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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】ハロゲン化カルボニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/80 20170101AFI20230308BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20230308BHJP
   C07C 263/10 20060101ALI20230308BHJP
   C07C 265/14 20060101ALI20230308BHJP
   C07C 265/04 20060101ALI20230308BHJP
   C07C 257/02 20060101ALI20230308BHJP
   C07D 263/44 20060101ALI20230308BHJP
   C07D 233/61 20060101ALI20230308BHJP
   C07D 317/38 20060101ALI20230308BHJP
   C07C 68/02 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
C01B32/80
C07C69/96 Z
C07C69/96 A
C07C263/10
C07C265/14
C07C265/04
C07C257/02
C07D263/44
C07D233/61 102
C07D317/38
C07C68/02 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022542485
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2022002661
(87)【国際公開番号】W WO2022172744
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2021021001
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「含フッ素カーボネートを鍵中間体とする安全な製造プロセスによる高機能・高付加価値ポリウレタン材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】岡添 隆
(72)【発明者】
【氏名】原田 英文
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-527841(JP,A)
【文献】特開2013-181028(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100970(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100971(WO,A1)
【文献】特開2020-083882(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050368(WO,A1)
【文献】特開昭63-319205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化カルボニルを製造するための方法であって、
クロロメタンと酸素を含む混合ガスを調製する工程、及び、
前記混合ガスを流動させ、流動している記混合ガスに、ピーク波長が180nm以上500nm以下の高エネルギー光を照射する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記高エネルギー光の光源と流動している記混合ガスとの最短距離が1m以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流動している記混合ガスに前記高エネルギー光を照射する時間が1秒以上、10000秒以下である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
流動している記混合ガスに前記高エネルギー光を照射する際の温度が40℃以上、200℃以下である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
フッ素化カーボネート化合物を製造するための方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記クロロメタンに対する前記フッ素化アルコール化合物のモル比を1以上とすることを特徴とする方法。
【請求項6】
非フッ素化カーボネート化合物を製造するための方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
非フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記クロロメタンに対する前記非フッ素化アルコール化合物のモル比を1以上とすることを特徴とする方法。
【請求項7】
ハロゲン化ギ酸フッ素化エステル化合物を製造するための方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記クロロメタンに対する前記フッ素化アルコール化合物のモル比を1未満とすることを特徴とする方法。
【請求項8】
ハロゲン化ギ酸非フッ素化エステル化合物を製造するための方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
非フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記クロロメタンに対する前記非フッ素化アルコール化合物のモル比を1未満とすることを特徴とする方法。
【請求項9】
イソシアネート化合物を製造するための方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
第一級アミン化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記クロロメタンに対する前記第一級アミン化合物のモル比を1未満とすることを特徴とする方法。
【請求項10】
アミノ酸-N-カルボン酸無水物を製造するための方法であって、
前記アミノ酸-N-カルボン酸無水物は下記式(VIII)で表されるものであり、
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
下記式(VII)で表されるアミノ酸化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【化1】
[式中、
4は、反応性基が保護されているアミノ酸側鎖基を示し、
5は、H、またはP1-[-NH-CHR6-C(=O)-]l-(式中、R6は、反応性基が保護されているアミノ酸側鎖を示し、P1はアミノ基の保護基を示し、lは1以上の整数を示し、lが2以上の整数の場合、複数のR6は互いに同一であっても異なってもよい)を示す。]
【請求項11】
ビルスマイヤー試薬を製造するための方法であって、
前記ビルスマイヤー試薬が下記式(X)で表される塩であり、
【化2】
[式中、
7は、水素原子、C1-6アルキル基、または置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基を示し、
8とR9は、独立して、C1-6アルキル基、または置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基を示し、また、R8とR9は一緒になって4員以上7員以下の環構造を形成してもよく、
Xは、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群より選択されるハロゲノ基を示し、
-はカウンターアニオンを示す。]
請求項1~4のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、および、
前記ハロゲン化カルボニルと下記式(IX)で表されるアミド化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【化3】
[式中、R7~R9は上記と同義を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用したハロゲン化メタンに対してハロゲン化カルボニルを効率的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホスゲン等のハロゲン化カルボニルは、様々な化合物の合成中間体や素材の原料として非常に重要である。例えばカーボネート化合物は、一般的に、ホスゲンとアルコール化合物から製造される。
【0003】
しかしホスゲンは、水と容易に反応して塩化水素を発生させたり、毒ガスとして利用された歴史があるなど、非常に有毒なものである。ホスゲンは主として、活性炭触媒の存在下、無水塩素ガスと高純度一酸化炭素との高発熱気相反応によって製造される。ここで用いられる一酸化炭素も有毒である。ホスゲンの基本的な製造プロセスは、1920年代から大きく変わっていない。そのようなプロセスによるホスゲンの製造には、高価で巨大な設備が必要である。しかし、ホスゲンの高い毒性のために、幅広い安全性の確保がプラント設計に不可欠であり、それが製造コストの増大につながる。
【0004】
そこで本発明者らは、ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射してハロゲンおよび/またはハロゲン化カルボニルを生成させる技術を開発している(特許文献1)。かかる技術によれば、生成したハロゲン化カルボニルをアミン化合物やアルコール化合物などの反応基質化合物中に直接導入することにより反応させることができるため、安全であるといえる。また、反応に用いられなかったハロゲン化カルボニルは、トラップにより回収して外部に漏出させないことも可能である。例えば本発明者らは、ハロゲン化炭化水素とアルコールを含む混合物に酸素存在下で光照射することによりハロゲン化カルボン酸エステルを製造する技術も開発している(特許文献2)。また、本発明者らは、ハロゲン化炭化水素、求核性官能基含有化合物、および塩基を含む組成物に酸素存在下で光照射することによりカーボネート誘導体を製造する技術も開発している(特許文献3および特許文献4)。
【0005】
ところが、上記方法でハロゲン化カルボニルを製造する場合、生成するハロゲン化カルボニルに比べて多量のハロゲン化炭化水素が残留する。ハロゲン化炭化水素は環境負荷が高いため、容易に廃棄することはできず、精製して再利用する等しなければならない。
【0006】
一方、ハロゲン化カルボニルは、光により分解することが古くから知られている。例えば特許文献5には、不純物であるホスゲンを含む三塩化ホウ素に紫外線を照射してホスゲンを光分解して除去する方法が開示されている。非特許文献1にも、ホスゲンが光照射により分解されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-181028号公報
【文献】国際公開第2015/156245号パンフレット
【文献】国際公開第2018/211952号パンフレット
【文献】国際公開第2018/211953号パンフレット
【文献】米国特許第4,405,423号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】C.W.Mostgomeryら,J.Am.Chem.Soc.,1934,56,5,pp.1089-1092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、本発明者らは、ハロゲン化炭化水素に光照射してハロゲン化カルボニルを製造する方法を開発しているが、生成したハロゲン化カルボニルとアルコール化合物などとの反応効率は高い一方で、ハロゲン化炭化水素を大量に用いるため、ハロゲン化炭化水素に対する収率は低いと言わざるを得ない。
そこで本発明は、使用したハロゲン化メタンに対してハロゲン化カルボニルを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。例えば、本発明者らは、気化させたハロゲン化メタンに高エネルギー光を照射すれば、ハロゲン化メタンを効率的に光分解できる一方で、生成したハロゲン化カルボニルも気相では速やかに光分解してしまうと予想していた。しかし反応条件を種々検討したところ、気化させたハロゲン化メタンを流動させつつ、高エネルギー光を照射すれば、意外にも高収率でハロゲン化カルボニルが得られることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] ハロゲン化カルボニルを製造するための方法であって、
クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有するハロゲン化メタンと酸素を含む混合ガスを調製する工程、及び、
前記混合ガスを流動させ、前記流動混合ガスに高エネルギー光を照射する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 前記高エネルギー光の光源と前記流動混合ガスとの最短距離が1m以下である前記[1]に記載の方法。
[3] 前記流動混合ガスに前記高エネルギー光を照射する時間が1秒以上、10000秒以下である前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記流動混合ガスに前記高エネルギー光を照射する際の温度が40℃以上、200℃以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] フッ素化カーボネート化合物を製造するための方法であって、
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記ハロゲン化メタンに対する前記フッ素化アルコール化合物のモル比を1以上とすることを特徴とする方法。
[6] 非フッ素化カーボネート化合物を製造するための方法であって、
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
非フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記ハロゲン化メタンに対する前記非フッ素化アルコール化合物のモル比を1以上とすることを特徴とする方法。
[7] ハロゲン化ギ酸フッ素化エステル化合物を製造するための方法であって、
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記ハロゲン化メタンに対する前記フッ素化アルコール化合物のモル比を1未満とすることを特徴とする方法。
[8] ハロゲン化ギ酸非フッ素化エステル化合物を製造するための方法であって、
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
非フッ素化アルコール化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記ハロゲン化メタンに対する前記非フッ素化アルコール化合物のモル比を1未満とすることを特徴とする方法。
[9] イソシアネート化合物を製造するための方法であって、
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
第一級アミン化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含み、
前記ハロゲン化メタンに対する前記第一級アミン化合物のモル比を1未満とすることを特徴とする方法。
[10] アミノ酸-N-カルボン酸無水物を製造するための方法であって、
前記アミノ酸-N-カルボン酸無水物は下記式(VIII)で表されるものであり、
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、及び、
下記式(VII)で表されるアミノ酸化合物と前記ハロゲン化カルボニルとを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【0012】
【化1】
【0013】
[式中、
4は、反応性基が保護されているアミノ酸側鎖基を示し、
5は、H、またはP1-[-NH-CHR6-C(=O)-]l-(式中、R6は、反応性基が保護されているアミノ酸側鎖を示し、P1はアミノ基の保護基を示し、lは1以上の整数を示し、lが2以上の整数の場合、複数のR6は互いに同一であっても異なってもよい)を示す。]
[11] ビルスマイヤー試薬を製造するための方法であって、
前記ビルスマイヤー試薬が下記式(X)で表される塩であり、
【0014】
【化2】
【0015】
[式中、
7は、水素原子、C1-6アルキル基、または置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基を示し、
8とR9は、独立して、C1-6アルキル基、または置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基を示し、また、R8とR9は一緒になって4員以上7員以下の環構造を形成してもよく、
Xは、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群より選択されるハロゲノ基を示し、
-はカウンターアニオンを示す。]
前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法によりハロゲン化カルボニルを製造する工程、および、
前記ハロゲン化カルボニルと下記式(IX)で表されるアミド化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【0016】
【化3】
【0017】
[式中、R7~R9は上記と同義を示す。]
【発明の効果】
【0018】
本発明方法によれば、使用したハロゲン化メタンに対してハロゲン化カルボニルを効率的に製造することが可能であり、環境負荷が高く、使用や処理が制限されているハロゲン化メタンを有効利用することができる。よって本発明は、ハロゲン化メタンの有効利用と、ホスゲン等のハロゲン化カルボニルの効率的な製造を可能にする技術として、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に用いられる反応システムの構成の一例を示す模式図である。
図2】本発明に用いられる反応システムの構成の一例を示す模式図である。
