(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】マグネトロン用電磁石
(51)【国際特許分類】
H01J 23/00 20060101AFI20230308BHJP
H01J 23/10 20060101ALI20230308BHJP
H01J 25/50 20060101ALI20230308BHJP
【FI】
H01J23/00 A
H01J23/10
H01J25/50
(21)【出願番号】P 2019109691
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】木崎 久雄
(72)【発明者】
【氏名】小畑 英幸
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-049152(JP,U)
【文献】実開昭51-083260(JP,U)
【文献】特開平05-067435(JP,A)
【文献】米国特許第04284924(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/00
H01J 23/10
H01J 25/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体によって円柱状に形成されて円柱軸心方向の一端に磁極を備えるとともに他端にヨークが接続するコアと、該コアの周囲に電線が多重に巻かれて形成される巻線と、該巻線の外周に接触する巻線周上放熱板と、冷却水が循環する冷却水配管と、を備え、
前記巻線の前記円柱軸心方向の端面に接触する巻線端面放熱板が取り付けられ、
前記巻線端面放熱板が前記冷却水配管に接触しているとともに前記巻線周上放熱板が前記冷却水配管に接触している、または、前記巻線端面放熱板と前記巻線周上放熱板とが接触しているとともに前記巻線周上放熱板と前記冷却水配管とが接触している、
ことを特徴とするマグネトロン用電磁石。
【請求項2】
前記コアと前記巻線との間に断熱シートが挟まれている、
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン用電磁石。
【請求項3】
前記冷却水配管が、前記巻線周上放熱板と前記巻線端面放熱板とのうちの少なくとも一方に接合されている、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のマグネトロン用電磁石。
【請求項4】
前記巻線の内部に挟み込まれて、前記巻線周上放熱板と前記巻線端面放熱板とのうちの少なくとも一方に接触する巻線間放熱板が配設されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のマグネトロン用電磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネトロン用電磁石に関し、特に、マイクロ波を発振するマグネトロンを動作させるために使用される電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を発生させるためのマグネトロンを動作させるには磁石が必須であり、永久磁石や電磁石が使用される。マグネトロン自体に磁石を備える態様と、マグネトロンを取り付けて動作させる装置側に磁石を備えて対面する磁極の間にマグネトロンの管球部を挿入する態様がある。永久磁石は、簡素な構造で堅牢であるが、磁束密度の調整を外部から電気的に自由に行うことが難しい、という特性がある。一方、電磁石は、コイル状に巻かれた電線の両端に印加する直流電圧やこの電圧によって変化する電流により、発生する磁力を自由にかつ幅広く変えられる、という特長がある。これらのため、発振出力を一定に保って動作させるマグネトロンには、簡素な構造で比較的低コストの永久磁石が有効であり、一方で、発振出力を頻繁に変化させながら動作させるマグネトロンには、安定発振が得られる動作点(マグネトロンインピーダンス)で動作可能であるように印加電圧や電流で磁束密度を自由に変えられる電磁石が有効となる。
【0003】
マグネトロン用電磁石の従来例を
図7、
図8に示す。このマグネトロン用電磁石101は、コア102の外周に巻線106として電線が巻かれており、コア102の磁極面103の反対側にはヨーク104が取り付けられる。ヨーク104は、一対のコア102、102を接続して磁気回路のループを構成する。ヨーク104により、磁極面103同士が対向する空間に磁力が効率よく発生させられ、また、周囲の影響等を受けずに安定した磁力が得られるようになる。
