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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-07
(45)【発行日】2023-03-15
(54)【発明の名称】サンプルを提供する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/90 20060101AFI20230308BHJP
【FI】
G01N30/90
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020511341
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018072473
(87)【国際公開番号】W WO2019038245
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】17187746.7
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ハーブ,サラ
(72)【発明者】
【氏名】ホリスバーガー,オーレル
(72)【発明者】
【氏名】フェイ,ユノウス
(72)【発明者】
【氏名】オルハン,ジャン-バプテスト
(72)【発明者】
【氏名】マート,オリヴィエ
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特公昭55-10026(JP,B2)
【文献】実開昭56-037057(JP,U)
【文献】特開2016-161477(JP,A)
【文献】特開2006-084358(JP,A)
【文献】特表2002-542456(JP,A)
【文献】実開昭58-039546(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/04,
G01N 30/90-30/91,
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄層クロマトグラフィーにおいて薄層プレート(2)から分析対象試料のサンプルを提供する方法において、前記サンプルは、前記薄層プレート(2)から除去されて、試料室(3)中に送給される方法であって、
前記サンプルは、カニューレ(6)の受入れ開口(8)に配置されたブレード(9、18)を用いて、前記薄層プレート(2)の表面(10)から除去されて、前記カニューレ(6)を通り、前記カニューレ(6)に接続された前記試料室(3)へと送給され
薄層プレート(2)からサンプルを除去する間に、過剰な接触圧力でブレード(9、18)が前記薄層プレート(2)に貫入するのを防止するために、ブレード(9、18)を備えたカニューレ(6)を、バネ力に抗して撓ませること、または前記カニューレ(6)の受入れ開口(8)におけるブレード(18)を、前記カニューレ(6)の前記受入れ開口(8)に対して、バネ力に抗して撓ませることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
カニューレ(6)を用いて薄層プレート(2)から除去されたサンプルを、受入れ開口(8)から前記カニューレ(6)中に、さらに前記カニューレ(6)を通り試料室(3)中に吸引するために、前記試料室(3)内に減圧を発生させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルを除去して送給した後に、サンプルを溶解させるために、試料室(3)を溶媒で充填することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
薄層プレート(2)からサンプルを除去するために、変位装置(20)を用いて、カニューレ(6)と前記薄層プレート(2)の表面(10)とを、相対的に変位させることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
分析対象試料を包含する、薄層プレート(2)の表面(10)の光学像を、光学記録装置を用いて生成すること、および
薄層プレート(2)からサンプルを除去するために、変位装置(20)を用いて、薄層プレート(2)の表面(10)に対して、カニューレ(6)が薄層プレート(2)の表面(10)上のエリア内部で変位される、薄層プレート(2)の表面(10)上のエリアが、評価装置を用いて指定されること
を特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
薄層クロマトグラフィーにおいて、薄層プレート(2)から分析対象試料のサンプルを提供する装置(1)において、前記薄層プレート(2)から前記サンプルを除去するための除去装置と、前記サンプルをその中に収集して、後続の分析のために提供することのできる、試料室(3)とを有する、装置(1)であって、
前記除去装置は、カニューレ(6)の受入れ開口(8)に配置されたブレード(9、18)を有する、カニューレ(6)を有し、前記カニューレ(6)は、前記試料室(3)に接続され
ばね装置(16)のばね力に抗して撓むことが出来る、ブレード(9)を備えるカニューレ(6)が、ばね装置(16)を介して支持装置(15)に支持されていること、またはばね装置(17)のばね力に抗して撓むことが出来るブレード(18)が、ばね装置(17)を介して、カニューレ(6)または試料室(3)に対して支持されていることを特徴とする、前記装置(1)。
【請求項7】
ブレード(9)が、カニューレ(6)の受入れ開口(8)の縁部を形成することを特徴とする、請求項に記載の装置(1)。
【請求項8】
ブレード(18)が、カニューレ(6)の受入れ開口(8)の縁部から距離をおいて配設されていることを特徴とする、請求項に記載の装置(1)。
【請求項9】
ブレード(18)が、少なくとも部分的に直線で延びる、刃先を有することを特徴とする、請求項からのいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項10】
カニューレ(6)とブレード(9、18)は、変位装置(20)を用いて、薄層プレート(2)の表面(10)に対して変位させることができることを特徴とする、請求項からのいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項11】
