(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20230308BHJP
C23C 18/12 20060101ALI20230308BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20230308BHJP
H01L 21/365 20060101ALN20230308BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C18/12
H01L21/368 Z
H01L21/365
(21)【出願番号】P 2019023983
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】川原村 敏幸
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-006263(JP,U)
【文献】特開2000-049151(JP,A)
【文献】特開2013-028480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
C23C 18/12
H01L 21/368
H01L 21/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、
ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、
水分を含んだキャリアガスを生成する工程と、
前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストを前記水分を含んだキャリアガスにより搬送する工程と、
前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含
み、
前記水分を含んだキャリアガスを生成する工程は、大気を昇圧して水分を含んだ圧縮空気とする工程、又は、大気を昇圧して水分を含んだ圧縮空気とするとともに、該水分を含んだ圧縮空気を水が収納されたバブラーを通してバブリングする工程であることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記キャリアガスに水分を含ませることにより、前記キャリアガス中の相対湿度を20~100%とすることを特徴とする請求項
1に記載の成膜方法。
【請求項3】
成膜装置であって、
原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、
前記ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、
前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、
前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、前記キャリアガスによって前記ミストが搬送される搬送部とを有し、
前記キャリアガス供給部は、水分を含んだキャリアガスを生成する含水分キャリアガス生成手段を備え
、
前記含水分キャリアガス生成手段は、大気を圧縮して圧縮空気とする圧縮機である、又は、前記含水分キャリアガス生成手段として、大気を圧縮して圧縮空気とする圧縮機及びバブラーを備えることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト状の原料を用いて基体上に成膜を行う成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザー堆積法(Pulsed laser deposition:PLD)、分子線エピタキシー法(Molecular beam epitaxy:MBE)、スパッタリング法等の非平衡状態を実現できる高真空成膜装置が開発されており、これまでの融液法等では作製不可能であった酸化物半導体の作製が可能となってきた。また、霧化されたミスト状の原料を用いて、基板上に結晶成長させるミスト化学気相成長法(Mist Chemical Vapor Deposition:Mist CVD。以下、「ミストCVD法」ともいう。)が開発され、コランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の作製が可能となってきた。α-Ga2O3は、バンドギャップの大きな半導体として、高耐圧、低損失及び高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子への応用が期待されている。ミストCVD法は、他のCVD法とは異なり高温にする必要もなく、α-酸化ガリウムのコランダム構造のような準安定相の結晶構造も作製可能である。
【0003】
ミストCVD法に関して、特許文献1には、管状炉型のミストCVD装置が記載されている。特許文献2には、ファインチャネル型のミストCVD装置が記載されている。特許文献3には、リニアソース型のミストCVD装置が記載されている。特許文献4には、管状炉のミストCVD装置が記載されており、特許文献1に記載のミストCVD装置とは、ミスト発生器内にキャリアガスを導入する点で異なっている。特許文献5には、ミスト発生器の上方に基板を設置し、さらにサセプタがホットプレート上に備え付けられた回転ステージであるミストCVD装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-257337号公報
【文献】特開2005-307238号公報
【文献】特開2012-46772号公報
【文献】特許第5397794号
【文献】特開2014-63973号公報
【文献】国際公開第2016/203594号
【文献】国際公開第2016/203595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記成膜方法の工業的な利用の実現化のためには、生産性を向上することが重要である。生産性向上のための方策の一つとして、成膜速度を高くすることが挙げられる。
【0006】
特許文献6及び特許文献7には、原料溶液に反応支援剤ミストを混合することで成膜速度を向上させることが開示されている。しかしながら、この方法は、反応支援剤ミストを発生させるための設備が必要となるだけでなく、反応支援剤としてアンモニアもしくは塩酸を用意、使用する必要があり、有効な方法とはいえなかった。
【0007】