【0004】
安定発振動作するためには、マグネトロンの設計値にもよるが、一般的に普及しているS、C、X、またはKuバンドのマグネトロンでは100mTから900mT程度の磁束密度が必要となり、その磁束密度を電磁石で発生させるためには、巻線の巻き数を多くした上で大きな電流を流す必要がある。そのため、熱の発生が大きくなり、放熱をしないと巻線の電気抵抗が増加し、電流低下が生じて磁束密度が変化することになる。しかしながら、マグネトロンの動作特性は与えられる磁束密度の変化に敏感であり、磁束密度の温度ドリフトがマイクロ波出力に影響を与えてしまうという問題がある。冷却の手段としては、強制空冷や水冷が考えられる。例えば
図7、
図8に示すように、冷却水配管105を配設し、巻線106の表面に接触させて冷却する方法がある。巻線106を構成する電線は心線が通常は銅であるために熱伝導が良好であるが、コア102や巻線106として多重に巻かれた電線同士の層間絶縁用の被覆が必要であるために熱伝導が阻害され、巻線106内部の熱が外側に排出されないという問題がある。このため、温度が上昇し始めると巻線106の電気抵抗が大きくなり、同じ磁束密度を得るために電流を増加させるとさらに熱の発生を生むことになり、サーマルランナウェイを招いていた。
【0005】
特許文献1の技術は、コイル部分の放熱を改善した発電装置の例であり、コイルで発生した熱をボビンを介してステータコアに伝え、熱伝導の良好なヒートシンクの外周端をステータコアの外周面に露出させてヒートシンクに熱を伝導させ、さらに、一部が一体化しているベース部材に熱を伝導させて温度を低減するようにしている。この場合、冷却ファンを備えているために強制空冷となり、ヒートシンクの露出部やベース部材の表面から放熱が行えるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電磁石では、コアや磁極片が中心に位置し、しかもベース部材のような熱伝導の良好な放熱部材が無いため、熱がこもってしまい、特許文献1の技術のようにコアをルートの一部とする熱伝導を行うことはできない。
【0008】
このように、従来のような構成の電磁石では、マグネトロンを動作させるために必要な磁束密度を電磁石で発生させようとすると、必要な巻線の巻き数と電流が大きくなり、大量の熱が発生する、という問題があった。また、発熱を小さくするために巻線の断面積を大きくすると、比重の大きい銅線を使用しているために重量が増加し、加えて、外形上のコンパクトさも失われる、という問題があった。また、発熱を放置すると温度が上昇し、巻線の抵抗が増加してさらに大きな電流が必要になる悪循環に陥る、という問題があった。また、電流値を制御しないと、磁束密度が温度ドリフトを起こし、マグネトロンの動作点が変化してしまい、出力が変化したり発振の安定度が悪化したりなどする、という問題があった。
【0009】
そこで本発明は、運転時の巻線および磁極の昇温による磁力レベルの不安定化を防止することが可能なマグネトロン用電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、磁性体によって円柱状に形成されて円柱軸心方向の一端に磁極を備えるとともに他端にヨークが接続するコアと、該コアの周囲に電線が多重に巻かれて形成される巻線と、該巻線の外周に接触する巻線周上放熱板と、冷却水が循環する冷却水配管と、を備え、前記巻線の前記円柱軸心方向の端面に接触する巻線端面放熱板が取り付けられ、前記巻線端面放熱板が前記冷却水配管に接触しているとともに前記巻線周上放熱板が前記冷却水配管に接触している、または、前記巻線端面放熱板と前記巻線周上放熱板とが接触しているとともに前記巻線周上放熱板と前記冷却水配管とが接触している、ことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、巻線の軸心方向に沿う周面の熱の伝導効率を高めるための巻線周上放熱板に加えて、巻線の径方向に沿う端面の熱の伝導効率を高めるための巻線端面放熱板が配置されている。