試料室(3)が、減圧発生装置(26)に接続されいることを特徴とする、請求項から10のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項12】
試料室(3)が、溶媒充填装置(27)および/または洗浄液充填装置に接続されていることを特徴とする、請求項から11のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項13】
装置(1)が、自動化することが可能であるとともに、それを用いてブレード(9、18)を備えるカニューレ(6)と、薄層プレート(2)の表面(10)とを相対的に変位させることが可能である、変位装置(20)を有する、請求項から12のいずれか一項に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層クロマトグラフィーにおける薄層プレートから、分析対象試料のサンプルを提供する方法に関し、ここでサンプルは、薄層プレートから除去されて、試料室へと送給される。
【背景技術】
【0002】
薄層クロマトグラフィーにおいて、分析対象試料は、薄層プレートの開始エリアに塗布される。薄層プレートは、通常は寸法的に安定であり、固体で、通常は細孔質かつ/または粒状の分離物質、例えばシリカゲルなどで被覆されている、支持プレートを有する。分析対象試料を開始エリアに塗布した後に、移動相が薄層プレートに送給され、最初に分析対象試料の開始エリアを通り、続いて、薄層プレートに沿って延びる分離物質内の分離ゾーンを通って流動する。開始エリアに塗布された試料は、移動相によって連行される。
【0003】
試料または試料の個々の成分と、分離物質との間の相互作用が強いほど、移動相と共に分離ゾーン上をより低速で、試料が流動するか、または試料の個々の成分が流動する。このようにして、異なる流動速度によって、異なる試料間、または試料の異なる成分間の空間的分離を行うことができる。分離ゾーン上での空間的分離の後に、好適な検査器具および測定器具を用いて、個々の試料または個々の試料成分を、互いに独立して評価、例えば、識別することができる。
【0004】
分離ゾーン上に分布する試料の分析を可能にする、様々な方法が知られている。この目的に好適な試料は、例えば、呈色反応(colour reactions)を使用するか、または光学分析によって検出することができる。その他の分析に対しては、薄層プレートの分析試料のサンプルは、分離ゾーンの指定エリアから取り出して、測定装置へと転送しなくてはならない。このために、支持プレート上の指定エリアに位置する分離層は、通常は、分離物質および試料物質がその中に位置して、溶離または溶解した状態で、支持プレートから除去され、この場合に、分離物質は、後続の評価において考慮されない。薄層プレートから分析対象試料のサンプルを取り出すために、様々な方法および装置が、同様に開発されている。
【0005】
実践から、例えば、薄層プレートの指定エリアは、具体的には、強力なレーザービームで照射され、そこに位置する分離物質は、それによって、その中に存在する試料物質と共に、支持プレートから除去されることが知られている。レーザービームは、非常に小さい部位に焦点を当てて、薄層プレートのサンプルの除去中に、良好な空間解像度を達成することを可能にする。しかしながら、定量的な分析は、特に、レーザービームに対するそれの反応、結果的にそれらの除去挙動が大幅に異なることがあり、その後の分析および評価が歪曲されることを意味する、複数の異なる成分を含む試料の場合には、実質的に不可能であることがわかっている。
【0006】
さらに、実践から、中空シリンダの開口端に配置されたリング形シールを有する中空シリンダが、上方から薄層プレート上に押し付けられて、リング形シールを用いて分離層上の試料エリアを画定して、密封することが知られている。溶媒が、中空シリンダの空隙に導入され、それが、リング形ブレードによって画定された試料エリアにおける分離層から分析対象試料のサンプルを溶解させるか、またはその中に埋め込まれた試料と共に、分離層から分離物質の一部分を溶解させる。分析対象試料のサンプルが富化された溶媒を、次いで、測定機器へと転送することができる。この方法の欠点は、分析対象試料エリアの、密封が不適切であることが多いことであり、溶媒およびその中に溶解した任意の試料構成成分が、画定された試料エリアから頻繁に逸出することを意味する。
【0007】
信頼性のあるシールをもたらすために、異なる分離層のそれぞれの場合に対して、特に異なる支持プレートに対して、リング形のシールを備える中空シリンダに対する異なる接触圧力が必要であり、このことが、サンプルの提供をより困難にし、ルーチンの実験室業務において、頻繁な個別の適合が必要となることがわかっている。さらに、適切であるとみなされる密封効果は、分離物質の被覆が、リング形シールの近傍において損傷して、例えば、分離層においてクラックが形成されるか、または分離層の隣接エリアが剥落するような、高い接触圧力を必要とすることが多い。このために、薄層プレート上の中空シリンダの2つの隣接する配設間に大きな空間的間隔が必要であり、それがある場合には、近接する試料エリアは、評価されたとしても不完全になるだけであることを意味する。
【0008】
リング形シールを有する中空シリンダの使用についてのさらなる問題は、分離層が、少なくとも100μmの均一な厚さでなくてはならないことである。支持プレート上の分離物質の層厚がより薄い場合には、リング形シールの接触圧力が比較的高い場合においても、確実な密封を有効にするために、リング形シールによって圧縮された分離物質が、十分に突き固められない可能性がある。しかしながら、少ない試料材料で実行することのできる高速薄層クロマトグラフィーに対する要望の観点においては、100μm未満の厚さの、できる限り薄い分離層が有利であり、上述の方法は使用できないことを意味している。
【0009】
さらなる欠点は、試料の量の完全な溶解に必要であるとともに、分離層からリング形シールによって画定された分析エリア内に位置する試料を溶解させるために必要である、溶媒の量にあると考えられる。溶媒の連続する流れが、最初に分析エリア内の分離層へと、またはそれを通過して流され、続いて測定器具、例えば質量分析計に送給される場合には、溶媒の必要量のために、および分離層から試料が漸進的にしか溶解しないことにより、個々の測定ピークは比較的幅が広く、このことはその評価をより困難にする。
【0010】