図3】本発明に用いられる反応システムの構成の一例を示す模式図である。
図4】本発明に用いられる反応システムの構成の一例を示す模式図である。
図5】本発明に用いられる反応システムの構成の一例を示す模式図である。
図6】本発明に用いられる反応システムの構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明方法を工程毎に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0021】
1.混合ガス調製工程
本工程では、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有するハロゲン化メタンと酸素を含む混合ガスを調製する。
【0022】
本発明で用いるハロゲン化メタンは、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を有するメタンである。かかるハロゲン化メタンは、おそらく酸素と高エネルギー光により分解されてハロゲン化カルボニルに変換される。
【0023】
上述した通り、本発明においてハロゲン化メタンは高エネルギー光と酸素により分解され、ハロゲン化カルボニルと同等の働きをすると考えられる。ハロゲン化メタンとしては、2以上のハロゲノ基を有するポリハロゲン化メタンが好ましく、また、全ての水素原子がハロゲノ基に置換されているペルハロゲン化メタンが好ましい。
【0024】
具体的なハロゲン化メタンとしては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジブロモメタン、ブロモホルム、ヨードメタン、ジヨードメタン等のハロゲン化メタンを挙げることができる。
【0025】
ハロゲン化メタンは目的とする化学反応や所望の生成物に応じて適宜選択すればよく、また、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、好適には、製造目的化合物に応じて、ハロゲン化メタンは1種のみ用いる。ハロゲン化メタンの中でも、気化やコストの観点からクロロ基を有するハロゲン化メタンが好ましい。
【0026】
一般的なハロゲン化メタン製品には、アルコール等、ハロゲン化メタンの分解を阻害する安定化剤が含まれている。本発明ではハロゲン化メタンを酸化的光分解するため、安定化剤が除去されたハロゲン化メタンを使用してもよい。安定化剤が除去されたハロゲン化メタンを使用することにより、エネルギーが比較的低い高エネルギー光が使用できたり、高エネルギー光の照射時間を低減できる等、ハロゲン化メタンをより効率的に分解できる可能性がある。ハロゲン化メタンから安定化剤を除去する方法は特に制限されないが、例えば、ハロゲン化メタンを水で洗浄して水溶性の安定化剤を除去した後、乾燥すればよい。
【0027】
本発明方法で用いるハロゲン化メタンとしては、汎用溶媒としても用いられる安価なクロロホルムを使用できる。例えば溶媒としていったん使用したハロゲン化メタンを回収し、再利用してもよい。その際、多量の不純物や水が含まれていると反応が阻害されるおそれがあり得るので、ある程度は精製することが好ましい。例えば、水洗により水や水溶性不純物を除去した後、無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムなどで脱水することが好ましい。但し、1質量%程度の水が含まれていても反応は進行すると考えられるので、生産性を低下させるような過剰な精製は必要ない。かかる水含量としては、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下がよりさらに好ましい。水含量としては、検出限界以下または0質量%が好ましい。また、上記再利用ハロゲン化メタンには、ハロゲン化メタンの分解物などが含まれていてもよい。
【0028】
特にハロゲン化メタンが常温常圧で液体でない場合や気化し難い場合などには、ハロゲン化メタンに溶媒を併用してもよい。また、溶媒がハロゲン化メタンの分解を促進する可能性もある。更に、ハロゲン化メタンの酸化的光分解により生じたハロゲン化カルボニルの分解を溶媒が抑制する可能性もある。溶媒としては、ハロゲン化メタンを適度に溶解でき、且つハロゲン化メタンの分解を阻害しないものが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリルなどの芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトニトリルなどのニトリル系溶媒を挙げることができる。
【0029】
酸素源としては、酸素を含む気体であればよく、例えば、空気や、精製された酸素を用いることができる。精製された酸素は、窒素やアルゴン等の不活性ガスと混合して使用してもよい。コストや容易さの点からは空気を用いることもできる。高エネルギー光照射によるハロゲン化メタンの分解効率を高める観点からは、酸素源として用いられる酸素含有ガス中の酸素含有率は約15体積%以上、100体積%以下であることが好ましい。また、不可避的不純物以外、実質的に酸素のみを用いることも好ましい。酸素含有率は上記ハロゲン化メタンなどの種類によって適宜決定すればよい。例えば、上記ハロゲン化メタンとしてジクロロメタン、クロロホルム等のクロロメタンを用いる場合は、酸素含有率は15体積%以上、100体積%以下であるのが好ましく、ジブロモメタンやブロモホルム等のブロモメタンを用いる場合は、酸素含有率は90体積%以上、100体積%以下であるのが好ましい。なお、酸素(酸素含有率100体積%)を用いる場合であっても、反応系内への酸素流量の調節により酸素含有率を上記範囲内に制御することができる。
【0030】
酸素源として乾燥空気を用いてもよいが、水蒸気を含む空気であっても反応を過剰に阻害することはないため、水蒸気含量を調節しない空気を用いてもよい。なお、空気における酸素濃度は約21体積%であり、酸素源に対する酸素濃度も20±5体積%に調整することができる。当該割合としては、20±2体積%が好ましい。酸素源として空気を用いる場合には、酸素以外の空気成分が過剰な高エネルギー光を吸収したり、生成したハロゲン化カルボニルを希釈することにより、生成したハロゲン化カルボニルの分解を抑制できる可能性がある。
【0031】
本工程では、ガス状のハロゲン化メタンと酸素を含む混合ガスを調製する。混合ガスの調製条件は特に制限されないが、例えば図1,2,4~6に示す通り、シリンジポンプ1で所定流量のハロゲン化メタンをヒーター3に送達し、沸点以上に加熱して気化させ、マスフローコントローラー2で所定流量を調整した酸素含有ガスと気化したハロゲン化メタンを混合して、混合ガスを得ることができる。
【0032】
或いは、図3に示す通り、光源11とバス13を備えた光反応容器12のバス温度を事前にハロゲン化メタンの沸点以上に設定した後、光反応容器12にハロゲン化メタンを導入して気化する。ハロゲン化メタンの気化を促進するために、導入したハロゲン化メタンを撹拌子14で撹拌してもよい。ハロゲン化メタンの気化と共に、光反応容器12の気相へ所定流量の酸素含有ガスを導入して、光反応容器12内でハロゲン化メタンと酸素を含む混合ガスを調製することができる。
【0033】
前記混合ガスにおける気化ハロゲン化メタンと酸素との割合は、ハロゲン化カルボニルが良好に製造される範囲で適宜調整すればよい。例えば、混合ガス中におけるハロゲン化メタンの流量に対する、酸素含有ガスに含まれる酸素の流量の比を、0.1以上、10以下とすることができる。当該比が0.1以上であれば、ハロゲン化メタンを十分に酸化的光分解でき得る。一方、当該比が10以下であれば、生成したハロゲン化カルボニルの更なる酸化的光分解を十分に抑制でき得る。当該比としては、0.2以上が好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上がより更に好ましく、また、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。特に、当該比が0.5以上であれば、副生成物の発生や、副生成物による反応システムのトラブルをより効果的に抑制できる可能性がある。
【0034】
例えば図3に示す反応システムにおいて、気化したハロゲン化メタンを含む気相へ酸素含有ガスを導入する場合には、ハロゲン化メタンを十分に酸化的光分解できる量の酸素を用いることが好ましい。例えば、1モルのハロゲン化メタンに対する1分あたりの酸素の流量を0.1L以上、100L以下とすることができる。当該割合としては、1L以上が好ましく、5L以上がより好ましく、10L以上がより更に好ましい。
【0035】
2.酸化的光分解工程
本工程では、ハロゲン化メタンと酸素を含む混合ガスを流動させつつ、気相で流動混合ガスに高エネルギー光を照射することにより、ハロゲン化メタンを酸化的光分解してハロゲン化カルボニルを得る工程である。
【0036】
流動混合ガスに照射する高エネルギー光としては、短波長光を含む光が好ましく、紫外線を含む光がより好ましく、より詳細には180nm以上、500nm以下の波長の光を含む光、およびピーク波長が180nm以上、500nm以下に含まれる光が好ましい。なお、高エネルギー光の波長は適宜決定すればよいが、400nm以下がより好ましく、300nm以下がよりさらに好ましく、ピーク波長がこれら範囲に含まれる光も好ましい。照射光に前記波長範囲の光が含まれている場合には、ハロゲン化メタンを効率良く酸化的光分解できる。例えば、波長280nm以上、315nm以下のUV-Bおよび/または波長180nm以上、280nm以下のUV-Cを含む光を用いることができ、波長180nm以上、280nm以下のUV-Cを含む光を用いることが好ましく、ピーク波長がこれら範囲に含まれる光も好ましい。
【0037】
本発明では気体状態のハロゲン化メタンを酸化的光分解に付すため、比較的低エネルギーの高エネルギー光でもハロゲン化メタンを酸化的光分解できる可能性がある。特に、安定化剤を含まないハロゲン化メタンを用いる場合には、比較的低エネルギーの高エネルギー光でもハロゲン化メタンを酸化的光分解できる可能性がある。比較的低エネルギーの高エネルギー光としては、ピーク波長が可視光波長域に含まれる光が挙げられる。かかる可視光波長域としては、350nm以上、830nm以下が挙げられ、360nm以上が好ましく、380nm以上がより好ましく、400nm以上がより更に好ましく、また、800nm以下が好ましく、780nm以下がより好ましく、500nm以上がより更に好ましい。
【0038】
光照射の手段は、前記波長の光を照射できるものである限り特に限定されないが、このような波長範囲の光を波長域に含む光源としては、例えば、太陽光、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等が挙げられる。反応効率やコストの点から、低圧水銀ランプが好ましく用いられる。
【0039】
照射光の強度などの条件は、ハロゲン化メタンなどに応じて適宜設定すればよいが、例えば、光源から流動混合ガスまでの最短距離位置における所望の光の強度としては、実施規模や照射光の波長などにもよるが、1mW/cm2以上、200mW/cm2以下が好ましい。例えば、照射光の波長が比較的短い場合には、当該光強度としては、100mW/cm2以下または50mW/cm2以下がより好ましく、20mW/cm2以下または10mW/cm2以下がより更に好ましい。照射光の波長が比較的長い場合には、当該光強度としては、10mW/cm2以上または20mW/cm2以上がより好ましく、50mW/cm2以上または100mW/cm2以上であってもよい。また、光源と流動混合ガスとの最短距離としては、1m以下が好ましく、50cm以下がより好ましく、10cm以下または5cm以下がより更に好ましい。当該最短距離の下限は特に制限されないが、0cm、即ち、光源を流動混合ガス中に存在せしめてもよい。
【0040】
流動混合ガスに高エネルギー光を照射する態様は特に制限されないが、例えば図1,2,4に示すように、光源の周りに1以上の反応管を配したり、両端部にガス入口とガス出口を有し且つ内部に光源が挿入されたフロー光反応装置4を構築し、フロー光反応装置4の中に混合ガスを流通させればよい。フロー光反応装置4中の混合ガスへ高エネルギー光を効率的に照射するために、光源の周りに反応管をコイル状に巻き付けてもよい。また、ハロゲン化メタンの気体状態を維持するために、フロー光反応装置4に加熱手段を設けてもよい。当該加熱手段としては、フロー光反応装置4の一部または全部を浸漬可能な温浴や、フロー光反応装置4の外部の一部または全部を加熱可能なヒーターが挙げられる。或いは、図3に示すように、光源11を内部に有する光反応容器12を構築し、光反応容器12内でハロゲン化メタンを気化させ、更に光反応容器12内へ酸素含有ガスを導入しつつ光源11から高エネルギーを照射すればよい。また、図5,6に示すように、気化したハロゲン化メタンと酸素含有ガスを光反応容器12内へ供給してもよい。
【0041】
気化したハロゲン化メタンは、酸素と高エネルギー光により酸化的にハロゲン化カルボニルへ光分解されると考えられる。しかし、ハロゲン化カルボニルは、高エネルギー光により分解されることも知られている。よって、生成したハロゲン化カルボニルが過剰に分解しないよう、高エネルギー光の照射条件を調整することが重要である。
【0042】
例えば、前記流動混合ガスに前記高エネルギー光を照射する時間としては、照射光の波長や反応温度にもよるが、1秒以上、2000秒以下が好ましい。高エネルギー光を照射する時間とは、流動混合ガスに高エネルギー光を連続照射するための光反応容器における流動混合ガスの滞留時間ということもできる。当該時間が1秒以上であれば、気化したハロゲン化メタンをより確実に酸化的光分解でき得、2000秒以下であれば、生成したハロゲン化カルボニルの過剰な分解をより確実に抑制することができ得る。当該時間としては、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、20秒以上または30秒以上がより更に好ましく、また、1500秒以下、1000秒以下、500秒以下または300秒以下が好ましく、100秒以下がより好ましく、60秒以下または50秒以下がより更に好ましい。また、安定化剤を含まないハロゲン化メタンを使う場合には、比較的長波長の光を用いることにより、生成したハロゲン化カルボニルの分解をより一層抑制することが可能になる。この場合、光照射時間を1秒以上、10000秒以下の範囲で調整してもよい。当該光照射時間としては、製造効率の観点から、5000秒以下が好ましく、1000秒以下がより好ましい。
【0043】
高エネルギー光の照射時間が長いほどハロゲン化メタンの分解効率は高いが、生成したハロゲン化カルボニルが更に酸化的光分解する可能性がある。しかし、混合ガス中の酸素濃度を低く調整することにより、ハロゲン化カルボニルの酸化的光分解を抑制しつつ、ハロゲン化メタンを酸化的光分解できる可能性がある。例えば、混合ガスにおける酸素濃度を15±5体積%、好ましくは15±2体積%に調整する場合、混合ガスに対する光照射時間を50秒以上、100秒以上、150秒以上、200秒以上、500秒以上または1000秒以上に調整することも可能である。
【0044】
流動混合ガスに高エネルギー光を照射するための光反応容器における流動混合ガスの流速は、光反応容器の内部体積も考慮して決定することが好ましい。例えば、光反応容器の内部体積が大きい場合には、混合ガスの滞留時間が長くなる傾向があるので流速を速くし、逆に該内部体積が小さい場合には、混合ガスの流速を遅く調整することが好ましい。具体的には、光反応容器の内部体積(L)/流動混合ガスの流速(L/秒)が、光反応容器中の流動混合ガスの滞留時間(秒)に相当することから、所望の滞留時間と光反応容器の内部体積から、流動混合ガスの流速を決定することができる。なお、図3に示す態様において、流動混合ガスの流速は、酸素含有ガスの流速と同一であるとみなすことができる。
【0045】
また、光反応容器内における流動混合ガスの線速度としては、0.001m/分以上、100m/分以下程度に調整することができる。当該線速度が0.001m/分以上であれば、気相反応によりハロゲン化メタンから生成したハロゲン化カルボニルの光分解をより確実に抑制することができ、100m/分以下であれば、ハロゲン化メタンからハロゲン化カルボニルへの変換に対する十分な時間をより確実に得ることができる。当該線速度とは、光反応容器内を通過する流動混合ガスの速度を、光反応容器内の断面積で除することで計算することができる。光反応容器内の断面積が一定でない場合には、当該断面積は、流動混合ガスの移動方向における光反応容器の断面積の平均値とみなせばよい。当該平均値は、光反応容器内の体積を、光反応容器内における流動混合ガスの移動方向の長さで除することで求めることができる。当該線速度としては、0.01m/分以上が好ましく、また、50m/分以下または20m/分以下が好ましく、10m/分以下または5m/分以下がより好ましく、1m/分以下または0.5m/分以下がより更に好ましい。
【0046】
気化したハロゲン化メタンに高エネルギー光を照射する際の温度は、ハロゲン化メタンの気化を維持することができ且つ生成したハロゲン化カルボニルの過剰な分解を抑制できる範囲で適宜調整すればよい。例えば、常圧下におけるジクロロメタンの沸点は40℃、クロロホルムの沸点は61.2℃であるが、酸素や空気などとの混合により、沸点より低い温度でもハロゲン化メタンの気体状態を維持することができる。当該温度は、例えば、35℃以上、250℃以下とすることができる。当該温度としては、40℃以上または50℃以上が好ましく、70℃以上または80℃以上がより好ましく、85℃以上がより更に好ましく、また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下がより更に好ましい。当該温度は、反応容器へ導入される気化ハロゲン化メタンおよび/または酸素含有ガスの温度により調整すればよい。また、反応容器中での混合ガスの温度を維持するために、反応容器を熱媒で加熱してもよい。
【0047】
ハロゲン化メタンに高エネルギー光を照射する際、ハロゲン化メタンと酸素を含む混合ガスは加圧しなくてもよいが、少なくとも混合ガスが反応容器を通過できる程度に加圧してもよい。また、混合ガスの加圧により生産性が向上することもある。反応容器内における混合ガスのゲージ圧は、0MPaG以上、2MPaG以下に調整することができ、1MPaG以下が好ましく、0.5MPaG以下がより好ましい。
【0048】