このため、巻線の温度上昇が効率よく抑えられる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマグネトロン用電磁石において、前記コアと前記巻線との間に断熱シートが挟まれている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のマグネトロン用電磁石において、前記冷却水配管が、前記巻線周上放熱板と前記巻線端面放熱板とのうちの少なくとも一方に接合されている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載のマグネトロン用電磁石において、前記巻線の内部に挟み込まれて、前記巻線周上放熱板と前記巻線端面放熱板とのうちの少なくとも一方に接触する巻線間放熱板が配設されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、外形を大きくすることなく、巻線の温度上昇を効率よく抑えることができ、安定した磁束密度をマグネトロンに供給することが可能となる。このため、マグネトロンは長時間動作させても一定の動作点で発振を続け、出力や発振安定度を保つことが可能になる。また、巻線に印可する電圧に対してリニアな磁束密度を供給することが可能となる。また、コアおよび磁極の温度上昇を抑えて、絶縁部品の劣化を防止することが可能となるとともに、周囲の製品の耐熱性確保を容易にすることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、コアと巻線との間に断熱シートが配設されるため、巻線の熱がコアへと伝導することが防がれる。この結果、コアおよび磁極の昇温をより抑制することができ、磁束密度特性を安定化させることが可能となり、延いてはマグネトロンの安定した動作をより確実に確保することが可能となる。なお、コアや磁極が昇温すると磁束密度特性が不安定化するという問題がある一方で、コアと巻線との間に断熱シートを配設して断熱すると、コア側への熱伝導が阻害される分だけ巻線が昇温することになるので、単に断熱シートを配設するという構造のみを採用することはできない。これに対し、本発明では、巻線の軸心方向に沿う周面に加えて巻線の径方向に沿う端面の熱の伝導効率を高める工夫を施すようにしているため、コアと巻線との間に断熱シートを配設してコア側への熱伝導を阻害するという構造を採用することができるようになり、これによってコアや磁極の昇温を防ぐことが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、冷却水配管が巻線周上放熱板や巻線端面放熱板に接合されるため、冷却水配管と巻線周上放熱板や巻線端面放熱板との接触状態を確実に維持することができ、巻線周上放熱板や巻線端面放熱板をより確実に冷却することが可能となり、巻線の温度上昇を一層効率よく抑えることが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、巻線の内部に巻線間放熱板が配設されるため、巻線の内部の熱を効率的に伝導させて巻線の外部へと引き出すことができ、巻線の温度上昇を一層効率よく抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の実施の形態1に係るマグネトロン用電磁石の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のマグネトロン用電磁石の断面図である。
【
図3】
図1のマグネトロン用電磁石と従来の構成のマグネトロン用電磁石との、磁極面温度の時間変化の比較を示すグラフである。
【
図4】
図1のマグネトロン用電磁石と従来の構成のマグネトロン用電磁石との、印可電圧と磁極面間の磁束密度との関係の比較を示すグラフである。
【
図5】この発明の実施の形態3に係るマグネトロン用電磁石の概略構成を示す断面図である。
【
図6】この発明の実施の形態4に係るマグネトロン用電磁石の概略構成を示す断面図である。
【
図7】従来の構成のマグネトロン用電磁石の概略構成を示す斜視図である。
【
図8】
図7のマグネトロン用電磁石の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、各図はあくまでもこの発明に係るマグネトロン用電磁石1の概略構成を説明するための図であり、各部の詳細構造や相互の寸法関係を厳密に表すものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1の概略構成を示す斜視図であり、
図2は、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1の断面図である。このマグネトロン用電磁石1は、対面する一対の磁極面3、3の間にマグネトロンを挟み込むように配置して動作させるための電磁石である。