同様に、毛細管またはピペットチップを、薄層プレートの表面上の近くに移動させて、毛細管から垂下する好適な溶媒の液滴を、薄層プレート上の試料エリアと接触させることが知られている。例えば、数秒の接触期間中に、分析対象試料のサンプルが、試料エリアから出て、垂下する液滴内に溶解され、この液滴を、続いて、その中に溶解したサンプルと共に、毛細管を通り吸引して、測定器具へと転送することができる。しかしながら、この方法は、液滴が分離層によって吸着されないが、代わりに、液滴がそれと接触している分離層のエリアからのサンプルの溶解の後に、再び、毛細管を通して吸引できるようにするために、十分な疎水性を有する分離層の場合にのみ使用可能である。
【0011】
薄層プレートから分析対象試料のサンプルを提供するための、実践から知られているこれらの方法は、薄層プレートの分離ゾーン上で空間的に分離されている試料の、迅速で実質的に自動化された分析をすでに可能にしている。しかしながら、実践から知られているこれらの方法の欠点と見なされているのは、試料の個別の分析に対して必要となるとともに、分析対象試料がそこから採取される、薄層プレートの表面は、リング形シールによるか、または液滴サイズによって事前決定される、最小サイズ未満とすることができないことである。現在、2mm×4mmの楕円形の横断面エリアまたは直径約4mmの円形の横断面エリアを有する、リング形シールが知られており、通例である。多くの場合に、毛細管を備える市販の装置の使用時に、同様に、直径で約2mmの液滴サイズが生じ、このことは、同程度のサイズであることが多い接触エリアにつながる。
【0012】
多くの場合に、分析対象試料は、分離ゾーンにおいて、分析対象試料のサンプルの提供に対して実践から知られている方法を使用して空間的に解像できるよりも、はるかにより細密に分布している可能性がある。すなわち、例えば、分離ゾーンにおいて互いに空間的に画定された複数の試料エリアが、毛細管から垂下する液滴によって同時に収集されて、そうして一回の分析に供されることになる。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、分析用の薄層プレートに由来するサンプルが、空間的にできる限り小さい、薄層プレートの明確に定義されたエリアから採取できるように、薄層プレートから分析対象試料を提供する方法を設計することである。
【0014】
この目的は、本発明によれば、サンプルが、カニューレの受入れ開口に配置されたブレードを用いて、薄層プレートの表面から除去されて、カニューレを通して、カニューレに接続された試料室に送給されることにおいて達成される。ここでの試料のサンプルとは、薄層クロマトグラフィーによる分離が行われた後に、分離物質のある区域に位置する、試料の部分である。本発明による方法によれば、試料のサンプルは、それが位置する分離物質の区域と共に、除去される。カニューレは、受入れ開口を画定する縁部が、少なくとも部分的にブレードとして形成されている、中空針とすることができる。
【0015】
同様に、カニューレの受入れ開口が、ブレードを備えず、代わりに、例えば、鈍い形状または丸みを付けた形状にするか、または漏斗形に拡幅させること、および別個に製作されたブレードを、受入れ開口の領域内でカニューレに接続して、ブレードによって薄層プレートから除去されたサンプルを、受入れ開口を通してカニューレ中に導入または送給できるように、好適な方法で位置合わせすることも考えられる。この場合に、カニューレは、毛細管または管状の中空シリンダのような形状とすることができる。
【0016】
本発明によれば、カニューレは、典型的にはプラスチック製または好ましくは金属製である、細い管、ホースまたは中空針であることが好ましい。 カニューレの直径は通常、その長さにわたって一定である。 ただし、直径が変わってもよい。
カニューレの直径は、非常に小さくすることができ、例えば、わずか1ミリメートル以下、例えば0.3から1.5mmの間、好ましくは0.5から1mmの間とすることができる。非常に薄いカニューレと、カニューレの開口端において、受入れ開口の縁部を形成するブレードとにより、サンプルは、薄層プレートから、具体的には、たとえば、0.5mm×1mm以下の非常に小さな分析領域から、除去することができる。したがって、後続の分析に必要な薄層プレートのサンプルの除去中にも、非常に高い空間分解能が可能である。 サンプルはブレードの助けを借りて機械的に除去されるため、本方法のこのステップでは溶媒を必要としない。
【0017】
除去されたサンプル、またはその中に存在する量の試料の溶解は、好ましくはできるだけ少ない量の溶媒を使用して、後の時点で実行することができる。このようにして、例えば、少量の溶媒による質量分析計を使用した後続の測定中に、比較的鋭い測定ピークを発生させて、簡単で正確な評価を容易にすることができる。さらに、本発明による装置および本発明による方法は、測定感度の向上を可能にする。定義された小さなサイズのエリアまたはバンドを非常に正確に除去することにより、隣接する試料バンドによる汚染のリスクが低減される。少量の溶媒内で除去されたサンプルを採取する可能性により、たとえば希釈が大きい場合に検出限界を下回るような、少量の試料物質の測定も可能になる。
【0018】
同様に、特に別個に製造されたブレードとの組み合わせにおいて、カニューレが、例えば、2ミリメートル、または3ミリメートル以上、好ましくは2から5mmの、より大きな直径を有することが有利であると考えられる。カニューレ自体の受入れ開口に配置されたブレードは、薄層プレート上で、またはそれを通してブレードを変位させる間に、ブレードによって除去されるサンプルを可能な限り小さく設定できるように、例えば1ミリメートル以下の可能な限り最小の寸法を有することが有利である。このようにして、薄層プレートの分離層からの材料の削り取り、または切り出しにより、薄層プレートの非常に小さく、空間的に狭く画定された表面領域から、サンプルを溶解させて、カニューレを通して試料室に送給することが可能である。
【0019】
試料室は、カニューレに直接接続された容器にすることができる。 カニューレは永続的に、または取り外し可能に容器に接続することができる。同様に、試料室は、カニューレに一体化されたエリアとするか、または受け入れ開口のブレードによって除去され、受入れ開口を通してカニューレに導入されたサンプルをその中に収集することのできる、カニューレの区域とすることも可能である。
【0020】