本工程により、ハロゲン化メタンが酸化的光分解されてハロゲン化カルボニル[X-C(=O)-X(Xは、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群から選択される1種以上のハロゲノ基を示す。)]が生成すると考えられる。また、ハロゲン化カルボニルのみならず、ハロゲン化カルボニルと同様の働きをするハロゲン化カルボニル様化合物が生成することも考えられる。本発明に係るハロゲン化カルボニルには、かかるハロゲン化カルボニル様化合物も含まれるものとする。以下、ハロゲン化カルボニルを使った反応の代表例につき説明する。
【0049】
3.後反応工程 - カーボネート化合物の製造
ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物を反応させることにより、カーボネート化合物を製造することができる。
【0050】
反応の態様は特に制限されず、例えば、図1に示すように、反応容器6中、アルコール化合物を含む組成物へ、生成したハロゲン化カルボニルを含むガスを吹き込めばよい。また、図2図4に示すように、温度調節可能なコイル反応装置9へアルコール化合物を導入し、コイル反応装置中でハロゲン化カルボニルとアルコール化合物とを反応させてもよい。この際、コイル反応装置の温度を調節し、アルコール化合物を気化させ、ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物とを気相で反応させてもよい。また、図3,5,6に示すように、光反応容器12で生成したハロゲン化カルボニルを、導入酸素含有ガスにより光反応容器12から追い出し、反応容器16中のアルコール化合物を含む組成物中へ吹き込んでもよい。図3に示すように、光反応容器12と反応容器16との間に冷却管15を設けてもよい。冷却管の温度は、生成したハロゲン化カルボニルが通過できるよう調整することが好ましい。例えば、ハロゲン化カルボニルの内、ホスゲンの沸点は8.2℃であるため、ホスゲンが生成する場合には、冷却管15の温度は10℃以上に設定することが好ましい。
【0051】
アルコール化合物とは、水酸基を有する有機化合物であり、例えば、下記式(I)で表される一価アルコール化合物、又は下記式(II)で表される二価アルコール化合物が挙げられる。以下、式xで表される化合物を「化合物x」と略記する場合がある。例えば、「式(I)で表される一価アルコール化合物」を「一価アルコール化合物(I)」と略記する場合がある。
1-OH ・・・ (I)
HO-R2-OH ・・・ (II)
[式中、R1は一価有機基を示し、R2は二価有機基を示す。]
【0052】
有機基は、本工程における反応に不活性なものであれば特に制限されないが、例えば、置換基を有していてもよいC1-10脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、2以上、5以下の、置換基を有していてもよいC1-10脂肪族炭化水素基および置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基が結合した有機基、並びに、2以上、5以下の、置換基を有していてもよいC1-10脂肪族炭化水素基および置換基を有していてもよいヘテロアリール基が結合した有機基を挙げることができる。
【0053】
1-10脂肪族炭化水素基としては、例えば、C1-10鎖状脂肪族炭化水素基、C3-10環状脂肪族炭化水素基、および2以上、5以下のC1-10鎖状脂肪族炭化水素基およびC3-10環状脂肪族炭化水素基が結合した有機基を挙げることができる。
【0054】
「C1-10鎖状脂肪族炭化水素基」は、炭素数1以上、10以下の直鎖状または分枝鎖状の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば一価C1-10鎖状脂肪族炭化水素基としては、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、およびC2-10アルキニル基を挙げることができる。
【0055】
1-10アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、2,2-ジメチルエチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、4-メチル-2-ペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル等が挙げられる。好ましくはC2-8アルキル基であり、より好ましくはC4-6アルキル基である。
【0056】
2-10アルケニル基としては、例えば、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(アリル)、ブテニル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル等が挙げられる。好ましくはC2-8アルケニル基であり、より好ましくはC4-6アルケニル基である。
【0057】
2-10アルキニル基としては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ヘキシニル、オクチニル、ペンタデシニル等が挙げられる。好ましくはC2-8アルキニル基であり、より好ましくはC2-6アルキニル基である。
【0058】
「C3-10環状脂肪族炭化水素基」は、炭素数1以上、10以下の環状の飽和または不飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば一価C3-10環状脂肪族炭化水素基としては、C3-10シクロアルキル基、C4-10シクロアルケニル基、およびC4-10シクロアルキニル基を挙げることができる。
【0059】
2以上、5以下のC1-10鎖状脂肪族炭化水素基およびC3-10環状脂肪族炭化水素基が結合した有機基としては、例えば、C3-10一価環状脂肪族炭化水素基-C1-10二価鎖状脂肪族炭化水素基や、C1-10一価鎖状脂肪族炭化水素基-C3-10二価環状脂肪族炭化水素基-C1-10二価鎖状脂肪族炭化水素基が挙げられる。
【0060】
「C6-12芳香族炭化水素基」とは、炭素数が6以上、12以下の芳香族炭化水素基をいう。例えば、一価C6-12芳香族炭化水素基は、フェニル、インデニル、ナフチル、ビフェニル等であり、好ましくはフェニルである。
【0061】
「ヘテロアリール基」とは、窒素原子、酸素原子または硫黄原子などのヘテロ原子を少なくとも1個有する5員環芳香族ヘテロシクリル基、6員環芳香族ヘテロシクリル基または縮合環芳香族ヘテロシクリル基をいう。例えば、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チエニル、フリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾール等の一価5員環ヘテロアリール基;ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル等の一価6員環ヘテロアリール基;インドリル、イソインドリル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル等の一価縮合環芳香族ヘテロシクリル基を挙げることができる。
【0062】
「2以上、5以下の、C1-10脂肪族炭化水素基およびC6-12芳香族炭化水素基が結合した有機基」としては、例えば、C6-12芳香族炭化水素基-C1-10鎖状脂肪族炭化水素基、C1-10鎖状脂肪族炭化水素基-C6-12芳香族炭化水素基、C1-10鎖状脂肪族炭化水素基-C6-12芳香族炭化水素基-C1-10鎖状脂肪族炭化水素基、及びC6-12芳香族炭化水素基-C1-10鎖状脂肪族炭化水素基-C6-12芳香族炭化水素基が挙げられ、「2以上、5以下の、C1-10脂肪族炭化水素基およびヘテロアリール基が結合した有機基」としては、例えば、ヘテロアリール基-C1-10鎖状脂肪族炭化水素基、C1-10鎖状脂肪族炭化水素基-ヘテロアリール基、C1-10鎖状脂肪族炭化水素基-ヘテロアリール基-C1-10鎖状脂肪族炭化水素基、及びヘテロアリール基-C1-10鎖状脂肪族炭化水素基-ヘテロアリール基が挙げられる。
【0063】
1-10脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲノ基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を挙げることができ、ハロゲノ基が好ましい。C6-12芳香族炭化水素基およびヘテロアリール基が有していてもよい置換基としては、例えば、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲノ基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を挙げることができ、ハロゲノ基が好ましい。「ハロゲノ基」としては、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードが挙げられ、フルオロが好ましい。
【0064】
また、アルコール化合物は、置換基としてフルオロ基を必須的に有するフッ素化アルコール化合物と、フルオロ基に置換されていない非フッ素化アルコールに分けることもできる。非フッ素化アルコールが置換基として有していてもよいハロゲノ基は、クロロ、ブロモ、及びヨードから選択される1以上のハロゲノ基である。なお、置換基としてフルオロ基を有する基「Rx」は、「RF x」と表記してもよい。
【0065】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはメチルである。
【0066】
「C1-6アルコキシ基」とは、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の飽和脂肪族炭化水素オキシ基をいう。例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、n-ペントキシ、n-ヘキソキシ等であり、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-2アルコキシ基であり、より更に好ましくはメトキシである。
【0067】
一価アルコール化合物(I)は、フッ素化アルコール化合物であってもよい。一価フッ素化アルコール化合物(I)としては、例えば、ジフルオロエタノール、トリフルオロエタノール等のフッ素化エタノール;モノフルオロプロパノール、ジフルオロプロパノール、トリフルオロプロパノール、テトラフルオロプロパノール、ペンタフルオロプロパノール、ヘキサフルオロプロパノール等のフッ素化プロパノールが挙げられる。
【0068】
二価有機基としては、一価有機基の例示に相当する二価有機基が挙げられる。例えば、一価有機基であるC1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、およびC2-10アルキニル基に相当する二価有機基は、C1-10アルカンジイル、C2-10アルケンジイル基、およびC2-10アルキンジイル基である。
【0069】
また、二価有機基は、二価(ポリ)アルキレングリコール基-[-O-R2-]n-[式中、R2はC1-8アルカンジイル基を表し、nは1以上、50以下の整数を表す。]であってもよい。
【0070】
更に、二価アルコール化合物(II)としては、例えば、以下の二価アルコール化合物(II-1)が挙げられる。
【0071】
【化4】
【0072】
[式中、
11とR12は、独立して、H、C1-6アルキル基、C1-6フルオロアルキル基、もしくはC6-12芳香族炭化水素基を示すか、または一緒になってC1-6アルキルで置換されてもよいC3-6シクロアルキルを形成し、
13とR14は、独立して、H、C1-6アルキル基、またはC6-12芳香族炭化水素基を示し、p1またはp2が2以上の整数である場合、複数のR13またはR14は互いに同一であっても異なっていてもよく、
p1とp2は、独立して、0以上、4以下の整数を表す。]
【0073】
二価非フッ素化アルコール化合物(II-1)として具体的には、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパンを挙げることができ、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましい。
【0074】
二価アルコール化合物(II)は、フッ素化アルコール化合物であってもよい。二価フッ素化アルコール化合物(II)としては、例えば、フッ素化エチレングリコール;モノフルオロプロピレングリコール、ジフルオロプロピレングリコール等のフッ素化プロピレングリコール;モノフルオロブタンジオール、ジフルオロブタンジオール、トリフルオロブタンジオール、テトラフルオロブタンジオール等のフッ素化ブタンジオール;モノフルオロペンタンジオール、ジフルオロペンタンジオール、トリフルオロペンタンジオール、テトラフルオロペンタンジオール、ペンタフルオロペンタンジオール、ヘキサフルオロペンタンジオール等のフッ素化ペンタンジオール;モノフルオロヘキサンジオール、ジフルオロヘキサンジオール、トリフルオロヘキサンジオール、テトラフルオロヘキサンジオール、ペンタフルオロヘキサンジオール、ヘキサフルオロヘキサンジオール、ヘプタフルオロヘキサンジオール、オクタフルオロヘキサンジオール等のフッ素化ヘキサンジオール;モノフルオロヘプタンジオール、ジフルオロヘプタンジオール、トリフルオロヘプタンジオール、テトラフルオロヘプタンジオール、ペンタフルオロヘプタンジオール、ヘキサフルオロヘプタンジオール、ヘプタフルオロヘプタンジオール、オクタフルオロヘプタンジオール、ノナフルオロヘプタンジオール、デカフルオロヘプタンジオール等のフッ素化ヘプタンジオール;モノフルオロオクタンジオール、ジフルオロオクタンジオール、トリフルオロオクタンジオール、テトラフルオロオクタンジオール、ペンタフルオロオクタンジオール、ヘキサフルオロオクタンジオール、ヘプタフルオロオクタンジオール、オクタフルオロオクタンジオール、ノナフルオロオクタンジオール、デカフルオロオクタンジオール、ウンデカフルオロオクタンジオール、ドデカフルオロオクタンジオール等のフッ素化オクタンジオール;モノフルオロノナンジオール、ジフルオロノナンジオール、トリフルオロノナンジオール、テトラフルオロノナンジオール、ペンタフルオロノナンジオール、ヘキサフルオロノナンジオール、ヘプタフルオロノナンジオール、オクタフルオロノナンジオール、ノナフルオロノナンジオール、デカフルオロノナンジオール、ウンデカフルオロノナンジオール、ドデカフルオロノナンジオール、トリデカフルオロノナンジオール、テトラデカフルオロノナンジオール等のフッ素化ノナンジオール;モノフルオロデカンジオール、ジフルオロデカンジオール、トリフルオロデカンジオール、テトラフルオロデカンジオール、ペンタフルオロデカンジオール、ヘキサフルオロデカンジオール、ヘプタフルオロデカンジオール、オクタフルオロデカンジオール、ノナフルオロデカンジオール、デカフルオロデカンジオール、ウンデカフルオロデカンジオール、ドデカフルオロデカンジオール、トリデカフルオロデカンジオール、テトラデカフルオロデカンジオール、ペンタデカフルオロデカンジオール、ヘキサデカフルオロデカンジオール等のフッ素化デカンジオール;フッ素化ジエチレングリコール、フッ素化トリエチレングリコール、フッ素化テトラエチレングリコール、フッ素化ペンタエチレングリコール、フッ素化ヘキサエチレングリコール等のフッ素化ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0075】
アルコール化合物の使用量は、反応が良好に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、生成するハロゲン化カルボニルに対してモル比が1以上の二価アルコール化合物を用い、当該モル比が2以上の一価アルコール化合物を用いることができる。過剰のアルコール化合物を用いることにより、より効率的にカーボネート化合物を得ることができる。但し、使用したハロゲン化メタンに対するハロゲン化カルボニルの収率が一定でないことから、ハロゲン化メタンに対する二価アルコール化合物のモル比を1以上、ハロゲン化メタンに対する一価アルコール化合物のモル比を2以上とすることが好ましい。二価アルコールの前記モル比としては、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましく、また、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。一価アルコールの前記モル比としては、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、また、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0076】
ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物との反応を促進するために、塩基を用いてもよい。塩基は、無機塩基と有機塩基に分類される。無機塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等、アルカリ金属の炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等、第2族金属の炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等、アルカリ金属の炭酸水素塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等、第2族金属の水酸化物;フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等、アルカリ金属のフッ化物塩が挙げられ、吸湿性や潮解性が比較的低い、アルカリ金属または第2族金属の炭酸塩または炭酸水素塩が好ましく、アルカリ金属の炭酸塩がより好ましい。有機塩基としては、テトラハロエチレンの光反応による生成物との低反応性の観点から、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のトリ(C1-4アルキル)アミン;ナトリウム tert-ブトキシド、カリウム tert-ブトキシド等、アルカリ金属のtert-ブトキシド;ジアザビシクロウンデセン、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムテトラメチルピペリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(DBN)、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)、およびN-メチルモルホリン等、非求核性の有機塩基を用いることができ、ピリジンやルチジン等の低求核性の有機塩基を用いることもできる。