【0022】
マグネトロン用電磁石1は、一対のコア2、2と、各コア2の一端に設けられる磁極面3と、各コア2の他端に取り付けられて一対のコア2、2を連結するヨーク4と、コア2の周囲に形成される巻線6とを備え、運転時の巻線6および磁極面3の温度上昇を抑えるための仕組みとして、コア2と巻線6との間に挟まれる断熱シート5と、巻線周上放熱板7として巻線周上放熱板内段7Aおよび巻線周上放熱板外段7Bと、冷却水配管8とが設けられ、さらに、巻線端面放熱板9として巻線断面放熱板9Aおよび巻線底部放熱板9Bが設けられる。
【0023】
コア2は、電磁石の鉄心として機能するものであり、磁性体からなる材質で円柱状に形成される。一対のコア2、2が、各々の円柱軸心が同軸上に配置されて直列に配置される。
【0024】
磁極面3は、各コア2の円柱軸心方向における一方の端に設けられ、対面する一対の面として形成される。磁極面3は、例えば、コア2の円柱軸心方向における一端が前記円柱軸心方向に対しておよそ垂直に切断された平面として形成されたり、または、コア2の円柱軸心方向における一端に磁性体からなる材質で形成された板状部材(磁極板)が取り付けられて形成されたりする。
【0025】
ヨーク4は、一対の磁極面3、3が対向する空間に磁力を効率よく発生させ、また、周囲の影響を受けずに安定した磁力を得るためのものである。ヨーク4は、各コア2の円柱軸心方向における他方の端(即ち、磁極面3とは反対側の端)に取り付けられる。ヨーク4は、環状に形成され、
図1中の上側の経路41と下側の経路42との2つの経路で一対のコア2、2を連結して磁気回路のループを構成する。
【0026】
断熱シート5は、巻線6からコア2への熱の伝導を抑制してコア2の昇温を防止するためのものであり、一対のコア2、2それぞれの外周に巻かれる。断熱シート5は、絶縁材でありかつ熱伝導率の低い材質によって形成される。断熱シート5として、具体的には例えばノーメックス(登録商標)紙が用いられる。
【0027】
巻線6は、断熱シート5の外周に、銅線などの電気抵抗の小さい材質の電線が多重に巻かれて形成される。つまり、コア2と巻線6との間に断熱シート5が介在することになり、巻線6の熱がコア2や磁極面3へと伝導することが阻害され、これにより、コア2や磁極面3が昇温することが防止される。この実施の形態では、巻線6は、後述する巻線周上放熱板内段7Aを挟んで、コア2側の内側巻線6Aと、コア2からみて反対側の外側巻線6Bとから構成される。
【0028】
図1中の右側の巻線6と左側の巻線6とは、同軸上に配置される一対のコア2、2の円柱軸心に対して同じ回転方向に電線が巻かれて形成され、これら電線が同方向に磁力を発生するように直列に接続される。そして、直列に接続された右側の巻線6および左側の巻線6に直流電圧が印加される。
【0029】
巻線周上放熱板7は、巻線6の軸心方向に沿う周面からの放熱を効率よく冷却水配管8へと伝導させて巻線6の昇温を抑えるためのものである。この実施の形態では、巻線周上放熱板7として、内側巻線6Aの外周に巻線周上放熱板内段7Aが巻かれ、外側巻線6Bの外周に巻線周上放熱板外段7Bが巻かれる。すなわち、コア2の外周に対し、断熱シート5、内側巻線6A、巻線周上放熱板内段7A、外側巻線6B、および巻線周上放熱板外段7Bの順に積層されて各部が形成されたり配設されたりする。
【0030】
巻線周上放熱板7としての巻線周上放熱板内段7Aおよび巻線周上放熱板外段7Bは、熱伝導率の高い材質によって形成され、具体的には例えば銅によって形成される。
【0031】
内側巻線6Aは、コア2の円柱軸心方向における磁極面3側の一部を除いてコア2の外周面を覆うように形成される。そして、巻線周上放熱板内段7Aが、内側巻線6Aの外周面全体を覆うように巻かれる。
【0032】
その上で、外側巻線6Bは、コア2の円柱軸心方向における磁極面3側の一部を除いて巻線周上放熱板内段7Aの外周面を覆うように形成される。そして、巻線周上放熱板外段7Bが、外側巻線6Bの外周面全体を覆うように巻かれる。すなわち、巻線周上放熱板内段7Aの外周面のうちの磁極面3側の一部は、外側巻線6Bや巻線周上放熱板外段7Bによって覆われておらず、露出している。
【0033】