カニューレは、ブレードによって薄層プレートから切り離されたサンプルの本質的にすべてが、受入れ開口を通り、カニューレ中に、その後にカニューレを通り試料室中に輸送されるように、除去操作中に薄層プレートの表面のすぐ上に配置されるのが有利である。このようにして、追加の対策がなくても、薄層プレートから切り離されたサンプルの無視できる程度の割合のみが、カニューレの捕捉開口を通って収集されずに、後続の分析に対して、失われる可能性があるにすぎない。
【0021】
ブレードによって薄層プレートの表面から除去されたサンプルの個々の粒子が、受入れ開口を通過してカニューレに入り、続いて試料室に入る、ということにならないというリスクを低減するために、薄層プレートは、分析対象試料を含む表面が下向きになるように配設し、ブレードを備えるカニューレを、下から薄層プレートに向かって移動させることができる。ブレードを用いて薄層プレートから除去されたサンプル粒子は、重力のためにそこに配置されたカニューレ中に下向きに落下する。
【0022】
カニューレを用いて薄層プレートから除去されたサンプルの、可能な最も完全な収集を容易にするために、本発明概念の実施態様によれば、カニューレによって薄層プレートから除去されたサンプルを、カニューレの受入れ開口を通して、さらにカニューレを通して試料チャンバ中に吸引するために、試料室に減圧が発生される。試料室で発生した減圧により吸引効果が生じ、カニューレの受入れ開口の環境内の空気が吸入されて、カニューレを通り試料室中に吸引される。カニューレの受入れ開口に配置されたブレードを用いて薄層プレートから切り離されたサンプル粒子が、集められて、カニューレを通り試料室中に吸引される。試料室は、適切なフィルター装置によって真空発生装置と切り離されているため、試料室に吸入されたサンプル粒子はそこで保持される。
【0023】
カニューレによる除去されたサンプルの収集が、減圧を用いて支持されるか否かにかかわらず、本発明による方法を用いれば、薄層プレート上の空間的に狭く画定された分析エリアから分析対象試料の少量サンプルを除去して、それを試料室に送給することが可能である。調査によれば、例えば、ブレードとカニューレの好適な設計によれば、0.5mm未満、またはさらに0.3mm未満の幅を有する分析対象試料の薄いストリップを切り離して、その工程で切り離されたサンプルの本質的にすべてを、カニューレを通り試料室中に送給することが容易に可能である。
【0024】
そのようなストリップは長さが、1mm以下と非常に短くすることができる。ストリップの長さは、例えば、5mmまたは10mmとすることもできる。ストリップの長さは、標準薄層プレートの場合には、有利には、例えば4mmである分離ゾーンの幅に合致される。分離ゾーンの経路に対して横断方向に位置合わせされた、5mmまたは6mmの長さのストリップを使用すれば、分離ゾーンの幅全体にわたって延びる分析エリアを、次いで除去することができる。このようにして、定量分析を実行することも可能である。
【0025】
ブレードは、薄層プレートの表面上を、毎秒10mmを超える、好ましくは20mmを超える、またはさらに25mmを超える速度、例えば、毎秒10mmから40mmの間の速度で移動させることが可能であり、その結果として、分析に必要なサンプルの除去に必要な合計時間が、非常に短く、数秒の領域に保つことができる。この速度は、大幅に小さく指定することも可能であり、例えば、毎秒10mm未満または5mm未満、例えば、毎秒0.5から10mmの間とすることができる。特に、薄層プレートからの短いストリップ長または本質的に点状でのサンプルの除去の場合には、毎秒1mm以下の速度も有利である。
全体的に、薄層プレートの表面上でブレードが変位される速度は、このように、除去問題と合致させて、通常は毎秒0.5mmから100mmの間、好ましくは毎秒1から40mmの間の範囲で、自由に選択可能である。
【0026】
薄層プレートからより大きいサンプルを除去するためには、互いに沿ってに配列された複数のストリップを、ブレードを用いて連続して除去して、薄層プレート上の指定された分析エリアを、それによって完全に除去することができる。同様に、複数の除去操作を同時に実行するために、互いに並んだ1つまたは2つ以上のブレードをそれぞれが備える、複数のカニューレおよび試料室を配列することが可能である。
【0027】
空間的に狭く画定された分析エリアにおける非常に小さいサンプルと、比較して、はるかに大きい分析エリアにおける非常に大きいサンプルの両方を、それぞれの場合に可能な最短の方法期間において除去できるためには、異なる幅のブレードを備える複数の異なるカニューレを準備しておき、それぞれの目的に対応するブレードを備える、最も好適なカニューレを使用することが有利である場合がある。同様に、カニューレ上に配置された、別個に製造されたブレードの場合には、ブレードだけを交換して、それを、薄層プレート上のそれぞれの分析エリアに合致させることが可能である。
【0028】
有利な方法で、試料室内に収集されたサンプルを格納して、所与の時間にそれを測定装置に転送できるために、任意選択で、サンプルを溶解させるために、サンプルの除去と送給の後に、試料室を溶媒で充填する。このために、試料室は、例えば、溶媒および、特に試料室に収集されたサンプルの、意図しない逸失を防止するために、カニューレへの進入エリアにおいて密封することができる。同様に、受入れ開口においてカニューレを密封するとともに、試料室と共にそれを溶媒で充填することができる。カニューレの受入れ開口が上方に向けられて、溶媒、特にその中に収集されたサンプルが、密封されていない試料室からでも逸失しないように溶媒量が事前決定されている状態で、試料室とそれに接続されたカニューレの好適な位置合わせがされると、密封されてない試料室を、任意選択で、溶媒で充填することもできる。
【0029】
溶媒に溶解したサンプルは、試料室に残留して、所与の時間に、試料室から、直接、測定装置中に導入されることができる。同様に、溶媒に溶解したサンプルを、好適な測定装置を使用して所与の時間に分析を実行することができるまで、溶解したサンプルを格納して収容するために、試料室から格納容器中に転送することができる。試料室は、着脱可能にカニューレに接続して、サンプルで充填した後であって、溶媒で充填する前に、任意選択で、溶媒で充填した後にも、カニューレから切り離し、交換して、その後に、その中に収集されたサンプルのための輸送容器および格納容器の役割を果たすことも考えられる。
【0030】