【0077】
ハロゲン化メタンの酸化的光分解反応やハロゲン化カルボニルとアルコール化合物との反応の際には、塩化水素などのハロゲン化水素が副生する。塩基は、かかるハロゲン化水素の捕捉に有効であるが、図2図4に示すようなコイル反応装置など、口径の小さい反応管を用いる場合、ハロゲン化水素と塩基との塩が析出し、目詰まりを引き起こすことがある。このような場合、ハロゲン化水素と塩基との塩がイオン液体となる塩基を用いることが好ましい。かかる塩基としては、例えば、1-メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体などの有機塩基などが挙げられる。また、ピリジン等、その塩酸塩の融点が比較的低い塩基も用いることができる。
【0078】
塩基の使用量は、反応が良好に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、ハロゲン化メタン1molに対して、1mol以上、10mol以下とすることができる。
【0079】
塩基は、例えば、アルコール化合物に添加しておいてもよいし、アルコール化合物と共に連続注入してもよい。
【0080】
ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物とを反応させる場合には、溶媒を用いてもよい。溶媒は、例えば、アルコール化合物を含む組成物へ添加すればよい。溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリルなどの芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトニトリルなどのニトリル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素溶媒を挙げることができる。
【0081】
ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物とを反応させるための温度は特に限定されず、適宜調整すればよいが、例えば、0℃以上、250℃以下とすることができる。当該温度としては、10℃以上がより好ましく、20℃以上がより更に好ましく、また、200℃以下または150℃以下がより好ましく、100℃以下または80℃以下がより更に好ましい。但し、塩基を用いない場合や、塩基を用い且つ反応をより促進したい場合には、当該温度を50℃以上や100℃以上など、比較的高く調整してもよい。
【0082】
ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物とを反応させるための時間は特に限定はされず、適宜調整すればよいが、例えば、0.5時間以上、50時間以下が好ましい。当該反応時間としては、1時間以上がより好ましく、5時間以上がより更に好ましく、また、30時間以下がより好ましく、20時間以下がより更に好ましい。また、ハロゲン化カルボニルの生成が完了した後も、例えばアルコール化合物の消費が確認されるまで反応液の撹拌を継続してもよい。
【0083】
ハロゲン化カルボニルとアルコール化合物との反応により、一価アルコール化合物(I)を用いる場合には、下記式(III)で表される鎖状カーボネート化合物が生成し、二価アルコール化合物(II)を用いる場合には、下記式(IV-1)で表される単位を含むポリカーボネート化合物、または下記式(IV-2)で表される環状カーボネート化合物が生成する。二価アルコール化合物(II)を用いる場合、ポリカーボネート化合物(IV-1)が生成するか或いは環状カーボネート化合物(IV-2)が生成するか、またそれらの生成割合は、主に二価アルコール化合物(II)における2つの水酸基間の距離や化学構造のフレキシビリティに依存する。具体的には、予備実験などにより確認すればよい。
1-O-C(=O)-O-R1 (III)
[-A-R2-A-C(=O)-] (IV-1)
【0084】
【化5】
【0085】
4.後反応工程 - ハロゲン化ギ酸エステルの製造
上記のカーボネート化合物の製造方法において、塩基を使用せず、且つハロゲン化メタンに対するアルコール化合物のモル比を1未満とすることで、ハロゲン化ギ酸エステルが得られる。当該モル比としては、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。アルコール化合物としては、前記一価アルコール化合物(I)を用いることができる。また、フッ素化一価アルコール化合物(I)からはハロゲン化ギ酸フッ素化エステルが得られ、非フッ素化一価アルコール化合物(I)からはハロゲン化ギ酸非フッ素化エステルが得られる。
【0086】
5.後反応工程 - イソシアネート化合物の製造
ハロゲン化カルボニルと第一級アミン化合物を反応させることにより、イソシアネート化合物を製造することができる。イソシアネート化合物は、カルバメート化合物やウレタン化合物などの原料として有用である。反応の態様としては、上記のカーボネート化合物の製造方法において、下記の点以外、アルコール化合物の代わりに第一級アミン化合物を用いればよい。
【0087】
第一級アミン化合物は、1以上のアミノ基(-NH2基)を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、第一級アミン化合物(V):R3-(NH2mを用いることができる。式中、R3は、m価の有機基を示し、mは1以上、6以下の整数を示し、5以下、4以下または3以下が好ましく、1または2がより好ましく、2がより更に好ましい。
【0088】
有機基R3のうち、一価有機基としては上記カーボネート化合物の製造方法における一価有機基R1と同様の基を挙げることができ、二価有機基としては二価有機基R2と同様の基を挙げることができる。また、三価以上の有機基としては、一価有機基R1の例示に相当する三価以上の有機基が挙げられる。例えば、一価有機基であるC1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、およびC2-10アルキニル基に相当する三価有機基は、C1-10アルカントリイル、C2-10アルケントリイル基、およびC2-10アルキントリイル基である。
【0089】
ハロゲン化カルボニルと第一級アミン化合物(V)との反応により、イソシアネート化合物(VI):R3-(N=C=O)mが得られる。但し、生成したR3-(N=C=O)mと第一級アミン化合物(V)とが反応してウレア化合物R3-[NH-C(=O)-NH-R3mが生成する可能性がある。かかる反応を抑制するためには、ハロゲン化メタンに対する第一級アミン化合物(V)のモル比を1以下に調整したり、第一級アミン化合物(V)として塩を用いたり、塩基を用いないことが好ましい。また、生成したハロゲン化カルボニルを溶媒に溶解してハロゲン化カルボニル溶液を調製し、当該溶液へ第一級アミン化合物(V)またはその溶液を添加して第一級アミン化合物(V)に対するハロゲン化カルボニルのモル比を1超に保つことにより、イソシアネート化合物を効率的に製造することができる。
【0090】
目的化合物がイソシアネート化合物である場合には、生成するハロゲン化カルボニルに対する第一級アミン化合物(V)のモル比を1以下にすることが好ましいが、ハロゲン化カルボニルの正確な生成量を予測することは難しいことがあるため、使用するハロゲン化メタンに対する第一級アミン化合物(V)のモル比を1未満にすることが好ましい。当該モル比としては、0.5以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、また、0.001以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。一方、目的化合物がウレア化合物である場合には、当該比としては2以上が好ましく、4以上がより好ましく、また、20以下が好ましく、15以下がより好ましい。
【0091】
目的化合物がイソシアネート化合物である場合には、イソシアネート化合物はアミン塩とは反応しがたいため、第一級アミン化合物(V)として塩を用いることが好ましい。かかる塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩などの有機酸塩が挙げられる。
【0092】
ハロゲン化カルボニルと第一級アミン化合物との反応のための温度は、例えばハロゲン化カルボニルの液体状態を維持するために、アルコール化合物との反応温度よりも低く設定することが好ましい。例えば、当該反応温度を15℃以下とすることができ、10℃以下が好ましく、5℃以下がより好ましく、2℃以下がより更に好ましい。当該温度の下限は特に制限されないが、例えば、当該温度としては-80℃以上が好ましく、-20℃以上または-15℃以上がより好ましい。
【0093】
目的化合物がイソシアネート化合物であり、且つ塩基を用いる場合には、塩基としては、複素環式芳香族アミンおよび非求核性強塩基から選択される1種以上の塩基が好ましい。複素環式芳香族アミンは、少なくとも一つの複素環を含み且つ-NH2以外のアミン官能基を少なくとも一つ有している化合物をいう。複素環式芳香族アミンとしては、例えば、ピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン、γ-ピコリン、2,3-ルチジン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、3,5-ルチジン、2-クロロピリジン、3-クロロピリジン、4-クロロピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、4-ジメチルアミノピリジンなどの、ピリジンおよびその誘導体などを挙げることができる。
【0094】
「非求核性強塩基」とは、立体的な障害により窒素原子上の孤立電子対の求核性が弱いが塩基性の強い塩基をいう。例えば、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリドデシルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(MTBD)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(DBN)、および1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMG)を挙げることができる。また、塩基性度が比較的高い塩基を用いてもよい。例えば、アセトニトリル中における塩基性度(pKBH+)が20以上の塩基として、TBD(pKBH+:25.98)、MTBD(pKBH+:25.44)、DBU(pKBH+:24.33)、DBN(pKBH+:23.89)、およびTMG(pKBH+:23.30)を用いることができる。
【0095】
その他、塩基としては、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、N-エチル-N-メチルブチルアミン、1-メチルピロリジン等の汎用有機アミンも用い得る。
【0096】
なお、目的化合物がウレア化合物である場合には、ハロゲン化メタンや生成したハロゲン化カルボニルに対する第一級アミン化合物のモル比を1超とすることが好ましい。当該モル比としては、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。
【0097】
6.後反応工程 - NCAの製造
カーボネート化合物の上記製造方法において、アルコール化合物の代わりにアミノ酸化合物(VII)を用いることにより、アミノ酸-N-カルボン酸無水物(VIII)(NCA)を製造することも可能である。
【0098】
【化6】
【0099】
[式中、
4は、反応性基が保護されているアミノ酸側鎖基を示し、
5は、H、またはP1-[-NH-CHR6-C(=O)-]l-(式中、R6は、反応性基が保護されているアミノ酸側鎖を示し、P1はアミノ基の保護基を示し、lは1以上の整数を示し、lが2以上の整数の場合、複数のR6は互いに同一であっても異なってもよい)を示す。]
【0100】
7.後反応工程 - ビルスマイヤー試薬の製造
ハロゲン化カルボニルとアミド化合物(IX)を反応させることにより、ビルスマイヤー試薬(X)を製造することができる。ビルスマイヤー試薬の製造は、アルコール化合物の代わりにアミド化合物(IX)を用い、且つ塩基を用いない以外、上記のカーボネート化合物の製造方法と同様に実施すればよい。
【0101】
【化7】
【0102】
[式中、
7は、水素原子、C1-6アルキル基、または置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基を示し、
8とR9は、独立して、C1-6アルキル基、または置換基を有していてもよいC6-12芳香族炭化水素基を示し、また、R8とR9は一緒になって4員以上7員以下の環構造を形成してもよく、
Xは、クロロ、ブロモおよびヨードからなる群より選択されるハロゲノ基を示し、
-はカウンターアニオンを示す。]
【0103】
6-12芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基は、本発明に係る反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、ハロゲノ基、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を挙げることができる。置換基の数は置換可能である限り特に制限されないが、例えば1以上5以下とすることができ、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1がより更に好ましい。置換基数が2以上である場合、置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0104】
8とR9が窒素原子と共に一緒になって形成される4員以上7員以下の環構造としては、例えば、ピロリジル基、ピペリジル基、モルホリノ基を挙げることができる。
【0105】
具体的なアミド化合物(IX)としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチル-N-フェニルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、テトラブチル尿素などを挙げることができ、汎用性やコストなどの観点からDMFが好ましい。
【0106】
式(X)におけるY-としては、ハロゲン化メタン由来の塩化物イオン、臭化物イオン、およびヨウ化物イオンが挙げられるが、特に制限されない。
【0107】
アミド化合物の使用量は、反応が良好に進行する範囲で適宜調整すればよいが、例えば、ハロゲン化メタン1mLに対して、0.1mol以上、100mol以下とすることができる。
【0108】
ハロゲン化カルボニルとアミド化合物とを反応させる場合には、溶媒を用いてもよい。溶媒は、例えば、アミド化合物を含む組成物へ添加すればよい。溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ベンゾニトリルなどの芳香族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトニトリルなどのニトリル系溶媒を挙げることができる。
【0109】
ハロゲン化カルボニルとアミド化合物とを反応させるための温度は特に限定はされず、適宜調整すればよいが、例えば、0℃以上、120℃以下とすることができる。当該温度としては、10℃以上がより好ましく、20℃以上がより更に好ましく、また、100℃以下がより好ましく、80℃以下または50℃以下がより更に好ましい。
【0110】
ハロゲン化カルボニルとアミド化合物とを反応させるための時間は特に限定はされず、適宜調整すればよいが、例えば、0.5時間以上、50時間以下が好ましい。当該反応時間としては、1時間以上がより好ましく、5時間以上がより更に好ましく、また、30時間以下がより好ましく、20時間以下がより更に好ましい。また、ハロゲン化カルボニルの生成が完了した後も、例えばアミド化合物の消費が確認されるまで反応液の撹拌を継続してもよい。
【0111】
ビルスマイヤー試薬を用いるビルスマイヤー・ハック反応(Vilsmeier-Haack reaction)により、活性基を有する芳香族化合物をアルデヒド化またはケトン化できる。また、ビルスマイヤー試薬は、カルボン酸化合物のカルボキシ基をハロホルミル基に変換することが知られている。更に、ビルスマイヤー試薬に水酸基含有化合物を反応させることにより、ギ酸エステルが得られる。
【0112】
活性基を有する芳香族化合物(以下、「活性芳香族化合物」という)は、置換基などにより活性化された芳香族化合物である。例えば、アルキル基で置換されたアルキルアミノ基を含むアミノ基や水酸基などは、芳香族化合物を強く活性化する。また、アルキルカルボニルアミノ基(-N(C=O)R)、アルキルカルボニルオキシ基(-O(C=O)R)、エーテル基(-OR)、アルキル基(-R)(Rはアルキル基を示し、C1-6アルキル基が好ましい)、および芳香族基も、芳香族化合物を活性化する。以下、これら置換基を活性化基という。また、アントラセンなどのように、芳香族環が縮合して共役系が拡張しているような化合物も活性化されており、ビルスマイヤー試薬によるアルデヒド化やケトン化を受ける。活性化されている部位のπ電子が求電子的にビルスマイヤー試薬と反応し、アルデヒド化やケトン化されると考えられる。
【0113】
活性芳香族化合物は、活性化されておりビルスマイヤー試薬によりアルデヒド化またはケトン化される化合物であれば特に制限されないが、例えば、上記活性化基により置換されたベンゼンやナフタレンなどのC6-10芳香族炭化水素;フェナンスレンやアントラセンなど、上記活性化基により置換されていてもよい縮合芳香族炭化水素;ピロール、イミダゾール、ピラゾール、チオフェン、フラン、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール等、上記活性化基により置換されていてもよい5員環ヘテロアリール基;ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン等、上記活性化基により置換されていてもよい6員環ヘテロアリール;インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、クロメン等、上記活性化基により置換されていてもよい縮合ヘテロアリールを挙げることができる。なお、無置換のフランやチオフェンなどは、従来のビルスマイヤー・ハック反応でのアルデヒド化やケトン化の報告例は無いが、本発明方法によればヘテロ元素に隣接する炭素におけるアルデヒド化やケトン化が可能である。
