蒸着源6からの蒸着物質13は搬送空間20a内に放出されるため、蒸着物質13は天井部23の内面に付着し得る。本実施形態の場合、基板11の搬送面L1(搬送高さ)よりも高い位置に防着部材8~10を設けて天井部23の内面を覆い、天井部23の内面に直接蒸着物質13が付着することを防止している。
【0024】
防着部材8は、天井部23の内面に沿って配置されている。本実施形態の場合、複数の防着部材8A~8Cを設けたが一つの防着部材であってもよい。各防着部材8は、吊り下げ部材24を介して天井部23に支持されている。本実施形態の場合、吊り下げ部材24は蓋部材24に支持されている。防着部材8のメンテナンスの際には、
図5(A)に示すように、クレーン等によって蓋部材20Bを上昇させることで、防着部材8を外部に取り出すことができる。
【0025】
防着部材8は板状の部材であり、X-Y平面上に平面的に配置されている。各防着部材8A~8Cは、Y方向に複数配置されている。つまり、防着部材8AはY方向に複数配置されている。防着部材8B及び8Cについても同様である。防着部材8Bは、隣接する防着部材8A及び8Cの縁とZ方向に重ねられる重なり部8aを有している。こうした重なり部8aを設けることで、防着部材間の隙間から蒸着物質13が漏出することを防止し、また、各防着部材8の位置合わせの精度を緩和することができる。
【0026】
防着部材9及び10は、防着部材8に対してX方向で外側に配置される防着部材であり、搬送空間20aの隅部20b、20c付近の天井部23の内面に蒸着物質13が付着することを防止する部材である。防着部材9Aは、防着部材8に対してX方向で端部21の側に配置され、防着部材9Bは、防着部材8に対してX方向で端部22の側に配置されている。防着部材9は、天井部23のうち、チャンバ本体20Aで形成される部分に支持された吊り下げ部材25に支持されている。
【0027】
防着部材10Aは、防着部材9Aと端部21との間に配置された板状の部材であり、防着部材10Bは、防着部材9Bと端部22との間に配置された板状の部材である。防着部材10は、天井部23のうち、チャンバ本体20Aで形成される部分に支持された吊り下げ部材26に水平姿勢で支持されている。
【0028】
防着部材9、10のメンテナンスの際には、
図5(A)に示すように、クレーン等によって蓋部材20Bを上昇させて、開口部23aから防着部材9、10にアクセスすることもできるが、
図5(B)に示すように蓋部材20Bが開口部23aを塞いでいる態様においても、連通部20dから防着部材9、10にアクセスすることが可能である。
図5(B)は、
図4(C)に例示したように、蒸着装置3が搬送装置2の下側からY方向にずれた位置に移動させた態様である。連通部20dは搬送空間20aとソースチャンバ3aの内部空間とを連通させる開口である作業者が連通部20dから防着部材9、10の取り出しを行うことが可能である。
【0029】
図6を参照して防着部材9A、10Aについて更に説明する。
図6は防着部材9A、10Aの斜視図である。ここでは防着部材9A、10Aについて説明するが、防着部材9B、10Bも同様の構成である。
【0030】
防着部材9A、10Aは、防着部材8と同様、Y方向に複数並べて配置されている。防着部材9Aは、防着部材8の側から端部21の側へ延びる水平な板状の横壁部90と、横壁部90と一体の板状の縦壁部91、92とを有する。縦壁部91は、横壁部90から下方へ延び、縦壁部92は横壁部90から上方へ延びている。縦壁部91はX方向において横壁部90の端部21の側の端部から下方へ延びており、横壁部90と縦壁部91とはL字型を形成している。縦壁部92は、X方向において横壁部90の途中の部位から上方へ延びており、横壁部90と縦壁部92とはT字型(逆T字型)を形成している。
【0031】
防着部材9Aは吊り下げ部材25により係止される被係止部9aを有する。本実施形態の場合、吊り下げ部材25は、下端部がJ字型に屈曲したフック部であり、被係止部9aはフック部が引っかかる逆U字形状の部材である。被係止部9aは横壁部90に固定されている。
【0032】
防着部材10Aは、縦壁部91の下端部から端部21の側へ延びており、吊り下げ部材26により水平姿勢で支持されている。本実施形態の場合、防着部材10aは縦壁部91の最下端よりも僅かに高い位置に支持されており、縦壁部91と防着部材10Aとの隙間から蒸着物質13が漏出しにくい配置としている。
【0033】
防着部材10Aは吊り下げ部材26により係止される被係止部10aを有する。本実施形態の場合、吊り下げ部材26は、下端部がJ字型に屈曲したフック部であり、被係止部10aはフック部が引っかかる逆U字形状の部材である。
【0034】
なお、Y方向に隣接する防着部材9A間、防着部材10A間には、防着部材8Bの重なり部8aのようなZ方向に重なる重なり部を設けてもよい。防着部材間の隙間から蒸着物質13が漏出することを防止し、また、各防着部材9、10の位置合わせの精度を緩和することができる。
【0035】
このような構成からなる防着部材9Aの効果について
図3、
図5(A)及び
図5(B)等を参照して説明する。防着部材9Aは、横壁部90と縦壁部91とを備えたことにより、隅部20bに対する蒸着物質13の付着の防止効果を向上する。すなわち、縦壁部91によって、縦壁部91よりも端部21側上方へ向かう蒸着物質13を、天井部23の内面に平行に防着部材を配置した場合に比べて、広範囲に渡って遮断できる。特に本実施形態の場合、防着部材7Aの端部21側の位置L2よりも縦壁部91が端部21側に位置しているため、防着部材7Aを通過した防着物質13が隅部20bに到達することをより確実に防止できる。