薄層プレートから別のサンプルを先に除去することにより、薄層プレートからサンプルを続いて除去する場合の汚染を回避するために、試料室およびカニューレは、洗剤で洗浄可能にすることができる。この目的のために、試料室およびカニューレは、例えば、サンプルの先行除去の直後、あるいは代替的に後続のサンプルの除去の開始直前に、洗剤で洗浄することができる。使用される洗浄液は、例えば、試料室に収集されたサンプルがそれによって溶解される、同じ溶媒とすることができる。
【0031】
同様に、この溶媒とは異なる洗浄液を使用することも考えられる。さらに、試料室およびカニューレを洗浄するために、まず試料室およびカニューレを通して1種または2種以上の洗浄液を洗い流し、続いて、圧縮空気または別の適切な洗浄ガスを使用して、洗浄液、特に以前に除去されたサンプルの残留する残留物を吹き飛ばすことが有利である場合がある。試料室がカニューレに着脱可能に接続され、除去されたサンプルの収集後に問題のサンプルのための格納容器として使用される場合には、洗浄液および/または洗浄ガスでカニューレだけを洗浄し、その後にそれを新品の試料室に接続することも可能である。
【0032】
本発明の概念の実施態様によれば、薄層プレートからサンプルを除去する間に、過剰な接触圧力で薄層プレート中にブレードが貫入するのを防止するために、ブレードを備えるカニューレが、ばね力に抗して撓まされるか、またはカニューレの受入れ開口におけるブレードが、ばね力に抗して撓まされる。薄層プレートからサンプルを採取するために、ブレードは、分離層をできる限り完全に除去する必要がある。
【0033】
分離層の厚さは、従来型薄層プレートの場合には、例えば、200μmであり、非常に薄い分離層の場合には、約100μmである。しかしながら、より厚い分離層、または代替的に厚さが80μm未満、またはさらに50μm未満の大幅に薄い分離層、例えば30から200μmの間の厚さの分離層を、本発明のブレードおよび装置を使用して容易、かつ完全に除去することができる。そのような薄い分離層の場合には、分離層材料の適切な押圧、すなわち押圧式リング形シールによる信頼のできるシーリングは、そのような薄い分離層においては行えないために、リング形のシールを有する中空円筒を押圧することは、機能しなくなる。
【0034】
しかしながら、ブレードが薄層プレートの表面に対して変位されるときには、薄層プレートへの損傷、および除去されたサンプルの汚染のリスク、またはブレードもしくはカニューレへの望ましくない損傷を防止するために、ブレードが、過剰な接触圧力で薄層プレート中に貫入すること、例えば、分離層を貫通して支持プレートに入るか、または支持プレートに沿ってこするのを防止しなくてはならない。
【0035】
この場合にブレードにかかるばね力は、ブレードの延長上で分離層中に、表面に対して横断方向に貫入できるとともに、所望のサンプルを除去できるように、十分に高い接触圧力で薄層プレートの表面にブレードが位置するように指定するのが有利である。同時に、薄層プレートの支持プレートとの望ましくない接触の場合に、支持プレートに直角のブレードの変位を可能にして、薄層プレートへの損傷を防止するために、ばね力は十分に低く設定するのが有利である。異なる材質を含み、異なる厚さを有する分離層への適合は、好適に設計されたばね装置を用いて容易に実行することができる。
【0036】
このために、ブレードまたはカニューレは、水平向きのピボット軸のまわりに変位可能となるように、好適な保持装置上に配置することができる。同様に、ブレードまたはカニューレを、薄層プレートに直角に、またはある角度で向けられたポジティブガイド(positive guide)内に装着して、このポジティブガイド内で、好適なばね装置のばね力を受けさせることが考えられる。
【0037】
本発明概念の有利な実施態様によれば、カニューレ、および薄層プレートの表面は、薄層プレートからサンプルを除去するために、変位装置を用いて、相互に変位させられる。変位装置は、例えば、薄層プレートをその上に配置して固定することができるともに、自動的に移動させることができる、X-Yステージでもよい。X-Yステージの好適な制御と変位によって、次いで、薄層プレートを、固定位置のカニューレと、付随するブレードに対して、変位させることが可能になる。
【0038】
次いで、最初は相互にある距離にある、薄層プレートの表面上の分析エリアと、カニューレとを、互いに向かって移動させるために、ブレードを備えるカニューレ、または代替的にX-Yステージを、互いに向かって、または互いに離れる方向に、有利に移動させることができる。ブレードを備えるカニューレに対して横断方向への薄層プレートのその後の動きに応じて、薄層プレートから所望のサンプルを除去するために、続いて、薄層プレートをブレードに向かって移動させて、相互の間隔を、ブレードが薄層プレートの分離層に接触するか、または貫入するまで、低減することができる。
【0039】
同様に、ブレードを備えたカニューレが、適切な変位ヘッド上に配置され、この変位ヘッドが、固定位置の薄層プレートに対して、少なくとも薄層プレートの表面に平行に、有利には薄層プレートに垂直にも、自動的に移動可能であることが、所望のサンプルの自動除去に対して、便宜かつ有利である。このタイプの実施態様では、試料室を、カニューレまたは変位ヘッドに剛直に接続するか、または柔軟な接続線を介して可動カニューレに接続し、同時に好適なホルダーまたはベアリング装置上の位置に固定することができる。
【0040】
実質的に自動化された試料分析を容易化するために、有利かつ任意に、分析対象試料を収納する薄層プレートの表面の光学画像を、光学記録装置を用いて生成すること、および薄層プレートからサンプルを除去するために、変位装置を用いて、薄層プレートの表面に対してカニューレがその範囲で変位される、薄層プレートの表面上のエリアを、評価装置を用いて指定することが行われる。光学記録装置は、例えば、薄層プレートの表面の光学画像をそれによって記録することのできる、ラインスキャンCCDカメラまたはアレイCCDカメラまたはCMOSカメラを有することができる。記録品質を増大させて、できる限り緊密に対応する照明を介する光学記録の比較を可能にするために、光学画像によって範囲に含まれるエリアは、好適な設計の照明装置を用いて照明することができる。
【0041】