【0114】
上記反応の基質化合物である活性基含有芳香族化合物、カルボン酸化合物、および水酸基含有化合物は、アミド化合物を含む組成物にハロゲン化カルボニル含有ガスを吹き込んだ後の反応液へ添加してもよいし、アミド化合物を含む組成物へハロゲン化カルボニル含有ガスを吹き込む前または吹き込んでいる途中に反応液へ添加してもよい。
【0115】
活性基含有芳香族化合物、カルボン酸化合物、および水酸基含有化合物の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、アミド化合物に対して0.1倍モル以上1.0倍モル以下とすることができる。
【0116】
また、ビルスマイヤー試薬は、カルボン酸化合物からカルボン酸ハロゲン化物を得るにも有用である。カルボン酸化合物をハロゲン化したビルスマイヤー試薬は、アミド化合物に戻る。得られたカルボン酸ハロゲン化物にアルコール化合物を反応させればエステル化合物が得られ、カルボン酸を反応させればカルボン酸無水物が得られる。なお、アミド化合物の代わりにカルボン酸化合物と塩基を用いれば、塩基によりアニオン化されたカルボン酸化合物がハロゲン化カルボニルによりカルボン酸ハロゲン化物に直接変換されると考えられる。かかるカルボン酸ハロゲン化物も、エステル化合物やカルボン酸無水物の製造に用いることができる。
【0117】
8.後処理工程
多くのハロゲン化カルボニルは有害なものであるため、生成したハロゲン化カルボニルを系外へ漏出させないことが好ましい。例えば図1~6に示すように、生成したハロゲン化カルボニルを反応させる反応容器から排出される気相をアルコールトラップへ導入し、アルコールトラップから排出される気相を更にアルカリトラップへ導入することが好ましい。アルコールトラップは、使用するアルコールが凝固しない範囲で、例えば-80℃以上、50℃以下程度に冷却してもよい。また、アルカリトラップには、例えば水酸化ナトリウム水溶液や飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0118】
ハロゲン化カルボニルから得られる化合物が、イソシアネート化合物など比較的不安定である場合には、ハロゲン化カルボニルを反応させた反応液へ更なる反応基質化合物を添加してもよい。或いは、ハロゲン化カルボニルから得られる化合物が、カーボネート化合物など比較的安定である場合には、目的化合物を反応液から精製してもよい。例えば、反応液にクロロホルム等の水不溶性有機溶媒と水を加えて分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウム等で乾燥した後に減圧濃縮し、更にクロマトグラフィー等で精製すればよい。
【0119】
本願は、2021年2月12日に出願された日本国特許出願第2021-21001号に基づく優先権の利益を主張するものである。2021年2月12日に出願された日本国特許出願第2021-21001号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0120】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0121】
実施例1: ホスゲンの合成
【化8】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、気相光反応を行った。具体的には、直径30mm×長さ320mmの石英ガラスジャケット内に、低圧水銀ランプ(「SUV40D」SEN Light社製,40W,φ22.3×380mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を入れ、その周囲に内径2.1mm、長さ320mmの1.033mL容石英管12本を配置した円筒状フロー光反応装置4を用意した。当該円筒状フロー光反応装置4の総容量は、継ぎ手部位を含めて、13.3mLであった。また、低圧水銀ランプの中央部位から5mmの位置における波長185nmの光の照度は3.93mW/cm2、波長254nmの光の照度は11.02mW/cm2であった。
シリンジポンプ1を用いて、液体のクロロホルムを表1に示す流量でPTFEチューブ(内径:1mm)に送り込み、表1に示す温度に加熱したヒーターで気化させて、マスフローコントローラー2で流量を調整した酸素ガスと混合し、上記フロー光反応装置4に送り込んだ。フロー光反応装置内部の圧力は、フロー光反応装置出口に取り付けた背圧弁5によって調整した。当該ヒーター温度において、注入したクロロホルムは気化して酸素ガスと混合して流れ、気化クロロホルムと酸素ガスそれぞれの最大ガス流速と、当該混合ガスの線速度と滞留時間を表1のように計算することができる。
クロロホルムガスと酸素の混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを、連結した反応容器6中の十分量の1-ブタノール中に、撹拌しつつ、常温で2~6時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したトラップ容器7中の1-ブタノールでトラップし、更なる未反応のガスは連結したアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
また、空気ポンプ(「ニッソー エアーポンプ サイレント β-60」マルカン社製)を用い、乾燥剤(「乾燥用シリカゲル,中粒状(青色)」富士フィルム和光純薬社製)で乾燥した空気を酸素の代わりに用い、同様に実験を行った。
反応後、反応容器6とトラップ容器7中の反応液を1H NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカーボネートへの転換率を求め、それらの総計から生成したホスゲンの量を算出した。結果を表1にまとめる。なお、表1中のホスゲン収率は、使用したクロロホルムに対する収率である。
【0122】
【表1】
【0123】
上記結果の通り、クロロホルムをコイルヒーターで80℃に加熱して気化させ、酸素ガスと混合して気相フロー光反応を行ったところ、変換率78%でクロロホルムをホスゲンに変換することができた。
コイルヒーター温度を更に昇温して90℃にし、加えて酸素流量を増やしたところ、変換率92%(未反応5.7%)でクロロホルムをホスゲンに変換することができた。残りの約2%は、クロロホルムの光分解で副生するヘキサクロロエタンや、CO2、CO、Cl2等、ホスゲンの光分解生成物であると考えられる。
コイルヒーター温度を更に170℃に上げたところ、収率は向上した。
酸素の代わりに乾燥空気を使っても高収率でホスゲンが得られたが、酸素を使った場合に比べて収量は減少した。また、空気の注入量を増やすと、未反応のクロロホルムが若干増加した。
【0124】
実施例2: ガス流量の検討
クロロホルムと酸素のガス流速を制御し、フロー光反応装置内での滞留時間を変化させた以外は実施例1と同様にして、露光時間によるホスゲン収率の変化を確認した。結果を表2にまとめる。
【0125】
【表2】
【0126】
上記結果の通り、フロー光反応装置内での滞留時間が増加するにつれて、未反応のクロロホルムが減少し、また生成するホスゲンの量が減少する傾向を確認することができる。生成したホスゲンが分解していると考えられるが、劇的な減少ではなく、上記のホスゲン収率であれば十分に実用的であるといえることから、本システムには生成したホスゲンの光分解を妨げる要因が存在することが考えられる。例えば、酸素ガスは100~250nmに光吸収帯を持つことから、過剰な高エネルギー光が酸素により吸収され、生成したホスゲンの分解が抑制されていることが考えられる。
【0127】
実施例3: 光フローシステムによるイソシアネートの合成
【化9】
11.06g(92.7mmol)のクロロホルムを用い、コイルヒーター温度を90℃とした実施例1の条件において、1-ブタノールの代わりに、ヘキシルアミン塩酸塩(1.38g,10mmol)の1,1,2,2-テトラクロロエタン溶液(20mL)を用い、当該溶液を100℃に加熱し且つ攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。反応後、反応液に内部標準物質としてジクロロメタンを添加し、1H NMRで分析したところ、収率83%で目的化合物であるヘキシルイソシアネートが生成していることが確認された。
【0128】
実施例4: 光フローシステムによるイソシアネートの合成
【化10】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、表3の条件によりフロー光反応装置で生成したガスを、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジアミン二塩酸塩(0.34g,1.0mmol)を懸濁させたクロロホルム懸濁液(30mL)に3.5時間吹き込んだ後、0℃で撹拌した。当該反応液に、シリンジポンプで2,6-ルチジン(0.58mL,5mmol)を1時間かけて注入した後、50℃に昇温して1時間撹拌した。
反応後、反応液を1H NMRで分析したところ、原料ジアミン化合物に対して>99%収率で目的物が生成していることが確認された。
【0129】
【表3】
【0130】
実施例5: 光フローシステムによるカーボネートの合成
【化11】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、表4の条件によりフロー光反応装置で生成したガスを、反応容器6中、塩基としてピリジンまたは1-メチルイミダゾール(NMI)を含むアルコールに、常温で攪拌しつつ吹き込んだ。トラップ容器7には1-ブタノールを入れ、反応容器6から漏出したガスをトラップした。
反応後、反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、目的化合物であるカーボネートが高収率で生成していることが確認された。
一方、反応容器6で生成したカーボネートと、トラップ容器7で生成したクロロギ酸エステル及びカーボネートから求めたホスゲン収率が比較的低い場合があった。その原因としては、ピリジンによりホスゲンが分解したことが考えられる。
【0131】
【表4】
【0132】
実施例6: 光フローシステムによるポリカーボネートの合成
(1)均一系重合
【化12】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、表5に示す条件下、気化クロロホルムと酸素の混合ガスをフロー光反応装置へ送り込んで90℃で光反応させ、反応容器6中、ビスフェノールA、ピリジン(4mL,50mmol)及びクロロホルムを混合した溶液を攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。その後、更に50℃で1時間、反応溶液を撹拌した。
次いで、反応液にメタノール(150mL)を添加し、生成した沈殿を濾取し、真空乾燥させることによって、白色の目的物を得た。
【0133】
【表5】
【0134】
また、得られたポリカーボネートをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。結果を表6に示す。
【0135】
【表6】
【0136】
(2)均一系重合
【化13】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、表7に示す条件下、気化クロロホルムと酸素の混合ガスをフロー光反応装置へ送り込んで90℃で光反応させ、反応容器6中、ビスフェノールAF(BPAF)、ピリジン及びクロロホルムを混合した溶液を攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。その後、更に50℃で1時間、反応溶液を撹拌した。
次いで、反応液にメタノール(150mL)を添加し、生成した沈殿を濾取し、真空乾燥させることによって、白色の目的物を得た。
【0137】
【表7】
【0138】
また、得られたポリカーボネートをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。結果を表8に示す。
【0139】
【表8】
【0140】
(3)界面重合
図1に模式的に示す光反応システムを使って、表9に示す条件下、気化クロロホルムと酸素の混合ガスをフロー光反応装置へ送り込んで90℃で光反応させ、反応容器6中、ビスフェノールA、17wt%水酸化ナトリウム水溶液及びジクロロメタンを混合した溶液を攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。
次いで、反応液に水とジクロロメタンを加えて分液した。下層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後濾過し、濾液を減圧留去した。残渣にメタノールを加え、生成した沈殿を濾取し、真空乾燥させることによって、黄白色の目的物を得た(クロロホルムに対する収率:19%,BPAに対する収率:84%)。
【0141】
【表9】
【0142】
また、得られたポリカーボネートをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。結果を表10に示す。
【0143】
【表10】
【0144】
実施例7: 光フローシステムによるポリカーボネートの合成
【化14】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、表11に示す条件下、気化クロロホルムと酸素の混合ガスをフロー光反応装置へ送り込んで90℃で光反応させ、反応容器6中、1,6-ヘキサンジオール(9.45g,80mmol)、ピリジン(32mL,400mmol)及びジクロロメタン(40mL)を混合した溶液を攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。
次いで、反応液に10wt%塩酸を添加し、分液した。下層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後濾過し、濾液から溶媒を減圧留去し、更に50℃で2時間真空乾燥させることによって、白色の目的物固体を得た(クロロホルムに対する収率:58%,原料ジオールに対する収率:73%)。
【0145】
【表11】
【0146】
また、得られたポリカーボネートをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。結果を表12に示す。
【0147】
【表12】
【0148】
実施例8: 光フローシステムによるウレア化合物の合成
【化15】
コイルヒーター温度を90℃とした実施例1の条件において、11.46g(94.3mmol)のクロロホルムを用い、反応容器6中、1-ブタノールの代わりに、アニリン(42.3g,460mmol)とジクロロメタン(50mL)を混合した溶液に、常温で攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。
次いで、反応液に水を添加し、生じた沈殿を濾取し、洗浄した後、50℃で3時間真空乾燥させることによって、白色の目的物固体を得た(クロロホルムに対する収率:93%)。おそらくホスゲンとアニリンが反応してイソシアネート化合物が生成し、当該イソシアネート化合物が更にアニリンと反応してウレア化合物が得られたと考えられる。
本反応において、ジフェニルウレア生成に使用されたホスゲンと、アルコールトラップ(トラップ容器7)でトラップされた未反応ホスゲンを合わせると、クロロホルムからホスゲンへの変換率は98%であった。
【0149】
実施例9: 光フローシステムによるアミノ酸N-カルボン酸無水物の合成
(1)L-フェニルアラニンN-カルボン酸無水物の合成
【化16】
コイルヒーター温度を90℃とした実施例1の条件において、5.7g(47.7mmol)のクロロホルムを用い、反応容器6中、1-ブタノールの代わりに、L-フェニルアラニン(1.65g,10mmol)、クロロホルム(20mL)、及びアセトニトリル(15mL)を混合した懸濁液に、70℃で攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。
その後、未反応の出発原料を濾別して、濾液を減圧濃縮することによって目的物化合物を得た(原料L-フェニルアラニンに対する収率:61%)。
【0150】
(2)空気を用いるアミノ酸N-カルボン酸無水物の合成
【化17】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、気相光反応を行った。液体のクロロホルムを838μL/min(0.1mmol/min)の流量でPTFEチューブ(内径:1mm)に送り込み、エアポンプとマスフローコントローラーで流量を7mL/minに調整した空気と混合し、80℃でフロー光反応装置に送り込んだ。注入したクロロホルムは気化して空気と混合されて流れ、気化クロロホルムと酸素ガスそれぞれの最大ガス流速と、当該混合ガスの線速度と滞留時間を表13のように計算することができる。
クロロホルムガスと空気の混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを、連結した反応容器6中のL-アミノ酸(10mmol)を含むTHF溶液中に、撹拌しつつ、60℃で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して、有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。その後、得られたサンプル溶液を水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去して、残渣をジエチルエーテルとヘキサンで再結晶することによって、白色固体の目的物を得た。結果を表13に示す。
【0151】
【表13】
【0152】
実施例10: 光フローシステムによるカルボニルジイミダゾールの合成
【化18】