一方で、これまで、ミストCVD法においては、キャリアガスの影響について特段の配慮はされてこなかった。これに対し、本発明者がミストCVD法の成膜速度の向上について鋭意調査した結果、原料(ミスト)の供給配管にキャリアガスを導入すると、配管内の水蒸気分圧が低下し、この結果ミストが蒸発・消滅してしまい、成膜に寄与できるミスト量が低下して成膜速度が低下するという新たな問題点を見出した。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、成膜速度に優れた成膜方法及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、水分を含んだキャリアガスを生成する工程と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストを前記水分を含んだキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含む成膜方法を提供する。
【0010】
このような成膜方法によれば、簡便な方法で搬送されるミストの蒸発・消滅を抑制でき、その結果成膜速度を大きく改善することが可能となる。
【0011】
このとき、前記水分を含んだキャリアガスを生成する工程は、大気を昇圧して水分を含んだ圧縮空気とする工程である成膜方法とすることができる。
【0012】
これにより、低コストでかつより安定して成膜速度を大きく改善することができる。
【0013】
このとき、前記水分を含んだキャリアガスを生成する工程は、キャリアガスを水が収納されたバブラーを通してバブリングする工程である成膜方法とすることができる。
【0014】
これにより、より安定して成膜速度を大きくすることができる。
【0015】
このとき、前記水分を含んだキャリアガスを生成する工程は、大気を昇圧して水分を含んだ圧縮空気とするとともに、該水分を含んだ圧縮空気を水が収納されたバブラーを通してバブリングする工程である成膜方法とすることができる。
【0016】
これにより、低コストで、かつ、さらに安定して確実に成膜速度を大きくすることができる。
【0017】
このとき、前記キャリアガスに水分を含ませることにより、前記キャリアガス中の相対湿度を20~100%とする成膜方法とすることができる。
【0018】
これにより、より確実に成膜速度を大きくすることができる。
【0019】
また、本発明は、成膜装置であって、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、前記キャリアガスによって前記ミストが搬送される搬送部とを有し、前記キャリアガス供給部は、水分を含んだキャリアガスを生成する含水分キャリアガス生成手段を備える成膜装置を提供する。
【0020】
このような成膜装置によれば、簡便な装置構成で、搬送されるミストの蒸発・消滅を抑制でき、その結果成膜速度を大きく改善することが可能なものとなる。
【0021】
このとき、前記含水分キャリアガス生成手段は、大気を圧縮して圧縮空気とする圧縮機である成膜装置とすることができる。
【0022】
これにより、低コストでかつ安定して成膜速度を大きくすることができるものとなる。
【0023】
このとき、前記含水分キャリアガス生成手段は、バブラーである成膜装置とすることができる。
【0024】
これにより、さらに安定して成膜速度を大きくすることができるものとなる。
【0025】
このとき、前記含水分キャリアガス生成手段として、大気を圧縮して圧縮空気とする圧縮機及びバブラーを備える成膜装置とすることができる。
【0026】
これにより、低コストで、かつ、さらに安定して確実に成膜速度を大きくすることができるものとなる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の成膜方法によれば、ミストCVD方法において、簡便な方法により成膜速度を大きく改善することが可能となる。また、本発明の成膜装置によれば、簡便な方法により成膜速度を大きく改善することが可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明に用いられるミスト化部の一例を説明する図である。
【
図3】本発明の成膜装置の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
上述のように、ミストCVD法において、成膜速度を大きく改善する成膜方法及び成膜装置が求められていた。
【0031】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、成膜部でミストを熱処理して成膜を行う成膜方法であって、ミスト化部において、原料溶液をミスト化してミストを発生させる工程と、水分を含んだキャリアガスを生成する工程と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続する搬送部を介して、前記ミスト化部から前記成膜部へと、前記ミストを前記水分を含んだキャリアガスにより搬送する工程と、前記成膜部において、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う工程とを含む成膜方法により、搬送部でのミストの蒸発・消滅を抑制し、成膜速度を高くすることが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0032】
また、成膜装置であって、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部と、前記ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、前記ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部と、前記ミスト化部と前記成膜部とを接続し、前記キャリアガスによって前記ミストが搬送される搬送部とを有し、前記キャリアガス供給部は、水分を含んだキャリアガスを生成する含水分キャリアガス生成手段を備える成膜装置により、搬送部でのミストの蒸発・消滅を抑制でき、成膜速度を高くすることが可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0033】
以下、図面を参照して説明する。
【0034】
ここで、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子の総称を指し、霧、液滴等と呼ばれるものを含む。
【0035】