そして、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1は、磁性体によって円柱状に形成されて円柱軸心方向の一端に磁極面3を備えるとともに他端にヨーク4が接続するコア2と、該コア2の周囲に電線が多重に巻かれて形成される巻線6と、該巻線6の外周に接触する巻線周上放熱板7と、冷却水が循環する冷却水配管8と、を備え、巻線6の円柱軸心方向の端面に接触する巻線端面放熱板9が取り付けられ、巻線端面放熱板9が冷却水配管8に接触しているとともに巻線周上放熱板7が冷却水配管8に接触している、または、巻線端面放熱板9と巻線周上放熱板7とが接触しているとともに巻線周上放熱板7と冷却水配管8とが接触している、ようにしている。
【0034】
巻線端面放熱板9は、巻線6の径方向に沿う端面からの放熱を効率よく冷却水配管8へと伝導させて巻線6の昇温を抑えるためのものである。巻線端面放熱板9として、外側巻線6Bの磁極面3側の端面に対して巻線断面放熱板9Aが配設され、内側巻線6Aおよび外側巻線6Bのヨーク4側の端面に対して巻線底部放熱板9Bが配設される。なお、内側巻線6Aの磁極面3側の端面に対しても巻線断面放熱板(図示していない)が配設されるようにしてもよい。
【0035】
巻線端面放熱板9としての巻線断面放熱板9Aおよび巻線底部放熱板9Bは、熱伝導率の高い材質によって形成され、具体的には例えば銅によって形成される。
【0036】
冷却水配管8は、内部に冷却水を循環させて、巻線周上放熱板内段7Aや巻線周上放熱板外段7Bならびに巻線断面放熱板9Aや巻線底部放熱板9Bを冷却するためのものである。冷却水配管8は、この実施の形態では、ヨーク4の外側から内側へと進入して、
図1中の右側の巻線6の内側巻線6A・巻線周上放熱板内段7Aを概ね一周してから外側巻線6B・巻線周上放熱板外段7Bを概ね一周した上で左側の巻線6へと延びて、内側巻線6A・巻線周上放熱板内段7Aを概ね一周してから外側巻線6B・巻線周上放熱板外段7Bを概ね一周して、ヨーク4の外側へと出るという一繋がりの経路を有するものとして配設される。
【0037】
冷却水配管8は、内側巻線6A・巻線周上放熱板内段7Aを概ね一周する部分が巻線周上放熱板内段7Aおよび巻線断面放熱板9Aに接触するように配設され、内側巻線6Aや外側巻線6Bから巻線周上放熱板内段7Aや巻線断面放熱板9Aへと伝導される熱を除熱するものとして働き、さらに、外側巻線6B・巻線周上放熱板外段7Bを概ね一周する部分が巻線周上放熱板外段7Bおよび巻線底部放熱板9Bに接触するように配設され、内側巻線6Aや外側巻線6Bから巻線周上放熱板外段7Bや巻線底部放熱板9Bへと伝導される熱を除熱するものとして働く。
【0038】
次に、このような構成のマグネトロン用電磁石1の作用などについて説明する。
【0039】
マグネトロン用電磁石1は、直列に配置される一対のコア2、2それぞれの磁極面3、3の間に管球部が挟み込まれるようにマグネトロンが配置され、対向する一対の磁極面3、3の間に磁力を発生させ、マグネトロンの作用空間に磁力を与えるものとして機能する。
【0040】
直列に接続された右側の巻線6および左側の巻線6に直流電圧が印加されると、相対する磁極面3、3には異なる磁極の磁力が発生し、対向する一対の磁極面3、3の間に磁力が生じる。これら対向する一対の磁極面3、3の間に磁力とカソード軸とが平行になるようにマグネトロンが配置されると、マグネトロンの作用空間に、一定方向の磁力が強め合う方向で発生することになる。そして、マグネトロンの作用空間にはカソード軸やアノード軸に平行な強い磁力が発生し、カソードから放出された電子が作用空間内を周回する際に進行方向を曲げられて、カソードの周囲を旋回してキャビティの共振周波数で発振動作するようになる。
【0041】
相対する磁極面3、3の間に生じる磁力は、右側の巻線6および左側の巻線6に流す電流によって容易に制御することができ、マグネトロンが動作するのに適した磁束密度を供給することができる。そして、右側の巻線6および左側の巻線6に電流が流されることにより、これら右側の巻線6および左側の巻線6が発熱する。
【0042】
巻線6の内側巻線6Aで発生する熱は、断熱シート5の働きによってコア2へと伝導することが妨げられる一方で、巻線周上放熱板内段7Aおよび巻線底部放熱板9Bへと伝導し、さらに冷却水配管8へと伝導し、冷却水配管8の働きによって除熱される。
【0043】
巻線6の外側巻線6Bで発生する熱は、巻線周上放熱板内段7A、巻線周上放熱板外段7B、巻線断面放熱板9A、および巻線底部放熱板9Bへと伝導し、さらに冷却水配管8へと伝導し、冷却水配管8の働きによって除熱される。
【0044】