コイルヒーター温度を90℃とした実施例1の条件において、2.4mL(30mmol)のクロロホルムを用い、反応容器6中、1-ブタノールの代わりに、イミダゾール(5.11g,75mmol)のTHF溶液に、0℃で攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを吹き込んだ。
その後、反応の進行にともなって副生したイミダゾール塩酸塩沈殿物を濾別して、濾液を減圧濃縮することによって目的化合物を得た(クロロホルムに対する収率:74%)。
【0153】
実施例11: 光フローシステムによるポリカーボネートの合成
【化19】
コイルヒーター温度を90℃とした実施例1の条件において、3.14g(26.3mmol)のクロロホルムを用い、反応容器6中、1-ブタノールの代わりに、4,4’-シクロドデシリデンビスフェノール(BisP-CDE)(3.52g,10mmol)、ピリジン(4mL,50mmol)、及びクロロホルム(40mL)を混合した溶液を30℃で攪拌しつつ、フロー光反応装置で生成したガスを125分間吹き込んだ。
次いで、反応液にメタノール(150mL)を添加し、生成した沈殿を濾取し、真空乾燥することによって、白色のポリカーボネートを得た(BisP-CDEに対する収率:>99%)。
また、得られたポリカーボネートをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。結果を表14に示す。
【0154】
【表14】
【0155】
実施例12: 光フローシステムによる連続フロー合成
【化20】
図2に示す通り、図1のフロー光反応システムに加えて、更に連続反応を行うための反応基質注入用シリンジポンプ8、及び温調式コイルリアクタ9(内径1.0mm×長さ2830mm,容量:2.22mL)を接続した。
表12に示す条件下、フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、更に反応基質注入用シリンジポンプ8から1-ブタノールを0.052mL/minの流量で注入し、0~100℃に温調したコイルリアクタ9において反応させた。コイルリアクタ出口に、0℃に冷却した二口フラスコ(回収容器10)を取り付けて、生成物を回収した。未反応の分解ガスは、更に連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)でトラップし、排ガスはアルカリトラップによって外部に漏れないよう処理した。
1H NMRスペクトルによって、回収容器10とトラップ容器7で生成したクロロギ酸エステルおよびカーボネートの収率を内部標準物質(1,1,2,2-テトラクロロエタン,50mmol)と比較することによって算出し、それらの総計から生成したホスゲン生成量も見積った。結果を表15に示す。
【0156】
【表15】
【0157】
表15に示される結果の通り、脂肪族アルコールである1-ブタノールを反応基質注入用シリンジポンプ8から注入した場合、シリンジポンプ1から注入したクロロホルムに対して約90%の収率でクロロギ酸エステルとカーボネートを得ることができた。コイルリアクタでの反応では、高温により注入したアルコールが気化してホスゲンと気相反応することができるため、反応効率が高まり、その結果、コイルリアクタ出口部位でホスゲンは検出されず、実験室レベルにおいて「系出口におけるホスゲン検出ゼロ」を達成することができた。
上記結果の通り、連続フロー反応システムの開発により、コイルリアクタ部位において、高温気相反応が可能になった。
なお、室温では通常、ホスゲンと反応しない2-プロパノール(IPA)を注入したところ、相当するクロロギ酸エステルが74%の収率で得られてもいる。
【0158】
実施例13: 光フローシステムによるクロロギ酸エステルの合成
【化21】
図2に模式的に示す光フローシステムのコイルヒーター温度を90℃とし、クロロホルムガス(7.4mL/min)と酸素ガス(12.4mL/min)から合成した酸化的光分解ガスを、シリンジポンプから注入したアルコールとT型ミキサで混合し、PTFEチューブリアクターに送り込んで30℃でフロー反応を行った。生成物は、0℃に冷却した連結した二口フラスコに回収した。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応液を1H NMRで分析したところ、表16に示される収率で、相当するクロロギ酸エステルが得られた。
【0159】
【表16】
【0160】
実施例14: エチレンカーボネートの合成
【化22】
実施例12と同様の条件により、クロロホルム(合計2.37mL,29.4mmol)から発生させたホスゲンガスに、更にシリンジポンプからエチレングリコール(1.62mL,29.0mmol)を0.014mL/minの流量で2時間注入し、200℃に加熱したコイルリアクタを通して反応させた。コイルリアクタ出口に、0℃に冷却した二口フラスコ(回収容器10)を取り付けて、生成物を回収した。未反応の分解ガスは、更に連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)でトラップし、排ガスはアルカリトラップによって処理したが、アルコールトラップの段階でホスゲンは検出されなかった。
得られた反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、用いたクロロホルムおよびエチレングリコールに対して54%の収率で目的化合物であるエチレンカーボネートが生成していることが確認された。
【0161】
実施例15: NMIを用いた光フローシステムによる連続フロー合成
【化23】
図2の連続フロー反応システムのコイルリアクタ部位へ触媒として有機塩基を注入すれば、反応の進行によって生成するHClと有機塩基が反応して塩を形成し、リアクタ管の目詰まりを引き起こす可能性が考えられる。本発明者らは、HClと塩を形成しても沈殿を生成しない、即ち液体状態の塩であるイオン液体になるような有機塩基を本系で選択することを考えた。
【0162】
(1)ビス-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピル カーボネートの合成
温調式コイルリアクタを内径2.4mm×長さ2830mm,容量:12.8mLのものに変更した以外は実施例12と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8からヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)(14.8mL,188mmol)と1-メチルイミダゾール(NMI)(7.9mL,75mmol)の混合液を0.125mL/minの流量で計3時間注入し、100℃に加熱したコイルリアクタ9を通して反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した回収容器10-1と回収容器10-2で収集した。回収容器10-1の温度は、NMIとHClの塩が十分に液体状態を維持でき、且つ目的のカーボネートを回収できるように、100℃に調整した。しかし、目的カーボネートが回収容器10-1から流出する可能性もあるため、回収容器10-2の温度は0℃に調整した。回収容器10-2から排出されるガスは更に連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)で捕捉し、排ガスはアルカリトラップによって処理したが、アルコールトラップの段階でホスゲンは検出されなかった。
回収容器10-1と回収容器10-2の回収物を合わせ、二層に分離した回収物の下層を1.4mol/L塩酸(20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過し、濾液を濃縮して無色透明液体の目的化合物を得た(用いたHFIPに対する収率:61%)。
【0163】
(2)ビス-2,2,3,3-テトラフルオロプロピル カーボネートの合成
温調式コイルリアクタを内径2.4mm×長さ2830mm,容量:12.8mLのものに変更した以外は実施例12と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8から2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール(8.86mL,100mmol)とNMI(12mL,150mmol)の混合液を0.12mL/minの流量で計3時間注入し、100℃に加熱したコイルリアクタ9を通して反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した100℃に加熱した回収容器10-1と0℃に冷却した回収容器10-2で収集した。未反応の分解ガスは更に連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)で捕捉し、排ガスはアルカリトラップによって処理したが、アルコールトラップの段階でホスゲンは検出されなかった。
得られた生成物サンプル溶液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、用いたアルコールに対して70%の収率で目的化合物が生成していることが確認された。
得られたサンプル溶液から蒸留によって原料を除き、1.4mol/L HCl(20mL)で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過し、濾液を濃縮して、無色透明液体の目的物を得た(用いた2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノールに対する収率:44%)。
【0164】
(3)ビス-2,2,2-トリフルオロエチル カーボネートの合成
温調式コイルリアクタを内径2.4mm×長さ2830mm,容量:12.8mLのものに変更した以外は実施例12と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8から2,2,2-トリフルオロエタノール(10g,100mmol)とNMI(12mL,150mmol)の混合液を0.11mL/minの流量で計3時間注入し、110℃に加熱したコイルリアクタ9を通して反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した100℃に加熱した回収容器10-1と0℃に冷却した回収容器10-2で収集した。未反応の分解ガスは更に連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)でトラップし、排ガスはアルカリトラップによって処理したが、アルコールトラップの段階でホスゲンは検出されなかった。
得られた反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、用いたアルコールに対して60%の収率で目的化合物が生成していることが確認された。
得られた生成物サンプル溶液から原料化合物を蒸留により除去した。得られた残渣を3M塩酸(20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過し、濾液を濃縮して、無色透明液体の目的物を得た(収量:6.43g,用いた2,2,2-トリフルオロエタノールに対する収率:44%)。
【0165】
(4)ジフェニルカーボネートの合成
温調式コイルリアクタを内径2.4mm×長さ2830mm,容量:12.8mLのものに変更した以外は実施例12と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8からフェノール(18.8mL,200mmol)とNMI(24mL,300mmol)の混合液を0.23mL/minの流量で計3時間注入し、115℃に加熱したコイルリアクタ9を通して反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した100℃に加熱した回収容器10で収集した。未反応の分解ガスはさらに連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)でトラップし、排ガスはアルカリトラップによって処理したが、アルコールトラップの段階でホスゲンは検出されなかった。
得られた反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、用いたフェノールに対して72%の収率で目的化合物が生成していることが確認された。
得られたサンプル溶液をジクロロメタンとHCl(1.4mol/L)で分液し、下層を抽出して、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過し、濾液から溶媒を減圧留去した。ガラスチューブオーブンを用いて加熱条件で残渣を真空乾燥することによって、白色の目的物固体を得た(用いたクロロホルムに対する単離収率:56%)。
【0166】
【表17】
【0167】
上記結果の通り、コイルリアクタ中に塩基を送達しても、当該塩基が1-メチルイミダゾール等、副生する塩化水素とイオン液体を形成する塩基であれば、コイルが目詰まりすることはなく、連続的反応を良好に継続できることが明らかになった。
【0168】
実施例16: ピリジンを用いたフローシステムによる連続フロー合成
【化24】
実施例15と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8からフェノール(9.41g,100mmol)とピリジン(12mL,150mmol)の混合液を0.11mL/minの流量で計3時間注入し、160℃に加熱したコイルリアクタ9を通して反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した回収容器10-1と回収容器10-2で収集した。回収容器10-1の温度は、ピリジンとHClの塩が十分に液体状態を維持でき、且つ目的のカーボネートを回収できるように、155℃に調整した。しかし、目的カーボネートが回収容器10-1から流出する可能性もあるため、回収容器10-2の温度は-5℃に調整した。回収容器10-2から排出されるガスは更に連結したアルコールトラップ(トラップ容器7)で捕捉し、排ガスはアルカリトラップによって処理したが、アルコールトラップの段階でホスゲンは検出されなかった。
その結果、コイルリアクタにピリジン塩酸塩の析出は認められず、生成したピリジン塩酸塩は溶解または融解して流れ出たと考えられる。
得られた反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、目的化合物であるジフェニルカーボネートが生成していることが確認された(用いたフェノールに対する収率:65%,用いたクロロホルムに対する収率:72%)。
【0169】
実施例17: 溶媒を用いたフローシステムによる連続フロー合成
【化25】
図2の連続フロー反応システムのコイルリアクタ部位へ触媒として有機塩基を注入すれば、反応の進行によって生成するHClと有機塩基が反応して塩を形成し、リアクタ管の目詰まりを引き起こす可能性が考えられる。本発明者らは、HCl塩を形成してもそれを溶解させることができる溶媒を本系で採用することを考えた。
実施例15と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8からフェノール(1.88g,20mmol)とピリジン(6.4mL,80mmol)をクロロホルム(16mL)に溶解させた混合液を0.2mL/minの流量で計2時間注入し、コイルリアクタ9を通して室温で反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した二口フラスコ(回収容器10)で収集した。排ガスはアルカリトラップ(トラップ容器7)によって処理した。
その結果、コイルリアクタにピリジン塩酸塩の析出は認められず、生成したピリジン塩酸塩はクロロホルムに溶解して流れ出たと考えられる。
得られた反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、目的化合物であるジフェニルカーボネートが生成していることが確認された(用いたフェノールに対する収率:90%)。
その後、得られたサンプル溶液を1M塩酸と水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。残渣をガラスチューブオーブンで減圧蒸留し、100~155℃の成分から白色固体のジフェニルカーボネートを得た(収量:1.79g,収率:84%)。
【0170】
実施例18: 溶媒を用いたフローシステムによる連続フロー合成
【化26】
実施例15と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8から2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール(1.96mL,20mmol)とピリジン(6.4mL,80mmol)を16mLのクロロホルムに溶解させた混合液を0.2mL/minの流量で計2時間注入し、室温で、コイルリアクタ9を通して反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した二口フラスコ(回収容器10)で収集した。排ガスはアルカリトラップ(トラップ容器7)によって処理した。得られた反応液に内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、目的化合物であるビス(2,2,3,3-テトラフルオロプロピル)カーボネートが生成していることが確認された(用いたアルコールに対する収率:94%)。
その後、得られたサンプル溶液を1M塩酸と水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ダイヤフラムポンプによる減圧蒸留によって、60~70℃の留分から無色液体の目的物を得た(収量:2.09g,収率:72%)。
【0171】
実施例19: 溶媒を用いたフローシステムによる連続フロー合成
【化27】
実施例15と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8からHFIP(2.31mL,20mmol)とピリジン(6.4mL,80mmol)をクロロホルム(16mL)に溶解させた混合液を0.2mL/minの流量で計2時間注入し、コイルリアクタ9を通して室温で反応させた。生成物はコイルリアクタ出口に連結した二口フラスコ(回収容器10)で収集した。排ガスはアルカリトラップ(トラップ容器7)によって処理した。得られた反応液に内部標準物質として1,1.2,2-テトラクロロエタンを添加し、1H NMRで分析したところ、目的化合物であるビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-イル)カーボネートが生成していることが確認された(用いたアルコールに対する収率:61%)。