図1に、本発明に係る成膜方法に使用可能な成膜装置101の一例を示す。成膜装置101は、原料溶液をミスト化してミストを発生させるミスト化部120と、ミストを搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部130と、ミストを熱処理して基体上に成膜を行う成膜部140と、ミスト化部120と成膜部140とを接続し、キャリアガスによってミストが搬送される搬送部109とを有する。また、成膜装置101は、成膜装置101の全体又は一部を制御する制御部(図示なし)を備えることによって、その動作が制御されてもよい。
【0036】
(ミスト化部)
ミスト化部120では、原料溶液104aを調整し、前記原料溶液104aをミスト化してミストを発生させる。ミスト化手段は、原料溶液104aをミスト化できさえすれば特に限定されず、公知のミスト化手段であってよいが、超音波振動によるミスト化手段を用いることが好ましい。より安定してミスト化することができるためである。
【0037】
このようなミスト化部120の一例を
図2に示す。例えば、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、超音波振動を伝達可能な媒体、例えば水105aが入れられる容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106を含んでもよい。詳細には、原料溶液104aが収容されている容器からなるミスト発生源104が、水105aが収容されている容器105に、支持体(図示せず)を用いて収納されている。容器105の底部には、超音波振動子106が備え付けられており、超音波振動子106と発振器116とが接続されている。そして、発振器116を作動させると、超音波振動子106が振動し、水105aを介して、ミスト発生源104内に超音波が伝播し、原料溶液104aがミスト化するように構成されている。
【0038】
(キャリアガス供給部)
再び
図1に戻り、キャリアガス供給部130は、キャリアガスを供給するキャリアガス源を有する。キャリアガス源から送り出されるキャリアガス(下記のように希釈用キャリアガスを使用するときには、「主キャリアガス」ということもある)の流量を調節するための流量調節弁103aを備えていてもよい。また、必要に応じて希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源や、希釈用キャリアガス源から送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bを備えることもできる。
【0039】
キャリアガスの種類は、特に限定されず、成膜物に応じて適宜選択可能である。例えば、大気(空気)、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類でも、2種類以上であってもよい。例えば、第1のキャリアガスと同じガスをそれ以外のガスで希釈した(例えば10倍に希釈した)希釈ガスなどを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。
【0040】
キャリアガスの流量(複数種類使用するときには総流量)は、特に限定されない。例えば、30mm角基板上に成膜する場合には、0.01~60L/分とすることが好ましく、1~30L/分とすることがより好ましい。
【0041】
本発明においては、キャリアガスに水分を含ませ、水分を含んだキャリアガスとする点に特徴がある。ここで、通常、高純度のガスであっても不可避的不純物として水分が含まれているが、このようなガスは、本発明における「水分を含んだキャリアガス」には含まれない。本発明における「水分を含んだキャリアガス」として用いられるガスは、意図的に水分を添加したものであり、例えば、湿度が20%以上のものである。このような水分を含んだキャリアガスを用いることにより、配管内の水蒸気圧を高い状態に維持できるため、ミストの蒸発・消滅を抑制できる。この結果、成膜部へ送られるミスト量は増加し、結果的に成膜速度の増加をもたらす。
【0042】
(含水分キャリアガス生成手段)
次に、上述の「水分を含んだキャリアガス」を生成するための、含水分キャリアガス生成手段について説明する。含水分キャリアガス生成手段はキャリアガス供給部に設けられている。
【0043】
図1は、含水分キャリアガス生成手段102の第1の例を含む、成膜装置101を示したものである。第1の例の含水分キャリアガス生成手段102は、大気を昇圧し水分を含んだ圧縮空気とするための圧縮機102a、102bである。圧縮機102a、102bには、圧縮空気を貯蔵する高圧タンク等を備えてもよい。キャリアガスとして空気を用いる場合、上記圧縮機102a、102bはキャリアガス源としても機能する。また、圧縮機102a、102bに代えて、ブロアーもしくはファンを用いることもできる。なお、圧縮機102a、102bは、共通、すなわち、1つの圧縮機から二又以上に分岐させることとしてもかまわない。
【0044】
大気中には少なからず水分が含まれているため、これをキャリアガスの水分として利用する。昇圧する圧力値は下流側の圧力損失により適宜決められるが、0.6MPa、好ましくは0.4MPa、より好ましくは0.1MPa程度(いずれもゲージ圧)とすることで、より安定して効果的にミストの蒸発・消滅を抑制できる水分を含んだキャリアガスとできる。さらに、使用するキャリアガスが大気(空気)であるため、コストも低減できる。
【0045】
ここで、「大気」には、屋外だけでなく屋内の空気も含み、除湿されドライな空気とされていない限り、調温、調湿を受けた空気も含む。このようにすることで、キャリアガス中の相対湿度は20~100%となり、配管内の水蒸気圧は高い状態が維持され、ミストの蒸発・消滅がより効果的に抑制される。
【0046】
図3は、含水分キャリアガス生成手段303の第2の例を含む、成膜装置301を示したものである。第2の例の含水分キャリアガス生成手段303は、キャリアガス供給部130に設けたバブラー303a、303bである。なお、
図1と共通するものについては同じ符号で表し、説明は適宜省略する。
図3に示すように、キャリアガスを収納したボンベ(キャリアガス源)302a、302bから供給されたキャリアガスを、水が収納されたバブラー303a、303bに通してバブリングすることで、キャリアガスに飽和水蒸気を付与することができる。この第2の例の場合は、キャリアガスとして大気(空気)以外のガスも使用可能である。
【0047】
