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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】塩味増感用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20230308BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230308BHJP
   A23L 27/40 20160101ALI20230308BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L27/00 C
A23L27/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018124235
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020000142
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】生貝 達也
(72)【発明者】
【氏名】樋爪 彩子
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】青柳 守紘
(72)【発明者】
【氏名】津森 義邦
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-254772(JP,A)
【文献】特開2011-172508(JP,A)
【文献】特開2017-070217(JP,A)
【文献】特開平06-335361(JP,A)
【文献】特開2017-121236(JP,A)
【文献】特開2015-043769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00-27/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する、塩味増感用組成物であって、
前記スルフィド化合物を、前記サンショウ抽出物中のα-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量1質量部に対して、1.0×10-9~20質量部の割合で含有し、
前記スルフィド化合物が、ジメチルスルフィド、及び、炭素数1~5のアルキル基を有するアルキルスルフィドであるジスルフィド又はトリスルフィドからなる群から選択される1種以上である、組成物。
【請求項2】
前記サンショウ抽出物が、熱水抽出物又はエタノール抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記スルフィド化合物が、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、及びエチルメチルジスルフィドからなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記スルフィド化合物が、茶葉に由来している、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味増感用組成物及び食品の塩味の増感方法に関し、特にサンショウ抽出物及びアルキル基を有するスルフィド化合物を用いた塩味増感用組成物及び飲食品の塩味の増感方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりを受けて、生活習慣病の一因となり得る食塩の摂取量を減らすことが望まれている。一方で、食塩相当量の低い食品は味が物足りなく感じられるため、その塩味を増強するために、種々の研究が行われている。例えば、特許文献1には、サンショウ破砕物と、当該破砕物の辛み成分を食前の数分程度口腔内に残すための基材とを含み、所定量のサンショオールを含む、食前に用いる塩味増強剤が記載されている。また、特許文献2には、サンショウ抽出物及びフタライド類を有効成分として含有する、所定の飲食品の塩味増強剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5625089号公報
【文献】特許第5733737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サンショウは不快な金属様の風味を有しているため、これを飲食品の喫食前に口に含んだり、飲食品中に添加したりすると、当該飲食品の風味を損ねる場合があった。そこで、本発明は、サンショウ抽出物の不快な風味が低減された塩味増感用組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルキル基を有するスルフィド化合物が、サンショウ抽出物が有している不快な金属様の風味をマスキングすること、並びに、サンショウ抽出物及びアルキル基を有するスルフィド化合物を含む組成物が、飲食品の塩味の増感作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す塩味増感用組成物及び飲食品の塩味の増感方法を提供するものである。
〔1〕サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する、塩味増感用組成物。
〔2〕前記スルフィド化合物を、前記サンショウ抽出物中のα-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量1質量部に対して、1.0×10-9~20質量部の割合で含有する、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記サンショウ抽出物が、熱水抽出物又はエタノール抽出物である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記スルフィド化合物が、アルキルスルフィドである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕前記スルフィド化合物が、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、及びエチルメチルジスルフィドからなる群から選択される1種以上である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕前記スルフィド化合物が、茶葉に由来している、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔7〕飲食品の塩味の増感方法であって、
サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する組成物を用意する工程、及び、
前記組成物を、前記飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食する工程
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、サンショウ抽出物に加えてアルキル基を有するスルフィド化合物を配合することにより、当該サンショウ抽出物が有している不快な金属様の風味をマスキングしつつ、飲食品の塩味の感じ方を強くすることができる。したがって、減塩食品の風味を損なわずに塩味の増感を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する塩味増感用組成物に関している。本明細書に記載の「塩味増感」とは、飲食品を口腔中に入れたときに感じる塩味が、当該飲食品における食塩相当量が変わらないにもかかわらず、より強く感じられるようになることをいう。すなわち、本発明の組成物を、対象の飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食すると、当該飲食品の塩味をより強く感じることができる。本発明の組成物により塩味が増感される飲食品は、特に限定されないが、当該飲食品が減塩食品であると、前記組成物による塩味増感作用をより強く感じることができる。
【0008】
本明細書に記載の「サンショウ抽出物」とは、ミカン科サンショウ属の植物の果実、種皮、葉、及び/又は茎の抽出物(エキス)のことをいう。前記ミカン科サンショウ属の植物としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC)、アサクラザンショウ(Z.piperitum DC.forma inerme Makino)及びそれから派生したとされるブドウサンショウ、ヤマアサクラザンショウ(Z.piperitum DC.forma brevispinosum Makino)、イヌザンショウ(Z.schinifolium)、並びに花椒(Z.bungeanum)などが例示され得る。前記サンショウ抽出物は、前記果実、種皮、葉、及び/又は茎を、そのまま又は破砕・粉砕処理及び乾燥処理などを行った後に抽出することにより調製することができる。前記サンショウ抽出物の抽出手段としては、サンショオール類(α-サンショオール、β-サンショオール、γ-サンショオール、及びヒドロキシ-α-サンショオールなど)が抽出される限り特に限定されないが、例えば、溶媒抽出法、水蒸気蒸留抽出法、及び超臨界又は亜臨界抽出法などを採用してもよい。前記溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール及びメタノールなどのアルコール類、酢酸エチル及び蟻酸メチルなどのエステル類、アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン類、クロロホルム及び塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、アセトニトリルなどのニトリル類、並びに、ジエチルエーテル及びテトラヒドロフランなどのエーテル類などを使用してもよく、これらの2種以上を混合して使用してもよい。前記サンショウ抽出物は、前記サンショオール類を含んでおり、飲食品の塩味の感じ方を強くすることができる。好ましい態様では、前記サンショウ抽出物は、サンショウの熱水抽出物又はエタノール抽出物である。
【0009】
本明細書に記載の「アルキル基を有するスルフィド化合物」とは、1つの二価の硫黄原子又は2つ以上連続する二価の硫黄原子が、2個の有機基で置換された化合物のうち、その分子中のどこかにアルキル基を有するもののことをいう。前記アルキル基を有するスルフィド化合物には、例えば、1つの硫黄原子を有するスルフィド、連続する2つの硫黄原子を有するジスルフィド、及び、連続する3つの硫黄原子を有するトリスルフィドなどが含まれる。本明細書に記載の「アルキル基」とは、脂肪族飽和炭化水素から水素原子を1つ除いた残りの炭化水素基のことをいい、当該アルキル基は、直鎖又は分岐鎖であり得る。前記アルキル基を有するスルフィド化合物におけるアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、例えば1~5であってもよく、好ましくは1~3である。本発明の組成物における前記アルキル基を有するスルフィド化合物の量は、前記サンショウ抽出物の不快な金属様の風味をマスキングできる限り特に限定されないが、例えば、前記組成物は、前記アルキル基を有するスルフィド化合物を、前記サンショウ抽出物中のα-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量1質量部に対して約1.0×10-9~約20質量部の割合で含有してもよく、好ましくは約1.0×10-7~約2.0質量部、さらに好ましくは約1.0×10-3~約2.0×10-1質量部の割合で含有してもよい。なお、前記サンショウ抽出物中のα-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの量は、当該サンショウ抽出物を高速液体クロマトグラフィーによって分析し、その測定結果を、標準品を測定して作成した検量線と比較することで求めることができる。
【0010】
ある態様では、前記アルキル基を有するスルフィド化合物は、硫黄原子に直接アルキル基が置換したアルキルスルフィドであってもよく、好ましくは、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、及びエチルメチルジスルフィドからなる群から選択される1種以上である。他の態様では、前記アルキル基を有するスルフィド化合物は、茶葉に由来していてもよい。例えば、緑茶などの茶葉の熱水抽出物には、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、及びエチルメチルジスルフィドなどが含まれているため、当該茶葉の熱水抽出物に前記サンショウ抽出物を添加するだけで、本発明の組成物を速やかに調製することができる。