その後、得られたサンプル溶液を1M塩酸と水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸留によって、65~75℃の留分から無色液体の目的物を得た(収量:1.45g,収率:40%)。
【0172】
実施例20: 送ガス法を用いるカーボネートの合成
【化28】
図3に模式的に示すように、直径42mm、容量100mLの円筒状反応容器内に、直径30mmの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に、低圧水銀ランプ(「UVL20PH-6」SEN Light社製,20W,φ24mm×120mm)を装入した光反応システムを構築した。なお、当該低圧水銀ランプからの照射光には波長185nmと波長254nmのUV-Cが含まれ、ランプの中央部位から反応液との最短位置である5mmの位置における波長185nmの光の照度は2.00~2.81mW/cm2であり、波長254nmの光の照度は5.60~8.09mW/cm2であった。円筒状光反応容器12には、生成した低沸点ガス成分を選択的に輸送するための10℃に冷却した冷却管15を取り付け、それを-10℃に冷却した冷却管15を備えた二口ナスフラスコ(反応容器16)に連結した。冷却管15は、さらに、アルコールの入った二口ナスフラスコとアルカリ水溶液の入ったトラップ容器に接続した。
光反応容器12のバス温度を表18の温度に調整した後、シリンジポンプを用いて液体のクロロホルムを表18の流速でPTFEチューブ(内径:1mm)から光反応容器に送り込み、攪拌しつつ気化を促した。次いで、他方から反応容器内の気相へ酸素を0.1mL/minの速度で送り込み、クロロホルムと酸素との混合ガスを光反応容器12内で調製し、低圧水銀ランプで光照射した。混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを、連結した二口ナスフラスコ(反応容器16)に入れた1-ヘキサノール(30mL,239mmol)に、撹拌しつつ、室温で吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結した1-ヘキサノールトラップ(トラップ容器)で捕捉し、トラップ容器からの排ガスはアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
1H NMRスペクトルによって、反応容器16とトラップ容器で生成したクロロギ酸エステルおよびカーボネートへの収率を見積り、それらの総計から生成したホスゲンの量を定量して、表18の結果を得た。
【0173】
【表18】
【0174】
表18に示される結果の通り、クロロホルムの沸点以上の温度に加熱した光反応容器に、シリンジポンプで連続的に外部からクロロホルムを注入し、クロロホルム蒸気と酸素ガスの気相光反応を実施したところ、クロロホルムは比較的速く分解してホスゲンを与えたと考えられる。
97%以上の高変換率で生成したホスゲンガスには目立った副生成物は含まれておらず、アルコールと反応して純度の高いクロロギ酸エステルもしくはカーボネートを与えた。なお、少量の副生成物は、一酸化炭素と二酸化炭素であった。
【0175】
実施例21: 気相光反応によるビルスマイヤー試薬の合成
【化29】
図1に模式的に示す光反応システムを使って、実施例1と同様にして計6.83g(57.2mmol)のクロロホルムから得られる酸化的光分解ガスを、連結した二口ナスフラスコ中のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(5.5mL,70mmol)に、撹拌しつつ、常温で4時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルコールトラップおよびアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応液を1H NMRで分析したところ、使用したクロロホルムに対するビルスマイヤー試薬が51%以上の収率で得られていることを確認した。なお、ビルスマイヤー試薬は空気中の水分と反応して原料アミドに分解するため、実際の収量はそれよりも高いと考えられる。結果を表19にまとめる。
【0176】
【表19】
【0177】
上記結果の通り、クロロホルムをコイルヒーターで90℃に加熱して気化させ、酸素ガスと混合して気相フロー光反応を行ったところ、気相でクロロホルムから生じたホスゲンによりDMFからビルスマイヤー試薬が収率51%超で得られた。
【0178】
実施例22: 気相光反応によるビルスマイヤー試薬の合成と酸塩化物の合成
【化30】
実施例21と同様のフロー光反応システムを用いて、クロロホルムガス(7.4mL/min)と酸素ガス(12.4mL/min)から合成した酸化的光分解ガスを、連結した二口ナスフラスコ内の安息香酸またはプロピオン酸とDMFを溶解させたクロロホルム溶液(100mL)に、撹拌しながら、30℃で、3~5時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルコールトラップおよびアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応液を1H NMRで分析したところ、表20に示される結果の通り、相当するカルボン酸塩化物が得られた。
【0179】
【表20】
【0180】
表20に示される結果の通り、カルボン酸からカルボン酸塩化物への変換率は、カルボン酸に対するクロロホルムの量やDMFの割合が大きくなるほど高くなることが分かった。
【0181】
実施例23: 気相光反応によるビルスマイヤー試薬の合成とギ酸エステルの合成
【化31】
実施例21と同様のフロー光反応システムを用いて、クロロホルムガス(7.4mL/min)と酸素ガス(12.4mL/min)を混合して、5.82g(48.8mmo1)のクロロホルムから得られる酸化的光分解ガスを、連結した二口ナスフラスコ内のDMF(8.0mL,100mmo1)に、撹拌しながら、常温で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルコールトラップおよびアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
当該反応液に1-ブタノール(4.57mL,50mmo1)を添加し、常温で1.5時間撹拌した。その後、飽和炭酸ナトリウム水溶液(50mL)を添加して加水分解を行った。ジクロロメタンを添加して分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過した。
得られた溶液を1H NMRで分析したところ、相当するギ酸エステルが、用いたクロロホルムに対して60%の収率で生成していることが確認された。結果を表21にまとめる。
【0182】
【表21】
【0183】
実施例24: 気相光反応によるビルスマイヤー試薬の合成とホルミル化反応
【化32】
実施例21と同様のフロー光反応システムを用いて、クロロホルムガス(7.4mL/min)と酸素ガス(12.4mL/min)を混合して、5.37g(45.0mmol)のクロロホルムから得られる酸化的光分解ガスを、連結した二口ナスフラスコ内のDMF(3.9mL,50mmo1)に、撹拌しながら、常温で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルコールトラップおよびアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
当該反応液に、芳香族化合物1-メチルピロールまたは2-メチルフラン(50mmo1)を添加し、70℃で2時間撹拌した。その後、飽和炭酸ナトリウム水溶液(100mL)を添加して加水分解を行い、水とジクロロメタンを添加して分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過し、濾液からエバポレーターで溶媒を留去して、得られた深緑色オイルをカラムクロマトグラフィーによって精製して、単離収率98%または74%で目的物を得た。結果を表22にまとめる。
【0184】
【表22】
【0185】
実施例25: エステルまたはカルボン酸無水物の合成
【化33】
図2に模式的に示す光フローシステムのコイルヒーター温度を90℃とし、クロロホルムガス(0.02mL/min)と酸素ガス(10mL/min)から合成した酸化的光分解ガスを、シリンジポンプから注入したカルボン酸および5倍モル量のピリジンまたは1倍モル量のDMFを含む溶液をT型ミキサで混合し、PTFEチューブリアクター(内径2.4mm,長さ:2830mm,容積:12.8mL)に送り込んでフロー反応を行った。生成物を、二口フラスコ中、撹拌したアルコールまたはカルボン酸のクロロホルム溶液中に吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応液を1H NMRで分析したところ、表23に示される収率で、エステルまたはカルボン酸無水物が得られた。
また、反応液を水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。更に、減圧蒸留またはシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物を得た。なお、表中、「BA」は安息香酸を示し、「4-FBA」は4-フルオロ安息香酸を示し、「PA」はプロピオン酸を示し、「Py」はピリジンを示す。
【0186】
【表23】
【0187】
上記結果の通り、おそらくコイルリアクター中、クロロホルムの分解物がカルボン酸と直接反応するか、或いはクロロホルムの分解物とDMFからビルスマイヤー試薬が生成し、このビルスマイヤー試薬がカルボン酸と反応してカルボン酸塩化物が生成し、このカルボン酸塩化物が更にアルコールまたはカルボン酸と反応して、エステルまたはカルボン酸無水物が生成したと考えられる。
【0188】
実施例26:アミドの合成
【化34】
図2に模式的に示す光フローシステムのコイルヒーター温度を90℃とし、クロロホルムガス(2.4mL,30mmol,0.02mL/min)と酸素ガス(10mL/min)から合成した酸化的光分解ガスを、シリンジポンプから注入したカルボン酸および5倍モル量のピリジンまたは1倍モル量のDMFを含む溶液をT型ミキサで混合し、PTFEチューブリアクター(内径2.4mm,長さ:2830mm,容積:12.8mL)に送り込んでフロー反応を行った。生成物を、二口フラスコ中、撹拌したアミン溶液中に吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応液を1H NMRで分析したところ、表24に示される収率でアミドが得られた。
また、反応液を水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。更に、必要に応じて再結晶で精製することにより目的物を得た。なお、表中、「cHex-NH2」はシクロヘキシルアミンを示す。
【0189】
【表24】
【0190】
上記結果の通り、おそらくコイルリアクター中、クロロホルムの分解物がカルボン酸と直接反応するか、或いはクロロホルムの分解物とDMFからビルスマイヤー試薬が生成し、このビルスマイヤー試薬がカルボン酸と反応してカルボン酸塩化物が生成し、このカルボン酸塩化物が更にアミンと反応して、アミドが生成したと考えられる。
【0191】
実施例27: ビルスマイヤー試薬による芳香族化合物のホルミル化
【化35】
(1)1-メチルピロールのホルミル化
図4に示す通り、図1のフロー光反応システムに加えて、連続反応を行うための反応基質注入用シリンジポンプ8-1とチューブリアクター17(内径2.4mm×長さ182mm,容量:0.8mL)を接続し、更にそれに続く連続反応を行うための反応基質注入用シリンジポンプ8-2と温調式コイルリアクタ9(内径2.4mm×長さ994mm,容量:4.5mL)を接続した。
実施例1と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8-1からDMF(2.32mL,30mmol)とクロロホルム(7.8mL)の混合液を3.26mL/hの流量で注入し、チューブリアクター17を通して室温で反応させた。更に別の反応基質注入用シリンジポンプ8-2から1-メチルピロール(2.66mL,30mmol)とジクロロメタン(7.0mL)の混合液を3.2mL/hの流量で計3時間注入し、コイルリアクタ9を通して室温で反応させた。
生成物を、コイルリアクタ出口に連結した二口フラスコ(回収容器10)の飽和炭酸ナトリウム水溶液(50mL)に注入し、バス温度0℃で撹拌した。反応液にジクロロメタンと水を加えて分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過した。得られた乾燥有機相に内部標準物質としてアセトン(0.74mL,10mmol)を添加し、1H NMRで分析したところ、目的化合物である1-メチル-1H-ピロールカルボアルデヒドが生成していることが確認された(用いた2-メチルピロールおよびDMFに対する収率:53%)。
【0192】
(2)2-メチルフランのホルミル化
実施例27(1)と同様の条件により、連続フロー光反応システムで発生させたホスゲンガスに、反応基質注入用シリンジポンプ8-1からDMF(2.32mL,30mmol)とクロロホルム(7.8mL)の混合液を3.26mL/hの流量で注入し、チューブリアクター17を通して室温で反応させた。更に別の反応基質注入用シリンジポンプ8-2から2-メチルフラン(2.32mL,30mmol)とジクロロメタン(7.0mL)の混合液を3.2mL/hの流量で計3時間注入し、コイルリアクタ9を通して室温で反応させた。
生成物をコイルリアクタ出口に連結した二口フラスコ(回収容器10)の飽和炭酸ナトリウム溶液(50mL)に注入し、バス温度0℃で撹拌した。反応液にジクロロメタンと水を加えて分液し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濾過した。得られた乾燥有機相を1H NMRで分析したところ、目的化合物である5-メチル-2-フルアルデヒドが生成していることが確認された(用いた2-メチルフランおよびDMFに対する転換率:95%)。
前記乾燥有機相から溶媒を留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)に付すことにより、目的化合物を単離した(用いた2-メチルフランおよびDMFに対する収率:80%)。
【0193】
実施例28: 気相光反応容器の検討
【化36】
図5に模式的に示す光反応システムを使って、気相光反応を行った。具体的には、筒状反応容器内に石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「SUL-20P」SEN Light社製,20W,発光部位長さ:130mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した反応システムを構築した。筒状反応容器(外管)と石英ガラスジャケット(内管)のサイズを表25に示す。
90℃に加熱したコイルヒーター3へ、表25に示す流量で液体のクロロホルムと20℃の乾燥空気を送り込み、混合加熱して、光反応容器12へ2時間供給した。光反応容器加熱用のヒーター13の温度は100℃に設定した。
光反応容器12を経たガスを、反応容器16-1中の1-ブタノール中へ吹き込み、更に、反応容器16-1を経たガスを反応容器16-2中の1-ブタノール中へ吹き込んだ。反応容器16-1と反応容器16-2中には、それぞれ、使用したクロロホルムに対して1.5~2.0倍モルの1-ブタノールを入れた。反応容器16-2を経たガスは、更にアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応容器16-1と反応容器16-2中の反応液に内部標準として1,2-ジクロロエタンを添加して1H NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカルボン酸無水物の収量と収率を求め、それらの総計から生成したホスゲンの量を算出した。結果を表25にまとめる。なお、表25中のホスゲン収率は、使用したクロロホルムに対する収率である。
【0194】
【表25】
【0195】
表25に示される結果の通り、光反応容器の容積が比較的小さいと、混合ガスの滞留時間が短くなるため、ホスゲン収率を高く維持し且つ未反応クロロホルムを低減するには、クロロホルムの注入量を少なくする必要があった。
そこで、光反応容器の容積を大きくすると、混合ガスの滞留時間が長くなるため、注入できる量が増大し、ホスゲンの収量を増やすことができた。但し、おそらく高エネルギー光が十分に照射されない領域が生じるため、未反応クロロホルムの量が多少増えた。
【0196】
実施例29: 気相光反応容器の検討
【化37】
図5に模式的に示す光反応システムを使って、気相光反応を行った。具体的には、φ60×2.4t,長さ550mmの筒状反応容器内に、φ30×1.5t,長さ550mmの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「SUV-400」SEN Light社製,40W,発光部位長さ:380mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した反応システムを構築した。光反応容器内の有効容積は976mLであった。
シリンジポンプ1とマスフローコントローラー2(「MODEL8500MC」KOFLOC社製)を使って、150℃に加熱したコイルヒーター3へ、表26に示す流量で液体のクロロホルムと20℃の酸素を送り込み、混合加熱して、光反応容器12へ2時間供給した。反応容器加熱用のヒーター13の温度は100℃に設定した。
光反応容器12を経たガスを、反応容器16-1中の1-ブタノール中へ吹き込み、更に、反応容器16-1を経たガスを反応容器16-2中の1-ブタノール中へ吹き込んだ。反応容器16-1と反応容器16-2中には、それぞれ、使用したクロロホルムに対して1.5~2.0倍モルの1-ブタノールを入れた。反応容器16-2を経たガスは、更にアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応容器16-1と反応容器16-2中の反応液に内部標準として1,2-ジクロロエタンを添加して1H NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカルボン酸無水物の収量と収率を求め、それらの総計から生成したホスゲンの量を算出した。結果を表26にまとめる。なお、表26中のホスゲン収率は、使用したクロロホルムに対する収率である。