同様に、特定の分析に対しては、UV光または赤外光で薄層プレートの表面を照明して、光学記録装置を用いて薄層プレートの表面によって放射された光を記録し、それを好適な画像に変換することが可能であり、有利である。このようにして、ルミネセンス効果も発生させて、評価に使用することもできる。分析対象試料の集中が可視であるか、または別の方法で記録することのできる、薄層プレートの分離ゾーンにおけるエリアを、好適なアルゴリズムを使用して自動的に識別して、互いに空間的に画定された個々のエリアにおけるその後のサンプルの除去のために、選択することができる。このようにして、薄層プレートの表面は、それぞれに別の除去ステップにおいて、自動的に識別された分析エリアにおいて、それぞれに所望されるサンプルを続いて除去するために、好適な方法で生成される光学画像から開始して全部を評価するとともに、それを別個の分析に供することができる。
【0042】
本発明はまた、薄層クロマトグラフィーにおいて薄層プレートから分析対象試料のサンプルを提供するための装置に関し、この装置は、薄層プレートから試料を除去するための除去装置と、サンプルをその中に収集し、その後の分析に提供できる試料室とを有する。本発明によれば、除去装置は、カニューレの受入れ開口に配置されたブレードを備えるカニューレを有し、カニューレは、任意選択の接続装置を介して、試料室に接続される。
【0043】
試料室は、カニューレに直接、接続された容器とすることができる。カニューレは、永久的に、または代替的に着脱可能に、容器に接続することができる。同様に、試料室は、カニューレ中に一体化されたエリア、またはカニューレの区域とすることが可能であり、その中に、受入れ開口のブレードを用いて除去され、受入れ開口を通してカニューレに導入された、サンプルを収集することができる。カニューレの長さは、装置の設計に応じて適合させることが可能であり、例えば、5mmから50cmの間にすることができる。
【0044】
それを用いてカニューレが試料室に接続される任意選択の接続装置は、例えば、カニューレがそれを通って試料室に突出する、アダプタ、または開口とすることができる。同様に、カニューレを、寸法的に安定な、または柔軟性のある接続ラインを介して、試料室に接続することも考えられる。カニューレの受入れ開口に配置されたブレードを用いて、分析対象試料を含むサンプルを、薄層プレートの分離層のエリアから切り離すか、またはそぎ落とすことができる。通常は小さな粒子の形態で除去されるサンプルは、カニューレを通り、接続装置を介して試料室に送給することができる。薄層プレートから除去されたサンプルの望ましくない損失は、カニューレ、特に受入れ開口の適切な設計、および受入開口に対するブレードの適切な配設によって、実質的に防止することができる。
【0045】
本発明概念の有利な実施態様によれば、ブレードが、カニューレの受入れ開口の縁部を形成する。試料室とは反対側を向くカニューレの端部は、例えば、斜め切り口 を備えることができ、これが、斜め切り口の周縁部の少なくとも一部に沿った、ブレードを形成する。同様に、カニューレを、試料室と反対向きの端部において、垂直に切断するか、または切り離して、周縁部に沿って、周縁部の一部の上に延びる少なくとも1つのブレードを備えることも考えられる。ここでのカニューレは、好ましくは、円形の横断面エリア、または代替的に、楕円形、長方形または実質的に任意所望の形状である、横断面エリアを有することができる。
【0046】
上記で概説した実施態様においては、ブレードはカニューレの受入れ開口の縁部を形成するので、薄層プレートからのサンプルの除去中に薄層プレートの表面上でカニューレを適切に変位させることにより、除去されたサンプルを受入れ開口を通りカニューレに導入または押し込むことを達成することができる。薄層プレートの表面は、任意選択で、水平な配置に対して垂直または角度を付けて位置合せして、それによって、すでに切り離された粒子は重力により下向きに落下して、次いでそこに便宜的に配置されている、カニューレの受入れ開口の方向に落下またはスライドさせることができる。
【0047】
本発明概念の任意選択の実施態様によれば、同様に、ブレードを、カニューレの受入れ開口の縁部から距離をおいて配置することも考えられる。この場合には、カニューレは、中空針または筒状の中空体の形態とすることができる。中空針または中空本体の横断面エリアは、実質的に所望のとおりに指定することができる。カニューレとは別個に有利に製作されたブレードは、その後に、カニューレの受入れ開口の領域において、カニューレに固定することができる。このようにして、ブレードをカニューレとは異なる材料で構成することが可能である。ブレードは、好ましくは、例えば金属などの特に硬くて耐久性のある材料で製作することが可能であり、一方、カニューレは、同様に金属で構成するか、あるいは安価な、または弾性もしくは可撓性のある材料、例えば、好適な、高度に不活性なプラスチックで製作することもできる。
【0048】
さらに、ブレードを個別に作成するだけでなく、カニューレに着脱可能、または交換可能な方法で配置することも可能である。同様に、複数のブレードを、カニューレ上に、例えば回転式装填具(revolver magazine)内に配置するか、または周方向に互いに間隔を空けて配置し、それによって、別のブレードまたはブレードの幾何学形状への変更を、大幅な時間損失なしに実行できるようにすることも考えられる。
【0049】
薄層プレートからの信頼性が高く、均一で簡単なサンプルの除去を簡略化するために、本発明概念の実施態様によれば、ブレードは、少なくとも部分的に直線に延びる刃先を有する。ブレードは、例えば、長さ0.5mmまたは1mm、典型的には0.3から5mmの長さ、好ましくは0.5から2mmの長さで、直線状に延びる刃先を有することができる。ストリップ形状のサンプルエリアの分離と除去を容易にするために、ブレード縁部に対して横断方向に突出する画定要素を、直線に延びるブレード縁部の縁部上に配置することができる。
【0050】
除去操作中に薄層プレート上で、ブレードを備えるカニューレを変位させる間に、薄層プレートへの望ましくない損傷または薄層プレート中へのブレードの過度に深い貫入を回避するために、任意選択で、ブレードを備えたカニューレが、ばね力に抗して支持装置上に支持されるか、またはブレードが、ばね装置を介してカニューレまたは試料室に対して支持される。ばね装置は、例えば、コイルばねとすることが可能であり、これは、旋回様式または並進様式(translatory manner)で変位させることができるブレードの撓みの場合には、張力または圧縮を受ける。同様に、ブレードの旋回によって引き起こされる回転運動の場合に、復元力を生成する、回転バネ装置が知られている。
【0051】