また、供給系統に適宜弁等を設けることで、キャリアガス源ならびにバブラーを共通とすることもできる。このようにすることで、キャリアガス中の相対湿度は50~100%となり、配管内の水蒸気圧は高い状態が維持され、ミストの蒸発・消滅がより効果的に抑制される。なお、バブラーより下流に別途、加湿されていないガスを供給すれば、より広い範囲でキャリアガスの相対湿度の制御が可能となり、第1の例のように、キャリアガス中の相対湿度を20~100%とできる。
【0048】
また、上記第1の例(空気の圧縮)、第2の例(バブラー)のいずれか一方のみでも効果は得られるが、特にキャリアガスとして大気(空気)を使用する場合は、第1の例と第2の例とを組み合わせると、より効果が確実なものとなる。
【0049】
(成膜部)
再び
図1、
図3を参照する。成膜部140では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基体110の表面の一部又は全部に成膜を行う。成膜部140は、例えば、成膜室107を備え、成膜室107内には基体110が設置されており、該基体110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、
図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。また、成膜室107には、基体110へのミストの供給に影響を及ぼさない位置に、排ガスの排気口112が設けられている。
【0050】
なお、本発明においては、基体110を成膜室107の上面に設置するなどして、フェイスダウンとしてもよいし、基体110を成膜室107の底面に設置して、フェイスアップとしてもよい。
【0051】
熱反応は、加熱によりミストが反応すればよく、反応条件等も特に限定されない。原料や成膜物に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度は120~600℃の範囲であり、好ましくは200℃~600℃の範囲であり、より好ましくは300℃~550℃の範囲とすることができる。
【0052】
熱反応は、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下、空気雰囲気下及び酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、成膜物に応じて適宜設定すればよい。また、反応圧力は、大気圧下又は加圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、大気圧下の成膜であれば、装置構成が簡略化できるので好ましい。
【0053】
(搬送部)
搬送部109は、ミスト化部120と成膜部140とを接続する。搬送部109を介して、ミスト化部120のミスト発生源104から成膜部140の成膜室107へと、キャリアガスによってミストが搬送される。搬送部109は、例えば、供給管109aとすることができる。供給管109aとしては、例えば石英管や樹脂製のチューブなどを使用することができる。
【0054】
(原料溶液)
原料溶液104aは、ミスト化が可能な材料を含んでいれば特に限定されず、無機材料であっても、有機材料であってもよい。金属又は金属化合物が好適に用いられ、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル及びコバルトから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むものを使用できる。
【0055】
前記原料溶液104aは、上記金属をミスト化できるものであれば特に限定されないが、前記原料溶液104aとして、前記金属を錯体又は塩の形態で、有機溶媒又は水に溶解又は分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩などが挙げられる。また、上記金属を、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸等に溶解したものも塩の水溶液として用いることができる。
【0056】
また、前記原料溶液104aには、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、なかでも、臭化水素酸又はヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化バリウム(BaO2)、過酸化ベンゾイル(C6H5CO)2O2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0057】
さらに、前記原料溶液には、ドーパントが含まれていてもよい。前記ドーパントは特に限定されない。例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。ドーパントの濃度は、例えば、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよく、約1×1017/cm3以下の低濃度にしても、約1×1020/cm3以上の高濃度としてもよい。
【0058】
(基体)
基体110は、成膜可能であり膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体110の材料も、特に限定されず、公知の基体を用いることができ、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、酸化ガリウム等が挙げられるが、これに限られるものではない。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、板状の基体が好ましい。板状の基体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、10~2000μmであり、より好ましくは50~800μmである。基体が板状の場合、その面積は100mm2以上が好ましく、より好ましくは口径が2インチ(50mm)以上である。
【0059】
(成膜方法)
次に、以下、
図1を参照しながら、本発明に係る成膜方法の一例を説明する。
まず、原料溶液104aをミスト化部120のミスト発生源104内に収容し、基体110をホットプレート108上に直接又は成膜室107の壁を介して設置し、ホットプレート108を作動させる。
【0060】