図3に、磁極の温度の時間変化についての、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1と従来の構成としてこの実施の形態と比べて断熱シート5ならびに巻線断面放熱板9Aおよび巻線底部放熱板9Bを有しないマグネトロン用電磁石との比較を示す。
【0045】
図3から、直流電圧の印加開始から120分を経過した時点において、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1の方が、従来の構成のマグネトロン用電磁石と比べて、磁極面3の昇温が8.2℃低減されることが確認される。磁極面3にとって8.2℃の温度低減効果は大きく、マグネトロンの動作特性(具体的には、発振特性)に与える影響を低減すること、また、絶縁部品の劣化を防止すること、さらに、周囲の製品の耐熱性確保を容易にすることが可能となる。なお、磁極面3においてこれだけの昇温抑制効果が確保されることに鑑みると、断熱シート5による断熱効果と、巻線断面放熱板9Aおよび巻線底部放熱板9Bによる温度低減効果とのうち、巻線断面放熱板9Aおよび巻線底部放熱板9Bによる温度低減効果の方が大きく寄与していると考えられる。
【0046】
図4に、
図3に示す温度の時間変化が現出した際の、巻線の両端に印可する電圧と対向する一対の磁極面の間の磁束密度との関係についての、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1と従来の構成のマグネトロン用電磁石との比較を示す。
【0047】
上述において
図3に示されるものとして確認したように、従来の構成のマグネトロン用電磁石では、電圧を印加すると磁極の大きな昇温がみられる。そして、磁極が昇温した場合には磁束密度を維持するために電流を増加させる必要があるので、巻線や磁極の温度がさらに上昇し、長時間使用時の磁極の温度が非常に高くなる。このため、
図4に示されるように、従来の構成のマグネトロン用電磁石では、印加電圧と磁束密度との関係は、印加電圧が大きくなると、印加電圧の増加と磁束密度の増加とが比例しない現象が確認される。これに対し、
図4に示されるように、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1では、温度上昇が低減されるため、従来の構成のマグネトロン用電磁石でみられる現象が改善され、印加電圧の増加と磁束密度の増加とがほぼ比例する関係が得られることが確認される。
【0048】
図3や
図4に示す結果から、この発明に係るマグネトロン用電磁石1によれば、マイクロ波を発振するマグネトロンに対して、温度ドリフトを抑えた安定な磁束密度を長時間にわたって供給可能であることが確認される。
【0049】
このように、このマグネトロン用電磁石1によれば、外形を大きくすることなく、巻線6の温度上昇を効率よく抑えることができ、安定した磁束密度をマグネトロンに供給することが可能となる。このため、マグネトロンは長時間動作させても一定の動作点で発振を続け、出力や発振安定度を保つことが可能になる。また、巻線6に印可する電圧に対してリニアな磁束密度を供給することが可能となる。また、コア2および磁極面3の温度上昇を抑えて、絶縁部品の劣化を防止することが可能となるとともに、周囲の製品の耐熱性確保を容易にすることが可能となる。
【0050】
このマグネトロン用電磁石1によれば、また、コア2と巻線6との間に断熱シート5が配設されるため、巻線6の熱がコア2へと伝導することが防がれる。この結果、コア2および磁極面3の昇温をより抑制することができ、磁束密度特性を安定化させることが可能となり、延いてはマグネトロンの安定した動作をより確実に確保することが可能となる。なお、コア2や磁極面3が昇温すると磁束密度特性が不安定化するという問題がある一方で、コア2と巻線6との間に断熱シート5を配設して断熱すると、コア2側への熱伝導が阻害される分だけ巻線6が昇温することになるので、単に断熱シート5を配設するという構造のみを採用することはできない。これに対し、本発明では、巻線6の軸心方向に沿う周面に加えて巻線6の径方向に沿う端面の熱の伝導効率を高める工夫を施すようにしているため、コア2と巻線6との間に断熱シート5を配設してコア2側への熱伝導を阻害するという構造を採用することができるようになり、これによってコア2や磁極面3の昇温を防ぐことが可能となる。
【0051】
(実施の形態2)
この実施の形態では、実施の形態1と同等の構成において、冷却水配管8のうちの少なくとも一部が、巻線周上放熱板内段7A、巻線周上放熱板外段7B、巻線断面放熱板9A、および巻線底部放熱板9Bのうちの少なくとも一つに、はんだ付けやろう付けなどによって接合されて固着されるようにしている。