ブレードがカニューレの構成要素として形成され、カニューレの受入れ開口の縁部を形成する場合には、ブレードを備えたカニューレを、支持装置上に変位可能に支持して、支持装置に対するカニューレの変位時に、バネ装置に復元ばね力を発生させることができる。ブレードがカニューレとは別に作られ、それに取り付けられている場合には、ブレードを備えたカニューレを、同様に支持装置に変位可能に支持して、支持装置に対するカニューレの変位時に、ばね装置に復元ばね力を発生させることができる。同様に、好適な設計のバネ装置を介して、カニューレ上、試料室上、または別個の支持要素上に、ブレードだけを支持することも考えられる。カニューレが、その受入れ開口が薄層プレートの表面の少し上の位置に変位される場合、カニューレ上に支持されたブレードは、例えば、旋回可能または軸方向に変位可能な様式で、薄層プレートの分離層中に押し込むことができて、それによってサンプルを除去してカニューレ中に導入することができる。
【0052】
上記で概説した本発明による方法に関連して、試料室は、減圧発生装置に接続される開口を任意選択で有することができることをすでに説明した。試料室は、同じ開口または別の開口を介して溶媒充填装置に接続することもできる。さらに、同じ開口を介して、または代替的に別の開口を通して、試料室を洗浄液充填装置に接続することができる。
【0053】
この1つの開口、または適切な場合には、それによって試料室がさらに別の構成要素に接続される複数の開口は、本発明概念の実施態様によれば、フィルター装置によって密閉され、このフィルタ装置は、除去されて試料室中に転送されてきたサンプルを、試料室内に保持する。フィルター装置は、例えばガラス、金属、またはセラミックフリット(ceramic frit)であり、フリットのフィルター材料は指定された細孔幅の細孔を有するため、液体が孔室(pore chamber)を通過して流れる場合には、除去後の試料は、フリットによって孔室内に保持される。フリットの代わりに、例えばメッシュ構造またはグリッド構造などの、他の適切なふるい(sieve)またはふるい材料を使用することも可能である。フィルター装置は、例えば焼結多孔質金属構造体を含む、膜または金属フィルターを有することもできる。
【0054】
有利には、任意選択で、ブレードを備えたカニューレと薄層プレートの表面とを、変位装置によって、相互に変位させることができる。ここでの変位装置は、カニューレとブレードのいずれかのみを薄層プレートの表面上で変位させるか、または代替的に、カニューレとブレードが剛直にそれに取り付けられた試料室を、薄層プレートの表面に対して、変位させ、かつ移動させてもよい。変位装置は、例えば、1つの平面または3つの空間方向すべてにおいて変位可能な、キャリッジまたは変位ヘッドを有することができる。
【0055】
変位装置が、1つの平面または3つの空間方向すべてにおいて変位可能な、薄層プレートを収容するための収容ステージを有することも考えられる。次いで、収容ステージに固定された薄層プレートを、収容ステージとともに固定位置のカニューレに対して所望の様式で、変位させることができる。同様に、装置が、それに接続された試料室を備える複数のカニューレを有して、これらを、互いに間隔を空けて、薄層プレートのエリア上で互いに独立して同時に変位させることができるとともに、同時に、いずれの場合も、分析対象試料のサンプルを除去できるようにすることが考えられる。
【0056】
サンプルが、それぞれの場合に、後続の試料分析のために除去される、分析エリアの、多くの用途に対して有利である、自動記録の観点では、本発明概念の対応する実施態様によれば、装置は、薄層プレートの表面の光学画像を記録するための、光学記録装置と、薄層プレートからサンプルを除去するために、変位装置を用いて薄層プレートの表面に対して、カニューレをその内部で自動的に変位させる、薄層プレートの表面上に分析エリアをそれを用いて指定することのできる、評価装置とを有する。
本発明のいくつかの実証用の実施態様は、例を用いて、以下により詳細に説明されており、図面において図式的に描かれている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は、薄層プレートからの試料の除去操作中の、カニューレと試料室だけが示されている、薄層プレートから分析対象試料のサンプルを提供するための装置を示す模式図である。
図2図2は、図1と異なる設計の装置を示す模式図である。
図3図3は、図1および2とさらに異なる設計の装置を示す模式図である。
図4図4は、サンプルの除去の方法の間に、それを用いて、薄層プレートに対してカニューレを自動的に変位させることのできる、変位装置を示す模式図である。
図5図5は、カニューレへ、バルブを介して減圧発生装置へ、溶媒充填装置へ、さらに測定器具へと接続された、試料室を示す模式図である。
【0058】
図1から5は、それを用いて、分析対象試料のサンプルを薄層プレート2から除去し、試料室3へと送給することのできる、それぞれ本発明による、装置1の様々な実施態様を示す。薄層プレート2は、好適な分離物質、例えばシリカゲルを含む分離層5がそれに塗布されている、寸法的に安定な支持プレート4を有する。分析対象試料は、薄層プレート2に塗布されるとともに、従来式の分離方法の支援によって、分離層5内に生成された分離ゾーン内で、空間的に分離されている。
【0059】
試料室3は、試料室3内に収集されたサンプルを、図示されていない、測定器具へと転送するために、その測定器具に接続することができる。また、サンプルは、後の時点でのサンプルの評価を容易にするために、試料室3内に運搬して、格納することもできる。
【0060】
図1に例として図示された説明用の実施態様において、装置1は、円形の横断面エリアを有するカニューレ6を有する。カニューレ6は、一端部において、それに接続された試料室中へとつながる。試料室3と反対向きの端部において、カニューレ6は、斜め切り口を有する受入れ開口8を有する。受入れ開口8の周縁部は、周辺区域においてブレード9を形成する。ブレード9は、約0.5mmの長さにわたって直線経路を有する。
【0061】
薄層プレート2の指定された分析エリア、例えば、薄層プレート2の表面10上の1mm×20mmの長方形エリアにおいて、後続の分析に必要なサンプルを除去するために、それに接続された試料室3を備えるカニューレ6が、ブレード9を備えるカニューレ6が分離層5に貫入するまで、薄層プレート2の表面10に向かって移動させられる。支持プレート4に面するブレード9を備えるカニューレ6は、続いて、矢印11によって示される除去方向に、表面10に対して横断方向に変位させられて、この場合に、分離層5の物質が、その中に位置する分析対象試料のサンプルと共に除去されて、カニューレ6の受入れ開口8を通りカニューレ6中に運ばれ、続いて試料室3中に搬送される。