次に、流量調節弁103a、103bを開いて、圧縮機102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換するとともに、主キャリアガスの流量と希釈用キャリアガスの流量をそれぞれ調節する。この時、キャリアガス中には、相対湿度20~100%に相当する水分が含まれている。これが、水分を含んだキャリアガスを生成する工程である。
【0061】
ミストを発生させる工程では、超音波振動子106を振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化させてミストを生成する。
【0062】
次に、ミストを水分を含んだキャリアガスにより搬送する工程では、ミストが、水分を含んだキャリアガスによってミスト化部120から搬送部109を経て成膜部140へ搬送され、成膜室107内に導入される。このときキャリアガスは水分を含んでいるため、ミストの蒸発・消滅が効果的に防止できる。
【0063】
成膜を行う工程では、成膜室107内に導入されたミストが、成膜室107内でホットプレート108の熱により熱処理され熱反応して、基体110上に成膜される。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0065】
(実施例1)
まず、
図1を参照しながら、本実施例で用いた成膜装置101を説明する。成膜装置101は、主キャリアガスとして、大気を昇圧して水分を含んだ圧縮空気を生成し供給する圧縮機102aと、圧縮機102aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103aと、希釈用キャリアガスとして、大気を昇圧して水分を含んだ圧縮空気を供給する希釈用キャリアガス用の圧縮機102bと、圧縮機102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bと、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、水105aが収容された容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106と、成膜室107と、ミスト発生源104から成膜室107までをつなぐ石英製の供給管109aと、ホットプレート108とを備えている。
【0066】
圧縮機102a、102bは、大気を取り込み昇圧して水分を含んだ圧縮空気を生成した。具体的には、大気を0.08MPa(ゲージ圧)まで昇圧した。この際、途中にドライヤー等は設けず、ガスの除湿は実施していない。昇圧後の圧縮空気の湿度を実測すると、約60%であった。
【0067】
原料溶液の作製は、臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液104aとした。
【0068】
上述のようにして得た原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。次に、基体110として4インチ(直径100mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内でホットプレート108に隣接するように設置し、ホットプレート108を作動させて温度を500℃に昇温した。
【0069】
続いて、流量調節弁103a、103bを開いて圧縮機102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5L/minに、希釈用キャリアガスの流量を0.5L/minにそれぞれ調節した。キャリアガスの総流量は5.5L/分である。
【0070】
次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109aを経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基体110上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。
【0071】
成長速度の評価は以下のように行った。まず、基体110上の薄膜について、測定箇所を基体110の面内の17点として、段差計を用いて膜厚を測定し、それぞれの膜厚の値から平均値を算出した。得られた平均膜厚を成膜時間で割ったものを成膜速度とした。その結果、成膜速度は13.2μm/時間であった。
【0072】
(実施例2)
図3に示すように、キャリアガス源としてボンベ302a、302bに収納された空気を用い、さらに、キャリアガス供給配管の途中に水を収納したバブラー303a、303bを設けた成膜装置301を用いた。ボンベ302a、302bから供給する空気をバブリングさせながら、水分を含んだキャリアガスを生成し供給した。これ以外は、実施例1と同じ条件で成膜、評価を行った。バブリング後のキャリアガスの湿度を実測したところ、約95%であった。成膜速度は14.3μm/時間であった。
【0073】
(比較例)
キャリアガス源としてボンベに収納された空気を用い、配管途中にバブラーを設けていない成膜装置を用いることで、キャリアガスは、水分を添加することなく供給することとした。これ以外は、実施例1,2と同じ条件で成膜を行った。キャリアガスの湿度を実測すると、0%であった。成膜速度は10.8μm/時間となった。
【0074】
表1に、実施例1,2、比較例の条件及び成膜速度の評価を行った結果を示す。
【0075】
【0076】
実施例1,2と比較例との比較から明らかなように、実施例1,2では成膜速度が飛躍的に向上することが確認できた。キャリアガス中に水分を添加することで、搬送中のミストの蒸発・消滅を防止でき、成膜速度が向上した。
【0077】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0078】
101…成膜装置、
102…含水分キャリアガス生成手段
102a…圧縮機(主キャリアガス用)、
102b…圧縮機(希釈キャリアガス用)、
103a…流量調節弁、 103b…流量調節弁、 104…ミスト発生源、
104a…原料溶液、 105…容器、 105a…水、 106…超音波振動子、
107…成膜室、 108…ホットプレート、 109…搬送部、
109a…供給管、 110…基体、 112…排気口、 116…発振器、
120…ミスト化部、130…キャリアガス供給部、140…成膜部、
301…成膜装置、
302a…ボンベ(主キャリアガス源)、
302b…ボンベ(希釈キャリアガス源)、
303…含水分キャリアガス生成手段、
303a…バブラー(主キャリアガス用)、
303b…バブラー(希釈キャリアガス用)。