【0052】
冷却水配管8が、上記放熱板7A、7B、9A、9Bに接合されることにより、冷却水配管8と上記放熱板7A、7B、9A、9Bとの接触状態が確実に保持され、上記放熱板7A、7B、9A、9Bの熱を冷却水配管8へとより確実に効率よく伝導させることが可能となる。
【0053】
冷却水配管8による除熱効果・冷却効果をより発揮させるためには、各放熱板7A、7B、9A、9Bが冷却水配管8へと接触しかつ接合される部分はできる限り多い方が好ましい。すなわち、冷却水配管8のうち、内側巻線6A・巻線周上放熱板内段7Aを概ね一周する部分が巻線周上放熱板内段7Aおよび巻線断面放熱板9Aにできる限り長い区間にわたって接触するとともに接触する部分の全体が接合されることが好ましく、また、外側巻線6B・巻線周上放熱板外段7Bを概ね一周する部分が巻線周上放熱板外段7Bおよび巻線底部放熱板9Bにできる限り長い区間にわたって接触するとともに接触する部分の全体が接合されることが好ましい。
【0054】
この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1によれば、冷却水配管8が巻線周上放熱板7や巻線端面放熱板9に接合されるため、冷却水配管8と巻線周上放熱板7や巻線端面放熱板9との接触状態を確実に維持することができ、巻線周上放熱板7や巻線端面放熱板9をより確実に冷却することが可能となり、巻線6の温度上昇を一層効率よく抑えることが可能となる。
【0055】
(実施の形態3)
図5は、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1の概略構成を示す断面図である。この実施の形態では、巻線間放熱板として、巻線間垂直放熱板10(10A、10B)が設けられる。なお、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
巻線間垂直放熱板10は、例えば銅などの熱伝導率の高い材質によって円環板状に形成され、コア2が円環中心部を貫通してコア2の円柱軸心方向に対して垂直に(言い換えると、放射状に)配置される。ただし、巻線間垂直放熱板10は、途切れることなく連続してコア2を一周するものとして配設されるようにしてもよく、或いは、部分的に途切れているものとして配設されるようにしてもよい。
【0057】
巻線間垂直放熱板10は、内側巻線6Aの磁極面3側の端面から巻線断面放熱板9Aまでの間において、内側巻線6Aの内部に挟み込まれて配設されたり(
図5中の符号10A)、或いは、巻線断面放熱板9Aから巻線底部放熱板9Bまでの間において、内側巻線6Aおよび外側巻線6Bの内部に挟み込まれて配設されたりする(
図5中の符号10B)。この場合、巻線間垂直放熱板10Bは、巻線周上放熱板内段7Aを貫通して設けられる。なお、巻線間垂直放熱板10は、
図5中の符号10Aと符号10Bとのうちのどちらか一方のみに配設されるようにしてもよく、両方に配設されるようにしてもよい。
【0058】
巻線間垂直放熱板10Aは、内側巻線6Aの内部の熱を外部へと引き出すように伝導するため、巻線周上放熱板内段7Aに、少なくとも一部が接触するように設けられる。巻線間垂直放熱板10Bは、内側巻線6Aおよび外側巻線6Bの内部の熱を外部へと引き出すように伝導するため、巻線周上放熱板内段7Aと巻線周上放熱板外段7Bとのうちの少なくとも一方に、少なくとも一部が接触するように設けられる。
【0059】
この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1によれば、巻線6の内部に巻線間垂直放熱板10(10A、10B)が配設されるため、内側巻線6Aや外側巻線6Bの内部の熱を効率的に伝導させて巻線6A、6Bの外部へと引き出すことができ、具体的には巻線周上放熱板内段7Aや巻線周上放熱板外段7Bへと伝導させることができ、最終的に冷却水配管8へと伝導させて巻線6の温度上昇を一層効率よく抑えることが可能となる。
【0060】
(実施の形態4)
図6は、この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1の概略構成を示す断面図である。この実施の形態では、巻線間放熱板として、巻線間平行放熱板11(11A、11B)が設けられる。なお、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