【0062】
このために、試料室3は、それによって試料室3内で減圧が発生される、詳細には図示されていない、減圧発生装置に、接続ラインを介して接続されており、それによって、ブレード9によって薄層プレート2から除去された分離層5の粒子13が、カニューレ6中に吸い込まれて、さらにカニューレ6を通り試料室3中に吸い込まれる。試料室3の接続ライン12中への遷移領域に配置されたフリット14が、試料室3に吸い込まれてその中に収集されたサンプルの粒子13が、減圧発生装置によって試料室3から吸い出されることを防止する。
【0063】
図2に示された説明用の実施態様において、カニューレ6がそれに取り付けられた試料室3が、詳細には図示されていない支持装置15に回動可能に装着されている。同時に、カニューレ6がその上に配置された試料室3を、薄層プレート2の方向に支持プレート15から離れる側に押す、ばね力が、ばね装置16によって発生される。カニューレ6を備える試料室3が、例えば、意図されずに、薄層プレート2に近づき過ぎるまで移動させられた場合に、カニューレ6は、バネ装置16によって発生されるバネ力に反抗して、支持装置15の方向に薄層プレート2から離れて回動するとともに、それによってカニューレ6が、過剰な接触圧力で支持プレート4に作用して、それを損傷することを防止することができる。図2において、単に例として、および図示的に示されている、試料室3とバネ装置16の配設は、当業者にとってはすでに明白である、異なる方法で設計することもできる。
【0064】
図3に示された説明用の実施態様において、カニューレ6は、バネ装置17を介してカニューレ6に軸方向に変位可能に装着される、別個に製作されたブレード18を有する。ブレード18は、カニューレ6とは異なる材料で製作されている。カニューレ6は、受入れ開口8に斜め切り口を備えず、またさらに別のブレードも備えない。別個のブレード18を使用することにより、カニューレ6の直径は、ブレード18の長さに依存することなく指定することが可能であり、それによって、例えば、約0.5mmから1mmの長さの比較的短いブレード18を、受入れ開口8の直径が、例えば、5mmまたは10mmのカニューレ6と組み合わせることができる。
【0065】
好適な減圧と組み合わせて、ブレード18によって薄層プレート2から切り離されたサンプルの実質的にすべてを収集することを、このようにして確保することができ、同時に、ブレード18によって収集された薄層プレート2上の分析エリアを、非常に小さく、例えば、0.5mm×5mmに指定することができる。試料室3は、フリット14を介さず、代わりに好適なシール装置19を介して、詳細には図示されていない、溶媒容器への接続ライン12へと接続されている。しかしながら、図3には示されていない、フリットが、減圧発生装置への接続のために便宜的に使用されている。
【0066】
高度に自動化された方法で薄層プレート2から分析対象試料のサンプルを提供する観点では、試料室3を備えるカニューレ6を、図4において例として示されている、変位装置20上に配置することもできる。変位装置20は、レイル22上を走らされるポータル23上に変位可能に配置される、変位ヘッド21を有する。カニューレ6は、それ自体、ポータル23に対して横断方向に、変位ヘッド21上で変位可能に配置される。このようにして、カニューレ6は、全空間方向に自動的に変位させることができ、分析に必要なサンプルは、例えば、変位ヘッド21の下方の固定場所に配置された薄層プレート2の、指定された小さい分析エリアから除去することができる。
【0067】
同様に、薄層プレート2を、代替的または追加的に、一平面内または三空間方向すべてにおいて変位させることができる、収容ステージ24上に固定することが考えられ、簡略化して図4に描かれている。収容ステージ24の変位により、薄層プレート2を、カニューレ6と相対的に変位させることが可能となり、カニューレ6は、サンプルを薄層プレート2の分析エリアから除去することを可能にするために、固定場所にあるか、またはそれ自体を変位させることができる。
【0068】
さらに、それによって薄層プレート2の表面10の自動記録、およびサンプルの自動化除去を続いて実行しようとする、分析エリアの指定を実行することのできる、光学記録装置および評価装置を、変位ヘッド21内に配置することもできる。
【0069】
図5は、除去されたサンプルを、減圧下で試料室3中に搬送するため、試料室3内に位置するサンプルを好適な溶媒に溶解させるため、および溶解したサンプルを測定器具28まで転送可能にするために、試料室3を、減圧発生装置26、溶媒充填装置27または測定器具28のいずれかに、それぞれの場合に、別個に起動可能なバルブ25を介して、接続することができることを例として示す。ここで、試料室3は、カニューレ6と切り離し、それによって、さらに別のバルブ29を用いるか、またはシール装置によって溶媒密封状態にシールすることができる。同様に、溶解したサンプルを、接続ライン12を介することなく、代わりにカニューレ6を通り、測定器具28に、またはさらに別の輸送容器に、転送することが可能である。
【0070】
本発明による装置1を用いて、非常に小さく、空間的に精密に指定された分析エリアから、サンプルを、薄層プレート2の表面10から自動的に除去することができる。ばね装置16、17の補助によって、分離層5の本質的に完全な除去を、簡単な方法で達成して、支持プレート4に対する望ましくない損傷を回避することができる。その他の特性を有する薄層プレート2への変更の場合には、例えば、別の材質を含む支持プレート4、または異なる厚さの分離層5によって、複雑は適合は不必要である。変位装置20の補助によって、それぞれが、続いて分析を実行することのできる試料の量を含む、多数のサンプルの実質的に自動化された準備を、短時間に実行することができる。
【0071】
さらなる補足説明が無くとも、当業者は、上記の明細書を最も広い範囲で利用することが可能であろう。何かが不明である場合には、言うまでもなく、引用された刊行物および特許文献を参考にすべきである。したがって、上記または下記で引用される、すべての出願、特許および刊行物、特に、対応する出願、2017年8月24日付け出願のEP17187746.7を、参照により本出願に組み入れるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5