【0197】
【表26】
【0198】
表26に示される結果の通り、長い光源を使用して強い高エネルギー光がクロロホルム-酸素混合ガスに長時間照射されるようにすることにより、クロロホルムの分解効率をより一層改善することができた。
【0199】
実施例30: 酸素源の検討
反応条件を表27に示す通り変更した以外は実施例29と同様にして、ホスゲンの製造効率を試験した。なお、酸素源としては空気を用い、Entry 1、Entry 4およびEntry 5では乾燥剤(「乾燥用シリカゲル,中粒状(青色)」富士フィルム和光純薬社製)を使って空気を乾燥し、Entry 2では、雨天時の湿度60~80%の空気を乾燥せずそのまま用い、Entry 3では、乾燥空気ボンベの空気を用いた。結果を表27に示す。
【0200】
【表27】
【0201】
表27に示される結果の通り、乾燥していない空気を用いた場合(Entry 2)でもクロロホルムの分解効率とホスゲン収率は低下しておらず、多少の水分は問題にならないことが分かった。
また、酸素の流量がクロロホルムの流量よりも少ない場合(Entry 1とEntry 4)でも、未反応クロロホルムが少なく、クロロホルムに対するホスゲンの収率は高かった。
なお、Entry 5でも酸素の流量はクロロホルムの流量よりも少ないが、未反応クロロホルムの割合が比較的大きいのは、クロロホルムと空気の流量が多いことによると考えられる。しかし、Entry 5のホスゲン生成量は非常に多く、ホスゲン収率も比較的高いことから、Entry 5の効率は高いといえる。
【0202】
実施例31: 気相光反応容器の検討
図6に模式的に示す通り、気相光反応容器2台を直列に連結した光反応システムを使って、気相光反応を行った。具体的には、φ80×2.5tまたはφ140×2.5tの筒状反応容器内に、φ30×1.5tの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「SUL-20P」SEN Light社製,20W,発光部位長さ:130mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した光反応容器12-1と、φ60×2.5tの筒状反応容器内に、φ30×1.5tの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に同低圧水銀ランプを装入した光反応容器12-2を連結した反応システムを構築した。
90℃に加熱したコイルヒーター3へ、表28に示す流量で液体のクロロホルムと20℃の乾燥空気を送り込み、混合加熱して、光反応容器12-1へ2時間供給した。光反応容器12を加熱するためのヒーター13の温度は100℃に設定した。
光反応容器12-2を経たガスを、反応容器16-1中の1-ブタノール中へ吹き込み、更に、反応容器16-1を経たガスを反応容器16-2中の1-ブタノール中へ吹き込んだ。反応容器16-1と反応容器16-2中には、それぞれ、使用したクロロホルムに対して1.5~2.0倍モルの1-ブタノールを入れた。反応容器16-2を経たガスは、更にアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応容器16-1と反応容器16-2中の反応液に内部標準として1,2-ジクロロエタンを添加して1H NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカルボン酸無水物の収量と収率を求め、それらの総計から生成したホスゲンの量を算出した。結果を表28にまとめる。なお、表28中のホスゲン収率は、使用したクロロホルムに対する収率である。
【0203】
【表28】
【0204】
例えば実施例30のEntry 1と実施例31のEntry 2とを比べると、光反応容器を2つ連結することによって、クロロホルム転換率、及びホスゲンの収量と収率が改善されたといえる。また、混合ガスが第1光反応容器12-1と第2光反応容器12-2とを連結する細い管中を流通する際に、未反応気体クロロホルムと酸素がより均一に混合されて、第2光反応容器12-2でクロロホルムの酸化的光分解が効率的に進行したことも考えられる。
【0205】
実施例32: 気相光反応容器の検討
図6に模式的に示す光反応システムを使って、気相光反応を行った。具体的には、φ80×2.4tの筒状反応容器内に、φ30×1.5tの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「SUV-40D」SEN Light社製,40W,発光部位長さ:380mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した光反応容器12-1と、φ80×2.5tの筒状反応容器内に、φ30×1.5tの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「SUL-20P」SEN Light社製,20W,発光部位長さ:130mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した光反応容器12-2を連結した反応システムを構築した。
150℃に加熱したコイルヒーター3へ、表29に示す流量で液体のクロロホルムと20℃の乾燥空気を送り込み、混合加熱して、光反応容器12-1へ2時間供給した。光反応容器12を加熱するためのヒーターの温度は100℃に設定した。
光反応容器12を経たガスを、反応容器16-1中の1-ブタノール中へ吹き込み、更に、反応容器16-1を経たガスを反応容器16-2の1-ブタノール中へ吹き込んだ。反応容器16-1と反応容器16-2中には、それぞれ、使用したクロロホルムに対して1.5~2.0倍モルの1-ブタノールを入れた。反応容器16-2を経たガスは、更にアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応容器16-1と反応容器16-2中の反応液に内部標準として1,2-ジクロロエタンを添加して1H NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカルボン酸無水物の収量と収率を求め、それらの総計から生成したホスゲンの量を算出した。結果を表29にまとめる。なお、表29中のホスゲン収率は、使用したクロロホルムに対する収率である。
【0206】
【表29】
【0207】
表29に示される結果の通り、クロロホルムに対して約0.55のモル比の酸素を含む空気を混合したガスを光分解反応に付すことにより、クロロホルムの転換率、及びホスゲンの収量と収率が顕著に改善されることが明らかになった。また、空気は、過剰な高エネルギー光、特に紫外線を吸収して、生成したホスゲンの更なる分解を抑制する可能性もある。
【0208】
実施例33
【化38】
図5に模式的に示す光反応システムと類似するシステムを使って、気相光反応を行った。具体的には、直径60mm、容量1360mLの円筒状反応容器内に、直径30mmの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に、低圧水銀ランプ(「SUV40 D」SEN Light社製,40W,φ22.3×380mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した反応システムを構築した。なお、照射光には波長185nmと波長254nmのUV-Cが含まれ、ランプの中央部位から反応液との最短位置である5mmの位置における波長185nmの光の照度は2.00~2.81mW/cm2であり、波長254nmの光の照度は5.60~8.09mW/cm2であった。当該円筒状フロー光反応装置12の総容量は、976mLであった。
シリンシジポンプ1を用いて、液体のクロロホルム(450mmol)を0.2mL/min(2.5mmol/min)の流量でPTFEチューブ(内径:1mm)に送り込み、エアポンプとマスフローコントローラー2で流量を200mL/minに調整した空気と混合し、60℃に加熱したヒーター3で気化させて、上記フロー光反応装置4に送り込んだ。フロー光反応容器内部に送り込んだ混合ガスを、フロー光反応装置底部に取り付けたヒーター13によって再度加熱した。ヒーター温度は100℃に設定した。光反応装置内における混合ガスの線速度は0.18m/minと、滞留時間は188秒と見積もることができた。
反応容器16にフェノール(900mmol)を入れ、攪拌しつつ、シリンジポンプを使って0.52mL/min(6.5mmol/min)の流量でピリジンを注入し、また、クロロホルムガスと空気の混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを0℃で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
その後、反応容器16中の反応液を1M塩酸と水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、白色固体のジフェニルカーボネートを得た(収量:70.9g,収率:74%)。
【0209】
実施例34
【化39】
実施例33で用いた光反応システムを使って、気相光反応を行った。シリンジポンプ1を用いて、液体のクロロホルム(450mmol)を0.2mL/min(2.5mmol/min)の流量でPTFEチューブ(内径:1mm)に送り込み、エアポンプとマスフローコントローラー2で流量を200mL/minに調整した空気と混合し、60℃に加熱したヒーター3で気化させて、フロー光反応装置4に送り込んだ。フロー光反応装置4内部に送り込んだ混合ガスを、フロー光反応装置底部に取り付けたヒーター13によって再度加熱した。ヒーター温度は100℃に設定した。当該混合ガスの線速度は0.18m/minと、滞留時間は188秒と見積もることができた。
反応容器16にHFIP(900mmol)のクロロホルム溶液を入れ、攪拌しつつ、シリンジポンプを使って0.52mL/min(6.5mmol/min)の流量でピリジンを添加し、また、クロロホルムガスと空気の混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを0℃で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
その後、反応容器16中の反応液を1M塩酸と水で洗浄し、反応液を1H NMRで分析したところ、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)カーボネート(BHFC)が85%の収率で生成しているこが確認された。
また、洗浄した反応液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸留によって無色液体であるBHFCを単離した(単離収量:88.0g,384mmol,HFIPに対する収率:54%)。
【0210】
実施例35
【化40】
実施例34と同様にして、気体クロロホルムを高エネルギー光で酸化的光分解した。
ビスフェノールA(BPA)(405mmol)とピリジン(2025mmol)を含むクロロホルム溶液を反応容器16に入れ、攪拌しつつ、クロロホルムガスと空気の混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを0℃で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
その後、反応容器16中の反応液を1M塩酸と水で洗浄し、ジクロロメタンで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することにより、白色固体のポリカーボネートを得た(収量:102g,収率:95%)。
得られたポリカーボネートをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析し、分子量を求めた。結果を表30に示す。
【0211】
【表30】
【0212】
実施例36
【化41】
図5に模式的に示す光反応システムと類似するシステムを使って、気相光反応を行った。具体的には、直径140mm、容量2575mLの円筒状反応容器内に、直径30mmの石英ガラスジャケットを装入し、更に石英ガラスジャケット内に、低圧水銀ランプ(「UVL20PH-6」SEN Light社製,20W,Φ24mm×120mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入した反応システムを構築した。なお、当該低圧水銀ランプからの照射光には波長185nmと波長254nmのUV-Cが含まれ、ランプの中央部位から反応液との最短位置である5mmの位置における波長185nmの光の照度は2.00~2.81mW/cm2であり、波長254nmの光の照度は5.60~8.09mW/cm2であった当該円筒状フロー光反応装置12の総容量は、2450mLであった。
シリンジポンプ1を用いて、液体のクロロホルム(900mmol)を0.4mL/min(5.0mmol/min)の流量でPTFEチューブ(内径:1mm)に送り込み、エアポンプとマスフローコントローラー2で流量を200mL/minに調整した空気と混合し、60℃に加熱したヒーター3で気化させて、上記フロー光反応装置12に送り込んだ。フロー光反応装置内部に送り込んだ混合ガスを、フロー光反応装置底部に取り付けたヒーター13によって再度加熱した。ヒーター温度は100℃に設定した。光反応装置内における混合ガスの線速度は0.046m/minと、滞留時間は235秒と見積もることができた
HFIP(1200mmol)とピリジン(1800mmol)を含むクロロホルム溶液を反応容器16に入れ、攪拌しつつ、クロロホルムガスと空気の混合ガスの酸化的光分解によって生じたガスを0℃で3時間吹き込んだ。未反応のガスは、更に連結したアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
その後、反応容器16中の反応液を1M塩酸と水で洗浄した後、1H NMRで分析したところ、ビス(ヘキサフルオロイソプロピル)カーボネートが生成していることが確認された(収量:588mmol,収率:98%)。
【0213】
実施例37: 可視光によるクロロホルムの分解
【化42】
安定化剤としてエタノールを含むクロロホルム製品(500mL)を蒸留水で洗浄した後に分液する操作を3回繰り返した。クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、無水硫酸ナトリウムを濾別した後、水素化カルシウム(1g)を加え、30℃で一晩攪拌した。次いで、蒸留することにより、安定化剤を含まないクロロホルムを得た。
図5に模式的に示す光反応システムと類似するシステムを使って、気相光反応を行った。具体的には、φ140×2.5tの筒状反応容器内に、φ30×1.5tの石英ガラスジャケットを装入し、石英ガラスジャケット内に低圧水銀ランプ(「UVL20PH-6」SEN Light社製,20W,Φ24mm×120mm,波長:185~600nm,ピーク波長:184.9nmおよび253.7nm)を装入し、更に筒状反応容器の外側から約1cmの位置に365nm LEDランプ(「LKI-152」Polarstar社製,30W,発光部位:250×150mm,ピーク波長:365nm)を設置した反応システムを構築した。光反応装置12内の有効容積は2.5Lであった。また、使用したLEDランプから5mmの位置における光の照度は34~38mW/cm2であった。
シリンジポンプ1とマスフローコントローラー2(「MODEL8500MC」KOFLOC社製)を使って、110℃に加熱したコイルヒーター3へ、表31に示す流量で、上記の通り安定化剤を除去した液状クロロホルムと20℃の酸素を送り込み、混合加熱して、光反応装置12へ2時間供給した。反応装置加熱用のヒーター13の温度は100℃に設定した。
光反応装置12内の混合ガスへ、LEDランプのみから可視光を照射するか、又は、LEDランプから可視光を5分間照射した後、低圧水銀ランプからもUV-C光を1分間追加的に組み合わせて照射し、次いで再び可視光のみを照射した。
光反応容器を経たガスを、反応容器16-1中の1-ブタノール中へ吹き込み、更に、反応容器16-1を経たガスを反応容器16-2中の1-ブタノール中へ吹き込んだ。反応容器16-1と反応容器16-2中には、それぞれ、使用したクロロホルムに対して2.0倍モルの1-ブタノールを入れた。反応容器16-2を経たガスは、更にアルカリトラップに導入して有毒ガスが外部に漏出しないよう処理した。
反応後、反応容器16-1と反応容器16-2中の反応液に内部標準として1,2-ジクロロエタンを添加して1H NMRで分析し、生成したクロロギ酸エステルとカルボン酸無水物の収量と収率を求め、それらの総計から生成したホスゲンの量を算出した。結果を表31にまとめる。なお、表31中のホスゲン収率は、使用したクロロホルムに対する収率である。
【0214】
【表31】
【0215】
表31に示される結果の通り、安定化剤を含まないクロロホルムを用いることにより、未反応クロロホルムの量が多少増えたものの、可視光でもクロロホルムを分解することができ、ホスゲンが生成した。おそらく、クロロホルムが安定化剤を含まないことと、気相で酸化的光分解反応を行うことによって、エネルギーが比較的低い光を照射しても、クロロホルムが分解されてホスゲンが生成したと考えられる。
また、酸化的光分解反応の初期段階で可視光に加えて紫外光を短時間照射することにより、ホスゲンの収量と収率が高まり、未反応クロロホルム量が低減された。その理由としては、より高エネルギーの紫外光によりC-Cl結合が開裂し、その後は可視光のみを使ってもクロロホルムの酸化的光分解反応がラジカル連鎖機構で進行したことによると考えられる。
【符号の説明】
【0216】
1:シリンジポンプ 2:マスフローコントローラー 3:ヒーター
4:フロー光反応装置 5:背圧弁 6:反応容器
7:トラップ容器 8:反応基質注入用シリンジポンプ 9:コイル反応装置
10:回収容器 11:光源 12:光反応装置
13:バス 14:撹拌子 15:冷却管
16:反応容器 17:チューブリアクター
図1
図2
図3
図4
図5
図6