巻線間平行放熱板11は、例えば銅などの熱伝導率の高い材質によって端面開放の円筒状に形成され、コア2が円筒中空部を貫通してコア2の円柱軸心方向に対して平行に配置される。ただし、巻線間平行放熱板11は、途切れることなく連続してコア2を一周して取り巻くものとして配設されるようにしてもよく、或いは、部分的に途切れているものとして配設されるようにしてもよい。
【0062】
巻線間平行放熱板11は、内側巻線6Aの内部に挟み込まれて配設されたり(
図6中の符号11A)、或いは、外側巻線6Bの内部に挟み込まれて配設されたりする(
図6中の符号11B)。なお、巻線間平行放熱板11は、
図6中の符号11Aと符号11Bとのうちのどちらか一方のみに配設されるようにしてもよく、両方に配設されるようにしてもよい。
【0063】
巻線間平行放熱板11Aは、内側巻線6Aの内部の熱を外部へと引き出すように伝導するため、巻線底部放熱板9Bに、少なくとも一部が接触するように配設される。巻線間平行放熱板11Bは、外側巻線6Bの内部の熱を外部へと引き出すように伝導するため、巻線断面放熱板9Aと巻線底部放熱板9Bとのうちの少なくとも一方に、少なくとも一部が接触するように配設される。
【0064】
この実施の形態に係るマグネトロン用電磁石1によれば、巻線6の内部に巻線間平行放熱板11(11A、11B)が配設されるため、内側巻線6Aや外側巻線6Bの内部の熱を効率的に伝導させて巻線6A、6Bの外部へと引き出すことができ、具体的には巻線断面放熱板9Aや巻線底部放熱板9Bへと伝導させることができ、最終的に冷却水配管8へと伝導させて巻線6の温度上昇を一層効率よく抑えることが可能となる。
【0065】
なお、実施の形態3と実施の形態4とを比較すると、実施の形態3では、コア2に対して巻線間垂直放熱板10(10A、10B)を予め取り付けた上で、仕切りが形成されたボビンのようにコア2を使うことによって巻線6を巻き易いという利点がある。一方、実施の形態4の方が、実施の形態3と比べ、巻線間平行放熱板11(11A、11B)と巻線6との接触面積を大きくし易いため、巻線6の内部の熱を効率的に伝導させて巻線6の外部に引き出す効果を大きくし易いという利点がある。
【0066】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態ではコア2および巻線6を含む構成が離間して2か所に配設されるとともにこれら離間する2か所のコア2および巻線6を含む構成を冷却水配管8が一繋がりで巡るようにしているが、コアおよび巻線を含む構成が1つのみ設けられるようにしてもよい。一方のみのコアおよび巻線によっても磁気回路は構成可能であり、一方のみのコアおよび巻線に対しても本発明は同様の効果を発揮し得る。
【0067】
また、上記の実施の形態ではヨーク4は
図1中の上側の経路41と下側の経路42との2つの経路で一対のコア2、2を連結するようにしているが、ヨーク4は、一対のコア2、2を、1つの経路で連結するようにしてもよく、また、3つ以上の経路で連結するようにしてもよい。
【0068】
また、上記の実施の形態では巻線6が内側巻線6Aおよび外側巻線6Bの2段構成とされているが、巻線6が1段構成とされるようにしてもよい。この場合にも、断熱シート5による断熱効果や巻線底部放熱板9Bによる温度低減効果は同様に発揮される。なお、この場合、上記の実施の形態のように内段と外段との区別なく、1つの巻線周上放熱板が配設される。
【0069】
また、上記の実施の形態では巻線6の径方向に沿う端面に接触する巻線端面放熱板として巻線断面放熱板9Aおよび巻線底部放熱板9Bが配設されるようにしているが、巻線端面放熱板として巻線断面放熱板9Aと巻線底部放熱板9Bとのうちのどちらか一方のみが配設されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 マグネトロン用電磁石
2 コア
3 磁極面
4 ヨーク
41 上側の経路
42 下側の経路
5 断熱シート
6 巻線
6A 内側巻線
6B 外側巻線
7 巻線周上放熱板
7A 巻線周上放熱板内段
7B 巻線周上放熱板外段
8 冷却水配管
9 巻線端面放熱板
9A 巻線断面放熱板
9B 巻線底部放熱板
10、10A、10B 巻線間垂直放熱板
11、11A、11B 巻線間平行放熱板
101 従来の構成のマグネトロン用電磁石
102 コア
103 磁極面
104 ヨーク
105 冷却水配管
106 巻線