【0036】
隅部20bは、作業者が連通部20d或いは開口部23aからアクセスしにくい遠い位置或いは狭い位置であり、ここに防着部材8のような天井部23の内面に沿った防着部材を設けると、そのメンテナンス作業が難しくなる。これに対して、縦壁部91は下方に延設されているので、連通部20dが縦壁部91に近くなり、そのアクセスが容易化する。しかも、縦壁部91と横壁部90とは一体に形成されているので、やや高い位置にある横壁部90や横壁部90から上方に延びる縦壁部92も、防着部材9Aとして一括して着脱ができ、メンテナンス性が向上する。このように本実施形態によれば、搬送チャンバ20の天井部23の内面に対する蒸着物質13の付着を防止しつつ、メンテナンス性を向上することができる。
【0037】
本実施形態の場合、縦壁部91と端部21との間にX方向のスペースが生じる。ここには、上述した補強リブ21bが位置しており、このスペースを有効に活用できる。また、このスペースには、搬入口21aを開閉するゲートバルブの機構等を配置することも可能である。
【0038】
防着部材10Aも、縦壁部91の下端部から端部21へ延びているため、防着部材7Aを通過した防着物質13が隅部20b(特に端部21の内面)に到達することをより確実に防止できる。防着部材10Aは比較的低い位置に位置しているため、連通部20dからのアクセスが比較的容易である。
【0039】
防着部材9A及び10Aの支持構造は、フック部である吊り下げ部材25、26に係止する簡易な支持構造としている。作業者がこれらを僅かに持ち上げて移動すれば係止が解除されるので、交換作業が容易である。
【0040】
防着部材9B、10Bも隅部20cに対して、防着部材9A、10Aと同様の効果を発揮する。なお、
図3において線L3は防着部材7Aの端部22側の位置を示しており、位置L3よりも防着部材9Bの縦壁部91は端部22側に位置している。
【0041】
<防着部材の他の構成例>
防着部材9Aの構成は
図6の構成に限られない。防着部材9Aの他の構成例について説明する。なお、以下の構成例は防着部材9Bについても適用可能である。
【0042】
図7の例は、防着部材9Aの縦壁部91の下端部に端部21へ延びる下側横壁部93を設けた例を示している。この例は防着部材10Aを防着部材9Aに一体化したもので、下側横壁部93は防着部材10Aに相当する。
【0043】
図8(A)は、縦壁部92が無い防着部材9Aの例を示している。このような構成も採用可能である。また、防着部材10Aが無い構成も採用可能である。
【0044】
図8(B)は、縦壁部91に代わる縦壁部91’が横壁部90のX方向の途中部から下方へ延びている防着部材9Aの例を示している。横壁部90と縦壁部91’とはT字型である。
【0045】
<電子デバイス>
次に、電子デバイスの一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を例示する。
【0046】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図9(A)は有機EL表示装置500の全体図、
図9(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0047】
図9(A)に示すように、有機EL表示装置500の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0048】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0049】
図9(B)は、
図9(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0050】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図9(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0051】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0052】
図9(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0053】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0054】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0055】
こうした電子デバイスの製造において、上述した成膜装置1が適用可能であり、当該製造方法は、搬送装置2により基板53を搬送する搬送工程と、搬送されている基板53に蒸着装置3によって各層の少なくともいずれか一つの層を蒸着する蒸着工程と、を含むことができる。
【0056】
<他の実施形態>
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0057】
1 成膜装置、2 搬送装置、3 蒸着装置、6 蒸着源、8A~8C 防着部材、9A~9B 防着部材