【0011】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもいいし、塩味増感のために有効な他の添加剤をさらに含んでもよい。そして、本発明の組成物の形状は、摂食可能なものである限り特に限定されないが、例えば、液体状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、顆粒状、及びブロック状などであってもよい。具体的には、前記組成物は、お茶などの飲料、ゼリー、飴、ふりかけ、味噌汁、及び調味料などの形態であってもよい。前記組成物は、そのまま摂食してもいいし、塩味を強く感じたい飲食品中に配合してもよい。また、塩味を強く感じたい飲食品と一緒に摂食する他の飲食品中に配合して、これらを交互に摂食してもよい。
【0012】
また別の態様では、本発明は、飲食品の塩味の増感方法にも関しており、当該方法は、
サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する組成物を用意する工程、及び、
前記組成物を、前記飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食する工程
を含むことを特徴としている。前記組成物を、前記飲食品と同時に摂食する場合には、本発明の方法は、前記組成物を前記飲食品に添加する工程をさらに含んでもよい。
【0013】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0014】
〔試験例1〕
ブドウサンショウの実を粉砕し、その質量の9倍量の熱水を加えて、90℃で1時間抽出した。そして、固形分を取り除き、サンショウ熱水抽出液を調製した。このサンショウ熱水抽出液を5質量%含み、かつ所定の濃度のジメチルスルフィドを含む混合液(α-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量は6質量ppm)を調製し、当該混合液を4名のパネラーが飲んで、サンショウ熱水抽出液に由来する風味を以下の基準で評価した。対照としては、ジメチルスルフィドを含まず、サンショウ熱水抽出液のみを含む溶液を使用した。結果を表1に示す。
◎:サンショウの香りはほのかに香る程度で金属様の風味はない
○:サンショウの華やかな香りはあるが金属様の風味はない
△:サンショウの華やかな香りはあるが金属様の風味は薄い
×:サンショウの不快な金属様の風味がある(ジメチルスルフィドなし)
【0015】
【表1】
【0016】
サンショウ熱水抽出液を5質量%含みジメチルスルフィドを含まない対照の溶液は、サンショウの不快な金属様の風味があって、非常に飲みにくいものであった。これに対して、ジメチルスルフィドを10-12質量%以上(α-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量1質量部に対して1.7×10-9質量部以上)含む混合液では、サンショウの不快な金属様の風味がマスキングされて、飲みやすさが向上していた。ジメチルスルフィド濃度が高くなるとマスキング効果が高くなる一方、ジメチルスルフィド自身の青のりのような香りが強く感じられるようになるため、上記混合液の質量に対して1×10-6質量%~1×10-4質量%(α-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量1質量部に対して0.0017~0.17質量部)の割合でジメチルスルフィドが含まれる場合が、最も飲食に適していた。
【0017】
〔試験例2〕
ジメチルスルフィドに代えてジメチルジスルフィドを使用した以外は試験例1と同様にして、サンショウ熱水抽出液に由来する風味を評価した。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
ジメチルスルフィドを使用したときと同様に、ジメチルジスルフィドを10-12質量%以上(α-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量1質量部に対して1.7×10-9質量部以上)含む混合液でも、サンショウの不快な金属様の風味がマスキングされて、飲みやすさが向上していた。
【0020】
〔試験例3〕
試験例1に記載のように調製したサンショウ熱水抽出液を5質量%含み、かつ種々のアルキル基を有するスルフィド化合物を1質量ppb含む混合液(α-サンショオール及びヒドロキシ-α-サンショオールの合計量は6質量ppm)を調製し、当該混合液を4名のパネラーが飲んで、サンショウ熱水抽出液に由来する風味のマスキング効果を評価した。また、上記混合液を服用する前後で塩分濃度0.7%の味噌汁を飲み、当該味噌汁の塩味の増感効果を評価した。結果を表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
サンショウ熱水抽出液を含みアルキル基を有するスルフィド化合物を含まない溶液を飲んだ後に味噌汁を飲むと、サンショウ抽出液を飲む前と比較して、味噌汁の塩味を強く感じることができたが、サンショウの不快な金属様の風味が感じられ、飲食には適さなかった。これに対して、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、又はエチルメチルジスルフィドを含む混合液では、サンショウの不快な金属様の風味がマスキングされて、飲みやすさが向上しただけなく、塩味の増感効果も発揮された。すなわち、上記混合液を飲んだ後に味噌汁を飲むと、当該混合液を飲む前と比較して、味噌汁の塩味を強く感じることができた。
【0023】
以上より、サンショウ抽出物に加えて各種スルフィド化合物を配合することにより、当該サンショウ抽出物が有している不快な金属様の風味をマスキングしつつ、飲食品の塩味の感じ方を強くすることができることがわかった。したがって、減塩食品の風味を損なわずに塩味の増感を図ることが可能となる。